プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

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85 2.7 上肢の脈管 第 2 章 循環器系 ▶ 鎖骨下動脈の枝(p.257) ■ 1. 上肢の動脈 (p.257-258) ※ 鎖骨下動脈の枝で、椎骨動脈は内頚動脈と共に脳を栄 養する血管として重要。左右の椎骨動脈が合してでき る脳底動脈は延髄・橋・小脳を栄養し、左右の後大脳 動脈に分かれる。詳細は「脳の血管」で学ぶ。 ・上肢の動脈の根幹は鎖骨下動脈である。 (右は腕頭動脈から、左は大動脈弓から直接でる) ・鎖骨下動脈は、第1肋骨上面で、前斜角筋と 中斜角筋との間にできた隙間(斜角筋隙)を 通過し、鎖骨の下にでる。 鎖骨下動脈 腋窩動脈 第1肋骨外側縁 肘窩 腋窩の下縁 (大胸筋の下縁) 上腕動脈 橈骨動脈 深掌動脈弓 深掌動脈弓 尺骨動脈 浅掌動脈弓 浅掌動脈弓 a. b. c. d. e. 上肢の動脈 鎖骨下動脈の枝 斜角筋隙と鎖骨下動脈 前斜角筋 中斜角筋 内胸動脈 鎖骨下動脈 椎骨動脈 後斜角筋 ・鎖骨下動脈は、第1肋骨より外側で腋窩動脈 に移行する。 甲状頚動脈 椎骨動脈 右鎖骨下動脈 腋窩動脈 中斜角筋 後斜角筋 前斜角筋 肋頚動脈 内胸動脈 椎骨動脈 第6頚椎より横突孔を上行し,頭蓋内で 左右の椎骨動脈が合して脳底動脈とな る。 内胸動脈 各肋骨間で前肋間枝を出し、肋間動脈 と吻合し、筋横隔動脈と上腹壁動脈の 2終枝を出す。 甲状頚動脈 以下の4枝に分かれる。 1) 下甲状腺動脈 2) 上行頚動脈 3) 頚横動脈 4) 肩甲上動脈 肋頚動脈 ただちに深頚動脈と最上肋間動脈に分 かれる。 − 学習のポイント − 1. 上肢の動脈 鎖骨下動脈 → (第1肋骨外側縁) → 腋窩動脈 → (腋窩の 下縁) → 上腕動脈 → (肘窩) → 橈骨動脈と尺骨動脈に分 かれる。橈骨動脈は深掌動脈弓の主体をなし、尺骨動脈は 浅掌動脈弓の主体をなす。 鎖骨下動脈の枝:椎骨動脈 , 内胸動脈 , 甲状頚動脈 , 肋頚動脈 ※ 鎖骨下動脈と腕神経叢は斜角筋隙を通過 ※ 尺骨神経・動脈や長掌筋は手根管を通らない。 2. 上肢の静脈 橈側皮静脈:上腕二頭筋外側縁を上行、三角筋胸筋溝に て腋窩静脈に注ぐ 尺側皮静脈:上腕二頭筋内側縁を上行、腋窩にて腋窩静 脈(もしくは上腕静脈)に注ぐ 3. 上肢のリンパ 腋窩リンパ節を通り、鎖骨下リンパ本幹に至る §7. 上肢の脈管

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Page 1: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

85 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

▶ 鎖骨下動脈の枝(p.257)

■ 1. 上肢の動脈 (p.257-258)

※ 鎖骨下動脈の枝で、椎骨動脈は内頚動脈と共に脳を栄

養する血管として重要。左右の椎骨動脈が合してでき

る脳底動脈は延髄・橋・小脳を栄養し、左右の後大脳

動脈に分かれる。詳細は「脳の血管」で学ぶ。

・上肢の動脈の根幹は鎖骨下動脈である。

(右は腕頭動脈から、左は大動脈弓から直接でる)

・鎖骨下動脈は、第1肋骨上面で、前斜角筋と

中斜角筋との間にできた隙間(斜角筋隙)を

通過し、鎖骨の下にでる。

鎖骨下動脈

腋窩動脈

第1肋骨外側縁

肘窩

腋窩の下縁(大胸筋の下縁)

上腕動脈

橈骨動脈

深掌動脈弓

深掌動脈弓

尺骨動脈

浅掌動脈弓

浅掌動脈弓

a.

b.

c.

d. e.

上肢の動脈

鎖骨下動脈の枝

斜角筋隙と鎖骨下動脈

前斜角筋

中斜角筋

内胸動脈 鎖骨下動脈

椎骨動脈

後斜角筋

・鎖骨下動脈は、第1肋骨より外側で腋窩動脈

に移行する。

甲状頚動脈

椎骨動脈

右鎖骨下動脈

腋窩動脈

中斜角筋後斜角筋

前斜角筋

肋頚動脈

内胸動脈

椎骨動脈第6頚椎より横突孔を上行し,頭蓋内で左右の椎骨動脈が合して脳底動脈となる。

内胸動脈各肋骨間で前肋間枝を出し、肋間動脈と吻合し、筋横隔動脈と上腹壁動脈の2終枝を出す。

甲状頚動脈

以下の4枝に分かれる。1) 下甲状腺動脈2) 上行頚動脈3) 頚横動脈4) 肩甲上動脈

肋頚動脈ただちに深頚動脈と最上肋間動脈に分かれる。

− 学習のポイント −1. 上肢の動脈

鎖骨下動脈 → (第1肋骨外側縁) → 腋窩動脈 → (腋窩の下縁) → 上腕動脈 → (肘窩) → 橈骨動脈と尺骨動脈に分かれる。橈骨動脈は深掌動脈弓の主体をなし、尺骨動脈は浅掌動脈弓の主体をなす。鎖骨下動脈の枝:椎骨動脈 , 内胸動脈 , 甲状頚動脈 , 肋頚動脈※ 鎖骨下動脈と腕神経叢は斜角筋隙を通過 ※ 尺骨神経・動脈や長掌筋は手根管を通らない。

2. 上肢の静脈橈側皮静脈:上腕二頭筋外側縁を上行、三角筋胸筋溝にて腋窩静脈に注ぐ

尺側皮静脈:上腕二頭筋内側縁を上行、腋窩にて腋窩静脈(もしくは上腕静脈)に注ぐ

3. 上肢のリンパ腋窩リンパ節を通り、鎖骨下リンパ本幹に至る

§7. 上肢の脈管

Page 2: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

86 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

・患側の橈骨動脈の拍動を確認・患者に頭部を患側方向に回旋、

後屈してもらう・患者に大きく息を吸ってもらい、

そのまま止めてもらう→ 橈骨動脈の拍動が減弱または

消失すれば陽性

・患側の橈骨動脈の拍動を確認・患側上肢を後下方に牽引→ 橈骨動脈の拍動が減弱または

消失すれば陽性

・患者の両上肢を、肩関節外転 90°, 肘関節屈曲 90°の状態で保持し、橈骨動脈の拍動を確認

・患者に胸を張らせ、深呼吸させる→ 橈骨動脈の拍動が減弱または消失

すれば陽性

・患側の橈骨動脈の拍動を確認 (肩関節外転90°,肘関節屈曲90°)・患者に頭部を健側方向に回旋し

てもらう→ 橈骨動脈の拍動が減弱または

消失すれば陽性

▶ 腋窩動脈(p.257)

▶ 上腕動脈(p.258)

▶ 胸郭出口症候群

▶ 胸郭出口症候群の整形外科的検査法

腋窩動脈

鎖骨下動脈

上腕動脈小胸筋広背筋

腋窩動脈

胸郭出口症候群の原因箇所

絞扼を受ける血管・神経

・第1肋骨より外側で鎖骨下動脈は腋窩動脈に

移行し、胸筋、肩甲骨周囲など腋窩壁に分布

しながら上腕二頭筋の内側縁に向かう。

・腋窩には腋窩動静脈の他、腕神経叢が通過。

– アドソン・テスト(斜角筋症候群の鑑別)

– エデン・テスト(肋鎖症候群の鑑別)

– ライト・テスト(過外転症候群の鑑別)

– アレン・テスト(斜角筋症候群の鑑別)

・鎖骨下動脈、腋窩動脈が通過する部位で、動

脈や神経が圧迫を受け、上肢に痛みやシビレ

が生じることがある。これを胸郭出口症候群

といい、斜角筋症候群や肋鎖症候群、過外転

症候群などがある。

・上腕動脈は、腋窩の下縁(大胸筋の下縁)より腋窩動脈に続いて始まり、正中神経とともに肘窩まで走行する。

過外転症候群 胸郭と小胸筋の間

肋鎖症候群 肋骨と鎖骨の間

(肋鎖間隙) 斜角筋症候群前斜角筋と 中斜角筋の間 (斜角筋隙)

上腕動脈

上腕動脈

上腕二頭筋

上腕三頭筋

三角筋 (切断)

大胸筋 (切断)

烏口腕筋

正中神経

尺骨神経

大円筋

肩甲下筋

広背筋

小胸筋 (切断)

Page 3: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

87 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

▶ 橈骨動脈と尺骨動脈(p.258) ▶ 解剖学的嗅ぎタバコ入れ(p.258)

▶ 参考)前腕内側の筋と動脈(p.258)

▶ 参考)前腕外側の筋と動脈

・上腕動脈は肘窩にて、

橈骨動脈と尺骨動脈

に分かれる。

※ 橈骨動脈の脈を触れる

上腕動脈

上腕動脈

上腕動脈

尺骨動脈

尺骨動脈

尺骨動脈

橈骨動脈

橈骨動脈

後骨間動脈

橈骨動脈

正中神経

屈筋支帯

尺骨神経

前腕内側の筋と動脈(浅層)

橈骨動脈と尺骨動脈

解剖学的嗅ぎタバコ入れ

前腕内側の筋と動脈(深層)

前腕外側の筋と動脈(深層)

深指屈筋

浅指屈筋

浅指屈筋(切断)

長母指屈筋

長母指屈筋

長橈側手根伸筋

尺側手根伸筋(切断)

長母指伸筋 (切断)

長母指伸筋

短母指伸筋

総指伸筋(切断)上腕三頭筋

腕橈骨筋

短母指伸筋 長・短橈側手根伸筋長母指外転筋

長母指外転筋

長橈側手根伸筋

橈側手根屈筋(切断)

橈側手根屈筋

尺側手根屈筋

長掌筋(切断)

長掌筋

短橈側手根伸筋

短橈側手根伸筋

腕橈骨筋

腕橈骨筋

円回内筋・上腕頭(切断)

円回内筋

上腕二頭筋

正中神経

正中神経

尺骨神経

橈骨動脈

解剖学的 嗅ぎタバコ入れ

Page 4: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

88 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

・上肢の主な深静脈は動脈の伴行静脈

 → 動脈と同じ名前がついている。

・ 皮静脈は動脈に伴行せず、独自の走行をとる。

・橈側皮静脈は、上腕二頭筋外側縁を上行し、

三角筋胸筋溝(鎖骨胸筋三角 , 鎖骨下窩)に

入って腋窩静脈に注ぐ。

・尺側皮静脈は、上腕二頭筋内側縁を上行し、

腋窩内にて腋窩静脈に注ぐ。

・肘正中皮静脈は、注射や採血でよく用いられ

る。

▶ 手根管症候群(p.257)

手や指を過度に使った場合、手根管内で炎症・

腫脹し , 正中神経が圧迫される場合がある。

(手根管症候群 )

▶ 浅掌動脈弓と深掌動脈弓(p.258)

▶ 手根管(p.256-257)

浅掌動脈弓

深掌動脈弓

手根管

手根管を通るもの

・尺骨動脈は浅掌動脈弓の主体をなす。

・橈骨動脈は深掌動脈弓の主体をなす。

・手根骨のアーチと屈筋支帯に囲まれた管を

手根管という。

※ 橈側手根屈筋を手根管に属するか否かについては解剖

学者の間でも意見が分かれ、本によっても記述に違い

がある。教科書 p.257 には橈側手根屈筋は載っていな

いが、国試の過去問で手根管を通るものとして橈側手

根屈筋が選択枝で出たことがある。

・手根骨を通るもの

※尺骨神経・動脈や長掌筋は手根管を通らない

※ 屈筋支帯の上

尺骨動脈

手背静脈網

三角筋胸筋溝

浅掌動脈弓

橈骨動脈

尺骨動脈

橈骨動脈

深掌動脈弓

浅指屈筋

腱深指屈筋

腱長母指屈筋

橈側手根屈筋

神経 正中神経

浅指屈筋腱

長母指屈筋腱

尺骨神経管 (ギヨン管)

正中神経

深指屈筋腱

橈側手根屈筋腱

・患者に胸部の前で手背と手背を合わせるように指示

→ 手にシビレや痛みが出現すれば陽性

・手根管の上を叩打する→ 手にシビレや痛みが出現すれ

ば陽性

ファレン・テスト

上肢前側の皮静脈

ティネル徴候

上肢後側の皮静脈

– ファレン・テスト(手根管症候群の鑑別)

– ティネル徴候(手根管症候群の鑑別)

■ 2. 上肢の静脈(p.258)

橈側皮静脈

尺側皮静脈肘正中皮静脈

Page 5: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

89 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

上肢前側のリンパ液の流れ

上肢後側のリンパ液の流れ

右上肢領域のリンパ節

・上肢のリンパは腋窩に流れる。(腋窩リンパ節)

その後、鎖骨下リンパ本幹を経て、静脈角に

向かう。

※ 腋窩リンパ節は、腕、上肢帯、前胸壁のリンパが集積

する重要な場所で、30 〜 60 個のリンパ節が集まって

いる。

※ 上肢のむくみをとりたい場合、腋窩リンパ節をよく押

圧しゆるめ、リンパ液の流れに沿って軽擦を加えると

よいだろう。

■ 3. 上肢のリンパ(p.258)

国家試験問題

問題 2-84 前腕の動脈について誤っている記述はどれか。(あマ指 -9-29)

 1.尺骨動脈は手根管を通る。

 2.尺骨動脈は浅掌動脈弓を形成する。

 3.橈骨動脈は上腕動脈から分岐する。

 4.橈骨動脈の脈拍は触知できる。

問題 2-85 上肢の動脈について正しい記述はどれか。(鍼灸 -15-27)

 1.上腕動脈は正中神経と伴行する。

 2.橈骨動脈は腋窩動脈から分岐する。

 3.尺骨動脈は手根管を通る。

 4.尺骨動脈は深掌動脈弓の主体をなす。

問題 2-86 上腕動脈に沿って肘窩まで走行する神経はどれか。(鍼灸 -10-32)

 1.筋皮神経

 2.尺骨神経

 3.正中神経

 4.橈骨神経

問題 3-87 手根管を通らない筋はどれか。(鍼灸 -2-32)

 1.長掌筋

 2.浅指屈筋

 3.長母指屈筋

 4.橈側手根屈筋

Page 6: プリント・2 7 循環器系 - 上肢の脈管

90 2.7 上肢の脈管第 2 章 循環器系

国家試験問題

問題 2-88 手根管を通らないのはどれか。(鍼灸 -12-21)

 1.尺骨神経

 2.正中神経

 3.長母指屈筋腱

 4.深指屈筋腱

問題 2-89 手根管を通過しない筋はどれか。(鍼灸 -13-18)

 1.深指屈筋

 2.長掌筋

 3.長母指屈筋

 4.浅指屈筋

問題 2-90 斜角筋隙を通過する血管はどれか。(あマ指 -6-37)

 1.総頚動脈

 2.腕頭動脈

 3.椎骨動脈

 4.鎖骨下動脈

問題 2-91 斜角筋隙の構成に関与しないのはどれか。(あマ指 -8-38)

 1.前斜角筋

 2.中斜角筋

 3.後斜角筋

 4.第1肋骨

問題 2-92 三角筋胸筋溝を通過する血管はどれか。(あマ指 -10-18)

 1.腋窩静脈

 2.上腕静脈

 3.尺側皮静脈

 4.橈側皮静脈

問題 2-93 皮静脈の走行で誤っているのはどれか。(柔整 -2001-30)

 1.橈側皮静脈は三角筋の表面を通る。

 2.外頚静脈は胸鎖乳突筋の表面を通る。

 3.小伏在静脈は外果の後ろを通る。

 4.大伏在静脈は内果の前を通る。