実例 から学ぶ 歯車装置 計 -...
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90 機 械 設 計
はじめに
歯車装置の設計で,転位歯車の計算や歯の強度計算をはじめると,実際の数値を得るのがめんどうあるいは困難なものに「アークインボリュート関数値」の計算や,歯の曲げ強さ計算のための「歯形係数値」を求める作業がある。規格や教科書には数表や線図が掲載されているが,自動計算したい場合など実用上限界があるので,プログラムを作るなどし,計算が必要であることも多い。 本連載では,読者がこれらの数値を得るプログラムを作るために必要な数式を明確にし,表計算ソフト(Excel)などを用いて,正確な答を比較的簡単に得るための計算法,プログラム例,計算例などについて紹介する。1回目は,アークインボリュート関数の計算法について考える。
1�.インボリュート関数とアークインボリュート関数
転位歯車の計算の主眼は,中心距離aの計算である。小歯車の転位係数x1と大歯車の転位係数x2を先に決めて,式(1)1)の右辺全体の値を求め,これから左辺の正面かみ合い圧力角αwtを逆算しなければならないケースが,歯車装置設計の計画段階ではよくある。αwtが求まれば,中心距離aは式(2)で計算される1)。
inv αwt=2 tan αn
x1+x2+
jbt
2 mn sin αt
z1+z2
+inv αt 式(1)
a= z1+z22 mt
cos αt
cos αwt 式(2)
αt:正面基準圧力角,αn:歯直角基準圧力角,z1:小歯車歯数,z2:大歯車歯数,jbt:作用線方向の正面バックラッシ,mn:歯直角モジュール,mt:正面モジュール 式(1)左辺の invは,インボリュート関数と呼ばれ,次式で定義される。 φ=inv α=tan α-α 式(3) インボリュート関数は,図1に示すようにインボリュート曲線を表現する関数である。 与えられたφに対するαを,式(4)で表し,アークインボリュート関数(または逆インボリュート関数)と呼ぶこともある。 α=inv-1 φ 式(4)
αφ
P
O
tan α
1
X
Y インボリュート曲線
1
図1 インボリュート曲線
エイチエイチ・メカニカル 平澤 博**ひらさわ ひろし:代表 造船会社にて船舶推進用大形歯車,ホーバ・クラフト動力伝達軸系,各種大形機械用歯車などの研究開発・設計に従事。岡山大学および岡山県立大学講師を歴任。博士(工学)
第1回 表計算ソフトで「アークインボリュート関数」を計算する
新連載
から学ぶ実 例
歯車装置の設計計算
91第 62 巻 第 11 号(2018 年 10 月号)
から学ぶ実 例
歯車装置の設計計算
式(1)の右辺の計算結果をφと置き,式(3)により,既知であるφからαを逆算するのであるが,このαは容易に解くことはできない。 歯車の設計関係の書籍2),3)には図2に例示するようなインボリュート関数表が掲載されており,アークインボリュート関数値αは概数値であればこの表から求めることができる。しかし,中心距離aが数mとなる大形歯車では有効数字の桁数が不足することもあるので,与えられたφをはさむ2点のインボリュート関数値を式(3)から求め直し,線形補間を繰り返し,求めるαの有効桁数を増やす作業が必要である。 したがって,計算すべきケース数が多い場合や,自動設計のプログラム内部でαwtが必要な場合には実用上限界があり,自分でプログラムを作るなどする必要がある。
2.アークインボリュート関数の計算法
与えられたφに対するアークインボリュート関数値αを十分な有効桁数を確保しつつ,簡便に逆算する方法を考える。 式(3)を式(5)のように,未知数αについての方程式と考える。 f(α)=tan α-α-φ=0 式(5) 式(5)は非線形項を含み,解析的に解くことはできないため,近似式により繰り返し計算し収束させる方法を採る。式(5)はαについて微分可能であるので,ここではニュートン法を用いる。ニュートン法の近似式は,式(6)である4)ので,
αi+1=αi-f(αi)
f′(αi) 式(6)
f(α)の微分を式(6)に代入すれば,ニュートン法の近似式は,
αi+1=αi-tan αi-αi-φ
tan2αi 式(7)
となる。 ニュートン法では,αiの初期値α0は,繰り返し計算の発散を防ぎ,また計算回数を減らすために,できるだけ根に近いことが望ましい。初期値の例としては,式(1)におけるαwtを計算する際にはαt
が使われることがある7)。αtの値が決まっていない段階では,一定値が使われることもある8)。ここではどのような場合にでも使える初期値のための近似式を考える。 tan αのテイラー展開は式(8)である。
tan α=α+α3
3 +2α515 +…… 式(8)
この式の5乗項以降を省略すれば,
tan α≅α+α3
3であるので,与えられたφ=tan α-αに対して,近似的に
φ=tan α-α≈α3
3が成立する。したがって,次式(9) α0=(3φ) 式(9) で計算されるα0は,根αの良い近似値であることが期待できる。実際に tan α-αとα3/3との値をα=10~30°で計算すると,図3に示すように,α3/3は tan α-αに近い値であるので,以降,式
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図2 インボリュート関数表の例(表の一部のみ掲載)
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
α[°]・・・ 19 20 21 22
α[分]
0
1
2
3
4
5
・・・ ・・・
0.0127151
0.0127496
0.0127842
0.0128188
0.0128535
0.0149044
0.0149430
0.0149816
0.0150203
0.0150591
0.0173449
0.0173878
0.0174308
0.0174738
0.0175169
0.0200538
0.0201013
0.0201489
0.0201966
0.0202444
・・・ ・・・ ・・・ ・・・
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
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