m Ô px Ï Í

4
56 56 使使使2 日本全国の自治体で、水道・下水道インフラの維持が大きな課題と なっている。水道管や浄水施設の老朽化が進み、技術系職員の高齢 化で人材不足に陥っている自治体もある。この解決策として、施設の 所有権を公的機関に残したまま運営を民間に委託する「コンセッショ ン方式」が議論されているが、それにつながるとされる官民連携、い わゆるPFI方式を採る自治体も現れはじめている。官民連携での水 事業に注力するメタウォーター社長の中村氏に話を聞いた。 なかむら・やすし 1957年生まれ。埼 玉県出身。 81年青山学院大学理工学 部電気・電子工学科卒業後、富士電機 製造(現富士電機)入社。2007年富 士電機水環境システムズ技術本部長。 08年富士電機環境システムズと日本 ガイシ系列のNGK水環境システムが 合併した新会社メタウォーターズの取 締役に就任。 15年常務を経て16年6 月社長に就任。 2 INTERVIEW TOP 30 http://boss-online.net

Upload: others

Post on 10-Aug-2020

9 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 水道で最初の上場企業

    ―― 

    いま日本では、上下水道イン

    フラの老朽化が大きな課題になって

    います。上下水道事業は各自治体が

    中心となってきたわけですが、その

    システムの存続が危ぶまれる事態に

    なってきました。

     一般的に上下水道の仕事は、建設

    が民間の役割で、建設したあとは自

    治体が運営しています。2020年

    の東京五輪は56年ぶりになるわけで

    すが、その56年前の時代に各種イン

    フラの設備投資が行われ、いまそれ

    が老朽化して穴が開いたり、水が噴

    出したりといったことが起きていま

    す。これを改善しようにも財政が厳

    しい、技術者が足りないという状況

    です。

     前回の五輪の当時は、水道の普及

    のための補助金、下水道の普及のた

    めの補助金といった具合に上下水道

    整備に使うための予算が組まれまし

    た。現在は交付金となり、使途の自

    由度が高くなったため、どうしても

    地面に埋まっている上下水道より、

    道路等の見えるものに予算が使われ

    がちです。上下水道が危機に瀕して

    いることは知られてきましたが、道

    路等に比べて予算が付きにくいとい

    う現状があります。

    ―― 

    民間企業であれば設備の老朽

    化は競争力低下に繋がるので設備投

    資は不可欠ですが、日本の場合はな

    かなか水道事業の民営化が進まなか

    ったことも要因なのでしょうか。

     民営化が進まなかった理由はいく

    つかあります。1つめは、市民の目

    線で見た時に、社会インフラを一企

    業に任せてよいのかという不安、2

    つめは、日本の人口が減少し企業の

    売り上げが伸びないなかで、利益を

    出し続けられるか、3つめにガスや

    電気とは違い、上下水道には民間主

    導で決められない部分が多く、料金

    改定の手続きをはじめとする法整備

    が追い付いていないことなどがあり

    ます。逆に言えば、これらの問題が

    解決することによって、民間の参入

    が広がると考えられます。

    日本全国の自治体で、水道・下水道インフラの維持が大きな課題と

    なっている。水道管や浄水施設の老朽化が進み、技術系職員の高齢

    化で人材不足に陥っている自治体もある。この解決策として、施設の

    所有権を公的機関に残したまま運営を民間に委託する「コンセッショ

    ン方式」が議論されているが、それにつながるとされる官民連携、い

    わゆるPFI方式を採る自治体も現れはじめている。官民連携での水

    事業に注力するメタウォーター社長の中村靖氏に話を聞いた。

    中村

    メタウォーター社長

    日本が直面する水道の危機

    解決策は官民連携

    なかむら・やすし 1957年生まれ。埼玉県出身。 81年青山学院大学理工学部電気・電子工学科卒業後、富士電機製造 (現富士電機)入社。2007年富士電機水環境システムズ技術本部長。08年富士電機環境システムズと日本ガイシ系列のNGK水環境システムが合併した新会社メタウォーターズの取締役に就任。 15年常務を経て16年6月社長に就任。

    2

    INTERVIEWTOP

    30http://boss-online.net

  • ―― 

    メタウォーターでは水道事業

    全体というより、官民連携に力を入

    れていますね。

     当社は、会社が設立されて9年に

    なりますが、もともとは日本ガイシ

    と富士電機の水・環境事業の統合か

    ら生まれた会社です。浄水場や下水

    処理場の水処理、汚泥処理に使用す

    る機械設備、電気設備の設計・建設

    を手がける会社でした。基本的には

    メーカーだったわけです。それがい

    ま、変わろうとしています。メーカ

    ーはモノを作って納めるという仕事

    ですが、水道・下水道の普及率は高

    止まりし、少子高齢化で人口が減っ

    ていくなかで、新しい浄水場が建つ、

    新しい下水処理場が建つということ

    はほとんどありません。企業として

    伸びていくためにどうするべきか。

    1つは私たちの持っている製品・技

    術を海外に売っていくという方向、

    もう1つは運営まで事業領域を広げ

    ていく方向です。これまで建設は民、

    運営は官と分かれていましたから、

    企業には運営に関するノウハウがな

    いのではないかとの指摘があります。

    これはおっしゃる通りで、学ばなけ

    ればならないことがたくさんありま

    す。設備の発注を受けた時にも、な

    ぜこの機器が必要になったのかを理

    解できるようにならなければいけま

    せん。

     14年12月に株式上場をした際、私

    たちの従来の事業をみると【機械】

    の分類になると思うのですが、証券

    コードは【9551】になりました。

    これは【電機・ガス】の分類です。東

    京電力さんが【9501】、東京ガス

    さんが【9531】、私たちは水の企

    業として最初でしたから【9551】

    をいただきました。これは当社がメ

    ーカーというよりも設計・建設、運

    転・維持管理、運営を総合的にやっ

    ていくということを表しています。

    ―― 

    どうしても行政というと意思

    決定に時間がかかるイメージがあり

    ます。人口減少が進む中で、民営化、

    あるいは官民連携といった動きは間

    に合うのでしょうか。

     人口が減ると、税金が少なくなっ

    たり、上下水道料金収入が減ったり

    ということが起きてきます。首長さ

    んが危機感を持ち、事態が深刻化す

    る前に官民連携を進めようという自

    治体は増えています。国の施策とし

    て、包括化と広域化が掲げられてい

    ますが、それらの解決策として民営

    化の方向に進む以外に答えがありま

    せんから、こうした動きは加速して

    いくと思います。

     自治体側は、アセットマネジメン

    トをしようとしても、設備管理に必

    要なリストを作る余裕がないという

    状況になっているところもあります。

    そこで、私たちはプラントメーカー

    で、その施設のどの設備が大事なの

    か、わかっていますから、リストを

    作り、お金を無駄なく使っていく方

    「モノづくりだけでなく、水道事業の管理・運営で事業を伸ばしていく」と中村社長。

    31 Monthly 2017.02

  • 法を任せていただけないかという提

    案を始めています。今年度の予算が

    ここまでなら、来年度はつづきから

    始めるというふうに、長めのスパン

    を持って最適な答えが出るようにし

    ていくわけです。

     実際、学会や研究発表会、展示会

    などでもインフラの老朽化に関する

    論文が多く出ています。もう何時ど

    こから始めるのかという段階です。

    私たちとしても実績が増えてくるな

    かで、どこかのタイミングで瞬発的

    に需要が増えると考えています。そ

    してそのタイミングは決して遠くあ

    りませんから、いまのうちに学ぶべ

    きものを学んでおかなければいけま

    せん。

    次世代技術も活用

    ―― 

    技術系職員の高齢化により、

    技術の伝承が難しくなってきている

    という話もあります。

     

    施設や設備の老朽化が進むなか、

    それをベテランの知恵で、うまく設

    備の機嫌をとりながら動かしている

    というケースは非常に増えています。

    しかし、そのベテランの方たちの定

    年が近づいています。予算とともに

    技術者の知恵がなくなってしまうと

    いうのは大変な危機です。現在は技

    術者の方の献身的な努力で各地域の

    水道・下水道が守られているわけで、

    本当に頭が下がる思いです。しかし、

    いずれはそういう仕事を私たちが受

    け継がなくてはいけないという使命

    感も生まれています。

    ―― 

    しかしながら、民が入ったか

    らといって、人数を増やせるという

    わけではありませんね。

     ですから広域化が必要です。官側

    の問題が解決したとしても、民側で

    利益が出なければ事業は持続できま

    せん。持続させるためには儲けを出

    さなくてはいけません。儲けを出す

    ということは、付加価値を認めても

    らうことと、継続できるという2つ

    の意味がありますから、これを実現

    するには広域化するしかないと思っ

    ています。広域化すれば管理する場

    所が離れてしまいますから、ICT

    (情報通信技術)で網羅する必要が出

    てきます。このあたりになると、I

    oT、AI(人工知能)、ビッグデー

    タといった次世代技術が活躍するフ

    ィールドになってくると思います。

    ―― 

    次世代技術による効率化も避

    けて通れない道だと。

     会社ができた08年ごろはクラウド

    という言葉もポピュラーではありま

    せんでしたし、ICTという表現も

    しませんでした。私たちは11年に業

    界初の、クラウドを使ったICTの

    プラットフォーム、ウォータービジ

    ネスクラウド(WBC)を発表しま

    したが、いまや学会や研究発表会、

    展示会に行くと、ほとんどがクラウ

    ドやICTの話になっています。I

    CTを活用した設備の維持管理、事

    業運営の分野では、私たちは先行で

    きています。しかし、次世代技術に

    関しては、新興勢力、まったく新し

    いコンセプトで新しいアイデアを持

    った人が出てくる可能性はおおいに

    あります。

     WBCは、上下水道のビジネスに

    関わるすべての方が情報共有できる

    「クラウド型プラットフォーム」とい

    うコンセプトで、データベースは富

    士通さん、IoTのところはNTT

    データさんと提携しながら進めてい

    ますし、オープンイノベーションと

    しても活用できるようにしています。

    ―― 

    水ビジネスについても新興ベ

    ンチャー企業が参入してくる可能性

    は十分ありますね。

     08年に会社ができて、18年3月期

    には売上高1300億円を目指して

    います。一方で、09年に設立された

    米Uberは売上高1兆3000億

    円。アイデアが世の中に受け入れら

    れれば、それだけ事業を伸ばすこと

    1,500

    1,200

    900

    600

    300

    0

    5261

    75 77 84 81

    54 62

    ’13/3期よりメタウォーターサービス株式会社とSPC(特別目的会社)3社、’14/3期よりMETAWATER USA, Inc.と 連結を開始

    単位:億円受注時期遅れ

    土木・建築工事遅れ等

    930

    861

    1,02

    093

    2

    923

    931

    1,06

    892

    8

    1,00

    11,

    123

    1,07

    01,

    055

    1,17

    21,

    069

    1,12

    41,

    030

    1,26

    01,

    120

    09/3期 10/3期 11/3期 12/3期 13/3期 14/3期 15/3期 16/3期 17/3期(予想)

    メタウォーターの業績推移

    82受注高 売上高 営業利益

    32http://boss-online.net

  • ができる。様々な規制があるものの、

    Uberは本当に必要としている人

    と人をマッチングさせるというのは

    素晴らしいアイデアです。私たちに、

    なぜそれができないのか。メタウォ

    ーターは水ビジネスのベンチャー企

    業だと思いますから、若い人から出

    てきたアイデアを吸い上げて、それ

    をシェアできるエコシステムのよう

    なものをつくらなくてはいけません。

    それができるのがWBCだと思って

    います。

    ―― 

    16年は米国の水処理エンジニ

    アリング会社「アクア

    エアロビック

    システムズ(AAS)」の買収など、

    海外事業も強化しました。今後もM

    &A等を進めていくのでしょうか。

     16年1月に米国の会社を買収しま

    して、4月からPLを連結しはじめ

    た段階です。まずは、これに集中し

    て、私たちが何をコントロールでき、

    何を学べるのかを整理していかなけ

    ればいけません。買収前にデューデ

    リジェンスをしますが、これを今後

    も続けていくことが重要で、何が上

    手く行くのかを確認しなければいけ

    ません。

     国によっては、蛇口から出る水は

    飲めなくてもよいという考え方もあ

    ります。クルマを洗う水は飲めなく

    てもよい、すべて飲める水にするの

    はエネルギーの無駄だというわけで

    す。しかし、飲める水と飲めない水

    のパイプを2本引くことは、社会イ

    ンフラとして多重投資になる可能性

    もありますから、価値観をしっかり

    見極めて海外事業を考えなくてはい

    けません。その意味では、普及させ

    ることを重視する新興国よりも、パ

    フォーマンスを重視する先進国のほ

    うが、私たちの技術に付加価値を見

    出しやすいと言えます。

     たとえばオランダのPWNテクノ

    ロジー社と業務提携をしていますが、

    同社は当社のセラミック膜を使った

    水処理システムで世界進出を進めて

    います。メタウォーターが海外に出

    る際、単に水の運営管理をしている

    会社というよりも、世界中で使われ

    るオゾン装置やセラミック膜といっ

    た技術力を持った会社であることを

    伝えたほうがわかりやすい。メーカ

    ーとして海外の会社に売り込むこと

    も、海外進出の入り口としては大事

    なことだと思います。

    ―― 

    中村社長は16年6月に社長に

    就任したばかりですが、今後の抱負

    について聞かせてください。

     先々代、先代の社長から私に引き

    継がれているもので、大事にしなけ

    ればいけないのは「人」です。それ

    を大前提にしたうえで、海外事業と

    民営化事業の2つに対応できる会社

    になっていかなければいけません。

     私としては、なるべく大きく広く

    モノを見るということをしなければ

    いけないと考えているところです。

    物事には、大きすぎて見えないもの、

    小さすぎて見えないものもあります。

    メタウォーターも会社が大きくなっ

    てきましたので、全体が見えにくく

    なってきています。そこを全体視す

    る力やイマジネーション等で補完し、

    水道・下水道の全体像を掴む、登場

    人物のそれぞれが何を持っていて、

    何を望んでいるのか、私たちにはど

    んな任務があるのかを探っている段

    階です。

     いまの水の現状、日本の現状、世

    界の現状をなるべく大きく捉え、当

    社に何ができて、何を協力してもら

    わなくてはいけないのか、全体を把

    握して成長させていきたいですね。

    (聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

    33 Monthly 2017.02