radioss-cfdの 流体解析機能

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RADIOSS-CFDの 流 体 解 析 機 能(騒 音 問題 へ の適 用)…(1)777 《CFD特集-2:先 端的技術開発 と実用化》 〔展望 ・解説〕 RADIOSS-CFDの 流体解析機能 (騒音 問 題 へ の 適用) 田 井 秀 人* 1.は じめに RADIOSSは フ ラ ン スMECALOG社で 開 発 さ れ て い る、構 造 ・流 体 シ ミュ レー シ ョン プ ログ ラ ムで あ る。 工 業 用 と して は1988年に最 初 のバ ー ジ ョ ンが リ リ ー ス さ れ 、その後、数々の機能 拡 張 を行 い 、2000年8月現 在 の最 新 バ ー ジ ョン は4.3である。 最 も多 く使 用 され て い る分 野 の一 つ が 自動 車 の 衝 突 安 全 解 析 分 野 で あ る が 、 こ こで は 、 流 体 解析機能について紹介する。 流 体 解 析 機 能 は 、 大 き く二 つ の プ ロ グ ラ ム よ り な る 。M-IMPLICITと 呼ばれるものは、汎用 有限要素法非圧縮性熱流体プログラムで、定常 および比較的現象時間の長い非定常問題を扱 う 。M-EXPLICITと 呼ばれるものは、陽解法圧 縮性流体プログラムで、比較的現象時間の短い 流 体 や 、 構 造 との 連 成 振 動 流 れ を扱 う 。 時 間 ス テ ップが 非常 に小 さい 陽解 法 の特徴 を生 か して 流体騒音といった圧縮性非線形流れ場への適用 が始まっている。 こ こで は 、 そ の 二 つ の 機瀧 紹 介 と、 フ ァ ン の 流体騒音事例等を紹介する。 2.M-IMPLICIT M-IMPLICITは 、25年に 渡 り、 米 国 ス タ ン フ オ ー ド大 学 で研 究 開 発 さ れ て きたGalerkin/ Least-Squares(GLS)有 限要素法に基づいてい る。解の収束性、計算速度、精度といった面 で、従来の手法を上回っている。 2-1 特 徴 (1) 先進の有限要素法 Galerkin/Least-Squares法 、8節 点 ブ リ ック、 三角 柱 、 ピラ ミッ ド、4面 体 要 素 (2) 高効率ソルバー 圧 力 と速 度 場 を完 全 に 連 成 させ た 高 効 率 で ロバ ス ト性 の 非 常 に高 い ソ ルバ ー2次 精 度 時 間 積 分 過 渡 応 答 解 析 自動 ・局所時間 ステップ制御機能 (3) ALE機能 移動メ ッシュ ・自由表面 (4) 回転場流れ 複数の参照座標系 (5) 乱流モデル Spalart-Allmaras model、 LESおよびDynamic Subgrid LES (6) その他 ニ ュ ー トン ・非 ニ ュー トン流 、 ポ ー ラ ス メディア、溶解、熱伝達 ここでいうロバスト性とは、収束の確度であ る 。M-IMPLICITの ロバ ス ト性 の 高 さは 、GLS 有限要素法 であ る点 と、独 自の圧力 と速度場の 式 を連 成 させ て解 く収 束 ソルバ ー に依 る もので *メ カ ロ グ ジ ャパ ン(株) 原 稿 受 付 日 平 成12年8月10日 タ ー ボ 機 械 第28巻 第12号 73

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Page 1: RADIOSS-CFDの 流体解析機能

RADIOSS-CFDの 流 体 解 析 機 能(騒 音 問題 へ の適 用)…(1) 777

《CFD特 集-2:先 端的技術 開発 と実用化》

〔展望 ・解 説 〕

RADIOSS-CFDの 流 体 解 析 機 能

(騒音問題への適用)

田 井 秀 人*

1.は じめ に

RADIOSSは フランスMECALOG社 で開発 さ

れている、構 造 ・流体 シ ミュレーシ ョンプログ

ラムである。工業用 としては1988年 に最初のバ

ー ジ ョンが リリースされ、その後、数 々の機 能

拡張 を行い、2000年8月 現在の最新バージ ョン

は4.3で ある。

最 も多 く使用 されている分野の一つが 自動 車

の衝 突安全解析分野 であるが、こ こで は、流体

解析 機能について紹 介す る。

流体解析機能は、大 き く二つのプ ログラム よ

りなる。M-IMPLICITと 呼 ばれ るもの は、汎用

有限要素法非圧縮性熱流体 プログラムで 、定常

お よび比 較的現 象時 間の長 い非定常 問題 を扱

う。M-EXPLICITと 呼ばれ るものは、 陽解法圧

縮性流体プログラムで、比較的現象時間の短い

流体や、構造 との連成振動流 れを扱 う。時間ス

テ ップが非常 に小 さい陽解 法の特徴 を生か して

流体騒音 といった圧縮性 非線形流れ場への適用

が始 まっている。

ここで は、その二つの機瀧 紹介 と、 ファンの

流体騒音事例等 を紹介す る。

2.M-IMPLICIT

M-IMPLICITは 、25年 に渡 り、米国ス タンフ

オー ド大学 で研 究 開発 されて きたGalerkin/

Least-Squares(GLS)有 限要素法 に基づいてい

る。 解の収 束性 、計 算速 度 、精度 といった面

で、従来の手法 を上回 っている。

2-1 特徴

(1) 先進の有限要素法

Galerkin/Least-Squares法 、8節 点 ブリ

ック、三角柱 、 ピラ ミッ ド、4面 体要素

(2) 高効率 ソルバー

圧 力 と速 度 場 を完全 に連成 させ た高効

率で ロバ ス ト性の非常に高 いソルバ ー2次

精度時間積分過渡応答 解析 自動 ・局所時間

ステップ制御機能

(3) ALE機 能

移動メ ッシュ ・自由表面

(4) 回転場流 れ

複数の参照座標系

(5) 乱流モデル

Spalart-Allmaras model、

LESお よびDynamic Subgrid LES

(6) その他

ニュー トン ・非 ニュー トン流、ポーラス

メデ ィア、溶解、熱伝達

ここでい うロバ ス ト性 とは、収束の確度であ

る。M-IMPLICITの ロバス ト性 の高 さは、GLS

有限要素法 であ る点 と、独 自の圧力 と速度場の

式 を連成 させ て解 く収束 ソルバ ーに依 るもので

*メ カ ロ グ ジ ャパ ン(株)

原 稿受 付 日 平 成12年8月10日

ター ボ機 械 第28巻 第12号 73

Page 2: RADIOSS-CFDの 流体解析機能

778 RADIOSS-CFDの 流体 解 析 機 能(騒 音 問 題 へ の 適 用)…(2)

図1 ミキ シ ン グマ シ ンの 例

ある。有限要素法であるため、上記の様 々な形

状の要素 を統一的に扱 え、要素形状 に対す る制

限 も相当緩やかである。収束 ソルバ ー も、非構

造 メ ッシュで アスペ ク ト比が悪かった り振 じれ

てい る要素がある場合で も、実質的には一切の

パ ラメター入力制御 な しに、従来の圧力 と速度

場 を別 々に解 い て収 束 させ てい く方法 に較べ

て、安定かつ高速に解が得 られ るものであ る。

図1の 例は、低 レイノルズ数の化学 ミキシン

グマシンである。358000個 の4面 体要素 、77000

節点モデルで、4回 の イテ レー ションで収束 し

(HAL-375マ シンで約11分)、 別の汎用CFDプ ロ

グラムの数10分 の1の 計算時間であった。

計算速度の面 では、上述の ソルバー開発 と共

に、特 に並列性能 に力が注がれている。領域分

割法 を採用 し、領域 間の情 報交換 にはMPIや

PVMを 用いて、高性能が実現 されている。

M-IMPLICITの 有限要素定式化 は、圧力 を含

む す べ て の 物 理 量 を 同 じ次 数 で 内 挿 す る

Galerkin重 みつ き残差法 に基づ き、Least-square

演算 子 が安定性 を高め る ため に用 い られ てい

る。 さらに、内部 と境界 での不連続性 と振動問

題 を解決 す るため にDiscontinuity-capturingと

nonlinear maximum phncipal演 算子 も用い られて

いる。 これ らの演算子 は、Galerkin法 が持つ精

度や保存性 を損 な うもので はない。 これ らの演

算子は、従来手法で収束性 を高めるために、 し

ば しば用いられている人 口拡散演算子 と対比で

きるもの と言 える。 また時 間積分では2次 精度

のスキームを持 ってい る。上記空間積分 の手法

と合わせ て非常 に高速かつ安定 に非線形収 束計

図2 ステ ップ流れの例

図3 バ ッ クス テ ップの 例

表1 収束数 と計 算時間の比較

算 が出来る特徴 を有 してい る。

図2は 、 精 度 検 証 の 事 例 で レイ ノ ルズ 数

40000で のバ ックステ ップ流 れである。厚 み方

向 に一層の3次 元の7000個 のブ リック要素モデ

ルである。乱流モデルにはSpafart-Allmarasが 用

い られた。

再付着点は ステ ップ高 さの7.05倍 位 置で、実

験結果の7.0と ほぼ一致 している。図3で は、本

手法 で主の渦 だけではな く、角部 の さらに2段

階小 さい渦 も捕 えられている状況 を示 している。

なお、 この最小 の渦の半径 は3要 素幅であ る。

表1は 、それぞれ を計算時間(SGI/ongin/

195Mhz)と ともにまとめたものであ る。

図4は 、収 束回数(横 軸)と 再付着点位 置 を

他 のCFDプ ログラム(上 側)と 比較 して示 した

ものである。

M-IMPLICTは 、一 回の収 束計算 時間 は掛 か

るが収束が早 いため、結果 としては計算 時間が

74 2000年12月

Page 3: RADIOSS-CFDの 流体解析機能

RADIOSS-CFDの 流 体 解 析 機 能(騒 音 問 題 へ の適 用)…(3) 779

(a) 従 来 手 法

(b)M -lMPLICIT

図4 収束回数 と再付着点

少な くす むことがわか る。 なお、必要 メモ リー

は、両 プログラムともに50MB弱 であ った。

3.M-EXPLICIT

M-EXPLICITは 、有限体積法 と有限要素法 を

組合わせ た、陽解法圧縮性流体 ・構造連成解析

プログラムである。高周波の流 れ場 と、構造 物

の変形振 動連成を一つのプ ログラムの中で統 一

的に同時 に扱 うこ とが出来 る。

3-1 特徴

(1) 中心差分に よる陽解法時間積分

(2) ALE座 標系 による柔軟 な解析機能流体 ・

構 造連成

(3) 乱流 モデル

k-ε Smagorinsky sub-grid LES

(4) 豊富 な非線形構造材料モデル

(5) 数値拡散の少 ないアルゴリズムSUPGな ど

(6) 不連続 ・移動境界メ ッシュ

図5 エ ア ー コ ンデ ィシ ョナ 一 シス テ ム

図6 音圧分布評価

(7) 音評価 プログラム

流 れ場 は、Burger式(音 波 の伝播)を 含 む

Navier Stokes式 を解 いて求め られ るため任意 の

空 間、任意の時 間で の圧力波動 を解析で 求める

こ とがで きる。時 間積分は要素長 さを流体音速

で割 った ものが最大 クー ラン条件 とな り、音 の

領 域の解析 に必 要 な充分な解 像度 を持 ちえる。

一方、解法の特徴 として収束計算 は行 わないた

め 、一 回の時間刻 み での計 算量 は非 常 に小 さ

い。結果 として、比 較的現象時間の短い問題 に

適 している とい うことになる。

図5は 、 自動車のエ アーコ ンデ ィシ ョナーシ

ステムの解析事例(11である。内部流れ と同時 に

ケース ・配管 を構造 有限要素 でモ デル化 しその

振動 を同時に解析 している。

図6は 、このシステムか ら放射 される音圧 を

システム表面の速度履歴結果 より、評価 した も

のである。

この高周波圧縮性流 れ場 を解 く機能 を有効 に

ター ボ機 械 第28巻 第12号 75

Page 4: RADIOSS-CFDの 流体解析機能

780 RADIOSS-CFDの 流体 解 析 機能(騒 音 問 題 へ の 適 用)…(4)

図7 フ ァ ンモ デ ル 図

図8 圧力分布

図9 速度分布

使 える問題 と して、 ファン ・プロアの騒音があ

げ られ る。

プロアの解析事例 として、図7に モデル全形

と詳細拡大図 を示す。乱流モデル と してはLES

を用 い てい る。 最小部 で0.4mm、 出口付近 で

7mmの 要素長である。1波 長を6分 割で表現で

きる もの と考えると、8000Hzの 音波 を捕えられ

る こ とに な る。 厚 み 方 向 には1層 で 、総 計

140000要 素である。

図8に 速度 を、図9に 圧力分布 を示す。それ

図10 渦度分布(詳 細)

□ Simulation-Decorrelated sources

◇ Simulation-Rayleigh

○ Experiment-Average spectrum

図11 音 圧 スペ ク トル

そ れ 、 左 がM-IMPLICIT、 右 がM-EXPLICITの

結 果 で あ る 。

舌 部 と ブ レ ー ドで 、M-EXPLICITで は よ り高

い 圧 力 部 分 が 見 ら れ 、 ま た 図10に 示 す 詳 細 分

布 図 で ブ レー ド問 渦 に 相 応 す る"低 圧 力 泡"が

見 ら れ る 。 舌 部 後 方 で は 、M-EXPLICITで は 渦

が 発 生 す る が 、M-IMPLICTで は 、 定 常 的 な 解

を 示 し て い る 。

こ の よ う に 、 特 に 舌 部 で の 解 に 特 徴 的 な差 が

見 られ る 。

出 口 で の 音 圧 ス ペ ク トル を 実 験 結 果 と比 較 し

て 図11に 示 す 。

〈参考文献〉

(1) F. Perie and J. C. Buell,"Combined CFD/CAA Method for

Centrifugal Fan Simulation", Internoise 2000.

76 2000年12月

Page 5: RADIOSS-CFDの 流体解析機能

本文65p~68p「 ターボ機械 ・熱 流体解析 システムFINEの 機能概要」 澤 芳幸 ・藤川泰彦

〈参考図 〉

FINE/Design・ 軸流 圧縮 機 回転 翼 の 最 適 化 設 計 例 FINE/Turbo・ 軸 流 圧縮 機(9翼 列)解 析 例

(Courtesy SULZER TURBO)

本文69p~72p「FLUENTに よるターボ機械 の熱 流体解析」 武藤晴彦

図1非 構造 の六面体格子 (a)実 機の変色状 況 (b)解 析結果図3流 線

図2翼 表面温度分布と変色状況の比較*本 デー タは電力中央研 究所 殿のご厚意 によるものです

本 文73p~76p「RADIOSS-CFDの 流体解析機能(騒 音問題への適用)」 田井秀人

図8圧 力分布 図9速 度分布

Co8