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2017 年 09 月号
<医薬品>
1)Nature Chemical Biology | Article. Published online 03, July 2017
◆ヒト型結核菌トリプトファン合成酵素の小分子アロステリック阻害剤 BRD4592 の同定
結核菌が多剤耐性を有するようになり、新たな標的を有する新しい抗生物質の開発が大
いに必要とされている。結核菌は、多くの本質的機能を有するが、そのような機能の
内、主として超分子合成に関与するもののほんの一部しか現行薬によって阻害されてい
ない。最近、代謝酵素を標的とすることが注目されているのが、効果的な阻害剤の特定
は困難であった。今回、米国、ブロード研究所は、以前に標的化されていなかった高度
にアロステリックに制御された酵素であるトリプトファン合成酵素(TrpAB)のアロス
テリック阻害を介して結核菌(Mtb)を死滅させる合成アゼチジン誘導体 BRD4592 を見
出したことを報告した。BRD4592 は、TrpABα-β-サブユニット界面で結合し、該酵素の
全反応の複数工程に影響を与え、代謝環境の変化によって容易に克服されない阻害を齎
すものである。更に、同研究チームは、TrpAB は、生体内で結核菌、及び、非結核性抗
酸菌の生存に必要であり、この要件は、適応免疫応答とは独立している可能性があるこ
とを示した。この研究は、試験管内条件下での見かけの分与可能性にも関わらず、生体
内で必須であり、天然に高度に動的であるタンパク質を標的とするアロステリック阻害
の有効性を強調し、次世代アロステリック阻害剤の発見の枠組みを示唆するものであ
る。(既存薬に耐性ができてしまった多剤耐性結
核の治療成績は向上しておらず、感染が長期化
し、死に至ることもあるため、新たな機序を有
する治療薬の登場が望まれていた。日本では多
剤耐性肺結核に対する新たな新薬としてデラマ
ニド(Delamanid)が、40 年ぶりに 2014 年に承
認されたが、副作用として QT 延長症候群があ
り、定期的な心電図検査等を行う必要があると
云われており、該剤の副作用も懸念するところ
ではある…)
2)Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. Vol. 27, Issue 15, p. 3294-3300:1 August
2017 ◆C 型肝炎ウイルス NS5B ポリメラーゼのアロステリック阻害剤 BMS-961955 の発見
Bristol-Myers Squibb 社の研究者らは、以前に開発したシクロプロピル縮合環化合物イン
ドロベンザゼピン系の C 型肝炎ウイルス NS5B ポリメラーゼ(HCV の持つウイルス性タ
ンパク質)阻害剤の合成法、構造活性相関(SAR)データ、及び、代謝安定性と薬物動
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態(PK)特性のさらなる最適化によって BMS-961955 を見出したことを報告した。該剤
は、HCV の治療用に市販されている 3 種配合 C 型慢性肝炎治療薬 XimencyTM(ジメンシ
ー:ダクラタスビル塩酸塩/アスナプレビル/ベクラブビル塩酸塩配合剤)の一部とし
て、更に、日本で最近承認されたベクラブビル(beclabuvir)に対する実行可能な緊急事
態バックアップ剤として開発されたものである。(日本は、HCV を主な原因とする肝臓
癌の患者数が多い国の一つと言われており、日本では 150 万~200 万人と推定されてい
る。(世界では 1 億 7000 万人)C 型慢性肝炎の治療としては、インターフェロン
(IFN)製剤、リバビリンの併用療法が従来用いられていたが、近年、持続的ウイルス
陰性化率を向上させた剤が複数開発・承認されている。中でもベクラブビルは、既存の
配合製剤(ハーボニー)の有効成分ソホスブビルと同じ非構造蛋白 5B(NS5B)ポリメ
ラーゼ阻害薬であり、ソホスブビルが核酸型であるのに対して、ベクラブビルは非核酸
型となっている。BMS-961955 はベクラブビルのバックアップ剤としての位置付であ
り、副作用の軽減が期待できるかも…)
3)Medical Xpress. July 24, 2017 / Journal of Clinical Investigation. Recently published. July
24, 2017 ◆神経膠芽腫の増殖、及び、放射線耐性を阻害する抗癌化学療法剤 CMP3a の開発
神経膠芽腫は、手術、化学療法、及び、放射線による治療後でさえも、残存生存率が低
い原発性脳腫瘍である。腫瘍細胞(グリオーマ幹細胞)の小亜集団は、神経膠芽腫の腫
瘍形成、治療抵抗性、及び、それに続く腫瘍再発の原因となっている。以前に、米国、
アラバマ大学バーミンガム校と、中国、西安交通大学の共同研究チームは、グリオーマ
幹細胞を維持する分子メカニズムを同定していたが、今回、同研究チームは、OTS167
と呼ばれる進行性癌治療薬が臨床試験で否定的であった後に、即、OTS167 に対する膠
芽腫耐性の根底にある分子メカニズムを調べ、膠芽腫の OTS167 治療後に発生する異な
る分子標的 NEK2(癌特異的遺伝子)を見出し、NEK2 を標的とするコンピュータ・ベ
ースの創薬設計を使用し、 CMP3a と呼ばれる NEK2 阻害剤を見出したことを報告し
た。CMP3a は、培養、及び、マウス脳の両方において、膠芽腫の前臨床モデルにおける
増殖を阻害すること、更に、放射線と併用する時、CMP3a は、培養中の神経膠芽腫細胞
の増殖を弱める相乗効果を有することを報告した。尚、現在、グリア芽腫、及び、他の
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NEK2 / EZH2(ポリコームタンパク質と呼ばれる遺伝子発現調節タンパク質複合体の一
員としてエピジェネティクな遺伝子発現調節に関与し、神経膠腫幹細胞の自己更新と存
続を調整することが知られている)依存性癌の早期臨床試験を設計するために CMP3a
を用いた薬物動態学的分析、及び、薬力学的分析の過程にあると報告している。
(NEK2/EZH2 依存性癌は、NEK2
が EZH2 に結合し、この結合が神
経膠芽腫幹細胞の劣化から EZH2
を保護・安定化させることで、
NEK2 は腫瘍の伝搬を促進させる
ので、癌細胞の NEK2-EZH2 相互
作用を破壊することは新しい治療
手法として有用と考えられるので
は…)
4)Science Daily. July 17, 2017 / Georgetown University Medical Center Press Releases. July
16, 2017 ◆毒性タンパク質を除去し、神経変性モデルで認知を改善させる薬剤 LCB-03-110 の発見
ジョージタウン大学医療センター(GUMC)の研究者らは、パーキンソン病、及び、ア
ルツハイマー病の患者の死後脳においてジスコイジンドメイン受容体(DDR)が異常に
過剰発現していることを明らかにすると共に、これら神経変性疾患に共通する、α-シヌ
クレイン、タウ、アミロイドといった毒性タンパク質蓄積を除去して、脳の炎症を軽減
し、認知能力を改善するために、動物モデルにおいて、DDR 発現を阻害することができ
る化合物 LCB-03-110 を発見したことを報告した。DDR は、オートファジーとして知ら
れている細胞の自己クリーニングプロセスのスイッチをオン/オフ駆動させるチロシンキ
ナーゼとして知られているタンパク質酵素であり、DDR が過剰に発現されると、オート
ファジーを停止して、脳細胞中に毒性タンパク質が蓄積し、神経変性疾患によく見られ
る血液脳関門が破壊される可能性がある。そこで、GUMC の研究者らは、脳に入り、
DDR を阻害する実験的なチロシンキナーゼ阻害剤を研究し、パーキンソン病、及び、ア
ルツハイマー病の幾つかのモデルにおいて、低用量で、DDR 発現の低下、又は、DDR
を阻害する剤として LCB-03-110 を見出したものである。これらの DDR 受容体の阻害
は、神経細胞から毒性タンパク質を除去するためのオートファジーを作動させ、そし
て、脳を循環する炎症細胞から絶縁するのを助けることで、動物モデルで認知改善に繋
がったものであると報告している。(多くの癌細胞が生存のためにオートファジーに大
きく依存しており、このような細胞のオートファジーを阻害することが実現可能性のあ
る治療標的となっている。オートファジー阻害剤による治療抵抗性獲得細胞の治療は、
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多くの予備的試験において特に有望であ
ることが明らかにされており、オートフ
ァジーを標的とする剤としては、白血病
治療薬として使用されている Novartis 社
の nilotinib(Tasigna®)があり、既に、
パーキンソン病、及び、アルツハイマー
病患者で奏効があると報告されている
…)
5)Organic & Biomolecular Chemistry. Advanced Article. First published on July 2017 ◆Pd 触媒部位選択的クロスカップリング反応を用いた N-アセチル-2,4,6-トリクロロアニリンからの 2,5,7-三置換インドール類の三段階合成法の開発 静岡県立大学薬学部・薬学研究院 眞鍋 敬 教授らの研究チームは、N-アセチル-2,4,6-ト
リクロロアニリンからの 2,5,7-三置換インドール類の簡便な 3 段階合成法を開発し報告
した。一段目工程では、Pd /ジヒドロキシエステルフェニルホスフィン配位子(Cy-
DHTP)触媒系によるオルト位選択的薗頭カップリング反応を特徴として、2-置換 5,7-ジ
クロロインドール類を得た後、二段目工程で、C7 位塩素を Pd / DHTP 触媒部位選択的熊
田・玉尾・コリュー・カップリング反応によってアリール基、又は、アルケニル基を導入
し、更に、三段目工程で、C5 位塩素を鈴木-宮浦カップリング反応、又は、Buchwald-
Hartwig アミノ化反応を用いて、更なる置換反応によって 2,5,7-三置換インドール類を得
るものである。(一段目工程は、所謂、ラロックインドール合成(Larock Indole
Synthesis)の改良法と云える。尚、原料に 2,4,-ジクロロアニリン(又は、2,4-ジブロモ
アニリン)、及び、2,6-ジクロロアニリン(又は、2,6-ジブロモアニリン)を用いれば、
2,5-二置換インドール類、及び、2,6-二置換インドール類の合成が可能となろう…)
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6)Science Portal. プレスリリース 2017 年 07 月 27 日 / Nature Communications 8, Article number:15600. Published online:05 June 2017
◆β-ケトカルボン酸のエナンチオ選択的脱炭酸的ハロゲン化反応によるハロゲン化合物類の合成法開発 豊橋技術科学大学環境・生命工学系の柴富 一孝 准教授らの研究チームは、カルボン酸
類から、従来合成が困難であった不斉塩素化合物類(不斉クロロケトン類)を合成する
ことに世界で初めて成功したことを報告した。不斉ハロケトン類は医薬品の有用な合成
中間体として知られているが、該化合物類を触媒的に不斉合成する手法はほとんど報告
されていなかった。今回、同研究チームは、約 150 年前に発見された古い反応であるカ
ルボン酸をハロゲン原子に変換する脱炭酸的ハロゲン化反応に着目し、同反応の不斉化
に成功したものである。具体的には、独自に開発した有機分子触媒(不斉アミン触媒)
と塩素源として NCS(N-chlorosuccinimide)を用いることで、β−ケトカルボン酸の脱炭
酸的塩素化反応が極めて高い不斉収率で進行することを見出したものである。該反応で
は、対応する α−クロロケトンが最高 98% ee の光学純度で得られとのことである。(α-ク
ロロケトン類の塩素原子は様々な置換基に変換可能(Cl→NH2、Cl→SR)であり、医薬
品合成の効率化や新薬開発への応用が期待できるであろう…)
7)Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. Vol. 27, Issue 16, p. 3716-3722. 15 August 2017 ◆強力な経口活性ヘプシジン産生阻害剤 DS79182026 の発見 ヘプシジン(hepcidin:肝臓で産生され、鉄の吸収を抑制する働きを持つ事が知られてお
り、癌患者では、腫瘍細胞、あるいは周囲の免疫細胞が出す炎症性サイトカインによっ
て、肝臓でのヘプシジン産生が増加する。ヘプシジンの過剰産生はマクロファージを介
した鉄のリサイクルを抑制し、造血系で利用できる鉄を減少させて貧血を引き起こすこ
とが知られている)は、全身の鉄ホメオスタシスの中心的な調節ホルモンとして発見さ
れたものである。ヘプシジンの阻害は、慢性疾患(ACD)の貧血を治療するために適し
た方法である。今回、第一三共株式会社の研究者らは、経口活性ヘプシジン産生阻害剤
として一連のベンゾイソオキサゾール化合物類を合成し、その構造活性相関(SAR)、及
び、マルチキナーゼ阻害剤の最適化研究から、マウス IL-6 誘発性急性炎症モデルにおい
て血清ヘプシジン低下効果を示す、強力で、且つ、生体利用可能なヘプシジン産生阻害
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剤 DS79182026 を見出したことを報告した。(透析患者で
は慢性炎症や感染などの様々な要因で血中ヘプシジン値
が高値となり、EPO 不応性(エリスロポエチン:赤血球
の産生を促進する造血因子の一つで、EPO 産生増強を図
る EPO 製剤が透析患者における貧血状態改善に一般的に
使用される)慢性疾患(ACD)貧血が生じるので、透析
患者で散見される慢性炎症に伴う貧血を有効に改善でき
る可能性が期待される…)
8)PLOS ONE. Published:August 1, 2017
◆多発性骨髄腫治療薬フルオロサリドマイドの開発 ここ数年、サリドマイド(thalidomide:1950 年代に鎮静・催眠薬として開発)は再発性
難治性多発性骨髄腫の治療に最も重要な抗腫瘍薬の 1 つになっているが、その望ましく
ない催奇形性の副作用に加えて、その構造的不安定性(安全な左手型サリドマイドの使
用が不可欠だが、安全な左手型サリドマイドを服用しても、体内で右手型との混合物に
変化してしまうラセミ化が生じてしまう為)は、この薬物の更なる治療的改善を厳しく
制限していた。1999 年に、名古屋工業大学大学院工学研究科の柴田哲男 教授らの研究
グループは、サリドマイドの生物学的等価体であるフルオロサリドマイドを開発した
が、サリドマイドとは対照的に、組成的に安定であり、両鏡像異性体形態で容易に入手
可能であった。しかしながら、フルオロサリドマイドの生物学的活性は、フルオロサリ
ドマイドが催奇形性ではないことを除いて、実質的に未だ研究されていなかった。今
回、同研究グループは、アネキシン V 分析(アポトーシスによる細胞膜内のホスファチ
ジルセリンの分布の変化を検出する分析法)を用いて、多発性骨髄腫(MM)の H929
細胞に対するラセミ体、及び、純粋な(R)体、(S)体のフルオロサリドマイドに関わ
る生理活性の詳細をはじめて明らかにしたことを報告した。そして、全てのフルオロサ
リドマイドが、生体内活性化を伴わずに、H929 MM 細胞の増殖を阻害すること明らか
にすると共に、更に、フルオロサリドマイドの鏡像異性体形態が異なる抗腫瘍活性を示
し、(S)体は、顕著により強力であることを報告した。又、フルオロサリドマイドの血
管新生(催奇形性と深く関与)を、サリドマイドと比較して調べた結果、フルオロサリ
ドマイドは催奇形を持たない安全な多発性骨髄腫の治療薬になりうる可能性を示すもの
であること報告している。(今回の報告は、両鏡像異性体とも催奇形性を示さない可能
性が大いに高まったことから、フルオロサリドマイドをベースとした催奇形性の無い多
発性骨髄腫治療薬の開発研究が加速されるとことを期待したい…)
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9)Bioorganic & Medicinal Chemistry. Vol. 25, Issue 16, p. 4259-4264. 15 August 2017
◆白血病幹細胞を標的とした低分子化合物 RK-21060 と RK-21058 の同定
急性骨髄性白血病は、遺伝子異常が原因で起こる再発率が高い血液癌であり、再発を防
ぎ、根治に導く治療法の開発が強く求められている。理化学研究所の研究チームは、以
前に、多数の患者の白血病幹細胞に共通して発現するリン酸化酵素 HCK(造血細胞キナ
ーゼ:白血病幹細胞の生存、増殖に関与する酵素)に着目し、HCK の酵素活性を強力に
阻害する RK-20449 と呼ばれるピロロピリミジン骨格を有する化合物の同定を報告した
が、今回、7-置換ピロロピリミジン化合物の幾つかのアミノ酸誘導体類を合成し、その
構造活性相関から、RK-20449 と同じ予測結合配座を有しているが、IC50 値が、親化合物
の IC50 値よりも 100~1000 倍大きい RK-21060 と RK-21058 を見出したことを報告し
た。HCK の Asp348 残基とイオン結合を形成するアミン窒素の塩基性が、HCK に対する
阻害活性に著しく影響すると仮定し、アミン窒素の pKa 値を非経験的分子軌道法によっ
て計算し、HCK と 7-置換ピロロピリミジン化合物の幾つかのアミノ酸誘導体類錯体は、
X 線結晶学によって解析された。予測 pKa 値と IC50 値間に顕著な相関が観察され、阻害
能力の弱い誘導体の結晶構造は、イオン結合の周りで様々なタイプの欠陥を示したこと
を報告した。(急性骨髄性白血病を発症すると、骨髄では赤血球など正常な血液の産生
ができず、貧血状態になると共に、同時に脾臓が大きくなる脾腫を起こすことが知られ
ている。従来の抗癌剤投与では貧血
や脾腫は改善されないが、RK-20449
は白血細胞増殖を抑えるとともに貧
血・脾腫も改善することが報告され
ている。今回、開発された RK-
21060 と RK-21058 は、RK-20449 よ
り IC50 値が 100~1000 倍も大きいこ
とからより安全性とその効能が期待
できよう…)
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10)Science Daily. July 31, 2017 / Medical Xpress. July 31, 2017 / British Journal of Pharmacology. Vol. 174, Issue 18, p. 3058-3071. September 2017:First published:11 August 2017
◆抗パーキンソン病効力を示す新規ドーパミン D2 / 3受容体作用薬 D-512 の開発
パーキンソン病の症状は、Ropinirole(ロピニロール:製品はレキップ(Requip)の名
で、グラクソ・スミスクライン社が製造している剤で、一般的なパーキンソン病向けの
薬剤の一つであるレボドパ(L-DOPA)の効果が薄い患者に対する補助製剤としても用
いられる)を含む選択的ドーパミン D2 / 3受容体作用薬を用いて一般的に治療されてい
る。D2 / 3作用薬は、早期段階のパーキンソン病において有用であるが、後期段階の疾患
では有効性を失う傾向があり、疾患の進行を食い止めることは出来ない。今回、米国ニ
ューヨーク州立大学の研究者チームは、最近、パーキンソン病の進行を抑制する抗酸化
特性と他の神経保護特性を有する高親和性 D2 / 3 受容体作用薬である新規多機能性化合物
D-512 を開発したことを報告した。ドーパミン神経毒である 6-ヒドロキシドーパミンを
一方の前脳束に片側的に注入することによって作製したパーキンソン病ラットモデル
に、臨床的に使用される選択的ドーパミン D2 / 3 受容体作用薬ロピニロールと新規化合物
D-512 の投与で、自発的運動活動刺激とパーキンソニズムの運動不能を逆転させる能力
について検討した結果、両化合物は、自発的な動きを増加させたが、D-512 は、より長
い作用時間を示すことを報告した。又、D-512 のみが前肢無動を有意に逆転させること
ができたと報告した。ロピニロールと比較して、D-512 は、同様の副作用プロファイル
にも拘わらず、より高いピーク用量有効性、及び、より長い作用時間を示した。この結
果は、D-512 が、現行の利用可能な D2 / 3作用薬よりも優れており、臨床試験に入るに値
する可能性があることを示すと報告している。(治療の基本となる薬剤は L-DOPA と選
択的ドーパミン D2 / 3受容体作用薬の内服であるが、病気の進行状況に応じて、上手い組
み合わせ、薬用量を決めることがポイントになっているが、長期に渡る薬物治療の限界
のひとつに運動合併症があり、L-DOPA の副作用とも云えるものである。今後、該剤と
L-DOPA の併用効果、特に、運動合併症への効能を確かめる必要はあろう…)
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11)Beilstein J. Org. Chem. 2017, 13, 1478–1485:Published 27 July 2017 ◆カルボン酸、アミノ酸、及び、ボロン酸からなる 2,4,5-三置換オキサゾール類合成法の開発 オキサゾール類は、多くの天然物に含まれており、幅広く医薬中間体として使用されて
いる。特に、2,4,5-三置換オキサゾール類は、多様な置換基の導入によって構造的多様性
が効率的に生成されることから薬理学的に有効な骨格として注目されている。従って、
多数の合成方法が開発されており、大きく分けて 3 つの合成方法、a)環化法:α-アシル
アミノケトンを用いた Robinson-Gabriel オキサゾール合成、b)官能化法:オキサゾール
核骨格の種々の位置選択的メタル化後の官能化、c)多成分法:Ugi 反応/ Robinson-
Gabriel 反応(2,4-ジメトキシベンジルアミン/アリールグリオキサール/カルボン酸/イソ
ニトリル)と Au 触媒によるタンデムオキサゾール合成法(一級アミド/アルデヒド/アル
キン)に大別されている。これらの方法は、置換基に対応する 3 つの出発物質の組合せ
を容易に変更することができるので、三置換オキサゾール類の多様なライブラリー合成
にとって合理的であるが、これらの反応は、強酸性条件、又は、高温を必要とする。従
って、多様な構造を有する 3 種類の市販化合物を用いて多様な三置換オキサゾールを合
成するための温和な方法が求められていた。今回、金沢大学医薬保健学域薬学系の国嶋
崇隆 教授らの研究チームは、ワンポットオキサゾール合成/鈴木-宮浦カップリング連続
反応による三置換オキサゾール類の新規合成方法が開発したことを報告した。具体的に
は、カルボン酸、アミノ酸、及び、脱水縮合試薬 DMT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-ト
リアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)を用いて、5-(トリアジニルオキシ)
オキサゾール類のワンポット合成に続いてボロン酸との Ni 触媒鈴木-宮浦カップリング
により対応する 2,4,5-三置換オキサゾール類を良い収率で得る方法である。(オキサゾー
ル類は、幅広く医薬出発原料や医薬中間体として使用されている化合物であり、開発さ
れた合成法は、従来の過酷な条件を必要とせず、且つ、工程数も短く 2,4,5-三置換オキ
サゾール類を合成するものであり、カスタム合成にとって大きな力となろう…)
12)Medical Xpress. August 16, 2017 / ACS Chemical Neuroscience. Vol. 8, Issue 8, pp 1801-
1811 | August 16, 2017 ◆マウスにおいて長期持続性の抗神経因性疼痛効果を齎す UKH-1114 の開発
神経因性疼痛は、有効な治療法が殆どなく、重要な医学的問題である。シグマ 1 受容体
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(σ1R)は、神経因性疼痛治療薬の潜在的標的であることが知られており、この受容体
に対する拮抗剤は前臨床モデルにおいて有効であり、現在、P-Ⅱ 臨床試験中である。逆
に、膜貫通タンパク質 97(Tmem97)として最近同定されたシグマ 2 受容体(σ2R)に
ついては、中枢神経系に存在し、コカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうる
こと、統合失調症患者で該受容体数の減少、及び、遺伝子の多型が観察されることから
精神機能に関与していることが示唆されてはいたが、その生理的機能については未だ不
明な点が多かった。今回、米国、テキサス大学の科学者チームは、一連の σ1R、及び、
σ2R/ Tmem97 作用薬、及び、拮抗薬を作製し、マウス神経障害性疼痛モデル(SNI)に
おいて、それら剤の有効性について試験した結果、σ2R/ Tmem97 拮抗剤として UKH-
1114 が SNI 誘発性機械的過敏症の軽減を齎し、投与後 48 時間で最高潮に達することを
明らかにした。UKH-1114(10mg / kg)の全身投与は、100mg / kg のガバペンチン
(gabapentin:GABA 誘導体の抗癲癇薬であり、鎮痛剤として応用されるようになった
剤)に相当する最大効果の大きさを示し、そして、運動障害を伴わないことを見出した
ものである。(UKH-1114 が市場に参入するには、ヒトでの安全性、有効性、及び、経口
投与可能性を実証するための多くの研究が必要であるが、今日の最大の公衆衛生上の課
題の 1 つであるオピオイド中毒性の回避としてオピオイドの代替手段として大きな意味
を持つかもしれない…)
13)Organic Letters. Article ASAP. Publication Date (Web):August 25, 2017 ◆硝酸銀触媒作用によるイミダゾロン類とキナゾリン-4-オン類合成法の開発 スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者チームは、硝酸銀を触媒として用い
て、温和条件下(トルエン溶媒中、60℃×12h)で、一級アミン類と α,α-二置換 α-イソシ
アノアセテート類を反応させることにより、良好な収率で 3,5,5-三置換イミダゾロン類
を得る方法を開発したことを報告した。又、2-イソシアノ安息香酸メチルと一級アミン
類との反応では、優れた収率でキナゾリン-4-オン類を得ることができることも報告して
いる。そして、該合成法の有用性を、(±)-エボジアミン(脂質代謝改善作用剤)とルテ
カルピン(血管拡張剤)の簡便な合成を行うことで立証している。尚、α,α-二置換 α-イ
ソシアノアセテート類は、メチル-α-イソシアノアセテートにアルキルハライド(R-X)
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を反応させて得ることができる。(イミダゾロン類やキナゾリン-4-オン類は、医薬や農
薬等の合成中間体、又は、原料として有用な化合物である。イミダゾロン類は、酢酸ホ
ルムアミジンとジアルキルグリオキザールの反応で、又、キナゾリン-4-オン類は、アン
トラニル酸にホルムアミド、又は、酢酸ホルムアミジンを反応させる方法があるが、酢
酸ホルムアミジンは高価であるので、今次の方法は 2 段合成工程であるが、アルキル基
を各種選択できるので、その応用性は広いものがある…)
<電材関係> 1)Science Vol. 357, Issue 6352, pp. 673-676:18 August 2017
◆2 次元 sp2炭素高分子材料の合成方法に成功
北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域の江 東林 教
授らの研究グループと分子科学研究所物質分子科学研究領域の中村 敏和 准教授らの研
究グループは、sp2 炭素からなる 2 次元共役有機骨格構造体の開拓に成功したことを報告
した。2 次元炭素材料は、その特異な化学・電子構造を有するため、各国で熾烈な研究
開発が行われている。特に、グラフェンは、sp2 炭素原子が 2 次元的に繋がって原子層を
形成し、特異な電気伝導特性を示すことで、様々な分野で幅広い応用が期待されてい
る。化学的手法で規則正しい sp2 炭素シートを作り上げることは極めて困難であり、2 次
元炭素材料はグラフェンに限られているのが現状である。そこで、同研究グループは、
グラフェン以外の従来不可能と云われてきた 2 次元炭素材料を合成する手法を開拓する
為に、テトラキス(4-ホルミルフェニル)ピレンと 1,4-フェニレンジアセトニトリルの
C=C 縮合反応により、全 sp2 炭素から構築され、完全 π共役されるように設計された 2
次元(2D)結晶共有結合有機骨格(sp2c-COF)を合成した。C=C 連結は、トポロジー的
に x 方向と y 方向の両方に伸びた π共役を有する 2 次元格子に一定間隔でピレン結び目
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を連結しており、より一般的に得られる無秩序構造より寧ろ重なり合った層骨格を形成
する。この sp2c-COF は、空気中、様々な有機溶媒、水、酸、及び、塩基下においても安
定であり、熱的にも極めて安定であり、窒素下で 400°C まで加熱しても分解しない。こ
の 2 次元 sp2 炭素高分子は酸化還元活性であり、有機半導体の特性を示す。エネルギー
ギャップは 1.9 eV であり、ヨウ素でドーピングすると、電気伝導度が 12 桁も向上する
こと、更に、ピレン中心に形成されたラジカルは高いスピン密度と常磁性を示すことを
報告している。(今回、開発された 2 次元炭素高分子材料は、グラフェンと異なり無数
の細孔が並んでいるため、二酸化炭素吸着、触媒、エネルギー変換、半導体、エネルギ
ー貯蔵など様々な分野で応用が期待される新規機能性材料として大いに注目されるし、
更に、分子骨格に CN 基が入っていることから、更なる官能化が期待できよう…)
<その他> 1)Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 56, Issue 36. p. 10886-10889. August 28, 2017. First
Published:27 July 2017 ◆2,5-ジメチルピラジン、及び、2,5-ジメチルピペラジンのイリジウム触媒水素化/脱水素化による効率的な水素貯蔵システムの開発 京都大学 人間・環境学研究科 藤田 健一 教授らの研究グループは、単一イリジウム触
媒を用いた窒素複素環式化合物の水素化、及び、脱水素化に基づく新しい水素貯蔵シス
テムを開発したことを報告した。この新しいシステムによって、従来のシステムと比較
して比較的少量の溶媒を用いた効率的な水素貯蔵が達成されたとのことである。具体的
には、3 当量の水素の取り込み、及び、放出を伴う 2,5-ジメチルピラジンと 2,5-ジメチル
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ピペラジンの間の可逆的変換は、効率を低下させることなく、ほぼ定量的に少なくとも
4 回繰り返すことができたこと、更に、無溶媒条件下でも水素貯蔵が達成されたことを
報告した。(水素を有機分子内に結合させて蓄える有機ハイドライドを用いた水素貯蔵
方法は、超低温や高圧を作り出す必要がないため注目を集めており、安価で入手が容易
で、取り扱いで問題のない有機ハイドライド分子が求められていた中、ジメチルピペラ
ジン/イリジウム触媒系の組み合わせで 100g 当たり 3.8g の水素を貯蔵する系を開発した
ものであるが、実用化には最低 100g 当たり 5g の水素貯蔵が必要と云われており、更な
る系の開発が必要であろう…)
以上