江戸東京博物館created date 12/7/2018 4:01:17 pm

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江戸東京 ニュース Vol. 寿 ─徳川将軍家のみやび─ 103 江戸東京博物館分館 江戸東京たてもの園から 江戸東京たてもの園 184-0005 小金井市桜町3-7-1 都立小金井公園内TEL 042-388-3300 http://www.tatemonoen.jp お問い合わせ 03-3626-9974 代表ホームページ https://www.edo-tokyo-museum.or.jp 来館のご案内 JR総武線「両国駅」西口から徒歩3都営地下鉄大江戸線「両国駅(江戸東京博物館前)」 A4出口から徒歩1都バス錦27 ・両28 ・門33系統 墨田区内循環バス南部ルート「都営両国駅前 江戸東京博物館前)」下車、徒歩3発行日 2018年(平成30)12月21日(編集・発行 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館 130-0015 東京都墨田区横網1-4-1 制作・印刷 美術出版社 デザインセンター Vol. 103 雛祭りの際に雛人形とともに段飾りに 並べられた雛道具。将軍家や大名家 では、婚礼にあたり特徴あるデザイン で統一的に雛道具を制作し、婚礼調 度とともに調えました。まさに“雛”と呼 べる道具でした。表紙は十三代将軍徳 川家定正室篤姫の所用と伝えられる 三棚の雛道具です。数多い雛道具の なかでも中心に飾られました。 町の暮らし 111日、 21企画展「春を寿ぐ─徳川将軍家のみやび─」みどころ 118日・ 25日、 28開化の背景 215日・ 22江戸の美 31高度経済成長期の東京 38日・ 15企画展「市民からのおくりもの2018」みどころ 322日・ 29ミュージアムトーク 常設展示室のみどころを学芸員が解説します。 日時:毎週金曜日16:00から 常設展示室5階の日本橋下までお集りください。所要時間は約30分です。 講師:ふれあいボランティア いずれも参加無料(ただし常設展示室は観覧券が必要変更・中止の場合は当館ホームページでお知らせいたします。 催し物のご案内 冬期ふれあい体験教室 書棚()・厨子棚(中央)・黒棚(くろ ぬり まつ から くさ たん もん ちらし まき ひな どう 公益財団法人德川記念財団蔵 調2 3 浮世絵を組み立てよう 日時: 224日(13 0015 00 12 50~会場前で整理券配布定員: 30対象:小5以上 舞扇子で遊びましょう 日時: 316日(13 0014 00 定員: 30対象:小学生以上 万華鏡で遊ぼう 日時: 330日(10 3012 00 10 20~会場前で整理券配布定員: 15対象: 3歳以上(幼児は大人と一緒当日受付教室 開催場所は、常設展示室5階ミュージアム・ラボ 和算パズル 日時: 15日()、 32日(各日13 0015 30 受付終了15 00対象:小4以上 反古紙で折る小物 日時: 15日()、 32日(各日13 0015 30 受付終了15 00対象:小学生以上 歌舞伎の鳴り物を鳴らしてみよう 日時: 119日()、 216日(各日①13 0013 30 14 3015 00 対象: 3歳以上 ときめきキモノ体験 日時: 126日()、 223日()、 323日(各日10 3012 00 受付終了11 30定員: 25名程度 対象: 3歳以上 鬼の面を作ろう 日時: 22日(13 3015 00 13 20~会場前で整理券配布定員: 25対象: 5歳以上 学芸員 齋藤慎一企画展 常設展のみどころ 平成30新指定重要文化財「蔓 つる うめ もどき じろ まき じく ぼん キュレーターズ・チョイス 江戸博コレクションから「鹿 しま みょう じん 各地の鯰 なまず 退治の図」 綱島家の井戸の注 飾り

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  • 江 戸 東 京博 物 館ニ ュ ー ス

    Vol.

    春を寿こ と ほ

    ぐ─徳川将軍家のみやび─

    103江戸東京博物館分館

    江戸東京たてもの園から江戸東京たてもの園 〒184-0005 小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内) TEL 042-388-3300 http://www.tatemonoen.jp

    お問い合わせ 03-3626-9974(代表)ホームページ https://www.edo-tokyo-museum.or.jp来館のご案内 JR総武線「両国駅」西口から徒歩3分

    都営地下鉄大江戸線「両国駅(江戸東京博物館前)」A4出口から徒歩1分都バス錦27・両28・門33系統 墨田区内循環バス南部ルート「都営両国駅前 (江戸東京博物館前)」下車、徒歩3分

    発行日 2018年(平成30)12月21日(金)編集・発行 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館 〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1制作・印刷 美術出版社 デザインセンター

    Vol.103 雛祭りの際に雛人形とともに段飾りに並べられた雛道具。将軍家や大名家では、婚礼にあたり特徴あるデザインで統一的に雛道具を制作し、婚礼調度とともに調えました。まさに“雛”と呼べる道具でした。表紙は十三代将軍徳川家定正室篤姫の所用と伝えられる三棚の雛道具です。数多い雛道具のなかでも中心に飾られました。

    表 紙 解 説

    町の暮らし 1月11日、2月1日企画展「春を寿ぐ─徳川将軍家のみやび─」みどころ 1月18日・25日、2月8日開化の背景 2月15日・22日

    江戸の美 3月1日高度経済成長期の東京 3月8日・15日企画展「市民からのおくりもの2018」みどころ 3月22日・29日

    ミュージアムトーク ● 常設展示室のみどころを学芸員が解説します。 ● 日時:毎週金曜日16:00から● 常設展示室5階の日本橋下までお集りください。所要時間は約30分です。

    ● 講師:ふれあいボランティア ● いずれも参加無料(ただし常設展示室は観覧券が必要) ● 変更・中止の場合は当館ホームページでお知らせいたします。催し物のご案内 冬期ふれあい体験教室

    書棚(左)・厨子棚(中央)・黒棚(右) (黒くろ塗ぬり松まつ唐から草くさ牡ぼ丹たん紋もん散ちらし蒔まき絵え雛ひな道どう具ぐ)

    公益財団法人德川記念財団蔵

     クリスマスの飾りを片付けたら一気に「正月飾

    り」を飾る。日本の街中では、こうした年の瀬の風

    景が、ごく普通となっています。国際化が進む現代

    でも、一年の始まりはやはり古式にのっとり迎えた

    いという気持ちの表れでしょうか。洋風から和風へ

    と街中が一変する様は鮮やかです。

     歳とし神がみ様さまを迎えて一年の幸運と健康を祈るための

    正月のお飾りに、門松、注し連め飾りがあります。建物

    の入口に門松を立て、清浄な空間に神を迎えると

    いう考えのもとに、色々な場所に注連飾りを飾り

    ます。近年、一般家庭では省略化の傾向にあるこの

    習慣を、園内各所で再現します。正月の時季にしか

    見られないたてもの園の風景です。どうぞご覧くだ

    さい。

     正月のように毎年慣例的に行われる行事を「年

    中行事」といい、茅かや葺ぶき民家の「綱島家」では聞き取り

    調査を元に様々な年中行事を再現しています。2月

    3日には節分を行います。現在の住宅環境ではなか

    なか豆をまけないこともありますので、たてもの園

    で思いっ切り豆をまいて、福を呼びこみましょう。

    ● 浮世絵を組み立てよう日時:2月24日(日)13:00~15:00(12:50~会場前で整理券配布)定員:30名対象:小5以上

    ● 舞扇子で遊びましょう日時:3月16日(土)13:00~14:00定員:30名対象:小学生以上

    ● 万華鏡で遊ぼう日時:3月30日(土)10:30~12:00(10:20~会場前で整理券配布)定員:15名対象:3歳以上(幼児は大人と一緒)

    当日受付教室* 開催場所は、常設展示室5階ミュージアム・ラボ

    ● 和算パズル日時:1月5日(土)、3月2日(土)各日13:00~15:30(受付終了15:00)対象:小4以上

    ● 反古紙で折る小物日時:1月5日(土)、3月2日(土)各日13:00~15:30(受付終了15:00)対象:小学生以上

    ● 歌舞伎の鳴り物を鳴らしてみよう日時:1月19日(土)、2月16日(土)各日①13:00~13:30 ②14:30~15:00対象:3歳以上

    ● ときめきキモノ体験日時:1月26日(土)、2月23日(土)、3月23日(土)各日10:30~12:00(受付終了11:30)定員:25名程度対象:3歳以上

    ● 鬼の面を作ろう日時:2月2日(土)13:30~15:00(13:20~会場前で整理券配布)定員:25名対象:5歳以上

    (学芸員 齋藤慎一)

    たてもの園の正月の風景と

    冬の年中行事

    企 画 展

    ・常設展のみどころ  平成30年 新指定重要文化財「蔓つる梅うめ擬もどき目め白じろ蒔まき絵え 軸じく盆ぼん」・キュレーターズ・チョイス 江戸博コレクションから 「鹿か 島しま明みょう神じん 各地の鯰なまず退治の図」

    綱島家の井戸の注し

    連め

    飾り

  • 12

    information

    企画展「春を寿

    ことほ

    ぐ─徳川将軍家のみやび─」開館時間: 9:30~17:30、土曜日は19:30まで。 入館は閉館の30分前まで。休館日: 1月7日(月)・28日(月)、 2月4日(月)・12日(火)・18日(月)・25日(月)◎常設展観覧料でご覧になれます。料金:一般600円、65歳以上300円、学生その他の料金は当館ホームページをご覧ください。主催:東京都、東京都江戸東京博物館、公益財団法人德川記念財団

     「春を寿ことほぐ」と聞くと、ほのぼ

    のとした心持ちになるものです。

    寒い冬を乗り越え、新年となっ

    て迎えた春、この時期は新たな

    気持ちで前に進もうと思い定め

    る時期でもあります。毎年開催

    している公益財団法人德川記念

    財団との共催企画展、今回は春

    に焦点をあわせ、徳川将軍家に

    とっての春、そして江戸城大奥

    における雅みやびとはどのようなもの

    であったかをテーマにいたしま

    す。

     春といえば、花見や雛祭りな

    どを連想する人は少なくないで

    しょう。今では広く一般的な行

    事となりましたが、もともと公

    家社会の慣習でした。江戸時代

    になると次第に武家社会にこの

    文化が浸透しました。その背景

    にあったのは徳川将軍家と京都

    の宮家や摂関家との婚礼です。

    江戸と京都で婚姻関係が結ばれ

    ることにより、宮廷の文化が江

    戸城の大奥にもたらされまし

    た。そして、春を寿ぐ行事が徐々

    に江戸市中にまで広がったので

    した。

     本展では徳川将軍家の春の行

    事を、おおよそ月ごとに展観い

    たします。

    睦む月つき 将軍家の正月

     多くの家庭で一年は正月行事

    から始まります。徳川将軍家の

    正月は、東照宮御み影えいへの元日拝

    礼から始まりました。徳川家に

    は今も「元日拝礼」と題された

    徳川家康の肖像画が伝えられて

    います。そして、将軍と御み台だい所

    どころ

    は、親族に挨拶を交わした後、

    先祖代々の位牌に御ご膳ぜんを備え、

    座に戻るときに若わか水みずを恵え方ほうに向

    かっていただきました。この参拝

    は正月三日まで毎日行われまし

    た。

     正月といえばお雑煮がすぐに

    脳裏にうかびます。お雑煮は家

    庭や地域によってさまざまです。

    それは将軍家でも同じことでし

    た。江戸城表の正月儀礼では、

    兎うさぎの

    肉を入れた吸い物を将軍の

    祝膳に出しました。その昔、徳

    川家の先祖が信濃国を訪れてい

    た時、兎のお吸い物が振舞われ、

    正月を祝したことが家例となっ

    たとされています。

     初登城の大名・幕臣たちへは

    「兎

    うさぎのあつもの羹」が下賜されました。幕

    府の正月儀礼は、紅葉山東照宮

    への参拝のほか総数で十九を数

    えました。他方、大奥では、色紙

    または短冊に歌をしたためる

    「御書き初め」や、源氏物語など

    の物語より御意に召したものを

    選んで披露する「御お読よみ初ぞめ」など

    が催されました。これらの儀礼

    の中に大奥の雅を垣間見ること

    ができます。

    如きさらぎ月

     花ひらく春

     今日の日本では、春に桜花の

    下で宴を催すのが恒例ともいえ

    る行事になっています。江戸時

    代の将軍家にも梅や桜の春の花

    を愛でる習慣がありました。

     将軍家では、将軍自ら春の花

    を和歌や絵画などに描いてきま

    した。また、御台所は梅や桜な

    どが配された調度品を多数所有

    していました。作品の制作や調

    度品の所蔵は、春の花に対する

    美意識のあらわれと言えましょ

    う。

     また、八代将軍徳川吉宗は、

    庶民のために飛鳥山や墨堤(隅

    田川)などを整備したことが知

    られています。この粋な計らいに

    より、これらの場所は今も桜の

    名所として受け継がれています。

    弥やよい生

     典雅な雛道具

     今回の企画展でもっとも注目

    していただきたいのが、雛道具で

    す。春の風物詩である雛祭りは、

    「上

    じょう

    巳し」や「桃の節句」の三月三

    日に催されてきました。その行

    事に際して江戸城大奥では、段

    飾りのきらびやかな雛人形や雛

    道具を飾っていました。本展で

    は十三代将軍徳川家定正室篤

    姫と、十四代将軍徳川家茂正室

    和宮の雛道具を中心に御覧いた

    だきます。

     展示のエピローグでは「ちいさ

    きもの」に注目します。徳川将

    軍家・江戸幕府の正月儀礼を中

    心とした春の行事は、今の時代

    にも繋がっています。德川宗家に

    は「ちいさきもの」と呼ばれる精

    緻な細工物が伝わっています。

    江戸の手仕事は雛道具のみなら

    企画展

    春を寿ことほぐ

    ─徳川将軍家のみやび─

    平成31年1月2日(水)〜3月3日(日)

    常設展示室内 5F企画展示室

    ず、銀細工や象牙人形なども生

    み出しました。将軍家や大名家

    で賞玩された「ちいさきもの」は、

    後の時代の工芸品にも引き継が

    れていきました。

     春の行事にフォーカスしたこ

    の展覧会から、徳川将軍家の年

    中行事や季節感、美意識などを

    味わっていただければと思いま

    す。

    (学芸員 齋藤 慎一)

    銀細工 兜に梅の花一枝(左)・銀細工 献けん兎と賜し盃はい(右)

    公益財団法人德川記念財団蔵

    掛かけ袱ぶく紗さ(紅

    べに縮ちり緬めん地じ竹たけに鶏

    にわとり文もん刺し繍しゅう)

    公益財団法人德川記念財団蔵展示期間:2月5日(火)~3月3日(日)文

    ぶん台だい(黒

    くろ塗ぬり牡ぼ丹たん唐から草くさ葵あおい浮ふ線せん菊きく紋もん散ちらし蒔まき絵え雛ひな道どう具ぐ)

    資料番号88290098

    小袖(浅あさ葱ぎ縮ちり緬めん地じ松しょう竹ちく梅ばい桜さくら菊きく網あ干ぼし文もん様よう)

    公益財団法人德川記念財団蔵展示期間:1月2日(水)~2月3日(日)

    東照宮御み影えい元日拝礼

    公益財団法人德川記念財団蔵展示期間:1月2日(水)~2月3日(日)

  • 常 設 展 示 室 から

    34

     写真は、破損していた「文ぶん藝げい倶く楽ら部ぶ」(1908年

    (明治41)1月発行)という雑誌の修復後の記録写真で

    す。あまりきれいになっていないな、どこを直したのだ

    ろうと思われたかもしれません。図書室の本は、博物

    館の歴史資料として展示されることもありますから、

    発行当時そのままの姿をなるべく保つ必要があるの

    で、実は「修復し過ぎ」にも気をつけなくてはいけない

    のです。

     このような場合は、本の修復の専門家にお願いしま

    す。埃やホッチキス留めされた箇所の錆の除去、酸化

    した紙の脱酸性化処置などを慎重に行います。また、

    破やぶれた所に使用する和紙や綴とじ紐を本に合う色に染

    めるなどして、一見しただけでは修正したところがわか

    らないように、しかし展示などにも耐えうるよう堅牢

    に仕上げてもらいます。そしてどのように修復したか、

    過程のわかる詳細な記録と共に、このような記録写真

    を残し、後世に伝えていくのです。

     2018年(平成30)8月15日、中国・北京市の首

    都博物館で日中韓博物館国際シンポジウムが開催さ

    れました。このシンポジウムは、当館と首都博物館、ソ

    ウル歴史博物館(韓国)が毎年持ち回りで開催する形

    で2002年(平成14)に始まり、2006年(平成

    18)からは瀋しん陽よう故宮博物院(中国)を加えた3ヵ国4

    館で交流を続けています。

     第17回目となる今年は、「資源共有と学術協力│

    「首都学」からみる博物館の密接なつながりについて」

    というテーマのもと、各博物館における取組み事例の

    報告と情報交換が行われました。博物館収蔵品やデ

    ジタル技術を活用した教育プログラム、展示、地域貢

    献活動など全9本の発表内容は多岐に渡り、当館か

    らは「江戸東京博物館が収蔵する三大コレクション(石

    井コレクション・赤木コレクション・喜多川コレクション)」

    と「江戸東京博物館

    図書室の活動」について報告しま

    した。

     質疑応答では、収蔵庫設備など実務的な内容に加

    えて「北京学、ソウル学に対して江戸東京学とはどう

    いうものか?」という質問があがり、日中韓それぞれの

    立場から「首都学」を軸にした活発な意見交換があり

    ました。〝変化してゆく都市の記憶を継承する〞という

    共通の使命を持った各博物館にとって、今回のシンポ

    ジウムはその足元を見つめ直す良い機会となったよう

    に思います。今後も交流を重ね、互いの歴史や文化に

    対する理解をより一層深めていきたいと考えています。

    本の修復記録

    第17回

    日中韓博物館国際シンポジウムに参加しました

    図書室からお知らせ

    国際交流事業

     平成30年に重要文化財に新指定

    された資料をこの度公開します。

    江戸の画家、蒔まき絵え師し、そして豪商の

    交流により生まれた作品です。

     下絵を描いた酒井抱一は、京都の

    俵屋や宗そう達たつと、尾お形がた光こう琳りんが築いた琳

    派様式に、江戸の洗練や好みを加

    えた「江戸琳派」を興した人物です。

    作者の原はら羊よう遊ゆう斎さいは、江戸後期に活

    躍した蒔絵師で、江戸琳派が下絵

    を描いた作品を数多く手掛けまし

    た。

     図様は、秋から初冬に朱色の実を

    つけるツルウメモドキを軸盆の外側

    に這わせ、枝にメジロを配していま

    す。ツルウメモドキの蔓つるは金きん薄うす肉にく高だか

    蒔絵、実は紅べに珊さん瑚ご、メジロは金、銀、

    青金などの粉こな蒔絵仕上げと、高度

    な技法が施されています。

     黒漆地の軸盆は、巻子を二巻のせ

    ることを想定した意匠となってい

    ます。江戸有数の材木商森川家の

    注文により制作されたことが、伝来

    する書状から明らかになっていま

    す。文化文政期を中心に展開した

    江戸の文化人ネットワークを背景

    に持つ優美な漆工品です。

     1855年(安政2)10月2日

    の夜、江戸に大きな被害をもたらし

    た安政江戸地震が発生した。この

    地震の直後から数ヵ月の間に、「鯰

    なまず

    絵え」と総称される地震と鯰を題材

    とした数多くの瓦版類が出回った。

    地震は地下で鯰が起こすものとい

    う俗信は、すでに江戸前期頃から

    あったが、この安政江戸地震をきっ

    かけに急速に広まったという。

     そのなかの一枚をみてみよう。

    これは画面右上の鹿島明神の

    前に並んで、取り調べを受けて

    いる鯰たちの様子を描いたもの

    である。地震は要

    かなめ

    石いしとよばれる

    霊石によって鎮められると考え

    られており、その霊石は鹿島神

    宮(現茨城県鹿嶋市)と香取神宮

    (現千葉県香取市)の2カ所に

    祀まつられていた。本図は江戸の地

    震を起こした鯰の頭上に要石

    が置かれ、罰を受けているとこ

    ろで、鯰・鹿島明神・要石が描か

    江戸博コレクションから 

    「鹿か島しま明みょう神じん 

    各地の鯰なまず退治の図」

    江戸ゾーン「江戸の美」コーナー 

    平成30年新指定重要文化財

    「蔓つる梅うめ擬もどき目め白じろ蒔まき絵え軸じく盆ぼん」

    (学芸員 西村直子)

    重要文化財 蔓つる梅うめ擬もどき目め白じろ蒔まき絵え軸じく盆ぼん

    原はら

    羊よう

    遊ゆう

    斎さい

    作 酒さか

    井い

    抱ほう

    一いつ

    下絵

    1821年(文政4) 資料番号91210668

    鹿島明神 各地の鯰なまず

    退治の図 1855年(安政2) 資料番号88208561

    「文藝倶楽部」第14巻第2号資料番号13604657

    れる典型的な鯰絵である。画面下

    の六匹は、過去に信州・小田原・越

    後・甲州・大坂・関東に地震をもた

    らした鯰で、安政江戸地震を含め

    大地震を擬人化している。鯰たち

    が、地震を起こした罪の裁きを待ち

    ながら、口々に洒しゃ

    れ落を交えた言い訳

    をしている姿がユーモラスに描かれ

    ている。

    キュレーターズ・チョイス V o l . 2

    常設展の

    みどころ

    「江戸東京博物館 図書室の活動」をテーマに発表する当館司書

    平成31年1月2日(水)〜1月27日(日)

    たわら

    (学芸員 眞下祥幸)

  • 研究の散歩道

    56

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    10月 11月 12月

    2019年(平成31)江戸東京博物館 開館日・休館日カレンダー

    ※ 祝日・休日(赤字)は2018年(平成30)12月1日現在休館日 臨時開館日 図書室休室日

    万国博覧会の開催にあわせ、米僊は

    再び私費で渡航するが、今度は「国民

    新聞」に「渡航画報」を連載する。連

    載期間は、約10ヵ月と長期にわたっ

    た。本来の目的であった博覧会の報告

    はもとより、革命で揺れる寄港地・ハ

    ワイの事情や、不幸にも船内で亡く

    なった乗客の弔いの様子、さらに、ア

    メリカ国内での「珍道中」のこと、出

    会った人々など多彩な内容であった。

    時に辛しん辣らつな意見も交えつつユーモアに

    あふれた彼の「画報」は、当時の読者

    をさぞ楽しませたであろう。

     幕末から明治にかけて、すでに多く

    の日本人が欧米に渡りその見聞を広

    めていた。ただし、そのほとんどは、公

    的な視察や公費留学といった目的で

    あった。米僊のような画家が、「博覧

    会見物」を目的に渡航することは稀

    であった。しかも短期間のうちに、東

    廻り、西廻りの両航路で欧米に渡って

    いるのである。彼の見聞記は、当時の

    日本人に、文明の先端を行く欧米諸

    国の実態を伝えるとともに、途中立

    久保ぼ田た米べい僊せんを紹介する。1852

    年(嘉永5)に生まれ、1906

    年(明治39)55歳で没した日本画家で

    ある。時の流れとともに忘れ去られた

    人物はあまたいるが、米僊もその一人

    である。

     京都の小料理屋の一子として生を

    受けた米僊は、絵心に富む少年であっ

    た。鈴すず木き百ひゃく年ねんの門に学び、幸こう田だ楳ばい嶺れい

    とともに、明治維新以後、衰微著しい

    京都画壇の再興に力を尽くした。その

    一方、多くの新聞、雑誌の挿絵を描い

    たことで、広く名が知られる存在でも

    あった。1889年(明治22)にはパ

    リ万国博覧会に私費で渡航し、「渡航

    画報」と題して、「京都日報」に連載し

    た。写実味豊かな挿絵と軽快な文章

    で道中の出来事を綴ったこの連載は、

    徳とく富とみ蘇そ峰ほうの目にとまり、1890年

    (明治23)国民新聞社に迎え入れられ

    た。これを機に、米僊は家族とともに

    上京する。以後、拠点を東京に置き、

    饗あえば庭篁こう村そんら根岸党との交流も深めて

    いく。1893年(明治26)、シカゴ

    ち寄った国々の土着の文化や風俗をも

    広く知らしめる役割を果たした。「博

    覧会」を伝える目的での渡航であった

    が、米僊の残した挿絵や記事を見る

    と、彼の興味は博覧会で誇示される欧

    米の先進技術にではなく、むしろ植民

    地化の波に飲み込まれた民族の習慣

    や衣装、道具、舞踊、芸能に向けられて

    いたように思う。素直で屈託のない彼

    の記事は、今読んでもまざまざと情景

    が目に浮かぶ、絵をものする者ならで

    はの楽しいものである。自らの眼で見、

    耳で聴き、肌で感じたことを、生き生

    きとした挿絵とともに伝えた米僊の

    記事は、視覚を伴ったルポルタージュの

    嚆こう矢しであったとも言える。

     多くの市井の人々が目にする新聞

    というメディアで、遠い異国の風物が

    挿絵というビジュアルイメージを伴っ

    て、当時としては最小限の時差│つま

    り「リアルタイム」で伝えられた。これ

    ら米僊の異国観は、その後の日本人の

    エキゾチシズムに少なからぬ影響を与

    えたに相違ない。

    海を渡った日本画家─米べい僊せん、万国博覧会を写す

    学芸員 

    岩城紀子・文

    閣ころん龍ぶす世せ界かい博はく覧らん会かい美び術じゅつ品ひん画が譜ふ

    久保田米僊画・作 大倉書店発行1893年(明治26)~1894年(明治27)資料番号91212018~21シカゴ万国博覧会の会場の様子や、出品されていた絵画、工芸作品を色鮮やかに描いた全4巻の木版画集。米僊は、シカゴ滞在中にこれらの原画を描き、先に帰国する知人に託して版元に送ったようだ。ちなみに、1893年のシカゴ万国博覧会は、コロンブスのアメリカ大陸発見400年を記念したものであった。表題に「閣龍」とあるのは、これによる。

    「美術館陳列高村光雲作木彫大猿」(第3巻 91212020)

    「日本雑貨販売館」(第4巻 91212021)

    大ホール 完成イメージ

    当館大ホール・小ホール・会議室・学習室の貸出について 2017年10月より、江戸東京博物館ではホール等の貸出施設の改修工事を行っています。この度、会議室・学習室は2019年7月から、大ホール・小ホール(これまでの映像ホール)は8月から、貸出を開始することとなりました。 貸出にあたっては、これまで通り、原則として利用月の6ヵ月前からご利用の申請を受け付けますが、伝統芸能、民俗芸能その他伝統的な文化に係る公演等は、一般貸出に先行して約1年前から申請を受け付けます。 詳細につきましては、当館ホームページをご確認ください。

    年末年始の開館のご案内~1月2日・3日は常設展観覧料無料~

    2018年12月25日(火)から2019年1月1日(火・祝)まで休館です。年始は1月2日(水)から開館します。また、1月2日(水)・3日(木)は常設展示室観覧料が無料となります。※図書室は2018年12月11日(火)から2019年1月4日(金)まで休室です。

    ※一部施設の休室や開館日を変更する場合があります。最新の情報は当館ホームページをご確認ください。