家族志向性ケア ポートフォリオ

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5 【事例②】 15歳女性 1 機能性頭痛 2 母と死別後 頭痛、倦怠感を主訴に 北足立生協診療所を受診。 前年に母親が脳腫瘍のため他界した。 その後度々体調不良で他院を受診。 高校に入学したばかりで友人も少なく、父は勤めで夜遅い。また祖父 は脳梗塞後遺症のため、祖母の介護を要する状態である。 「自分の体調や母の死について相談できる相手が身近にいない。なる べく母の死に触れず・感情的にならない方が良いと思っている。」 Dougy Center program ◆家族の死を悲しむこと、感情を露わにすること、死について語り合う ことはタブーではないと説明。安心して悲しめる場がないことも一因と 考えられた。 ◆その後来院しなかったが、電話での様子伺いでは頭痛は軽快し学 校に相談できる友人ができたとの返答であった。 死別前のケア 青木拓也 日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター、東京ほくと医療生活協同組合 北足立生協診療所 子供にとって親の死は非常に大きなライフイベントである。そのため親の終末期、そして親の死後を通じて子供をどのように支えていくかは、家族やケア提供者にとって重要な課 題である。この課題に対し、親の終末期におけるケアとしてKNITprogramが、親の死後におけるケアとしてDougy Center programがいくつかの回答を与えてくれる。 今回これら2つのprogramを参考に患者・家族に対するケアを行い、結果としてchangeをもたらした事例を経験したので提示する。 「子供に親のがんをどのように伝え、支えていくべきなのか」 内容の一例:重要な「3つのC」を伝える ①「病気」というあいまいな表現ではなく、「がん」( Cancer)であ ると伝える ②がんはうつらないこと(Catchy)、だから同じものを食べても 大丈夫なこと ③がんは誰のせいでも何をしたから起こるわけでもないこと Caused)を伝える(子供が自分のせいだと思うことをきちんと 否定しておくことが重要) 考察 親の死によって幼い子供が受ける心理社会的変化は非常に大きく、時として身体症状 として表出し得る。しかし日本においては緩和ケアの場ですら、子供に対する心理的サ ポート体制は現状不十分である。家族やケア提供者にとって、 KNIT programDougy Center programはこの課題に対する回答になり得ると考えられた。 NEXT STEP 家庭医としてこのような子供の特殊な背景因子に着目し、より良いサポートを 提供するための方法・枠組みを模索し続けることを目標としたい。 参考文献 1)松下明監訳.家族志向のプライマリ・ケア.シュプリンガー;2006 2) The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center. When You Dont Know What to Say. 2005 3)ダギーセンター. 大切な人を亡くした子どもたちを支える35の方法. 梨の木舎;2005 「親を亡くした子供のグリーフケアをどのように行っていくべきか」 内容の一例 ①亡くなった人について話す機会を積極的に作る 安心して悲しめる環境を整える(家族・友人・先生など) ③子供の場合、グリーフ過程・期間は千差万別 ④子供は周囲の大人の反応からグリーフ過程を学ぶ ⑤亡くなった家族が経験した痛みと同様の症状を訴える子供達が いることを理解する(例:脳腫瘍頭痛) 【事例①】 39歳女性と5歳長男 1 乳癌 、 両側腋窩リンパ節転移 化学療法の継続が困難となり、 川崎市立井田病院緩和ケア病棟に 紹介入院となった。 5歳の息子はまだ幼く、がんのことをどう伝えたら良いか分からない。 このまま何も伝えないつもりだ。」 KNIT program ◆これまで患者・夫ともに息子への告知は考えていなかったが、KNIT programを参考に夫婦で話し合いの機会を持つことができた◆「3つのC」を紹介したことで、息子が責任を感じる可能性のある会話 (例:静かでいい子にしないとお母さんの具合が悪くなる)がなくなる等、 患者家族の行動変容に繋がった。 脳梗塞後遺症 夫の介護 脳腫瘍で死亡 乳癌 15 死別後のケア

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Page 1: 家族志向性ケア ポートフォリオ

5歳

【事例②】 15歳女性#1 機能性頭痛 #2 母と死別後

頭痛、倦怠感を主訴に北足立生協診療所を受診。前年に母親が脳腫瘍のため他界した。その後度々体調不良で他院を受診。高校に入学したばかりで友人も少なく、父は勤めで夜遅い。また祖父は脳梗塞後遺症のため、祖母の介護を要する状態である。

「自分の体調や母の死について相談できる相手が身近にいない。なるべく母の死に触れず・感情的にならない方が良いと思っている。」

▼Dougy Center program◆家族の死を悲しむこと、感情を露わにすること、死について語り合うことはタブーではないと説明。安心して悲しめる場がないことも一因と考えられた。◆その後来院しなかったが、電話での様子伺いでは頭痛は軽快し学校に相談できる友人ができたとの返答であった。

死別前のケア

青木拓也

日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター、東京ほくと医療生活協同組合 北足立生協診療所

子供にとって親の死は非常に大きなライフイベントである。そのため親の終末期、そして親の死後を通じて子供をどのように支えていくかは、家族やケア提供者にとって重要な課題である。この課題に対し、親の終末期におけるケアとしてKNITprogramが、親の死後におけるケアとしてDougy Center programがいくつかの回答を与えてくれる。今回これら2つのprogramを参考に患者・家族に対するケアを行い、結果としてchangeをもたらした事例を経験したので提示する。

「子供に親のがんをどのように伝え、支えていくべきなのか」内容の一例:重要な「3つのC」を伝える①「病気」というあいまいな表現ではなく、「がん」(Cancer)であると伝える②がんはうつらないこと(Catchy)、だから同じものを食べても大丈夫なこと

③がんは誰のせいでも何をしたから起こるわけでもないこと(Caused)を伝える(子供が自分のせいだと思うことをきちんと否定しておくことが重要)

考察

親の死によって幼い子供が受ける心理社会的変化は非常に大きく、時として身体症状として表出し得る。しかし日本においては緩和ケアの場ですら、子供に対する心理的サポート体制は現状不十分である。家族やケア提供者にとって、KNIT programやDougy

Center programはこの課題に対する回答になり得ると考えられた。

NEXT STEP

家庭医としてこのような子供の特殊な背景因子に着目し、より良いサポートを提供するための方法・枠組みを模索し続けることを目標としたい。参考文献1)松下明監訳.家族志向のプライマリ・ケア.シュプリンガー;2006

2) The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center. When You Don’t Know What to Say…. 2005

3)ダギーセンター. 大切な人を亡くした子どもたちを支える35の方法. 梨の木舎;2005

「親を亡くした子供のグリーフケアをどのように行っていくべきか」内容の一例①亡くなった人について話す機会を積極的に作る②安心して悲しめる環境を整える(家族・友人・先生など)③子供の場合、グリーフ過程・期間は千差万別④子供は周囲の大人の反応からグリーフ過程を学ぶ

⑤亡くなった家族が経験した痛みと同様の症状を訴える子供達がいることを理解する(例:脳腫瘍⇒頭痛)

親との死別

【事例①】 39歳女性と5歳長男#1乳癌、両側腋窩リンパ節転移

化学療法の継続が困難となり、川崎市立井田病院緩和ケア病棟に紹介入院となった。

「5歳の息子はまだ幼く、がんのことをどう伝えたら良いか分からない。このまま何も伝えないつもりだ。」

▼KNIT program◆これまで患者・夫ともに息子への告知は考えていなかったが、KNIT programを参考に夫婦で話し合いの機会を持つことができた。◆「3つのC」を紹介したことで、息子が責任を感じる可能性のある会話

(例:静かでいい子にしないとお母さんの具合が悪くなる)がなくなる等、患者家族の行動変容に繋がった。

脳梗塞後遺症 夫の介護

脳腫瘍で死亡乳癌

15歳

死別後のケア