鋳造欠陥の不具合現象観察による 真の原因追求(...

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SOKEIZAI Vol.53 2012No.6 30 鋳造欠陥の不具合現象観察による 真の原因追求(観察力・解析力) 黒 川   豊   ㈱ ツチヨシ産業 1.はじめに 鋳造欠陥のピンホール、焼付き及び介在物欠陥の発生機構からそれぞれ 分類した。次いで、SEM ・ EDS 分析を行い分類に当てはめた。鋳造全般 の情報を加えて検討することで不具合現象観察による真の原因追求方法 となる。 鋳鉄鋳造欠陥を表面分析装置である SEM ・ EDS を用いて観察し原因を追及し分類してきた 1~4) SEM・EDS により欠陥内部の高解像度画像(SEM 像) と成分分析により原因を追及する。不良率、不良発生 時期、欠陥の発生場所、材質、溶解条件、出湯から注 湯までの条件、注湯条件、鋳型条件及び肉眼観察と必 要に応じて組織観察などの情報調査が併せて必要で ある。本稿では主にケーススタディ的に、実際に発生 した鋳造欠陥の不具合を観察し原因追及をした例を 紹介する。ケーススタディにより、今後の理論構築や 既にまとめられている仮説検証を行い、真の原因追及 のための観察力や解析力を養っていきたい。 SEM ・ EDS 分析に適する鋳造欠陥はピンホール欠 陥、焼付き欠陥、介在物欠陥などである。比較的小 さな応力が働く中で欠陥内部の SEM 像の特徴、化 学反応や元素偏析による欠陥内部の化学成分の特徴 のある欠陥に対して SEM ・ EDS 分析が適用できる。 逆に言えばダイナミックな応力が働くような欠陥、 例えばブローホール欠陥、割れ・変形欠陥、ひけ欠 陥などはあまり適していない。欠陥内部の SEM 像 や化学成分に特徴が認められないからである。従っ て、本稿では SEM ・ EDS 分析に適した欠陥を以下 にまとめる。 2.1 ピンホール欠陥 (1)ピンホール欠陥の生成要因の分類と考察 図1 にピンホール欠陥の形状と発生頻度を示す。 ピンホール欠陥は生成要因別に(A)物理型、(B)酸 化反応型、(C)溶解型、(D)スラグ生成型に分類さ 2.鋳造欠陥対策の原則と進め方 れる 1) 。酸化反応型は(B-1)凝固被膜酸化型、(B-2) 残液酸化濃縮型に、スラグ生成型は(D-1)マンガン シリケート系スラグ、(D-2)接種剤・球状化剤系ス ラグ、(D-3)硫化物系スラグ、(D-4)砂かみ及び異 物かみ系スラグに細分類される。分類と解説につい ては、平成 22 年素形材技術セミナーのテキストに 詳細を示した 5) ので参照願いたい。図1 では上側が 過共晶、下側が亜共晶組成鋳鉄である。鋳鉄のピン ホール欠陥はスラグ生成型が約 50% を占める。次い で、酸化反応型が多い。ピンホール欠陥が発生した 場合、酸化を防止するために注湯温度を上げるのは これに由来する。気泡のみの物理型や溶解型は比較 的僅かである。スラグ生成型が最も多い。スラグは 球状黒鉛鋳鉄ではドロスとも称される。 図2 に凝固の進行とピンホール欠陥の形状を示す。 欠陥形状は、気泡が発生した箇所の凝固の進行、あ るいは気泡が移動した箇所の凝固の進行状態により

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SOKEIZAI Vol.53(2012)No.630

鋳造欠陥の不具合現象観察による真の原因追求(観察力・解析力)

  黒 川   豊  ㈱ツチヨシ産業

1.はじめに

鋳造欠陥のピンホール、焼付き及び介在物欠陥の発生機構からそれぞれ分類した。次いで、SEM ・ EDS 分析を行い分類に当てはめた。鋳造全般の情報を加えて検討することで不具合現象観察による真の原因追求方法となる。

 鋳鉄鋳造欠陥を表面分析装置である SEM ・ EDSを用いて観察し原因を追及し分類してきた 1~4)。SEM・EDSにより欠陥内部の高解像度画像(SEM像)と成分分析により原因を追及する。不良率、不良発生時期、欠陥の発生場所、材質、溶解条件、出湯から注湯までの条件、注湯条件、鋳型条件及び肉眼観察と必

要に応じて組織観察などの情報調査が併せて必要である。本稿では主にケーススタディ的に、実際に発生した鋳造欠陥の不具合を観察し原因追及をした例を紹介する。ケーススタディにより、今後の理論構築や既にまとめられている仮説検証を行い、真の原因追及のための観察力や解析力を養っていきたい。

 SEM ・ EDS分析に適する鋳造欠陥はピンホール欠陥、焼付き欠陥、介在物欠陥などである。比較的小さな応力が働く中で欠陥内部の SEM像の特徴、化学反応や元素偏析による欠陥内部の化学成分の特徴のある欠陥に対して SEM ・ EDS 分析が適用できる。逆に言えばダイナミックな応力が働くような欠陥、例えばブローホール欠陥、割れ・変形欠陥、ひけ欠陥などはあまり適していない。欠陥内部の SEM像や化学成分に特徴が認められないからである。従って、本稿では SEM ・ EDS 分析に適した欠陥を以下にまとめる。

2.1 ピンホール欠陥(1)ピンホール欠陥の生成要因の分類と考察 図 1にピンホール欠陥の形状と発生頻度を示す。ピンホール欠陥は生成要因別に(A)物理型、(B)酸化反応型、(C)溶解型、(D)スラグ生成型に分類さ

2.鋳造欠陥対策の原則と進め方

れる1)。酸化反応型は(B-1)凝固被膜酸化型、(B-2)残液酸化濃縮型に、スラグ生成型は(D-1)マンガンシリケート系スラグ、(D-2)接種剤・球状化剤系スラグ、(D-3)硫化物系スラグ、(D-4)砂かみ及び異物かみ系スラグに細分類される。分類と解説については、平成 22 年素形材技術セミナーのテキストに詳細を示した5)ので参照願いたい。図 1では上側が過共晶、下側が亜共晶組成鋳鉄である。鋳鉄のピンホール欠陥はスラグ生成型が約 50%を占める。次いで、酸化反応型が多い。ピンホール欠陥が発生した場合、酸化を防止するために注湯温度を上げるのはこれに由来する。気泡のみの物理型や溶解型は比較的僅かである。スラグ生成型が最も多い。スラグは球状黒鉛鋳鉄ではドロスとも称される。 図 2に凝固の進行とピンホール欠陥の形状を示す。欠陥形状は、気泡が発生した箇所の凝固の進行、あるいは気泡が移動した箇所の凝固の進行状態により

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特集 鋳鉄品の鋳造欠陥現象の原因追求とその対策

 図 4に溶湯に起因するドロスの生成概念図を示す。ドロスは溶湯に含まれるドロスと鋳型中で生成するドロスがある。溶湯に含まれるドロスとは、球状化処理中に生成したMg化合物(MgO、MgS、MgC2など)が溶湯中に残存し、その後に SiO2、Al2O3 などとドロスとなったものである。図 4(A)はゲート直下でドロスが生成した例、図 4(B)ではそのドロスよりガスが発生した例、図 4(C)ではゲート直下に中子がありこれに溶湯が当たった後に合流してドロスが生成した例である。溶湯に含まれるドロスの生成原因としては以下が考えられる。① 球状化剤が多い、球状化処理温度が低い、反応が静か、球状化剤などの吸湿により、Mgが気化せず、溶湯中にMg化合物として残存する。

②球状化剤、カバー材、取鍋耐火物などの吸湿。③取鍋スラグの溶湯への再溶解。④ 注湯温度が低い、球状化処理から注湯までの時間長く大気に曝されている、取鍋などからの吸湿により、MgO、SiO2、Al2O3 などが一端は溶湯に溶

変化する。凝固は晶出する固体の形状や量により欠陥形状も自ずと異なる。凝固開始前の液相や液相の多い溶湯に発生した気泡は球状となり、固相が殆どとなった凝固終期では残液の中に気泡が発生するために、固相の形状に沿った気泡となる。

(2)球状黒鉛鋳鉄のドロス欠陥 球状黒鉛鋳鉄では、スラグ生成型(ドロス生成型)の発生頻度が高いので概説する。ドロスは微細ドロス(SiO2-MgO)と粗大ドロス(SiO2-MgO-Al2O3)があるが、ピンホール欠陥内のドロスは大半が粗大ドロスである。 図 3にドロス生成型ピンホール欠陥の概念図を示す。最初にMg、Si、Fe、Mnなどが酸化して酸化物を生成する。これら酸化物が凝集してドロスとなる。ドロスは溶湯中の Cと反応して、COガスを放出してピンホール欠陥となる。凝固被膜は酸化しやすいために、黒皮面でのドロス欠陥の例が多い。

図 1 ピンホール欠陥の形状と発生頻度

上:物理型、下:溶解型   酸化反応型     スラグ生成型

図 3 ドロス生成型、ガス気泡の概念図

図 4 溶湯に含まれるドロスの生成概念図

図 2 凝固の進行とピンホール欠陥形状

液相

固液共存域

凝固終了間際

亜共晶組成 過共晶組成

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2.2 介在物欠陥の生成要因の分類と考察 介在物欠陥を分類は(A)砂かみ欠陥、(B)砂かみ・スラグかみ複合欠陥、(C)スラグかみ欠陥、(D)その他異物かみ欠陥である3)。その他異物かみ欠陥とは接種剤、湯玉、ノロ取り材、フィルタ、塗型などであり、SEM像と成分分析により判定できる場合が多い。それら介在物が溶融し、元の形状や成分を留めていない場合は分かりづらい。例えば、湯玉が溶融すると、酸化膜状の介在物欠陥を経て溶湯に拡散する。接種剤もスラグ化することが多いが、最終的には溶湯に拡散する。砂かみ欠陥は鋳型から鋳物砂が剥離して溶湯に巻き込まれた介在物欠陥で鋳物砂がスラグ化していない場合を指す。スラグかみ欠陥はスラグが介在する欠陥であり、スラグの発生源は鋳型外部から流入するスラグと鋳型内部で生成するスラグである。砂かみ・スラグかみ複合欠陥は鋳物砂が溶融してスラグ化している場合とスラグが鋳物砂に付着している場合がある。鋳造現場では砂かみ・スラグかみ複合欠陥の発生頻度が高い。この際に、欠陥対策として、砂かみ対策を行うべきか、スラグかみ欠陥対策を行うべきか、迷うことが多々ある。 鋳物砂が溶融しスラグ化すると、本来の溶湯より生成するスラグと SEM像も成分も似通っているために、見分けがなかなかつき難い。 図 6に鋳物砂の耐火度とスラグ化時間を示す。鋳物砂を 1673Kの FC250 溶湯に浸漬し、スラグ化するまでの時間を測定した。耐火度 1803Kの試料はSiO2 が 88%の生型砂である。これは 15 秒でスラグ化しており、注湯時間が 15 秒であることは決して長くはないために、湯道系の鋳物砂を洗って砂かみとなった場合、砂がスラグ化する。耐火度が増加するに従って、スラグ化する時間が長くなる。 図 7に介在物欠陥の分析例を示す。 SEM 像において、白色箇所が非金属介在物であり、ここでは鋳物砂あるいはスラグである。鋳物砂は粒子状であるがスラグ化するとポーラスとなり、溶湯中

けた微細懸濁ドロスとなっている。鋳型キャビティの中でこれらが、凝集して固体となる。

⑤ 初晶黒鉛が多い場合、ドロスが初晶黒鉛を核として生成する。欠陥発生時に、Cが多くなってないかどうか。

⑥ MgO と SiO2 は微細ドロスで、Al2O3 が加わると粗大ドロスとなる。粗大ドロスは湯に流される中で線状ドロスの形状となる。

 図 5に鋳型中のドロスの生成概念図を示す。鋳型中で生成するドロスとは、溶湯中に含まれるMgが鋳型内で酸化し、SiO2、Al2O3、FeO などとともにドロスを形成したものである。図 5(A)では鋳型中を溶湯が流れる中で溶湯先端部が鋳型のガスなどで酸化してドロスが生成した例、図 5(B)ではそのドロスが辿り着いた箇所でガスを発生した例、図 5(C)では鋳型内の溶湯液面で酸化膜が生成しその中にドロスが生成した例、図 5(D)では砂かみが発生して砂にドロスが生成した例である。鋳型中のドロスの生成原因としては以下が考えられる。① 鋳型雰囲気が酸化雰囲気(石炭粉が不足)、水蒸気が多い、などの鋳型ガスによりMgが酸化してMgOが生成し SiO2、Al2O3 とドロスとなる。

② 溶湯が乱流となり空気と接する、液面が乱れて酸化膜が生成するなどによりMgO が生成して SiO2、Al2O3 とドロスとなる。

③ 砂かみが発生し、砂が溶融することで SiO2 源となり、MgOと反応してドロスとなる。

④ 鋳込み温度が低く、酸化物が生成しやすい状態となっている。鋳込み時間も長い。

⑤ 湯流れの中で、溶湯が合流したり、濾過に近似した状態になったり、酸化膜やドロスが捕捉されたりする場合。

⑥ 気泡中のミスト状微細ドロスが鋳型上部、最終凝固部に拡散し欠陥形成に関与する。

図 5 鋳型中のドロスの生成概念図 図 6 鋳物砂の耐火度とスラグ化時間(FC250、1673K)

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特集 鋳鉄品の鋳造欠陥現象の原因追求とその対策

の懸濁成分に由来するスラグと見分けがつかなくなる。また、鋳物砂がスラグ化すると溶湯中のMnと反応してマンガンシリケート系スラグとなる。懸濁成分に由来するスラグもマンガンシリケートスラグであるために成分分析でも見分けがつき難い。見分け方としては、丁寧に SEM像を解析し、鋳物砂粒子の痕跡があるかどうか見つけることと、成分中にKがあるかどうかによる。一般的に、鋳物砂がスラグ化する際に、鋳物砂に含まれる耐火度が 1373K、1473Kの長石がスラグ化する。鋳物砂の主成分である石英は純度によるが耐火度が 2173K前後であり溶融し難い。 図 8に長石の鉱物成分を示す。鋳物砂には一般にカリ長石が含まれることから、Kが検出される訳である。なお、懸濁成分に由来するスラグでは Ca が検出されることが多く、これにより、およそ見分けることができる。ただし、除滓材にはKが入っていることやスラグと砂が入り混じっている場合もあるので、丁寧な分析が必要である。

2.3 焼付き欠陥生成要因の分類と考察 一般的に、焼付き欠陥は溶湯の鋳型への浸透である(A)物理的焼付き欠陥と、ファイヤライト等の低融点物質生成に起因する(B)化学的焼付き欠陥に分けて検討される。しかしながら、鋳造現場ではそれ

らの(C)中間的な焼付き欠陥が多く存在する。 図 9に焼付き欠陥生成の概念図を示した。中江らは石英板にFC250 湯滴を落下させ濡れの変化を調べている6)。これによるとArガス雰囲気中でFC250 の湯滴を石英板に落下させ、その後に 90%Ar、10%酸素とした。その結果、湯滴が石英板に濡れ、接触面においてファイヤライトが生成している。酸素を吹き込むことでFeが酸化してFeOとなり、その後に石英板のSiO2 と反応してファイヤライトが生成する。ファイヤライト以外に、以下の反応式によってフォルステライト及びテフォロライトが低融点物質として生成する。 2FeO + SiO2 → 2FeO ・ SiO2(fayalite)     ・・・・・・・・・・(1) MgO + SiO2 → 2MgO ・ SiO2 (forsterite)   ・・・・・・・・・・(2) 2MnO + SiO2 → 2MnO ・ SiO2(tephroite)   ・・・・・・・・・・(3) (1)~(3)式では、最初に溶湯の酸化と鋳型の溶融(融体)があり、次いで鋳型と溶湯の混合融体が生じ、最後に低融点物質が生成する。図 7 介在物欠陥の分析例

図 8 長石の鉱物成分

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つまり、酸化、溶融、混合、反応のステップである。反応するとファイフライトなどの低融点物質が生成し、これが化学的焼付き欠陥である。溶湯が融体で差し込むと物理的焼付き欠陥である。そして、中間的焼付き欠陥とは、溶湯酸化、混合融体、部分的な低融点物質生成によるものである。酸化すると表面張力が低下して差し込み易くなる。混合融体が生成している場合は鋳型の一部が溶けており濡れ易くなっている。なお、鋳型が溶けて融体の SiO2 が生じるが、これは介在物で述べた鋳物砂のスラグ化と同様に、耐火度の低い長石や生型の粘土鉱物(1173K前後)に含まれる SiO2 の溶融が主である。 図 10に焼付き欠陥の分析例を示す。Fe-Si と Mn-Si のマッピングの重ね合わせから、それぞれの融体の混合物が生成していることがわかる。

図 9 焼付き欠陥生成の概念図

図 10 焼付き欠陥の分析例

3.鋳造欠陥のケーススタディ

 ピンホール欠陥、介在物欠陥、焼付き欠陥について、鋳造現場で発生した鋳造欠陥についてケーススタディで分析結果をまとめる。実際に発生した鋳造欠陥につき幾つかの発生要因が重なった複合的な欠陥が多い。

3.1 ピンホール欠陥(物理型と酸化反応型の複合 ) 図 11に FCDに発生した加工面のピンホール欠陥を示す。 欠陥形状はやや歪な球状で、 1 点の発生である。 肉眼では欠陥内部は黒色である。 SEM ・ EDS 分析では欠陥内部には酸化物が認められ、その下に黒鉛膜が存在する。 微細ドロスが生成し鋳型の水分と反応してピンホールとなり、その後に黒鉛が析出したものと思われる。FCDでは酸化膜が生成し易いが、

Mg

Si

CaIntensty

Energy, KeV0

BaBa

FeFe

Fe

OC

Al

10.23

図 11  ピンホール欠陥(物理型と酸化反応型の複合)球状ピンホール

本例では黒鉛膜が認められることから酸化膜欠陥ではなく、懸濁したドロスと鋳型からの水蒸気との反応による欠陥と考えられる。

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特集 鋳鉄品の鋳造欠陥現象の原因追求とその対策

3.2 ピンホール欠陥(物理型と溶解型の複合) 図 12にニレジストD5S の黒皮面に多数発生したピンホール欠陥を示す。主型が生型で中子はシェルであり、シェル中子面に欠陥が発生した。シェル中子の焼成条件やレジン量などを変化させたところRCSの窒素量が 1,200ppm(シェルで約 500ppm)で発生し、800ppm(シェルで約 300ppm)で発生しない結果であった。中子から発生する水素ガスや窒素ガスがニレジストに拡散し過飽和となって発生した欠陥である。

3.3 スラグ生成型ピンホール欠陥 図 13にFCに発生したスラグ生成型ピンホール欠陥を示す。主型が生型で中子はシェルである。鋳込み姿勢の上方向で 2箇所発生した。欠陥内部には線状のマンガンシリケートスラグが認められる。スラグが線状であることは移動してきたスラグである可能性が高い。スラグからガスが発生したか、あるいは中子などから発生した気泡がスラグを捕捉し上方向に辿り着いたかが発生原因として考えられる。スラグ生成が共通の要因であることから、まず、Mn値を確認する。次いで、スラグが生成し難い条件での鋳造を行うことで本欠陥を防止する。

3.4 酸化膜巻き込み欠陥 図 14にFCに発生した酸化膜の巻き込み欠陥を示す。酸化膜が生成して発生する鋳造欠陥は極めて多く多岐の鋳造欠陥になる。本分析例はディスクローターのフィン部の酸化膜巻き込み欠陥である。鋳込み速度が遅く、鋳込み温度が低い際に発生し易い。フィン内を溶湯が移動する際に酸化膜がスジ状となって捕捉されている。

3.5 スジ状スス欠陥 図 15に FCに発生したすじ状のスス欠陥を示す。これも酸化膜の巻き込みであるが、すじの中に黒鉛が晶出している。鋳造現場ではスス欠陥と称されていた。カーボン残渣欠陥と呼ぶ鋳造現場もある。すじ内部の酸化の程度が低いために黒鉛が析出したと考えられる。C値の高い高減衰ディスクローターで発生し易い。

図 13 スラグ生成型ピンホール欠陥

図 14 酸化膜巻き込み欠陥

Mg

Al

Al

Si

Si

S

Ca Ca Ca

Mn

Mn

Mn

Mn

O

O

keV

keV

C

Fe

FeFe

FeNa

Fe

Ti

Ti

1

Ti FeMn

Mn

2 3 4 5 6 7

1 2 3 4 5 6 7 8

OKa

FeLa

MnKa

FeKa

FeKb

keV

022960

0.00

Counts

CKa

0

88080072064056048040032024016080

10.001.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00 8.00 9.00図 12 ピンホール欠陥(物理型と溶解型の複合)

13500

12000

10500

9000

7500

6000

4500

3000

1500

00.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00

keV

Counts

6.00 7.00 8.00 9.00 10.00

図 15 すじ状スス欠陥

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 図 16に FC に発生した酸化膜の影響によるピンホール欠陥、あばた状欠陥、湯境欠陥を示す。酸化膜から発生する欠陥例は多いが、これらは同一鋳物において、同時期にほぼ同一箇所に発生した欠陥である。ピンホール欠陥は比較的広範囲に多数発生しており、欠陥内部は酸化物に覆われている。あばた欠陥は欠陥内部にスラグが認められる。湯境欠陥は欠陥内に何も検出されないが鋳込み温度が低下して湯境となったと考えられる。これらは鋳込んだ溶湯が到達する箇所近辺の欠陥である。鋳込み温度低下などによる酸化の影響で発生した同一の欠陥である。

3.6 鋳物砂とドロスの複合介在物欠陥 図 17に鋳物砂とドロスの複合介在物欠陥を示す。主型が生型で中子はシェルである。生型砂が洗われて砂かみ欠陥となり、溶湯を移動する際にスラグ化して凝集し、塊状の砂かみ欠陥となっている。砂が生型砂か中子砂かの判定を別途に行っており、砂の周りに粘土鉱物と思われる層があることから生型砂と判定し、生型砂に対する砂かみ対策を実施した。

3.7 線状ドロスの介在物欠陥 図 18に線状ドロス欠陥を示す。主型は生型で中子は使用していない。ドロスのみが介在しており砂は認められない。ドロスは流されてきて線状となっている。

3.8 FC、FCDの物理的焼付き欠陥 図 19に FC、FCD の物理的焼付き欠陥を示す。同一鋳造工場で同時期に発生した FC、FCDの焼付き欠陥である。主型はシェル鋳型である。FCではカムシャフト全面に焼付きが発生している。ガスバブリングによる溶湯動圧で差し込んだと判断した。FCDでは鋳物コーナー部の部分的焼付き欠陥である。砂粒と金属との接触面にMgが検出され、MgO酸化物の影響が認められる。砂粒は溶融していない。FC と FCD の SEM像を対比すると、FC では砂粒と金属の接触面には空隙が認められるが、FCDでは接している傾向にある。金属と砂粒の濡れ性変化の影響が読み取れる。

図 16  酸化膜の影響によるピンホール欠陥、あばた状欠陥、湯境欠陥

図 17 鋳物砂とドロスの複合介在物欠陥

図 18 線状ドロスの介在物欠陥

図 19 FC、FCDの物理的焼付き欠陥

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特集 鋳鉄品の鋳造欠陥現象の原因追求とその対策

4.結言

 ピンホール欠陥、介在物欠陥及び焼付き欠陥について SEM ・ EDS 分析を適用し分類を行った。鋳造工場で発生した鋳造欠陥に対して、SEM ・ EDS 分析事例をケーススタディ的にまとめた。SEM ・ EDS分析は欠陥の発生要因を推定する上で有効であるが、これから得られる情報と鋳造条件全般の情報と組み合わすことで不具合現象観察による真の原因追求となる。

 参考文献1 ) Kurokawa, Y., Kambayashi, H., Ozoe, N., Ota, H., Miyake, H. "Observation of Pinhole Defects in Cast Iron Castings by Surface Analysis," AFS

2 ) Kambayashi, H., Kurokawa, Y., Ota, H., Miyake, H. "Surface analysis evaluation of penetration defects

occurring in cast iron," AFS Transactions, vol. 111, Paper03-013(05). pdf, pp1-14(2003)

3 ) Kambayashi, H., Une, H., Kurokawa, Y., Ito, S., Mikamoto, H., Miyake, H., "Mold Surface Analysis Evaluation of Inclusion Defects Occurring in Cast Iron Produced in Green Sand Molds," AFS Transactions, vol112, Paper 04-017(05), pp1-13(2004)

4 ) Kambayash i , H . , Kurokawa ,Y . , Miyake , H . , "Observation of Defects in Cast Iron Castings by Surface Analysis -Blow hole, Shrinkage, Orange peel, Cold shut, Cracks and Veining-," AFS Transactions, vol. 113, Paper05-016(05), pdf, pp. 1-19(2005)

5 ) 黒川豊:平成 22 年素形材技術セミナー「鋳鉄品の鋳造欠陥現象における真の原因追求とその対策」

6) 中江秀雄・松田泰明「鋳造工学」,71(1999)P28

3.9 中間的焼付き欠陥 図 20に中間的焼付き欠陥を示す。主型はシェル鋳型である。押し上げ方案でゲートから吐出した湯に接する箇所に発生した。砂粒は溶けている箇所が

ある。砂粒表層部ではMgOとSiO2の混合融体となっている。鋳込み温度が低い、C値が低い、鋳型の粒度が粗い際に発生した。

図 20 中間的焼付き欠陥

マッピング分析結果SEM

C O

Fe Si

Mg Al

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