平成 23 年度修士論文 - 東京大学1 第1 章 諸言 1.1 ポリマーナノ複合材...

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23 カーボンナノチューブ/ポリマー における フォノン 24 2 10 37-106226 員 

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平成 23年度修士論文

カーボンナノチューブ/ポリマー複合材の熱伝導における界面熱抵抗と界面フォノン散乱の影響

平成 24年 2月 10日 提出

工学系研究科機械工学専攻  37-106226 飛田 翔指導教員 塩見 淳一郎 准教授

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i

目次

概要 i

第 1章 諸言 1

1.1 ポリマーナノ複合材 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

1.2 カーボンナノチューブ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

1.3 カーボンナノチューブ/ポリマー複合材 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.4 先行研究:界面熱抵抗 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.5 先行研究:界面フォノン散乱 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.6 目的と方針 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

第 2章 分子動力学シミュレーション 6

2.1 数値積分法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 計算セル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.3 ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.4 物理量の制御 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

第 3章 計算手法と結果 12

3.1 界面熱抵抗 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.1.1 Spectral Energy Density . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3.1.2 集中熱容量法による計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.1.3 直接法による計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2 界面フォノン散乱 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.2.1 フォノン分散関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.2.2 Spectral Energy Densityとフォノン緩和時間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

3.2.3 孤立,ポリエチレン中での CNTの熱伝導率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

3.3 実効熱伝導率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

第 4章 結言 33

謝辞 34

参考文献 35

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第 1章

諸言

1.1 ポリマーナノ複合材

現在,ポリマー複合材はスポーツ用品や航空機,自動車などに幅広く応用されており,有機・無機材料

のポリマーへの混合はなくてはならないものになっている.特にここ 30年では,最低 1方向のスケール

がナノメートル程度の物質を混合したポリマー複合材の研究が強く推し進められている.このような動き

は 1980年代前半の走査型トンネル顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡の登場によって加速された.これらの

計測機器によって原子単位の表面構造を観察できるようになり,同時に,計算機技術の急速な発展によ

り,計算からナノスケールの物理を予測できるようになったことで,ナノスケール材料の理解が急速に深

まっている.

現在研究されている代表的なナノスケール材料にはナノ粒子,カーボンナノチューブ(Carbon

nanotube; CNT),ナノファイバー,ナノワイヤーなどがある.これらの物質は構造的な特徴によって粒

子状,層状,繊維状の 3つに分類される.カーボンブラック,シリコンナノ粒子などは粒子に,ナノファ

イバーや CNTは繊維に分類される.ナノメートルオーダーの厚さを持ち,30-1000程度のアスペクト比

を持つ板状の物質は層状材料に分類される.

マイクロスケールからナノスケールへの転換で複合材の物理に大きな変化が訪れた.粒子状の物質を混

合した複合材では,体積に対する母材と混合物の界面の面積の割合は,混合した粒子の径に反比例し,小

さい物質を混ぜるほど体積に対する界面の面積の割合が大きくなる.これによって,ナノスケール材料を

使った複合材では,化学的,物理的に重要な諸性質が界面の状態によって決定される.また,ナノ複合材

の性質は混合物の母材への分散の度合いに影響を受け,つくり方によって全く違う性質を持った複合材が

現れる.例えば,ナノ粒子を混合したポリマーナノ複合材では,粒子のポリマーへの分散や粒子とポリ

マーの吸着構造が機械的強度に大きく影響する.一般的に,ナノ材料を混合した複合材は,元の物質と比

べて強度が高くなるが,十分に粒子が分散していなければ,ナノ複合材は元の物質に比べて優れた強度を

示すことはなく,分散性の悪いナノ複合材は元の物質の強度を劣化させることもある.逆に,混合物の分

散や混合物と界面の構造を最適化することで,複合材の性能を改善できる可能性を持っている.

ナノ複合材の研究範囲はとても広く,電子科学,計算科学,航空科学,エネルギーなどに及んでいる.

現在でもナノ複合材を用いた自動車や繊維製品、化粧品などの製品が利用可能だが,更なる改善の余地が

残されており,今後の大きな進歩が期待されている.

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第 1章 諸言 2

1.2 カーボンナノチューブ

CNTはグラファイトを継ぎ目無く丸めたチューブ状の物質で,数~数十ナノメートル程度の直径を持

ち,長さは合成方法によっては数センチメートルにもなる.CNTは 1991年に発見1されて以来,その高

い剛性や熱伝導性,特異な電気特性から注目を集めてきた.これまでに,エネルギー貯蔵,エネルギー変

換デバイス,センサー,電界効果ディスプレイ,放射線源,水素貯蔵,ナノメートルサイズの半導体デバ

イス,プローブや回路の相互接続などの多くの応用が提案されている.

最初に発見された CNTは同軸のチューブが多層構造を成している多層 CNTであった.その 2年後,

1層のグラフェンシートをチューブ状に巻いた単層 CNTが発見されている2.この単層 CNTはグラフェ

ンの巻き方が異なるさまざまな構造を持つ.その構造はカイラリティと呼ばれ,(n, m) の 2 つの整数に

よって表される.特に m = 0となるものはジグザグ型,m = nとなるものはアームチェア型と呼ばれる.

CNT の生成方法として主なものはアーク放電法,レーザー蒸発法,化学気相蒸着(Chemical vapor

deposition; CVD)法の 3つである.アーク放電法,レーザー蒸発法は初期に提案された CNTの生成方

法であり,どちらの方法も固体炭素を蒸発させた炭素ガスから CNTが生成する.生成される CNTは少

量で,絡まりあっている上に配向性が悪い.CVD法では基板上に連続的にアルコールなどの炭素を含ん

だガスを供給して CNTを合成する.アーク放電法,レーザー蒸発法と比べると多くの CNTを合成でき

る上,合成される CNTの直径や長さをある程度制御することができる.

CNTはシームレスな sp2 結合からなる構造から高い剛性と強度が予測されている.最初に走査型トン

ネル顕微鏡による CNTの熱振動の観察によって 1 TPaというヤング率が測定され3,従来の材料と比べ

て高い剛性によって注目を集めた.他に単独の CNTの弾性率を測る方法として,CNTを架橋して原子

間力顕微鏡のカンチレバーを使って力を加える方法4がよく用いられた.これらの実験値は理論値に遠く

及ばないものから理論どおりの値まで幅広く報告されており,おおよそ弾性テンソルは 1 TPa,強度は 11

GPaから 200 GPaという値を得ている.CNTのヤング率や歪みエネルギーといった機械的性質の解析

には,タイトバインディング法,第 1原理計算,格子動力学法5, 6または経験ポテンシャルを用いた分子動

力学法7のような計算手法も用いられてきた.これらの計算から単層,多層 CNTのヤング率は 1 TPa程

度と推測された.この値はダイヤモンド構造と同等で,炭素繊維を凌ぐものである.

CNTの物性値の測定は機械的性質だけでなく,電気・熱的性質に関しても行われてきた.CNTの電気

抵抗率は 4点計測法による実験から 5.1 × 10−6 ∼ 5.8 Ω cmと測定されている8.

CNTの熱伝導は実験と計算の両面から数多く報告されている.ナノスケール物質の熱伝導実験の難し

さから,CNTの熱伝導率に関する研究は数値計算が先行して行われた.その内の多くは分子動力学法に

よるものである.分子動力学による熱伝導率の計算方法は,主にグリーン久保の関係式を使った平衡分子

動力学計算9, 10と,実験同様に熱浴を設けて温度差を測定する非平衡分子動力学計算11–13である.いずれ

の計算でも熱伝導率は数 100~数 1000 Wm−1K−1 程度と報告され,CNTのスケールに由来する熱伝導

率の長さ依存性(図 1.1)などが議論されてきた.近年では,分子動力学法によるパワースペクトル14を

用いた計算や,フォノンのボルツマン輸送方程式15を用いた計算のような,より微視的に CNTの熱伝導

の解析を行う試みが盛んに行われている.

実験的には,1999年に CNTマットの一端を熱して両端の温度差を測ることで熱伝導率を計算し,そ

の値から 1本の CNTの熱伝導率が 1750∼5800 Wm−1K−1 と予測された16.また,同時に電気伝導率の

測定を行い,Wiedeman-Franz則から,CNTでは電子の熱伝導への寄与が小さいと報告している.2000

年代に入ってからは実験手法の工夫により,直接的に 1本の CNTの熱伝導率を測定されるようになる.

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第 1章 諸言 3

101 102 103100

1000

(3, 3), λ p(5, 5), λ p(5, 5), λ NH

200

500

L /nm

The

rmal

con

duct

ivity

λ

/Wm

−1 K

−1

λ ∝ L

(10, 10), λ NH

λ ∝ L 0.33

λ ∝ L 0.19

図 1.1 分子動力学法により計算された CNTの熱伝導率の長さ依存性12.

2001年,基板上に多層 CNTを架橋することで,単独の多層 CNTの熱伝導率が 3000 Wm−1K−1 と測定

された17.この値は過去に計算から予測されている値とよく一致する.その後,それと類似した手法によ

り複数のグループ18–20から,多層 CNTと同程度の熱伝導率が単層 CNTでも報告されている.

1.3 カーボンナノチューブ/ポリマー複合材

現在,さまざまな形で CNT を利用した材料が提案されている.CNT 単体を材料として使う場合は,

その材料の物性は 1本の CNTと比べてほとんど劣化しない.このような材料の生成法には,アーク放電

法21や CVD法22によって繊維状に CNTを生成する方法や,生成後に CNTの束をねじって繊維状にす

る方法23がある.一方で,CNT/ポリマー複合材に代表されるような,CNTによって他の物質を強化し

た材料も提案されている.このような材料の利点はマクロスケールな材料を簡単に実現できる点にある.

CNT/ポリマー複合材は強度や剛性,熱・電気伝導性に優れた材料であり,構造材料,熱伝導材料,電子

デバイスなどへの応用が考えられる.

CNT/ポリマー複合材で重要になるのは CNTの分散と配向性である.ポリマー中での均一な CNTの

分散や特定方向への CNTの配向は複合材の強度を高め,熱や電気といったエネルギー輸送の効率を向上

することができる.現在まで,メルトプロセス24,CNTの修飾25やコーティング26のような化学処理,超

音波による分散27, 28,界面活性剤の利用29など,ポリマーへ CNTを効率よく分散させるための手法が数

多く提案されている.一方,CNTの配向性を高める試みとしては,磁場中で CNTを生成または,生成

後に CNTに強い磁場を印加する方法30,生成時に CVD法により基板に垂直配向させる方法31が報告さ

れている.しかし,現在のところ CNTの均一な分散や配向は達成されておらず,CNTによる物性の強

化はそれほど大きくない.

今までにポリメチルメタクリレート(PMMA)24やエポキシ,ポリプロピレン(PP)のような種々のポ

リマーに CNTを混ぜることで,元の素材に比べて剛性や強度が改善されることが確認されている.これ

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第 1章 諸言 4

らの材料の機械的性質は CNTとポリマー間の結合に大きく影響されると考えられることから,分子動力

学法による単層 CNTと結晶/アモルファスポリマー間の結合力に関する研究が報告されている32.

熱伝導材料や電子デバイスといった応用での重要性から CNT/ポリマー複合材の熱・電気伝導率の測

定が試みられている.各種ポリマーを用いた複合材中の CNTの濃度と電気伝導率の関係は実験的に調べ

られており,濃度 1パーセントで電気伝導率は 106 Sm−1 程度となり,それ以上 CNT濃度が高くなって

もそれほど改善は見られないと報告されている28.

熱伝導率については,2001年に多層 CNTとオイル(αオレフィン)で出来た複合材の熱伝導率が計測

され33,1パーセント CNTを加えることで,元のオイルの 2.5倍程度の熱伝導率が得られると報告され

た.それとほぼ同時期に,エポキシに 1パーセントの単層 CNTを混合した複合材の熱伝導率が元のエポ

キシの倍程度になると測定されている34.

図 1.2 本研究室で作製された CNT/ポリマー複合材の断面図の走査型電子顕微鏡像.35垂直配向 CNT膜にシリコン系ポリマーの Polydimethylsiloxane (PDMS)を流し込んで作製された.

1.4 先行研究:界面熱抵抗

ナノ複合材の熱伝導率は母材と混合物の界面熱抵抗によって大きく制限される.これはナノ複合材中

では大量の物質界面が存在しているためである.古くから,原子レベルの界面でのフォノン(格子振動

の波束を粒子としてとらえたもの)の透過関数をモデル化し,界面熱コンダクタンス(界面熱抵抗の逆

数)を計算する手法(Acoustic Mismatch Model(AMM)36や Diffusive Mismatch Model(DMM)37,

Phonon Radiation Limit(PRL)38など)が提案されてきた.しかし,これらのモデルではデバイ近似の

下でしか透過関数を求められず,計算された値も極低温でしか実験値に一致しない.そこで,実験及び分

子動力学法などによる計算により種々の界面の熱抵抗が計算されてきた39.

特に CNT/ポリマー複合材での界面熱抵抗に関する研究としては,レーザーを用いて CNTと SDS(水

への CNTの分散を促すために使われる界面活性剤)の界面熱コンダクタンスを計測したもの40がある.

この実験によって CNT/SDS界面の熱コンダクタンスは 12 MWm−2K−1 と計測された.彼らは同時に

非定常非平衡分子動力学法によって CNT/オクタン界面の界面熱コンダクタンスを 25 MWm−2K−1 と

計算している.CNT/オクタンの界面熱コンダクタンスは非平衡分子動力学法によってさらに深く研究さ

れている41.また,界面構造と界面熱抵抗の関係を解明する試みとして,CNTを化学修飾した場合,ポ

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第 1章 諸言 5

リマーとして結晶ポリエチレンを用いた場合の界面熱抵抗が非定常非平衡分子動力学法で計算され42,表

面の化学修飾によって熱抵抗が減少すること,ポリマーの結晶化は界面熱抵抗の値に影響を与えないこと

が確認されている.

ナノ粒子を含む複合材の実効熱伝導率を界面熱抵抗を考慮して扱う理論モデルとして,Effective

medium approximationに基づいたモデル43が提案されている.このモデルは CNTを含む複合材にも

拡張されている44.このモデルに基づいて,実験的に測定された CNT/ポリマー複合材の熱伝導率から界

面熱抵抗を見積られ45,これまで実験や計算で得られた値と同程度の界面熱抵抗が報告された.

1.5 先行研究:界面フォノン散乱

複合材の熱伝導を考える際には,他の物質との接触による熱伝導率の低下を考慮する必要がある.この

熱伝導率低減効果は,非平衡分子動力学法によって水分子を中に詰めた CNTで確認され,熱伝導率の低

減率は 20∼35パーセントと報告されている46.同じ系を用いて,分子動力学法で計算したパワースペク

トルからフォノン緩和時間を計算する手法によってもこの効果は確認されている14.アモルファスシリカ

上の CNT47ついても同様の計算手法から熱伝導率の低減が確認され,モードごとの低減率が報告されて

いる.

1.6 目的と方針

CNT/ポリマー複合材は,CNTの物理的特性を応用する有力な方法だと考えられている.その特長と

して,高い強度や熱伝導率,電気伝導性が報告されており,それらを活かした構造材料や熱伝導材料,電

子デバイスへの応用が期待される.これらいずれの CNT/ポリマー複合材の応用においてもその熱伝導

の理解は欠かせない.

CNT/ポリマー複合材では,工学的に重要な諸性質が界面の状態によって決定される.そのため,界

面によって引き起こされる現象を正しく評価した CNT/ポリマー複合材の熱伝導率の解析が必要とされ

ている.CNTとポリマーの界面熱抵抗や,ポリマー界面でのフォノン散乱による CNTの熱伝導率低下

が複合材全体の熱伝導率を制限すると考えられているが,この 2つの要素を同時に考慮して CNT/ポリ

マー複合材の熱伝導率を評価する試みは未だに行われていない.そこで本研究では,CNTとポリマーの

界面熱抵抗及び,界面フォノン散乱によるポリマー中での CNTの熱伝導率低下を解析し,それらの影響

を統合的に評価することで,CNT/ポリマー複合材の熱伝導率を明らかにする.

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第 2章

分子動力学シミュレーション

実験の困難なナノスケールの熱伝導解析を行うには分子シミュレーションが有用である.本研究では,

CNT/ポリマー複合材の複雑な界面構造の扱いが容易で,格子熱伝導に重要となるフォノン分散関係や

非調和効果を表現できる古典分子動力学法によって解析を行った.分子動力学計算には英国 Daresubury

Laboratoryで開発された汎用分子動力学計算パッケージである DL POLY 2.048を用いた.

コンピュータシミュレーションの登場以前は,多数の原子から成る集団の性質をミクロな視点から知る

方法は解析的手法しかなかった.しかし,この手法では原子間の相互作用が少し複雑になるだけで解を求

められなくなってしまう.分子動力学法は,このような複雑に相互作用を及ぼしあう多粒子系の運動を解

くための数値計算手法である.

分子動力学法では運動方程式を解き,得られた速度や位置の情報を統計処理することで系の熱力学的性

質や動力学的性質を知ることができる.支配方程式は系内の粒子数とエネルギー,体積が一定の条件では

式 (2.1)に示すニュートンの運動方程式となる.

mi ri = −∂Ui∂ri

(2.1)

ここで,添え字 iは各原子に割り振った番号,mは原子の質量,rはカーテシアン座標,U はポテンシャ

ルを表す.

2.1 数値積分法

ニュートンの運動方程式を時間発展させながら数値的に解く方法はいくつかある.ここでは速度ベルレ

法により数値積分を行った.

時刻 t の ±∆t 前後で粒子の変位 ri をテイラー展開し,式 (2.1)を代入して整理すると,次のように時

刻 t以前の情報から時刻 t + ∆tでの位置と速度を計算できる.

ri (t + ∆t) = ri (t) + ∆tri (t) +∆t2

2miFi (t) (2.2)

ri (t + ∆t) = ri (t − ∆t) +∆t

2mi(Fi (t) + Fi (t − ∆t)) (2.3)

∆tずつ系を時間発展させるには,式 (2.2)と式 (2.3)を以下のように繰り返す.

(1) 更新された位置からポテンシャルを計算し,ポテンシャルを微分して力を計算

(2) その力を元に式 (2.3)から速度を更新

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第 2章 分子動力学シミュレーション 7

(3) その速度と力を元に式 (2.2)から位置を更新

このように式 (2.1)を解くのが速度ベルレ法と呼ばれるアルゴリズムである.

1ステップの時間刻み ∆t が大きすぎると誤差が増え,全エネルギーが発散する.一方で,シミュレー

ション上の時間を長く取りたい要求があるため,エネルギーは保存するが,できる限り長い ∆tを設定す

るのがよい.ここでの全ての分子動力学計算について ∆tは 1 fsに設定している.

2.2 計算セル

計算セルは 35 A×58 A×58 Aの直方体形であり,(10,10)のカイラリティを持つ長さ 14ユニットセル

分の単層 CNTと,アモルファス状態の直鎖で炭素原子 101個からなるポリエチレン(C101H204)34鎖

から構成されている.

今回用いるようなアモルファス状態で炭素鎖の長いポリエチレンを分子動力学法によってエネルギー的

に安定な状態へ配置するのは,計算時間が長くなるため現実的でない.そこで,ここではポリエチレンの

初期座標は格子モンテカルロ法と原子マッピング49によって生成されたものを用いた.最初にモンテカル

ロ法でポリエチレンの鎖をセル内に配置し,その格子モデル上に各炭素原子,水素原子をマッピングする

ことでポリエチレン原子の座標をつくる.そのセル中央にはポリエチレンが存在しないように設定して

その隙間に CNTを配置し,分子動力学法で再び緩和することで図 2.1に示すような複合材の初期座標を

得た.

計算セルには周期境界条件を課している.分子動力学法で計算可能な粒子数は多くとも 109 程度であ

る.一方,現実には 1023 程度の原子が存在している.そこで,基本セルの周りに基本セルと全く同じ粒

子配置を持つレプリカセルを並べ,基本セルの粒子からのみでなく,レプリカセルの粒子からも相互作用

を受けるとして,基本セルの原子の運動を解く.これによって,少ない原子数の計算から擬似的にバルク

状態を再現することができる.

図 2.1 分子動力学計算中の CNT/ポリエチレン複合材のスナップショット.

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第 2章 分子動力学シミュレーション 8

2.3 ポテンシャル

分子動力学計算ではポテンシャル U を最初に与えなければならない.ポテンシャル関数の設計方法に

は大きく分けて 2通りある.1つ目は実験から得られたいくつかの物性値がシミュレーション上で再現さ

れるようにする方法で,このようなポテンシャルを経験的ポテンシャルと呼ぶ.もう 1つは原子の電子状

態を解く第 1原理計算からポテンシャルを計算し,それを空間上の関数形にフィッティングする方法であ

る.現在までにさまざまなポテンシャルが考案されてきており,目的とする物理に合わせてその中から適

切に選ぶ必要がある.

本節で本研究で用いたポテンシャルを説明する.本系の力場は,CNTを構成する炭素原子間の共有結

合を表す Tersoffポテンシャル50,ポリエチレンを構成する炭素,水素原子間の共有結合を表す Polymer

Consistent Force Field(PCFF)51,各物質間の Van der Waals 力を表す Lennard-Jones(LJ)ポテン

シャルの和で構成される.U = UTersoff + UPCFF + ULJ (2.4)

CNT 内の結合には炭素原子の共有結合を表現する Tersoff ポテンシャルを適用した.Tersoff ポテン

シャルの関数形は式 (2.5)-(2.11)の通りである.Tersoffポテンシャルは配位数によって結合の強度が変化

することで,共有結合での電子の影響を表している.炭素やシリコンといった原子の sp2 結合と sp3 結合

の両方を再現可能であり,CNT内の sp2 結合を表すのに適している.関数系の基本はMorseポテンシャ

ルで,引力項 f Aij の係数 bij の中で結合力の配位数依存性が記述されている.ここでは,格子熱伝導に関

する計算を行うため,ポテンシャルがフォノン分散関係を正しく再現することが重要となる.そのよう

なポテンシャルパラメータとして,Lindsayらの提案する値52を用いた.このパラメータは中性子散乱に

よって実験的に得られたグラフェンのフォノン分散関係を再現するように設計されているため,同じ 6員

環から成る CNTの分散関係も精確に表すことができると考えられる.表 2.1にそのパラメータを示す.

UTersoff,ij = f Cij

(f Rij − bij f A

ij

)(2.5)

f Rij = Ae−λ1rij (2.6)

f Aij = Be−λ2rij (2.7)

bij =(

1 + βnζnij

)−1/2n(2.8)

ζij = ∑k 6=i,j

f Cik gijk (2.9)

gijk = 1 +c2

d2 − c2

d2 +(

h − cos[θijk])2 (2.10)

f Cij =

1

(rij < R

)12

(1 + cos

rij−R+DD

) (R < rij < R + D

)0

(R + D < rij

) (2.11)

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第 2章 分子動力学シミュレーション 9

表 2.1 Tersoffポテンシャルのパラメータ52.

A [eV] B [eV] λ1 [A−1] λ2 [A−1] n c β d h R [A] D [A]

1393.6 430 3.4879 2.2119 0.72751 38049 1.5724×10−7 4.3484 -0.93 1.95 0.15

Van del Waals 相互作用には Lennard-Jones ポテンシャルを適用した.ここで適用した 9-6 型の

Lennard-Jonesポテンシャルの関数系を式 (2.12)に示す.σは Van der Walls力の結合径,εは結合力の

強さを表している.本計算系で Van der Waals相互作用がはたらくのは CNT/ポリエチレン間,ポリエ

チレン/ポリエチレン間であり,それぞれの原子の組み合わせに対するパラメータを表 2.2に示す.

ULJ,ij =ε

3

6

rij

)9

− 9

rij

)6 (2.12)

表 2.2 Lennard-Jonesポテンシャルのパラメータ51.

atom1 atom2 ε [kcal mol−1] σ [A]

C C 0.054000 4.0100

C H 0.032863 3.5025

H H 0.020000 2.9950

C C (CNT) 0.060597 3.9625

H C (CNT) 0.036878 3.4550

ポリエチレン分子内結合は Polymer Consistent Force Field (PCFF)を適用した.PCFFはポリカーボ

ネート一般に適用される第 1原理計算に基づいたポテンシャルで,2体の結合長,3体の結合角,4体の

ねじれ角に依存する成分を持つ.そのうち結合長と結合角に対しては 4次までの多項式形,ねじれ角に対

しては 3つの三角関数を組み合わせた形になっている.詳しい関数系を式 (2.13)-(2.16)に,ポテンシャル

パラメータを表 2.3-2.5示す.

UPCFF = Ubond + Uangle + Utorsion (2.13)

r

θ φ

図 2.2 PCFFは図のような結合長,結合角,結合ねじれ角に依存する成分を持つ.

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第 2章 分子動力学シミュレーション 10

Ubond =kr

2(r − r0)

2 +k′r3

(r − r0)3 +

k′′r4

(r − r0)4 (2.14)

Uangle =kθ

2(θ − θ0)

2 +k′θ3

(θ − θ0)3 +

k′′θ4

(θ − θ0)4 (2.15)

Utorsion =12

A1 (1 + cos φ) +12

A2 (1 + cos 2φ) +12

A3 (1 + cos 3φ) (2.16)

表 2.3 PCFFの結合長依存部分 Ubond のパラメータ51.

atom1 atom2 r0 [A] kr [kcal mol−1A−2] k′r [kcal mol−1A−3] k′′r [kcal mol−1A−4]

C C 1.5300 599.34 -1505.3 2719.2

C H 1.1010 690.00 -2075.7 3378.4

表 2.4 PCFFの結合角依存部分 Uangle のパラメータ51.

atom1 atom2 atom3 θ0 kθ [kcal mol−1] k′θ [kcal mol−1] k′′θ [kcal mol−1]

C C C 112.67 79.032 -22.334 -38.236

C C H 110.77 82.906 -31.811 20.511

H C H 107.66 79.282 -38.769 -9.7200

表 2.5 PCFFのねじれ角依存部分 Utorsion のパラメータ51.

atom1 atom2 atom3 atom4 A1 [kcal mol−1] A2 [kcal mol−1] A3 [kcal mol−1]

C C C C 0.0000 0.10280 -0.28600

C C C H 0.0000 0.06320 -0.33620

H C C H -0.28640 0.12340 -0.21660

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第 2章 分子動力学シミュレーション 11

2.4 物理量の制御

ニュートンの運動方程式に従って計算するとき,保存される物理量は粒子数,体積,全エネルギーの 3

つであるが,他の物理量を制御したい状況も現れる.ここでは支配方程式は変えずに,次のような操作を

行うことで各物理量を制御した.

温度のみの制御を行うとき(粒子数と体積一定)は速度スケーリング法を用いた.温度は粒子の持つ運

動エネルギーの総和に比例するので,次のように原子の速度を変化させることで温度を T0 にすることが

できる.

ri ←√

T0

Tri (2.17)

ここで,T は現在の温度を表している.

温度と圧力を同時に制御するとき(粒子数一定)は Berendsenの手法53を用いた.Berendsenの手法

では温度は速度スケーリングによって,圧力はセルの大きさを変化させることで制御する.

ri ←

√1 +

∆tτT

(T0

T− 1

)ri (2.18)

H ←

I − χ∆tτP

(P0I − P)

H (2.19)

ただし,I は単位行列,P は圧力テンソル,H はセルの 1 辺を構成するベクトルを並べた 3×3 の行列,

τT と τP は任意の入力値,χ は等温圧縮率である.便宜上,系の歪みは許さないとして対角成分のみ式

(2.19)を行う.式 (2.18)と式 (2.19)の操作は温度と圧力を次のように制御することと等価である.

dTdt

=T0 − T

τT(2.20)

dPdt

=P0 − P

τP(2.21)

そのため,温度と圧力はそれぞれ T0,P0 に収束する.各パラメータの値を表 2.6に示す.

表 2.6 Berendsenの温度制御,圧力制御のパラメータ.

τT [ps] τP [ps]

0.1 2.0

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12

第 3章

計算手法と結果

3.1 界面熱抵抗

ナノ複合材では界面熱抵抗が全体の熱伝導性能を大きく左右する.古くから,原子レベルの界面の熱コ

ンダクタンスを計算する手法が提案されてきたが,これらのモデルの適用範囲は限定的である.

本節では,複合材全体の熱伝導に大きく影響すると考えられる CNT/ポリエチレン界面の熱伝導を分

子動力学法によって解析し,界面での熱伝導の物理を明らかにする.

3.1.1 Spectral Energy Density

物質が持つ振動エネルギーの周波数分布(Spectral Energy Density; SED)は界面の熱伝導を考えると

きに重要となる.分子動力学法で SEDを計算するには,一定の時間刻みで各原子の速度 v (t)を Nt 個出

力し,その値をフーリエ変換したものを 2乗すればよい.(10, 10)CNTの SEDを 3.1に示す.

D (ω) =

∣∣∣∣∣ 1Nt

Nt−1

∑t=0

v (t) exp(−2πi

ωtNt

)∣∣∣∣∣2

(3.1)

これにより得られる古典極限の SEDは,周波数上にエネルギーが等分配されたものとなる.

一般的に界面を構成する 2つの物質の SEDの重なりが大きいほど,界面の熱伝導はよいとされる.こ

0 10 20 30 40 50 600

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2x 10

−15

Frequency(THz)

Inte

nsity

(un

it ar

b.)

図 3.1 (10, 10)CNTの SED.

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第 3章 計算手法と結果 13

図 3.2 物質界面での弾性的熱伝導と非弾性的熱伝導を SEDを使って模式的に表した図.

れは,界面を構成する物質が共通の振動数にエネルギーを持つなら,振動数を変えずにエネルギーが界面

を伝わる弾性的熱伝導が許されるからである.(弾性的熱伝導,非弾性的熱伝導のイメージは図 3.2を参

考)CNTと LJ原子については物質間に温度差を設けたときに両物質の SEDが重なる部分の方が温度が

早く緩和することが確認されている54.

3.1.2 集中熱容量法による計算

物質界面の存在する系において物質内の温度変化が界面での温度変化に比べて十分小さいことを仮定

し,集中熱容量法54によって界面熱コンダクタンス Kを計算した.具体的には物質表面の熱伝導の相対的

な大きさを表すビオ数が 0.1以下であれば,この手法で問題なく界面熱コンダクタンスを計算できるとさ

れる.以下に集中熱容量法による界面熱コンダクタンスの計算方法を示す.

温度の異なる 2つの物質が接触している系の熱伝導を考える.ニュートンの冷却法則から界面での熱流

束 qは高温側物質の温度 TH,低温側物質の温度 TL,界面の面積 Sで次のように表される.ここで,ビオ

数が低い仮定から,それぞれの物質界面での温度を物質全体での温度で代表して表している.

q = KS(TH − TL) (3.2)

この熱流束が 2つの物質に温度変化を与えることから,それぞれの物質の温度は次のように表される.

dTHdt

=q

mHcH(3.3)

dTLdt

=q

mLcL(3.4)

ここで,mH,mL は高温側物質と低温側物質の全質量で,cH,cL は高温側物質と低温側物質の比熱を表

している.式 (3.2),(3.3),(3.4)から次の微分方程式が得られる

d (TH − TL)dt

= −(

1mHcH

+1

mLcL

)KS (TH − TL) (3.5)

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第 3章 計算手法と結果 14

この微分方程式は次のように解析的に解くことができる.

TH − TL = A exp−

(1

mHcH+

1mLcL

)KSt

(3.6)

式 (3.6)から,界面熱コンダクタンスを求めるには 2つの物質間に温度差を与えて,時間経過とともに

その温度差が緩和する様子を時間的にサンプリングすればよい.温度緩和時間 τtemp を用いて,分子動力

学法で得た温度差のプロファイルを次のような指数関数にフィッティングし

TH − TL = A exp(− t

τtemp

)(3.7)

その緩和時間から界面熱コンダクタンスを計算する.

K =1(

1mHcH

+1

mLcL

)Sτtemp

(3.8)

実際のシミュレーションでは,速度スケーリングによって CNT のみの温度を 100 K 上昇させ,その

後ミクロカノニカルアンサンブルで系を緩和させたときの温度をサンプリングした.このときの温度変

化を図 3.3 に示す.温度パルスを与える時間を変えて 6 つのアンサンブルを発生させ,その平均温度か

ら界面熱コンダクタンスを計算することで不確かさを減らしている.CNTとポリエチレンの温度が近く

なるにつれてシグナルに対するノイズが増すため,指数関数へのフィッティングに使うデータの範囲は,

最初に設けた温度差(ここでは 100 K)が 60 パーセント緩和(温度差が 40 K)するまでとした.この

場合では,高温側物質は CNTで低温側物質はポリエチレンとなる.このことを踏まえて,式 (3.6)に現

れる各変数の値を表 3.1に示す.この方法によって,温度 500 Kでの界面熱コンダクタンスの値は 15.3

MWm−2K−1 と計算された.

0 100 200500

600

0

50

100

Time [ps]

Tem

pera

ture

[K

]

Tem

pera

ture

dif

fere

nce

[K]TCNT

TPE

∆T=TCNT−TPET0exp(−t/τtemp)

図 3.3 集中熱容量法で CNTに温度パルスを与えた後,それぞれの物質の温度が緩和していく様子を時間的に観察.温度差を式 (3.7)の形にフィッティングしたものを緑線で表している.

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第 3章 計算手法と結果 15

表 3.1 集中熱容量法による界面熱コンダクタンス計算(式 (3.8))に用いたパラメータ.

mH [kg] cH [J kg−1K−1] mL [kg] cL [J kg−1K−1] S [m2]

1.117×10−23 2.076×103 8.009×10−23 1.723×104 1.924×10−17

3.1.3 直接法による計算

界面熱コンダクタンスをもうひとつの手法で計算する.前節の集中熱容量法の問題は,非定常な系の温

度変化を追うために,温度の長時間平均をとることができず,ノイズの影響を受けやすい点である.そこ

で,定常的に一定量の熱を CNTに与え,周囲のポリエチレンから同量の熱を奪い,そのときの界面の温

度差から界面熱コンダクタンスを計算する41.集中熱容量法と違い系は定常状態になり,原理的には無限

に時間平均をとることができるため,ノイズの影響を抑えることができる.一方でこの手法では,外部か

ら熱を加え続けながら計算を行うため,加熱する部分の非平衡性が問題となる可能性がある.

ここでは,図 3.4の青で示す領域にあるポリエチレンから Q =5.0×10−8 Wの熱を奪い,同時に CNT

全体に同量の熱を与える.この計算を続けると CNTの温度が上がり,ポリエチレンの温度が下がってい

くが,しばらくすると温度の変化はなくなる.温度変化がほとんどなくなる 1 ns後から,2 nsの間 CNT

の周りをドーナツ状に区切った局所温度を毎ステップ計算した.この 2 nsの間の平均温度から界面熱コ

ンダクタンスを式 (3.9)のように計算した.

K =Q

(TH − TL) S(3.9)

ここで,TH は CNTの温度,TL は CNTに隣接する領域のポリエチレンの温度,Sは界面の面積である.

また,この方法では同時にポリエチレンの熱伝導率も計算することができる.

λ =ln (rL/rH) Q

2πL (TH − TL)(3.10)

図 3.4 直接法による界面熱コンダクタンス計算の模式図.図の赤い領域(CNT)に熱 Qを加え,ポリエチレンのうち青い領域に存在するものから熱 Qを奪う.

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第 3章 計算手法と結果 16

0 10 20260

280

300

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)N

umbe

r de

nsity

TCNT=502 K

T=300 K

0 10 20320

340

360

Tem

pera

ture

(K

)Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=534 K

T=350 K

0 10 20360

380

400

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=576 K

T=400 K

0 10 20420

440

460

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=614 K

T=450 K

0 10 20

480

500

520

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=654 K

T=500 K

0 10 20

280

300

320

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=382 K

C/C0=0.25

0 10 20

280

300

320

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=426 K

C/C0=0.5

0 10 20

280

300

320

Tem

pera

ture

(K

)

Distance from CNT axis (A)

Num

ber

dens

ity

TCNT=455 K

C/C0=0.75

図 3.5 各条件でのポリエチレンの動径分布関数(紫点)と CNTと同軸のドーナツ状の領域の局所温度プロファイル(黒,灰点).緑線は円筒座標系の熱伝導方程式の解 Tfit = A ln r + Bに温度をフィッティングしたもの.フィッティングに使った領域の温度は黒点で,フィッティング範囲から除外した

領域の温度は灰点で示している.

ここで,TH はポリエチレン高温部の温度,rH は温度が TH となる部分の CNT軸からの距離,TL はポリ

エチレン低温部の温度,rL は温度が TL となる部分の CNT軸からの距離,Sは界面の面積である.ポリ

エチレンの熱伝導率は 300 Kで 0.174 Wm−1K−1 と計算された.ここで計算された値は 3.3節で複合材

全体の熱伝導率を計算するときに使う.

集中熱容量法のときと同等の条件(500 K)では,界面熱コンダクタンスは 16.6 MWm−2K−1 となっ

た.これは集中熱容量法で計算された値(15.3 MWm−2K−1)と同程度である.このことから 2つの手

法の妥当性がある程度確認できた.

ここでは温度と CNT内の炭素原子間結合力を変化させて界面熱コンダクタンスを計算した.ここでの

温度は系に含まれる全ての原子から定義されたものを指す.結合力を変化させた計算は系の温度を 300 K

にして行った.炭素原子間結合力とは Tersoff ポテンシャル中の式 (2.6),(2.7) の A と B のことで,図

3.6中では Aと Bを単一の変数 Cで代表させている.(例えば C/C0 = 0.25のときは,Aと Bをどちら

も 0.25倍にして計算を行った.)計算前に系の温度がそれぞれ指定された温度,圧力が 1気圧になるよう

に緩和計算を行い,その後上記の計算を行った.

それぞれの条件について,CNTの軸からの距離と局所的な密度,温度をプロットしたものを図 3.5に,

各パラメータを変化させたときの界面熱コンダクタンスを図 3.6に示す.図 3.5からわかるように,急激

な温度変化が生じている界面付近では非平衡性が強い上,温度の計算に使える原子数が少ないこともあ

り,温度にばらつきが見られる.この影響を除くために,界面付近を除いた領域で温度を円筒座標系の熱

伝導方程式の解へフィッティングし(同図中緑線),そこから式 (3.9)中の TL を求めた.

図 3.6 (a)から,温度が上昇するに従って界面の熱伝導がよくなる傾向が見て取れる.過去に分子動力

学法によって界面(白金/アルミナなど)の熱コンダクタンスの温度依存性が報告されているが39,そこ

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第 3章 計算手法と結果 17

300 400 5000

10

20

Temperature (K)

TB

C (

MW

m−

2 K−

1 )

(a)

0 0.5 10

10

20

30

TB

C (

MW

m−

2 K−

1 )

C/C0

(b)

図 3.6 (a)界面熱コンダクタンスの温度依存性.(b)界面熱コンダクタンスの原子間力定数(C)依存性.(C0 は元の Tersoffポテンシャルの原子間力定数を表す)

でも同様の傾向が確認されている.基本的に界面では弾性な熱伝導が支配的ではあるが,温度上昇によっ

て原子の平衡位置からの変位が大きくなったことにより,非弾性な熱伝導が増加する.温度が高くなるこ

とで界面熱コンダクタンスの上昇したのはこのためと考えられている.

300∼500 K の温度領域ではポリマーがガラス状からラバー状の構造に変化するだろうと考えられる.

この構造変化を起こす温度は,系の熱膨張の非連続点から測定されている55, 56が,本系で計算した熱膨張

は温度に対してほぼ線形となり(図 3.7),明確な構造の変化点は判別できなかった.また,温度を変化さ

せての計算では,非弾性なエネルギー輸送の増加だけでなく,このようなポリエチレンの構造変化によっ

て界面熱コンダクタンスが影響を受けることも予想されたが,今回の計算ではそのような効果を確認する

ことはできなかった.

300 400 5000.9

0.95

1

Nor

mal

ized

sys

tem

vol

ume

Temperature (K)

図 3.7 CNT/ポリエチレン複合材の熱膨張.

図 3.8は C/C0 = 1のときの CNTとポリエチレンの SEDを示している.このとき 90 THz付近のポ

リエチレンのピークを除いては,両物質のスペクトルは同じ振動数を持つといえる.にもかかわらず,図

3.6 (b)からは CNTの結合力を弱め,ポリエチレンの振動を低振動数側にシフトさせた場合の方が界面熱

コンダクタンスが高くなる傾向が見て取れる.このことは,界面の熱エネルギーの輸送において低振動数

のものが支配的であることを示唆している.また,計算された CNTとポリエチレンの界面熱コンダクタ

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第 3章 計算手法と結果 18

ンスの値は,過去に分子動力学法によって計算されたシリコン/アモルファスポリエチレンの界面熱コン

ダクタンスの値57(> 28 MWm−2K−1)と比較して小さい.これはポリエチレンの対になる物質が CNT

からより軟らかいシリコンであるためだと考えられ,今回得た結果と一貫性がある.この界面熱抵抗が複

合材全体の熱伝導に与える影響は 3.3節で後述する.

0 20 40 60 80 1000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2x 10

−15

Frequency(THz)

Inte

nsity

(ar

b. u

nit)

CNTPE (Hydrogen)PE (Carbon)

図 3.8 ポリエチレンと (10,10)CNT の SED を比較.ポリエチレンの 90 THz 付近のピークを除き,CNTとポリエチレンの振動エネルギーは共通した振動数領域に分布している.

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第 3章 計算手法と結果 19

3.2 界面フォノン散乱

CNTの熱伝導率は複合材全体の熱伝導率を決定するもうひとつの大きな要因である.本節では,フォ

ノン気体モデルからポリエチレン中での CNTの熱伝導率低減を計算し,界面フォノン散乱をフォノンの

モード,周波数ごとに解析する.

フォノン粒子の気体運動論から,熱伝導率と微視的な物理量を結びつける.フーリエ則から熱伝導率 κ

の定義は熱流束 q,温度 T とすると次の通りである.

q = −κdTdx

(3.11)

フォノンはある距離を移動して消滅する考えると,フォノンの平均自由行程 lx 前後での温度差 ∆T は次

のように表せる.

∆T =dTdx

lx =dTdx

vxτ (3.12)

ここで,vx はフォノンの群速度である.±x方向への粒子流は粒子の濃度と粒子の速度の積であり,平均

自由行程前後で 1粒子が放出するエネルギーは比熱 cを用いて c∆T と表せる.よって,フォノン拡散に

よるエネルギーの流れは

q = −ncvx∆T = −nc〈v2x〉τ

dTdx

= −13

nc〈v2〉τ dTdx

(3.13)

となる.式中で n はフォノンの濃度を表している.式 (3.11)と式 (3.13)の比較から熱伝導率が定義され

る.さらに,それぞれの波数 kとモード pに関する和の形で表すと,古典極限における結晶格子の格子熱

伝導率は,フォノンの比熱 kB/V とフォノンの群速度 vg,フォノンの平均自由行程 l の積,または,フォ

ノンの比熱と群速度の 2乗と緩和時間 τ の積を全てのモードと波数で足したものとなる.

κ =1

3V ∑k

∑p

kBvgl =1

3V ∑k

∑p

kBv2gτ (3.14)

これが一般的な結晶格子の熱伝導率をフォノン粒子の気体運動論から導出したものである.ここでは

CNTの熱伝導率の計算を行うが,CNTはユニットセルが 1次元に連なった構造のため,式 (3.14)を次

のように 1次元表記に書き直す.

κCNT =1V ∑

k∑p

kBvgl =1V ∑

k∑p

kBv2gτ (3.15)

CNTの場合では波数 kはベクトルでなくスカラーである.

式 (3.15)で周囲にポリエチレンがある場合とない場合の CNTの熱伝導率を計算する.群速度は原子の

熱振動やポリエチレンによる影響を受けないと仮定して,いずれの場合も格子動力学法により計算し,緩

和時間は分子動力学法からポリエチレン有りの場合と無しの場合について計算した.次節以降で詳細な計

算手法を紹介する.

3.2.1 フォノン分散関係

結晶格子を構成する原子の運動を,現実の原子間相互作用を基に解析的に解くことは困難であるが,調

和近似によってより詳しく結晶の物理を知ることができる.周波数 ω と波数 k上で格子振動の状態を表

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第 3章 計算手法と結果 20

すフォノン分散関係は調和近似によって得ることができる.全てのモード,全ての波数について ω − k

の関係が得られれば,全てのモード,全ての波数についてフォノンの群速度 vg = ∂ω/∂kを計算できる.

以下に格子動力学法と呼ばれるフォノン分散関係の計算方法を示す.

nth cellbth atom

図 3.9 結晶格子の一例(体心立方格子).ユニットセルの番号として変数 nを振り,そのユニットセルを構成する原子に変数 bを振る.

図 3.9に示す体心立方格子のような一般的結晶格子を考える.今,ある n番目のユニットセルに注目し

て,そのユニットセルを構成する原子 bについてのニュートンの運動方程式から出発する.以下で,添え

字 α,βは x,y,zのいずれかを表す.

mb rαbn = − ∂U

∂rαbn

(3.16)

ここで,m は原子の質量,U はポテンシャルを表す.ここでは原子間ポテンシャルを平衡点周りでテイ

ラー展開し,変位の 2次の項までで近似する.(調和近似)

U = Ueq +12! ∑

bn,b′n′∑α,β

Φα,βbn,b′n′drα

bndrβb′n′ (3.17)

式 (3.17)中の Φα,βbn,b′n′ は

Φα,βbn,b′n′ =

∂2U

∂rαbn∂rβ

b′n′

∣∣∣∣∣rα

bn ,rβ

b′n′→0

(3.18)

で定義される変数である.ここで添え字 n′ は注目している原子と相互作用する原子の所属するセル番

号,b′ は相互作用する原子が所属するセル中で持っている原子番号をそれぞれ表している.式 (3.16)に式

(3.17)を代入する.mb rα

bn = − ∑b′ ,n′ ,β

Φα,βbn,b′n′r

βb′n′ (3.19)

式 (3.19)の解として次のような平面波解を仮定する

uαbn =

1√mb

eαb exp i (kRn − ωt) (3.20)

R はユニットセルの座標,e は振幅,k,ω はそれぞれ格子振動の波数と周波数を表している.式 (3.20)

を式 (3.19)に代入して

√mbω2eα

b exp i (kRn − ωt) = ∑b′ ,n′,β

Φα,βbn,b′n′√

mb′eβ

b′ exp i (kRn′ − ωt) (3.21)

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第 3章 計算手法と結果 21

右辺に寄せて整理すると

ω2eαb = ∑

b′ ,n′,β

Φα,βbn,b′n′

√mbmb′

exp ik (Rn′ − Rn) eβb′ (3.22)

式 (3.22)は添え字 α, β, b, b′ の組み合わせの数だけ存在する.α, β, b, b′ について展開し,α, bの組み合わ

せを縦方向に,β, b′ の組み合わせを横方向にして行列状に並べる

ω2

ex1

ey1

ez1

ex2...

ezNb

=

Dx,x1,1 (k) Dx,y

1,1 (k) Dx,z1,1 (k) Dx,x

1,2 (k) . . . Dx,z1,Nb

(k)Dy,x

1,1 (k) Dy,y1,1 (k) Dy,z

1,1 (k) Dy,x1,2 (k) . . . Dy,z

1,Nb(k)

Dz,x1,1 (k) Dz,y

1,1 (k) Dz,z1,1 (k) Dz,x

1,2 (k) . . . Dz,z1,Nb

(k)Dx,x

2,1 (k) Dx,y2,1 (k) Dx,z

2,1 (k) Dx,x2,2 (k) . . . Dx,z

2,Nb(k)

......

......

. . ....

Dz,xNb ,1 (k) Dz,y

Nb ,1 (k) Dz,zNb ,1 (k) Dz,x

Nb ,2 (k) . . . Dz,zNb ,Nb

(k)

ex1

ey1

ez1

ex2...

ezNb

(3.23)

Nb はユニットセル中の原子数である.式 (3.23)の行列(≡ D (k),ダイナミカルマトリクス)の各要素

Dα,βb,b′ (k)は

Dα,βb,b′ (k) = ∑

n′

Φα,βbn,b′n′√mbm′

b

exp ik (Rn′ − Rn) (3.24)

である.(

ex1 , ey

1, ez1, ex

2 , . . . , ezNb

)にゼロでない解が存在するとき,∣∣∣ω2I − D (k)

∣∣∣ = 0 (3.25)

(Iは単位行列)の固有値方程式を解けば ω − kの関係が Nb × 3個得られる.

この固有値問題を解くためには,Dα,βb,b′ (k) の中にある Φα,β

bn,b′n′ を数値的に知る必要がある.式 (3.18)

を力 Fを使って書き換えると

Φα,βbn,b′n′ = −

∂Fβb′ ,n′

∂rαb0

(3.26)

となる.ここでは単純な 2点差分から Φα,βbn,b′n′ を次のように数値的に求める.

Φα,βbn,b′n′ = −

Fβb′,n′

(δα

b0

)− Fβ

b′ ,n′(δα

b0

)2δα

b0(3.27)

以上から,微少変位 δを与えたときの力を知ることができれば,ダイナミカルマトリクス分かり,固有値

問題を解いてフォノン分散関係を計算できることが分かる.

ここまでは 3 次元の周期性を持った結晶についての一般論を紹介した.この枠組みを CNT に適用す

る.式 (3.23),(3.24) には注目するセルの番号である n が含まれているが,周期構造からどのセルに注

目しても同じなので n = 0とし,n = 0のセルを原点に配置する(Rn = (0, 0, 0)).CNTの場合,注目

する原子にはたらきかける原子が所属するユニットセルの座標は Rn′ = (0, 0, nza0)(a0 はアームチェア

型 CNT の格子定数,=√

3rC−C)で,原子の質量は一定で mb = mb′ = m となる.CNT に適用する

Tersoffポテンシャルは 3体力で,共有結合している第 2近接の原子までしか相互作用を及ぼさない.図

3.10からわかるように,n = 0のセルは n = −1, 0, 1のセル内の原子からしか力を受けない.このこと

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第 3章 計算手法と結果 22

n=0-1 1 2-2

z

θ

図 3.10 アームチェア型の CNTを軸方向に沿って切り,広げたときの構造.z は CNTの軸方向,θ

は円周方向を示している.アームチェア型 CNTは図の四角で囲んだユニットセルが z 方向に繰り返していると見ることができる.Tersoff ポテンシャルでは,最大で 2 つ先の原子から相互作用を受ける.そのため,n = 0中の原子に注目したとき,その原子に相互作用及ぼす原子は n = −1, 0, 1中にのみ存在する.

を考慮するとアームチェア型 CNTでは式 (3.24)は

Dα,βb,b′ (k) = ∑

n′=−1,0,1

Φα,βb0,b′n′

mexp

ikn′a0

(3.28)

となる.Dα,βb,b′ (k)を各要素に持つダイナミカルマトリクスの固有値問題をを解くことで CNTのフォノン

分散関係が計算できる.

格子動力学法によって (10,10)CNTのフォノン分散関係を計算したところ,図 3.11 (a)に示す結果が得

られた.なお,分散関係の k 軸は CNT の軸方向に対応する.また,図 3.11 (b) にフォノン群速度を示

す.今回 CNT内の原子間ポテンシャルに適用した Tersoffポテンシャルの各パラメータは,グラフェン

のフォノン分散関係の実験値に合うように設定さており52,格子熱伝導率の計算に重要となる CNTの分

散関係もより正確に表現していると考えられる.検証のために,図 3.11 (c)に CNTのポテンシャルとし

てよく用いられる第 1世代 Brenner-Tersoffポテンシャル58と今回用いた Tersoffポテンシャルでの分散

関係の比較を示す.今回用いたポテンシャルでは Brenner-Tersoffポテンシャルに比べて音響モードの群

速度が大きい.

前述の通り,式 (3.14)から熱伝導率を計算するのに,群速度を格子動力学法から,緩和時間を分子動力

学法から求め,2つを対応付けることで,あるモードの熱伝導率を求め,それらを全て足し合わることで

CNTの熱伝導率を計算する.この手法では格子動力学法と分子動力学法を正しく対応付けなければ熱伝

導率は計算できない.(10,10) CNTではユニットセルあたりの原子数は 40個で,自由度を 120持つ(つ

まり,振動モードを 120 個持つことになる.実際はモード同士の縮退から独立なモードはそれより少な

く,独立なモードは 66 である.)これだけのピークがあると分子動力学法から得た SED をそれぞれの

ピークに分解するのは困難である.そこで,円周方向の周期性によるモードの分解を行い,ひとつの分散

関係内のピークを減らすことで全てのピークを特定を試みる.

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第 3章 計算手法と結果 23

0 10

20

40

Normalized wave number

Fre

quen

cy [

TH

z]

(a)

0 10000 200000

20

40

Group velocity [ms−1]

Fre

qu

en

cy [

TH

z]

(b)

0 10

20

40

Normalized wave number

Fre

quen

cy [

TH

z]

(c)

図 3.11 (a)計算された (10,10)CNTのフォノン分散関係.(b)計算された (10,10)CNTのフォノン群速度.(c)第 1世代 Brenner-Tersoffポテンシャル(黒線)と今回用いた Tersoffポテンシャル(赤線)での (10,10)CNTのフォノン分散関係を比較したもの.

式 (3.28)のようにして求めたフォノン分散関係を CNTの円周方向の周期性を使って分類する.固有値

問題を解いて得られた固有ベクトルを CNTを基準とした円筒方向に分解し,その固有ベクトルを円周方

向にフーリエ変換する.

D (kθ) =

∣∣∣∣∣ 1Nθ

4

∑b=1

∑nθ=0

eb,nθexp

(−2πi

kθnθ

)∣∣∣∣∣2

(3.29)

各モードを D (kθ)が最大となる kθ に所属させることで,円周方向の周期性を基にして分類された 12本

のモードを持つ分散を計算した.結果を図 3.12に示す.

図 3.12の中でいくつかの代表的なモードを特別な色をつけて示している.音響フォノンモード(ユニッ

トセル内の原子が同位相で動く,分散関係上で原点を通るモード)は群速度が大きく,熱伝導に大きく

寄与するモードである.CNTの場合は通常の結晶構造と同様,2本の縮退した Transvers Acoustic(音

響,横波; TA)モード,1本の Longitudinal Acoustic(音響,縦波; LA)モードがあり,それに加えて

Twisting Acoustic(音響,ねじれ; TW)モードの 4本の音響モードが存在する.また,Radial Breathing

モード(RBM)と呼ばれるモードは,CNTの直径と一対一対応するため,CNTの直径を同定するのに重

要となる.Γ 点近傍のこれらの固有ベクトルを 2面図で表したもの図 3.13に示す.固有ベクトルはモー

ドごとの格子振動の動きを表すもので,固有ベクトルが CNT軸方向の成分を持つものが縦波で,持たな

いものを横波である.

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第 3章 計算手法と結果 24

0 10

20

40

TW

LA

RBM

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector0 1

0

20

40

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector

TA

0 10

20

40

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector

0 10

20

40

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector0 1

0

20

40

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector0 1

0

20

40

Freq

uenc

y [T

Hz]

Normalized wave vector

図 3.12 格子動力学法で計算した (10,10)CNTのフォノン分散関係を円周方向に分解したもの.上段左から右,下段左から右に円周方向の周期(kθ)が 0から 5のモードを 1つの図に表す.

LA TA TW RBM

LA TA TW RBM

図 3.13 Γ 点近傍での (10,10)CNT の代表的モードの固有ベクトルの 2 面図.左から LongitudinalAcousticモード,Transverse Acousticモード,Twisting Acousticモード,Radial Breathing Modeの各原子の動きを示している.

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第 3章 計算手法と結果 25

3.2.2 Spectral Energy Densityとフォノン緩和時間

2.1節で紹介した通り,SEDは分子動力学法で得られた速度をフーリエ変換することで得られる.SED

に現れる各モードのピークは原子間相互作用の非調和性に起因する周波数方向の広がりを持つ.この周波

数方向の広がりからフォノンがある基準振動から他の基準振動に移る時間の期待値であるフォノン緩和時

間が計算できる.本節では SEDからフォノン緩和時間を計算する理論14を紹介する.

まずは仮定として,結晶内の原子の一般座標が定常部と減衰部に分けられ,減衰部が次のように表され

るとするr = C exp (−Γ |t|) A exp (iω0t) + B exp (iω0t) (3.30)

位置の緩和が式 (3.30)で表せるのなら,E ∝ r2 からエネルギーの時間的な緩和は次の緩和時間 τ によっ

て表される.

τ =1

2Γ(3.31)

この仮定を踏まえて SEDを計算する.Dk,kθ

(t) = |r (t)|2 (3.32)

式 (3.32)中の r (t)をフーリエ変換して周波数領域で書き直し,

Dk,kθ(ω) =

∣∣∣∣∫ ∞

−∞C [Ai (ω0 + iΓ) exp −Γ |t| − i (ω − ω0) t + Bi (ω0 − iΓ) exp −Γ |t| − i (ω + ω0)] dt

∣∣∣∣2

(3.33)

積分の中身を展開する.

Dk,kθ(ω) =

∣∣∣∣−2C

(ω0 + iΓ) AiΓi + (ω − ω0)

+(ω0 − iΓ) Bi

Γi + (ω + ω0)

∣∣∣∣2(3.34)

今,興味があるのは ω ' ω0 のときなので,Bの項は Aの項に対して無視できるため

Dk,kθ(ω) ' 4C2 A2

(ω2

0 + Γ2) 1

Γ2 + (ω − ω0)2 (3.35)

となる.これは半値全幅が 2Γのローレンツ関数である.よって,式 (3.31)からフォノン緩和時間(エネ

ルギーの緩和時間)はローレンツ関数型の SEDピークの半値全幅の逆数として計算できる.この手法で

計算された緩和時間の妥当性については参考文献59に詳しい.

以上から,SEDが計算できればフォノン緩和時間を求められることが分かった.SEDを分子動力学法

によって数値的に計算するには,2.1節で説明したように分子動力学法によって得られた速度をフーリエ

変換すればよい.ただし,時間だけでフーリエ変換すると多数のモードを持つ CNTの場合ではピークの

分解が困難なため,アームチェア型 CNTが持つ軸方向と円周方向の対称性を利用して,速度を時間,軸

方向と円周方向に 3次元離散フーリエ変換を行った.

Dk,kθ(ω) =

∣∣∣∣∣ 1NzNθ Nt

Nz−1

∑nz=0

Nθ−1

∑nθ=0

Nt−1

∑nt=0

vnz ,nθ(t) exp

−2πi

(knz

Nz+

kθnθ

Nθ+

ωnt

Nt

)∣∣∣∣∣2

(3.36)

得られた SEDの一例を図 3.14に示す.周方向の分解をしない SED(図 3.14 (a))が複数のピーク同士が

干渉しているのに対して,周方向分解をした SED(図 3.14 (b))ではピークが独立しているため,ピーク

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第 3章 計算手法と結果 26

0 20 40 60

Inte

nsity

(ar

b. u

nit)

Frequency (THz)

(a)

0 20 40 60

Inte

nsity

(ar

b. u

nit)

Frequency (THz)

(b)

図 3.14 SEDの一例.(a) (k = 1,円周方向の分解なし) (b) (k = 1, kθ = 0,円周方向の分解あり)

の抽出をしやすいことが分かる.式 (3.36)で得た SEDを式 (3.35)と比較することでフォノン緩和時間を

計算した.

離散フーリエ変換によって,時間上で離散的な速度が周波数上のデータに変換される.出力される周波

数上のデータがどの周波数範囲にどの程度の間隔で現れるかは,入力する速度の時間刻みがどの程度か,

そのデータ点が何点あるかに依存する.入力の時間刻みが ∆tのとき,そのデータ点から判別できる波の

最高振動数は 1/2∆tである.また,データ点が Nt 存在するのなら,出力のデータ点は振動数上に 0から

1/2∆tの間に Nt 個等間隔に現れる.(参考:図 3.15)そのため,CNTの最高振動数を再現するような時

間刻みと,最も細いピークを再現するようなステップ数を設定する必要がある.今回用いたポテンシャル

では,CNTの最高振動数は約 50 THzであるから,時間刻みは 5 fsに設定している.(このとき識別で

きる振動数の最大値は 100 THz)また,SED上で最も細いピークの半値幅は約 1 GHzであり,このピー

クを正しく再現できるようなステップ数として 216 を選んだ.離散フーリエ変換のアルゴリズムとして高

速フーリエ変換を使うため,計算効率が最高になるようにデータ点の数は 2 の整数乗になるようにして

いる.

また,図 3.12に示したのと同様に,分子動力学法から計算した分散関係を周方向の周期によって分類

したものを図 3.16に示す.格子動力学法から計算されたもの(図 3.12)と各分散関係を比較するとよい

一致を示し,分散関係が正しく分解されていると言える.

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第 3章 計算手法と結果 27

t0

∆t 2∆t

Nt

f0

Nt

Nt∆t

2∆t

1

2Nt∆t

1

Discrete Fourier Transform

図 3.15 時間上の速度データ点とそれを離散フーリエ変換することによって得られる周波数上のデータ点の模式図.

図 3.16 分子動力学計算から得られた速度を 3次元フーリエ変換することで得られた円周方向に分解した (10,10)CNTのフォノン分散関係.上段左から右,下段左から右に円周方向の周期が 0から 5のモードを 1つの図に表す.

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第 3章 計算手法と結果 28

3.2.3 孤立,ポリエチレン中での CNTの熱伝導率

分子動力学法では原子は平衡位置で熱振動しているが,格子動力学法では熱振動は考慮されない.この

違いによって,分子動力学法で得られた SEDのピークの振動数は格子動力学法で得られたピークの振動

数とは異なる.格子動力学法で計算された SEDのピークの振動数に対して,分子動力学法で計算された

SEDのピークの振動数が何パーセントシフトしたかをプロットしたものを図 3.17に示す.

0 20 40−10

0

10P

eak

posi

tion

shift

(%

)

Frequency (THz)

downshift

upshift

Twisting AcousticLongitudinal AcousticTransverse AcousticLongitudinalTransverse

図 3.17 格子動力学法と分子動力学法による SED のピーク位置の変化.モードごとに色分けしてプロットしている.

図 3.17からは,ほとんどのピークにおいて分子動力学法によって計算されたピークの振動数は,格子

動力学から予測されたピークの振動数よりも低振動数側にシフトする結果が得られた.ただし,低振動数

のピークのうちいくつかのピークは高振動数側にシフトする.いずれにしてもシフト量は数パーセント程

度と小さく,式 (3.15)で熱伝導率を計算するのに格子動力学法から得た群速度を使っても問題ないと考え

られる.

周囲のポリエチレンが CNT の熱伝導率に与える影響を評価するために,2 つの場合について,温度

300K,圧力 1 気圧の下で CNT の緩和時間を計算した.ひとつは周囲にポリエチレンがない孤立 CNT

の場合,もうひとつは周囲がポリエチレンで満たされている場合である.それぞれの場合について緩和

時間を計算し,周波数に対して両対数グラフにプロットしたものを図 3.18 (a) に示す.同図中の緑線は

Klemensのモデル60に基づいて緩和時間が周波数の 2乗に反比例するときの線である.CNTが単独で存

在するときの緩和時間はおおよそ Klemensのモデルにしたがっているように見える.しかし,周囲にポ

リエチレンがある場合はその限りではなく,緑線に対して,緩和時間は低周波数側で大きく減少する傾向

がある.式 (3.14)から分かるように,緩和時間の減少は熱伝導率の低下を意味する.

以上で求めた CNT のフォノン緩和時間と群速度から式 (3.14) で CNT 熱伝導率を計算すると,孤立

CNTで 458 Wm−1K−1,ポリエチレン中の CNTで 329 Wm−1K−1 となり,ポリエチレン界面の影響に

よって,CNTの熱伝導率が 28パーセント程度減少することが分かった.フォノンの周波数と熱伝導率へ

の寄与の関係をそれぞれの場合で比較するため,横軸に周波数,縦軸に kBv2gτ をとったグラフを図 3.18

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第 3章 計算手法と結果 29

100 101

100

101

phon

on r

elax

atio

n tim

e (p

s)

Frequency (THz)

τ∝ν −2

isolatedembedded

(a)

0 20 400

10

The

rmal

con

duct

ivity

(W

m−1 K

−1 )

Frequency (THz)

isolatedembedded

(b)

図 3.18 (a) 孤立,ポリエチレン中の CNT のフォノン緩和時間の周波数依存性.図中の緑線はKlemensのモデル60に基づいて緩和時間が周波数の 2乗に反比例するときの線である.(b)モードごとの熱伝導率への寄与.CNTの格子熱伝導率は孤立の場合で 458 Wm−1K−1,ポリエチレン中で 329Wm−1K−1 となる.

(b)に示す.ポリエチレン中の CNTは孤立 CNTに比べて低周波数フォノンの緩和時間が短くなること

を受けて,低周波数フォノンの熱伝導率への寄与が小さくなっている.

緩和時間の減少を評価するために,界面によるフォノンの散乱頻度 γを導入する.フォノン散乱の頻度

はフォノン緩和時間の逆数であるため,孤立 CNTのフォノン緩和時間 τisok,p とポリエチレン中の CNTの

フォノン緩和時間 τembk,p から,Matthiessen ruleに基づいて次のように界面フォノン散乱頻度を次のよう

に表すことができる.

γk,p =1

τisok,p

− 1τemb

k,p(3.37)

フォノン散乱頻度を周波数に対して両対数グラフにプロットしたものを図 3.19に示す.モードごとに界

面から受ける影響を評価するため,各点を色分けしている.TWモードを除いて,低振動数領域ではおお

よそフォノン散乱頻度が周波数の-1.4乗に比例しているように見える.

各モードの熱伝導率への寄与を孤立,ポリエチレン中で計算した結果の一覧を表 3.2に示す.孤立 CNT

のモードごとの熱伝導率への寄与を見ると,縦波由来は 122 Wm−1K−1,横波由来は 336 Wm−1K−1 で

ある.本計算手法では,系に周期境界条件を課しているため,系のサイズによりフォノンの平均自由行程

が制限されることはないが,フォノンの波数が離散化されるため,最小波数(波数ゼロを除く)未満の

フォノンの輸送が考慮されない.これらのフォノンの中には群速度及び緩和時間が大きい低周波数の音響

フォノンが含まれるため,無限長の CNTに比べて熱伝導率の値が低く見積もられる可能性がある.熱伝

導率に大きく寄与するはずの音響モードの中で,LAモードが 3.57 Wm−1K−1 と音響モードとしては低

い値となっているが,これは系に含まれる CNTが短い影響を受けているためである.

ポリエチレンの存在による熱伝導率の減少をみると,縦波では 33.3パーセント,横波では 26.2パーセ

ントの減少となる.音響モードを抽出すると,TAモードで 79.4パーセント,LAモードで 44.8パーセン

ト,TWモードで 22.5パーセント熱伝導率が減少したことになる.熱伝導に関して,縦波と横波の違い

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第 3章 計算手法と結果 30

によりポリエチレン界面から受ける影響はそれほど変わらない.音響モードは振動数が低いために,特に

TAモードの熱伝導率への寄与が大きく下がる.しかし,音響モードの中でも TWモードの熱伝導率への

寄与はそれほど変わらないように,モードへの依存性が確認できた.

100 10110−4

10−2

100

Frequency (THz)

Bou

ndar

y sc

atte

ring

rate

(T

Hz)

TransverseLongitudinal

Longitudinal AcousticTransverse Acoustic

Twisting Acoustic

γ∝ ν−1.4

図 3.19 界面フォノン散乱の周波数依存性.モードごとに色分けしてプロットしている.

表 3.2 モードごとの熱伝導率への寄与(単位はWm−1K−1).

isolated embedded (embedded/isolated)

Longitudinal 122 81.4 (66.7 %)

Transverse 336 248 (73.8 %)

Transverse Acoustic 18.4 3.79 (20.6 %)

Longitudinal Acoustic 3.57 1.97 (55.2 %)

Twisting Acoustic 24.0 18.6 (77.5 %)

Total 458 329 (71.8 %)

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第 3章 計算手法と結果 31

3.3 実効熱伝導率

以上で計算された界面熱コンダクタンスとポリエチレン中の CNTの熱伝導率から,Maxwell-Garnett

型の Effective Medium Approximation (EMA) に基づいたモデル43によって温度 300 K での複合材全

体の熱伝導率を見積もった.このモデルでは,ポリエチレン中にランダムに CNTが配向した複合材の実

効熱伝導率 κe は式 (3.38)-(3.40)のように表される.

κe

κPE=

3 + f (βx + βz)3 − f βx

(3.38)

βx =2

(Kc

11 − κPE)

Kc11 + κPE

, βz =Kc

33κPE

− 1 (3.39)

Kc11 =

κCNT

1 +2aK

dκCNT

κPE

, Kc33 =

κCNT

1 +2aK

LκCNT

κPE

, aK =κPE

K(3.40)

表 3.3 Effective medium approximationに基づくモデル43(式 (3.38)-(3.40))から複合材の熱伝導率を計算するのに用いたパラメータ.

κPE [Wm−1K−1] d [A] L [µm]

0.174 13.56 20/10

K と κPE はそれぞれ 3.1.3 項で計算した CNT/ポリエチレンの界面熱コンダクタンスとポリエチレン

の熱伝導率,d,Lはそれぞれ CNTの直径と長さを表している.各変数の値を表 3.3に示す.CNTの複

合材全体に対する体積密度 f を変数として,複合材全体の熱伝導率の増幅率を計算すると図 3.20のよう

になった.界面熱コンダクタンスと CNTの熱伝導率低減が全体の熱伝導率に与える影響を確認するため

に,同図中にポリエチレン中での CNTの熱伝導の減少を考慮しない場合,CNT/ポリエチレンの界面熱

コンダクタンスが仮に 2倍であった場合の値を表している.

CNTの熱伝導率が下がったことによる複合材全体の熱伝導率の低減は,図 3.18のような低密度領域で

はそれほど大きくないことが明らかになった.複合材中の CNTの体積容量が 1パーセントのとき,界面

熱抵抗と界面フォノン散乱を考慮すると,元のポリエチレンに対して熱伝導率は 2.7倍程度になると予測

される.

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第 3章 計算手法と結果 32

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

Volume fraction f (%)

The

rmal

con

duct

ivity

rat

io κ e/κ

PE

κCNT

=329 Wm−1K−1, K=12.7 MWm−2K−1

κCNT

=458 Wm−1K−1, K=12.7 MWm−2K−1

κCNT

=329 Wm−1K−1, K=25.4 MWm−2K−1

図 3.20 EMA に基づいたモデル44による CNT/ポリエチレン複合材の実効熱伝導率と CNT の体積密度の関係.界面熱コンダクタンスと CNT の熱伝導率が全体の熱伝導率に与える影響を比較するために,CNTの熱伝導率として単独のときの値を使った場合(緑線)と,界面熱コンダクタンスを計算された値の倍にした場合(赤線)の値を同時に載せている.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 10

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

Volume fraction f (%)

The

rmal

con

duct

ivity

rat

io κ e/κ

PE

κCNT

=329 Wm−1K−1, K=12.7 MWm−2K−1

κCNT

=458 Wm−1K−1, K=12.7 MWm−2K−1

κCNT

=329 Wm−1K−1, K=25.4 MWm−2K−1

図 3.21 CNTの長さを 10 nmとしたときの CNT/ポリエチレン複合材の実効熱伝導率と CNTの体積密度の関係.

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33

第 4章

結言

CNT/ポリエチレン複合材において,界面によって引き起こされる現象(界面熱抵抗と界面フォノン散

乱)の定量的な評価を分子動力学法を用いて行った.複合材の熱伝導を阻害すると考えられているCNT/

ポリエチレン界面の熱コンダクタンスは 12.7 MWm−2K−1 で,同じく分子動力学法で計算されたシリコ

ン/アモルファスポリエチレンなどの他の原子スケール界面と比較して小さい.温度と CNTの原子間力

定数を変化させて同じ計算をしたところ,界面熱コンダクタンスは温度上昇に対して緩やかに上昇し,原

子間力定数の減少に対して上昇する傾向が見られた.界面熱コンダクタンスの温度依存性は非弾性的な

エネルギー輸送の増加を,原子間力依存性では界面の熱エネルギー輸送では低周波数ものがで支配的で

あることを示唆している.また,ポリエチレン中の CNTのフォノン緩和時間を計算した.ポリエチレン

界面によって特に低周波数領域でフォノン散乱が引き起こされて緩和時間が減少し,ポリエチレン中で

CNTの熱伝導率が 28パーセント低下することが明らかになった.緩和時間の減少を見ると,縦波と横

波によって影響の度合いに有意な差は見られなかったが,音響モードの中では Twisting Acousticモード

はこの影響をあまり受けていないように,モード依存性があることが伺える.界面熱抵抗と界面フォノン

散乱を考慮して複合材全体の熱伝導率をモデルから見積もったところ,長さ 20 nmの CNTを体積密度

で 1パーセントポリエチレンに混合した複合材は,温度 300 Kで 2.7倍の熱伝導率の増幅が見込めると分

かった.

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34

謝辞

多くの方々の協力によって研究の集大成である学位論文を仕上げることができました.恵まれた環境

で 3年間研究できたことを幸せに感じています.塩見先生には研究全般をご指導いただきました.学会発

表,特にMRS Spring Meetingの前は準備不足ではらはらさせてしまった気がしますが,そんな私に何

度も研究発表の機会を与えていただいたことを(今では)感謝しています.丸山先生は特にここ 1年あま

りお会いできませんでしたが,研究を気にかけていただき,また影では研究室の運営でいろいろとお世

話になっているのだと思っています.本研究は Cambridge大学の James Elliott先生の研究の下で成り

立っています.基礎となるデータを提供していただいただけでなく,学会で私たちの研究を紹介していた

だきました.志賀さんには研究の助言だけではなく,忙しい合間に私の研究を実際に手伝っていただきま

した.博士課程の学生にして研究者の鏡のような働き振りは尊敬しています.堀さんには第 2指導教員と

して,私の研究の進む方向を示してもらうことも何度かありました.(研究に関する適切な判断にはいつ

も感心していました.)博士課程での更なる飛躍を期待しています.また,計算にあたってマルチスケー

ル現象解析システム,谷垣特定クラスタ PCを大いに利用させていただきました.他にも本稿の執筆に当

たって,支えていただいた研究室の皆様に感謝申し上げます.

これで私の研究生活は終わりですが,具体的な成果を出すこともできずに研究生活を終えてしまう無念

で心がいっぱいです.研究室に残る方々は私の代わりに仇をとってください.

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35

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