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ゼミ論文 Grammaticalizaition 助動詞 be going to の研究を通じて 獨協大学外国語学部英語学科言語情報コース72番 学籍番号97120357 内藤 淳 2001年 2 1 日(金)提出

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ゼミ論文 Grammaticalizaition

助動詞 be going to の研究を通じて

獨協大学外国語学部英語学科言語情報コース72番 学籍番号97120357

内藤 淳

2001年 2 月 1 日(金)提出

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Abstract

My seminar thesis is on Grammaticalizaition. The reason why I chose this as the theme of

my seminar thesis was, as I keep on studying English, I wondered how grammar evolves. By

doing a research on how English grammar comes about, I thought that I could have a more

clear view of English Grammar.

However, the study of grammaticalization is very wide, it is very hard for me to write all

the details of grammaticalizaition. Therefore, I will focus on one particular law of grammar

to explain what is grammaticalization. During the study of English, I was attracted

especially to the auxiliary “ be going to”. Therefore, I will to write on the grammaticalization

of the auxiliary “be going to” to understand how the grammar changes.

First of all, to know the meaning of “be going to”, I will analyze the auxiliary according to

reanalysis and analogy. Next, I will research on how the meaning changes, by the way of

metaphor and metonymy. Next, I will explain that grammaticalization happens

unidirectional, which means that grammatical functions develop from content words and

become more grammaticalized, not vise versa.

I will also explain the pragmatic strengthening of the grammar, the generalization of the

meaning, and the bleaching of meaning. It is said that our language changes during our

conversation. During conversation, on one hand, we try to become more informative, and on

the other, we try to say the information in more easy way. This we call “maximize of

informative” and “maximize of economy”. Therefore, we can say that pragmatic affects the

change of meanings.

Lastly, I will analyze how auxiliary “be going to” is used in the book and in the movie. In

the book, future meaning “be going to” is used most, and in the movie, shorter word “gonna”

is used the most.

From the research, I concluded that grammaticalization is the unidirectional change of

content words to grammatical functions, or change from grammatical to more grammatical

functions. Grammaticalization involves both semantic and syntactic way of thinking.

By studying grammaticalizaion, I could have a more clear view of English grammar and I

come to like English more.

謝辞

この論文を作成するにあたって、大変多くの人にお世話になり、ここで感謝の気持ちを表した

い。

はじめに、この論文を指導して下さった、府川先生、阿部先生に感謝をしたい。そして、研究

をお互い助け合ったゼミの仲間に感謝をする。

最後に、私に大学で学ぶ機会を与えてくれた両親に心からお礼を言いたい。

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目次

Abstract ……………………………………………………………………………………ⅰ 謝辞…………………………………………………………………………………………ⅰ 目次……………………………………………………………………………………….. ⅱ 0. はじめに…………………………………………………………………………………1 1. 定義から見た文法化……………………………………………………………………1 2. be going to の先行研究………………………………………………………………….2 2.1 be going to の使われ方とその文法化の過程……………………………………...2 2.2 歴史的視点から見た未来表現 willと be going to の違い……………………… 3 2.2.1 現在の willと be going to の意味…………………………………………….3 2.2.2 初期の未来を表すbe going to ………………………………………………..4 2.2.3 初期のwillの意味………………………………………………………………5 2.2.4 歴史的視点から見たwillとbe going toの意味の違い……………………..6 3. Reanalysis と Analogy…………………………………………………………………8 3.1 再分析(Reanalysis)について……………………………………………………8 3.2 類推(analogy)について………………………………………………………….9 3.3 助動詞 be going to の再分析と類推による分析………………………………….9 4. 語用論的見地から見た文法化………………………………………………………...11 4.1 文法化が起こる理由……………………………………………………………….11 4.2 メタファー・メトニミーと文法化………………………………………………..12 4.2.1 メタファーとメトニミーとは何か………………………………………….12 4.2.2 メタファーと文法化………………………………………………………….13 4.2.3 メタファーとメトニミーによる be going to の分析………………………14 5. 文法化の一方向性仮説………………………………………………………………..15 5.1 一方向性仮説とは…………………………………………………………………15 5.2 語用論的見地からの一方向性仮説………………………………………………15 5.3 一方向性仮説を支持する3つの言語現象とその方向性………………………16 5.3.1 語用論強化…………………………………………………………………….16 5.3.2 意味の一般化………………………………………………………………….16 5 .3.3 意味の漂白化 ………………………………………………………………….17 5 .3.4 一方向性仮説のまとめ……………………………………………………...18 6. 実験(意味の漂白化・一般化について)……………………………………………18 6.1 実験1(接尾辞 ful について)…………………………………………………..19 6.1.1 実験方法……………………………………………………………………….19 6 .1.2 実験結果………………………………………………………………………..19 6.2 実験2( be going to について)……………………………………………………19 6.2.1 実験方法……………………………………………………………………….19 6 .2.2 実験結果………………………………………………………………………..20 7. 結論……………………………………………………………………………………..21 8. 終わりに………………………………………………………………………………..21 参考文献……………………………………………………………………………………23

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0.はじめに 英文法はどのように発達するのだろうか。英語と歴史が好きな私にとって、これは大

学で英語を専攻してから徐々に生じてきた疑問である。また、文法がどのように発達して

きたかを探ることで、その言葉の根底にある意味を探り、英語の意味をより理解できるの

ではないかと思うようにもなった。

英文法をより理解しようという目的で、ゼミで認知言語学を専攻し、認知文法論には、

共時的研究と通時的(歴史)研究があるということがわかった。共時的研究は、言葉の意味

変化を単に記述するものであるが、通時的研究は言葉を歴史的視点から分析することによ

って、言葉の意味変化のみならず、意味変化の動機づけ、すなわち変化の理由づけをおこ

なうものである。いわゆる文法のなりたちをさぐることである。この文法のなりたちは専

門用語で文法化という。

文法化とは、簡単に言えば、かつて名詞や動詞・形容詞であった固有の意味を持つ内容

語が、次第にその単語が持っている、似た意味へと変化し、より文法要素の強い機能語へ

と変化していくことである。そして、言葉(文法)の変化には我々の認知、すなわち私た

ちが心で思っていることや感じていることが深く関わっているのである。

これから文法化がどのようなメカニズムで起こっていくのかを、未来の意味を表す助動

詞 be going to を例にとって述べていく。助動詞 be going to を例にとった理由は、この助

動詞の存在を知ってから、「なぜこれが未来の意味を表すのか」、また「同じ未来を表す助

動詞 will とはどのように違うのか」という疑問がずっとつきまとっていたからである。

それではまず、本格的な助動詞の分析に入る前に、言語学者が文法化をどのように定義

しているかを紹介しよう。

1. 定義から見た文法化

① Heine et al は著書”Grammaticalization”で文法化を以下のように述べている。

To show where a lexical unit assumes a grammatical function, or where a

grammatical unit assumes a more grammatical function. (Heine et al.1991:2)

(語彙単位がどの段階で文法機能を帯びるか、また文法単位がどこでさらなる文法機能

を帯びるかを示すこと。(訳:池上嘉彦,1998:307)

② Traugott は論文 “Pragmatic Strengthening and Grammaticalization.”で以下のよ

うに述べている。

The dynamic, unidirectional historical process whereby lexical items in the course

of time acquire a new states as grammatical, morphosyntactic forms.(Traugott. 1988)

(ある語が時間の経過にしたがって、新しい、文法的な状態や形態統語的な形になる、

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動的で、一方向な歴史的変化。)

③ Hooper & Traugott は著書である”Grammaticalizaition”で次のように述べている。

Grammaticalization refers to part of the study of language that focuses on how

grammatical forms and conditions arise, how they are used, and how they shape the

language. (Hooper & Traugott,1993:1)

(文法化は、どのようにして文法型ができたのか、それがどのように使われているのか、

そして文法型がどのように言語を形作るのかに焦点を当てた言語研究に関与している)

④ そして、日本の認知言語学者である河上誓作は、『認知言語学の基礎』で以下のように

述べている。

もともと内容語だったものが、次第に機能語として文法的な特質、役割を担うようにな

る現象。(河上誓作.1996:179-180)

これらの定義から文法化を検討すると、文法化とは、内容語である語彙単位が、時間の

経過にしたがって機能語である新しい文法的状態や形態統語形へと変化する、一方向な歴

史的変化である、といえる。

それでは次に、助動詞 be going to がどのように未来の意味を帯びたかについて大まかに

ふれ、未来の助動詞 will との意味の違いについて見てみることにしよう。

2. be going to の先行研究 2.1 be going to の使われ方とその文法化の過程

それでは、以下の例文を用いて、動詞 go がどのようにして未来の意味を持つ助動詞 be

going to となったのかを検討してみよう。

(1) I am going to Hawaii. (私はハワイへ行く)

(2) I am going to Hawaii to swim in the ocean.(私は海で泳ぐためにハワイへ行くんだ)

(3) I am going to marry Lucy. (私はルーシーと結婚するつもりだ)

(4) I am going to go to Hawaii. (私はハワイへ行くつもりだ)

(5) He is going to like the band. (彼はこのバンドを好きになるだろう)

(6) I ‘m gonna watch TV tonight. (私は今夜テレビを見るつもりだ)

そもそも、もともと「行く」の意味を表していた go がどのように未来の意味を表す表

現に変わったのだろうか。例文(1)を見てみよう。例文(1)は Hawaii という場所を表す名詞

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が存在するので、未来の意味を表すよりはむしろ「ハワイへ行く」という意味が強く、文

法化が起こりにくい文となっている。

例文(2)を見てみよう。この文を詳しく訳してみると、「私は海で泳ぐ目的のためにハワ

イへ行く」となる。我々は、経験上目的が達成されるのは未来のことであることを知って

いる。これにより、例文(2)は例文(1)よりも未来の意味を帯びた表現であることがいえる。

例文(3)もまた目的を表す動詞 marry が存在するので、未来の含意をくみとることがで

きる。例文(3)はまず、「私は(どこかの場所へ)行って、ルーシーと結婚する」、から「私

はルーシーと結婚する目的のために、どこかに行く」という解釈をすることができる。そ

して、目的は未来に起こることなので、「私はルーシーと結婚するつもりだ」という未来を

表す意味になることができるのである。このような意味の変化は文法化によるものである。

また、助動詞 be going to がさらに文法化すると、be going to の後に目的を表す以外の

動詞がくるようになる。すなわち、例文(3)では、「結婚するために行く」という解釈と「結

婚するつもりだ」という二通りの解釈ができたが、例文(4)や(5)では未来の意味でしか解釈

できないのである。もし、「行く」の意味でこれらを解釈すると、例文(4)では、「*ハワイ

に行くために行く」、例文(5)では、「*このバンドを好きになるために行く」という不自然

な意味になってしまう。文法化により、これまで使われていた目的の単語とは違った意味

をもつ go や likeなどの単語にも be going to が使われるようになったのである。そして、

このように文法化された意味である be going to =未来を表す助動詞が一般的に広まり、

go が未来の意味を表すという文法化が成立したといえるのである。

そして、いままで述べてきたような文法化現象が起こって初めて、be going to が gonna

になるような音型変化が起こることができるのである。

2.2 歴史的視点から見た未来表現 will と be going to の違い

ここでは、未来表現を表す助動詞 will と be going to のもともとの意味を検討すること

により、現在ある助動詞の意味の違いを理解してみる。

2.2.1 現在の will と be going to の意味

まず、英語教師の文法研究(英語教師の文法研究:99-101)と Hooper & Traugott

Grammaticalization を参考に will と be going to の意味を述べてみる。

・be going to の意味

(a)人称主語と共に用いられ、〈計画済みの意図(intention)〉を表す。

(7) Professor McGonagall is not going to let Harry walk home on his own.

(マックゴナガル博士はハリーをひとりで家に帰すつもりはない。)

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(8) What are you going to do about the mess on the floor?

(床の汚れをどうするつもりですか)

(b)「物/人間主語」と共に用いて、「将来~しそうな兆しがある」という意味をあらわ

す。

(9) If interest rates are going to climb, we’ll have to change our plans.(Hooper &

Traugott,1993:3)

(もし利息が上がるならば、我々は計画を変えなければならないだろう)

(10) I think there is going to be a typhoon.

(台風が来そうだ)

・will の意味

(a) 意図(intention)

(11) What will you do about the mess on the floor?

(床の汚れをどうしようか)

(b) 意思 (willingness)

(12) Will you give me a hand?

(手伝ってくれますか) (安藤貞雄 1993:100)

(c) 予想(prediction)

(13) The ice will melt if the sun comes out.

(太陽が出れば、氷は溶けるだろう) (安藤貞雄 1993:101)

以上の例を用いて、will と be going to の違いを述べてみるが、その前にそれぞれの助動

詞が本来どのような意味を持っていたかを理解してみることにしよう。

2.2.2 初期の未来を表す be going to

未来をあらわす助動詞 be going to が目的の意味を持つ表現から発達したことは先に述

べたが、OED によるとその文法変化は、中期英語時代(およそ15世紀)に顕著に現れ

始めているという。以下が、中期英語に現れた未来表現の例である。

(14)Thys onhappy sowle … was goyng to be broughte into helle for the synne and

onleful lustys of her body.

(1482, Monk of Evesham [OED go 47b])

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この文の意味は、「死後、魂は罪や欲望をあがなうために地獄へと連れられるだろう」と

いうことができる。この文の目的を表す into helle から始まる句は、持って行かれるとい

う意味の broughte にかかっており、was goyng to にかかっているのではない。すなわ

ち、”was goyng into helle”「地獄へ行く」ではなく”broughte into helle”「地獄へ連れら

れる」という解釈になる。これにより、was goyng to は be broughte の助動詞的役割を担

うとみなされ、この文は「地獄へ連れていかれるだろう」という未来の意味を表すことが

明らかになるのである。

それでは、次に will のもともとの意味を見てみることにしよう。

2.2.3 初期の will の意味

Bybee と Pagliuca によると古英語時代の will は生物(animate)を主語にとり、主語の意

図や意志を表す言葉であったという。中期英語から次第に非生物名詞(inanimate subject)

をとるようになり、予想や未来の意味を帯びるようになったのである。

以下はベオウルフにある意志をあらわす will の表現の例である。

(15)Gif he us geunnan wile, p? t we hine swa godne gretan

(If he will / is willing to grant that we should greet him who is so gracious…)

(もし彼がその気ならば、我々は上品な彼に挨拶すべきでしょう。)

(Beowulf 346-7;Hooper & Traugott,1993:93 詳しくは Bybee & Pagliuca; The evolution

of future meaning,1987:113 を参照)

will が未来の意味を帯びるようになったのは、もともと主語の意志や意図を表していた

will が中期英語時代に意志や意図とは関係ない非生物名詞を主語にとるようになってから

である。当然のごとく非生物は意志や意図をもつことはできない。そこで、「意志や意図は

これから先に起こること」という解釈を利用して、非生物名詞と共起しても不自然ではな

い(予想)未来の意味ができたと考えられる。

ここで注意しなければならないことは、未来の意味ができたからといって、以前から存

在していた意志や意図の意味が薄れるという現象が起こっているわけではないのである。

すなわち、これまであった意志や意図の意味のほかに、未来をあらわす予想の表現が加わ

り、3 つの意味が互いに共存しているというわけである。助動詞 be going to のように、「何

かの目的のために行く」という意味が薄れ、未来の意味がプロファイルされることとは違

うのである。

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2.2.4 歴史的視点から見た will と be going to の意味の違い

助動詞 be going to が動詞 go から発達してきたことを考慮に入れると、助動詞 be going

to が助動詞 will より、より現在指向であり、未来の即時性を含意することが見てとれる。

未来的表現である意志や意図から発達した未来表現 will に比べ、be going to は現在動詞

go から発達しており、「現在から未来へ行く」という意味があり、より現在との結びつき

が強いのである。また、現在との結びつきが強ければ、その未来は漠然としたものをあら

わすのではなく、より現実味を帯びた未来表現となってくるのである。

それでは、以上述べたことを考慮にいれながら 2.2.1 で挙げた例文を検討してみよう。

(7) Professor McGonagall is not going to let Harry walk home on his own.

(マックゴナガル博士はハリーをひとりで家に帰すつもりはない。)

これは計画済みの意図(intention)を表すと書いた。もっと詳しく解釈すると、「いま家に

帰ろうとしているハリーをマックゴナガル博士はひとりで帰す気はない」という今まさに

起こっている出来事を表す即時性の強い文となる。ここで、is not going to を will not に

書き換えると、そのような即時性は現れず、もっと先の未来のことを表しても良いことに

なる。

(8) What are you going to do about the mess on the floor?

(床の汚れをどうするつもりですか)

(11) What will you do about the mess on the floor?

(床の汚れをどうしようか)

(8)では話し手が相手に対し床の汚れをどうするのかという質問をし、相手がその質問に

答え、かつその答えを実行するということまでを含意することができる。この意味で(8)

は、床を汚した相手を叱り、床の汚れを何とかしろという意味としてもとることができる

のである。これに対し、(11)では、どうするかという問いに対し、即時に対応することを

期待しておらず、むしろ相手の意図やアドバイスを求めている文とも解釈ができる。すな

わち、汚れた床を前にして、二人が「どうしようか」と悩んでいるシーンとも取れるので

ある。

(12) Will you give me a hand?

(手伝ってくれますか)

(16) Are you going to give me a hand?

(手伝ってくれるんですよね) (安藤貞雄 1993:100)

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(12)はただ純粋に相手の意志を尋ねる文であるが、(16)は違ってくる。ここでも、be going

to の即時性がかかわってくるのである。すなわち、(16)は「あなたは私を手伝うことを計

画した未来としているんですね」という解釈となり、相手に手伝ってくれることを頼むと

いうよりは、手伝ってくれることを確認する意味となっている。(12)のように不確定の未

来に対し「手伝う」という未来を初めて相手に持ちかけるのに対し、計画された未来に対

し確認をとるという違いである。

(9) If interest rates are going to climb, we’ll have to change our plans.(Hooper &

Traugott,1993:3)

(もし利息が上がるならば、我々は計画を変えなければならないだろう)

ここでの be going to は「将来~しそうな兆しがある」という意味をあらわす。「近い未

来利息が上がるという兆しがあるならば、」という意味で、現在との結びつきが極めて高い

表現である。

ここで、ジェニファー・コーツ(1992:237)によると、be going to は条件文の中にも自由

にあらわれることができるが、未来や予想をあらわす will は条件文に用いてはならないと

ある。例えば、例文(9)の be going to を will と置き換えることはできないというわけであ

る。これは、will では未来があまりにも漠然としているからである。あいまいすぎる未来

では仮定法にならないということであろう。これに対し、現在指向の be going to ならば、

「利子が上がる兆しがある」という即時性が現れている。すなわち、仮定をするのにしっ

かりとした情報が存在しているのである。

これに対し、will の意味が意志や意図を表すならば、条件文と共起できる。これは、「だ

れだれが何々を意図するならば」という仮定するのにふさわしいしっかりとした情報があ

るからである。

(10) I think there is going to be a typhoon.

(台風が来そうだ)

(13) The ice will melt if the sun comes out.

(太陽が出れば、氷は溶けるだろう) (安藤貞雄 1993:101)

例文(10)を詳しく解釈すると、「台風がくる兆しがある」ということができる。もうお解

かりのように、ここに will が来ると、兆しや近い未来に台風がくるということは含意せず

により漠然とした意味になる。

例文(13)では、will を be going to と置き換えることができない。これは、例文(13)では

太陽が出てくるという兆しがまだ現れていないからである。

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以上のように未来をあらわす will と be going to は古英語や中期英語から存在する意味

を今でも持っており、それらの意味によってそれぞれの意味の違いや使われ方の違いが出

てくるのである。すなわち、言葉の意味は、それがもともとどのような意味をもっていた

のか、そしてどのように発達してきたのかで、決まってくるのである。

現在使われている be going to にはかつてからある「目的に向かって行く」という意味が

根底に生きているため、will よりも現在指向であり、未来の即時性が求められているので

ある。

それでは次に、文法化がどのようなメカニズムで起こるのかを、再分析(Reanalysis)と

類推 (Analogy) の観点から詳しく見ることにする。

3. Reanalysis と Analogy

文法化が起こるメカニズムとして、Reanalysis(再分析) と Analogy(類推)がある。

ここからは再分析と類推について検討することにより、文法化のメカニズムにふれてみよ

う。はじめに再分析と類推の説明をし、次に再分析と類推が be going to の文法化にどのよ

うに関わっているかを検討する。

3.1 再分析(Reanalysis)について

簡単にいうと、再分析とは文法規則が統語的・語用論的・音声学的に変わることである。

ラネカーは再分析を以下のように定義している。

Change in the structure of an expression or class of expressions that does not involve

any immediate or intrinsic modification of its surface manifestation (Hooper &

Traugott1993:40)

(表面上に顕著にあらわれる即時的・本質的変化を伴わない、表現における構造上の変化)

注.詳しくは Langacker 1977. Syntactic reanalysis 58 を参照

この定義によると、再分析とはある表現が古いものから新しいものへと移る構造上の変

化であり、表面上は見えないものである。また、 Traugott によると (Hooper &

Traugott1993)再分析はより統語的(syntagmatic)な変化であるという。

再分析の最も典型的なものに、fusion(融合)という現象がある。これは語用論上、二

つ以上の形がある単語が一つに合体するという現象である。例えば、現代英語で使われて

いる接尾辞の、-hood,-dom,-ly はかつて、それぞれ、”condition”、”state, realm”、”body,

likeness”を表す完全な名詞であった。しかし、再分析が進むにつれ、次第に二つの単語の

境界線がなくなり、最後には一つの単語へと融合されたのである。そして、融合によって

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以下のように再分析され意味が変わったのである。

(17) cild-had ‘condition of a child’(子供の状態) > childhood(幼年期)

f r eo -dom ‘realm of freedom(自由の範囲)’ > freedom(自由)

m a n -lic ‘body of a man, likeness of a man’ (男性の体、男性らしさ)> manly(男

らしさ)

(Hooper & Traugott, 1993:41)

このように、再分析とは、単語と単語の境界線が変わることよって意味が変わるという

ことを意味する。

3.2 類推(analogy)について

再分析に対し、類推は古いものから新しいものになるのではなく、再分析によって変わ

った文法規則が言語一般に広まる、いわゆる「一般化」のような現象をいう。再分析が表

面上顕著にあらわれない変化であることに対し、類推は表面上から見て取れる現象である。

また、統語的というよりはむしろ語用論的変化である。それでは、例(18)を使って類推を

説明してみよう。

(18) a. a basket full of apples

b. a cupful of tea

c. hopeful

(Hooper & Traugott,1993:7)

まず、例(18)aと(18)bは語と語の境界線がなくなっているので、再分析の結果といえる。

「いっぱいの」という意味を表す形容詞が、接尾辞に再分析され、音声上必要ない二つ目

の l(エル)が消えている。

次に、例(18)b と c を見てみよう。これは類推の結果であるといえる。full はもともとバ

スケットやカップなど、具体的なものをいっぱいにするという意味であった。これが「い

っぱい」という意味から「何かが存在する」のような「その単語へ意味をプラスする」と

いう意味へと類推され、これにより、より抽象的な単語の接尾辞になることが可能となっ

たのである。

それでは次は be going to が未来の意味を持つために再分析と類推がどのように関わ

っているかを見ていくことにする。

3.3 助動詞 be going to の再分析と類推による分析

以下の表は助動詞 be going to がどのように再分析され、類推化されたかを表すもので

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ある。表は Hooper & Traugott によるものに私が日本語訳をつけたものである。

初期状態 b e g o i n g [ to visit Bill ]

進行相 方向を表す動詞 目的を表す語または節

変化1 [be going to] visit Bill

時を表す助動詞 動作を表す動詞

(再分析による変化)

変化2 [be going to ] like Bill

時間を表す助動詞 動詞

(類似化による変化)

変化3 [gonna] l ike / visit Bill

(再分析による変化)

(Hooper & Traugott,1993:61)

まず、初期状態において、文は方向を表す動詞と目的を表す節で構成されており、going

は「行く」の意味として分析されている。

次に、変化1は統語上分けて分析されていた be と going と to を一つの括弧でくくり、

時を表す助動詞として再分析している。この変化は、単語のくくり方を統語上において行

っているものであって、表面上は見えない変化である。そして、方向を表す動詞から時を

表す助動詞へと新しい意味を加えているので、再分析による変化ということができる。

次に、変化2を見てみよう。これは類推化によるものである。変化1において be going

to の後には動作を表す動詞(解釈の仕方によっては、初期状態のように目的の意味をもつ

文としても理解できる動詞)しかとれなかったものが、その他の一般動詞もとることがで

きるようになったのである。すなわち、動作動詞だけでなく、より広く一般的な単語にま

でに未来の意味が使えるということを類推し、それを広めたということである。これによ

って、be going to の未来の意味が一般化され、be going to といえば未来を表す表現という

ことになり、「ある目的をするために行く」という意味は薄れていくのである。

最後に、変化3では音声を再分析することによって単語3つから成る複雑な助動詞から

新しい単一音声型になったのである。

このように再分析と類推化は文法化における主要なメカニズムであるといえるが、なぜ

文法化が起こるのかを説明するものではない。それでは次は、文法化がなぜ起こるのかを、

語用論的・認知的見地から見てみることにする。

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4. 語用論的見地から見た文法化

前章では文法化のメカニズムを再分析・類推化から見てきた。この章では、文法化はな

ぜ起こるのか、文法が変わる動機づけについて、認知的・語用論的立場から見ていく。

4.1 文法化が起こる理由

言葉が変わる理由として多くの人類学者は、話し手と聞き手による会話を通じて起こる

ものである、という意見がほとんどである。Traugott は言語学者 Langacker の意見を通

じて、文法化が起こる理由として、「言葉の経済性」“maximize of economy”と「情報の最

大提供」“maximize of informative”がかかわっていると述べている。(Traogott,1993:64)

すなわち、情報を相手により簡単な言葉で伝えようとする話者の意図と、情報を最大限に

提供しようとする話者・あるいは情報をより多く吸収しようとする聞き手の意図が文法化

を引き起こしていると言うのである。

(注.詳しくは, Langacker, R.W.1977. Syntactic Reanalysis.(101-106)を参照)

聞き手が文法変化の一端を担う場合は、聞き手が話し手の意図をくみ取るときである。

聞き手は話し手が発した情報を、最も確実ではっきりとした意味としてとらえようと努力

する。

例えば、I am going to visit Bill の文で、話し手が、「ビルを訪ねるために行く」と目的

の意味を表現したことを、聞き手が「ビルを訪ねるつもりだ」という未来の意味に解釈す

るということである。

次に、話し手が文法化を起こすとき、話し手は聞き手に分かりやすいように表現を工夫

するのである。

例えば、会話表現で gonna が be going to より多く使われる理由は、音声的に短い方が

速く相手に情報が伝わるからである。また、会話表現において、同じ未来を表す意味で、

will や ‘ll よりも be going to や gonna のほうが多く用いられるのは、音声的に短すぎる

と聞き手が聞き逃してしまい、情報がうまく伝わらないおそれがあるからである。

(Hooper & Traugott,1993)

このように文法化は、聞き手と話し手との間の情報交換がうまく行われるため、会話が

スムーズに進行するために起こっているのである。聞き手は、話し手の話をより理解する

ために、話し手の表現を最も分かりやすい表現で解釈し、話し手は相手に情報をより的確

に伝えようとするために古い表現から新しい表現へと切り替えるのである。

ここでひとつ注意がある。人が情報をうまく伝えるためならば、言語をいかように変え

ても良いというわけではないということである。人は生まれながらにして普遍文法

(Universal Grammar)が与えられているという説があり、文法には変えることのできな

い基本的な部分と、変えることのできる部分が存在する。地域や文化、社会、時代によっ

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て文法がちがうのは、普遍文法の中でも変わることのできる部分が、その国や時代の人に

よって変えられているからである。(Hooper & Traugott,1993:35)

以上のように、文法化は語用論的や認知的に動機づけられているのである。それでは次

は、認知科学の典型である、メタファーとメトニミーの立場から、文法化を分析する。

4.2 メタファー・メトニミーと文法化

メタファーとメトニミーは文法化における重要なファクターのひとつである。言語学者

Bybee と Pagliuca によると、メタファーとメトニミーこそが言葉の変化の理由であると

いう(Hooper & Traugott,1993:78.詳しくは Bybee & Pagliuca 1985 Historical Semantics and

Historical Word Formation 59-83 参照)。これは、人は生まれながらメタファーやメトニミー

をする生き物であるという事からきている。しかし私は、人が情報をより効果的に伝える

という理由から文法化が起こり、情報を効果的に伝えるための一つの方法としてメタファ

ーとメトニミーが使われているのだと考える。

4.2.1 メタファーとメトニミーとは何か

それでは、メタファーとメトニミーとは何だろうか。それぞれの定義と簡単な例を挙げ

て説明してみよう。

河上誓作の『認知言語学の基礎』と、巻下吉夫・瀬戸賢一の『文化と発想とレトリック』

によると、メタファーとメトニミーは以下のように定義されている。

メタファー:・ある領域の事物を、類似性の連想に基づいて、別の領域の物事にたとえ

て理解すること。(河上誓作,1996:210)

・メタファーは類似性に基づくものである。(巻下・瀬戸:102)

メトニミー:・ある領域の事物をそれと近接関係にある別の事物で指し示すこと。(河

上誓作,1996:210)

・(現実)世界のなかで隣接関係にあるモノとモノとの間で、一方から他方

へ指示がずれる現象のことを言う。(巻下・瀬戸:105)

上に挙げた定義が示すように、メタファーとは類似性に基づくたとえであるといえる。

例えば、I will give you that idea「その考えをあなたにあげよう」(河上誓作,1996:46)と

いう例文がある。これは、「考え」という実体のないものを、実体のある「物」の表現と一

緒に扱った例である。「考え」とは「物」と同じように所有できるものであるとし、「考え」

と「物」を類似したモノと捉えたのである。

次にメトニミーは、近接関係に基づくたとえである。

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例えば、The kettle is boiling.「やかんが煮え(くりかえっ)ている」(巻下・瀬戸:115)

という文で、実際煮えているのはやかんではなく、その中に入っているお湯である。お湯

と近接関係にある、やかんが煮えていると表現することで、実際はお湯が煮えていると表

現するのである。このように近接性に基づくたとえがメトニミーである。

ここで、メタファーの定義にある類似性に注目して欲しい。類似性に基づく意味変化は

先に述べた類推化による意味変化と合致する。よって、類推性に基づく意味変化にはメタ

ファーが関わっているといえる。

それでは、メトニミーはどうなのだろうか。Hooper & Traugott によると再分析はメト

ニミーとリンクしているという。

メタファーとメトニミーに関して、二人は以下のように述べている。

Metaphor operates across conceptual domains, while metonymy operates across

interdependent (morpho)syntactic constituent. ( Hooper &

Traugott,1993:87)

すなわち、メタファーは思考のドメインを操作し、メトニミーは形態統語構成素が相互

に影響し合う現象に関わっているといえる。

ここで be going to が目的の意味を持つ表現から未来の助動詞に変わった再分析の過程

を思い出して欲しい。be going [ to visit ]と発話されていたものを、[be going to] visit と

再分析した。これは形態統語上の変化であり、二人の説と一致する。

これにより、メタファーは類似化、メトニミーは再分析に関わっていると言うことがで

きる。

4.2.2 メタファーと文法化

Hooper & Traugott(1993:82)は、未来を表す be going to は、go のみから発達したもの

ではなく、go と目的の意味を持つ前置詞 to の両方が作用した結果であると仮定している。

最初で「ビルをたずねるという目的のために行く」と解釈されていたものが、形態統語的

に[be going to]と再分析することで、「ビルをたずねるつもりだ」という未来表現となるの

である。ここで、目的は未来に起こることである。「これから達成しようとする目的」と「未

来事象」というのは類似表現というよりはむしろ、近似表現といった方がより正確で細か

く分析されているといえるだろう。

ここで、be going to が未来表現となった文法化現象はメタファーの結果であるという指

摘が多い。(河上誓作,1996:187)の『認知言語学の基礎』には Sweetzer の未来指標として

の go が紹介されている。(詳しくは、Sweetser,E.E. 1988 ”Grammaticalization and Semantic

Bleaching.” BLS 14: 389-405 を参照)ここで、go の未来表現は、「「物理移動」という空間的

なドメインから、「未来」という時間的ドメインへのメタファー的写像である」と述べてい

る。

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すなわち、Time is Space「時間は空間である」というメタファーが使われているのであ

る。未来は我々の前方にあるものであり、未来へ行くということは、自分の前へ行くとい

うことにも解釈されるのである。

だが、はたして go という単語一つだけで、未来を表す文法化が起こったといえるので

あろうか。語用論的立場からみると、その後に続く to 不定詞の語句も文法化の一躍を帯び

ていると理解するべきである。また、聞き手の立場から解釈すれば、目的を表す to 不定詞

があってこそ、go が未来の意味として解釈されるのであって、go だけで文法化が起こっ

たという考えは不自然といえる。

4.2.3 メタファーとメトニミーによる be going to の分析

文法化がメタファーだけによるものではないということが分かったところで、次は再分

析と類推化で使った表をもう一度用いて、メタファーとメトニミーがどのように文法化の

現象に関わっているかを見てみよう。

初期状態 b e g o i n g [ to visit Bill ]

P R O G 方向を表す動詞 目的を表す節

変化1 [be going to] visit Bill

時を表す助動詞 動作を表す動詞

(メトニミーによる変化)

変化2 [be going to ] like Bill

時間を表す助動詞 動詞

(メタファーによる変化)

(Hooper & Traugott,1993:88)

4.2.2 の繰り返しになるが、初期状態で「ビルをたずねるという目的のために行く」と解

釈されていたものが、形態統語的に[be going to]と再分析するとで、「ビルをたずねるつも

りだ」という未来表現になる。目的とは未来に起こることである。「これから達成しようと

する目的」と「未来事象」は近似表現といえる。よって、go に未来の意味を与える再分析

にはメトニミーが関わっているといえる。

次に、メタファーがどのように文法化に関わっているかを見てみよう。メタファーは類

似性の連想に基づいて、ある物事を別の領域の物事にたとえて理解することである。メタ

ファーは類似化とリンクしていると書いた。すなわち、メトニミーによって新しい意味を

帯びた文法表現を、その類似した表現を見つけて広めるという、一般化の役割を担ってい

るのである。

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変化1と変化2を見てみよう。変化1では動作を表す動詞しかとらなかったが、変化2

では一般動詞もとるようになる。これは動作動詞の類似カテゴリーにある一般動詞まで be

going to が広く使われるようになった結果である。

以上のように、メトニミーは再分析、メタファーは類似化に関わっているのである。

be going to の例から見ると、まず再分析が起こり、そしてその再分析の結果を類似化に

よって一般化するという方向性が見られる。よって、再分析を起こすメトニミーが文法化

の主要な部分を担い、メタファーはそれに付随するかたちになるのである。

5.文法化の一方向性仮説

上に上げたような文法化はただやみくもに起こっているわけではない。文法化には、一

般的にある一定の方向に向かって起こるという傾向がある。多くの学者がこの学説を支持

しており、現在の文法化研究において最も有力な学説である。では、どのような学説なの

か、見てみることにしよう。

5.1 一方向性仮説とは

河上誓作の『認知言語学の基礎』では、文法化は、「もともと内容語だったものが、次第

に機能語としての文法的な特質、役割を担うようになる現象」と定義している。確かに、

be going to の例からもこのことはいえるだろう。すなわち go 文法化とは、「行く」という

意味の動詞である内容語が、未来の意味を持つ助動詞という機能語へと変化するという一

方通行の変化の過程であるといえる。

それでは、もっと詳しく文法化の一方向性を見てみよう。

Hooper & Traugott(1993:7)によると、文法化は以下のような順番で起こるとしている。

内容語>文法語>接語>語形変化した接辞

例えば、形容詞 full を例にとって見よう。

もともと形容詞であった full が cupfulや hopefulのような語形変化した接辞になってい

る。文法化は必ずしも内容語から文法語の順に起こるのではなく、内容語から接語になっ

たり、内容語から文法語で文法化が終わる場合もある。ただし、文法語から内容語になっ

たり、接辞から文法語になったりと、逆方向に文法化が起こることはないのである。

5.2 語用論的見地からの一方向性仮説

Hooper & Traugott は文法化が起こる過程として、ただ内容語が機能語になるという説

明だけでは不十分だとしている。二人は、ある特定の文脈で使われている内容語が、次第

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に統語的に再分析され、最後には形態素となっていくことが文法化であるとしている。

すなわち、ただ、go がひとりで未来の意味を帯びるのではなく、目的を表す to 不定詞

という文脈があり、それが目的とは未来のことであるという解釈がされて初めて、未来表

現を帯びた文法化が起こるのである。

5.3 一方向性仮説を支持する3つの言語現象とその方向性

文法化の一方向性を支持する言語現象には様々なものがあるが、ここでは、語用論強化・

意味の一般化・意味の漂白化について述べてみる。その後、それらがどのようにリンクし

ているかを述べることにする。

5.3.1 語用論強化

語用論強化を Traugott と河上誓作は以下のように定義している。

① strengthening, most especially strengthening of the expression of speaker

involvement. (Traugott 1988)

(強化とは、特に話者がかかわった表現の強化である。)

② ある表現をある状況の下で実際に使用する際の話者の解釈が、いつの間にか次第に

その語の意味に取り込まれてしまうこと。 (河上誓作.1996)

要するに、話者(話し手・聞き手)が思ったことや推測したことが、言葉の意味の中に

取り込まれ、その意味が定着することである。be going to が目的の意味から、聞き手の解

釈により未来表現を帯びるようになることも、語用論強化の一例といえる。また、語用論

強化はメトニミー によるものであり、再分析の結果ということができる。

5.3.2 意味の一般化

意味の一般化について Hooper & Traugott は以下のように述べている。

① An increase in the polysemies of a form (Hooper & Traugott,1993:96)

(その語形が多義性を帯びること)

また、Kurylowicz は次のように述べている。(Hooper & Traugott,1993:96)

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② An increase of the range of a morpheme advancing from a lexical to a

grammatical or from a less grammatical to a more grammatical

(単語から文法型、あるいは文法型からより文法化された形態素の意味領域が広がるこ

と)(詳しくは Kurylowicz, 1965. The evolution of grammatical categories : 52 を参照)

すなわち、再分析によって語用論強化された意味を、より多義的で一般的な意味へと広

げることである。かつては動作動詞しか取りえなかった be going to の後に、一般動詞が

とれるようになったのは一般化の現象といえる。ここで、一般化はメタファーによる現象

である。

今までのことをまとめると、文法化はまず、再分析が起こり、次に類似化が起こるので

ある。同じようにまず、メトニミーが起こりそしてメタファーが起こるのである。

5.3.3 意味の漂白化

意味の漂白化について、山梨正明は『認知文法論』で以下の用に述べている。

実質的な内容語としてカテゴリー化されていた表現の意味が変容し、次第にその意味内

容が薄れ別のカテゴリーに転化していくプロセス。(山梨正明,1995:64)

意味の漂白化は、もともと内容語であった意味が文法化のプロセスにより次第にその意

味が弱まり、しまいにはその意味がなくなってしまうという現象をいう。それでは、以下

の例文をもとに意味の漂白化がどのように行われているかを見てみよう。

(19) I am going to wake him up in the up stairs. (私が一階にいるとき)

(①私は二階にいる彼を起こすつもりである・ ②私は二階へ彼を起こしに行く)

(20) The bell was going to ring any second now.

(チャイムは今にも鳴りそうであった)

(21) *Mother’s gonna store after having lunch.

(22) I will be going to visit White House tomorrow.

(明日ホワイトハウスを訪問していうことになるだろ)

例文(19)では、②の意味である「私は二階へ彼を起こしに行く」という「行く」の意味

でも十分解釈できる。ところが(20)では、「行く」という意味は全く失われており、完全な

未来の表現となっている。(21)はさらに顕著である。未来の意味を帯びて単一音化した

gonna の後には、場所を表す名詞は来ることができなくなってしまう。このことは、gonna

から「行く」という意味がなくなった(漂白化された)証拠であるといえる。

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さらに、(22)の文を見てみよう。現在の英語では、この例文のように will と be going to

が共に存在することが可能であるが、これから文法化(go の意味の漂白化)がより進み、

be going to が完全な未来を表す助動詞となったとき、will と be going to は(22)のように

共起することができなくなるだろう。それは、英文法において一文に二つの助動詞がくる

ことができないからである。

ここで注意して欲しいことがある。意味の漂白化が進めば、will=be going to となるわ

けではないことである。たとえ表面上表れている意味が薄れようと、根底にある意味は生

き続けるのである。すなわち、be going to を例にすると、たとえ表面上では認識できなく

ても、根底にある「ある目的に向かっていく」という意味は生き続けているのである。そ

のため、be going to は will よりも、未来における事態の実現可能性が高い文で使用され

るという区別がおこるのである。

5.3.4 一方向性仮説のまとめ

いままで文法化の一方向性仮説を支える3つの現象を見てきたが、これらの現象にも方

向性がある。

Traugott は、文法化の最初の段階にまず、意味の強化が起こり、しかる後に漂白化がお

こるとしている。図に表すと以下のようになる。

語用論強化>(一般化)>意味の漂白化

これまで述べてきたことをまとめると、文法化は、再分析から類推、メトニミーからメ

タファー、語用論強化から意味の漂白化という一方向性をとっており、その逆はあり得な

いということである。

6. 実験(意味の漂白化・一般化について)

最後に、いままで述べてきた文法化現象が本当に起こっているかを、実際に集めたデー

タを基に解析してみようと思う。ここでは特に一般化と意味の漂白化について調べてみた。

まず、実験1は、容器の単語以外につく接尾辞 ful がどれくらい一般化されているかを、

逆引き辞書で ful の付く単語を集めることにより検討する。

次に、実験2は、ミステリー小説と映画セリフ集を使い、be going to がどのように使わ

れているかを調べ、現在どの用法が一般的に使われているかを分析する。

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6.1 実験1(接尾辞 ful について)

6.1.1 実験方法

接尾辞 ful がつく単語を逆引き辞書で引き、容器の意味を持つ単語についている場合と

それ以外の意味についている単語数を数え、ful が容器の意味から、単語へ意味をプラス

する意味へと、どれだけ一般化したかを探る。

6.1.2 実験結果

容器の意味を持つ単語 9

単語へ意味をプラスする意味 112

容器の意味を持つ単語

handful, bagful, mouthful, sackful, armful, cupful, glassful, pocketful, bucketful

以上のように、容器を持つ単語の10倍以上の単語が容器の意味をはっきりと持たない

単語である。この結果、もともとは容器がいっぱいであるという意味を持った full が、今

では単語へ意味をプラスする接尾辞のへと一般的されたといえる。

6.2 実験2( be going to について)

6.2.1 実験方法

助動詞 be going to が実際どのように使われているかを、ミステリー小説と映画セリフ

集を参考に調べてみた。まず、助動詞 be going to の種類を以下のように分類し、どの分類

が一番多いかを検討することのより、現在はどの意味が一般的に使われているかを調べて

みた。

分類は以下のとおりである。

① to の後に名詞がくる場合

I’m going to London.

②「ある目的を達成するために行く」という解釈ができる場合

I’m going to visit him.

③ 一般動詞がくる場合

He’s going to laugh me.

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④ gonna の文

I’m gonna eat lunch here.

6.2.2 実験結果

一つ目の題材として Todd Strasser の“The Accident”を利用した。この小説を選んだ理

由は、高校生が数多く出てくるミステリーであり、現代英語の特徴を一番表していると思

われたからである。

結果

小説 The Accident での be going to と gonna の使われ方

括弧は会話以外で使用されたもの

二つ目の題材として、スクリーンプレイ出版『名作映画完全セリフ集 BACK TO THE

FUTURE』(会話部分のみ)を使用した。この映画を選んだ理由は、この映画は一般に広

く知られており、多くの高校生が登場人物として登場し、現代英語の特徴を表していると

思われたからである。本 The Accident とは違い、映画では会話表現によく使われる gonna

の頻度に注目した。

映画 Back To The Feature での be going to と gonna の使われ方

名詞 目的動詞 一般動詞 gonna

2 0 0 42

以上の結果、目的動詞、すなわち「ある目的を達成するために行く」という解釈ができ

る動詞は一個もなかった。唯一、小説の The Accident で、二階にいる少年を起こしに行く

という表現で使われた(I’m going to wake him up.)の wake は目的動詞とも解釈できた

だけであった。

しかし、予想どおり、一般動詞の出現が多く、書物では be going to がよく使われること

も判断できた。小説 The Accident の実験結果から、助動詞 be going to が未来の意味を持

ち、その用法が一般動詞まで一般化され、今では一般動詞での be going to がよく使われる

という、意味の漂白化も起こっていることが証明された。

次に、会話のみの”Back To The Feature”では、gonna の出現が最も多く、会話では gonna

が一般的に用いられることがわかった。

名詞 目的動詞 一般動詞 gonna

4 0 37 (5) 9

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以上の結果から、be going to は一般化及び意味の漂白化が起こっていることが証明され

た。

最後に、本と映画で使われた、be going to の後にきた単語をリストにして、22 ページ

に載せておいた。

7.結論

これまで調べた結果を統合すると、文法化とは内容語の意味が強化され、その意味が一

般化し、内容語が次第に機能語となり、最後には内容語の意味が薄れていくという一方向

な歴史的変化であるといえる。また、文法化の過程には、人が常に、より正確な情報を伝

えようとする文脈上での試行錯誤がみられるのである。そのため、文法化には語用論的な

考えが深く関わっている。たとえば、メトニミーやメタファーがその一例である。また、

文法化の統語的な変化も見逃せない。full が接尾辞の-ful へと再分析されたのは、統語上

の変化によるものである。

また、いくら意味の漂白化が行われようと、もともと内容語にあった根底の意味は失わ

れず、現在も生き続けているのである。現在ある単語は昔からの意味を表現に生かしてお

り、昔どのような意味を持っていたのか、またその言葉がどのように発達したのかを分析

することによって、その言葉の本来の意味を理解することができるのである。

最後に、実際に本や映画を調べることにより、意味の漂白化や意味の一般化は実際起こ

っていることが証明され、助動詞 be going to に対する理解をいっそう深めることができた。

8. 終わりに

終わりに、卒業論文で文法化を研究することにより、文法の発達過程や、昔あった意味

が現在の言葉の意味に深くかかわっているということを理解することができた。これによ

り、英文法を理解するにはその歴史を学ぶことが大切であるということが分かり、英語を

研究することがよりいっそう楽しくなった。

卒業論文をゼミ論文として修正するにあたって、特に will と be going to の意味の違い

を歴史的観点から分析することに力を入れた。これにより、英語の細かい意味を知るため

には、文法がどのように発達したのか・昔はどのような意味を持っていたのかを知ること

が役に立つということが実感できた。

最後に、これからも一生涯、英語の学習・研究に力を入れていきたいという決心を論文

の最後に据えることでゼミ論文を終わりにしたいと思う。

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be going to の後に続く単語

・The Accident の単語 ・Back To The Future の単語

名詞 目的動詞 一般動詞 gonna

night school be×10

the dance break

build

change

clean

cost

cut

eat

end up

get×2

get angry

go touch

have

kiss

leave

love

make ×2

pay×2

protect

regret

say

see

spend ×2

stand

strike

succeed

take×3

2 0 0 42

名詞 目的動詞 一般動詞 gonna

breakfast ask blow

college be bring

funeral call cut

The assembly care do

do×4 eat

find out get

finish go

get pay

give remember

go

go

laugh

learn

live

miss

practice

prove

resister

say

sit

sound(v)

stop

talk

tell×2

think×3

wake

give

ring

snow(v)

stop

wait

4 0 37 9

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参考文献

洋書

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University Press

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Traugott, Elizabeth C. 1988. “Pragmatic Strengthening and Grammaticalization.”

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Traugott, Elizabeth C., and Berne Heine. 1991. Approaches to Grammaticalization.,

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Strasser, Todd, 1988 The Accident. Laurel-Leaf Book

Ungerer, Friedrich & Schmid Hans-Jorg, 1996 An Introduction to Cognitive

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和書

荒木一雄 編.1999『英語学用語辞典』.三省堂

安藤貞雄 著.1983『英語教師の文法研究』.大修館書店

池上嘉彦ほか訳 F.ウンゲラー/H.-J.シュミット著.1998.『認知言語学入門』.大修館書店

池上嘉彦 編.1996.『テイクオフ英語学シリーズ3-英語の意味』.大修館書店

池下裕次 編.1998『名作映画完全セリフ集 スクリーンプレイシリーズ バック・トゥ・

ザ・フューチャー』.スクリーンプレイ出版

河上誓作 編.1996.『認知言語学の基礎』.研究社出版

ジェニファー・コーツ著.澤田治美訳.1992.『英語法助動詞の意味論』.研究社出版

郡司利男 編.1991.『英語逆引辞典』.開文社出版株式会社

山梨正明 著.1995.『認知文法論』.ひつじ書房

巻下吉夫・瀬戸賢一 著.1997.『文化と発想とレトリック』.研究社出版