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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版 第1章 はじめに 学習問題とその解答 1. 動学(キネマティクス)と運動力学(キネティクス)の根本的な違いを比較して述べなさい. 運動を起こしているであろう力やトルクに関係なく,身体の運動を記述する力学の一分野であ る.たとえば,歩行速度や関節の角変位(可動域)がそれにあたる.これに対して運動力学 (キネティクス)は,身体に,あるいは体内で作用する力(またはトルク)を説明する力学の 一分野である.例としては,関節円板の圧縮または伸長された靱帯の緊張をあげることができ る. 2. 並進と回転の運動学(キネマティクス)について具体的な身体または体節の動きを述べなさ い. 肩甲上腕関節の外転の際の関節包内運動には転がり(回転運動)と滑り(並進運動)が含まれ る.他の例としては,歩行には身体重心の線形移動(並進運動)と四肢の関節の回転運動が同 時に含まれる. 3. 自分の示指の中手指節(MCP)関節が完全屈曲位また完全伸展位にある場合の関節包内運動に注 目しなさい.関節包内運動が大きいのはどちらの肢位か? この関節のクローズパック肢位はど ちらの肢位(屈曲位または伸展位)か? 中手指節関節における受動的な関節包内運動(離開または横方向への並進など)は,ほぼ完全 伸展位でより大きくなる.したがって,この関節のクローズパック(また最も安定した)肢位 は,ほぼ完全に屈曲した肢位である.この中手指節関節のクローズパック肢位は側副靱帯の伸 長とその張力の増大によるものである. 4. 図 1.8 には,凹面上の凸面運動および凸面上の凹面運動の 3 つの基本的な動きを示している. 骨格標本または簡易な骨格模型を用いて,これらの 6 つの状況のそれぞれに関する関節包内運動 の例をあげなさい.なお,例には,転がり–滑りの組み合わせが含まれてもよい. 凹面上の凸面の関節包内運動 転がり:スクワット運動で降下するときのように,膝関節における脛骨に対する大腿骨の屈曲中

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Page 1: 1. 2. MCP...3. 自分の示指の中手指節(MCP)関節が完全屈曲位また完全伸展位にある場合の関節包内運動に注 目しなさい.関節包内運動が大きいのはどちらの肢位か?

ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第1章 はじめに

学習問題とその解答

1. 動学(キネマティクス)と運動力学(キネティクス)の根本的な違いを比較して述べなさい.

運動を起こしているであろう力やトルクに関係なく,身体の運動を記述する力学の一分野であ

る.たとえば,歩行速度や関節の角変位(可動域)がそれにあたる.これに対して運動力学

(キネティクス)は,身体に,あるいは体内で作用する力(またはトルク)を説明する力学の

一分野である.例としては,関節円板の圧縮または伸長された靱帯の緊張をあげることができ

る.

2. 並進と回転の運動学(キネマティクス)について具体的な身体または体節の動きを述べなさ

い.

肩甲上腕関節の外転の際の関節包内運動には転がり(回転運動)と滑り(並進運動)が含まれ

る.他の例としては,歩行には身体重心の線形移動(並進運動)と四肢の関節の回転運動が同

時に含まれる.

3. 自分の示指の中手指節(MCP)関節が完全屈曲位また完全伸展位にある場合の関節包内運動に注

目しなさい.関節包内運動が大きいのはどちらの肢位か? この関節のクローズパック肢位はど

ちらの肢位(屈曲位または伸展位)か?

中手指節関節における受動的な関節包内運動(離開または横方向への並進など)は,ほぼ完全

伸展位でより大きくなる.したがって,この関節のクローズパック(また最も安定した)肢位

は,ほぼ完全に屈曲した肢位である.この中手指節関節のクローズパック肢位は側副靱帯の伸

長とその張力の増大によるものである.

4. 図 1.8 には,凹面上の凸面運動および凸面上の凹面運動の 3 つの基本的な動きを示している.

骨格標本または簡易な骨格模型を用いて,これらの 6つの状況のそれぞれに関する関節包内運動

の例をあげなさい.なお,例には,転がり–滑りの組み合わせが含まれてもよい.

凹面上の凸面の関節包内運動

転がり:スクワット運動で降下するときのように,膝関節における脛骨に対する大腿骨の屈曲中

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に,大腿骨遠位は脛骨近位の上を後方に転がる.

滑り:手関節の伸展中,手根骨近位列の近位端は,橈骨の遠位端に対して手掌方向(前方)に滑

る.

軸回旋:股関節の屈曲中において大腿骨頭の関節面の中心にある点は,骨盤の寛骨臼内で,転

がりも滑りも伴わず,純粋に軸回旋する.

凸面上の凹面の関節包内運動

転がり:中手指節関節の屈曲中,基節骨の近位端は中手骨頭部に対して掌側に転がる.

滑り:膝関節の屈曲中,脛骨の近位端は大腿骨の遠位端に対して後方に滑る.

軸回旋:前腕の回内および回外中,橈骨頭は上腕骨小頭を軸中心として回旋する.

5. 図 1.12 に示す 6 つの力が,第 5・第 6 頸椎領域の椎間板や脊髄において,どのように起こるか

の例を示しなさい.

頸部の屈曲が増すごとに,椎間板の後部に伸張力がかかる.

頸部の屈曲が増すにつれて,椎間板の前部は圧縮される.

頸部の完全屈曲位では,椎間板と椎体の境界面で前方への曲げが起こる.

交通事故の際に後ろから追突されると,脊髄と椎間板の過度の損傷を引き起こすような前後方向

の剪断を引き起こす可能性がある.

頭部が左右に過度に回転すると,椎間板の線維輪に過度のねじれが生じる可能性がある.

アメリカンフットボールでの「頭から突っ込む動作(spear)」は,椎間板に圧縮とねじれの複

合負荷を引き起こす可能性がある.

6. 力とトルクの基本的な違いを比較しなさい.各用語を使って,筋収縮が関節に作用する具体的

な特徴を述べなさい.

力は,物体に対抗して適用される「押し」あるいは「引き」という作用である.肘の屈筋で生じ

る収縮力は,肘関節において著しい圧縮を起こす可能性がある.

トルクとは,回転運動において力に同等と考えられる物理量であり,その大きさは筋力とモー

メントアームの積に等しい.肘屈筋で発生するトルクは,肘関節で急速な角加速度を起こし,

手を素早く口に運ぶことを可能にする.

7.内的トルクと外的トルクの定義を比較して述べなさい.

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内的トルクは,筋収縮などの内力により関節のまわりに生成されるトルクである.外的トルクは,

重力あるいはセラピストによる徒手抵抗などの外力によって関節周囲に生成されるトルクであ

る.

ある関節に作用する内的トルクと外的トルクが等しい場合,関節はしばしば静的回転平衡にあ

るとされる.内的トルクと外的トルクが等しくない場合,より大きなトルクの方向に関節は加

速する.

8. 図 1.17 の肘のモデルは静的な平衡状態にあると仮定される.この平衡状態を維持しながら,変

数 EF,D1,D のそれぞれの変化が内力(IF)の必要量にどのように影響するか述べなさい.これ

らの変数の変化が,不必要に大きな関節反力から疼痛を有する関節をどのように「保護する」こ

とができるか考えなさい.

肘関節モデルが静的回転平衡にあると仮定すると,

EF が増加すると内力(IF)も増加する.

EF が減少すると IF は減少する.

D1が増加すると IF も増加する.

D1が減少すると IF も減少する.

D が増加すると IF は減少する.

D が減少すると IF は増加する.

9. ゆっくりと本をテーブルに下ろす際には,肘屈筋の遠心性活動を用いる.本を下ろすスピード

を変えると,筋活動のタイプ(たとえば,遠心性,求心性)や筋の選択にどのように影響するか

を説明しなさい.

本をテーブルにゆっくりと降ろす動きは,おもに,本に作用する重力と肘屈筋の(制動のため

の)遠心性活動との相互作用によって起こる.この場合,肘屈筋は,本の降下を減速させること

によって動きを制御する.それに対して,重力の作用を超える速度でテーブルに向かって本を加

速させるためには,肘伸筋が求心性に収縮して本を急速に降下させなければならない.

10. 外科医が,関節に対して筋の内的モーメントアームを増加させるために腱移行術を行うと仮定

する.筋のモーメントアーム(てこ比)をあまりにも大きくすることによって望ましくない生体

力学的な影響はあるか? もしそうなら,なぜか説明しなさい.

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筋の内的モーメントアームを増加させることにより,少ない筋力で必要なトルクを生成するこ

とができる.これは筋が弱化している場合,または関節が大きな力に耐えられない場合に好都

合である.しかし一方で,内的モーメントアームを増加させる(すなわち,筋の力学的有利性

を増加させる)ことは,生体力学的な“取引”として,四肢や身体部分の変位距離および変位

速度の損失をもたらす.モーメントアームをあまりに大きくしすぎると,完全に筋は収縮して

も,その生理的な可動範囲全体を通して四肢を動かせない可能性がある.

11. 図 1.16B に描かれた下方への関節反力が上腕骨下端で起こす可能性がない病的な状態を説明し

なさい.

大きな内力(肘屈筋)とバランスとるためには,通常,下向きの大きな関節反力(図 1-16B)が

必要である.骨粗鬆症(または他の疾患)によってひどく脆弱化した上腕骨は,筋の強い引張

に応答して骨折することがある.この場合,上腕骨の構造は適切な反力を起こすことができ

ず,前腕は骨折した遠位上腕骨をつぶしながら上方に引っ張られる.このような病的状態は,

股関節のような非常に大きな力を受ける関節においてより頻繁に起こる傾向がある.

12. 力と圧力の違いは何か? これらの違いを,脊髄損傷および感覚の低下した患者の皮膚の保護

にどのように適用することができるか?

この問題の文脈において,力とは,患者の皮膚を押す作用の大きさである.圧力は力を接触面

積で除したものである.したがって,小さな接触面積に加えられる力は,大きく潜在的に有害

な圧力(ストレスともよばれる)を作り出すことがある.脊髄損傷者は,しばしば感覚が障害

され,潜在的に有害なレベルの接触圧力を認知することができない.時間が経過とともに,高

い接触圧力は,皮膚およびその下にある軟部組織の潰瘍に発展する可能性がある.圧力を軽減

するためには,車いすの座席など,皮膚と外部物体との接触面積を最大にすることが重要であ

る.理想的には,適切なシートクッションを備え,使用者の体型に適切にフィッティングした

車いすは,たとえば坐骨領域に接触する接触面積を最大にする.衣服の皺(しわ)であって

も,感覚障害のある皮膚に対して高い圧力をかける可能性がある.

13.質量と重量の違いを述べなさい.

質量は,物体内に存在する分子の数を表す. 重量とは,質量に作用する重力の引力を表す.人

の質量は,その人の重量(ニュートン単位)を重力加速度(9.81m / sec2)で除すことで知るこ

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とができる.

14. 身体の大部分の筋–関節系は,第 3 のてことして機能する.このデザインが他のてこと比べて

多くの関節で用いられる生体力学的または生理的な理由をあげなさい.

定義上,第 3のてことして機能する筋および関節系は,力学的有利性が 1 未満で作用する.す

なわち,内的モーメントアームの長さは外的モーメントアームよりも短い.この力学的状況

は,収縮する筋が身体分節を実際の収縮よりも大きな距離を動かすことを可能にする(これ

は,通常,筋が比較的短い距離,すなわち,その安静時の長さの約 1/3 しか収縮しないために

必要である).この力学的有利性は,筋が変位する体節に作用する外力(体節の重量)を超える

力を生成することを必要とする.このようなシステムは,筋力を「犠牲」として,てこ系の速

度と変位距離を「優先」している.関節は,圧縮または剪断といった大きな筋による力を安全

に吸収できる構造でなければならない.

15. 患者は,膝の後ろの関節包靱帯が非常に堅く癒着したと仮定する.この組織の変化は,膝関節

両端の他動的な最終域にどのように影響を及ぼすか?

膝の伸展の際には膝の後関節包靱帯が引き伸ばされる.これらの靱帯の硬さの増加(応力 - 歪

み曲線の傾きの増加)は,膝の完全な伸展を制限しうる.膝の屈曲では,後関節包が自然に緩

む(伸張されない)ため,この組織の硬さの増加は屈曲の最終域を制限しない.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第2章 人体関節の基本構造と機能

学習問題とその解答

1.卵形関節と鞍関節の形態的な違いを述べなさい.それぞれの人体における例をあげなさい.

卵形関節は,片方の関節面が凸面で,もう一方は凹面の関節面を有する.身体のほとんどの可動

結合の関節は卵形関節に分類される.例としては,肩甲上腕関節,脛骨大腿関節および股関節を

あげることができる.

鞍関節は,1 つの関節面に凸面と凹面を有し,それに向き合う関節面は逆の形状を有する. 身

体の典型的な鞍関節は,母指の手根中手関節である.

2.不動結合と可動結合(滑膜関節)の構造的,機能的な特徴のおもな違いをあげなさい.

不動結合(または不動関節)は,基本的に動きはわずかである.不動結合は,線維性(遠位脛

腓関節など)または軟骨性(たとえば,恥骨結合)に分類される.可動結合(可動関節)は中

等度から広範囲の動きが可能である.滑膜関節ともよばれる可動結合は,筋骨格系の関節の大

部分を占める.例としては,橈骨手根関節(手関節),肩甲上腕関節,および距腿関節(足関

節)をあげることができる.

3.関節円板(または半月板)は,いくつかの可動結合にみられる.関節円板を有する 3つの関節名

をあげなさい.また,それらの関節における,構造に基づく機能的特徴を述べなさい.

関節円板(または半月板)を有する可動関節の例は,膝関節,胸鎖関節,顎関節および遠位橈

尺関節である.これらの関節の円板は,接触面積を増やし,負荷を吸収し,また関節の安定

性,複雑な関節包内運動の誘導などの機能を有する.

4.身体全体に存在する 4つのおもなタイプの組織を列挙しなさい.

人体の生体組織の 4つの主要なタイプには,結合組織,筋組織,神経組織および上皮組織があ

る.(周囲の軟部組織および血管を含む)筋骨格系は,これらの 4つの組織すべてを含む.

5.図 2.3~9に示す関節のうち,どの関節が(a)最大で,またどの関節が(b)最小の自由度を有

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するか?

関節には最大で 3度の自由度がある.股関節(図 2.6)は 3度,腕尺関節(図 2.3)は 1度しか

ない.

6.Ⅰ型コラーゲンとエラスチンの主要な機能的差異をあげなさい.各タンパク質の割合が高い組織

をあげなさい.

I型コラーゲンは,比較的高い剛性および抗張力を有する厚い線維を形成する.靱帯,腱および筋

膜のような組織は,I型コラーゲンの割合が高い.これらの構造体は,ほとんど伸長せず高い張

力負荷に耐えることができる.

その名が示すように,エラスチンは高い弾性を示す.たとえば,(隣接する椎骨の薄層のあいだに位

置する)黄色靱帯は,高比率のエラスチンを含む.研究によると,黄色靱帯は損傷を受ける直前

には生理的長さの 35%も伸びうる(第 9章).

7.縮閉線と瞬間的回転軸の違いは何か? 正常ではあるが,非常に大きい縮閉線をもつ関節の生体

力学的,あるいは臨床的重要性をあげなさい.

縮閉線は,関節の回転軸の軌道を,全運動範囲において線でつなげて表したものである.縮閉

線という用語は,膝の矢状面からみた回転軸を表すのに最もよく使用される.瞬間回転軸とい

う用語は,関節の動作範囲内の明確な1点(瞬間)における回転軸の特定の位置を表したもの

である.

膝の矢状面からみた回転軸(内外軸:ML軸)は,比較的大きな縮閉線を描く.MLの回転軸は,

屈曲と伸展を通じて顕著に移動する.この回転軸の移動は,膝屈筋および伸筋の内的モーメン

トアームの長さを変化させ,異なる膝関節角度における筋力の差(ピークトルク)を部分的に

説明する.

臨床的に膝に用いられるいくつかの蝶番式の外部装置のほとんどが,ゴニオメータ,装具,ま

たは等速性筋力測定装置のように固定された回転軸を有する.これらの装置の軸を可能なかぎり

生理的な軸に近づけ,膝の平均回転軸,大腿骨の外側上顆の近くの点に合わせるように注意す

る必要がある.

8.(a)軟骨膜と(b)骨膜の定義を説明しなさい.また,それぞれの組織のおもな機能は何か?

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軟骨膜は,軟骨の多くのタイプを取り囲む結合組織である.軟骨膜は血管を有し,軟骨芽細胞およ

び線維芽細胞の供給源でもある.成人の関節軟骨は軟骨膜を欠いており,軟骨組織が損傷後に治

癒しにくい理由を部分的に説明している.

骨膜は,骨の外周の表面を囲む結合組織である.骨膜は,血管および感覚神経終末を有し,な

らびに,骨芽細胞および線維芽細胞の供給源でもある.骨膜の存在は,骨折後に骨が治癒しや

すい理由を部分的に説明する.

9.関節に繰り返しかかる圧縮力を,関節軟骨はどのように分散させることができるか.その基本

的なメカニズムを説明しなさい.

関節軟骨の基質内のプロテオグリカンは,水を強く引き寄せる.水は関節軟骨を膨潤させ,こ

れは埋め込まれたコラーゲン線維の張力特性によって抵抗される.基質が膨潤し水和した状態

は,圧縮力に抵抗し軟骨を支え,圧縮力を分散させる.関節軟骨に体重が負荷されると,少量

の水が基質から押し出される.しかし,負荷がかかっていないときには,水は再吸収され,次

の負荷のための準備をする.

10.骨が関節軟骨よりもはるかに優れた治癒能力を有するおもな理由を説明しなさい.

骨は,優れた血液供給およびよく発達した骨膜および骨内膜を有するので,骨は関節軟骨より

も高い治癒力を有する.これらの結合組織は,骨折後の新しい骨の生成に不可欠で原始的な骨

芽細胞および線維芽細胞を含む.

11.関節周囲の結合組織に対する老化の 2つの生理的な影響を説明しなさい.また,それが極端な

場合,これらの変化はどのような臨床症状として現れるか?

一般に,老化した関節周囲結合組織は,線維性パンパク質とプロテオグリカンの合成速度が低

下する.それによりプロテオグリカンの濃度が低下することで,関節周囲結合組織の水を吸収

し保持する能力が低下する.これらの変化は,組織の強度および緩衝特性を低下させる.ま

た,腱は加齢により柔軟になり剛性は低下する.その結果,腱は筋活動による関節への安定力

を迅速かつ効果的に伝達することができなくなる可能性がある.極端な場合,これら加齢に関

連した変化の組み合わせは,関節の不安定性および異常アライメントだけでなく,関節軟骨の

変性を誘発する可能性がある.

12.関節軟骨,腱および骨に共通する 3 つの組織学的特徴を列挙しなさい.

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関節軟骨,腱,および骨とも,線維タンパク質,基質および細胞を含む.各成分の特定の組

成,量,および相対的な割合は,組織の構造および根本的な機能によって変化する.

13.変形性関節症と関節リウマチの違いを簡潔に説明しなさい.

変形性関節症(OA)は,しばしば関節の退行変性とよばれ,炎症症状が少ない関節軟骨の変性

が特徴的である.関節軟骨の変性は,軟骨下骨を含む他の関節周囲結合組織の変性を引き起こ

す(または関連する)可能性がある.特発性 OAは,荷重関節に頻繁に発生する傾向にあり,し

ばしば片側性に起こる.症状には,疼痛,可動域制限,骨棘の発生,軟骨下骨の形態変化があ

る.二次的症状として,筋や他の関節周囲結合組織の弱化に関連しうる.

高齢者では OAがより起こりやすいが,老化の過程自体が直接的原因とは考えられてない.高齢

者では,関節軟骨の修復過程が,何十年にもわたって積み重なった関節負担に追いつくことが

できない可能性がある.遺伝的,生化学的,および解剖学的因子もまた,この疾患の発生に関

与しうる.

関節リウマチ(RA)は,炎症症状が強い全身性自己免疫疾患である.この疾患の特徴である慢性

滑膜炎は,関節軟骨および他の関節周囲結合組織の変性を引き起こす.関節の二次的な破壊

は,薄くなった関節軟骨および脆弱な結合組織が筋や体重によって生成された力から関節を保

護できないために起こりうる.RAは,頻繁に両側のどの関節にでも起こりうる.

14.どの滑膜関節にも共通してみられる 3つの構造を列挙しなさい.これらの構造に影響を与える

可能性がある一般的な病的状態をあげ,その結果生じる障害の特徴を述べなさい.

滑膜(可動)関節に共通してみられる構造には,滑膜,関節軟骨,関節包がある.

滑膜:滑膜の炎症および肥厚(滑膜炎)は,疼痛,可動域制限,および慢性的な関節軟骨の破

壊を引き起こしうる.

関節軟骨:変性(断片化と菲薄,変形性関節症の特徴)は,軟骨下骨の損傷を起こしうる力か

ら保護する軟骨の能力を低下させる.

関節包:部分的な裂傷または過度の拡張は,関節の安定性を低下させる可能性がある.

15.滑液がもつ機能は何か?

滑液は,可動関節の関節包の内面を覆う滑液膜によって分泌される.滑液は関節軟骨に栄養を

供給する.この流体は,関節面間の摩擦係数を下げる潤滑剤として作用する.

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16.繰り返して足関節を捻挫する人は,しばしば足関節の固有感覚の低下を示す.この捻挫と感覚

低下との関係性を説明しなさい.

足関節の捻挫は,とくに再発の場合,局所的な軟部組織に重篤な損傷を与える可能性があり,

足関節の靱帯および関節包内にある機械受容器および感覚神経も損傷しうる.損傷したゴルジ

様終末器官からの感覚フィードバックの低下について考えてみよう(表 2.3 参照).たとえば,

足関節の可動範囲の最終域を感知する能力が低下すると,再損傷の可能性が高くなる.反復す

る傷害は,靱帯の完全性を低下させ,機械受容器をさらに損傷する可能性がある.これによ

り,患者は反復捻挫,関節軟部組織の弛緩,機械受容能の低下などの悪循環に陥る可能性があ

る.足関節の捻挫を繰り返すような患者に対するリハビリテーションには,さらなる捻挫を防

ぐために,身体平衡が崩れた際にそれにうまく反応できるようなトレーニングが必要である.

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第3章 筋:骨格系の主要な安定器そして運動器

学習問題とその解答

1.筋の羽状構造は,どのような機能的な役割を果たしているか?

走行角度は,筋線維とその中心腱とのあいだの平均角度を表す.走行角度が小さいほど,筋線

維は腱と平行に走行するため個々の筋線維で生成される力の大部分が腱に伝わる.これに対し

て,筋線維が斜めに走行すると各筋線維から腱に伝わる力は減少するが,より多くの筋線維を

筋腹の中に収めることが可能となり,生理学的断面積を有効活用するための省スペース方略で

ある.

2. 筋の(a)受動的張力曲線(b)能動的張力曲線(c) 全張力曲線は,それぞれ筋全体のどの組織によ

って描かれるか?

筋の受動的長さ—張力曲線に関与する組織には,(1)細胞外結合組織(たとえば筋外膜)および

(2)構造タンパク質(たとえば,タイチン)が含まれる.筋の能動的長さ—張力曲線に関与する

組織には,収縮タンパク質であるアクチンとミオシンの重なる部分が含まれる.筋の全長—張力曲

線には,上記のすべての組織が関与する.

3. 賦活化された筋は,実際には筋フィラメントの短縮を伴わずに,どのようにして力を生成でき

るか?

筋は刺激されると収縮するが(短縮する),筋線維自体(すなわち収縮性のタンパク質)は実際

には収縮せず,筋線維同士がお互いに滑走する.アクチンとミオシンを含むこの現象はフィラメン

ト滑走説とよばれる.

4. 単一の活動電位の持続時間は,筋線維に沿って伝導する経過で,10 msほどの短時間である.

そのような短い持続時間だけで,筋はどのようにして完全強縮の状態を作り,維持することがで

きるか?

活動電位の持続時間は非常に短いが,この電気的事象によって賦活化された筋線維による力

は,300 msまで持続することができる.単収縮の持続時間は,賦活化された筋線維の収縮速度

にも依存するが,単収縮の持続時間を超えた力を維持するためには,最初の活動電位による筋

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力が失われる前に,筋線維は追加の活動電位を受け取らなければならない.このメカニズムは強

縮誘発(tetanization)として知られ,筋線維が張力を重ね合わせることを可能にする.

5. 筋疲労を定義しなさい.また,最大努力で筋を持続的に収縮させた際の筋疲労の始まりを,EMG

振幅を用いて,どのように見つけることができるか説明しなさい.

筋疲労は,運動によって引き起こされる最大随意的筋力の低下として定義される.またこれは

持続的な身体活動の直後に発症し,最大また中等度の運動中あるいは運動後における最大随意

的収縮力の減少として定量化されることが多い.中等度の運動強度の課題を無事に継続してい

る場合でも,筋疲労は起こりうる.中等度の運動強度の課題を維持させると,最終的には課題

の遂行が困難となる.興味深いことに,その中等度課題の努力中に筋が疲労し始めると,主動

作筋からの EMG が次第に増加する.EMG の増加はおもに,追加の運動単位が動員されていること

を反映している.これは,すでに活動している運動単位が疲労し,生成できる力が不足するた

めである.

6. 自発的に活動する筋の EMG 振幅を使って,その筋の相対的な力の出力を予測することが適切で

ない理由は何か説明しなさい.

活動する筋の力が増加するにつれて,通常,EMG信号の振幅は増加する.しかし,これらの 2つ

の変数間の関係は,ある関節角度での等尺性活動中に最も信頼性が高くなる.等尺性活動でない

場合,筋の長さと収縮速度の変化は,力を生成するために必要な神経活動(EMG)に有意に影響

しうる.たとえば,筋の活性化の速さやその長さ変化の範囲が一定であっても,重りを持ち上

げる(求心性活動)ときよりも同じ重りを降ろす(遠心性活動)ときにその EMG振幅は小さく

なる.おもにこのような理由から,等尺性活動ではない場合,EMG 振幅に基づいて筋の相対的な

力を推測することは困難であり,しばしば不可能である.その他,技術的な理由も,この推測

の信頼性を損なう可能性がある.

7. EMG 信号を収集する際に不要な「電気的ノイズ」を最小限に抑えるための方法にはどのような

ものがあるか?

表面 EMG 信号に含まれる望ましくない電気的アーチファクト(電気的ノイズ)を最小にするい

くつかの方法には以下のものがある.

・EMG 信号の帯域通過フィルタリング

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・臨床または実験環境の電気的「遮蔽」

・二極電極とアース電極

・電極部分での前増幅

・徹底的な皮膚の準備

・電極ケーブルの移動によるアーチファクトの抑制

8. 生理的断面積を定義しなさい.

筋の生理学的断面積は,すべての筋線維の長軸を直角に切断して測定した筋の面積(mm2または

cm2)である.この測定は収縮性タンパク質の量を反映するため,断面積は筋が発揮できる潜在

的な筋力と比例すると推測される.

9. 等尺性活動中に筋によって生成される内的トルクが,関節角度の変化に伴って変化する理由を

説明しなさい.

関節の角度(または位置)に基づいて,筋群が生成する最大努力等尺性トルクが異なることは 2

つの要因で説明することができる.その 2 つの要因は,「ピークトルクは筋のモーメントアーム

と最大力の積である」という事実に基づいている.まず第1に,関節角度の変化は,筋の走行

角度を変化させ,それによってその内的モーメントアームを変化させる.第2に,関節角度の

変化は筋の長さを変化させる.筋の出力は,その長さ–張力関係によって変化する.

筋は両方の因子に同時に影響を受けるため,広い運動範囲にわたって特定の筋群のトルク−関節

角度曲線の独特の形状を決定する最も重要な因子が何であるかを特定することは困難である.

10. 図 3.16 に描かれているグラフについて考察しなさい.

a 筋活動の速度にかかわらず,膝伸筋のピークトルクが膝屈筋のそれを超える理由を 2 つほど提示

しなさい.

b 60~240°/秒の収縮速度で膝伸筋のピークトルクがほぼ 40%低下する.この生理学的理由を説

明しなさい.

(a)筋活動の速度にかかわらず,膝伸筋のピークトルクは膝屈筋のそれより大きい理由の説明.

膝伸筋のピークトルクは,通常,同様の試験条件下で膝屈筋のピークトルクを超える.この違

いを説明するおもな 2 つの要因は,筋の大きさ(断面積)と内的モーメントアームである.

(b)60〜240°/秒の収縮速度で膝伸筋のピークトルクがほぼ 40%低下することの生理学的な説

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明.

60〜240°の収縮速度のあいだの膝伸筋トルクの 40%の減少は,筋の力−速度曲線を反映してい

る.一定の努力をしても,筋の収縮(短縮)速度が増加するにつれて筋の力は小さくなる.急

速に短縮する筋は,ある時間あたりのより少ない連結橋サイクルしか起こすことができない.

11. 徐々に筋力を上昇させるために神経系によって用いられる 2 つの基本的な方略を説明しなさ

い.

神経系は,筋全体の力を徐々に増加させるために 2つの方略を用いる.

動員とは,特定の運動単位の起動を指す.筋全体のなかで最初に賦活される運動単位は,(筋線

維が比較的少ないことに関連して)小さいものである傾向にあり,筋全体のなかで比較的小さ

な力の増加を起こす.筋全体の力のさらなる増加は,より多数の筋線維を有する大きな運動単

位を動員する必要がある.

発火頻度による調節は,徐々に筋力を増加させるために神経系によって用いられる第 2の方略

である.運動単位が動員されると,神経系はその活動電位の発火頻度(放電頻度)を増加させ

ることができる.発火頻度が高いほど,筋収縮は一体化した強縮に近づく.完全強縮の状態で筋

線維の活動数が徐々に増加すると,全体の筋力が徐々に増加する.

12. 運動単位を定義しなさい.また,ヘンネマンのサイズ原理とは何か説明しなさい.

運動単位は,1つの(アルファ)運動ニューロンとそれに神経支配されたすべての筋線維から

なる.ヘンネマンのサイズ原理によれば,運動単位は,大きさに応じて順に神経系により自然に

動員される.より大きな運動単位の前に,より小さい運動単位が動員される.この比較的シンプ

ルで優雅な概念は,あらゆるレベルの力出力において比較的滑らかな動員増を可能にし,より

多くの抗疲労性の筋線維を用いることによって疲労の発生を最小にする.

13. 筋肥大の徴候が現れる前に,筋力が臨床的に意味があるほど増強しうる生理学的な理由を述べ

なさい.

筋力の増強は,筋線維の肥大によって生じるが,神経学的要因によっても生じる.これらの神

経系による筋力増強は,最初のトレーニング中にとくに顕著である.神経学的要因には,皮質

内での活動エリアの拡大,運動ニューロンの興奮性の増加,および脊髄および脊髄より上位レ

ベルでの神経抑制の減少による,運動単位の発火頻度の増加が含まれる.

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14. 肢を不動とした場合,健常な筋がどのように相対的に速い単収縮の特性へ移行するか説明しな

さい.

タンパク質合成の減少から生じる筋線維の萎縮は,慢性的に固定化された四肢の筋のすべての

タイプの線維において起こるが,とくに遅筋線維において起こる.したがって,固定された四

肢の筋では,速い単収縮特性に相対的に変換(シフト)する傾向がある.

15. 健常な高齢者の筋力低下のおもな原因は何か?

筋力低下のおもな原因は,サルコペニア(筋減少症)である.サルコペニアは,筋線維の実質

的な数の減少および残存している筋線維の萎縮により生じる.サルコペニアの原因は完全には

理解されておらず,老化の通常の生物学的プロセス(プログラムされた細胞死:アポトーシス

など)または身体活動,栄養,ホルモンの変化に関連する複数の要因を含む可能性が高い.

16. 筋線維内に筋節が a)並列に,または b)直列に筋節が追加的に増加することによるおもな機能

的な結果は何か?

並列的に筋節の数が増加した場合は,筋肥大と収縮力の増加を生じる.これとは対照的に,直列

的な筋節数の増加は,筋線維の収縮速度の増加を生じる.

17. 骨格筋の遠心性(運動)あるいは求心性(感覚)神経支配の解剖学的および機能的な違いを説

明しなさい.また,運動神経または感覚神経のどちらかに疾患が起こった場合,どのような結果

をもたらすか説明しなさい.

遠心性神経支配では,中枢神経系から筋へと指令を伝える神経を含む.このいわゆる「運動神

経」は,神経筋接合部を介して筋を神経支配する.この運動神経によって伝えられる信号は,

最終的には筋収縮を起こす.対照的に,求心性神経(感覚神経)は,筋から中枢神経系に向か

って情報を伝える.表 3.4に示すように,この感覚神経は,筋の長さや伸張,収縮力,代謝状

態などの情報を伝達する.自律神経系はまた,遠心性および求心性神経を介して骨格筋と信号

のやり取りをする.この章では説明していないが,自律神経系に属する神経は,その他の生理

機能として筋の血流調節にも役立っている.

一般に,末梢神経系に影響を及ぼす疾患や損傷は,典型的には,筋の運動と感覚機能ならびに

関節,皮膚の感覚機能に同時に影響を及ぼす.しかしポリオのような疾患は,主としてα運動

ニューロン(遠心性神経支配)に影響を及ぼす.症状としては,筋力低下または完全運動麻

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痺,腱反射の低下,および萎縮があげられる.比較的まれではあるが,筋からの求心性(感

覚)神経におもに影響を与える疾患もある.このような状態は,理論的には,運動の協調性,

固有感覚の受容および腱反射を減少させる.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第4章 生体力学の原理

学習問題とその解答

1. 最初の問題は,Special Focus 4.6で紹介した概念の延長である.図4.17のAでは,最大努力の

50%を持続していると仮定する.

a.肘を110°屈曲位にすると内的トルクが低下する.その理由を述べなさい.

筋力が一定レベルにあると仮定すると,肘の屈筋の内的モーメントアームが短くなるため,内

的トルクが減少する.一般に内的モーメントアームの長さは,筋が骨に対して 90°の付着角度

の際に最大となる.

b.前腕を 45°屈曲位にすると,前腕部に作用する重力による外的トルクは,どのように変化する

か?

肘の屈曲が 90°未満になると,重力による外的トルクが減少する.一般に外的モーメントアー

ムの長さは,外力が身体体節(この場合は前腕)と 90°で交わるときに最大となる.抵抗とし

て重力を用いる場合,これは,図 4.17Aのように,身体体節が水平に向いているときに通常起

こる.外的モーメントアームは,外力の作用線が 90°よりも小さいか,または 90°よりも大き

くなると減少する.

2. 次の問題は,追加的な臨床関連事項 4.3で述べた筋の同時収縮の概念の延長である.図4.31B

を用いて,以下の場合,外力(R)の大きさはどうなるか述べなさい.

a.主動作筋の内力(F)は同じで,外力(E)は増加.

R は増加する.

b.F は同じで,Eは減少.

R は減少する.

c.E は同じで,Fは増加.

R は減少する.

d.E は同じで,Fは減少.

R は増加する.

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3. 物体の質量と質量慣性モーメントはどのように異なるか?

物体の質量は,それに含まれる粒子の数によって決定される.質量は体重と同じではない.対

象物の質量慣性モーメントは,質量だけでなく,質量が回転軸に対してどのように分布するかに

も依存する.

a.質量の増加を伴わずに四肢の回転における質量慣性モーメントを増加させる例をあげなさい.

たとえば,上肢全体の質量慣性モーメントは,肘の屈曲位よりも完全伸展位ときに増加する.

どちらの場合も質量は同じである.

b.回転する四肢の質量慣性モーメントが,筋に求められる力に影響を与えない状況を説明しなさ

い.

回転している肢が動的平衡状態にある(すなわち,一定の角速度で回転する)場合,質量慣性

モーメントが活動している筋へ要求する力には影響を及ぼさないであろう.

4. 解剖学的肢位における身体重心の位置はおおよそどこか?

第 1仙椎の前方

a.腕が頭上に上がった場合,身体重心の位置はどのように変化するか?

身体重心は上方へ移動する.

b.両側の大腿切断後には,身体重心の位置はどのように変化するか?

身体重心は上方へ移動する.

5. 関節をまたぐ筋が内力を起こしているのに,トルクを生成しないのは,どのような状況か?

関節の回転軸の上を通る筋の力は,モーメントアームを有しないため「トルク」を生成しな

い.それでも,その筋活動は関節での反力を起こす可能性は少しも減らない.

6. 図 4.29 に,体重による 2 つの外的(膝屈曲)トルクを示す.

a.どのような膝の角度において,膝の外的トルクは 0 になるか?

膝のほぼ完全伸展位(屈曲 0°に近い)では,体重のベクトルは,通常,膝の内外軸の上を通過

するか,またはそれに近づく.したがって,膝の矢状面における外的トルクは0または比較的小

さくなる.

b.どのような膝の角度において,外的な屈曲トルクを引き起こすか?

体重のベクトルが膝の内外軸の後方に位置するような膝の屈曲角度では,外的屈曲トルクが起

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こる.

7. 股関節の重度の関節炎は,大腿骨頭部や頸部のリモデリング(変形)を引き起こす可能性があ

る.場合によっては,これにより股関節外転筋の内的モーメントアームが減少する(図4.30の

D).

a.右(立脚)股関節を支点として前額面の回転平衡状態が維持されている.理論的には,内的モ

ーメントアームの 50%の減少は股関節の関節反力にどのように影響するか?

片脚で立っているとき,前額面の安定性を維持するために,内的モーメントアームの減少に反

比例して,筋力は増加する必要がある.内的モーメントアームを 50%低減することは,理論的

には,股関節外転筋に対する力の要求を 2 倍にする.筋力の増加は,股関節の圧縮力(関節反

力)を増加させる.

b.大腿骨頭の関節表面が摩耗していると仮定する.これによる内的モーメントアームの減少は股

関節にかかる圧にどのように影響を及ぼすか?

大腿骨頭の摩耗が寛骨臼内の関節接触面積を減少させると仮定すると,そこに起こる圧縮力は

より大きな圧力(またはストレス)を生じさせ,関節に損傷を与える可能性がある.

8. 側臥位の(本質的に重力除去された)姿勢で,股関節を素早く曲げる準備をしているとする.

膝を伸ばしたままにしておくと,股関節屈筋にはどのような力が求められるか?

膝を伸展したままにすると,下肢の慣性モーメントが増加するため,それによって股関節屈筋

への力の要求は増加する.引き伸ばされた二関節筋のハムストリングスの受動的緊張の増加

は,また,股関節屈筋への力の要求が増加する可能性がある.重力は股関節の屈伸‐伸展軸と

平行に作用するため,屈曲または伸展トルクを生じない.したがって重力からの外的トルク

は,ここでは問題にならないことに留意されたい.

9. 図 4.18A に示す大腿四頭筋において 5 cmの内的モーメントアームがあると仮定する.

a.外的トルクの大きさに基づいて,膝の静的な回転平衡を維持するために膝伸筋にはどの程度の

筋力が必要とされるか?

300 N.静的平衡状態と仮定すると,外的トルクを筋の内的モーメントアームで割ることによっ

て,内力を迅速に推定することができる.

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b.同じ外力(100 N)を膝の遠位 30 cmに負荷した場合,どの程度の筋力が必要か?

600 N.

10. 大腿四頭筋が弱化した患者が標準的な椅子から立ち上がることを,臨床家が介助すると仮定す

る.この起立動作の際,臨床家はしばしば患者に安全な範囲でできるだけ股関節を屈曲し体幹を

前方に倒すように指示する.なぜこの準備行動によって座位からの起立が成功しやすくなる(あ

るいは少なくとも楽にする)か?

体幹を前方へ曲げる動作は,患者の(体重による)重力線を膝の内外軸に近づける.この動作

は,膝の外的(屈曲)トルクを減少させ,さらには弱化した膝伸筋への内力の要求を少なくす

る.重心が実際に膝の内外軸を通って落ちると,重力による屈曲トルクは0に減少する.

次の 2 つの生体力学的な問題は,本章で示した 3つの問題と類似する.また次の問題は,静的

平衡状態であると仮定する.これらの問題の一部を解くには,付録Ⅰ,パート B の表Ⅰ.2 に列挙

された人体測定データが必要である.

11. 図 4.32 に示す患者は,手首に取り付けられたカフにつながるケーブルの抵抗に対して,肩の

筋を用いて内旋運動を行っている.この「運動」は等尺性であり,肩関節を 35°の外旋位で内

旋筋が活動している.また肩は屈曲–伸展,および外転―内転の中間位を維持している. ボック

ス内のデータと表 4.2 の換算係数を用いて,筋力(M)と関節反力(J)をニュートンで求めなさ

い.

(注:解答の数値は,計算に使用された有効桁数に応じて若干異なる場合がある.)

問題 11の解答:筋力(M)と関節反力(R)の生体力学的解法

既知の力 C を X と Y 成分に分解する.

力 Cは 66.7 Nである.

CXと CYは三角関数を用いて決定され,方向(+ or -)が割り当てられる.

CY = sin 55° × 66.7 N = -54.6 N CX = cos 55° × 66.7 N = 38.3 N

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内的トルクと筋力の解法

モーメントアームの長さを SI 単位に変換する:

EMA = 0.20 m

IMA = 0.07 m

ケーブルの力 C からの外的トルクは,肩に作用する-Z(時計まわりの外旋)方向のトルクであ

る.この運動系が平衡状態を維持するためには,肩の内旋筋は反対の+Z(反時計まわりの内

旋)内的トルクを生成しなければならない.肩の垂直軸のトルクを合計すると,J の作用線が軸

を通過するため,Jのモーメントアームは0に等しくなる.これにより,以下のトルク方程式に

おいて未知数は筋力の大きさの 1つだけになる.

ΣTZ = 0 = TC + TM + TJ

0 = (CY × EMA) + (MY × IMA) + (J × 0 m)

0 = (-54.6 N × 0.20 m) + (My × 0.07 m) + 0 Nm

0 = -10.92 Nm + (MY × 0.07 m) + 0 Nm

156 N = MY

M = MY/sinα = 156 N/0.94 = 166 N

MX = MY/tanα = 156 N/2.75 = -56.7 N (大きさが決定されたのち,負の符号をつけ方向を示

す)

関節反力の解法

図 4.32下段が示すように,未知の変数として残っているのは関節反力(J)だけであり,この

変数は次の式で求めることができる.

ΣFX = 0 = MX + CX + JX

0 = -56.7 N + 38.3 N + JX

18.4 N = JX

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反力 JXの方向は,肩関節が圧迫されていることを示す.

ΣFY = 0 = MY + CY + JY

0 = 156 N + −54.6 N + JY

-101.4 N = JY

JYなしでは,上腕骨は+ Y(前内)方向に滑り,これはおもに MYの引っ張りによって生じる.

関節は静的平衡状態にあると仮定されているため,上腕骨頭は Y(後外)方向に作用する力によ

って安定する.これらの力は,モデルには含まれていない結合組織や筋によって生成される.

全関節反力の大きさは,X成分と Y 成分を用いてピタゴラスの定理で求めることができる.

J2 = JX2 + JY

2

J 軸と X軸のあいだの角度(μ)は,逆余弦関数を用いて求められる.

Cos μ = JX/J

μ = cos−1 (18.4 N/103.1 N)

μ = 79.7°

臨床問題

a.肩のどの回旋角度(水平面)で,抵抗(外的)トルクは最大となるか?

解答:0°(中間位)において,ケーブルが前腕と垂直であるとき抵抗トルクは最大となる.

b.(1)70°外旋位と(2)30°内旋位で最大の抵抗(外的)トルクが発生するようにするために

は,どのように患者の身体の向きを変えればよいか?

解答

(1)身体を反時計まわりに 70°回転させる

(2)身体を時計まわりに 30°回転させる

c. 第 4章で扱った前の問題では,力とトルクの分析に体節の重さが含まれていた.この問題におい

て,前腕部の重さは水平面上のトルク(すなわち,+Zおよび-Z方向のトルク)に影響を与える

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か? また,なぜそう考えたのか?

解答:影響を与えない. 前腕部と手部の重量は分析に含まれていない. 重力は水平面内に作

用しないので,-Z または+Z方向のいずれの方向にも外部トルクを発生しない.

d. 同じ運動について考えるが,図 4.32 のように立っているのではなく,患者が背臥位にあると仮

定する.肩が内旋位から外旋位の全可動範囲を動く際,前腕と手の重さは+Zまたは-Z 方向の

トルクにどのように関与するか?

解答:背臥位にして肩を大きく外旋すると,体節の重さは,内旋筋によって抵抗される外的ト

ルクを生成する.中間位(0°)では,体節の重さは,上腕骨を通る縦の回転軸と交差するた

め,外的トルクを生成しない.被験者が内旋すると,体節の重さは内旋トルクを生成し,それ

によって内旋筋にはトルク生成が要求されない.

12. 図 4.33 は,体重 82 kg の患者が弾性バンドによる抵抗に対して肩の屈曲を行っている矢状面

の図である.図とボックス内のデータを用いて筋力(M)と関節反力(J)をニュートンで求めな

さい.

この問題は,表 4.2 の変換資料と付録Ⅰのパート B の表Ⅰ.2 の人体計測資料を必要とする.表Ⅰ.2

については,手の長さを含まないが,「上肢全体」の人体測定データを使用する.この「上肢全

体」の体節長は,データボックス内にあるように 60 cm である.

質問 12への解答:筋力(M)と関節反力(J)を求めるための生体力学的な解法:

体節の重さと重心位置の特定

問題の既知の値と表 4.2,4.3 のデータを用いると,次のようになる.

体重 = 800.6 N

体節の重さ(S)= 体重の 5% = .05×800.6 N = 40.0 N

体節の重心位置(EMAS)=体節長の 53%

= 0.53×60 cm = 0.32 m

既知の力 S と E を X 成分と Y 成分に分解する

SXと SYの大きさは三角関数で求められ,方向(+または −)が割り当てられる.

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SY = sin70°*×40 N = -37.6 N

SX = cos70°×40 N = -13.7 N

EY = sin40°×55 N = -35.4 N

EX = cos40°×55 N = -42.1 N

*この角度を求めるためのヒントは,以下の辺をもつ三角形を作成することである.(1)肩甲上

腕関節から始まる水平線,(2)Sの垂直線,(3)110°屈曲した上腕 . 水平線と上腕の近位端

とのあいだに形成される角度は 20°である.三角形の残りの 2 つの角度は明白であろう. この

情報は,Sに対する SWと SXの角度は学生に知らせるべきである.

内的トルクと筋力の解法

重力に由来する外的トルクおよび弾性バンドは,両方とも,肩において-Z(時計まわり,伸

長)方向にある.運動系が平衡状態を維持するためには,肩の屈筋は反対の+Z(反時計まわり

の屈曲)の内的トルクを生成しなければならない.肩の回転軸のまわりにトルクを加算するこ

とにより,J の作用線が軸を通過し,Jのモーメントアームがゼ0に等しくなる.これは,筋力

の大きさだけが以下のトルク方程式において未知数になる.

ΣTZ= 0 = TS + TE + TM + TJ

0 =(SY×EMASY)+(EY×EMAEY)+(MY×IMA)+(J×0 m)

0 =(-37.6 N×0.32 m)+(-35.4 N×0.66 m)+(MY×0.10 m)+ 0 Nm

0 = -12 Nm + -23.4 Nm +(MY×0.10m)+ 0 Nm

354 N = MY

M = MY / sin α = 354 N / 0.42 = 842.9 N

MX = MY / tan α = 354 N / 0.47 = -753.2 N

(大きさが求められたのち,方向を示すために負の符号が割り当てられる).

関節反力の解法

関節反力(J)は図 4.33下段に示す唯一の未知の変数である.この変数は次の式で求められ

る.

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ΣFX= 0 = SX + EX + MX + JX

0 = -13.7 N + -42.1 N + -753.2 N + JX

809 N = JX

ΣFY= 0 = SY + EY + MY + JY

0 = -37.6 N + -35.4 N + 354 N + JY

-281 N = JY

総関節反力の大きさは,ピタゴラスの定理を用いて X成分と Y 成分から求めることができる.

J2 = JX2 + JY

2

J=√[(JX)2+(JY)2]=√[(809.0 N)2+(-281.0 N)2]=856.4 N

J と X 軸のあいだの角度は,逆余弦関数を使用して求められる.

Cos μ = JX / J

μ = cos-1(809.0 N / 856.4 N)

μ = 19.1°

臨床問題

a. この運動によって,肩甲上腕関節の関節包のどの部分に最もストレスがかかる可能性が高い

か?

解答:関節包の後面が最もストレスの多い領域であろう.この問題の特定の生体力学に基づい

て,肩の屈筋(M)は,弾性バンドの抵抗に対して腕を屈曲位に保持するためには大きな力を生

成しなければならない.あなたの計算結果のように MXはほぼ(-)80 kg の大きさである! こ

の力は,上腕骨頭を関節包後面に対して後方に引っ張り,これは回旋筋腱板によって補強され

る.関節包後面による制御力がなければ,上腕骨頭は滑り,関節窩に関して後方に亜脱臼す

る.骨格モデルの肩を 110°に屈曲させてみれば,この概念を容易に理解できるであろう.

b. 上肢の総重量による外的トルクが最大となるのは,矢状面において,肩がどの角度のときか?

解答:90°屈曲位で外的トルクは最大となる.

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c. 矢状面での肩のどの角度で,弾性バンドの外力は体節に対して 90°となるか,目で見て推定し

なさい.またこの位置は,弾性バンドによって生じる最大トルクの肢位となるだろうか? ま

た,なぜそう考えたのか?

解答:これは屈曲 60°で発生する(これは「目視」または分度器を用いて計測または推定でき

る).この肢位は,弾性バンドを腕が約 90°の角度となる.しかしながら,この運動肢位で伸長

された弾性バンドから最大の外的トルクが生成されるかどうかは不確実である.弾性バンドの

外的モーメントアームは約 60°の肩屈曲で最大であるが,弾性における受動的張力は最大では

ないようである.

d. 上肢の重量は無視して,(a)手持ち重量 27 N(約 2.8 kg)と(b)弾性力を用いて,0~180°

の屈曲によって-Z(伸展)方向に生じる外的トルクを推定しなさい.

解答:a. 肩が 0~180°まで屈曲すると,手持ち重量によって生じる-Z 方向の外的(伸展)ト

ルクは,肩の屈曲角の正弦として変化する(グラフ A参照).上述したように,手持ち重量によ

って生成された伸張トルクは,屈曲 0°で 0であり,屈曲 90°で最大に増加し,そして屈曲

180°でふたたび 0 まで減少する.

Page 27: 1. 2. MCP...3. 自分の示指の中手指節(MCP)関節が完全屈曲位また完全伸展位にある場合の関節包内運動に注 目しなさい.関節包内運動が大きいのはどちらの肢位か?

解答:b.肩の 0〜180°の屈曲範囲にわたって弾性素材によって生成された外的トルクの分析

は,手持ち重量を用いる場合よりも複雑である.外的トルクは,弾性バンドの外的モーメント

アームの長さと伸張された弾性バンドの受動的張力との積であり,両方とも運動中に変化する.

弾性力のモーメントアームは,肩の屈曲 0°で0に近く,その後,屈曲約 60°で最大に増加

し,次に肩の屈曲 180°でほぼ0に減少する.肩が 0〜180°まで屈曲すると,弾性バンドの力

は連続的に増加する(直線的ではない).

10N(約 1.02kg)の予備負荷では,緑の弾性材料(Theraband®)から生成された力および外的ト

ルクは,グラフ B(下記)のように肩の屈曲を通じて変化する.この例では,肩の屈曲運動を通

して弾性力が 4 倍に増加したとしても,外的トルクは,一定の手持ち重量による運動で描かれる

形状に近似した.この結果は,この特定のエクササイズにおけるモーメントアームの長さの変

化によるものであり,必ずしも他のすべての弾性バンドのエクササイズに適用することはでき

ない.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第5章 肩複合体

学習問題とその解答

1. 胸鎖関節の形態は,挙上および下制,前方突出および後退の際に,どのように関節包内運動に

影響するか?

胸鎖関節は,典型的ではない鞍状関節である. その独特な関節形状のため,関節内の 2 つの垂

直に対向する直径に沿った関節包内運動は,それぞれ異なるが,第 1 章で定義したような関節

包内運動の原理に従う.挙上および下制では,胸骨の鎖骨関節面の凹面に対する鎖骨内側端の

凸面の転がりと滑りが反対方向に起こる.前方突出および後退では,胸骨の鎖骨関節面の凸面

に対する鎖骨内側端の凹面の転がりと滑りが同方向に起こる.

2. 鎖骨が完全に下制した場合,胸鎖関節周囲のうち,どの結合組織や筋が緊張するか?

鎖骨が完全に下制した場合,胸鎖関節の関節包靱帯の上部線維,鎖骨間靱帯および僧帽筋上部

線維が伸長される. 肩甲骨の下制が機械的に鎖骨の下制と関連しているため,肩甲挙筋と菱形

筋も受動的な緊張が増加するであろう.

3. 胸鎖関節および肩鎖関節の骨運動がどのように組み合わさって肩甲胸郭関節の前方突出の可動

域を増加させるか? 回転軸と運動の面を含めて答えなさい.

肩甲胸郭関節の前方突出は,胸鎖関節における前方突出と,肩鎖関節における内旋の機械的な

組み合わせである.胸鎖関節と肩鎖関節における水平面の運動は,おもに同様の回転軸(垂直

軸)の周りに同様の回転方向で生じるため,肩甲胸郭関節の前方突出を増大させる.

4. 肩甲上腕関節の内旋の際に起こる関節包内運動を(1)解剖学的肢位と(2)90°外転位で比較

して述べなさい.

肩甲上腕関節における解剖学的肢位からの内旋における関節包内運動は,上腕骨頭の前方への

転がりと後方への滑りを含む.90°外転位からの内旋の関節包内運動では,関節窩に対する上腕

骨頭の軸回旋を伴う.運動中に骨の運動方向を視覚化することは,とくに解剖学的肢位以外で

行われる関節の関節包内運動を理解するためには必須の要素である.

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5. 肩甲胸郭関節の前方突出を起こす筋を最も弱化させることになる脊髄神経根の損傷レベルはど

こか? すべての髓節レベルを答えなさい.

ヒント:付録Ⅱパート B を参照.

肩甲胸郭関節の主要な前方突出筋は,前鋸筋である.この筋はおもに C5〜C7の脊髄神経根から

なる長胸神経によって支配される.

6. 上腕がしっかりと固定されている状態で,菱形筋や小胸筋の活動を伴わずに,大円筋が完全収

縮した場合の肩甲骨の肢位を述べなさい.

通常,菱形筋および小胸筋は,肩の内転と伸展に抵抗するあいだに,大円筋と共同して収縮す

る.外転または屈曲位から,菱形筋および小胸筋が下方回旋し,したがって大円筋の引っ張り

に対して肩甲骨を動的に安定化させる.ポリオによって菱形筋群だけが選択的に麻痺した特殊

な症例を観察すると,菱形筋群がどれだけ肩甲骨を安定させるかという重要な機能が明らかと

なる.強く抵抗した肩の内転または伸展運動(屈曲または外転位置からの)では,肩甲骨の顕

著な(および逆説的に)上方回旋をもたらしてしまう.菱形筋の収縮力がなければ,収縮する

大円筋からの力は,肩甲骨の下角を横方向に引っ張る.通常,菱形筋は,この上方回旋に抵抗

し,肩甲骨を肩の伸展および内転の自然な成分である下方回旋を実質的に起こす.

7. 図 5.59 には肩甲上腕関節の内旋筋群を示す.この筋群は,上腕骨を後方へ滑らせる機能的役割

を有するか?

大円筋,広背筋および肩甲下筋の収縮は,肩甲上腕関節を内旋させるだけでなく,上腕骨を後

方に「押し」,あるいは筋の作用によっては後方に「引く」. この作用は,上腕骨近位部の過度

の前方への転がりを効果的に制限しうる.

8. 解剖学的肢位より肩を能動的に外転する際に肩関節複合体に作用している筋をすべてあげなさ

い.付録Ⅱパート B を参考にして,これらの筋に最も関係していると思われる連続した 2つの脊

髄神経根はどこか?

肩甲上腕関節の外転筋:三角筋と棘上筋

肩甲胸郭関節の上方回旋筋:前鋸筋および僧帽筋の上部と下部線維

肩甲上腕関節の動的固定筋:肩甲下筋,小円筋,棘上筋および棘下筋

C5-C6のペアとしての脊髄神経根は,これらの筋のほとんどの神経支配の必須成分である.この

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神経根のペアは,腕神経叢の上幹の損傷によって傷害される可能性がある.

9. 過緊張になることで,理論的に肩甲骨を内旋肢位にさせる肩の筋をすべてあげなさい.同様

に,理論的に肩甲骨を内旋肢位にさせる筋力低下した肩の筋をすべてあげなさい.

次の筋が拘縮した場合,理論的には肩甲骨は内旋位となる:

小胸筋

三角筋後部線維,棘下筋および小円筋(上腕骨が固定されており,とくに肩甲上腕関節が内旋

し屈曲している場合)

以下の筋は,弱い場合,理論的には肩甲骨は内旋位となる:

前鋸筋

僧帽筋中部線維

肩甲下筋(上腕骨を固定し,とくに肩甲上腕関が外旋し伸展している場合)

10. 過緊張になることで,理論的に肩甲骨を前傾肢位にさせる肩の筋をすべてあげなさい.同様

に,理論的に肩甲骨を前傾肢位にさせる筋力低下した肩の筋をすべてあげなさい.

次の筋が拘縮した場合,理論的には肩甲骨は前傾位となる:

小胸筋

上腕二頭筋短頭(上腕骨を固定して,とくに肩と肘を伸展した場合)

以下の筋は,弱い場合,理論的には肩甲骨は前傾位となる:

前鋸筋

僧帽筋下部線維

11. 完全に骨癒合してしまった肩甲上腕関節では,理論的にどの程度の能動的な肩の外転が可能

か?

骨癒合した肩甲上腕関節では,理論的には,肩甲胸郭関節の完全な上方回旋によって 60°まで

の肩の外転が可能である.(この場合「肩」という用語には,肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の両

方が含まれることに注意されたい).

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12. 肩甲上腕関節のどのような動きが下関節上腕靱帯のすべての部分を緊張させるか?

肩甲上腕関節の外転

13. 上腕二頭筋長頭の正確な走行を遠位付着から近位付着まで述べなさい.そして,腱が挟み込ま

れ,炎症を起こしやすい部分はどこか?

上腕二頭筋は,遠位では橈骨粗面に付着する. 近位では,上腕二頭筋長頭は上腕骨の結節間溝

を通って上腕骨頭を横切り,関節上結節(隣接する関節唇とともに)に付着する.上腕骨の結

節間溝を通る際,腱は挟み込まれやすい.上腕骨頭と肩峰の下面との間で圧迫される腱は脆弱

である.

14. 腕神経叢の上神経幹の引き抜き損傷によって,できなくなる能動的な動きは何か?

能動的な肩の外転および外旋運動は本質的に失われる.腕神経叢の上幹の完全な引き抜き損傷

は,C5および C6の脊髄神経根の機能損失を伴う.これらの神経根は,腋窩神経および肩甲上神

経を形成し,三角筋,棘下筋および棘上筋を支配する(付録 II,パート Bを参照).

15. 肩甲胸郭関節の肢位は,肩甲上腕関節の静的安定性にどのような影響を与えるか?

肩甲上腕関節の静的安定性の一部は,関節窩のわずかな上向きの傾斜(垂直基準線に対する)

による.この肢位によって,(1)関節窩が上腕骨頭の一部を物理的に支持し,(2)上肢の重み

と肩甲上腕関節の関節包上部の張力とのベクトルの総和が,上腕骨頭と肩甲骨関節窩とのあい

だに少しばかりの有効な圧迫を起こす.

16. 肩甲骨のどの動きの組み合わせが最も肩峰下腔の容積を減少させるか?

相対的な下方回旋(または上方回旋の減少),前傾の増加,および内旋の増加の組み合わせ.

17. 本章で述べたように,上腕骨の後捻は出生時には約 65°である.若い人が 10 代の後半に到達

するまでに,どの程度の後捻になると予想されるか?

上腕骨は通常,10 代後半になるまでに 30°後捻する. オーバースローの選手では,40〜45°

近く後捻する.

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18. 肩甲上腕関節の内-外軸に対しての力線に基づいて, 以下の3つの開始肢位からの大胸筋胸肋

線維の矢状面上の動きを比較しなさい.(1)ほぼ解剖学的肢位・中間位,(2)中間位より 30°

伸展位,(3)120°の屈曲位.

(a)ほぼ解剖学的肢位・中間位では,筋は肩甲上腕関節を屈曲させるか,または伸展させるモ

ーメントアームをほとんど有さない.

(b)中間位を越えて 30°伸展位では,筋は肩甲上腕関節をほぼ中間位まで屈曲できる.

(c)120°の屈曲位では,筋は肩甲上腕関節をほぼ中間位まで伸展できる.

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第 6 章 肘と前腕

学習問題とその解答

1. 橈骨下方(遠位方向)への負荷(牽引力)に抗する筋と筋以外の組織をあげなさい.

橈骨下方(遠位方向)への負荷(牽引力)に抗する筋は腕橈骨筋と上腕二頭筋(つまり,橈

骨に遠位付着する筋)を含む.筋以外の組織は,輪状靱帯,斜索,骨間筋膜の背側斜索を含

む.

2. 肘関節の屈曲から伸展の全可動域において,内側側副靱帯の異なる線維の張力がどのように

有用であるかを説明しなさい.

肘関節に広く三角形に広がった内側側副靱帯の一部の線維は,肘の内外軸の前方および後方

を通る.これによりいずれかの線維が伸張され,肘関節屈曲から伸展の全可動域で比較的高

い緊張が保持される.靱帯内の緊張した線維は肘関節の外反に対して重要な抗力となる.

3. 肘関節屈曲と前腕回外を組み合わせた運動における腕橈関節の関節包内運動を説明しなさ

い.

この運動における関節包内運動は,軸回旋とともに同方向の転がりと滑りを含む.

4. 図 6.17A でモーメントアームのみを考えた場合,どの組織が最も肘関節伸展に対して受動的

抵抗トルクを発生するか.

肘関節の内外回転軸に対して,肘前面の皮膚は最も長いモーメントアームを有する.もし,

この皮膚組織による抗力が顕著になれば,この比較的長いモーメントアームは肘関節の屈曲

拘縮に大きく関与する可能性がある.

5. 肘関節屈曲の(重力に抗する)主動作筋はいくつの神経に支配されているか.

3つ.筋皮神経は上腕筋を,橈骨神経は腕橈骨筋(そして上腕筋の一部)を,そして正中神

経は円回内筋を支配する.

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6. 表 6.7 のデータをもとに,上腕三頭筋のどの頭が最大肘伸展トルクを発生するか.

生理学的横断面積と内的モーメントアーム長をもとに考えると,上腕三頭筋の長頭が最大肘

伸展トルクを発生する.

7. 短母指伸筋は,なぜ前腕の回外の補助筋として本章に含まれていないのか.

短母指伸筋は,橈骨に近位付着し,母指に遠位付着する.つまり,この筋は前腕の回転軸を

交差しないので,前腕の回転軸に対してトルクを発生しない回外の補助筋に含まれない.

8. 肘関節伸展と肩関節屈曲を組み合わせた「押す」動作における三角筋前部線維の身体運動学

的な役割は何か.

肘関節伸展と肩関節屈曲を組み合わせた「押す」動作において,三角筋前部線維には2つの

役割がある.第1は,肩関節を屈曲させ,手をドアに押させることである.第2は,肩関節

屈曲トルクを発生し,三頭筋長頭による潜在的な肩関節伸展トルクを打ち消すことである.

9. 上腕筋に対して最も直接的な拮抗筋はどれか.

筋の作用および上腕における付着部位をもとに考えると,上腕三頭筋の内側頭が上腕筋に対

して最も直接的な拮抗筋である.

10. 患者は 20°の肘関節屈曲拘縮を呈し,筋の硬直が原因と考えられる.最終可動域付近まで伸

展ストレッチ(トルク)をかけると前腕はむしろ強く回外方向へ他動的に「引っ張られて」

いく.このことから,どの筋または筋群が最も硬直(硬化)していることがわかるか.

最終可動域まで肘関節を他動的に伸展させたときに,前腕が回外するのは,肘屈筋および前

腕回外筋である上腕二頭筋が過度に硬直(硬化)していることを強く示唆する.

11. 腋窩での橈骨神経の障害は,図 6.45 に示されている作業にどのように影響を及ぼすか?

図 6.45が示すように,上腕二頭筋は主要な前腕回外筋である.(橈骨神経障害による)上腕

三頭筋の麻痺では,上腕二頭筋が肘関節を屈曲し,ねじからトライバーが外れそうになる.

12. どのような上肢の肢位が上腕二頭筋を最も伸張するか.

肩関節伸展,肘関節伸展,前腕回内.

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13. 橈骨頭切除術や人工関節手術の前に外科医が骨間膜の中央線維束の状態を懸念するのはなぜ

か.

健康な上肢でも,自動回内運動(または握りこぶしを作るだけでも)は,橈骨をわずかだ

が,尺骨に対して近位に変位させる.この変位は橈骨頭と小頭の圧迫,骨間膜の中央線維束

の緊張により制限される.(たとえば重度の骨折による)橈骨頭切除術は,橈骨近位と小頭

に隙間を作る.骨間膜が損傷していると,橈骨は顕著に近位変位し,手関節の尺骨プラス変

異を起こす可能性がある(第 7章参照).尺骨プラス変異が増大すると,手根部の遠位橈尺

関節を損傷するようなストレスを生じる.このような例は,橈骨頭の人工関節手術でも起こ

りうる.骨間膜の損傷は橈骨を近位変位させ,人工関節が摩耗する.

14. 患者は上腕骨の中間部で正中神経を損傷した.この患者は肘の能動的な屈曲運動の弱化は生

じるか.時間の経過とともに前腕にどのような変形や「硬直パターン」が起こりうるか.

正中神経損傷で麻痺する肘関節屈曲筋は円回内筋のみである.他の肘関節屈曲筋は温存され

る.したがって,肘屈曲の筋力にはほとんど変化がみられない.主要な回内筋すべてが麻痺

した場合,前腕は回外位にとどまる傾向になる.時間とともに回外筋は短縮し,最終的には

完全回内を制限する可能性がある.

15. 肘関節を伸展して上腕筋を最大限にストレッチ(伸長)させたい場合,前腕の他動的完全回

内・回外を組み合わせることでより効果的にストレッチができるか.

できない.なぜなら,上腕筋は(橈骨ではなく)尺骨に遠位付着し,前腕の回内外軸を通ら

ないからである.したがって,上腕筋は前腕の他動回内または回外を制限する自動(または

他動)トルクを発生できない.

16. 肘に対する過度の外反力によって外側(尺側)側副靱帯を損傷した場合の受傷機転を説明し

なさい.

図 6.13で説明したように,手を伸ばして転んだ場合,過度の外反力が肘に加わり,内側側副

靱帯を損傷する.さらにこのとき,後方外側に大きな回旋負荷がかかると,外側(尺側)側

副靱帯も損傷する.このような回旋ストレスは,腕橈関節の「外旋」に抗する位置にある外

側(尺側)側副靱帯を損傷する可能性がある.

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17. 回内・回外時における骨間膜の中央線維束の等尺性収縮のような性質が生体力学的に有益で

ある点をいくつかあげなさい.

骨間膜は,前腕の長軸方向に安定させ,手指に付着する筋と強く結合している.

18. 図 6.30 のような荷重位の肢位で前腕を回内位から能動的に回外位にするのに広背筋がどのよ

うに貢献するのかを説明せよ.どの組織がこの運動を制限するか.

肩関節を内旋する筋(たとえば広背筋)は,(橈骨が固定された)荷重位から,橈骨と平行

になる肢位まで尺骨を間接的に回外することができる.そのような肢位を前腕回外位と定義

する.前腕の回内筋群,外在性指屈筋群,肩関節外旋筋群,肩の関節包後方,遠位橈尺関節

の手掌関節包,または骨間膜の中央線維の緊張,同様に三角線維軟骨複合体の疼痛によって

も完全な回外は制限される.(動画 第 6章「5.橈骨と手が固定された場合に起こる前腕の

回内と回外の動きの実際」を参照されたい)

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第7章 手関節

学習問題とその解答

1. 橈側手根屈筋腱は手根管を通らずに,どのように中手骨の基底部に達するか?

橈骨手根屈筋の腱は,横手根靱帯の掌側面に位置する狭いトンネルを通り,手関節を横切って

遠位方向に進む.したがって,厳密にいえば,腱は手根管の中に進路をもたない.

2. 尺屈が橈屈より大きい可動域を有する理由を列挙しなさい.

尺屈の可動域は橈屈のそれを上回る.理由は,(1)尺骨手根間隙が尺屈をあまり邪魔しない,

(2)橈骨遠位に突き出した茎状突起は,極端な橈屈を阻止する,からである.

3. 橈骨遠位端骨折によって,橈骨遠位部が 25°の背側傾斜した場合(図 7.37B 参照),この異常

な配列により引き起こされる機能障害は何か?

橈骨遠位部の 25°の背側傾斜は,橈骨手根関節面および遠位橈尺関節面に形態学的な不一致を

生じさせる.これは,手関節の動き(おもに屈曲の方向の可動域)が低下し,前腕の回内と回

外を減少させる可能性がある.増加した関節ストレスのために,最終的に変形性関節症を発症

するかもしれない.

4. 手関節の屈曲および伸展時の橈骨手根関節における関節包内運動パターンを述べなさい.

屈曲の際には,手根骨の近位列は,手掌方向に転がり,手背方向へ滑る.有頭骨(手根中央関

節の内側区画の代表)は,手掌方向に転がり,手背方向へ滑る.

伸展の際には,手根骨の近位列は手背方向に転がり,手掌方向に滑る.有頭骨は手背方向に転

がり,手掌方向に滑る. 一般的な原則として,骨(または骨群)の転がりは,肢節全体の骨運

動と同じ方向となる.

5. 手関節および手全体における有頭骨の骨運動学的な重要性を述べなさい.

有頭骨と第 3中手骨の基部とのあいだの比較的しっかりとした関節構造のため,有頭骨の動き

は,手関節と手部の全体的な長軸の動きの経路を方向づける.さらに,平均して,手関節の運

動のための両方の回転軸は有頭骨を通過する(または近づく). これらの概念は,手関節全体

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に発生するトルクや可動域を測定する際に役立つ.

6. 以下の問題を図 7.24 に基づいて答えなさい.

a 橈側手根屈筋と浅指屈筋では,どちらのほうが手関節に対して,より大きな屈曲トルクを発生

するか?

b すべての筋のうち,どの筋が尺屈トルクを発生するための最も長いモーメントアームを有する

か?

c 尺側手根屈筋に対して最も直接的な拮抗作用をもつ筋はどれか?

a この図のデータは,筋の(断面積に基づく)相対的な力の生成と,有頭骨に対する内的モーメ

ントアームを推定することを可能とする.これらの変数の積は,手関節に作用する相対的な生

成トルクの推定を可能とする.データを視覚的に分析することにより,浅指屈筋は,橈側手根

屈筋よりも手関節に大きな屈筋トルクを生じさせることがわかる.

b 尺側手根伸筋

c 長母指伸筋または短橈側手根伸筋のいずれか

7. “ダーツ投げ”の際の手関節の運動学を解説しなさい.

「ダーツ投げ」動作は,手関節伸展−橈屈,および屈曲−尺屈とを自然に組み合わせる.

8. 母指の腱のうち,どの2つが伸筋支帯で同じ線維鞘を通るか?

短母指伸筋と長母指外転筋

9. 月状骨の機械的な安定のために舟状骨はどのような役割をもつか?

月状骨は手根骨の中で最も不安定であるが,おもな原因はその形態とともに筋付着のないこと

である.月状骨は,おもに舟状月状靱帯を介して,舟状骨への付着によってその機械的安定性

の大部分を受けている.舟状骨は,手根骨の安定した遠位列,とくに小菱形骨および大菱形骨

にしっかりと靱帯で連結しているので,この安定した基部を提供することができる.したがっ

て,舟状骨の骨折または舟状菱形靱帯あるいは舟状月状靱帯の裂傷は,とくに月状骨の安定性

を機械的に損なわせる.

10. どのようにすれば長橈側手根伸筋を最大にストレッチできるか?

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他の筋と同様に,最大にストレッチするには,筋の作用とは反対方向に関節を動かすことが必

要である.長橈側手根伸筋を最大限にストレッチするには,手関節の屈曲と尺屈の組み合わせ

と前腕の回内が必要である.

11. 手根の尺側偏位を防ぐのは複数の外在性靱帯によるものであるが,それらはどの靱帯か?

手掌および背側の橈骨手根靱帯は,橈骨の位置に対して手根の尺側偏位に抵抗するのに好まし

い力線を有する.

12. 患者は,近位橈骨および隣接する骨間膜の重篤な損傷により,橈骨頭の部分切除を受けた.こ

れにより橈骨が近位に 6~7mm 変位したことで起こりうる機能障害や病態を説明しなさい.

とくに橈骨頭が外科的に切除された場合,尺骨に対して橈骨が近位に変異するのは珍しいこと

ではない.この変異位は,骨間膜が断裂した場合に起こる可能性が高い.橈骨の近位への変異

は,手関節に「尺骨プラス変異」を引き起こす可能性がある.数 mm以上の尺骨プラス変異は,

疼痛を伴う「尺骨突き上げ症候群」を引き起こす可能性がある.三角線維軟骨,三角骨,月状

骨および舟状月状靱帯などの組織へのストレスの増加は, 疼痛や手関節と前腕の可動域制限を

起こす可能性がある.極端な場合,ストレスは疼痛を伴う変形性関節症につながる可能性もあ

る.

13. 通常,有頭骨と接しない手根骨はどれか?

豆状骨,三角骨,および大菱形骨.

14. 手根中央関節の内側部および外側部それぞれの内部凹凸関係を対比しなさい.これらの関係が

手関節の屈曲・伸展時にその関節包内運動にどのような影響を及ぼすのか述べなさい.

手根中央関節の内側区画:遠位の凸状肢節は,近位の凹状肢節と関節接合する.矢状面におけ

る近位肢節に対する遠位肢節の骨運動と仮定すると,関節包内運動は転がりと反対方向に滑

る.

手根中央関節の外側区画:遠位の凹状肢節は,近位の凸状肢節と関節接合する.矢状面におけ

る近位肢節に対する遠位肢節の骨運動と仮定すると,関節包内運動は転がりと同方向に滑る.

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15. 上腕骨外側上顆に付着するすべての筋を列挙しなさい(部分的な付着も含む).また,どの神

経がこれらの筋を支配するか?

腕橈骨筋

長橈側手根伸筋

短橈側手根伸筋

尺側手根伸筋

指伸筋

肘筋

回外筋

上記のすべての筋は,橈骨神経によって神経支配されている.

16. 手関節の能動的な屈曲における尺側手根屈筋と橈側手根屈筋の相互作用を述べなさい.

両方の筋が手関節の屈曲を起こす.しかし,各筋はそれぞれ異なる前額面での運動を中和す

る.

17. (a)ハンマーをしっかりと握るときの典型的な手関節の肢位と(b)ハンマーで釘を打つとき

の準備段階から衝撃段階で起こる手関節の運動を対比しなさい.

(a)静的な強い把持において,手関節は,典型的には,約 30〜35°伸展位および 5〜15°尺屈

位をとる.

(b)ハンマーで釘を打つ準備段階では,手関節は伸展し(または伸展したまま),そして橈屈

する. 衝撃段階では,手関節は屈曲方向に動き(ただし,相対的な伸展は維持),尺屈す

る.

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第 8章 手

学習問題とその解答

1. 手の近位横アーチと遠位横アーチの位置と動きの特性について比較しなさい.

手の近位横アーチは手根骨遠位列全体をたどる. 手根管内部でほぼ一定の体積を保つため,

このアーチは強固に固定されている.

手の遠位横アーチは MCP 関節の領域をたどる. このアーチは第 1, 4, 5指列で広範囲に動

き, 第 1, 4, 5 CMC関節における動きやすさと連動している.それらの CMC関節がよく動

くことで, 手に持っているさまざまな形や大きさの物に手掌をぴったりと適合させること

ができる.

2. (a)尺骨神経障害と(b)正中神経障害が長期化した場合,筋萎縮が最も予想される手内

領域を列挙しなさい.

慢性的な尺骨神経障害では, 手の3つの領域で萎縮が生じる. それらは (A) 小指球 (小指

屈筋, 小指外転筋, 小指対立筋の萎縮により), (B) 骨間腔(骨間筋の萎縮により) , そし

て (C) 母指の水かき(母指内転筋の萎縮により)である.

慢性的な正中神経障害では, 母指球(母指屈筋, 母指外転筋, 母指対立筋の萎縮により)

で萎縮が生じる.

3. 母指内転筋は安定した骨性の近位付着が必要な強力な筋である.その近位付着を復習した

あと,この条件が満たされているかどうか述べなさい.

母指内転筋は手内部にある力学的に強固な構造の有頭骨と第3中手骨へ部分的に付着するこ

とで, この条件を満たしている.

4. 母指の CMC関節における対立運動は,どの運動の組み合わせにより生じるかを説明しなさ

い.またそれらの運動を担う筋の名称をそれぞれ述べなさい.

対立運動は母指中手骨の内旋を伴う外転と屈曲で構成される. すべての母指球筋がこの運

動に強くかかわる. すなわち短母指外転筋が外転, 短母指屈筋が屈曲, 母指対立筋が中手

骨の内旋を担う.

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5. 示指虫様筋の近位付着と遠位付着を説明しなさい.この筋が MCP関節を屈曲すると同時に

IP関節を伸展できる理由について説明しなさい.

第1虫様筋は手掌にある(示指の)深指屈筋腱から生じる. その小さな筋は示指の伸展機構

の外側縁に遠位付着する. 虫様筋はMCP関節では回転軸の掌側, IP関節では回転軸の背側を

通るため, それらの運動を同時に行うことができる.

6. 図 8.42 は CMC 関節における長母指伸筋,短母指伸筋,長母指外転筋の各力線を示す.こ

れらの 3本の筋のうち,(a)内転ができる,(b)外転ができる,あるいは(c)内転と外

転どちらもできない筋の名称をそれぞれ述べなさい.最後にこれらの 3 本の筋が CMC 関節

を伸展できるかどうか検討しなさい.

図 8.42における CMC関節の位置と横たわる腱の向きに基づくと,(a) 長母指伸筋は内転

ができ, (b)長母指外転筋は外転ができ,(c)短母指伸筋は内転と外転のどちらもできな

い.また,3本の筋とも CMC関節を伸展できる.

7. 手を開く(すなわち指を伸展する)際の,虫様筋と骨間筋の役割を述べなさい.

程度の差はあっても, 手を開く(すなわち指を伸展する)際に,指伸筋, 虫様筋, 骨間筋

が活動する.(伸展中の)MCP関節で内在筋が屈曲トルクを作り出すことにより, あたかも

動的な掌側靱帯のように作用し, 指伸筋が無駄に関節を過伸展しようとするのを防ぐ.

8. スワンネック変形とボタン穴変形の背景にある病態力学を比較しなさい.

スワンネック変形の病態力学は, 近位指節間(PIP)関節の異常な過伸展を伴う. これは掌

側板の過伸張または弱化により生じることがある. 過伸展したPIP 関節 は深指屈筋腱を伸

張し, それにより遠位指節間 (DIP) 関節が部分的に屈曲した状態を作り出す.

ボタン穴変形の病態力学は, 伸展機構中央索の断裂による近位指節間(PIP)関節の慢性的

な屈曲をよく伴う. 側副靱帯は,PIP 関節回転軸の掌側にずり落ちる傾向にある.このシナ

リオ想定下では,能動的伸展を行うすべての手段を失う. 側副靱帯の伸張により受動的張力

が増大するため, DIP 関節は過伸展されたままになりやすい. 前述の病態力学に加え,ボタ

ン穴変形は斜支靱帯での過剰な緊張を伴うこともある.ボタン穴変形でみられるPIP 関節と

DIP 関節の複合した変形は,理論上,斜支靱帯を緩める.それゆえ慢性の症例では,その緩ん

だ靱帯が次第に順応して短縮し,いっそうボタン穴変形を際立たせる.

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9. 図 8.48 で説明された 3 つの内在筋のうち,示指の MCP 関節の屈曲に対して最大のモーメ

ントアームを有するのはどれか答えなさい.

虫様筋.

10. 臨床家は中手骨を骨折した患者の手を,MCP 関節は屈曲位,IP 関節はほぼ伸展位に固定

する.この肢位を選択する理由を述べなさい.またこの固定が 長期化することにより,筋

が短縮(拘縮)してしまう危険性があるかどうか考えなさい.

MCP関節を屈曲位にすると,側副靱帯索状部の受動的張力が増大する.一方,IP 関節をほぼ完

全伸展位にすると,掌側板の受動的張力が増大する.これらの組織内で増大した張力によ

り,MCP 関節伸展/IP 関節屈曲の「鷲手」拘縮になるのを回避できる.また,臨床家は,MCP

関節屈曲と IP 関節伸展での長期におよぶ固定が, 虫様筋または骨間筋の短縮(拘縮)を

引き起こさないように留意する必要がある.

11. 豆状骨レベルで尺骨神経が損傷された患者は,母指の CMC 関節において著しい内転の弱

さを示す.この理由を述べなさい.この関節における内転の弱さを補うことができる筋の

名称を答えなさい.

尺骨神経損傷により母指内転筋が麻痺し, その結果,母指の CMC関節における内転トルク

の有意な低下がみられる. 人によっては,長母指伸筋を用いることで母指底での能動的内

転の弱さを部分的に補うことができる.

12. 母指 CMC 関節が鞍関節構造であることにより,屈曲,伸展,外転,内転の関節包内運動

がどのように起こるか答えなさい.

母指のCMC関節は, 人体における鞍関節の典型例としてよく取り上げられる. その関節包内

運動はそれぞれの運動面でみられる独特の関節形態に基づいている. 矢状面では, 中手骨

底の凸面が大菱形骨の凹面に対して,滑りが転がりと反対の方向になされながら外転と内

転が起こる. 前額面では, 中手骨底の凹面が大菱形骨の凸面に対して,滑りが転がりと同

方向になされながら屈曲と伸展が起こる.

13. 母指から第 5CMC 関節において受動的な可動について最小から最大まで,順位をつけなさ

い.この可動性の順位がもたらす機能的意義について説明しなさい.

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手の CMC 関節における相対的な可動性は,最小から最大の順に,第 3, 第 2, 第 4, 第 5,

母指へと大きくなる.この順位を踏まえ,よく動く手の両端縁をより安定した中心支柱の方

へ内側に折りたたむこができる. 機能的にこれは捕捉力を高め, 手掌と手に持っている物

とのあいだでの接触面を最大にする.

14. ある患者において指の外転と内転の能動的運動および「鍵つまみ」をする際,顕著な弱

さを示す.そのうえ,小指球筋の萎縮および手と前腕遠位の尺側縁における感覚低下を示

す.付録Ⅱパート B~Eで表された情報をもとに,これらの機能障害に最も関連がある脊髄

神経根を答えなさい.

脊髄神経根 C8–T1.

15. A4 滑車のあたりで環指の深指屈筋(FDP)腱が完全断裂した患者を想定しよう.患者が

握りこぶしを握ろうと試みた際,環指の DIP関節が屈曲ではなく逆に伸展した(この観察

は,臨床家により「奇異伸展」現象「paradoxic extension」とよばれる).この現象が生

じる理由を身体運動学的な見地から説明しなさい.

深指屈筋 (FDP) の筋収縮は, 環指の虫様筋を近位方向に引っ張るため, DIP 関節の伸展を

引き起こす.FDP の腱は途中で断裂しているため, この伸展の動きに対抗できない.

16. 「内在筋拘縮」と診断された患者の指の肢位を答えなさい.その緊張した筋を伸張する

指の肢位について説明しなさい.

指の内在筋(すなわち虫様筋と骨間筋) の拘縮または緊張により, IP 関節伸展を伴う MCP

関節屈曲位となる. その緊張した筋を伸張するには, 真逆の IP関節屈曲と MCP 関節伸展

とを組み合わせた同時運動により, 効果的に行うことができる.

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第 9 章 体軸骨格:骨・関節学

学習問題とその解答

1. 頭蓋骨の前方突出時(完全に後退した肢位から)の頭頸部における骨運動につい

て説明しなさい.正常な場合,どの組織が,完全な前方突出姿勢において比較的緩

んでいるか?

頭蓋頸部の前方突出には,下位から中位頸部の屈曲および上部頭頸部の同時伸展を

含む.上部頭頸部では,完全な前方突出において通常,緩んでいる組織は,歯突起

または後頭部(たとえば上位項靱帯または後環椎後頭膜)の後ろにある組織である.

中〜下部の頭蓋頸部では,通常,完全な前方突出において緩んでいる組織は,椎体

の前方にある組織(たとえば前縦靱帯)である.

2. 黄色靱帯の自然な弾力性は,過度のそして損傷の可能性がある有害な圧迫力から,

どのように椎体関節を保護することができるか?

黄色靱帯の弾力性は,脊柱の屈曲に抵抗する.屈曲が増すにつれて抵抗性が増し,

制動することによって,椎体関節(椎間板)を過度の圧迫から保護することができ

る.

3. モーメントアームの長さのみに基づくと,どの結合組織が胸腰部における屈曲ト

ルクを最も効果的に制限することができるか?

棘上靱帯は,各椎骨の椎体を通る内外軸の最も後方に位置している.この位置は,

屈曲トルクに抵抗するための組織のモーメントアームを最大にする.

4. L3 と L4 のあいだの横突間靱帯は,矢状面の屈曲-伸展を制限するように走行して

いるか? もしそうなら,それはどの動きを制限しているか?

横突間靱帯は,対応する腰椎の内-外軸の後方に位置し,屈曲を制限する.

5. 完全に右側へ軸回旋しているときの L2 と L3 とのあいだの椎間関節における関節

包内運動を述べなさい.

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L2の左下関節面はL3の左上関節面に近づき(または圧迫し),L3の右上関節

面とL2の右下関節面のあいだは間隙(分離)が生じる.

6. 環軸関節に存在する構成体を,前方から後方に向かって順番に列挙しなさい.前

方の始まりを「環椎の前弓」とし,後方の終わりを「棘突起の先端」としなさい.

また,回答には,軸椎の歯突起と環椎の横靱帯は必ず含めなさい.

環椎の前弓,歯突起,環椎横靱帯,蓋膜,脊髄周囲の髄膜,後環椎後頭膜,項靱帯.

7. 仙腸関節における前屈と後屈を定義しなさい.

前屈は,腸骨に対する仙骨の前方への傾斜および/または,仙骨に対する腸骨の後

方への傾斜(回転)である.逆運動である後屈は,腸骨に対する仙骨の後方への傾

斜および/または,仙骨に対する腸骨の前方への傾斜で構成される.

8. 仙腸関節のどの靱帯が,前屈の運動によって緩むか? それはなぜか?

長後仙腸靱帯は,この靱帯の付着部を互いに接近させる運動である前屈によって緩

められる.これは,仙腸関節の前屈によって他の靱帯の張力の増加(すなわち伸張)

と対照的であり,関節を自然に安定させる動作である.

9. 後方への椎間板ヘルニアの病歴を有する人には,通常,身体の前方で大きな荷物

を,とくに腰部の屈曲位にて,持ち上げることを避けるように指導する.この指導

が正当な理由を説明しなさい.

身体の前方で大きな荷物を持ち上げる,腰椎椎間板全体に筋に起因する大きな圧迫

力が生じる可能性がある.腰椎を屈曲した状態で持ち上げると,大きな圧縮力が大

きな椎間板圧へと変換される.腰部屈曲は,髄核の流れる方向を後方へ導く傾向に

ある.線維輪に退行性の裂け目がある場合,髄核は敏感な神経要素の方向である後

方へ移動することがある.

10. 第6肋骨と胸椎とのあいだの関節について述べなさい.

第6肋骨は,肋骨頭関節および肋横突関節によって胸椎に接する.肋骨頭関節では,

第6肋骨の肋骨頭は,T5−T6 椎間接合部に位置する一対の半肋骨窩と関節を形成

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する.また,肋横突関節では,T6 の横突起の肋骨窩と関節を形成する.

11. 重度に退行変性した椎間板が,中位頸椎においてどのように骨棘を形成するか

説明しなさい.

重度に退行変性した椎間板は,椎間腔を狭小化し,椎間関節および鉤椎関節の圧

迫を増加させる可能性がある.中位頸椎では,鉤椎関節内での圧縮力の増加は,

脊髄神経孔における骨棘形成を刺激する.骨棘は,神経根を圧迫し,同側の上肢

全体に神経症状を引き起こすことがある.

12. 図 9.10C に描かれている被験者は,主として緊張した(短縮した)股関節の屈曲

筋によって,腰椎の前彎が増強していると仮定する.腰部および腰仙部に生じる可

能性がある負の運動学的あるいは,生体力学的な帰結を説明しなさい.

有意に増加した腰椎前弯は,以下の負の運動学的結果と関連している可能性があ

る.

1.完全に伸展される腰椎椎間関節における負荷の増加

2.仙骨水平角の増加と,その結果として L5-S1 接合部での前方への剪断力の増

3.椎間孔のサイズの減少と腰部脊髄神経根の圧迫の可能性

13. 椎体関節を横切る圧迫力を分散する際の線維輪の機械的役割について説明しな

さい.

椎体関節の圧縮が増加すると髄核内の静水圧が上昇する.増大した髄核内の圧

は,伸張された線維輪の緊張によって部分的に吸収されるので,その周囲が押し

広げられることになる.髄核内圧と緊張した線維輪が組み合わされることで,椎

間腔の圧縮を支えるとともに均等に圧を分配する機能を有する.線維輪の断裂や

弱化は,この負荷の吸収システムの効率を低下させる.

14. 図Ⅲ.1 の視覚的補助(付録Ⅲ,パート A)を参照して,L4 と L5 の椎体のあいだの

重度の後方への椎間板ヘルニアが,L4 脊髄神経根だけではなく,L5 およびすべて

の仙骨神経根を圧迫することがある理由を説明しなさい.

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脊髄は,ほぼ L1 椎骨レベルで終わる.脊髄の末端から尾側へ走行する脊髄神経根

は,腰椎および仙骨の脊柱管の大部分を占める馬尾を形成する.たとえば,L4 お

よび L5 付近の脊柱管で後方に飛び出した椎間板は,すべての仙骨神経根を含むそ

のレベルですべての馬尾神経の線維に潜在的に圧迫をもたらす可能性がある.

15. 椎間関節の関節面の向きの一般的変化を,環軸関節から腰仙接合部までについ

て説明しなさい.この向きの変化がどのようにしてさまざまな領域における主要

な運動学に影響を与えるか説明しなさい.回答には,中位および下位の頭蓋頸部

内での一般に受け入れられている脊柱カップリングパターンに関する運動学を含

めなさい.

脊柱全体にわたる椎間関節の関節面は,各領域内の主要な骨運動に影響を及ぼす

特定の向きを有している(表参照)

運動学の部位 優位な空間定位 椎間関節の主たる効果

環軸関節 ほぼ水平面 軸(水平面)の回旋

頸椎内(ならびに

上位胸椎)領域

水平面と前額面の

あいだ

運動学的に軸回旋と側屈の組み合

わせ*

中位胸椎領域 ほぼ前額面 肋骨の副木的な機能によって完全

に行うことはできないが側屈

腰椎(ならび下位

胸椎)領域

ほぼ矢状面

屈曲と伸展(ならびに軸回旋の制

動)

腰仙領域 ほぼ前額面 S1 に対する L5 の前方変位を強度に

制限する

*中位から下位頸椎において部分的に同側への側屈 /軸回旋のカップリングパターンに関与する.

16. C4 と C5 の椎間関節における完全伸展する際の関節包内運動について述べなさ

い.

完全伸展する際に,C4 の椎間関節の下関節面は,C5 椎間関節の上関節面の全面に

わたって下方および後方へ滑る.

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第 10 章 体軸骨格:筋と関節の相互作用

学習問題と解答

1. 胸鎖乳突筋の(a)一側性および(b)両側性のスパズム(または短縮)から生

じる可能性が最も高い頭頸部の姿勢を記述しなさい.

胸鎖乳突筋の一側性の短縮は,頭頸部においていろいろな程度の屈曲(とくに下

の部位で),側屈,対側への回旋の組み合わせた運動をもたらす.

胸鎖乳突筋の両側性の短縮は,頭頸部の長引く前方突出位(中位から下位の頭頸

部のわずかな屈曲と上位頭頸部のわずかな伸展)をもたらす.

2. 体幹背面の表層ならびに中間層の筋群が「外在性」筋群に分類されるのはなぜ

か? これらの筋の特定の神経支配がこの分類とどのように関連しているのかを

記述しなさい.

発生学的な観点から,後背面の筋のうち深層の筋群は,神経分岐部中枢神経軸の

近くに位置している.そのため,これらの筋は背面の「内在性」筋に分類され

る.対照的に,背面の表層ならびに中間層の筋群は,発生の過程で上下肢の肢芽

から背中の付着部まで移動してきた.つまり,これらの筋は発生学的に四肢と関

連しており,したがって,背面の「外在性」筋として分類される.背面の外在性

筋は,脊髄神経の前枝から分岐する神経によって神経支配される.

3. 反回硬膜神経からの感覚神経支配を受ける組織を列挙しなさい.椎間関節の関

節包の感覚を支配している神経は何か?

硬膜神経の反回枝は,脊髄の髄膜,後縦靱帯および線維輪のより多くの表層領域

部からの感覚を伝達することに関与する分節神経である.

椎間関節の関節包からの感覚神経支配は,局所脊髄神経の背側(後)枝内の求心

性線維によって供給される.

4. 胸半棘筋のみの強力な収縮が対側への軸回旋をもたらすのに対して,頸最長筋

や頭最長筋のみの強い収縮では同側への軸回旋をもたらすのはなぜか? この質

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問への解答の参考資料として,図 10.7 と図 10.9 を用いなさい.

線維方向に基づき,上記の各筋によって生成される合力は,水平成分および垂直

成分に三角法で分解することができる.筋の垂直成分よりもかなり小さいが,水

平成分はある程度の軸回旋トルクを生成する.頭蓋から尾部に向かって強い収縮

を仮定すると,各筋は対側または同側回転のいずれかを生じる.たとえば,左胸

半棘筋の収縮は,棘突起を左に引っ張り,椎体(正面)を右に回転させる.さら

に,たとえば,左の頭最長筋の収縮は,側頭骨の左乳様突起を(正中に向かっ

て)右側に引っ張り,頭蓋の前面を左に回転させる.解剖学的肢位から,水平面

の回転を行うためにこれらの筋の力線はわずかか中程度である.図 10.7 および図

10.9 を観察することにより,収縮が筋の回転作用と反対の位置から始まる場合,

各筋の力線が軸方向の回転に対してより好都合であると理解する.

5. 第8胸髄レベル以下で完全な脊髄損傷になったと仮定する.筋の神経支配に関

する知識に基づいて,体幹筋のうちどの筋が影響を受けず,また,どの筋が部分

的あるいは完全に麻痺するかを予測しなさい.考えるのは,腹筋群,多裂筋,脊

柱起立筋群についてのみでよい.

第8胸髄レベル以下の神経支配がまったくないと仮定すると,一般に次のことが

予想される.

(a)多裂筋は,第8胸髄より上で基本的に正常な強さを示し,第8胸髄より下

で完全な麻痺を示す.

(b)脊柱起立筋は,第8胸髄よりも上で正常に近い強さを,第8胸髄よりも下

で完全な麻痺を示す(麻痺した筋のより下の部分の安定化減少のために,第8胸

髄よりも上のいくつかの筋線維では脆弱性を呈することがある).

(c)特定な腹筋群のさらに最も上の線維のみの神経支配が残る.その筋群の麻

痺はほぼ完全である.しかしながら結局,実践的な観点からみると,群として,

全体的に腹筋群は機能しないと考えられてよいだろう.実際上,脊髄の部分的ま

たは非対称的な外傷,神経根の出口における複合損傷,および筋の神経支配の生

理的な幅のために臨床像はさまざまある.

6. 頸椎横突起の前結節に付着する筋を3つと,後結節に付着する筋を3つ列挙し

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なさい.これらの筋の両付着のあいだを通る重要な構造物は何か?

前斜角筋,頸長筋,頭長筋は,頸椎横突起の前結節に付着する.中斜角筋,頸板

状筋,頸最長筋は,頸椎横突起の後結節に付着する.腕神経叢はこれらの2つの

筋群のあいだを通過する.

7. 筋群として,体幹の伸筋群は,体幹の屈筋群(腹筋群)よりも強い力を発生さ

せる.この強さの違いを説明する2つの要因をあげなさい.

第1に,体幹伸筋の横断面積は,腹部筋の断面積よりも大きい.

第2に,筋群として,体幹伸筋の平均線維方向は,腹部筋よりも垂直方向を向い

ている.

8. 体幹を完全伸展させ,右へ側屈し,右へ軸回旋を行ったときに最も優位に伸張

され(伸ばされ)る体幹筋はどれか?

左内腹斜筋

9. 図 10.16 を基準にして,第3腰椎レベルで(a)屈曲,(b)側屈をする場合に最

も大きなモーメントアームを有するのはどの筋か?

屈曲に対しては腹直筋,側屈に対しては外腹斜筋

10. 立位において,過度に短縮(拘縮)した腸骨筋が腰椎の前彎をどのように増強

させるか説明しなさい.この姿勢は,腰椎仙骨移行部におけるストレスに対して

どのような影響をもたらすのか?

立位において,短縮された腸骨筋の収縮は,大腿骨に向かって腸骨(骨盤)を前

方に回転させる.体幹が直立位に維持されていると仮定すると,この運動は,典

型的には,骨盤の過度の前方傾斜として説明される.腰椎は,脊柱前彎症を増大

させるように強制的に回転する.過度の腰椎前彎は,L5−S1接合部における横

断方向の仙骨水平角の増加および前方剪断力の増加と関連している可能性が高

い.

11. 第3腰椎のレベルにおいて,どの結合組織が腹直筋鞘の前鞘(腹壁)を形成す

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るか?

外腹斜筋と内腹斜筋に関係する結合組織

12. 脊髄神経の後枝と背側神経根のおもな違いは何か?

脊髄神経の後枝は,背部に関連する組織を神経支配する混合神経(感覚および運

動線維の両方を含む)である.

脊髄神経後根は,特定の脊髄神経根レベルで脊髄に入る感覚線維の集合である.

13. 多裂筋と半棘筋の構造上の類似点と相違点について説明しなさい.

一般に,多裂筋とほとんどの半棘筋は,横突起と棘突起のあいだに付着する.し

かしながら,これらの筋の特定の付着部は,少なくとも2つの点で異なる.(a)

半棘筋は6〜8個の椎間関節結合をまたぎ,一方,多裂筋はほんの2〜4個のみ

である.(b)多裂筋は,腰部領域で最も発達しており,半棘筋は頭頸部領域で最

も発達している.

14. 図 10.29 に示しているように,なぜ,大後頭直筋の軸回旋機能は環軸関節のみ

に限定されているのか?

環椎後頭関節では,軸回旋の自由度は認められないから.

15. プラスチック骨格模型または他の視覚的資料を用いて,( A)解剖学的肢位,

(B)右への最大回旋肢位,(C)左への最大回旋肢位のそれぞれから右の前斜角

筋の軸回旋(水平面)の作用について記述しなさい.

(A)解剖学的肢位から,右前斜角筋の収縮は,C3〜C6 椎骨を右に小さい角度,

おそらく約 5〜10°だけ回旋させるであろう.この肢位あたりの角度までいく

と,筋の力線は,頸部の垂直回旋軸を直接通過し,それによって継続的な回旋の

有効なてこの腕を失う.

(B)完全な右への回旋位から,右前斜角筋の収縮は,C3〜C6 の椎骨を左に,解剖

学的肢位に向けて回旋させる.

(C)完全な左への回旋位から,右前斜角筋の収縮は,C3〜C6 の椎骨を右に,解剖

学的肢位に向けて回旋させる.

Page 53: 1. 2. MCP...3. 自分の示指の中手指節(MCP)関節が完全屈曲位また完全伸展位にある場合の関節包内運動に注 目しなさい.関節包内運動が大きいのはどちらの肢位か?

B と C の解答は,重要な全般的な身体運動学的ポイント概念を強調例証する.頸

椎が解剖学的肢位から外側へ大きく外れた始点より回旋したとき,前斜角筋は,

頸椎を解剖学的肢位に戻す能力を有する.解剖学的肢位からの動きに限ってこの

筋(および他の斜角筋)の厳密な軸回旋能力を分析しようとした場合,この運動

面での筋の潜在的作用を完全に理解することは難しい.この点は,体内の他の筋

にもあてはまることがある.

16. 本章で説明したように,バルサルバ法は,リフティングや他の活動の際に腹

腔内圧を用いて体幹の安定に用いられる.この活動に直接関与する体軸骨格内の

筋を3つ列挙し,それらが協調して作用し,領域内の安定性を高める共通の機械

的な原理について説明しなさい.

バルサルバ法に直接関与する3つの筋群は,横隔膜と深層腹筋群,骨盤底筋群で

ある.筋の協調性収縮は,腹腔内容積(腹筋の引っ張り,横隔膜の引っ張り,骨

盤底筋群の引き上げ)を低下させ,それによってこの密閉腔の内圧を増加させ

る.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第 11 章 咀嚼と換気の身体運動学

学習問題とその解答

パート1 : 咀嚼

1. 開口最終相において顎関節内の関節円板の中間領域がこの関節を保護するメカ

ニズムを説明しなさい.

開口最終相において,下顎頭が前方へ移動するのに合わせて関節円板は前方

へ移動する.これらのメカニズムは,下顎頭の上面と厚みのある関節隆起との

あいだにおいて関節円板の中間領域の位置を保つ.この関節円板の位置は,関

節圧力を分散させるために,表面積を増加させ,それによって,潜在的で有害

な関節応力を低減することになる.

2. 内側翼突筋と外側翼突筋の遠位付着部について比較しなさい.どちらの付着が

咬筋と「機能的懸垂」を形成しているか?

外側翼突筋の上頭は,翼突窩,関節包の内側面,関節円板の内側に遠位付着

を有する.外側翼突筋の下頭は,翼突窩と下顎頸の近位部に遠位付着を有す

る.内側翼突筋の両頭は,咬筋と平行し,下顎枝と下顎角の内側面に遠位付

着を有する.

内側翼突筋の遠位付着は咬筋と平行に走行し,下顎角の同じような部分に付着

する.これらの筋が下顎角の周囲で機能的懸垂を形成し,大臼歯を介して効果

的な噛む力の伝達を補助している.

3. 理論上,いかに肩甲胸郭関節の過度の下制が顎関節の関節円板内障につながる

か説明しなさい.

過度に下制した肩甲胸郭関節は,肩甲舌骨筋を伸張させることによって,安静

時の同筋の緊張を増す.理論的にみれば,この緊張は上前方にある舌骨に伝わ

り,そこから舌骨上筋群をとおして下顎骨まで影響を及ぼすことができる.こ

の力は,下顎骨を下側および後方へ引っ張り,下顎頭および関節円板の下顎窩

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に対する配列異常を引き起こす可能性がある.時間が経過するにつれて,関節

円板への負荷の増加は,外側翼突筋のスパズムを誘発し,関節円板の配列異常

を潜在的に永続させ,慢性的な関節円板内障をもたらす可能性がある.

4. 咀嚼中の下顎窩のドームと側頭骨の関節隆起に求められるそれぞれの機能につ

いて比較しなさい.

咀嚼中の下顎窩のドームに要求されるものは通常は小さい.これとは対照的

に,側頭骨の関節隆起に対する要求は大きい.この大きな需要(ストレス)

は,通常,関節円板の協調作用によって低減される.

5. 開口における顎関節の外側靱帯の斜線維の機能的役割について記述しなさい.

開口の早期相の終わりに回転した下顎頭は,顎関節の外側靱帯の斜線維を伸張

する.靱帯の張力の増加は,下顎の前方への移動(開口の最終相の主要な関節

運動)の開始に役立つ.

6. 閉口における両側の側頭筋の機能について説明しなさい.

筋突起およびその近くに付着することによって,側頭筋の収縮は下顎を上方に

引っ張り,それによって口を閉じ,上の歯と下の歯を対向させる.筋の後斜方

線維は下顎骨を上昇・後退させ,下顎窩内の下顎頭および関節円板を効果的に

再配置させる.

7. 大臼歯間に剪断(研削)力が発生しているとき,咬筋と対側の内側翼突筋との

相互関係について説明しなさい.

たとえば,左咬筋および右内側翼突筋の強力な収縮は下顎骨を上昇させ,咬合

力を生成する.さらに,左の咬筋は下顎を左に引き,右の内側翼突筋も下顎を

左に引き寄せる(この横方向の変位作用は,筋が右方向への変位した位置から

活動する場合に,より強力なものとなる).下顎の左側方への動きに関連した

咬合力は,上下の臼歯間に非常に有効な剪断力を生成する.

8. 図 11.22 を参考にして,口の開閉時の外側翼突筋の具体的な機能について述べ

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なさい.

開口時,外側翼突筋の下頭は下顎頸を前方へ引っ張る.この引っ張り力は回

転軸の上方であることより,筋収縮によって下顎骨を「揺り動かす」ことにな

る.閉口時に,外側翼突筋の上頭は遠心的に作用し,関節円板が後方移動

し,安静時の位置へ戻ることを助ける.外側翼突筋の上頭の活性化はまた,側

頭筋の後斜線維による下顎頭の後退を制限(平衡化)する.

9. 急速な開口における外側翼突筋の下頭と舌骨上筋群の相乗作用について記述し

なさい.

急速な開口に,外側翼突筋の下頭は,舌骨上筋群が下顎を後上方に引っ張るに

つれて下顎を前方へ引っ張る.図 11.22A に示すように,これらの筋は,口を

開くフォースカップルとして作用し,それぞれが回転軸のいずれかの側に引っ

張る.

10. 頭蓋骨の側頭窩を構成する骨を列挙しなさい.

頭蓋骨の側頭窩は,側頭骨,頭頂骨,前頭骨および蝶形骨からなる.

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パート2 : 換気

11. 吸気中の横隔膜の機能を説明し,それがなぜ換気の最も重要な筋であると考え

られるのかを説明しなさい.

吸気中,収縮する横隔膜は腹腔内へ下降し,胸腔内の容積を著しく増加させる

(そして圧力を低下させる).胸腔内圧が低下すると,空気が肺に吸い込まれ

る.横隔膜は,収縮が三次元の全方向に向けて胸腔内容積を有意に増加させ,

胸腔内圧を非常に効果的に低下させるので,吸気の最も重要な筋と考えられて

いる.

12. 大胸筋の胸骨頭がどのように努力性吸気筋として機能することができるかを説

明しなさい.

大胸筋の胸骨頭は,肋骨を持ち上げることができれば,努力性の吸気筋とし

て機能することができる.この作用は,上腕骨の近位部が上位肋骨よりも上

方で固定された状態で筋が収縮した場合に生じる可能性があり,徒競走後の

回復戦略としてよく使用される.

13. 慢性的に下降した(平坦化した)横隔膜が,換気のメカニズムにどのように悪

影響を及ぼすか?

慢性的に下降した横隔膜は,吸気中に下位肋骨を上昇させる筋の引っ張り力の

有効性を低下させる.さらに,横隔膜の下降位置は,筋の短縮長(長さ−張力

曲線上)に対応し,力の発生能力を低下させる可能性がある.

14. 換気中の胸郭の前後径および左右径に影響を及ぼす可能性が高い関節を列挙し

なさい.

胸骨柄結合

胸肋関節(肋骨肋軟骨結合と胸骨肋軟骨結合を含む)

軟骨間関節

肋椎関節(肋骨頭関節と肋横突関節)

胸椎の椎体関節

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15. 胸腔の上側と下側を形成している構造物は何か?

横隔膜は胸腔の下側を構成する.上部肋骨,鎖骨,頸部筋膜(食道および気管

を取り囲む)および頸部筋が胸腔の上側を形成する.

16. 腹筋群の正常な「張力」が吸気の仕組みにどのように関与しているのかを説明

しなさい.

吸気中,腹筋群の自然な安静時緊張および弾性は,横隔膜の下降によって生じ

る腹腔内圧の増加のために,前腹壁の前方突出に抗する.圧迫された腹部は,

最大吸気の終了間際に横隔膜のさらなる下降に抵抗するのに有用である.横隔

膜のドームが腹部の十分な抵抗を受ければ,横隔膜がさらに収縮することによ

り下位6肋骨の挙上を補助して胸腔内容積が増加し,最大の吸気のメカニズ

ムが増強される.

17. 四肢麻痺の人の肋間筋の麻痺が「奇異呼吸」の病態メカニズムにどのように関

与するか説明しなさい.

脊髄損傷による肋間筋の麻痺は胸郭の剛性を低下させる.横隔膜の収縮(しば

しば C4 より下の損傷後であれば,十分に神経支配された状態のままである)

は,衰弱した胸壁を収縮させる胸腔内吸引を生じさせ,それにより吸気の通常

の機構を制限する.奇異という用語は,吸気の際,普通は拡張する胸郭が縮

小することを意味する.

18. 努力性呼気における胸腔内圧と腹腔内圧の変化について説明しなさい.

努力性呼気(咳やろうそくへの吹き出しなど)は,腹筋群および一部の肋間筋

とともに胸横筋が収縮することによって行われる.これらの筋の活動は,胸腔

容積を減少させ,それによって胸郭または腹腔内の圧力を増加させる.増加し

た胸腔内圧は肺から空気を押し出す.腹腔内圧が上昇すると,横隔膜のドーム

が上方に押し上げられ,さらに空気が肺から押し出される.

19. 安静時呼気は「受動的」な過程と考えられる理由を説明する要素を列挙しなさ

い.

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安静時吸気のあとの吐き出すような安静時呼気は,通常,活動的な筋収縮に依

存しない受動的な過程である.吸気は,肺内の結合組織や胸腔内のさまざまな

関節,呼気筋を伸張する.これらの伸張された組織によって作り出された受動

的な緊張は,肺の自然な「弾性的な反動」を助けるものである.

20. T4 レベルの完全な脊髄損傷によって完全に麻痺すると思われる筋を列挙しなさ

い.

T4 の脊髄損傷は,腹部,肋間部および T4 レベル以下の本質的な背部の中間

と深層の筋群,腰方形筋,下肢筋群の麻痺を引き起こす.

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第 12 章 股関節

学習問題とその解答

1. どのような構造物によって大坐骨切痕は大坐骨孔に姿を変えるか? また,この

孔を通過する 3 つの構造物(神経または筋)をあげなさい.

仙 結 節 靱 帯 と仙棘靱帯は,大坐骨切痕を大坐骨孔に変える.梨状筋,坐骨神

経,および下殿神経が大坐骨孔を通って出る.

2. 大腿骨および寛骨臼が過前捻している患者がいる.股関節を(水平面上の)ど

の方向に限界まで動かすと前方脱臼するか?

股関節の外旋

3. 股関節のクローズパック肢位はどのように定義されるか? 股関節と,多くの滑

膜性関節のクローズパック肢位の違いについて説明しなさい.

股関節のクローズパック肢位は,関節包靱帯に最大の張力が生じる肢位と定義さ

れる(股関節でのこの肢位は,伸展,わずかな内旋,外転である).身体の他の多

くの関節では,靱帯の大部分が伸張される肢位が,関節面が最も一致する肢位で

ある.しかし,これは股関節にはあてはまらない. 股関節は,屈曲,外転および

外旋において関節面が最も一致する.

4. 関節包炎を有する患者が股関節屈曲拘縮になりやすい理由を述べなさい.

股関節包炎を起こした人は,しばしば股関節の部分的屈曲位を最も快適に感じる

ことがあり,これは関節包内の内圧が低下するからである.時間の経過ととも

に,関節包および股関節屈筋は,その肢位に順応し,短縮を起こし,股関節の屈

曲拘縮につながる可能性がある.

5. 股関節の完全内旋と伸展によって坐骨大腿靱帯がどのように緊張するのか説明

しなさい.その際,骨盤に対する大腿骨と大腿骨に対する骨盤の両方に対して説

明しなさい.

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坐骨大腿靱帯は,寛骨臼の後部と下縁近くに始まり,大転子の先端の遠位に付着

する.骨盤に対する大腿骨運動の視点から,(大腿骨の)内旋と伸展は,大転子先

端を骨盤の靱帯付着部から引き離す.一方,大腿骨に対する骨盤運動の視点か

ら,股関節の内旋と伸展は,寛骨臼の後下縁を大腿骨の靱帯付着部から引き離す

(骨格モデルや図 12-15 は,これらの動きを視覚化するのに役立つかもしれな

い).骨盤に対する大腿骨,大腿骨に対する骨盤運動の両視点において,股関節の

内旋と伸展によって坐骨大腿靱帯は伸ばされ緊張する.

6. ある人が体幹の直立を保ちながら骨盤を完全後傾位にして立っている.この肢

位が,腰部の前縦靱帯と黄色靱帯の緊張にどのような影響を及ぼすか説明しなさ

い.

骨盤の後傾は腰椎前彎を減少させる.これに関連して腰部屈曲が増加すると,前

縦靱帯が緩み,黄色靱帯の張力が増加する.

7. 定規と図 12.30 を用いて,どの筋が股関節外転に対して最大のモーメントアー

ムを有するか選びなさい.

中殿筋.

8. 図 12.35 において,内旋トルクを発揮する筋のなかで,( a)てこ比が最小,

(b)てこ比が最大の筋はどの筋であるか選びなさい.

内旋トルクに対するてこ比が最小なのは短内転筋で,最大なのは中殿筋の前部線

維である.

9. 大腿骨頭と寛骨臼に重篤な骨折を負い,関節面間の接触領域が顕著に減少して

いる患者がいる.再建術にあたり,外科医は股関節外転筋の内的モーメントアー

ムを少し増大させることにした.この処置が適切である根拠を説明しなさい.

接触面積が著しく減少した股関節では,通常よりも高い股関節の関節ストレス

(圧力)を受ける.股関節外転筋は,股関節で最大の筋性の圧迫力を生成するた

め,外科医は,この筋群のてこ比を増やそうとするかもしれない.理論的には,

股関節外転筋の内的モーメントアームを増加させることで,歩行の片脚支持期に

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関節に生じる圧縮ストレスが減少させることができる.この保護措置は,股関節

が変形性関節症を発症する可能性を減少させうる.

10. CE 角の減少がどのように股関節脱臼を引き起こすのか説明しなさい.

CE 角は,寛骨臼が大腿骨頭の上面を覆う程度を表す.図 12-13A に示すように,

より小さな CE 角は,大腿骨頭の被覆範囲がより小さくなることを示し,脱臼の

可能性を高める.

11. 股関節(骨盤に対する大腿骨)の内旋・外旋の関節包内運動と屈曲・伸展の関

節包内運動を対比しなさい.

屈曲と伸展の関節包内運動には,大腿骨頭と寛骨臼の月状面とのあいだの軸回旋

を含む.解剖学的肢位からの内旋と外旋には,寛骨臼に対する大腿骨頭の転がり

と反対方向の滑りを含む.

12. 図 12.12 に示したように,歩行の遊脚相において,股関節では体重の約 10~

20%の圧縮力を負う.この力は何が引き起こすのか述べなさい.

歩行の遊脚相において,収縮している股関節屈筋からの力が,寛骨臼に対して大

腿骨頭を圧縮する.

13. 図 12.22A には,骨盤を 30°前傾させて座っている人を示している.この動き

の最終可動域を決める最も可能性の高い構造をいくつか列挙しなさい.

•腰椎椎間関節の伸展可動域の限界

•大殿筋

•股関節の関節包の下部および後部の深いところの線維

•大腿部と骨盤の前方に存在する脂肪組織

14. 馬尾損傷によって L3 以下の脊髄神経根の機能に障害をきたした人がいる.適切

な理学療法介入がなければ,どういった筋拘縮パターンに陥る可能性が高いか述

べなさい(付録Ⅳパート A を参考にこの問いに答えなさい).

この損傷では,下肢の L1 と L2 の脊髄神経根に関連する機能が残存する.付録 IV

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のパート A のチャートにあるように,股関節屈筋および内転筋の多くは,少なく

とも部分的に神経支配されたままであり,他のすべての筋には麻痺が生じる.こ

の状況では,股関節屈曲および内転拘縮を発症する可能性がある.

15. 立位時,長内転筋と短内転筋の両側性の緊張が,腰椎の過度な前彎の生成にど

のように関与するか説明しなさい.

長内転筋と短内転筋はともに股関節屈筋でもあり,両側の緊張は少なくとも立位

で誇張された骨盤の前傾を引き起こすことがある.増加した骨盤前傾は,腰椎の

前彎を増強させる.

16. 大腿直筋をセルフストレッチする標準的な方法の 1 つとして,股関節伸展と膝

関節屈曲を組み合わせる方法がある.この方法でストレッチする際,大腿直筋が

硬い人のなかには,股関節をわずかに外転させて股関節を伸展位に保つ者もい

る.なぜ,このようになるのか説明しなさい.

解剖学的肢位では,大腿直筋はわずかに股関節を外転させるモーメントアームを

有する.股関節を少し外転すると,筋が少し緩められ,膝関節屈曲と股関節伸展

が筋に及ぼす比較的広範囲なストレッチによって,引き起こされる不快感のいく

らかを軽減するからである.

17. 図 12.33 のように両側性の動的な股関節の内転運動において,図に示された筋

のなかで活発な遠心性の活動を行っているのはどの筋か? あなたの考えを述べ

なさい.

左大殿筋は遠心性に活動する.この筋が実際に活動していると仮定すると,左の

股関節の(大腿骨に対する骨盤の)内転運動は中殿筋を伸長する.引っ張られて

長くなりながらも活動している筋は遠心性活動を行っている.

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第 13 章 膝

学習問題とその解答

1. 本章で説明したように,膝関節の内旋および外旋筋(屈曲 90°で検査した場

合)によって生成される最大努力トルクは,ほぼ同じ大きさである.しかし,内

旋筋と外旋筋の数は同じではない.それなのになぜ同等のトルクを有するか説明

しなさい.

膝の内旋筋の数(および総断面積)は,唯一の外旋筋(すなわち大腿二頭筋)の

それを上回るが,外旋トルクを生成する大腿二頭筋のモーメントアームは,内旋

トルクを生成する内旋筋の平均モーメントアームの 3 倍である.この事実は,少

なくとも膝関節の約 90°屈曲位において,2 つの筋群の最大努力トルクがほぼ同

じである理由を支持するであろう.

2. 重度の膝関節過伸展(反張膝)がどのようにして前十字靱帯と後十字靱帯の両

方に損傷を引き起こすか説明しなさい.

体重を支えている状態で膝を激しく過伸展させると,この(脛骨に対する大腿骨

の)運動に伴う大腿骨の過大な後方への滑りのために ACL に損傷を引き起こす可

能性がある.この損傷が関節裂隙を膝関節後方に過度に開く場合,そのような重

度の過伸展もまた PCL を損傷することがある.

3. なぜ膝蓋大腿関節は,膝関節の最終伸展 20~30°の範囲において,生体力学的に安

定性が最も低くなるか説明しなさい.

完全膝伸展運動の最後の 20〜30°では,膝蓋骨は(a)大腿骨の滑車溝内に物理的

に噛み合わず,(b)終末強制回旋(スクリュー・ホーム機構)の外旋成分により

Q 角が最大であること,そして( c)膝蓋大腿関節における大腿四頭筋の収縮によ

る圧縮力は比較的低いため,膝蓋骨は安定性が低く,側方へのズレの影響を受け

やすい.

4. なぜほとんどの人は股関節を完全屈曲させたほうが完全伸展させた状態に比べ

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て,膝関節の能動的な屈曲可動域が若干大きくなるのか?

2 つの要因によって,股関節の完全屈曲と比較して,完全伸展のほうが,能動的

な膝屈曲の運動範囲が減少することを説明することができる.第 1 に,股関節の

完全伸展位で能動的(または受動的)に膝を屈曲すると,二関節筋である大腿直

筋の受動的緊張が増加する.この増加した受動的緊張は,自然に膝関節屈曲に抵

抗する.第 2 に,股関節の完全伸展位で能動的に膝関節を屈曲しようとする場

合,ハムストリングスは過度に短縮した長さで機能することが必要である.短縮

した状態では筋力の発揮能力が低下するし,大腿直筋の伸張によって生じた受動

的張力に対抗する必要もある.

5. 膝関節外旋に抵抗できる筋や靱帯をあげなさい.なぜその機能が脛骨に対する

大腿骨(荷重時)の運動という観点からとくに重要なのか説明しなさい.

膝の内旋筋はすべて外旋に抵抗することができる.これらの内旋筋には,半腱様

筋,半膜様筋,縫工筋,薄筋,膝窩筋およびおそらく若干の内側広筋(斜走線

維)が含まれる.内側側副靱帯(後内側の関節包を含む)および斜膝窩靱帯もま

た,膝関節の外旋に抵抗する.一方の下肢で地面にしっかり踏み込み,その上に

載っている身体を急に反対の方向へ切り替える「カッティング」では,これらの

前述の筋と靱帯に対する要求はさらに高くなる.たとえば,右足部と下肢で地面

にしっかり踏み込み,右大腿骨(および身体の残りの部分)を左に回転させるに

は,右膝の外旋運動が必要である(この外旋運動は,固定された脛骨に対する大

腿骨の内旋の結果である).この運動は,膝の内旋筋の遠心性活動および内側側副

靱帯,後内側関節包,斜膝窩靱帯の張力の増加によって最終域で減速される必要

がある.

6. 半月板が膝関節の関節面にかかる圧力を減じるおもなメカニズムを説明しなさ

い.

半月板は,脛骨と大腿骨とのあいだの適合性および接触面積を増加させることに

よって,膝の関節面全体の圧力を低下させる.この保護機能には,半月板が脛骨

の顆間領域にしっかりと固定されていることが重要である.

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7. 膝蓋大腿関節の関節面により大きな圧縮力(圧力)を生じるのはどちらの活動

か.(a)膝関節屈曲 10~20°の状態で部分的なスクワットを保持し続ける.

(b)膝関節屈曲 60~90°のより低いスクワットを保持し続ける.またその理由

を述べなさい.

より深いスクワットを保持することにより,膝蓋大腿関節に大きな関節圧縮力が

生じる.これは膝関節を深く曲げるにつれて大腿四頭筋に要求される力が増加す

るためである.図 13.28B に示すように,より大きな膝の屈曲は,膝蓋大腿関節

に対抗する大腿四頭筋および膝蓋腱の力の合計を増加させる.

8. 内側側副靱帯および内側半月板が,類似した損傷メカニズムによってしばしば

受傷する理由を説明しなさい.

内側側副靱帯のより深い線維は,内側半月板に部分的に付着する.たとえば,膝

に過剰な外反および軸回旋ストレスは,この靱帯に作用する過度の張力として,

内側半月板に伝達され,損傷を生じさせうる.

9. 大腿四頭筋の収縮がどのようにして前十字靱帯を伸張する(歪む)か説明しな

さい.(a)膝関節角度や( b)大腿四頭筋およびハムストリングスの同時収縮の

大きさによって,靱帯にかかる歪みにどのように影響するか述べなさい.

大腿四頭筋の孤立した収縮は,近位脛骨を前方に引っ張る力を生じさせ,それに

より ACL は伸長され,張力および長さを増加させる可能性がある.一般に,

ACL の張力は四頭筋の収縮力に比例する.大腿四頭筋が(膝蓋腱が脛骨に付着す

る角度の増加により)脛骨に大きな前方並進力を生じさせるため,膝全完全伸展

に近づくにつれて,ACL に対する筋原性の張力の大きさが増大する.ACL に対

するハムストリングの活動による負荷軽減効果のために,大腿四頭筋とハムスト

リングの同時収縮は ACL の張力を減少させ,30°を超える膝の屈曲角度では0に

近づく.

10. 歩行の立脚初期における大腿四頭筋の筋活動のタイミングと活動形態を説明し

なさい.

歩行の立脚相段階の初期段階において,大腿四頭筋は,わずかな膝関節の屈曲を

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制御するために,遠心性に活動する.この筋の働きは,下肢の接地の際の衝撃を

吸収するのに役立つ.

11. 膝関節の動きの弧のどこで大腿四頭筋は最大内的トルクを生み出すか述べなさ

い.これに影響を及ぼす要因について説明しなさい.

最大努力の膝伸展トルクは,典型的には膝 45〜70°の屈曲に生じる.この比較的

高いトルクは,おもに伸筋の内的モーメントアームの長さによって説明すること

ができ,これはこの運動範囲の大部分にわたって最大である.

12. (a)なぜ膝窩筋が「膝関節ニ ー

の鍵キ ー

」とよばれているのか,( b)膝窩筋がどのよ

うに膝関節の内外両方の方向への安定性を与えているか,その根拠を述べなさ

い.

膝窩筋は,内旋トルクを生成するための比較的高い生体力学的な能力を有するた

めに,「膝の鍵」とよばれている.膝関節の完全伸展位にて脛骨の外旋運動が膝を

「ロック」することに対して,内旋運動はその「ロック解除」の役割を果たす.

体重を支える肢位にある際,膝窩筋は以下のように間接的に膝の内側を安定させ

る.膝の主要な内旋筋として,(「鵞足」筋とともに)膝窩筋は,膝の外旋を制動

させることができる.膝の外旋を積極的に制動することにより地面にしっかりと

固定された下腿に対する大腿の内旋に抵抗する膝窩筋は,内側側副靱帯および後

内側関節包のような構造物にかかる張力を低減することができる.

外側側副靱帯に加えて,膝窩筋の厚い関節包内腱は,膝の外側面を直接安定化さ

せ,膝の内反に抵抗する.

13. ゆっくりと椅子に座るときの,股関節および膝関節で生じる大腿四頭筋とハム

ストリングスの筋活動の形態(すなわち,遠心性,求心性など)を説明しなさ

い.

ゆっくりと椅子に座っているあいだ,大腿四頭筋は,膝の屈曲の程度および速度

を制御するために遠心性に活動する.ハムストリングは,股関節の屈曲の程度お

よび速度を制御するために遠心性に活動する.

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14. L2~L4 脊髄神経根に影響がでたポリオでは,理論的に膝関節のどの筋群に麻痺

を呈するか述べなさい(ヒント:付録Ⅳパート A を参照).

大腿四頭筋は理論的には完全に麻痺する.

15. 膝関節完全伸展(能動または受動)を制限する因子を述べなさい.

•大腿四頭筋の麻痺または反射的抑制

•関節包後部,膝の側副靱帯または膝屈筋の受動的緊張の増加

•膝窩部の皮膚の過度の瘢痕化

•過度の膝の腫れ

•押し退けられた半月板

16. 図 13.38 を参照して,ジャンプから着地するあいだに,体幹の前傾を増やす

と,大腿四頭筋およびハムストリングスの反応の大きさはどのように変化する

か.この変化の臨床的意味は何か.

図 13.38B に示すように,体幹屈曲(または前傾姿勢)を大きくすると,通常,

膝関節の屈曲(外的)モーメントアームが小さくなり,股関節の屈曲(外的)モ

ーメントアームが大きくなる.結果として(図 13.38A とは対照的に),大腿四頭

筋は中程度にしか活動しないが,(ハムストリングスを含む)股関節伸筋は強く活

動する.図 13.38B の大腿四頭筋より高いハムストリングの活動比率は,ACL へ

の負担を減少させる.また,一般に,大腿四頭筋の活動を減少させることによ

り,膝蓋大腿関節の病変を有する人において膝蓋大腿関節のストレスが軽減され

る.

図 13.38 は,潜在的に大きな筋原性の関節反力による関節を損傷から「保護す

る」という包括的な原則を示している.この図は具体的には股関節と膝関節にあ

てはまるが,一般論としては,重力線(体重)を保護すべき関節に近づけること

によって,その関節反力を低減(すなわち相対的な「負荷軽減」)することができ

る.図 13.38A に描かれている姿勢は,膝にかかる力を増加させる代わりに,股

関節での筋および関節への負荷を軽減することができる.対照的に,図 13.38B

は,股関節にかかる力を増加させる代わりに,膝での筋および関節への負荷を軽

減することができる.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第 14 章 足関節と足部

学習問題とその解答

1. 足関節と足部を構成する骨をあげなさい.また,そのなかで足関節と足部の両

方に含まれる骨はどれか.

足関節の骨は,遠位脛骨,遠位腓骨および距骨からなる.後足部の骨は距骨と踵

骨からなる.距骨は両方の領域に含まれる.

2. 過度な脛骨の捻転が,どのように機能的な大腿骨前捻の存在をわかりにくくし

ているかについて説明しなさい.

過度の大腿骨前捻を有する人では,股関節での適合を最適化する方法として,股

関節を過度に内旋(トゥ・イン)させて歩くことがある(第 12 章).過剰な脛骨

捻転(近位脛骨に対する遠位脛骨の過度の外旋)の存在は,股関節のこの内旋肢

位を隠す可能性がある.

3. 筋腹から遠位付着部までの長母趾屈筋腱の走行経路について述べなさい.

長母趾屈筋は,腓骨の遠位 2/3 に近位付着する.この筋の腱は,距骨の内側結節

と外側結節とのあいだ,および載距突起の下縁部に位置する結合組織のトンネル

を通る.腱は,母趾の末節骨基底部底面に遠位付着する.

4. 距舟関節における内がえしと外がえしのおもな関節運動について述べなさい.

距舟関節の主要な関節包内運動には,凹状の舟状骨後面と距骨頭部とのあいだの

軸回旋が含まれる.

5. 第 1 足根中足関節が,どのように外反母趾の発生にかかわっているかについて

説明しなさい.

外反母趾の発生メカニズムは,身体の正中線に対する第 1 列の偏位と考えられる

ことが多い.第 1 の足根中足関節の異常な配列は,しばしば内転(または内反)

変形とよばれる.「ジグザグ」変形(第 7 章)の病態学的メカニズムに基づいて,

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第 1 中足骨の内側偏位は,母趾の基節骨の外側偏位を誇張する可能性がある.

6. 図 14.43 を参照し,(距骨下関節における)前脛骨筋と長母趾伸筋の内がえし

トルクの違いについて述べなさい.

同等の断面積を有すると仮定した場合,前脛骨筋は,少なくとも解剖学的肢位か

ら,長母趾伸筋より大きな内がえしの潜在的トルクを有する.これは,2 つの筋

の距骨下関節の回転軸からのモーメントアームの長さの違いに基づいている.

7. 下腿三頭筋が弱い患者が,歩行における蹴り出しの前に膝が抜けるような感覚

を訴えることがある.それはなぜか?

歩行の立脚相において腓腹筋とヒラメ筋の重要な機能は,距腿関節の背屈の速度

を減速し,またその程度(すなわち,距骨に対する脛骨の前傾)を制御すること

である.腓腹筋とヒラメ筋からの十分な力がなければ,脛骨は,蹴り出しの直前

に距骨に対してあまりにも大きく,またあまりに速く背屈するかもしれない.こ

の場合,前方に傾いた脛骨は,膝の内外回転軸の後方に(体重による)重力線を

変位させる.大腿四頭筋の十分かつ比較的強い収縮がなければ,膝のこの突然の

(外的)屈曲トルクは,膝が抜ける感覚(制御不能な屈曲)を引き起こす可能性

がある.

8. 短腓骨筋と第 3 腓骨筋の遠位付着部の違いを比較しなさい.そして,なぜ,こ

れらの筋では矢状面上の動きが異なり,前額面上の動きが似ているかについても

説明しなさい.

短腓骨筋は,第 5 中足骨の茎状突起に遠位付着する.第 3 腓骨筋は第 5 中足骨の

背側基部に遠位付着する.筋は比較的類似の遠位付着をもつが,それぞれは距腿

関節において反対の作用を有する.第 3 腓骨筋は,関節の回転軸の前方を通過す

るため背屈筋である.短腓骨筋の腱は外果の後ろを通り,距腿関節の回転軸の後

ろに力を発揮するため足底屈筋である.

短腓骨筋と第 3 腓骨筋の両方は,この関節の回転軸に対して外側に通過する力を

発揮するので,距骨下関節において外がえしを起こす.

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9. 腓骨と脛骨をつなぐ構造(関節と結合組織)をあげなさい.

前近位脛腓靱帯と後近位脛腓靱帯を含む近位脛腓関節,前遠位脛腓靱帯と後遠位

脛腓靱帯を含む遠位脛腓関節,および骨間靱帯を含む骨間膜.

10. 距腿関節の背屈における非荷重(図 14.18A)と荷重状態(図 14.20A)に生じ

る転がりと滑りの関節運動の違いについて述べなさい.

足部を自由にすると,背屈において距骨は前方へ転がり,後方へ滑る.[距骨の転

がりを視覚化するのを助けるために,その上側(滑車)面ではなく,骨の下側面

の仮想点の回転を追視するとよい].足部を固定した状態では,脛骨と腓骨(ほぞ

穴の凹面部分)が距骨に対して前方へ転がり,前方に滑る.

11. 歩行周期において,立脚相,遊脚相のどちらが,より大きな距腿関節の背屈を

必要とするか?

足関節の背屈は,歩行周期の約 40%,つまり立脚相で最大となる(図 14-19).こ

の最大の背屈運動は,歩行周期の蹴り出しが始まる直前に生じる.

12. 距腿関節の最大背屈位の安定性に寄与する要素をあげなさい.

足関節の完全な背屈は,いくつかの側副靱帯ならびに多くの底屈筋の腱,とくに

アキレス腱を伸長する.完全な背屈もまた,距骨の広い前の部分をほぞ穴の中に

押し込む.これらの要因は,完全に背屈した距腿関節を安定させるのに役立つ.

13. 第 1 足根中足関節において,長腓骨筋の直接的な拮抗筋はどの筋か?

前脛骨筋

14. 膝関節伸展時における距腿関節の能動的な底屈トルクが,膝関節屈曲時におけ

るトルクよりも 20~30%大きい理由について考察しなさい.

膝関節を伸展すると腓腹筋の筋長を長くする.増大した長さは,(その長さ−張力

関係に基づいて)筋の出力を増大させることができるので,足関節における底屈

トルクを増加させる.

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15. 内がえし筋が弱い場合に生じる足の変形は何か.また,その際,どの筋が伸張

されるか.そして,どの筋を強化すべきか.

適切な治療的介入がなければ,内がえし筋の筋力低下(とくに重度の場合)は,

外がえし筋の堅さを引き起こし,おそらく適応短縮をもたらす可能性がある.つ

まり外反足変形が後足部および中足部に起こる可能性が高い.

16. 長腓骨筋が長期的に弱くなることで,どのような結果が生じるか,2つの可能

性について述べなさい.

(i)筋力低下が長引くと,足関節の側方への能動的安定性のおもな要素を低下す

る.さらに,より優勢な(抵抗のない)内がえし筋は,立脚中期から後期のあい

だに前足部が後足部に追従することを許す.その結果,人は足部の外側をついて

歩く傾向にあり,外側中足骨痛および反復性足関節内反捻挫を起こしやすくな

る.

(ii)長腓骨筋は,前脛骨筋の強い内側引っ張りに対して,第 1 の足根中足関節

を安定させる(図 14.45 の 2 つの筋の反対側への遠位付着部を比較).この筋の安

定性がなければ,第 1 列が内側に偏移し,おそらくは病的メカニズムに関連して

外反母趾を引き起こす可能性がある.

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第 15 章 歩行の身体運動学

学習問題とその解答

1. 歩行周期において,位置エネルギーが(A)最大あるいは,(B)最小になるのはいつか?

図 15-25 に示すように,身体の重心は歩行周期の 30%と 80%のところで最も高い位置にあり,

そのときに潜在的なエネルギーは最大となる.逆に,重心は歩行周期の 5%と 55%で最も低い

位置にあり,両脚支持期に位置エネルギーは最小となる.

2. 歩行周期の 10%における,矢状面上での股関節,膝関節,足関節の肢位と運動方向を述べなさ

い.

図 15.13 に示すように,歩行周期の 10%では,股関節は約 30°屈曲位にあり,身体の前進に伴

って伸展方向に動き始める.このときに,膝関節は約 15°の屈曲位にあり,下肢は体重をしっ

かり支えながらも膝は屈曲している.足関節はわずかに底屈しているが,下腿(脛骨)は固定

された足部の上を前方へ移動,つまり背屈方向に向かって徐々に動いている.

3. (A)歩行周期の 5~40%までのあいだ,矢状面において足関節がどう動くか述べなさい.

(B)(A)で述べた運動に関して,足関節の底屈筋と背屈筋のそれぞれの筋収縮タイプ(遠心

性,等尺性,求心性)を述べなさい.

図 15.13D に示すように,歩行周期の 5〜40%まで,下腿は固定された足部の上を前方へ進む結

果,足関節は大きく背屈に向かって徐々に動く.足関節の背屈筋は求心性活動を介して,歩行

周期の 8〜20%で足部の上で下腿を前方へ動かすような些細な役割を果たすかもしれない(図

15.42D).その後,背屈の動きは,図 15.42D に示すように,足関節の足底屈筋の遠心性活動に

よっておもに制御される.

4. 歩行周期のおよそ 30~50%のあいだ,アキレス腱の硬さや短縮を有する人は,床に対し下腿を

前傾させるための代償運動がよく観察される.この代償が起こる関節を特定したうえで,代償運

動について述べなさい.

本章で説明したように,立脚相の後半では,背屈の可動域制限を補うためのいくつかの方略が

ある.標準的な歩行より早く踵離地が起こり,歩行周期の 30〜40%より前で踵は地面を離れ

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る.それにより重心移動が垂直方向に誇張された「踵が跳ね上がる」歩行パターンを生じる.

他の代償としては,股関節で下肢を外に回旋させ,つま先を開いた「トゥ・アウト」とよばれ

る歩行パターンを用いる.この下肢のアライメントは足背屈の必要性を減少させるが,足を過

度に回内させる可能性がある.

5. 垂直方向の床反力が(A)最大になるとき,あるいは(B)最小となるときは,歩行周期のどの

時点か?

図 15.30 および図 15.31C は,歩行中の垂直床反力を可視化したものである.最大の垂直床反力

は,右下肢の歩行周期(図 15.31C)の約 10%と 45%であり,左下肢の歩行周期の 60%と 95%

であることに注目されたい.これらのピーク力は,体重負荷の時期,各下肢が地面を押す時期

と一致する.最小の垂直床反力は,右下肢の歩行周期の 30%であり,左側の歩行周期の 80%で

ある.これは左右ともの立脚中期に起こり,ちょうど身体重心の上下運動が最高点に達し,上

昇から下降に切り替わる瞬間である.

6. (A)歩行周期の 0~50%について,水平面における股関節の運動を述べなさい.(B)図

15.29A を参考に,この時期の関節運動における中殿筋と小殿筋の考えられる役割について述べ

なさい.

図 15.21 に示すように,股関節は,歩行周期の 0〜50%まで内旋に方向に動く.これは,対側骨

盤の前方への運動および下肢の前への運びを反映している.立脚肢の中殿筋と小殿筋がこの時

期に活動しており(図 15.29A),これらの筋は股関節の内旋作用を有するため,遊脚相で対側骨

盤および下肢の運びを助けている可能性が高い.

7. 歩行中の身体重心の垂直および左右移動を最適にする運動制御について述べなさい.

図 15.27 は,歩行中の重心の垂直方向への振れ幅を最小にするための 4 つの方略を可視化して

いる.2 つの方略は,立脚初期の踵接地時および立脚後期での足趾離地時における重心の下方へ

の変位を制限するのに役立つ.股関節の屈曲の程度(下肢の垂直線からの角度)は遊脚相での

対側骨盤の水平面の前方への運動によって減少し,下肢の機能的な長さの確保は,踵接地にお

ける比較的大きな踵骨と足趾離地における足部の長さによって可能となる.立脚中期で維持さ

れる膝のわずかな屈曲と,前額面での骨盤のわずかな調整によって,立脚中期における重心の

上昇が減少する.重心の左右変位は,足の配置によって制御される.

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8. 歩行周期のおよそ 5~20%において,立脚肢の股関節の前額面での運動と中殿筋の筋活動のタ

イプとのかかわりはどのようなものか?

図 15.36 に示すように歩行周期の約 5〜20%において,立脚肢の股関節は内転方向に動き,一

方,この時期に殿筋群は強く活動している.したがって,中殿筋は遠心性に活動し,遊脚側の

骨盤の下方への落下を制御する.

9. 歩行速度を上げるための運動学的メカニズムの基本は何か?2つあげなさい.

最大歩幅に達するまで歩幅と歩数を同時に増加させることで歩行速度が上がる.その後,ステ

ップ速度が,両脚支持期がみられなくなるまで上昇すると,その時点で歩行から走行に移行す

る.

10. (A)歩行周期の約 30~50%までの,前額面における距骨下関節の運動方向と角度を述べなさ

い.運動の定義には,前額面の運動を表す(踵骨の)内がえしと外がえしを使うこと.(B)図

15.29B を参考に,この運動の調節における後脛骨筋がおもに担っている役割を説明しなさい.

歩行周期の 30〜50%では,距骨下関節は漸増的に外がえし位から内がえし位へと動く(図

15.19).機能的には,これは足関節を比較的柔軟な状態からより硬い状態に変えるためであ

る.図 15.29B に示すように,後脛骨筋は,歩行周期のこの部分で活動しており,外がえしを減

速また制限し,そして内がえしを開始する.距腿関節においても,この筋は背屈を減速させ,

その後に底屈を開始する.

11. 歩行周期の 60~75%において,長内転筋が担う役割の 1つを述べなさい.

図 15.29A における長内転筋の活動のピークは,同側の足趾離地の際に遊脚肢を前方に運ぶ股関

節屈筋としての役割を示すであろう.

12. 高齢者の歩行で一般的に起こる変化について述べなさい.その変化による身体保護効果をあげ

なさい.

高齢者は,典型的に遅い歩行速度を採用する.これは,ステップ長を短縮し,歩行率を遅くす

ることによってなされる.このように歩行パターンを変えると,両脚支持期の時間が延長する

ので,安定性は向上し(図 15.9),転倒リスクは低減される.

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13. 次の筋が,歩行周期中で最も伸張されるのはどの時期か?(A)半腱様筋,(B)腓腹筋.

これらの筋の長さを推測するには,それぞれの筋が通過する 2 つの関節の肢位を考慮する必要

がある.半腱様筋は,股関節屈曲および膝関節伸展によって伸長される.図 15.13B,C に示す

ように,矢状面上でこの筋が最大に伸長される股関節と膝関節の肢位の組み合わせは,膝関節

が完全伸展に近く,股関節がほぼ最大屈曲にある踵接地の直前(歩行周期の 90〜95%)であ

る.

腓腹筋の場合は,足関節の背屈と膝関節の伸展の組み合わせによって伸長される.図 15.13C,

D は,最大足関節背屈に達し(踵離地の直前)また膝がほぼ完全伸展したとき,つまり歩行周

期の 40~50%近くで腓腹筋は最大に伸長されるだろうと示している.

14. 図 15.40 は,立脚相の大部分を占める膝関節の内反トルクの発生のおもな力学的機構を示して

いる.膝関節のどの組織がこのトルクに対抗しうるか?

膝関節の内反トルクは,外側広筋,大腿二頭筋,腓腹筋の外側頭,大腿筋膜張筋および後外側

の関節包と靱帯を含む膝の外側面の構造体によって対抗される.

15. 図 15.35 の A,B,D を使って,立脚相から遊脚相(歩行周期の 35~60%)にかけての,矢状

面における股関節の機械的エネルギーの交換(図 15.35C)について述べなさい.

歩行周期の 35~50%のあいだ,股関節は伸展方向に向かうが,股関節屈筋の遠心性活動によっ

て部分的に生成される屈曲トルクが存在する.このときの,屈曲方向の内的トルクは,部分的

に股関節の前方にある組織(たとえば関節包靱帯)の伸長(すなわちそれによる受動的張力)

に由来する.股関節の伸展運動と屈曲の内的トルクとの組み合わせは,股関節でエネルギー吸

収を起こす.歩行周期の 50~60%における股関節の屈曲運動は,股関節屈筋の求心性活動に起

因する屈曲の内的トルクによって開始される.この運動とトルクとの組み合わせは,エネルギ

ー生成をもたらす.要約すると,立脚相から遊脚相への移行中に,股関節の屈筋は,最初に遠

心性活動でエネルギーを吸収しながら股関節伸展を減速させ,続いて求心性活動でエネルギー

を生成しながら股関節を屈曲方向へ加速する.

16. 足関節の背屈筋の筋力低下は,いくつかの典型的な歩行異常と関連している.背屈筋の筋力低

下を次の 3 つのレベル,わずかな低下(30%の筋力の低下,徒手筋力検査で 4/5),中程度の低

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下(50%以上の筋力低下,徒手筋力検査で 3–/5),重度の低下(80~90%の筋力低下,徒手筋

力検査で 2/5)に分けたとき,それぞれで生じる歩行異常を説明しなさい.

歩行初期の踵接地時に,踵骨にかかる床反力は足背屈筋の強い遠心性活動を引き起こす.それ

はゆっくりと足関節を底屈させ,制御された足底接地を可能とするためである.背屈筋が軽度

に弱い人は,しばしば,特徴的な音を伴った「フットスラップ」とよばれる臨床徴候を示し,

すなわち踵が接地した直後に足底は制御されず急激に地面に打ちついてしまう.この場合の背

屈筋は,遊脚相で足関節を通常の中間位に保持するには十分な強度を有するが,踵接地後に足

底の地面への降下を制御するのに十分な筋力ではない.

背屈筋の中程度の弱化の場合,しばしば踵接地がみられず最初に「足底接地」となる.これ

は,遊脚相において弱化した筋が十分に足を背屈できないまま,次の立脚相の初期に踵から地

面に着地できないことによる.踵の代わりに,最初の接触は足底面全体で行われるため「フッ

トフラット」という用語が使用される.

背屈筋弱化のさらに深刻な場合では,足関節は遊脚相にわたって足底屈位のままである(し

ばしば「下垂足」とよばれる).その結果,地面との初期接地は踵や足底全体でもなく前足部に

よって行われ,足関節は,最初の接地直後にようやく背屈運動が起こる.遊脚相における足関

節の底屈位は,固定化した底屈拘縮(すなわち尖足変形)が原因であるかもしれない.その人

が実際に尖足変形を有する場合,足関節の底屈肢位は,何らかの形で立脚相全体にわたって持

続するであろう.

17. 図 15.42を参考に,歩行周期の 10~30%のあいだ,底屈筋トルクが増加しているにもかかわら

ず,エネルギーの生成も吸収もほとんどみられない理由について述べなさい.その説明には,10

~30%でエネルギーの交換がみられないことを,(a)歩行周期の 0~8%までは小さなエネルギー

の吸収が起こっていることと,(b)歩行周期の 45~60%ではエネルギーの生成が突出しているこ

とと対比しなさい.

パワー(仕事率)は,角速度と内的トルクの積である.したがって,歩行周期の 10~30%に観

察される内的(足底屈曲)トルクの存在にもかかわらず,比較的低い(ほぼ0の)足関節角速

度であるため,パワー(エネルギー)の生成も吸収もほとんど起こらない.歩行周期の 0~8%

のあいだにみられる少量のパワー吸収は,足関節の底屈運動の速度が比較的速いことと同時に

起こる少量の内的トルクの結果である.最後に,歩行周期の 45~60%のあいだで,足趾離地の

直前に,底屈における大きな内的トルクおよび速い角速度が組み合わされて,著しいパワーを

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生成する.

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ニューマン:筋骨格系のキネシオロジー第3版

第 16 章 走行の身体運動学

学習問題とその解答

1. 図 16.1, 16.6, 16.8 を使用して,ストライド周期の前遊脚期と遊脚初期のあいだ(とくにス

トライド周期の約 30~50%のあいだ)の股関節屈筋群による力学的パワーの生成と吸収につい

て説明しなさい.

走行の立脚相の終期と遊脚相の初期とのあいだで,伸展していた股関節が屈曲し始める.この

間,股関節屈筋は股関節の伸展を減速させ,その後,股関節の屈曲を加速させる.遠心性に活

動する股関節屈筋は,股関節の伸展を減速させる際にエネルギーを吸収する(負のパワー).ス

トライド周期の約 40%で,求心性に活動する股関節屈筋は,股関節屈曲を加速させるときにエ

ネルギーを発生し始める(正のパワー).図 16.6A は,股関節屈筋の 1 つである腸腰筋が,この

立脚相の終期と遊脚相の初期とのあいだに常に活動していることを示している.

2. 走行速度が増加するとき,垂直床反力はどのように変化するかを説明しなさい.

垂直床反力は走行速度とともに増加するが,遅い速度からの床反力の増加は比較的著しい.た

とえば,最高速度の 40%から 60%に速度が増加する場合,能動的ピークは 15%増加する.そ

れに対して,走行速度が最高速度の 60%から 100%に増加する場合にはわずか 3%しか増加し

ない.

3. 若年成人に対して 55 歳以上のランナーには,どのような空間的および時間的指標の一般的な変

化が生じるか?

55 歳以上の人は,通常,ステップ長が短くステップ率が高い走行となり,滞空時間が短縮す

る.このような時空間的な変化は,一般に,足関節の底屈トルクおよび前遊脚期のパワー生成

の減少に起因する.これらの加齢に関連した現象の原因は不明であるが,組織特性,神経筋能

力,代謝コストの変化に関連している可能性がある.

4. 走行中の関節運動は,男性と女性でどのように異なるか?

女性は一般に走行において,男性よりも前額面と水平面状の運動が大きい.たとえば,女性は

男性より股関節の最大内旋と内転,それに膝関節の最大外転が大きい.この矢状面以外の運動

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の増加は,女性における膝蓋大腿関節疼痛および腸脛靱帯症候群のリスクの一因となる可能性

がある.

5. 走行中の制動力積と推進力積を明確にし,比較しなさい.

制動力積は,立脚相の前半あたりに示される前後方向の力−時間曲線の下側の面積である(図

16.7).この時期の床反力は,走る方向と反対の方向(すなわち後方)へ向けられる.このよう

に,制動力積は,身体重心の前方移動を遅くする.これとは対照的に,推進力積は,床反力が

前方に向く立脚相の後半あたりに示される前後方向の力−時間曲線の下側の面積である.推進力

積は遊脚相へと身体を推進させる.傾斜が0°の地上において一定速度で走行する場合,理論

的には推進力積は制動力積と等しくなる.減速または下り坂を走行中は,制動力積が推進力積

を上回り,加速または上り坂を走行中は,推進力積が制動力積を上回る.

6. 走行は,どのように“速い”歩行と区別することができるか?

“速い”歩行(たとえば競歩)の場合,左右それぞれの下肢の立脚相の初めと終わりには,両

脚支持期が非常に短い時間でも存在する.歩行速度を上げれば上げるほど,両脚支持期が短く

なり,完全になくなってしまえばその段階で走行に移行したということになる.走行のストラ

イド周期には,両脚が地面に接触していない時期である 2 つの「滞空」時間が存在する.

7. 足部接地の3つの方法に関して圧中心軌跡の相違を考慮した場合,どの足部接地がより大きな

中足骨障害のリスクをもつ可能性が高いか?

中足部または前足部接地パターンにおいて,初期接触時の圧力中心は,第 5 中足骨の足底面の

外側面の近くに位置し,残りの立脚相では前足部の下にとどまる.中足骨へのこの持続的な負

荷は,外傷の危険性を増大させる可能性がある.対照的に,後足部接地パターンでの圧中心

は,踵の底面から始まり,前足部に移動していく軌跡を描く.

8. 図 16.8, 16.11, 16.12 を用いると,走行の立脚相にどの関節(股関節,膝関節または足関

節)において矢状面でのエネルギー生成が最大となるか?

足関節が矢状面で最大のエネルギーを生成する.図 16.12 は,立脚中期から足趾離地まで足関

節においてエネルギー生成が起こっていることを示している.正の最大パワーは 10W / kg を超

えている.股・膝関節のエネルギー生成は,立脚相の短いエリアにわたって起こり,5W / kg 未

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満である.立脚相中に生成されるエネルギーの半分以上が足関節により生じ,前方推進のため

に用いられる主要なエネルギー源である.

9. 図 16.6A に基づくと,中殿筋の活動のピークは荷重反応期に生じる.図 16.9 を用いて,走行

のストライド周期のこの時期での筋の機能的役割について述べなさい.

中殿筋は荷重反応期で遠心性に活動し,股関節の内転,およびそれに伴う骨盤の反対側への下

降を減速し制御する(図 16.3A 参照).この時期において外転内的トルクの発生に伴って股関節

が内転しているので,中殿筋はエネルギーを吸収しているに違いない.走行ストライド周期の

この部分における中殿筋の活動の低下は,股関節の制御を低下させ,膝蓋大腿関節痛の発症リ

スクを増加させる.

10. 図 16.7 を用いて,垂直床反力の能動的ピークと衝撃ピークを比較しなさい.

垂直床反力の能動的ピークは,ストライド周期全域での垂直床反力の最大値であり,立脚中期

あたりで発生する.これは身体の下降を減速させるのに必要なピーク力を反映しており,体重

の 2.5 倍を超える場合がある.衝撃ピークは振幅が小さく,ストライド周期の 5%近くで発生す

る.衝撃ピークで生じる高い負荷速度は,下肢の骨折と関連する.

11. 走行のストライド周期で,身体重心が最も低くなるのはいつか?また,最も高くなるのはいつ

か?これを歩行のそれぞれの値と比較しなさい.

走行中,身体重心は,立脚中期で最も低い位置にあり,遊脚相の初期の滞空期の中期で最も高

い位置にある.これは,歩行とはまったく異なる(第 15 章を参照).歩行では,重心は立脚中

期で最も高く,両脚支持期で最も低い位置にある.走行中の重心の垂直変位は 5〜10cm で,歩

行の 2 倍にもなる.

12. 走行のストライド周期の 40~70%における股関節と膝関節での矢状面の運動の組み合わせ

が,どのように代謝効率に影響を及ぼすか説明しなさい.

この期間,下肢を前に振り出すために,股関節と膝関節は両方とも屈曲する.この2つの関節

の屈曲運動は,下肢を機能的に短縮し,それにより,股関節における内-外軸に対する下肢の質

量慣性モーメントを減少させる.下肢の慣性(抵抗)を股関節での角加速度にまで落とすと,

股関節屈筋に要求されるトルクは減少する.能動的トルクが減少すれば,その分,要求される

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代謝量も減少する.

13. 走行の遊脚後期における半腱様筋と半膜様筋(内側ハムストリングス筋群)の膝関節での役割

は何か?

遊脚後期において膝関節は伸展するが,これらの筋は遠心性活動により,その膝関節伸展を減

速させる(図 16.6B および 16.11A を確認).図 16.11A から明らかなように,膝関節伸展の減

速は,ストライド周期の約 90%で完了する.周期の 90〜100%のあいだで,ハムストリングス

は,膝関節をわずかに屈曲するように求心性に活動する.また図 16.11C から明らかなように,

ストライド周期のこの最終時期には,膝の屈筋は,膝関節でのエネルギー吸収器からエネルギ

ー生成器に変わる.膝の運動力学や運動学のデータを見ると,ハムストリングスは遊脚後期で

膝関節を突然な過伸展から保護し,また足部接地とその直後に起こる急速な膝関節屈曲に対し

て下肢を準備するように働くと示唆される.

14. 走行の空間的指標と時間的指標のどちらが走行速度の増加とより直接的に関連しているか?

ストライド速度とストライド長の増加の組み合わせによって走行速度を上げることができる.

これは歩行速度を上げるのと同じ方略である.

15. 目安として図 16.6B, 16.11 を用いて,走行のストライド周期の 0~35%における膝関節での

大腿直筋の活動様式(遠心性活動,求心性活動など)や機能について推測しなさい.

図 16.6B で見られるように,大腿直筋はストライド周期の 0〜35%に EMG 活動を示すが,そ

の活動度合いが変動する.図 16.11 に示すように,荷重反応期(ストライド周期の 0〜15%)に

は膝関節が屈曲するため,大腿直筋は遠心性に活動し,身体重心の下降を制御する.ストライ

ド周期の 15〜35%では,大腿直筋の求心性活動によって膝関節は伸展する.この求心性活動は

膝伸展トルクと関連し,このトルクにより身体重心は徐々に上昇しストライド周期の約 45%で

最高位に達する.

膝関節に関するデータのみに基づけば(図 16.11),上記のような大腿直筋の活動様式(すなわ

ち遠心性と求心性)に関する仮定は妥当である.しかし,大腿直筋は膝関節と股関節の両方を

またがるため,(筋の全長の短縮または伸長に基づく)筋の包括的な機能活動は,より詳細な分

析を必要とする.