小動物臨床血液学症例集 case study study no.2...

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CASE STUDY No.2 シクロスポリンにて長期維持している 免疫介在性血小板減少症の犬の 2 例 おざわ動物病院 長谷 晃輔 CURRENT CASE STUDY 1 多剤併用化学療法を実施した 急性リンパ性白血病の犬の1例 ペットクリニック ハレルヤ 平和本部 高橋 義明 CURRENT CASE STUDY 2 小動物臨床血液学症例集

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Page 1: 小動物臨床血液学症例集 CASE STUDY STUDY No.2 シクロスポリンにて長期維持している 免疫介在性血小板減少症の犬の2例 おざわ動物病院 長谷

CASE STUDY

No.2 シクロスポリンにて長期維持している免疫介在性血小板減少症の犬の2例おざわ動物病院 長谷 晃輔

CURRENT CASE STUDY 1

多剤併用化学療法を実施した急性リンパ性白血病の犬の1例ペットクリニック ハレルヤ 平和本部 高橋 義明

CURRENT CASE STUDY 2

小 動 物 臨 床 血 液 学 症 例 集

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シクロスポリンにて長期維持している免疫介在性血小板減少症の犬の2例

免疫介在性血小板減少症(以下 IMTP とする)に対する免疫抑制療法は基本的には免疫介在性溶血性貧血に対するものと同様であると考えられており 1)、寛解導入療法の報告については数多くなされている。ところが、維持療法に関する明確なガイドラインは存在せず 1)、薬剤漸減中や治療中止後の再発症例および再度の寛解導入に苦慮する症例に度々遭遇する。今回我々は IMTP と臨床的に診断し、プレドニゾロンおよびシクロスポリンにて寛解導入後、シクロスポリンのみの維持療法を期限設定することなく継続することで、長期間再発を認めず経過が良好な犬の 2 例に遭遇したのでその概要を報告する。

はじめに

症 例 1ミニチュアダックスフンド、雌(未

避妊)、5 歳 10 ヶ月齢、今朝からの皮膚の紫斑と点状出血および結膜出血を主訴に来院した(Fig1, 2)。

●初診時身体一般検査所見体重 6.6kg、体温 39.4℃であり、前

述の所見に加えて口腔粘膜の点状出血も認められた。

●血液および画像検査所見血液一般検査において重度の血小板

減少症が認められ、血液塗抹検査でも微小な奇形血小板がわずかに認められるのみであった(Fig3)。LDH アイソザイムでは分画 3 が優位なパターンをとった(Fig4)。また CRP の軽度の上昇が認められた。凝固線溶系検査ではPT、APTT、FDP での異常は認めなかった(Table1)。画像検査において特に異常は認められなかった。

1

症   例

CURRENT CASE STUDY 1

Fig.1 症例 1 Fig.2 結膜の出血

おざわ動物病院

長谷 晃輔

Fig.3 微小な奇形血小板 Fig.4 LDHアイソザイム

LDH 1 2 3 4 5

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小動物臨床血液学症例集

2

●治療および経過臨床所見、血液検査およびその他各種検査結果

とも併せて IMTP と診断し 2)-4),8)、第 1 病日よりプレドニゾロン 1.5mg/kg BID の投与による免疫抑制療法を開始した。その後、血小板数は次第に増加傾向を認めるも、第 8 病日にプレドニゾロンの副作用と考えられる嘔吐が発症、一時入院が必要な程度まで重症化しその後もコントロールが困難であったため、第 22 病日よりプレドニゾロンの投与を中止し、シクロスポリン 8.2mg/kg SID の投与を開始した。その後、副作用の発症はなく血小板数も良好に維持できたため投与量を漸減し、第136 病日から第 1211 病日まで、4.0mg/kg を 3 日に 1 回の投与間隔にて投与することで再発することなく維持できている(Fig5)。第 1009 病日に蛍光偏光免疫測定法(FPIA)にて測定したシクロスポリン血中濃度(トラフ値)は 25ng/ml 未満であった。

RBC 7.82×10⁶/μlHGB 15.8 g/dlPCV 47.6 %MCV 61 fLMCHC 33.1 g/dlPLT 10×10³/μl  (塗抹上も不十分)WBC 10400 stabs 312 segs 7072 eos 208 mono 208 lym 2600 other 0

II 6TP 7.1 g/dlALB 3.1 g/dlGLOB 4.0 g/dlGLU 110 mg/dlBUN 10 mg/dlALT 15 IU/LAST 37 IU/LALKP 87 IU/LTBil < 0.1 mg/dlCHOL 179 mg/dlCRP 2.05 mg/dlNa 146 meq/lK 4.0 meq/lCl 107 meq/lPT 8.0 secAPTT 20.3 secFib 302 mg/dlFDP 1.2 μg/ml

Table.1 初診時血液検査所見(症例 1)

80

60

40

20

00 200 400 600 800 1000 1200 1400

血小板数(×104/μl)

病日3mg/kg/day

Pred

Cs

8mg/kg/day

4mg/kg/day 4mg/kg/eod 4mg/kg/q3days

Fig.5 血小板数の推移と治療経過(症例 1)

症 例 2マルチーズ、雄(去勢済)、6 歳 6 ヶ月齢、体重

3.95kg、混合ワクチン接種を希望とのことで来院した(Fig6, 7)。

●初診時一般身体検査所見体重 3.95kg、体温 39.0℃、皮膚の紫斑と点状出

血および口腔粘膜の点状出血が認められた。 Fig.6 症例 2 Fig.7 口腔粘膜の点状出血

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●血液検査所見血液一般検査において重度の血小板減少症が認められ、血液塗抹検査でも巨大血小板がわずかに認められ

るのみであった(Fig8)。LDH アイソザイムでは分画 3 が優位なパターンをとった(Fig9)。凝固系検査ではPT、APTT での異常は認めなかった(Table2)。

●治療および経過臨床所見、血液検査およびその他各種検査結果とも併せて IMTP と診断し 2)-4),8)、第 1 病日よりプレドニゾ

ロン 3.1mg/kg SID とシクロスポリン 6.3mg/kg SID の投与による免疫抑制療法を開始した。その後、血小板数は順調に増加を認め、プレドニゾロンの漸減・休薬、そしてシクロスポリンの漸減という順序を経て、第 309 病日から第 604 病日まで、5.6 mg/kg を 3 日に 1 回の投与間隔にて投与することで再発することなく維持できている(Fig10)。第 400 病日に FPIA にて測定したシクロスポリン血中濃度(トラフ値)は 25ng/ml未満であった。

血小板数(×104/μl)

病日

120100

80604020

00 100 200 300 400 500 600 700

Pred

Cs

3mg/kg/day

6mg/kg/day 6mg/kg/eod6mg/kg/q3days

Fig.10 血小板数の推移と治療経過(症例2)

RBC 6.06×106/μlHGB 15.9 g/dlPCV 46.0 %MCV 76 fLMCHC 34.6 g/dlPLT 9×103/μl  (塗抹上も不十分)WBC 10400 stabs 0 segs 7696 eos 502 mono 624 lym 1560 other 0

II 6TP 7.1 g/dlALB 3.9 g/dlGLOB 3.2 g/dlGLU 82 mg/dlBUN 16 mg/dlCREA 1.2 mg/dlALT 15 IU/LALKP 87 IU/LCHOL 216 mg/dlPT 7.9 secAPTT 18.3 secFib 262 mg/dl

Table.2 初診時血液検査所見(症例 2)

Fig.8 巨大血小板

Fig.9 LDHアイソザイム

LDH 1 2 3 4 5

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小動物臨床血液学症例集

IMTP の診断は、臨床的には他の疾患を除外することにより行われる 2),4),8)。厳密には骨髄検査なども実施し、他の血液疾患の除外や無巨核球性血小板減少症との鑑別を行うことが大切になるが、今回は治療への反応が認められたこともあり、それ以上の検査は実施しなかった。

治療に関しては、維持治療に関しての報告はあるものの 7)、明確なガイドラインに関する報告はなく、その症例毎もしくは担当獣医師の考え方に基づいて対応しているのが現状である。今回、我々はシクロスポリン単剤にて維持治療を実施し、期限設定することなく継続投与を行うこととした。用量は免疫寛容状態が達成できた段階で、飼い主の投薬に関するコンプライアンスを加味しながら漸減を図っていった。薬用量は薬剤の分量と症例の体重および過去の報告から設定し、投与間隔は新たな試みとして 3 日に 1 回投与とした。現在、症例1は第 1211 病日、症例2は第 604 病日を経過した段階で再発や副作用は認められておらず、維持期に入った後も良好にコントロールできている。

最後に、最近本邦においてシクロスポリンを長期間投与した犬においてリンパ増殖性疾患を発症した報告がなされた 9)。こういった将来的に腫瘍発生のリスクが高まる可能性のある薬剤を長期間投与し続けることに関しては議論のあるところであり、今後はインフォームドコンセントの方法や治療選択について、より慎重に考える必要があるものと認識している。今回の症例において、シクロスポリンが寛解導入の成功および維持期の再発抑制にどのくらい寄与しているのか、という点に関しては全く想像の域を出ることはできないが、今後も十分な注意を払いながら経過を追っていく必要があると考えている。

考   察1) 辻本元:免疫介在性血液疾患におけるシクロスポリンの使

い方、J-VET、No247、17-19 (2007)

2) 下田哲也:免疫介在性血小板減少症、血液病学アトラス、123-128、インターズー、東京 (2007)

3) Michael J Day et al(辻本元, 大野耕一 監訳):犬と猫の臨床免疫学、79-83、学窓社、東京 (2002)

4) 土屋亮:血小板減少症による出血傾向、SA Medicine、Vol5、No1、24-32 (2003)

5) Mackin A:Canine immune-mediated thrombocytopenia-Part 1. Compend Contin Educ PractVet, 17, 353-364 (1995)

6) 久保田亜希子ら:免疫介在性血液疾患における免疫抑制剤の使い方、SA Medicine、Vol16、No3、20-27 (2004)

7) 藤野泰人:免疫介在性血液疾患の治療、INFOVETS、Vol10、No3、16-20 (2008)

8) 藤野泰人:免疫介在性血液疾患、MVM、Vol18、No114、5-23 (2009)

9) 原田慶ら:シクロスポリン療法後にリンパ球増殖性疾患を発症した犬の3例、第30回動物臨床医学会プロシーディングNo.2、241-242 (2009)

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参考文献

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多剤併用化学療法を実施した急性リンパ性白血病の犬の1例

急 性 リ ン パ 性 白 血 病(acute lymphoid leukemia: 以 下ALL)は、分化・成熟能を失ったリンパ球系の未分化な芽球がクローン性に増殖する造血器悪性腫瘍であり、急速進行性に悪化する致死的疾患である。犬では発生がまれであり、発生機序も明らかになっていない。一般的に化学療法を実施しても長期間の生存は困難であり、予後は極めて悪く症例の多くは数日から数ヶ月以内に死亡する 1) 5) 6) 12)。

今回、元気・食欲の低下を主訴に来院したゴールデンレトリバーを ALL と診断し、多剤併用化学療法を実施したところ若干の知見が得られたのでその概要を報告する。

はじめに

プロフィール:ゴールデンレトリバー、避妊雌、12 歳 1 ヶ月齢。予防歴:混合ワクチン接種(+)、フィラリア予防(+)。既往歴:8 歳 1 ヶ月齢時に子宮蓄膿症のため当院にて卵巣子宮切除術を実施。主 訴:1週間前からの元気・食欲の低下。

●所見初診時一般身体検査… 体重 30.8kg、BCS 3/5、体温 39.3℃。可視粘膜はやや蒼白で、体表リンパ節の軽度な腫大が認められた(1.6 ~ 3.2cm)。また、腹部触診にて脾臓の腫大が触知された。

血液検査… CBC では、中等度の非再生性貧血(PCV 22%)と血小板減少症(72 × 103/ μ l)が認められた。総白血球数は 311000/μ l と顕著に増加していた。血液化学検査では、Glu と Alb の軽度な低下と ALP 3を中心とする ALP の顕著な上昇が認められた。また、LDH は上昇しアイソザイムでは3型が優位なパターンであった。血清チミジンキナーゼ活性を測定したところ、377.0 U/l(基準値 6 U/l 以下)と顕著に上昇していた(Table1)。

5

症   例

CURRENT CASE STUDY 2

ペットクリニックハレルヤ平和本部

高橋 義明

Table.1 初診時血液検査所見

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小動物臨床血液学症例集

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血液塗抹 … 中型から大型の円形細胞の出現を認めた。出現している円形細胞は、核クロマチン結節に乏しい類円形核と好塩基性の狭い細胞質を有していた。一部の細胞にはアズール顆粒が認められた

(Fig.1)。細胞化学染色では、ペルオキシダーゼ染色陰性、非特異的エステラーゼ染色陰性を示し、形態学的にリンパ芽球と判断した。

X線検査… 胸部 X 線検査では特に異常は認められなかったが、腹部 X 線検査では肝臓および脾臓の腫大が認められた。

腹部超音波検査… 肝臓および脾臓の瀰漫性の腫大と腰下リンパ節の軽度な腫大が認められた。

体表リンパ節の細胞診… 末梢血と同様の芽球細胞の増加が認められた。また、小リンパ球、形質細胞、好中球、好酸球、肥満細胞を少数認めた。

脾臓の細胞診… 末梢血と同様の芽球細胞の増加が認められた。また、形質細胞、赤芽球、巨核球を少数認めた。

骨髄検査… 細胞充実性は過形成髄。大部分を末梢血と同様の中~大型の芽球細胞によって占められ、芽球比率は ANC の 90%であり、本来の造血細胞である骨髄球系、赤芽球系、巨核球系細胞は殆ど認められなかった(Fig.2)。細胞化学染色では、芽球細胞はペルオキシダーゼ染色陰性、非特異的エステラーゼ染色陰性を示した。

免疫染色… 骨髄塗抹標本にて、T細胞性マーカーとして CD 3抗体、B細胞性マーカーとして CD79 a抗体による免疫染色を実施したところ、芽球細胞は両染色とも陰性を示した(Fig.3)。

PCRリンパ球クローナリティー解析… 骨髄液を材料に2つの検査会社に依頼したが、2社ともクローン性は確認されなかった。

以上の各種臨床検査所見より、本症例を急性リンパ性白血病と診断した。免疫学的表現型としては non-T、non-Bが疑われた。

Fig.1 初診時血液塗抹標本(May-Giemsastain)

Fig.2 初診時骨髄塗抹標本(May-Giemsastain)

Fig.3 初診時骨髄塗抹標本(Immunologicalstain)

Positivecontrol

CD3

Positivecontrol

CD79a

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●治療および経過一般状態改善のため、第1病日より入院による輸液を開始するとともにプレドニゾロン(2mg/kg SC)を投与し、第2病日には L- アスパラギナーゼ(400KU/kg SC)を投与した。第3病日にはビンクリスチン

(0.7mg/m2 IV)を投与し、第4病日には一般状態の改善が認められたため退院とした。第 10 病日には白血病細胞は顕著に減少し、総白血球数は正常化、シクロホスファミド(250mg/m2 IV)を投与した。第 17 病日、白血病細胞は認められず、LDH 値は 460IU/l に低下し、血清チミジンキナーゼ活性も 5.1 U/l と基準値内に低下した。しかし、PCV16%と貧血が進行したため全血輸血 300cc を実施し、L-アスパラギナーゼとビンクリスチンを投与した。第 22 病日、血小板数は上昇したが食欲が低下し、PCV20%だったため再び全血輸血 200cc を実施した。第 25 病日、好中球の増加を伴う白血球増多症が認められたが、PCV29%、血小板数 263 × 103/ μ l と改善が認められた。骨髄検査を実施したところ、白血病細胞の消失および血球3系統の正常な造血が確認され、完全寛解と判断した

(Fig.4)。しかし、徐々に一般状態が悪化し、第 27 病日に死亡した。

人医学領域における急性白血病の分類は、1976年に提唱された細胞形態学に基礎を置く FAB 分類によってほぼ統一され、診断方法が実施容易なことから広く普及した。しかし、ALL においてはリンパ球系の基本的な分類である T 細胞、B 細胞を形態学的に区別出来ないことなどが問題として残っていた。そこで 1999 年に、形態学に加え、染色体・遺伝子特性、免疫学的表現型、臨床徴候などの組み合わせで定義され、造血器・リンパ系腫瘍全体を対象とした包括的な新 WHO 分類が提唱され、普及しつつある 8)。

一方、獣医学領域における急性白血病の分類はヒトの FAB 分類を元に Jain らによって提唱され

考   察ているが 4)、現在は細胞表面抗原検索や PCR による遺伝子特性解析により B 細胞、T 細胞などの細分類が可能となりつつある 1 )9) 12) 13) 14) 15) 16)。本症例では、末梢血および骨髄において芽球細胞の顕著な増殖を認め、急性白血病の診断がなされた。白血病細胞の由来特定のために、細胞化学染色、PCR によるリンパ球クローナリティー解析、免疫染色を実施したが、リンパ球クローナリティー解析ではクローン性は確認されず、免疫染色では CD3および CD79 aはともに陰性を示した。しかし、細胞化学染色において、ペルオキシダーゼ染色陰性、非特異的エステラーゼ染色陰性を示したことと白血病細胞の形態学的所見からリンパ系と判断

Fig.4 第 25病日骨髄塗抹標本(May-Giemsastain)

7

PDL (mg/kg/day)

L-Asp (400KU/kg SC)

VCR (0.7mg/m2 IV)

CPA (250mg/m2 IV)

輸血

PCV (%)

Plat (/µl)

WBC (/µl)

2219

21

16

20

29

90000

5700

9500

5700

79300

263000

212000

54000

156000

126000

72000

311000

LDH 999TK活性 377

LDH 460TK活性 5.1

1 4 10 17 22 25 27 (days)

●300cc ●200cc

1w 2w 3w 4w

ALL CR Death2 1

治療および経過

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小動物臨床血液学症例集

1) Adams J, Mellanby RJ, Villiers E, Baines S, Woodger N :Acute B cell lymphoblastic leukaemia in a 12-week-old greyhound, J Small Anim Pract, 45(11), 553-557(2004)

2) Euler H, Einarsson R, Olsson U, Lagerstedt Anne-Sofie, Eriksson S: Serum Thymidine Kinase Activity in Dogs with Malignant Lymphoma: A Potent Marker for Prognosis and Monitoring the Disease, J Vet Intern Med,18(5), 696-702 (2004)

3) Henry CJ, Lanevschi A, Marks SL, Beyer JC, Nitschelm SH, Barnes S:Acute lymphoblastic leukemia,hypercalcemia,and pseudohyperkalemia in a dog, J Am Vet Med Assoc, 208(2),237-239(1996)

4) Jain NC, Blue JT, Grindem CB, Harvey JW, Kociba GJ, Krehbiel JD, Latimer KS, Raskin RE, Thrall MA, Zinkl JG:Proposed criteria for classification of acute myeloid leukemia in dogs and cats, Vet Clin Pathol, 20(3), 63-82(1991)

5) Matus RE, Leifer CE, MacEwen EG:Acute lymphoblastic leukemia in the dog: a review of 30 cases, J Am Vet Med Assoc, 183(8), 859-862(1983)

6) 宮本 忠,宮田育子,久保知章,野村紘一,谷 浩行,馬場栄一郎,上野真由美,桑村 充,山手丈至,小谷猛夫:急性リンパ芽球性白血病に合併した全身性カンジタ症の犬の1例, 日獣会誌, 54, 629-632(2001)

7) 中村倫子,桃井康行,亘 敏広,吉野敏夫,辻本 元,長谷川篤彦:イヌのリンパ腫・白血病症例におけるチミジンキナーゼ活性(短報), J Vet Med Sci,59(10), 957-960(1997)

8) 大野竜三編:最新医学別冊 新しい診断と治療のABC36, 急性白血病, 最新医学社, 大阪(2006)

9) Ponce F, Magnol JP, Marchal T, Chabanne L, Ledieu D, Bonnefont C, Felman P, Fournel FC:High-grade canine T-cell lymphoma/leukemia with plasmacytoid morphology: a clinical pathological study of nine cases, J Vet Diagn Invest, 15, 330-337 (2003)

参考文献10) Presley RH, Mackin A, Vernau W:Lymphoid Leukemia

in Dogs, Compend Contin Educ Pract Vet, 28(12), 831-849(2006)

11) 下田哲也:犬と猫の造血器腫瘍, 日獣会誌, 58,434-436(2005)

12) 高橋朋子,大谷 功,奥田 優,井上正志,伊藤香奈子,坂井 学,鯉江 洋,山谷吉樹,亘 敏 広,佐藤常男,金山喜,徳力幹彦:イヌの大顆粒性Tリンパ球性白血病の悪性転化の1例, J Vet Med Sci, 69(6),677-681(2007)

13) Vernau KM, Terio KA, LeCouteur RA, Berry WL, Vernau W, Moore PF, Samii VF:Acute B-cell lymphoblastic leukemia with meningeal metastasis causing primary neurologic dysfunction in a dog, J Vet Intern Med, 14(1), 110-115(2000)

14) Vernau W, Moore PF:An immunophenotypic study of canine leukemias and preliminary assessment of clonality by polymerase chain reaction, Vet Immunol Immunopathol, 69(2-4), 145-164(1999)

15) Wilkerson MJ, Dolce K, Koopman T, Shuman W, Chun R, Garrett L, Barber L, Avery A:Lineage differentiation of canine lymphoma/leukemias and aberrant expression of CD molecules, Vet Immunol Immunopathol,106(3-4), 179-196(2005)

16) Weiss DJ:Flow cytometric and immunophenotypic evaluation of acute lymphocytic leukemia in dog bone marrow, Vet Intern Med, 15(6), 589-594(2001)

8

し、免疫学的表現型としては non-T、non-B を疑った。

ヒトの急性白血病では、白血病細胞の増殖に伴って LDH 値の上昇が認められ、アイソザイムではLDH 2と LDH 3が上昇することが知られており、白血病細胞の減少とともに LDH 値は低下する傾向にある。また、血清チミジンキナーゼ活性も急性白血病、骨髄異形成症候群、リンパ腫、慢性白血病、多発性骨髄腫などにおいて上昇することが知られており、これら腫瘍量や細胞増殖率を反映していることから腫瘍マーカーとして有用な検査となっている。近年、犬でも造血器腫瘍のマーカーとしての有用性が報告されている 2) 7)。本症例では、初診時に血液検査で LDH 3の上昇を伴う LDH 値の上昇および血清チミジンキナーゼ活性の上昇が認められたが、プレドニゾロン、L- アスパラギナーゼ、ビンクリスチン、シクロホスファミドによる

多剤併用化学療法実施したところ、3 週目には末梢血から白血病細胞が消失するとともに LDH 値は低下し、アイソザイムパターンも正常化、血清チミジンキナーゼ活性は基準値内に低下したことから、LDH 値や血清チミジンキナーゼ活性は腫瘍マーカーとして有用であると考えられた。

本症例における化学療法に対する反応性は良く、比較的スムーズに造血が回復したことを考えると第 27 病日に死亡したことは残念な結果であった。剖検を実施できなかったため死因は不明だが、好中球の増加を伴う白血球増多症が認められたことから感染症などの可能性が考えられた。急性白血病においては、化学療法とともに濃厚な支持療法が必要不可欠であることをあらためて実感した症例であった。

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9

中東の王族御用達の動物病院のご紹介です。

中東の王族の中には、鷹やラクダの飼育を趣味とさ

れている方が多く、宮殿近くの動物病院を使用すること

がしばしばあるのだそうです。弊社の製品が納品されて

いる動物病院では、一日におよそ1,000 検体の測定

が行われています。このような動物達の健康管理に弊

社の製品が活躍しています。

~こんなところにシスメックス~

Informationシスメックスからのお知らせ

●シスメックスアワード動物臨床医学会共催の「小動物臨床血液研究会」が主催する血液関連の症例検討において優秀な発表に授与される「シスメックスアワード(小動物臨床血液研究会学術奨励賞)」で、数ある優れた症例報告の中から、たけうち動物病院(神奈川県伊勢原市) 原田慶先生の「シクロスポリン療法後にリンパ増殖性疾患を発症した犬の 3例」が受賞されました。

●ランチョンセミナー大阪府立大学大学院生命環境科学研究科助教秋吉秀保先生をお招きし、「外科手術の落とし穴~もう一度見直そう!手術前の血液検査~」の演題でご講演をいただき、血液検査の重要性についてお話いただきました。秋吉先生は、獣医臨床領域において、神経疾患・腫瘍疾患、腎泌尿器疾患の臨床例に対する診断・治療および病態解析を行なうとともに、これら疾患の早期診断・治療を実施するための、バイオマーカーの開発・臨床応用に取り組んでおられます。また、より低侵襲で安全な診断・治療法を開発するため、動物の受けるストレスを客観的に評価できうるストレスマーカーの開発・臨床応用を試みた研究をされており、聴講者の方々は熱心に先生のお話に聞きいっておられました。

昨年参加させていただいた「第30回動物臨床医学会記念年次大会」(2009年11月20日・21日・22日)のレポートです。

学会参加レポート

今年は、学会が誕生してから 30周年の記念大会。獣医師:1960 名、学生:425 名、VT:666 名、展示協賛企業:183社が参加いたしました。30周年記念パーティーでは、広い会場に国内外の獣医師、学生、協賛企業関係者の方がたくさん参加され、学会役員・来賓の方々の鏡割りから始まり、終始熱気あふれるはなやかなパーティーとなりました。

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小動物臨床血液学症例集 CASE STUDY   ����年 �月発行No.2

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