1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205...

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新しい人生を獲得するために、 早期リハビリテーションの挑戦。 1205人生を救う。 脳卒中センター(脳神経外科)シリーズ VOL・4

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新しい人生を獲得するために、早期リハビリテーションの挑戦。

1205の人生を救う。

脳卒中センター(脳神経外科)シリーズVOL・4

特 別 編 集

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脳神経外科の リハビリテーション

1205件(2015年実績)

新規処方数

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脳卒中センターシリーズの最終回は、

早期リハビリテーションの取り組みである。

馬場記念病院の脳卒中センターでは、24時間365日、

救急搬送を受け入れ、患者さまの命を救うために

ブレインチーム(※)のメンバーが死力を尽くしている。

一命を取り留めた患者さまの症状は、

疾患や搬送されてきた状態によってさまざまだ。

治療の成果でほとんど障害の残らないケースもあれば、

なかには、残念ながら重い後遺症が残るケースもある。

生命の危機を救う治療が終了しても、そこで、

ブレインチームのアプローチが終わるわけではない。

いや、むしろ、ここから、それぞれの患者さまが手に入れられる

最高の人生に向けて、リハビリテーションという闘いが始まるのだ。

患者さまと一緒に、ゴールをめざして走るのは、

セラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)や看護師たち。

濃密な全身管理が求められるSCU(脳卒中ケアユニット)の段階から、

できる限り早期リハビリテーションを開始し、

患者さまが新しい人生を獲得できるよう力強くサポートしている。

※馬場記念病院の脳卒中センターに関わる、全医療スタッフのチームの名前である。

1205リハビリテーション開始までの時間

(馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より 2015年実績)

入院後3日以内

84.0%入院後7日以内

92.2%

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01

 

Aさんはその夜、自宅で倒

れ、動けなくなり、言葉も出な

い状態で馬場記念病院に救急

搬送されてきた。この日の救急

当番は、連

乃駿(れん

ないす)

医師。すぐさま頭部の血管を

調べる造影CT検査をしたと

ころ、脳の左中大脳動脈灌流

域に脳梗塞が見つかった。左側

の血管が詰まっているというこ

とは、右側の上下肢に障害が

残る可能性がある。「止まった

血流を再開し、障害を最小限

に食い止めたい」という強い思

いを持って、連医師たちは治療

に臨んだ。

 

まず、血栓(血の塊)を溶か

ベッド上から始まる、生活を取り戻す闘い。

医師たちの

懸命な治療で

一命は取り留めた。

す薬剤t-PAを点滴で注入

しながら、同時にカテーテル(細

い管)を用いて脳血管内治療を

行った。連医師らは、血管が詰

まっているところまでカテーテル

を慎重に運び、血栓を除去しよ

うと何度も何度もアプローチし

た。しかし、血栓が取れたと思っ

たら、また次の血栓ができると

いう繰り返し。数時間に亘り

粘り続けたが、血流の再開は断

念せざるをえなかった。

 

血栓を取り除けなかったA

さんには、さらなる悪化を防

ぐための治療が必要だった。脳

梗塞によりダメージを受けた

脳はむくみ、周りの脳を圧迫

してしまう。その状態が続く

と、脳ヘルニアとなり、死に至る

危険があるのだ。脳の圧迫を

緩和するには、開頭減圧術が

必要だ。

最初のケースは、脳梗塞を患った40代女性の患者さま(Aさん)。

片麻痺と失語症という重い障害が残ったが、

まだ年齢的には若い。

何としても生活の場へ帰って、

新たな人生の一歩を踏み出していただきたい。

セラピストと病棟看護師が力を合わせ、

早期リハビリテーションを開始した。

CASE

03Tsubasa

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リハビリテーションには限界はあ

りますが、麻痺を残しながらで

も日常生活動作を改善できる

可能性がありますし、その改

善の程度が、患者さまのその後

の『人生(生活)の質』を左右し

ます。ですから、症状を厳密に

見極めた上で、できるだけ早期

の段階でセラピストに患者さま

の評価(リハビリテーションの視

点から症状や障害を把握して、

それらの情報を分析し、治療方

針を立案する)をしてもらうよ

う心がけています」と連医師は

話す。

 

命を救うのは医師だが、その

後、どのような人生を獲得する

かは患者さまご本人の闘いにな

る。その闘いの伴走者がセラピ

ストや看護師なのである。

 

連医師の処方が電子カルテを

通じて、リハビリテーション部に届

くと、まずは、リハビリテーション

科部長の西尾俊嗣医師が内容

をチェックし、注意すべきポイン

トがあればセラピストと打合せ

を行う。発症間もない段階から

開始する早期リハビリテーション

は、全身状態のリスク管理が重

は、医師が安静度を判断し、セ

ラピストに「リハビリテーションを

始めてください」と指示するも

のである。この時点で、Aさんは

右の上下肢に重度の運動麻痺

があり、言葉も失っていた。

 「私たち医師が治療できる範

囲は限られています。そこから、

どれくらい回復するかは、ご本

人が取り組むリハビリテーション

が鍵を握っています。もちろん、

 

開頭減圧術を終えた連医師

は、理学療法、作業療法、摂食

機能療法の3つについて、リハビ

リテーションの処方をした(後か

ら、言語聴覚療法が追加され

た)。リハビリテーションの処方と

そして、生活を

取り戻す闘いが

始まった。

SCU専従の

セラピストが

Aさんのベッドサイドへ。

要である。患者さまを守る観点

から、馬場記念病院では主治医

とリハビリテーション科医師のダ

ブルチェックを行っているのだ。

 

西尾医師との打合せを終え、

最初にAさんのもとを訪れたの

は、SCU専従の理学療法士・

渡邊美恵。渡邊はAさんの救急

搬送、連医師らの治療内容な

どを把握し、リハビリテーション

計画について思いをめぐらせてい

た。いよいよリハビリテーションが

始まる、という緊張感を持ち、

渡邊はAさんにゆっくり話しか

けた。「理学療法士の渡邊と申

します。今日から少しずつリハ

ビリテーションを始めさせてい

ただきますね」。だが、Aさんは

困ったような表情を浮かべるば

かり。自分の身に何が起き、な

ぜここにいるのか、状況を理解

できていない様子だった。

 

渡邊はバイタルサイン(血圧、

脈拍、体温、呼吸数)を見て、異

04 Tsubasa

Tsubasa |特|別|編|集|

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言語聴覚士がAさんのベッドサ

イドを訪問。それぞれの評価を

もとに、3名で各専門領域から

の意見を出し合い、その上で総

合的な視点から、リハビリテー

ションの計画を練った。

セラピストにはそれぞれ役割

分担がある。理学療法士は、①

寝返る、②起き上がる、③立ち

上がる、④歩くなどの基本動作

ができるように、身体の基本的

な機能回復をサポートする。作

業療法士は、⑤入浴や食事、⑥

着替えなど日常生活の動作が

できるようにサポートする。言

語聴覚士は、⑦嚥下・咀嚼(飲み

込む・噛む)機能を評価すると

ともに、⑧聞く・読む・話す・書

くというコミュニケーションのト

レーニングを担当する。

 

この3分野のプロたちは、ま

ず基本である廃用症候群の予

防のために、可能な限り早期の

離床から取り組んだ。廃用症候

群とは、安静状態が続くことに

より、心身の機能が低下してい

くもの。具体的には、関節の拘縮

(こうしゅく:関節周囲の筋肉

などが硬くなり動かなくなるこ

と)、筋力低下、持久力低下、褥瘡

(じょくそう:床ずれ)、肺炎な

どを発症し、やがて寝たきりの

状態になってしまう。

 「廃用症候群を防ぐには、で

きる限り早く体を起こしていか

ねばなりません。障害は重いも

のの、過度の安静はAさんの自立

の妨げになります。主治医と相

談し、血圧の上昇に最大限の注

意を払いながら、座る訓練、立ち

上がる訓練、食べる訓練を積極

的に行っていこうと申し合わせ

ました」と渡邊は言う。せっかく

一命を取り留めても、身体機能

が弱ってしまえば、その後の人生

を再建することはできない。セ

ラピストたちは、Aさんのリハビ

リテーションに臨んだ。

 

セラピストが動き出す前に、

Aさんの最も近くで寄り添って

常がないことを確認した上で、

ジェスチャーを交えながら、「左

手足は動きますか」と話しかけ

る。Aさんは、言葉は理解できな

いが、そのジェスチャーを見て、左

手足をわずかに動かした。「良

かった、ジェスチャーと言葉で何と

か通じるし、左側の筋力はある。

この残された機能を絶対に維持

して、できる動作をふやさなけ

れば…」と考えた。そして、動か

なくなった右手足の関節が硬く

ならないようにゆっくり動かす、

関節可動域訓練を行い、初回の

訪問を終えた。

 

渡邊に続いて、作業療法士、

入院直後から始まる

ウォーミングアップ。

最も怖いのは、

廃用症候群。

05Tsubasa

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前に進めるよう努めています」。

 

もちろんリハビリテーションの

処方後も、SCUの看護師たち

は積極的にリハビリテーションに

関わる。「患者さまのセラピスト

から訓練の方法を教えてもら

い、それを日常生活のなかで繰

り返し行っていくのが、看護師

の役割です」と坂本は言う。

脳卒中患者さまの、その人らしい

生活の再構築に向けて、『質の高い看

護実践』を行うとともに、院内看護

師を指導していくリーダー的な役割

を担う。

 「血圧に注意しながら、体を

 

さらに坂本たちは、そうした

安全第一の看護を提供する一方

で、慎重にリハビリテーションの

準備も進めていった。準備とい

うのは、体を動かすことではな

く、安静を保ったまま、患者さ

まにできるだけ刺激を与え、脳

を活性化させることだ。「Aさ

んの場合、入院したときは目を

開けていても、視線が定まらな

い状態でした。でも、少しする

と、私たちと目が合うようにな

ります。そのときに、たくさん

声かけをするようにしました。

また、体を撫でて私たちの体温

を伝えたり、首の向きを変えて

見える景色を変えたり…。全

身状態を充分に注意しながら、

いろいろな刺激を与えることで、

いつでもリハビリテーションを開

始できるように体の状態を整

えていきます」。

 

また、リハビリテーションを先

に進めるには、必ず主治医の許

可が必要だが、「そろそろ起こ

してもいいですか」「食事を始め

てもいいですか」など、セラピス

トはもちろん、看護師からも積

極的に医師に尋ねていくという。

「看護師は一日中、患者さまの

そばにいて、小さな変化に最初

に気づきます。少しでも容態が

安定してきたら、主治医の先生

に相談してリハビリテーションを

起こしてもいいですよ」という

主治医の許可がでると、リハビ

リテーションはいよいよ本格化

する。ベッドの背を上げて、座位

を取る。ベッドの端に体をずら

し、足を床に下ろして座る姿勢

を取る。さらに、ベッドのギャッチ

アップ機能に頼らず、横になって

いる状態から、自分で肘をつく

ようにして上体を押し上げ、起

き上がる練習をしていく。理学

療法士や作業療法士、看護師

が、一日に何度もこうした訓練

をすることで、麻痺のない方の

左側の手足の筋力低下を防ぐ

ことができ、麻痺側の残存能力

を使う訓練にもなる。

 

そして、座位が取れた後にめ

ざすのは、トイレに行くことだ。

Aさんを担当した作業療法士

いたのは、SCUの看護師たち

だ。彼女たちはどんな思いでA

さんを看護していたのか。「私た

ちが最優先するのは、患者さま

の命の安全です。特にAさんは

頭蓋内圧の上昇が続けば、生命

の危険に関わる状態。血圧など

の小さな変化も見逃さないよ

う細心の注意を払いました。そ

れに、まだ若いAさんの精神的

な苦痛や不安を考え、どうやっ

て看護していくべきか、看護師

のみんなで何度もカンファレンス

をしました」と話すのは、SCU

に勤務する脳卒中リハビリテー

ション看護認定看護師(※)の

坂本亜沙子である。

最初の目標は

トイレに行くこと。

Tsubasa |特|別|編|集|

06 Tsubasa

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見られるようになったという。

渡邊たちは、前向きの気持ちを

その先も維持できるようにと

願い、一般病棟のセラピストへと

バトンを渡した。

 

Aさんは、その後、一般病棟で

約1カ月の急性期治療を受け

てから、ペガサスリハビリテーショ

ン病院へ転院。退院後を見据え

た日常生活動作の訓練を集中

的に行っていった。

 

渡邊、新田谷、そして、坂本

は、リハビリテーション病院に転

院した後、Aさんの様子を見に

病棟を訪ねたという。SCUで

の関わりは、ほんの1週間程度

だが、その後の患者さまの状況

を自分の目で確認できるのは、

法人内に回復期リハビリテー

ション病棟を持つペガサスならで

はといえるだろう。「ちょうどそ

のとき、Aさんは4点杖で装具

をつけて、歩く練習をしていらっ

しゃいました。言葉を発するこ

とはなかなか難しい様子でし

たが、私が声をかけると、穏や

かな笑顔を見せてくれました」

(坂本)。SCUでは障害を受

け止められず苦しんでいたAさ

んが、前向きに頑張っている。退

院のスケジュールも決まったと知

り、SCUスタッフの心には喜び

が湧き上がってきたという。

の新田谷真貴は話す。「トイレ

は一日に何度も行う動作です

から、その行為自体が訓練にな

り、運動量を増やすことができ

ます。それに…」と新田谷は続

ける。「おむつではなく、トイレ

で排泄することは、患者さまの

尊厳を守る上で、とても重要な

意味があると考えています」。

 

新田谷はAさんに対し、トイ

レに必要な動作(体を起こす、

車いすに移る、背もたれなしで

座っていられる体幹の保持、ズボ

ンのあげおろし)の練習に取り

組んでいった。最初は、座っても

ふらついていたAさんだったが、

訓練を始めて2日目には、早く

も、看護師2名の介助で車イス

に乗ってトイレに行くことがで

きた。トイレから戻ったAさん

は、それまで見せたことのない

ような安堵の表情を浮かべたと

いう。「自分でできることが増

えれば、それが生きる希望に繋

がる」。セラピストと看護師た

ちはそれ以降も、生活動作の向

上に力を入れていった。

 

トイレという第一関門を突

破したAさんは、筋力・持久力

を鍛えるための立ち上がり動

作の訓練も積極的に取り組み

だした。ただ、その頃になってA

さんの様子が変わった。Aさん

にしてみれば、ある日突然、右

側の手足が動かなくなり、周

りの人が話しかけてきても、

単語レベルはわかるが、詳しい

内容は理解できない。自分で

言葉を発しようとするが、「あ

あ」という音しか出てこない。

状況がはっきり認識できるよ

うになるにつれ、「なぜこんな体

になってしまったんだろう」とい

う深い絶望感が心を支配して

いったのだ。

 「私たちセラピストが顔を見

せても、︿リハビリテーションはも

ういい﹀という感じで、お布団の

中にもぐってしまうことも多

かったですね。そんなときは決

して急がせることなく、『できる

ときに進めていきましょう』と

声をかけました」と新田谷は振

り返る。患者さまにとって、障害

の受容は難しい。

 

セラピストたちはAさんのメ

ンタル面を最優先して、Aさん

の気持ちがリハビリテーション

に向かうのを待った。その後、

SCUからICU(集中治療

室)へ移ってから、ようやくAさ

んの心に︿いつまでもくよくよし

ていてはいけない﹀という変化が

障害を受容できない

苦しみと深い絶望感。

一般病棟から

リハビリテーション

病院へ。

07Tsubasa

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Tsubasa |特|別|編|集|

08 Tsubasa

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02CASE

Bさんは側頭葉(言語の理解、

記憶などを司っている部分)の

脳梗塞を患い、突然、ろれつが回

らなくなり、馬場記念病院に

救急搬送されてきた。脳卒中セ

ンターでは、すぐにt-PA療法

と脳血管内治療を行い、詰まっ

た血栓を除去し、血流を再開

通させることができた。

 

主治医がリハビリテーション

可能な病態と判断したため、渡

邊が評価のためにBさんのベッ

ドサイドへ赴いた。渡邊はBさん

の全身状態を見て、血圧が上昇

しないよう注意しながら、ベッド

の端に座ってもらうなどした。

そのスムーズな動きを見て、「こ

の調子なら、主治医の許可を得

て、すぐに歩く練習を始められ

るだろう」と、渡邊は考えた。た

だ一つ、ひっかかることがあった。

「言葉は出てくるものの、話し

方がぎこちなく、言い間違えも

多い」。失語症だったのである。

 

高次脳機能障害とは、記憶・

思考・判断を行う機能を失って

しまう障害。具体的には、記憶

障害、注意障害、遂行機能障

害、社会的行動障害、失行症、

失認症などがある。自分の話し

たいことを上手く言葉にできな

かったり、相手の話が理解できな

い︿失語症﹀も高次脳機能障害

の一つだ。「Bさんは家に帰るこ

とはできても、そこから仕事に

復帰するまでには多くの課題が

あるだろう」と渡邊は考えた。

 

渡邊はBさんを担当する作

業療法士、言語聴覚士と意見

交換した。年齢から考えても、

Bさんのゴールは職場復帰であ

り、ご家族の希望でもある。そ

こに照準を定め、今の段階から

リハビリテーションを行っていく

ことを確認した。これほど早い

段階から、職場復帰を意識す

るとはどういうことか。「この

患者さまに良くなっていただく

ために、どのようなリハビリテー

ションが必要で、どのように回

復期、そして、継続的なリハビリ

テーションに繋げるかを、考え

なくてはなりません。理学療法

士としての立場から言うと、重

要なのは体力を落とさないこ

とです。長く寝ていると筋力は

もちろん、持久力も落ちていき

ます。それでは、社会に出たと

きに8時間勤務に耐えられま

せん。血圧の変動に注意しなが

ら、歩行練習に精を出し、体力

高次脳機能障害を

克服するために。

ゴールは職場復帰。そのために

全精力を傾ける。二つ目のケースは、脳梗塞を患った40代男性の患者さま(Bさん)。

幸い、脳血管内治療で血流を再開でき、身体の麻痺は残らなかった。

しかし、ただ一つ、深刻な高次脳機能障害が残った。

「今はまだ言葉が出てこない、話もよく理解できない。

だけど、絶対に職場に戻るんだ」というBさんの強い決意を、

ブレインチームが全力で後押しした。

09Tsubasa

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るようになった。また、歩行訓練

などを休まず続けたことによ

り、約2カ月の長期入院になっ

たが、体力、持久力を維持でき、

しっかりした足取りで退院する

ことができた。

 

渡邊はBさんについて次のよう

に振り返る。「コミュニケーション

能力の回復は、言語聴覚士も驚

くほどでした。本当に頑張られ

たんだと思います。今も定期的

に、外来に通っておられ、私もお

会いしますが、念願の職場復帰

を果たされ、毎日元気に働いてい

ると聞きました。患者さまに関

わったセラピストとして、こんな

にうれしいことはありません」。

Bさんの職場復帰の知らせは、

瞬く間にリハビリテーション部の

メンバーに広がり、みんなで喜び

を分かち合った。

がら「これは何の写真ですか」と

問いかけ、言葉が出てくるまで

辛抱強く待つ。あるいは、文字を

見せて書き写す練習などを行っ

た。また東藤は、積極的に宿題

も出したが、Bさんは非常に熱

心に取り組んだという。看護師

にも見てもらいながら、いつも宿

題を100%やりとげた。

 

だが、この間、Bさんは人知れ

ず苦しい思いと闘っていた。うま

く話せないために、トイレに行

こうとしても、勝手に歩きまわ

ると誤解されるなど、周囲の人

とコミュニケーションが取れないス

トレスが重なっていたのだ。その

苦しみをぶつける相手は、言語

聴覚士の東藤だった。「私がベッ

ドサイドに伺うと、自分の思い

を身振り手振りも交えてぶつ

けてこられました。そんなBさ

んの思いを看護師に伝えたり、

反対に看護師には『こういうふ

うにゆっくり話すと、Bさんに

内容が伝わりますよ』、とアド

バイスするなど、Bさんと看護

師を繋ぐことも心がけました」

と東藤は言う。

 

Bさんとの会話にとまどうの

は、家族も同じだった。つい先日

まで一緒に会話し、笑っていたの

に、今は何を話しかけても、見

当違いの答えが返ってくる。お

見舞いに来たご家族が、しばし

の維持に努めました」と、渡邊。

SCUから始まる歩行練習。そ

れは傍目からは、少々スパルタに

も見えるが、すべては患者さま

の早期回復に繋がる訓練なの

である。

 

Bさんにとって最大の課題で

ある、言葉のリハビリテーション

を担当したのは、言語聴覚士の

東藤郁佳である。東藤がSCU

で毎日のように行ったのは、「話

す・読む・書く・理解する」練習。

たとえば、写真カードを見せな

ば涙ぐむ場面も見られた。「ご

家族の不安感を少しでも和ら

げたい」。そう考えた東藤は、ご

家族にリハビリテーションの様子

を見てみませんか、と提案した。

「ご本人が努力して、言葉を話

したり、ひたむきに文字を書く

姿を見て、『少しずつ良くなって

いけるんですね』と安心された

ご様子でした」。

 

入院前のBさんは、企業の第

一線で活躍していた40代のビジネ

スマン。プライベートでは、自分が

大黒柱となって守らなければな

らない家族がいた。「必ず会社に

生還してみせる」という意欲が、

Bさんのモチベーションを高めた

のだろう。SCUに入っていると

きはほぼ毎日、20分〜40分。一般

病棟に移ってからは1日1時間

ほど、言語聴覚士と向き合って、

言葉の練習に専念し、言語聴覚

士が出す宿題、自主学習にも力

を入れた。その学習は、約1カ月

後、ペガサスリハビリテーション病

院に転院しても続いた。

 

退院を迎えた日、Bさんは言

葉が出やすくなり、単語ではな

く、文章の会話も少しずつでき

本人の意欲が、

劇的な回復を促す。

言語聴覚士との

二人三脚の訓練。

Tsubasa |特|別|編|集|

10 Tsubasa

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 「医師たちにリハビリテーショ

ンの重要性をわかってほしい。そ

れ以上に、リハビリテーションが

遅れることで、過度の安静状態

が続き、患者さまに不利益を

馬場記念病院が早期リハビ

リテーションに取り組み出した

のは、昭和61年(1986年)。

3名の理学療法士を採用し、

脳神経外科の患者さまを中心

にリハビリテーションを開始し

た。その3名の一人が、田中恭子

(現:法人本部・リハビリテー

ション管理部部長

馬場記念

病院・事務部部長)だった。

 「最初の頃は、リハビリテー

ションに対する理解が浸透して

おらず、︿どうすればドクター

にわかってもらえるだろう﹀と

悶々としたこともありました」

と、田中は振り返る。田中が医

師たちに懸命に伝えたのは、学

校で学んできた︿正しいリハビリ

テーション﹀のあり方だった。そ

の頃の医療界では、リハビリテー

ションというと、病状が安定し

た後、障害のある機能を回復さ

せる訓練のイメージがあった。

もちろん、それも重要だが、何

よりも、安静にしたままだと身

体機能が衰え、やがて寝たき

りになってしまう。「それを防

ぐには、入院間もない時期から

座り、立ち上がり、動くことが

重要なんです」と田中は訴え

たが、当時の医師たちの関心は

もっぱら治療に注がれ、早期の

リハビリテーションに対する意識

はまだ低かった。

リハビリテーションの

黎明期から。

患者さまの人生のために、ペガサスのリハビリテーション体制を築いてきた。

患者さまの

人生を守る、

ブレインチームに。

11Tsubasa

Page 13: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

り組む体制づくりも進めていっ

た。こうした努力が実り、徐々

にリハビリテーションの成果を上

げていった。

 

生死をさまよった患者さま

が、以前よりも早くトイレに行

き、車いすに乗れるまでに回復

していく。その姿を見て、医師

たちは徐々にリハビリテーショ

ンの重要性を認めるようになっ

ていった。命を救うことだけが

医師の仕事ではない。その後の

人生を守ることもまた、ブレイ

ンチームの使命なのだという考

えが、院内に確実に醸成されて

いったのである。

 

田中はリハビリテーションの重

要性をアピールするとともに、

自分自身はもっと医療について

学ばなければならないと考え、

「手術を見学させてほしい」と

頼んだ。その申し出は医師た

ちに快く受け入れられる。そ

れが今日に至るまで、積極的な

「セラピストの手術見学」とし

て、リハビリテーション部に受け

継がれているのだ。医師はリハビ

リテーションを正しく理解し、

セラピストは医師の行う治療

を積極的に学ぶ。医師とセラピ

ストが互いに相手を尊重し合

う信頼関係が、今日のリハビリ

テーション体制のベースとなって

いる。

 

現在、ペガサスのリハビリテー

ション部では大勢のセラピスト

を抱え、入院直後、そして、急性

期から回復期、在宅までの、切

れ目のないリハビリテーションを

提供できる体制を整えている。

 

そして今、リハビリテーション

部全体で力を入れているのは、

「廃用予防のための立ち上が

り反復訓練」である。通常の訓

練に加え、介助なしで立てる患

者さまはもちろん、介助の必要

な方は体を支えながら、1日30

回を目安に立ち上がり動作を

行い、廃用症候群の予防をめざ

している。「立ち上がり動作は、

お腹、背中、お尻などの筋肉を

総合的に使う動作です。この動

作をすることで、筋力を鍛える

とともに、心肺機能、血液循環

を整えることができます」と田

中は説明する。

 

さらにリハビリテーション部で

は、立ち上がり動作の有用性を

科学的に確認するために、デー

タ分析も開始した。これは、1

日30回の訓練を行った前と後

で、6分間歩行を行い、前後でど

のような変化が起きるか見る

もたらしてはならない」。そう

考えた田中は脳神経外科の回

診にも参加し、リハビリテーショ

ン処方の必要な患者さまがい

ないか、チェックするように心が

けたという。また、病棟の看護

師にリハビリテーションの大切さ

を訴え、ともにトレーニングに取

立ち上がり動作の訓練で

︿寝たきりゼロ﹀の

実現へ。

Tsubasa |特|別|編|集|

12 Tsubasa

Page 14: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

を達成するのが目標なんです」

と田中は意欲を燃やす。

 ︿寝たきりゼロ﹀をめざすと

同時に、リハビリテーション部が

力を注いでいるのが︿就労支援﹀

である。患者さまが元の職場へ

の復帰を望む場合、必要に応じ

て、担当セラピストが職場の管

理者と面談し、再就労の条件や

予測される問題点などを話し

合いながら、復職の可能性を模

索していく。元の職場復帰が困

なぜ安静と臥床は、廃用症候群に繋がるのか。寝たままでは、重力に対抗して筋肉を動かす機会が失われ、筋力が低下する。安静臥

床のままでは、1日に約1〜3%、1週間で10〜15%の割合で筋力低下が起こり、3〜5

週間で約50%に低下すると報告されている。静かに寝ている状態は心地いいが、長く

続くと明らかに身体は弱まっていく。

■ 臥床重力に対抗して筋肉を動かす

ことがない。心臓も重力に対し

て血液を頭の方に押し上げる

必要がなく、動きが低下する。

肺には痰がたまりやすくなる。

■ 座位上半身に抗重力メカニ

ズムが働く。上半身を

支えるために筋肉を使

い、心臓、動脈、肺の動

きも活発化

する。

■ 立位全身に抗重力メカニズ

ムが働く。全身を支える

ために筋肉を使い、心

臓、動脈、肺の動きはよ

り活発化

する。

ものである。馬場記念病院をは

じめ、ペガサスグループ全体で、

介助歩行以上の患者・入居者さ

ま(脳卒中もしくは大腿骨頸

部骨折を患った方)を対象に、

最終的に約1000名のデータ

を収集し、学会などで発表して

いく計画だ。「リハビリテーショ

ン医療も、アウトカム(成果)の

評価が問われる時代になってき

ました。どの訓練をすれば、ど

のような成果が得られるのか

を示し、リハビリテーション医療

の質の向上に役立てたいと考え

ています。同時に、立ち上がり

動作に積極的に取り組むこと

で、法人全体で︿寝たきりゼロ﹀

就労支援にも力を注ぐ。

最終ゴールは社会参加。

難な場合でも、決してあきらめ

ない。目安として、65歳未満で働

く意欲のある患者さまに対して

は、「ペガサスで一緒に働きません

か」と声をかけるよう、スタッフ

間で申し合わせているのだ。

 ペガサスグループ内には、書類

の印刷・製本、データ入力など

さまざまな仕事がある。実際、

これまでにも法人内で適職に

出会い、社会参加を実現した患

者さまがいる。「ここで出会った

ご縁を患者さまの将来に活か

せたら、これほど嬉しいことは

ありません。たとえ障害が残っ

ても、患者さまにとって最高の

人生を獲得できるよう、これか

らも精一杯支援していきます」

と田中は言う。患者さまの人

生を取り戻すために、できるこ

とのすべてに挑む。リハビリテー

ション部の挑戦は続く。

13Tsubasa

Page 15: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

の回復や再構築を待つことが早

期リハビリテーションの一番重要

な役割だと思います」。「ただし

…」と、西尾医師は続ける。「早

期リハビリテーションでは、とり

わけリスク管理が重要です。医

学の父、ヒポクラテスの教えに、︿

何よりもまず、医療は害を与え

てはならない﹀とあります。早

期にリハビリテーションを始める

ことで、かえって症状を悪化さ

せることは許されません。その

ためにもカルテを事前にチェック

し、セラピストと綿密に打合せ

するように心がけています」。

 

西尾医師がセラピストたち

 

そもそも早期リハビリテー

ションの目的は、どこにあるのだ

ろうか。副院長であり、リハビリ

テーション科部長の西尾俊嗣医

師に話を聞いた。「究極の目的

は、廃用症候群を防ぐことだと

思います。たとえば、私自身、日

曜日にゆっくり休んだ翌朝、駅

までの坂道を歩くとしんどく

感じます。一日休んだことで心

肺機能が落ちるんですね。そこ

から考えれば、病院のベッドで一

日中寝ていたら、どれほど身体

機能が落ちるだろうと思いま

す。その低下を防ぎ、関節が固

まらないようにして、脳や神経

副院長・リハビリテーション科部長

西尾

俊嗣

脳神経外科のリハビリテーションを語る❶

廃用症候群を防ぐ。

ただし、無理は禁物。

「完璧は、敵」。

生活できる力を養う。

自分らしさを取り戻し、

生活できる力を身につけていただく。

によく言うことは、「完璧は、

敵」。たとえば、障害を持った人

の歩行訓練で、きれいな歩き姿

を追求すれば、いつまで訓練を

続けても「見果てぬ夢」。「それ

よりも、少々体が左右に揺れて

も、独りで安全に歩けるように

なり、外出できるようになるこ

とが大事だと考えています」。

決して完璧を求めてはならな

い。この考えは個々の生活や人

生を尊重することにも通じる。

「疾患や生活背景など、人さ

まざま。それぞれにふさわしい

訓練で、それぞれが自分らしい

生活を取り戻せるように支え

ていきたいと考えています」。

西尾医師はそう締めくくった。

Tsubasa |特|別|編|集|

14 Tsubasa

Page 16: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

にはリハビリテーションの専門医

が診察をしてリハビリテーション

の計画を立て、患者さまを起こ

す訓練を始めていたのだ。「日

本でも、馬場記念病院でも、こ

んなリハビリテーションを実践

したい、いや、実践しなくてはな

らない。そう考えて帰国しまし

た」と、馬場は振り返る。

 

帰国した馬場は、リハビリテー

ション部門の強化に努め、患者

さまを生活の場に戻すまで、切

れ目のないリハビリテーションで

繋ぐ体制を構築していった。馬

場がここまで力を注いできたの

は、脳疾患が他の疾患とは異な

 「本当の意味でリハビリテー

ションの重要性を知ったのは、ア

メリカ視察のときでした」。そ

う語るのは、馬場記念病院・院

長であり、脳神経外科医でもあ

る馬場武彦だ。当時、馬場は大

学卒業後に勤務していた九州

大学病院を辞して、馬場記念

病院を継ぐために大阪に戻り

数年が過ぎたばかり。最新の病

院経営を学ぶために、アメリカ

の病院を訪れた。そこで馬場が

見たのは、日本の常識とはかけ

離れたリハビリテーション医療の

実践。救急搬送された脳卒中

の患者さまに対し、入院の翌日

馬場記念病院

院長(社会医療法人ペガサス

理事長)

馬場武彦

脳神経外科のリハビリテーションを語る❷

アメリカの病院で見た

リハビリテーションの

衝撃。

患者さまの人生を

救うことが

私たちのゴール。

患者さまの人生を救うために

早期リハビリテーションが重要。

り、治療後に深刻な障害が残っ

てしまうケースが少なくないか

らだった。「以前も述べました

が、頭の病気は︿命を救えばそ

れでいい﹀というわけにはいきま

せん。その先にある︿人生﹀を救

うために、入院直後の早い段階

からできるだけ速やかにリハビ

リテーションを開始し、患者さま

が残された身体機能を用いて

生活できるように導いていくこ

とこそ、私たちのめざすゴールな

のです」と馬場は強調する。

 

30年前、たった3名の理学療

法士から始まった、馬場記念病

院のリハビリテーション部。それ

が現在は、法人全体で142名

のセラピストを抱えるまでに成

長した。この数字こそが、馬場の

変わらぬ信念を物語っていると

いえるだろう。

15Tsubasa

Page 17: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

ペガサスは、地域の診療所、そして、看護、介護に関連する事業所と連携をしています。

診療所は、地域の皆さまにとって、医療を受ける「最初の窓口」。丁寧な診察による適切な診断・治療を行い、

また、病院の紹介を通して、患者さまの「かかりつけ医」として、健康状態を総合的に管理してくれます。

看護、介護に関連する事業所は、在宅で療養する皆さまの「パートナー」。

ご本人はもちろん、ご家族の毎日を支えたり、快適な生活の場そのもののご提供により、皆さまを支援します。

第二特集では、こうした診療所、事業所をご紹介していきます。※診療所(アイウエオ順)、そして事業所の順でご紹介しています。

医療から、そして、看護、介護から、

地域社会を支える人々。

Se

co

nd

ed

ition

えています。往診の需要は増加

しているのに、往診を行う診療

所はまだまだ少ないのが現状で

す。それに、患者さまのなかに

も、往診に来てくれることを知

らない方も多いんですよ」。

 

岩田院長は、通院できなく

なった患者に、自身が往診可能

なことを伝えるとともに、医師

会の集まりなどで、自分の診て

いる患者が通院困難になった

際は、できるだけ往診に行くよ

う、診療所の医師たちに呼びか

けているという。「通院している

診療所から往診に行くことで、

在宅療養にもスムーズに移行で

きますし、それが一番、患者さ

まやご家族も安心です。それに

何より、『先生に死に水を取って

岩田信生が引き継ぎ、現在は、

内科・消化器科・呼吸器科を中

心に診療にあたっている。

 

診療にあたって、岩田院長が

大切にしているのは、患者との

対話を重視した診療だ。「正確

に診断するには、患者さまの感

じている症状をきちんと把握

することが必要不可欠。その

ために、患者さまの話に耳を傾

け、できるだけ話を遮らず、そ

の訴えを伺います。『話をして

スッキリした』と帰る人もいま

すが、それはそれでいい。医師に

とっての一番は、とにかく患者さ

 

南海「羽衣駅」とJR「東羽

衣駅」の間を東西に延びる商店

街。その一角にあるのが、岩田医

院だ。歴史は古く、83年前の昭

和9年、先々代が遠藤医院とし

て開院。その後、先代が昭和31

年に継承し、岩田医院に改称。

そして平成17年、現院長である

患者との対話を重視する

︿町のかかりつけ医﹀。

3代に亘る診療所として

地域のニーズに

応えていく。

何でも相談できる

町のかかりつけ医でありたい。

診療所

まに良くなってもらうことなん

ですから」。

 

そして、3代に亘り続く同

院が一貫して変わらないこと。

それは、︿町のかかりつけ医﹀で

あることだと岩田院長は語る。

「祖父の時代からの患者さま

はもういませんが、父のときか

らの患者さまはまだまだいま

す。その方たちにとって当院は、

かかりつけ医という言葉がない

頃から、かかりつけ医そのもの

なんです。実際、怪我をした方

や、内科以外のことで相談に来

る方も多くいます。そういった

方々を専門外だからと診ないの

ではなく、きちんと対応し、適

切な治療が受けられるよう繋

いでいくのも当院の大切な役割

だと考えています」。

 

高石市の医師会長でもある

岩田院長は今、超高齢社会にお

いて顕在化しつつある問題をひ

しひしと感じている。「高齢化

に伴い、通院困難になる方が増

地域の高齢者を

支えるために。

16 Tsubasa

Page 18: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

ほしい』と患者さまに言われる

ことは、医師として非常に光栄

だと思うのです」。

 

そして今後、最も大きな問題

になると岩田院長が考えている

のが、独居の高齢者、特に認知

症だ。「高石市でも、自宅で倒

れ、数日後に発見されるケース

があります。独居の場合、通院

していなかったり、自宅で医療・

介護サービスを受けていなけれ

ば、未然に防ぐのは難しい。し

かも認知症ならなおさらです。

そうした孤立した状況に陥ら

ないためにも、かかりつけ医を

持つことには大きな意味がある

のです」。そして岩田院長はこ

う締める。「高齢者を取り巻く

環境をいかに整えられるかが、

地域における一番の課題。だか

らこそ当院は、︿町のかかりつけ

医﹀として、何でも相談できる

存在になりたいのです」。

医療法人 岩田医院 院長:岩田信生所在地:大阪府高石市羽衣1-11-12TEL:072-261-0345 URL:http://iwataiin.jp/診療科目:内科・消化器科・呼吸器科

がんの状態という患者さまが、

毎年一定数必ずいます。そのほ

とんどの方がそうなるまで受診

せず、検査も受けていないんで

す。患者さまには、『検査さえ受

けていれば』という後悔を味わっ

てほしくないですし、私自身も、

敗北感に近い悔しい思いを決し

て味わいたくないんですよ」。

 

そしてもう一つ、中山医師が

注力するのが在宅診療だ。「開

院当初からの患者さまのなか

には、高齢で通院が困難になっ

たり、施設へ入所される方も

少なくありません。そうした

方々のニーズに応えるため、当

院では、2年ほど前、往診や訪

問看護などを24時間体制で行

う︿在宅療養支援診療所﹀の認

可を受けました」。

 

そう話す中山医師は今、さら

なる在宅診療の充実をめざして

いる。それは、チーム医療で在宅

診療を行うシステムの構築だ。

「一人の開業医が24時間365

日対応しなければならない今の

在宅診療のシステムでは、重症

患者さまを複数抱えたときな

ど、一人の医師にかかる負担が

大き過ぎます。軽症の方から

看取りを含めた重症の方まで

を幅広く診ていくには、近隣の

複数の診療所が連携した上で、

入院が必要な患者さまをすみ

やかに受け入れることができる

病院との連携が必要です」。

 「まずは、個人的に繋がりの

ある複数の診療所と定期的に

勉強会などを行いつつ、受け入

れ先となる病院と良好な関係

を作っていきたい。そうして、将

来的には、チーム医療で在宅診

療を担うシステムの構築を図っ

ていきたいと考えています」と、

中山医師は展望を語り、こう結

ぶ。「今後、在宅診療がさらに

増えれば、馬場記念病院やペガ

サス訪問看護ステーションにお

世話になる機会も増えると思

います。これまで以上に連携を

深め、地域の患者さまが一人で

も多く、安心の療養生活を送れ

るようにしていきたいですね」。

医療法人 中山内科医院院長:中山美治郎(※火曜日午前のみ)医師:中山祐史所在地:大阪府堺市北区百舌鳥梅町3-21-7TEL:072-257-0380 URL:http://nakayamanaika.com/診療科目:一般内科・消化器内科・小児科

 

堺市中百舌鳥の閑静な新興

住宅街。そこに中山内科医院

はある。昭和54年に院長の中山

美治郎医師が開院し、以来40

年近く、同院は地域に根ざし

た診療所として地域とともに

歩んできた。そして現在、ご子

息の中山祐史医師(以下、中山

医師)が主となり、一般内科・小

児科・消化器内科の診療を中心

に、肝臓がんの最大の原因であ

るB型・C型ウイルス性肝炎の

治療も行っている。

 

同院のモットーは、︿患者さま

ファースト﹀。診療に際しては、

専門性を活かした検診で

がんの早期発見に繋げる。

来院する患者の気持ちに寄り

添い、丁寧な対応と言葉遣い、そ

して何よりもわかりやすい説明

によって、患者の不安を和らげ

ることに努めているという。

 

そして同院の特徴は、生活

習慣病検診はもちろん、がんの

早期発見に繋がる検診にも力

を入れているところだ。特に、

中山医師が専門とする消化器

疾患、肝臓・胆道・膵臓疾患に関

しては、血液検査などの一般的

な検査に加え、専門性を活かし

た腹部エコー検査、上部消化管

内視鏡検査も実施可能。最新

の超音波診断装置などを使い、

的確な診断を行っている。

 

中山医師が検診に力を入れ

るのには理由がある。それは、大

学病院勤務時代にがん治療に

携わり、早期発見がいかに重要

かということを痛感してきたか

らだ。「この診療所にも、来院時

点で、かなりの進行がんや末期

地域とともに歩んできた

︿患者さまファースト﹀の

診療所。

がんの早期発見で患者を救い、

在宅診療で地域のニーズに応える。

診療所

チーム医療と連携で

在宅診療の充実を図る。

17Tsubasa

Page 19: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

め細かいサービスは提供できな

いと思ったんです。だから、一日

10人なんですよ」。とはいえ、見

込み違いもあったと宮本氏は言

う。「︿わずか10人﹀ですが、︿だ

けど10人﹀なんです。ご利用者一

人ひとりに丁寧なケアをするの

がいかに大変なことか、初めて

わかりましたね」。

 

そう語る宮本氏だが、彼女は

今、少人数ゆえのメリットやや

りがいを強く感じている。「前

職と比べ、本社との煩雑な事務

作業がないので、その時間をご

利用者やご家族に使うことが

できます。たとえば、ご家族と

の連絡帳にも、ご利用者の状態

や状況を非常に詳しく書くこ

とができるんですよ」。宮本氏

は続ける。「それに少人数だか

ら、ご利用者が着替えたり、靴

をはくといった、自分でできるこ

とを自分でしていただくのを待

つことができる。そのための時

 「ここを、自宅でくつろいだり、

友人宅に遊びに来たかのような

場所にしたい」と話す宮本氏。

こうした家庭的な雰囲気のな

か、同センターでは、近隣にて接

骨院を営む柔道整復師を招

き、毎日2時間、座位での有酸

素運動や、筋力トレーニング・スト

レッチといった総合的な機能訓

練を行い、月に2回、音楽療法士

による、音楽を通した残存機能

の維持、回復のためのプログラム

も実施。利用者に充実したサー

ビスを提供するほか、朝(8時半

〜10時)と夕方(17時半〜20時)

の延長サービスも行っている。

 

もともと、複合施設(グループ

ホーム・デイサービス・訪問介護

事業所)のセンター長だった宮本

氏が、自らの理想を実現するた

め創ったのが、この︿デイサービス

センター輝峰﹀。めざしているの

は︿のんびり﹀だ。「︿のんびり﹀と

いうのは、ご利用者だけでなく、

職員ものんびりできるというこ

と。たくさんのご利用者を担当

することでゆとりを失っては、き

発行人編集長編集発行

馬場武彦塚本賢治ペガサス広報委員会 編集グループHIPコーポレーション社会医療法人ペガサス 〒 592-8555 大阪府堺市西区浜寺船尾町東 4-244TEL 072-265-5558 http://www.pegasus.or.jp/

 

社会福祉法人有人会の運営

する︿デイサービスセンター輝峰

(きほう)﹀は、堺市美原区の

住宅街にある。外観は、通所介

護(デイサービス)施設らしから

ぬ平成24年建築の2階建て一軒

家。木をふんだんに使ったぬく

もりあふれる室内には縁側も

あり、一見、普通の家のようだ。

だが、よく見ると、食堂と機能

訓練室を兼ねた広い部屋、多機

能トイレ、広い脱衣所や浴室、さ

らにエレベーターなど、通所介護

施設として必要な機能を充分

に備えた造りとなっている。

 

開所は平成24年4月。長年

に亘り、児童福祉や高齢者福

祉などの社会福祉に携わって

きた宮本有子(なほこ)理事長

が開設した。施設である一軒家

は、宮本氏と職員が、設計段階

から関わり創り上げたこだわ

りの空間である。

くつろいだ雰囲気で

過ごすデイサービス。

少人数を活かした

サービスを提供し、

ご利用者の自立を支援。

間が、ご利用者にも、私たち職

員にも充分あるんです」。

 

将来は、介護職の人手不足か

ら、助けが必要な高齢者を、元

気な高齢者にも支えてもらう

︿共存﹀がキーワードになると話

す宮本氏。「『介助は必要ないけ

れど、お風呂は一人暮らしで心

配だから誰かがいるところで入

りたい』という高齢者がいたら、

仲間と一緒に過ごしていただく

ような、元気な高齢者のパワーを

活用するシステムづくりを日々

模索しています」と笑顔で語る。

一日10人定員の

小さなデイサービス。

事業所

︿のんびり﹀を

自立支援に繋げる。

社会福祉法人有人会 デイサービスセンター輝峰 代表者:宮本有子所在地:大阪府堺市美原区阿弥482-2 TEL:072-289-5272 URL:http://yujin-kihou.or.jp/事業内容:老人デイサービス事業

18 Tsubasa

Page 20: 1205 - 堺 大阪|社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 · 2017. 6. 1. · 1205 リハビリテーション開始までの時間 (馬場記念病院 院内総リハビリテーション処方数より

今回の『つばさ』では、脳神経外科領域において、医師が繋ぎ止めた患者さまの〈生命〉のバトンを、セラピストが、そして、看護師が、患者さまの〈人生〉のバトンとして引き継ぎ、患者さまとご家族とともに歩んでいく姿をご紹介しました。その歩みは、患者さまにとってときには過酷です。なぜなら、リハビリテーションとは、単に機能回復・維持訓練だけを指すのではなく、人間らしく、自分らしく生きる、すなわち、人生の再建に向けた活動なのだから。患者さまご自身が自らの状況を受け入れ、明日に向かって挑戦する思いが不可欠になります。

そうした患者さまへのサポートを、ペガサスは、SCU(脳卒中ケアユニット)から急性期、急性期から回復期、そして、回復期から在宅まで繋いでいきます。その真意は、24時間365日の救急体制で救った生命は、新たな人生で再び輝いていただくまでが、救急病院の責務だと考えているからです。地域の皆さまとともに、歩み続けるペガサス。この姿勢が変わることはありません。

社会医療法人ペガサス 理事長 馬場武彦