動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土...

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H=4.0m Ac1 Apt1-1 Ac1 Apt1-1 As1 Apt1-2 As2 Ac2 As2 Ac3 As4-1 0 5 9 15 23 37 深度(m) 高さ3.0m以下 高さ 3.0~6.0m 高さ3.0m以下 腐植土 腐植土 海成粘土 至 新潟市中心部 至 三条 秋葉区 至 西蒲区 460 中之口川 国道8号白根バイパス L=5.9km 6工区 L=3.1km (都) 鯵潟 古川 四ツ興野 交差点 能登交差点 日の出町 交差点 白根 交差点 7工区 L=2.8km 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 山田 一夫 1 ・高村 直幸 2 1 新潟国道事務所 工務第一課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2丁目1番65号) 2 新潟国道事務所 工務第一課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2丁目1番65号). 白根バイパスは、全線にわたり腐植土や海成粘土が厚く分布しているため、建設時にはす べり破壊が、供用時には長期にわたる沈下の発生が問題となる道路である。この対策として、 時間を有効的に活用したサ-チャ-ジ工法(一般盛土部)やプレロ-ド工法(横断構造物箇所)が 実施され、盛土施工にあたっては動態観測を実施しながら進めてきた。 これまでの管理は、対策工法の効果が予想どおりかを確認するだけの手段にとどめていた。 しかし、より合理的な施工方法を実施するために、観測結果の分析により地盤特性を明らかに し、盛土速度やサ-チャ-ジ量・放置期間等を再評価した。本論は、この結果を報告する。 キーワード 軟弱地盤,サ-チャ-ジ工法、動態観測、盛土施工方法の合理化 1. 白根バイパスの概要 白根バイパスは、白根市街地の交通渋滞などを解消し、 一般国道8号の機能向上を図るために計画された、新潟 市南区保坂から同市南区戸頭地内を結ぶ延長5.9kmの道 路である。(図-1参照)。 本バイパスは、県道白根安田線を境界に6工区と7工区 に区分され、7工区は平成12年度から、6工区は平成18年 から盛土工事が鋭意進められてきた。 2. 地盤状況 道路盛土の基礎地盤には、表.1、図-3に示すように6 層の粘性土が厚く分布している。土質分布の特徴は、深 度5m~15mの間に腐植土(図中の②、③層)が分布してい ること、また、深度23~37m間に海成粘土(⑤層)が厚く 分布していることである。 表.1 土質特性 図-3 土質の分布状況 層番号 土層名 記号 分布深度 (m) Wn(%) WL(%) ρt (g/cm3) Cu (kN/m2) Cc シルト質粘土 Ac1 0~5 50~70 55~85 1.6~1.7 10 0.5 腐植土~ シルト質粘土 Ac1 Apt1-1 5~9 100~ 330 150~ 350 1.1~1.4 25 3 細砂~腐植土 As1 Apt1-2 9~15 80~370 120~ 400 1.1~1.5 50 3 砂質シルト~ 細砂 Ac2 As2 15~23 35~65 40~70 1.6~1.7 60 0.6 シルト質粘土 (海成粘土) Ac3 23~37 50~70 70~100 1.55~ 1.65 70 0.8 粘土・シルト・砂 互層 As4-1 37~ 40~50 50~80 1.7~1.8 125 0.5 Wn:自然含水比 WL:液性限界 ρt:湿潤密度 Cu粘着力 Cc:圧縮指数 図.2 標準断面図 図-1 平面図

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Page 1: 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土 この厚さを「施工盛土厚さ」とした 計画 盛土高 沈下量 施工 盛土厚

H=4.0m

Ac1

Apt1-1

Ac1Apt1-1

As1

Apt1-2

As2

Ac2

As2

Ac3

As4-1

0

5

9

15

23

37

深度(m)

高さ3.0m以下 高さ3.0~6.0m 高さ3.0m以下

腐植土

腐植土

海成粘土

至 新潟市中心部

至 三条

至 秋葉区

至 西蒲区

460

中之口川

国道8号白根バイパス L=5.9km

6工区 L=3.1km

(都)

鯵潟

古川線

四ツ興野

交差点能登交差点

日の出町

交差点

白根

交差点

7工区 L=2.8km

動態観測結果による盛土施工方法の合理化

山田 一夫1・高村 直幸2

1新潟国道事務所 工務第一課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2丁目1番65号)

2新潟国道事務所 工務第一課 (〒950-0912 新潟県新潟市中央区南笹口2丁目1番65号).

白根バイパスは、全線にわたり腐植土や海成粘土が厚く分布しているため、建設時にはす

べり破壊が、供用時には長期にわたる沈下の発生が問題となる道路である。この対策として、

時間を有効的に活用したサ-チャ-ジ工法(一般盛土部)やプレロ-ド工法(横断構造物箇所)が

実施され、盛土施工にあたっては動態観測を実施しながら進めてきた。

これまでの管理は、対策工法の効果が予想どおりかを確認するだけの手段にとどめていた。

しかし、より合理的な施工方法を実施するために、観測結果の分析により地盤特性を明らかに

し、盛土速度やサ-チャ-ジ量・放置期間等を再評価した。本論は、この結果を報告する。

キーワード 軟弱地盤,サ-チャ-ジ工法、動態観測、盛土施工方法の合理化

1. 白根バイパスの概要

白根バイパスは、白根市街地の交通渋滞などを解消し、

一般国道8号の機能向上を図るために計画された、新潟

市南区保坂から同市南区戸頭地内を結ぶ延長5.9kmの道

路である。(図-1参照)。

本バイパスは、県道白根安田線を境界に6工区と7工区

に区分され、7工区は平成12年度から、6工区は平成18年

から盛土工事が鋭意進められてきた。

2. 地盤状況

道路盛土の基礎地盤には、表.1、図-3に示すように6

層の粘性土が厚く分布している。土質分布の特徴は、深

度5m~15mの間に腐植土(図中の②、③層)が分布してい

ること、また、深度23~37m間に海成粘土(⑤層)が厚く

分布していることである。

表.1 土質特性

図-3 土質の分布状況

層番号 土層名 記号分布深度

(m)Wn(%) WL(%)

ρt(g/cm3)

Cu(kN/m2)

Cc

① シルト質粘土 Ac1 0~5 50~70 55~85 1.6~1.7 10 0.5

②腐植土~

シルト質粘土Ac1

Apt1-15~9

100~330

150~350

1.1~1.4 25 3

③ 細砂~腐植土As1

Apt1-29~15 80~370

120~400

1.1~1.5 50 3

④砂質シルト~

細砂Ac2As2

15~23 35~65 40~70 1.6~1.7 60 0.6

⑤シルト質粘土(海成粘土)

Ac3 23~37 50~70 70~1001.55~1.65

70 0.8

⑥粘土・シルト・砂

互層As4-1 37~ 40~50 50~80 1.7~1.8 125 0.5

Wn:自然含水比 WL:液性限界 ρt:湿潤密度 Cu粘着力 Cc:圧縮指数

図.2 標準断面図

図-1 平面図

Page 2: 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土 この厚さを「施工盛土厚さ」とした 計画 盛土高 沈下量 施工 盛土厚

▽計画高(FH)

道路盛土

この厚さを「施工盛土厚さ」とした

計画

盛土高

沈下量

施工

盛土厚

A B B-A

供用時の沈下量供用後から3年経過時の沈下量

供用後から3年間の残留沈下量

(m) (m) (Fs) (cm/day) (cm) (cm) (cm) (日)No. 15 1.7 3.1 1.51 96.1 108.7 12.6 1460 (4 年間)No. 26 2.8 3.5 1.59 97.2 108.6 11.4 1460 (4 年間)No. 49 5.8 8.1 1.16 237.6 249.8 12.2 1460 (4 年間)No. 58 5.6 7.7 1.20 221.6 234.6 13.0 1460 (4 年間)No. 84 6.1 8.6 1.00 268.3 281.2 12.9 1460 (4 年間)No.108 2.5 3.3 1.59 89.7 100.8 11.1 1460 (4 年間)No.120 1.7 3.1 1.69 52.2 61.3 9.1 1095 (3 年間)No.141 1.7 3.1 1.30 119.7 132.0 12.3 1460 (4 年間)

10

すべり破壊の安全率

施工盛土厚さ計画盛土高さ測 点

供用後の残留沈下量が10cm以内

盛土施工速度

盛土速度

(cm/day)

普通の粘土質地盤 5

薄い粘土質地盤及び黒泥や有機質をほと

んど挟まない薄い泥炭質地盤10

地盤の種類

3厚い粘土質地盤及び黒泥又は有機質土が

厚く堆積した泥炭質地盤

3. 既盛土施工箇所での軟弱地盤対策工法の実施

3.1 工法の選定について

前述した地盤条件下に計画盛土を施工した場合、「建

設段階時(盛土施工中)の安定確保」と「供用後の過大な

残留沈下の発生」が問題となった。この問題に対し、以

下のように対策工法を実施することとした。

●建設段階時の安定確保は、緩速載荷工法で対処する。

●残留沈下対策は、3年間程度の盛土工事期間が確保で

きることから、サ-チャ-ジ工法(一般盛土部)やプレロ

-ド工法(横断構造物箇所)で対処する。

3.2 緩速載荷工法について

本工法における盛土施工速度は、すべり破壊の安全率

がFs=1.1以上(設計要領・道路編より)を確保できる速度

とした。なお、盛土速度の標準は、表.2のとおりである。

表.2 盛土速度の標準

(「設計要領[道路編]」/H18.4/北陸地方整備局 より)

3.3 サ-チャ-ジ(プレロ-ド)工法

サ-チャ-ジ(プレロ-ド)量を含む施工盛土厚さは、

以下のように考えた。

(1)高さ3m未満の低盛土区間

サ-チャ-ジ(プレロ-ド)量は、図.4を用いて設定し

た。

図.4 交通荷重に相当 する盛土荷重

(「道路土工-軟弱地盤対策工指針」/S61.11/(社)日本道路協会より)

< 例…計画盛土高が2.0mの場合 >

ア) 図-5より、盛土厚2.0mのとき、交通荷重の影響に

相当する盛土荷重を読み取ると、20kN/m2である。

(盛土荷重)+(交通荷重に相当する盛土荷重)が、この

道路に将来に渡ってかかる荷重である。

イ) この荷重に対して発生する沈下を、工事中に発生

させ、終息させておく必要がある。このための余盛り

量は、以下より求める。

(余盛り量A) = (交通荷重に相当する盛土荷重B) /(盛土の単位重量C)

今、B=20kN/m2、C=18kN/m3とすると、A=20/18=1.1mである。

ウ) したがって、サ-チャ-ジ(プレロ-ド)量を含む

施工厚さは、(計画盛土高さ)+(余量)=2.0m+1.1m=3.1m

なる。

(2)高さ3m以上の高盛土区間

基礎地盤に作用する荷重は、交通荷重が最大でも10

kN/m2と小さいことから、盛土自体の荷重が主体となる。

したがって、「サ-チャ-ジ(プレロ-ド)量を含む施工

厚さ=施工盛土厚さ」は、「沈下後」に「計画盛土高

さ」となる「施工盛土厚さ」とした。

図.5 施工盛土厚さの考え方

(3)盛土の放置期間の設定

放置期間は、供用後3年間の残留沈下量が許容沈下量

を満足する期間とした。

図.6 盛土の放置期間の考え方

3.4 解析結果

過年度に施工した6工区での解析結果を表.3に示した。

表.3 解析結果(6工区の解析結果)

供用後3年間での許容沈下量を満足する為には、一般

盛土部では、放置期間3年間で許容沈下量30cmを満足

する、また、プレロード部の場合は許容沈下量10cmを

放置期間4年間で満足出来る。

・盛土施工速度は盛土立ち上げ時にFs=1.1以上となる速度とする。

ボックス部で10cm以内となる期間とした。

・盛土の放置期間は、設計要領[道路編]より、供用後3年間の残留沈下量が一般盛土部で30cm以内、

計画盛土高

沈下量

(経過時間 )

盛土施工 放置期間

サー チャー ジ 盛土撤去

3y(1095 日)

盛土立上げ 供用後 3年間

供用後 3年間の

A B

交通荷重載荷

Page 3: 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土 この厚さを「施工盛土厚さ」とした 計画 盛土高 沈下量 施工 盛土厚

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

2010/2/1

2010/2/6

2010/2/11

2010/2/16

2010/2/21

2010/2/26

2010/3/3

2010/3/8

2010/3/13

2010/3/18

2010/3/23

2010/3/28

盛土厚(m)

CL 盛土厚

平均施工速度;20cm/day

2/10

3/9 3/25

盛土厚5.0m

4. 盛土の建設段階・放置段階の地盤挙動

4.1 地盤挙動を把握するための観測計器

建設段階、放置段階の地盤挙動を把握するために、

表.4、図.7の動態観測計器を設置した。

4.2 建設段階の地盤挙動

(1)観測計器を設置した箇所の盛土施工概要

盛土の施工速度は10cm/dayでスタ-トとし、安定管理

により安定を確認した上で速度を徐々に上昇させた。

図.8 盛土施工概要

(2)盛土施工時の地盤挙動

ア)沈下挙動

沈下観測結果を図.9 に示した。この結果から、次の

特性がみられる。

●沈下の発生は、①、②、③層が多い。特に、①層は、

全沈下量の1/2を示す。

●④⑤⑥層の沈下は、盛土高さ 3m 程度から発生した。

沈下量は、1~4cm 程度と少ないため、盛土施工上で

は、特に問題とならない。

●実測沈下量と設計値を比較すると、実測値は、設計

値の9割程である。

イ)地中変位

地中変位観測結果を図.10 に示した。この結果から、

次の特性がみられる。

●盛土施工による地盤変位は、深度 15mより浅い粘性

土で発生する。

●すべり破壊が問題となる層は、①層である。

ウ)周辺地盤の変状

表.4 観測計器の種類と目的

図.7 観測計器の設置位置

種 類 目 的

地表面沈下計 地盤の全沈下量を把握し、盛土の沈下管理に用いる。

層別沈下計 各土層の沈下量を把握する目的で設置する。

孔内地中傾斜計 地盤内の土の移動量を観測し、盛土の安定管理に用いる。

地表面変位杭 地表面の水平移動量を観測し、盛土の安定管理に用いる。

図.9 沈下挙動

注)①~⑥は、図.3の土層区分に対応する。

図.10 地中変位

注)①~⑥は、図.3

の土層区分に対応

する。

5m

9m

15m

23m

37m

層別沈下計スクリューアンカー位置

地表面沈下計

孔内地中傾斜計L=43m

地表面変位杭5m×8本=40m

①Ac1

②Ac1 Apt1-1

③As1 Apt1-2

④Ac2 As2

⑤Ac3

⑥As4-1

-10

0

10

20

30

40

50

60

70

80

2010/2/1 2010/2/11 2010/2/21 2010/3/3 2010/3/13 2010/3/23

沈下量

(cm)

0

2

4

6

2/1 2/11 2/21 3/3 3/13 3/23

盛土高

(m)

盛土厚5.1m

合計沈下量

設計沈下量

図.9 沈下挙動

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

深度

(m)

2010.1.7

2010.2.18

2010.3.2

2010.3.10

2010.3.16

(-)← 変位量(cm) →(+)盛土側水田側

①層

②層

③層

④層

⑤層

⑥層

盛土厚0m

盛土厚1.3m

盛土厚3.0m

盛土厚5.0m

盛土厚5.1m

孔内地中傾斜計 地表面沈下計 地表面変位杭

0

2

4

6

2/1 2/11 2/21 3/3 3/13 3/23

盛土高

(m)

盛土厚5.0m

Page 4: 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土 この厚さを「施工盛土厚さ」とした 計画 盛土高 沈下量 施工 盛土厚

-0.010

0.000

0.010

0.020

0.030

0.040

0.050

0.060

2009/7/12

2009/7/14

2009/7/16

2009/7/18

2009/7/20

2009/7/22

2009/7/24

2009/7/26

2009/7/28

2009/7/30

2009/8/1

2009/8/3

2009/8/5

2009/8/7

2009/8/9

累計

リバ

ウン

ド量

(m)

観測日

プレロ-ド盛土撤去完了日

盛土左側

盛土右側

リバウンド量 約6cm

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

220

240

260

280

300

1 10 100 1000 10000経過日数

盛土厚2.1m

盛土厚3.4m

盛土厚5.9m

沈下量

( cm)

β=0.29

β=0.36

β=0.61

盛土厚5.9m

盛土厚2.1m

盛土厚3.4m

周辺地盤の観測結果を図.11 に示した。この結果から、

次の特性がみられる。

●盛土施工時には、引込沈下が発生する。

●引込沈下量は、盛土のり尻で約19cm、官民界で約

2cmである。側道部の範囲で引込沈下は発生し、民地

での変状は殆ど発生しない。

図.11 周辺地盤の変状

(3)盛土施工時の安定性

盛土施工時の安定管理を、図.12に示す3つ方法で行っ

た。平均施工速度10cm/day~30cm/dayで盛土を施工した

が、安定は確保された。

4.3 盛土の放置段階の地盤挙動

(1)沈下挙動

図.13は、盛土施工後3年間の沈下挙動をLogt(時間)と

S(沈下量)で整理したものである。沈下挙動(長期沈下

量)は、盛土開始から200日程度から直線的に発生する。

また、長期沈下量の大きさは、盛土が厚いほど、大きい。

(2)プレロ-ド盛土撤去時に発生するリバウンド量

図.14は、盛土を3年間放置した後に、盛土を撤去(ボ

ックス施工のために)した時の地盤のリバウンド量であ

る。この量は、ボックス施工とともに沈下する量である。

図-14 プレロード盛土撤去時に発生するリバウンド量

5. 観測結果に基づいた施工方法の合理化

5.1 建設段階での盛土施工方法

(1)盛土施工速度

設計では、すべり破壊を発生させないため(Fs=1.1以

上)の盛土施工速度は10cm/dayが解析された。しかし、

動態観測により安定管理を行った結果、施工速度を

20cm/dayとしても、安定は確保された。

したがって本区間の盛土では、理論上では平均速度を

20cm/dayとする事が可能であると考えられる。ただし、

実際に実施するに当たっては、沈下による挙動を必ず把

握しながら施工する必要が有る為、動態観測を併用し、

安定管理を行う必要がある。

(2)サ-チャ-ジ量の修正について

現行の設計は、多くの単純化、仮定が含まれているこ

とから、設計沈下量と実測沈下量は、一致しない。傾向

的には、実測沈下量と設計沈下量を比較すると、実測沈図.12 盛土の安定管理

δ:一日当り側方移動量

S:沈下量

t:経過日数

-17.44

-6.23

-1.25

-15.70

-2.80

-1.70-1.10 -0.90 -0.80 -0.70 -0.90 -0.60 -0.40 -0.50

-20

-15

-10

-5

0

5

10

-10

-5 0 5

10

15

20

25

30

35

40

45

距離(m)

沈下

量(㎝

)

盛土

設計鉛直変位

実測鉛直変位R

実測鉛直変位L

隆起

量(cm)

官民境界

盛 土

-10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

-7.0 -2.0 3.0 8.0 13.0 18.0

側方移動量 δ (cm)

沈下量

S(cm)

不安定領域 α=δ/S>0.7

盛土完了

盛土施工

盛土放置

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

-0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6水平変位/沈下量 δ/S

沈下量

S(cm) 要注意領域

注意領域

q/qf1.0

0.9

0.8

0.7

0.6

変位杭

傾斜計

盛土完了

S - δ/S 法

盛土施工

盛土放置

-10.0

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

H22.2.1

H22.2.6

H22.2.11

H22.2.16

H22.2.21

H22.2.26

H22.3.3

H22.3.8

H22.3.13

H22.3.18

H22.3.23

H22.3.28

日数

1日当り側方移動量

δ(cm)

不安定領域

盛土完了

⊿δ/⊿t - t 法

盛土施工 盛土放置

図.13 当該地盤の長期沈下

Page 5: 動態観測結果による盛土施工方法の合理化 · 計画高(fh) 道路盛土 この厚さを「施工盛土厚さ」とした 計画 盛土高 沈下量 施工 盛土厚

分布深度 実測沈下量

(m) (cm)

① Ac1 0 ~ 5 28.0 放置後も沈下は継続している。土構造物構築で、沈下が問題となる層である。

② Apt1-1 5 ~ 9 12.1 放置後も沈下は継続している。土構造物構築で、沈下が問題となる層である。

③ Apt1-2~Ac1 9 ~ 15 14.7 放置後も沈下は継続している。土構造物構築で、沈下が問題となる層である。

④ Ac2 15 ~ 23 3.2沈下の量は非常に少ないが、盛土の立上げたと同時に徐々に発生している。

沈下を許容できる構造物の支持層となる。

⑤ Ac3 23 ~ 37 1.6沈下の量は非常に少ないが、盛土の立上げたと同時に徐々に発生している。

沈下を許容できる構造物の支持層となる。

⑥ Ac4 37 ~ 2.7盛土高さ5mを越えてから発生した。即時的な沈下である。

沈下を許容できる構造物の支持層となる。深度50m以深の粘性土は、概ねN値15以上を示すことから、重要構造物の支持層と考えることができる。

層番号 土質名 沈下の推移 評 価

①一次施工‥計画

盛土高さまで施工

②1年間放置する。

③二次施工‥放置時の実測

沈下量を基に双曲線法によ

り将来沈下を推測し、サ-

チャ-ジ量を設定する。この

量を施工する。

期間(日)

(m

盛土高さ

設 計 90 設 計 950

実 際 190 実 際 980

設 計 80 設 計 700

実 際 80 実 際 900

設 計 400 設 計 1900

実 際 600 実 際 2070

設 計 400 設 計 1100

実 際 420 実 際 1300

ボックス部

ボックス施工が可能な日(盛土開始からの日数)

盛土厚(m)

測点No.

一般盛土部

舗装が可能な日(盛土開始からの日数)

230

162+10

184

235 3.4

5.9

2.5

3.0

下量が少ない。

今後は、次のような盛土施工を計画し、実際に発生し

た沈下量に適合したサ-チャ-ジ量を求めることを考え

ている。

ア)盛土を計画高さまで施工し、一旦放置する。

イ)放置期間を1年間として、この間の実測沈下量から双

曲線法により

将来沈下を推測

する。

ウ)将来沈下の

予測から、設計

で解析したサ-

チャ-ジ量を修

正する。

(3)各土層の沈下量に基づく基礎形式の提言

当道路の構造物は、プレロ-ド工法を基本とするが、

種々の制約でこの工法が採用できない場合は、地盤改良

や杭基礎を考える必要がある。地盤挙動から、基礎形式

は以下が考えられる。

ア)ボックスカルバ-トの基礎形式を地盤改良形式とす

る場合、①層~③層を改良する必要がある。

イ) ボックスカルバ-トの基礎形式を杭形式とする場合、

杭の根入れは、④層以深とする。(国道8号を横断する

構造物の杭は15m程度である。この深度は、④層以深

である)。

ウ)用排水路は、許容沈下量が厳しい構造物である。基

礎形式は、沈下を許さない深度まで杭を施工する方法

と、単杭(或いは地盤改良)と断面余裕(沈下を考慮し

た)が確保された構造形状との組み合わせによる施工

方法が考えられる。

(4)工事中の周辺地盤対策の考え方

盛土施工中の周辺地盤の変状は、引込沈下が発生した。

盛土立ち上がり後、1ケ月程度での観測結果では、民地

部で問題となるような過大な変状は発生しなかった。た

だし、引込み沈下は、時間の経過とともに推移している

ことから、今後も引き続き観測を行い、周辺の挙動を把

握し、その結果を維持管理の方法に役立てる計画である。

5.2 盛土放置時

(1)放置期間の見直し

3年間の沈下観測結果から、一般盛土部とプレロ-ド

盛土の撤去時期を解析し表.6に整理した。設計値と実測

値を比較すると、実測値がやや大きな残留沈下が発生し

ており(図-15参照)、放置期間を見直す必要がある。

図-15 設計値と実測値の比較

(2)プレロ-ド盛土撤去後のボックスの施工

プレロ-ド盛土撤去後は、弾性的なリバウンド(隆起)

が必ず発生する。この量は、盛土荷重や放置期間、軟弱

層厚、土質特性等により異なるため、盛土撤去時には必

ず沈下観測を行う必要がある。

撤去した地盤にボックス施工および埋め戻し盛土を施

工すると、リバウンド相当の沈下が発生する。この後の

沈下は、二次圧密に移行する。このような沈下挙動に対

し、次のようにボックスを施工した。

●ボックスの上げ越し量を「リバウンド量相当」として

施工した。

●二次圧密に対しては、ボックスの内空断面を20cm程度

大きく設計した。

6.おわりに

現在、動態観測結果に基づき盛土施工が進められて

いる。今後とも、P(計画)D(実行)C(評価)A(反映)のサ

イクルにより、施工の効率化を図り、社会的なニ-ズ

でもあるコスト縮減の確保に配慮しながら工事を進め

ていく考えである。 以上

表.6 長期沈下の整理図.15 サ-チャ-ジ量を

求めるための盛土工程

表.5 各土層の沈下の発生状況

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