日本公衆衛生雑誌 = japanese journal of public...

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Title 終末期ケアと伝統的宗教儀礼の関わり : 琉球列島におけ る調査研究 Author(s) 近藤, 功行 Citation 日本公衆衛生雑誌 = Japanese journal of public health, 39(10): 799-808 Issue Date 1992-10 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/10321 Rights 日本公衆衛生学会

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Title 終末期ケアと伝統的宗教儀礼の関わり : 琉球列島における調査研究

Author(s) 近藤, 功行

Citation 日本公衆衛生雑誌 = Japanese journal of public health,39(10): 799-808

Issue Date 1992-10

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/10321

Rights 日本公衆衛生学会

平成 4年10月15日 第39巻 日 本 公 衛 誌 第10号 799

終末期ケアと伝統的宗教儀礼の関わり

-琉球列島における調査研究ー

近藤功行*

琉球列島の終末期医療における伝統的固有宗教の存在とその公衆衛生学的意義を考察するために,与論島

における終末期受療行動.沖縄県内の総合病院,民間精神科病院,特別養護老人ホーム(以下,老人ホーム

と略す)などにおける施設側および患者 遺族側の宗教活動・儀礼について一連の調査を行った。与論島で

は島外の診療施設に入院して重篤化した場合,死亡間際に島に連れ戻すとしみ特異な終末行動がみられ,自

宅死亡が最も理想とされた古来の死生観が保持されていた。沖縄県内の総合病院や精神科病院,老人ホーム

では死者が出た場合「ヌジファ」と呼ばれる伝統宗教に従った抜魂儀礼をかなりの遺族が希望し,多く の施

設ではそれが認められていて,遺族の心理的安堵感の獲得に大きく貢献していると考えられる。また老人ホ

ームでは,伝統宗教上の祭日に限局した特異な行動をする老齢女性が少なからず存在しこれら女性の深層

表象に伝統宗教要素が濃厚に反映していることが推測された。琉球列島では本土化と L、う概念を中心として

急速な文化変容が進んでいるが,いまだに伝統宗教的意識が強く支配しており,今後の終末期医療において

もそれらについての十分な配慮が必要であろう。

Key words :終末期医療,自宅死,琉球列島,文化変容,死者儀礼,人類生態

I 緒 百

高齢化社会を迎えた今日,終末期医療はかつて

ない困難な問題に直面している。これまでの医療

はいわば延命に主眼を置いたものであったが,そ

の矛盾は至る所に現われている。これらの問題の

1つの原因は,伝統的な生き方,死の迎え方と現

在の高度医療の聞の摩擦であると考えられる。欧

米では以前からターミナルケアと社会科学的要因

との関連についての研究が盛んであり,いわゆる

理想的な死の迎え方や宗教の役割などについて論

議されている 1-3)。 しかし,琉球列島を含む日本

ではキリスト教文化圏とは全く異なった死生観が

存在し,ターミナルケアにおいてもそれが強く影

響するために,欧米で確立されてきた終末期医療

の方策はそのままで、は適応できないものと考えら

れる。

高齢化社会においてより良い医療をめざすに

は,いかに健康に生きるかだけでなく. ~、かに実

市琉球大学医学部医学科保健医学講座.日本学術振

興会

連絡先住所:〒903-01沖縄県中頭郡西原町字上原

207

琉球大学医学部医学科保健医学講座近藤功行

りある死を迎えることができるかについての考察

を除くわけにはし、かなし、。琉球列島は長寿国とい

われる日本の中でもさらに長寿地域であり,そこ

では死生観に伝統的文化の背景が強く残存してい

る七九しかも,都市部と離島では文化変容 (ac-

cultulation) の速度が異なり,都市部では既に本

土の都市と同様な終末期医療上の問題が宣じてい

るが,離島ではかつての伝統的な死の迎え方が固

守されている。このように琉球列島は伝統文化と

近代医療が同居する地域であり,両者の関係の公

衆衛生学的研究は,今後のより良い医療を模索す

る上で重要な視点を提供するものと考えられる。

このような観点から,本論では琉球列島の医療現

場における伝統宗教要素の存在とその意義につい

て考究する。本研究においては,通常の公衆衛生

学的手法の他に,人類生態学的あるいは医療人類

学的な視点6)をも取り入れて調査を行った。

E 研究方法

1. 琉球列島の伝統的死生観と宗教の基本的枠

組み

現在,最も琉球列島の固有伝統宗教文化が残存

しているとみられる与論島7-12)において,人の一

生,特に終末期の状況について,死亡者の発生し

800 第39巻日本公衛 誌 第10号 平成 4年10月15日

た各家庭を訪問し,聞き取り法によって,受療

地,死亡場所,終末期を迎える際の受療機関かの

自宅への搬送の有無, iヌジファ J(死後遺族側に

よってなされる妓魂儀礼)の執行状況などについ

ての情報を得た。調査は1986年 8月から1991年12

月の聞に行い,訪島回数は23回,累計滞在日数は

135日であった。また,与論島住民の死亡構造を

明らかにするため,鹿児島地方法務局より許可を

得て,同名瀬支局にて与論島の約14年間分の「死

亡届Ji死亡診断書」を閲覧し,死亡場所の資料

を得て自宅死亡率を算出した。

2. 医療現場における宗教的要素の分析

医療現場における宗教的要素の調査を沖縄県の

総合病院,民間精神科病院,ハンセン病施設およ

び特別養護老人ホームにおいて行い,比較のため

に日本本土のハンセン病施設でも調査を行った。

調査は1991年 4月から1992年 4月の聞に行った。

A 総合病院

沖縄県内の総合病院43施設に対し,入院患者が

死亡した場合に遺族が「ヌジファJの執行をどの

程度希望するか,それを許可しているか,執行す

る場合の参加者,執行方法と時間などについての

アンケート調査および聞き取り調査を行った。ま

た救急患者や自殺企図者が搬入後,死亡した場合

に「ヌジファ」が執行されるかどうかも合わせて

調査した。調査は主に病院総婦長(看護部長)の

協力を得て行われた。

B 精神科病院

精神科病院はもとより終末医療施設ではない

が,患者の行動には伝統文化が濃密に反映されて

おり,入院が長期にわたる場合が多く,その聞に

患者が死亡することもしばしば認められる。一

方,特定の外来宗教的背景を持つ医療法人によ っ

て経営されている施設もある。したがって終末期

医療,伝統的宗教および外来宗教の関わりに関す

る輿味ある所見が得られることが期待される。本

研究では沖縄県内の民間精神科病院すべてを訪問

して,病院の性格,病院側の行う宗教活動の有無

と状況,遺族からの「ヌジファ」儀礼の要望など

について総合病院の場合と同様な聞き取り調査を

行った。

C ハンセン病施設

ハンセンは従来,本病は不治の病とされ,社会

的に差別されていたために,ハンセン病施設に入

ると死ぬまで施設に留まることが多く,したがっ

て入所がそのまま社会的死を意味していた。ハン

セン病施設での状況を調査することは,通常の終|

末期医療と比較して,死への対処と,伝統宗教的|

要素の関連について興味ある視点を提供すること

が期待される。本研究では琉球列島およびそれを

比較する上で日本本土のハンセン病施設すべてに

ついて,入園者の宗教団体への加入状況と宗教儀

礼の存在等について, 10施設については実際に訪

園し,他についてはア ンケー 卜を郵送して回答を

求め調査した。また琉球列島の 3施設ではそれに

加えて患者の死亡場所,患者死亡後の「ヌジファJ

儀礼執行状況について調査した。

D 特別養護老人ホーム

特別養護老人ホーム(以下,老人ホームと略す)

は厳密な意味では医療施設ではないが,そこで死

を迎える機会が少なからずあり,そこに伝統的宗

教要素が反映されてくると考えられる。本研究で

は,沖縄県内の老人ホームのうち1991年に開園し

た2施設を除く泊施設すべてについて,施設の状

況, iヒヌカンJ(火の神の意。琉球文化圏では通

常,家庭内厨房にヒヌカ ンの小祭壇が置かれてお

り,それへの拝礼が主婦の義務とされてきた)の

有無,霊安室の有無, 1991年度の死亡者数とその

死亡場所,入園者の死亡に関する他の入園者への

通知方法,遺族が希望する「ヌ ジファ」 儀礼の受

け入れ状況と儀礼を行わせる場所について回答を

求めた。さらに旧暦の毎月 1日・ 15日に俳佃(異

常)行動を呈する老齢女性の有無と,その年齢,

出身地,入所年月,現病歴,既往歴,などの資料

を得た。調査は生活指導主事などの協力を得て行

われた。

E 研究結果

1. 与論島における終末受療行動

与論島には 1箇所の町立有床診療所 (19床)と

3箇所の無床診療所がある。島内には高度医療施

設が設置されていないため,重症の場合は島外に

搬送されている。 1 983年10月 ~ 1 989年 1 0月の 6 年

間の救急搬送記録から与論島住民の受療圏をみる

と, 搬送された215人中, 90.7%が沖縄県本島那

覇市内および那覇市近郊の総合病院に運ばれてい

た。慢性疾患では軽症の場合,島内の診療所で受

療しているが,重症の場合は救急搬送の場合と同

平成 4年10月15日 第39巻 日 本 公 衛 誌第10号 801

様に,主に那覇市とその近郊,鹿児島市,名瀬

市,徳之島町の病院に入院して治療を受けてい

る。

一方,死亡場所についてみると,昭和50・55・

60年においては自宅死亡者が全体の死亡者の各

73.6%・72.5%・74.2%を占めており,全国での

病院 ・診療所以外での死亡者の比率が急激に減少

してし、く傾向にある(自宅での死亡者の比率は同

年各47.7%. 38.0%・28.0%) のと著しい対照を

なしている。死亡場所について昭和50年以来約14

年間に確認された死亡例1,011件のうち調査可能

であった800件についてみると,自宅583件

(72.9%) ,島内医療筋設44件 (5.5%),島内老人

ホーム24件(3.0%),島外医療施設82件(10.3%),

その他67件 (8.4%)であった。各年度毎の自宅

死亡率はいずれも 60~80%であり,ほとんど変化

していない。また,年齢階級別にみた自宅死亡率

は, 50歳未満では32%に過ぎないが, 50歳台では

50%, 60歳台67%,70歳台75%,80歳台86%,90

歳台97%,100歳台100%と高齢になるほど高くな

っていた。

重症化した場合,島外で入院受療するという受

療行動が一般的でありながら, 7割以上の住民が

自宅で死亡している。この一見矛盾した状、況は,

臨終間近な患者を島に連れ戻し,島の有床診療所

で終末ケアを行った後,自宅で臨終を迎えさせる

とし、う,特異な行動様式が存在することによる。

このような臨終直前の搬送は,調査可能であった

32例の内 9例に認められた。

自宅外死亡の場合の「ヌジファ」執行状況をみ

ると,全例において執行されていた。

2. 医療現場における宗教儀礼

A 総合病院

調査を依頼した43の総合病院の内, 33施設から

回答を得た(回収率77%)。表 1に示すように

すべての病院において入院患者の死亡後に遺族か

ら「ヌジファ」執行の希望がある。しかし,それ

を容認しているのは泊施設 (85%) で,残りの 5

施設 (15%) は拒否している。容認する理由とし

て, i地域の風習でもあり,家族・親族のせめて

もの心の安堵感が得られればよいのではとの配慮、

からj,i死の儀式はその地域の伝統文化に根ざし

たもので,住民本位の医療をしている立場から」

などの積極的なものから, i抵抗はない,断わる

理由もない, したがって自然に受け入れているj,

「他人や物に対して有害になることがないj,など

の消極的な理由まで多様であった。 一方,拒否す

る理由として, i周囲の患者に悪影響を及ぼすj,

if也の患者への迷惑となる j,i患者がそのベッド

を使用したがらなくなる」などが挙げられた。ま

た, i執行後の片付けがきちんとされなし、」など

の苦情もあった。

「ヌジファ」が行われる頻度には 1割程度から

全例に行うまでばらつきがあるが,平均して死亡

例の約半数で執行されていた。「ヌジファ」の執

行場所はほとんどが病院建物内で,霊安室で行わ

れる例が21施設 (64%) と最も多く,死亡者が使

用していたベッド脇での執行を認めている病院も

18施設 (55%)あった。また,建物の外,たとえ

ば玄関脇や裏口で行う例もみられた。病院側が執

行を容認しない場合でも,遺族側が一方的に病院

内に入ってきて「ヌジファ」を執行する例も少な

からずある(表 1)。

「ヌジファ」に参加する人数は,遺族の中の高

齢女性ないし宗教的職能者 (iウガ ンサー=拝み

屋j) (高齢女性)と遺族の 2~3 人の場合がほと

んどであった。高齢女性が先頭になり,死亡場所

に向かつて, iビンシーj (木製の箱に酒瓶,米,

塩等を並べた祭具)を前に置いてお祈りをし,拝

礼する。その際,線香(平線香)を焚くのが普通

表 1 沖縄県内の総合病院における「ヌジフ ァ」儀礼の許容状況

調査病院 3施設(沖縄本島 31 宮古島 1 ) 石垣島 1施設

ヌジ 7 7儀礼

希望がある 33施設 (100%)

執行を容認 28施設 (85%) 執行を不容認仰 5施設 (15%) 執行場所制

建物内病院内ベッ ド脇 14施設(42%)

病室外,霊安室 20施設 (61%)

その他 8施設 (24%)

建物外玄関脇 3施設 (9%)

建物の裏側・裏口 11施設(33%)

その他 6施設 (18%)

およその執行頻度 1O~ 100%(平均5 1 %)

11 (遺族からのヌ ジファの要望については断わるが)断わっても勝手に行われたことがある。

12重複回答あり。

802 第39巻 日 本 公 衛誌第10号 平成 4年10月15日

であるが,火災などを危倶して行わないよう要請

している病院が 5施設(16%) あった。「ヌジフ

ァ」の所用時聞は,短いものは 2-3分から長い場

合は 1時間に及んでいた。このような「ヌジファ」

のやり方は,後述の精神科病院や老人ホームでも

同様であった。

救急搬送患者が病院に到着後,死亡した場合に

ついては13施設から回答が得られた。そのうち交

通事故などで搬入後死亡の場合に「ヌジファ」の

要望があると回答した病院は 9施設 (69%),な

しとしたのは 4施設 (31%) であった。自殺企図

により搬入後死亡した場合に「ヌジファ」を行っ

たのが確認されたのはわずか 1施設 (8%) で,

なしが 6施設 (46%),6施設からは明確な回答

が得られなかった。

B 精神科病院

結果は表 2に示した。調査した沖縄県内19か所

の精神科病院中, 6施設はプロテスタント系の宗

教活動を病院側が行っている。これらの病院で

は,患者およびその家族側の宗教活動は一般に院

内では認めず, Iヌジファ」についても不許可を

原則としているところが多い。一方,病院側が特

定の宗教活動を行っていない精神科病院では,患

者側が院内で行う牧師の招鴨などの宗教活動に対

し一般に寛容であり, Iヌジファ」についても遺

族の意向を尊重する傾向が認められる(表 2)。

表 2 沖縄県内の精神科病院における宗教活動におよび宗教儀礼の許容状況

病院租IJ宗教活動ありホ

調査 「ヌジフ 7Jの執'一施要設 病床数 希望についての対21(月

6 108-298 病室内で容認

(平均222) 病室内で不容認病室外で容認

病室内・病室外とも不容認

病院側宗教 13 145-524 病室内で容認活動なし (平均256) 病室内で不容認

-病室外で容認、

病室内病室外とも不容認

$すべてキリスト教系活動で,チャプレ γや牧師の訪問,礼

拝,説教などがある。

C ハンセン病施設

ハンセン病施設では入所者による宗教活動が高

頻度で認められた(図 1)。経営母体に特定の宗

教色がある民間施設(図 1の下方 N,O,Pの3

施設)ではその宗教信者がほとんどであったが,

他の国立施設では施設内で種々の宗派の活動が認

められた。琉球列島内の施設では日蓮系仏教宗派

(ほとんどが創価学会)を除く仏教系宗派が少な

いこと,キリスト教系信者が比較的多いことが特

徴で,沖縄県の 2施設では日蓮系以外の仏教徒は

皆無である。また,施設 K,M は他施設に比べて

特定の宗教なしと回答したものが多かった。

琉球列島ではハンセン病患者は治癒してもほぼ

図1 園内ハンセン病施設入国者の宗教信仰比率

非I 国=国立,紅=私立(法人)

非2.再3.#4 K. L. M的地設は各々. JjI[球列島町奄央大島.屋我地島.宮古尚に位置する.

- キリスト教系宗派

醒覇 仏教系宗派 (日蓮系宗派を除()

医麹 日蓮系宗派(宮.創価学会)

騒麹 その他的宗教団体

仁コ 所属宗教団体なし

802 第39巻 日本公衛誌、第10号 平成4年10月15日

であるが,火災などを危倶して行わないよう要請

している病院が 5施設 (16%) あった。「ヌジフ

ァ」の所用時聞は,短いものは 2-3分から長い場

合は 1時間に及んでいた。このような「ヌジファ」

のやり方は,後述の精神科病院や老人ホームでも

同様であ った。

救急搬送患者が病院に到着後,死亡した場合に

ついては13施設から回答が得られた。そのうち交

通事故などで搬入後死亡の場合に「ヌジファ」の

要望があると回答した病院は 9施設 (69%),な

しとしたのは 4施設 (31%) であった。 自殺企図

により搬入後死亡した場合に「ヌジファ」を行っ

たのが確認されたのはわずか 1施設 (8%) で,

なしが 6施設 (46%),6施設からは明確な回答

が得られなかった。

B 精神科病院

結果は表 2に示した。調査した沖縄県内19か所

の精神科病院中, 6施設はプロテスタ ント系の宗

教活動を病院側が行っている。これらの病院で

は,患者およびその家族側の宗教活動は一般に院

内では認めず, iヌジファ」についても不許可を

原則としているところが多い。一方,病院側が特

定の宗教活動を行っていない精神科病院では,患

者側が院内で行う牧師の招鴨などの宗教活動に対

し一般に寛容であり, iヌジファ」についても遺

族の意向を尊重する傾向が認められる(表 2)。

表 2 沖縄県内の精神科病院における宗教活動におよび宗教儀礼の許容状況

病院側宗教活動あり市

調査 「ヌジファ」の執行施要設 病床数 希望についての対応す珂

6 108-298 病室内で容認

(平均222) 病室内で不容認ー病室外で容認

病室内 4 (“i -病室外とも不容認

病院制u宗教 13 145-524 病室内で容認 7 (54) 活動なし (平均256) 病室内で不容認 6 (働

病室外で容認

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申すべてキリスト教系活動で, チャプ レγや牧師の訪問,礼

拝,説教などがある。

C ハンセン病施設

ハンセン病施設では入所者による宗教活動が高

頻度で認められた(図 1)。経営母体に特定の宗

教色がある民間施設(図 1の下方 N,0, Pの3

施設)ではその宗教信者がほとんどであったが,

他の国立施設では施設内で種Aの宗派の活動が認

められた。琉球列島内の施設では日蓮系仏教宗派

(ほとんどが創価学会)を除く仏教系宗派が少な

いこと,キリスト教系信者が比較的多いことが特

徴で,沖縄県の 2施設では日蓮系以外の仏教徒は

皆無である。また,施設 K,Mは他施設に比べて

特定の宗教なしと回答したものが多かった。

琉球列島ではハ ンセン病患者は治癒してもほぼ

図 1 国内ハンセン病施設入園者の宗教信仰比率

#1 国=国立,私=私立(法人)

書2.露3.井4 K. L. Mの施政は各々.1直球列島町奄美k品,屋我地島.宮古島に位置する.

圃・ キリスト教系宗派

麗覇 仏教系宗派(日蓮系宗派を除<)

匿麹 回避系宗派(宮,創価学会)

盤~ その他の宗教団体

亡コ 所属宗教団体なし

朝国間串

山刊-c」43田

沖縄県の老人ホームにおける死と宗教儀礼に関する調査表 3

異常な俳徳行動仰を呈する老齢女性

1990年度の死亡者数と死亡場所

霊安室の設置

ヒヌカンの設置

遺族による「ヌ ジファ 」儀礼(施設で死亡した場合)

施設側の対応 行わせる場所

容認 居室内居室外拒 否

同室者他の入園者への死亡通知仰施

数成地

無有不在排除時にして

非通知型

D E F

通知型

A B C 自宅総数施設病院無有無有

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田耕め強刊叶'

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沖縄本島

北部

久米島

宮古島

2 石垣島

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( 39)

#1通知型A・全員に死亡後直ちに通知。 B:同室者 ・近親者に死亡後直ちに通知。 C:同室者・近親者に死亡後,一定期間をおいてから通知。非通知型 D 自然

にわからせるようにする。 E:特に知らせなL、。

#2旧暦 1日と 15目前後に限って出現する異常行動0

#3施設死亡者はなし。

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93

38 12 26 34 4 (32) ( 68) (89) (11)

804 第39巻 日 本 公 衛 誌第10号 平成 4年10月15日

全例が圏内に留まり,そこで死亡していた。その

理由として,患者自身が家族に迷惑をかけること

を恐れたり,患者のほとんどが高齢で自活ができ

ないことがあげられた。圏内で死亡した場合に

は,葬儀は希望によって仏式もしくはキリスト教

式に行われ,琉球列島のハンセン病施設でもこの

点は本土施設と同様であった。琉球列島の施設

で, iヌジファ」執行の希望を遺族が申し出るこ

は全くなく, したがって行われた例はなかった。

D 老人ホーム

老人ホーム38施設における宗教活動・儀礼につ

いて表 3に示した。施設側で特定の宗教活動をし

ている所は 2施設 (5%) で,いずれもキリスト

教系である。他に,園長また職員が仏教系の信徒

で施設にその宗教が反映している施設が 2施設

(5%)あった。これら老人ホームの84%が民営で

あり,地方自治体による経営は少ない(県立は 5

施設,市立は 1施設)。特定の宗教行事をしてい

ない施設が多いが,厨房に「ヒヌカン」を紀って

いるところが12施設 (32%)(将来計画中は 2施

設)ある。霊安室は本来,法律上有するべきとこ

ろであるが,その利用がないため他の目的に転用

しているところが 2施設みられた。

せる理由については園側の説明によれば,同居者

は「死者の霊魂が使用していたベッドに残ってい

て,それが「ヌジファ」によってそこから(本来

落ち着くべき場所へ)移動される」と信じており,

この儀礼に立ち会うことによってそれを確認して

情緒が安定するからであるとしづ。逆に,同居者

を排除する施設では,同居者が他人の死に関する

儀礼を見ることによ って,死に対する不安が煽ら

れ,動揺することを避けようとする配慮、が認めら

れる。

老人ホーム泊施設中, 23施設 (61%)の施設で

旧暦の毎月 1日, 15日の前後に一過性の異常行動

をする老齢女性がみられ(表 3),その総数f153

名にのぼった。その内訳は表 2に示した。男性で

はそのような行動は認められなかった。異常行動

の内訳をみると,不穏状態に陥り,拝礼要望など

宗教的な要素が多分に認められ,介護職員も単な

る俳個とは異なったものとして意識していた。こ

れらの異常行動に対して施設側が積極的に対応し

ている所は少なかったが,一部では施設内や近所

の拝所で拝礼させたり,自宅へ-_e_帰して「ヒヌ

カン」に拝礼させたりしており(表←C),それ

によって入園者の状態が改善する場合が認められ

入園者の死亡に関する他の入国者への通知にっ ている。

いては,通知型と非通知型に大別され,それぞれ

が 3型に分けられた(表 3)。通知型と非通知型

の施設は数の上で‘は大差はないが,通知型の大半

が「同室者または近親者に限って通知している」

のみであり,積極的な全体への通知は 5施設

(13%)と非常に少ない。 前述のキリスト教系の

2施設は積極的な通知タイプである。通知する理

由には入所者全体での通夜また出棺に際しての見

送りを行うことが挙げられ,他方,通知しない理

由については「死をあまり意識しないように配慮

しているJ,i入園者および介護職員の動揺が強か

ったため取りやめた」などとされている。

「ヌジファ」儀礼については,キリスト教系の

1施設が拒否している以外は他のキリスト教系 2

施設を含めて容認している(表 3)。しかし,そ

の執行場所をみると,本来行われるべき居室のベ

ッド脇での実施を拒否しているところが 5施設

(13%)あり,居室で行わせる場合でも同居入園

者の不在時に限定している施設が5施設 (13%)

あった(表 3)0iヌジファ」を同居者の前で行わ

N 考 察

与論島での自宅死亡率が高い原因の 1つは,臨

終直前の自宅への患者の連れ戻しがしばしば行わ

れることにあると考えられる。死亡直前の患者の

移動は現代医療の中では禁忌ともいえるものであ

り,事実,搬送中に死亡した患者も存在する。こ

の特異な行動様式の背後には琉球列島の伝統文化

における人生観,死生観,祖先崇拝があると思わ

れる。すなわち,近代医療の恩恵に浴そうとする

要求と,伝統文化で規定された理想的な死への希

求が,最も極端に結びついた結果といえる。沖縄

県の離島である伊平屋島や粟国島でも,自宅死亡

が理想と考えられてきたので、あるが,これらの島

では有床診療施設が存在しないため,一旦島外の

総合病院に入院していた重篤患者を島の医療施設

に移すことができず,連れ戻しによる自宅死亡は

事実上不可能になっている。同様な状況は沖縄県

の他の有床診療所の設置されていない離島でもみ

られ,有床診療施設の存否が, 自宅死亡の可否を

平成 4年10月15日 第39巻日本公衛誌 第10号 805

表 4 沖縄県の老人ホーム38施設において旧暦毎月 1日15日に異常行動を示す老齢女性

A 年齢分布

年齢(歳台)

例数

6o 70 80 90 100 8十

3 7 17 20 6 53

B 異常行動の特徴と頻度 (53名)

異常行動の種類 件数牟 (%)

不穏状態(落ち着き欠如ー絶叫-大声 騒 36 68 ぐ・緋個の多発など)

拝礼への要求・ 拝礼行動をする 12 25

独語が頻発する 9 17

幻覚・せん妄 7 13

宗教に関連した言葉を言う-神歌を詠う 3 6

発熱・ほてり 3 6

不眠 2 4

ひょう依する 2

ひきつけ 2

*重複あり。

C 異常行動に対する老人ホーム側の対応

対応 の 種類 件数*(%)

ホーム内のヒヌカンや拝所で拝礼させる 7 18

村の御獄の拝所で拝礼させる 1 3

一旦自宅へ帰して自宅のヒヌカ ンに拝礼さ 1 3 せる

格別の対処をしない 29 76

初一名

。3-

Rid

-

(『

症一患

一合一;

--f

患一d

-

疾一

基一

nu

一 件数 (%)

16 30

9 17

7 13

5 9

4 8

3 6

3 6

3 6

2 4

2 4

4 8

老人性痴呆

歩行障害

脳血管障害とその後遺症

分裂病など精神疾患

視力障害

関節炎 リウ マチ

パーキンソン病

心疾患

精神薄弱

難聴

その他

市重複あり。

規定する要因となっている7-10)。したがって,有

床診療施設を離島に設置することは,これら離島

の住民が伝統的死生観に添った終末を迎えるため

、ーー・邑

にも重要な意義を有するものと考えられる。

琉球列島の家屋の居住空間は,象徴的な構造に

基づいて配分されていた11)。出産をする室,病人

を寝かせる室などに厳密に使い分けられ,死は,

近親者,近所の人が多く看取ることのできる南の

部屋(客間)に移して迎えさせた。裏座では皆に

見えないため,客間に移すのであり,病人が く私

的空間〉から く公的空間〉に移ることは死を意味

することでもあった。つまり,家屋は単に利便性

だけではなく,終末期を迎えるにあたっても死ぬ

者が生きているうちに気持ちの上で納得のい く時

聞をつくり,これをして死ねる素地があったので、

ある。琉球列島一般に受け継がれてきた伝統的な

葬法に く洗骨〉と呼ばれる死者儀礼があり,与論

島など一部離島では現在でも厳密に行われてい

る12-14)。死後 3年前後を経過して執り行われる

この改葬行為は,死から33年忌までの規定化され

た死のあり方,つまり自宅死とし、う伝統を守る上

で非常に重要視されているのである。

かつて琉球列島の人々にと って,自宅外での

「死」は「ま っとうな死」とは考えられなかった。

この 「まっとうでない死」を「まっとうにするも

の」が「ヌジファ」と呼ばれる,亡くなったとこ

ろから魂(マブイ)を墓所に移す儀礼行為 (妓魂

儀礼)であり,死者の魂が祖霊と移行するために

は極めて重大な意義を有するものであ った。「ヌ

ジファ」を行わない場合,霊魂は現世をさまよっ

て,遺族などに崇りをなすと考えられていた15)。

現在でも琉球列島では「ヌジフ 'ァ」を行うことを

必須であると考える人々は,与論島のような離島

に限らず都市部にも多数存在する。沖縄県内の総

合病院で高率に「ヌジファ」が希望され執行され

ている現実は,このことをよく証明している。

琉球列島でも都市とその近郊では,いわゆる

「本土化」と呼ばれる異文化の侵入によ って,著

しい文化変容が生じている。たとえば,洗骨儀礼

は一部の離島を除いて行われなくなっているし,

沖縄本島では自宅死の比率はすでに極めて低くな

っており,死亡直前に患者を家に移送することも

ほとんどなし、。しかし,伝統宗教に従って死者の

霊魂を安定させたいとする希求は現在でも続いて

おり,それが医療機関内で「ヌジファ」を執行す

ることへの執着に端的に表われているといえる。

遺族が「ヌジファ」にどのような意義を認めてい

806 第39巻日本公衛誌第10号 平成 4年10月15日

るかは不明な部分が少なくない。かつてのよう

に,死者の霊魂が行き場所を失って崇りをなすと

信じている場合がそれほど多いとは思われない。

しかし,遺族が「ヌジファ」の執行によって安堵

を得ることは確実であって,いわゆる悲嘆(悲哀)

作業 (mourningwork, grief work) 16)に比すべき

ものとも考えられる。このように「ヌジファ」は

琉球列島の人々にとってきわめて重要な儀礼であ

り,単なる「迷信」として片づけられる性質のも

のではない。前述のように医療機関・老人ホーム

によっては「ヌジファ」を容認しないところがあ

り,特に特定の宗教行事を行う精神科病院では一

般に認めていないが,これは遺族に長期にわたる

心理的な不全感や恐怖感を残す可能性がある 17)。

一方,ハンセン病患者が施設で死亡した時は

「ヌジファ」は行われない。琉球列島の伝統宗教

においてはハンセン病等の伝染病による死や自

殺,事故・遭難死などは「まっとうにすることが

できない死」とみなされ,忌避されてきたので‘あ

り,それらに対して葬儀をしなかったり墓所に入

れないなど,厳格な排斥が今日でもなおみられ

る13)。救急搬送された自殺企図者が死亡した場合

に, Iヌジファ」が通常行われないことも同様な

考えによると思われる。ハンセン病施設の入園者

が,死に際して外来宗教である仏教式かキリスト

教式の葬儀を希望するのは,彼らが家族からも伝

統宗教からも拒絶された結果と推測される。

かつて琉球列島の伝統文化においては,自宅に

おける理想的な「死」は皆で看取るものであり,

皆で送り出すものであった。しかし現在では,病

院によって「ヌジファ」執行が他の入院者に悪影

響を及ぼすという理由で拒絶されており,老人ホ

ームでは,入園者をホームでなく医療機関へ送っ

て死を迎えさせ, しかも死亡の通知を他の入居者

一般にはしない傾向が強い(表 2)。つまり死は

隠蔽されるべきものになりつつある。

琉球列島では主婦が家庭に火の神を記り,女性

がノロとして神に仕え,集落の安泰を祈願してき

た。旧暦毎月 1日と 15日に火の神に祈ることは,

単なる伝承行為ではなく,家庭内の矛盾を解決す

るための自己精神分析的な作用を有していたと考

えられている 18)。老人ホームに入園している女性

に,この目前後に異常行動を示す者が存在し,彼

女らに拝礼させることによって症状を沈静化する

ことのできることは,まだ琉球列島固有文化が精

神に根強く残存することの証左であろう。文化変

容が少なかった時代に人生の若年期を送った高働

者にその傾向が見られるのは当然であるが,現在

でもユタ(琉球列島におけるシャーマン;宗教的

職能者)などに祈穏や占いを依頼することは日常

的であり,位牌の継承や祖先の供養はきわめて重

要な関心事である。したがって,今後も伝統宗教

が医療現場で問題となり続けるであろう 19,20)0 こ

のように琉球列島では,医療と伝統的精神文化が

衝突する局面が多くみられる。医療は単に病気を

物理的に治療するだけではなく,患者への精神的

な配慮、を抜きにしてはならないことは自明であ

る。特に高齢者には伝統文化的環境で生活してき

た人が少なくない。したがって,治療にあたって

は,可能な限り患者側の伝統的あるいは文化的背

景を考慮、できる素養を医療側が持つ必要があろ

う。

今後の終末期医療では,ホスピスが重要となる

と考えられる。 1992年 3月 1日現在,実際に認可

を受けている施設は全国でまだ 7施設に過ぎな

し、。これらのホスピスは国立の 1施設以外は私立

で,医療従事者とチャプレン(病院付き牧師)が

一体となって介護を行っている。 沖縄でも現在,

正式な認可は受けていないが,積極的な取り組み

をはじめている施設が 1箇所あり,キリスト教の

精神に基づくヶアを行っている。前述のようにキ

リスト教系の精神病院や老人ホームでは「ヌジ7

ァJなどの伝統宗教的儀礼や容認しない傾向が強

い(表 3)。このような伝統宗教観を否定される

ことは,一般の沖縄県の老齢者の心情と相容れな

いことと思われ,老齢者に納得できる人生の終末

を迎えさせることも困難になろう。今後の沖縄で

のホスピス活動の展開には,伝統的宗教観に対す

る十分な配慮が必須なものと思われる。

今回の研究によって,伝統文化が琉球列島の人

々の受療行動に強い影響を与えており,しかも文

化変容の進んだ都市部においてもなお根強いこと

が明らかになった。これらの事例は琉球列島に特

有の問題のようにみえるが, 日本各地でも程度の

差はあれ,今や伝統文化と現代医療とのあつれき

は不可避なものと推察される。「畳の上で死ぬJ

とし、う言葉に示されるように,古来日本人が理懇

平成 4年10月15日 第39巻日本公衛誌第10号 807

球列島のそれと本質的に異なるものではなし、21)。

高齢者の自宅死亡を不可能にしている社会経済的

な要因については一部で検討が開始されている

が22),伝統文化との関わりから論じられているも

のはほとんどみられない。スパゲッティ症候群と

も名づけられる現在の終末期医療を,今後どのよ

うに「尊厳ある死」を迎えられるように変えてゆ

くかは日本の医療全体の重要課題とされている23)。

琉球列島の事例は終末期医療を行うにあたり,伝

統文化への配慮が必要で・あることを示唆するもの

であろう。

本研究にあたり,貴重な情報を提供していただいた

与論町の皆様,沖縄県内の総合病院・特別養護老人ホ

ーム・民間精神科病院およびハンセン病療養所の関係

各位に感謝申し上げます。本研究の遂行に際し,終始

ご指導・ご校聞をしただL、た琉球大学医学部保健医学

講座有泉誠教授に深謝いたします。また,研究にご協

力ご助言いただL、た等々力英美助教授および教室の皆

様に感謝いたします。同時に前琉球大学医学部保健医

学講座(現,杏林大学医学部公衆衛生学講座)赤松隆

教授,元琉球大学医学部保健医学講座助教授楠本昌子

氏に謝意を表します。(受精 1992. 3. 14)

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206目

808 :>p-J$t 41f.10Jl15H

TRADITIONAL RELIGION AND TERMINAL CARE IN THE RYUKYUS, SOUTHERN JAPAN

Noriyuki KONDO

(Department of Preventive Medicine, School of Medicine, University of the Ryukyus. Japan Society for the Promotion of Scitnce.)

Key words: Terminal care, Death at home, Ryukyus, Acculturation, Death ritual, Human ecology

The public health significance of traditional religions in terminal care was studied in the Ryukyu Archipelago.

The traditional religious view of life, in which death at home is ideal, is still maintained: while inhabitants seek modem

medical care in facilities outside of the island, they are transported back to die in their homes when their condition

becomes critical. Most of the general hospitals, special nursing homes for the aged, and psychiatric hospitals of Okinawa

allow bereaved families to perform "Nujifa", a traditional religious ritual for transferring soul of the dead from the

death to their own home, that functions as a sighificant factor in relieving grief. In many of the special nursing homes for

aged, not a few aged women practiced activities uniquely associated with traditional religion on strongly reflecting the

fact that endemic religion is deeply embedded in their thinking. Although acculturation is in rapid progress in the

Ryukyu Archipelago, such endemic religion still has a significant effect on the people. Therefore these religious factors

should be considered in the terminal medical care of these people .