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BD & Women , s Health CASE REPORT BD Diagnostics LBC(Liquid-based-cytology)が 病理検査室にもたらしたもの … LBC法応用の可能性と将来 … 病理診断科 医長 伊藤以知郎 先生 静岡県立静岡がんセンター Vol. 4 LBC法の大きな利点のひとつとして、細胞回収率の向上、標本 作製過程の標準化が図られ、検体不適正例が減少することが知 られている。当センターでは、子宮頸癌で子宮摘出術を受けられ た症例のフォローアップ外来にて、しばしば膣断端細胞診が施行 されるが、通常の子宮頸部細胞診に比べ、細胞数が極端に少な い例や、乾燥が著しく評価が難しい標本に遭遇する頻度が非常 に多かった。しかしBD シュアパス™ 法を導入した2014年より不 適正標本が激減し、術前症例の子宮頸部細胞診の不適正標本減 少率をはるかにしのいだ(表)。これにより、再発兆候をより鋭敏 に検出することができるようになったと考えている。(写真1) 検体不適正の減少: とくに子宮摘出後の経過観察症例において 直接塗抹法 (2013年6月) LBC法 (2014年6月) 21/ 119 (18%) 48 / 141 (34%) 0 / 117 (0%) 2 / 105 (2%) 子宮膣部 ・頸管 膣断端 症例数 (%) 症例数 (%) 不適正標本数の比較 材料:膣断端 写真1 液状処理細胞診LBC (Liquid-based-cytology) 法の医療現場での普及につれて、その利点、有用性は広く知られるように なってきました。 今回は、がん専門病院の現場においてBD シュアパス™ 法 を導入した経験と、新たな展開につながった例について、静岡県立 静岡がんセンター病理診断科の伊藤以知郎先生にお話頂き、 LBC法の持つ可能性と将来像について伺いました。 BD シュアパス™ 液状処理細胞診システムの推奨手順を使用した液状処理細胞診検査のことをいいます。 カンジタ検出率の向上 BD シュアパス™ 法導入に際し、直接塗抹法でみられた炎症性 背景が見られなくなるデメリットについて危惧された。しかし実際 に導入した後に気づいたことのひとつに、Candida様菌体の検出 の頻度が高くなったことが挙げられた。おそらく沈降法により、扁 平上皮細胞群とからみ合い、集塊状となった菌糸群がそのままガ ラス上に乗るため、塗抹法よりもより見やすくなったことがその理 由であろう。我々は臨床医の依頼内容にかかわらずCandida様菌 体を見つけた際には所見欄にコメントすることにしている。細菌 学的検査の結果やカンジダ膣炎に対する治療の有無などの臨床 情報との整合性は、がんセ ンターという施設の特殊性 のため検討していないが、 細胞診報告書における Candida様菌体陽性のコメ ントが、導入前の過去3年間 では平均24例/年だったの が、導入後は52件/年と、2 倍以上となった。 (写真2) 直接塗抹 BD シュアパス™ 対物20倍BD シュアパス™ 対物20倍直接塗抹 上段左から:旭技師、本田技師、田代技師、大野技師 下段左から:渡邊先生、伊藤先生、渡部技師 材料:子宮頸部(LBC法) 写真2 対物20倍

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Page 1: 150529 casereport 04...BD & Women, s Health CASE REPORT BD Diagnostics LBC(Liquid-based-cytology)が 病理検査室にもたらしたもの … LBC法応用の可能性と将来

BD & Women,s Health CASE REPORT

BD Diagnostics

LBC(Liquid-based-cytology)が病理検査室にもたらしたもの… LBC法応用の可能性と将来 …

病理診断科 医長 伊藤以知郎 先生

静岡県立静岡がんセンター

Vol.4

 LBC法の大きな利点のひとつとして、細胞回収率の向上、標本作製過程の標準化が図られ、検体不適正例が減少することが知られている。当センターでは、子宮頸癌で子宮摘出術を受けられた症例のフォローアップ外来にて、しばしば膣断端細胞診が施行されるが、通常の子宮頸部細胞診に比べ、細胞数が極端に少ない例や、乾燥が著しく評価が難しい標本に遭遇する頻度が非常に多かった。しかしBD シュアパス™ 法を導入した2014年より不適正標本が激減し、術前症例の子宮頸部細胞診の不適正標本減少率をはるかにしのいだ(表)。これにより、再発兆候をより鋭敏に検出することができるようになったと考えている。(写真1)

検体不適正の減少:とくに子宮摘出後の経過観察症例において

直接塗抹法 (2013年6月)

LBC法 (2014年6月)

21/ 119(18%)48 / 141(34%)

0 / 117(0%)2 / 105(2%)

子宮膣部・頸管

膣断端

症例数

(%)

症例数

(%)

不適正標本数の比較表

材料:膣断端写真1

液状処理細胞診LBC (Liquid-based-cytology) 法の医療現場での普及につれて、その利点、有用性は広く知られるようになってきました。今回は、がん専門病院の現場においてBD シュアパス™ 法※ を導入した経験と、新たな展開につながった例について、静岡県立静岡がんセンター病理診断科の伊藤以知郎先生にお話頂き、LBC法の持つ可能性と将来像について伺いました。※ BD シュアパス™ 液状処理細胞診システムの推奨手順を使用した液状処理細胞診検査のことをいいます。

カンジタ検出率の向上 BD シュアパス™ 法導入に際し、直接塗抹法でみられた炎症性背景が見られなくなるデメリットについて危惧された。しかし実際に導入した後に気づいたことのひとつに、Candida様菌体の検出の頻度が高くなったことが挙げられた。おそらく沈降法により、扁平上皮細胞群とからみ合い、集塊状となった菌糸群がそのままガラス上に乗るため、塗抹法よりもより見やすくなったことがその理由であろう。我々は臨床医の依頼内容にかかわらずCandida様菌体を見つけた際には所見欄にコメントすることにしている。細菌学的検査の結果やカンジダ膣炎に対する治療の有無などの臨床情報との整合性は、がんセンターという施設の特殊性のため検討していないが、細胞診報告書におけるCandida様菌体陽性のコメントが、導入前の過去3年間では平均24例/年だったのが、導入後は52件/年と、2倍以上となった。(写真2)

直接塗抹

BD シュアパス™

“対物20倍” BD シュアパス™

“対物20倍” 直接塗抹

上段左から:旭技師、本田技師、田代技師、大野技師下段左から:渡邊先生、伊藤先生、渡部技師

材料:子宮頸部(LBC法)写真2

対物20倍

Page 2: 150529 casereport 04...BD & Women, s Health CASE REPORT BD Diagnostics LBC(Liquid-based-cytology)が 病理検査室にもたらしたもの … LBC法応用の可能性と将来

施設所在地

静岡県立静岡がんセンター

〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007番地TEL : 055-989-5222(代) FAX : 055-989-5783http://www.scchr.jp/

 当センターの頭頸部などいくつかの臓器の穿刺吸引細胞診は、直接塗抹法と低分子デキストラン加乳酸リンゲル液(以下、「リンゲル液」という)による穿刺針洗浄細胞診を併用しているが、今後、洗浄液として使っているリンゲル液を、BD サイトリッチ™ レッド保存液に変更するプランがある。理由は後者の溶血作用とタンパク可溶化作用に期待するのみならず、細胞浮遊液として一定期間保管できる利点から、先に述べたような、免疫染色法への応用を念頭においたものである。とくに穿刺吸引細胞診の結果に基づいて手術計画がたてられるような頭頸部領域の腫瘍では、免疫細胞化学的検討が推定病変報告の際の一助になるものと考えている。またLBC法は、whole cell specimenを確実に採取・保存し、適宜FISH解析へ応用することも可能である。そのため、骨軟部腫瘍やリンパ腫等の診断にも力を発揮すると考える。例えば分子病理学的検索が必要な病変だが脱灰が必要な硬組織の腫瘍でも、生組織から得た腫瘍細胞を一部BD サイトリッチ™ レッド保存液に分けておくことで、その後の分子病理学的検討を、脱灰の影響を気にせずに行える。またリンパ腫が疑われ生検されたものの、フローサイトメトリーや染色体検査に回すまでの十分な組織量が確保できない場合などでも、同様に細胞を保存し、後日、診断に必要とされる類のFISH解析を、細胞の重なりの少ない標本で施行できれば、診断の大きな助けとなるであろう。今後、分子標的治療薬の適応判断など、分子病理診断のニーズが増えることが予想される中、LBC法の利点が生かされる場面はますます広がると考えられる。我々はこれからもLBC法を最大限に活用しながら、あらゆる臓器の腫瘍病変の診断精度の向上を図っていきたいと考えている。

今後の展望

 臨床現場において、内膜細胞診への期待が大きいことを日々感じているが、実際は標本の厚塗りや出血、粘液によるマスキング、採取細胞数の確保の問題等、質の高い標本を得る事に苦労することが多い。見慣れた直接塗抹法のメリットを守りつつも内膜LBC法にも挑戦したいとの思いから、婦人科の協力のもと、スライドガラスに塗抹後のブラシをBD シュアパス™ コレクションバイアルで洗ってもらい、直接塗抹法と併用でスクリーニング業務を行っている。まだ内膜LBC法導入から日が浅いため、導入前後における報告内容の変化については検討していないが、内膜LBC法ではときに保存液の中に組織塊が浮遊していることがある。生検同様のサイズがあると認識された場合には、主治医に連絡し、承諾を得た上で、組織切片を作製するように努めている。実際に、パラフィン包埋薄切標本を保存液中の浮遊組織から作製し、類内膜腺癌の組織診断確定まで至った症例を経験した。

内膜細胞診への応用 直接塗抹法では通常1枚である子宮頸部細胞診標本だが、LBC法ではバイアル内にある期間細胞を保管できるため、報告後も追加標本を作製し目的細胞について検討できる利点がある。これまでに我々は、大腸がんの子宮転移が疑われた症例についてCDX-2(細胞診検体、写真3)や、CK20(浮遊組織から作製した切片、写真4)免疫染色の追加により原発巣が大腸であることを、形態のみならず免疫細胞化学的検討の結果を根拠に報告した例を経験した。また、ASC- Hと報告した子宮頸部細胞診例についてp16免疫染色を追加し、目的細胞が陽性を示したことから、HSILをより強く示唆するとの記載を報告書に追記した例もあった。

免疫染色法による診断精度の向上

45-031-00 R0-1504-003-019

2015 BD

材料:子宮内膜(LBC法)写真3

“対物20倍” PaP染色 “対物20倍” CDX-2染色

材料:LBC中浮遊組織のホルマリン固定薄切標本写真4

“対物20倍” HE染色 “対物20倍” CK20染色