久米島真謝方言動詞の活用 - 法政大学学術機関リポジ...

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69久米島真謝方言動詞の活用 仲 原 0.調査地および調査概況 久米島は島嶼県沖縄の中でも5番目に大きな島である。『沖縄県市町村概要(平成153月)』(沖縄県市町村振興協会発行、 2003年)によると、久米島町の人口は20023月現 在で9,484人(3,638世帯)である。主要農作物は、さとうきび・肉用牛・葉たばこ、特産物 は久米島紬・泡盛・クルマエビ・久米島みそである。 20024月に仲里村と具志川村が合併 して久米島町となった。現在、学校は幼稚園が6箇所、小学校が6校、中学校が4校、高 等学校が1校ある。 久米島は、那覇市から西へ約100kmの海上にあり、その間には渡名喜島、粟国島、慶 良間諸島、渡嘉敷島などが連なる。那覇から久米島へ行くには、フェリーで約4時間半、 高速船で約2時間、飛行機で約30分を要する。先行研究の方言区画では、久米島は沖縄 中南部方言と同じ「南沖縄方言」に属している ( 1 ) 真謝(方言でマーザ[ma dza])は、久米島の中でも比較的大きな集落であり、かつては 間切の蔵元が置かれていた。島の東方に位置しており、真謝集落の北西には阿嘉集落が あり、東南は宇根集落と接している。西側にはフサキナ山やトゥンナハ山が連なり、東 方にはかつて那覇との往来に用いられたという話も伝わる真謝港が広がっている。集落 の人々の主な産業は農業と久米島紬である。真謝方言の音韻や助詞・助動詞の研究として は、嘉味田(1962)や野原三義(1985)、仲原(199920012002)などがある。 今回は動詞の語形替変(活用)について、形態論的分析をもとに記述し、分類してみた い。真謝方言の動詞の記述的研究にはこれまでに嘉味田宗栄氏、屋比久浩氏の研究があ る。嘉味田(1962)では、動詞の活用形を未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命 令形の6活用形に設定している。しかし、語幹や活用の分類は示されていない。屋比久 (1982)では、語幹を「単純語幹」と「合成語幹」に大別し、合成語幹を一次派生語幹と 二次派生語幹に下位区分している。また、語幹につく「接辞」を三つに分類し、分析を 加えている。ただ、残念なことに話者を明記していないため、中心的な話者とみられる 真謝出身の二人以外にどの集落の話者が含まれているか判然としない。これらの先行研 究に学びつつ、真謝方言の活用を構文論的観点から記述し分析してみたい。 当該方言の調査は、 19959月から19981月にかけて実施した。被調査者はUK氏(男 性。1923年生。農業)、NH氏(男性。1922年生。元教員)、MK氏(女性。1914生。機 織り)である。三人とも言語形成期を真謝で過ごし、その両親とも真謝の出身である。 Hosei University Repository

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久米島真謝方言動詞の活用

仲 原 穣

0.調査地および調査概況

久米島は島嶼県沖縄の中でも5番目に大きな島である。『沖縄県市町村概要(平成15年

3月)』(沖縄県市町村振興協会発行、2003年)によると、久米島町の人口は2002年3月現

在で9,484人(3,638世帯)である。主要農作物は、さとうきび・肉用牛・葉たばこ、特産物

は久米島紬・泡盛・クルマエビ・久米島みそである。2002年4月に仲里村と具志川村が合併

して久米島町となった。現在、学校は幼稚園が6箇所、小学校が6校、中学校が4校、高

等学校が1校ある。

久米島は、那覇市から西へ約100kmの海上にあり、その間には渡名喜島、粟国島、慶

良間諸島、渡嘉敷島などが連なる。那覇から久米島へ行くには、フェリーで約4時間半、

高速船で約2時間、飛行機で約30分を要する。先行研究の方言区画では、久米島は沖縄

中南部方言と同じ「南沖縄方言」に属している(1)。

真謝(方言でマーザ[ma dza])は、久米島の中でも比較的大きな集落であり、かつては

間切の蔵元が置かれていた。島の東方に位置しており、真謝集落の北西には阿嘉集落が

あり、東南は宇根集落と接している。西側にはフサキナ山やトゥンナハ山が連なり、東

方にはかつて那覇との往来に用いられたという話も伝わる真謝港が広がっている。集落

の人々の主な産業は農業と久米島紬である。真謝方言の音韻や助詞・助動詞の研究として

は、嘉味田(1962)や野原三義(1985)、仲原(1999、2001、2002)などがある。

今回は動詞の語形替変(活用)について、形態論的分析をもとに記述し、分類してみた

い。真謝方言の動詞の記述的研究にはこれまでに嘉味田宗栄氏、屋比久浩氏の研究があ

る。嘉味田(1962)では、動詞の活用形を未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命

令形の6活用形に設定している。しかし、語幹や活用の分類は示されていない。屋比久

(1982)では、語幹を「単純語幹」と「合成語幹」に大別し、合成語幹を一次派生語幹と

二次派生語幹に下位区分している。また、語幹につく「接辞」を三つに分類し、分析を

加えている。ただ、残念なことに話者を明記していないため、中心的な話者とみられる

真謝出身の二人以外にどの集落の話者が含まれているか判然としない。これらの先行研

究に学びつつ、真謝方言の活用を構文論的観点から記述し分析してみたい。

当該方言の調査は、1995年9月から1998年1月にかけて実施した。被調査者はU.K氏(男

性。1923年生。農業)、N.H氏(男性。1922年生。元教員)、M.K氏(女性。1914生。機

織り)である。三人とも言語形成期を真謝で過ごし、その両親とも真謝の出身である。

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1.各活用形の意義・職能

真謝方言の動詞が、その切れ続きにおいて語形替変を起こす際の、各活用形に下接す

る詞、辞、接辞等の意義・職能を以下に示す。なお、形式が言い切りとなる場合は[ . ]、

中止する場合は[ , ]、さらに下接する場合は[ - ]の記号を用いる。また、下接する接

辞類がない場合は「 φ 」で示す。

1.1.志向形に下接する主な接辞類

(1)-φ. そのままの形で言い切りとなり、勧誘を表す。

(2)[-ja ](~よ)

(3)[-ni](~か)

1.2.未然形に下接する主な接辞類

(1)[-n-](~ない)が下接し、否定を表す。

(2)[-Φun-](~せる)が下接し、使役を表す。

(3)[-rin-](~れる)が下接し、可能・受け身を表す。

1.3.条件形1に下接する主な接辞類

(1)[-ba-]または[-ba -](~ば)が下接し、仮定条件の構文を表す。

1.4.命令形1に下接する主な接辞類

(1)[-ba.](~よ。)が下接し、命令を表す。待遇度は「+1」で緩やかな命令を表す。

(2)-φ.そのままの形で命令を表す。待遇度は「0」である。

(3)[-wa.](~よ。)が下接し、命令を表す。待遇度は「-1」で強い命令を表す。

1.5.命令形2に下接する主な接辞類

(1)-φ.そのままの形で命令を表す。待遇度は「-1」でややぞんざいな命令を表す。

1.6.連用形に下接する主な接辞類

(1)動詞が下接する。

(2)助動詞が下接する。

[-bu san-] (~したい)が下接し、願望を表す。

[-je san-] (~やすい)が下接し、容易な様子を表す。

[-gurisan-] (~しにくい)が下接し、困難な様子を表す。

[-gisan-] (~そうだ)が下接し、態度や様子を表す。

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(3)助詞が下接する。

[-bit i -] (~べき)が下接し、当然・義務を表す。

[-ru-] (~ぞ)が下接し、文末に「する」のru係結形[-suru.]で強調の構文

となる。

[-n-] (~も)が下接し、強調を表す。

[-nt o ] (~さえ)が下接し、強調を表す。

1.7.条件形2に下接する主な接辞類

(1)[-baru-](~ばぞ)が下接し、文末を連体で終止し、(~したので~)という確定条

件の構文を表す。

1.8.ru係結形に下接する主な接辞類

(1)上接の係助詞[-ru-]と呼応して強調を表す。

1.9.連体形に下接する主な接辞類

(1)[-tu○t i-](~時)、[-t u-]または[-tsu-](~人)などの体言が下接する。

1.10.ga係結形に下接する主な接辞類

(1)上接の係助詞[-ga-]と呼応して疑問を表す。

1.11.終止形に下接する主な接辞類

(1)-φ. そのままの形で終止を表す。

(2)[-ro .] (~ぞ。)が下接し、念押しを表す。

(3)[-na.] (~か。)が下接し、疑問を表す。

1.12.準体形に下接する主な接辞類

準体助詞が下接する。

(1)[-he -] (~のは)が下接する。

(2)[-ga.] (~が)が下接し、上接の疑問代名詞と呼応する形で疑問文をつくる。

(3)[-kutu-] (~から)が下接し、順接の構文をつくる。

(4)[- iga-] (~けど)が下接し、逆接の構文をつくる。

(5)[-mi.] (~か)が下接し、疑問の代名詞を伴わなくとも疑問文をつくることが

できる。

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1.13.接続形に下接する主な接辞類

(1)[-kara-](~から)が下接し、動作の順序を表す。

2.活用の分類

真謝方言の活用は、表1のように分類される。

○表1

基本語幹 連用語幹 派生語幹 音便語幹

甲 乙

一 C C C CV C

二 C C C CSV CVC

三 CVCS CVCS CVC CVCSV CVC

四 C C CV CV C

五 C C C CVV CVC

六 CVC CVC C CVV CVVC

七 k k c cuu c

3.活用表

真謝方言の動詞の活用は、表2のようになる。

○表2-1 一のA類

志向形 未然形 条件形1 命令形1 命令形2 連用形

書 く ka ka kaka kaka kaki kake kat i

漕 ぐ ku ga kuga kuga kugi kuge kud i

立 つ ta ta tata tata tati tate tat i

殺 す kuruha kuruha kuruha kuru i kuruhe kurut i

す る sa sa sa i se i

眠 る ninra ninra ninra ninri ninre nind i

括 る kunra kunra kunra kunri kunre kunt i

条件形2 終止形 連体形 ru係結形 ga係結形 準体形

書 く kat i katsuN katsunu katsuru katsura katsu

漕 ぐ kud i kud uN kudzunu kundzuru kudzura kud u

立 つ tati tatsuN tatsunu tat uru tatsura tat u

殺 す kuru kuruΦuN kuruΦunu kuruΦuru kuruΦura kuruΦu

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す る i su sunu suru sura su

眠 る nind i nind u nind unu nind uru nind ura nind u

括 る kund i kund u kund unu kund uru kund ura kund u

接続形

書 く ka t i

漕 ぐ ku d i

立 つ tatt i

殺 す ninti

す る i

眠 る kunt i

括 る kurut i

○表2-2 一のB類

志向形 未然形 条件形1 命令形 命令形2 連用形

飛 ぶ tuba tuba tuba tubi tube tubi

死 ぬ ina ina ini ini ine ini

飲 む nu ma num numa numi nume numi

読 む juma juma juma jumi jume jumi

条件形2 終止形 連体形 ru係結形 ga係結形 準体形

飛 ぶ tubi tubi tubunu tuburu tubura tubu

死 ぬ ini ini iniru iniru iniru ini

飲 む numi numi numinu numiru numiru numi

読 む jumi jumi juminu jumiru jumiru jumi

接続形

飛 ぶ tu di

死 ぬ id i

飲 む nu ri

読 む ju di

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○表2-3 二類

志向形 未然形 条件形1 命令形1 命令形2 連用形

切 る t ira t ira t ira t iri t ire t i

売 る ( )ura ( )ura ( )ura ( )uri ( )ure ( )ui

集める ( )at imira ( )at imira ( )at imira ( )at imiri ( )at imire ( )at imiri

煮 る nira nira nira niri nire ni

条件形2 終止形 連体形 ru係結形 ga係結形 準体形

切 る t iri t ijuN t ijunu t ijuru t ijura t iju

売 る ( )uri ( )ujuN ( )ujunu ( )ujuru ( )ujura ( )uju

集める ( )at imiri ( )at imiju ( )at imijunu ( )at imijuru ( )at imijura ( )at imiju

煮 る niri niju nijunu nijuru nijura niju

接続形

切 る t i t i

売 る ( )uti

集める ( )at imiti

煮 る nit i

○表2-4 三・四・五・六・七類

志向形 未然形 条件形1 命令形1 命令形2 連用形

言 う ( )a ja ( )aja - ( )aji ( )aje ( )ai

見 る n ra nra nra nri nre mi

笑 う wara wara ware ra ware ware ware

居 る ( )ura ( )ura ( )u ( )uri ( )ure ( )ui

あ る - ( )ara ( )a - - -

来 る - ku ku ku ku t i

条件形2 終止形 連体形 ru係結形 ga係結形 準体形

言 う ( )ai ( )aju ( )ajnu ( )airu ( )ajura ( )aju

見 る nri mi mi nu mi ru mi ra mi

笑 う ware ware ware nu ware ru ware ra ware

居 る ( )ui ( )u ( )u nu ( )u ru ( )u ra ( )u

あ る ( )ari ( )a ( )a nu ( )a ru ( )a ra ( )a

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来 る ku t u t u nu t u ru t u ra t u

接続形

言 う ( )ant i

見 る n t i

笑 う warati

居 る ( )uti

あ る ( )a ti

来 る t i

4.活用形の用例

以下、各類の代表的な動詞の活用文例を示す。

基本語幹(甲)を含む活用形

4.1.志向形(2)

(1)言い切りで勧誘を表す。

mand o na ku ga (一緒に漕ごう)

mand o na ta ta (一緒に立とう)

mand o na kuruha (一緒に殺そう)

mand o na ninra (一緒に眠ろう)

mand o na kunra (一緒に括ろう)

mand o na sa (一緒にしよう)

mand o na tuba (一緒に飛ぼう)

wanro mand o na ina (私も一緒に死のう)

mand o na nu ma (一緒に飲もう)

mand o na juma (一緒に読もう)

mand o na ura (一緒に売ろう)

mand o na at imira (一緒に集めよう)

mmu nira (芋を煮よう)

mand o na n ra (一緒に見よう)

mand o na wara (一緒に笑おう)

mand o na uma (一緒に思おう)

mand o na ura (一緒に居よう)

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(2)-ja (~よ)が下接する。

mand o na d i ka kaja (一緒に字を書こうね)

mand o na a jaja (一緒に言おうね)

4.2.未然形

(1)- (~ない)に接する。

d int o kaka (字さえも書かない)

t a i kuga (どうしても漕がない)

t a in tata (どうしても立たない)

t a i kuruha (どうしても殺さない)

tit in ninra (ちっとも眠らない)

t a i kunra (どうしても括らない)

int o sa (しさえしない)

t a in tuba (どうしても飛ばない)

nind e su iga ina (眠りはするが死なない)

ki ja numa (今日は飲まない)

ki ja at imira (今日は集めない)

wano mmu nira (私は芋を煮ない)

wano nra (私は見ない)

kumakat i ura (ここにはいない)

ki ja ku (今日は来ない)

(2)Φu (~させる)〈使役〉、ri (~できる〈可能〉、~される〈受身〉)に接する。

kure tsuni kakaΦu (これは人に書かせる)

( )aminu jadakutu kugari (雨が止んだので、漕げる)

( )uttu tataΦu (妹を立たせる)

ju ninrari ja (よく眠れるな)

na kunrari (縄を括られる)

wa ga sa tsant i umuto i

sat ini sari

(私がしようと思っているのを先にされる)

( )arikat i jumaΦu (彼に読ませる)

( )uttuni tubaΦu (弟に飛ばせる)

tubari (飛ばれる)

( )it u kunraΦu (糸を括らせる)

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warabini mmu nirat a (子供に芋を煮させた)

( )uttu wara Φu (弟を笑わせる)

4.3.条件形1

wa ga kakaba jaru mi ba (私が書いたら君は見なさい)

kigaba nind u (漕いだら眠る)

tataba jumaΦu (立ったら読ませる)

kuruhaba ini (殺したら死ぬ)

jumaba utsu iba (読んだら写しなさい)

numaba wakajuha (飲めば分かるさ)

wa ga tubaba jatta ro tubijo (私が飛んだら君たちも飛べよ)

wa ga kunraba ja ipparijo (私が括ったら君引っ張れよ)

wa ga ninraba ja uk t itura ijo (私が眠ったら君が起こしてくれよ)

wa ga mmu niraba ja i

int o kijo

(私が芋を煮たら君は火を見ておけよ)

mu i uraba it asa naigaja (もし売ればいくらになるかな)

wa ga t irabaja mutt i ikiba (私が切ったら君は持って行きなさい)

mu i ariga ware raba kunu

Φu d i i

(もし彼が笑えばこのようにしろ)

mu i mi raba narat i tura iba (もし見たら教えて下さい)

taro ga ku ba kuri kuju (太郎が来たらこれをあげる)

( )ariga ku raba had imiju (彼が来たら始める)

wa ga saba jatta itt i ku jo (私がしたら君達は入って来いよ)

( )a raba mutt i kuba (有れば持ってきなさい)

ja ga u raba ma i jasa (君が居たらいいさ)

基本語幹(乙)を含む活用形

4.4.命令形1

(1)ba が下接。待遇度「+1」

d i kakiba (字を書きなさい)

ja ga kugiba (君が漕ぎなさい)

ma jo ti tatiba (庭で立ちなさい)

t u kuru iba (人を殺しなさい)

iniba (死になさい)

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t id ikiti jumiba (続けて読みなさい)

numiba (飲みなさい)

tubiba (飛びなさい)

kund uraba kunriba (括るなら括りなさい)

ninriba (眠れ)

( )usuriba (押しなさい)

niriba (煮なさい)

ki raba kiriba (蹴りたければ蹴りなさい)

( )uriba (売りなさい)

t iriba (切りなさい)

( )at imiriba (集めなさい)

wa ga kakaba jaru ja mi ba (私が書けば、あなたは見なさい)

ware ba (笑いなさい)

( )aiba (言いなさい)

mand o na ku ba (一緒に来なさい)

jo inna iba (ゆっくりしなさい)

( )uriba (居なさい)

( )ja ant i umi ba (君そう思いなさい)

(2)φ(言い切り)。待遇度「0」

ha ku i (早くしなさい)

ha ku ju mi (早く読め)

(3)waが下接。待遇度「-1」

ku wa (来なさい)

4.5.命令形2

(1)φ(言い切り)。待遇度「-1」

ja kake (君が書け)

kuge (漕げ)

ja ga kuruhe (君が殺せ)

ine (死ね)

nama jume (今読め)

mid i nume (水〈を〉飲め)

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tube (飛べ)

kunre (括れ)

he ku ninre (早く眠れ)

( )usure (押せ)

nire (煮ろ)

ki raba kire (蹴りたければ蹴れ)

( )ure (売れ)

t ire (切れ)

( )at imire (集めろ)

nre (見ろ)

ware raba ware (笑うのなら笑え)

ja aje (君が言え)

ku (来い)

ha ku se (はやくしろ)

( )ure (居ろ)

( )umire (思え)

( )umure (思え)

4.6.連用形

(1)動詞が下接する。

tubi uriten nara (飛び降りてはいけない)

ki ja tubi t e tsu (今日は飛びしている〈飛んでいる〉)

ini isud e nara (死に急いではならない)

jumi uwataraba isuni iriba (読み終わったら椅子に座りなさい)

kund I uwaine ke ti iminro (括り終わったら帰っていいぞ)

kund I uwatikara ke riba (括り終わってから帰れ)

nind i had imiju (眠り始める)

wa ga mmu ni had imi ne

tigane iba

(私が芋を煮始めたら手伝いしなさい)

ki uwatikara ja kat i ke riba (蹴り終わってから家に帰りなさい)

mi at ihatita (見飽き果てた)

ware had imi ne na tumara (笑い始めたらもう止まらない)

t i had imi tikara na nu aranro (来始めてからもう何でもないぞ)

i kwat e naranro (しすぎてはいけないぞ)

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( )umi t id iki (思い続ける)

(2)助動詞が下接する。

d i kat ibusa (字を書きたい)

ja ga kud ibit i jasa (君が漕ぐべきだ)

tat igisa (立ちそうだ)

t unu nt o k tu kuru igurisa (人が見ているから殺しにくい)

ha ku jumibusa (早く読みたい)

namanin tubigisa (今にも飛びそうだ)

ja ja kund ibusaru anna (君は括りたいのか)

nind ibit i jasa (眠るべきだよ)

( )mmu ni bit i jasa (芋を煮るべきだ)

( )uribit i jasa (売るべきだ)

kunu nukud ire t i gurisa (この鋸は切りにくい)

( )at imigurisa (集めにくい)

ha ku mi busa (早く見たい)

ja ware busanna (君は笑いたいのか)

munu aibusa (ものを言いたい)

kumakat i it ijatin t i busa (ここにはいつでも来たい)

ha ku i busa (はやくしたい)

( )aigisa (有りそうだ)

( )uigurisa (居づらい)

( )umi bit i jasa (思うべきだよ)

(3)助詞が下接する。

d i kat i ga it u (字を書きに行く)

( )u mikat i kud i ga it u (海に漕ぎに行く)

tubi ga it u (飛びに行く)

kund I ga it u (括りに行く)

i ga itsu ito inumun jasa (しにいくのと同じものだよ)

kud int o sa (漕ぎさえしない)

tat int o sa (立ちさえしない)

kuru in sa (殺しもしない)

t o nat inte su iga ininte su (人は泣きもするが死にもする)

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jumint o sa (読みさえしない)

wano kat inte su i juminte su (私は書きもするし読みもする)

nubinte su iga tubinte su (登りもするが飛びもする)

kund iru suru (括りぞする)

nind int o sa (眠りもしない)

mmu ni ru suru (芋を煮ぞする)

t inte su iga ni nte su (切りもするし煮もする)

minte su iga kat inte su (見もするが書きもする)

t o warente su iga nat inte su (人は笑いもするが泣きもする)

( )airu suru (言いぞする)

t i ru suru (来ぞする)

iru suru (しぞする)

( )umi ru suru (思いぞする)

( )it iru suru (行きぞする)

tumitikara kud ibike u (朝から漕いでばかりいる)

tat ibike (立ってばかり)

t u kurucibike t i ta ikie sa (人を殺してばかりで助けようとしない)

inibike su (死んでばかりいる)

tumitikara itt i kund igat a

t e t u

(早朝からずっと括ってばかりしている)

mmu ni bike su (芋を煮てばかりする)

wa ga ki tibike u (私が蹴ってばかりいる)

( )uibike su (売りばかりする)

t i bike t o (切ってばかりしている)

kinu kara waratibike u (昨日から笑ってばかりいる)

(4)その他

kat e sa (書きやすい)

kud e sa (漕ぎやすい)

tat e sa (立ちやすい)

kuruhe sa (殺しやすい) ( )umariti to dzanu u inu kwa ja

ine sa

(生まれてすぐの子牛は死にやすい)

ki ja kad inu ne gutu tube sa ja (今日は風が無いので飛びやすいね)

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-82-

kundze sa (括りやすい)

wano kumakat i t e sa (私はここに来やすい)

nind e sa (眠りやすい)

se sa (しやすい)

jume su iga kat e sa (読めるけれども書かない)

( )ijo kwa Φu iga kud e sa (魚は釣るが、漕がない)

( )ije su iga tat e sa (座りはするが、立たない)

ine sa (死にはしない)

kat e su iga jume sa (書きはするが読みはしない)

jume naju (読みはできる)

haje su iga tube sa (走りはするが飛びはしない)

Φ tutse su iga kundze sa (解きはするが括りはしない)

ki te naranro (蹴ってはいけないよ)

nat e su iga ware sa (泣きはするが笑いはしない)

se su iga ke ra (しはするが帰らない)

kud e gat i hana I su (漕ぎながら話する)

tatt e gat i ka ge ju (立ちながら考える)

kuruhe gata ind u nu kutu

ka ge to

(殺しながら逃げることを考えている)

kund e gata hana i t e t u (括りながら話をしている)

terebi me gata juntaku su (テレビを見ながらおしゃべりする)

se gata ninto (しながら寝ている)

( )ume gata att u (思いながら歩く)

4.7.条件形2

kat ibaru jumariru (書けばこそ読める)

kud ibadu Φune susumiru (漕げばこそ船は進むのだ)

mi baru wakajuru (見ればこそ分かる)

tatibaru ja ga takasa wakajuru (立てばこそ君の高さは分かるのだ)

( )ami Φuribaru d i ja katamajuru (雨が降ればこそ地面が固まる)

t u d u tu kund ibadu

Φ tukira

(強く括ればこそ解けない)

tsunu inibaru dabe suru (人が死ねばこそ葬式はする)

numibaru ad e wakajuru (飲めばこそ味は分かる)

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-83-

tubibaru tui t ant i wakajuru (飛べばこそ鳥だと分かる)

( )itta ga nind ibadu umut i

jumariru

(君達が眠ればこそ本が読める)

niribaru mmo kamari ru (煮ればこそ芋は食べられる)

ja ga ant i umi baru ant i najuru (君がそう思えばこそ そうなる)

kure uribaru Φu sanu muno

ko rari ru

(これを売ればこそ欲しいものが買える)

jase ja t iribaru kamari ru (野菜は切ればこそ食べられる)

nribaru wakajuru (見ればこそ分かる)

ware baru unu tsunu o d o ja

wakairu

(笑えばこそこの人の表情は分かる)

( )aibaru wakairu (言えばこそ分かる)

( )at imiribaru uho ku najuru (集めればこそ多くなる)

( )anut unu ku baru kunu kwaija

had imi rari ru

(あの人が来ればこそこの会は始められる)

( )ant i ibaru nairu (そうすればこそできる)

( )uriga aribaru nairu (それが有ればこそできる)

( )uibaru munuro kurari ru (居ればこそ食べ物も食べられる)

4.8.終止形(3)

(1)φ(言い切り)

d i kat u (字を書く)

saburo ga kud u (三郎が漕ぐ)

( )uttuga tat u (弟が立つ)

bi t a kuruΦu (鼠を殺す)

mmaga ini (馬が死ぬ)

jumi (読む)

wa ga numi (私が飲む)

ho tuga tubi (鳩が飛ぶ)

wa ga kund u (私が括る)

me nit i nind u (毎日眠る)

wa ga usuju (私が押す)

mmu niju (芋〈を〉煮る)

ma i kiju (鞠〈を〉蹴る)

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( )amma ga uju (母が売る)

wa ga t iju (私が切る)

( )uttuga at imiju (弟が集める)

wa ga mi (私が見る)

wa ga nd u (私が見る)

wa ga ware (私が笑う)

munu aju (もの〈を〉言う)

t u (来る)

wa ga su (私がする)

( )a (有る)

mmi ga u (姉が居る)

wanro ant i umi (私もそう思う)

(2)終助詞が下接する。

ja ga kud unna (君が漕ぐか)

( )ariga kuruΦunna (彼が殺すのか)

sanru ga ininna (三郎が死ぬのか)

kumadu garu kund unna (カマドがも括るのか)

kijunna (蹴るな)

t ijunna (切るな)

ja uri t ijunna (君これ切るのか)

t iru garu sunna (チルーがぞするのか)

( )ant e uminna (そうは思うな)

4.9.連体形(4)

wa ga d i kat unu e da,are ku na ta (私が字を書く間、彼は来なかった)

wa ga kud unu e da ja tatt o kiba (私が漕ぐ間、君は立っていてくれ)

ro kani tatsunu ka d i ni buisu (廊下に立つ度、眠くなる)

kuruΦunu kuto ruwe sa (殺すことは容易い)

tsunu ininu ka d i kana iku naju (人が死ぬ度、悲しくなる)

wa ga numinu ba ni mand o na nu ma (私が飲む場合に一緒に飲もう)

tuiga tubunu ka d i Φ kakat i nd iju (鳥が飛ぶ度に外へ出る)

ja ga kund unu ka d i wa ga Φutut u (君が括る度、私が解く)

wa ga nind unu e da subajo ti o d it i turaci (私が眠る間、側で扇いで下さい)

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nijunu muno tit in ne ra (煮る物は一つもない)

jaru ga nijunu e ra wano kumajo ti nt o tsu (君が煮る間、私はここでみておく)

wa ga kijunu ka d i ma i ukiba (私が蹴る度に鞠を置きなさい)

( )ujunu tut ine tigane sabiha (売るときには手伝いしますよ)

t ijunu tut e e d i i (切る時は合図しろ)

( )at imitanu tut inu du i (集めたときの友)

mi nu t o ura (見る人はいない)

ja ga ware nu ka d i wanro ussa (君が笑う度、私も嬉しい)

( )ajnuba ja e d i i (言う時は合図しろ)

t u nu t o ura (来る人はいない)

sunu ba ja urusa at imari (する場合は皆集めろ)

( )a nu tut e e d i i (有る時は合図しなさい)

ja ga mmani u nu tut e e d i i (君がここに居る時には合図しなさい)

( )umi nu t unu u (思う人がいる)

wa ga ware ru e ra hana i t o ti tura iba (私が笑う間、話して下さい)

4.10.ru係結形

d i ru katsuru (字ぞ書く)

me nit idu kud uru (毎朝ぞ漕ぐ)

me nit iru tat uru (毎朝ぞ立つ)

wa garu kuruΦuru (私がぞ殺す)

( )it imunru iniru (生き物ぞ死ぬ)

imut iru jumiru (書物ぞ読む)

ja garu numiru (君がぞ飲む)

iju iru tubiru (ヒヨドリぞ飛ぶ)

( )arigaru kund uru (彼がぞ括る)

me nit iru nind uru (毎日ぞ眠る)

wa garu usujuru (私がぞ押す)

wa garu mmu nijuru (私がぞ芋を煮る)

( )arigaru kijuru (彼がぞ蹴る)

wa garu ujuru (私がぞ売る)

wa garu t ijuru (私がぞ切る)

wa garu at imijuru (私がぞ集める)

wa garu mi ru (私がぞ見る)

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( )amma garu ware ru (母がぞ笑う)

wa garu ajuru (私がぞ言う)

( )arigaru t u ru (彼がぞ来る)

wa garu suru (私がぞする)

wa garu a ru (私がぞ有る)

wa garu u ru (私がぞ居る)

wa garu umi ru (私がぞ思う)

4.11.ga係結形

taruga tatsura sura (誰が立つかさえ)

taruga ware ra (誰が笑うか)

taruga ga katsura sura (誰がが書くかさえ)

taruga ga kud ura sura (誰がが漕ぐかさえ)

taruga ga kuruΦura sura wakara (誰が殺すかすら分からない)

taruga ga jumira (誰がが読むのか)

taruga ga numura wakara (誰が飲むか分からない)

taruga ga tubira (誰が飛ぶか)

taruga ga kund ura wakara (誰が括ったかわからない)

taruga ga nind ura (誰がが眠るか)

taruga ga nijura (誰が煮るのか)

taruga ga ujura (誰が売るか)

taruga ga t ijura (誰が切るか)

taruga ga at imijura wakara (誰がが集めるか分からない)

taruga ga mi ra (誰が見るのか)

taruga ga ajura sura wakara (誰がが言うか分からない)

taruga ga t u ra wakara (誰がが来るかわからない)

taruga ga sura wakara (誰がするかわからない)

taruga ga a ra sura wakara (誰が有るかさえ分からない)

taruga ga u ra sura wakara (誰が居るか変わらない)

taruga ga umi ra (誰が思うか)

4.12.準体形

d i katsu ibike t e tsu (字を書くのばかりしている)

wa ga kud uha (私が漕ぐよ)

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tat uhe najunro (立つのはできるよ)

kure taruga kuruΦuga (これは誰が殺すか)

janamunja ha ku inihe ma ijasa (悪党は早く死んだらよい)

wa ga jumikutu ja ja ninriba (私が読むから君は眠りなさい)

numihe mut ikaha (飲むのは難しい)

tubikutu kat imito ki tura i (飛ぶから捕まえておいて下さい)

wa ga kund ukutu ja ja ipparijo (私が括るから君は引っ張れよ)

( )it at i nind uga (どうやって眠るのか)

taruga nijuga (誰が煮るのか)

( )ujuhe ruwe sa (売るのは容易い)

( )u juhe ruwe sa (追うのは容易い)

wa ga mi kutu ja kakiba (私が見るから君が書きなさい)

nu t ant i an i ware ga (どうしてそんなに笑うのか)

( )ajuhe ru gurisa (言うのは難しい)

taruga t u ga (誰が来るのか)

suhe naju (するのはできる)

( )a iga wakata (有るのが分かった)

kumani u he mut ikaha (ここに居るのは難しい)

( )umi he ruwe sa iga suhe

ru gurisa

(思うのは容易いがするのは難しい)

4.13.接続形

(1)-kara(してから)が下接する。または(~して~)の構文。

d i ka t kara it u (字を書いてから行く)

ku d ikara ikat i muduju (漕いでから岸に戻る)

hukand i tatt ikara muduju (外に立ってから戻る)

kurut i inaΦu (殺して死なす)

id ikara it ige ta (死んでから生き返った)

ju di kara ke iba (読んでから返して下さい)

ju ri it iba (呼んで行きなさい)

nu rikara ke riba (飲んでから帰りなさい)

tu dikara mudutit u (飛んでから戻ってくる)

kunt kara Φ tut u (括ってから解く)

nint kara ukiju (眠ってから起きる)

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( )utikara ke ju (売ってから帰る)

nukud irit i t i t kara ke iba (鋸で切ってから返しなさい)

( )at imitikara mutt iku ba (集めてから持ってきなさい)

( )u tikara mudutiku ba (追ってから戻ってきなさい)

n t ikara ke iba (見てから返しなさい)

waratikara hana i had imiju (笑ってから話し始める)

( )ant ikara ke tiba (言ってから帰りなさい)

t kara ke ta (来てから帰った)

kuri t kara ja kat i ke ju (これをしてから家に帰る)

( )a tikara wakaju (有ってからわかる)

( )utikara ke ju (居てから帰る)

( )umutikara t u (思ってから来る)

(2)下接する係助詞 ja との融合。

ku d e naranro (漕いではいけないよ)

tatt e naranro (立ってはいけないよ)

kinu ja suta iga ki ja t e ura (昨日はしたけど今日はしていない)

(1) 琉球方言の方言区画については、加治工(1998a:213)を参照されたい。

(2) 久米島方言の動詞における「志向形」の長音化について、内間(1984:441)に「志

向形は、時には一拍目が長音化して発音される場合もある。すべての動詞がそうな

のではなく、ある限られた動詞にその傾向がみられる。」と述べ、[kaka](書こう)

のように、長音化していないものを志向形の例としてあげている。内間(1984:172)

では、動詞「書く」を例に琉球方言の志向形の変化を示しているが、それによれば、

「*kakamu」から「kakan(麦屋等)となり、[-n]が脱落して長音化して「kaka(伊

是名等)」となり、長母音が短母音化(または脱落)し「kaka(井之川、饒波等)」とい

う道筋を経たものとしている。一方、志向形の長音化に関する通時的変化は、中本

(1990:501-502)で「*kakamu→kaka →kakau→kaka」のように示されている。

中本氏の推定するように真謝方言の長音化は、「mu」の脱落による拍の変化を嫌っ

て代替音化によるものと捉えた方が穏当であろう。しかし、当該方言の志向形は、

長音化する形としない形が併用されており、今後検討すべき課題である。

(3) 久米島方言の動詞・形容詞の終止形末尾- については、中本(1990:487-488)で

「沖縄南部の離島、久米島には終止形がkatsu のように語尾 n を脱落させている方

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言がある。(中略)終止形と過去形の語尾 n が脱落すると同時に、否定形もkakan→

kaka →kaka のように語尾 n が脱落している。したがって否定形と意志形は、第2

音節母音を長音化するか、第1音節母音を長音化するかによって区別される。この方

言では他の派生形もka t e (書いてある)、ka t o(書いている)、kat abi(書きます)

のように語尾 n が脱落している。ただし疑問を表すna(か)が付く形には、否定形で

も終止形でも過去形でもkakanna(書かないか)、katsunna (書くか)、kat anna(書

いたか)のように、派生形でもka t enna (書いてあるか)、ka t onna (書いている

か)、kat abinna (書きますか)のように、語尾 n が保たれている。仲地、嘉手ママ

刈も

同類である。ただし久米島東部の比嘉ではkat un(書く)であり、単独で語尾の n が

比較的に保たれている方言でもある。」として、久米島内の地域差について言及して

いる。この分布を言語地理学的に調査したものが高橋ゼミ(1991)巻末資料「動詞・

形容詞語尾の「 」の脱落について」である。この調査は「笑う・消す・こする・光る・や

める・住む・無い・ない・薄い・近い・混ぜる」という動詞・形容詞計11語について、久米

島全域を調査したものである。なお「真謝」方言は、「比屋定・阿嘉・泊・謝名堂・比嘉・

真我里・銭田・島尻・鳥島・上江洲・具志川」と同じグループ、すなわち「脱落なし」に

分類される。

(4) この「連体形」末尾の-nuについて、生塩睦子(1984:247)では「連体形末尾部分

は-ru・-nu・-Nの三つの形態がある。-ruが古い形で、-nu・-Nと変化した形があらわ

れている。-ruの地点は、伊江・奥武・慶良間・渡ママ

石喜・粟国・久米・北大東の各島、-nu

は伊平屋・伊是名・瀬底・南大東の各島、そして- は久高島である。但し、-nu・-Nと

いう新しくできた連体形は体言につづく場合で、du(ぞ)の結びとしての連体形は-ru

の形を残している。なお、連体形語尾-nuについては、奄美諸島方言との関係から今

後さらに追求していくべき問題であろう。」と述べている。また、中本(1990:575)

では「体言に続くとき、沖縄と奄美では、方言によってt u ruとt u nuの両形が併

用されることがある。これらはいずれも新しい層であり、古い層は連用形に体言が

つく形であったと考えられる。du(ぞ)の助詞で強調されるとき、その結びとして連

体形が現れる。いわゆる係結法の残存である。その際、t u ruとt u nuが併用され

ている方言にあっても、その結びの連体形はt u ruに限られ、t u nuで結ぶことが

できない。」とし、いずれも-nuが新しく現れた形と考えている。筆者の調査でも被

調査者や文例により-ruが用いられることもある。今後再調査をおこない、改めて詳

しく論じるつもりである。

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参考文献

内間 直仁 1981 「久米島仲里村儀間方言の文法」(『琉球の方言6号-

久米島鳥島-』、法政大学沖縄文化研究所)pp.

86-108

―――― 1984 『琉球方言文法の研究』(笠間書院)

生塩 睦子 1984 「沖縄諸島(属島)の方言」(『講座方言学10-沖縄・

奄美地方の方言-』、国書刊行会)pp.217-250

加治工真市 1998a 「琉球方言への誘い-琉球方言の地域性-」(『沖

縄国際大学公開講座7 南島文化への誘い』、那覇出

版社)pp.203-239

―――― 1998b 「久高島方言動詞の活用」(『沖縄から芸術を考え

る-芸術文化学叢書1-』、沖縄県立芸術大学大学

院芸術文化学研究科)pp.109-133

嘉味田宗栄 1962 「真謝・首里方言と標準日本語-比較考察の地な

らしの一例として-(その1)」(『沖縄文化』第6

号、沖縄文化協会)pp.9-17

高橋 ゼミ 1991 『沖縄方言研究 第11号-久米島方言の言語地理

学的研究-』(沖縄国際大学 高橋ゼミ)pp.1-77

仲宗根政善 1987[1960] 「沖縄方言の動詞の活用」(『琉球方言の研究』、

新泉社)pp.26-55

名嘉真三成 1992 『琉球方言の古層』(第一書房)

中本 正智 1990 『日本列島言語史の研究』(大修館書店)

仲 原 穣 1999 「沖縄久米島真謝方言の音韻研究」(『沖縄文化』

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―――― 2001 「久米島真謝方言の助詞」(『琉球方言音韻・文法・

語彙の研究-周辺諸方言との比較研究も含めて-

〈その2〉』、千葉大学大学院社会文化科学研究科)

pp.51-68

―――― 2002 「久米島方言の音韻-真謝方言と嘉手苅方言を中

心に-」(『国文学解釈と鑑賞』第67巻7号通巻854

号、至文堂)pp.128-138

野原 三義 1982 「久米島方言の助詞」(『沖縄久米島』弘文堂)pp.

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―――― 1985 「久米島仲里村真謝方言の助詞・助動詞」(『琉球の

方言』第9号、法政大学沖縄文化研究所)p.30-50

屋比久 浩 1982 「久米島方言の動詞・形容詞の構造について」(沖

縄久米島超委員会編、『沖縄久米島』、弘文堂)pp.

717-728

山口明穂・秋本守英編 2001 『日本語文法大辞典』(明治書院)

付記

お忙しいなか、調査にご協力くださいました皆様に心よりお礼申しあげます。

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