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Page 1: 最 近 の 話 題 - 鳥居薬品株式会社‡症薬疹に位置付けられるStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)の死亡率は,それぞ れ₃%,19%にのぼり,その発症予防と治療法の開発は皮膚科医にとって重要なテーマである。そこで今回,重症薬疹の発症
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Clinical D

erma

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最 近 の 話 題第54 回

横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学教授

Profileあいはら みちこ1980年横浜市立大学医学部卒業後,同大学皮膚科に入局。西ドイツMax-Planck Institute免疫遺伝学部門研究員,米国Stanford University Medical Center研究員を経て,’91年横浜市立大学講師,’02年同大学附属市民総合医療センター皮膚科部長,’04年同大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学助教授,’08年同大学附属病院皮膚科教授を努め,’11年より現職。専門は薬疹,アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患。

重症薬疹に位置付けられるStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)の死亡率は,それぞれ₃%,19%にのぼり,その発症予防と治療法の開発は皮膚科医にとって重要なテーマである。そこで今回,重症薬疹の発症メカニズムの解明研究について,横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学教授の 相原道子先生にこれまでの知見と今後の展望についてお話しいただいた。

相原 道子 先生

2004年に,Chungら1)が芳香族系抗てんかん薬であるカルバマゼピン(CBZ)によるStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome;SJS)/中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis;TEN)とヒト白血球抗原(human leukocyte antigen;HLA)-B*15:02が非常に強く相関するという衝撃的な結果を発表して以来,重症薬疹の発症に関与する遺伝的背景を解明しようとする研究のアクセルが踏まれました。Chungらによる台湾の漢民族のケース・コントロール研究では,CBZによる44名 のSJS/TEN患 者 のHLA-B*15:02の 発 現 頻度が100%であるのに対して,101名のCBZに耐性をもつ患者では3%にすぎないこと(オッズ比

(OR):2,504)が示され,その後のSJS/TEN患者における継続調査でも60名中59名でHLA-B*15:02の発現が認められ,ORが1,357であること2)が明らかにされています。重症薬疹の発症に関与するHLAは人種で異なる

CBZによるSJS/TENの発症に関与するHLAの研究はさらに進められ,香港在住の東南アジアのSJS/TEN患者だけでなく,中国本土の患者でもHLA-B*15:02の高い保有率が確認されました3)。しかし,ヨーロッパではヨーロッパ在住のアジア人のSJS/TEN患者のみにHLA-B*15:02の保有が確認され,白人のSJS/TEN患者には確認され ず4),また日本人のSJS/TEN患者にも認められませんでした5)。われわれは,日本人のSJS/TEN

患者ではHLA-B*15:02と同じHLA-B75に属するHLA-B*15:11の保有率が高いことを明らかにしており5),同様の結果が韓国からも報告されました6)。つまり,CBZによるSJS/TENの発症に関与するHLAは,民族・人種によって異なるということです。そのほかに,HIV治療薬のアバカビルによる重症薬疹の発症においても白人ではHLA-B*57:01との強い相関が認められていますが7),日本や韓国,台湾では確認されていません。HLAによって薬疹の発症への関与の仕方が異なる

また,前述したような「薬剤(CBZ)+臨床型(SJS/

*58:01 漢民族(台湾)

SJS/TEN or DIHS/DRESS

51/51 580

タイ人 SJS/TEN 27/27 348

白人 SJS/TEN 15/27 80

日本人† SJS/TEN 10/18 40.83

韓国人 DIHS 20/21 97.8 HLA-B*58:01におけるアリル頻度 : 東南アジア人は7~15%

ヨーロッパ人は1~6%日本人は1%以下

アロプリノールによるSJS/TEN人種にかかわらずHLA-B*58:01の頻度が高い

HLA-B 民族 臨床型 保有率 OR

図₁.アロプリノールによる重症薬疹とHLAの関係    DRESS:drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms    †:集積システムのデータ

(相原道子:皮膚臨床 54:831-836,2012より引用・改変)

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TEN)+遺伝子背景(HLA-B*15:02,HLA-B*15:11)」の関係や民族・人種による差異が認められない場合もあります。2011年に日本8)およびヨーロッパ9)から,CBZによる重症薬疹患者ではHLA-A*31:01が高率に検出されることが報告されました。その際,HLA-A*31:01はSJS/TENに 限 らず,薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome;DIHS)や その他の薬疹の患者でも保有率が高いことが確認されており,HLA-B*15:02がSJS/TENに特異的であることとは異なっていました。また,高尿酸血症治療薬であるアロプリノールによるSJS/TENおよびDIHSのいずれかの患者においては,民族・人種にかかわらずHLA-B*58:01の保有率が高いことが明らかにされています10)-13)

(図₁)。つまり,HLAにより薬疹の発症への関与の仕方が異なるというわけです。重症薬疹へのHLA関与のメカニズム解明を目指す

このように,重症薬疹とHLAの関係は徐々に明らかにされていますが,今のところHLAが重症薬疹発症にどのように関与するのかは明確になっていません。最も研究が進んでいるCBZでは,CBZが代謝されることなく抗原提示細胞(antigen-presenting cell;APC)上に発現したHLA-B*15:02と直接非共有結合することにより,T細胞上に発現したある特定のT細胞受容体を介して抗原提示がなされ,T細胞が活性化してCBZ特異的な細胞傷害性T細胞となり,皮膚や粘膜,肝臓などの臓器を攻撃することで重症薬疹を発症するというメカニズムが示唆されています(図₂)。しかし,CBZがHLA-B*15:02にどのように結合するのか,結合のしやすさだけが原因なのかなど,不明な点が少なからずあります。今後,その解明を目指していかなければなりません。重症薬疹の予防法,治療法の確立が重要課題

重症薬疹は以前に比べて治療法が随分進みましたが,TENでは死亡率が19%と高く,また合併症も非常に多く救命できても視力低下や呼吸器障害などの後遺症を残すこともあります。その発症の予防法と新たな治療法の開発は最重要課題です。

すでに台湾では,SJS/TEN発症予防におけるCBZ投与前のHLA-B*15:02スクリーニング検査の有用性をみた前向き試験の結果が発表されました14)。非保有者ではSJS/TENの発症を₁例も認めなかったという結果を受け,健康保険でCBZ初

回投与前のHLAスクリーニング検査が実施されています。同様に,アロプリノールによる重症薬疹患者で保有率が100%(OR:580)ときわめて高いHLA-B*58:01(図1)についても,台湾ではその初回投与前のHLAスクリーニング検査が義務付けられています。日本でも,薬剤投与前スクリーニングに有用なHLAを見出したり,非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs),抗生物質などによる重症薬疹発症に関連するHLAを明らかにしたりすることで,重症薬疹で命を落とす人,合併症や後遺症に苦しむ人を1人でも減らしたいと考えています。

文 献1)Chung WH, et al:Nature 428:486, 20042) Hung SI, et al:Pharmacogenet Genomics 16:

297-306, 20063)Wang Q, et al:Seizure 20:446-448, 20114) Lonjou C, et al:Pharmacogenomics J 6:265-268,

20065)Kaniwa N, et al:Epilepsia 51:2461-2465, 20106)Kim SH, et al:Epilepsy Res 97:190-197, 20117)Saag M, et al:Clin Infect Dis 46:1111-1118, 20088) Ozeki T, et al:Hum Mol Genet 20:1034-1041,

20119) McCormack M, et al:N Engl J Med 364:

1134-1143, 201110) Hung SI, et al:Proc Natl Acad Sci U S A 102:

4134-4139, 200511) Lonjou C, et al:Pharmacogenet Genomics 18:

99-107, 200812)Tohkin M, et al:Pharmacogenomics J(in press)13) Kang HR, et al:Pharmacogenet Genomics 21:

303-307, 201114)Chen P, et al:N Engl J Med 364:1126-1133, 2011

CBZ

H2N

N

O

CBZは代謝されることなく,HLA-B*15:02と直接非共有結合する。

患者のCBZ特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する。

HLA-B*15:02とCBZの5-carboxamideとが結合しやすい。

HLA-Bのポケット部分のArg62とその隣のAsn63がCBZの結合に重要。HLA-B75に属するAlleleは,そのいずれも有する。

HLA-B*15:02以外のHLA-B75にも結合

図₂. 重症薬疹発症におけるHLA関与のメカニズム(Wei CY,et al:J Allergy Clin immunol 129:1562-1569,2012)

54No.

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蕁麻疹 島根大学医学部皮膚科講師  金子  栄

実地診療マニュアル

蕁麻疹は毛細血管網の透過性が亢進し,血漿成分が組織に漏出することによる真皮上層の一過性の浮腫(膨疹)であり,その浮腫や痒みには,種々の要因で皮膚マスト細胞が活性化して放出されるさまざまなケミカルメディエーター(ヒスタミンなど)が大きく関与していると考えられている。マスト細胞の活性化機序としては,免疫グロブリン

(immunoglobulin;Ig)Eを介したⅠ型アレルギーが広く知られているが,それ以外にも種々の因子が関与しうる。表1に,蕁麻疹の病態に関与しうる増悪・背景因子1)を示す。これらの増悪因子は一部アトピー性皮膚炎の増悪因子2)と重なるところもあり,またアトピー性皮膚炎自体が背景因子として関与が指摘されている。症例ごとの詳細な問診を行うことにより,増悪・背景因子を洗い出していくことが重要と考えられる。

病態 症状2011年に改訂された日本皮膚科学会の『蕁麻疹診

療ガイドライン』1)より,表₂に蕁麻疹の分類と各病型の特徴を示す。蕁麻疹は,個々の症例の重症度,緊急性および各病型の特徴をふまえて対処することが大切である。そのため,『蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン』3)では蕁麻疹を₃グループ13の病型に分けていたが,2011年のガイドラインでは₄グループ16の病型に分け,おのおのに対する治療内容を示している。医療機関を訪れる蕁麻疹患者のなかでは特発性の蕁麻疹が最も多く,全体の約70%を占める。食物による蕁麻疹など,I型アレルギーによる蕁麻疹は数%以下にとどまるとされているが,当院の初診時の統計では食物が原因と考えられる蕁麻疹の割合が若干高く,統計の取り方や受診する医療機関により異なるものと思われる(図1)。病型分類には,十分な問診が

1.直接的誘因(主として外因性,一過性)  1)外来抗原  2)物理的刺激  3)発汗刺激  4)食物*

    食物抗原,食品中のヒスタミン,    仮性アレルゲン(豚肉,タケノコ,もち,香辛料など),    食品添加物(防腐剤,人工色素),サリチル酸*

  5)薬剤    抗原,造影剤,NSAIDs*,防腐剤,コハク酸エステル    バンコマイシン(レッドマン症候群),など  6)運動2.背景因子(主として内因性,持続性)  1)感作(特異的IgE)  2)感染  3)疲労・ストレス  4)食物    抗原以外の上記成分  5)薬剤    アスピリン*,その他のNSAIDs*(食物依存性運動誘発アナフィラキシー),アンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬*(血管性浮腫),など  6)IgEまたは高親和性IgE受容体に対する自己抗体  7)基礎疾患    膠原病および類縁疾患(SLE,シェーグレン症候群など)    造血系疾患,遺伝的欠損など(血清C1-INH活性が低下)    血清病,その他の内臓病変など    日内変動(特発性の蕁麻疹は夕方〜夜にかけて悪化しやすい)

表1.蕁麻疹の病態に関与する因子

*:膨疹出現の直接的誘因のほか,背景因子として作用することもある。(秀 道広,他:蕁麻疹診療ガイドライン.日皮会誌 121(7):1339-1388,2011)

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54実地診療マニュアル イラスト&ビジュアル

大切である。特に,皮疹の持続時間を特定することが重要である。患者は,皮疹が消退出没を繰り返していると皮疹が続いていると訴えがちである。蕁麻疹の病型分類においては多型紅斑や蕁麻疹様紅斑,蕁麻疹様血管炎との鑑別が必要であり,具体的な皮疹の部位を指定して「この皮疹はいつからありますか」と聞くことが大切である。コリン性蕁麻疹(図₂)は,運動によりときに重篤な全身症状

(血管性浮腫やショック症状)を呈するため,食物依存性運動誘発アナフィラキシーとの鑑別が必要であり注意を要する。

診断の進め方蕁麻疹の検査の目的は,病型の確定と原因の探索

である。蕁麻疹の病型は個々の皮疹の性状と経過により診断できることが多く,原因検索のための検査

は病型により異なる。そのため,単に蕁麻疹があるからといってルーチンに行うべき検査内容はなく,まずは臨床的な病型の診断とその症例の特徴に基づいて必要な検査内容を立案することが大切である。

外来抗原によるアレルギー性の蕁麻疹では,I型アレルギーの一般的検査法を用いて責任抗原を同定する。血管性浮腫の場合は,血清補体価や補体第₁ 成分エステラーゼ阻害因子(C1-esterase inhibitor ; C1-INH)の値が有用である。特発性の蕁麻疹では,表₁に挙げた因子との関連を念頭に置いて診察し,病歴,理学所見などから関連性が疑われる場合には,適宜その可能性を確認ないし除外するための検査を行う。

特に,特発性蕁麻疹のなかでも慢性蕁麻疹では通常の診療において原因や増悪因子を明らかにすることができないが,長期にわたって膨疹の出没を繰り返すため患者は内因的な異常を気にする

1. 急性蕁麻疹

2. 慢性蕁麻疹

3. 外来抗原による アレルギー性の蕁麻疹4. 食物依存性運動誘発  アナフィラキシー(FDEIA)6.不耐症(イントレランス)に  よる蕁麻疹7. 物理性蕁麻疹

8. コリン性蕁麻疹

9. 接触蕁麻疹(口腔アレルギー  症候群を含む)

10.血管性浮腫

11.蕁麻疹様血管炎

FDEIA 急性蕁麻疹

慢性蕁麻疹外来抗原によるアレルギー性の蕁麻疹

表₂.蕁麻疹の主たる病型

図₁. �島根大学医学部皮膚科における初診時の蕁麻疹の病型の内訳(2006年₈月〜2010年₅月)

(秀 道広,他:蕁麻疹診療ガイドライン.日皮会誌 121(7):1339-1388,2011)

図₂. 運動にて誘発された頸部のコリン性蕁麻疹(筆者提供)

Ⅰ.特発性の蕁麻疹  1.急性蕁麻疹  2.慢性蕁麻疹Ⅱ.刺激誘発型の蕁麻疹(特定刺激ないし負荷により皮疹を誘発することができる蕁麻疹)  3.アレルギー性の蕁麻疹  4.食物依存性運動誘発アナフィラキシー  5.非アレルギー性の蕁麻疹  6.アスピリン蕁麻疹(不耐症による蕁麻疹)  7.物理性蕁麻疹(機械性蕁麻疹,寒冷蕁麻疹,日光蕁麻疹,温熱蕁麻疹,遅延性圧蕁麻疹,水蕁麻疹,振動蕁麻疹(振動血管性浮腫))  8.コリン性蕁麻疹  9.接触蕁麻疹Ⅲ.血管性浮腫  10.特発性の血管性浮腫  11.外来物質起因性の血管性浮腫  12.C1エステラーゼ阻害因子(C1-esterase inhibitor;C1-INH)の低下による血管性浮腫(遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema;HAE),    自己免疫性血管性浮腫など)Ⅳ.蕁麻疹関連疾患  13.蕁麻疹様血管炎  14.色素性蕁麻疹  15.Schnitzler症候群  16.クリオピリン関連周期熱(CAPS:cryopyrin-associated periodic syndrome)

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ことが少なくない。しかし,一般に考えられているほど内因的な異常はみられない。C反応性蛋白

(C-reactive protein;CRP)や抗ストレプトリジンO(anti-streptolysin-O;ASO)が陽性の場合には慢性扁桃腺炎や齲歯,副鼻腔炎が症状の悪化に関わっている可能性があり,これらの有無を検索してもよい。また,ヘリコバクター・ピロリ菌感染などが蕁麻疹の病態に関与しうることが知られており2),胃腸症状がある場合は特に注意する。魚介類摂取時の蕁麻疹におけるアニサキスの関与や4),稀ではあるが摂食後₆〜12時間経って発作が生じる納豆による遅発性アナフィラキシー(図₃)などの報告もあり5),詳細な問診は大切である。コリン性蕁麻疹では汗にアレルギー反応を認めることがあり,アセチルコリンの皮内テスト(図₄),自己汗皮内テスト(図₅),精製汗抗原に対するヒスタミン遊離試験(図₆)などが診断に有用である。

治療法蕁麻疹の治療の基本は,原因・悪化因子の除

去・回避と抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)を中心とした薬物療法である。皮疹を誘発できるタイプのものでは,症状誘発因子の同定ないし確認とそれらの因子を回避することが大切で,特発性の蕁麻疹では対症的な薬物療法がより重要である。

C1-INH不全による血管性浮腫では,予防的に

トラネキサム酸,蛋白同化ホルモンを内服し,重篤な発作時にはC1-INH製剤を点滴する。蕁麻疹がアナフィラキシー(様)ショックの部分症状として出現している場合は,気道および全身的な循環血液量の確保を優先する。

診察の時点で現れている症状が激しく,速やかな沈静化が必要な場合は抗ヒスタミン薬の注射が有効な場合が多く,必要に応じてステロイドを併用する。激しい症状を呈する蕁麻疹の外来診療でのポイントは,抗ヒスタミン薬の注射後30分〜₁時間程度の経過をみることにより症状の軽快を確認することである。この経過観察により,重篤なショック症状へと進行する蕁麻疹が鑑別できる。ステロイドの注射に関してはその頻用には留意が必要であり,重篤な症状が反復して現れる患者に対してはステロイドによる副作用や蕁麻疹の原因・悪化因子,薬剤や診察にかかる費用などについて十分考慮する必要がある。

特発性蕁麻疹は,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬による治療が標準である。抗ヒスタミン薬はその開発時期と特性から第₁世代,第₂世代に分類されている1)。第₁世代抗ヒスタミン薬は,古くから臨床使用されてきた抗ヒスタミン薬で中枢神経系に移行しやすい性質があり,服薬により眠気,めまい,倦怠感,運動機能低下など中枢神経系の抑制に起因する副作用が高率にみられる。また,ヒスタミンH1受容体への選択性が低く,抗ヒスタミン作用以外にも抗コリン作用による口渇や前立腺肥大における排尿障害,眼圧上昇などの副作用も軽視できない。このため,抗コリン薬との併用は禁忌とされ,高齢患者において疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤とされている6)。

一方,ケトチフェン以降に開発された抗ヒスタミン薬は,ヒスタミンH1受容体に対する結合選択性が高められ,マスト細胞からのケミカルメディ

15分後

納豆

納豆

エダマメ

エダマメ

ヒスタミン

ヒスタミン

コントロール

コントロール

2時間後

15分後

2時間後

アセチルコリン 100mg/mL

アセチルコリン 10mg/mL

図₃. 納豆のプリックテスト結果5)

    納豆の糸のプリックテストは,15分後,₂時間後いずれも陽性を示している。

図₄. �コリン性蕁麻疹患者に対するアセチルコリン皮内注射による衛星膨疹

(筆者提供)

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54実地診療マニュアル イラスト&ビジュアル

エーター遊離抑制作用などの抗アレルギー作用も証明されたことから,第₂世代抗ヒスタミン薬として分類されている7)。これらは血中半減期も第₁世代に比べて長く,第₁世代の抗ヒスタミン薬が₁日₂〜₄回の服用であるのに対し,₁日1〜₂回の服用で抗ヒスタミン効果が期待できる。しかし,第₂世代抗ヒスタミン薬のうち初期に発売された薬剤は第₁世代と同様に脂溶性が高く,血液脳関門を通過し中枢神経系抑制作用を起こしやすい。中枢神経系移行性の定量の結果,脳内H1

受容体占拠率20%以下の薬剤を非鎮静性に分類している8)。蕁麻疹の治療においては,鎮静性の低い第₂世代の抗ヒスタミン薬が第一選択薬として推奨される(推奨度B)1)。なお,抗ヒスタミン薬の効果には個人差があり,₁種類の抗ヒスタミン薬で十分な効果が得られない場合でも,他に₁〜₂種類の抗ヒスタミン薬に変更,追加,または通常量である程度効果の得られた抗ヒスタミン薬を増量することで効果を期待しうる。抗ヒスタミン薬の使い方を工夫してもなお十分な効果が得られない場合,さらに他の治療薬を追加すべきか否かは,症状の程度,追加する治療薬の効果の大き

さ,ならびに副作用,経済的負担などのバランスをふまえて判断する。

文 献1) 秀 道広,森田栄伸,古川福実,他:蕁麻疹診療ガ

イドライン.日皮会誌 121:1339-1388,20112) 金子 栄,森田栄伸:アトピー性皮膚炎の悪化因子

と生活指導.日医師会誌 140:1003-1007,20113) 秀 道広,古江増隆,池澤善郎,他:蕁麻疹・

血管性浮腫の治療ガイドライン.日皮会誌 115:703-715,2005

4) Audicana MT, Kennedy MW:Anisakis simplex;from obscure infectious worm to inducer of immune hypersensitivity. Clin Microbiol 21:360-379, 2008

5) 金子 栄,森田栄伸:納豆による遅発性アナフィラキシー.皮病診療 31:69-72,2009

6) 今井博久,Beers MH,Fick DM,他:高齢患者における不適切な薬剤処方の基準−Beers Criteriaの日本版の開発.日医師会誌 137:84-91,2008

7) 森田栄伸:皮膚疾患薬物療法update.Derma 140:15-19,2008

₈) Yanai K, Tashiro M:The physiological and pathophysiological roles of neuronal histamine;an insight from human positron emission tomography studies. Pharmacol Ther 113:1-15, 2007

ヒスタミン遊離曲線(%)120100806040200E D C B A

アレルゲン液

ヒスタミン遊離率

項目総ヒスタミン遊離量(nmol/L)非特異的ヒスタミン遊離量(nmol/L)コントロール卵白牛乳小麦ヤケヒョウヒダニヒト汗

検査成績クラス452.6

32.5クラス4クラス0クラス0クラス0クラス4クラス4

0 1 2 3 4●

●●

●●

コントロール卵白牛乳小麦ヤケヒョウヒダニヒト汗

▲▲▲▲▲★

★★★

図₆. �汗によるヒスタミン遊離試験�(アラポート®HRT:保健科学研究所)の結果(図₅と同一の患者)

汗原液

汗10倍 汗100倍 汗1,000倍汗1万倍

図₅. 自己汗皮内テスト1,000倍まで陽性反応を認める。

(筆者提供)

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臨 床 所 見 に よ る 鑑 別 診 断 の ポ イ ン ト ― 第 54  回

ヘルペスをどのように診るか安元ひふ科クリニック院長 安元慎一郎

■ヘルペスとは一般に「ヘルペス」という語句は,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus;HSV),あるいは水痘

帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)の感染による皮膚病変で,比較的限局した範囲に小水疱が集簇する状態を表現している。よって,「ヘルペス」と呼称される皮膚疾患にはHSV感染による「単純ヘルペス(単純疱疹)」とVZV感染による「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」が含まれる。「単純ヘルペス(単純疱疹)」には,口唇ヘルペスを代表とする₁型(HSV-1)による上半身の病変と性器ヘルペスを代表とする₂型(HSV-2)による下半身の病変があり,頻回に再発する場合がある。「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」は水痘罹患後,長い時間潜伏感染していたVZVが再活性化して生じる疾患で,高齢者に多く,発症部位に種々の程度の疼痛を伴う。

1 .鑑別診断臨床的に,「ヘルペス」では小水疱がある程度の範囲内に集簇して存在するのが典型的病変であり,病変の時期や患者の免

疫状態などによって種々の程度の紅斑,びらん,潰瘍,痂皮などを示す。随伴症状としては,局所の熱感,疼痛を伴うことが多いが,痒みを伴うこともある。鑑別すべき疾患としては以下のようなものが挙げられるが,「ヘルペス」と診断できる場合であっても「単純ヘルペス(単純疱疹)」と「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」では抗ヘルペスウイルス薬の投与量が違うことなどから,両者をさらに鑑別する必要がある。

1.接触皮膚炎(図1)原因物質が,ある程度神経支配領域に一致して接触することにより生じた場合などには,「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」との

鑑別が必要である。接触皮膚炎では,紅斑部の表皮の炎症性変化が強いこと,疼痛より痒みが主体であることが多い。

2.虫刺症(虫刺性皮膚炎)(図₂,図₃)顔面,四肢に発症した虫刺されによる皮膚炎では,しばしば「ヘルペス」と鑑別が必要になる。痒みの訴えが強いことが多

いが,線状皮膚炎では疼痛を伴うため「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」との鑑別が問題となることがある。小水疱の有無,皮膚病変の分布を観察することが重要となる。

3.皮膚の細菌感染症(図₄)顔面の丹毒と「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」,痂皮性膿痂疹とカポジ水痘様発疹症(疱疹性湿疹)などの臨床像は類似している

ことがあり,疼痛,熱感も伴うため鑑別が必要である。診断には白血球数,C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)などの炎症所見なども参考にする。

4.その他の水疱性疾患自己免疫性水疱症,熱傷,種痘様水疱症などの水疱を形成するその他の皮膚疾患でも,しばしば「ヘルペス」との鑑別が必

要となる。皮膚病変の分布,疼痛の有無,年齢,水疱の性状などを詳細に観察することが鑑別の助けになるが,最終的には組織学的検査を要することも多い。

5.「単純ヘルペス(単純疱疹)」と「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」(図₅,図₆)両者とも小水疱を生じるが,「単純ヘルペス(単純疱疹)」では正中線を越えて接種性に分布することが多く,疼痛も比較的

軽度である。一方,「帯状ヘルペス(帯状疱疹)」では疼痛が先行する場合があり,神経支配領域に一致した皮疹の分布が次第に明らかとなる。

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図1.右上肢の接触皮膚炎表皮の炎症性変化が強く,痒みが強い。

₂.「ヘルペス」をどのように診るか典型例では,臨床的観察のみで診断可能である。他疾患との鑑別が難しい場合や「単純ヘルペス(単純疱疹)」と「帯状ヘルペ

ス(帯状疱疹)」との鑑別が必要な場合には,小水疱底の細胞を搾過し,スライドグラスに固定してギムザ染色を行うか(ツァ

ンク法),モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法によりHSV抗原あるいはVZV抗原を検出する。近い将来,HSV感染症に

ついてはイムノクロマト法を用いた迅速診断キットが使用可能になる予定である。

図₂.左下肢の虫刺症虫刺部位に一致した紅斑と腫脹があり,痒みが強い。水疱,びらんは紅斑の中心部に集中する傾向がある。

図₃.顔面の線状皮膚炎疼痛が激しいが,熱傷様の比較的浅い紅斑とびらんが主体の病変で,小水疱の形成は稀。

図₄.顔面の丹毒熱感,疼痛が強いが,皮疹は浮腫性 の紅斑であり,表皮の変化に乏しい。

図₅.口囲の単純ヘルペス(単純疱疹)接種性に広い範囲に分布することがあるが,正中線を越えて左右にまたがり,疼痛は軽度であることが多い。

神経支配領域に一致して分布する皮膚病変と疼痛がある。

図₆.三叉神経第1枝領域   の帯状ヘルペス(帯    状疱疹)

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皮膚疾患患者・家族のためのより良いコミュニケーションのために

第 54 回

アトピー性皮膚炎東京女子医科大学附属女性生涯健康センター教授 檜垣 祐子

アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)の治療の柱1)はステロイド外用療法を中心とした薬物療法ですが,なかなかよくならない症例も日常的に経験します。このような場合,患者さんの心理社会的側面が密接に関係しているにもかかわらず,患者さん自身が気付いていなかったり,医療者にも見過ごされている場合があるのではないかと思います。悪化因子となるストレスへの対処やQOLへの影響の評価などの心理社会的な問題に対応するには,患者さんとの良好なコミュニケーションが大切です。

 20〜30歳代の患者さんの主なストレスは,仕事の負

荷,職場の人間関係などの仕事上の問題と家族関係などの家庭内の問題が主です。大きな節目になる出来事というよりも,毎日,連綿と続くストレス因子であり,日常的にもよくあるストレスです。この世代にありがちなストレス因子を把握しておくと,診療をスムーズに進めることができます。そして,ストレス状態でADが悪化したことがないかを尋ねていくことで,ストレスと皮膚症状の関係に気づいてもらうことが第一歩です。 患者さんがストレスにどう対処しているかを知ることは,実はストレスとなっている出来事そのものよりも大切です。図1に示したような不適切な対処が行われているようならば,その反対となる適切な対処法を提案することができます。 ストレス下で悪化しやすい症状や行動の問題は,ストレス対処が適切にできると改善・軽快します。

ADの患者さんの場合,ストレス状態で搔破行動が起きやすいことがわかっています。「イライラしたときに搔きませんか?」と問診すると,たいてい「あります」という答えが返ってきます。そこで,「ここはこういうふ

悪化因子としてのストレス

ストレスと搔破行動

うに搔きませんか?」と質問すると,「こんな感じで搔くかな?」というように患者さんが自分の搔破行動を思い起こし,ちょっとしたストレス状態でも搔破行動が始まること,決まったやり方で繰り返し搔破していることが自覚できます。それだけで搔破は減りますが,搔破に気付いたときには手を組むというように,搔破以外の行動をとることを提案するとなお効果的です。さらに,搔破した部位,きっかけ・状況などを患者さんが記録するスクラッチ日記は搔破の始まるきっかけや状況を明らかにし,自覚を高める効果があります。搔破行動が結果的に皮疹の増悪をもたらしていることを理解し,これを自覚すると搔破行動が減少し,症状は急激に改善します。

ADによって引き起こされる不快な症状や日常生活,社会生活上の支障,不安な気持ちになるなど,さまざまな問題は患者さんのQOLを低下させます。患者さんは,いわば低下したQOLを改善させるために医療機関を受診しているので,患者さんに提供される医療は,究極的にはQOLを改善するための行為ということになります。

アトピー性皮膚炎とQOL

1. 柔軟性を欠く考え方

2. 周りに配慮しすぎる人がどう思うか気にする,周囲にあわせようとする。

3. 問題を自分で抱え込む

4. ストレス因子・状態の過小評価

すぐにあきらめる失敗が怖い

どうせ自分はだめだ・・・誰かに頼りたい

完璧主義白黒はっきりとことん

図₁.ストレス対処の仕方・捉え方    このような対処の仕方はストレス状態を解決しにくくするため,柔軟

な対処や自分の気持ちを大切にする,周囲のサポートを得る,ストレスを適切に評価するなど, 問題解決を目指した対処法を提案します。

はじめに

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A. どのような状態を治った,とするかによります。日本皮膚科学会の『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン』1)では,日常生活に支障がなく,急に悪化したりしない,という治療目標を掲げています。ま

ずは,そこに到達することが大切です。それからさらによい状態にするには,悪化因子である搔破行動を一段と減らすことが必要になります。自分自身の行動に関わることなので,自分次第のところもあります。搔破行動を減らし,よい状態に至る手助けをするのが皮膚科医の役目です。

A. ステロイド外用薬をやめることが目標ではありません。ステロイド外用薬を上手に使って炎症を治め,体を楽にして仕事や勉強,楽しいことに打ち込むことが大切です。ステロイド外用薬はタクシー,保

湿剤は地下鉄のようなものです。普段は地下鉄でも,具合が悪ければタクシーを使いますし,うんと元気なら地下鉄も使わず,歩いて行かれるかもしれません。炎症が鎮静化すれば,自然に使用量が減っていきます。

患者さんからよく聞かれるQ&A

アトピー性皮膚炎は治りますか?

ステロイド外用薬はいつまで使うのですか?

QOLは自記式の尺度を用いて評価することが多いですが,これには数分で記入でき,負担の少ないものもあります。同じ疾患でもQOLは個々の患者さんで異なります。患者さんが何を辛く思っているのか,何を回復したいのかを医療者がくみ取る姿勢が大切です。日常診療に用いる場合はQOLのスコアを患者さんに示すのもよいですし,筆者の施設では短いレポートにして患者さんにフィードバックしています(図₂)。診察室でレポートを一緒に読んで確認する作業を通じて,「自分の抱える問題が医療上の問題として取り上げられ,これから一緒に解決の方向に向かうのだ」ということがしっかり伝わるので,一種のコミュ

ニケーションツールとして利用することができます。さらに数ヵ月後に再び評価し,改善していれば「よ

くなったのはあなたの薬の塗り方が適切だったのと,搔破も減らすことができたからですね」のようにコメントすると,患者さんが自信をもって治療を継続する動機付けになります。

文 献1) 古江増隆,佐伯秀久,古川福実,他;日本皮膚科学

会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌 119:1515-1534,2009

初診時の結果をフィードバック皮膚症状の不快感(主に痒み)に悩まされることが多いようです。また,症状の悪化が心配,見た目が気になる,憂うつになるなどの症状のために精神的な辛さを感じることがしばしばあるようです。同じように症状があるために対人関係に積極的になれない,仕事や余暇を楽しむことが難しいと感じることも時々あることがうかがわれます。

数ヵ月後の再診時の結果をフィードバック現在は皮膚症状の不快感に悩まされることは多くはないようです。一方,見た目が気になったり,うっとうしく感じるなど嫌な気分になることが時々あるようです。対人関係に積極的になれない,仕事や余暇を楽しむことが難しいと感じることは少ないようです。

Skindex-16 スコアの変動

0~100点で評価,点数が高いほどQOLが低い

初診時

症状 感情 機能

再診時

59

17

67

48

41

10

図₂.コミュニケーションツールとしてのQOL評価の具体例     Skindex-16*で評価したQOLの結果を文章にして患者さんにフィードバックし,コミュニケーションに役立てます。    *:Skindex-16問い合わせ先:メディカル・プロフェショナル・リレーションズ株式会社(MPR株式会社)       (http://www.m-p-r.co.jp/index.html)

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