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Page 1: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨
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序 文

Liverpool Care Pathway(LCP)は,イギリスの Ellershaw を中心としたRoyal Liverpool

University と Marie Curie Centre Liverpool のグループにより作成された,患者・家族が安

楽・安心して臨死期を過ごせる事ために必要なケアを確実に受けられることを目標としている

アウトカム指向の看取りのケアについてのクリニカルパスである。臨死期のケアが十分に成熟

していないと考えられる日本の医療において,明確なアウトカムを提示しながら,ケアの内容

を明らかにしている LCP を導入することは,日本における臨死期のケアの均てん化,標準化

に有用であると考え,2004 年より LCP を日本に導入することを目的とした研究プロジェクト

が進められてきた。

本プロジェクトの目的は,LCP を日本に導入することである。この目的を達成するための

具体的な手順として,①日本語への翻訳,②評価,③普及活動の 3 点を設定した。そして,

LCP Working Group Japan を立ち上げ,普及プログラムに登録した上で翻訳作業が開始した。

LCPの翻訳作業はEORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)

の翻訳手順に沿って進められた。日本における LCP の普及のためには単に翻訳すればいいだ

けではなく,文化や医療環境へ配慮し,使用できる薬剤や現在もっとも有効と考えられるアル

ゴリズムを作成する必要があるなど多くの作業が必要であった。

このたび,翻訳の作業が終わり,普及の段階になったため,新しく LCP 日本語版普及グ

ループが作成された。日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団による Liverpool Care Pathway

(日本語版)研修セミナー開催事業として,まず,LCP 日本語版のパイロットテストを行い,

現状を踏まえて若干の修正を行った。次に,LCP 日本語版の普及のためには,定期的なワー

クショップの開催とともに,使用に際してのマニュアルを作成,整備することが必要と考え,

本事業で今回のマニュアルを作成した。本マニュアルには,LCP 日本語版開発過程,LCP 日

本語版の使い方,実際の使用経験と事例紹介,Q&Aなどが含まれている。

現在,リリースされた LCP日本語版は,病院バージョンである。英国では病院バージョン,

ホスピスバージョンがあるが,日本では緩和ケア病棟と一般病棟を特に分けて扱う必要はない

と考え,病院バージョンとして統一して運用することとなった。英国ではさらに在宅バージョ

ン,ナーシングホームバージョンなどがある。これらについても今後日本語版を開発していく

予定である。

われわれが初めて LCP に出会ってから,英国の LCP も進化している。NHS(National

Health Service)の Gold Standards Framework(GSF)に組み入れられ,多くの医療機関で

使用されることになった。LCP のバージョンもわれわれが翻訳したものから改変されている。

しかし,「患者・家族が安楽・安心して臨死期を過ごせるために必要なケアを確実に受けられ

る」ためという目的は変わっていない。

LCP 日本語版はまだ開発されたばかりの,よちよち歩きの赤ん坊である。われわれは,

LCP 日本語版を日本で普及させていくなかで,わが国の看取りのケアのどこが不十分なのか,

LCP 日本語版でそれを改善させることができるのか,LCP 日本語版は今後修正が必要なのか

を検討しなくてはならない。これができるのは現場からの声があってこそである。おそらく

LCP 日本語版は,次のバージョンアップを通して,本当に日本の臨床に即した使いやすい

— 3 —

序 文

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ツールになるのではないかと思われる。

LCP は,現時点では必ずしも完成されたツールでなく,日本の現状に合うように育ててい

かなくてはならない。そのためには,ぜひとも現場の使用経験などの報告や現場からの意見を

伝えてもらいたい。われわれ日本語版普及グループはそれらの疑問や意見に 1つひとつ答える

ことにより,より日本の現状にあった看取り期,臨死期のケアに対応したクリティカルパスを

作成していきたいと考えている。

今回の LCP に関するホームページ(http://www.lcp.umin.jp/)を作成した。マニュアルや

LCP の電子ファイル,ワークショップでの使用スライド,今後のワークショップの予定など

はこのホームページを通してアナウンスされていく予定である。また,疑問点や意見などは

ホームページの問い合わせ先にいただきたい。質問によってはグループ内で討議したのちに,

ホームページを通して回答するつもりである。また,それらの意見は次のマニュアルや LCP

日本語版のバージョンに反映されるであろう。

われわれは看取り期,臨死期のケアのためのツールとして LCP を用いれば,すべてがうま

くいくと考えているわけではない。LCP だけが看取りのケアのためのツールであるというわ

けでもない。ただ,LCP は英国で歴史をもって発展してきたものであり,日本語版の開発に

関しても討議を尽くしたことから,看取りのケアに必要な要素を含んだ 1つの指針になると考

えている。今後,LCP が日本で利用されることによって,看取り期のケアの見直しと改善が

行われ,1人でも多くの患者や家族が安心して安楽にその時期を過ごすことができることがわ

れわれの願いである。

2010 年 3 月

宮下 光令(東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野)

— 4 —

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目 次

目 次

序 文 …………………………………………………………………………………宮下 光令 3

1.LCPの開発過程 ………………………………………………………………茅根 義和 6

2.LCP日本語版の使い方 ………………………………………………………宮下 光令 8

3.LCP日本語版使用に当たってのQ&A …………………………………宮下 光令 21

4.LCP日本語版プレスタディの結果 ………………………………………市原 香織 26

5.淀川キリスト病院ホスピスでの LCP導入の実際 ……………………市原 香織 33

6.聖隷三方原病院ホスピスでの LCPの使用経験と利用のコツ ……福田かおり 35

7.一般病棟での LCPの使用経験と運用のコツ …………………………中島 信久 37

8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合 ………………市原 香織 41

9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合 ……………………福田かおり 51

〈付 録〉1.LCP日本語版―看取りに関するクリティカルパス(病院バージョン)

………………………………………………………………………………………宮下 光令 66

2.症状アルゴリズム・頓用のチャート ……………………………………茅根 義和 72

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A.英国における LCPの開発と発展

イギリス,アメリカにおいては 2000 年以後,臨死

期患者のケアに対する総合的なクリニカルパスが作ら

れ,一定の評価が得られている。これらのクリニカル

パスは終末期がん患者だけを対象にしているものでは

なく,臨死期にある患者すべてを対象として作成され

ている。Liverpool Care Pathway(LCP)は,イギリ

スの Ellershaw を中心とした Royal Liverpool Uni-

versity と Marie Curie Centre Liverpool のグループ

により作成された,患者・家族が安楽・安心して臨死

期を過ごせるために必要なケアを確実に受けられるこ

とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに

ついてのクリニカルパスである。

Ellershaw らは 1997 年頃より 2003 年にかけて,臨

死期のケアにおける先行研究から,臨死期における臨

床症状,医療的問題,必要とされるケアを明らかにし

てきた1,2)。また,これらをベースとした臨死期のクリ

ニカルパスの作成に関する研究も並行して行ってきた3)。

これらの結果として,臨死期にある患者とその家族に

対して医療者が行うべきケアをチェックリストにより

確認していく形式をとるクリニカルパスが Ellershaw

らにより作成され,LCP となった。2003 年には LCP

を紹介する書籍『Care of the dying ― A pathway to

excellence』が出版され,LCP が広く知られることに

なった。

2004年にはLCPの普及,教育のために,The Marie

Curie Palliative Care Institute Liverpool に The LCP

Central Team UK が置かれた。The LCP Central

Team UKでは,10 steps の普及・教育プログラムが

用意され,このプログラムにより LCP の導入から,

施行,LCP に関する教育,地域における終末期ケア

のResearch が組織的に行われている4)。

英国において LCP は,臨死期のケアツールとして

広く普及している。その要因としては,National

Health Service(NHS)を中心とした行政が臨死期の

ケアツールとして LCP を積極的に取り入れているこ

とがある。NHSの statement としては,NHS end-of-

life care programme(2004 年)にて LCPを臨死期ケ

アの重要な framework として位置づけている。また,

2006 年,2008 年の UK National Policy でも LCP は

臨死期の最良の記録様式として推奨されている。

一方,Primary Care Setting での終末期ケアを総合

的にサポートする framework である Gold Standards

Framework(GSF)においても,臨死期のケアにお

いては LCPの使用が積極的に推奨されている。特に,

2006 年に改訂された GSF による緩和ケアの実践ガイ

ドラインとなる Full Guidance on Using QOF to

Improve Palliative / End of Life Care in Primary

Care のなかでも,Action plan の 7 つの key task の 1

つである臨死期のケアにおいて LCP を使用が推奨さ

れている。

以上のように,英国において LCP は国を挙げて臨

死期ケアの重要なツールとして認識されている。

B.LCP日本語版の開発

2003 年に『Care of the dying ― A pathway to

excellence』が出版されたことを契機に,日本でも

LCP の存在が知られるようになった。臨死期のケア

が十分に成熟していないと考えられる日本の医療に対

して,明確なアウトカムを提示しながら,ケアの内容

を明らかにしている LCP を導入することにより,日

— 6 —

LCPの開発過程1茅根 義和

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本においての臨死期のケアの均霑きんてん

化,標準化が図れる

と考え,2004 年より LCP を日本に導入することを目

的とした研究プロジェクトが発足した。

LCP を日本に導入するにあたって,まず LCP を日

本語へ翻訳することが必要であった。正式に翻訳権を

取得するにあたり,著作者である Ellershaw より

LCP の普及プログラムに登録することを求められた。

日本側の研究組織として LCP Working Group Japan

を立ち上げ,普及プログラムに登録したうえで翻訳作

業が開始となった。したがって,本プロジェクトも

The LCP Central Team UK と連携しながら,10

steps の普及・教育プログラムに従って進めることと

なった。

The LCP Central Team UKから,翻訳にあたって

は欧州がん研究治療機関(EORTC)ガイドラインに

そった翻訳作業が求められた。2004 年より 2007 年に

かけて LCP Working Group Japan により翻訳作業が

行われた。オリジナルの LCP は英語で作成され,イ

ギリスの医療事情,医療環境が色濃く反映されている。

特に,文化・宗教的背景,医療・社会制度に対応する

部分,症状緩和のために使用する薬剤などが日本の現

状とは大きく異なっている。したがって日本語への翻

訳作業は,LCP の各項目を日本語に翻訳だけではな

く,日本の医療事情,医療環境を反映させた内容の修

正も同時に行った。

初めに LCP Working Group Japan により LCP の

各項目についての翻訳作業を行った。特に,巻末の症

状緩和のアルゴリズムについては,細かい薬剤の使用

の部分はほとんど新しく作成することになった。さら

に,LCP Working Group Japan 以外の緩和ケア専門

家によりメーリングリストを利用したレビューを行

い,細部にわたる修正を加え,LCP 日本語版を作成

した。作成された LCP 日本語版の英語への再翻訳を

行い,The LCP Central Team UKより 2008 年夏に

は翻訳作業終了の最終確認を得た。

2009 年に入り,作成された LCP 日本語版を淀川キ

リスト教病院ホスピスおよび聖隷三方原病院ホスピス

において各 20 例,パイロット試用を行った。パイ

ロット試用ではいくつかの問題点が明らかになった

が,その点を修正して今回提示する LCP 日本語版

ver.1.0 が完成した。なお,LCP 日本語版 ver.1.0 は

LCP ver.11 をもとに翻訳,作成されている。

文 献1)Ellershaw J : Care of the Dying Setting Standards for

Symptom Control in the Last 48 Hours of Life. JPSM 21(1) : 12 ― 17, 2001

2)Ellershaw J, Ward C : Care of the dying patient : the lasthours or days of life. BMJ 326: 30 ― 34,2003

3)Ellershaw JE, Murphy D, Shea T, et al : Development ofa multiprofessional care pathway for the dying patient.Eur J Palliative Care 4 : 203 ― 208, 1997

4)Murphy D : The education strategy to implement theLiverpool Care Pathway for Dying Patient (LCP). Care ofthe dying ― A pathway to excellence. p.106 ― 120,Oxford University Press, New York, 2003

— 7 —

1.LCP の開発過程

Page 8: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

●本マニュアルの使い方

8 ページ~ 13 ページに LCP の見本を掲載しています。詳細な説明は見本とともに示していますので,ページ

番号をご参照ください。

— 8 —

詳細は、14 ページをご参照ください。

LCP日本語版の使い方2宮下 光令

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2.LCP 日本語版の使い方

詳細は、15ページをご参照ください。

詳細は、16ページをご参照ください。

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— 10 —

詳細は、16ページを

ご参照ください。

詳細は、17ページをご参照ください。

Page 11: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

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2.LCP 日本語版の使い方

詳細は、18ページをご参照ください。

Page 12: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

— 12 —

詳細は、19ページをご参照ください。

詳細は、20ページをご参照ください。

Page 13: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

— 13 —

2.LCP 日本語版の使い方

詳細は、20 ページをご参照ください。

Page 14: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

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■LCP は「看取り期」,「日単位」,「数日中の死が避けられない」時期に使用します。終末期(予後が 6 カ月程

度)に使用するものではありません。

■上記の 2 項目に当てはまったら必ず LCP を開始しなくてはいけないということはありません。たとえば,消

化器がんで,「経口摂取ができない」「錠剤の内服が困難である」ような場合も,ある程度の予後が見込める場

合には LCPは使用しません。脳腫瘍などで意識低下がみられる場合なども同様です。

■予後が数日または 1 週間程度と考えられれば,上記の項目を必ずしも満たさなくても LCP を使用開始して構

いません。

■各ページの上部に,LCPの開始日,記入者名を記入してください。

■一旦は状況が悪化したが(感染症合併など),看取りの状況からは回復したと判断した場合は LCP の使用を中

止してください。

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2.LCP 日本語版の使い方

セクション1 初期アセスメント■ LCP開始時に初期アセスメントを実施してください

診断& Demographics ・身体症状

■LCP開始時の患者の身体症状をチェックしてください。

■薬剤などの使用している場合にも,その薬剤を中止することで,その症状が再発することが明らかである場合

には「ある」にチェックをしてください。たとえばオピオイドで鎮痛が図られている場合には,疼痛は「ある」

になります。

■医師/看護師のどちらが記入してもかまいません。

安楽の評価

■患者の安楽を最優先として,実施されている治療,ケアの見直しを行ってください。

■このシートをつける時点で処方が必要でない処方が中止されていない場合,頓用指示が出されていない場合は

「いいえ」にチェックをつけて,バリアンスに変更内容や頓用指示をしない理由などを記入して下さい。

■目標 1~ 3 は原則として医師が記入します。看護師が記入する場合には,医師の指示に準拠,または医師に確

認をして記入してください。

■目標 3a では,もともと定期的な血液検査,抗生物質,輸液などが行われていない場合には「該当なし」に

チェックします。

■目標 3a では,看護介入について,バイタル測定や体位交換などのルーチンの必要性の見直しを行ってくださ

い。看護の目的が看取りに向けて患者の安楽に重点が置かれることに注意してください。

■目標 3b は,シリンジポンプが 4時間以内に使用できる状態にあれば「はい」にチェックをしてください。

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精神面/病状認識

■家族/関係者の「関係者」とは,家族以外の親族,身元引受人,内縁の妻,友人など,キーパーソンとなる人

物のことを指します。

■目標 5では,記入時点での病状認識の現状をアセスメントしてください。この記入のために患者・家族に確認

する必要はありません。無理に病状認識を促すように介入する必要はありません。

バリアンス記入欄

■目標 1~ 5 で「いいえ」があったら,なぜそのようなバリアンスが生じたのか,それに対する対処はどのよう

にしたかを記入します。

宗教/信条

■帰宅時の衣装や,死亡後の処置時に特別な配慮が必要かどうかを確認してください。

■宗教上の要望に限らず,その土地やそのご家庭の文化に沿った意思を確認してください。

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2.LCP 日本語版の使い方

家族/関係者とのコミュニケーション

■目標 7は連絡先がカルテなどに明記されていれば,ここに転記する必要はありません。

■家族/関係者がどのタイミングで連絡がほしいのかなど,特に留意すべきことがあれば特記事項に記載してく

ださい。

■目標 8 では,家族/関係者に病院施設の案内がされているか確認してください。これは病院のパンフレットを

渡したり,口頭での説明で構いません。

■看取りに関する家族の希望(たとえば,できるだけ看取りには付き添いたい,間に合わなくてもやむをえない

と考えているなど)は目標 7の特記事項に書いてください。

まとめ

■目標 9では,患者や家族と今後のケア計画について話し合います。必ずしも話し合う必要はなく,医療者から

説明がなされていれば「はい」につけて構いません。

■患者に対して今後のケア計画を説明するケースは少ないかもしれません。無理にする必要はありません。

■患者・家族に LCPを使っていることの説明をする必要はありません。

■目標 10 では,今後起こりうること,その対処について,理解していれば「はい」にチェックしてください。

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セクション2(継続アセスメント)

■原則としておよそ 4時間毎に記入しますが,時間は厳密でなくて構いません(ラウンドに合わせてなどで構い

ません)。

■A はその項目が「達成: Achievement」したこと,Vは「未達成: Variance(バリアンス)」を意味します。

■記入時点で,各項目についての目標が達成されている場合(苦痛がない)は「A」に○をつけます。未達成

(苦痛がある)で何らかの対処が必要な場合は「V」 に○をつけ,具体的な問題点を記入してください。

■頓用指示を実施し,それにより症状の軽減がみられたのであれば,目標は達成しているということで「A」に

○をつけてください。

■患者の苦痛の軽減について継続的にアセスメント・対処することを意識するツールとして使用してください。

(記入例)

■記入時間を記入してください。(原則として 4時間ごと)

■レスキューを使用した場合にも,疼痛の軽減ができているならば「A」に○をつけてください。

■「その他の症状」は,患者にとって苦痛な症状があれば記入してください。

■記入者名を記入してください。

7:00 オプソ使用するも疼痛軽減なし

例 9 : 00

嘔気著名

腹部膨満感著名

経口摂取不可点滴に切り換え

Ns ○○

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2.LCP 日本語版の使い方

セクション2(継続アセスメント)つづき

■原則としておよそ 12 時間毎に記入しますが,時間は厳密でなくて構いません(各病棟の勤務形態に合わせて

ください)。

■Aはその項目が「達成:Achievement」したこと,Vは「未達成:Variance(バリアンス)」を意味します。

■記入時点で,各項目についての目標が達成されている場合は「A」に○をつけます。未達成で何らかの対処が

必要な場合は「V」に○をつけ,具体的な問題点を記入してください。

(記入例)

■スタッフが家族/関係者に接する中での印象を記入してください。

例 11 : 00

褥瘡の悪化,疼痛あり,Air マットへ変更

遠方より息子来院,病状把握できておらず。医師からの説明必要

Ns ○○

セクション2継続アセスメントシート使用のポイント

■病棟で用いている経時記録用紙や電子カルテなどに記入されていれば,二重に記録する必要はあり

ません。

■病棟の記録を使用する場合には,初期アセスメント(セクション 1)→病棟の記録→死亡診断(セ

クション 3)という流れで LCPを活用してください。

■病棟の記録を使用する際には,時間間隔や項目などは LCPに準じていることが望ましいです。

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セクション3 (死亡診断)

■死亡時のみ記入してください

■死亡診断後,必要なことが確実に行われているかをチェックします。

■目標 14 は必要に応じてで構いません。たとえば,死亡 3 カ月後に遺族会の案内を郵送する決まりになってい

るような場合は「はい」にチェックしてください。

■本来のパスは,バリアンスが生じるごとに,そのバリアンスがなぜ生じたかなどの分析を行うものです。しか

し,実際にはすべてのバリアンスについてそのたびに記入するのは非常に大変です。そこで,LCP 日本語版

ではこのシートへの記入は義務とはしないことにしました。このシートは病棟で看取りのケアの見直しの時な

どに一定期間つけるなどの方法で活用していただければと思います。

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Liverpool Care Pathway(LCP)日本語

版の目的は何ですか?

LCP 日本語版の目的は,患者が看取り期になっ

たことを医療者が共通して認識し,今まで行われてき

た治療やケアの見直しや頓用指示を行うこと,継続的

にアセスメントすることによって,患者・家族の状態

や苦痛を確実にアセスメントし対処すること,看取り

期に必要なケアを適切に提供することです。それに

よって,患者・家族へのケアの提供の質の維持・向上

を目指しています。決して看取り期のケアを画一的に

行うことが目的ではありません。LCP 日本語版の項

目に沿ってアセスメントを行い,バリアンスに配慮す

ることによって,患者・家族の個別性に対応します。

LCPは誰が記入するのですか?

原則として医師と看護師やその他のチームメン

バーが記入します。ただし,状況によっては医師のみ

や看護師の記入でも構いません。その場合,他の職種

に適宜確認をして記入することが望まれます。

LCP を開始する時期に迷います。どのよう

に考えたらよいでしょうか?

LCP を記入するのは,予後が数日あるいは 1週

間程度と判断される時期に使用することが適切です。

ただし,正確に予後を予測することは困難です。近い

将来死が免れないと思われたら,早期から開始しても

構いません。また,開始時期が遅くなってしまっても,

その時点から開始すれば構いません。プレスタディで

は,予後 1~ 3日での開始から 1週間以上とばらつき

がみられました。正確な予後予測にこだわるより,看

取り期をスタッフが自覚し,その時点で必要とされる

ケアを適宜提供することが重要です。開始にあたって

は個人で判断するよりチームとして(複数で)判断す

ることが望ましいです。

LCP の使用基準で,化学療法中の患者など

は2項目が当てはまってしまいます。

LCP の使用基準は,あくまで目安と考えてくだ

さい。予後がある程度見込める場合には,使用基準が

2項目以上当てはまっても,LCPを使用する必要はあ

りません。また,LCP が 2 項目当てはまらなくても

予後が数日と予測されれば LCP を使用して構いませ

ん。

LCP を開始する時期は,もっと早く(予後

1 カ月程度など)のほうが良いのではないで

しょうか?

LCP は予後が 1週間以内のケアとして開発され

たので,原則として予後が 1週間程度か,それより短

い場合に使用したほうがいいと思われます。ただし,

より早期からの使用によって,適切な症状アセスメン

トや患者・家族にへのより良いケアを行うことが可能

になる可能性はあると思われます。この時期に関して

は,統一見解はないため,今後,検討していく必要が

あると考えます。早期から LCP を適用することに

よって,患者の生命予後を短くするようなことがない

ように留意できる状況であれば,より早期からの適用

を試してみても良いかもしれません。

— 21 —

3.LCP 日本語版使用に当たってのQ&A

LCP日本語版使用に当たってのQ&A3

宮下 光令

A1

Q1

Q2

A2

Q4

Q3

A3

A4

Q5

A5

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LCP 開始時には,患者や家族の同意を取る

必要がありますか?

病院や病棟として通常の看護業務の一環に位置

づけているのであれば,患者や家族の同意を取る必要

はありません。

目標 1や目標 3で投薬,処方の見直しなど

は医師がするのですか?

はい。原則として処方の見直しは,医師がしま

す。ただし,看取り期に入ったことを看護師や他のス

タッフが認識した場合,処方の見直しを医師に提案す

ることは望ましい対処だと思われます。その結果,医

師が処方を見直した場合には,医師以外のスタッフが

この項目に記入することは問題ありません。

目標3aで中止または減量するのは,血液検

査,抗生物質,輸液の 3 点だけでいいのです

か?

いいえ。LCP 開始時に行われているすべての治

療を見直します。たとえば,化学療法や輸血などに関

しても,患者の利益より不利益が勝っている場合には

中止を検討します。

目標 5 の病状認識は,自分が死にゆくこと

を認識していない人や,それを受け入れられない

家族は「いいえ」になります。それを認識しても

らうような働きかけが必要なのですか?

いいえ。患者や家族が死にゆくことを認識して

いなくてはならないということはありません。特に患

者は,「いいえ」になることが多いでしょう。家族に

関しても受け入れの度合いは家族によって違うかもし

れません。家族には適切な時に説明がなされることが

望ましいと考えますが,個別性にも配慮すべきです。

この項目は,「はい」であることが望ましいわけでは

なく,医療者にとって,患者や家族がどのように現在

の状態を認識しているかを確認するためのものです。

できるだけ看取りには間に合いたいという

家族や,看取りに間に合わなくてもやむをえない

という家族もいます。このような希望はどこに書

いておいたいらいいですか?

目標 7の特記事項に記入しておいてください。

目標9,10でケア計画について話し合いを

持つことは難しいことが多いのですが。事前に患

者・家族と話し合いを持たなくてはならないので

すか?

いいえ。患者に対しては,必ずしも死期が迫っ

た場合のことについて話し合う必要はありません。こ

の項目も,患者が何かしらの希望を持っていたかを医

療者が確認するためのものです。家族に対しては説明

や話し合いがなされていることが望ましいですが,家

族の死の受け入れの程度には個人差があると思われま

す。家族の受け入れの程度に応じて,適切な説明がな

されていれば構いません。また,説明が困難であれば,

その理由とともにバリアンスに記載します。

セクション 2の継続アセスメントは 4時間

(12時間)ごとにしなくてはならないですか?

4 時間という時間は,あくまで目安とお考えく

ださい。厳密に 4時間ごとではなく,実際には病室へ

のラウンドの時間に沿ってなどで構いません。ただし,

一般的に看取り期には,4時間程度に 1回はアセスメ

ントを行う必要があることが多いようです。プレスタ

ディでは,より頻回に訪室しているケースが少なくあ

りませんでした。12 時間については,日勤帯で 1回,

夜勤帯で 1回というのが目安になると思います。

バリアンスは,記入しなくてはならないの

ですか?

セクション 1,セクション 3 の目標 1 ~目標 13

のバリアンスは原則として記入します。バリアンスへ

の配慮は,現在の病棟の看取り体制のチェックと患

— 22 —

Q6

A6

Q7

A7

Q8

A8

Q9

A9

Q10

A10

Q11

A11

Q12

A12

Q13

A13

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者・家族の個別性への配慮につながります。ただし,

セクション 2のバリアンスはすべて記入すると煩雑に

なる場合もありますので,「V」のチェックだけでバ

リアンスの記載は適宜で構いません。

バリアンスが生じた場合には,どのように

対処するべきですか?

まず,その時の患者・家族の状況やバリアンス

が生じた理由を考えることです。その次に,バリアン

スへの対処法を考えて実施します。症状に関してはア

ルゴリズムと頓用指示を用い,再度のアセスメントを

行ったうえで結果を記載することが望ましいです。

アルゴリズムはマニュアルに記載されてい

るものではなく,病院で通常用いているものを使

用していいですか?

はい。通常,病院で使用しているマニュアルな

どがあれば,それで構いません。病院のマニュアルは

定期的に改訂されていることが望ましいです。

セクション 2 が病棟のカルテ(2 号用紙)

や温度板,電子カルテと同一内容を記入すること

になって記録の負担が増えてしまいます。

カルテの二号用紙や温度板,電子カルテとの二

重記録をする必要はありません。LCPのセクション 1

→病棟の記録→セクション 3という運用方法で構いま

せん。この場合,病棟の記録に記載するための観察項

目や目標設定,訪室の時間間隔などを LCP に準じる

ことが望ましいです。

すべての記録を LCP に移行していいのです

か?

はい。LCP は本来,そのような目的で開発され

ました。ただし,日本の実情を考えると,すべての記

録を LCP に移行することは困難な場合もあると思わ

れます。そのような場合には,Q14 にあるような運

用方法で構いません。すべての記録を LCP に移行し

た場合,オピオイドの投与など医療行為など従来カル

テに記録すべきであった事柄は,すべて LCP に記入

しなくてはならないことに注意してください。

LCP の電子カルテでの使用方法を教えてく

ださい。

LCP を電子カルテで運用した実績は,現在のと

ころ日本ではありません。現在,電子カルテが普及し

ていることを考えますと,今後そのような施設が出て

くると思います。電子カルテでの運用実績がある施設

は,ぜひ,LCP ワーキンググループにご連絡いただ

き,情報をいただきたく思います。

LCP の項目に自分の病院や病棟で必要な項

目を追加していいですか?

はい。数項目を追加して運用することは,問題

ないと考えております。

LCP は自分の病院や病棟に合うように改変

していいですか?

大きな改変を行った場合には,LCP という名称

は用いることができなくなることにご注意ください。

これは改変することを禁止するという意味ではありま

せん。名称が使えなくなるだけです。そもそも LCP

を用いることは,看取り期のケアの見直しと適切な対

応を目的にしておりますので,LCP ではなくても,

同様のパスを用いて適切なケアが行われることは望ま

しいと思われます。LCP は英国で広く普及していま

すので,目標や項目にはある程度の信頼性があると思

われます。改変は患者・家族に不利益がないように,

十分注意して行うべきだと思われます。

看護記録と連動させるために SOAP の記載

欄がほしいのですが。

LCP はできるだけ簡略化し,多くの施設で共通

して必要な項目だけに厳選してあります。Q19 にあ

るように項目を追加して利用することは可能です。

— 23 —

3.LCP 日本語版使用に当たってのQ&A

Q14

A14

Q15

A15

Q16

A16

Q17

A17

Q18

A18

Q19

A19

Q20

A20

Q21

A21

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LCP の使用に当たり,医師の協力を得るの

が困難です。

LCP は医師と看護師や他の職種が共同して使用

することが望ましいですが,必ずしもそれが叶わない

場合もあると思われます。処方の変更などは医師でな

いと行えませんが,看護師だけで判断して記入できる

部分から使用しても構いません。その際には,患者・

家族に不利益となる判断やケアを行わないように慎重

に運用し,適宜医師の指示を得てください。看護師が

LCP を実施することの有用性を医師に示し,近い将

来に医師も巻き込んで運用できることになることを目

指すことが望ましいと思われます。

一般病棟でも LCP を使うことができます

か?

はい。一般病棟で使うことはできます。LCP を

日本で紹介した時に,一般病棟で有用なツールである

という意見を多くいただきました。一般病棟での使用

経験は本マニュアルの中島信久氏の報告を参考にされ

るとよいと思われます。今後,日本の一般病棟での使

用経験が学会などで報告されることを期待していま

す。

在宅ケアや療養型施設でも LCP を使うこと

はできますか?

現在の LCP の日本でリリースされているバー

ジョンは病院(一般病棟や緩和ケア病棟)のもののみ

です。海外には在宅ケアバージョンもありますが,日

本では現在,その開発を目指しております。現状では

病院バージョンをそれぞれのケアの場において応用し

て利用していただくことになります。その際には,

LCP の使用によって患者・家族に不利益がないよう

に注意してください。

小児版はないのですか?

海外では小児版が作成されていますが,日本で

は現在はありません。今後,開発していけたら良いと

思っております。現状では,病院バージョンを応用し

て利用していただくことになります。

LCPは疾患を問わないでしょうか?

はい。LCP は疾患を問わず利用可能です。ただ

し,LCP 日本語版の開発に関しては,がん領域を意

識して作成し,プレスタディを行ったことに注意して

ください。他の疾患や状況(たとえば,ICU のよう

な場や高齢者・認知症など)での使用に当たっては,

追加のアセスメント項目が必要になる可能性がありま

す。それぞれのケアの場や対象によって,必要なケア

が何であるかを考える必要があります。

患者・家族用パスはないのですか?

患者・家族用のパスはありません。

LCP を導入したことにより患者の予後が短

くなった例が海外であると聞きましたが。

LCP を導入したことにより,患者・家族に不利

益があってはなりません。そのため,LCP の導入後

も,適宜,患者の状態や適切な治療・ケアが行われて

いるかをアセスメントする必要があります。LCP を

導入したら,それに沿ってすべてを進めるのではなく,

患者・家族の個別性への配慮は常に必要です。患者・

家族への病状説明やケア計画の説明・相談を行いなが

ら,患者・家族の希望に沿ったケアが実施されるべき

です。

LCPを使用するメリットは何ですか?

LCP を使用するメリットは,患者が看取り期に

なったことを医療者が共通して認識し,今まで行われ

てきた治療やケアの見直しや頓用指示を行うこと,継

続的にアセスメントすることによって,患者・家族の

状態や苦痛を確実にアセスメントし対処すること,看

取り期に必要なケアを適切に提供することなどです。

そのほかにも,看取り経験が浅いスタッフに対する教

— 24 —

Q22

A22

Q23

A23

Q24

A24

Q25

A25

Q26

A26

A27

A28

Q27

Q28

Q29

A29

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育や多職種協働の推進,記録の減少によりベッドサイ

ドケアの時間が増えるなどの利点があります。パイ

ロットスタディによる看護師の視点での LCP の利点

に関しては,本マニュアルの市原香織氏の報告をご参

考にしてください。

英国の LCP のホームページをみたら,かな

りこのマニュアルのものとは違っていたのです

が。

英国の LCP は継続的に改訂されています。

LCP 日本語版は英国のバージョン 11.0 をもとに作成

されたため,英国のホームページのバージョンとは異

なっています。

LCP 日本語版の有用性を示すデータはない

ですか?

LCP 日本語版はまだ日本ではリリースされたば

かりで,有用性を示すデータは本マニュアルの市原香

織氏によるパイロットスタディの報告のみです。今後,

学会や論文などで LCP の活用報告がなされることを

期待しています。また,有用な活用事例がありました

ら,ぜひ,事務局にもお知らせいただければと思いま

す。

LCP 日本語版に関する最新情報は,どこで

手に入りますか?

LCP 日本語版に関する最新情報はホームページ

http ://www.lcp.umin.jp/に掲載いたします。この

ホームページは今後のワークショップの計画やマニュ

アルのダウンロード,必要に応じてQ&Aの追加など

を行います。

LCP 日本語版は,word 形式などでダウン

ロードできますか?

ホームページ http ://www.lcp.umin.jp/から

最新版をダウンロード可能です。

LCP に関して質問や意見がある場合には,

どうすればいいですか?

ホームページ http ://www.lcp.umin.jp/に掲

載されている連絡先までご連絡ください。LCP 日本

語版はまだリリースされたばかりで,今後,日本での

使用経験を経て,より有用なものにしていく必要があ

ります。そのためには,使用された方の感想や疑問点

の提示をしていただき,必要であればホームページを

通じて感想や質問に対する回答を提示したいと考えて

います。また,有益な活用方法をご紹介いただければ,

多くの方,ひいては患者・家族の利益につながると

思っています。現在のバージョンが最終形ではありま

せん。今後も改訂を得て,より良いものにしていく予

定ですし,そうしなければいけないと思っています。

そのためには,現場の皆様のご協力が不可欠です。

LCP に関して何かございましたら,ぜひ,ホーム

ページの連絡先までご連絡ください。

— 25 —

3.LCP 日本語版使用に当たってのQ&A

Q30

A30

Q31

A31

Q32

A32

Q33

A33

Q34

A34

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英国のホスピス,一般病棟および在宅での看取りの

ケアに用いられている Liverpool Care Pathway

(以下,LCP)1)は,すでに 10 年以上の実績を数え,

検討と改訂が行われている。LCP の日本への導入に

あたっては,茅根らによる翻訳,内容検討がなされ,

LCP 日本語版2)が完成した。しかしながら,英国と

日本での社会背景や文化,看取りの慣習の違いなどに

より,緻密な検討が必要であると考えられた。

そこで,従来から看取りのケアが行われてきた緩和

ケア病棟において LCP 日本語版のプレスタディを実

施し,目標達成の状況を調査するとともに,使用した

看護師に LCP 日本語版の記入のしやすさと LCP 日本

語版の有用性についてアンケート調査を行うことで,

多角的な検討を行った。なお,本稿の調査結果に基づ

いて LCP 日本語版は改訂がなされ,改訂されたもの

を本冊子に掲載している。

A.方 法

1.LCP 日本語版の実施

①緩和ケア病棟 2 施設において,LCP 日本語版の

使用基準を満たす患者 40 名に LCPを実施した。

② LCP の各セクションにおける目標達成の状況の

評価,バリアンスの発生状況を明らかにした。

2.LCPを使用した看護師へのアンケート調査

①緩和ケア病棟 2 施設において,LCP 日本語版を

使用した看護師 40 名に,LCP の記入のしやすさ,

LCPの有用性についてのアンケート調査を行った。

② ①のアンケート結果から,LCP の有用性を検討

した。

3.LCP 日本語版の改訂

LCP 日本語版の各セクションにおける目標達成状

況の評価とバリアンスの発生状況,看護師へのアン

ケート結果に基づき,ワーキンググループで LCP 日

本語版の改訂を行った。

B.結果・考察

1.LCP 日本語版の実施状況

LCP はチェックリスト形式のケアパスであり,セ

クション 1「初期アセスメント」,セクション 2「継続

アセスメント」,セクション 3「死別後のケア」に

よって構成されている。各セクションにはケアの目標

が示されおり,LCP 開始時既に目標が達成されてい

れば「はい」,評価時に未達成であれば「いいえ」,患

者が昏睡であり確認できない場合は「昏睡」,該当し

ない場合は「該当しない」にチェックし,評価を行っ

た。未達成である「いいえ」はバリアンスであり,バ

リアンスシートに原因,対処,結果を記載した。

1)LCP日本語版の実施期間

LCP 開始時から死亡までの平均期間は 3.3 日(最短

1日~最長 19 日,SD3.1)であった。

2)セクション1―初期アセスメント

a)安楽の評価(図 1)

安楽の評価の目標は,おおむね達成されていた。こ

れは緩和ケア病棟においては LCP 開始以前から,患

者が安楽に過ごせるよう積極的に治療やケアが調整さ

れていたためである。

しかし,「目標 1 :現在の処方の見直し,不必要な

処方を中止する」では,LCP 開始をきっかけに,患

— 26 —

LCP日本語版プレスタディの結果4市原 香織

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4.LCP 日本語版プレスタディの結果

図1 安楽の評価(n=40)

ある/はい なし/いいえ 該当なし/昏睡など

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

目標1:不必要な処方を中止する

目標2:頓用指示/疼痛

目標2:頓用指示/興奮

目標2:頓用指示/気道分泌

目標2:頓用指示/嘔気・嘔吐

目標2:頓用指示/呼吸困難

目標3:不必要な血液検査を中止する

目標3:不必要な抗生物質を中止する

目標3:不必要な点滴を中止する

目標3:心肺蘇生をしない

目標3:ICDを停止する

目標3a:不必要な看護介入を中止する

目標3b:シリンジポンプが開始できる

図2 精神/病状認識の評価(n=40)

はい いいえ 昏睡

0 2010 40 60 8030 50 70 90 100(%)

目標4a:日本語での意思疎通ができる/患者

目標4b:日本語での意思疎通ができる/家族

目標5a:診断名を認識している/患者

目標5b:診断名を認識している/家族

目標5c:死が近いことを認識している/患者

目標5d:死が近いことを認識している/家族

図3 宗教/スピリチュアルな支援への要望の評価(n=40)

はい いいえ 昏睡

※改訂版では目標6は変更されている

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

目標6a:宗教/スピリチュアルな支援への 要望を確認する/患者※

目標6b:宗教/スピリチュアルな支援への 要望を確認する/家族※

目標6:宗教的習慣を確認する

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者の内服が困難と判断された場合には,内服薬を中止

して静脈注射や持続皮下注射への変更が行われていた。

「目標 2 :事前に頓用指示を記載する」は,看取り

の時期に起こりうる症状に対する指示の記載である

が,すべての症状に頓用指示の記載のもれがみられた。

特に疼痛や興奮,気道分泌物の増加は,看取りの時期

に高い頻度で起こりやすい症状でもあり,頓用指示の

記載のもれに気づくことは重要であると考えられる。

しかし,すでに患者が昏睡で興奮がみられない,気道

分泌物の増加がない,疼痛,呼吸困難,嘔吐がもとも

と出現していなかったなどの理由で,頓用指示が不要

とされていた場合でも,LCP 開始をきっかけに医師

と看護師は頓用指示の必要性を再度話し合い,検討し

ていた。

「目標 3 :不必要な検査・治療を中止する」におい

ては,緩和ケア病棟では最小限の輸液が行われる場合

もあったが,LCP 開始によって,医師と看護師,家

族との話し合いのもとで輸液を中止していた。

b)精神/病状認識の評価(図 2)

「目標 5a :診断名を認識している/患者」は,緩和

ケア病棟では入院時に,すでに患者の診断名の認識を

確認していることが多く,LCP 開始にあたって再度

診断名の認識を確認していなかった。

「目標: 5c 死が近いことを認識している/患者」で

は,LCP 開始時に患者が傾眠傾向のため死が近いこ

とを確認できなかった場合や,認知障害のため理解が

困難な場合等ではバリアンスが生じていた。よって,

看取りの時期に改めて確認するのではなく,患者の意

識が保たれている時期に,病状や死が近いことについ

てどのように認識しているか話し合い,確認すること

が望ましいと考えられる。

「目標 5b :診断名を認識している/家族」「目標:

5d 死が近いことを認識している/家族」では,患者の

診断名や死が近いことについても説明がなされ,認識

されていた。しかし,急変などによって家族に十分な

説明が行われていない場合にバリアンスが生じていた。

c)宗教/スピリチュアルな支援への要望の評価(図 3)

「目標 6a :宗教/スピリチュアルな支援への要望を

確認する/患者」は,緩和ケア病棟では,LCP 開始前

から宗教的習慣や要望,看取り後のケアや葬儀につい

ても患者・家族と話し合われていることが多い。看取

りの時期には,患者は昏睡であり,改めて宗教/スピ

リチュアルな支援への要望を確認することが困難な場

合があるため,精神/病状認識の評価と同様に,患者

の意識が保たれている時期に確認することが望ましい

と考えられる。

「目標 6b :宗教/スピリチュアルな支援への要望を

確認する/家族」では,家族の宗教上の要望,看取り

後のケアや葬儀についての確認は,急変や入院後間も

ない状況では,家族の悲嘆が強く,率直に話し合うこ

とが困難なこともあり,看取り後に確認している場合

があった。

また,LCP を使用した看護師から,改訂前の達成

目標である「目標 6 :宗教/スピリチュアルな支援へ

の要望を確認する」について,具体的にスピリチュア

ルな支援をどのように評価するのか記入しにくいとい

う意見がみられた。そのため,改訂版では「宗教/ス

ピリチュアルな支援」という表現を,「看取りにあ

たっての宗教上の要望や信条を確認する」と変更した。

d)コミュニケーションの評価(図 4)

「目標 7 :家族へ連絡方法を確認する」および「目

標 8 :家族に施設の案内する」については,LCP 開

始前にすでに実施されている。「目標 9 :かかりつけ

医へ連絡する」は,英国はかかりつけ医との連携が緊

密な医療制度であり,日本の状況とは異なるため,改

訂版では削除した。

「目標 10a :ケアの計画を説明する/患者」について

は,看取りの時期の患者は昏睡であることが多かった。

「目標11:家族がケア計画を理解している」は,医療従

事者の提案するケアと家族が希望するケアに行き違いが

あった場合において,バリアンスと評価されていた。

以上の初期アセスメントの評価から,緩和ケア病棟

ではおおむね目標は達成されていたが,LCP の開始

がきっかけとなり,現在の処方や治療の見直しが行わ

れたり,患者の状態を考慮して事前の頓用指示の記載

が見直されたりしていた。また,不必要な処方や治療

は中止されていた。そして,患者の身体症状の評価の

みではなく,患者と家族の精神/病状認識,宗教/スピ

リチュアル,社会的な側面においてもケアの修正,再

検討が行われていた。

緩和ケア病棟では病状や死が近いことの認識,宗教

上の要望や信条を入院時から確認しているため,LCP

— 28 —

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開始時に再確認することはなかった。しかし,一般病

棟での LCP 導入においては,LCP 開始時に患者がす

でに昏睡状態で,意思確認が困難であることも考慮し,

開始時期などの検討が必要であると考える。

3)セクション 2 ―継続アセスメントにおけるバ

リアンスの頻度(表 1)

看取りの時期の身体症状は,興奮,気道分泌,疼痛,

においてバリアンスの頻度が高くなっており,これら

の症状に対しては,各施設の治療基準に基づいて対処

がなされていた。看取りの時期には口腔内の乾燥,吐

物や気道分泌物の貯留による汚染が生じやすいため,

「口腔内が湿潤し清潔である」という目標においても,

未達成の状況であった。口腔ケアによる口腔内の湿潤

と清潔の保持は,患者が安楽で快適に過ごすために重

要なケアと考えられる。

これらのバリアンスから,看取りの時期に注目すべ

き身体症状やケアが明らかとなり,率先して対処して

いくことが必要であると考えられた。

4)セクション3―死別後のケアの評価(図 5)

緩和ケア病棟では,従来より看取りの後の家族に対

して退院までの手続きや,退院後の諸手続きの説明を

行い,所持・貴重品の返却を行っている。また,死後

の処置については家族と相談し実施している。そのた

め,目標 13 から 17 については達成されていた。

しかし,「目標 13 :死亡退院の手続きを行う」およ

び「目標 17 :死亡後に必要な書類を説明する」につ

いては,実際に看護師が行っていた退院までの手続き,

退院後の諸手続の説明が「目標 15 :家族へ所定の手

— 29 —

4.LCP 日本語版プレスタディの結果

表1 継続アセスメントにおけるバリアンス分析

なし あり 1回 2回3回かそれ以上

痛みがない 31 9 7 1 1

興奮状態を起こさない 29 11 3 2 6

気道分泌が問題とならない 30 10 7 0 3

嘔気・嘔吐がない 35 5 2 3 0

呼吸困難がない 31 9 7 2 0

その他の症状(倦怠感・不眠・浮腫・掻痒感など)がない 34 6 4 2 0

口腔内が湿潤し,清潔である 33 7 2 2 3

排尿障害がない 39 1 1 0 0

投薬が安全で正確に行われている 40 0 0 0 0

患者が快適で安全な環境にいる 40 0 0 0 0

患者が便秘や下痢による興奮や苦痛がない 40 0 0 0 0

患者が自分自身の病状,状況を把握している 40 0 0 0 0

家族が死に対して心の準備ができている 36 4 3 1 0

宗教/スピリチュアルな支援が行われている 40 0 0 0 0

付き添っている人のニーズが満たされている 38 2 2 0 0

バリアンスの有無(人数) バリアンスありの内訳(人数)

バリアンスの生じた継続アセスメントの項目

図4 コミュニケーションの評価(n=40)

はい いいえ 昏睡

※改訂版では目標9は削除されている

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

目標7:家族へ連絡方法を確認する

目標8:家族に施設の案内をする

目標9:かかりつけ医に連絡する※

目標10a:ケア計画を説明する/患者

目標10bケア計画を説明する/家族

目標11:家族がケア計画を理解している

死亡までの4日間を分析対象とした。

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続きを知らせる」に含まれていたため,ワーキンググ

ループで検討し,目標 13 と目標 17 を削除した。

「目標 12 :かかりつけ医へ連絡する」は,初期アセ

スメントと同様の理由から,改訂版では削除した。

「目標 18 :遺族ケアのリーフレットを提供する」に

ついては,家族は死別後のサポートについて説明を受

け,リーフレットを提供されるという英国の標準的サ

ポートが反映されているが,日本での死別後のサポー

トは施設によって異なるため,バリアンスとなってい

た。しかし,緩和ケア病棟では,遺族ケアはリーフ

レットの提供のみではなく,それぞれの遺族の悲嘆に

配慮したケアがなされている。

このように,英国と日本では死別後のサポートに関

する情報を提供するシステムが異なるため,改訂版で

は「必要に応じて,遺族の悲嘆に対しての支援がされ

ている」と目標を変更した。

2.LCP の有用性の検討

LCP 日本語版のプレスタディを実施した後に,

LCP を実際に使用した看護師に対して LCP の有用性

についてのアンケート調査を行った(図 6)。質問項

目は,英国の急性期病院で LCP を使用した看護師へ

の調査3),ホスピスで LCP を使用した医師と看護師

への調査4)結果を参考に作成した。

回答方法は,LCP が看取りのケアに有用であった

かを,「1.そう思う」「2.まあそう思う」「3.あまり

そう思わない」「4.そう思わない」の 4 段階のリッ

カートスケールで評価し,「1.そう思う」「2.まあそ

う思う」を LCP が看取りのケアに有用であった項目

であると評価した。また,各回答に対する自由記載内

容も含め,有用性を検討した。

1)LCPが看取りのケアに有用だった項目

a)看取りの時期の患者と家族のケアの標準化

緩和ケア病棟においては従来から多職種チームのカ

ンファレンスにおいて,患者が看取りの時期であると

いう認識が共有されていた。しかし,LCP 開始に

よってその認識がより明確になり,意思統一できると

いう理由から,「LCP 開始により患者が看取り期であ

ることを確認できる」では,全体の 85 %が有用であ

ると評価した。

初期アセスメントの「患者のケアの見直しができる」

については,看護師が LCP の目標に従って,現在の

処方を見直し,頓用指示のもれに気づくきっかけと

なっていたため,74 %が有用であると感じていた。

また,LCP の導入により点滴の見直しが行われたこ

となどから,「不必要な治療が減少する」では 59 %が

有用であると評価した。患者のケアの見直しと同様に,

「家族のケアの見直しができる」では,患者と家族に

診断名や死が近いことについて確認することは,入院

後間もない患者や,担当することがなかった患者を受

け持った際,改めて患者と家族の病状認識を確認する

機会になったという理由から,有用と評価した者は

66 %だった。

継続アセスメントの「患者への適切な治療やケアが

行える」については,各目標を経時的に常に見落とし

なくチェックできるという理由から 74 %が有用,「家

— 30 —

図5 死亡後のケアの評価(n=40)

はい いいえ

※改訂版では目標12、13、17は削除されている

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

目標13:死亡退院の手続きを行う※

目標14:死後の処置について相談する

目標15:家族への所定の手続きを知らせる

目標16:家族に所持・貴重品について知らせる

目標17:死亡後に必要な書類を説明する※

目標12:かかりつけ医へ連絡する※

目標18:遺族ケアのリーフレットを提供する

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族への適切なケアが行える」は 69 %が有用であると

評価した。また,「継続したケアが提供できる」は,

シフトの引き継ぎの際に,経時的にいつどのようなバ

リアンスが生じているか,どのように対処したのかが

わかりやすいという意見から 69 %が有用であると評

価した。更に,「症状コントロールが改善する」は,

初期アセスメントによる治療やケアの見直し,継続ア

セスメントによる継続したケアを提供することが可能

になるという理由から,有用であると感じた者は

67 %だった。

「一貫したケアが行える」は,身体症状においてバ

リアンスが生じたとしても事前の頓用指示によって,

一定の基準で対処できるという意見から 69 %が有用,

また「通常のケアが見落としなく行える」では,身体

症状のみではなく口腔ケア,排泄のケア,褥瘡予防,

清拭などの通常行われる看護ケアについても目標が定

められており 59 %で有用であると評価された。さら

に,施設での看護ケアの基準があったとしても,看護

師はその時々の状況でケアを行っている場合もあり,

LCP によって統一してケアが実施できるという意見

や,今までは一つの症状に集中するあまりその他のケ

アを見落としてしまうことがあったが,見落としなく

ケアが行えるという意見があった。そして,LCP は

看取りの時期に必要なケアの目標が示されているとい

う理由から,「看取りの時期のケアを率先して行える」

では 56 %が有用であると評価した。

b)看護師への教育的効果

緩和ケア病棟での経験年数が少ない看護師は,看取

りのケアに自信が持てないと感じることも少なくはな

い。しかし,LCP によって必要なケアを見落としな

く実施できるという意見から,「看取りのケアが適切

に行えている確信につながる」については,53 %の

者が有用であると感じていた。また,「看取りのケア

の経験の少ない看護師の教育につながる」は,新しく

緩和ケア病棟に配属となり看取りに慣れていない看護

師の教育において,LCP は必要なケアが網羅されて

いるため指導に用いやすいという理由などにより,

71 %が有用であると評価した。

c)記録時間の短縮の可能性

LCP の記録時間については,今回はプレスタディ

であり,各施設は従来の電子カルテの記録も同様に

行っていた。そのため,看護師は 2種類の記録に時間

を要した。しかし,将来看取りの時期の記録が LCP

のみとなれば,各目標に対するチェックとバリアンス

の記載ですみ,記録時間が短縮できるのではないかと

いう観点から,「LCP のみであれば記録時間が短縮す

る」で有用と感じていた者は 64 %だった。さらに,

記録時間が短縮された分,患者と家族のケアに時間を

— 31 —

4.LCP 日本語版プレスタディの結果

図6 LCP使用後の看護師のアンケート結果(n=40)

そう思う まあそう思う あまりそう 思わない そう思わない

0 20 40 60 80 100(%)

LCPの開始により患者が 看取りの時期であることを確認できる

初期アセスメントで患者のケアの見直しができる

初期アセスメントで家族へのケアの見直しができる

不必要な治療が減少する 継続アセスメントにより

患者へ適切な治療やケアが行える 継続アセスメントにより家族へ適切なケアが行える

症状コントロールが改善する

継続したケアが提供できる

一貫したケアを行うことができる ホスピス・緩和ケア病棟で

通常行うケアが見落としなく行える 看取りの時期のケアを率先して行うことができる

看取り後に家族に適切なケアを行える

家族に必要な情報を提供することができる

患者と家族の情報量が増加する

多職種にケアについて相談する機会になる 看取りの時期のケアの経験が少ない看護師への

教育につながる 看取りの時期のケアが適切に行えている確信になる

看取りの時期の記録がLCPのみであれば 記録時間が短縮する

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費やすことができるという意見が聞かれ,今後の看取

りのケアを充実させるためには,LCP による記録時

間の短縮は重要な意味を持つのではないかと考えられ

る。

以上の結果から,適切な修正や使い方,適用方法を

検討したうえでの緩和ケア病棟への LCP 導入は,看

取りのケアに有用であったと考えられる。

2)従来の看取りのケアと変わらなかった項目

a)看取りの時期の患者と家族の情報量

緩和ケア病棟では,従来から看取りのケアを行って

きたため,看護師が LCP の導入によって更にケアに

有用であると実感しにくい項目もみられた。緩和ケア

病棟での患者と家族の情報収集は,看取りの時期を念

頭において行ってきたという意見もあり,LCP に

よって「患者と家族の情報量が増加した」については

全体の 32 %が有用と判断するにとどまった。

b)多職種によるチームアプローチ

従来から緩和ケアには多職種によるチームアプロー

チが重要であると考えられてきたため,プレスタディ

以前もケアについて多職種で相談する機会も多くもっ

ていたという意見があり,「多職種にケアについて相

談する機会になる」は 41 %であった。

しかし,LCP の開始によって有用性を感じにく

かったこれら 2項目は,日頃から看取りのケアを行っ

ている緩和ケア病棟の場の特徴を表しており,多くの

がん患者が一般病棟で死亡する状況を鑑みると,おも

に治療を中心とした医療を提供している一般病棟にお

いては,LCP 導入が看取りの時期に必要な患者と家

族の情報収集のきっかけとなることや,多職種と看取

りのケアについて相談する機会となることも考えられ

る。これらは,看取りのケアに特化していない一般病

棟における,看取りのケアの改善につながる項目でも

あると考えられる。

緩和ケア病棟での LCP 日本語版のプレスタディに

よって,看取りの時期にある患者と家族へのケアの目

標達成状況とバリアンスの発生状況が明らかになっ

た。そして,本稿に示したバリアンスの発生状況と看

護師へのアンケート結果に基づき,ワーキンググルー

プで検討が行われ,LCP改訂版が作成された。

そして,LCP を使用した看護師へのアンケート調

査では,従来から看取りのケアを行ってきた緩和ケア

病棟においても,LCP が看取りのケアに有用である

ことが証明された。

今後は改訂された LCP 日本語版が,緩和ケア病棟

での看取りのケアだけではなく,英国と同様に一般病

棟,在宅においても普及し,患者と家族の看取りのケ

アの質向上に寄与していくことを期待する。

文 献1)Ellershaw J, Wilkinson S : Care of the dying: A Pathway

to Excellence. Oxford University Press, 20032)茅根義和: Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版―看取りのパス.緩和医療学 9 : 233 ― 238, 2007

3)Jack BA, Gamblzes M, Murphy D, et al : Nurse’sperception of the Liverpool Care Pathway for the dyingpatient in the acute hospital setting. Int J Palliative Nurs9 : 375 ― 381, 2003

4)Gambles M, Strizaker S, Jack BA, et al : The LiverpoorCare Pathway in hospice: an exploratory study of doctorand nurse perception. Int J Palliative Nurs 12 : 414 ―421, 2006

— 32 —

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淀川キリスト教病院ホスピス(以下,当病棟)では,

従来から看取りのケアをホスピスケアにおける重要な

ケアと位置づけて実践してきた。そのため,当初

Liverpool Care Pathway(LCP)という看取りのパス

導入について検討した際,看取りのケアに新たにパス

が必要なのだろうか,今まで行ってきた看取りのケア

とどのように違うのだろうかと疑問を感じた。しかし,

そのように感じながらも,LCP 導入後には,看取り

の時期に必要なケアを見直すことができ,必要なケア

を見落としなく提供できると実感している。そして,

LCP の導入が,より適切な看取りのケアの提供につ

ながるのではないかと感じている。

A.当病棟における LCP導入のプロセス

1)病棟内でコアメンバーを決定する

当病棟でのコアメンバーは,ホスピス長,看護課長

と係長であったが,さらにスタッフの中から,看取り

のケアに興味がある者,看取りのケアに自信が持てな

い者など,看取りのケアを学ぶ機会になるので声を掛

けてもよいと思われる。

2)コアメンバーが数例に使用する

まずコアメンバーが LCP について勉強し,数例に

使用した。実際に使用してみないとわからないことも

あり,コアメンバーでまず使用してみることが必要で

ある。そして,記入しにくい箇所はないか,検討を

行った。

3)病棟で勉強会を開催する

コアメンバーを中心に,カンファレンスや日勤終了

後など,スタッフ全員が参加できるように勉強会を開

催した。勉強会では,スタッフに LCP についての説

明を行い,使用に際しての意見をもらった。

4)病棟での使用手順書を作成する

勉強会でのスタッフからの意見や疑問を参考に,コ

アメンバーで病棟での使用手順書を作成した。

5)LCPを開始する

当病棟の場合は,LCP の使用基準を満たす患者が,

常に何人かいたが,スタッフが LCP の記入に慣れる

までは,まず 1事例から開始した。また,経過の予測

しやすい事例で開始する方が導入はスムーズであっ

た。たとえば,急変などでこのまま看取りになってし

まうのか,それとも病状が落ち着くのかわからない時

や,緊急入院で慌ただしい状況で開始するよりも,予

後が数日の可能性が高いということが,予測しやすい

状況の方がよいかと思われる。

B.手順書の作成と内容(図 1)

1)LCP開始の判断

当病棟では,患者が LCP の使用基準を満たしてい

るか,医師,リーダーナース,受け持ち看護師と 3者

が合意の元で開始をした。状況としては予後が 2~ 3

日であり,医師が家族に予後の説明を行った後に開始

していた。

2)記入の分担

当病棟では看護師がすべて記入したが,医学的な所

見などは医師と分担することも可能である。

3)記入時間の工夫

セクション 2 ―継続アセスメントでの時間ごとの

チェックは,看護師がラウンドする時間に合わせ,4

時間ごとのチェックは 2 時― 6 時― 10 時― 14 時―

18 時― 22 時,12 時間ごとのチェックは 10 時― 22 時

に行うようにした。

— 33 —

5.淀川キリスト教病院ホスピスでの LCP導入の実際

淀川キリスト教病院ホスピスでのLCP導入の実際5

市原 香織

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4)スタッフが LCP開始をわかるような工夫

各勤務帯で出勤したスタッフが,患者に LCP が開

始されていることがわかるように,開始日,ID,患

者氏名等を記入したリストを作成した。また,申し送

りで伝えたり,患者の電子カルテを開く際に伝言メモ

が出るなどの工夫を行った。

5)保管方法

記入中の LCP や手順書は,リーダーデスクに置く

などを決めておいた。

C.LCP導入のポイント

まず,最初のポイントは,スタッフが LCP の記入

を負担に感じず,使用しやすいように配慮することで

ある。スタッフは記入方法がわからず困っていないか,

記入に時間がかかっていないかなど,コアメンバーか

らスタッフへの声掛けが必要である。また,スタッフ

が LCP の記入にあたって困ったこと,わからなかっ

たことなどを自由に書き出してもらう用紙(表 1)を

作成し,その内容をコアメンバーで検討し,解決方法

を手順書に追加していくことが必要である。

次のポイントは,LCP の導入によるメリットを活

かせるようにすることである。LCP を使用した事例

を振り返り,目標達成の状況やバリアンス分析から看

取りのケアの改善に向けた検討を行うことや,コアメ

ンバー自身が LCP の導入によって「看取りのケアが

継続的にもれなくできる!」や,「患者の症状緩和に

つながった!」など,LCP によるメリットを実感し

てスタッフにフィードバックすることが大切ではない

かと思う。これらの LCP 導入による看取りのケアの

改善に向けた検討や,スタッフが LCP のメリットを

実感しながら使用していくことで,LCP を活用する

ことの意味が明らかになるだろう。

— 34 —

表1 LCP記入にあたって困ったこと/わからなかったことを記入する用紙

日付 疑問点

3/6 意識が低下している患者の病状認識をどのように確認し

たらいいか。

3/10 身の置き所のないしんどさは,倦怠感なのか,不穏なの

かが難しい。

3/11 宗教/スピリチュアルな支援の目標の評価が難しい。何

を基準に達成としたらいいのか。

3/12 チェック時間の前後で,症状が出ても対処できたら,次

のチェックは達成になるのか。

3/14 身の置き所のないしんどさと,足の痛みが同時に出現し

て,その時は痛みに対してレスキューを使用した。その

場合のバリアンス分析の記録は一緒に記入してもよいか。

3/30 家族/関係者が患者に差し迫った死に対してこころの準

備ができているという目標に対し,夜間の付き添いがな

く,日中の様子をみて準備ができていると思えない場合

の評価はどうすればいいか。

【LCPの手順書】1.予後 1 週間~数日と医師との合意の上で判断し,リーダーがLCP の導入を決定して下さい。導入したらリーダーデスクのリストに記入して下さい。

2.初期アセスメントはその時の状態を,メンバーが記入して下さい。

3.経時の記入はラウンドの時間と合わせて4間毎の記入では,6時―10時―14時―18時―22時―2時として下さい。12時間毎の記入は10時― 22時として下さい。時間が前後してもかまいません。

4.4 時間毎,12 時間後との用紙は 1 日 1 枚必要です。旧紙チャートの棚に場所を作っています。看取り後もその棚に入れてください。

5.記入に迷ったこと,疑問点はその場所に理由を書いた付箋を貼っておいて下さい。

6.疑問点・不都合があれば“LCP 使用にあたっての疑問・困った点”の用紙をリーダーデスクに置いていますので記入ください。

【判断に迷うこと】1.かかりつけ医への連絡は“いいえ”です。バリアンスですが全例連絡は特にしないので,分析の記入いりません。

2.倦怠感,不眠,浮腫,掻痒感などはその他の症状で記入し,“ある”ようなら,バリアンスを記入。

3.しんどさの増強,痛み,喘鳴など,事前に頓用指示の使用で避けれたバリアンスは Vに○をする。避けられなかったバリアンスはVのみ。

4.意識低下している患者,看取り前に認知障害がある患者などは,元々,理解していても,今が昏睡であれば昏睡にチェックして下さい。

5.遺族へのリーフレットは,当病棟では後日すずらんの会の案内なので,“いいえ”です。バリアンス分析は“後日発送”で結構です。

6.別紙の LCPプレスタディにあたっての用紙もお読み下さい。

よろしくお願いいたします! 何かあれば市原まで

図1 実際の LCPの手順書

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A. 準備・導入

①コアメンバーで学習し,Liverpool Care Pathway

(LCP)導入の目的と使用方法(約束事)を明確化す

る。メンバーには,病棟管理職も加える方が機能しや

すい。

②病棟で目的と使用方法について共有し,合意を得

る。

③目的と使用方法について文章化し,導入までのス

ケジュールを立てる。必ず医師・看護師など,全員に

説明ができるようスケジュール調整する。可能であれ

ば,口頭での説明の方が理解しやすい。

④管理方法を明確にしておく(置き場所の作成,新

しい用紙の保管方法,終了後の保管方法など)。

⑤トラブル発生時の対処として,LCP 管理責任者

(コアメンバー)を開示しておく。

⑥使用方法は,できるかぎり病棟の業務に組み込む

工夫を行う。

⑦導入初期の使用方法例を表 1に示す。

⑧記入方法例を表 2に示す。病院・病棟システム上

全例に対して提供されていることとされていないこと

はあらかじめ抽出しておき,チェックの負担をできる

だけ削減する。

LCP を導入するには,導入の目的をチームで共有

することが重要となる。現状での導入では,従来の記

録と LCP の 2 重の記録となるため,導入のメリット

とともに業務量増加のデメリットも発生するからであ

る。そのため,業務内に組み込む工夫や,医師(看護

師)に協力を求めるのも一案である。また,協働する

ことによって,情報共有やディスカッションの場も広

がるという効果も期待できる。

B.開 始

①最初は,1 ~ 2 例から LCP 導入を開始する。記

入することに慣れることを目標とする。記入に際して

の迷いや混乱を抽出し,問題解決と共有をする。誰で

— 35 —

6.聖隷三方原病院ホスピスでの LCPの使用経験と利用のコツ

聖隷三方原病院ホスピスでの LCPの使用経験と利用のコツ6

福田 かおり

表1 LCPの使用方法例

①開始の基準:平日日勤帯,主治医が中心となり,少なくとも

担当看護師とリーダー看護師と共に開始の判断をする。

(土・日・休日や夜間帯は,主治医が不在であり現状を

適切に判断することが困難なため。また,チームとして

の判断をするため看護師も一緒に)

②中止の基準:一旦は状況が悪化したが(感染症合併など),

看取りの状況からは回復したと判断した時点で主治医が

中止する。経過日数が判断基準ではなく,あくまで病態

が基準となる。

③導入者の告知方法:

導入者を記入する用紙を作成(開始月日・氏名)

各勤務帯の申し送りで口頭伝達する。

電子カルテ上,付箋機能を用いて記入“○/○~ LCP 開

始”する。

表2 LCPの記入方法例

①セクション1(初期アセスメント):

診断&Demographics,身体症状,安楽の評価(目標

1,2,3)は,医師が記入,それ以降は看護師が記入

目標3bは全例“はい”に記入(病院管理)

②セクション2(継続観察):

観察時間の設定は,定期ラウンド時間にあわせる

6時間チェック(2時・6時・10時・14時・18

時・22時)

12時間チェック(10時・22時)

10時のチェックは医師が朝のラウンドで記入,他は

看護師

時間厳守ではないのでその付近での観察でよい

定期チェックをとばした場合も,空欄にしてそのまま継

③セクション3(死亡診断):

看護師がすべて記入

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もすぐ見ることができる工夫(ファイリングなど)を

行う。

②他職種を巻き込む工夫を行う(LCP の広報,導

入患者の告知方法,誰でもわかる場所に置き場所を作

成など)。

③数例終了後,コアメンバーで使用に関しての評価

を行う。問題を先送りにしない。

病棟で LCP の導入の目的や記入方法の周知が終了

したところで開始となる。本来であれば全例に使用す

ることで看取りのケアの質向上に繋がると考えられる

が,まずはスタッフが迷わずに記入できるようトレー

ニングから始めることが必要である。一旦導入すると,

24 時間どのスタッフも同じように記入できることが

求められる。その都度立ち止まると業務に支障が生じ

るためである。できるだけ事前に迷いが生じやすいこ

とを整理しておくことが望ましい(マニュアルの活

用)。

C.評 価

①定期的な評価日,評価者を決めておく(管理責任

者,コアメンバーなど)。

②“看取りのケアの質評価(症例)”と,“LCP の活

用についての評価”の両方の視点での評価を行う。

開始後ある程度慣れてくると,記入や管理がずさん

になることは多くある。したがって,管理責任者を明

らかにし,定期的に評価を行うことは有用と考える。

定着させるためには,ありのままのスタッフの意見の

抽出も大切である。

D.LCP使用によって得られたもの(まとめ)

①看取りの時期であるという認識が,スタッフ個々

の感覚的判断によるものではなく,客観的指標によっ

てチームで判断され,共有できる。

②看取りの時期に,現在行われている治療やケアの

見直し,今後必要となる看取りへの支援がチームに

よってタイムリーに評価され,提供できる。そのこと

により,いち早い苦痛緩和や,家族ケアができる。

③看取りのケアの意味づけができ,スタッフの自信

や安心に繋がる。

— 36 —

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A.一般病棟における終末期ケアの問題点

近年,わが国におけるホスピス・緩和ケアについて

は,緩和ケア病棟,緩和ケアチームなどの充足ととも

に,その質は向上してきているが,がん患者の多くが

その最期を過ごす一般病棟において提供される緩和ケ

アの質はいまだ十分とはいえない。end-of-life care,

特に看取りの時期における患者,家族のケアにおいて

も改善すべき点は多い。

一般病棟では「初回治療(手術など)~再発に対す

る治療(化学療法など)~終末期」というプロセスを

経て看取りのケアを提供することになるが,そうした

経過の中で,予後が「月単位」から「週単位」へ,次

いで「週単位」から「日単位」へと切り替わる時期を

意識することは,ケアの質を高めていくうえで重要で

ある。

ところで,一般病棟においては,「予後が“日単位”

に差し掛かるあたりの判断が難しい」「ケアが後手に

回り,十分な関わりができない中で最期の時を迎えて

しまうことが多い」「最期が近づいてきた時になって,

やるべきことをやっていなかったことに気づくことが

ある」といった声がしばしば聞かれる。こうした問題

の解決に向けて,「何をどうすればよいのか」を具体

的に示してくれる“道しるべ”のようなものを用いて,

患者,家族に関わる医療者が共通の目線でケアに携わ

ることが必要であり,そうしたことを目的とした共通

のツールの活用ができないかと考えた。

そこで,当時,イギリスにおいて看取りのプロセス

の指標として広く普及していた Liverpool Care

Pathway(LCP)1)のオリジナル版の導入を試みた。

ここではその使用経験を紹介する。

B.一般病棟における LCPの使用経験2)

緩和ケア病棟を有さない急性期病院の外科病棟にお

いて LCP の導入を試みた。この際に使用したアセス

メントシートはオリジナル版1)を筆者らが独自に日本

語訳したものであり,今回発行した LCP 日本語版の

アセスメントシート(ver1.0)とは基本的な構成はほ

ぼ同様であるが,細部においては若干の差異があるこ

とをお断りしておく。

2004 年 4 月から 6 月までの 3 カ月間において,こ

れまでこの病棟で普段より行っていた緩和ケアに続い

て,このシートを用いて看取りのケアを行った(第 1

期)。それぞれの症例で発生したバリアンスを抽出し,

発生理由や対処方法などについて検討した。次いで,

2004 年 12 月から 2005 年 2 月までの 3 カ月間,再度

LCPによる評価を行った(第 2期)。

1.導入第 1期(2004 年 4 月~ 6月)

対象は,この期間に当病棟に入院中であった全終末

期がん患者 8 例(消化器がん; 6 例,乳がん; 2 例)

であった。運用の実際にあたっては,最初から LCP

を病棟全体で共通のツールとして用いるためには,そ

の導入に向けての教育やトレーニングなどに多くの時

間や労力を要すると考えられたため,まずはスモール

グループによるパイロット的な運用を目指した。すな

わち,筆者が中心となり,プライマリーナース,各勤

務帯の担当ナースと,随時,病状や問題点の確認など

を行いながら,パスを運用することとした。

8例全例でパスを遂行しえた。評価期間(LCPの適

用の判断から死亡まで)は 3 ~ 13 日(平均 7 日)で

あった。Section 1(初期アセスメント)におけるバ

— 37 —

7.一般病棟での LCPの使用経験と運用のコツ

一般病棟での LCPの使用経験と運用のコツ7

中島 信久

Page 38: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

リアンスの発生率の高い項目は,「病状認識(死が近

いこと)」(5/8〈62.5 %〉),「DNRの確認」(4/8〈50 %〉)

であった(表 1)。次に,Section 2(継続アセスメン

ト)におけるバリアンスについて検討する。「苦痛の

緩和」については,「初期アセスメント」の時点で問

題点を解決できれば,その後はレスキュー投与を適切

に行いながらタイトレーションすることなどにより,

多くの場合で苦痛の緩和を図ることが可能であった。

「治療・処置」「薬物投与」「体位」「排便」の各項目に

おいては,解決が困難なバリアンスはほとんどなく,

おおむね良好な経過のまま最期を迎えることができ

た。「患者の精神的ケア」については,「Goal」として

掲げられている項目をスタッフが意識しながらケアを

行うことで,バリアンスの発生は少なかった。一方,

「家族へのケア」については,キーパーソンを中心と

した家族関係の把握が,死が差し迫ったこの時期にお

いても不十分な場合が 3例(37.5 %)あり,また 5例

(62.5 %)で,家族の思いを引き出すのに苦慮した

(表 1)。

以上より,「初期アセスメント」のうちの「治療・

検査の見直し,DNR」「病状認識(死が近いこと)」と,

「継続アセスメント」のうちの「家族へのケア」の 3

項目について,バリアンスが発生する理由と対処方法

について分析した。その結果,病状認識度の低さや患

者,家族とのコミュニケーションの不足が,こうした

バリアンスを生じる背景にあることが推察された。

こうした問題については,病棟内で以前からしばし

ば指摘されていたため,病状認識やコミュニケーショ

ン面を含めた緩和ケアの質の向上を目的として,

Support Team Assessment Schedule(STAS)日本

語版の導入をこの時期に行った3)。その際に得られた

評価結果から,病状経過のより早い時期において,患

者,家族が病状についての理解を深めることと,患

者-家族-医療者間のコミュニケーションを向上させ

ることの両者が,提供するケアの質を向上させうると

いう結果を得た4, 5)。そこで,STAS 日本語版を用い

た緩和ケアが病棟全体として標準化し,共通の目線で

緩和ケアを提供できる体制が確立したのちに LCP の

運用を再び試みた(第 2期)。

2.導入第 2期(2004 年 12 月~ 2005 年 3 月)

第 1期と同様に,この期間に当病棟に入院中であっ

た全終末期がん患者 7例(消化器がん 5例,乳がん 2

例)を対象とした。運用方法は,第 1期と同様とした。

7例全例でパスを遂行しえた。LCPによる評価期間

は 4~ 14 日(平均 8日)であった。Section 1(初期

アセスメント)におけるバリアンスを表 1に示す。第

1 期でバリアンス発生率の高かった項目のうち,「治

療・検査の見直し,DNR」については十分な改善は

得られなかったものの,「病状認識(死が近いこと)」

「家族のケア」のバリアンス発生率は,第 1 期と比較

して半減した。

C.運用にあたっての注意点とコツ

一般病棟における緩和ケアの質の向上を目指してい

く取り組みの中で,より良い看取りのケアの実践を目

指して LCP を導入したプロセスを紹介した。この際

— 38 —

表1 バリアンス発生率の比較

Goal 1:投薬の再評価・中止

Goal 2:頓用指示

Goal 3:治療・検査の見直し, DNR

Goal 4:ケアの見直し

Goal 5:病状認識(死が近いこと)

Goal 6:家族への連絡,情報提供

家族のケア:家族関係の把握

      家族の思いの表出

第1期

3/8 (37.5%)

2/8 (25.0%)

4/8 (50.0%)

3/8 (37.5%)

5/8 (62.5%)

3/8 (37.5%)

3/8(37.5%)

5/8(62.5%)

第2期

2/7 (28.6%)

2/7 (28.6%)

3/7 (42.9%)

2/7 (28.6%)

2/7 (28.6%)

2/7 (28.6%)

1/7(14.3%)

2/7(28.6%)

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の経験をもとに,一般病棟で LCP 日本語版を用いる

際の注意点やコツなどについて述べる。

1.開始時期について

LCP による評価の開始時期については,前掲の

「パスの適応基準」を参考に,おおむね「最期の 1 週

間」を目安としたが,実際の評価期間は 3 ~ 14 日と

幅があり,開始時期の判断を正確に行うことが難し

かった。LCP 発祥の地であるイギリスと比べて,わ

が国ではやや早い時期に「寝たきり」となったり,

「内服が困難」となったりする患者の割合が多い傾向

にあると考えられるため,このパスの適用期間は長く

なる可能性がある6)。

ところで,パスの適用期間が多少長くなることは,

その分だけ看取りのケアの準備に充てる時間的余裕が

できると前向きに捉えることもできよう。このパスを

使うことに習熟し,より適切な運用が可能となってい

くことで,この問題は解消されていくであろう。

2.LCP を運用する前にしておくべきこと

第 1期と第 2期におけるバリアンス分析の結果から

もわかるように,看取りの時期のケアの質は,そこに

至るまでのプロセスにおけるケアの内容の影響を受け

る。患者が現在,抗がん治療中であり,今後,徐々に

緩和ケアのニードが高まってくるであろう時期から,

患者,家族との関わりの中で生じるさまざまな問題を,

その都度適切に解決しておくことが重要である。

ところで,この際に注意してほしいこととして,

「STAS → LCP という流れでケアを行いましょう!」

ということを勧めているわけではないことを確認いた

だきたい。当時われわれが働いていた一般病棟では,

より良い緩和ケアを提供したいが,何を拠りどころに

すればいいのかがわからずに困っていた。その際,

STAS日本語版の導入を試み,これが病棟全体に普及

していくことにより,予後「月単位」の時期からの緩

和ケアの質が充実していった。そうした状況において,

「残り 1週間」以降の時期に LCPを用いることで,看

取りの時期のケアの質が向上したという“1つの方法”

を紹介したのである。

大切なことは,LCP 日本語版を用いて,より良い

看取りのケアの提供を目指すのであれば,緩和ケアが

必要となる,なるべく早い時期から,患者,家族に関

わる医療スタッフ全員が共通の認識のもとにケアを行

える環境をつくっておくことである。

従来,緩和ケアの質の向上のためのシステムが確立

している,またはその過程にある場合は,その方法を

ベースにしながら日々のケアを行い,その延長線上で

LCP 日本語版を用いることで,質の高い看取りのケ

アを提供できるであろう。

3.バリアンスへの対処方法-病状認識

バリアンスの解析と対処方法について検討する。第

1期においては,初期アセスメントの中でバリアンス

発生率の高い項目は,「病状認識(死が近いこと)」

(5/8〈62.5 %〉),「DNRの確認」(4/8〈50 %〉)であった。

「病状認識(死が近いこと)」については,この時期

に至ってから,そのズレを修正することは難しいし,

これによって得られる効果も不明瞭である。それゆえ,

より早い時期から修正しておくことが重要ではある

が,その一方で,この時期に至るまでに十分な病状理

— 39 —

7.一般病棟での LCPの使用経験と運用のコツ

表2 一般病棟における円滑なLCP導入のためのポイント

・上からの押しつけで始めない!(評価すること自体が目的化

する危険性がある)

・最初は小規模から始める!

(数名のメンバーが中心となって,いま問題となっている 1

例1例に対して LCPの運用を行う)

・関心を持った仲間を徐々に増やしていく(医師や師長,主任

も含めて!)。

・部署全体で運用開始となった後も,限られた業務量の中で,

対象を限定して行う。

(アセスメント項目が多くて,仕事量が増えそうという意見も

導入当初に聞かれたが,アセスメントの項目数が少ないと,

そのために評価が抜け落ちる危険性は無視できない。LCP

に習熟していく中で,この問題はおそらく解決していくと思

われる)

・成功の秘訣は,その「良さ」をスタッフが実感できるか否か

にかかっている!!(困難な壁にぶち当たった時こそ,仲間と

の話し合いを大切に!)

表3 一般病棟スタッフの声― LCP導入のメリット

・「最期の 1週間」すなわち「看取りの時期」に至っているこ

とを意識するきっかけになる

・看取りの時期に必要なケアの見直しができる

・看取りの時期に必要なケアが一目でわかり,見落としが減る

(「今,何をしなければならないのか」に気づくことができる)

・必要なケアをもれることなく提供できる

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解が得られていない場合は,患者,家族に早急に病状

の理解を働きかけるのではなく,患者,家族の認識に

どの程度のズレがあるのかを医療者側が理解したうえ

で,ケアに携わっていくというスタンスを目指すのが

良いであろう。

4.円滑な導入のためのポイント

LCP がイギリスをはじめ,ヨーロッパ各国で短期

間に広く普及したことは,このパスの有用性を裏づけ

るものであろう。しかし LCP は,これを用いるだけ

で看取りのケアの質を向上させる魔法のツールではな

い。これまでに複数の施設で STAS 日本語版や LCP

の導入のプロセスに関わってきた経験から,LCP 日

本語版を円滑に導入するためのポイントを表 2に示

す。それぞれの施設で導入を試みる際に参考になれば

幸いである 2, 3)。

最後に,LCP の運用に関わった一般病棟のスタッ

フの声を表 3に示す。

D.おわりに

LCP 日本語版を用いることで,患者,家族に対す

る看取りのケアの質が高まる。このことを,ケアを提

供する側である一般病棟スタッフが実感することで,

看取りのケアがより身近なものになることを期待す

る。

文 献1)Ellershaw J, Wilkinson S : LCP-Hospital. In : Care of

the dying. A pathway to excellence. Oxford Universitypress, 2003, Appendix 1

2)中島信久,秦 温信: Liverpool Care Pathway(LCP)の一般病棟における使用経験.緩和医療学 9 : 147 ―153, 2007

3)中島信久,秦 温信,小嶋裕美,他:急性期病棟における STAS日本語版の導入と問題点―アンケート調査の結果から.緩和ケア 16 : 561― 565, 2006

4)中島信久,秦 温信:がん告知の内容からみた終末期ケアの質の検証― STAS日本語版によるクリニカル・オーディット.緩和医療学 8 : 55 ― 62, 2006

5)中島信久,秦 温信:進行再発癌患者に対する化学療法の endpointの説明が終末期ケアの質に及ぼす影響.Palliative Care Research 1 : 121 ― 128, 2006

6)茅根義和: Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版―看取りのパス.緩和医療学 9 : 233 ― 238, 2007

— 40 —

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A.事例の概要と経過

1.患者紹介

患者:Y氏,70 歳代,男性。

診断名: S状結腸がん,肝臓転移,腹膜転移。

家族背景:妻と 2人暮らし。長男と長女は既婚で別

世帯,孫 5人。

キーパーソン:妻

2.現病歴

200X 年 4 月,S 状結腸がんの診断で,S 状結腸切

除術,小腸部分切除術施行。診断時にすでに肝転移・

腹膜転移があった。以後は,化学療法を施行していた。

200X + 1 年 2 月,自宅で療養していたが,ADLの

低下,食事摂取量が低下し,嘔吐もみられた。腹痛が

増強し,オキシコンチン®を内服していたが,コント

ロール不良。腹水の貯留,下肢の浮腫もみられた。医

師からは,化学療法の効果はなく,ホスピス受診を勧

められ,同月ホスピス外来に妻と長男が受診した。患

者は全身倦怠感の増強のため,ホスピスへの入院を希

望した。

3.ホスピス入院後

ホスピス入院後,腹部の痛みに対してはデュロテッ

プMT パッチ®2.1mg 貼用,ロピオン®1 回 50mg,1

日 2 回静注により軽減した。また,悪心・嘔吐に対し

てプリンペラン®10mg1 日 2 回静注,全身倦怠感・食

欲不振に対してはリンデロン®4mg1 日 1 回静注を施

行しており,患者は症状が緩和され,穏やかに過ごせ

るようになった。

しかし,入院 10 日目頃より食事摂取は困難となり,

ADL はさらに低下,看護師 2 人により,全介助で

ポータブルトイレへの移動を行うようになった。日中

は傾眠であるが,身の置き所のないしんどさがあり,

セレネース®2mg +生食 50ml の点滴を使用すること

もあった。また夜間は入眠がはかれず,ドルミカ

ム®10mg +生食 100ml の点滴を朝まで使用していた。

辻褄の合わない言動もみられ,「しんどい」という訴

えが続き,寝たり起き上がったりという動作を繰り返

すようになった。

B.LCPの導入と使用

当病棟では,「セクション 2 ―継続アセスメント」

でバリアンスが生じた際の記録を,電子カルテでの経

時または SOAP記録として行った。

1.LCP の開始

入院 14 日目の 3 月 6 日,患者の予後が数日と医師

と看護師の複数名で判断し,Liverpool Care Pathway

(LCP)を開始した(使用基準の記載参照)。

2.LCP の記載

1)セクション 1 ―初期アセスメント(LCP 記載

参照)

安楽の評価では,呼吸困難時の頓用指示の記載がな

かった。そこで,医師に確認し,患者は肺転移や肺炎

などによる症状はなく,呼吸困難の訴えはなかったた

— 41 —

8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合

事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合8

市原 香織

* S(Subjective): 主訴,患者の訴えなど主観的情報,O(Objective):理学所見,検査所見などの客観的情報,A(Assessment): 評価・分析,P(Plan): 検査や治療の指針などの計画の 4分類。

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め,出現時には医師にコールすることをバリアンス記

入欄に記録した。

2)セクション 2 ―継続アセスメント(以下,バ

リアンスが生じた際の電子カルテでの経時また

は SOAP記録)

[3月6日]10 : 00 経時記録

夜間ドルミカム®の点滴で入眠が図れているが,8

時に点滴終了後,徐々に覚醒する。体動も多くなり,

苦痛様の表情あり。「しんどい」と訴えあり。10 : 00

不穏時の頓用指示セレネース®1A 生食 50ml 点滴施行

するが,軽減せず。

[3月6日]10 : 00 SOAP記録

〈# 2 予期悲嘆〉

S:(妻)先生に数日って言われたのが嘘のようね。

もう少し一緒に居られると思ったけど。しんどいのは,

かわいそうね。亡くなった後の服はどうしたらいいか

しら。前に主人とも話していたのよ。(長男)悪く

なっていますね。もう十分がんばったから,苦しまな

いようにしてあげたいです。

O :本人の落ち着かない様子をみて,妻も緊張し

た表情で「もう,だいぶん厳しいですか。どうしたら

いいの」と訴える。医師より妻,長男,長女に予後が

1~ 2 日の状態であること,セデーション開始し苦痛

の緩和を図ることについて説明があり,同意が得られ

た。その後,妻から看取りの準備についての質問もあ

り,今後起こりうる症状や,看取り後の着がえの服,

寝台車の手配など説明をする。妻,長男,長女とそれ

ぞれの手配について相談している。

A :妻,長男,長女とも厳しい状態は理解し,気

持ちの表出もみられる。また,家族で看取りに向けて

の準備を行えている。

P:本人の苦痛の緩和を図り,家族も穏やかに付き

添えるよう配慮する。

[3月6日]14 : 00 SOAP記録

〈# 1 消耗性疲労〉

S:しんどい。

O:セレネース®点滴後,苦痛様表情変わらず,体

動おさまらない。13:00 ~注射用アイオナール・ナト

リウム® 0.2mg 1 バイアル+生食 100ml 点滴開始し,

入眠図れる。体位交換・口腔ケアで覚醒みられず,表

情穏やか。血圧・脈拍変化なし。無呼吸みられず。四

肢冷感あり。チアノーゼ認めず。家族にセデーション

開始の説明後,14 : 00 ~フェノバール ®持続皮下注

射 0.8ml/h にて開始し,2時間後 0.4ml/h に減量予定。

A :セデーション開始によって,苦痛は緩和され

ている。

P:苦痛の増強がないか引き続き観察する。

[3月7日]1 : 00 経時記録

体動あり。家族からもしんどそうと訴えがあり。

フェノバール持続皮下注射 1.0ml 早送りを行う。

[3月7日]2 : 00 経時記録

体動おさまらず,注射用アイオナール・ナトリウム®

0.5mg 0.5 バイアル+生食 50ml 点滴,終了後穏やか

となる。家族は宿泊し,交代で本人のそばで付き添っ

て声かけをしている。

[3月7日]10 : 00 経時記録

マットレスをエアマットに変更することを,家族に

提案するが「穏やかに眠っているから,そっとしてあ

げて欲しい」と希望あり。体位変換で調整していくこ

とにする。

[3月7日]14 : 00 SOAP記録

〈# 1 消耗性疲労〉

S:(発語なし)

O :口腔ケア時に手足の動きがみられるが,すぐ

に落ち着く。失禁時にも手足の動きがあり。苦痛様表

情なし。家族も「このままで,大丈夫そうです」と話

す。

A:苦痛の増強みられず。

P:経過観察。

3)セクション3―死亡後のケア(LCP記載参照)

3 月 7 日 23 : 40,妻,長男夫婦,長女夫婦,孫た

ちに囲まれて永眠される。それぞれの家族が「よく頑

張ったね。ありがとう」と声をかけていた。死後の処

置は,妻と長女と一緒に行い,本人の好きだった普段

着に着替えた。長男は寝台車の手配や,親戚への連絡

を行っていた。当病棟での遺族会の案内は,通常 2ヶ

月後に送付することにしており,本事例でも同様に行

うこととした。

C.事例を通しての LCP使用の感想

LCP 導入によって,セデーション開始前後から,

— 42 —

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患者が穏やかな状態であるかを常に注意深く観察し,

対処していくことができた。また,出現している症状

だけでなく,その他の目標に対してもバリアンスは生

じていないかに注意を払うことができた。例えば,気

道分泌が増加していないか呼吸音の変化を観察すると

ともに,口腔ケアを行うことができた。

褥瘡ケアにおいても,バリアンスへの対処が,

SOAP に記録があるため,なぜエアマットに交換さ

れていないか,他のスタッフにも理解できた。家族が

患者の死が近いことの認識も,目標をチェックするこ

とによって,必要時に面談を行い,その後も継続して

家族の会話の内容から認識を確認することができた。

不必要な検査・治療の見直しは,初期アセスメント

で行っていたが,ロピオン®,プリンペラン®,リン

デロン®は患者が昏睡になった時点の 3月 7 日から投

与を中止し,デュロテップMTパッチ® 2.1mg のみ継

続して貼用した。初期アセスメントの目標によっては

LCP 導入後数日経った後も見直し必要があると感じ

られた。

— 43 —

8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合

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8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合

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8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合

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8.事例と LCPの実際―淀川キリスト教病院ホスピスの場合

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A.事例の概要と経過

1.事例紹介(本事例は仮想事例です)

事例: S氏,60 歳代,女性。

疾患:大腸がん,肝転移,腹膜転移。

家族背景:両親は他界,夫は死別,子どもは娘 1人

(既婚で別世帯,孫 2人),兄と妹が近隣に在住,関係

良好。

キーパーソン:娘。

2.疾病の経過

200X 年,大腸がん(横行結腸がん)と診断される。

診断時,すでに肝転移・腹膜転移が認められ,手術療

法適応なし。化学療法施行後,自宅で 1人暮らしをし

てきた。

200X+1 年,腹痛,ADL 低下,食欲低下にて自宅

療養困難となり,入院。血液データ上,低アルブミン

血症,肝機能・腎機能低下,腫瘍マーカー高値,電解

質異常などが認められた。

3.入院後の経過

入院後,補液(維持液)1,500mL/day であった。

疼痛緩和目的にフェンタニルパッチが開始され,腹痛

は緩和された。食事も楽しみ程度の摂取は可能となり,

お孫さんの訪問を楽しみに待つ姿がみられた。

入院後 2週間が経過,次第に病状進行による変化が

みられ始める。終日傾眠傾向で,ADL 低下,食欲低

下が顕著となった。

意識の低下,終日臥床,経口摂取低下を認める。

チームで予後数日と判断し,Liverpool Care Pathway

(LCP)導入を決定した。

B.LCPの導入と使用(LCP記載参照)

1.導入時の情報《200X + 1 年 11 月 25 日

10時の状態,セクション1:初期アセスメン

ト。セクション2(継続アセスメント)の各項

目に沿って》

1)身体症状

疼痛:腹痛がみられたが,現在フェンタニルパッチ

貼付中,疼痛増強なし。

呼吸器症状:呼吸困難なし。喘鳴なし。痰がらみな

し。

消化器症状:嘔気・嘔吐なし。嚥下困難なし。

排泄:便秘なし。便意尿意なく,おむつ内失禁。尿

閉なし。

意識の状態:終日傾眠傾向で,呼名反応がかろうじ

てあり。明瞭な会話困難。家族の認識はできる。不穏

や興奮,抑うつなどの精神症状はみられない。

その他の症状: 四肢の浮腫あり。浮腫による苦痛

はなし。

2)安楽の評価《目標に対しての評価が未達成(バ

リアンス)であれば“いいえ”にチェックする》

〔目標 1〕投薬方法:末梢静脈ルート,貼付剤,一

部内服薬あり。

〔目標 2〕頓用薬の指示:疼痛時・発熱時オーダー

あり。いずれも内服指示。

〔目標 3〕治療・検査:定期採血(3 日ごと),DNR

(do not resuscitate)未確認。

〔目標 3a〕看護ケアの内容: 2時間ごとに体位変換

を行う。バイタルサインチェックは 4時間ごとに行う。

— 51 —

9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合9

福田 かおり

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〔目標 3b〕シリンジポンプの準備:病棟に常備あり。

3)精神面・病状認識

〔目標 4〕日本語の理解:本人家族とも問題なし。

〔目標 5〕病状認識:本人・家族ともに病名告知あ

り。予後告知なし。

4)宗教・信条

〔目標 6〕宗教に関して:本人・家族とも仏教で,

特別な慣習はない。

5)家族・関係者とのコミュニケーション

〔目標 7〕家族などとの連絡:何かあれば常時連絡

(病院まで車で 20 分)。娘の自宅番号は病棟で把握し

ている。連絡がつかない時の連絡方法は未確認。

〔目標 8〕施設案内:オリエンテーション用紙を用

いて説明されている。

6)まとめ

〔目標 9,10〕ケア計画の開示/理解:必要時パンフ

レットなど用いて行い,理解を確認している。

※“いいえ”(バリアンス)として抽出された内容

について,ページ下段の「このページのバリアンス」

の欄に内容と対処を記載する。

7)セクション2(継続アセスメント)を下記に挙

げる(各項目の目標が達成の場合 A :

Achievement, 未達成の場合 V: Variance

としてAかVにチェックする)

身体症状:各項目はセクション 1の通り(A)。

口腔ケア:経口摂取なし。口腔乾燥著明(V)。

褥瘡ケア:骨突出部に可逆性発赤あり。除圧マット

レス使用。自力体動なし。体位交換 2時間おき(V)。

家族・関係者のケア:キーパーソンは娘。家庭・子

どもがあり,付添したいが困難。家族は可能な範囲で

お見舞いに来ると言われている。医療者は関心を向け,

情報共有・アドバイスを行っている(A)。

※(V)バリアンスとして抽出された内容は,ペー

ジ下段の「このページのバリアンス」に記入するか,

次ページの「バリアンス分析」のシートに記入し,原

因,対処方法,結果を明らかにしていく。

2.開始後 2日目(11 月 27 日 10 時の状態)

1)患者の状態

終日傾眠傾向がさらに強まっている。呼名にも明確

に反応しないことも多くなる。しかし,疼痛が増強し

たのか,苦顔みられる。レスキューを投与してみるが,

表情の変化はない。また,咽頭喘鳴みられ,効果的な

喀痰もできず,吸引してもすぐ湧き上がってくる状態

となる。他の症状はみられない。

口腔内は,清潔が保たれている。排泄は,排便・排

尿とも失禁(排泄にともなう苦痛はない)。新たな皮

膚トラブルの発生はない。

2)家族の状態

家族面談後,病状が看取りであることを理解し家族

間で娘が側にいられるようサポートされている。医療

者にも不安なことや自身の気持ち(悲しさ)を話すこ

とができている。

※上記の情報からセクション 2(継続アセスメント)

の各項目で評価する。バリアンスとして抽出された内

容は,次ページの「バリアンス分析」のシートへ記入。

3.看取り~その後(11 月 29 日開始後 4 日目,

11 時の状態)

1)患者の状態

苦痛や喘鳴への対処後,その日以降は苦痛症状を感

じている様子もなく,喘鳴も消失。穏やかな表情とな

り,2日間を過ごす。娘,孫,兄妹に見守られて最期

を迎えた。

2)家族の状態

看取りまで娘が中心となり,付き添う。娘は,しば

らく側を離れることができない様子がみられた。

死亡確認後,時間を十分にとり,声をかけて死後の

ケアを娘,妹と行った。その経過の中,次第に娘の表

情も和らぎ,本人への感謝の言葉を伝える姿がみられ

た。

事務的な諸手続に関しては,娘の気持ちに配慮して

他のご家族に情報提供を行った。

— 52 —

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9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

S 氏 ●●××

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— 54 —

S 氏 200 × +1 2511

大腸癌 肝転移 腹膜転移 60

目標 1 内服薬中止し,注射薬 坐剤の指示に変更。

目標 2 頓用薬の指示を追加し,内服指示から注射薬へ変更

目標 3 定期採血を中止(必要性を検討したうえで)

目標 3a 2 時間毎体位交換を中止し,除圧マットレスから圧切り替え型Air マットレスへ変更

バイタルサインチェック 4時間毎を中止し,必要時適宜(家族とも確認)に変更

DNR未確認。家族に確認する場を設定。

目標 5 予後告知はされていない。ご家族へ病状説明の面談設定(DNRの確認とともに,余命告知等患者に対し

てどう対応すべきか相談)

Page 55: 序 文 - UMIN · とを目標としているアウトカム指向の看取りのケアに ついてのクリニカルパスである。 Ellershawらは1997年頃より2003年にかけて,臨

— 55 —

9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

目標 7 娘の自宅の連絡先しか聞いていないため,必ずつながる連絡先を確認

可能であれば,他のご家族の連絡先も確認。

S 氏 200 × +1 25

特になし

SE氏

長女

20 分

医師 □川

看護師 ○本

●●●―××―△△△△

11

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口腔乾燥

○本

S 氏 200 × +1 2511

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9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

○本

11/25 10 時

S 氏 200 × +1 2511

口腔乾燥がある。経口摂取なし。唾液分泌低下口腔内感染,脱水の進行,不十分なケア等によると考えられる。

○本

11/25 10 時

口腔内観察し,口腔ケアを一日 3回と定期化し清潔を保つ。口腔保湿剤を併用し,口腔内の保湿を保つ。

○本

11 / 25 10 時 30 分

口腔内は常に清潔・湿潤環境となった。

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S 氏 200 × +1 2511

口腔ケア:経口摂取なし。口腔乾燥著明のため,ケア方法検討。

褥瘡ケア:骨突出部あり。可逆性発赤みられる。自力体動なし。圧切り替え型Air マットレスへ変更した。

○本

骨突出部可逆性発赤あり。2時間毎体位交換のプラン

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9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

S 氏 200 × +1 2711

苦顔あり

咽頭喘鳴あり

△木 △木 ○田

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S 氏 200 × +1 2711

○田

疼痛:疼痛増強したのか苦顔みられる。レスキュー投与してみるが表情の変化はない。

(苦顔)明確な評価困難→ 家族とともに苦痛の程度を評価し,オピオイド増量した。

咽頭喘鳴:非効果的な対処(吸引) → 気道分泌の状態を評価し(感染? 水分過多徴候?)

適切な治療を行う。(輸液量の検討,分泌抑制剤の開始)

ケアの目標と意味を家族と共有し,対処方法を検討する。

(吸引のメリット/デメリット,薬物療法の効果,ケアの工夫家族にできることなど)

死が近づいていることについて話し合い共有する。

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9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

S 氏 200 × +1 2711

○田

11/27 10 : 00

疼痛増強の可能性 苦顔がみられる。昏睡状態にて明確な症状の確認は困難原疾患の進行 他に関連したと考えられる

○田

11/27 10 : 15

ご家族と苦痛の状況を確認。苦痛であろうこと,苦痛緩和優先を希望される。NSAIDs 鎮痛薬レスキュー使用。→×オピオイド鎮痛薬レスキュー使用。オピオイド鎮痛薬ベースUp。

○田

11/27 11 : 00

オピオイド鎮痛薬レスキュー使用,ベースUpで効果あり。苦痛表情消失。

○田

11/27 10 : 00

咽頭喘鳴出現。気道分泌増強。死前喘鳴か感染によると考えられる。

○田

11/27 10 : 30

吸引では効果的な対処は困難。家族と病態と対処方法について相談。輸液量減量。分泌抑制剤の開始。体位の工夫。吸引は苦痛のない範囲で。

死が近付いていることについても話し合う。

○田

11/27 14 : 00

喘鳴は自然消失。家族は残された時間が少ないことを理解。

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S 氏 200 × +1 2911

○本 ○本 △木

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9.事例と LCPの実際―聖隷三方原病院ホスピスの場合

S 氏 200 × +1 2911

△木

200 × +1 29 11 : 0011

目標 11 :娘の悲嘆がある。娘の気持ちに配慮して,十分な時間を提供した。また,死後のケアを娘の希望に応じて

ともに行うことで,喪失の悲嘆への支援を行った。

目標 12 :娘の悲嘆に配慮して,キーパーソンではないが主要な家族に手続きについての説明を行った。

目標 14 :何かあれば相談窓口として病棟に連絡してほしいことをご家族に伝えた。

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付 録

1.LCP日本語版2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

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LCP日本語版―看取りに関するクリティカルパス(病院バージョン)1

宮下 光令

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【付 録】1.LCP日本語版

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【付 録】1.LCP日本語版

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【付 録】1.LCP日本語版

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A.症状アルゴリズム

〈アルゴリズムの注意〉

・【 】:標準的な開始量,( ):最大投与量を示

・各アルゴリズムに示された「コンフォートオーダー

セット」とは B の頓用指示を参考にして準備され

る臨時指示のセットである。LCP を開始するにあ

たっては,本項に示す6項目についてコンフォード

オーダーセットあるいはそれに準じる臨時指示の

セットを準備する。

・原因治療に関しては,患者の全身状態をふまえて,

治療の利益と不利益をよく検討すること。

・アルゴリズムはいくつかの薬物の選択枝を示してい

るが,地域の緩和ケアサービスの状況に応じて,修

正して使用すること。

・この方法で先行処方を確立することによって,死期

直前の数時間~数日に症状が発生した際に迅速な処

置が可能となる。

・本ガイドラインの使用に際してはそれぞれの医療環

境にあわせて適宜変更のうえ,参照することが可能

である

・アルゴリズム中の「PCT」は緩和ケアチームのこ

とである。

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症状アルゴリズム・頓用のチャート2茅根 義和

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【せん妄・不穏時】

●コンフォートオーダーセットを指示 ●症状モニタリング

皮下・静脈経路が 使用できない場合

ジアゼパム坐薬6mg  または ワコビタール坐薬100mg [投与方法] 1~3回/日

注意: 1)せん妄の原因としては,肝不全,腎不全,低酸素血症,高カルシウム血症,脳転移などがあり,死亡直前期ではこれらを除去することができないことが多い。一方,尿閉,宿便など身体的不快はせん妄症状をしばしば悪化させるが,死亡直前期であっても対応可能なことが多い。 ・死亡直前でない場合,ベンゾジアゼピン系薬剤(ミダゾラム,フルニトラゼパム,ブロマゼパム)の単独投与はかえってせん妄を悪化させる可能性があるため,一般的に抗精神病薬(ハロペリドール)が第一選択薬として推奨される。しかし,本アルゴリズムにおいて,かならずしも抗精神病薬を優先して選択しなくてもよいとしているのは,死亡直前期では,せん妄症状の改善よりも睡眠や鎮静が目標となることが多いためである。

皮下・静脈経路が 使用できる場合

ハロペリドールの持続投与 [投与量]:【5】~(20)mg/日 [調節幅・間隔]:50~100%/8~24時間ごと [投与方法]:開始時に2.5~5mgを皮下・静脈投与した後いずれかで投与 ・24時間キープの補液に混注して持続静注 ・1日必要量を生食で溶解し持続皮下注・持続静注 ・2分割して12時間ごとに定期的に皮下注射・点滴静注・緩徐に静脈注射

PCTに評価依頼

意識を維持した鎮静 持続的な深い鎮静

[緩和困難な苦痛への対処]を参照

●原因に対する治療を検討する1) ●看護ケア(患者・家族)を行う  尿閉,宿便,口渇による不快が不穏を悪化させていることがあるので注意すること

症状が緩和されていない 臨時指示3回/日以上

症状が緩和されている 臨時指示2回/日以内

●鎮静薬の定期投与を開始し,症状緩和と眠気のバランスをみて,投与量を調節する

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【悪心・嘔吐】

●コンフォートオーダーセットを指示 ●症状モニタリング

【投与方法】 いずれかの方法で投与する ・24時間キープの補液に混注 ・1日必要量を生食で溶解し持続皮下注・持続静注 ・3分割して8時間ごとに定期的に皮下・静脈注射 【投与量】              【可能な投与経路】 ・メトクロプラミド*【30】~(120)mg/日 皮下・静注 ・クロルフェニラミン【20】~(60)mg/日 皮下・静注 ・プロクロルペラジン【5】~(40)mg/日 静注 ・ハロペリドール【2.5】~(10)mg/日 皮下・静注 ・ジフェンヒドラミン【30】~(90)mg/日 皮下 ・プロメタジン【5】~(50)mg/日 皮下 【調節幅・間隔】:50%/8~24時間ごと

注意: 1)高カルシウム血症の場合ビスホスホネート;頭蓋内圧亢進の場合ステロイド;オピオイドの場合オピオイドの変更;消化管閉塞の場合分泌抑制薬(臭化ブチルスコポラミン【40】~(120)mg/日,臭化水素酸スコポラミン【0.5】~(3.0)mg/日,オクトレオチド【300】μg/日)の持続投与,輸液量を,1,000mL/日以下に減量する。  *ドンペリドン,メトクロプラミドなど消化管運動を促進する薬物は,消化管閉塞の場合症状の悪化を来すことがあるため,すすめられない。

ドンペリドン坐薬* 60mg 2~3個/日 挿肛 臭化水素酸スコポラミン 【0.15】~(0.25)mg/回 [投与方法] 1日3回・舌下

PCTに評価依頼

経皮下・静脈が使用できる場合 経皮下・静脈が使用できない場合

●原因に対する治療を検討する注1) ●看護ケア(患者・家族)を行う  安楽な体位,臭気の除去,マウスケアなど

症状が緩和されていない 臨時指示3回/日以上

症状が緩和されている 臨時指示2回/日以内

●制吐薬の定期投与を開始し,症状緩和と眠気のバランスをみて,投与量を調節する ●薬物治療に抵抗性の場合,経鼻胃管の使用を検討する

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【気道分泌】

●コンフォートオーダーセットを指示 ●症状モニタリング

臭化水素酸スコポラミン【1.2】~(5)mg/日 [投与方法]開始時に1時間量を早送りした後,いずれかの方法で投与 ・24時間キープの補液に混注して持続静注 ・1日必要量を生食で溶解し持続皮下注・持続静注 [調節幅・間隔]:50~100%ずつ,1時間ごと または ・【0.15】~(0.25)mg/回 1日3回定期的に舌下 臭化ブチルスコポラミン【60】~(120)mg/日 [投与方法]開始時に1時間量を早送りした後,いずれかの方法で投与 ・24時間キープの補液に混注して持続静注 ・1日必要量を生食で溶解し持続皮下注・持続静注 [調節幅・間隔]:50~100%ずつ,1時間ごと

注意: 1)輸液を500mL/日以下に減量する。 ・臭化水素酸スコポラミンを用いた場合,意識が低下する場合が多いので,コミュニケーションを維持したい患者には使用しないこと ・気道分泌抑制薬はすでにある分泌物を取り除かないので,症状が出始めた場合早期に使用すること

PCTへ依頼

●原因に対しての治療を検討する注1) ●看護ケア(患者・家族)を行う  体位ドレナージ,マウスケアなど

症状が緩和されていない (臨時指示を続けて3回/日以上使用)

症状が緩和されている (臨時指示の使用が2回/日以内)

●気道分泌の定期投与を開始し,症状緩和と眠気のバランスをみて,投与量を調節する

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【疼痛】

●コンフォートオーダーセットを指示 ●症状モニタリング

注意: ・モルヒネは腎不全時にせん妄のリスクを高めるため,他のオピオイドに切り替えるか,せん妄症状の発現に注意する。 ・呼吸困難合併時にはフェンタニルは呼吸困難軽減作用が乏しく,モルヒネへの切り替えを考慮する。 ・モルヒネ開始時はハロペリドール1~2mg等の中枢性制吐薬の併用が望ましい。 注: 1)異なるオピオイドを併用する場合はPCTにコンサルトすることが望ましい。PCTに連絡がつかない場合,以下のいずれかを選択する。

2)フェンタニル貼付剤は吸収,排泄ともに12~24時間程度かかるため変更オピオイドの過量投与や投与量不足にならないように頻回の観察が必要である。

PCTに評価依頼

●原因に対する治療を行うことを検討する ●看護ケア(患者・家族)を行う  タッチング,安楽な姿勢,マットレスの変更,家族への説明

症状が緩和されていない (臨時指示を続けて3回/日以上使用)

症状緩和されている (臨時指示の使用が2回/日以内)

●オピオイドの定期投与量を調節する

30~50% 増量

換算表に従い,モルヒネ坐薬または モルヒネ注に変更し,30~50%増量

■オキシコドン経口薬 1)モルヒネへの全変換: [投与量]:換算表に従いモルヒネに全量を置き換える [投与方法]:1日必要量を生食で希釈し持続皮下・静脈持続投与。または,1日量を3~4分割して経直腸投与 ■フェンタニル注 1)定期投与量を30~50%増量する 2)換算表に従い,モルヒネを換算使用量の20%上乗せする

■フェンタニル貼付剤 1)換算表に従い,モルヒネを換算使用量の20%を上乗せする 2)モルヒネ注への全変換 [投与量]:換算表に従いモルヒネに全量を置き換える2) [投与方法]:1日必要量を生食で希釈し持続皮下・静脈持続投与 3)定期投与量を30~50%増量する:これ以外のものが選択できるときは優先しない

【調整間隔】:24~72時間

皮下・静脈 投与の場合

経口の 場合

PCTに相談1) PCTに相談1)

以下を開始する モルヒネ坐薬 [投与量]:15~30mg/日 フェンタニル注 [投与量]:200~300μg/日 モルヒネ注 [投与量]:10~20mg/日

オピオイドを使用 オピオイドは未使用

モルヒネの場合 オキシコドンの場合 フェンタニルの場合 オピオイドを開始する

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【換算表】

【投与例】

[オキシコンチン ®経口薬]  オキシコンチン ®40mg内服中に鎮痛困難で内服不可能    →モルヒネ坐薬1回20mgを8時間ごと     または     モルヒネ30mg/日持続皮下・静注 [フェンタニル貼付剤]  デュロテップ ®MTパッチ12.6mg貼付中に鎮痛困難   →モルヒネ注60~90mg相当なので,この20%でモルヒネ10~20mg/日を上乗せして持続皮下・静注,モルヒネ坐薬

10mg/回を1日3~4回    または    モルヒネ注60~90mg/日持続皮下・静注

経口オキシコドン40mg 経口モルヒネ60mg

モルヒネ坐薬40~60mg

デュロテップ ®MTパッチ4.2mg/72h

塩酸モルヒネ注30mg フェンタニル注450~600μg

フェンタニル貼付剤からモルヒネ注への換算表はない。概ねデュロテップ ®MTパッチ4.2mgにつき,モルヒネ注20~30mgと 思われる。

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【呼吸困難】

●コンフォートオーダーセットを指示 ●症状モニタリング1)

注意: ・最大投与量でコントロールできない場合はPCTへ相談する。 注1),2),3) ・患者自身が呼吸が苦しいと感じているか,呼吸不全を伴うかなど,死にゆく過程での生理的呼吸変化を除外する。 ・低酸素血症の場合,酸素投与。肺炎の場合抗生剤。胸腹水の場合,穿刺・輸液の減量 ・異なるオピオイドを併用する場合は,PCTにコンサルトすることが望ましい。PCTに連絡がつかない場合,以下のいずれかを選択する。

PCTに依頼

●原因に対する治療を検討する2) ●看護ケア(患者・家族)を行う  衣服を緩める,換気,呼吸誘導を行う

症状が緩和されていない (臨時指示を続けて3回/日以上使用)

症状緩和されている (臨時指示の使用が2回/日以内)

●モルヒネの定期投与を開始し,症状緩和と眠気のバランスを見て投与量を調整する。

30~50% 増量

換算表に従いモルヒネ注に変更し,30~50%増量

■オキシコドン経口薬 1)モルヒネへの全変換:ローテーション時の増量は,行わないほうが安全と考え,単純に全量変換とする。 [投与量]:換算表に従いモルヒネに全量を置き換える。 [投与方法]:1日必要量を生食で希釈し持続皮下・静脈持続投与。または,1日量を3~4分割して経直腸投与 ■フェンタニール注 1)モルヒネの上乗せ  【4~10】mg~(30)mg/日を生食で希釈し,持続皮下・静脈持続投与として上乗せする。 ■フェンタニール貼付薬 1)モルヒネの上乗せ  【4~10】mg~(30)mg/日を生食で希釈し,持続皮下・静脈持続投与として上乗せする。  または,【15】mg~(45)mg/日を3~4分割して経直腸投与として上乗せする。 2)モルヒネ注への全変換 [投与量]:換算表に従いモルヒネに全量を置き換える [投与方法]:1日必要量を生食で希釈し持続皮下・静脈持続投与。または,1日量を3~4分割して経直腸投与。

皮下・静脈 投与の場合

経口の 場合

PCTに 相談3)

PCTに 相談3)

モルヒネ注の持続投与 [投与量]:  【4~10】~(30)mg/日 [投与方法]:  1日必要量を生食で希釈し  持続皮下・静脈投与 [調節幅・間隔]:  20~30%/1時間ごと

モルヒネ坐薬 [投与量]: 【5】~(15)mg/(回) [投与方法] 定時で3回/日 [調整幅・間隔】 5mg/回・2時間

オピオイドを使用 オピオイド未使用

モルヒネの場合 オキシコドン の場合

フェンタニル の場合

経皮下・静脈 投与が可能

経皮下・静脈 投与が不可能

モルヒネを開始する

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【緩和困難な苦痛への対処】

・緩和ケアチームにコンサルトすることが望ましい。

・「苦痛緩和のための鎮静」の適応を検討する。

・苦痛緩和のための鎮静は妥当な医学的,倫理的検討をしたうえで施行するべきものである。

・鎮静を行うにあたっては「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」(日本緩和医療学会)を参照

(http://www.jspm.ne.jp/guidelines/index.html)。

[標準的な薬物投与プロトコール]

ミダゾラムを持続投与する【投与量】【5~20】~(120)mg/日【投与方法】24時間キープの静脈ルートのある場合生食に希釈して持続静脈投与,静脈ルートがない場合原液を持続皮下投与

【増量幅・間隔】50%ずつ。呼吸数≧8/分ならば1時間ごと

【レスキュー】1~2時間分を早送り(呼吸数≧8/分なら15~30分あけて反復)

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B.各症状頓用指示

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【せん妄】

① ・リスペリドン液またはハロペリドール液  0.5~1.0mg/回を舌下 ・ブロマゼパム坐薬3mg1個/回 挿肛 ・ジアゼパム坐薬4~6mg1個/回 挿肛 ・ワコビタール坐薬50~100mg1個/回挿肛 呼吸数≧8/分なら30~60分あけて反復3回まで

① ・ハロペリドール2.5~5mg(±ヒドロキシジン 25~50mg)  皮下注射  生食20mLに溶解し静注  生食100mLに溶解し60分で点滴静注 ・ヒドロキシジン 25-50mg  皮下注射  生食20mLに溶解し静注  生食100mLに溶解し60分で点滴静注 ・ミダゾラム2.5~5mg 皮下注射 ・リスペリドン液もしくはハロペリドール液 0.5~1.0mg/回を舌下 ・ブロマゼパム坐薬3mg1個/回 挿肛 ・ジアゼパム坐薬4~6mg1個/回 挿肛 ・ワコビタール坐薬50~100mg1個/回 挿肛  呼吸数≧8/分なら30~60分あけて反復  3回まで ② ・ミダゾラム2.5~5mg(±ハロペリドール5mg)皮下注射  呼吸数≧8/分なら15分あけて反復 3回まで ・ミダゾラム10mg(±ハロペリドール5mg)  生食100mLに溶解し不穏が落ち着くまで点滴静注 ・フルニトラゼパム2mg(±ハロペリドール5mg)  生食100mLに溶解し不穏が落ち着くまで点滴静注

経皮下・静脈投与不可能 経皮下・静脈投与可能

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【気道分泌】

・臭化水素酸スコポラミン  0.15~0.25mg/回 舌下 30~60分あけて反復 3回まで

・臭化ブチルスコポラミン 10~20mg/回              皮下・生食20mLに溶解し静注 ・臭化水素酸スコポラミン 0.15~0.25mg/回 舌下・皮下 30~60分あけて反復 3回まで

経皮下・静脈投与が使用不可能 経皮下・静脈投与が使用可能

【嘔気・嘔吐】

*消化管閉塞がある場合は使用しない

ドンペリドン坐薬*30~60mg1個/回 挿肛 臭化水素酸スコポラミン0.15~0.25mg/回 舌下 30~60分あけて反復 3回まで

・ドンペリドン坐薬*30~60mg1個/回 挿肛 ・メトクロプラミド*10mg皮下注・静脈注射 ・臭化水素酸スコポラミン0.15~0.25mg/回 舌下 ・クロルフェニラミン5~10mg ・プロクロルペラジン2.5~5mg ・セレネース1.25~2.5mg 皮下注射  生食20mLに溶解し静脈注射  生食50~100mLに溶解し点滴静注 ・ジフェンヒドラミン10~30mg 皮下注 ・プロメタジン5~12.5mg 皮下注 30~60分あけて反復 3回まで

経皮下・静脈投与が使用不可能 経皮下・静脈投与が使用可能

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【疼痛】

経口モルヒネ又は坐薬: 1日量の1/6相当量 内服・挿肛 塩酸モルヒネ注: 1日量の1/12相当量 皮下注射・生食で希釈し静脈注射 呼吸数≧8/分なら 1~2時間あけて反復

1~2時間分早送り 呼吸数≧8/分なら 15~30分あけ て反復

塩酸モルヒネ注: 3~5mg/回を皮下注射・生食で希釈し静脈注射 フェンタニル: 0.05mg~0.1mg/回を皮下注射・生食で希釈し静脈注射 呼吸数≧8/分なら 坐薬:1~2時間,皮下・静脈:15~30分あけて反復

経口モルヒネ又は坐薬: 5~10mg/回 呼吸数≧8/分なら 1~2時間あけて反復

オピオイドを使用

はい

経口・坐薬オピオイド・フェンタニル貼付剤を使用している場合

持続皮下・静注射 をしている場合

経皮下・静脈投与可能 経皮下・静脈投与不可能

いいえ

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【付 録】2.症状アルゴリズム・頓用のチャート

【呼吸困難】

1~2時間分早送り 呼吸数≧8/分なら 15~30分あけて 反復

経口モルヒネまたは坐薬: 1日量の1/6相当量  内服・挿肛 塩酸モルヒネ注: 1日量の1/12相当量  皮下注射・生食で希釈し静脈注射 呼吸数≧8/分なら経口・ 座薬:1~2時間, 皮下・静脈:15~30分あけて反復

モルヒネ坐薬: 1日量の1/6相当量  挿肛 呼吸数≧8/分なら 1~2時間あけて反復

経口モルヒネまたは 坐薬:5~10mg/回 塩酸モルヒネ注: 3~5mg/回を皮下注射・生食で希釈し静脈注射 呼吸数≧8/分なら経口・座薬:1~2時間,皮下・静脈:15~30分あけて反復

経口モルヒネまたは坐薬: 5~10mg/回 呼吸数≧8/分なら 1~2時間あけて反復

モルヒネ変換使用量の20%を,坐薬または皮下注射・希釈して静脈注射 呼吸数≧8/分なら経口・座薬:1~2時間,皮下・静脈:15~30分あけて反復

オピオイドを使用

モルヒネを使用

モルヒネ持続静注・ 皮下注

経口モルヒネ モルヒネ坐薬

皮下・静脈 投与可能

皮下・静脈 投与不可能

オキシコドンを使用 フェンタニルを使用 使用していない

皮下・静脈 投与可能

皮下・静脈 投与不可能

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Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版使用マニュアル

2010 年 3 月 31 日発行 非売品

発 行 (財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団

〒 530-0013 大阪市北区茶屋町 2-30

TEL 06-6375-7255 FAX 06-6375-7245

編 集 Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版普及

グループ

制 作 株式会社 青海社

〒 113-0031 東京都文京区根津 1-4-4 河内ビル

TEL 03-5832-6171 FAX 03-5832-6172

印 刷 モリモト印刷 株式会社

ISBN978-4-903246-12-3

執筆者一覧(執筆順)

宮下 光令(東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野)

茅根 義和(東芝病院 緩和ケア科)

市原 香織(大阪大学大学院 医学系研究科保健学専攻 博士前期課程)

福田かおり(聖隷三方原病院 ホスピス)

中島 信久(札幌南青洲病院 緩和治療科)

LCP日本語版普及グループ(五十音順)

市原 香織(大阪大学大学院 医学系研究科保健学専攻 博士前期課程)

清原 恵美(聖隷三方原病院 ホスピス)

清水  恵(東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野)

多田羅竜平(大阪市立総合医療センター 小児内科兼緩和医療科)

田村 恵子(淀川キリスト教病院 ホスピス)

茅根 義和(東芝病院 緩和ケア科)

中島 信久(札幌南青洲病院 緩和治療科)

福田かおり(聖隷三方原病院 ホスピス)

宮下 光令(東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野)

森田 達也(聖隷三方原病院 緩和支持治療科)