106. 022 エネルギー 山縣 - kansai u...redox shuttle reaction rapid capacity fading low...

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関人 関人 ORDIST ORDIST 関人 関人 ORDIST ORDIST 社会連携部 産学官連携センター、知財センター エネルギー 先端的低炭素化技術開発 特別重点領域次世代蓄電池(JST ALCA-SPRING) ○山縣雅紀(化学生命工学部 化学・物質工学科 准教授)、高橋卓矢(院生) 松井由紀子(先端科学技術推進機構 客員研究員)、 内田悟史(PD)、 石川正司(教授) 問合せ先: 関西大学 化学生命工学部 石川正司 E-mail:[email protected] 応用分野、実用化可能分野 硫黄正極は1672 mAh g -1 という極めて高い理論容量を有していることから、次世代 型二次電池の正極材料として検討が進められている。しかしながら、硫黄は充放電反 応に伴い形成するリチウムポリスルフィドLi 2 S n n = 1-8)の一部が電解液中にリチウ ム塩として溶出しやすく、結果としてレドックスシャトルという現象を引き起こして しまうことなど、多くの課題が存在する。 我々は、①1 nm以下に細孔径分布を持つ活性炭と硫黄との複合化、②電極構成材料 の検討、③イオン液体電解液の適用により、サイクル安定性だけでなく充放電効率を 安定化させ、さらに出力特性を発揮できるリチウム-硫黄二次電池の構築に成功した。 Sulfur Electrode ミクロ多孔性活性炭を複合化した硫黄正極の高 安定作動 1 nm以下に細孔径分布を持つ活性炭と硫黄を熱処理によって複合化することを検 討し、この硫黄-活性炭正極がサイクル安定性だけでなく充放電効率を安定化させ ることを明らかとしました。また従来、単体硫黄正極には適用不可能であるカーボ ネート系溶媒を用いた電解液中においても安定作動が可能であることを見出し、硫 黄正極に用いる液体電解質の選択肢を広げることに成功しました。 S 8 + 16 Li + + 16 e 8 Li 2 S Theoretical capacity 1672 mAh g 1 Dissolution of Li 2 S x (X = 4~8) Redox shuttle reaction Rapid capacity fading Low Coulombic efficiency Poor electric conductivity of sulfur (10 16 S/m at 293K) Low rate capability (~0.2C) Electrolyte イオン液体をベースとした高性能LIS電池構築 イオン液体 (ionic liquid) とはカチオンおよびアニオンのみで構成される「塩」であ り、融点が非常に低いものを指します。多くのイオン液体は、蒸気圧が低く、難燃 性です。また,電気化学特性にも優れており,有機系電解質に代わる次世代電解質 として注目を集めています。我々はアニオンにビス(フルオロスルフォニル)イミド (FSI - )をもつイオン液体が、従来型イオン液体に比べて、低粘性・高イオン伝導性 を有し、リチウム-硫黄二次電池用電解質として最も有用であることを見いだしま した。 アルギン酸バインダを適用した高出力型リチウム硫黄 二次電池の実現 LIS電池の問題点のひとつ,硫黄の電子伝導性の低さが挙げられ,つまり出力特性において大い に改善される必要がある.本研究クループは,以前より天然高分子であるアルギン酸塩を電気 化学キャパシタ用電極およびリチウムイオン電池用の負極や正極のバインダーに適用し,優れ た充放電特性,特に高い出力特性が得られることを報告してきた.これは電極/電解質界面抵抗 の大幅な軽減が可能であることに由来する.本研究では,アルギン酸バインダーを硫黄正極に 適用したところ,非常に安定した充放電もさることながら、0.5 C (時間率) というこれまででは 達成し得なかった高出力化に成功した. 図: 当研究室で見出されたリチウムー硫黄電池用ミクロ多孔性カーボン (左) およ び、これと硫黄を復号化させた電極の充放電サイクル特性。非常に安定した作動が 可能になった。(右) 図: 当研究室で見出されたアルギン酸バインダを適用した硫黄正極の充放電特性。マグネシウ ム塩が最も安定した充放電作動を示した。(左) アルギン酸バインダの内部抵抗軽減効果によ り、0.5Cの出力特性を達成した。 図: 当研究室で見出されたイオン液体電解液を適用した硫黄正極の充放電特性。FSI 系イオン液体の利用により、1.0Cを達成、さらにアルギン酸バインダを適用し、 2.0Cでの作動を達成。(左) リチウム-硫黄電池で-10℃環境下での作動に成功。 自然エネルギー、携帯機器、住宅・ビル電源、電気自動車、 航空機、宇宙産業など 研究成果・概要 次世代リチウム-硫黄電池の開発 関西大学先端科学技術推進機構 ※無断複写・転載・加工等は 禁じます。

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Page 1: 106. 022 エネルギー 山縣 - Kansai U...Redox shuttle reaction Rapid capacity fading Low Coulombic efficiency Poor electric conductivity of sulfur (10‐16 S/m at 293K) ↓ Low

関人関人ORDISTORDIST関人関人ORDISTORDIST 先 端 科 学 技 術 推 進 機 構

社 会 連 携 部 産 学 官 連 携 セ ン タ ー 、 知 財 セ ン タ ー

エネルギー先端的低炭素化技術開発 特別重点領域次世代蓄電池(JST ALCA-SPRING)○山縣雅紀(化学生命工学部 化学・物質工学科 准教授)、高橋卓矢(院生)

松井由紀子(先端科学技術推進機構 客員研究員)、 内田悟史(PD)、 石川正司(教授)

問合せ先: 関西大学 化学生命工学部 石川正司 E-mail:[email protected]

応用分野、実用化可能分野

硫黄正極は1672 mAh g-1という極めて高い理論容量を有していることから、次世代

型二次電池の正極材料として検討が進められている。しかしながら、硫黄は充放電反応に伴い形成するリチウムポリスルフィドLi2Sn(n = 1-8)の一部が電解液中にリチウ

ム塩として溶出しやすく、結果としてレドックスシャトルという現象を引き起こしてしまうことなど、多くの課題が存在する。

我々は、①1 nm以下に細孔径分布を持つ活性炭と硫黄との複合化、②電極構成材料

の検討、③イオン液体電解液の適用により、サイクル安定性だけでなく充放電効率を安定化させ、さらに出力特性を発揮できるリチウム-硫黄二次電池の構築に成功した。

Sulfur

Electrodeミクロ多孔性活性炭を複合化した硫黄正極の高安定作動

1 nm以下に細孔径分布を持つ活性炭と硫黄を熱処理によって複合化することを検討し、この硫黄-活性炭正極がサイクル安定性だけでなく充放電効率を安定化させ

ることを明らかとしました。また従来、単体硫黄正極には適用不可能であるカーボネート系溶媒を用いた電解液中においても安定作動が可能であることを見出し、硫黄正極に用いる液体電解質の選択肢を広げることに成功しました。

S8 + 16 Li+ + 16 e‐ 8 Li2S

Theoretical capacity

1672 mAh g‐1Dissolution of Li2Sx (X = 4~8)

↓ Redox shuttle reaction Rapid capacity fading Low Coulombic efficiency

Poor electric conductivity of sulfur (10‐16 S/m at 293K)

↓ Low rate capability (~0.2C)

Electrolyteイオン液体をベースとした高性能LIS電池構築

イオン液体 (ionic liquid) とはカチオンおよびアニオンのみで構成される「塩」であ

り、融点が非常に低いものを指します。多くのイオン液体は、蒸気圧が低く、難燃

性です。また,電気化学特性にも優れており,有機系電解質に代わる次世代電解質

として注目を集めています。我々はアニオンにビス(フルオロスルフォニル)イミド

(FSI-)をもつイオン液体が、従来型イオン液体に比べて、低粘性・高イオン伝導性

を有し、リチウム-硫黄二次電池用電解質として最も有用であることを見いだしま

した。

アルギン酸バインダを適用した高出力型リチウム硫黄二次電池の実現

LIS電池の問題点のひとつ,硫黄の電子伝導性の低さが挙げられ,つまり出力特性において大い

に改善される必要がある.本研究クループは,以前より天然高分子であるアルギン酸塩を電気化学キャパシタ用電極およびリチウムイオン電池用の負極や正極のバインダーに適用し,優れた充放電特性,特に高い出力特性が得られることを報告してきた.これは電極/電解質界面抵抗

の大幅な軽減が可能であることに由来する.本研究では,アルギン酸バインダーを硫黄正極に適用したところ,非常に安定した充放電もさることながら、0.5 C (時間率) というこれまででは達成し得なかった高出力化に成功した.

図: 当研究室で見出されたリチウムー硫黄電池用ミクロ多孔性カーボン (左) および、これと硫黄を復号化させた電極の充放電サイクル特性。非常に安定した作動が可能になった。(右)

図: 当研究室で見出されたアルギン酸バインダを適用した硫黄正極の充放電特性。マグネシウム塩が最も安定した充放電作動を示した。(左) アルギン酸バインダの内部抵抗軽減効果により、0.5Cの出力特性を達成した。

図: 当研究室で見出されたイオン液体電解液を適用した硫黄正極の充放電特性。FSI系イオン液体の利用により、1.0Cを達成、さらにアルギン酸バインダを適用し、2.0Cでの作動を達成。(左) リチウム-硫黄電池で-10℃環境下での作動に成功。

自然エネルギー、携帯機器、住宅・ビル電源、電気自動車、航空機、宇宙産業など

研究成果・概要

次世代リチウム-硫黄電池の開発

  関西

大学

先端

科学

技術

推進

機構

無断

複写

・転載

・加工

等は

じま

す。