11:道徳教育といじめ - 上越教育大学 ·...
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2015年度 「中等道徳教育論」
林 泰成
§11:道徳教育といじめ
この講義の資料は、http://www.juen.ac.jp/lab/yasunari/に置いてあります。
前半のスライドは、すでに前回(および初等道徳教育論でも)説明済みです。
①基本事項の確認:「いじめ」とは
「いじめ」とは・・・「同一集団内の相互作用過程において優位に立つ一方が、意識的に、あるいは集合的に、他方に対して精神的、身体的苦痛をあたえること。」(森田洋司)
「(1)自分より弱いものに対して一方的に(2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え(3)相手が深刻な苦痛を感じているものなお、起こった場所は学校の内外を問わないこととする。」(文部科学省:平成17年度までの「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における定義)
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「いじめ」とは その2
【平成18年度調査からの定義】本調査において、個々の行為が「いじ
め」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。「いじめ」とは、「当該児童生徒が、
一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問
わない。(文部科学省のHPより)
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変更点といじめの調査結果「自分より弱い」→「一定の人間関係」「継続的に」→削除「深刻な苦痛」→「精神的な苦痛」被害者側の気持ちを重視「発生件数」→「認知件数」18年度の調査でいじめが認知された学校は、全体の55・0%、2万2159校で、前年度の3倍以上
ちょっとした定義の変更で大きく変化する。そうしたとらえようによって変化するものを根絶できるのだろうか?
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いじめの4層構造(森田・清永)
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見て見ぬふりをする子ども
【傍観者】
周りではやしたてる子ども
【観衆】
いじめる子ども いじめられる子ども
【加害者】 【被害者】
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加害者と被害者
加害者が悪い。
被害者に責任を押しつけるのは間違い。
×「あなたが・・・だからいじめられる」
いじめられやすいタイプというものが想定できそう(?)・・・でも,今のいじめは誰でも被害者になりうる。
加害者が同時に被害者である場合がある。
加害者と被害者の立場が逆転することがある。
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傍観者
自分がいじめられないためにかかわらない。
いじめられている者の気持ちが理解できない。
やさしさ? (被害者がいじめられていることにふれてほしくないのではないか,という推測に基づくやさしさ。)
結果として
傍観者もまた「いじめ」を助長している。
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私の仮説
① 人間は関係性を生きる。
② 人間は他者よりも優位に立とうとする欲求を持っている。
③ 人間は意味世界を生きる。
②いじめはなぜ起こるのか?
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ストロークstroke・・・[撫でる、さする]TA(交流分析)という心理療法で使われるキーワード。
「私は、貴方がそこにいることを知っている」という存在認知の刺激の一単位。
プラスのストローク/マイナスのストローク
条件付きのストローク/無条件のストロークたとえば、「出会いを喜び心をこめて握手する」のは、無条件的
なプラスの身体的ストローク「仕事がうまくいくように、相手と握手する」のは条件付きのプラスの身体的ストローク
・ひとはつねにストロークを求める。
→プラスのストロークが得られないとマイナスのストロークを求める。
人間は関係性を生きる。
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ニーチェ・・・キリスト教道徳=奴隷道徳
弱者の強者に対する精神的復讐
ランク(社会的ランク、政治的ランク、心理
的ランクなど)・・・A.ミンデル
の用語
学校においては多元的な評価を!
精神的復讐としての自殺
人間は他者よりも優位に立とうとする欲求を持っている。
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③社会心理学の実験から:同調行動
~シェリフの実験~知覚の自動運動現象(暗い部屋で光の点を
じっと見ていると実際には動いていないのに動いているように見える現象)を利用した実験。まず一人で暗室に入って光点の動きの長さを報告してもらう。その後、三人一組で暗室に入ってもらい同じように動きの長さを報告してもらう。その長さは、最初はバラバラだが、回数を重ねるにつれて同じ長さになってくる。つまり、他人に影響されてみんな同じ長さに合わせる。
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同調行動 その2
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~アッシュの実験~
モデル A B C
「モデルと同じ長さのものを選んでください」
~アッシュの実験~被験者を一人。そして、その周りに被験者のふりをしたサ
クラを数人並べる。被験者には最後に答えさせるようにする。一人目のサクラは誰でも間違いだとわかる「B」と答える。
その次のサクラも「B」その次もまた・・・、とサクラの答えをすべて一致させ、最後に被験者に聞くと、なんと多くの被験者が迷いつつも「B」と答える。
同調行動が起こる理由(ドイチェとジェラルド)情報的影響・・・他者の意見や判断を参考資料として利用す
るから。規範的影響・・・他者から好かれたい(嫌われたくない)ために、
規範から逸脱しないようにするため。
同調行動 その3
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④いじめを防ぐには何が必要か?
同調行動(集団圧)は,いじめの誘因でもあり,じつは解決のための手段でもある。
いじめはぜったい許さないという学級集団の雰囲気
(いじめはぜったい許さないという教師集団の熱い思い)
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いじめの早期発見・早期対応を図るための日常的な取組
①いじめ問題への組織的な取組の充実②相談体制の充実③児童生徒の状況をきめ細かく把握し、情報を共有するための取組④いじめの早期発見に向けた児童生徒・保護者へのアンケート調査の工夫⑤いじめを生まないよりよい集団づくり⑥児童生徒の自主的な活動による問題解決⑦日頃からの関係機関等との連携⑧対応マニュアルの策定文部科学省・国立教育政策研究所生徒指導研究センター『いじめ問題に関する取り組み事例集』(平成19年2月)より
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⑤内藤朝雄氏の主張から
『いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体』柏書房、2001年。
『〈いじめ学〉の時代』柏書房、2007年。
『いじめと現代社会――「暴力と憎悪」から「自由ときずな」へ』双風社、2007年
『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか 』 (講談社現代新書)講談社、2009年。
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⑤内藤朝雄氏の主張から・朝日新聞の投書から(1991年12月2日)近所の人たちが狼に父が英字新聞を読んでいたり、娘二人がミッション系の私立女学校に通っていることが、格好の口実にされたのでしょう。子供を産んだばかりの母なのに、水を入れたバケツを持ってはしごを登らされ、町内のおじさんに怒鳴られながら。何度も何度も屋根に水をかけていました。もともと心臓が弱かった母は、その秋、15日ほど床に伏し、あっという間に亡くなりました。(中略)防空演習で普通のおじさんが、急にいばりだしたり、在郷軍人が突然、権力をふるいだし、母が理由もなく怒鳴られているのを見て、非常に不愉快でした。(後略)
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⑤内藤朝雄氏の主張から山形マット死事件1993年(平成5年)に山形県新庄市の公立中学校で発生した男子中学生の死亡事件。1993年1月13日夕方、山形県新庄市立中学校1年生
の男子生徒が、同中学校の体育館用具室内で遺体となって発見された。生徒の遺体は巻かれて縦に置かれた体育用マットの中に逆さの状態で入っており、死因は窒息死であった。山形県警察は傷害および監禁致死の容疑で、死亡した生徒をいじめていた当時14歳の上級生3人を逮捕、当時13歳の同級生4人を補導した。警察の事情聴取ではこれら計7人の生徒は犯行を認めていた。1994年、7人全員に対し、刑事裁判の有罪に相当す
る保護処分が確定。
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死亡した男子生徒の一家は事件の約15年前に新庄市に転入し、地元で幼稚園を経営する仲睦まじく裕福な一家であった。また一家全員が標準語を話すことも重なり、閉鎖的な地域性からこの一家に対しての劣等感や妬みで「よそ者」扱いにする、いわゆる村八分的な環境にあったとするTV、新聞等の報道がなされた。
ウィキペディアより
社会学者の内藤朝雄は、明倫学区でのフィールドワークにて家族に対する様々な誹謗中傷を行う住民の声を聞いたと述べ、この地域に関する問題の根深さを指摘している。
ウィキペディアより
中井久夫(精神科医)の
いじめ体験大日本少年団での酷いいじめ
空襲でいそがしくなると残酷な「子ども」集団とのつきあいが減るので、空襲は少年にとってちょっとした解放の意味をもっていた。
「小権力者は社会が変わると別人のように卑屈な人間に生まれ変わった」(中井久夫)
内藤朝雄『いじめの社会理論』より
内藤朝雄氏の主張から
・朝日新聞の投書から
・山形マット死事件の取材から内藤朝雄『<いじめ学>の時代』柏書房,2007より
いじめているという意識をもたないままいじめに加担している人びとがいる。
➡中間集団全体主義
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全体主義の2つの側面
①空襲やアウシュビッツや特高(特別高等警察)のように国家が個人を直接圧殺する側面。
②「われわれ」の「パブリック」への強制的な献身要求、そしてこの献身を自己のアイデンティティとして共に生きる「こころ」の強制、さらに「パブリック」を離れたプライベートな自由や幸福追求への憎悪、といったものが草の根的に沸騰する共同体的専制の側面。
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中間集団全体主義
各人の人間存在が共同体を強いる集団や組織に全面的に埋め込まざるをえない強制傾向が、ある制度・政策的環境条件のもとで構造的に繁茂している場合に、その社会を中間集団全体主義社会という。
内藤『いじめの社会理論』21頁。
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⑥私の考え学校という場で何ができるのだろうか?
「いじめ防止学習プログラム」(新潟県教委)に示されているような試みが可能。
それらを実施するうえでベースとなる考え方として私は次のように考える。
①人間は関係性を生き、また、他者より優位に立とうとする生き物である以上、いじめはなくならない。でも、いじめは絶対許さないという態度を示そう!
(いかに集団の雰囲気を作るかが大切。)
②それぞれの児童生徒が自分のランクを誇れるような場面の設定をしよう!
(規範意識を求めるだけでは対応は難しい。子どもたちの自尊感情を高める工夫をしよう。)
③発達段階に応じた支援をしよう!
(その子の発達段階(年齢)で有効な支援策を考えよう。)
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発達段階に応じた支援例えば・・・コールバーグの道徳性発達段階前慣習的水準
第1段階 罰と服従への志向第2段階 道具主義的相対主義志向
慣習的水準第3段階 よい子志向第4段階 法と秩序志向
後慣習的水準(慣習以降の水準)第5段階 社会契約的法律志向第6段階 普遍的倫理的原理志向
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学校にできること・できないこと
警察など関係機関との連携
殴れば暴行罪、傷害罪。
脅して金品をせびり取れば、恐喝罪。
こうしたことは犯罪である。「いじめ」という言葉を使うことで、犯罪行為が犯罪行為として見えにくくなる可能性がありはしないか。
罪を犯せばどういうことになるのかということが生徒たちにあまり知られていない。TVドラマでも、犯罪者は逮捕されて終る。そこから先の情報提供がない。(コールバーグの第1段階、第2段階の子どもには、こうした情報は効果があると考えられる)
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