bop ビジネスと貧困ビジネスの考察...1 卒業論文 「bop...

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1 卒業論文 BOP ビジネスと貧困ビジネスの考察 ファストファッションを事例にビジネスを利用した貧困層からの自立—」 2012 1 17 リベラルアーツ学群4年 208D0295 神矢 真梨絵 担当教員 牧田 東一

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卒業論文

「BOP ビジネスと貧困ビジネスの考察

–ファストファッションを事例にビジネスを利用した貧困層からの自立—」

2012 年 1 月 17 日 リベラルアーツ学群4年 208D0295 神矢 真梨絵

担当教員 牧田 東一

2

〈目次〉 はじめに……………………………………………………………………3

第1章 BOP ビジネスの概要…………………………………………4 第1節 BOP ビジネスとは…………………………………………4 第2節 BOP ビジネスを成功に導く為に…………………………6 第3節 BOP ビジネスの歴史的背景と課題………………………7

第2章 BOP ビジネスと貧困ビジネスの関係性……………………9

第1節 貧困ビジネス概要・実例 …………………………………9 第2節 BOP ビジネスは貧困ビジネスなのか …………………10

第3章 ファストファッションビジネス……………………………12

第1節 ファストファッションビジネスとは……………………12 第2節 ファストファッションの形態・戦略……………………13

(1) 低価格の仕組み (2) 品質

第3節 消費文明の退化……………………………………………15 第4節 アンケート調査……………………………………………15 第5節 ファストファッション企業と消費者と生産者の関係…18

(1) 企業と消費者 (2) 企業と生産者

終章 ビジネスの可能性………………………………………………20 参考文献・参考 HP ……………………………………………………23 付録 ……………………………………………………………………24

3

はじめに

貧困ビジネスと聞くとどのようなビジネスをイメージするだろうか。貧困層をターゲットにして、短期的

な利益を追求するビジネス[Wikipedia 2010/10/15]といわれるように、貧困層にとってはあまりメリット

が見られないビジネスをイメージするのではないか。筆者自身、貧困ビジネスというとネットカフェが 初

に思いつくのだが、これは企業が一方的に商品を提供しており、貧困層はあくまでも受動的な消費者でしか

ない。その一方で、近年注目されているビジネスがある。貧困層を援助の対象としてみるのではなく、市場

への参加者とみなし、それまで無視されてきた貧困層固有のニーズを見つけ出す「BOP ビジネス」である。

日本では 2008 年からその関心が高まりだし、取り組みが 2009 年から本格化している。顧客のニーズを満た

すための製品•サービスを提供し、結果として、企業が利益をあげると同時に、低所得層の底上げや貧困社会

の抱える社会的課題の解決に寄与するというビジネスである[菅原 2009:2]。つまり、貧困層は消費者では

なく、企業と共に貧困層自身がビジネスに関わり貧困から抜け出すというものである。

BOPとは、経済ピラミッドの底辺(Bottom of the pyramid 以下BOP)のことを示す。経済ピラミッド

は、世界の所得階層を構成するピラミッド型の図のことを言い、上部は富裕層1、中部は中間層2、下部は貧

困層3の3層で構成されている。BOPに値する、ピラミッドの底辺に位置する貧困層は世界に 40 億人存在し、

1 日 2 ドル未満で生活しているといわれる[Prahalad 2010:69]。

筆者は 2010 年夏にフィリピンの国際協力研修に参加した際、首都マニラと地方のバターン州を訪れた。

地域や村単位で活動する住民組織4を訪問したが、地方で訪れたカプニタン村の女性組織SNKCと漁民組織

SAMACAPはNGOの支援あっての活動であった。しかし、彼らは結果的に支援組織からの自立を目標として

活動している。BOPビジネスも同様で、結果的には自立することが目標とされている。自立するということ

は、彼ら自身でこれからの生活基盤を作り出していくことにも繋がり、それがフィリピン人の意識改革と貧

困脱出の為のステップになり、重要であることをフィリピンに訪れて筆者は強く感じた。

論文を書くにあたってテーマを決めかねていた際、BOP ビジネスの存在を知ったことがテーマを決めたき

っかけである。BOP ビジネスがあるにも関わらず貧困脱出が困難なサイクルはなぜ出来てしまうのだろう、

低所得者を取り巻くビジネス環境はどのようなものなのか、貧困脱出のためには何が必要とされているのか

という点に疑問を抱いた。筆者はファッションに興味をもっており、卒業後、アパレル企業の販売職という

立場のビジネス市場で働くこと、発展途上国や新興国で大量生産、大量消費されているファストファッショ

ンビジネスは、貧困ビジネスになる心配性や BOP ビジネスになる可能性はないのだろうか疑問を抱いたこ

とから、このテーマに着目し本論文を書く。本論文では、第1章で BOP ビジネスの概要と具体的事例、BOP

ビジネスの可能性、今後の課題について述べる。第 2 章で BOP ビジネスと貧困層向けビジネスの関係性に

ついて貧困ビジネスの具体的な事例をあげながら考察しながら述べる。第 3 章でファストファッションビジ

1 購買力平価換算の年間所得 2 万ドル以上、人口 700 万〜1 億人 2 購買力平価換算の年間所得 1500〜2 万ドル、人口 15〜17 億 5000 万人 3 購買力平価換算の年間所得 1500 ドル未満 4 村•地域レベルで形成される組織

4

ネスの概要とそれを取り巻く環境、BOP ビジネスや貧困ビジネスへの転換の有無について述べる。終章でフ

ァストファッションからみる BOP ビジネスと貧困ビジネスの全体について、ファッションビジネスを提供

し、BOP ビジネスを推奨する立場から論じていく。

第1章 BOP ビジネスの概要

本章では、BOP ビジネスの基礎的知識を含め、現状に至るまでを論じていく。第1節では、定義、ビジネ

スモデルの説明から始まり、どこに魅力があり、なぜ注目を集めているのか、企業はなぜこのビジネスで利

益をあげることができるのか。また、BOP ビジネスには児童労働や環境破壊などの悪影響はないのかなどの

点を論じてく。第 2 節では歴史に始まり、企業の BOP ビジネスの取り組みを考察していく。BOP とは、経

済ピラミッドの底辺と説明したように 1 日2ドル未満で生活している人を対象としているが、発展途上国の

貧困層ばかりではない。以前は途上国としてみられてきたが急速な経済成長を遂げている中国やインドやブ

ラジルなどの新興国もビジネスの対象である。また、現在も途上国と呼ばれているフィリピン・インドネシ

ア・バングラディッシュ・ベトナム・ナイジェリアなども対象である。また、日本企業にとっては、文化的

背景や歴史的経緯から、アジアの BOP 市場を対象とすることが有望とされている。「日本人」ブランドがい

まだに健在であるため、ビジネスと発展しやすい環境が整っている[菅原 2009:3]。このことから、アジア

の BOP 市場と対象として本章を論じていく。

第1節 BOP ビジネスとは

ここでは、BOP ビジネスの定義とビジネスモデルを中心に論じていく。まず始めに、BOP ビジネスの定

義であるが、はじめにで述べたように貧困層を援助の対象や消費者としてみるのではなく、市場参加者とみ

なし、それまで無視されてきた貧困層固有のニーズを満たすための製品•サービスを提供し、結果として、企

業が利益をあげると同時に、低所得層の底上げや貧困社会の抱える社会的課題(貧困削減・環境改善・生活

向上)の解決に寄与するというビジネスであるとしている。つまり、企業と貧困社会が共に発展するビジネ

スであり、企業の利益と貧困層の社会的利益を同時に実現することが重要だということである。

ここでの消費者と市場参加者の違いを明確にする。市場とは、「市庭」とも表し、定期的に人が集まり商い

を行う場所、あるいは、この市場における取引機構に類似した社会機構の概念を示す[Wikipedia 2011.1.26]。

インターネットカフェなど、世間一般で貧困ビジネスの対象である貧困層は、あくまでも市場の中の消費者

でしかない。消費することで満足感を得ることができるなどの利点はあるが、貧困層自身が利益を得ること

は難しいと考える。しかし、BOP ビジネスは貧困層を「市場参加者とみなす」ことが重要で、貧困層は企業

をパートナーとし、貧困層自身が商品を生産し、貧困層自身や企業を介して提供し、貧困層自身がそれらを

消費するのである。これが BOP ビジネスの定義の中で示されている消費と市場の違いである。

貧困層を市場とみなすことは、このビジネスの魅力にも繋がっている。企業が貧困層を市場参加者みなし

パートナーとなることで、貧困層も仕事を得ることができ、所得をもたらし貧困脱出の一歩となる。そして、

BOP ビジネスの特徴として、長期に亘り持続可能なビジネスの手法をとることがあげられる[菅原 2010:

5]。持続的にビジネスをすることで、貧困層に自立を促すことができるのが、BOP の理想であり魅力だと言

える。

5

実際にBOPビジネスとはどのようなものなのか、ボクシーバという企業がペルーで 25 億台の電話とインタ

ーネットで感染症を防ぐ事業を行ったことを事例にして見ていく。ボクシーバは発展途上国の重要な問題に、

ITによる実用的な解決策を提供することを目的として創設された。創設者は、ポール・マイヤー(コソボで

大のインターネット・サービスポロバイダーの創立者)、パメラ・ジョンソン博士(医療人類学者)、アナ

ンド・ナラシマン博士(世界 大の統合メッセージング会社の 高技術責任者として創立に携わり、IBM5

にも長年勤務)の3人で新たに創られた企業である[プラハラード 2010:559-560]。過去 20年間で

HIV/AIDS6やSARS7などの新しい病気が広まり、感染症の脅威が改めて認識させるようになった。コレラ8

や髄膜炎菌感染症、はしか9などの感染症は、世界の子どもの死因 63%、早期死亡の死因の 48%を占めてい

るとされる。感染症の脅威に備えるには、流行の兆しを早期に察知し、迅速に対応することが不可欠であり、

タームリーな情報がなければ、保険当局が感染症の蔓延を防ぐことは難しい[プラハラード 2010:557]。筆

者が訪れたフィリピンも不衛生な環境で生活せざるを得ない人々は、感染症や病気にかかる恐怖心と戦いな

がら生活している。感染症や病気にかかっても連絡手段が十分ではないことや、薬を買うお金がない為に落

とさなくても良い命を落としてしまうことが問題であった。ボクシーバは、情報通信技術を用いた解決策の

開発に取り組んだ。ペルーの既存のインフラである何十億台もある電話を活用して、どの電話やコンピュー

ターからでも優れた情報システムに接続できるようにした。この実験に関わった現地のパートナーは、ペル

ーの疫学庁(以下、OGE)、ペルーの保健省、ペルー国内 76 カ所の診療所、保健センター、地区保健センタ

ーである。これらの機関は「アラータ」という 1 日 24 時間、週に 7 日稼働している疾病監視システムで迅

速な情報交換を行う。保健当局ではウェブ画面でのデータ管理を行い、その他の機関はインターネットか電

話の利用可能な方を選び、電子メール、ボイスメール、ショートメールなどを活用する。保健省は、保健所

や保健センターに毎週報告を求めていたのだが、アラータ導入前は、疾患と災害の報告書の処理が複雑だと

いう理由で、月ごとに報告しない保健所が多く迅速な情報交換が行われていなかった。しかし、アラータ導

入後は、22 カ所の保健所の内、12 カ所は電話を利用して毎週報告するようになった。そして、86.5%は定期

的に報告を行うようになったというデータがある。アラータは、従来の報告書システムに比べて、かなり少

ない資源とコストで済み、運用コストが 4 割削減でき、ボイスメールの通信費は約 8 分の 1 で済むことがわ

が可能となり、感

かった。

このシステムの導入で、ペルーのパートナー側は従来のシステムよりも迅速な情報交換

染症の発見を早めることが可能になった。コスト削減も可能になったメリットがある。

以上のように、ボクシーバは電話を使った情報通信システムを提供するにあたってペルーの現地人々との協

力の下で事業を展開させている。現地人によって利用された情報通信システムは従来のシステムより報告書

のやりとりが迅速になったことは、現地にとって感染症の早期発見に役立った。また、ペーパーワークの負

5 International Business Machine Corporation の略。コンピューター関連のサービス及び製品を提供する

企業。 6 HIV はヒト免疫不全ウィルス(ウィルスの一種)、AIDS は後天性免疫不全症候群(HIV 感染によって引

き起こす病気の名称) 7 重傷急性呼吸器症候群。SARS ウィルスにより引き起こされる新種の感染症。 8 コレラ菌を病原体とする経口感染症の一つ。 9 麻疹ウィルスによるウィルス感染症。

6

担を減らすというメリットに繋がる。ボクシーバ側は、ペルーでの実験を機に国際的な事業展開に至った。

イラク・アフリカ・インドなど5大陸で事業を行っている。また、事業拡大によっていくつかの課題にも直

面している。具体的には、1.新規事業を受注しすぎてサービスの質を落とさないようにする、2.地域の経済

から安定して利益を生み出すビジネスモデルを開発すること、など6つの課題を上げている。BOP ビジネス

を展開していく企業は、ビジネスを成功させるために基本的な特性を忘れないことと、地域に合った特性を

見いだし対応していく必要があると考える。展開する地域が、多くなるほど絶えず課題と向き合っていかな

ればならないだろう。

しなければならない。特性を理解し、

なっているため、貧困ペナルティを解消できてば人口の多い貧困層の購買力は伸びるということで

方法で対応する必要がある。BOP市場へのアプローチは多

の価値も重視しているため、経営者にとっ

レビ会議などで BOP の繋がりは強くなり、

レス機器への移行をするため簡単に高度な技術を受け入れることができる

第2節 BOP ビジネスを成功に導くために

BOP ビジネスを成功させるにあたり企業は BOP 市場の特性を理解

アプローチすることがビジネス成功への第一歩といえるのである。

具体的には 5 つの特性があり、①BOP市場の人々はお金がある…地方での独占状態や、モノや情報を満足

に入手できない状況、不十分な販売網、身化しながらの強力な中間搾取業者10の存在が物価の高い環境をつ

くり貧困ペナルティ11が生じている。例として、日用品のコストが富裕層とどれだけ違うか比較したところ、

貧困ペナルティが 5 倍から 25 倍にもなるという。つまり、お金がないのではなく必要以上の出費をせざる

を得なく

ある。

②BOP市場へのアプローチ…貧困層は仕事を探すために都市部に集中する傾向があり、1 ヘクタール当た

り約 15000 人12とされる密集地域は、製品・サービスを販売する絶好のチャンスとされている。メディア・

ダーク13と称される農村部の貧困層に携帯電話などのワイヤレス機器が普及し、動画や音声のダウンロード

ができれば、その分野で活躍する企業参入につながる。しかし、これはまだ発展段階にあり、適用できるの

は数カ国に限られており、それぞれに合った販売

様に行わなければいけないということである。

③BOP 市場はブランド志向である…貧困層のブランド志向は全世界共通であり、憧れを感じさせるブラン

ドは、BOP の消費者にとっても大切である。それと同時に商品へ

ては開発や製造、販売のコストへの圧力が課題となっている。

④BOP 市場はつながっている…中国やインド、 近ではバングラディッシュにおいて携帯電話や時間制で

安く利用できるキオスクや PC の普及に伴い、それらを使ったテ

より大きな地域社会との対話に参加する機会を手にしている。

⑤BOP の消費者は、高度な技術を難なく受け入れるというものである。…失うものが何もない BOP の消

費者は、何もない状態からワイヤ

[プラハラード 2010:77-85]。

10 賃金支払者と労働者との間に介在し、賃金の一部を横取りすることを事業として商売をする人 11 貧しいがゆえの不利益 12 2015 年までに貧困層が集まった都市部の人口は 15〜20 億人になる計算 13 テレビ•ラジオなどの情報が行き届かない地域

7

特性を理解し従来どおりのビジネスモデルや経営プロセスをそのまま途上国で活用しようとしても、貧

困層のニーズにそったものであるとは限らないし、ほとんど違うといっても過言ではない。定義にもあるよ

うに、無視されてきた貧困層固有のニーズを満たすための製品•サービスを提供する必要があるということだ。

つまり、無視されてきた貧困層固有のニーズというのが先進国のビジネスモデルの転用であって、BOP ビジ

ネスを成功させるために貧困層特有のニーズを満たすためのビジネスモデルや経営プロセスを形成し、BOP

市場においてイノベーションを起こすのである。C.K.プラハラードは著書においてイノベーション 12 の原

これは企業がBOPビジネスを行ううえでの利点に繋がるの

てもそれぞれの国や地域によ

。共に仕事をするにあたっ

ートナーも第一に考えているとこは、従来のビジネスとの違いであろう。

則を提唱している。

1.コストパフォーマンスを劇的に向上させる 2. 新の技術を活用して複数型で解決する 3.規模の拡大を前

提にする 4.環境資源を浪費しない 5.求められる機能を一から考える 6.提供するプロセスと革新する 7.現地で

の作業を単純化する 8.顧客の教育を工夫する 9.劣悪な環境にも適応させる 10.消費者特性に合うユーザー・

インターフェイス14を設計する 11.貧困層にアプローチする手段を構築する 12.これまでの常識をすてるとい

うものである[プラハラード 2010:98-129]。尚かつ、BOP市場におけるイノベーションは従来の考え方に

疑問を投げかけ、その答えは先進国の市場でも通用するイノベーションの源泉となり、独自の事業を成功さ

せ成長を維持しつつけるために重要なのである。

だが、詳しくは第2章で取りあげるとする。

製品・サービスを提供したところで消費者がいなければ利益には繋がらない。利益に繋げるために貧困層

に合った消費力を作り出すことが必要となる。貧困層のニーズを満たしたに製品・サービスをしたところで、

消費力がなければビジネスは意味がない。消費力を作り出すだめに以下の3つの原則があげられる。手頃な

値段設定で購入しやすくする・製品、サービスへのアクセスを便利なものにする。入手しやすい効率的な販

売網をつくりが重要である[プラハラード 2010:88]。このように、ビジネスパートーナーとして貧困層の

特性を理解し、イノベーションを起こし、消費者に見合った提供をすることが BOP ビジネスと成功に導き

だし、利益を生むのである。しかし、BOP 市場と大枠でみた特性を理解してい

って適応力が異なるので、もちろん国や地域の特性の理解も必要である。

BOP ビジネスは貧困層への分析・理解が行われていることがよくわかったと思うが、一般的に行われるビ

ジネスにおいても取引先や消費者、従業員を企業側が選択することも可能であった。企業はそれぞれ独自の

ビジネスモデルを持っており、自らの条件に合ったパートナーと仕事をしている。そして、企業が第一に考

えるのはお客であり、消費者第一のビジネス展開に切磋琢磨している。しかし、BOP ビジネスでは企業がパ

ートナーの特性に合わせてビジネスモデルを新たに形成する。企業側が貧困層に教育・トレーニングをしな

がら商品開発、調達、生産、販売・マーケティングを共に行い商品を市場に出す

てパ

第3節 BOP ビジネスの歴史的背景と課題

前章では BOP とは何か・その魅力と成功の秘訣を考察してきたが、本章では BOP ビジネスの歴史的背景

14 使用者がコンピューターを操作する上での環境、扱いやすさ、操作感。携帯電話、デジタルカメラなどの

電子機器の操作のこともいう。

8

を世界と日本に二局面から見ていく。BOP ビジネス登場の背景は二つある。企業サイドには国内外の景気低

迷から新しい市場を求める動きと国際社会サイドは依然として減らない貧困に対して、新しいアプローチを

求める動きを結び付けたのが BOP ビジネスである[菅原 2010:8]。過去 50 年もの間に日本の国家予算 4

年分に匹敵する 2.5 兆ドル以上を全世界で貧困削減に費やした。しかし、一向に減ることのない貧困層への

新たなアプローチが必要となり、国連をはじめとした国際機関が貧困層へのビジネス・アプローチによる課

題解決手法に着目し、後押しをはかるようになったのが 2001 年である。ここで企業、NGO・国際機関、政

府とのパートナーシップが構築され、これらによって BOP 市場へのアプローチが行われ、BOP ビジネスが

年間にわたって 大 5000 万円を支援するなど国

る)、としている。経済産業省も関係援助機関と連携してBOPビジネスの促進に貢献してく方針である。

初めて成り立っている。 悪の局面から脱出するための大規模のビジネスだといえよう。

日本のBOPビジネスは 1968 年にヤクルトがヤクルトレディによる途上国低所得地域での販売をしたこと

が始まりである。フィリピンにおいてビジネスを展開し以後世界的にレディ方式が普及した。当初、フィリ

ピンでのヤクルト参入は苦戦したが、フィリピン進出から 30 年企業利益と社会利益の同時実現を遂げ成功を

納めている。これ以降、1978 年にキーコーヒーのトラジャコーヒー農園の事例など日本企業において少数の

事例はあったものの、全体として目立った動きは見られなかった。理由としては、公的なBOPビジネス支援

策の不備、経営陣の危機感・世界観・先見性の欠如。日本企業のCSR15の遅れとパートナーシップの未経験

があげられる。しかしこれらは徐々に克服され 2009 年に経済産業省が約 3 億 1 千万円の補正予算で官民関

連によるBOPビジネスの推進の取り組みを開始したことで一気に関心が広まりだした。これをBOPビジネス

の元年と呼んでいる。2010 年にはBOPビジネス支援センターが設立され、同年JICAは公募形式のBOPビジ

ネス関連制度を開始し企業、NGOに対して、一件当たり 3

をあげて勢力的にBOPビジネスに取り組んでいる。

日本企業がBOPビジネスを勧めていくうえで、課題がいくつかあげられる。1.BOPビジネスのコストと不

確実性、2.企業のハイエンド16志向、3.本業とCSR活動の分析、4.開発援助の対応の遅れ、5.NGOと企業の連

携の弱さである。日本企業がBOPビジネスに積極的に参入していくには、これらの課題を克服していかなけ

ればならない。これらの課題を踏まえ、経済産業省・貿易経済協力局は今後日本においてBOPビジネスを促

進させるために施策面において、以下の取り組みは必要であるとしている。1.BOPビジネスの概念の普及と

意識の醸成(企業、援助機関、NGOの関心を高めるために普及や啓発を促進するセミナーを開催し、情報交

換などの場を設置)、2.BOPビジネス支援策の検討(多様なプレーヤーやツールをコーディネーダーするオー

ガナイザー人材の確保や育成の支援を検討・途上国におけるBOPビジネスに対するニーズの発掘や、製品開

発を進めるための技術開発支援、BOP層に対する教育や技術指導など、BOPビジネスをフェーズごとに側面

支援するメカニズムを検討・既存の支援ツールを活用しながら、具体的な先攻プロジェクトの案件形成を進

15 企業の社会的責任(corporate social responsibility の略) 16製品、あるいはサービスに於いて 上級の一郡の商品

9

第2章 BOP ビジネスと貧困ビジネスの関係性

本章では、BOP ビジネスと貧困ビジネスを比較してビジネスをみていく。ここにおける貧困ビジネスは日

本企業が日本の貧困層に向けて行っているビジネスを対象とし、BOP ビジネスは日本企業が外国に対し行っ

ている BOP ビジネスと対象としていく。それらを対象とする理由としては、これからの日本企業の取り組

みに期待していることや、発信源は日本の企業に統一するが対象を日本と外国にわけることが重要なポイン

トである。ポイントとしては、日本企業が日本に貧困層を対象にしているビジネスを外国で行ったらそれら

は BOP ビジネスと呼ばれるのであろうか、という比較の仕方を行うことが出来るからである。同じ貧困層

を対象としているビジネスなのに BOP ビジネスと貧困ビジネスは、そもそもビジネスの実態が違うのか、

それとも実態が同じだが見方が違うのか、それぞれのビジネスの具体的事例・それぞれのビジネスを取り巻

く議論や環境はどのようになっているのかを考察していく。それらを考察した上で、筆者自らの立場を明確

にすると共に、2つのビジネスがこれから社会にどのような影響を与えていくのかを述べていく。現在の時

点での、筆者の立場として BOP ビジネスは、貧困層の貧困脱出を促しながら企業にも利益を上げることが

出来るのであれば日本企業に普及していくことを望む。しかし、BOP ビジネス自体が企業の利益追求の隠れ

蓑になってしまう可能性や貧困層のニーズに応じていないものならば必要は無いのではないかと考える。一

方で、日本で行われている貧困ビジネスには良いイメージを持つことは難しいと考える。なぜならば、BOP

と比較してしまうと貧困層自身にはメリットは少ないであろう。少なくとも、貧困ビジネスとして提供され

たものを利用する貧困層は貧困脱出することは出来ないからである。つまり、現時点では BOP ビジネスを

進する立場である。しかし、疑問に感じることもあるので考察していく上で明確にしていきたい。

が、

第1節 貧困ビジネス概要・実例

貧困ビジネスとは「貧困層をメインのターゲットにして、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困

を固定化するビジネス[水島 2007]」としている。金融、住宅、労働、保健など様々な分野で広がっている。

ここで、注目したいのはBOPビジネスと明らかに違うことは“貧困からの脱却することなく”ということで

ある。BOPビジネスは貧困から脱却することを目的としている為、定義が根本的に違うといえる。また、貧

困ビジネスを行う企業や団体の多くは「社会的企業17」を装っているのが特徴的であるという。社会的企業

は社会問題の解決を目指した社会変革を通じた社会貢献と企業の利益を両立させることを目的としている

実際には貧困問題の固定化により利益を上げる、社会企業の対極にある存在と、湯浅は言う。

これ以外にも、貧困ビジネスの構成要素としては、1.セーフティーネット18に保障された 低生活ライン基

準値以下の生活レベル層を中心としている、2.貧困ビジネス企業活動にあたっては、違法・不法行為をふく

め利益を得る側に都合の良いビジネスが次々と創られる、3.不利益を被る側の無知その他の知らないところ

につけ込む、以上の3点があげられている。貧困ビジネスの概念は、問題がビジネスモデルそれ自体にある

ことを指し示すためにつくられている。それらのビジネスモデルに問題なのは、違法行為であるからだけで

17 社会問題の解決を目的として収益企業に取り組む事業体のこと。 18 社会保障の一種。

10

はなく、そのシステムが非人間的なありかたを貧困層である当事者たちに強いるからであるとしている[水

ん貧困層がいないと儲からないビジネスなので、貧困層の固定化に

ジネス自体が貧困の脱却に貢献しているかといわれると全く逆の効果をもたらしているこ

がわかった。

島 2007]。

厚生労働省の平成 22 年 3 月に発表されたホームレスの実態に関する全国調査では、全国のホームレス数

は 13,124 人である。内訳としては男性 12,253 人、女性 384 人、不明 487 人であり、前年と比較すると 2,635

人減少しているとしている[厚生労働省 HP:2011.1.28]。 もホームレスが多い都市は、大阪府、東京都、

神奈川県となっており、 も少ない都市は鳥取県、島根県である。おそらくこの調査での人数では調べきれ

なかったホームレスも多くいるであろう。日本のホームレスなどの自立支援等に関する特別措置法などの定

義は、野宿者・路上生活者のみをホームレスとしている。この定義は非常に狭義で、広義のホームレスの定

義には野宿者・路上生活者と住居を失う危機にある人に、適切でない住居に居住する人も含めるとしている。

ホームレスは貧困ビジネスの対象であり、ホームレスを多くの貧困ビジネスが取り巻いている。その代表

例として、ネットカフェやホームレスの生活を取り巻いて行われているビジネスについてみていく。ホーム

レスの一種としてネットカフェ難民と呼ばれる人々がいる。ネットカフェ難民とは、定住する住居する場所

がなく、寝泊まりにインターネットカフェを利用する人々を指した造語である。今や、ホームレスにとって

インターネットカフェは無くてはならない存在であろう。ネットカフェ難民は、日雇い派遣として仕事を行

っている時間帯以外は、身の回りの生活用品などをコインロッカーに預ける。言わばタンス代わりであり、

室内コインロッカーでは着替えなどをする男性もいる。コインランドリーもネットカフェ難民にとっては必

需品である。格安のコインロッカーとコインランドリーが一緒になった建物もある。先程も簡単に述べたが、

ネットカフェ難民は日雇いで仕事をして生計を立てている人が多い。日雇いの仕事も毎日あるわけではなく

不定期で派遣会社に問い合わせをして仕事があれば働くことができ収入を得ることが出来る。日雇い派遣を

して得られる平均月収は、10 万 7000 円(東京都)とされる。このような生活スタイルから、日雇い派遣会

社の事務所の近くには安いインターネットカフェ、安いコインロッカー、コインロッカー、安い定食屋など

があり、ネットカフェ難民をターゲットにしたビジネスが展開されている。これを、貧困ビジネスと呼ぶ。

貧困ビジネスを行っている企業はもちろ

繋がっている[水島 2007:31-34]。

ここまで貧困ビジネスの概要と実例を簡単に紹介してきたが、貧困ビジネスとい造語をつくった湯浅は「本

来的には政治がきちんと見据えて貧困を解決するために政策的に出動しなければならない。それをやらない

ので貧困の問題が貧困のまま放置されて貧困ビジネスのターゲット、餌食になるという構造になっている[]」

と貧困が野放しになっている状態を批判している。貧困ビジネスを解決するためには 終的に政治的な責任

が問われ、貧困ビ

第2節 BOP ビジネスは貧困ビジネスなのか

第 1 章で貧困ビジネスが貧困の脱却に貢献していないとしたが、日本企業が外国向けに行っている BOP

ビジネスを日本のネットカフェ難民に対して行った場合、それを貧困ビジネスと呼ぶのであろうか。ここ

では、BOP ビジネスと貧困ビジネスを比較しながら実態を考察していく。味の素を例にみていくと、味の

素は風味調味料を小分け袋(3 グラム〜100 グラム)にして販売している。誰でも手に入れられる・どこ

11

でもいつでも買える・料理をおいしくできることをコンセプトにして展開していった。現地では味の素を

振りかけると料理の味がおいしくなるとヒットし、味の素は食の向上に貢献しつつ収益を稼いでいるとし

ている。2005 年から 2010 年にかけて味の素はインドネシアにおいて「キャッサバ高収量栽培プロジェク

ト」を行っている。これは、味の素の重要な発行原料であるキャッサバの栽培技術を検証・蓄積し農民の

生活向上を支援している。これを行ったことで収量は 1.7 倍、収入は 1.8 倍になる成果を上げ、農民の意

志によって自立に向けた活動がスタートされたという事例がある。このプロジェクトは比較的新しいもの

階では提供されているものを利用しているだけで貧困ビジネスと

困ビジネスと呼ぶのかを決めていると考える。第三者の私たち

が増えてしまうと、BOP ビジネスへの批判は拡大し、いずれは貧困ビジネスと呼ばれ

しまうだろう。

で実際に自立したかは証明されていない。

例えば、味の素が極力食費を抑えたいと考える日本の貧困層向けに小分け袋の味の素を販売すればヒッ

トするかもしれないが、小分け袋を販売して購入してもらうだけでは利益を得るのは味の素のみで、貧困

層を餌食にしただけで貧困ビジネスと変わりないだろう。ここで味の素が日本で材料を栽培するために貧

困層に職として与えた場合に貧困層は給料を与えられ、利益を与えることが可能になる。しかし、貧困層

が利益を得ることができても自立に繋がるかと言われれば疑問である。正直、キャッサバ高収量プロジェ

クトでの自立も結局は味の素の原料を栽培するために行われており、言わば雇われの身には変わりない。

ここで味の素の支援によって拡大されたキャッサバの収量を、味の素と全く関係ない市場で利益を得るこ

とができれば「自立」と呼べると考える。日本の貧困やインドネシアのプロジェクトに参加している人も

結果的に味の素から独立したときに自立したと呼ぶことができ BOP ビジネスの成功と呼べる。つまり、

BOP ビジネスも自立を支援している段

変わりないのではないだろうか。

日本で貧困ビジネスと呼ばれるインターネットカフェをインドネシアで展開しインンドネシア人が利用

した場合、インドネシア人は安い値段でインターネットを利用できて、インターネットから世界中の多く

の情報を得ることが可能になる。それを「現地のニーズに応えて今までは不可能だった情報収集を円滑に

し、生活を豊かにしたことで現地に貢献している」と BOP ビジネスであると企業が言ってしまえばそれ

までである。BOP ビジネスと貧困ビジネスの実態は、同じといって良いほど紙一重だろう。企業が本当に

結果的に自立を促すためのビジネスと考えているのか、それとも企業が「貧困層のため」と謳って結果的

には企業の利益をあげるためのビジネスだと考えているのかが重要になる。企業の方針と、ビジネスの実

態と結果が BOP ビジネスと呼ぶのか、貧

が、それらを見極めなければいけない。

筆者の結論と立場としては、企業のあり方が重要であるが BOP ビジネスを行っている企業が実際に自

立に貢献していないのであれば BOP ビジネスを普及させるべきではない。日本における貧困ビジネスと

呼ばれるものは、やはり貧困脱出を促すものではない。なぜならば、貧困ビジネスを日本で行っても外国

で行っても結果的には貧困層の生活援助のようなものに過ぎないと考える。上記で述べているように、い

くら企業が「現地のニーズに応えて生活を豊かにした」といっても豊かにしたことで留まってしまい、そ

れ以上の利益を貧困層に与えることはない。これから将来的に BOP ビジネスを行う企業を日本に普及さ

せていくにあたって、企業の目的を明確にさせる意識を定着させていく必要があるだろう。曖昧な BOP

ビジネスを行う企業

12

第 3 章 ファストファッションビジネス

第 1 章では BOP ビジネスの概要について、第 2 章では BOP ビジネスと貧困ビジネスの関係性について述

FF とは手軽に、気楽に、安く、日常的に着る

19。以上のような疑問を抱いたこ

からBOPビジネス、貧困ビジネスをFFと関連づけて考察しく。

第1節

べてきた。本章ではファストファッションビジネスについて述べていく。

筆者はファッションに興味を持っており、将来はアパレル企業で働くことから、ファッションビジネスは

BOP ビジネスや貧困ビジネスに関係していないのか興味を持った。その中でも、近年注目を集めているファ

ストファッション(以下 FF)に着目して考察していきたい。

ことができるファッション衣料のことだ[川島 2009:12]。

手軽に買えて、流行にあわせて毎シーズン買い替えることができるFFは若者や主婦に支持を得ている。FF

は今までファッション業界が相手にしていなかった収入の低い人にも良い品質のものを提供できる。手軽に

安く手に入るならば比較的豊かではない人も商品を購入することができ、企業はその分の利益を得るとすれ

ば、FFは貧困ビジネスの一種なのだろうか。ファストファッションブランドで売られているものでは、中国

産やバングラデシュ産と書かれたものを良く目にする。中国やバングラディッシュの貧困層の人々が当な賃

金を貰って利益を得ながら働いているならば、BOPビジネスと呼べるのではないか。しかしながら、生産者

が何らかのかたちで搾取されていればBOPビジネスとは呼べない。実際に 2011 年 8 月 29 日H&Mのファス

トファッション工場で劣悪な状況下で働かされていたことが問題になった

ファストファッションビジネスとは

ファストファッションとは手軽に、気楽に、安く、日常的に着ることができるファッション衣料のこ

とであり、特徴としては 1.低価格、2.高品質、3.ファッション性とされている[川島 2009:12-14]。ファ

ストファッションという呼び方が一般的に出始めたのは、2008 年 9 月に東京・銀座に外資系ブランドの

H&Mが日本初出店した頃からである[川島 2009:12-21]。日本のファッション市場に変化が起きたのは

2008 年にサブプライム・ローン20問題が表面化し、同年 9 月 15 日にはリーマン・ブラザーズ証券21が倒

産して世界金融不況に見舞われた頃である。その頃にH&Mが日本初出店を遂げたことも、日本における

ファストファッションブームの要因ではないだろうか。低価格でもファッション性の高いH&Mが日本に

上陸して以来、低価格商品は品質に問題があって、ブランド品に対抗でできないという考え方に変化が起

こった。筆者はファストファッションブランドを利用するのだが、H&MやFOREVER2122(以下FE21)

とった外資系ブランドの商品は大量に並んでおり、素材もどこか安っぽく感じてしまう。しかしながら、

値段に魅力を感じてしまい購入することも少なくはない。品質の問題はブランドによって異なるが、品質

の面ではブランド品のほうがしっかりしていて長く使えるというイメージは変わらない。トレンド感の面

19 2011 年 8 月 11 日に H&M のカンボジア工場で働く、およそ 300 人の労働者が劣悪な状況下で倒れたとイ

ギリスのインデペンデントにより報道された[Independent HP :2010/10/26]。 20 アメリカ合衆国に貸し付けられるローンのうち、サブプライム層(優良客よりも下の層) 21 アメリカのニューヨークに本社を置いている大手投資銀行及び証券会社。 22 アメリカ合衆国カルフォルニア州ロスアンゼルスに拠点を置くファストファッションストアチェーンで

世界 10 カ国に 460 店舗ある。

13

では、流行が去ってしまえば着られなくなってしまうデザインのものは安価で購入し、流行に左右されな

いで長く使用できるベーシックなデザインのものはある程度の価格のものを購入するという使い分けがさ

らも、品質は良く、縫製

ーブランド23と比べてしまえば安

になんの抵抗もないところにファストファッションの隆盛の要

ある[川島 2009:17]」と述べている。

ェーン展開を H&M はすでに実現しており、ユ

れているのではないかと考える。

ファストファッションと呼び名が付く以前に日本で一躍ブームになったのが 2000 年のユニクロのフリ

ースである。大量生産大量販売を行ったフリースの価格は 1900 円で、低価格なが

もしっかりしていて、カラーバリエーションも豊富であるところが特徴である。

ユニクロ、無印良品、しまむらはファストファッションの国内御三家と位置づけられている[川島

2009:19-20]。その他に国内のファストファッションブランドと呼ばれているものは、ジーンズを中心とし

たカジュアルウェアチェーンのライトオン、ジーンズメイト、マックハウス。SPA型のハニーズ、ポイン

ト。109 系ファッションのセシルマクビー、エゴイスト。その他、ビームス等もファストファッションと

川島は述べている[川島 2009:19-29]。これらのブランドはH&Mやユニクロ等に比べて比較的に平均価

格は上回るだろうが、中高生でも買える価格設定である。ラグジュアリ

価であるが、ビームスはそれらよりも価格設定が多少高くなっている。

外資系のファストファッションブランドと呼ばれているものは、H&M、FE21、ZARA、GAP、TOPSHOP、

アバクロンビー&フィッチ(以下 アバクロ)等があげられる。H&M、FE21 は価格も安くトレンド感が強

いのでファストファッションというイメージが強い。アバクロは日本には銀座と福岡の 2 店舗のみである。

価格はファストファッションとして高めの設定であるので、一般的にはファストファッションという認識は

されていないかもしれない。近年のファッション業界は FF 無しでは語ることが出来ないだろう。川島は「安

くてかわいい“安カワ”が流行語になっているように、ブーム的なものもこれに加味されているが、今の若

い層は無理をしない、等身大のファッション

因が

第 2 節 ファストファッションの形態・戦略

FF といっても企業によってブランドの特徴、形態、戦略は様々である。数ある FF の中で日本に FF ブー

ムを巻き起こした外資系の H&M と、海外進出を果たしている国内ブランドのユニクロの 2 社を取り上げて

比較していく。ユニクロが目指す世界市場でのカジュアルチ

ニクロは特にライバル視しているという[川島 2009:67]。

H&M はヘネスアンドモーリッツというスウェーデン発祥のカジュアルチェーンである。1947 年創業で世

界 30 カ国に 1600 店舗展開している。第 1 節で述べたように 2008 年 9 月に東京・銀座に日本進出を果たし

た。ターゲットの年齢層は 20 代から 30 代までを中心顧客としている。H&M が人気の理由は、1.ファッシ

ョン性の高い商品を、2 低価格で、3.高回転で店頭に並べ、4.売り切れごめんで、5.ファストファッション化

の流れの中で出店してことによる。 大の特徴は 1 と 2 であり、 先端のファッションをどこよりも商品化

して店頭に並べることや、著名デザイナーとのコラボレーションも積極的に行っている[川島 2009:71-72]。

23 ラグジュアリーとは贅沢な、豪華なという意味を持ち、シャネルやグッチ、ルイヴィトンなどのブランド

のこと。

14

ユニクロはファーストリテイリングが展開するブランドである。同ブランドについても第 1 節で述べたよ

うに、2000 年のフリースブームから 2008 年のヒートテックブームと長きに亘り日本の FF の 前線を走っ

てきた。ターゲットは無いと言っていい程幅広い年代の人が利用している。ユニクロも同様に近年では様々

なデザイナーとのコラボレーション T シャツを販売している。特徴としては、トレンドよりも素材にこだわ

り、同じ商品を改善し、つくり込んで行く。高品質・低価格の商品を大量生産、大量消費しているところで

品は追加生産も行う。発注した商品は完全買い取りをして、すべて売り切

イズをしない分、国や店舗にあったサイズや商品を戦略的に選択して

らもユニ

こだわり続け、H&M は売り切れ御免で商品に付加価値をつけている。

く教え

や、ヒー

ある。

(1) 低価格の仕組み

2社の商品とも低価格の商品を展開しているが、低価格の商品を消費者に提供するためにどのような仕組み

があるのだろう。ユニクロはSPA業態24を採り入れている。商品の企画、デザイン、生産、販売を一気通貫

して手がけることで中間の無駄なコストを削減して、低コストで商品をつくり、それを商品に反映させてい

るのである。ユニクロの 90%の商品の生産拠点は中国であり、一度の発注を 100〜1000 万枚とかなり大量

に発注することでさらにコスト削減を行っている。近年の経済成長により、中国の市場としての可能性が高

まってきたことから、生産拠点をさらに人件費の安いベトナム、カンボジア、バングラディッシュにシフト

する方針を掲げている。人気の商

るところがユニクロ流である。

H&Mも同様にSPA業態であり、大量生産・大量販売が低コストの秘訣である。自分たちで企画したもの

を、大量に委託生産し、それを全世界 1700 もの店舗で一斉に売る。生産地は欧州や人件費の安いアジア等

で、そこ約 800 の委託工場を抱えている。どれほど人気の商品であっても、一度大量生産をして売り切れて

しまった商品を追加生産することはない。品切れになればそれまでである。H&Mはローカライズ25しないと

こでコストを削減している。ローカラ

販売している[川島 2009:52-84]。

2 社の共通点は SPA 業態であり、大量生産・大量消費、生産工場での人件費削減を行っているところであ

る。FF には欠かすことの出来ない必要条件なのだろう。相違点は、生産方法や販売の仕方である。それぞれ

の戦略で低価格の商品を生み出し、破格の値段で販売することができている。コストを削減しなが

クロは素材に

(2) 品質

ユニクロは中国生産で高品質の商品を生産している。中国製品は粗悪品のイメージが強く、日本人は品質

にこだわりのるために、企業側としては人件費と品質の兼ね合いに苦労していた。ユニクロは「匠プロジェ

クト」を推進して行った。これは日本の職人を現地に派遣して編み、織布、染色、縫製などの技術指導する

ものである。中国人はプライドも高く、日本からやってきた職人に対して反抗をしたが、惜しげも無

る職人の指導を受けてスキルが上がり、高品質の商品を生産することに成功した[川島 2009:58]。

確かにユニクロは低価格でありながらも品質は良く、2、3 年は使い続けていられる。1 回洗濯してクタク

タになって着られなくなってしまうことも無いように感じる。カシミアの商品を展開していること

24 企画から製造・販売までを一貫して自社で行うビジネスモデル 25 地域適応化すること

15

トテックなどの発熱衣料を例に挙げても、やはり品質や素材にはこだわり抜いているのだろう。

H&M はユニクロとは反対に何よりもスピードを重視し、品質確保は二の次である。そのため、縫いはず

れ、ボタン留めなどに荒さが目立っている。H&M はトレンド性が高いので流行の商品を安い値段で購入し、

ワンシーズンだけ着ることが出来れば良いという考えの消費者が多い。長く愛用するわけではないので多少

の荒さも目を瞑ることができる[川島 2009:76-78]。品質にこだわりを持つか、持たないかは消費者次第で

る。

FF を取り巻く経済状況について考察し、それらがどのような影響を

必要な品質を機能があれば付加価値と

ては充分なのだろう。それが FF 人気に繋がっていると考える。

貴重な意見を得ることが出来た。

単にまとめた表が以下である。

トフ ョンの概要

定義

きる事が出来る

第 3 節 消費文明の退化

第 1 節でも簡単に触れているが、FF がこれほどブームになっているのには世界の景気悪化と共に縮小する

衣料品市場が関係していると考える。

FF に与えているのかを論じていく。

日本のファッション市場に変化が起きたのは 2008 年にサブプライム・ローン問題が表面化し、同年 9

月 15 日にはリーマン・ブラザーズ証券が倒産して世界金融不況に見舞われ、これを機に消費が完全に冷却化

したことが発端である。消費者は消費することを避けるようになり少しでも安価なものを購入しようと低価

格業態が人気を集めた。その背景には消費のボリュームゾーン的退化にあると思われる。「ボリュームゾーン」

とは経済産業省が言うところの新興国における中間所得層の急速な拡大がもたらす大衆消費市場であり、先

進国で求められる過剰な機能や品質、付加価値をのせた高額商品ではなく、それらを削ぎ落としたシンプル

な低価格商品が求められているというものだ。ボリュームゾーン商品が日本で急速に市場を拡大しているの

は、経済の衰退と所得の低下に加え、少ない消費と付加価値で生きていける世代が市場の主勢となり、消費

の付加価値が削げ落ちているではないか[小島 2010:175]。消費者にとっては、ラグジュアリーブランドの

ように高額な値段で付加価値の付いている商品を買うよりも、FF でも

第 4 節 アンケート調査

本章の第 3 節までに FF について考察してきた。FF 世界各国で若者から多くの指示を受けている。東京近

郊に住む 20 代前半の女子学生にファッションに対しての意識調査を行った。それらを統計し、第 3 章で述

べたファストファッションビジネスの戦略と、消費者の FF のイメージと購入同期は一致しているのかを考

察する。このアンケートは「ファストファッションに関するアンケート調査」と題して行った結果 10 人か

アンケートを回収することが出来た。集計アンケートが少ないが、

まず始めに、FF について簡

ファス ァッシ

手軽

安い

日常的に

特徴 低価格

16

高品質

ファッション性

大量生産大量消費

生産地 中国、バングラディシュ、インド、カンボジア、

「ファストファッションという言葉を知っていますか?」という質問に対して、知っている回答者は 10

人中 8 人であった。「知っている」と答えた人を対象にどれくらいの頻度で店舗に行くかという質問に対して、

を得たのは7人で以下のような結果になった。

表 1. FF の店舗

1 年に 1 年 5 月に 週に 週に 2

回答

利用頻度

1~5 回 ~10 回 1 回 1 回 ~3 回

店舗利用頻度 1 人 0 人 4 人 2 人 0 人

も多いのは月に 1 回で 4 人であった。

「月に衣料品に使える金額は?」という質問にたしては以下のようになった。

表 2.月に衣料品に

1~ 2~ 4~ 6~ それ以上

次に

使える金額

2 万円 4 万円 6 万円 8 万円

利用金額 5 人 5 人 0 人 0 人 0 人

1~2 万円と回答した人は 5 人であったように、月の利用可能額が 1~2 万円であると買い物に行く回数も限

られることが推測される。表 1 で表したようにだいたいの人が月に 1 回 FF の店舗を利用しているならば、

月に数回買い物に行く際はだいたい FF ブランドの店舗に足を運んでいると言えるだろう。2 万円で買える衣

料品は限られており、2 万円で何点も衣料品を購入しているようであれば、回答者が着ている衣料品はほと

んど FF ブランドのものではないだろうか。回答者の中にファストファッションという言葉を知っている人

は 8 人居たが、回答者たちが思い浮かべているブランド以外のもので、彼らが利用しているアパレルブラン

ドも FF と呼ばれていることを知らないのでは無いかと考える。そう想定すると、店舗利用数ももっと多く

の中でも多く利用するブランドはどれか(複数回答可)を質問したところ、結果は以下のように

った。

表 する FF ブラ

ド 回答者

なるだろう。

次に FF

3.よく利用 ンド

ブラン

ユニクロ 0 人

ZARA 4 人

FOREVER21 5 人

17

H&M 7 人

しまむら 0 人

ポイント 2 人

ビームス 1 人

UNITED

ARROWS

0 人

109 ブランド 7 人

GAP 0 人

無印良品 0 人

イオン 0 人

ダイエー 0 人

ドンキホーテ 1 人

利用しない 0 人

も人気の店舗は H&M と 109 ブランドであった。次いで、FE21、ZARA と続いていることを見ると、

系の FF ブランドは FF には欠かすことの出来ないのだろう。

ンのイメージに当てはまるものはどれか(複数回答可)を質問したところ、以下のよ

結果になった。

表 4.FF の

回答者

外資

ファストファッショ

うな

イメージ

イメージ

価格が安い 8 人

流行を取り入れている 4 人

品質が良い 1 人

品質が悪い 0 人

購入しやすい 2 人

品揃えが豊富 2 人

その他 0 人

FF は価格が安いというイメージを持っている人が も多かった。次いで、流行を取り入れているというイ

メージであった。FF の醍醐味でもある「手軽、安い、低価格」というイメージやはり消費者の認識と一致し

ていた。流行を取り入れているという部分では、ファッション性があるものは消費者にとって流行に乗って

いる商品でもあると考えると、一致していると言っても良いだろう。品質について回答している者は 1 人で

入する際に重視することはどれですか(複数回答可)を質問したこところ、結果は以下の

うになった。

あり、圧倒的に価格のイメージが勝っている印象を受けた。

次に衣料品を購

18

表 5.購入する際に重 とこ

デザイン ブランド 生産地

視する

値段 流行 素材

購入ポイント 9 人 10 人 0 人 1 人 0 人 3 人

も回答数が多かったのはデザインである。ファッションを楽しむ為には、自分が着る服はお気に入りの

デザインのものが良いと考えるのは大前提だろう。次いで、値段であった。第 3 節の消費文化の退化で述べ

ているが、やはり、消費者にとって FF ブランドはファッション性があってお気に入りのデザインが見つか

るのであれば、付加価値としては充分なのであろう。今日の消費者はラグジュアリーブランドの“ブランド”

に付加価値を付けることはなく、FF の付加価値で満足できるので購入するという点も FF の狙い通りであっ

購入するために FF の中でもブランドや製品を使い分けて利用しているのだろうとい

とがわかった。

。企業は安い商品を消費者に提供するために、あらゆる方法でコスト削減を行っている

兼ね備えていると考える。「企業と消費者」、「企業と生産者」という 2 つの見解でこれ

た。

素材を重視すると回答した人は 3 人いたことは意外であった。第 2 節(2)において H&M は「品質は二

の次」であると述べているように、商品生産のスピードが早く、店頭の商品回転率も早いことからファスト

ファッションをいう名前がついている程である。スピード重視にしてしまうと FF には品質の問題が付きも

のである。素材を重視していると回答している人は 3 人とも、値段、デザイン共に重視すると答えていた。

そして、素材を気にすると回答した 3 人中2人は H&M で衣料品を購入していた。安くて、デザインが良く

て、素材が良いものを

うこ

第 5 節 ファストファッション企業と消費者と生産者の関係

百貨店ブランドに比べ安価で品質も劣る FF だが、安い価格で誰もが様々な方法でファッションを楽しむ

ことが出来きるという意味ではターゲットも広くなる。FF は、今までファッション業界が相手にしていなか

った相手にちゃんとしたものを提供できる。手軽に安く手に入るならば、比較的豊かではない人も商品を購

入することができる

こともわかった。

本論文では BOP ビジネスと貧困ビジネスの違いについて考察してきた。ファストファッションビジネス

は前者と後者のどちらに該当するのだろう。筆者は現時点ではファストファッションビジネスは BOP ビジ

ネスと貧困ビジネスを

らを考察していく。

(1) 企業と消費者

バブル崩壊26以前はイタリアのブランドを中心としたインポートブランドブーム、90 年代から 15 年に亘

りラグジュアリーブランドのブームが続いた[WWD 2010:2]。ブームになったとは言え、インポートブラン

ドやラグジュアリーブランドの商品はだいたい数万〜数十万円もするので、次から次へと買い物ができるの

はある程度の収入を得ているひとに限られている。だいたいは一品を大切に長く使うことが一般的ではない

26 1980 年代終盤から 90 年代初期までの数年感で起こった、資産価格の上昇と好景気、及びそれに付随して

起こった社会現象の後、景気循環における景気後退のこと。

19

だろうか。第 3 節で消費文明の退化について述べたように、不景気のなかで企業の経営も苦しくなってきて

いに利益を得ることが条件

は多くなる。企業にとって善し悪しは際どいところであるが、消費者にとっては有り難いブ

都圏近郊に住んでいる人以外が皆貧困というわけ

層が多く住んでいる地域にターゲットを貧困層に絞り出店すれば、これは FF の貧困ビジネ

たなパートナーとしてお互いに利益の

いるだろう。百貨店の売れ行きも低迷している。

そんな中での FF ブームは企業にとってみれば、消費を避ける人々に合ったオシャレな商品を提供するこ

とで、消費者はお金をかけずに充分にオシャレを楽しむことができると考えればお互いに利益を得ているよ

うに感じる。しかし、BOP ビジネスとは企業と貧困層がパートナーとなってお互

であるので、企業と消費者という関係では FF の BOP ビジネスは成立しない。

今までラグジュアリーブランドのブームにのることが出来なかった消費者もターゲットになることに関し

て、ファーストリテイリング社の柳井正氏は「アパレル業界人は洋服=ファッションと思っているようだが、

多くの一般消費者は洋服を機能性や快適性を備えた生活パーツとしか見ていない。合理的な価格と品質でそ

んな生活パーツを提供すればマーケットは無限に広がる[小島 2010:43]」と述べている。商品の単価は低く

なるが、消費量

ームである。

H&M や FE21 のような外資系ブランドは、首都圏近郊や都市を中心に出店しているためユニクロ程地域

密着型ではない。ユニクロは百貨店やファッションビルが無い地域にも数多く出店しており、誰でも購入で

きる。つまり今まで相手にされていなかった相手にちゃんとしたものを提供しているという面では、FE21

よりは貧困ビジネスに近いのではないだろうか。ただ、首

ではないので貧困ビジネスと呼ぶにはふさわしくない。

今まで以上に衣料品を安く購入できるからといって BOP ビジネスや貧困ビジネスの対象である貧困層の

人々が実際に H&M やユニクロで買い物をするかと言われれば、その可能性は低いだろう。貧困層が衣料品

の価格が高くて購入することができなかった分、FF の登場で衣料品を購入できるようになったとする。企業

からみてターゲットが 100 パーセント貧困層の貧困ビジネスではないが、ある意味で貧困ビジネスと呼んで

も間違いでは無いだろう。手軽に、気楽に、安く、日常的に着ることができる一枚 300 円の T シャツの FF

のお店を、貧困

スと呼べる。

(2) 企業と生産者

H&M とユニクロは主にアジアで商品を生産している。その 大の理由は人件費が安いからである。第 2

節の(1)で述べたように、ユニクロは市場を海外に拡大していくに当たり生産拠点としての中国の重要性は薄

れており、中国よりも人件費の安いベトナムやカンボジア、バングラデシュなどに生産拠点をシフトしてお

り、ユニクロ製品の 2~3 割を移管する方針としている[川島 2009:81]。生産拠点をシフトして今まで相手に

していなかったベトナム、カンボジア、バングラデシュの 3 カ国を新

あるビジネスを行っていれば、BOP ビジネスと呼べるのだろうか。

BOP ビジネスとは、それまで無視されてきた貧困層固有のニーズを満たすための製品•サービスを提供し、

結果として、企業が利益をあげると同時に、低所得層の底上げや貧困社会の抱える社会的課題(貧困削減・

環境改善・生活向上)の解決に寄与するというビジネスである。つまり、企業と貧困社会が共に発展するビ

ジネスであり、企業の利益と貧困層の社会的利益を同時に実現することが重要だということである。ユニク

ロが 3 カ国の低所得層に 1.仕事を与えて低所得層の底上げや貧困社会の抱える社会的課題の解決に至ること、

20

2.貧困者固有のニーズを満たすための低価格の商品を提供できれば BOP ビジネスは成立していると言える。

低所得層の彼らが仕事をすることで条件 1 は満たされている。2010 年 8 月の時点で中国、韓国、香港、シン

ガポールのアジア 4 カ国に合計 122 店舗を出店している[小島 2010:101]。生産拠点である 3 カ国には未だ

に店舗が無いので条件 2 は満たされていない。つまり、現時点ではユニクロの BOP ビジネスは成立してい

ないのである。今後、ユニクロが店舗を構えずとも委託販売などの何らかの方法で生産拠点である 3 カ国に

ると筆者は考える。し

られれば企業は低所得層の社会的課題の寄与には貢献しておらず、むし

おりに搾取しているのであれば、企業の生産者をターゲットにした貧困ビジネ

店頭に並べて販売するまでの行程でアンフェアな行為があれば、BOPビジ

スは成立しないのである。

とって固有のニーズを満たすための製品を提供できれば、BOP ビジネスは成立するであろう。

現時点で生産の 90 パーセントを中国で行っており、中国には店舗数は 2008 年の時点で 55 店舗ある。中

国の低所得層が仕事を得ることができ、ユニクロの製品が中国の低所得層にとって固有のニーズを満たすも

のであり、尚かつそれらを購入することが出来ていれば BOP ビジネスは成立してい

かし、FF を BOP ビジネスと呼ぶためにはその他に必要な条件はまだあるだろう。

その一つとして、企業のパートナーである低所得層(生産者)にとってアンフェアな条件があれば BOP ビジ

ネスとは呼べない。フェアでなくとも仕事が与えられないよりはある方が低所得層にとっても良いのかもし

れないが、何らかの搾取的行為が見

ろ企業の社会的責任が問われる。

ユニクロに関して搾取的行為が報道されたことは無いが、H&M においては 2011 年 8 月 29 日カンボジア

工場で働く、およそ 300 人の労働者が劣悪な状況下で倒れたとイギリスのインデペンデント紙により報道さ

れた[independent HP 2011/10/26]。企業は人件費が安いことを理由にアジアの途上国に仕事も振り、弱み

に付け込んで企業側が思惑ど

スのようにも思えてくる。

H&Mはインド、バングラディシュ、カンボジア等には自社工場を所有しておらず、サプライヤー27から全

ての衣料とその他の商品を仕入れており、生産に対して直接の管理を行わないため、サプライヤーのための

ガイドラインを設けている。H&Mは自社のホームページで「国連子どもの権利条約及び労働条件と職場での

権利に関するILO条約28に基づいており、H&Mの商品が良好な労働条件の下で生産されていることを確認す

るために存在しています[H&M HP 2011/10/26]。」と述べている。行動規範としては「労働環境・児童労

働の禁止・火災時の安全・労働時間・賃金・結社の自由」を挙げている[H&M HP 2011/10/26]。H&Mは

生産管理に直接関わっていないとしても、工場ではたらく生産者にとって搾取的行為が行われていたことは

間違いない。製品をデザインし、

終章 ビジネスの可能性

BOP ビジネスと貧困ビジネスを比較しながら FF に関連づけて論じてきた。本章では、まず始めに BOP

ビジネスと貧困ビジネスについての違いについて表にまとめる。次に、第 3 章の第 2 節でユニクロと H&M

を例にあげて FF のブランド形態と戦略について取り上げたので、同ブランドが BOP ビジネスと貧困ビジネ

27 商品などの供給者、商品製造業者。 28 国際労働期間が定めた世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする専門機構が定めた189条約。

21

スに合致する部分、しない部分を表にまとめていく。それらを参考に、この研究から BOP ビジネスと貧困

ビジネス全体について筆者自身の考えをのべ、ファストファッションが BOP ビジネスへと転換する可能性

を広げ、貧困ビジネスへと攻落してしまう危険性を低くするためには何が必要なのか、ファスファッション

ビジネスの主な生産拠点になっている発展途上国や新興国に低所得者層の人々がファストファッション通し

下の表の通りである。

6.BOP ビジネスと貧困ビ

て自立した貧困脱出に導くためには何が必要なのかを論じる。

BOP ビジネスと貧困ビジネスの違いは以

表 ジネスの違い

1.ビジネス対象 2.企業の利益 3.貧困層との関係

BOP ビジネス 00 ドル以下 期に亘るので難 て共にビ年間所得 15

の低所得層

あり(長

しい)

パートナーとし

ジネスを行う

貧困ビジネス 準以下

の生活レベル層 含めているのが現状)

、弱みにつ

け込まれる

低生活ライン基 あり(違法・不法行為を 不利益であり

4.貧困層の利点 5.自立の可能性

BOP ビジネス 仕事が得られる あり

貧困ビジネス 生活で なし 収入が少なくても

きる環境がある

企業の対象は同じであっても 2 つのビジネスの目的が違う。BOP ビジネスは、貧困層の自立を支援して貧

困脱出に導くことができる。貧困ビジネスは、貧困層は企業側が都合の良いように行い、利益を第一優先と

するので貧困層は現状から抜け出す機会を失ってしまいがちになる。BOP ビジネスと貧困ビジネスは、似て

いる部分も多く紙一重であるが実態自体は違うものである。ただ BOP ビジネスを貧困ビジネスと呼ばずに

ビジネスを成功させるためには、貧困層と関わる上で搾取行為を行わず、企業を貧困層がフェアな立場でな

ければならないというところ、貧困層側のニーズを満たすための製品・サービスを提供しなければならない

ユニクロと H&M の BOP ビジネスと貧困ビジネスに合致すること、しないことは以下の通りである。

6.ユニクロの分析

必要であり、 も重要である。

合致すること 合致しないこと

BOP ビジネス トナ

、カンボジア等

生産地には

店舗が無い

・生産地が中国、ベ

・中国を除く

貧困ビジネス んとした

・地域密着型である

・地域密着型である ・低価格でちゃ

ものが買える

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表 7.H&M の分析

合致すること 合致しないこと

BOP ビジネス

ディシュ、カンボジ

取していた

過去がある

・生産地がインド、バン

グラ

・労働者を搾

貧困ビジネス んとした

ものが買える えるわけではな

・低価格でちゃ ・地域密着型でない(誰

もが買

い)

ユニクロや H&M のようなファストファッションは BOP ビジネスや貧困ビジネスのどちらにも属していな

い。しかし、貧困層と関係を持ちながらビジネスと行っていることから BOP ビジネスにも、貧困ビジネス

を優先し、貧困層を劣悪な環境で

うようになり、生産者にとって働きやすい環境がつく

、自立できる貧困層が増えることを期待する。

にも変わることが可能である。

ファストファッションが貧困ビジネスにならないためには、企業の利益

はたらかせず、ただものを提供するだけに留まらないようにすること。

ファストファッションが BOP ビジネスになる可能性を広げるためには、表 6 で述べたように貧困層と関

わる上で搾取行為を行わず、企業を貧困層がフェアな立場でなければならないというところ、貧困層側のニ

ーズを満たすための製品・サービスを提供しなければならない必要であり、 も重要である。つまり、企業

側が生産工場の労働者に快適な労働環境を提供し、労働に対等な賃金を支給すると同時に、それらの製品・

サービスを貧困層に提供するということである。H&M は 1.世界に 1600 店舗設けている店舗数の多さを売り

に、インド等にも店舗数を増やして地域に密着した店舗開発を行っていくこと。2.サプライヤー制度の下で

しっかりとした労働環境管理を行うことが BOP ビジネスになる可能性を広げるための秘訣であると考える。

アンケート調査の 後に「安価な服が作られる行程で生産者が児童労働させられている、劣悪な状況下で

働かされて作られているとしたら購入することを止めよう(控えよう)と思いますか?」という質問をした。

回答として、購入するのをやめたところで児童労働が無くなるとは思えない、自分も金欠でどうしても安価

な服でないと購入できない、品質がよければ関係なく買う、安価な服はファッションには欠かせない、日本

の経済や労働者にも利益があると思うがあげられた。筆者にとってこれらの回答は理解できるものである。

購入をやめたところで児童労働は無くなる可能性は低いだろうし、安価な服がファッションに欠かせない時

代になっている。現状を考えると 100%フェアなビジネスというものは少ないのかもしれない。しかし、服

が作られる行程で児童労働や劣悪な状況下で働かされている人がいるかもしれない現状を理解して欲しい。

彼らがいるからこそ、私たちはファッションを楽しむことができるのである。ファストファッションブーム

は決して悪いことではなく、このブームに乗った企業の取り組みかた次第で一向に減ることの無い貧困層を

少なからず、減らすチャンスがある。その一つの例として BOP ビジネスを推奨する。消費者の意識を見直

し、企業が変えることの難しい現状に少しでも向き合

られ

23

C.K(2010)『ネクストマーケット[増補改訂版]「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス』

WD ジャパン編集部 (2010) 『WWD ジャパンが読み解くファッション業界 2008-2009 ニュースの深層!』

://www.bop.go.jp/

〈参考文献〉

川島 幸太郎 (2009) 『ファストファッション戦争』

小島 健輔 (2010) 『ユニクロ症候群 退化する消費文明』

水島 宏明(2007)『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』日本テレビ放送網株式会社

Prahalad.

英治出版

菅原 秀幸 (2009)『日本発 BOP ビジネスの可能性と課題』

W

〈参考 HP〉

BOPビジネス支援センター(2010/11/17)https

H&M HP (2011/10/26) http://www.hm.com/jp/

Independent HP (2010/10/26) http://www.independent.co.uk/

ikipedia (2011/11/30) http://ja.wikipedia.org/wiki/W

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〈付録〉 ファストファッションに関するアンケート調査

桜美林大学4年 神矢 真梨絵

卒業論文のため、20 代の男女を対象にファストファッションについての調査をしておりま

す。是非、ご協力お願い致します。尚、このアンケートは統計的に処理し、個人情報を公

表することはございません。 Q.1 まず始めに、あなたご自身についてお聞きします。 職業【学生・会社員・アルバイト・その他】 年齢 【 】才 性別【男・女】 Q. ファストファッションという言葉を知っていますか(利用したことがありますか)? はい / いいえ ⇒はい と答えたひとに質問です。 どれくらいの頻度で店舗にいきますか? 1 年に 1〜5回 / 1 年に5〜10回 / 月に 1 回 / 週に1回 / 週に2〜3回 Q. 以下の中であなたがよく利用するファストファッションブランドはどれですか? ユニクロ / ZARA / FOREVER21 / H&M / しまむら / ポイント(ローリーズファーム、RAGEBULE 等) / ビームス / ユナイテットアローズ / 109 ブランド / GAP / 無印良品 / イオン / ダイエー / ドンキ・ホーテ / これらはいずれも購入しない Q.以下のブランドで安くても衣料品を買わないお店はどれですか? ユニクロ / ZARA / FOREVER21 / H&M / しまむら / ポイント(ローリーズファーム、RAGEBULE 等) / ビームス / ユナイテットアローズ / 109 ブランド / GAP / 無印良品 / イオン / ダイエー / ドンキ・ホーテ / これらはいずれも購入しない Q.ファストファッションのイメージに当てはまるものはどれですか? 価格が安い / 流行を取り入れている / 品質が良い / 品質が悪い /

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購入しやすい / 品揃えが豊富(欲しい物がある) / その他( ) Q. あなたが衣料品を購入するときに重視することはどれですか? (上位 3 位まで) 値段 / 好みのデザイン / ブランド / 流行 / 生産地 / 素材 / Q. 月に衣服に使える金額はいくらですか? 1〜2万円 / 2〜4万円 / 4〜6万円 / 6〜8万円 / それ以上 Q.あなたはユニクロで買い物をしたことがありますか? はい / いいえ ⇒はい と答えた人に質問です。 どのような商品を購入しますか?( ) なぜ購入しようとおもいましたか?( ) いいえ と答えた人に質問です。 購入しない理由を教えて下さい ( )

Q.H&M、FOREVER21 で買い物をしたことがありますか? はい / いいえ ⇒はい と答えたひとに質問です。 どのような商品を買いますか?( ) なぜ購入しようと思いましたか?( ) いいえ と答えた人に質問です。 購入しない理由を教えて下さい。( )

Q.安価な服が作られる行程で生産者が児童労働させられている、劣悪な状況下で働かされ

て作られているとしたら購入することを止めよう(控えよう)と思いますか? はい / いいえ ⇒いいえ と答えた人は理由を教えて下さい。 ( ) 質問は以上です。 ご協力ありがとうございました。