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2010 Jun No.124 Engineering Advancement Association of Japan 財団法人 エンジニアリング振興協会 ISSN 0910–4593 特 集

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2 0 1 0 J u n N o .1 2 4

Engineering Advancement Association of Japan

財団法人エンジニアリング振興協会

ISSN 0910–4593

特 集

新幹線、新交通|鉄道ビジネス

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2010 June No.124

Engineering Advancement Association of Japan

Contents

随 想 変革と創造久保田 隆 千代田化工建設株式会社 代表取締役社長

座談会 鉄道システムの輸出とエンジニアリング産業和泉 章 経済産業省製造産業局 国際プラント推進室長

大前 孝雄 三井物産株式会社 代表取締役専務執行役員

堀口 幸範 三菱重工業株式会社 執行役員 海外戦略本部長

川名 浩一 日揮株式会社 常務取締役

新幹線、新交通鉄道ビジネス

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(コーディネーター)

インタビュー

鉄道車両ビジネスのグローバル展開—現状と将来—松岡 京平川崎重工業株式会社 車両カンパニー プレジデント代表取締役 常務取締役 ENAAレポート1

ENAA国際標準契約書の改訂版(2010年版)の発行にあたってえんじにありんぐ・ふぉーらむ

英国における鉄道事業の展開鈴木 學株式会社日立製作所 執行役常務社会・産業インフラシステム社 社長

ENAAレポート2エンジニアリング産業の中国進出における日台連携の有効性に関する調査研究

コラム

鉄道分野における国際標準化の現状と課題田中 裕/長沢 広樹財団法人 鉄道総合技術研究所 鉄道国際規格センター

パストラーレ『海から見た南アフリカ』中村 庸夫 海洋写真家

レポート鉄道博物館を訪ねて鉄道の過去・現在・未来と新幹線誕生秘話

ENAA NEWSエンジニアリング業界に特化した業界唯一の人材育成プログラムが新たにスタート!編集後記

表紙の写真(右3点):川崎重工業株式会社提供

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ENAA Engineering No.124 2010.6

「変革と創造」

米国では、リーマン・ショックから始まった経済の低迷状態を打開するため、オバマ大統領が自ら強力なセールスマンになることも辞さないとの輸出倍増計画を発表しました。また、韓国政府はプラント業界を次世代の基幹産業と位置づけ、技術者の人材育成と海外でのプラント受注の支援方針を打ち出すなど、外需策を発表し実績を挙げつつ国民を盛り上げております。

一方、我が国の財務省によれば、リーマン・ショック直後(2008年10〜12月期)とその1年後とを比較すると、日本企業の財務状況は、人件費などのコスト削減効果などにより営業利益および経常利益は約2倍の増益になったとはいえ、売上は当時よりも3.1%下回り、設備投資は、製造業全体で34.5%減、非製造業全体では5.8%減と、日本経済は最悪期を脱しつつあり設備投資に回復の兆候が見られるとはいうものの、まだまだ厳しい状態が続くと想定されます。

今、我が国は、バンクーバー冬季オリンピックでのメダル争いだけでなく、経済競争力においても中国、韓国といった同じ東アジア地域の国々から追い上げられ、一部では追い抜かれと、第二次大戦終結後、国際的な政治環境にも恵まれていたとはいえ、国を挙げて推進してきた経済成長の勢いが停滞し、産業界のみならず日本社会全体が縮こまり、閉塞感という黒い雲に覆われてしまったかのように活動力が失速してしまっております。

しかし、このような時こそ、我々エンジニアリング業界は日本の高度成長とともに培ってきた高い技術力、マネジメント能力、業務処理能力、成長を支えてきた知識・経験、そして頑固なまでのまじめさといった国民性、そういった能力と豊富な人財を活用し、互いに連携し、行動すべき時ではないで

しょうか。多くの若者が皆、夢を持ち、希望を持ち、気持ちをプラス思考にすることができる社会造りを目指して立ち上がる時だと思います。

そのための一歩として、当社はこれまでにも増して、エンジニアリング産業の成長の基盤となる人材の育成に重点をおいていきます。クリーンエネルギー需要の増大や発展途上国の社会インフラ整備など、エンジニアリングを必要とする分野は市場拡大が見込まれます。構想(夢)を現実(カタチ)にするエンジニアリング産業は、明るい将来設計を描き、それを確実に具現化する人材をより多く育て前進していくことが、業態の特性にも合い、日本の未来造りに大きく繋がっていくものと確信しております。

世の中は今、石炭、石油といった化石燃料を大量に消費しながら豊かさを追求してきた産業革命以来の産業構造から脱却し、地球環境保全、省エネ、資源循環型を目指した低炭素/新炭素社会に向かって大きく再構築され始めようとしております。この再構築にあたり、業種・分野にとらわれぬ異業種間の技術の融合や、新たな技術開発により付加価値を増大する無限の可能性を持った我々エンジニアリング業界が、21世紀のグローバル化社会における日本の再出発の牽引役として、地球環境の向上や社会の発展に貢献できるものと自負しております。今、企業に求められているものは「企業自らの変革」であり、「企業自らの創造」による低炭素/新炭素社会の実現です。

我々エンジニアリング業界も、そのお役に立てるよう、スピード感をもって人材を育成し、地球環境とエネルギーの問題解決に貢献できるソリューションを積極的に提供していきたいと思います。

千代田化工建設株式会社 代表取締役社長

久保田 隆 くぼた たかし

1946 年 生まれ 1969 年 3月 東北大学工学部化学工学科卒業 4月 千代田化工建設株式会社入社 1991 年 3月 同社PGFジャカルタ事務所所長 1995 年 4月 同社海外第2プロジェクト本部部長 1998 年 6月 同社豪亜プロジェクト総室長 取締役 1999 年 6月 同社海外プロジェクト総本部長 取締役 2001 年 6月 同社海外プロジェクト統括兼海外営業本部長 常務取締役兼執行役員 2004 年 6月 同社国内プロジェクト副統括 取締役兼執行役員 2005 年 6月 同社技術統括 常務取締役兼執行役員 2007 年 4月 同社代表取締役社長就任

随 想

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ENAA Engineering No.124 2010.62

出 席 者

(コーディネーター)

和泉  章大前 孝雄堀口 幸範川名 浩一

経済産業省製造産業局 国際プラント推進室長

三井物産株式会社 代表取締役専務執行役員

三菱重工業株式会社 執行役員 海外戦略本部長

日揮株式会社 常務取締役

エンジニアリング産業

座談会

鉄道システムの輸出と

環境問題や新興国の急激な発展などを受け、現在、世界各地で鉄道が見直されている。ブラジルをはじめ、ベトナム、インド、アメリカでも高速鉄道計画が浮上しているが、世界で最も安心・安全を誇る新幹線を中心に蓄積してきた日本の技術やシステム、ノウハウをいかに輸出していくべきか、さらに高速鉄道のみならず都市鉄道の輸出についての方向性やエンジニアリングが果たす役割、世界で競争力を持つ日本の「鉄道産業の構築」に向けての戦略的な課題と将来展望について論じていただいた。

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後、政府としてもこの分野の国際ビジネス支援に一層力をいれていく方向になると考えています。

川名 :政府も力をいれている鉄道分野で

すが、世界に目を向けて市場がどうなっているか、マーケットがどのくらいあるのかを把握しておく必要があるかと思います。

大前 :2003年から2005年の期間でみる

と、世界の鉄道平均市場規模は年間9兆円弱という数字があり、今後2016年までに全世界で、年率2から2.5%伸びると予想している研究機関もあります。地域別には、アジア・大洋州が世界平均より高い5.5%で、2016年までには、現在、欧州に次いで大きな市場であるNAFTAを抜くのではないかと言われています。欧州では、東欧も高く、年率7%、環境問題や都市部での大量乗客輸送、穀物や鉄鉱石などの輸送など、道路よりも鉄道がコスト競争力に優れ、そういう意味で鉄道の見直しや鉄道整備のニーズが世界で高まっていると思います。

高速鉄道においての日本の優位性

川名 :日本が誇る鉄道技術としては、やは

り高速鉄道があげられます。高速鉄道と一口に言っても日本の新幹線や在来線の上を走るものなど、世界では高速

鉄道に関する哲学の違いがあり、一概にどのシステムが一番とは言えないと思われます。今、ブラジル、アメリカ、ベトナムなど世界各地で高速鉄道が計画されていますが、日本の優位性はどの辺にあるとお考えになっていますか。

堀口 :優位性というのは、何をもって比較

するかという議論がありますが、東海道新幹線ができてから50年近く無事故できています。その安全性をこれまで一番PRしているところです。これから海外輸出をしていくなかで、ひとつの参考例となるのが台湾新幹線であろうと思います。開業して3年以上たちます。これはBOT案件であり、台湾政府の入札に2グループが参加しました。実は、日本が最初に一緒に組んだ入札では負け、ヨーロッパ組と組んだ事業者が勝ちました。従いヨーロッパの仕様で進むところが、最終的にEPCの部分で逆転して日本連合が受注した経緯があります。従って最初にお客様が提示してきた仕様がヨーロッパ規格であり、それに合わせて、日本の新幹線の技術を輸出したということであり、いろいろ苦労がございました。経産省さん、国交省さんを始め、JRさん、JRTTさん、鉄道総研さん等々大変お世話になりましたが、日本の技術を総動員して対応しました。今後同様にBOTでやっていくのか、あるいはどういう形態で各国の高速鉄道が入札展開されていくのかわかりませんが、それに合わせてこちらの対応を考えていくことになるかと思います。

国際ビジネスと世界の鉄道需要について

川名(コーディネーター):最近、日本政府は産業構造審議会

で、アジアや新興国の成長を取り込んで日本が今後どうやって競争力を発揮しながら成長していくか、真剣な議論をされていると聞いています。そのなかで、システムとして日本の先端技術をパッケージ化して輸出していこうとする動きがあり、特に交通・鉄道に関しては世界的に需要が拡大し、大きな期待が寄せられていると伺っています。はじめに政府の対応、経済産業省の取り組みについて和泉室長にお聞きしたいと思います。

和泉 :産業構造審議会に新たに設置され

た産業競争力部会において、日本の産業の今後の発展の方向性について産業構造ビジョンの策定に向けた議論を行っていますが、特にこれからどのように国際ビジネスを展開していくかが焦点のひとつとなっています。そのなかで海外のインフラ整備がとりあげられ、鉄道も入っています。環境に優しい公共交通機関として鉄道を発展させていくことは、日本に限らず先進国、新興国も含め大きな課題です。経済産業省は、従前から国土交通省・外務省とも協力して、高速鉄道、都市鉄道など様 な々海外プロジェクトの支援をさせていただいています。昨年末の成長戦略の骨子のなかでも鉄道はキーワードのひとつになっており、今

座談会鉄道システムの輸出とエンジニアリング産業

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川名 :ビジネスとして考えたときに、メー

カーによる部品や車両の輸出も非常に重要ですが、システムのEPCとしての輸出やBOT事業としての輸出もあり、一口に鉄道といってもいろいろな取り組みがあります。それぞれの特殊性があるわけですが、鉄道をシステムとして売っていくためには、日本企業はコスト競争力を持ちながら提案能力も高めてファイナンスも含めながら世界的な競争力を高めなければいけません。そういった意味での戦略や今後日本企業に期待したいことについてはいかがでしょうか。

和泉 :鉄道のビジネスモデルは、個別案件

毎に大きく異なります。建設予定地域の人口や都市の人口密度、経済の発展状況、国有鉄道の有無や経営状況など様 な々要素がありますので、一義的にこうだとはなかなか言えないと思います。従って個別の案件毎に、相手が何を考えているかをよく見極めて、こちらがどのように対応していくのかを考えていく必要があります。 

日本政府としてできることのひとつとしては、これまで鉄道が導入されたことがない国に対して、鉄道の安全基準などについて、日本の経験や考え方を伝えていくことがあると考えています。特に高速鉄道では、40年を超えて安全に運転されているという大きな実績があります。これは、日本の高速鉄道の安全性などの考え方が実証されていると言えるので、これは海外でも受入れ易いのではないでしょうか。

もうひとつは、個別案件について、事業スキームなどを出来るだけ早期に相手と議論していくことが大事なの

だと思います。その際には、技術的な問題だけでなく、ファイナンスも含めどうやったら持続可能性のある事業になるのかについて、これまでの日本の経験も踏まえて、先方に理解してもらう努力をすることが大切です。そうした対話の積み重ねの結果として、日本のシステムを採用していただければありがたいですね。

川名 :表面的なコスト競争力という以前

に、まず、大切なのは、日本の経験や考え方を早い時点で現地国に理解していただくことですね。

海外における鉄道ビジネス展開の課題

大前 :鉄道ビジネスでは、例えばブラジル

において、我々は1960年代頃からいろいろなビジネスを展開してきました。今から30 ~ 40年前はまさに輸出の主流が鉄道車両といった単体ものでした。その次は、相手国の老朽化した郊外電車をリハビリしようと、その心臓部として日本が誇る高い技術をもったトラクション機器を持ち込み現地で電車を改造してきた時代。さらには、リオデジャネイロ市の既存近郊線の近代化を手がけ、ファイナンスを手配し車両だけでなく変電・信号システムといったものも更新しました。特に最近、鉄道文化が醸成されていない国において、グリーンフィールドでは全部おまかせ式のフルタンキーベースで行うとか、PPP(官民共同)方式で取り組む案件も増えています。最近脚光を浴びている高速鉄道案件においては、特に長距離乗客輸送という鉄道

和泉 章経済産業省製造産業局 国際プラント推進室長

1963年生まれ1989 年 通商産業省(当時)入省 2003 年 ドイツ証券会社東京支店株式調査部 (官民交流法による出向)2005 年 経済産業省産業技術環境局標準協力調整官2006 年 同 情報電子標準化推進室長 兼 管理システム標準化推進室長2008 年 経済産業省製造産業局 国際プラント推進室長(現職)

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も、コントラクター側は民間企業主体のプロジェクトという位置付けだと思います。一方、高速鉄道(新幹線クラス)は双方国家プロジェクトの位置付けであり、各国の総力をあげた競争と思いますのでコンサルタントの役割は都市鉄道の場合と違ってくると思います。

鉄道分野の標準化への取り組み

大前 :鉄道の海外輸出で避けられない課

題として規格の問題があり、現在、欧州規格(UIC)が世界を席捲しています。日本はJRSですが、世界は基本的にはUIC、又、米州の貨物輸送鉄道や米国の旅客輸送鉄道ではAAR(アメリカンスタンダード)が採用されているなど、国際規格としては日本の規格はないと言ってもいいほどです。

和泉 :これまで日本では、鉄道分野の国

際標準化の取り組みは他の分野と比べると、それほど活発ではなかったように思えます。これは、国内市場が中心だったため、規格づくりも国内が主流だったためと思います。一方、ヨーロッパ規格は、ヨーロッパだけでなくそれ以外の国でも使われているケースもあります。国際標準化に取り組むことは、世界的な鉄道分野の技術進展に日本も貢献していくことが第一義的だと思っています。そうしたなかで日本の鉄道技術を国際標準に取り入れ、その素晴らしさを世界中に知ってもらい、実際に使ってもらうということではないでしょうか。この春から財団法人鉄道総合技術研究所のなかに鉄道国際規格センターが設置され、

文化がないブラジルでは高速鉄道は安全性が最優先されなければならないということが理解されにくいのが現状です。また、いわゆる上下一体方式による事業形態で進めるためには、民間でとるべきリスクとホストカントリーがとらなければいけないリスクがあり、それがきちんと補完されてひとつの事業となりますが、必要な土地の収用、インフラ部分の完工リスク、また、国によっては環境認可など、本来、ホストカントリーで責任をとってもらわなければならないリスクの調整に苦労しているのが実情です。また、鉄道新興国である韓国や中国では、政府主導で事業会社をつくり、民間企業が受けられないリスクを取るという体制で取り組んでいることも特筆されます。

川名 :今、政府主導の事業会社というお

話がありましたが、もうひとつ注目したいのは、フランスのシストラのようにFSや基本設計を行う会社の存在です。欧米の鉄道コンサルタントによって、必然的に欧米にとって好ましいスペックになってしまうということはないでしょうか。

堀口 :その点では、大きく二つに分けて考

えなければいけないと思います。高速鉄道(新幹線クラス)の分野と都市鉄道の分野の二つです。シストラとかパーソンズといった鉄道コンサルタントは都市鉄道の分野でインターナショナルテンダーに参加して競争入札のためのスペック作りをしています。従い、都市鉄道は一般競争の世界であり、入札スペックに対応するしかない。客先側は国家プロジェクトの位置付けであって

大前 孝雄三井物産株式会社 代表取締役専務執行役員

1949年生まれ1973 年 三井物産株式会社入社1993 年 ブラジル三井物産有限会社 副社長1995 年 三井物産株式会社本店通信・輸送プロジェクト 本部輸送・工業プロジェクト部交通プロジェク ト第一室長2004 年 三井物産株式会社執行役員、 ブラジル三井物産株式会社社長 兼米州監督付(在サンパウロ)2007 年 三井物産株式会社常務執行役員、 ブラジル三井物産株式会社社長 兼米州本部長付(在サンパウロ)2008 年 三井物産株式会社常務執行役員、 プロジェクト本部長2009 年 三井物産株式会社代表取締役専務執行役員 (現職)

座談会鉄道システムの輸出とエンジニアリング産業

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国際標準化活動が飛躍的に強化されました。国際標準化活動で大事なことは、センターに活動を任せっぱなしにするのではなく、企業で活躍している方が国際標準化の具体的な活動に直接参加することです。日本から新規の国際標準の提案をすることも重要ですが、欧州の提案に対して積極的に意見を言っていくことも重要です。国際標準化活動が活発化されれば、結果的に今よりも規格の面でビジネスがやりやすくなる環境が作られるものと大変期待しています。

鉄道ビジネスの特徴

川名 :エネルギー分野では原油価格がエ

ネルギープラントビジネスに直接影響します。一方、鉄道分野のビジネスは景気変動による変動も少ないと思われますが、どのような特徴があるのでしょうか。

大前 :鉄道事業の場合は、ともかく時間

がかかります。ブラジルというひとつの国をとってもその中に、先進国と後進国が混在しています。長距離乗客輸送はほとんど経験がない一方で、リオデジャネイロやサンパウロなどの大都市には地下鉄があり、近代的な郊外線もあります。そこでは、経験が豊富にあり、システムを選別したり、部品を選んで発注したりしています。たとえば、今サンパウロの地下鉄の4号線の建設が進んでいますが、それはPPP方式で進められています。上下分離方式で、線路やトンネルといった下の部分の整備は官のスコープで、これにJBIC

(国際協力銀行)がファイナンスを供与、車両や変電・信号システムなど上の部分を民間が請け負い、これからオペレーションに入りますが、非常にうまくスキームアップされていて、同じ国でも考え方ややり方が大きく異なる好例だと思います。

堀口 :化学プラントとかのプロジェクトは

原油価格の影響はあるでしょうが、特に民間投資の場合は基本的に事業性があれば進むと思います。ところが鉄道の場合は基本的に事業性がありません。従い、税金を使った公共事業(国家プロジェクト)にならざるを得ません。また、選挙等で政権が変わり国の方針が変わるという影響があります。莫大な資金が必要なのに事業性が無いので高いハードルがたくさんあり、プロジェクト実現までに相当の時間を要します。資金の面では円借款とかODAがありますがこれも時間がかかります。また、鉄道ビジネスは点と線の工事という特徴がありますが、線の部分の軌道工事用の土地収用問題があります。途中民家等があり、土地収用に何年もかかりプロジェクトスケジュールに大きく影響することもあります。

海外進出とファイナンス

大前 :長期に及ぶ海外での鉄道インフラ

ビジネスにおいて低利・長期の円借款は大変有効です。しかし、問題はその組成に大変時間がかかること、また、相手国による要請ベースであること等で、こうした点の改善を政府としても前向きに考えていってほしいと思います。

堀口 幸範三菱重工業株式会社 執行役員 海外戦略本部長

1951年生まれ1974 年 三菱重工業株式会社入社2003 年 機械事業本部交通システム部次長2004 年 機械事業本部交通システム部長2006 年 機械・鉄構事業本部交通システム部長2009 年 執行役員 機械・鉄構事業本部 副事業本部長2010 年 執行役員 海外戦略本部長(現職)

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和泉 :政府としても資金面でのサポートも

重要と思っています。円借款は、案件実現までに時間がかかると言われていますが、われわれもできるかぎり短くしようと努力をしています。

特に鉄道は事業性の点で難しいケースがあるため、円借款により公的に整備することが必要なこともあると思います。事業性を無視して整備して、後で経営が続かないことになっても困りますから。そうした観点からは、高架やトンネルなどのインフラと、車両・運行を分離するといういわゆる上下分離方式で、下は公共事業として建設するというのもひとつの考え方と思います。ただ、現状をみると、各国の個別案件の状況をみていますと、これだというやり方は決まっていないようですね。そうした意味で、鉄道ビジネスのモデルはまだ確立しているとは言い難いのかもしれません。

大前 :発電事業のIPPのようにビジネスモ

デルが確立しているのと比べ、未だ海外の鉄道事業は試行錯誤の状況にあります。また、日本の高速鉄道を海外で導入するといったときに欠かせないのがオペレータだと思います。これまで以上にオペレータの積極的な参加が得られないと、海外での日本式高速鉄道ビジネスの推進に支障を来たすのではないかと危惧します。

重要となるローカリゼーション

川名 :原子力発電の場合もそうですが、

新興国になればなるほど、現地にはノ

ウハウがないわけですから、技術移転やオペレーションまで踏み込まないと前に進まないということでしょうか。

和泉 :日本の鉄道事業者の方も、国際ビ

ジネスをやっていく必要性について認識を高めている会社が増えているように思います。ただ、これまで実績があまりないため、現実的には少しずつやれるところから経験を積んでいくことが大切かもしれません。

また、鉄道の運営事業は、ローカリゼーションが重要だと思っています。先ほど早期の段階から先方に入り込むという必要があると話しましたが、誰がオペレーションで主体的な役割を担うのか、また、資金面では誰が担うのかなどについて、現地の企業や金融機関などときちんとした関係を構築していくことが大きな鍵になるのではないでしょうか。もちろん、連携した現地企業に対して日本の技術をきちんと伝えていくことも重要です。

川名 :米国では公共事業に米国製品の

調達を課すバイアメリカンがありますね。進出する、輸出先の、その自国のリソースをいかに使っていくか、ということも大事ではないでしょうか。

堀口 :そのとおりだと思います。建設工事

関係は現地業者を使うというのが第一と思います(現地業者が存在する場合)。我々はプロジェクトマネジメントが主体です。競争力という意味でも重要ですし、引渡し後のアフターサービスも重要になってきます。将来は技術移転もしながらますます現地化を

川名 浩一(コーディネーター)

日揮株式会社 常務取締役

1958年生まれ1982 年 日揮株式会社 入社1997 年 ビジネス開発本部アブダビ事務所長 兼クウェート事務所長2001 年 第一事業本部営業本部ロンドン事務所長2004 年 営業統括本部プロジェクト事業推進本部 プロジェクト事業投資推進部長2006 年 営業統括本部新事業推進本部長代行2007 年 執行役員 営業統括本部新事業推進本部長2009 年 常務取締役 営業統括本部本部長(現職)

座談会鉄道システムの輸出とエンジニアリング産業

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するという風土で育ってきました。ヨーロッパは逆にオペレータに技術が蓄積されてこなかったことから、メーカーがタンキー型ビジネスに取り組み経験・能力を蓄積してきました。商社やシステムインテグレーターの立場で申せば、これまで国籍を問わず競争力のあるメーカーと案件毎にケース・バイ・ケースで組んできました。我々日本企業がコンペティターと位置づけているシーメンスとも一緒に取り組んだビジネスもあります。唯一異なるのは新幹線案件です。世界仕様標準化の問題も含めて日本が誇る新幹線の技術や仕様を日本連合として世界標準に仕立て上げるような展開になればいいと思っています。

日本企業の強みとエンジニアリング

川名 :日本の鉄道産業が海外へ出て行っ

て成功するには、競争力を持っていかなければいけません。ビジネスの仕組みや規格を含め、コスト競争力をつけて欧米や中国・韓国にはない日本の強みを発揮していくためには、どんなことが求められるのでしょうか。

和泉 :市場としてどこに主眼をおくか、も

重要と思います。例えば車両ですと、これまでは国内が主で海外が従というイメージでしたが、海外市場が重要となると、海外向け仕様の車両開発といったことも必要になると考えます。実際に、そういうコンセプトや取り組みを進めているメーカーも現れています。そういうときには、単に価格が安ければいいのではなく、品質面

など日本のいいところを海外にも認めていただく、そうした相手国にあわせた開発や方向性が競争力を持つひとつの要素ではないでしょうか。

大前 :欧米のメーカーは現地化ということ

に力を入れています。鉄道ビジネスにおいては、政府の関与度が大きく、そうしたところとの関係強化を母国政府がバックアップし、日本の企業がやりたくてもやれないことをやっています。単体輸出を含め、どんな小さなビジネスでも、それを通じてお客との関係ができ、日本の鉄道文化や技術が理解されていくと思いますが、一方でお客との関係強化を進める上で現地政府との関係強化も必須です。これは鉄道事業だけでなく、あらゆる海外事業においても言えることです。ビジネスを通じ国民性もわかってきて、お客にどういうニーズがあり、何をどう提案していけばいいのかが明確になります。そうした知見・経験の蓄積に基づく地域性にあわせた対応が、商社の提供できる機能であり、バリューなのかもしれません。経験を積んだある特定の国ではかなりのことができるという自負があります。アフターサービス面では、欧米は契約主義に徹しますが、日本企業は契約になくても自発的にいろいろなアフターサービスをやっていくという点で欧米メーカーとの差別化ができると思います。それを通じてお客との信頼関係が醸成されていくわけです。重要なのはひとつふたつ失敗があっても止めないことです。

川名 :日本人のマジメさ、コミットメント、き

めの細かいサービスは武器ですが、それがわかるまで時間がかかるもの

図る必要があると思いますのでローカルパートナーとの関係が極めて重要となってきます。

日本連合とそのコンペティター

川名 :次に、日本にとってのコンペティター

の動向はいかがでしょうか。メジャー御三家と呼ばれるシーメンスやアルストーム、ボンバルディアは、ひとつの会社で上流から下流までサブシステムもすべてができる体制にあります。日本ではメーカーがそれぞれ独立していてサブシステムが分断されていると言われていますが。

堀口 :メジャー御三家は確かに一括で全

部できます。しかし、フルタンキーではリスクが大きく、多くの失敗も経験しています。従いリスクの大きいタンキービジネスに積極的でないとも聞いています。実際に7、8千億円/年の事業のうち、約6割が車両単体ビジネス、20%くらいが信号システムやサービス関係、残りの10 ~ 20%がタンキーのEPCビジネスで、車両単体ビジネスが圧倒的に大きいといわれています。また、第三国の高速鉄道においては中国や韓国がリスクを取ってでも参加しようとしているため、彼らの下請でサブシステムのサプライに徹しようとの動きもしているようです。

大前 :日本と欧州の鉄道産業は生い立

ちから違います。日本は元来、旧国鉄が技術力・設計力を備え、自ら仕様を作って発注し、民間がその通りに施工

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ですね。それは覚悟の上でやっていくしかない。ところで、いろいろな国のなかで、これからは中国を意識しなければならない。今後、世界の鉄道プロジェクトの半分くらいが中国になっていくかもしれません。中国における鉄道ビジネスの動きも気になります。

堀口 :当社は残念ながら中国市場には参

入できておりません。中国の鉄道事業は国家事業ですし、すでに線路工事もお手のものです。海外から導入した技術も自分のものにしていますし、車両もすでにとてつもない生産規模を持っています。想像を絶するくらいのスピードで圧倒されます。国内に大きなマーケットが広がっていますが、むしろ、これからは、海外にコンペティターとして出てくるのが脅威です。

鉄道ビジネスの可能性と、夢、将来像

川名 :未来型といいますか、都市型の交

通、LRTなどといった分野もこれからは期待されますが、それに関してはどのように取り組まれていますか。

大前 :LRTにおいては、圧倒的にヨーロッ

パが強く、それでずっときています。日本の地方自治体でも導入の動きがありますが、資金面の問題に加え、各種規制が厳しいことが導入の障害となっています。車体強度の問題を含めた規制緩和がなされれば日本のLRTの競争力は高くなると思います。財政面での国の支援により地方自治体の負担が軽減されればLRTの導入も活

性化され、そうした実績の積み上げによって海外へ出ていくという方向がいいのではないでしょうか。弊社も長年国内でモノレールの建設を手掛けてきました。1990年代の後半は正にモノレールの建設ラッシュでしたが、結局、コストが高く、自治体が導入できる限度を超えてしまい、最後は沖縄モノレールで終わったと記憶します。海外で日本固有のシステムであるモノレールを最初から提案していけば、商談を有利に進められるという考えもありますが、基本的に高コスト構造で価格競争力がないことが問題です。環境面でLRTは有利ですから、その導入促進を国のほうで支援していただく。財政面での支援に加え、規制緩和でもっと軽くて安い車両を投入できるような環境が整えば、日本製LRTの競争力が強まるものと確信します。

川名 :鉄道ビジネスの現状や世界の情

勢、各国の動きの中でどう日本が立ち向かっていくかというお話や、都市型交通システムなど鉄道のその他の可能性などについてお伺いしてきましたが、最後に鉄道ビジネスの夢や将来像についてお聞かせください。

大前 :夢は日本規格の世界標準化です

ね。日本の新幹線が世界のスタンダードになって、全面的な政府のバックアップを受けながら世界にどんどん浸透していくといったイメージです。

堀口 :JRさんや多くの協力を得ながら日

本連合で総力を挙げて成功した台湾新幹線の、第2、第3を生みながら技術

を伝承していきたいと思っています。

和泉 :ビジネスの側面だけでなく、鉄道は

経済の発展にも大きく貢献しています。特に新幹線は、多くの国民に親しまれ、日本の誇りと言えるものでもありますから、これが世界で共有され、世界の経済・社会の発展にも大きく貢献し、あわせて日本の発展にもつながれば素晴らしいと思います。

川名 :日本の高い安全基準や考え方を

できるだけ早い時期に説明して納得していただくというお話がありました。また、長い時間をかけても各層との信頼関係をつくっていくことや単品からになるかもしれませんが、評価を積み重ねながら、優秀な鉄道技術を持つメーカーなり、海外とも連携し、かつ現地化を促進して相手国のニーズを吸収していくことの重要性が再認識できました。さらに、O&M等で顕著に現れる日本のきめ細かさが競争力につながっていくなど、ようやく鉄道のビジネスが動き、世界へ進出しやすくなっているといったお話があり、これからの鉄道ビジネスとともにエンジニリングへの期待をさらに高めることができました。

本日は、貴重なご意見を、どうもありがとうございました。

座談会鉄道システムの輸出とエンジニアリング産業

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ENAA Engineering No.124 2010.610

鉄道車両ビジネスのグローバル展開 現状と将来

松岡 京平 まつおか きょうへい

川崎重工業株式会社 車両カンパニー プレジデント代表取締役 常務取締役●1949年生まれ●1973年4月川崎重工業株式会社入社●2006年4月執行役員●2008年4月常務執行役員、車両カンパニーバイスプレジデント●2009年4月車両カンパニープレジデント●2009年6月代表取締役常務取締役就任

1:沿革と事業展開

 車両メーカーとしての歴史

私ども川崎重工業のルーツは1896年設立の株式会社川崎造船所です。当社車両カンパニー兵庫工場は、10年後の1906年に運河分工場として神戸市東尻池村に開設されました。この年は鉄道国有法の公布や、南満州鉄道株式会社の設立など、わが国の鉄道史上、重要な年でした。創業の狙いは、日本で蒸気機関車を国産化することであり、日露戦争で海外から多額の借金をして外貨が厳しくなったため、政府からの要請もあったと聞いています。当時多量の部品を世界から輸入していましたが、それをできるだけ国内で造ろうということでもありました。その後1920年代には満州や朝鮮など海外に輸出するまで事業は発展していき、早くから輸出を主たるビジネスユニットとしてきました。終戦後も程なく南米や東南アジアに輸出した経緯もあり、そういう意味では、戦前の輸出の土壌が残っていたと思われます。

技術ではヨーロッパと同じレベルまで発展し、追い越したのが、東海道新幹線プロジェクトです。これを契機に日本の車両技術の進化に拍車がかかります。さらにアメリカへの進出を経て、近年の台湾高速鉄道を担当したことで飛躍的に力をつけたと感じています。

 市場規模と売上

鉄道車両分野の市場規模は世界で約4兆円/年ですが、そ

の約半分をヨーロッパが占めています。日本市場は電機品を含め約3,000億円ですから、世界に対してわずか8%に過ぎません。その中で当社は国内車両メーカーの3割弱を占め、海外事業もアメリカを中心に展開し、連結売上は1,500億円/年。世界の約4%という現状です。

現在、連結売上の半分強が海外向けであり、これからも右肩上がりで伸びていくと予想しています。特にアメリカとアジアが成長の大きな可能性を秘めた分野だと捉えています。国内は、更新需要はありますが成熟していますので、市場の拡大はあまり望めません。5年後には、国内1に対し海外2の比率で、売上レベルでは50%増の2,250億円/年の規模に持っていきたいと考えています。

2:車両開発の新コンセプト

 「E5系」でさらに進化

現在、新たな車両開発コンセプトを掲げて取り組んでいます。そのひとつはJR東日本さんの開発に参画している「E5系」新幹線です。日本での営業の最高速度となる時速320kmを予定しています。この営業車両の前に高速試験電車の開発にも参画し、様々な制約のある路線条件や非常に厳しい日本の環境基準を克服しました。高速になればなるほど騒音や空力、乗り心地をどう維持し向上させるかといった課題が難しくなります。幸いにも当社には幅広い技術と層の厚い人材を持つ技術開発本部や航空機の技術を持つカンパニーがありますので、そこで培った解析手法や風洞実験等のデータを活用しています。

Interviewインタビュー

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ENAA Engineering No.124 2010.6 11

Interview

基本的には、より環境にやさしく、よりエネルギー効率が良く、同時により乗り心地が良い、言わば二律背反のテーマを長い間かけて解決してきたのが、私どもの車両開発の特徴です。

 海外向けを狙った「efSET」

海外向けに独自のリソースだけで取り組んでいるのが新型高速鉄道車両「efSET(イーエフセット):Environmentally Friendly Super Express Train」です。これは、今までの開発と異なる目的と性格を持っています。従来は、お客様の開発に参画したり、共同開発を行ってきましたが、それを新たな客先に提供する場合は、当社だけの判断でという訳にはいきません。そこで独自に車両開発をしよう、ということになりました。

国内では営業最高速度の時速320km※1化が計画されていますが、路線条件や基準などが異なる海外では、例えば中国では時速350kmですでに営業運転され、時速380kmという計画もあります。時速350kmですと、1,000kmの距離までは飛行機に時間的にも負けません。時速350kmの営業速度をターゲットとし、省エネルギーで環境にやさしい高速車両、それが「efSET」です。今後の海外市場での受注獲得と地球環境の未来への貢献を目指しています。

 高速鉄道分野で強みを発揮

プロジェクトはいろいろありますが、高速鉄道の案件は特にリードタイムが長いのが特徴です。例えば、韓国の高速鉄道の場合、1992年から12年かかって2004年に営業を開始しました。それに比べれば、私たちが手がけた台湾高速鉄道は、契約から7年程で営業までこぎつけました。そういう面で、これからもリードタイムが勝負に大きな影響を及ぼすファクターだと思います。

いつ、どこから声がかかるかわからない、こうしたあらゆる状況にも対応でき、アメリカやベトナムなどその時々の多様なニーズに応えて柔軟に対応していく態勢を整えています。例えば日本の場合はトンネルが多いため非常に高度な技術が必要であり、その課題については先頭形状や構体構造を工夫するなどして解決してきました。フランスは異なるプライオリティで対応していますから単純には比較できませんが、ただ乗客一人当たりの車両重量、あるいは必要とするエネルギーの量など、優位性を発揮できるということをお客様にはプレゼンし、主張させていただいています。

3:これからの海外戦略

 海外工場の意義

現在アメリカで、ニューヨーク州のヨンカース工場とネブラスカ州のリンカーン工場の2つの工場を稼動させています。神戸の兵庫工場は月間約80両の生産能力がありますが、日本で車両を造ってアメリカに輸出しようとすると、たとえ規制がなくても為替や物流コスト等の採算上の問題が常につきまといます。基本的にアメリカ向け車両はアメリカで造り、できるだけ現地で解決したいと考えています。

私たちにとって生産工場は、事業遂行上の重要なファクターです。車両の製造は車体と台車とに分かれ、車体は構体を製作した後、艤

ぎそう装とよばれる内装工事や機器取り付けなど、

最終組立を行いますが、特に鉄道車両においてキーコンポーネントである台車は日本で造るほうが有利だと考えています。また、もうひとつ、エンジニアリングは競争の一番重要な部分ですから、これも日本で行いますが、その他を現地で行うことにより、1ドル80円〜70円位の円高になってもプロジェクト全体が受注できる仕組みができます。さらに現地の雇用拡大や産業振興に資することは、客先の評価上有利もしくは必須となります。現地の政治や経済政策に合うように対応しないとなかなか受注できないという状況ですから、現地工場が大きな武器になります。またバイアメリカという視点からは、材料費の6割以上をアメリカ製機器・部品としなければならず、最終組立もアメリカ国内でなければいけない、といった2つの制約があり、どうしても現地に工場が必要になります。

 規格における優位性

さらにアメリカの難しいところは、特に高速車両の技術基準がないところです。その基準づくりにヨーロッパのものを採

※1 営業運転では最高速度は320kmの予定です。(今年秋頃からの営業)試験車両の最高速度という意味ではリニア新幹線ですが、新幹線の試験車両でも10数年前に400kmを超えてます。(海外では試験車両で500kmもあり)

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ENAA Engineering No.124 2010.612

用するか、日本のものをとりいれるのか、そこも大きなポイントです。国土交通省が積極的な働きかけをされている背景には、日本の新幹線の規格が排除されてしまうと圧倒的に日本のメーカーが不利になってしまう心配があるからです。わが国の鉄道車両工業が国際競争力を失わないためには、日本というローカルの規格を採用してもらう働きかけを国としてもグローバルに行わないといけない時代でしょう。これは、原子力発電所、プラント、水道システムなどでも同じであり、一般企業単独ではできないことだと思います。

4:台湾高速鉄道について

 高度な耐震性

台湾高速鉄道(いわゆる台湾新幹線)については、当初、ヨーロッパに優先交渉権があり、それが逆転して日本に回ってきました。その大きな理由のひとつには地震対策があり、その面においては日本の新幹線が圧倒的に有利でした。しかし、それまで準備していた仕様やコンサルティングはヨーロッパであり、それが踏襲され発注されました。日本では、700系新幹線をベースにして仕様を決めようとしましたが、ヨーロッパとは仕様が違うため大変苦労しました。しかし、そうした困難にも関わらず、契約から7年足らずで仕上げることができ、開業後も順調に運行されています。

 日本型に近い成功例

台湾高速鉄道は、1日12万人以上との当初予測を下回る乗客数で推移していましたが、最近では1日あたり10万人程度にまで増加し、運賃収入だけでも経営できる状況に徐々に近づきつつあります。理想は、運賃収入プラス駅周辺の開発収入あるいは駅ナカといった収入などを含めて考えるべきであり、

経営は厳しい状況ですが、運行は非常に順調。これだけスムーズなケースは自国でやっている以外ではあまりありません。

高速鉄道事業の経験がないところが母体であるだけに、その後のメンテナンスについても協力させていただいています。何もないところから動き出したプロジェクトとしては、大変成功したケースだと思います。

5:日本連合とシステム提案の方向性

 日本連合で打って出る

台湾高速鉄道のプロジェクトでは、商社がファイナンスや貿易保険を担当し、コアシステム(車両、信号通信、電力、その他各種地上設備)の一部としての車両供給は、日本の車両メーカー 3社(川崎重工、日本車輌、日立製作所)が行いました。軌道工事が2,000億円、コンソーシアム・コアシステム3社(川崎重工、三菱重工、東芝)の売上は全部で5,500億円。その内、車両が1,000億円弱です。一社で遂行するにはリスクが大きく、三菱重工がコンソーシアム全体のとりまとめを行い、日本の主たる新幹線メーカーの3社が関わった、まさに日本連合のプロジェクトです。

私たちは車両を造ることをコアに100年ほど事業を行ってきましたが、最近は新興国を中心に、鉄道システムを設計・建設まで一括発注するか、場合によっては事業主体までやってくれという状況です。あらゆることができることは有利なのですが、自社製品を所有していることが必ずしも有利とは限りません。競争原理によって最適なパートナーとの連携によるベストミックスという視点で取り組むことが有効であり、それによってリスクの回避と同時にさまざまなメリットが生まれています。

これからは、このシステムなら何が最適なのか、それを目利きする力が重要だと考えています。その目利きするスタッフを持つことが成功の鍵でもあります。私たちの強みは長年培った鉄道車両に関する技術ですが、それをコアにしつつも、鉄道を構成する他のシステムは他の専門業者と連携して、トータルシステムでの対応を目指していきます。

 アジア・アメリカへシステムで

交通インフラの整備が遅れている新興国等では、ODA(Official Development Assistance:政府開発援助)を活用して新たな都市鉄道を導入する計画があります。私たちも初のシステム受注を目指して取り組んでいます。私たちは車両については強くてもプロジェクトマネジメントは経験が限られて

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ENAA Engineering No.124 2010.6 13

Interview

おり、エンジニアリング会社や商社と連合軍で対応していきたいと考えています。

また都市と都市とを結ぶ高速鉄道は大きな投資ですから、回収に大きな課題が伴います。資金負担や交通インフラ整備を国が先頭を切ってやるのだという意志がはっきりしていることが大切だと思います。アメリカの場合は、高速鉄道建設を通じた雇用創出・関連産業振興が目的ですから、大変意義があり機能すると思います。プロジェクトは数多くありますが、国や事情が変わればその中身も変わります。私たちが本気で取り組んでいけるかどうかは、採算性はもちろんお客様や政府も含めコミットメントしていることが条件になるかもしれません。

6:世界トップクラスを目指して

 LRTの車両開発

高速鉄道の他に、LRT(Light Rail Transit)は現状では経験が少ない分野ですが、需要動向をみると増加傾向にあります。コスト的に安く、都心部の交通手段として効率面でメリットがあります。そこに私たちが入り込んでいくため、コスト的な優位性だけでなく、さらなる差別化のために私たちは電池駆動のLRV(Light Rail Vehicle)を開発しました。これは現在、10km以上を充電なしで走れるもので、「SWIMO」と呼んでいますが、路面電車に自社開発した大容量のニッケル水素電池「ギガセルⓇ」をオプションで組み合わせて差別化して入り込もうという考えです。

 経験を重ね技術を地道に強化

鉄道はもちろん高度な安全性が求められますが、特に難しいのはアメリカです。バイアメリカも含め、基準やその条件をクリアするには10年程度の経験では無理だと思います。近年中国や韓国の鉄道技術も急速に進歩し、インドや中近東等に進出していくことが予想されます。製造する車両も急速に進歩していますが、野球で例えると、まだ直球しか打てない、という状況ですが、アメリカでは変化球が打てるかどうかという高度なレベルが求められます。私たちは一歩も二歩も先を行き、ストレートはもちろんカーブも打てるようになっていますが、フォークボールといった変化球にもしっかりとした対応が必要になっていますので、経験を積み重ね様々な状況への対応力を磨きながら、技術を地道に強化していくしかないと思います。

 トップを走り続けていくために

アメリカ市場では海外メーカーとの競争が激しく、ここで欧州の3強と競り合いながらも私たちは高い評価をいただいています。高速鉄道が技術を比較する大きなリトマス試験紙といえますが、台湾高速鉄道で実績を積み、中国でも日本の技術をベースにした車両のシェアがトップで30数%を占めており、技術・信頼性の総合力でも評価されています。

基本的にこの兵庫工場で、多いときには海外から100人程度の訓練者を手取り足取り教えてきました。その人たちが自国に帰って指導者となって造っている車両が、アジアをはじめ世界を走っています。ですから、現実的には私たちが教えた技術で安全に走っているといえます。ただ驚くのは、教えたことから低コストで品質が良いものを造りあげていますので、ある意味では、強い競争相手になっています。だからこそ、私たちはさらなる技術開発を続けていかなければいけません。

また大事なことは、戦略的な方向性を持って難易度の高いプロジェクトに取り組んでいくことです。単純リピートの車両で利益を出してもそれだけでは新しい技術・市場のための進歩はありません。これを意識的に継続していくことは、プラント業界でも同じだと思います。先端技術などの研究開発費を継続的に確保しながら、高度なプロジェクトについても事業発展のための機会ととらえて果敢に挑戦する、そういったところも世界トップクラスの条件といえるのではないでしょうか。

利益率の追求だけでなく、プロジェクトを工程どおり完遂すること、完遂するために、できるだけ各工程のリードタイムを短くする。これからもできるだけお客様のニーズを吸い上げてしっかり対応し、グローバルステージで大きな満足と信頼を勝ち取っていきたいと考えています。

広報誌編集分科会 分科会長 笠原 文東同 副分科会長 藤村 久夫

聞き手

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鈴木 學 すずき がく

株式会社 日立製作所 執行役常務 社会・産業インフラシステム社 社長●1947年生まれ●1972年株式会社日立製作所入社●1992年同社営業本部交通部長●1997年同社営業企画本部企画部長●2000年同社電力・電機グループ電機システム統括営業本部交通営業本部長●2003年同社電機グループ交通システム事業部長●2005年同社執行役常務電機グループ長&CEO兼交通システム事業部長●2009年同社執行役常務社会・産業インフラシステム社社長兼IEP推進本部長

英国における鉄道事業の展開

えんじにありんぐ・ふぉーらむ

停滞した結果、車両故障による慢性

的な列車遅延や重大事故が発生し、

これを受けて新たな車両需要が出て

きた。これを狙い、当社は英国鉄道市

場への参入を検討開始し、1999年、

ロンドンへ鉄道担当の駐在員を派遣

した。英国は世界の3大鉄道車両メー

カー(ボンバルディア、シーメンス、アル

ストム)のお膝元であり、この3社が圧

倒的な存在感を示しており、予想はし

ていたものの英国市場への参入は容

易ではなかった。英国鉄道業界にお

ける当社の知名度はほとんど無く、日

本のお客様に鍛えられた高い品質を

アピールするも、英国での実績が無い

ため「ペーパートレイン」と揶揄され、

入札に参加してもなかなか受注に至

らなかった。当時、欧州メーカーは、車

両の営業投入に際して取得必要な英

国安全認証(セーフティ・ケース)の取

得に苦労し、納期遅延を多発させてい

た。そこで当社は、自社製品の品質を

証明するとともに英国インフラへの適

合を実証し、実案件に先んじてセーフ

ティ・ケースを取得すべく、英国の既存

車両に当社駆動制御機器を搭載し、

2年近くにおよぶ長期試験を実施し

た。これにより、セーフティ・ケースを取

得するとともに、各種インフラのデー

タを収集することができた。幸いなこ

とに、この長期試験において1回も不

具合が発生せず、当社の認知度向上

とともに、当社製品の信頼性の高さを

証明することも出来た。

一方、英国における事業展開におい

て、日本人では限界があり、英国鉄道業

界に詳しい英国人を積極的に登用す

るとともに、当社主催の鉄道セミナー

の開催、鉄道展示会への出典等、地道

なPR活動も続けた。

これらの活動によって、英国における

当社のプレゼンスは少しずつながらも

高まっていった。

❸ CTRL クラス395電車

こうした中、2003年、ロンドン中

心部とロンドンの南東に位置するケ

ント州を結ぶ高速電車29編成174両

の入札が発表された。この高速電車

は、英国初の高速鉄道線であるCTRL

❶ はじめに

2009年12月、当社が製造した高速

車両クラス395が英国で正式営業運

転を開始した。本車両は、鉄道発祥の

地、英国を走る初の日本製鉄道車両で

あり、また、初のヨーロッパ向け日本製

高速鉄道車両でもある。本車両は、日

本で培った高速鉄道車両技術を英国

の鉄道システムに適合させて開発した

ものであり、高速専用線と在来線の双

方を直通運転し、沿線住民のロンドン

への通勤等で活躍している。

当社は、車両の製造・納入に加え、

日々の保守事業も立ち上げており、英

国の鉄道市場に根を下ろし、更なる事

業展開を計画している。

本稿では、英国における当社鉄道事

業をご紹介する。

❷ 英国鉄道事業への   参入の経緯

英国国鉄は1993年に分割民営化

されたが、車両やインフラへの投資が

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ENAA Engineering No.124 2010.6 15

(最長35年)が含まれている。

本 車 両 は、当 社 が 得 意 とする

「A-train」コンセプトに基づいた車両

であり、日本の新幹線や特急車両で

培った軽量化、高速化技術を盛り込

んでいる。特徴は、①外板・骨組みの一

体化によるアルミ軽量車体、②歪みが

少なく高品質・高精度な車両を実現す

る摩擦熱を利用した接合技術「摩擦

撹拌接合(FSW)」、③内装モジュー

ル化の採用であり、環境やリサイクル

性に優れた車両となっている。英国で

運用されるため、英国の規格、運用、イ

ンフラ等の英国鉄道システムに適合

させる必要があったのみならず、欧州

規 格(TSI:Technical Specification for

International operability)にも適合させ

る必要があり、衝突安全性、強度(車

体・台車)、騒音、耐火等、多くの新規開

発が必要であった。また、車両全体の

設計の正当性について審査機関の承

認を得る必要があり、この書類作成・審

査対応に多大な苦労を要した。

一方、自社にて日々の保守を行う必

要があるため、保守性を考慮した設計

にするとともに保守部品の調達を考慮

(Channel Tunnel Rail Link :英仏海峡

トンネルとロンドン中心部を結ぶ高速

新 線。現 在はHigh Speed Oneと呼

称。)と在来線の両方を走行する車両

であり、ロンドンから途中駅(エブスフ

リート/アッシュフォード)まで高速新

線を最高速度225km/hで走行し、そ

こから先は在来線を走行する直通列

車である。

本入札はボンバルディア、シーメンス

との激戦になったが、当社はこれを制

して2004年に優先交渉権を獲得し、

半年にわたる厳しい契約交渉の末、

2005年6月、ようやく契約締結に至っ

た。当社が契約に至った理由として、日

本国内で長年培ってきた新幹線に代

表される高度な鉄道技術と、前述の英

国における長期試験で実証した高い

信頼性が大きなポイントになったと考

えられる。英国では車両リース会社が

鉄道運行事業者へ車両をリースするビ

ジネス形態が主流であり、本契約も車

両リース会社との契約である。また、英

国において、車両メーカーは、車両の納

入に加えて日々の車両保守も請け負

うケースが多く、本契約にも車両保守

し、欧州製部品を多く採用している。こ

れら欧州製部品の多くは納期遅延・品

質等の問題を抱えていたため、納期遵

守の対策に奔走した。

こうした苦労の末、2007年6月、第

一編成が当社笠戸事業所(山口県下

松市)から航路で英国へ旅立ち、同年

8月、無事に英国に到着した。英国初の

日本製鉄道車両であり、現地到着の際

にはテレビ、新聞等メディアで大きく報

道され、期待の大きさを実感させられ

た。同年10月より試験運転を開始した

が、2日目には最高速度での走行試験

を行い、問題無く走行したことから、英

国鉄道業界関係者から驚きの目で見

られた。スタートこそ順調であった走行

試験だが、長期にわたる走行試験にお

いては欧州調達品を中心に不具合が

頻発し、最盛期には日本から50名近く

を派遣して対策にあたった。

走行試験が終了した車両から順次

顧客への引渡が行われ、2009年6月、

顧客意向により、契約納期よりも半年

早くプレビュー営業運転(先行営業運

転)が開始された。納期遅延が慢性化

していた英国において、契約納期前の

アッシュフォード車両基地で待機するクラス395

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クラス395走行路線図クラス395車両仕様

■ 車両数: 29編成(1編成あたり6両)■ 電源方式・最高速度 AC 25kV(パンタグラフ方式)、 225km/h: CTRL高速線区間 DC750V(第3軌条方式)、 160km/h: 在来線区間 ■ 軌 間: 1,435mm■ 車両長: 20m(連結器含む)■ 車両幅: 2.81m ■ 座席数: 340席

オリンピック会場

ロンドン中心部

アッシュフォード(高速線)(在来線)

エブスフリート

車両基地

ENAA Engineering No.124 2010.616

395は何とかトラブルなく運行すること

が出来た。契約納期よりも先行して営

業開始したことに加え、大雪の中でも

運行を確保したことにより、当社に対

する評価は一層高まったのであった。

クラス395の運行により、沿線の人

口が増加しつつあり、人々の生活、ひい

ては沿線地域の経済に大きな変化を

もたらしている。2012年にはロンドン・

オリンピックの開催が決定しており、ク

ラス395はロンドン市内〜オリンピッ

ク会場のシャトル輸送にも活躍する予

定である。

❹ 保守事業

前述のとおり、クラス395の契約に

は、車両の製造・納入のみならず、日々

の保守も含まれているが、当社にとって

初めての車両保守事業である。この保

守に対応するため、2005年に保守会

社「日立レール・メンテナンス」を設立し、

クラス395が走行するアッシュフォー

ド・インターナショナル駅の隣接地に

保守基地用地を確保し、クラス395の

設計・製造と並行して車両保守基地の

計画・建設・要員の採用を進めた。アッ

シュフォード車両保守基地の総面積は

110,000m2であり、2007年10月より

使用開始し、現在、約100名の保守要

員を擁している。同保守基地は5本の

ピット線を有し、清掃、洗車、汚物抜き

取り、日常検査といった日々の検査か

ら、数年ごとに実施するオーバーホール

まで検査全般を行うことが可能な施

設となっている。施設は省人化を図って

おり、流線型の車両先頭部も自動洗浄

可能な自動洗車装置、全ての床下機器

の脱着が可能なドロップピット、2軸

を同時削正が可能な車輪削装置、走

行しながら車輪踏面形状・直径・ブレー

キパッド残厚・集電シュー残厚等を測

定できる自動測定装置等、近代的な設

備を備え、最新鋭の車両保守基地とし

て英国でも注目を集めている。

一方、英国では保守周期に関する法

規則が無く、保守実施者が立案し審査

機関が承認する仕組みになっている。

当社は車両保守の経験が無かったた

め、東日本旅客鉄道株式会社殿等の

ご指導を仰ぎ、日本の新幹線および他

営業開始は極めて異例のことであり、

英国鉄道業界において驚きをもって迎

えられた。本車両により、従来は1時間

20分かかっていたロンドン―アッシュ

フォード間が37分に大幅に短縮された

こともあり、プレビュー営業運転は大

好評で、営業開始直後から立ち客が続

出し、編成を増結して対応したほどで

あった。鉄道事業者が乗客アンケート

を実施したところ、有難いことに90%

以上の乗客がクラス395を満足と回答

し、他の英国の地下鉄・本線車両と比

較して圧倒的に高い評価を頂戴するこ

とができた。

プレビュー営業運転開始から半年

が経過した2009年12月13日にはいよ

いよ本格営業運転が開始され、翌14

日には英国首相、運輸大臣ご列席のも

と、正式営業運転開始式典が華 し々く

開催された。ところが、この本格営業開

始直後、英国では記録的な大雪に見

舞われ、クラス395と同じ路線を走る

ユーロスター(ロンドン〜パリ・ブリュッ

セルを結ぶ国際高速列車:アルストム

製)は車両不具合が多発し全面運休

に追い込まれる事態となったが、クラス

えんじにありんぐ・ふぉーらむ

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IEP車両イメージ

ENAA Engineering No.124 2010.6 17

車両プロジェクトである。PPP(Public

Private Partnership:官民協調事業)方

式による車両調達であり、当社が特別

目的会社を設立し、車両の製造・保守

を行うとともに、この特別目的会社か

ら鉄道運行事業者に対して保守した

車両を20 〜 30年間にわたってリース

するというものである。IEPにおいては、

クラス395で行っている車両の製造・

保守に加え、新たにリース事業に踏み

出す。また、IEP車両の保守のため約

10か所の車両保守基地を立ち上げる

ことになり、クラス395で築いた保守ノ

ウハウを活かすことになる。IEPの早

期契約締結へ向けて鋭意協議を続け

ているところである。

IEPにつづき、ロンドンを東西に横

断する通勤新線プロジェクト「クロス

レール」や、英国を南北に結ぶ高速新

線プロジェクト「High Speed 2」も計

画されており、英国では旺盛な鉄道プ

ロジェクト需要が見込まれる。

これらのプロジェクトを踏まえ、当社

は、英国に車両生産拠点の設立も検

討しており、販売から製造・保守に至る

まで英国で一貫したサービスを提供で

国高速車両の保守方式を加味した保

守計画を策定し、これに基づいた保守

を実施している。当社初の鉄道車両保

守であるため、予備品の計画・確保、自

社での保守を意図した保守マニュアル

の作成、英国人保守スタッフの教育等、

初めての経験が多く、苦労の末、開業

にこぎつけた。

幸いにも、クラス395は車両信頼性

目標値の2倍以上という高い信頼性を

記録し、業界紙でも取り上げられ、鉄道

事業者からも高い評価を頂戴している。

❺ 今後のビジネス展開

2009年2月、当社は、世界3大車両

メーカーを破り、英国の都市間高速鉄

道車両置き換えプロジェクト(Intercity

Express Programme:以下IEP)の優先

交渉 権を獲 得した。IEPは、旧英国

国鉄時代に製造された車歴30年以

上の幹線高速鉄道車両を全面的に

置き換える英国史上最大の鉄道車

両プロジェクトであり、車両数 最大約

1,400両という世界最大規模の鉄道

きる体制を整えていく予定である。

❻ おわりに

クラス395は当社初の英国向け鉄

道車両プロジェクトであり、また、車両

保守も初めての経験であったため、全

てが手探り状態であったが、英国鉄道

ビジネスに着手以来10年が経過し、

ようやく成果として実を結んだ。長年に

わたる関係者の苦労の甲斐あり、英国

の鉄道改善に貢献するとともに、日本

の鉄道システムの品質の高さを英国

に示すことができたと考える。今後とも

高い品質の車両・保守サービスを提供

することにより、英国の鉄道輸送に貢

献すべく、邁進する所存である。

環境に優しい輸送手段として世界

各地で鉄道が注目を集める中、クラス

395の成功により、英国のみならず世

界各国から鉄道の引き合いが増加し

ている。当社は社会イノベーション事

業を注力事業と位置付けており、その

一翼を担う鉄道事業に今後とも注力

していく。

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ENAA Engineering No.124 2010.618

鉄道分野における国際標準化の現状と課題(財)鉄道総合技術研究所 鉄道国際規格センター 田中 裕/長沢 広樹

3.鉄道分野の国際標準化の特徴と課題

1 鉄道システムは、土木・機械・電気など幅広い技術分野で成り立っており、各分野別の標準化に加えて、鉄道システム全体に対するマネージメント規格の開発の動きが現れてきている。

2 欧州では、EU域内の交通・物流の円滑化に向けて、国際列車の直通運転を推進しており、そのための規格開発がCEN※2やCENELEC※3において積極的に取り組まれている。

3 IEC TC9では、CENELEC TC9Xで開発された多くの規格が、迅速手続きによって提案されるため、日本では短期間での対応に追われている。

4 CENには鉄道の専門委員会TC256が設置されたが、ISOにはTCが無いため、鉄道分野の規格審議情報を確実に把握することに苦労している。

5 中国が国際標準化活動を積極的に推進しており、鉄道分野でもその傾向が顕著になってきた。

4.国内の標準化審議体制

国内における鉄道分野の国際規格の審議体制は《図1》のようになっている。IEC TC9については鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)が審議団体として、TC9国内委

Columnコラム

1.はじめに

世界貿易機関(WTO)が1995年に発足し、貿易の技術的な障壁を減らすために、国際規格の利用促進を各国に強く求めることとなった。それに伴い、鉄道分野でも国際規格の重要性が高まってきている。ここでは、鉄道分野における国際規格への取り組み状況について紹介する。

2.鉄道分野の国際規格

鉄道分野の国際規格の概況を《表1》に示す。国際標準化機構(ISO)規格には、レールや車体材料などの機器の規格や各種の試験方法等があり、主要な規格は約30件である。ISOには鉄道関係の専門委員会(TC)はなく、各ISO規格案は、個々に関連するTCにおいて審議されている。

一方、IEC※1には鉄道分野の専門委員会TC9(鉄道電気設備とシステム専門委員会)が設けられており、車両の電気品や電力、信号関係など、現在76件の発行済み規格と16件のプロジェクトを担当している。IEC TC9は、正規(P)メンバーが日本を含めて28カ国、オブザーバーが10カ国であり、機器の性能規格に留まらず、近年鉄道システム全体に関わる規格制定にも重点を置いて活動している。

規格の内容 専門委員会 国内審議団体

《表1》 鉄道分野の国際規格の概況

鉄道システム、電気設備、車両電気品 IEC TC9 鉄道総合技術研究所

鉄道車両用鉄鋼材料 ISO TC17 日本鉄鋼連盟

レール関係 ISO TC17 SC15 鉄道総合技術研究所

合成まくらぎ ISO TC61 日本プラスチック工業連盟

騒音測定法 ISO TC43 日本音響学会

振動・乗り心地関係 ISO TC108 日本機械学会

運賃管理システム ISO TC204 自動車技術会

※2 欧州標準化委員会 ※3 欧州電気標準化委員会※1 国際電気標準会議

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ENAA Engineering No.124 2010.6

鉄道用電気設備とシステム

IECTC9

ISO 車両関係 ISO 施設関係

鉄道国際規格センターISO 情報関係

日本工業標準調査会(JISC)

IEC ISO

ISO その他

国内作業部会国内作業部会 国内作業部会 国内作業部会 国内作業部会

ISO/TC17鋼

(鉄鋼連盟)

ISO/TC204ITS

(自動車技術会)

ISO/TC108機械振動と衝撃(機械学会)

鉄道技術標準化

調査検討会提言

報告鉄道国際規格センター総合調整部会

19

そこで、欧州から提案された規格案には日本の方式を併記していくとともに、日本からも積極的に規格の新規開発や改定を提案する活動を推進している。

4月に発足した鉄道国際規格センターでは、鉄道事業者や鉄道産業界各社に幅広く会員になって頂き、各社からの出向者と鉄道総研の職員でメンバーを構成している。

センターでは、IECやISOでの活動を推進するため、欧州との情報交換やアジア地域との連携を進めていきたい。また、日本からの国際規格提案や発行された国際規格の国内での活用支援も行う計画である。

6.おわりに

鉄道分野における取り組み状況について紹介したが、TC9においては日本の貢献が次第に各国に認められるようになってきた。規格開発は1件ごとの積み重ねであり、長い期間を必要とするが、引き続き日本の鉄道技術を世界に発信する一翼を担えるようにしたい。関係各位の御支援をお願いする次第である。

員会を運営している。また、規格案件ごとに数多くの国内作業部会(WG)がTC9国内委員会のもとで活動している。

ISOについては、これまで技術分野ごとに事務局が分散していたが、鉄道総研に一元的な鉄道分野の事務局を設けることとなった。2009年7月から準備を開始し、本年4月に鉄道国際規格センターが発足して、関係協会等の協力を得ながら対応する体制になった。

また、鉄道システム全般に関する標準化活動を支援するため、国土交通省が主管する鉄道技術標準化調査検討会が設置されており、幅広い調整と支援を行っている。

5.鉄道分野の取り組み

鉄道分野における国際規格への対応は国鉄時代から行われていたが、標準化活動が活発になったのはWTO発足以降である。WTOの協定により、国内の規格は国際規格に整合させていくことと、政府系機関の一定規模以上の発注仕様書は国際規格に基づくことになった。

世界で優れた鉄道システムを長く保有しているのは日本と欧州であるが、技術的には独自に発達してきた面が多い。そのため、日本の鉄道技術を国際規格に盛り込んでおかないと、国内規格に影響が現れることになり、また鉄道システムの輸出においても不利になる。

田中  裕 : (財)鉄道総合技術研究所 鉄道国際規格センター長

長沢 広樹 : (財)鉄道総合技術研究所 鉄道国際規格センター シニアエキスパート

《図1》 鉄道分野における国際規格審議体制

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Railroad Museum Report

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鉄道の過去・現在・未来と 新幹線誕生秘話。

鉄道博物館を訪ねて…

ENAA Engineering No.124 2010.6

走り始めた、日本の鉄道Episode 1 — 1,067㎜の宿命

1872(明治5)年、日本で初めての鉄道が新橋~横浜間で開業した。あたかも希望という駅を目指して颯爽と列車は走り始めたように思えたが、未来に暗雲垂れ込める宿命も背負っていたことを多くの人は知らなかった。

「当時の明治政府は鉄道に対して知識がなく、イギリスに協力を求めました。実は、欧米の鉄道の線路の幅は、1,435㎜の広軌(標準軌)でしたが、日本が採用したのは、1,067㎜のナローゲージ(狭軌)。それが結果的に戦後新幹線が開通するまで大きな障害となり、世界の一流に仲間入りができなかった要因とされています」と日本の鉄道の生い立ちとその宿命について、鉄道博物館の荒木館長代理が解説する。

蒸気機関車は石炭をたけるほどに力があがり、出力(馬力)は石炭をたく火床の面積に比例する。標準軌

の幅は狭軌のおよそ1.4倍、その長さを1.4倍にすると面積が倍になる計算だ。なぜ、日本は不利な狭軌を採用したのか。それには工事が容易などをはじめ諸説あるが、当時の鉄道建設の責任者であった大隈

重信がナローゲージにするかスタンダードゲージにするか?とイギリス人に問われたときに、軌間の広狭が鉄道の輸送力にどのような影響が出るのかについて十分な知識がなかったため、イギリス人の勧める、

ナローゲージにしたというのが最も有力だとされている。

Episode 2 — 原敬内閣の決断明治政府による富国強兵策の推進で重工業の発達とともに鉄道需要は飛躍的に伸びていく。しかし、

日本が採用した狭軌の鉄道では輸送力が限られ、乗客や貨物が増え続けていた東京・大阪間においても徐々に逼迫していく。

明治の中ごろになると軍事輸送の面から、広軌に広げなければ対応できないという機運が一層高まり、

広軌改築への準備が進められた。しかし、1918(大正7)年、狭軌による全国各地鉄道網整備を唱える原敬による内閣が発足すると、広軌が否定され、国有鉄道は狭軌でいくという決定が下された。以降、日本

の鉄道は、狭軌による輸送力の強化が図られることとなった。当時の鉄道院は横浜線で実験を繰り返し、

広軌への手応えをつかんでいたが、原内閣が成立したことや日本各地に鉄道ネットワークが広がっていたこともあり、広軌改築は見送られることとなった。

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レポート

Railroad Museum Report

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鉄道の過去・現在・未来と 新幹線誕生秘話。

ENAA Engineering No.124 2010.6

技術者魂と可能性への挑戦Episode 3 — 満鉄の偉業

日本で狭軌による鉄道網の整備が進む一方で、大陸の満州では南満州鉄道(満鉄)が建設され、多くの鉄道関係者を喜ばせた。その南満州鉄道は、日本では不可能だった世界標準の広軌を採用していたからだ。明治の初め鉄道開設当時、イギリスやアメリカの指導を受けていた日本の鉄道技術は、明治から大正にかけて飛躍的な進化を遂げていた。

「何度かの試験を経て、日本は、広軌鉄道技術もすでに自分のものにしていました。それまで、ナローゲージに歯がゆさを感じていた技術者たちは、その持てる技術と熱意を投入し、南満州鉄道の建設においては大いに気をはいたのでしょう。最高速度は130km/hを達成。しかも、蒸気機関車ながら固定

編成の客車で車内には冷房も付き、蛍光灯も付いていた。それは、『あじあ号』と呼ばれ、鉄道関係者の溜飲

をさげました。」と鉄道博物館の荒木館長代理は続けて語る。

Episode 4 — 幻の弾丸列車計画昭和に入ると日中戦争が起こり、軍事輸送が拡大。そこで、輸送力に限界が見え始めた東海道本線の

早期改良を目指した線路増設構想が動き始め、1940(昭和15)年には、東京~下関間に広軌で複線を新たに敷設する計画が議会で承認された。それは、弾丸列車計画とも呼ばれ、東京~下関間を9時間以内

で結ぶものであった。軍部の意向も受け、アジア大陸を結ぶ一貫輸送体制を使命として1941(昭和16)年から工事はスタート。構想では、東京から沼津までを電気機関車で引っ張り、沼津から下関までは蒸気機

関車を使うというものだった。しかし、太平洋戦争が始まり、戦局は急激に悪化し、やむなく1943(昭和18)

年度に工事は中止された。

戦争により、幻に終わった計画であるが、その遺産は継承された。当時検討された車両や路線の規格はいうまでもなく、買収済みの用地や施工済みのトンネルなどは、戦後新たに動き始めた、東海道新幹線建設

に受け継がれ、大いに活用されることとなった。

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Railroad Museum Report

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東海道新幹線の誕生へEpisode 5 — ユニークな起工式

1957(昭和32)年、当時の鉄道技術研究所が東京~大阪間を3時間で結ぶことが可能であると発表

した。これは、戦後、老朽化し、飽和状態に達していた東海道本線の改良問題に直面し、また鉄道斜陽

論が叫ばれる中で明るいニュースとして取り上げられた。これが契機となり、翌年には東海道新幹線の着工が決議され、1959(昭和34)年の4月には起工式が行われた。起工式は、新丹那トンネルの前で行われたが、それは、幻に終わった戦前の弾丸列車計画の際に建設され、ほぼ完成に近い状態であったトンネルの前で行われる珍しいケースとなった。

東海道新幹線が、着工後わずか5年半と短期間で完成に至ったのは、戦前の弾丸列車の下地があったからに他ならない。

Episode 6 — 0系から受け継ぐ安全神話「夢の超特急」東海道新幹線0系は、ATC(自動列車制御装置)やCTC(列車集中制御装置)の採用、

航空機の空気力学、振動力学等を活用して改良された台車や信号システムなどにより高度な安全性を実現。同時に交流電化方式を採用し架線の高さを一定にしたことにより、パンタグラフの小型化の実現とともに200km/hを超える高速安定走行も達成した。

「鉄道先進国のイギリスでは、馬車文化があり、最終的には御者がいて安全をコントロールしていくという考え方が一般的。しかし、日本には自分で運転をする文化はなく、設備をきちんとしていかないと自信がない。そのため、ヒューマンエラーを防止するために、機械やシステムを使って安全性を担保してきたのではないでしょうか。また、従来の線路が使えないため、全く新たに駅舎や線路を敷設することで安定的かつ正確性にも優れた独自の鉄道網が完成、開業以来50年にもわたって無事故という偉業につながっていったのだと思います」と語る荒木館長代理。ナローゲージで幾多の試練や挫折を味わってきた日本における鉄道の宿命、そしてその歴史や文化が奏功して世界に誇る新幹線へと結実したと言えそうだ。

鉄道博物館を訪ねて…

ENAA Engineering No.124 2010.6

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レポート

Railroad Museum Report

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そして、未来を、世界を走るEpisode 7 — 新幹線の新たな挑戦

荒木館長代理はさらに、「新幹線の一番の意義は、あまり皆さんご存じないかもしれませんが、斜陽化していた世界の鉄道を生き返らせたということであり、世界にも大変インパクトを与えています」と語る。イギリスのヨーク州にある世界最大の博物館でも10年前に、かのユーロスターと0系が向かい合うように展示され、現在でも評判を呼んでいるという。また、このほどドイツで行われる鉄道展にも0系新幹線の模型が展

示されるなど、世界で、初代新幹線は絶大な人気を誇っており、近代高速鉄道のシンボルともなっている。3年前に日本の最先端の新幹線技術が結集された台湾新幹線の建設が行われ、現在も無事故で運転

が続けられているが、これからも進化した新幹線が、アジアや南北アメリカ、ヨーロッパを走り、産業の発展

にも貢献していくことに期待がふくらむ。

Episode 8 — 鉄道少年の宝島—鉄道博物館埼玉県さいたま市大宮区にある鉄道博物館は、1987年に民営化した東日本旅客鉄道(JR東日本)の

20周年を記念し、財団が運営する企業博物館として建設され、2007(平成19)年にオープンした。その一角に昨年10月より、貴重な産業遺産ともいえる「夢の超特急」0系新幹線の車両が追設展示されている。

「博物館をつくるという構想はかなり前からありました。私も技術系で神田の交通博物館に3年ばかりいて、

この計画に参画しました。博物館は長期計画でつくらなければいけないものです。この博物館はまだ発展

途上で、今後、信号や機械系統など鉄道システムに関わる系統的な技術の解説コーナーも充実させていく方向です。」と語る荒木館長代理。

実際に機関車の運転席に乗って体験するコーナー、日本でも最大級の鉄道ジオラマに目を輝かせる少年たち。そこは、夢とロマンの宝島である鉄道博物館。0系のDNAを受け継ぎ世界へ向かって動き出

した新幹線の新たな歴史の1ページが開かれると同時にその輝かしい足跡は今後も刻まれ、次世代へ絶

えることなく継承されていくことだろう。

鉄道博物館 館長代理 荒木文宏 営業部・担当部長 松河克彦

埼玉県さいたま市大宮区大成町3–47JR大宮駅よりニューシャトルにて 鉄道博物館駅下車 徒歩1分

取 材 先:

鉄道博物館:ア ク セ ス:

ENAA Engineering No.124 2010.6

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ENAA Engineering No.124 2010.624

ENAAレポート1 契約モデルフォームの改訂版について

ENAAの各種標準契約書

契約法務部会では1986年以来、以下のように各種標準契約書の刊行、改訂を行ってきた。

このようにプロセス・プラント約款は各種のENAA標準約款の原点をなし、幸いにも、初版以来、一貫してプラント建設分野において高く評価され、石油・ガス・肥料・化学・セメントなどプロセス・プラントの建設に係る国際プロジェクトにおいて広く利用されるに至っている。特に、世界銀行が融資する案件の標準入札書類の契約条件書として一部修正して採用されていることは特筆に値する。

ENAA標準契約書に共通の思想は、合理性、公平性という標準約款の基本要件に加え、利用者であるプロジェクト・メンバーにとって平易な文章と利便性である。なかでも1992年版は、契約本文だけでなく、契約付属書類全てのサンプルを備え、プロセス・ライセンスを伴わないケースについての代替フォームを用意し、ガイドノートはプロジェクト契約の教科書とも言える内容を有する、モデルフォームとして世界的にも例を見ないものとなっている。

2010年版発行の背景

1992年版が発行されたのはソ連崩壊の翌年であり、その後の世界は特にIT技術の発達に伴うボーダーレス化

もあって政治的経済的に急速な変化を遂げてきた。プラント建設分野においては、プロジェクトの巨大化

やプロジェクト・ファイナンス方式の定着などによってプロジェクトのステークホルダーが多様化し、契約責任を明確化する傾向が更に強まってきた。1992年版を下敷としたEPS版の検討作成過程において助言を受けた英国弁護士からは、そのような点を含め判例の動向に基づいて様々な指摘を受けたが、EPS版は1992年版との統一性を重視して変更を最小限とし、別途1992年版の見直しを行うこととして契約法務部会に改訂分科会を発足させて作業を開始した。

改訂分科会には協会加入企業から参加する契約法務部会の委員20名全員が参加した。2000年頃にも改訂の検討が1年かけて行われており、当時の検討資料、EPS版検討の過程で俎上に載せられた事項、各委員からの提案などを集積し、テーマ別に小グループでの分析検討と全体会議での討議決定を繰り返して様々な観点から見直しが行われた。

契約の枠組みや発注者と請負者のリスク分担については初版以来の考え方が大きく変更されることはなかったため、従来版の利用者にとっても無用の混乱は無いものと思われる。

2010年版の構成

前述の通り1992年版は契約付属書のサンプル等を備え5分冊構成であったが、2010年版は約款とガイドノートの2分冊とした。

今回改訂では付属書はボンドフォームのみを改訂したが、これを除く付属書類は1992年版の活用を想定しており、そのために2010年版に付属するCD–ROMには1992年版の全書類のファイル1式を併せて収録し利便

1986 年 プロセス・プラント初版 1992 年 同上、改訂版(1992年版) 1996 年 発電プラント版 2004 年 国内プラント約款 2007 年 EPS(設計調達)版 2010 年 新改訂版

ENAA国際標準契約書の改訂版(2010年版)の発行にあたってこのたび当協会の契約法務部会では、1992年発行の

「ENAAモデルフォーム プロセス・プラント国際標準契約書(ターンキー・ランプサム・ベース)」を18年ぶりに改訂し、2010年版として発行することとなった。

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Report.1

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ENAA Engineering No.124 2010.6

性を維持している。なお、プロセス・ライセンスを伴わないケースへの対応と

して1992年版で用意されていた代替フォームに代わり、2010年版では新フォームを実情に応じて一部修正する項目をガイドノートに記述することにより対応した。

主要改訂事項

2010年版では細部を含め多くの改訂を行ったが、誌面の制約もあり、ここでは代表的なものの紹介にとどめたい。

なお、従来からENAAフォームに対する批判の1つとして、工期保証期日が性能保証の達成時点でなく、それ以前の機械的完成(試運転準備の完了)時点であることが挙げられており、今回もこの点は分科会において長時間議論されたが、歴史的にもプロセス・プラント分野では受け入れられるリスク分配であるとして踏襲することとした。

* * * * * * * * *

今般2010年版が発行されたのを機に、このフォームが以前にも増して広くプラント建設プロジェクトに使用されることを切に望んでいる。

最後に、2010年版の作成作業に携わった全ての方々の御尽力に対し、深く感謝申し上げたい。

❷ 一般法適用の排除を明確化

❶ 契約発効日と工期起算日の分離

契約に規定された権利義務以外に、強行法規を除く一般法が適用される範囲が出来るだけ限定されるべく規定し、契約書以外の要素に支配される不確実性を低くした。

契約は調印をもって発効することとし、それから一定期間内に双方が所定の条件を充たした時を、従来の契約発効日に相当する工期の起算日とした。工期起算日以前の権利義務も契約書で処理されることが明確となった。

❸ 瑕疵担保

Defectの定義を明確にすると共に、修補の場合の瑕疵担保期間の延長を、修補の時点から12カ月とし、但し、Acceptanceから最長でも24カ月を超えないこととした。従来は瑕疵による運転中断期間だけスライドして延長される規定であったが、建設工事契約の趨勢に従った。

❹ 責任制限条項

❺ Indemnity条項の整理

従来は契約上の責任限度の適用範囲を、①瑕疵担保責任、②特許補償、③工期保証および性能保証の予定損害賠償金に限定していたところを改め、包括的責任限度とした。除外事項を設けたい場合など責任限度額を含めて当事者間の交渉により決定することが妥当であると判断した。

補償(Indemnification)の対象を、相手方当事者である発注者あるいは請負者だけでなく、それらの従業員、役職者、代理人、下請業者等を含めることをより明確にするなど、内容を整理し、分かり易くした。

当協会契約法務部会・ENAAフォーム改訂分科会長井上 光彦 : 東洋エンジニアリング株式会社 プロジェクト管理本部ビジネスマネジメント部長

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Report.2

ENAA Engineering No.124 2010.6

エンジニアリング産業の中国進出における日台連携の有効性に関する調査研究本調査研究は、財団法人機械振興協会経済研究所における平成21年度委託調査研究事業として実施したものです。

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現地調査風景

90年代初頭のバブル崩壊以来低迷を続ける日本経済に比較して、中国経済は爆発的な高度成長を遂げています。この激動する中国市場において、台湾企業の多くが活発に活動し、ビジネスチャンスを巧みにつかんで世界的大企業に発展したものもあります。これに比較して、日本企業の多くも巨大市場を形成しつつある中国への進出を行っていますが、その成果については今一歩見るべきものに乏しい感があります。

日本と台湾との関係は100年を超える密接なものがあり、文化・経済面の共通基盤が形成されているので、中国社会に馴染みのある台湾企業との連携を有効に活用すれば、中国事業を展開する上で日本企業にとって益するところが多いのではないかというのが本調査研究の基本モチーフとなっています。

本調査研究の実施方法は、当協会の下に台湾経済に精通した学識経験者、中国ビジネス、台湾ビジネスの経験豊富な実務経験者からなる研究委員会を設置し、調査研究の方針を議論し、それに基づいて事務局で実作業を行ないました。

調査研究にあたって、まず全般的な日台経済関係、両者にとっての中国経済の意義、建設業を含むエンジニアリング産業の中国市場の動向について、広範な文献調査によって明らかにしました。日台経済関係ついては1980

年代半ばまでは台湾が日本の下請けという垂直的な関係を特徴としていましたが、1980年代後半からは両者の関係が水平化し、高度化しています。また、建設・エンジニアリング産業の中国市場については、中国企業の成長が著しく我が国の建設・エンジニアリング企業のターゲットは中国進出外資系企業に限られるようになっています。

日台連携の中国事業について、国内ヒアリング調査、台湾現地調査、中国現地調査を行い、その調査結果から日台連携が有効に機能する形態と役割分担を提示しました。

形態の一つは合弁企業に日本側は出資のみで人を出さず、日常的経営は全面的に台湾側に任せる方式であり、もう一つは日常的経営の主導権を日本側が掌握しながら、台湾企業の得意分野を活用する分担方式です。前者における日本側の役割は、日本チャンネルを通じた販路の提供や原料・部品の調達先、必要とされる技術の提供などであり、後者では日本の進んだ生産技術を効率よく運用しながら、台湾企業の活力を有効利用することにあります。この方式の成功するポイントとして次の四つの条件が上げられます。

最後に、日台連携中国事業について八つのビジネスモデルを構成し、それぞれのモデルについて、人、技術、資材、出資金、売上金、配当金、製品の流れを分析しました。また、日台連携を具体的に促進するためのプラットフォームを提案しました。(文責:事務局)

❶ 連携する企業がそれぞれ本業において競合しないこと。 ❷ 経営ポリシーが共通するパートナーを選び 信頼関係を確立すること。 ❸ 生産部門および基幹技術を日本側が確保すること。 ❹ 台湾側が得意とする、営業、総務(含対政府折衝)、 人事管理は台湾側に任せ、その能力を発揮させる。

ENAAレポート2 中国進出における日台連携について

現地調査風景

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Report.2

ENAA Engineering No.124 2010.6 27

『海から見た南アフリカ』

Pastoraleパストラーレ

アフリカと言うと、サバンナの動物やサハラ砂漠など陸上に目が向けられがちだ。しかし、アフリカ大陸を海から見ると、大西洋とインド洋、二つの海洋に挟まれ、南極方面からの寒流のベンゲラ海流が大西洋岸を北上し、インド側を暖流のアグラス海流が南下してアフリカ大陸最南端の沖合いでぶつかり合っている。そのため、多くのプランクトンが発生して、たくさんの海洋生物が育まれ、南アフリカの漁獲高は世界第6位。沖合いもマグロなどの世界的な漁場で、日本の遠洋漁船も多数操業する。そして豊かな海に育まれて、南アフリカでオットセイやペンギンが繁殖し、近海にクジラやイルカなどさまざまな生物が回遊し、「海の野生王国」とも呼べる場所なのだ。

私は南アフリカの海の野生生物の豊かさに引かれ、ケープペンギンや、固有種であるタイガーエンジェルフィッシュ、サウスアフリカンバタフライフィッシュなどの魚、そしてオットセイを狙って集まってくる凶暴な鮫のホホジロザメなどの撮影のために何度も訪れた。「喜望峰」は1488年にポルトガルのバーソロミュー・ディアスが白人として始めて発見し、あまりに風が強かったため「嵐の岬」と命名した。アフリカの南端付近には西よりの強風が吹き、世界的に航海の難所とされ、海難事故もしばしば起こっている。しかし、航海者にとってイメージが良くない名前のため、後にCape of Good Hope 「喜望峰」、と改称されたものだ。「喜望峰」は当初、アフリカ大陸の最南端と思われ、ヨーロッパからここをかわしてインド洋に入ったと思って東側を北上す

るとアグラス岬との間の湾の奥に突き当たってしまうため、そこは「フォールス湾(偽の湾)」と呼ばれる。アフリカ大陸の最南端は「喜望峰」から「フォールス湾」を

挟んで東南東約150kmにある「アグラス岬」で、この岬を境にして、東側がインド洋、西側が大西洋と定義されている。

南アフリカは天然資源が桁違いに豊かな国で、金の埋蔵量は世界1位、ダイヤモンドが世界2位、プラチナ、ウランが世界3位と経済的に潤い、イギリスやオランダからの移民が多い。そして、南半球にあり、ヨーロッパとは季節が反対で気候が

温暖なため、野菜、果物、花などが栽培・輸出され、ヨーロッパの富豪や、リタイアした人が豪華な家を建てて住む場所でもある。

更に、自動車組立業が盛んで、日本に輸入されるヨーロッパ・ブランド車の多くが南アフリカで組み立てられて、日本に運ばれる。ヨーロッパから見れば玄関先にあり、我が国からは遠く、なかなか目が向きにくかった国だが、更なる発展のため日本のエンジニアリング技術が多くの分野で求められている。

海洋写真家

中村 庸夫 なかむら つねおMarine Photographer : Tsuneo Nakamura

この国の発祥の地としてマザー・シティーとも呼ばれるケープ・タウン港の背後にそびえる1,086mのテーブル・マウンテン。

始めて見たヨーロッパ人が、立って歩く鳥から「人鳥」や「羽毛を付けた魚」と表現したケープペンギン。

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ENAA Engineering No.124 2010.628

ENAA NEWS

エンジニアリング業界に特化した業界唯一の人材育成プログラムが新たにスタート!

人材育成ロードマップと3つのコース

経済産業省から委託を受けた3年間にわたる産学連携による人材育成プログラム「次世代のエンジニアリング産業を担うプロジェクトマネジャー育成事業」が遂に完成。財団法人エンジニアリング振興協会は、平成19年から平成21年の3年間にかけて、産学人材育成事業としてエンジニアリング業界に特化したプロジェクト人材の育成プログラム開発を進めてきました。今般、その育成プログラムが完成し、平成22年度からいよいよスタート。

従来から20数年間実施してきた旧基礎コースは科目構成は変えずに実務家向けにパワーアップし『PM実務習得コース(L2)』として開講いたします。また、若年社員向けには新たに『PM基礎習得コース(L1)』を開設し若手から中堅社員まで一貫したPM教育ができるようにいたしました。さらに、PM関連の専門業務等を短期間に習得する『PM短期専門コース(SP)』も現在4つのコースを用意しております。

新人、若手人材からプロジェクトマネジャー候補、ご活躍中のプロジェクトマネジャーまで幅広く、人材育成のOFF–JTの一環として是非ご活用ください。(申込はHPにて開講の約2カ月前からを予定しております)

PM 短期専門コース SP特定な業務または、専門技術について習得されたい方向けです。対象の方は個別コース毎に異なります。新入社員向けから経験豊富な方まで求められる研修を作り上げてまいります。

キャリア

PM 実務習得コース L2 (旧 基礎コース)プロジェクトマネジャーはじめ、各種マネジャー候補者。

PM 基礎習得コース L1新入社員〜入社数年目までの方、またはプロジェクトをこれから始める方。

専門性高

汎用的

身につく能力

概念 ・ 概要

基礎の体型的習得

実践的理解 実践力

業務管理力 創造力

管理技法の知識 問題解決力

基礎知識 ヒューマンスキル グローバル化 ・ 多様化支援業務の知識複雑化

への対応力支援業務の知識

より実践的に

より広くより深く

※PM…プロジェクトマネジメント

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ENAA Engineering No.124 2010.6 29

●IMD国際競争力ランキングで、今年遂に日本は27位にまで、落ち込んでしまった。前年の17位から1年に10位ランクを下げた。否、1990年代には連続世界1位を記録していたというのに、凋落ぶりは目を覆うものがある。

●この閉塞感を打破すべく、政府は昨年末「新成長戦略・基本方針」を取りまとめた。これを受けて、経済産業省は産業構造審議会に産業競争力部会を設置し、6月の提言に向けて精力的に議論が行われていると聞く。相対的に地位の低下した我国が活力を取り戻し、新しい成長を遂げるための施策が議論されているとのことであるが、その目玉の施策の一つが新興国を中心とした諸外国への「インフラ輸出」であるとのこと。

●第一番目の案件、UAE(アラブ首長国連邦)への原発輸出は、残念ながら韓国に敗退してしまった。しかし、和製水メジャーを目指して官民一体の努力が始まった。公的資金の注入や、運営ノウハウを持つ地方自治体の協力等である。欧州水メジャーに対抗して、わが国が水インフラで大きく成長することが望まれる。

●そして政府が最も力を入れようとしているのが鉄道である。世界に誇る技術、安心と安全の新幹線を世界に売り込むことが果たしてできるのか。先日、ワシントンで前原国交相はJRと各重工メーカーのトップと共にオバマ政権に新幹線の技術をアピールした。トップセールスが始まったのである。

●世界規格との適合の問題とか、越えねばならぬ山は高いやに聞くが、台湾で成功したように是非とも成功してもらいたいものである。

●そんな中、ベトナムがハノイ〜ホーチミン間の高速鉄道に、日本の新幹線を採用するとのうれしいニュースが流れた。鉄道ビジネスは超長期のリードタイムを要するとのこと。まだまだ紆余曲折はあろうが、是非とも実現してほしいものである。

●そして、わが国の新幹線が、高速鉄道の「世界規格」に採用される日が来ることを祈りたい。

笠原 文東 (日揮)藤村 久夫 (鹿島建設)浅川 時生 (IHI)坂田 文彦 (荏原製作所)塚原 義智 (大林組)高橋 元 (JFEエンジニアリング)古賀 敏博 (石油資源開発)大久保 澄 (大成建設)岸本 健夫 (千代田化工建設)宮脇 邦彦 (東洋エンジニアリング)河野 浩一 (三菱重工業)

小倉 三枝子

財団法人 エンジニアリング振興協会〒105-0003東京都港区西新橋一丁目4番6号TEL. 03-3502-4441 FAX. 03-3502-5500http://www.enaa.or.jp/

東洋美術印刷株式会社

分 科 会 長副分科会長委 員

事 務 局

発 行

制 作

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編集後記 ENAA Engineering 2010No.124

(笠原 文東)

広報部会「広報誌編集分科会」

※1 プロマネ…プロジェクトマネジャー。※2 PDU…PMIⓇのPMPⓇ資格取得者が資格維持のために要求される継続的な学習・研修を定量的に認定する単位。※3 コンピテンシーモデル研修…分析された優秀なプロジェクトマネジャーの行動特性をもとに人格形成を行う研修。

PM 基礎習得コース コース番号略称 : L1

コースの比較

国内外のプロジェクトマネジメントに共通する基本的知識を体系的・時系列に理解し、必要な基礎力の養成を図るコース。

概要

●新入社員〜 入社数年の方●プロジェクト 未経験者

参加対象

9/1〜 3(3日間)

次回の開催

50名

定員

C

難易度

6万円程度を予定

受講料

当協会会議室他

会場

新入社員研修にもご活用いただけます。

特徴

不要

実務経験

●プロマネ(※1)

 候補者●プロマネ経験 数年

PM中級者

●PM中級者●海外プロジェク ト初心者

●プロマネ候補者●プロマネ経験 数年

●法務、営業、 財務担当の方●プロジェクト 部門の方

11/9〜 2/18

(16日間)4日×4パート

2011年1/24–25

(2日間)合宿形式

11/15〜 19

(5日間)

9/30〜 10/1

(2日間)

半日間

50名

25名

30名

24名

50名

B

B

A

B

C

231,000円非会員283,500円

50,000円宿泊費、食事代含む

9万円程度を予定

39,900円非会員46,200円

6,000円テキスト代は別途

商工会館(霞ヶ関)

海外職業訓練協会(OVTA)千葉県海浜幕張駅前

当協会会議室他

当協会会議室他

当協会会議室他

パートごとの受講も可能。ワークショップあり。PDU取得対象講座(※2)

ワークショップ中心:合宿形式で「仕事の極意」を学ぶ。

英文テキストを使用。ワークショップあり。

ワークショップ中心:演習キットによるグループ協働作業。PMPⓇ、CAPMⓇの受験用ポイント取得対象講座。PMS資格継続ポイント取得対象講座。

『世界銀行標準入札書類契約条件』のベースである当協会のテキストを使用。

不要

PM 実務習得コース コース番号略称 : L2

(旧 基礎コース)

プロジェクト人材育成コースSP-A1

海外プロジェクトマネジャー育成コース

SP-A2

PMBOKコースSP-A3

契約モデルフォームセミナーコースSP-G1

プロジェクトマネジャーに必要なマネジメント概念、知識、管理技術を幅広く体系的に習得することを目的としたコース。

コンピテンシーモデル研修(※3)。講演/グループ討論等を中心に、プロジェクト運営・統率能力を磨くコース。

海外プロジェクトにおける多様化する契約形態/不可欠なコミュニケーション・管理能力等、海外PM 実践向けコース。

PMBOK®に示す、スコープ、タイム、コスト、組織、コミュニケーション、および統合管理の知識エリアを理解するコース。

国内外プラント建設工事用標準契約約款「契約モデルフォーム」に基づき、EPC契約について、詳しく解説するコース。

PM

短期専門コース コース番号略称

SP

(財)エンジニアリング振興協会 産学人材開発部●E-mail : [email protected] ●URL : http://www.enaa.or.jp

お問い合わせ先

コースの概要と開催案内(今年度)

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