18. 水色,透明度とそれに関係する水質...parsons and strickland (1963)...

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18. 水色,透明度とそれに関係する水質 東京湾湾口部および相模湾で, 1976 年7月から1978年6月にかけて,フ ォーレ ルーウーレ水色 計 によ る 水色,セッキー 板 による透明度およびそれに関係する水質としてクロロフ ィルーa濃度と溶存有機物 質の吸 収係数 を測定し,そ れらの関係を考察した。懸濁物 質濃度とクロロフ ィルーa濃度の間には正の相関 がある ことから,懸濁物質のかなりの部分を植物プランクトンが占めていることが考えられる。 測定結果から,つ ぎのこと がわかった。 水色 は主 に表面水中の クロロフ ィルーa濃度 に支配 さ れ, クロロフ ィルーa濃 度 が高い ほど 高くなる。 (2) 透明度は,主に表面水中 のクロロフ ィルーa濃度 に支配さ れ,そ れらは反比例する。 水色 および透 明度 の値 から,上記の関 係を用い て表面水 中の クロロフ ィルーa濃 度 を推 定 で きるこ と が 示唆される。 Factors Influencingthe Forel and Ule's Color Cord and Transparency Takayoshi Toyota, Toshimitsu Nakashima Factors influencing the Forel and Ule's color cord and the transparency (Secchi depth) were measured at the entrance of Tokyo Bay and in Sagami Bay during July 1976 to June 1978. The relationships among them were discussed. It is considered that suspended solid is dominated by phytoplankton because a positive correlation between the concentration of chlorophyll-a and the concentration of suspended solids is obtained. Resuits are obtained as follows: 1. the Forel and Ule's color cord depends on the concentration of chlorophyll-a in surface water; that is, there is a positive correlation between the concentration of chlorophyll-a and the Forel and Ule's color cord; 2. the transparency is inversely proportional to the concentration of chlorophyll-a in surface water. It is suggested that the concentration of chlorophyll-a could be estimated from the value of the Forel and Ule's color cord or the transparency by using the relationships mentioned above. 1。ま え が き 湖の色を測定する場合の基準を定めるため,フ ォーレルは澄んだ湖を対象としてフォーレル水色 計,ウーレは濁った湖を対象としてウーレ水色計 を考案した。両者を合わせてフォーレルーウーレ 水色 計 と呼 んで い る。フ ォ ーレ ルーウ ーレ 水 色 計 は,海の色の測定には古くから用いられている。 透明度は,セッキ ーによって考案されたセッキ ー板(直径30cm の白板)を用いて測 定し,水 の濁 りの *1 海洋保全技術部 *2 Marine Conservation T echnology Department JAMSTECTR 3 (1979) 126

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Page 1: 18. 水色,透明度とそれに関係する水質...Parsons and Strickland (1963) の方法に基づ いて測定した。(8)懸濁物質中のアルミニウム濃度 試水は0.45μmミリポアフィルターで濾過し,デシケーター中で乾燥後,けい光X線分光光度計

18. 水色,透明度とそれに関係する水質

豊 田 孝 義   中 島 敏 光

東京湾湾口部および相模湾で, 1976年7月から1978年6月にかけて,フォーレルーウーレ水色計による

水色,セッキー板による透明度およびそれに関係する水質としてクロロフィルーa濃度と溶存有機物質の吸

収係数を測定し,それらの関係を考察した。懸濁物質濃度とクロロフィルーa濃度の間には正の相関がある

ことから,懸濁物質のかなりの部分を植物プランクトンが占めていることが考えられる。

測定結果から,つぎのことがわかった。

Ⅲ  水色は主に表面水中のクロロフィルーa濃度に支配され,クロロフィルーa濃度 が高いほど高くなる。

(2) 透明度は,主に表面水中のクロロフィルーa濃度に支配され,それらは反比例する。

水色および透明度の値から,上記の関係を用いて表面水中のクロロフィルーa濃度を推定で きること が

示唆される。

Factors Influencing the Forel and Ule's Color Cord and

Transparency

Takayoshi Toyota, Toshimitsu Nakashima

Factors influencing the Forel and Ule's color cord and the transparency (Secchi

depth) were measured at the entrance of Tokyo Bay and in Sagami Bay during July

1976 to June 1978. The relationships among them were discussed. It is considered

that suspended solid is dominated by phytoplankton because a positive correlation between

the concentration of chlorophyll-a and the concentration of suspended solids is obtained.

Resuits are obtained as follows:

1. the Forel and Ule's color cord depends on the concentration of chlorophyll-a in

surface water; that is, there is a positive correlation between the concentration of

chlorophyll-a and the Forel and Ule's color cord;

2. the transparency is inversely proportional to the concentration of chlorophyll-a in

surface water.

It is suggested that the concentration of chlorophyll-a could be estimated from the

value of the Forel and Ule's color cord or the transparency by using the relationships

mentioned above.

1。ま え が き

湖の色を測定する場合の基準を定めるため,フ

ォーレルは澄んだ湖を対象としてフォーレル水色

計,ウーレは濁った湖を対象としてウーレ水色計

を考案した。両者を合わせてフォーレルーウーレ

水色計と呼んでいる。フォーレルーウーレ 水色 計

は,海の色の測定には古くから用いられている。

透明度は,セッキ ーによって考案されたセッキ

ー板(直径30cm の白板)を用いて測定し,水の濁りの

*1 海洋保全技術 部

*2 Marine Conservation T echnology Department

JAMSTECTR 3 (1979) 126

Page 2: 18. 水色,透明度とそれに関係する水質...Parsons and Strickland (1963) の方法に基づ いて測定した。(8)懸濁物質中のアルミニウム濃度 試水は0.45μmミリポアフィルターで濾過し,デシケーター中で乾燥後,けい光X線分光光度計

程度を表わす値として古くから用いられてきた。

フォーレルーウーレ水 色 計で測定された水色や

セッキー板で測定された透明度は,測定条件によっ

てかなりの幅があるにもかかわらず,測定結果は

信頼性があり,しかも測定器として簡便で故障が

少なく安価であるので,現在でも広く用いられて

いる。

水色や透明度は海水の光学的性質によって決ま

り,その光学的性質は海水中で光を吸収,散乱す

る物質によって決まる。現在では現場型の透過率

計や照度計が発達し,海水の濁りや海中の照度を

正確 に測定で きるようになった。しかし測定器の

普及率が低く,高価で,取扱いがむづかしいため,

誰でもこのような測定器を利用できる訳ではない。

本研究ではフォーレルーウーレ水色 計による水

色およびセッキー板による透明度と,それを支配す

る海水中の物質の関係を知ることは意義があると

考え,それを求めることを目的とした。

なお,本研究を行なうにあたり,理化学研究所

の岡見登博士に水色および透明度と海水の光学的

性質に関する適切なご指導をいただいたことを深

く感謝する。また,東京湾湾口部の調査における

夏島一号艇の乗組員,相模湾の調査における久鶴

丸の乗組員の方々のご協力に対して感謝の意を表

する。

2。調 査 方 法

観測点の位置を図1に示す。

東京湾湾口部に位置するSt バ(Station 1 )は,

1976年7月から翌年 9月まで月2回 の 頻 度 で,

東京湾のSt. A- 1および相模湾のSt. A-2 ~St.

A-7では, 1978年3月29日及び同年6月6日に調

査を実施した。調査には,水色,透明度,および

採水を行なった。

採水した水深は, St.l では海面下0.5m および

海底(水深約19m) 上1 m, St. A- 1~ A-7 で

は海面下Omであった。

採水試料で,溶存有機物質による光の吸収係数,懸

濁物質濃度,懸濁物質による光の消散係数,クロ

ロフイルーa濃度,懸濁物質中のアルミニウム濃度

および懸濁有機炭素濃度を下記の方法で測定した。

(1) 採 水

St. 1 ではバンドン採水器を用い, St. A- 1~

St. A-7 では,ポリエチレン製のバケツを用 い

た。

(2) 水 色

127

Fig. 1 Location of Sampling Stations

ウォーレルーウーレ水色標準液を使用した。

(3) 透明度

径30cmのセッキ ー板を用いた。

(4) 溶存有機物質による光の吸収係数

試水は,その日の内に0.45μmミリポアフィル

ターで濾過し,1日以内に島津製作所製ダブルビ

ーム吸光光度計UV-200型を用い,石英製10cmセル

で,蒸留水を対照液として測定した。

(5) 懸濁物質濃度

あらかじめ水洗,乾燥,秤量した0.45μm ミリ

ポアフィルターを2枚重ねて用い,試水を濾過し

たのちデシケーター中で2 日以上乾燥し,2枚の

濾紙を個別に秤量し,2枚の濾紙の重量の増加分

の差を懸濁物質濃度(mgμ )とした。

(6) 懸濁物質 による光の消散係数

試水を濾過しないで用いる点以外は,溶存有機

物質の吸収係数の測定と同様に行 なった。

(7) クロロフィルーa濃度

Parsons and Strickland (1963) の方法に基づ

いて測定した。

(8) 懸濁物質中のアルミニウム濃度

試水は0.45μmミリポアフィルターで濾過し,

デシケーター中で乾燥後,けい光X線分光光度計

で濾紙のまま付着面測定した。検量線 作成試料に

JAMSTECTR 3 (! 979)

図1 観測点

Page 3: 18. 水色,透明度とそれに関係する水質...Parsons and Strickland (1963) の方法に基づ いて測定した。(8)懸濁物質中のアルミニウム濃度 試水は0.45μmミリポアフィルターで濾過し,デシケーター中で乾燥後,けい光X線分光光度計

表1 海水中に含まれる物質の光学的分類

は酸化アルミニウムを用いた。

(9) 懸濁有機炭素濃度

濾過しない試料で 全有機炭素濃度,濾 過した試

料で溶存有機炭素濃度を測定し,その差を懸濁有

機炭素濃度とした。 なお,有機炭素濃度の測定 に

はMenzel and Vaccavo (1964) の方法を用いた。

3.結果および考察

3.1. 海水中の物質の光学的性 質

海水中 に含 まれる物質の光学的性質を表わす値

として, Jerlov (1968) の定義 による吸収係数〔a〕

散乱係数〔b〕,および消散係数〔c〕を用いることにす

る。水色 および透明度は人間の目で測定されるの

で,可視域 における海水の光学的性質を対象とす

る。

表1に示すように海水中 に含まれる物質は光学

的 には3種類 に分けることがで きる。すなわち,

水,溶存物質,および懸濁物質である。こ れらの

光学的性質を以下に述べる。

(1) 水

水による光の散乱はレ イリー散乱であ るので,

短波長ほど散乱 が大きい。したがって海面に入射

した光は短波長の光ほど後方 に散乱されやすい。

水の消散係数のスペクトルを図2に示す。水 によ

る吸収は散乱 に比べて非常に大 きく,消散 の大部

分を吸収が占める。吸収は長波長側で大きい。し

たがって海面に入射した光は長波長側の光 がすぐ

に吸収さ れ,短波長の光が残 る。水の吸収 と散乱

JAMSTECTR 3 (1979)

図 2 水の消散係数(Cw)ヽ黄色物質の吸収係数(゛ly)

およびクロロフィルa溶液の吸光度(ODchl.a)

Attenuation Coefficient of Water(Cw), Absorption Coefficient

oi Ye//ow Subsfance(ay), and Opt/caJ Dens/iy of CWoropfty))-a

Solution ( ODchl.a )

の性質によって,水が多量 に集まると藍色 に見え

る。すなわち,珊瑚礁 が発達 するような常夏の島々

の美しい海の藍色 は水 が多量 に集まったときの色

である。

水の消散係数は測定された例はある〔Jerlov(1968)]

が, まだよく わかっていない。

128

Optical Classification of Materials Contained In Seawater

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(2) 溶存物質

こ れは溶存無機物質と溶存有機物質に分けるこ

とがで きる。

溶存無機物質は主に海塩および栄養塩等であり,

可視域ではこ れらによる吸収は無視で きる。

溶存有機物質は黄色 を呈するので, Kalle (1937)

は黄色物質(Yellow substance , Gelbstoff ) と

名づけた。溶存有機物質の吸収係数は図2に示す

ように短波長ほど指数関数的に大 きくなる〔Jerlov

(1968) 〕。吸収 スペクトルの形は水塊 によって多少

異なると言 われてい る。それは含まれる溶存有機

物質が水塊 によって質的 に多少異 なるためであろ

う。溶存物質による散乱は小さいので無視で きる。

(3) 懸濁物 質

こ れは懸濁無機物質と懸濁有機物質に分けるこ

とがで きる。

懸濁無機物質は主 に粘土鉱物であり,こ れによ

る光の吸収および散乱( 柆径が2μm以上の場合)

は波長依存性 が小 さいとさ れている。

懸濁有機物質はさらに植物プ ランクトンと,そ

れ以外の懸濁有機物質 に分けられる。

植物プ ランクトンによる吸収を調べるために,

植物プ ランクトンの一種であるSKeletonema

co汰山x77zを培養し,それに含まれる色素をアセト

ン水溶液で抽出すると,その吸収スペクトルは図

2のようになる。植物プ ランクトンによる光の散

乱 には波長依存性 があり,吸収 が大きい波長で散

乱 が小さくなり〔岸野,杉原(1978) 〕,その和と

しての消散は波長依存性が小さい〔竹松(1979) 〕。

植物プランクトン以外の懸濁有機物質による消

散は短波長ほど大 きいとされている。

懸濁物質については,その構成物質ごとに独立

に吸収係数および散乱係数を求めることはで きな

い。 St. 1 の表面水と底層水 について,懸濁物質

濃度(mg/j)と消散係数(650mm) の関係を図 3

に示す。測定波長650nm では溶存有機物 質によ る

吸収 が無視で きるほど小 さいので,海水 による消

散は懸濁物 質によ るものと考えられる。 またこの

図 によ れば,懸濁物質が同じ濃度のとき,表面水

中の懸濁物 質によ る消散係数は底層水中のものよ

り大 きい。懸濁物質中の有機炭素濃度とアルミニ

ウム濃度の測定の結果,表面水では懸濁有機炭素

濃度が0.2~3.Omg/j0 (平均1.4mg/ £), 懸濁 アル ミ

ニウム濃度 が0.031~0.054mg μ(平均0.054mg/i?),

底層水では懸濁有機炭素濃度が0.1~0.5mg/Q. ( 平

均O.3mg/j0), 懸濁 アルミニウム濃度 が0.20~1.2mg

129

図3 東京湾の表面水(●)及び底層水(O)に

おける懸濁物質の消散係数(Cp )と懸濁物

質濃度の関係

μ(平均0.90mg/到 であった。表面水の懸濁物質

中には有機物質が多く,底層水の懸濁物質中には

粘土鉱物が多い。したがって懸濁物質の粒径が同

じとすれば,懸濁物質が同じ濃度(mg/助 であっ

ても表面水中の懸濁物質の方が密度が小さいこと

になり,消散係数が大きくなると考えられる。表

面水の懸濁物質濃度(mg/jg) と消散係数の間には

直線関係があるので,懸濁物質の組成はあまり変

化しないと考えられる。表面水中のクロロフイル

ーaと懸濁物質濃度(mg/ £)の関係を図4に示すo

この図から,クロロフイルーa濃度が高いほど懸

濁物質濃度(mg μ )が高いことがわかる。 したが

って表面水の懸濁物質のかなりの部分を植物プラ

ンクトンが占めるのではないかと思われる。

JAMSTECTR 3 (I 979)

Relation between Attenuation Coefficient of ParticulateMatter(Cp) at 650 nm and Concentration of Suspended

Sohd m Surface(*) and Botlom(o) Water of Tokyo Bay

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図4 東京湾および相模湾の表面水のクロロフィ

ルa濃度と懸濁物質濃度

3.2. 水色とそれに関係する水質

CIE 表色系 を用いると,海の色 の色度座標のX,

y,Zはそれぞれ次式 によって計算される。

等エネルギースペクトルについての人間の目の3

刺激値である。

水色計は明度が高く,実際の海の色 とはよく合

わない。水色計の分光反射率をRべ入)とすると,

水色計の色度座標(X1 ダ,Z勹 は,

130

となる。

CIE色度図上で水色計の色度座標(x气 y勹 と

海の色の色度座標(x,y) の主波長が一致したと

すれば,水色計を基準として海の色を測定したこ

とになる。

その際,測定のたびごとに照射光のスペクトル

エネルギー分布は異 なり,等エネルギースペクト

ルについての肉眼の3刺激値にも個人差はある。

しかし水色計の分光反射率を基準としているので

海の分光反射率に対応した水色計の番号として測

定結果が得られると考えられる。したがって,測

定条件としての照射光のスペクトルエネルギー分

布や,人間の目の3色刺激値は,測定結果には大

きな影響を与えないであろう。岡見,岸野(1975)

は,晴 れた日と曇った日とでは水色の測定誤差が

大きくても,1=番程度であると,述べている。

海の分光反射率は,海水の光学的性質によって

決まる。東京湾湾口部および相模湾の表面水では,

懸濁物質中のかなりの部分を植物プランクトンが

占めていると思われる。したがって植物プランク

トンの光学的性質が,概して懸濁物質の光学的性

質を代表できるであろう。溶存有機物質の吸収係

数は短波長ほど指数関数的に大きくなるので,可

視領域で最も短い波長である380nm における吸収

係数を溶存有機物質の濃度 を示す値として用いた。

ここでE(入)は照射光のスペクトルエ ネルギ

ー分布,R(入)は海の分光反射率(海面による鏡

反射を除く),双入), y( 入), z( 入)はそれぞれ

JAMSTECTR 3 (1979)

Refation between Concentration of ChlorcphylUa and

Concentration ot Suspended Sofid In Surface Water of TokyoBay and Sagami Bay

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図5 クロロフ イルーa濃度と溶存有機物質の吸収

係数(ay)フォーレンーウーレ水色の変化 に

与える影響

図5は水色,クロロフイルーa濃度,および溶存

有機物質の380nm における吸収係数の関係を示す。

この図から水色とクロロフイルーa濃度の関係は水

色と溶存有機物質の吸収係数の関係よりも相関が

高い。

したがって,水色を決めている水質因子は第1

にクロロフイルーa濃度であると考えられる。図5

の関係を用い,水色の値から表面水中のクロロフ

イルーa濃度を推定で きることが示唆される。また

溶存有機物の吸収係数とクロロフイルーa濃度から

溶存有機物の吸収係数を推定で きることが示唆さ

れる。

3.3. 透明度とそれに関係する水質

透明度(Dz)は次式で表わされる〔Tyler

(1968)〕。

131

ここで Csw( 入)は海水の消散係数,V(λ)は人間

の目の視感度,Kd い )は下方向分光放射照度の消

散係数である。

下方向分光放射照度の消散係数は,海面下の光

の分布,すなわち海面に入射する光の角度と,海

水の光学的性質によって決まる。したがって,透

明度は主に海水の光学的性質によって決まり,太

陽高度,雲量,および測定者の目の識閾値 などに

よっても影響を受ける可能性があ る。

透明度,クロロフ イルーa濃度,および溶存有機

物質の吸収係数の関係を図6に示す。この図では

図6  クロロフィルーa濃度と溶存有機物質の吸収

係数(ay)が透明度の変化に与える影響

JAMSTECTR 3 (1979)

Effect of Concentration of Chlorophyll-a and Absorption

Coefficient of Dissolved Organic Matter in Changing

T ransparency

Effect of Concentration of Chlorophyll a and AbsorptionCoefficiently) of Dissolved Organic Matter in Changing

Forel and Ule's Color Cord

Page 7: 18. 水色,透明度とそれに関係する水質...Parsons and Strickland (1963) の方法に基づ いて測定した。(8)懸濁物質中のアルミニウム濃度 試水は0.45μmミリポアフィルターで濾過し,デシケーター中で乾燥後,けい光X線分光光度計

透明度とクロロフィルーa濃度の関係は透明度と溶

存有機物質の吸収係数の関係よりも相関が高い。

したがって透明度を決めている水質因子は,第

凵こクロロフィルーa濃度であると考えられる。図

6の関係を用い,透明度から表面水中のクロロフ

ィルーa濃度を推定できることが示唆される。

西条,市村(1960)は,親潮および黒潮水域で

透明度とクロロフィル濃度の関係を求め,両水域

ではその関係に多少の差があることを報告してい

る。

3.4. 水色と透明度の関係

水色および透明度は,現場の光と測定者の目で

行なう水質の測定法である。

水色と透明度の関係は,表面水の懸濁物質のか

なりの部分が植物プランクトンである場合には図

7のようになる。

図7 透明度とフォーレルーウーレ水色の関係

しかし,河川から流出した粘土鉱物や陸起源の

溶存有機物質が多い場合には,その関係は異なる

であろう。

Jerlov (1955) は,バルト海における,陸起 源

の溶存有機物の透明度への影響について報告して

いる。

JAMSTECTR 3 (1979)

4. ま と め

表面水の懸濁物質のかなりの部分が植物プ ラン

クトンであるような水域では,フォーレルーウ ー

レ水色計による水色およびセッキ板による透明度

は,表面水中のクロロフィルーa濃度によって支配

されていると考えられる。

その関係を用いれば,水色または透明度の値か

ら表面水中のクロロフィルーa濃度を推定できるこ

とが示唆される。また,クロロフィル-a濃度と溶

存有機物質の吸収係数には正の相関があるので,

クロロフィルーa濃度から溶存有機物質の吸収係数

を推定で きることが示唆される。

(7) Parsons, T. R. and J. D. H. Strickland!

" Discussion of Spectrophotometry Deter-

mination of Marine-plant Pigments, with

Revised Equations for Ascertaining Chloro-

phylls and Carotenoids" J. of Mar.

Res., 21(3), 155~163. (1963)

(8) Saijo, Yatsuka and Shun-ei Ichimura I

"Primary Production in the Northwestern

Pacific Ocean" J. of the Oceanogr.

Soc. of Japan, 16(3), 139-145 (1960)

132

Relation between Transparency and Forel and Die's

Color Cord

(6) 岡見登,岸野元彰:“フォーレルとウーレ水

色標準液の色と海の色についで;"うみ,13(4),

171-178. (1975)

(5) Menzel, D. W. and R. F. Vaccaro I The

Measurement of Dissolved Organic Matter

in Seawater.," Limnol, and Oceanogr.,

9, 138-142. (1964)

(4) 岸野元彰,杉原滋彦:“植物プランクトンの

光学的性質の測定,”1978年度日本海洋学会秋

季大会講演要旨集 128-129

(1) Jerlov, N. G. ^'Factors Influencing the

Transparency of the Baltic Waters."

Medd, Oceanogr, Inst, Goteborg, 25,

3―19. (1955)

(2) Jerlov, N. G. ! Optical Oceanography.

Elsevier, P. 4, 51 and 56 (1968)

13) Kalle, K.I "Meereskundliche chemische

Untersuchungen mit Hilfe des Zeisschen

Pulfrich Photometers, " Ana Hydrogr.,

Berl., 65, 276-282 (1937)

参 考文 献

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(9) 竹松伸:濁りを構成する物質の波長特性

(1979),理研シンポジウム。

JAMSTECTR 3 (1979)

(10) Tyler, J. E. I The Secchi Disc. (1968),

Limnol, & Oceanogr., 13(1), pp. 1 ― 6.