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1 電池の基礎 一口に「電池」といっても、実にさまざまな種類が あります。この本で主に扱うのは、「化学電池」とよ ばれるもので、化学反応のエネルギーを電気のエネル ギーに変換するものです。ふつう電池といえばこの化 学電池を指します。ここでは、化学電池の中でおこっ ている化学反応、各電池の構造や特徴について理解す るために必要な基本的事項について説明します。

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第1章

電池の基礎

 一口に「電池」といっても、実にさまざまな種類が

あります。この本で主に扱うのは、「化学電池」とよ

ばれるもので、化学反応のエネルギーを電気のエネル

ギーに変換するものです。ふつう電池といえばこの化

学電池を指します。ここでは、化学電池の中でおこっ

ている化学反応、各電池の構造や特徴について理解す

るために必要な基本的事項について説明します。

Page 2: 007-026 電池基礎 01章 - Nikkanpub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file4ce5cede95a09.pdfとなります。この場合も、Cu板とCuSO4 水溶液との間に電位差が生じ

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1-1●電池の種類

 まずは、電池にはどのようなものがあるかをざっと見てみましょう。

電池の分類を図 1-1に示します。

 電池は、まず化学電池と物理電池とに分類されます。化学電池とは、

簡単にいえば化学反応するときのエネルギーを電気のエネルギーに変換

するものです。ふつう電池といえばこの電池のことを意味します。本書

でも、化学電池を単に電池とよぶことにします。

 一方、物理電池というのは、外部から与えられる光や熱などの物理エ

ネルギーを電気エネルギーに変換するものを指します。太陽電池などが

その代表です。

 さらに化学電池は、一次電池、二次電池そして燃料電池に大別されま

す。一次電池とは、乾電池のように使い切りのもので、充電はできませ

ん。二次電池は「充電池」あるいは「蓄電池」ともよばれ、充電するこ

とで繰り返し使うことのできる電池です。一次電池も二次電池も、化学

反応する物質(活物質といいます)が電池内部に保持されています。こ

れに対して燃料電池は、外部から活物質を供給しながら発電する電池で

す。

 これらの電池は使用する材料などにより、さらに細かく分類されま

電池

化学電池 二次電池

燃料電池

一次電池

物理電池

化学変化のエネルギーを電気のエネルギーに変換する電池

光や熱などの物理エネルギーを電気のエネルギーに変換する電池(太陽電池など)

使い切りの電池

充電して繰り返し使える電池

活物質を供給しながら発電する電池

図1-1 電池の分類

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第1章●電池の基礎

す。電池の種類は、使用する材料の組み合わせにより約 40 種類、形や

大きさの違うものまで区別すると約4,000種類もあるといわれています。

図 1-2 ~ 4は各種電池の写真です。

一次電池 ● マンガン乾電池 ● アルカリマンガン電池 ● 酸化銀電池 ● 空気亜鉛電池 ● リチウム一次電池、ほか

マンガン乾電池 アルカリマンガン乾電池

酸化銀電池

リチウム一次電池

空気亜鉛電池

図1-2 一次電池

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図1-4 燃料電池ほか

燃料電池 ● アルカリ形燃料電池 ● 固体高分子形燃料電池 ● リン酸形燃料電池 ● 溶融炭酸塩形燃料電池 ● 固体酸化物形燃料電池 ● 直接メタノール形燃料電池、ほか 燃料電池

電気化学キャパシタ 太陽電池

二次電池 ● 鉛蓄電池 ● ニッケルカドミウム蓄電池 ● ニッケル水素蓄電池 ● リチウムイオン蓄電池、ほか

鉛蓄電池 ニッケルカドミウム蓄電池

ニッケル水素蓄電池 リチウムイオン蓄電池

図1-3 二次電池

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第1章●電池の基礎

1-2●電池の発電原理

 まず、なぜ電池が電気エネルギーを発生させられるのかを、「ダニエ

ル電池」を例にして考えてみましょう。ダニエル電池は実用的な電池で

はありませんが、高等学校の化学の教科書などで、説明のためによく出

てくるものです。

( 1) 電極電位 ZnSO4(硫酸亜鉛)の水溶液に Zn(亜鉛)の板を浸すと、わずかの Zn

が電子(2e-)を残して Zn2+(亜鉛イオン)になり、平衡状態に落ち着

きます(図 1-5)。そのときの化学反応式は、次のように表されます。

  Zn2++2e-⇄ Zn (1-1) 

(1-1)式で矢印が⇄となっているのは、平衡状態であることを意味し

ています。その結果、Zn の板がマイナスに、ZnSO4 水溶液がプラスに

帯電し、両者の間に電位差が生じます。この電位差のことを「電極電

位」といいます。

 一方、CuSO4(硫酸銅)の水溶液にCu(銅)の板を入れると、CuSO4

図1-5 亜鉛板を硫酸亜鉛水溶液に浸したときの反応

Zn2+

Zn2+ SO42-

Zn

亜鉛板

硫酸亜鉛水溶液

e- e-

亜鉛の一部が電子を残し、亜鉛イオンとなって溶出

⇩亜鉛板がマイナスに、硫酸亜鉛水溶液がプラスに帯電

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水溶液中のわずかの Cu2+(銅イオン)が、Cu 板から電子(2e-)を受

け取り、Cu 板上に Cu が析出して平衡状態となります(図 1-6)。その

ときの化学反応式は、

  Cu2++2e-⇄ Cu (1-2) 

となります。この場合も、Cu板と CuSO4 水溶液との間に電位差が生じ

ます。ただし、先ほどとは逆で、Cu 板の方がプラスの電気を、CuSO4水溶液の方がマイナスの電気を帯びることになります。

 電池に関連した主な電極の電極電位の値を表 1-1に示しました。表

1-1 では、例えば(1-1)式の反応を Zn2+/Z と表わしています。電極電

位は、溶媒の種類や反応する物質の濃度、温度などによって変化しま

す。表 1-1 の値は、反応におけるすべての物質の活量(注 1-1)が 1という

「標準状態」での値です。また、電解質溶液として水溶液を用い、温度

が 25℃の場合です。表 1-1 で、H2(水素)とH+(水素イオン)の反応

に対する電極電位が 0.000 V となっています。これは、この電位を基準

〔注1-1〕活量とは物質の濃度に関連した値で、たいていの場合、固体、液

体(溶媒)および1気圧の気体の活量は1です。溶質については、モル濃度を

活量とします

図1-6 銅板を硫酸銅水溶液に浸したときの反応

Cu2+

Cu2+ SO42-

Cu

硫酸銅水溶液

e- e-

銅イオンの一部が電子を受け取り、銅となって析出

⇩銅板がプラスに、硫酸銅水溶液がマイナスに帯電

銅板