「病棟薬剤業務実施ワークシート」を用いた 病棟業...
TRANSCRIPT
病棟薬剤業務実施ワークシートの作成の経緯をお教えください。
伊藤 当薬剤部が病棟業務を開始した当初は、薬剤師の業務に対して他職種から十分な理解が得られているとはいえませんでした。また、薬剤師による病棟業務
の意義を認めてもらうには、どのようなアウトカムを示せばよいか明確ではありませんでした。 薬剤師の最も重要な役割は「医薬品の適正使用による有効性と安全性の確保」です。す。す そこで、“有害事象”に焦点を当て、耳鼻科病棟での病棟専任薬剤師による有害事象モニタリングを開始しました。また、第三者にアウトカムを示すためには有害事象に関する記録を残すことが重要と考え、データ集計とその評価にも着手しました。
記録からデータを分析すると、適切な処置による有害事象の改善が、患者さんのQOL改善や入院期間短縮に役立つことが示唆されました。そこで、より具体的な内容を記録できるよう作成したものが「病棟薬剤業務実施ワークシート」(以下、ワークシート)です。
ワークシートの記載事項などについて詳しくお聞かせください。小林 ワークシートの記載事項は、患者さんの①基本情報、②有害事象に関する情報、③初回面談情報の3つのカテゴリーに分けられます(図表1)。②の「有害事象に関する情報」では、
薬剤の関与に限らず発現したすべての有害事象を、CTCAE*によるGrade評価などで記録するようにしたことが大きな特徴です。また有害事象に対する処方提案の内容、その後の経過を記載し、介入の効果を評価できるようにしました。伊藤 重要なのは、提案した薬剤名をすべて記載し、有害事象の改善に効果が見られたかどうかを、Grade評価などによって客観的に示すことです。これにより、有効だった場合だけでなく、効果が見られなかった薬剤も把握できます。このようなデータを蓄積することで適切な薬剤の選択が行えるようになり、処方提案の精度向上につながっています。
図表1 病棟薬剤業務実施ワークシート(耳鼻科病棟用)
提供:岐阜大学医学部附属病院薬剤部
①患者基本情報
②有害事象
③初回面談情報介入前 介入後介入前
入院中に発現したすべての有害事象を記録。処方介入前後における有害事象についてはCTCAE(v4.0)によるGrade評価などを行い、記録。
27.2日40.8日 13.6日
病棟薬剤業務実施ワークシート作成の経緯と目的
薬剤師の介入による有害事象の改善と入院期間の短縮
患者さんの「生存延長」を目指して
Grade評価を記録する病棟薬剤業務実施ワークシート
薬剤部長伊藤 善規先生
2012年度の診療報酬改定では「病棟薬剤業務実施加算」が新設され、薬剤師による病棟業務がより一層重要視されるようになっています。岐阜大学医学部附属病院薬剤部では、薬剤師の貢献度を示すとともに業務の質を更に向上させるべく、独自の「病棟薬剤業務実施ワークシート」を用いて目に見える形でアウトカムを提示しています。その取組みについて薬剤部長の伊藤善規先生、副薬剤部長の鈴木昭夫先生、薬剤主任の小林亮先生に伺いました。
「病棟薬剤業務実施ワークシート」を用いた 病棟業務の評価~岐阜大学医学部附属病院薬剤部における取組みについて~
鈴木 アウトカムを出すには指標が必要ですが、“有害事象”に着目するまでには試行錯誤を重ねました。有効な指標を見つけるためには、日常業務において常に「患者さんのメリット」を意識して行動することが必要だと思います。
ワークシートを使って有害事象を分析した結果はいかがでしたか。鈴木 2012年10月から2013年9月にかけて、耳鼻科病棟に入院する患者さん(18歳以上、412人)のワークシートデータを解析しました。すると、有害事象のGradeに比例して入院期間が延長していることが明確になりました(図表2)。 また、介入が必要となるGrade2以上の有害事象の発現率は約37%でした。当該病棟はがん患者さんが約4割を占め、抗がん薬や放射線治療での有害事象が多いことがその要因と思われます。
介入によって、どのような変化が見られましたか。鈴木 Grade2以上の患者さんに処方提案などの介入を行い、その経過を
調べたところ、Grade0‐1まで症状の改善した患者さんは、改善しなかった患者さんに比べ、入院期間が13 .6日短縮していました(図表3)。ただし、当初からGrade0‐1だった患者さんの入院期間が約12日であったのに対し、Grade2
から0‐1に改善した患者さんの入院期間は約27日であり、15日程度長いことも判明しました。重篤な有害事象の軽減も大切ですが、それ以上に有害事象の事前予測と対応が重要であることがわかりました。伊藤 薬剤師による病棟業務の目的は“処方提案すること”ではなく“患者さんの状態を改善すること”です。QOL改善の目安となる「入院期間の短縮」が具体的な数値で示せたのは意義深いと感じています。す。す
今後の構想や抱負をお聞かせください。小林 「病棟業務のひとつとして情報を記録してアウトカムを提示、評価して改善に結びつける」ということが当たり前に行われるようになるとよいと考えています。
診療科によって指標(アウトカム)は異なりますが、同様の取組みは他の外科系病棟でも開始しており、今後は更に拡大させたいと思います。鈴木 耳鼻科病棟では、薬剤師の視点で提案を続けてきたことで医師からの信頼が厚くなり、治療内容や治療方針まで相談を受けるようになりました。有害事象によって治療を断念するケースも少なくありません。的確に対応し患者さんの症状を改善させることで治療継続を図り、治療効果向上に寄与したいと考えています。伊藤 今回の取組みで、有害事象の改善が入院期間の短縮につながることを示すことができました。当院の耳鼻科入院患者さんの半数近くはがん患者さんですので、将来的には「患者さんの生存延長」を最終的な指標とすることも視野に入れています。 医師は、より有効性の高い治療法を選び患者さんの延命を図ります。薬剤師としては、その治療法の効果が最大限に発揮されるよう薬剤の面から有害事象の改善を図り、延命に貢献していきたいと考えています。 今後、多くの病院から様々なアウトカムが示され、全国で共有されれば、病棟業務の質向上にもつながるはずです。それによって、薬剤師の存在意義をより明確に示すことができればと期待しています。
①患者基本情報
②有害事象
③初回面談情報介入前 介入後
提供:岐阜大学医学部附属病院薬剤部
図表2 有害事象の重症度と入院期間の関係※入院期間が5日未満及び100日以上の患者を除く
入院期間平均値(95%CI)Grade0 : 11.2日(5-26)Grade1 : 17.8日(6-48)Grade2 : 28.9日(8-69)Grades3&4 : 46.3日(9-95)
Grade 0 (N= 182)Grade 1 (N= 31)Grade 2 (N= 112)Grades 3&4(N= 23)
入院継続率
入院日数(日)
100
80
60
40
20
00 20 40 60 80 100
(%)
図表3 処方介入後の改善の有無による入院期間の比較
提供:岐阜大学医学部附属病院薬剤部
〔Grade2以上の有害事象が発現した患者での、処方介入後に改善された群と改善されなかった群における入院期間の比較〕
入院日数(日)
100
80
60
40
20
0
入院継続率
0 20 40 60 80 100
〈Mantel-Cox log-rank test〉
(%)
Grade 0-1まで改善あり(N=88)Grade 0-1まで改善なし(N=47)
入院期間平均値(95%CI)改善あり:27.2日(8-84)改善なし:40.8日(11-93)ハザード比:1.60(95%CI:1.12-2.28)P<0.001
13.6日
病棟薬剤業務実施ワークシート作成の経緯と目的
薬剤師の介入による有害事象の改善と入院期間の短縮
患者さんの「生存延長」を目指して
Grade評価を記録する病棟薬剤業務実施ワークシート
*CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events):有害事象共通用語規準
2012年度の診療報酬改定では「病棟薬剤業務実施加算」が新設され、薬剤師による病棟業務がより一層重要視されるようになっています。岐阜大学医学部附属病院薬剤部では、薬剤師の貢献度を示すとともに業務の質を更に向上させるべく、独自の「病棟薬剤業務実施ワークシート」を用いて目に見える形でアウトカムを提示しています。その取組みについて薬剤部長の伊藤善規先生、副薬剤部長の鈴木昭夫先生、薬剤主任の小林亮先生に伺いました。
「病棟薬剤業務実施ワークシート」を用いた 病棟業務の評価~岐阜大学医学部附属病院薬剤部における取組みについて~
副薬剤部長鈴木 昭夫先生
薬剤主任小林 亮先生
岐阜大学医学部附属病院岐阜県岐阜市柳戸1番1
開 設:1967年病院長:小倉真治病床数:614床診療科:22科薬剤部:薬剤師
30名〈2015年1月現在〉〈2015年1月現在〉