人」の力による 人」のための デジタル革新 ビジネス 成功...

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──もはや「デジタル革新」という言葉は 日常語となり、日本の企業経営者の間で も「自分事として取り組んでいかなけれ ばならない」という意識が芽生えてきて いるように感じます。そこで改めてお2 人に伺いたいのですが、デジタル革新を 起こしていくときに必要なことは何でし ょうか。 島津執行役員常務(以下、島津): デジタル 革新に限らず、あらゆる革新において重要 なのはトップのイニシアチブです。経営 者自らが「こう変えていくんだ」という強 いメッセージを発信することが大切です。 デジタル革新においては、当然ながら 技術やツールを進化させていく必要もあ るでしょう。しかし、もっと重要なのは、 そうした技術やツールを導入する経営者 や、活用する一人一人のマインドチェン ジではないかと思っています。 そこで大切になってくるのは、たんに 自動化や効率化を推し進めるのではなく、 その中で「人」がいかに活躍し、幸福にな れる環境を整えるかという発想を持つこ とです。 言うまでもなく、デジタル革新は「人」 あっての革新なのですから。 村瀬社長(以下、村瀬): 島津さんの言葉に は 非 常 に 共 感 し ま す。ServiceNow は 2004 年に創業したシリコンバレーの IT 企 業ですが、創業当初から「人」にフォーカ スした企業向けのクラウドプラットフォ ームの提供に取り組んできました。 今、デジタル革新によって「第4次産業 革命」という新しい波が押し寄せています。 IT が急速に普及して起こった 1990 年代の 「第3次産業革命」との大きな違いは、飛 躍的な技術革新によって、誰もが簡単に テクノロジーを使いこなせるようになっ たことです。 島津: 小さな子どもですらスマートフォン を使いこなす時代ですからね。「人」は「人 にしかできないこと」に専念できるよう なビジネスの在り方を追求すべきではな いでしょうか。 AI(人工知能)やロボットの活用など、デジタルトランスフォーメーション(デジタル革新)によって産業やビジネスは 大きく変わり始めている。しかし、自動化や効率化によってビジネスの主役である「人」が存在意義を失っては意味がない。 「ヒューマンセントリックな(人間主体の)未来」をビジョンに掲げる富士通の島津めぐみ執行役員常務と、「人」にフォー カスしたデジタル革新のためのプラットフォームを提供する ServiceNow Japan の村瀬将思社長に、デジタル革新の在り 方について語ってもらった。(聞き手は日経BP総研フェロー・桔梗原富夫) 「人」あってこそのデジタル革新 求められる意識改革 1 本記事は、日経ビジネス電子版(2019年1月31日)に掲載されたものです。禁無断転載。 島津 めぐみ富士通株式会社 執行役員常務 テクノロジーソリューション部門 デジタルインフラサービスビジネスグループ長 村瀬 将思ServiceNow Japan 株式会社 社長 」の力による 」のための デジタル革新ビジネス 成功導く 富士通株式会社 執行役員常務 津めぐみServiceNow Japan 株式会社 社長 瀬将思

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  • ──もはや「デジタル革新」という言葉は

    日常語となり、日本の企業経営者の間で

    も「自分事として取り組んでいかなけれ

    ばならない」という意識が芽生えてきて

    いるように感じます。そこで改めてお2

    人に伺いたいのですが、デジタル革新を

    起こしていくときに必要なことは何でし

    ょうか。

    島津執行役員常務(以下、島津):デジタル

    革新に限らず、あらゆる革新において重要

    なのはトップのイニシアチブです。経営

    者自らが「こう変えていくんだ」という強

    いメッセージを発信することが大切です。

     デジタル革新においては、当然ながら

    技術やツールを進化させていく必要もあ

    るでしょう。しかし、もっと重要なのは、

    そうした技術やツールを導入する経営者

    や、活用する一人一人のマインドチェン

    ジではないかと思っています。

     そこで大切になってくるのは、たんに

    自動化や効率化を推し進めるのではなく、

    その中で「人」がいかに活躍し、幸福にな

    れる環境を整えるかという発想を持つこ

    とです。

     言うまでもなく、デジタル革新は「人」

    あっての革新なのですから。

    村瀬社長(以下、村瀬):島津さんの言葉に

    は非常に共感します。ServiceNowは

    2004年に創業したシリコンバレーのIT企

    業ですが、創業当初から「人」にフォーカ

    スした企業向けのクラウドプラットフォ

    ームの提供に取り組んできました。

     今、デジタル革新によって「第4次産業

    革命」という新しい波が押し寄せています。

    ITが急速に普及して起こった1990年代の

    「第3次産業革命」との大きな違いは、飛

    躍的な技術革新によって、誰もが簡単に

    テクノロジーを使いこなせるようになっ

    たことです。

    島津:小さな子どもですらスマートフォン

    を使いこなす時代ですからね。「人」は「人

    にしかできないこと」に専念できるよう

    なビジネスの在り方を追求すべきではな

    いでしょうか。

    村瀬:その通りだと思います。当社の創業

    者のフレッド・ルディーは、「企業で働く

    普通の人々の日常業務の生産性を高める

    クラウドベース・プラットフォームを構築

    する」というビジョンを掲げてService

    Nowを設立しました。

     よく「AIやマシンラーニングによって

    人の仕事が奪われる」と言われますが、わ

    れわれがミッションとしているのは、「人

    にしかできない付加価値の高いFuture of

    Work(新しい仕事)を生み出す」ことです。

     デジタル革新においても、人にしかで

    きない仕事を生み出していくことが非常

    に重要で、そのためには島津さんがおっ

    しゃったようなマインドチェンジ、意識

    改革が必要なのではないかと思います。

    村瀬:「人にしかできない仕事」に専念し

    てもらうためには、テクノロジーを使う

    ことに煩わしさを感じず、いつでも快適

    に使いこなしてもらえるような環境を整

    えることが大切ですよね。富士通さんの

    取り組みをお聞かせいただけますか?

    島津:富士通では、その一環としてPC-

    LCM(ライフサイクルマネジメント)の

    デジタル化を行っています。

     富士通の本社および各国内事業所、海

    外拠点のエンドユーザー(社員)向けに、

    デジタルプラットフォームを経由して、

    それぞれが使用するPCやソフトウェア

    などの申請処理、資産管理、ITSM(ITサ

    ービスマネジメント)などのサービスを

    提供する取り組みです。

     デジタル革新によって、かつてはマシ

    ンルームに集約されていたホストコンピ

    ュータやサーバの機能が、社員一人一人

    の手元にパソコンやスマートフォンとし

    て散在するようになりました。これによ

    って生産性は飛躍的に向上しましたが、

    世界中に散らばったデバイスの一つ一つ

    を管理する必要性が生じました。

     どれか1台でもデバイスがなくなった

    り、ウイルスに感染したりしてしまうと、

    その社員は一日中仕事ができなくなって

    しまうわけです。以前はそうしたトラブ

    ルに専門のSEが対応していたのですが、

    デバイスの増加とともに、とても手が回

    らなくなりました。

     そこで、ServiceNowのプラットフォー

    ムを活用して、デバイスの申請処理や資

    産管理、ITSMなどのサービスを迅速か

    つシンプルに提供できるようにしたので

    す。これによって、すべての社員がいつ

    でも快適にテクノロジーを使えて、思う

    存分働ける環境が整ったと思います。

    ──富士通は「ヒューマンセントリック

    な未来」というビジョンを掲げていますが、

    まさに「人」を中心に据えたデジタル革新

    を実践しているわけですね。

    島津:そうですね。デジタル革新は「人」

    あってのものです。「人」が幸せになり、

    楽しく仕事ができるようにすることが、

    革新の本来の意義ではないでしょうか。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、デジ

    タル革新は「人」にフォーカスした革新で

    あるべきです。その意味では「働き方改革」

    にも通じると思います。

     働き方改革というと、残業時間の削減

    や有給休暇の取得率向上といった制度の

    問題ばかりにスポットが当てられがちで

    すが、テクノロジーを活用して働きやす

    い環境を整えることにも注目してみては

    どうでしょうか。

     例えば当社のCEOであるジョン・ドナ

    ホーは、ServiceNowが目指すサービスの

    特徴を、「コンシューマライゼーション」

    というキーワードで言い表しています。

    コンシューマサービス(一般消費者向け

    サービス)と同じような使いやすさや便

    利な機能を、われわれが企業に提供する

    サービスにおいても積極的に採り入れて

    いこうということです。

     働きやすいビジネス環境が整えば、社員

    が幸せになるだけでなく、生産性も向上し

    ます。われわれが日本のマネジメント層の

    方々との対話を通じて感じるのは、働き方

    改革を実践している会社は多いけれど、そ

    れが生産性向上に結びついていないと感じ

    ておられる方が非常に多いということです。

     これを解決するためには、ボタン1つで

    商品の確認から注文、決済まですべて処

    理できるAmazonのように、業務プロセ

    スのすべてをエンドトゥエンドで処理で

    きる仕組みを採り入れるといった方法が

    あります。ServiceNowは、そうした働き

    方を支援するプラットフォームを提供し

    ているのです。

    島津:最近では、「働き方改革」に関連する

    取り組みとして、富士通社員の仕事の中

    身を “見える化”するソリューションを採

    り入れました。

     ホワイトカラーが実際にどのように働

    いているのかというのは、周りからは分か

    りにくいですよね。椅子に座ってPCに向

    かえば働いているように見えますが、実

    際には無駄な仕事や無意味な仕事をして

    いるのかもしれません。そこで、メールや

    スケジュール、パソコンのログなどのデー

    タをかき集め、AIを使って仕事の中身を

    分類して、一人一人の働き方をグラフ化

    するソリューションを開発したのです。

     働き方を改善するためには、今の働き方

    を“見える化”して、問題点を洗い出す必要

    があります。ひとまずこれを社内で取り組み、

    いずれお客さまにも提案していく予定です。

    村瀬:非常に興味深い取り組みですね。わ

    れわれにもお手伝いできそうなことがあ

    りそうですので、その時はぜひお声掛け

    くださいね。

    ──ServiceNowは昨年12月に、「CHRO

    (最高人事責任者)を対象とした意識調査

    の国際比較」というOxford Economics社

    との共同調査レポートを発表しています

    ね。この中で、日本のCHROの多くは、

    デジタル革新が従業員サービスの向上に

    寄与することを期待しているという調査

    結果が表れたことについて、非常に興味

    深く感じました。

    村瀬:社員の満足度を高めることは、デジ

    タル革新の最重要テーマだと思います。

    社員が幸せになれば、お客さまも幸せに

    なれるはずですからね。

    島津:同感です。やはり「人は何のために

    働くのか?」ということが最も大事です

    から。

     仕事の進め方を最新テクノロジーによ

    って根底から変えることも、社員の満足

    度向上に結びつくのではないでしょうか。

     仕事の進め方で私が実現したいのはメ

    ールやエクセルからの脱却です。毎日100

    通以上ものメールをやり取りしています

    が、どれとどれがつながっているのかが

    ──富士通は、ServiceNowを社内で活用

    するだけでなく、ServiceNowとの協業を

    通じて、グローバルでIT運用サービスを

    提供しているそうですね。

    島津:当社の英国法人である富士通UK

    (Fujitsu Services Holdings PLC)が協業

    したのが最初でした。欧州や米国などで

    「TRIOLE for ServiceNow」と い うITサ

    ービス管理ツールを利用した運用サービ

    スを開始しました。日本でも約3年前に

    サービスを開始し、現在ではグローバル

    に展開しています。

     「TRIOLE f o r Serv i ceNow」は、

    ServiceNowが提供する「ServiceNowプ

    ラットフォーム」上に、富士通が長年培っ

    た運用管理業務ノウハウをワークフロー・

    テンプレートとして実装したITサービス

    管理ソリューションです。

     このソリューションを利用することに

    よって、お客さまに高品質な運用サービ

    スが提供できるだけでなく、当社のグロ

    ーバル拠点も利用しているので、事業を

    海外展開しているお客さまにも一元的な

    運用管理を実施することができます。サ

    ポートデスクは、英語、中国語、スペイン

    語などの多言語対応も可能です。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、富士

    通とは「TRIOLE for ServiceNow」での

    協業をきっかけにパートナーシップが深

    まり、今ではグローバルの戦略的な最重

    要パートナーとしてお付き合いさせてい

    ただいています。

     ServiceNowが日本でビジネスを開始

    してから丸5年になりますが、売り上げの

    成長スピードはグローバルの中で日本が

    最も速い。これも、富士通との緊密な協

    業関係のおかげです。

     当社が提供するプラットフォームやサ

    ービスの質には自信を持っていますが、そ

    れらをお客さまに安心して使っていただく

    ためには、お客さまのデジタル変革を支援

    する「人」が必要であり、日本という巨大

    な市場を迅速に支援するために、当社だけ

    では人的リソースは十分とは言えません。

     その点、富士通には優秀なエンジニア

    が大勢いらっしゃいます。しかも、運用

    サービスに関する卓越したノウハウを持

    ち、グローバルにサービスを提供してお

    られるのですから、われわれにとってこ

    れほど頼もしい存在はありません。

     当社はこれからも、富士通との連携をよ

    り緊密にしながら日本のお客さまのニー

    ズにお応えしていきたいと思っています。

    ──最後に両社の今後の展望についてお

    聞かせください。

    島津:富士通はこれからも変わることなく、

    デジタル革新に対応したサービスを提供

    することで、人を幸せにする会社であり

    続けたいと思っています。

    村瀬:業務の無駄や煩わしさをなくし、

    「人」が本当に「人にしかできないこと」

    をできる環境を提供するのが、われわれ

    ServiceNowの使命だと思っています。

     また、個人的な思いとしては、失われつ

    つある日本企業の良さをもっと世界に打

    ち出したい。当社のプラットフォームを

    ご活用いただき、そのお手伝いができれ

    ば幸いです。

    分からないので、処理に手間と時間がか

    かり、うっかり処理を忘れてしまうことも

    あります。そういう無駄なことや、ストレ

    スになることを解決してくれるのが、

    ServiceNowのよさの1つだと思います。

    村瀬:ありがとうございます。メールやエ

    クセルは1990年代半ばに開発された技術

    ですが、それが20年以上たった現在も使

    われているわけです。これを変えるだけ

    でも、従業員の生産性は格段に向上する

    のではないでしょうか。

     AIやマシンラーニングといった最新のテ

    クノロジーを駆使すれば、情報と情報のつ

    ながりを人が追い掛けるのではなく、自動

    的につながった状態で提供されたり、逆に

    情報が人を追い掛ける形になり、無駄な判

    断やストレスが解消されます。ServiceNow

    のプラットフォームには、そうした情報や

    業務を「つなぐ」機能が搭載されています。

     また、今では多くの企業が業務ごとに

    さまざまなIT製品やソリューションを活

    用していますが、ServiceNowのプラット

    フォームはそれらの製品群をつないで、

    エンドトゥエンドの業務フローを一気通

    貫した形で実現するデジタルワークフロ

    ーとしての役割を果たします。

     「コネクト」(つながる)の実現によって、

    働く人々のストレスをなくし、生産性を

    高めることがわれわれの最重要テーマの

    1つなのです。

    AI(人工知能)やロボットの活用など、デジタルトランスフォーメーション(デジタル革新)によって産業やビジネスは大きく変わり始めている。しかし、自動化や効率化によってビジネスの主役である「人」が存在意義を失っては意味がない。「ヒューマンセントリックな(人間主体の)未来」をビジョンに掲げる富士通の島津めぐみ執行役員常務と、「人」にフォーカスしたデジタル革新のためのプラットフォームを提供する ServiceNow Japan の村瀬将思社長に、デジタル革新の在り方について語ってもらった。(聞き手は日経BP総研フェロー・桔梗原富夫)

    「人」あってこそのデジタル革新求められる意識改革

    1

    本記事は、日経ビジネス電子版(2019年1月31日)に掲載されたものです。禁無断転載。

    島津 めぐみ氏

    富士通株式会社執行役員常務テクノロジーソリューション部門デジタルインフラサービスビジネスグループ長

    村瀬 将思氏

    ServiceNow Japan株式会社社長

    「人」の力による「人」のためのデジタル革新が

    ビジネスを成功に導く富士通株式会社執行役員常務

    島津めぐみ氏ServiceNow Japan株式会社社長

    村瀬将思氏

  • ──もはや「デジタル革新」という言葉は

    日常語となり、日本の企業経営者の間で

    も「自分事として取り組んでいかなけれ

    ばならない」という意識が芽生えてきて

    いるように感じます。そこで改めてお2

    人に伺いたいのですが、デジタル革新を

    起こしていくときに必要なことは何でし

    ょうか。

    島津執行役員常務(以下、島津):デジタル

    革新に限らず、あらゆる革新において重要

    なのはトップのイニシアチブです。経営

    者自らが「こう変えていくんだ」という強

    いメッセージを発信することが大切です。

     デジタル革新においては、当然ながら

    技術やツールを進化させていく必要もあ

    るでしょう。しかし、もっと重要なのは、

    そうした技術やツールを導入する経営者

    や、活用する一人一人のマインドチェン

    ジではないかと思っています。

     そこで大切になってくるのは、たんに

    自動化や効率化を推し進めるのではなく、

    その中で「人」がいかに活躍し、幸福にな

    れる環境を整えるかという発想を持つこ

    とです。

     言うまでもなく、デジタル革新は「人」

    あっての革新なのですから。

    村瀬社長(以下、村瀬):島津さんの言葉に

    は非常に共感します。ServiceNowは

    2004年に創業したシリコンバレーのIT企

    業ですが、創業当初から「人」にフォーカ

    スした企業向けのクラウドプラットフォ

    ームの提供に取り組んできました。

     今、デジタル革新によって「第4次産業

    革命」という新しい波が押し寄せています。

    ITが急速に普及して起こった1990年代の

    「第3次産業革命」との大きな違いは、飛

    躍的な技術革新によって、誰もが簡単に

    テクノロジーを使いこなせるようになっ

    たことです。

    島津:小さな子どもですらスマートフォン

    を使いこなす時代ですからね。「人」は「人

    にしかできないこと」に専念できるよう

    なビジネスの在り方を追求すべきではな

    いでしょうか。

    村瀬:その通りだと思います。当社の創業

    者のフレッド・ルディーは、「企業で働く

    普通の人々の日常業務の生産性を高める

    クラウドベース・プラットフォームを構築

    する」というビジョンを掲げてService

    Nowを設立しました。

     よく「AIやマシンラーニングによって

    人の仕事が奪われる」と言われますが、わ

    れわれがミッションとしているのは、「人

    にしかできない付加価値の高いFuture of

    Work(新しい仕事)を生み出す」ことです。

     デジタル革新においても、人にしかで

    きない仕事を生み出していくことが非常

    に重要で、そのためには島津さんがおっ

    しゃったようなマインドチェンジ、意識

    改革が必要なのではないかと思います。

    村瀬:「人にしかできない仕事」に専念し

    てもらうためには、テクノロジーを使う

    ことに煩わしさを感じず、いつでも快適

    に使いこなしてもらえるような環境を整

    えることが大切ですよね。富士通さんの

    取り組みをお聞かせいただけますか?

    島津:富士通では、その一環としてPC-

    LCM(ライフサイクルマネジメント)の

    デジタル化を行っています。

     富士通の本社および各国内事業所、海

    外拠点のエンドユーザー(社員)向けに、

    デジタルプラットフォームを経由して、

    それぞれが使用するPCやソフトウェア

    などの申請処理、資産管理、ITSM(ITサ

    ービスマネジメント)などのサービスを

    提供する取り組みです。

     デジタル革新によって、かつてはマシ

    ンルームに集約されていたホストコンピ

    ュータやサーバの機能が、社員一人一人

    の手元にパソコンやスマートフォンとし

    て散在するようになりました。これによ

    って生産性は飛躍的に向上しましたが、

    世界中に散らばったデバイスの一つ一つ

    を管理する必要性が生じました。

     どれか1台でもデバイスがなくなった

    り、ウイルスに感染したりしてしまうと、

    その社員は一日中仕事ができなくなって

    しまうわけです。以前はそうしたトラブ

    ルに専門のSEが対応していたのですが、

    デバイスの増加とともに、とても手が回

    らなくなりました。

     そこで、ServiceNowのプラットフォー

    ムを活用して、デバイスの申請処理や資

    産管理、ITSMなどのサービスを迅速か

    つシンプルに提供できるようにしたので

    す。これによって、すべての社員がいつ

    でも快適にテクノロジーを使えて、思う

    存分働ける環境が整ったと思います。

    ──富士通は「ヒューマンセントリック

    な未来」というビジョンを掲げていますが、

    まさに「人」を中心に据えたデジタル革新

    を実践しているわけですね。

    島津:そうですね。デジタル革新は「人」

    あってのものです。「人」が幸せになり、

    楽しく仕事ができるようにすることが、

    革新の本来の意義ではないでしょうか。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、デジ

    タル革新は「人」にフォーカスした革新で

    あるべきです。その意味では「働き方改革」

    にも通じると思います。

     働き方改革というと、残業時間の削減

    や有給休暇の取得率向上といった制度の

    問題ばかりにスポットが当てられがちで

    すが、テクノロジーを活用して働きやす

    い環境を整えることにも注目してみては

    どうでしょうか。

     例えば当社のCEOであるジョン・ドナ

    ホーは、ServiceNowが目指すサービスの

    特徴を、「コンシューマライゼーション」

    というキーワードで言い表しています。

    コンシューマサービス(一般消費者向け

    サービス)と同じような使いやすさや便

    利な機能を、われわれが企業に提供する

    サービスにおいても積極的に採り入れて

    いこうということです。

     働きやすいビジネス環境が整えば、社員

    が幸せになるだけでなく、生産性も向上し

    ます。われわれが日本のマネジメント層の

    方々との対話を通じて感じるのは、働き方

    改革を実践している会社は多いけれど、そ

    れが生産性向上に結びついていないと感じ

    ておられる方が非常に多いということです。

     これを解決するためには、ボタン1つで

    商品の確認から注文、決済まですべて処

    理できるAmazonのように、業務プロセ

    スのすべてをエンドトゥエンドで処理で

    きる仕組みを採り入れるといった方法が

    あります。ServiceNowは、そうした働き

    方を支援するプラットフォームを提供し

    ているのです。

    島津:最近では、「働き方改革」に関連する

    取り組みとして、富士通社員の仕事の中

    身を “見える化”するソリューションを採

    り入れました。

     ホワイトカラーが実際にどのように働

    いているのかというのは、周りからは分か

    りにくいですよね。椅子に座ってPCに向

    かえば働いているように見えますが、実

    際には無駄な仕事や無意味な仕事をして

    いるのかもしれません。そこで、メールや

    スケジュール、パソコンのログなどのデー

    タをかき集め、AIを使って仕事の中身を

    分類して、一人一人の働き方をグラフ化

    するソリューションを開発したのです。

     働き方を改善するためには、今の働き方

    を“見える化”して、問題点を洗い出す必要

    があります。ひとまずこれを社内で取り組み、

    いずれお客さまにも提案していく予定です。

    村瀬:非常に興味深い取り組みですね。わ

    れわれにもお手伝いできそうなことがあ

    りそうですので、その時はぜひお声掛け

    くださいね。

    ──ServiceNowは昨年12月に、「CHRO

    (最高人事責任者)を対象とした意識調査

    の国際比較」というOxford Economics社

    との共同調査レポートを発表しています

    ね。この中で、日本のCHROの多くは、

    デジタル革新が従業員サービスの向上に

    寄与することを期待しているという調査

    結果が表れたことについて、非常に興味

    深く感じました。

    村瀬:社員の満足度を高めることは、デジ

    タル革新の最重要テーマだと思います。

    社員が幸せになれば、お客さまも幸せに

    なれるはずですからね。

    島津:同感です。やはり「人は何のために

    働くのか?」ということが最も大事です

    から。

     仕事の進め方を最新テクノロジーによ

    って根底から変えることも、社員の満足

    度向上に結びつくのではないでしょうか。

     仕事の進め方で私が実現したいのはメ

    ールやエクセルからの脱却です。毎日100

    通以上ものメールをやり取りしています

    が、どれとどれがつながっているのかが

    ──富士通は、ServiceNowを社内で活用

    するだけでなく、ServiceNowとの協業を

    通じて、グローバルでIT運用サービスを

    提供しているそうですね。

    島津:当社の英国法人である富士通UK

    (Fujitsu Services Holdings PLC)が協業

    したのが最初でした。欧州や米国などで

    「TRIOLE for ServiceNow」と い うITサ

    ービス管理ツールを利用した運用サービ

    スを開始しました。日本でも約3年前に

    サービスを開始し、現在ではグローバル

    に展開しています。

     「TRIOLE f o r Serv i ceNow」は、

    ServiceNowが提供する「ServiceNowプ

    ラットフォーム」上に、富士通が長年培っ

    た運用管理業務ノウハウをワークフロー・

    テンプレートとして実装したITサービス

    管理ソリューションです。

     このソリューションを利用することに

    よって、お客さまに高品質な運用サービ

    スが提供できるだけでなく、当社のグロ

    ーバル拠点も利用しているので、事業を

    海外展開しているお客さまにも一元的な

    運用管理を実施することができます。サ

    ポートデスクは、英語、中国語、スペイン

    語などの多言語対応も可能です。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、富士

    通とは「TRIOLE for ServiceNow」での

    協業をきっかけにパートナーシップが深

    まり、今ではグローバルの戦略的な最重

    要パートナーとしてお付き合いさせてい

    ただいています。

     ServiceNowが日本でビジネスを開始

    してから丸5年になりますが、売り上げの

    成長スピードはグローバルの中で日本が

    最も速い。これも、富士通との緊密な協

    業関係のおかげです。

     当社が提供するプラットフォームやサ

    ービスの質には自信を持っていますが、そ

    れらをお客さまに安心して使っていただく

    ためには、お客さまのデジタル変革を支援

    する「人」が必要であり、日本という巨大

    な市場を迅速に支援するために、当社だけ

    では人的リソースは十分とは言えません。

     その点、富士通には優秀なエンジニア

    が大勢いらっしゃいます。しかも、運用

    サービスに関する卓越したノウハウを持

    ち、グローバルにサービスを提供してお

    られるのですから、われわれにとってこ

    れほど頼もしい存在はありません。

     当社はこれからも、富士通との連携をよ

    り緊密にしながら日本のお客さまのニー

    ズにお応えしていきたいと思っています。

    ──最後に両社の今後の展望についてお

    聞かせください。

    島津:富士通はこれからも変わることなく、

    デジタル革新に対応したサービスを提供

    することで、人を幸せにする会社であり

    続けたいと思っています。

    村瀬:業務の無駄や煩わしさをなくし、

    「人」が本当に「人にしかできないこと」

    をできる環境を提供するのが、われわれ

    ServiceNowの使命だと思っています。

     また、個人的な思いとしては、失われつ

    つある日本企業の良さをもっと世界に打

    ち出したい。当社のプラットフォームを

    ご活用いただき、そのお手伝いができれ

    ば幸いです。

    分からないので、処理に手間と時間がか

    かり、うっかり処理を忘れてしまうことも

    あります。そういう無駄なことや、ストレ

    スになることを解決してくれるのが、

    ServiceNowのよさの1つだと思います。

    村瀬:ありがとうございます。メールやエ

    クセルは1990年代半ばに開発された技術

    ですが、それが20年以上たった現在も使

    われているわけです。これを変えるだけ

    でも、従業員の生産性は格段に向上する

    のではないでしょうか。

     AIやマシンラーニングといった最新のテ

    クノロジーを駆使すれば、情報と情報のつ

    ながりを人が追い掛けるのではなく、自動

    的につながった状態で提供されたり、逆に

    情報が人を追い掛ける形になり、無駄な判

    断やストレスが解消されます。ServiceNow

    のプラットフォームには、そうした情報や

    業務を「つなぐ」機能が搭載されています。

     また、今では多くの企業が業務ごとに

    さまざまなIT製品やソリューションを活

    用していますが、ServiceNowのプラット

    フォームはそれらの製品群をつないで、

    エンドトゥエンドの業務フローを一気通

    貫した形で実現するデジタルワークフロ

    ーとしての役割を果たします。

     「コネクト」(つながる)の実現によって、

    働く人々のストレスをなくし、生産性を

    高めることがわれわれの最重要テーマの

    1つなのです。

    「人」の力による「人」のためのデジタル革新がビジネスを成功に導く

    2

    本記事は、日経ビジネス電子版(2019年1月31日)に掲載されたものです。禁無断転載。

    全社員が快適にテクノロジーを使えて思う存分働ける環境を整える

    社員が幸せになるだけでなく生産性も向上する

    「『人』あってこそのデジタル革新」という島津氏の言葉に、深く共感する村瀬氏。和やかな対話の中に、両氏の熱い思いが見え隠れした。

  • ──もはや「デジタル革新」という言葉は

    日常語となり、日本の企業経営者の間で

    も「自分事として取り組んでいかなけれ

    ばならない」という意識が芽生えてきて

    いるように感じます。そこで改めてお2

    人に伺いたいのですが、デジタル革新を

    起こしていくときに必要なことは何でし

    ょうか。

    島津執行役員常務(以下、島津):デジタル

    革新に限らず、あらゆる革新において重要

    なのはトップのイニシアチブです。経営

    者自らが「こう変えていくんだ」という強

    いメッセージを発信することが大切です。

     デジタル革新においては、当然ながら

    技術やツールを進化させていく必要もあ

    るでしょう。しかし、もっと重要なのは、

    そうした技術やツールを導入する経営者

    や、活用する一人一人のマインドチェン

    ジではないかと思っています。

     そこで大切になってくるのは、たんに

    自動化や効率化を推し進めるのではなく、

    その中で「人」がいかに活躍し、幸福にな

    れる環境を整えるかという発想を持つこ

    とです。

     言うまでもなく、デジタル革新は「人」

    あっての革新なのですから。

    村瀬社長(以下、村瀬):島津さんの言葉に

    は非常に共感します。ServiceNowは

    2004年に創業したシリコンバレーのIT企

    業ですが、創業当初から「人」にフォーカ

    スした企業向けのクラウドプラットフォ

    ームの提供に取り組んできました。

     今、デジタル革新によって「第4次産業

    革命」という新しい波が押し寄せています。

    ITが急速に普及して起こった1990年代の

    「第3次産業革命」との大きな違いは、飛

    躍的な技術革新によって、誰もが簡単に

    テクノロジーを使いこなせるようになっ

    たことです。

    島津:小さな子どもですらスマートフォン

    を使いこなす時代ですからね。「人」は「人

    にしかできないこと」に専念できるよう

    なビジネスの在り方を追求すべきではな

    いでしょうか。

    村瀬:その通りだと思います。当社の創業

    者のフレッド・ルディーは、「企業で働く

    普通の人々の日常業務の生産性を高める

    クラウドベース・プラットフォームを構築

    する」というビジョンを掲げてService

    Nowを設立しました。

     よく「AIやマシンラーニングによって

    人の仕事が奪われる」と言われますが、わ

    れわれがミッションとしているのは、「人

    にしかできない付加価値の高いFuture of

    Work(新しい仕事)を生み出す」ことです。

     デジタル革新においても、人にしかで

    きない仕事を生み出していくことが非常

    に重要で、そのためには島津さんがおっ

    しゃったようなマインドチェンジ、意識

    改革が必要なのではないかと思います。

    村瀬:「人にしかできない仕事」に専念し

    てもらうためには、テクノロジーを使う

    ことに煩わしさを感じず、いつでも快適

    に使いこなしてもらえるような環境を整

    えることが大切ですよね。富士通さんの

    取り組みをお聞かせいただけますか?

    島津:富士通では、その一環としてPC-

    LCM(ライフサイクルマネジメント)の

    デジタル化を行っています。

     富士通の本社および各国内事業所、海

    外拠点のエンドユーザー(社員)向けに、

    デジタルプラットフォームを経由して、

    それぞれが使用するPCやソフトウェア

    などの申請処理、資産管理、ITSM(ITサ

    ービスマネジメント)などのサービスを

    提供する取り組みです。

     デジタル革新によって、かつてはマシ

    ンルームに集約されていたホストコンピ

    ュータやサーバの機能が、社員一人一人

    の手元にパソコンやスマートフォンとし

    て散在するようになりました。これによ

    って生産性は飛躍的に向上しましたが、

    世界中に散らばったデバイスの一つ一つ

    を管理する必要性が生じました。

     どれか1台でもデバイスがなくなった

    り、ウイルスに感染したりしてしまうと、

    その社員は一日中仕事ができなくなって

    しまうわけです。以前はそうしたトラブ

    ルに専門のSEが対応していたのですが、

    デバイスの増加とともに、とても手が回

    らなくなりました。

     そこで、ServiceNowのプラットフォー

    ムを活用して、デバイスの申請処理や資

    産管理、ITSMなどのサービスを迅速か

    つシンプルに提供できるようにしたので

    す。これによって、すべての社員がいつ

    でも快適にテクノロジーを使えて、思う

    存分働ける環境が整ったと思います。

    ──富士通は「ヒューマンセントリック

    な未来」というビジョンを掲げていますが、

    まさに「人」を中心に据えたデジタル革新

    を実践しているわけですね。

    島津:そうですね。デジタル革新は「人」

    あってのものです。「人」が幸せになり、

    楽しく仕事ができるようにすることが、

    革新の本来の意義ではないでしょうか。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、デジ

    タル革新は「人」にフォーカスした革新で

    あるべきです。その意味では「働き方改革」

    にも通じると思います。

     働き方改革というと、残業時間の削減

    や有給休暇の取得率向上といった制度の

    問題ばかりにスポットが当てられがちで

    すが、テクノロジーを活用して働きやす

    い環境を整えることにも注目してみては

    どうでしょうか。

     例えば当社のCEOであるジョン・ドナ

    ホーは、ServiceNowが目指すサービスの

    特徴を、「コンシューマライゼーション」

    というキーワードで言い表しています。

    コンシューマサービス(一般消費者向け

    サービス)と同じような使いやすさや便

    利な機能を、われわれが企業に提供する

    サービスにおいても積極的に採り入れて

    いこうということです。

     働きやすいビジネス環境が整えば、社員

    が幸せになるだけでなく、生産性も向上し

    ます。われわれが日本のマネジメント層の

    方々との対話を通じて感じるのは、働き方

    改革を実践している会社は多いけれど、そ

    れが生産性向上に結びついていないと感じ

    ておられる方が非常に多いということです。

     これを解決するためには、ボタン1つで

    商品の確認から注文、決済まですべて処

    理できるAmazonのように、業務プロセ

    スのすべてをエンドトゥエンドで処理で

    きる仕組みを採り入れるといった方法が

    あります。ServiceNowは、そうした働き

    方を支援するプラットフォームを提供し

    ているのです。

    島津:最近では、「働き方改革」に関連する

    取り組みとして、富士通社員の仕事の中

    身を “見える化”するソリューションを採

    り入れました。

     ホワイトカラーが実際にどのように働

    いているのかというのは、周りからは分か

    りにくいですよね。椅子に座ってPCに向

    かえば働いているように見えますが、実

    際には無駄な仕事や無意味な仕事をして

    いるのかもしれません。そこで、メールや

    スケジュール、パソコンのログなどのデー

    タをかき集め、AIを使って仕事の中身を

    分類して、一人一人の働き方をグラフ化

    するソリューションを開発したのです。

     働き方を改善するためには、今の働き方

    を“見える化”して、問題点を洗い出す必要

    があります。ひとまずこれを社内で取り組み、

    いずれお客さまにも提案していく予定です。

    村瀬:非常に興味深い取り組みですね。わ

    れわれにもお手伝いできそうなことがあ

    りそうですので、その時はぜひお声掛け

    くださいね。

    ──ServiceNowは昨年12月に、「CHRO

    (最高人事責任者)を対象とした意識調査

    の国際比較」というOxford Economics社

    との共同調査レポートを発表しています

    ね。この中で、日本のCHROの多くは、

    デジタル革新が従業員サービスの向上に

    寄与することを期待しているという調査

    結果が表れたことについて、非常に興味

    深く感じました。

    村瀬:社員の満足度を高めることは、デジ

    タル革新の最重要テーマだと思います。

    社員が幸せになれば、お客さまも幸せに

    なれるはずですからね。

    島津:同感です。やはり「人は何のために

    働くのか?」ということが最も大事です

    から。

     仕事の進め方を最新テクノロジーによ

    って根底から変えることも、社員の満足

    度向上に結びつくのではないでしょうか。

     仕事の進め方で私が実現したいのはメ

    ールやエクセルからの脱却です。毎日100

    通以上ものメールをやり取りしています

    が、どれとどれがつながっているのかが

    ──富士通は、ServiceNowを社内で活用

    するだけでなく、ServiceNowとの協業を

    通じて、グローバルでIT運用サービスを

    提供しているそうですね。

    島津:当社の英国法人である富士通UK

    (Fujitsu Services Holdings PLC)が協業

    したのが最初でした。欧州や米国などで

    「TRIOLE for ServiceNow」と い うITサ

    ービス管理ツールを利用した運用サービ

    スを開始しました。日本でも約3年前に

    サービスを開始し、現在ではグローバル

    に展開しています。

     「TRIOLE f o r Serv i ceNow」は、

    ServiceNowが提供する「ServiceNowプ

    ラットフォーム」上に、富士通が長年培っ

    た運用管理業務ノウハウをワークフロー・

    テンプレートとして実装したITサービス

    管理ソリューションです。

     このソリューションを利用することに

    よって、お客さまに高品質な運用サービ

    スが提供できるだけでなく、当社のグロ

    ーバル拠点も利用しているので、事業を

    海外展開しているお客さまにも一元的な

    運用管理を実施することができます。サ

    ポートデスクは、英語、中国語、スペイン

    語などの多言語対応も可能です。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、富士

    通とは「TRIOLE for ServiceNow」での

    協業をきっかけにパートナーシップが深

    まり、今ではグローバルの戦略的な最重

    要パートナーとしてお付き合いさせてい

    ただいています。

     ServiceNowが日本でビジネスを開始

    してから丸5年になりますが、売り上げの

    成長スピードはグローバルの中で日本が

    最も速い。これも、富士通との緊密な協

    業関係のおかげです。

     当社が提供するプラットフォームやサ

    ービスの質には自信を持っていますが、そ

    れらをお客さまに安心して使っていただく

    ためには、お客さまのデジタル変革を支援

    する「人」が必要であり、日本という巨大

    な市場を迅速に支援するために、当社だけ

    では人的リソースは十分とは言えません。

     その点、富士通には優秀なエンジニア

    が大勢いらっしゃいます。しかも、運用

    サービスに関する卓越したノウハウを持

    ち、グローバルにサービスを提供してお

    られるのですから、われわれにとってこ

    れほど頼もしい存在はありません。

     当社はこれからも、富士通との連携をよ

    り緊密にしながら日本のお客さまのニー

    ズにお応えしていきたいと思っています。

    ──最後に両社の今後の展望についてお

    聞かせください。

    島津:富士通はこれからも変わることなく、

    デジタル革新に対応したサービスを提供

    することで、人を幸せにする会社であり

    続けたいと思っています。

    村瀬:業務の無駄や煩わしさをなくし、

    「人」が本当に「人にしかできないこと」

    をできる環境を提供するのが、われわれ

    ServiceNowの使命だと思っています。

     また、個人的な思いとしては、失われつ

    つある日本企業の良さをもっと世界に打

    ち出したい。当社のプラットフォームを

    ご活用いただき、そのお手伝いができれ

    ば幸いです。

    分からないので、処理に手間と時間がか

    かり、うっかり処理を忘れてしまうことも

    あります。そういう無駄なことや、ストレ

    スになることを解決してくれるのが、

    ServiceNowのよさの1つだと思います。

    村瀬:ありがとうございます。メールやエ

    クセルは1990年代半ばに開発された技術

    ですが、それが20年以上たった現在も使

    われているわけです。これを変えるだけ

    でも、従業員の生産性は格段に向上する

    のではないでしょうか。

     AIやマシンラーニングといった最新のテ

    クノロジーを駆使すれば、情報と情報のつ

    ながりを人が追い掛けるのではなく、自動

    的につながった状態で提供されたり、逆に

    情報が人を追い掛ける形になり、無駄な判

    断やストレスが解消されます。ServiceNow

    のプラットフォームには、そうした情報や

    業務を「つなぐ」機能が搭載されています。

     また、今では多くの企業が業務ごとに

    さまざまなIT製品やソリューションを活

    用していますが、ServiceNowのプラット

    フォームはそれらの製品群をつないで、

    エンドトゥエンドの業務フローを一気通

    貫した形で実現するデジタルワークフロ

    ーとしての役割を果たします。

     「コネクト」(つながる)の実現によって、

    働く人々のストレスをなくし、生産性を

    高めることがわれわれの最重要テーマの

    1つなのです。

    「コネクト」の実現によって働く人々のストレスをなくす

    3

    本記事は、日経ビジネス電子版(2019年1月31日)に掲載されたものです。禁無断転載。

    1987年富士通入社。インフラサービス事業本部長などを経て2016年、女性としては2人目の執行役員に。富士通製品および他社製品を含めたインフラの運用・保守サービスをグローバルに担務。19年1月より富士通エフ・アイ・ピー代表取締役社長を兼務。

    島津 めぐみ氏1993年TKC入社、2000年iGATE Global Solutions Limited入社、09年日本HPにHP SW、PS事業本部本部長として入社。12年itSMF Japan理事に就任。14年日本HPの HPSW事業統括執行役員常務に就任。2016年1月より現職。

    村瀬 将思氏

    「人」の力による「人」のためのデジタル革新がビジネスを成功に導く

  • ──もはや「デジタル革新」という言葉は

    日常語となり、日本の企業経営者の間で

    も「自分事として取り組んでいかなけれ

    ばならない」という意識が芽生えてきて

    いるように感じます。そこで改めてお2

    人に伺いたいのですが、デジタル革新を

    起こしていくときに必要なことは何でし

    ょうか。

    島津執行役員常務(以下、島津):デジタル

    革新に限らず、あらゆる革新において重要

    なのはトップのイニシアチブです。経営

    者自らが「こう変えていくんだ」という強

    いメッセージを発信することが大切です。

     デジタル革新においては、当然ながら

    技術やツールを進化させていく必要もあ

    るでしょう。しかし、もっと重要なのは、

    そうした技術やツールを導入する経営者

    や、活用する一人一人のマインドチェン

    ジではないかと思っています。

     そこで大切になってくるのは、たんに

    自動化や効率化を推し進めるのではなく、

    その中で「人」がいかに活躍し、幸福にな

    れる環境を整えるかという発想を持つこ

    とです。

     言うまでもなく、デジタル革新は「人」

    あっての革新なのですから。

    村瀬社長(以下、村瀬):島津さんの言葉に

    は非常に共感します。ServiceNowは

    2004年に創業したシリコンバレーのIT企

    業ですが、創業当初から「人」にフォーカ

    スした企業向けのクラウドプラットフォ

    ームの提供に取り組んできました。

     今、デジタル革新によって「第4次産業

    革命」という新しい波が押し寄せています。

    ITが急速に普及して起こった1990年代の

    「第3次産業革命」との大きな違いは、飛

    躍的な技術革新によって、誰もが簡単に

    テクノロジーを使いこなせるようになっ

    たことです。

    島津:小さな子どもですらスマートフォン

    を使いこなす時代ですからね。「人」は「人

    にしかできないこと」に専念できるよう

    なビジネスの在り方を追求すべきではな

    いでしょうか。

    村瀬:その通りだと思います。当社の創業

    者のフレッド・ルディーは、「企業で働く

    普通の人々の日常業務の生産性を高める

    クラウドベース・プラットフォームを構築

    する」というビジョンを掲げてService

    Nowを設立しました。

     よく「AIやマシンラーニングによって

    人の仕事が奪われる」と言われますが、わ

    れわれがミッションとしているのは、「人

    にしかできない付加価値の高いFuture of

    Work(新しい仕事)を生み出す」ことです。

     デジタル革新においても、人にしかで

    きない仕事を生み出していくことが非常

    に重要で、そのためには島津さんがおっ

    しゃったようなマインドチェンジ、意識

    改革が必要なのではないかと思います。

    村瀬:「人にしかできない仕事」に専念し

    てもらうためには、テクノロジーを使う

    ことに煩わしさを感じず、いつでも快適

    に使いこなしてもらえるような環境を整

    えることが大切ですよね。富士通さんの

    取り組みをお聞かせいただけますか?

    島津:富士通では、その一環としてPC-

    LCM(ライフサイクルマネジメント)の

    デジタル化を行っています。

     富士通の本社および各国内事業所、海

    外拠点のエンドユーザー(社員)向けに、

    デジタルプラットフォームを経由して、

    それぞれが使用するPCやソフトウェア

    などの申請処理、資産管理、ITSM(ITサ

    ービスマネジメント)などのサービスを

    提供する取り組みです。

     デジタル革新によって、かつてはマシ

    ンルームに集約されていたホストコンピ

    ュータやサーバの機能が、社員一人一人

    の手元にパソコンやスマートフォンとし

    て散在するようになりました。これによ

    って生産性は飛躍的に向上しましたが、

    世界中に散らばったデバイスの一つ一つ

    を管理する必要性が生じました。

     どれか1台でもデバイスがなくなった

    り、ウイルスに感染したりしてしまうと、

    その社員は一日中仕事ができなくなって

    しまうわけです。以前はそうしたトラブ

    ルに専門のSEが対応していたのですが、

    デバイスの増加とともに、とても手が回

    らなくなりました。

     そこで、ServiceNowのプラットフォー

    ムを活用して、デバイスの申請処理や資

    産管理、ITSMなどのサービスを迅速か

    つシンプルに提供できるようにしたので

    す。これによって、すべての社員がいつ

    でも快適にテクノロジーを使えて、思う

    存分働ける環境が整ったと思います。

    ──富士通は「ヒューマンセントリック

    な未来」というビジョンを掲げていますが、

    まさに「人」を中心に据えたデジタル革新

    を実践しているわけですね。

    島津:そうですね。デジタル革新は「人」

    あってのものです。「人」が幸せになり、

    楽しく仕事ができるようにすることが、

    革新の本来の意義ではないでしょうか。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、デジ

    タル革新は「人」にフォーカスした革新で

    あるべきです。その意味では「働き方改革」

    にも通じると思います。

     働き方改革というと、残業時間の削減

    や有給休暇の取得率向上といった制度の

    問題ばかりにスポットが当てられがちで

    すが、テクノロジーを活用して働きやす

    い環境を整えることにも注目してみては

    どうでしょうか。

     例えば当社のCEOであるジョン・ドナ

    ホーは、ServiceNowが目指すサービスの

    特徴を、「コンシューマライゼーション」

    というキーワードで言い表しています。

    コンシューマサービス(一般消費者向け

    サービス)と同じような使いやすさや便

    利な機能を、われわれが企業に提供する

    サービスにおいても積極的に採り入れて

    いこうということです。

     働きやすいビジネス環境が整えば、社員

    が幸せになるだけでなく、生産性も向上し

    ます。われわれが日本のマネジメント層の

    方々との対話を通じて感じるのは、働き方

    改革を実践している会社は多いけれど、そ

    れが生産性向上に結びついていないと感じ

    ておられる方が非常に多いということです。

     これを解決するためには、ボタン1つで

    商品の確認から注文、決済まですべて処

    理できるAmazonのように、業務プロセ

    スのすべてをエンドトゥエンドで処理で

    きる仕組みを採り入れるといった方法が

    あります。ServiceNowは、そうした働き

    方を支援するプラットフォームを提供し

    ているのです。

    島津:最近では、「働き方改革」に関連する

    取り組みとして、富士通社員の仕事の中

    身を “見える化”するソリューションを採

    り入れました。

     ホワイトカラーが実際にどのように働

    いているのかというのは、周りからは分か

    りにくいですよね。椅子に座ってPCに向

    かえば働いているように見えますが、実

    際には無駄な仕事や無意味な仕事をして

    いるのかもしれません。そこで、メールや

    スケジュール、パソコンのログなどのデー

    タをかき集め、AIを使って仕事の中身を

    分類して、一人一人の働き方をグラフ化

    するソリューションを開発したのです。

     働き方を改善するためには、今の働き方

    を“見える化”して、問題点を洗い出す必要

    があります。ひとまずこれを社内で取り組み、

    いずれお客さまにも提案していく予定です。

    村瀬:非常に興味深い取り組みですね。わ

    れわれにもお手伝いできそうなことがあ

    りそうですので、その時はぜひお声掛け

    くださいね。

    ──ServiceNowは昨年12月に、「CHRO

    (最高人事責任者)を対象とした意識調査

    の国際比較」というOxford Economics社

    との共同調査レポートを発表しています

    ね。この中で、日本のCHROの多くは、

    デジタル革新が従業員サービスの向上に

    寄与することを期待しているという調査

    結果が表れたことについて、非常に興味

    深く感じました。

    村瀬:社員の満足度を高めることは、デジ

    タル革新の最重要テーマだと思います。

    社員が幸せになれば、お客さまも幸せに

    なれるはずですからね。

    島津:同感です。やはり「人は何のために

    働くのか?」ということが最も大事です

    から。

     仕事の進め方を最新テクノロジーによ

    って根底から変えることも、社員の満足

    度向上に結びつくのではないでしょうか。

     仕事の進め方で私が実現したいのはメ

    ールやエクセルからの脱却です。毎日100

    通以上ものメールをやり取りしています

    が、どれとどれがつながっているのかが

    ──富士通は、ServiceNowを社内で活用

    するだけでなく、ServiceNowとの協業を

    通じて、グローバルでIT運用サービスを

    提供しているそうですね。

    島津:当社の英国法人である富士通UK

    (Fujitsu Services Holdings PLC)が協業

    したのが最初でした。欧州や米国などで

    「TRIOLE for ServiceNow」と い うITサ

    ービス管理ツールを利用した運用サービ

    スを開始しました。日本でも約3年前に

    サービスを開始し、現在ではグローバル

    に展開しています。

     「TRIOLE f o r Serv i ceNow」は、

    ServiceNowが提供する「ServiceNowプ

    ラットフォーム」上に、富士通が長年培っ

    た運用管理業務ノウハウをワークフロー・

    テンプレートとして実装したITサービス

    管理ソリューションです。

     このソリューションを利用することに

    よって、お客さまに高品質な運用サービ

    スが提供できるだけでなく、当社のグロ

    ーバル拠点も利用しているので、事業を

    海外展開しているお客さまにも一元的な

    運用管理を実施することができます。サ

    ポートデスクは、英語、中国語、スペイン

    語などの多言語対応も可能です。

    村瀬:島津さんがおっしゃるように、富士

    通とは「TRIOLE for ServiceNow」での

    協業をきっかけにパートナーシップが深

    まり、今ではグローバルの戦略的な最重

    要パートナーとしてお付き合いさせてい

    ただいています。

     ServiceNowが日本でビジネスを開始

    してから丸5年になりますが、売り上げの

    成長スピードはグローバルの中で日本が

    最も速い。これも、富士通との緊密な協

    業関係のおかげです。

     当社が提供するプラットフォームやサ

    ービスの質には自信を持っていますが、そ

    れらをお客さまに安心して使っていただく

    ためには、お客さまのデジタル変革を支援

    する「人」が必要であり、日本という巨大

    な市場を迅速に支援するために、当社だけ

    では人的リソースは十分とは言えません。

     その点、富士通には優秀なエンジニア

    が大勢いらっしゃいます。しかも、運用

    サービスに関する卓越したノウハウを持

    ち、グローバルにサービスを提供してお

    られるのですから、われわれにとってこ

    れほど頼もしい存在はありません。

     当社はこれからも、富士通との連携をよ

    り緊密にしながら日本のお客さまのニー

    ズにお応えしていきたいと思っています。

    ──最後に両社の今後の展望についてお

    聞かせください。

    島津:富士通はこれからも変わることなく、

    デジタル革新に対応したサービスを提供

    することで、人を幸せにする会社であり

    続けたいと思っています。

    村瀬:業務の無駄や煩わしさをなくし、

    「人」が本当に「人にしかできないこと」

    をできる環境を提供するのが、われわれ

    ServiceNowの使命だと思っています。

     また、個人的な思いとしては、失われつ

    つある日本企業の良さをもっと世界に打

    ち出したい。当社のプラットフォームを

    ご活用いただき、そのお手伝いができれ

    ば幸いです。

    分からないので、処理に手間と時間がか

    かり、うっかり処理を忘れてしまうことも

    あります。そういう無駄なことや、ストレ

    スになることを解決してくれるのが、

    ServiceNowのよさの1つだと思います。

    村瀬:ありがとうございます。メールやエ

    クセルは1990年代半ばに開発された技術

    ですが、それが20年以上たった現在も使

    われているわけです。これを変えるだけ

    でも、従業員の生産性は格段に向上する

    のではないでしょうか。

     AIやマシンラーニングといった最新のテ

    クノロジーを駆使すれば、情報と情報のつ

    ながりを人が追い掛けるのではなく、自動

    的につながった状態で提供されたり、逆に

    情報が人を追い掛ける形になり、無駄な判

    断やストレスが解消されます。ServiceNow

    のプラットフォームには、そうした情報や

    業務を「つなぐ」機能が搭載されています。

     また、今では多くの企業が業務ごとに

    さまざまなIT製品やソリューションを活

    用していますが、ServiceNowのプラット

    フォームはそれらの製品群をつないで、

    エンドトゥエンドの業務フローを一気通

    貫した形で実現するデジタルワークフロ

    ーとしての役割を果たします。

     「コネクト」(つながる)の実現によって、

    働く人々のストレスをなくし、生産性を

    高めることがわれわれの最重要テーマの

    1つなのです。

    4

    本記事は、日経ビジネス電子版(2019年1月31日)に掲載されたものです。禁無断転載。

    https://www.servicenow.co.jp/

    ServiceNow Japan株式会社

    お問い合わせ:https://www.servicenow.co.jp/contact-us-request-info.html

    代表電話番号03-4572-9200(代表)

    「人にしかできないこと」に専念できる環境を提供する

    「人」の力による「人」のためのデジタル革新がビジネスを成功に導く

    「働く人の幸せと、企業の生産性向上を支援したい」。同じ思いを抱く島津氏と村瀬氏は、富士通とServiceNowのさらなる連携強化を誓い合った。