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薬用作物の栽培技術について 20171031内閣府・地域活性化伝道師 元・近畿大学東洋医学研究所 植物センター室長 中西準治 大和当帰の栽培のはなし 33

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薬用作物の栽培技術について

2017年10月31日

内閣府・地域活性化伝道師

元・近畿大学東洋医学研究所

植物センター室長

中西準治

大和当帰の栽培のはなし

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25年度 26年度

1 センナジツ センナジツ

2 カンゾウ カンゾウ

3 ブクリョウ ブクリョウ

4 シャクヤク シャクヤク

5 ケイヒ ケイヒ

6 トウキ 1,054,527kg コウイ

7 ハンゲ トウキ 840,053kg

使用最上位60品目の使用量

日本漢方生薬製剤協会、原料生薬使用量等調査報告書 4、平成28年

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ヤマトトウキ (オオブカトウキ)

Angelica acutiloda Kitagawa

ホッカイトウキ

Angelica acutiloda Kitagawa var.sugiyamana Hikino

唐当帰

Angelica sinensis Diels

韓当帰

Angelica gigasNakai

トウキの種類

トウキの原種は、小野蘭山らによって中国から持ち込まれたという説と、日本の野生種を栽培化したという二説がある。大和当帰は大和で栽培された当帰につけられたもので、17世紀の中期から大和山城で大量に栽培、生産されるようになり、その他の地方でも広く栽培された。吉野郡と五条市大深地方で栽培される当帰を大深当帰と称し、生薬としての品質が良いので有名である。

本間尚次郎(国立衛生試験所北海道薬用植物栽培試験場)

新花卉、タキイ種苗、昭和49年

トウキの原種

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明治の末期に奈良県より大深当帰が移入されて栽培生産される。

しかし、とうが立ちやすいため、収量が悪い。

大正後期に北見で品種改良が行われて、ホッカイトウキが誕生した。

ヤマトトウキⅹミヤマトウキ

大正11年に当帰の栽培が始まる。

昭和3年に種子配布。栽培が普及した。

植物遺伝資源集成、第4巻、講談社、1989年

畠山好雄・国立衛試北海道薬用植物栽培試験場長

第8回生薬に関する懇談会記録集 1992年より

北海当帰の誕生

17世紀の中期、山城、久世郡や大和地方で栽培に成功してから国産の大和当帰が用いられるようになった。

吉野や大深地方での栽培品の品質が良いことから大深当帰と呼ばれるようになった。

昭和20年~大和地方でも北海当帰の栽培始まる。

自然交雑により純粋な大深当帰の入手困難。

現在、奈良県では大和当帰の系統維持、栽培の普及。

第7改正・日本薬局方解説書、広川書店、1962年

植物遺伝資源集成、4巻、講談社、1989年

薬用植物栽培の手引き、東京生薬協会、平成15年

大和当帰の栽培の経緯

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大和当帰 北海当帰

植物全体および各器官が小型 植物全体および各器官がより大型

種子、草丈、花房 根、茎、葉、乾物重

葉柄、花茎が赤紫色 葉柄、花茎とも緑色

葉は暗緑色で小型、裂片は狭い 葉は緑色で大型、裂片も幅が広い

開花が遅い 開花が10~15日早い

抽苔耐性が小さい 抽苔耐性が大きい

味が甘く、後をひかない 甘味弱く、辛味強く、口に残る

畠山好雄;第8回生薬に関する懇談会、東京生薬協会、1992

大和当帰と北海当帰の区別点

トウキ

本品はトウキAngelica acutiloba Kitagaw又はホッカイトウキAngelica acutiloba Kitagaw Var.sugiyamae Hikinoの根を、通例、湯通ししたものである。

生薬の性状

本品は太くて短い主根から多数の根を分枝してほぼ紡錘形を呈し、長さ10~25cm、外面は暗褐色~赤褐色で、縦じわ及び横長に隆起した多数の細根の跡がある。根頭に僅かに葉しょうを残している。折面は暗褐色~黄褐色を呈し、平らである。

第十七改正 日本薬局方

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純度試験

(1)葉しょう

(2)重金属

(3)ヒ素

(4)異物

灰分 0.7%以下

酸不溶性灰分 1.0%以下

エキス含量 希エタノールエキス 35.0%以上

貯法 容器 密閉容器

ホッカイトウキはトウキとエゾヨロイグサとの自然交配説と、トウキの変異説とがあるが、どちらかは明らかでない。トウキとの相違点は、主根は太く長く側根はやや少ない、草丈が高く茎・葉柄は多くは緑色、小羽片の幅は広く、開花期はおそいなどである。

第十七改正 日本薬局方解説書

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大和トウキ

大和トウキ大和トウキ

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平成23年 平成24年

使用量 854,460kg 860,868kg

中国産 686,355kg 687,488kg

日本産 168,106kg 173,380kg

平成25年 平成26年

使用量 1,054,527kg 840,053kg

中国産 863,445kg 655,342kg

日本産 191,082kg 184,712kg

原料生薬使用量等調査報告書、日本漢方生薬製剤協会、平成28年より

当帰の使用量

平成23,24年 生成25、26年

857,664kg 947,290kg 89,646kg増加

原料生薬使用量等調査報告書、日本漢方生薬製剤協会、平成28年より

当帰の使用量

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栽培戸数 ; 353(戸)

栽培面積 ; 9,814(a)

生産量 ; 93,288(kg)

都道府県名 ; 北海道、青森県、岩手県、秋田県、

茨城県、群馬県、長野県、静岡県、

富山県、石川県、福井県、岐阜県、

三重県、兵庫県、奈良県、和歌山県

山口県、佐賀県

薬用作物及び和紙原料等に関する資料・日本特産農産物協会;平成29年

当帰の栽培状況平成27年産

栽培戸数 栽培面積 生産量 価格

平成1年 678戸 14,363a 152,739kg ~1,490円/kg

5年 865 15,492 360,137 1,037

10年 688 15,110 471,223 736

15年 488 7,906 216,181 729

20年 393 7,848 390,223 1,164

25年 327 7,240 371,472

27年 353 9,814 93,228

薬用作物(生薬)関係資料,日本特殊農産物協会から

当帰栽培の推移

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大深地方

大深地方の風景

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気候土質

当帰は気候温暖にして雨量少なき地を好み土質は砂質壌土又は壚土(腐植土)を佳とす。

適地

傾斜地にして空気の流通良き排水良なる赤土にて肥沃ならざる地味深き稍や粘質なる土壌を良とす。

俗「東風は肥となる」の詞ありて空気の流通良き所を好むが如し。

連作を忌み三か年間位を隔つるを良とし少なくとも1カ年間は休作するを要す。

沖田秀秋;薬用植物製造学、大正8年より

トウキの栽培法

トウキの栽培は夏季やや冷涼なところを好みます。高原地や山麓などは好適です。

土質は耕土が深くてやわらかい埴質土が適しますが、砂質土、火山灰土にも良く育ちます。

粘土質や排水不良の土地は根の発育が悪く、場合によっては腐敗しますので不適です。

森下徳衛、薬草栽培教室、富民協会、昭和59年

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適地;

排水良好な畑地または水田転換畑、耕土の深い埴質壌土が好適であるが、砂質ないし砂壌土でも良い。強度の粘質土壌には適さない。

この植物は連作をきらうので2~3年を隔てて作付する。

薬用植物栽培の手引き、富山県薬業連合会、昭和58年より

トウキの栽培適地

3年生の株から採種した種子を用いる。

1~2年生でも開花結実するが抽苔性が強いから種子として不適当である。

種子を採集する株は、根の形態が当帰の理想形に近い株を選抜し品質の向上に努める。

8月頃種子は黒褐色に熟す。成熟は一斉ではないから成熟した種子から順に集めて陰干し、手で揉み種子だけを集める。

風乾したものを紙袋に入れて翌春まで保存する。

反当り種子の量は5dl程度。

繁殖 種子の準備

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大和地方で4月中下旬。

苗床は堆肥などを施して深耕しておく。

床播きは巾90cmの短冊形にし、床を均一にならしてばら播きにする。播種後、種子が隠れる程度に覆土。さらに寒冷紗で床面を密着して覆い発芽を待つ。

寒冷紗は発芽を安定させるためのもので、本葉がでて揃った時点で取りはづす。

発芽に10日から2週間を要す。

密生している部分を間引く。除草。

7月頃に草木灰や過リン酸石灰を施す程度で生育を抑制するつもりで管理する。

播種期と蒔き方

藤田早苗之助、薬用植物栽培全科、農文協、昭和47年より

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苗は秋の末ころ掘り取り、大小、良否を選別し、すみやかに植えるか定植まで間がある場合は土に伏せ込む。

大苗(直径が8㎜以上)は芽クリして植え、中苗(5~8㎜)、小苗(3~5㎜)はそのままか、2本を合わせて定植する。

芽クリは抽苔を防ぐために茎の中心の主芽をナイフでえぐり取ったものである。

反当りの苗の量は7000株から8000株程度。

苗づくり

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直径10mm畠山好雄、第8回生薬に関する懇談会記録集、東京生薬協会、1992年

藤田早苗之助、薬用植物栽培全科、農文協、昭和47年より

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堆肥や元肥を施して耕耘しておく。

排水が良く、地下水の低い畑地は、平うね栽培とし、水田転換畑では、高うね栽培とし、畦巾90cm、畦高20cmほどの短冊状の畦をつくり、2条植とし、株間30cmとする。

植え付けは植え溝を切り、根頭部を上にむけ、根の先は斜め下に伸びるように植える。

棒で穴をあけてからこれに苗を挿す方法もある。

小苗は2本植えにする。

芽の先端が隠れるように軽く覆土をする。

苗の植え方

4月中、下旬になって、新芽が伸び葉が展開してくる。

中耕と除草。

第1回の追肥、追肥の時期に注意すること。

早く追肥すると茎葉が徒長して抽苔しやすい。

害虫防除。

8月中、下旬になって第2回目の追肥

栽培管理

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森下徳衛、薬草栽培教室、富民協会、昭和59年

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11月に入り、葉の先端部分が黄ばみ始めた頃に鍬、又は掘り取り器で掘り取る。土を落として数株づつ束ね、雨のかからない軒下やビニールハウス内に吊って乾燥させる。

この時、掘り取り後堆積すると発酵したり、風通がわるいとカビが生えて腐敗するのでできるだけすみやかに作業する。

収穫

2月中ごろ湯もみを行う。

お湯を沸かす。

大きな樽に乾燥した当帰を入れて60℃程度のお湯につける。

板の上でつやが出るまでよくもむと同時に土砂などを取り除く。

再びハウス内で乾燥する。

調製 湯もみ

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湯もみ

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シンクイムシ

ヨトウムシ

アブラムシ

キアゲハ幼虫

ハダニ

コガネムシ幼虫

ニンジンノメムシ(ハマキ)

病害虫

べと病

軟腐病

菌核病

8月頃に葉の裏側に白、灰色、淡紫色のカビが発生。

葉の表側が黄色に変色。

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薬用作物 栽培の手引き、薬用作物産地支援協議会、平成29年

トウキの栽培こよみ

藤田早苗之助;薬用証物栽培全科、農文協、昭和47年

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生薬利用と医薬品開発、CMC、1988より

TLC

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大深当帰 百斤 37~40円

神奈川、信州、北海道産 20円

当帰で一番良いのは、馬尾当帰で肥えた大きい髭根の沢山付いているシンナリと潤いのある、香りのよいのが良品です。

大深当帰はなかなか良いようですね、大体根頭より多数の髭根が真直ぐに分岐しているのが良品です。

現代和漢薬詳説、薬業往来社版、昭和19年

大深当帰の価格(昭和19年)

トウキ 1kg 1000~2500円

トウキ 2000円

10a当たり収量は、生根で1,200kぐらい、乾燥根では200~300kgぐらいである。

トウキの価格

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1、トウキを使ったおでん

2、トウキを使ったカレー

3、トウキを使ったスープ

4、トウキ酒の作り方

森下徳衛、薬草栽培教室、富民協会、昭和59年

家庭でできる漢方料理

沖田秀秋・薬用植物製造学;大倉書店、大正8年

刈米、若林、薬用植物栽培法;養賢堂、昭和9年

農業世界、薬草の知識;博文館、昭和9年

内海・浅沢、薬用植物の栽培採収と調整法、昭和10年

宮地武雄、和漢薬応用の実際、昭和13年

伊沢、三宅、田中、藤森、これからの薬草栽培と採取;アズミ書房、昭和24年

波多腰節、薬用植物栽培調製法、農業書院、昭和25年

神尾信治;薬草の栽培、富民社、1954年

藤田早苗之助;薬用植物栽培全科、農文協、昭和47年

現代東洋医学;医学出版センター、Vol. 2,No.4,1981年

薬用植物栽培の手引き;富山県薬業連合会、昭和58年

森下徳衛;薬草栽培教室、富民協会、昭和59年

参考書

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日本生薬学会北海道支部;第9回生薬の栽培と品質に関する研究会

講演要旨集、昭和61年

厚生省薬務局;薬用植物栽培と品質評価 Part1,薬事日報社、1992年

東京生薬協会;第8回生薬に関する懇談会記録集、1992年

佐竹、飯田、川原;新しい薬用植物栽培法、広川書店、平成14年

東京生薬協会;薬用植物栽培の手引き、平成15年

日本漢方生薬製剤協会;薬用植物の栽培と採取、加工に関する手引き、

2014年

薬用作物産地支援協議会;薬用作物栽培の手引き、平成29年

参考書

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2017年10月31日

内閣府・地域活性化伝道師

元・近畿大学東洋医学研究所

植物センター室長

中西準治

薬用作物の栽培技術について Ⅱ

中西準治

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本品はウンシュウミカンCitrus unshiu Markovich(Citrus aurantium Linne subsp. Nobilis Makino)又は

その他近縁植物(Rutaceae)の成熟した果皮である。

果樹として栽培されており秋から冬にかけて果実が成熟したころに採取し、果皮はそのままはぎとるか、又は湯通しした後果皮を取り除き、その果皮を乾燥する。よく乾いた橙黄色のもので折ると芳香を放すものがよい。

第十改正日本薬局方解説書

陳皮

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儲かる薬草栽培が何故発展せぬか 1~4、和漢薬、2016年 薬草の料理、薬事日報、2016年 機能性植物が秘めるビジネスチャンス、情報機構、2016年 薬草栽培が何故発展せぬか 1~3、薬事日報、2017年 薬草栽培の壁、薬事日報、2017年

参考資料

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