からの コマツナのかすり状白化障害1 2012 タキイ最前線 秋号 43...

1 2012 タキイ最前線 秋号 43 23 調調10 調栽培現場 からの 報告 ! ↑生育スピードが増えたステージの、生育量が大きい葉で障害が特に激しい。 ↑健全に生育した、収穫直前のコマツナ圃場。 兵庫県加古川農業改良普及センター 主任   あき 写真 1 コマツナのかすり状白化障害 ~減肥栽培、有機質肥料栽培でのカリ欠乏に注意 ! ~

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Page 1: からの コマツナのかすり状白化障害1 2012 タキイ最前線 秋号 43 かすり状の斑が発生時 ⋮ 平成 23年4月﹁コマツナに障害が出 あり、て出荷できない﹂とA農家から連絡が

1

2012 タキイ最前線 秋号 43

発生時

かすり状の斑が⋮

 

平成23年4月﹁コマツナに障害が出

て出荷できない﹂とA農家から連絡が

あり、圃ほ

場に行ってみると葉が白くか

すれたような状態でした。葉や土を普

及員数名で調べましたが、急に強くな

った日差しで葉焼けしたのでは? 

と、

原因がよく分かりませんでした(写真

1)。しかし、4月末にところどころ

発生していた障害は、どのハウスでも

次々と発生程度が大きくなり、潅水量

の調節や遮光では効果がありません。

 

環境にやさしい栽培を実践する先進

的な生産者にならい、A農家も有機質

肥料で葉物野菜を栽培していました。

栽培開始から6年間、毎年秋に牛ふん

おがくずなどの堆た

肥ひ

を10a当たり2~

3t施用していましたが、前年秋は散

布労力がきつく、堆肥をやめて代わり

に腐植苦土含有資材を施用していまし

た。しかも、連用していた有機質肥料

にはカリがあまり含まれておらず、カ

リ欠について調べると、写真は初期症

状に似ていました。もしかして……。

栽培現場からの報告 !

↑生育スピードが増えたステージの、生育量が大きい葉で障害が特に激しい。

↑健全に生育した、収穫直前のコマツナ圃場。

兵庫県加古川農業改良普及センター 主任  秋あき

田た

 真ま

紀き

写真 1

コマツナのかすり状白化障害~減肥栽培、有機質肥料栽培でのカリ欠乏に注意 !~

Page 2: からの コマツナのかすり状白化障害1 2012 タキイ最前線 秋号 43 かすり状の斑が発生時 ⋮ 平成 23年4月﹁コマツナに障害が出 あり、て出荷できない﹂とA農家から連絡が

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3

44 2012 タキイ最前線 秋号

簡易分析による

診断と対策

 

A農家のコマツナ栽培土壌の簡易分

析では、カリ欠と診断するのが難しか

ったため、葉柄も簡易分析したところ、

異常株では正常株よりもカリが少ない

結果でした(写真2)。

 

対策として、5月に少量の硫酸カリ

肥料を本葉4枚程度のコマツナ、ミズ

ナの上から散布し、すぐに潅水しまし

た。処理後には障害が発生しなくなり

ました。本葉6枚程度で障害が少し出

ていたものでは、硫酸カリ施肥処理を

行って、収穫時には障害がほぼ目立た

なくなりました。

 

硫酸カリは、水溶性で速効性がある

反面、一度に多く施用するとぜいたく

吸収してしまうことを考え、今回の事

例では毎作元肥に10a当たり15㎏を施

用することにしました。硫酸根が多く、

硝酸態チッソが少ないわりにECが高

い圃場でしたが、この程度の施用では

問題ありませんでした(第1表)。

塩基バランスに

注意が必要

 

この圃場の土壌を定量分析すると、

交換性カリが目標量の半分程度しかな

く、交換性の石灰、苦土が目標量の2

~3倍でした(第2表)。これら3成

分の土壌含有量バランスが悪いと、拮

第1表 カリ欠によるコマツナの障害発生時と改善後の施肥

資材名施用量(㎏/10a) 1作当たり施用成分量

※1 (㎏/10a)

年間 1作当たり T-Nチッソ

P₂O₅リン酸

K₂Oカリ

MgOマグネシウム

今まで

牛ふんおがくず堆肥 3,000 600 8.9 8.4 13.2 3.0苦土石灰  150  30 3.3

菜種油かす 100 5.3 2.6 1.4 0.3合計 14.2 11.0 14.6 6.6

発生時

腐植苦土資材   35   7 0.2苦土石灰  150  30 3.3

菜種油かす 100 5.3 2.6 1.4 0.3合計 5.3 2.6 1.4 3.8

改善後菜種油かす 150 7.4 3.9 2.1 0.9硫酸カリ※2  15 7.5

合計 7.4 3.9 9.6 0.3※1:年に1回施用する資材(油かすと硫酸カリ以外)は年5作として年間の1/ 5を毎作の施用量目安として表記。   実際は分解速度や作物などの条件によって吸収量が1/ 5になるとは限らない。※2:障害が改善され数作栽培後に堆肥3t/10aを施用し、その後は硫酸カリを施用していない。

第2表 カリ欠による障害発生株と正常株直下の土壌分析、および植物体簡易分析の結果

分析項目 pH EC 硝酸態チッソ

可給態リン酸

交換性カリ

交換性苦土

交換性石灰 硫酸根 植物体

カリ単位 mS/㎝ mg/100g 簡易分析

施設土壌目標値※

コマツナ:5.5~6.5

栽培中0.4~0.8

葉物野菜で11~15必要 50~100

※20~30

※35~50

※250~300

※+ 1以下 比較(+ 1

:少ない)正常株下 7.3 1.1 3.3 147 10 183 639 + 5 + 5障害株下 7.5 1.0 0.5 112  8 185 666 + 5 + 1

参考A微発生 6.6 1.0 4.5 375 15 136 957 - -B良好 5.8 0.3 - 510 43  45 286 - -

加古川農業改良普及センター 秋田2012、参考圃場は2011※:平成15年環境負荷軽減に配慮した各種作物の施肥基準-:分析をしていない項目A微発生:ほかの生産者施設圃場。同時期にコマツナのカリ欠による障害が微発生した。数年間堆肥無施用。B良好:ほかの生産者施設圃場。土壌分析結果などを参考に、土壌成分のバランスを考え資材を施用。堆肥連用。

↑本葉8枚期の株より本葉12枚期の株の方が、生育スピードにカリの吸収量が追いつかず、障害程度が大きくなってカリ検出度も低い。

植物体簡易分析:2㎜幅に切断した葉柄 0 . 2 gに水10㎖を加え、試薬(テトラフェニルホウ酸ナトリウムの5%水溶液)を10滴加えた比較による診断。(補足:一般のミズナの正常株では、写真右のコマツナの正常株と同じ程度の白濁が生じる。) 土壌の場合は、重量比水:土=5:1の懸濁液のろ液2㎖に試薬を2滴加える。

写真 2

Page 3: からの コマツナのかすり状白化障害1 2012 タキイ最前線 秋号 43 かすり状の斑が発生時 ⋮ 平成 23年4月﹁コマツナに障害が出 あり、て出荷できない﹂とA農家から連絡が

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2012 タキイ最前線 秋号 45

抗作用で吸収量のバランスも悪くなり

ます。今回のカリ欠乏の要因の一つに、

石灰や苦土の過剰が、カリの欠乏を助

長したと考えられました。

 

そこで、pHが高いことからも、苦土

石灰の施用をやめて苦土と石灰が減る

のを待ち、堆肥は1年に10a当たり3

t施用することにしました。10~11月

に堆肥を施用した後3月現在までは、

硫酸カリの施用をしなくても生育良好

です。

 

野菜の連作圃場では、特に施設で土

壌肥料成分が過剰、または塩基バラン

スの悪い事例が大半でした。その反省

から葉物野菜の施設栽培では、リン酸

やカリの少ない肥料を施用したり、カ

リを多く含む牛ふん堆肥の施用を控え

たりする生産者も増えています。

 

しかし、肥料や堆肥、稲わらなどに

含まれるカリは土壌溶液に溶け出しや

すく、比較的早く植物に吸収されます。

そのため、当センターの管内では、堆

肥の連用が5年程度であったり、何年

か堆肥施用をやめた施設圃場で、有機

質肥料主体の栽培や減肥栽培を続けて

いると、交換性カリが目標値より少な

くなった事例がほかにもいくつかあり

ます(前頁第2表)。

土壌成分の

アンバランスを

改善しつつ、

カリ欠乏を予防

 

一般に野菜のカリ吸収量はチッソの

約1・2~2倍といわれ(第3表)、細

胞の膨圧を保ち茎葉を強健にしたり、

光合成や炭水化物の蓄積に関係するな

ど重要な成分です。

 

葉物野菜の場合、カリ欠の障害は出

にくいのですが、植物体が大きくなり

生育スピードが速くなった時、カリの

必要量に対して吸収量が不足し(前頁

写真2)障害が発生してしまうことが、

ホウレンソウでも見られます。トマト

では、果実肥大期にカリ吸収量が不足

し、果実付近の葉の先がカリ欠で枯れ

たりします。

 

そこで、肥料や堆肥の施用を控えた

カリが少ない圃場では、作物の生育が

速い時期に、カリを適量施用しておく

と、生理障害の予防や生育の安定につ

ながります。また、有機質肥料ではチ

ッソに比べてカリの少ないものが多い

ため注意が必要です(第4表)。牛ふ

んや植物残さの堆肥、草木灰など身近

な有機物をカリ資材として活用しては

いかがでしょう。硫酸カリは、天然物

質または化学処理を行っていない天然

由来のものであれば有機JASで使用

が認められています。

 

さらに、随時土壌分析をしてバラン

スよく施用することが、品質や収量を

安定させ、余分な資材費の削減にもな

ると考えます(最近は、送付した土壌

の分析を行ってくれる研究所の利用も、

費用のわりに詳しく手軽なためおすす

めしています)。今回行ったような簡

易分析(渡辺和彦氏考案)は、カリ施用

などを判断する目安に活用しています。

 

また、生理障害の写真や資料をまと

めておくと、作物に少し変な症状があ

る時に、百聞は一見にしかずで大変役

立ちます。筆者も、今回の障害の原因

を調べる時に、数冊の書籍とインター

ネットで生理障害の写真を調べ、タキ

イ種苗H

Pの掲載画像も参考に、カリ

欠の可能性を考えました。この場をお

借りし、お礼と紹介をさせていただき

ます。

第3表 野菜の養分吸収量� 収量1t/10a当たり

品目名吸収量 (kg/10a)

チッソ リン酸 カリ 石灰 苦土

コマツナ 4.4 1.3 6.5 2.7 0.38

ホウレンソウ 5.3 2.3 12.3 2.3 2.90

ネギ 2.3 0.5 2.6 1.6 0.21

トマト 3.2 1.0 4.9 4.2 0.90関東東山土肥技連協資料、1965

第4表 肥料や資材に含まれる成分例� 単位:%

肥料・資材 水分 チッソT-N

リン酸P₂O₅

カリK₂O

苦土MgO

牛ふんおがくず堆肥※1

(成分は乾物当たり) 65 1.66 1.59 1.70 0.75

菜種油かす※2

12.6 5.3 2.6 1.4 0.34

イワシかす※2

11.5 9.1 4.1 1.2 0.08

発酵鶏ふん※3

- 3.1 5.3 3.3 -

草木灰※4

- - 1~2 5~11

硫酸カリ※3

- - - 50 -

※ 1:農蚕園芸局農産課、1982 ※ 2:藤沼・田中、1973 ※ 3:JAより購入 ※ 4:一般的数値注)数値は平均的な値であるが、資材によっては成分の変動幅が大きい。  チッソは、全チッソの値であり、施用後1年以内に全量が吸収される形に分解されるとは限らない。

※病害虫・生理障害情報は「タキイシードネット・野菜前線」http://www.takii.co.jp/をご覧ください。(編集部) 参考文献  施肥診断技術者ハンドブック 全国農業協同組合連合会肥料農薬部