図2 半導体の吸収係数の波長依存性akitsu.ee.ehime-u.ac.jp/lect/m/optlect14_03.pdf ·...

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1 半導体における光の吸収 1. バンド間遷移による光吸収 半導体においてバンド構造を最も反映しているのは光吸収スペクトルである。バンドギ ャップ以上のフォトンエネルギーの光が半導体で吸収されることは、価電子帯から伝導帯 への光遷移によることは周知のことである。さらに深くバンド間遷移による光吸収を取り 扱う為には、状態密度の概念が重要になる。光吸収では価電子帯の電子状態を占有する電 子が伝導帯の空の電子状態へと遷移する為に、その両状態が結びついた結合状態密度が関 係する。 光による電子遷移には2つの重要な物理法則が成り 立つ。エネルギー保存の法則と運動量保存の法則である。 保存則を満足する電子遷移を考察するためには波数k の空間すなわちブリルアンゾーンを考える。p=ħkで あるから、運動量の代わりに波数を用いる。フォトンの 波数は2π/λである。たとえば500nmの波長の光 の運動量は2π/500nmであり、ブリルアンゾーン の大きさ2π/aたとえば0.5nmの格子定数では2 π/0.5nmと比べれば1/1000である。従って 光学遷移はE-k空間では斜め上へ向かう矢印である が、殆ど上向きの矢印で表して良い。 直接遷移形半導体ではバンドギャップとほぼ等しいフォトンの吸収による光学遷移は価 電子帯頂上より伝導帯の底への遷移となる。ところが、間接遷移の半導体の場合、価電子 帯の頂上と伝導帯の底のエネルギーの波数は大きく異なるためフォトンの吸収のみによる 光学遷移は運動量保存則を満たさないために不可能である。実際には、フォノンと電子の 衝突により運動量とエネルギーの保存が可能となる遷移が確率は低いが存在する。これを 間接遷移と呼び、フォノンの吸収あるいは放出による光学遷移である Pankov の教科書では直感的に理解し易い表現で同様な結果が導かれているので紹介す る。光吸収係数は Pif は始状態から終状態への遷移確率に比例し、また、始状態の満たされ た電子の状態密度(価電子帯の状態密度) ni および終状態の空の電子の状態密度(伝導帯の 状態密度)nf に比例する。遷移過程は全ての起こりうるフォトンエネルギーに対して和を とる。従って吸収係数は、遷移確率 Pij 、始状態数 ni 、終状態数 nf を用いて、 α(ħω)=AΣPifninf で表される。0K ではこの仮定は十分である。 ここで、和は全ての状態である。 図1 直接遷移形半導体で の価電子帯から伝導帯への 光学遷移

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Page 1: 図2 半導体の吸収係数の波長依存性akitsu.ee.ehime-u.ac.jp/lect/m/optlect14_03.pdf · 2014-07-07 · 1 半導体における光の吸収 1. バンド間遷移による光吸収

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半導体における光の吸収 1. バンド間遷移による光吸収 半導体においてバンド構造を最も反映しているのは光吸収スペクトルである。バンドギ

ャップ以上のフォトンエネルギーの光が半導体で吸収されることは、価電子帯から伝導帯

への光遷移によることは周知のことである。さらに深くバンド間遷移による光吸収を取り

扱う為には、状態密度の概念が重要になる。光吸収では価電子帯の電子状態を占有する電

子が伝導帯の空の電子状態へと遷移する為に、その両状態が結びついた結合状態密度が関

係する。 光による電子遷移には2つの重要な物理法則が成り

立つ。エネルギー保存の法則と運動量保存の法則である。

保存則を満足する電子遷移を考察するためには波数k

の空間すなわちブリルアンゾーンを考える。p=ħkで

あるから、運動量の代わりに波数を用いる。フォトンの

波数は2π/λである。たとえば500nmの波長の光

の運動量は2π/500nmであり、ブリルアンゾーン

の大きさ2π/aたとえば0.5nmの格子定数では2

π/0.5nmと比べれば1/1000である。従って

光学遷移はE-k空間では斜め上へ向かう矢印である

が、殆ど上向きの矢印で表して良い。 直接遷移形半導体ではバンドギャップとほぼ等しいフォトンの吸収による光学遷移は価

電子帯頂上より伝導帯の底への遷移となる。ところが、間接遷移の半導体の場合、価電子

帯の頂上と伝導帯の底のエネルギーの波数は大きく異なるためフォトンの吸収のみによる

光学遷移は運動量保存則を満たさないために不可能である。実際には、フォノンと電子の

衝突により運動量とエネルギーの保存が可能となる遷移が確率は低いが存在する。これを

間接遷移と呼び、フォノンの吸収あるいは放出による光学遷移である Pankov の教科書では直感的に理解し易い表現で同様な結果が導かれているので紹介す

る。光吸収係数は Pifは始状態から終状態への遷移確率に比例し、また、始状態の満たされ

た電子の状態密度(価電子帯の状態密度)niおよび終状態の空の電子の状態密度(伝導帯の

状態密度)nf に比例する。遷移過程は全ての起こりうるフォトンエネルギーに対して和を

とる。従って吸収係数は、遷移確率 Pij 、始状態数 ni 、終状態数 nf を用いて、 α(ħω)=AΣPifninf

で表される。0K ではこの仮定は十分である。 ここで、和は全てのk状態である。

図1 直接遷移形半導体で

の価電子帯から伝導帯への

光学遷移

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図2 半導体の吸収係数の波長依存性

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光学遷移による基礎吸収には次の4つの種類がある:(1)直接許容遷移、(2)直接禁

止遷移、(3)間接許容遷移、 および(4)間接禁止遷移。 1.1 許容直接遷移 運動量保存則を満たした光学遷移が全て許容である為、遷移確率はフォトンエネルギー

に依存しない。 エネルギーEi を持つ始状態はフォトン吸収して光学遷移を行った終状態のエネルギーEf と

次の関係がある。 Ef = ħω- |Ei| 放物線のエネルギー帯では Ef- Eg = ħ2k2/2me* Ei=-ħ2k2/2mh*

の関係がある。 ħω- Eg=ħ2k2/2(1/ me* + 1/ me* ) 従って、直接結び合った状態の状態密度は、 N (ħω)d(ħω)=8πk2/(2π)3 dk = (2mr)3/2 / 2π2 ħ3 (ħω-Eg)1/2 d(ħω) と表される。 ここで電子と正孔の還元質量を次のように定義する

mr=1/ me* + 1/ me* 吸収係数は α(hν)=A*(ħω-Eg)1/2

で与えられる。 A*=e2(2mh*me*/mh*+me*)3/2 / nch2 me*

屈折率を4として電子正孔の質量が等しいと仮定すれば α(hν)=2x104(ħω-Eg)1/2 cm-1 で近似される。 さらに詳細な量子力学的な吸収係数の導出は次のような手順で行われる。光学測定から

得られる物理量は光吸収係数αであるから、単位体積当たりの光学遷移の割合 Wcv とαの

関係を求める。 厚さ d の結晶に垂直に入射した光が単位面積単位時間に吸収される光子数は、Wcvd であ

るから、吸収されるエネルギーはこれにフォトンエネルギーħωをかけて、ħωWcvdである。

またこれは結晶内の光エネルギー密度uにαd をかけたものに等しい。 ħωWcvd=uαd したがって、厚さdを両辺から消去して、

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ħωWcv=uα 吸収係数は α=ħωWcv/u

となる。ここで結晶内の光エネルギー密度uはポインチングベクトルより u=εE2/4π である。結晶内の波動関数としてブロッホ関数を用いる。価電子帯が充満帯であり伝導帯

が空帯の場合、状態密度として価電子帯の状態密度のみ考慮する。単位体積当たりの光学

遷移の割合(遷移確率)Wcvは光子と電子の相互作用より次に与えられる。 Wcv=πe2A2/2mħ2c2 ∫d3k/4π3 |π・pcv |2δ(Ecv-ħω) と表される。ここでπは偏光を表す単位ベクトルであり、pcv は価電子帯から伝導帯への遷

移に関する運動量演算子である。 先の α=ħωWcv/u の関係式用いれば、αは次式で表される α=(e2/πεm2c2 ħω) |π・pcv |2∫d3δ(Ecv-ħω) 価電子帯と伝導帯の E-k の関係が放物線で表されるとすれば、吸収係数と ħω-Egの関係は

次式で表される。 α=(2e2(mr)3/2/εm2c2 ħ4ω) |π・pcv |2 (ħω-Eg)1/2

ここで mrは価電子帯の有効質量と伝導帯の有効質量の還元質量である バンドが球対称(k 空間での等エネルギー面が球)であれば二乗平均運動量演算子<pcv2>を用いて吸収係数は次式で表される α=(A1/ ħω)(ħω-Eg)1/2

A1=6e2(2mr)3/2<pcv2> / εm2c2 ħ 3 この式を次のように変形すれば、実験で得られた吸収係数とバンドギャップの関係が明瞭

になる。 (αħω)2=A12 (ħω-Eg) 従って、その切片が Egを示す。吸収係数が ħωに対して大きく変化する領域では、(αħω)2

に対する ħω のグラフは直線になり、(αħω)2を ħωに対してプロットすることにより、ħω軸との交点から実験的に Egの概略値が求まり、これを光学ギャップと呼ぶ。 また、励

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起子による遷移がバンドギャップよりわずかに低エネルギーで生じる。バンドギャップ付

近でのバンド間遷移と励起子による吸収を総称して基礎吸収と呼ぶ。 光学ギャップは厳密には次の理由でバンドギャップと異なる。

(1)吸収帯が励起子吸収の影響を受ける。 (2)結晶の不完全性によるバンドギャップの位置的なゆらぎにより状態の裾の間の光学

遷移により吸収係数に(ħω-Eg)1/2 の依存性からのずれが生じ、また、Eg以下でも弱い吸収

がみられる。 (3)高キャリア濃度の縮退半導体では光学遷移はバンドとフェルミ準位間の吸収となる

ため光学ギャップはバンドギャップより大きくなる。ここで注意する点は、ドーピングに

よりバンドギャップの揺らぎにより状態の裾も同時に生じる場合があるため、吸収スペク

トルの解釈には注意が必要である。

直接遷移形半導体では、Eg を閾値として、それ以上のエネルギーの増加に対して急激に

吸収係数が増加する。Eg より十分大きなエネルギーでは、吸収係数は 10-4~105 cm-1程度

の値でほぼ一定値をとる。この吸収係数の変化と飽和値が大きいことが直接遷移形半導体

の特徴である。 1.2 禁止直接遷移 直接端(例えば k=0)において光学遷移が選択即により禁止されている物質が存在する。

この場合、波数が大きくなるにつれて波動関数の対称性が低くなるために光学遷移が許容

となる。しかし、直接端に近い波数での波動関数は直接端のものに近いため、遷移確率は

低い。したがって、吸収係数は Eg以上でゆるやかに増加する。理論的に光吸収係数は α(hν)=A(hν-Eg)3/2 の依存性を示すことが知られている。このような禁止直接遷移の代表的な物質として Cu2Oが有名である。 1.3 間接許容遷移 価電子帯と伝導帯の極値がブリルアンゾーンの異なる点に現れる半導体を間接遷移形半

導体と呼ぶ。図に示すように間接遷移形半導体ではフォトンの吸収のみで価電子帯の電子

を伝導帯の底に遷移させることは、エネルギー保存則と運動量保存則より不可能であるこ

とがわかる。しかし、間接遷移形半導体の基礎吸収端付近の光吸収を測定すればこの領域

で弱いながらも光吸収が観測される。これは、2段階の過程でエネルギー保存則と運動量

保存則を満たす遷移が存在することを示している。図にSiの光吸収スペクトルを示すが

この実験データは、フォノンの介在によって運動量保存の法則が満され,遷移が生じてい

ることが示されている。後で詳細を述べるが間接許容遷移では光吸収係数は、

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α(ħω)=A(ħω-Eg-±ħωp)2

の依存性を示すことが理論により導出される。ここで ħωpは、フォノンのエネルギーであ りプラスの符号はフォノンの放出を、マイナスの符号はフォノンの吸収を示す。この関係

よりα(ħω)1/2をフォトンエネルギーに対してプロットすることにより、2つの直線部分が得

られ、低エネルギーがフォノンの吸収、高エネルギーがフォノンの放出を伴った光学遷移である。

フォノン吸収と放出の割合は温度により変化する。高温ではフォノンを吸収した電子遷移が、低

温ではフォノンの放出した電子遷移の確率が大きい。これにより、間接遷移形半導体か否かがは

んていできる。光学ギャップエネルギーは図で示されるようにα(ħω)1/2と ħωのプロットによ

り得られる。α(ħω)1/2の ħω軸との切片よりフォノン放出によるエネルギーEg+ħωp をフ

ォノン吸収によるエネルギーEg-ħωp を求められ、この二つの切片の中心(平均エネルギー)

が間接遷移形半導体のバンドギャップエネルギーに対応する。

参考ではあるが間接禁止遷移の吸収係数は、 α(ħω)=A(ħω-Eg-±ħωp)3

図5 Si の光吸収係数スペクトルの温度依

存性実験から得られる2つの直線部分はフ

ォノンノ吸収と放出に対応する。

図4 間接遷移形半導体でのα(ħω)1/2

のフォトンエネルギーに対するプロッ

図3 直接遷移と間接遷移に対する光吸収過程

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と表されることを示しておく。 間接遷移の吸収係数の量子力学による導出過程は、フォノンと電子の相互作用を含むた

め、直接遷移の導出過程に比べて複雑である。間接許容遷移確率は、(1)光と電子の相互

作用による価電子帯から中間準位への光学遷移の確率と、(2)中間準位にある電子がフォ

ノンに散乱されて伝導帯へ遷移する確率の積で与えられる。従って、遷移過程の導出には、

2次の摂動論が必要である。 価電子帯,伝導帯がそれぞれ極値を取る付近で放物線型の E-k(E=ħ2k2/2m*)であると

する。間接遷移を考える際には電子-光相互作用

と電子-フォノン相互作用

を含めた 2 次の摂動計算を行う。 ただし,N は単位胞の数, Vp(q, r) は波数ベクトル q のフォノンと電子の相互作用,ωq

は波数ベクトル q の基準モードの振動数である.和は全ブリルアンゾーン内で取る。aq は

フォノンの消滅演算子である.フォノンの分枝は一つだけ考える。2 次の摂動を適用する。

光子とフォノンが両方とも吸収される過程,光子が吸収されフォノンが放出される過程が

現れる。今はフォノン吸収に伴う光吸収過程を考える。価電子帯の電子が一つの光子と一

つのフォノンを吸収して伝導帯に遷移する遷移確率は、

で表される。ただし,nqはフォノンの占有因子である。まず、価電子帯の電子|vk1>が光と

の相互作用 e・p により仮想状態|αk1> に遷移する。次に、この|αk1> 状態の電子は電子

格子相互作用ポテンシャル Vp(q, r)によりフォノンに散乱され波数 q だけの運動量の変化を

受け,|ck2 > 状態に遷移する。同様にエネルギー保存則によりフォトンのエネルギーとフ

ォノンノエネルギーの和がバンドギャップとなる。第 2 項目は,フォノンに散乱された電

子が仮想状態に移り,光との相互作用により伝導帯に遷移する過程である。和はすべての

仮想的なバンド状態への遷移を含む。これらの過程における運動量とエネルギーの保存則

は、

である。

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状態|vk1> から状態|ck2 > への単位時間当たりの 2 次の遷移確率は

ここで波数依存性の無い定数を称して C とおく。 ħωのエネルギーの光子に対する単位時

間当たりの遷移の総数は,価電子帯と伝導帯のすべての状態の積分より得られ,

と表される.ただし,Ωは単位胞の体積,kBΘはフォノンのエネルギー、スピン縮重度は2

である。この式をもとに、光吸収係数が得られる。

右辺それぞれが、フォノンの吸収と放出を示すことがわかり、それらがフォノンの従う

Bose-Einstein 統計により記述されることが理解される。 直接遷移と間接遷移が同時に存在する半導体 半導体の遷移形は直接遷移と間接遷移に分類されるが、これは波数空間内で価電子帯と

伝導帯のエネルギー差の最小値を禁制帯幅と定義し、これに対応する遷移が直接遷移であ

るか間接遷移であるかにより遷移形が決まる。半導体のバンド構造を詳細に検討すれば、

半導体には多くの価電子帯と伝導帯があることがわかる。間接遷移形半導体であっても、

その高エネルギーには価電子帯から伝導帯への直接遷移があることは通常である。このよ

うな禁制帯より大きなエネルギーの直接遷移はハッヤーインターバンドの遷移と呼ばれる。

典型的な例として Ge の光吸収係数スペクトルの例をあげる(図2)。Ge は 0.7eV の禁制帯

幅を持つ間接遷移形半導体であり、1.7μm の基礎吸収はΓ点にある価電子帯頂上から

<111>方向で最小値を持つ伝導帯への遷移であり、吸収係数の立ち上がりと緩やかな増加が

1.7μm 近傍にみられる(図2)。およそ 1.5μm 付近から短波長に急激な吸収係数の増加が

みられ、吸収係数は 106m-1 に達する。これはΓ点の価電子帯頂上からΓ点の伝導帯への遷

移によるものである。さらに 0.6μm に直接遷移による大きな吸収がみられる。Ge の特徴

として、間接遷移のエネルギーの 0.6eV と直接遷移のエネルギーの 0.8eV のエネルギー差

が 0.2eV と非常に小さいことがあげられ、このため吸収係数スペクトルが一見、直接遷移

のように思われることである。これに対し Si では、基礎吸収端の 1.1 eV の遷移はΓ点の価

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電子帯から<100>方向のX点に最小値を持つX点への間接遷移である。Γ-Γの直接遷移エ

ネルギーは高い為、Si は広い波長範囲で間接遷移である。これが Si を太陽電池で用いる場

合、太陽光を十分吸収するためには 0.4mm もの厚みが必要な理由である。 スピン軌道相互作用により分裂した価電子帯から伝導帯への遷移 Si, GaAs などの半導体では価電子帯の頂上がΓ点にあるが、これは2重に縮体したバン

ド( j=3/2)からなる。このバンドの低エネルギーにスピン軌道相互作用L・sにより分裂し

たバンドが存在しこれはスプリットオフバンド(j=1/2)と呼ばれる。価電子帯頂上は価電子の

p軌道からなり(化合物半導体では陰イオンのp軌道)、p電子のスピン軌道相互作用によ

りエネルギー差が生じる(j=l±s: j=1±1/2=3/2 or 1/2)。スピン軌道相互作用を無視すれば、

これらのバンドはΓ点で3重に縮体したバンドとなる。スピン軌道相互作用は原子番号の

大きな原子ほどLが大きくなるため大きい。スピン軌道分裂エネルギーの値は GaP では

0.2eV と小さいが InSb ではバンドギャップよりスピン軌道分裂エネルギーが大きくなる。

半導体の吸収スペクトルには、スプリットオフバンドから伝導帯への遷移が畳重する。ま

たΓ点にある価電子帯の頂上にある2つのバンドはk≠0 において縮体が解け、これらは有

効質量より、k≠0 で上にある重い正孔バンド(ヘビーホールバンド)と下にある軽い正孔

バンド(ライトホールバンド)と呼ばれている。また、結晶に歪が生じた場合ヘビーホー

ルバンドとライトホールバンドは分裂する(結晶場分裂)。以上は立方晶系での話であるが、

正方晶や六方晶では結晶場分裂が存在するため、価電子帯頂上はスピン軌道相互作用と結

晶場の両方のためにΓ点で価電子帯は3つの異なるエネルギーを持つバンドとなり、縮体

は無い。 基礎吸収端のシフト1 –バンドテイル–

結晶の不完全性によるバンドギャップの位置的なゆらぎにより状態の裾の間の光学遷移

により吸収係数に(ħω-Eg)1/2 の依存性からのずれが生じ、また、Eg以下でも弱い吸収がみ

られる。 基礎吸収端のシフト2 –Burstein-Moss 効果– 高キャリア濃度の縮退半導体では光学遷移はバンドとフェルミ準位間の吸収となるため光

学ギャップはバンドギャップより大きくなる。ここで注意する点は、ドーピングによりバ

ンドギャップの揺らぎにより状態の裾も同時に生じる場合があるため、吸収スペクトルの

解釈には注意が必要である。 電界が光吸収に与える影響 –Frantz-Keldysh 効果–

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励起子吸収

自由励起子

励起子(Exciton)とは,伝導帯の電子と価

電子帯の正孔がクーロン引力によって束縛さ

れた粒子であり,光の吸収、反射や発光などの

半導体の光物性で観られる。 励起子は,ワニ

エ・モット形とフレンケル形の2種類に分類さ

れる。ワニエ・モット励起子は,電子・正孔対

の波動関数が結晶格子中で比較的大きな広が

りをもっており、その広がりを自由励起子のボ

ーア半径と呼ぶ。 また、自由励起子は水素原

子形のエネルギー系列を持つ。半導体中の励起

子は,一般的にワニエ・モット形である。フレ

ンケル形励起子は,結晶格子中に励起子が強く

局在した状態であり,イオン結晶や分子性結晶

で観測される

半導体中でのワニエ・モット励起子による光吸収について説明する。

励起子のエネルギーEb(n)とボーア半径(aB)は水素原子のSchrodinger方程式

(1)

を用いて、これの電子の静止質量を半導体の電子と正孔の還元質量 μ (μ=memh/me+mh)に、真

空誘電率を半導体の誘電率に置き換えることにより近似的に求めることができる。

(2)

ここで、n=0 のエネルギーEb(1)は励起子束縛エネルギーと呼ばれる。

励起子の内部エネルギーに加えて,励起子が結晶空間を自由に動き回る並進運動の考慮

が必要である。励起子の並進運動エネルギーを考慮した励起子のエネルギーは次式で与え

られる。

M は励起子の並進質量(M=me+mh)である。この式で表される波数Kとエネルギーの関係

を図2に示す。この関係は、半導体のバンドの分散曲線に沿ったものであり、この理由で

ワニエ・モット形励起子は有効質量形励起子とも呼ばれる。図中の破線は,光の分散を概

略的に示しているが、光と励起子の相互作用により分散曲線の交点付近では励起子と光子

図1 ワニエ・モット形励起子

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の区別ができないポラリトンと呼ばれる

状態を形成することがある(エキシトン

ポラリトン)。

基底状態(n=1)の励起子の遷移エネ

ルギーは,バンドギャップエネルギーEgより励起子束縛エネルギーだけ低いEg-Eb(1)である。従って半導体において励

起子は基礎吸収端において吸収ピークと

して観測される。また、n=2状態の励起

子の遷移エネルギーは(2)式より

Eb(2)=Eb(1)/4であるので、n=2の励起子

吸収ピークはEg-Eb(1)/4のエネルギー

に現れる。 光吸収における自由励起子遷移の振動

子強度はnの3乗に反比例する。従って

n=2の吸収ピークの強度はn=1の強度の1/8倍である。 また、n=1とn=2の二つの励起子吸収ピークが測定された場合、2つの吸収ピークの差のエ

ネルギー差 {Eg-Eb(1)/4} – {Eg-Eb(1)} = Eb(1) 3/4 の4/3倍から励起子束縛エネルギー求

められ、これよりバンドギャップエネルギーをn=1の吸収ピークエネルギーと励起子束縛エ

ネルギーの和として正確に求めることができる。n≧3では吸収ピーク間隔が非常に小さ

くなるため連続の吸収帯となりn=∞の遷移エネルギーがバンドギャップに対応するしこれ

が電子・正孔の非束縛状態(自由キャリア状態)に対応する。 図3にGaAsの吸収端付近の光吸収スペクトルを示す。低温で顕著に励起子による吸収ピ

ークがみられる。GaAsの励起子束縛エネルギーは4.5meVであるので、室温付近では、励

起子は熱的エネルギーで解離する。従って、励起子吸収を明瞭に測定するにはkT<Ebの低

温が必要である。

図2 自由励起子の分散

図3 GaAs の吸収端付近の光吸収スペクトルの温

度依存性。低温で励起子によるピークがみられる。

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励起子吸収は、非常に高純度で完全性の高い半導体結晶で観測される。特に極低温では

その構造が明瞭に現れる。図3-2(a)に2KでのGaAsの光吸収スペクトルを示す。

参考の為に図3-2(b)に発光スペクトルを示す。2Kでは励起子吸収が明瞭であり、

吸収線幅が狭い。n=1励起子は図3で示されたものに比べてはるかに鋭いピークで現れ

る。特に、励起子の第一励起準位(n=2)による光吸収ピークが現れていることに注目

したい。この結果より、n=1とn=2の励起子準位のエネルギーより求められたバンド

ギャップエネルギーが図に波線で示されている。この値は非常に精度が高いことに注目し

たい。バンドギャップ以上の吸収帯はバンド間遷移による。通常励起子は、温度、不純物

や欠陥のつくる電界や歪により生じるポテンシャルの揺らぎにより容易に解離する。先に

述べたように、GaAsの励起子束縛エネルギーは4.5meVと小さい為にこのように明瞭な励

起子吸収を測定することは容易でなく、高純度の完全性の高い結晶と極低温測定が必須と

なる。 これに対し、発光スペクトルは束縛励起子によるピークが支配的であり、自由励起子遷

移による発光は弱い。さらに自由励起子はポラリトンを形成しており、高い分枝によるブ

ロードなピークが励起子吸収(n=1)の高エネルギー側に、低い分枝の発光がその低エ

ネルギーに観られる。励起子ポラリトンに関しては発光の章で詳細を述べる。

図3-2 極低温(2K)での(a)GaAs の吸収端付近の

励起子吸収スペクトルと(b)発光スペクトル。

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表1 化合物半導体の励起子束縛エネルギーとボーア半径

半導体 Eb (meV) aB (nm) 半導体 Eb (meV) aB (nm)

GaSb 1.9 23 CdS 28 2.7

GaAs 4.5 14 ZnS 38 2.2

GaN 24 2.8 ZnO 59 1.4

_______________________________________________________ 自由励起子の束縛エネルギーは、(2)式からわかるように電子と正孔の還元有効質量に

比例し、誘電率の2乗に比例する。従って、有効質量の大きい半導体では励起子束縛エネ

ルギーが大きい。一般的に禁制帯幅の大きい半導体の有効質量は小さく、従って励起子束

縛エネルギーは大きい。これがワイドギャップ半導体で励起子束縛エネルギーが大きいこ

との一つの理由である。表1に化合物半導体の励起子束縛エネルギーとボーア半径を示す。

たとえば、ZnOは3.2eVの広いバンドギャップを持ち励起子束縛エネルギーは59m meVと

室温での熱エネルギーkT=26meVと比べて大きい。ZnOでは室温で励起子吸収が明瞭に観

測され、そのためZnO励起子を用いた光デバイスとしての研究が行われている。また、励

起子を二次元化にすることにより励起子束縛エネルギーは三次元の値の4倍になる。これ

は超格子構造を用いて励起子を二次元的に井戸層に閉じこめることにより現実となった。

GaAsバルク結晶での励起子束縛エネルギーは4.5meVであるので、超格子構造では18.meVと大きな値となり、室温で励起子吸収が観測されるようになる。励起子では電子と正孔が

クーロン引力で引き合っているため、電界の因加で電子と正孔を引き離すことができる。

すなわち電界印加により励起子を解離できる。電界が無い状態では励起子吸収があり、電

界下では吸収が低減するため、電界により透過光を変調することができる。励起子の解離

は高速の現象であるので、光変調器は高速で動作する。 ダイヤモンド構造を持つSiやジンクブレンド構造を持つGaAsと同様な4配位の半導体の

一つにカルコパイライト構造を持つ半導体がある。この半導体の代表例としてCuInSe2の属

するI-III-VI2族半導体がある。I-III-VI2族半導体では価電子帯の頂上部分がI族のd軌道とVI族のp軌道との混成軌道から成ることが知られている。この結果、価電子帯頂上部の状態密

度は高く、正孔の有効質量は対応するアイソエレクトロニックなII-VI半導体のものに比べ

て大きい。その結果、I-III-VI2族カルコパイライト半導体では励起子束縛エネルギーが大き

く、その基礎吸収スペクトルに励起子の構造が大きく反映される。 図4にCu2Oの低温での光吸収スペクトルを示す。Cu2Oの伝導帯と価電子帯の極値は反転

に対して同じパリティーを持つ為、k=0での光学遷移は電気双極子禁止遷移である。励起子

に対してはn=1の準位のみp状態を含まない(n=1では1sのみ)ため禁止遷移である。

2p(n=2), 3p(n=3), 4p(n=4),…では弱く許容された励起子吸収ピークを示す。これらの励起

子吸収ピークは、En=(2.166-0.097/n2) eV (n=2,3,...) できわめて良く説明できる。これら

はYellow Exciton Series として励起子の光物性で有名である。

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先に述べたように励起子は電子と正孔からなるので電界を印加することにより解離する。

不純物や欠陥の多い半導体では、それらの周りに局所電界が生じるために励起子は解離す

る。従って、励起子吸収は高純度で完全性の高

い結晶で、低温で顕著に観測されるので、励起

子吸収は結晶性の一つの指標として用いられ

る。また、完全性の高い結晶であってもキャリ

ア濃度が高い半導体では、自由キャリアの電荷

が励起子を遮蔽する(スクリーニング)為に励

起子吸収が観測されないことが多い。 結晶の不均質性により生じた局所的にバン

ドギャップが小さい場所に励起子が動かず存

在することがある(局在励起子)。 混晶半導

体での混晶組成の揺らぎにより(In,Ga)Nや

(Ga,In)(N,As)などで局在励起子の存在が顕著

にみられることが知られている。 励起子は、光吸収の他、反射スペクトルや発

光スペクトルで観られる。特に発光スペクトル

では、自由励起子の他に不純物等に束縛された

束縛励起子が重要な発光過程である。

図4 Cu2O の低温での光吸収スペクトル。 Baumeister: Phys. Rev. 121(1961)359.

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自由キャリア吸収 これまでは、価電子帯内の準位と伝導帯間の準位間の遷移や、不純物や欠陥レベルとバ

ンド間の遷移による光吸収について考察した。 ここでは、バンド内に存在する自由キャリアによる光吸収を考えるが、ドルーデのモデ

ルを引用する。ドルーデモデルでは電界の下で電子が結晶格子と衝突を繰り返しながら運

動する。金属で特有の光沢を有し、可視光を反射する現象がこのモデルで理解される。 光の周波数で振動する交流電界 E=E0exp(iwt) での質量 m、電荷 e の自由電子の運動

方程式は dv/dt + v/τ = -e/m[E exp(iωt)] と表される。v は電子の速度、はτ 衝突間の緩和時間である。この解は、 v = -e/m τ/(1+iωt)[E exp(iωt)] となる。 電子濃度を n とすれば、電流密度は、 J = -nev=σE である。 従って、周波数νの振動電界に対する複素導電率σは、 σ = ne2/2πm [(ν/(ν+ντ 2 ) - i ν/(ν+ντ 2 )] と表される。ここで ντ は緩和周波数である。(ντ = 1/2πτ )

また、光学定数と電気定数の関係より

n2 = εr μr – iσμr/ε0ω

が与えられている。したがって、

複素誘電率の実部は、

ε1 = n2 - κ2 = (εr μr – iσμr/ε0ωn)- κ2 = εr μr [1 – (νp2/(ν+ντ 2 )] 複素誘電率の虚部は、

ε2 = 2n κ = εr μr ντνp2/(ν+ντ 2 ) であらわされる。ここでεは自由キャリア以外の媒質全体の分極による誘電率であり、金属

の場合ではεはほぼ1である。νpはプラズマ周波数とよばれ次式で与えられる。

νp= 1/2 [ne2/εm]1/2 自由電子濃度が高い金属ではプラズマ周波数に対応する波長は100-300nmという真空紫外

を含む紫外領域あるため、近紫外を含む可視光を100%近く反射する。この性質は金属

薄膜を用いたミラーに応用されている。 今、光の周波数(波長)を幾つかの領域に場合分けを行い考察する。

(1) ν<<ντ の場合

光の振動電界に対応する周期が電子の平均自由時間より十分長いから、電界により加速

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された電子は格子を構成する原子と衝突し、運動エネルギーを格子に与える。従って光の

電界のエネルギーには損失が生じることになり、光は物質に吸収される。 導電率は となる。したがって導電率は直流の値と等しい。 金属の場合は、緩和周波数に対応する光波長は10~100μmとなり、これは遠赤外

光に対応する。この周波数に対応する複素屈折率は以下に与えられる。 光吸収係数は以下に与えられる。 Agの場合、波長1mmの遠赤外光の侵入長は50nmである。この波長領域では n, k に対して1は無視できるため、反射率は100%である。 (2)ν << ντ << νp の場合 周波数が高くなると光吸収が小さくなる理由を述べる。ν<<ντ の場合、電子の平均自

由時間の間に光の電界は多数回反転する。電界からエネルギーを得て加速された電子は格

子を構成する原子と衝突する前に電界により減速されることにより、原子と衝突しない。

したがって、電子の得た運動エネルギーが電界に返されることになり、エネルギーの損失

が無いために光の吸収は生じない。この周波数では消衰係数 κ の項が支配的で、光反射率

はほぼ100%である。 (3)ν≑νp およびν>νp の場合 光の周波数がνp に近づくと

nκ ≑0 となり、n ≑0 あるいは nκ ≑0 である。 ν<νp ではn ≑0 であるから、光反射率はほぼ100%となり、全反射を示す。

これらの考察より、自由キャリアにより、プラズマ周波数νp以下の周波数の光をほぼ10

0%反射する。

金属のプラズマ周波数νp に対応する波長は 100-300nm の紫外領域あるため、可視光を

100%近く反射するため金属光沢を示し、金属薄膜が可視光のミラーに使用されている

ことは先に述べた。 主にバンドギャップの広く紫外にある酸化物半導体では、非常に高い電子濃度1020~

1021cm−3を持つ縮退半導体が存在する。これらの半導体では電子濃度が金属に比べて低く、

プラズマ周波数νpにを可視光の周波数以下の近赤外領域にに設定することができる。この

ような酸化物半導体の薄膜は低い率(10−3~10−4 Ωcm)と高い可視光の透過率(80~90%)を示

す為に、透明導電性薄膜として、液晶デスプレー、エレクトロルミネッセンス(EL)素

子や太陽電池に用いられている。主なものにΙΤΟ (Indium Tin Oxide)、SnO2 やⅢ族ドナ不純

物をドープした酸化亜鉛 ZnO (ZnO:B, ZnO:Al, ZnO:Ga)がある。