セルフセンタリング性能を有する柱 -梁 骨組の 構造性 …...

4
56-1 セルフセンタリング性能を有する柱 SC-梁 S 骨組の 構造性能に関する実験的研究 表 -1 試験体一覧 1. はじめに 阪神大震災以降,震災後の建物の継続使用について の議論が多く行われ,損傷制御性能を有する構造が注 目されるようになった.このような状況において著者 らは,2005年度より残留変形を小さくすることを目的 とし,RC のプレキャストユニットを PC 鋼棒で乾式接 合した構造を提案し,実験及び解析研究を進めてきて いる 1) .当時の試験体は,柱は乾式接合としていたが, 梁が湿式接合となっていた.この部分の施工・解体性 能を改善する目的で,2008年度からは,同等の損傷制 御性能を有する鋼・コンクリート合成構造(SCCS)骨 組を提案し,これの施工法と弾塑性挙動について調べ てきた 2)3) . 本報では,2011 年度から 2013 年度までの試験体か ら接合部の詳細,内蔵棒鋼を変化させた試験体を 4体 抜粋して,本構造の施工性能と力学性状を考察する . 2. 試験体 本報で検討する試験体4体の一覧を表-1に示す.試 験体のパーらメーターは次の5点,1)組立ダイアフラ ムの詳細,2)柱に設置する棒鋼の強度,3)棒鋼の削 り加工の有無,4)軸力比,5)柱のダクトの有無,で ある.図-1に本研究の試験体を示す.試験体は実大建 物の 1/3 縮尺モデルの柱梁接合部分に相当し,□-200 × 200 × 6 の鋼管で横補強した無筋コンクリート柱と せい 300mm の H 形鋼梁からなる . 梁のウェブは山形鋼 を介して,パネル部鋼管と高力ボルトを用いて接合し ている.梁のフランジは,図-2に示す組立ダイアフラ ムに高力ボルトを用いて接合している . 実験で使用する十形ユニットの組立手順を説明す る.写真 -1 のように 3 つの鋼管および 2 つの組立ダイ アフラムを交互に積み上げる.積み上げの際には組立 ダイアフラムと鋼管との間にゴムを挟み,クリアラン スを設けている . これは,鋼管が軸力を負担しないよ うにするためである . また,スプリット T を作製した H 形鋼のフランジ部分にもゴムを挟み,組立ダイアフ ラムと鋼管の接する面にはテフロンシートを貼り,組 立ダイアフラムに作用する軸力と摩擦を低減してい る.最後に棒鋼を挿入し,コンクリートを打設した. EHN19D のみ 23 φのダクトを設けている.他の試験体 はダクトは設けていないので,この手順が省かれてい る.H 形鋼梁のフランジは組立ダイアフラムとウェブ は鋼管に溶接されたアングルとボルト接合される.組 立ダイアフラムをあらかじめ作成しておけば,十形ユ ニット作製にあたって溶接及び型枠作業が無く,建設 現場における簡易な施工が可能であると考えられる. 使用した鋼材の機械的性質を表-2に,コンクリート の調合と性質を表-3に示す.本骨組は,柱の曲げ破壊 を先行させるように設計する.そのためには,柱の曲 げ強度が発揮されたときに,他の部分が破壊しないこ 図 -1 試験体 図 -2 組立ダイアフラム詳細 type.C type.E H形鋼(H-300×150×6.5×9を切断して作成したスプリットT テフロンシート t=0.5mm,18mmゴム 開先加工 テフロンシート t=0.5mm,14.5 178 4.5 165 9 9 鋼板を組み合わせて 作成したスプリットT 組立 ダイアフラ EHN19D EPC鋼棒(13φ ) 1243 1288 CLS16N CSS400(9φ ) 325 438 × CLS19N CSS400(10φ ) × CLN14N CSS400(13φ ) × 降伏強度 (MPa) 引張強度 (MPa) 削り加工 ダクト 327 452 丸鋼の種類と径 試験体 H300×150×6.5×9 鋼製柱コネクタ H200×200×8×12 梁と接合部は 高力ボルト摩擦接合 棒鋼 φ9異形鉄筋 □-200x200x6 天板-220x220x6 CLS16NCLS19N削り加工 写真 - 1 十形ユニット組立手順

Upload: vuonglien

Post on 17-May-2018

253 views

Category:

Documents


1 download

TRANSCRIPT

56-1

セルフセンタリング性能を有する柱 SC-梁 S骨組の

構造性能に関する実験的研究

尹 浩

表-1 試験体一覧

1. はじめに

 阪神大震災以降,震災後の建物の継続使用について

の議論が多く行われ,損傷制御性能を有する構造が注

目されるようになった.このような状況において著者

らは,2005年度より残留変形を小さくすることを目的

とし,RC のプレキャストユニットを PC 鋼棒で乾式接

合した構造を提案し,実験及び解析研究を進めてきて

いる 1).当時の試験体は,柱は乾式接合としていたが,

梁が湿式接合となっていた.この部分の施工・解体性

能を改善する目的で,2008年度からは,同等の損傷制

御性能を有する鋼・コンクリート合成構造(SCCS)骨

組を提案し,これの施工法と弾塑性挙動について調べ

てきた 2)3).

 本報では,2011 年度から 2013 年度までの試験体か

ら接合部の詳細,内蔵棒鋼を変化させた試験体を4体

抜粋して,本構造の施工性能と力学性状を考察する .

2. 試験体

 本報で検討する試験体4体の一覧を表-1に示す.試

験体のパーらメーターは次の5点,1)組立ダイアフラ

ムの詳細,2)柱に設置する棒鋼の強度,3)棒鋼の削

り加工の有無,4)軸力比,5)柱のダクトの有無,で

ある.図-1に本研究の試験体を示す.試験体は実大建

物の1/3縮尺モデルの柱梁接合部分に相当し,□-200

× 200×6の鋼管で横補強した無筋コンクリート柱と

せい 300mm の H 形鋼梁からなる . 梁のウェブは山形鋼

を介して,パネル部鋼管と高力ボルトを用いて接合し

ている.梁のフランジは,図-2に示す組立ダイアフラ

ムに高力ボルトを用いて接合している .

 実験で使用する十形ユニットの組立手順を説明す

る.写真-1のように3つの鋼管および2つの組立ダイ

アフラムを交互に積み上げる.積み上げの際には組立

ダイアフラムと鋼管との間にゴムを挟み,クリアラン

スを設けている.これは,鋼管が軸力を負担しないよ

うにするためである . また,スプリット T を作製した

H 形鋼のフランジ部分にもゴムを挟み,組立ダイアフ

ラムと鋼管の接する面にはテフロンシートを貼り,組

立ダイアフラムに作用する軸力と摩擦を低減してい

る.最後に棒鋼を挿入し,コンクリートを打設した.

EHN19D のみ 23 φのダクトを設けている.他の試験体

はダクトは設けていないので,この手順が省かれてい

る.H 形鋼梁のフランジは組立ダイアフラムとウェブ

は鋼管に溶接されたアングルとボルト接合される.組

立ダイアフラムをあらかじめ作成しておけば,十形ユ

ニット作製にあたって溶接及び型枠作業が無く,建設

現場における簡易な施工が可能であると考えられる.

 使用した鋼材の機械的性質を表-2に,コンクリート

の調合と性質を表-3に示す.本骨組は,柱の曲げ破壊

を先行させるように設計する.そのためには,柱の曲

げ強度が発揮されたときに,他の部分が破壊しないこ

図-1 試験体

図-2 組立ダイアフラム詳細

type.C type.E

H形鋼(H-300×150×6.5×9)を切断して作成したスプリットT

テフロンシート t=0.5mm,1枚

8mmゴム 開先加工

テフロンシート t=0.5mm,1枚

4.5 178 4.51659 9

鋼板を組み合わせて作成したスプリットT

組立

ダイアフラ

EHN19D E型 PC鋼棒(13φ ) 1243 1288 無 ○

CLS16N C型 SS400(9φ ) 325 438 有 ×

CLS19N C型 SS400(10φ ) 有 ×

CLN14N C型 SS400(13φ ) 無 ×

降伏強度

(MPa)引張強度

(MPa) 削り加工 ダクト

327 452

丸鋼の種類と径試験体

梁H-300×150×6.5×9

鋼製柱コネクタH-200×200×8×12

梁と接合部は高力ボルト摩擦接合

棒鋼

φ9異形鉄筋

□-200x200x6

天板-220x220x6

CLS16NとCLS19Nは削り加工

写真-1 十形ユニット組立手順 

56-2

とを確認する必要がある.ここでは,表 -4 のように

各部の耐力を梁のせん断力Qbとして表し,それぞれを

比較する.柱の曲げ強度は,軸力比0.2と仮定した無

筋コンクリートの曲げ耐力により算定した.

 ボルト部のすべりによって決定する梁の曲げ耐力

は,高力ボルトの一面摩擦強度にボルト本数と上下梁

フランジ間距離を乗じて求めた.スプリットTの曲げ

降伏によって決まる梁の曲げ耐力は,スプリットTの

断面積にその降伏強度と上下梁フランジ間距離を乗じ

て求めた.H形鋼の梁の曲げ耐力は,その降伏強度に

断面係数を乗じて求めた.各部の破壊耐力を比較する

と,柱の曲げ破壊が先行することがわかる.

3. 加力および測定方法

 載荷装置を図 -3 に示す.試験体は柱上下をピン支

持となるように設置し,梁の両端に取り付けた100kN

油圧ジャッキにより逆対称変形を与える載荷を行っ

た.梁とジャッキは鋼板を介してピン接合としてい

る.4本の棒鋼にはそれぞれレンチで軸力を導入した.

その後,上部の 1000kN 油圧ジャッキからピンを介し

て試験体の柱に鉛直軸力を作用させて,試験中一定に

保った.表-5には実験開始時に作用している軸力Nお

よび軸力比N/N0を示している.表には加力実験前に導

入した初期張力も示しており,鉛直力と張力の和を軸

力Nとして表している.N0はコンクリート断面にシリ

ンダー強度をかけて算出している.

 測定装置を図-4に示す.変形の測定は,試験体の柱

頭および柱脚のピン部分から取り出したアルミ製のフ

レームに変位計を取り付け,梁の先端部と柱の鉛直変

形,上下柱の水平変形を測定した.図 -4 の①および

②の変位計から,両梁端部の鉛直変位の差を計測し,

これを計測間距離で除して梁の部材角 Rbを求めた.4

本の丸鋼に作用する引張力は,棒鋼端部のロードセル

により測定した.これは,直径と高さが36mmの鋼製円

柱に棒鋼を通す 15mm の穴を開け,周囲に 4 枚の1軸

ゲージを添付したものである.すなわち,棒鋼に作用

する引張力を鋼製円柱を介することで圧縮ひずみとし

1000kNロードセル 1000kNジャッキ

100kNジャッキ

100kNロードセル

100kNジャッキ

100kNロードセルピン

面外補剛装置

ピン

ピン

ピン ピン

門型フレーム

1000 1000

760

760

ロードセル

図-3 載荷装置

図-4 測定装置

降伏強度(M Pa) 引張強度(MPa) ヤング係数(GPa) 降伏比 伸び(%)

396 484 187 0.818 28.8Flange 304 448 196 0.679 40.8Web 356 484 202 0.737 38.4

鋼材の種類 規格

□200×200×6 STKR400

梁H-300×150×6.5×9

SS400組立

ダイアフラムtype.E

鋼板 t=6 -

組立ダイアフラム

type.C

鋼板 t=4.5 -

スプリットTH-300×150×6.5×9 Web 361 456 205 36.9

247 407 192 0.609

0.757

38.8

0.791 36.1332 420 195

表-2 鋼材の機械的性質

表-3 コンクリートの調合一覧

EHN19D 39.2 42 51.7 21.5 5.9CLS16N 49.9 42 49.1 22.5 4.6CLS19NCLN14N

44.0 45 47.8 22.2 4.5

エアー( % )試験体

シリンダー強度( M P a )

水セメント比( % )

細骨材率( % )

スランプ( c m )

表-4 各部の破壊強度から定まる梁のせん断耐力

柱の曲げ ボルト部の滑り H形鋼梁の曲げ スプリットTの曲げ(kN) (kN) (kN) (kN)

EHN19D 44 76CLS16N 48CLS19NCLN14N

162117

試験体

43114

て 4 ゲージ法で検出している.

 本実験の載荷プログラムは,梁の部材角Rbで制御を

行い,Rb=1.0/100rad.までは R

b=0.25/100rad.を単位

とし,Rb=1.0/100rad. から R

b=2.5/100rad. までは

Rb=0.5/100rad.を単位として,各変形で2回繰り返す

漸増変位振幅の載荷を行った .

4. 試験体の耐力算定法

 本骨組は,柱の曲げ降伏を先行させるように設計し

ている.柱の曲げ耐力Mcは,内蔵棒鋼が負担する曲げ

表-5 実験開始時の軸力

鉛直力 棒鋼張力

EHN19D 142 124 1385 0.19

CLS16N 253 24 1764 0.16CLS19N 264 34 0.19

CLN14N 148 72 0.141555

試験体軸力(kN)

軸力比N0(kN)

56-3

図-5 柱曲げモーメント-部材角関係

-50

-25

0

25

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

実験値

計算耐力

柱曲

げモ

ーメ

ント

(kN

・m

) EHN19D

-50

-25

0

25

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

実験値

計算耐力

柱曲

げモ

ーメ

ント

(kN

・m

)

梁部材角Rb(×1/100rad)

CLS19N

-50

-25

0

25

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

実験値

計算耐力

梁部材角Rb(×1/100rad)

CLN14N

-50

-25

0

25

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

実験値

計算耐力

CLS16N

図-6 棒鋼張力と梁部材角関係

値である.全ての試験体は,除荷した際に,試験体の

残留変形が0付近に収まっており,セルフセンタリン

グ性能が確認できる.

 図-6に内蔵棒鋼張力-部材角関係を示す.図の張力

は棒鋼の平均値である.図中の破線は棒鋼の降伏強度

で,実線は引張強度である.高強度棒鋼を用いた

EHN19Dの降伏強度を図中に数値で示している.図から

分かるように,EHN19Dは実験終了時まで張力が喪失せ

ずに弾性挙動が確認できる.部材角の増加とともに内

蔵棒鋼に張力が付加された柱の軸力が増大しており,

これは図-5において,Rb=1.5/100rad.以降もせん断力

が上昇していることに対応している.SS400を用いた

試験体は,Rb=1.5/100rad.付近で棒鋼が降伏強度に達

している.これは図-5において,Rb=1.5/100rad.以降

せん断力が頭打ちになっていることと対応している.

 表 -6 に Rb=1.5/100rad. 時の実験試験体の実験強度

と計算強度を示し,同時にRb=1.5/100rad.時の軸力比

も示す.計算強度は試験体の初期軸力と棒鋼張力の和

を軸力とし,式(2)によって計算したものである.表-

5 と比較すると分かるように,いずれの試験体も,

Rb=1.5/100rad.の変形時には棒鋼の張力が増大し,軸

力が付加されるので,実験開始時よりも軸力比が大き

くなっている.計算強度は実験強度を5%から11%の

安全側で評価出来ている.

6. 耐力発揮メカニズムとセルフセンタリング性能

 図 -7 にそれぞれの試験体の柱の軸力 Nmと曲げモー

メントcMの関係を示す.実線は式(2)を参照して計算

されたNm-cM曲線であり,点線はこれを0.9倍,破線は

これを1.1倍したものである.▽は実験で得られた各

載荷サイクルのピーク時の値を示している.なお,▼

はRb=1.5/100rad.時の値を示している.内蔵棒鋼が降

伏しない試験体は軸力の上昇が大きい,内蔵棒鋼が降

伏する試験体は軸力の上昇が降伏につれて小さい.い

ずれでも部材角の増大とともに棒鋼から軸力が付加さ

モーメントsMとコンクリートが負担する曲げモーメン

トcM の和により算定する.

sM は,内蔵棒鋼の引張力の

差分から得られる.cM は無筋コンクリート柱の全塑

性耐力として算定した.

c s cM M M (1)

2m m

c cc cB c

N NM Db

(2)

 ここで,sM の測定値は極めて小さいため,柱の曲げ

強度 Mcを

cMで表している.軸力は,変形に付加される

棒鋼張力を加算したものを用いた.EHN19Dはダクト部

分にコンクリートの圧縮束が成立しないとして断面幅

からダクト幅を減じた値を有効断面幅cbとした.ダク

トを設けていない試験体は柱断面全体にコンクリート

の圧縮束が成立するとして断面幅をそのまま有効断面

幅cb とした.また c cB は鋼管で横補強されたコンク

リートの圧縮強度で,

c cB c BK (3)

と表現される 4).ここで,c B はコンクリートのシリン

ダー強度で,Kはコンクリート強度上昇係数であり,次

式で算定した.

2

34 ( )1.0 11.5( 2 )

s y

c B

t D tKD t

(4)

 ここで,D と tは鋼管のせいと厚さであり,s y は鋼

管の降伏強度である.

5. 荷重-変形関係と強度評価

 実験によって得られた柱の曲げモーメントMcと部材

角 Rb関係を図 -5 に実線で示す.図の縦軸は両側の

ジャッキから与えられる荷重による柱曲げモーメント

で,横軸は梁の部材角 Rbで表している.図中に丸印で

示すのは載荷サイクルピーク時の柱の曲げ強度の計算

0

25

50

75

100

-3 -2 -1 0 1 2 3

実験棒鋼張力降伏強度165(kN)

棒鋼

張力

(kN

)

0

10

20

30

40

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

棒鋼張力降伏強度引張強度

0

10

20

30

40

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

棒鋼張力降伏強度引張強度

棒鋼

張力

(kN

)

梁部材角Rb(×1/100rad)

0

10

20

30

40

50

-3 -2 -1 0 1 2 3

棒鋼張力降伏強度引張強度

梁部材角Rb(×1/100rad)

56-4

 図-8 残留変形部材角-経験部材角関係 

(a)CLN14N部材角 2.5%時  (b)CLN14N実験終了後

写真-2 試験体破壊状況 

図 -7 N-M関係

表 -6 実験強度・計算強度一覧

試験体実験強度(kN・m)

計算強度(kN・m)

1.5%時

軸力比実験強度/計算強度

EHN19D 29.0 26.1 0.26 1.11CLS16N 27.5 26.0 0.18 1.06

CLS19N 30.4 28.9 0.24 1.05

CLN14N 25.3 23.6 0.19 1.07

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

CLS19NCLN14N

経験部材角Rb0(×1/100rad)0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

EHN19DCLS16N

残留

部材

角Rr

(×1/100rad

)

経験部材角Rb0(×1/100rad)

0

100

200

300

400

500

0 10 20 30 40 50

EHN19D1.5%

Nm

(kN

)

0

100

200

300

400

500

0 10 20 30 40 50

CLS16N1.5%

0

100

200

300

400

500

0 10 20 30 40 50

CLN14N1.5%

cM(kN・m)

0

100

200

300

400

500

0 10 20 30 40 50

CLS19N1.5%

Nm

(kN

)

cM(kN・m)

れて,コンクリート断面の曲げ強度が増加している

ことが分かる.これが本構造の耐力発揮メカニズム

である.このように,本構造では,初期軸力と変形

に依存する付加軸力によって最大耐力が決定される

ことになる.

荷重が 0 になった時の残留変形について詳しく見

るために残留部材角 Rr-経験部材角 R

b0関係を図 -8

に示す.実線及び破線で示された回帰曲線を見ると

残留変形部材角は,EHN19Dにおいては経験部材角の

11%程度,CLS16N,CLS19NとCLN14Nは経験部材角の

5%以下に収まっている.

 本骨組では,棒鋼に常に張力が作用することでセ

ルフセンタリング性能が発揮されると考えてきた.

しかしながら,内蔵棒鋼が降伏して,棒鋼の張力が

消失してもセルフセンタリング性能に影響は小さく,

むしろダクトを無くすことによって,棒鋼のダボ抵

抗が付加され,より残留変形を小さくできたものと

考えられる.また,内蔵棒鋼の削り加工の有無は,荷

重-変形関係に影響を及ぼさないことが分かった.

従って,ダクトと棒鋼削り加工を無くすことでさら

なる施工の簡素化が可能であることが分かった.

 Rb=2.5/100rad. 載荷時と実験終了後の試験体の破

壊状況を写真-2に示す.載荷中は柱端部に生じたひ

び割れが大きく開いているが,加力終了後にはひび

割れが閉じ,損傷が目立たなくなっていることが分

かる.実験終了時の目視によると,損傷は柱端部の

み観測され,他の部分の損傷は観測できなかった.紙

面の関係上詳述できなかったが,鋼管や鋼梁に添付

したひずみゲージからも,鋼材の降伏現象は観測され

なかった.本構造は,当初の目標通りの損傷制御性能

を保持しており,地震後における継続使用の可能性が

示された.

7. まとめ

 本研究で得られた結論を以下に示す.

1) 加力実験により得られた荷重-変形関係より,全

ての試験体でセルフセンタリング性能を示すこと

が確認できた.ダクトを無くすことでセルフセン

タリング性能は向上することが確認できた.

2) 計算強度は実験強度を5%から11%の安全側で評価

出来る.

3) 試験体の作成過程より,本構造の優れた施工性が

確認できた.ダクトや棒鋼削り加工を省いても実

験結果に及ぼす影響は少なく,さらなる施工の簡

素化が可能であることが分かった.

4) 実験後の目視からは,試験体の損傷は柱端部のみ

に集中しており,他の部分の損傷は観察できな

かった.当初の目標通り,本構造の地震後における

継続使用の可能性を示した.

参考文献

1) 中原浩之,崎野健治,江崎文也:柱降伏を先行させる自己復

原型RC骨組の開発に関する実験的研究,日本建築学会構造

系論文集,第 628,pp.957-964,2008.6.2) 塩田浩旦,窪寺弘顕,北島幸一郎,中原浩之,崎野健治,江

崎文也:セルフセンタリング性能を有する鋼・コンクリート

合成構造十形フレームの実験的研究,日本建築学会研究報告

九州支部 , 構造系 ,48 号・1, pp.441-444, 2009.3.3) 高山一斗,中原浩之,崎野健治,江崎文也:損傷制御機能を

有する柱SC-梁S構造十形骨組の実験的研究,日本建築学会

研究報告九州支部 , 構造系 ,49 号・1, pp. 593-596, 2010.3.4) 孫玉平,崎野健治,吉岡智和:直線型横補強筋により拘束さ

れた高強度RC柱の曲げ性状,日本建築学会構造系論文集,第

486 号 ,pp.95-106,1998.8.