溶融 rbi-agi 及び rbi-cui 混合系のイオン伝導率の …œ¬研究では、溶融agi...

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平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ 論文題目 溶融 RbI-AgI 及び RbI-CuI 混合系のイオン伝導率の研究 Ionic conduction studies on molten RbI-AgI and RbI-CuI mixtures 物理学研究室 6 06P037 近藤 麻里絵 (指導教員:大野 教授)

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Page 1: 溶融 RbI-AgI 及び RbI-CuI 混合系のイオン伝導率の …œ¬研究では、溶融AgI 及び溶融CuI にRbI を混合することによってイオン伝導 がどのように変化するかを測定によって調べた。溶融RbI-AgI

平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

論文題目

溶融 RbI-AgI 及び RbI-CuI 混合系のイオン伝導率の研究

Ionic conduction studies on molten RbI-AgI and RbI-CuI mixtures

物理学研究室 6年

06P037 近藤 麻里絵

(指導教員:大野 智 教授)

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要 旨

超イオン導電体とは固体相である種のイオンのみが動き回ることのできる物質で

あり、固体と液体の中間的な性質を持っている。ここで考察する超イオン導電体は、

陰イオンが個体のように取り扱うことができる。一方、動く陽イオンが電気を多く運

べることから、溶融塩と同程度の電気伝導率を示すことが知られている。本研究では

超イオン導電体である AgI や CuI の溶融状態に、超イオン導電体ではない RbI を加

えることにより、イオンの伝導率がどのように変化するのかを調べた。

液体のイオン伝導率(σ)の測定方法を学び、まず溶融 RbI-AgI 混合系のσの温度依

存性及び組成依存性の測定を行った。また、溶融 RbI-CuI 混合系のσの温度依存性と

組成依存性の測定も行った。

σの温度依存性に注目すると、溶融(RbI)c(AgI)1-c 混合系も(RbI)c(CuI)1-c 混合系も、

ともに混合によって融点が下がる傾向にあり、低い温度領域ではσの温度変化が大き

い傾向が見られる。一方、高い温度領域ではσの温度変化は小さい傾向が見られた。

σの組成依存性に注目すると、溶融(RbI)c(AgI)1-c 混合系も(RbI)c(CuI)1-c 混合系も、

RbI の組成 c が増えるに従って直線的に減尐するわけではなく、 4.0c まで曲線的に

比較的急激な減尐が観測されるのに対し、 14.0 ~c では変化が小さいことが分かっ

た。この原因の 1 つとしては、例えば 4.00~c の範囲では Ag イオン同士の相関が

強く働いているのに対して、 14.0 ~c では弱くなっていることなどが考えられる。

このことは CuI と AgI が超イオン導電体であるという観点から伝導率の活性化エネ

ルギーを求め検討を加えた。

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キーワード

1.超イオン導電体 2.超イオン導電メルト 3.AgI

4.RbI-AgI 混合系 5.CuI 6.RbI-CuI 混合系

7.イオン伝導率 8.アレニウス・プロット 9.活性化エネルギー

10. 11. 12.

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目 次

1.研究背景と研究目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

3.実験結果と議論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

4.結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

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論 文

1.研究背景と目的

イオンチャネルは生体膜を貫通するタンパク質で、刺激に応じてイオンの出入り

を調節し、細胞に電気信号を発生させる。この信号は活動電位のように直接応答し

て使われるものもあるが、ほとんどは細胞内メッセンジャーとして機能し様々な細

胞応答を導く。つまりイオンチャネルは刺激を細胞内信号に変換するトランスデュ

ーサー分子である。イオンチャネルは全ての細胞に発現していて、細胞応答のあら

ゆる場面にかかわる重要な分子のひとつである。以前は生理学の研究対象であった

「イオンチャネル」は、現在では薬理学、生化学、分子生物学、細胞生物学、分子

遺伝学といった種々の基礎研究分野における重要な研究対象となっているだけで

なく、得られた知識、技術を臨床の場に還元する土台も出来上がりつつあり、実際、

臨床医学の分野においても重要な研究対象となってきている。

イオンチャネルを標的にした創薬の目的は、イオンの移動を調節すること、つま

りイオンの細胞内外への入りやすさ、出て行きやすさを調節するということである。

これをコントロールするにはイオンチャネルの開閉の制御が必要となる。開いてい

るイオンチャネル内に動いている特定のイオンを伝導させるための環境作りも薬

の効く速さに関与し重要である。そのためにはイオン伝導のしやすい環境、しにく

い環境におけるイオン間に働いている相互作用など、イオン伝導のメカニズムを調

べる基礎研究が大切であると考えられる。

そこで、イオン伝導現象とイオン間相互作用が重要な系のモデルシステムとして

超イオン導電体に注目している。超イオン導電体とは固体相である種のイオンのみ

が動き回ることのできる物質であり、固体と液体の中間的な性質を持っている。超

イオン導電体は固体のように取り扱うことができる一方、動くイオンが電気を運べ

ることから、溶融塩と同程度の電気伝導率を示すことが知られている。工業的には

液漏れのない燃料電池材料として利点に注目が集まっている。また電気化学センサ

ーの材料としても使われている。しかし、なぜイオンが動くことができるのかとい

う基礎科学的な疑問に対し決定的な答えは見出されていないのが現状であり、研究

対象になっている。

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典型的によく知られている超イオン導電体の一つに AgI という物質があり、

147℃以上になると Ag イオンのみが動き始める。Tahara ら[1]はこれまでに AgI

の液体状態について、実験とシミュレーションから構造モデルを導出している(図

1.1 参照)。その結果、Ag イオンどうしが近づき連動して運動している可能性を示

唆する結果が得られた。プラスの電荷を持つ Ag イオンどうしが近づくことは常識

的に考えにくいが、理論研究者の指摘によれば[2,3]Ag-Ag 間の共有結合性の存在

や I イオンの分極効果などを考慮すると、実験結果をうまく再現することが分かっ

てきており、伝導メカニズムの解明に徐々に近づきつつあると考えられる。

図1.1 溶融AgIの構造モデル。水色と紫色の球はそれぞれAgイオンとIイオンを

表している。

CuI という物質も AgI と同様に超イオン導電体の一種であり、高温固体相では

Cu イオンが動き回っているという点で AgI と深い共通性を持っている。

本研究では、溶融 AgI 及び溶融 CuI に RbI を混合することによってイオン伝導

がどのように変化するかを測定によって調べた。溶融 RbI-AgI 混合系と RbI-CuI

混合系を比較し、どういうところに相違性や共通性があるのかを調べることを目的

としている。

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2.実験方法

2.1 試料セルの作成

内径 4mm の肉厚な石英セルを 14cm の長さに切り、28mm の間隔に 4 つ印を

つけ超音波ドリルを用いて穴をあける(図 2.1)。あけた 4 つの穴を研磨剤で磨い

て洗浄し、セルの底をふさぐ。内径 1mm のセルを 30cm の長さに切り、肉厚な

セルとつなぎ、セルの先端をバーナーであぶる。4 つの穴にあらかじめ研いでお

いた炭素ピンをそれぞれ入れ、ニッケルのバンドをナットとネジを使ってそれぞ

れとめる。(図 2.2)

図 2.1 試料セルの図

図 2.2 バンドをした試料セルの図

2.2 実験システム

交流の電気伝導度測定は冷却過程の下、ケミカルインピーダンスメーター

3532-80(HIOKI)を用いて 4 端子で行った。イオン電導度測定を行うための実験

システムを組み立てる。測定システムの構成の略図を示す(2.3)。交流の電気伝導

度測定(4Hz~1MHz)はケミカルインピーダンスメーターを用いて行うことがで

きる。ケミカルインピーダンスメーターは RS-232C ケーブルを通して PC で制

御される。試料と化学インピーダンスは 4 つの探針でつながれている。試料の周

りの加熱器は KANTHAL 抵抗線で作られており、室温から試料の温度約 1000℃

まで試料の温度制御はサイリスタレギュレーターにより行われる。

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図 2.3 測定システムの構成の概略図

このシステムでは直流電源、ナノボルトメーター34420A、標準抵抗を用いて

直流の電気伝導度測定も行った。これらの交流や直流の測定は Visual Basic

2008 というソフトウェアを用いた物理学研究室が開発したプログラムで行った。

これらのシステムの実験写真は図 2.4~図 2.8 示す。

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図 2.4 イオン伝導率測定装置の写真

(a)インピーダンスメーター、(b)ナノボルトメーター34420A、(c)PC、(d)温度コン

トローラー、(e)直流電源、(f)標準抵抗、(g)サイレスタレギュレーター、(h)リレ

ーボード

図 2.5 KANTHAL 加熱器 図 2.6 真空システムと He ガスシステム

(a)ロータリーポンプ、(b)拡散ポンプ

(c)He ガスボンベ、(d)真空計

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図 2.7 試料セルをセットした周辺写真 図 2.8 試料セルをセットした周辺の模式図

(a)石英セル、(b)穴、(c)炭素電極、(d)Ni 板

(e)Mo のバンド、(f)Mo のリード線

炭素電極は液体試料の漏れを防ぐために 0.15mm のニッケル板を内側に入れて

モリブデンのバンドで固定し、それぞれのモリブデンバンドにはモリブデンのリー

ド線を挟むことで各電極とケミカルインピーダンスメーターを接続している(図

2.8)。4 つの電極のうち 2 つは外部から電流を供給し、残りの 2 つは内部の電圧を

測定した。温度は電極のすぐ上の 4 つのクロメル-アルメル熱電温度計で測定した。

2.3 補正

2.3.1 オープン補正

試料セルを天板固定用アングルへセットし、ケミカルインピーダンスメータ

ーを用いて測定する。あらかじめ電流線をバンドでしっかり留め、切り替えレ

バーを交流にしておく。このときむき出しの導線が他の導線に触れると正確な

値が出ないので気をつける。

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2.3.2 ショート補正

試料セルを天板固定用アングルへセットし、アルメル線を試料セルのバンド

の間に挟み接触させケーブルどうしを導通する。ショート補正もケミカルイン

ピーダンスメーターを用いて測定する。

これらの補正はケーブルの長さや材質、機器自体の誤差などといった試料以

外からくる誤差を軽減させるために行う。

2.4 セル係数の測定

まず濃度 76.5829g KCl/kg H2O の KCl 溶液を調製し、試料セルに入れる。こ

の時気泡ができてしまうと正確なセル係数が求められなくなるため、セルを尐し

傾け状態で KCl 溶液を入れたり、針金などを用いて気泡を潰す。KCl 溶液を入

れた試料セルを天板固定用アングルにセットし、ケミカルインピーダンスメータ

ーに L=1.5 交流周波数に 1000kHz を入力し、σを求める。求めたσの値と測定

時の温度を用いて L’(セル定数)の値を求める。求めたセル定数の 1/10 の値をケ

ミカルインピーダンスメーターにセーブしておく。

本研究で用いたケミカルインピーダンスメーターは、固体の測定を想定してい

ることから、試料断面積 S と試料の長さ L を入力すると、σを自動的に計算す

る仕様になっている。液体を測定する場合、S と L を正確に測るのは難しいので、

セル定数βを求める工夫が必要になる。その工夫とは、仮に試料の断面積 S が

1mm2であると仮定した状態で、KCl 水溶液を試料セルへ入れ、σが文献値と一

致するようにβを決める。β=L/S なので、S=1 の仮定のもとでは、L の値がβ

の値と等価になるはずである。つまり、ケミカルインピーダンスにはこの L の

値と S=1 を入力することで、βを入力したことになり、液体のσの測定も行え

るようになる。

2.5 試料の準備

(RbI)c(AgI)1-c(c=0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.667、1)と(RbI)c(CuI)1-c(c=0、0.1、0.2、

0.4、0.667、1)の混合物の試料は、RbIとAgIまたはRbIとCuIの粉末試料を1mg

の精度で秤量・混合し、セルに注意深く入れた。

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2.6 測定

試料を入れた試料セルとシリカ製のかきまぜ棒を天板固定用アングルにセッ

トする。温度計で測定可能か確認する。絶縁用の繊維チューブと針金で導線や温

度センサーをまとめ、導線どうしが触れ合っていないかテスターでチェックする。

導線どうしが触れ合っていないことが確認できたら、導線がはずれないように気

をつけながら天板を電気炉に移す。もう一度導線どうしが触れ合っていないかテ

スターでチェックする。天板を固定するネジが緩いと気圧が下がらなくなるので

きつく留め、電気炉内を真空にする。温度コントローラーを用いて 30 分で 100℃

まで上がるように調節する。100℃に達したら Ar ガスを入れ、800℃程度まで上

げる(物質によって若干異なる)。温度があがったら、切り替えレバーが交流にな

っていることを確認し温度を下げながら交流を測定する。モリブデンのリード線

の酸化と試料の気化を防ぐために Ar 存在下で行った。測定中、液体サンプルの

中に気泡ができてしまった場合正確な値が求められないので、シリカ製のかきま

ぜ棒で除去した。

2.7 試料サイズの補正

イオン伝導率はσで表わされ、V

I

V

I

S

Lβ・・σ で求められる。L は試料セル

の長さ、S は試料セルの断面、βはセル定数であり、I と V はそれぞれ試料に与

える電流と電圧である。βは試料セルのサイズに依存することから標準溶液

(KCl)を用いて求められる。この研究ではβは約 0.04545/cm と 0.38461/cm の間

である。

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3.実験結果と議論

3.1 溶融 RbI-AgI 混合系のイオン伝導率の温度依存性

図 3.1 に溶融(RbI)c(AgI)1-c 混合系のイオン伝導率、σ の温度依存性を示す。溶

融AgIの σの値はおよそ 2.5(S/cm)で、過去の文献データと良く一致した[4]。また、

溶融相から超イオン導電相へ相転移する 555℃付近でイオン電導率の急激な上昇

もこれまでの報告と同じ傾向である[4]。この上昇は、I イオンが体心立方格子を組

むことで、Ag イオンの伝導パスができることが関係していることが考えられる。

溶融(RbI)0.1(AgI)0.9の σ は溶融 AgI よりも値が小さいことが分かった。σ の温度依

存性は溶融 AgI ではほぼ直線的であるのに対し、 1.0c では曲線的な傾向を示す

ことが分かった。この系の相図で指摘されているように、融点は溶融 AgI よりも

低い 460℃付近であることが確認できた。低い温度領域では σ の温度変化が大きい

傾向がみられる一方、高い温度領域では σ の温度変化は小さい傾向がみられた。

1.0c の融点以下では σ の急激な減尐はみられなかった。相図によると、この組成

の融点直下は AgI の超イオン電導相と液体の混合状態であり、Ag の電導も σ に寄

与していると考えられるものの、AgI のような融点における σ の急激な上昇も見ら

れなかった。

3.2 溶融 RbI-CuI 混合系のイオン伝導率の温度依存性

図 3.2 に溶融(RbI)c(AgI)1-c混合系のσの温度依存性を示す。溶融 CuI のσはお

よそ 2.0(S/cm)であり、文献値とよく一致した[5]。溶融 RbI-AgI 混合系と同様、

σの値は RbI の混合の割合が増えるに従って減尐する傾向にあることが分かっ

た。RbI を混合することによって、速く動く Cu を比較的遅い Rb に置換してい

ることに対応していると考えれば、理解できる傾向である。ただし、 667.0c で

のσは溶融 RbI よりも値が尐し低い点は上記の考え方が当てはまらない。これ

は尐量の Cu の存在が Cu-Rb 間の共有結合を形成しやすい状態にしていて、Rb

の運動を阻害している可能性を示唆しており、興味深い結果である。この点は、

溶融 RbI-AgI 混合系と違いが見られる。溶融 CuI のσの温度依存性はほぼ直線

的であるのに対し、RbI と混合するとやや曲線的な傾向を示すことが分かった。

融点付近の振る舞いに注目すると、 1.0c と 667.0c では温度に対して緩やかに

減尐する特徴的な傾向がみられた。

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図 3.1 溶融 RbI 混合系の電気伝導率の温度依存性。図中の矢印は融点(melting

point)を表している。

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図 3.2 溶融 RbI-CuI 混合系の電気伝導率の温度依存性。図中の矢印は融点

(melting point)を表している。

3.3 溶融 RbI-AgI 混合系のイオン伝導率の組成依存性

溶融 RbI-AgI 混合系のイオン伝導率(σ)の組成依存性を図 3.3 に示す。温度ご

とのプロットも 850℃、700℃、570℃、450℃、300℃の各点で示している。温度

によってはプロットされているデータ点が尐ないが、組成によっては固体になっ

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ており、液体のデータが測定できないためである。例えば 300℃の 1.0c のデー

タなどがプロットされていないが、この組成の融点はおよそ 465℃であり、300℃

では固体になっているため、液体としてのデータはない。

単純に考えれば、溶融 AgI に RbI を混合していくことは、Ag イオンを Rb イ

オンに取り替えていくことに相当するため、RbI の組成が高くなればなるほど、

イオン伝導率は低くなることが予想できる。実際の測定データは、図 3.3 からわ

かるように、σの組成変化は直線的減尐でなく、曲線的な減尐を示しており、

1~4.0c では、ほとんど変化がないことが分かる。このことは、イオン伝導率

の減尐が動きの遅いRbの数だけでなく他の要因にも起因している可能性を示唆

している。例えば、 4.0~0c の範囲では Ag イオンどうしの相関が強く働いて

いるに対して、 1~4.0c では弱くなっていることなどが考えられる。

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図 3.3 溶融RbI-AgI混合系の電気伝導率の組成依存性。850℃、700℃、570℃、

450℃、300℃での結果について示している。

3.4 溶融 RbI-CuI 混合系のイオン伝導率の組成依存性

溶融 RbI-CuI 混合系のイオン伝導率(σ)の組成依存性を図 3.3 に示す。温度

ごとのプロットも 800℃、700℃、600℃、500℃の各点で示している。温度の低い

領域でデータ点が欠けている理由は、溶融 RbI-AgI 混合系と同じである。溶融

CuI のσは、やはり RbI よりも高く、Cu が速く動いていると考えられる。

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σの組成依存性を見ると、溶融 RbI-AgI 混合系と同様、直線的な減尐ではな

く、 4.0c まで曲線的に比較的急激な減尐が観測されるのに対し、 1~4.0c で

は変化が小さいことが分かる。特に、800℃のデータでは 5.0c 、付近に最小値

が観測されることが特徴的である。Cu イオンと Rb イオンが半々の濃度ではお

互いの動きを阻害している可能性が原因の一つとして考えられる。 1~5.0c の

組成範囲では、Cu イオンよりも遅く動きそうな Rb イオンで Cu イオンを取り

替えると、かえってσが高くなるという点が、常識的に考えた場合の逆の振る舞

いをしており、興味深い結果である。この最小値は 700℃以下の温度では見られ

ないことがわかる。この最小値以外の振る舞いは、およそ溶融 RbI-AgI 混合系

と同様であり、CuI が AgI と超イオン導電体であるという共通点を考えると、

理解しやすい。

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図 3.4 溶融 RbI-CuI 混合系の電気伝導率の組成依存性。800℃、700℃、600℃、

500℃での結果について示している。

3.5 議論

まず、AgI と RbI についての分子動力学の計算結果から定性的に考察する。図

3.3と 3.4で 700℃の同じ温度のデータに注目すると、図 3.3から溶融AgI( 0c )

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のσは 2.48(S/cm)であるのに対し、溶融 RbI( 0c )のσは 0.840(S/cm)と比較的

低い値を示し、およそ 3.0 倍の差がある。また図 3.4 で、700℃から溶融CuI( 0c )

のσは 1.87(S/cm)であるのに対し、溶融 RbI( 0c )のσは 0.824(S/cm)の値を示

し、およそ 2.3 倍の差がある。溶融 AgI についての古典分子動力学(MD)シミュ

レーションによると、Ag イオンは I イオンに比べて 5 倍程度の高い拡散係数を

持ち、速く動いていることが指摘されている[3]。このことから、AgI は液体状

態になっても、比較的ゆっくり動く I イオンのまわりを Ag イオンが高速に動い

ている様子がイメージでき、超イオン導電相での性質とよく似ている。一方、溶

融 RbI の MD シミュレーションによると、Rb イオンは I イオンに比べて 1.5 倍

程度の高い拡散係数を持ってはいるものの、AgI の Ag イオンほど速くは動いて

いない[6]。CuI は AgI 同様、超イオン導電体であり、σの値は AgI ほど大きく

はないが Cu イオンは Ag イオンとほぼ同じような動きをすると考えられる。

一般的に溶融塩等のイオン伝導率σは

)/exp( TkEaAT Bσ・

と書かれる。ここで、Ea は活性化エネルギー、kBはボルツマン定数をそれぞれ

表している。活性化エネルギーはイオンの移動に対するエネルギー障壁の高さを

表す値であり、イオンの移動のしやすさの目安になる。超イオン導電体や溶融塩

などイオンの移動が起こる系では、lnσT を 1000/T に対してプロットした、い

わゆるアレニウス・プロットの傾きから活性化エネルギーを導出することができ

る。今回イオン伝導率を測定した溶融 RbI-AgI 及び RbI-CuI 混合系のアレニウ

ス・プロットを、図 3.5 と図 3.6 にそれぞれ示している。どちらの混合系も、RbI

の濃度が高くなるにつれて、傾きは小さくなる傾向が見られる。

これらの傾きから導出した活性化エネルギーの組成依存性を図 3.7 に示して

いる。溶融 RbI-AgI も RbI-CuI 混合系も、RbI の濃度の増加とともに活性化エ

ネルギーが増加する傾向があり、イオンの動きに対するエネルギー障壁が高くな

っていくことがわかる。ただし、RbI-AgI 混合系では 1~667.0c の領域でほぼ

一定になるのに対し、RbI-CuI 混合系では 14.0 ~c の組成領域でほぼ一定にな

ることがわかる。また、全体的に RbI-CuI 混合系の方が、活性化エネルギーは

高い傾向が見られることがわかった。一般的にイオン半径が小さい Cu が速く、

Ag が遅く伝導すると考えられる。これは Cu と I とのイオンの結合の強さなど

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が関係していて、その結合を切るためにエネルギーが必要となる可能性などが示

唆され、そのために RbI-CuI 混合系の方が活性化エネルギーが高くなったと考

えられる。この違いは Ag イオンの方が Cu イオンよりも動きやすいことを意味

しており、イオン伝導度の違いとも対応している。

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図 3.5 溶融 RbI-AgI 混合系の電気伝導率のアレニウスプロット。

図 3.6 溶融 RbI-CuI 混合系の電気伝導率のアレニウスプロット。

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図 3.7 溶融 RbI-AgI 及び RbI-CuI 混合系の活性化エネルギーの組成依存性。

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4.結論

本研究では、液体のイオン伝導率(σ)の測定方法を学び、溶融 RbI-AgI 混合系の

σの温度依存性及び組成依存性の測定を行った。また、溶融 RbCl-AgCl 混合系の

σの温度依存性と組成依存性の測定も行った。

溶融 RbI、AgI、CuI のσの温度依存性は既に測定されたデータがあるので、今

回の実験データと比較すると良い一致が得られた。このことから、本研究でのσの

測定方法などに問題はないと考えられる。

<σの温度依存性について>

溶融(RbI)c(AgI)1-c 混合系も(RbI)c(CuI)1-c 混合系も、ともに混合によって融点

が下がる傾向にあり、低い温度領域ではσの温度変化が大きい傾向が見られる一

方、高い温度領域ではσの温度変化は小さい傾向が見られた。

<σの組成依存性について>

溶融(RbI)c(AgI)1-c 混合系も(RbI)c(CuI)1-c 混合系も、RbI の組成 c が増えるに従

ってσが直線的に減尐するわけではなく、 4.0c まで曲線的に比較的急激な減尐

が観測されるのに対し、 1~4.0c では変化が小さいことがわかった。この原因

の一つとしては、例えば、 4.0~0c の範囲では Ag イオンどうしの相関が強く

働いているに対して、 1~4.0c では弱くなっていることなどが考えられる。こ

のことは、CuI と AgI が超イオン導電体であるという共通点を考えると理解し

やすい。

<活性化エネルギーの組成依存性について>

イオン伝導率のアレニウスプロットから活性化エネルギーを導出した結果、溶

融 RbI-AgI も RbI-CuI 混合系も、RbI の濃度の増加とともに活性化エネルギー

が増加する傾向があり、イオンの動きに対するエネルギー障壁が高くなっていく

ことがわかる。ただし、RbI-AgI 混合系では 0.667<c<1 の領域でほぼ一定にな

るのに対し、RbI-CuI 混合系では 0.4<c<1 の組成領域でほぼ一定になることが

わかる。また、全体的に RbI-CuI 混合系の方が、活性化エネルギーは高い傾向

が見られることがわかった。この違いは Ag イオンの方が Cu イオンよりも動き

やすいことを意味しており、イオン伝導度の違いとも対応している。

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謝 辞

卒業研究を行うにあたり、ご指導して頂いた大野智教授と琉球大学理学部物質地

球科学科の田原周太助教に心より感謝します。

又、本研究を行うにあたりご協力くださいました副査の臨床薬剤学研究室の河野

健治教授、同研究室の瀬野君、山本君、武者君、先輩後輩の方々みなさんに深く感

謝します。

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引 用 文 献

[1] S. Tahara, H. Ueno, K. Ohara, Y. Kawakita, S. Kohara, S. Ohno and S. Takeda J. Phys.:

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[2] F. Shimojo, T. Inoue, M. Aniya, T. Sugahara and Y. Miyata 2006 J. Phys. Soc. Japan

75 114602

[3] V. Bitrián and J. Trullás 2008 J. Phys. Chem. B 112 1718

[4] K. Ishida, S. Ohno, T. Okada, 1999 J Non-Crystaline solids, 250-252 488

[5] G. Janz 1967 Molten salts handbook, Academic Press in New York, New York

[6] G. Ciccotti, G. Jacucci, and I. R. McDonald, Phys. Rev. A 13 426 (1976)