2007 92001 年9 月10...

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J-REIT の現状と問題点 利益相反問題と Stapled Securities の提案2007 9 早稲田大学大学院 (早稲田ビジネススクール) 伊藤 隆明 マークの意味 http://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/ この論文は私の研究室に所属している大学院生の修士課程修了論文のうち、特に資料的価 値が高いと判断されるものを、公開資料としての趣旨に沿うよう修正改編のうえで、担当 教授の責任で公開するものです。内容等につき紹介がある場合は岩村に問い合わせくださ い。(早稲田大学大学院/早稲田ビジネススクール教授・岩村充)

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  • J-REIT の現状と問題点

    -利益相反問題と Stapled Securities の提案-

    2007年 9月

    早稲田大学大学院

    (早稲田ビジネススクール)

    伊藤 隆明

    マークの意味 http://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/

    この論文は私の研究室に所属している大学院生の修士課程修了論文のうち、特に資料的価

    値が高いと判断されるものを、公開資料としての趣旨に沿うよう修正改編のうえで、担当

    教授の責任で公開するものです。内容等につき紹介がある場合は岩村に問い合わせくださ

    い。(早稲田大学大学院/早稲田ビジネススクール教授・岩村充)

  • i

    目次

    _Toc171054619 第 1章 はじめに .................................................................................................................................1

    第 2章 不動産証券化 .........................................................................................................................4

    第 1節 不動産証券化スキームの基本構造 .................................................................................4

    第 1項 不動産証券化の基本的スキーム .................................................................................4

    第 2項 SPVの基本形態と機能.................................................................................................6

    第 2節 不動産証券化のメリット .................................................................................................7

    第 3節 主要な不動産証券化スキーム .........................................................................................8

    第 4節 不動産証券化の歴史 .......................................................................................................10

    第 5節 不動産証券化市場の現状 ...............................................................................................14

    第 3章 J-REIT ..................................................................................................................................20

    第 1節 J-REITの定義 ..................................................................................................................20

    第 2節 投資信託法に基づく証券化スキーム ...........................................................................20

    第 3節 J-REITの資金調達 ..........................................................................................................21

    第 4節 J-REITの運用体制 ..........................................................................................................23

    第 5節 J-REITの関係法令 ..........................................................................................................25

    第 6節 J-REITの情報開示 ..........................................................................................................27

    第 7節 J-REIT市場の変遷概観 ..................................................................................................27

    第 8節 J-REIT市場の現状 ..........................................................................................................31

    第 4章 米国 REIT ............................................................................................................................39

    第 1節 米国 REITの歴史 ............................................................................................................39

    第 1項 REITの起源 .................................................................................................................39

    第 2項 発展の経緯...................................................................................................................39

    第 2節 米国 REITの仕組み ........................................................................................................42

    第 1項 米国 REITの要件 ........................................................................................................42

    第 2項 米国 REITのタイプ ....................................................................................................43

    第 3項 UPREITと DOWNREIT..............................................................................................46

    第 3節 エクイティ REITの投資対象資産 ................................................................................47

    第 5章 結びにかえて ~J-REITの利益相反と Stapled Securitiesの提案~ .........................54

    付録 1 Property Trust............................................................................................................................59

    第 1節 LPTの概要.......................................................................................................................59

    第 2節 LPTのストラクチャー ...................................................................................................60

    第 3節 LPTの関係法令 ...............................................................................................................63

    第 4節 LPT市場の変遷概観 .......................................................................................................64

  • ii

    付録 2 J-REIT銘柄一覧表 ...................................................................................................................66

    参考文献 ....................................................................................................................................................77

  • 1

    第1章 はじめに

    日本では第 2 次世界大戦後の産業の復興・育成が銀行中心の融資によって行われてきた

    ことから、直接金融の発達は遅れていた。企業はメインバンクシステムの下、会社全体の

    信用力や収益力、保有する不動産を担保に事業に関わる資金を金融機関からの借入で調達

    してきた。過去に土地価格は上昇を続けてきたため「土地神話」が存在し、不動産の保有

    は資金調達上有利であった。

    しかし、バブル経済の崩壊以降、それまでの資金調達の主役であった銀行は膨大な不良

    債権を抱え、貸出余力がなくなった。地価は下落を続け、企業の信用力は低下し、従来の

    コーポレート・ファイナンスでは企業の信用リスクを反映して資金調達が困難になり、金

    利も高くなることが生じた。資産デフレが継続したことにより従来の日本における資金調

    達手段は岐路にさしかかり、金融のトレンドは間接金融から直接金融へと徐々にシフトし

    ていくこととなった。

    こうした状況に加え、不動産に対する時価会計の導入により、資産価格の変動が直接企

    業の自己資本を変動させることとなった。活用しない不動産を抱えているのはマイナスと

    不動産所有概念は変貌し(図表 1)1、企業では財務リストラを進めるために、不動産のオ

    フバランスニーズが高まることとなった。

    図表 1 今後の土地所有の有利性についての意識

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    1993年

    1995年

    1997年

    1999年

    2001年

    2003年

    2005年

    (年度)

    今後、所有が有利 今後、借地・賃貸が有利 その他

    (出所)国土交通省「平成 18年版土地白書」を基に作成 1 図表 1は企業の土地所有に関する意識について、国土交通省が調査したものである。2005年度の調査では「今後、所有が有利」と考える企業の割合は 39.8%であり、1993年度の調査と比べ約 27ポイント減少している。

  • 2

    このような環境下、企業の信用力とは無関係に、オフバランスの対象となった不動産な

    どの資産の生み出すキャッシュフローに着目し、その特定資産を当該企業とは別個の組織

    (ビークル)に譲渡し、資金調達を行うアセットファイナンスの手段として普及しはじめ

    たのが資産の「証券化」である。 当時、不良債権処理は証券化による担保不動産の処分に期待されたため不動産証券化関

    連法制が矢継ぎ早に整備され、不動産証券化市場が急速に発展することとなった。不動産

    価格の継続的下落によって不動産市場が低迷する中、不動産証券化市場は不動産の新たな

    買い手を創出し、不動産市場を活性化させることとなった。 不動産証券化とは、不動産の証券化という特別の目的のために設立された法人等が、証

    券を発行して投資家から資金を集めて不動産に投資し、そこから得られる賃料収入等の収

    益を投資家に配分する仕組みであり、対象不動産の資産としての収益性に着目した投資形

    態である。この不動産証券化が普及したことにより、高額な不動産を適正価格で売却する

    ことが容易になり、不動産の流動性が向上した。企業にとっては、不動産のオフバランス

    ニーズをより実現しやすい環境が整うこととなった。

    また不動産証券化市場の拡大により、低金利のなか流動性があり小口で不動産に投資で

    きる商品が登場し、金融市場にも多大なインパクトを与えた。バブル期以前の日本の不動

    産市場は他の資産市場(証券市場)とは独立した存在であった。不動産投資は投資家が全

    てのリスクを負担し、長期保有を前提に安定的な収益とキャピタルゲインの獲得を目指し

    て行われ、証券などと同一のポートフォリオに入れることを想定して検討されることはな

    かった。

    しかし不動産証券化商品は、株式や債券などの他の金融商品とは異なる新たな特性を持

    つ投資対象資産の登場であり、投資家は不動産証券化商品への投資を行うことで、保有す

    る金融資産のパフォーマンスの向上とリスク分散を図ることができる。1,500兆円といわれ

    る個人資産の運用が多様化するなかで、今後も不動産証券化商品への投資ニーズは高いの

    ではないかと考える。

    不動産証券化市場の拡大に大きく寄与し、その代表的な商品といえるのは J-REITである。

    2001年 9月 10日に日本ビルファンド投資法人、ジャパンリアルエステート投資法人の 2銘

    柄でスタートした J-REITは既に 6年目に入り、2007年 4月末時点では 41銘柄となり、時

    価総額は約 6.5兆円にまで拡大している。また、今後も上場を予定している不動産ファンド

    も多く、市場の拡大が予想される。

    一方、2006年から J-REITの組入れ不動産の審査や内部管理体制の不備などの法令違反が

    相次いで表面化し、行政処分を受けた銘柄が出たことから J-REITにおける組織・体制の信

    頼性に対する問題が浮かび上がっている。特に、不動産投資信託制度の開始時から課題と

    いわれていた、利益相反の問題が顕在化してきている。

    この問題点を基軸として J-REITの今後の可能性を考える上で、制度上参考にしたといわ

    れる米国 REITが参考になると考える。そこで本論文においては、まず日本の不動産証券化

  • 3

    の現状を整理した上で(第 2章)、J-REITがどのようなものであるかを述べていく(第 3章)。

    その後、米国 REITについて整理した上で(第 4章)、最後に J-REITの利益相反問題を考え

    る(第 5章)。

  • 4

    第2章 不動産証券化

    第1節 不動産証券化スキームの基本構造

    第1項 不動産証券化の基本的スキーム 不動産証券化は、不動産の購入と不動産賃貸事業のみを目的として設立された投資ビー

    クルが、証券を発行して投資家から直接的に資金を集めて不動産に投資し、そこから生ま

    れる賃料収入やキャピタルゲインなどのキャッシュフローを投資家に分配する仕組みであ

    る。投資ビークルは SPV(Special Purpose Vehicle)ともいい、目的を限定した特別な会社形

    態(SPC:Special Purpose Company)や組合、信託などの形態をとり、不動産などの資産を

    裏付けに証券を発行するための便宜上の媒体を総称していう。このスキームを用いること

    により、不動産のリスクとリターンは元の所有者(オリジネーター)から投資家に移転さ

    れる。 不動産証券化において投資家の投資形態は、不動産の持分権や信託受益権、または株式

    や債券などの有価証券のいずれかになる。またスキームとしては、資産運用型スキームと

    資産流動化型スキームの 2つに分けることができる。 資産運用型スキームとは、不特定の不動産を運用することを前提に多数の投資家から集

    めた資金をプールし、ファンド・マネージャーなどの専門の運用業者が不動産に投資運用

    することにより得られるキャッシュフローを投資家に分配する仕組みである。ファンドに

    当初入っていた不動産は、運用業者の判断により投資期間中に入替えが行われ、動的・能

    動的で企業的性格を持つといえる。J-REITは資産運用型スキームの代表例である。 一方、資産流動化型スキームとは、特定の不動産から生じるキャッシュフローを専門家

    であるアレンジャーが組み換えて多数の投資家に証券などを販売することにより資金調達

    を行うスキームである。この場合、当初流動化の対象となった不動産は投資期間中入替わ

    ることはなく、静的・受動的で不動産担保的性格を持つといえる。 初めに投資家の運用資金ありきが資産運用型スキームであり、初めに対象資産ありき(オ

    リジネーターありき)が資産流動化型スキームということである。不動産を含めた資産の

    証券化では、両者を併せて「仕組み行為者(スポンサー)が投資者の資金をプールし、こ

    れを専門家(ファンド・マネージャーなど)が運用・管理する仕組み」とし、これを集団

    投資スキームという。 不動産証券化は、公募型と私募型の 2 種類に分けることもできる。公募型は不特定多数

    の人が自由に出資することが可能なものであり、代表的なものは J-REITである。私募型は

    少数の限定された投資家、もしくは機関投資家などのプロの投資家のみが出資できるもの

  • 5

    であり、私募ファンドと呼ばれる。 このような違いはあるものの、不動産証券化の基本的仕組みは同じである。主な要素と

    しては①SPV、②物件・信託受益権、③資金調達、④信託、⑤リースバックがある。図表 2

    は不動産証券化スキームの基本構造である。 図表 2 不動産証券化の基本的仕組み

    信託銀行

    実物不動産・信託受益権など

    ④管理・処分信託契約

    不動産市場 資本市場

    物件購入資金

    ②物件・信託受益権

    テナント(オリジネーター)

    負債

    (デット)

    資本

    (エクイティ)

    資産

    ・不動産現物

    ・不動産信託受益権

    不動産担保ローン

    デット投資 不動産担保ローンの証券化(CMBS等)

    デット投資社債発行投資法人債

    優先受益権

    エクイティ投資

    株式投資口

    優先出資組合出資信託受益証券劣後受益権

    ③デットファイナンス

    利払・配当

    ③エクイティファイナンス

    ケイマンSPC・中間法人出資

    ①投資ビークル

    ⑤リースバック

    信託銀行

    実物不動産・信託受益権など

    ④管理・処分信託契約

    不動産市場 資本市場

    物件購入資金

    ②物件・信託受益権

    テナント(オリジネーター)

    負債

    (デット)

    資本

    (エクイティ)

    資産

    ・不動産現物

    ・不動産信託受益権

    不動産担保ローン

    デット投資

    不動産担保ローン

    デット投資 不動産担保ローンの証券化(CMBS等)

    デット投資社債発行投資法人債

    優先受益権

    エクイティ投資

    株式投資口

    優先出資組合出資信託受益証券劣後受益権

    ③デットファイナンス

    利払・配当

    ③エクイティファイナンス

    ケイマンSPC・中間法人出資

    ①投資ビークル

    ⑤リースバック

    (出所)佐藤一雄「不動産証券化の実践」を基に作成

    不動産証券化の最もシンプルな仕組みは①、②、③の要素から成り立っている。オリジ

    ネーターは SPVに資産を譲渡し、SPVはオリジネーターに売買契約という形で代金を支払

    う。SPV はこの代金に相当する金銭を資本市場から調達する。証券化では、SPV が発行す

    る社債や金融機関からの借入金のように元利金が確定されたものをデット(debt)、元本保

    証のない株式や出資持分をエクイティ(equity)という2。①により投資家は倒産隔離(バン

    クラプシーリモート)ができ、②によりオリジネーターはオフバランス化ができ、③によ

    り SPVは、資金調達することができる。 オリジネーターがビークルに譲渡した後も、その物件の使用を継続する場合は、最もシ

    2 デットは不動産収益の分配を優先して享受し、エクイティはその残余分を受け取るので、両者には収益分配上の優先劣後構造がある。デットは、元利金や期限が明確でリスクが小さい利回りは低いが、エクイ

    ティは大きなリスクを取る分だけ期待利回りは高い。

  • 6

    ンプルな仕組みに④、⑤の要素が加わる。このようにオリジネーターが不動産の使用を継

    続することをセール&リースバックと呼ぶ。 第2項 SPV の基本形態と機能

    SPVは大きく分けて「会社型」と「契約型」に分けることできる。株式会社、合同会社、

    特定目的会社、投資法人を使ったものは「会社型」と呼ばれる。一方、任意組合、匿名組

    合、信託、特定目的信託、投資信託などのように投資家とビーグルの契約により成立する

    ものを「契約型」と呼ぶ。会社型は、権利の流通性、権利保護の面でも安定性がある。 SPVには以下のような機能がある。

    第 1 に、独立機能がある。オリジネーターを含め他者から不動産などを独立させる機能

    で、オフバランス、倒産隔離の機能を確保することができる。倒産隔離とは、証券化され

    た不動産自体に関わるリスク以外のリスクを投資家に負わせないための法的枠組みである。

    具体的には、オリジネーターの倒産が SPV の債務履行に影響を与えないようにすることで

    ある。このため不動産の所有権がオリジネーターから SPV に確実に移転して、譲渡が法的

    に有効とされる真正売買性の確保が求められる。また、証券化対象資産が SPV そのものの

    倒産手続きから隔離される必要もある。このため、証券化スキームでは SPV の倒産回避の

    仕組みとして、以下の方法がとられている。 ①SPV は不動産賃貸及び処分以外の業務を行えないよう、且つ予定外の債務を負わないよ

    う業務内容が制限されている。 ②イギリス領ケイマン諸島などの海外 SPC3や有限責任中間法人4を活用し、SPVの社員や株

    主が倒産を申し出るなど、投資家に不利な議決権を行使できないようにする。 第 2 に、二重課税回避機能がある。導管性の確保5ともいい、証券化では不動産から生じ

    る収益を投資家に直接的に分配することが求められるため、SPV が課税主体とならないよ

    うな仕組みを作り、SPV の所得に対する課税と投資家の所得に対する課税の二重課税を回

    避する。具体的には以下の方法がとられている。 ①信託のような、それ自体が課税主体にならない SPVを使用する。 ②一定の配当・分配ルールを満たすことにより、投資家への配当金・分配金を費用として

    損金算入することが可能な特定目的会社や投資法人、匿名組合を使用する。 第 3 に、保管機能・事業体機能がある。プロジェクトファイナンスとして不動産プロジ

    3 ケイマンなどに SPCを設立し、その議決権株式は現地の信託会社に譲渡し、議決権が行使されない仕組みとする。この仕組みは、信託会社が自らを委託者兼受託者として、信託期間終了後に譲り受けた議決権

    株式を慈善団体に寄付するという信託宣言を行うもので、慈善信託(チャリタブルトラスト)と呼ばれる。 4 2002年 4月に施行された中間法人法に定める法人で、基金(資本金)拠出者と法人の議決権者を別々に定めることができるという特徴を持つ。このため議決権者である社員にオリジネーターや投資家と利害関

    係のない第三者の公認会計士などを就任させることで、中間法人自体をオリジネーターや投資家と切り離

    された組織とすることが可能となる。 5 SPVは投資家にキャッシュフローを導く管という意味で導管体(Conduit)とも呼ばれる。

  • 7

    ェクトを入れておく必要があるので、保管機能が必要である。また、運用するために形式

    上の事業体としての機能ももつ。 第 4 に、資金調達機能がある。証券発行や売却により資本市場のレンダーや投資家から

    借入や投資資金を調達することができる。 第 5 に、契約主体機能がある。オリジネーター・不動産市場から不動産を購入、または

    売却するときの契約主体となることができる。 第2節 不動産証券化のメリット

    以下では不動産証券化のメリットを、投資家、オリジネーター、不動産会社、金融機関

    のそれぞれの立場から述べる。 ①投資家のメリット 従来の不動産投資は実物を所有することであり、投資家は機関投資家や富裕層などに限

    定されていた。しかし不動産証券化商品が登場したことにより、小口で流動性の高い証券

    形態による投資が可能となり、またデット投資・エクイティ投資、公募投資・私募投資、

    投資期間の長短など、投資資金の性格や投資方針に対応した多様な投資選択が可能となっ

    た。また、相対で実施される実物不動産取引と比較し、情報開示度合いが高いので、投資

    家は開示された様々な情報から投資判断をすることができる。このため、以前は不動産投

    資を行ってこなかった年金基金や海外投資家、ファンド・オブ・ファンズ6の登場により個

    人投資家へまで投資家層が拡大している。 ②オリジネーターのメリット 証券化される資産の元の所有者をオリジネーターという。オリジネーターにとって、不

    動産証券化は新たな資金調達手法である。証券化は企業の信用力に基づく資金調達(コー

    ポレート・ファイナンス)ではなく、資産自体の収益力による資金調達(アセット・ファ

    イナンス)であり、企業自体の信用力では資本市場や金融機関から有利な条件で資金調達

    を行うことが困難な企業にとって、調達コストの低減が可能になる場合がある。 また、証券化による資金調達ではオリジネーターの財務諸表上において借入金ではなく、

    資産の売却として記録されるため、バランスシートをスリム化し財務効率を改善すること

    ができる。財務指標改善の結果、格付の向上や株価の上昇、資本市場や金融機関からより

    有利な資金調達を行うことが可能となるなどの副次効果の期待もできる。 近年では減損会計の導入により、企業はその時々の財務状況、経済社会情勢に応じて不

    動産のオフバランス、オンバランス処理を相互に組み合わせて戦略的に不動産を所有する

    必要性が生じているが、不動産証券化はこれを実現する受け皿となるものである。

    6 投資信託に投資する投資信託のこと。投資信託自体、分散投資を目的とした金融商品であり、ファンド・オブ・ファンズはそのような投資信託を投資対象としているため、さらに分散投資が図れる。

  • 8

    ③不動産会社のメリット 不動産を開発・所有して賃貸事業を行う不動産会社にとって、証券化は一般企業同様に

    バランスシートスリム化の手法であるが、それ以上にアセット・マネジメント、プロパテ

    ィ・マネジメントなど、不動産を保有せず管理・運用からの報酬で稼ぐフィー・ビジネス

    の拡大という新たなビジネスチャンスの側面が強い。 また、証券化により土地取得や建設に関わる資金需要の大きな開発において、自らのバ

    ランスシートを膨らますことなく幅広く投資家から資金調達を行うことが可能となった。

    最近では不動産証券化市場が拡大したことにより、開発後、不動産を J-REITや私募ファン

    ドなどに売却して、早期に資金回収を図ることも可能となった。 ④金融機関のメリット 証券化は金融機関の抱える不良債権・担保不動産処理の手法として期待されたという側

    面があったが、実際には外資などの投資家への債権の一括売却(バルクセール)などでの

    処理が行われ、不良債権の証券化は進まなかった。しかし、金融機関にとって証券化スキ

    ーム組成のアレンジャー7や、ノンリコース・ローン8のレンダーとなることにより事業機会

    が拡大している。 第3節 主要な不動産証券化スキーム

    不動産証券化に使用される主要なスキームとしては、合同会社と匿名組合を用いた証券

    化9(以下、GK-TK スキーム)と「資産の流動化に関する法律(以下、資産流動化法)」、

    「投資信託及び投資法人に関する法律(以下、投資信託法)」、「不動産特定共同事業法」に

    よる証券化の 4つがある(図表 3)。以下にそれぞれの仕組みを述べる(「投資信託法」に基

    づく証券化スキームについては、第 3章第 3節で述べる)。 ①GK-TKスキーム 不動産の信託受益権を合同会社の SPV が買い取り、当該合同会社が匿名組合の営業者と

    なり投資家から出資を募る仕組みである。このスキームでは、海外の慈善信託を株主とす

    る SPC や有限責任中間法人が合同会社を設立することにより倒産隔離性が確保され、また

    SPV に課せられる不動産取得税、登録免許税を軽減するため対象資産は不動産の信託受益

    権となっている。 匿名組合は商法の定める契約関係であり、匿名組合員が何らかの事業を行う営業者に出

    7 証券化のためのストラクチャーを検討し、格付けの取得などをアレンジメントする業者のこと。デューデリジェンス調査書などの作成を行う外部関係者への委託支援や会計士、弁護士、不動産鑑定士、信託銀

    行、証券会社などの各専門家の選定支援なども行う。 8 ローンの担保となる資産が生み出すキャッシュフローや売却代金のみを返済原資とするローンのこと。保証人や連帯保証人を徴求されることはないが、一般的に金利は高くなる。不動産を対象にする場合は、

    時価の 50~70%を目処に実行される。 9 2006年の会社法施行前に最も利用されていたスキームは有限会社と匿名組合を用いたものであり、YK-TKスキームと呼ばれていた。

  • 9

    資をして、その事業から得られる利益を営業者が匿名組合員に分配する仕組みである。匿

    名組合は法人格がなく、法人税は課税されないことが法人税基本通達において定められて

    いる。このため、投資家は合同会社の不動産運用益をそのまま配当として受け取ることが

    できる。また合同会社の法人税計算にあたっては、匿名組合への配当を合同会社の損金に

    参入できるため法人税を回避することが可能となる。 GK-TK スキームの特徴は柔軟性があることである。このスキーム自体に法的規制はな

    く、SPV として用いる合同会社の会社法、二重課税回避のために用いる匿名組合の商法と

    いった法律の枠組みの中で比較的自由に資金調達や物件取得のスキームを組成でき、また

    設立が容易である。このため資産流動化型、資産運用型のどちらにも使用され、不動産証

    券化で最も利用されているスキームである。 ②資産流動化法に基づく証券化スキーム 「資産流動化法」は資産流動化スキームとして整備された法律であり、同法におけるス

    キームでは、特定目的会社型(SPC型)と特定目的信託型(SPT:Special Purpose Trust)の

    大きく 2つに分けられる。 SPC型では SPCとして同法に定められる、資産を流動化するための特定目的会社(TMK)

    が使われる。オリジネーターなどが TMKを設立し、その後オリジネーターは不動産を TMK

    に売却し売却代金を得る。TMKは取得不動産の収益などを裏付けに証券を発行し、投資家

    に販売する。TMKには、一定の要件のもとに法人税課税が非課税扱いになり二重課税が回

    避できる仕組みが整っており、また登録免許税や不動産取得税などの流通課税に優遇税制

    があるため、信託受益権ではなく実物不動産を対象とする場合に用いられている。また、

    TMKは同法で定められる資産流動化計画を作成し、その計画に沿って投資対象不動産の取

    得・運用・処分を行わなければならない。 SPT型は同法に基づき信託を設立し、信託受益権10を分割することで証券化するものであ

    るが、基本的には SPC型とほぼ同じである。 ③不動産特定共同事業法に基づく証券化スキーム このスキームは、オリジネーターから不動産を購入するものが単なる箱ではなく、事業

    遂行能力を有する事業者という点で上記 2 つのスキームと異なる。事業者は宅地建物取引

    業の免許を持つ株式会社であり、「不動産特定共同事業法」に基づく許可を取得する必要が

    ある。事業者は匿名組合の事業対象となる不動産を選定し、投資家と匿名組合契約を結ぶ。

    投資家はこの契約に基づき出資をし、事業者は得た資金で不動産投資をし、その不動産か

    ら得られる収益を分配する。匿名組合では対象不動産の所有権は商法の規定により事業者

    に帰属し、事業者は通常他の事業(多くは不動産業)を営んでいるため、投資家は事業者

    の破綻の影響を受けることとなる。このため、出資の利回りは事業者の倒産リスクプレミ

    10 SPTの受益権は有価証券と認められる。

  • 10

    アムを含み、高い利回りを要求されることとなる。 図表 3 主要な不動産証券化スキームの特徴

    資産流動化法に 基づく証券化商品

    投資信託法に 基づく証券化商品 (J-REIT)

    商法・会社法に 基づく証券化商品

    (GK-TKスキーム)

    不動産特定共同事業法に 基づく小口化商品 (匿名組合型)

    対象資産

    不動産

    不動産の信託受益権 不動産ローン

    不動産

    不動産の信託受益権

    不動産の信託受益権

    不動産

    SPV

    特定目的会社(TMK)

    投資法人

    合同会社+匿名組合

    匿名組合

    倒産隔離

    特定持分信託 中間法人

    海外 SPCの利用

    特段の規定なし

    (導管性の要件において、

    投資法人が同族会社に当た

    らないことの規定あり)

    中間法人や海外 SPC

    の利用

    特段の規定なし

    二重課税の回避

    一定ルールの充足で、配当金・分配金の 損金算入可能(実質的に法人税非課税)

    匿名組合の活用によって対応

    事前規制

    内閣総理大臣に 業務開始の届出

    投資法人設立に

    内閣総理大臣への届出、 資産運用取引開始に同登録

    特段の制限なし

    不動産特定共同事業者

    としての許可

    エクイティ

    優先出資証券

    投資証券

    匿名組合出資

    匿名組合出資

    投資形態

    デット

    特定社債

    特定約束手形

    投資法人債

    不動産の管理・処分

    信託会社等に委託

    資産運用業務の許可を 受けた運用会社に委託

    特段の制限なし

    不動産特定共同事業者

    が行う

    (出所)「不動産証券化・不動産金融総覧 2006」P35を加筆、修正

    第4節 不動産証券化の歴史

    日本の不動産証券化の黎明ともいえるのは、1987 年から始まった不動産小口化商品の販

    売である。この不動産小口化商品は、投資ビークルとして組合や不動産信託を使用し、オ

    フィスビルや賃貸マンション、ホテルなどの共有持分権を信託受益権にするなどして多数

    の投資家に販売する仕組みであった。主に不動産会社が販売をし、一定期間後の売却によ

    るキャピタルゲインの分配と、損益通算による所得税の節税や相続税対策などの節税メリ

    ットを訴える商品であった。しかし対象となる不動産は単一でリスク分散はされておらず、

    最低投資単位は一口 1 億円程度と大きく、第三者への途中譲渡の制限もあり流動性に欠け

    る商品であった。 その後、バブル崩壊により取扱業者である不動産会社が倒産したことにより、多くの投

    資家に被害が生じることとなった。このような状況により投資家保護に対する法的措置の

  • 11

    必要性が高まり11、1996年 6月、「不動産特定共同事業法」が成立、翌 1995年 4月に施行さ

    れた。この法律は、取扱業者に対する規則であり、その事業者の情報開示や財務情報基盤

    のチェックを目的としたものである。これにより、他人から資金を集めて不動産投資を行

    い利益を配分する事業者は免許が必要となり、不動産小口化商品を扱うには宅建業にプラ

    スした資格を求められるようになった。 「不動産特定共同事業法」の施行後は、同法に基づく許可を受けた不動産会社などの事

    業者によって民法上の任意組合や商法上の匿名組合を用いた小口化商品が登場した。しか

    し、「不動産特定共同事業法」は既存の不動産小口化商品に対する規制、投資家保護を目的

    としたものであるため、同法上の商品自体の商品性は以前の不動産小口化商品とほとんど

    変わらないものであった。投資単位は原則 1 億円と大きく、組合員の地位には譲渡制限が

    あるため流動性は低く、また不動産価格が下落を続けていたことによりその市場規模が拡

    大することはなかった(1995年は約 50億円程度)。 その後 1997 年 5月と 1999年 2 月の「不動産特定共同事業法」の改正により、段階的に最低投資単位は500万円まで引き下げられ12、第三者への譲渡も解禁をされることとなった。

    これを受けて 1999年には東京建物、住友不動産による個人向けの匿名組合による金銭出資

    型商品の供給が行われた13。 「不動産特定共同事業法」が施行された 1995 年から 1997 年にかけては、旧三菱銀行な

    どの都銀を中心に不良債権と担保不動産の証券化が実験的に行われている。この金融機関

    の行った証券化スキームでは、ローリスク・ローリターンの社債は機関投資家に販売され、

    不動産価格の変動リスクを持つ劣後債券や匿名組合出資部分は信用補完のため原債権者の

    銀行が購入や出資をして引き受けていた。このため将来の不動産売却時に銀行が出資損を

    被るリスクがあり、完全なオフバランス効果は得られなかった。 一方、1996年春の住専国会14ではバブル後の不良債権問題の根が不動産にあり、従来の金

    融行政の枠内での処理が困難であることが浮き彫りとなった。この国会の終了直後には「住

    専関連業務支援連絡協議会」が設けられ、その下には「担保不動産等関係連絡協議会」が

    設置され、ここで不良債権処理のための担保不動産などの処分方法が検討された。翌 1997

    年 3 月に「担保不動産等流動化総合対策」と同時に発表された「担保不動産等の証券化パ

    ッケージ」の中で、証券化の方式として SPC 方式が取り上げられ、金融機関の不良債権問

    題の解決には貸出債権や担保不動産の処分が必要であり、その具体策として SPC の活用が

    提言された。これは不動産担保債権や不動産保有者が当該資産を SPC に譲渡し、SPC がこ 11 1992年 9月、建設省建設経済局長の私的諮問機関として「不動産共同投資事業研究会」が設置され、同年 12月には不動産特定共同事業に係る事業参加者保護のあり方などを検討した報告書「不動産共同投資事業のあり方について」がまとめられ、法整備の必要性が提言された。 12 「不動産特定共同事業法」は 2001年 7月に事務ガイドラインが改正され、不動産特定共同事業についての最低出資額制限は撤廃されている。 13 1999年 3月、東京建物による「インベスト・ファンド」、同年 4月には住友不動産による「SURF九段下」の販売が開始された。 14 1996年の春の通常国会は、主に住宅金融専門会社 7社の処理に税金を投入することの是非が争われ、「住専国会」と呼ばれている。

  • 12

    れを裏付けにして資産担保証券(Asset Backed Securities、以下 ABS)を発行するという方式

    である。ABS とは一般の事業法人が企業として有する信用に基づいて発行する社債などと

    異なり、企業が保有する資産を他の資産と分離して SPC などの投資ビークルに移転し、そ

    のビークルがその資産から生ずる収益に基づいて発行する証券である。 1997年 6月には前年 11月に橋本内閣から公表された金融ビッグバンの具体的内容が、金

    融制度調査会報告書において明らかとなり、その中で SPCと ABSに関する基本的考え方も

    示された。これを受けて金融機関の担保不動産、債権の流動化の総合対策として SPC 法が

    検討されることとなった。その後、同年 9 月には大蔵省銀行局審議官のもとに「SPC 法の

    あり方に関する懇談会」が設置され、SPC法の理論的基礎が固められ、翌 1998年 6月、金

    融機関の不良債権処理を促進する目的として、「特定目的会社による特定資産の流動化に関

    する法律(以下、SPC法)」が成立、同年 9月に施行された。この「SPC法」の導入により、

    不動産担保証券の発行が可能となり、本格的な不動産流動化スキームが誕生したのである15。

    1998年 11月には、同法の適用第 1号として東京建物により「高輪アパートメント特定目的

    会社」が設立され(証券発行は 1999 年 6 月)、この不動産担保証券は有価証券指定され、

    その流通性は高まることとなった。 1999 年になるとこの「SPC 法」により多くの不動産が流動化されることとなった(2000

    年 5 月末までに 5676 億円)。また「不動産特定共同事業法」上の商品化も、上述した法改

    正により 1999年度の募集実績は前年比 5.2倍の 935億円となり、1999年は不動産証券化元

    年といわれるようになった。 当初、「SPC法」は不良債権やその担保不動産の処理のための方策として考えられていた

    が、その第 1 号商品が東京建物による優良サービスアパートメントの証券化であったよう

    に、実際は金融機関よりも主に不動産会社の優良稼動資産の証券化として利用されること

    となった(金融機関にとって、不良債権処理には時間やコストのかかる証券化よりも、外

    資系金融機関などへのバルクセールやサービサーへの売却などの手法が適していることが

    わかり、証券化と不良債権処理は切り離されて考えられるようになっていった)。 しかし、もともと金融機関の担保不動産の流動化を前提として設計された「SPC法」は、

    借入制限規定により機動的な運用ができないなど、実際の商品化において使い勝手の悪さ

    が指摘されるようになった。金融審議会は 1998 年 6 月の 13 省庁の勉強会である「新しい

    金融の流れに関する懇談会」の論点整理を受けて、同年 8 月から「集団投資スキームに関

    するワーキンググループ」を設置していたが、同ワーキンググループで技術的な検討が行

    われた結果、1999年 9月にレポートが発表された。その中で「SPC 法」の基本的性格を維

    持しつつ、法制の簡素・合理化を図り、より使い勝手の良い制度とすると同時に、流動化

    対象資産を幅広く拡大するとともに、流動化の器として信託も利用できるよう法改正を行

    うことが提言された。 15 貸付債権などは「SPC法」施行以前から、主に海外 SPCを使用した仕組みで流動化されていた。またリースクレジット債権は 1993年施行の「特定債権等に係わる事業の規制に関する法律」により、国内での流動化が可能であったが、不動産を国内で流動化させる法制度は「SPC法」施行以前はなかった。

  • 13

    また、同レポートでは初めて集団投資スキーム、資産流動化型スキーム、資産運用型ス

    キームという言葉を提議することが試みられていた。多数の投資家から集めた資金で対象

    不動産を特定して不動産取引を行い、利益を分配する従来の「不動産特定共同事業法」上

    の商品と、特定の不動産を SPC が取得して流動化を行う「SPC 法」上の商品も、資産流動

    化型スキームでの商品であった。 「集団投資スキームに関するワーキンググループ」では「SPC 法」改正の論点として資

    産の追加取得が検討されたが、1999年 11月に発表された「集団投資スキームに関するワー

    キンググループ報告」では流動化型では資産が特定されていることが前提であり、投資家

    保護の観点から資産運用型スキームで対処すべきという結論が出された。 こうした議論を受けて 2000年 5月、「SPC法」は「資産の流動化に関する法律」(資産流

    動化法)と改正され、同年 11月に施行された。「資産流動化法」では流動化対象資産は財産

    権一般に拡大され、SPC に関する規制を簡素・合理化し、より使いやすい制度となり、さ

    らに信託を利用した流動化の仕組みである特定目的信託制度が新たに創設された。 一方、資産運用型スキームとしては不動産投資信託が待望されていた。1997 年 6 月の証

    券取引審議会の最終報告では、資産運用業務強化の必要性が確認され、当面は有価証券を

    投資対象とする集団的投資スキームの拡大という観点が考えられたが、不動産についても

    他の金融商品と同様に資産運用業務の中の運用対象として取り上げられることが予測され

    ていた。同年 11月には不動産シンジケーション協議会が、不動産投資ファンドに欠かせな

    いものとして不動産投資顧問業に関する報告書を発表した。また同協議会は「日本型不動

    産投資ファンドに関する研究会」を組織し、同年 12月には運用型の不動産投資スキームの

    必要性に関する報告書も発表している。1998 年になると建設省の委託により、土地総合研

    究所で「不動産の集団的投資スキーム等のあり方に関する調査検討委員会」が設置され、

    1999 年 3 月に不動産の集団投資スキームや不動産投資顧問業の必要性やあり方を研究する

    報告書が発表された。 1999 年 9 月には「不動産特定共同事業法」が省令改正により、対象不動産を追加するこ

    とが可能となり、資産運用型スキームに近いものが認められることになった。この場合の

    追加には既存の対象不動産を売却せずに、新たな出資を募り対象不動産を追加していく場

    合と、既存対象不動産を売却して新たな対象不動産を追加する場合の 2つの方法があるが、

    最初の不動産は特定していなければならないので、完全な資産運用型スキームではない。 1998年 12月に施行された「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律16(以下、旧投

    資信託法)」では会社型投資信託が導入されていた。この会社型投資信託は活用の仕方で実

    質的に米国 REITに近い不動産証券化の器となり得るポテンシャルを備えており、資産運用

    16 1951年に制定された「証券投資信託法」が、1998年 6月の「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」の中で「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律」に改正をされた。この改正によ

    り、投資者が出資し、投資法人を設立することによりファンドが組成され、その資金を投資法人から委託

    を受けた運用会社(投資信託委託業者)が有価証券に対する投資として運用する会社型投資信託が導入さ

    れた。

  • 14

    型スキームの法整備としては、本格的な不動産投資信託を導入するため、会社型投資信託

    の運用対象資産の範囲を不動産も含み得るように広げるべきであると指摘をされることと

    なった。 このような意見を受けて「集団投資スキームに関するワーキンググループ」において、

    集団投資スキームである「旧投資信託法」を改正し、不動産を含めた幅広い投資運用が可

    能となる横断的な法制とすることが適当であるとの結論が出され、1999年 11月、上述の「集

    団投資スキームに関するワーキンググループ報告」が公開された。これを受けて 2000 年 5

    月、上述の「SPC 法」の「資産流動化法」への改正とともに「旧投資信託法」は「投資信

    託及び投資法人に関する法律」(投資信託法)に改正され、同年 11月に施行された。「旧投

    資信託法」では運用対象資産の 50%超が有価証券である投資信託のみ認められていたが、

    この改正により主として不動産に投資する投資信託(日本版不動産投資信託)が可能とな

    り、2001年 3月には東京証券取引所において不動産投資信託の上場市場が整備され、J-REIT

    が登場することとなったのである。 第5節 不動産証券化市場の現状

    国土交通省の不動産証券化実態調査によると、2005年度に証券化された不動産の額は 6.9

    兆円で、前年度比約 1.3 倍と伸びている。証券化された不動産の資産額は、1997 年度から

    2005年度の累計で約 25兆円に達し、不動産証券化市場は 1999年以降急速に拡大している

    といえる(図表 4)。 図表 4 不動産証券化の実績推移

    01,0002,0003,0004,0005,0006,0007,0008,000

    1997年

    1998年

    1999年

    2000年

    2001年

    2002年

    2003年

    2004年

    2005年(年度)

    資産額(10億円)

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    (件数)資産額 件数

    (出所)国土交通省「平成 17年度不動産の証券化実態調査」を基に作成

  • 15

    また、都市未来総合研究所が実施している不動産売買実態調査によると、売却不動産の

    うち証券化不動産の占める割合は金額ベースでは 1999年度から年々拡大し、2006年度上期

    では 67%を占めるようになっている。件数ベースでは 2005年度にはわずかに減少したもの

    の、2006年度上期は 78%を占め、不動産市場の中で不動産証券化市場が既に中心的役割を

    占めていることがわかる(図表 5)。 図表 5 証券化不動産の占める割合の推移

    0%

    10%

    20%

    30%

    40%

    50%

    60%

    70%

    80%

    90%

    1999年

    2000年

    2001年

    2002年

    2003年

    2004年

    2005年

    2006年上期

    (年度)

    件数 売却額

    (出所)「月刊 RMJ2006年 12月号」を基に作成

    国土交通省の不動産証券化実態調査によると、スキーム別の実績では信託受益権を有限

    会社・株式会社などを通じて証券化する方法(YK-TK スキームなど)が最も多い。2005

    年度は約 3.8 兆円で全体の約 55%を占めている。信託受益権と実物不動産の比率では、信

    託受益権が 9割、実物不動産が約 1割となっている(図表 6)。 図表 6 スキーム別不動産証券化の実績

    (単位:10億円) 1997年度~2005年度の累計

    実物不動産 信託受益権 合 計

    2005年度分

    YK-TKスキームなど - 14,885.4 14,885.4 3,806.8資産流動化法 1,444.8 3,135.0 4,579.8 1,209.9不動産特定共同事業法 1,221.9 - 1,221.9 154.1投資信託法 882.6 3,346.1 4,228.7 1,740.9

    合 計 3,549.4 21,366.5 24,915.9 6,911.7

  • 16

    ※ スキーム不明の約 500億円を含まないため、1997年度~2005年度の各年度実績の単純

    累計値とは一致していない。また資産流動化法には SPC法の証券化を含む。 (出所)国土交通省「平成 17年度不動産の証券化実態調査」を基に作成

    図表 6 をみると、現在は私募ファンドの形態をとる不動産証券化が最も普及しているこ

    とがわかる(本論分では、J-REIT以外の不動産証券化商品を私募ファンドとする)。私募フ

    ァンドの情報は一般に公表されておらず、正確な情報を把握することはできないが、住信

    基礎研究所が行った調査では私募ファンドの市場規模(運用中のファンドにおける取得不

    動産の資産額合計)は、2006 年度末時点で約 6.1 兆円と推計されている。前年同期比で約

    1.7兆円増加しているが、市場拡大のペースは 2004年度末から 2005年度末までの成長と比

    べると後退しており、同時期の J-REIT の市場規模との差も前年の約 1兆円から約 0.7兆円

    に縮まっている(図表 7)。 図表 7 不動産私募ファンドと J-REITの市場規模推移

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    2003年3月

    2003年12月

    2004年3月

    2004年12月

    2005年6月

    2005年12月

    2006年6月

    2006年12月

    (10億円) 私募ファンド J-REIT

    (出所)住信基礎研究所「不動産プライベートファンドに関する実態調査 2004年」「同 2005年」

    「同 2006年」を基に作成

    東京証券取引所に提出される開示情報によると、上場企業の不動産取引のうち、J-REIT

    または私募ファンドが買い手となる割合が年々増加している。2004年度以降は J-REITがそ

    の約半分を占めており、J-REITが不動産の主要な買い手となっていることがわかる(図表 8)。

  • 17

    図表 8 不動産取引における買主の形態(売買価格ベース)

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    2000年度上期

    2000年度下期

    2001年度上期

    2001年度下期

    2002年度上期

    2002年度下期

    2003年度上期

    2003年度下期

    2004年度上期

    2004年度下期

    2005年度上期

    2005年度下期

    J-REIT 私募ファンド その他

    (出所)国土交通省「平成 18年版土地白書」を基に作成

    都市未来総合研究所の不動産売買実態調査によると、私募ファンドが売り手となる割合

    が年々増加していることがわかる(図表 9)。2005年度は 34%と、前年度比約 2.1倍に拡大

    している。図表 8 をみると私募ファンドは 2000 年度から 2004 年度まで買い手の主役であ

    った。J-REIT増加に伴い、当時取得した物件を J-REITに活発に売却するようになり、2005

    年度以降は売り手の主役となっているものと思われる。 図表 9 不動産取引における売主業種別件数割合の推移

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    1999年

    2000年

    2001年

    2002年

    2003年

    2004年

    2005年

    (年度)

    私募ファンド 建設・不動産 製造業・組立 商業

    製造業・他 製造業・素材 サービス J-REIT

    運輸・通信 金融・保険

    (出所)「月刊 RMJ2006年 12月号」を基に作成

  • 18

    国土交通省の不動産証券化実態調査によると、証券化された不動産の用途別資産額の割

    合ではオフィスが全体のなかで最も多いが(2005 年度は約 35%)、住宅、物流施設、ホテ

    ルを用途とするものが増えていることがわかる。「その他」に分類された物件には、住宅と

    オフィス、住宅と商業施設を用途とするものが多く含まれているので、住宅を対象とした

    証券化は増加している状況である(図表 10)。 図表 10 証券化された不動産の用途別資産額の割合

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    1997年

    1998年

    1999年

    2000年

    2001年

    2002年

    2003年

    2004年

    2005年

    (年度)

    オフィス 住宅 商業施設 物流施設 ホテル その他

    (出所)国土交通省「平成 17年度不動産の証券化実態調査」を基に作成

    都市未来総合研究所の不動産売買実態調査によると、証券化不動産の価格規模では 10億

    円未満の割合が拡大している(図表 11)。これは図表 10 でみたように、住宅を対象とした

    証券化の増加が要因とみられる。

    不動産証券化協会では 2006年より会員を対象に私募ファンド実態調査を行っている。そ

    の調査結果によると、2006 年 12 月末時点での私募ファンドの保有する不動産の所在地は、

    資産額ベースで東京 23区が約半分(55.0%)を占めている(図表 12)。しかし、2005年 12

    月末との比較では、東京 23 区は 9.5%減少しているのに対し、その他の地区は一様に増加

    している(J-REIT保有物件の所在地に関しては、第 3章の図表 20を参照)。

    以上のことから、不動産証券化市場では J-REITが不動産の主要な買い手となり、また投

    資対象不動産の用途及び投資対象地域が拡大している様子がうかがえる。

  • 19

    図表 11 証券化不動産価格規模別件数割合の推移

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    1999年

    2000年

    2001年

    2002年

    2003年

    2004年

    2005年

    (年度)

    10億円未満 10億円以上50億円未満

    15億円以上100億円未満 100億円以上

    (出所)「月刊 RMJ2006年 12月号」を基に作成

    図表 12 私募ファンド保有物件の所在地

    0.0%

    10.0%

    20.0%

    30.0%

    40.0%

    50.0%

    60.0%

    70.0%

    東京23区

    東京都(23区以外)

    関東(東京都除く)

    北海道・東北

    北陸・中部

    近畿

    中国・四国

    九州・沖縄

    2005年12月 2006年12月

    (出所)不動産証券化協会「第 2回会員対象私募ファンド実態調査結果」を基に作成

  • 20

    第3章 J-REIT

    第1節 J-REIT の定義

    不動産の証券化が発達した米国では不動産投資信託(Real Estate Investment Trust)は REIT

    と呼ばれている。そのため、日本版不動産投資信託で特に証券取引所に上場したものが

    J-REITと呼ばれている。現在 J-REITは、いずれも投資法人の形態をとっており、J-REITは

    不動産投資専門会社の設立ともいえるため、会社型不動産投資信託と呼ばれる。会社型不

    動産投資信託とは、SPVとして「投資法人」を採用したタイプの投資信託を指す。 投資信託は解約対応の違いにより「クローズド・エンド型」と「オープン・エンド型」

    の 2 つに分類できる。クローズド・エンド型投資信託は、投資家(投資主、または投資信

    託の受益者)の請求に基づいて、解約・払戻しに応じないタイプの投資信託である。原則、

    満期まで換金できないため、投資家の資金回収ニーズに応えるためには、上場などの措置

    が必要になる。オープン・エンド型投資信託は、解約が自由にでき、運用会社による発行

    証券の買戻しが保証されているものである。従来の投資信託ではオープン・エンド型がほ

    とんどであったが、現存する J-REITでは全てクローズド・エンド型タイプをとっている。 J-REIT は多くの投資家から資金を集めて、投資法人が不動産市場から投資用不動産を取

    得し、そこから発生する賃料や売却益などの収益を投資家に配当していく法人である。投

    資家は法人税が課税される前の利益のほぼ 100%を、分配金17として受けることができる。 J-REITと私募ファンドとの相違点としては、J-REITは証券取引所に上場されているため、

    投資証券の流動性が高く、日々刻々価格が決まること、投資法人には満期がなくゴーイン

    グ・コンサーンであること、レバレッジの水準が大きく異なること、SPV の法的位置付け

    が全く異なることなどである。一方、SPV が単に不動産を保有する器にすぎないという点

    では共通である。 J-REIT の業務は実質的に不動産賃貸業のみに限定されているため、一般企業と比較して

    業績は予測しやすい。このため、J-REIT はミドルリスク・ミドルリターンの投資商品とい

    われている。 第2節 投資信託法に基づく証券化スキーム

    第 2 章第 5 節『不動産証券化の歴史』でみたように、J-REIT は「投資信託法」に基づき

    組成可能となった不動産証券化商品である。前節で述べたように J-REITは会社型の形態を

    とっているが、「投資信託法」では投資信託制度と投資法人制度の 2つのスキームが用意さ

    17 株式会社における配当金。

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    れている。 投資信託制度は、契約型投資信託とも呼ばれ、委託者指図型投資信託と委託者非指図型

    投資信託に分類される。 委託者指図型投資信託は、運用会社が運用を指図するスキームである。具体的には、ま

    ず投資信託委託業者(資産運用会社)が、投資家から集めた資金を信託銀行に信託する。

    投資家が受益者、資産運用会社が委託者、信託銀行が受託者となり、投資信託に係わる信

    託契約に基づく受益権を表示する証券(受益証券)を投資家に発行する。資産運用会社は

    投資家(受益者)の利益を高めるために、受託者である信託銀行に対し、不動産への運用

    を指図し、信託銀行は不動産の運用による収益を投資家(受益者)に分配する。 一方、委託者非指図型投資信託は信託銀行自ら運用するスキームである。受託者である

    信託銀行が投資家(委託者兼受託者)と信託契約を結び金銭を受け入れ、投資家に対し受

    益証券が交付される。信託銀行は投資家から受け入れた金銭を合同して不動産に投資し、

    運用による収益を投資家(受益者)に分配する。 投資法人制度は会社型投資信託とも呼ばれ、投資者が集まってつくった社団である法人

    格を有する投資法人が運用の主体となるスキームである。「投資信託法」上、投資法人は「資

    産の運用以外の行為を営業とすることができない(投資信託法第 63 条第 1 項)」と規定さ

    れており、資産運用を行うための SPVにすぎない。また、投資法人は収益の 90%以上を配

    当するなど一定の要件を満たせば、その配当を法人税上の損金に参入できるため、実質的

    に二重課税を回避できる措置がとられている。 倒産隔離については中間法人などを利用せずとも、投資法人は資産運用以外を営むこと

    ができないため、投資法人自体が一定の倒産隔離機能を有している。 契約型投資信託では投資家は帳簿閲覧権しか有していないが、投資法人では、投資主総

    会や役員会のような意思決定機関や会計監査人による外部チェック機能が存在し、株主会

    社における株主の議決権や帳簿閲覧権、代表訴訟提起権と同様の権利が投資主に確保され

    ているため、コーポレート・ガバナンス面で契約型投資信託よりも優位性がある。また投

    資法人は税法上一定程度の不動産流通税18の軽減が認められ、かつ匿名組合を利用しなくて

    も二重課税の回避が可能であるため、J-REITでは契約型投資信託は利用されていない。 第3節 J-REIT の資金調達

    契約型投資信託では、投資家は信託受益権に投資することとなるが、会社型投資信託の

    場合は、投資家は投資口(投資証券)に対して投資することとなる。投資口とは、株式会

    社における株式に相当し、均等の割合的単位に細分化された投資法人の社員の地位である。

    また、投資証券とは投資口の法的権利を表現する有価証券であり、株式会社の株券に相当

    18 不動産を取得する際に課される税金。一般には不動産取得税と登録免許税、特別土地保有税のことを指す。

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    するものである。 J-REITの資金調達にはデットとエクイティでの調達がある(図表 13)。エクイティ(資本)

    の調達としては、投資法人が 1口 20万円~100 万円程度の投資証券を発行し不動産投資信

    託市場(株式市場の中に新設された公開取引市場)から投資を募る。投資証券を取得した

    投資家は、投資主となる。投資主とは投資証券の所有者(=投資法人の社員)を指し、株

    式会社の株主に相当するものである。 図表 13 資金調達手段の基本スキーム

    (出所)山崎成人「解析 JREIT」を基に作成

    投資証券の発行は、株式と同じように証券会社を引受人としてブック・ビルディング方

    式で行われる。ブック・ビルディング方式とは、株式の公募・売出を行う際の発行価格決

    定方式の 1 つであり、機関投資家の意見をもとに仮条件(発行価格の上限と下限)を決定

    し、その仮条件を投資家に提示する方式である。投資家は仮条件の範囲内で購入希望価格

    と株式数を申告するが、その申告から発行株式への需要が把握でき、その需要動向を参考

    に市場動向に沿った発行価格を決定する。 デット(負債)の調達では、投資法人は機関投資家に対して投資法人債を発行したり、

    金融機関からノンリコース・ローンなどで借入を行う。投資法人債は株式会社の社債に相

    当し、投資法人が発行する債券である。投資法人債を発行できるのは、社債権者保護のた

    め規約に投資家からの投資口の払戻しを行わない旨の定めがある場合(クローズド・エン

    ド型)に限られている。 この投資法人債の発行には格付会社から格付を取得して行うことになるが、J-REIT は保

    有資産の時価評価及び開示が詳細になされており、その評価額に近い価格で売却できると

    期待されること、業務範囲の限定があることといった特徴を持ち、また資本・負債構成は

    保守的で財務の柔軟性は比較的高いので、高い格付を得ている。現在、J-REIT 41銘柄のう

    ち 27銘柄が格付を取得しているが、その全てがシングル A以上であり、有利な発行条件が

    投資法人

    資産

    (不動産等)

    デット

    エクイティ

    金融機関

    機関投資家

    投資家

    (ローン)

    (投資法人債)

    (出資)

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    得られる状況にある(付録 2 J-REIT銘柄一覧表参照)。 金融機関からの借入は、株式会社の定款に相当する投資法人規約に定める額を限度に行

    うことができる。 資金調達した出資金と借入金で、投資用不動産を不動産市場から取得し、その保有する

    不動産から生じる賃貸収益と売却益によって出資金の配当と借入金の利子を賄うのが、

    J-REITの資金の流れの基本的なスキームである。 第4節 J-REIT の運用体制

    J-REIT は保有資産の生み出す収益を源泉として活動する組織体であるが、自らでその資

    産を運用する内部運営はできず、不動産賃貸業者として行うべき業務は外部の資産運用会

    社をはじめ、さまざまな業者に委託をする外部運営となっている。 図表 14は J-REITの業務体制を図示したものである。 図表 14 投資法人の業務体制

    (出所)山崎成人「解析 JREIT」を基に作成

    以下では、J-REITの関係プレーヤーの役割などを概説する。 ①投資法人 投資法人は 3~5名の役員のみで構成されている組織体で、実質的に投資資金などを集め

    一般事務受託会社 資産保管会社

    会計監査人

    (資産運用業務委託)

    (不動産管理業務再委託)

    (建物管理業務委託) (募集業務委託)

    (資産保管業務委託) (一般事務委託)

    投資法人

    (3~5名の役員のみで構成)

    資産運用会社

    (12~40名程度の常勤役職員で構成)

    賃貸斡旋業者 不動産管理会社

    建物管理会社

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    る SPV としての役割を担っている。株式会社設立の際の発起人に該当する設立企画人によ

    って設立され、内閣総理大臣(届出窓口は金融庁)に届け出なければならない。 社員を雇用すること、また支店、営業所などの開設はできず、投資法人自身が行うべき

    業務は、外部への業務委託・事務委託そのものや、株式会社の株主総会に相当する投資主

    総会の招集などに限定されている。投資法人の可能な取引は、不動産の取得・譲渡・賃貸、

    不動産管理の委託、有価証券の取得・譲渡・賃貸、その他政令で定める取引であり、不動

    産の購入、売却にあたっては資産運用会社の指図に基づいて行われる。 投資法人の機関としては、役員会、執行役員、監督役員、投資主総会があり、その役割

    などは以下のとおりである。 a 役員会 役員会には執行役員と監督役員が存在する。役員会は株式会社の取締役会に相当する機

    関であり、執行役員の職務の執行を監督し、また投資口・投資法人債の発行、資産運用委

    託業務などの重要な事項について承認を行う。 b 執行役員 執行役員は株式会社の取締役に該当し、投資主総会で選任され、投資法人を代表し業務

    を執行する。投資法人の業務に関する一切の裁判上、または裁判外の行為を行う権限を有

    する。 c 監督役員 監督役員は株式会社の監査役に該当し、投資主総会で選任され、執行役員の職務の執行

    や投資信託委託業者を監督する。監督役員は執行役員より 1名多い数でなければならない。 d 投資主総会 役員や会計監査人の選任、規約の変更、運用会社の変更や資産運用委託契約の承認など、

    投資法人の基本的事項を決定する。投資主総会の開催の頻度は特に「投資信託法」では定

    められていない。しかし「投資信託法」上、投資法人の役員の任期は 2 年を超えることが

    できず、役員の選任は投資主総会で行われるため、最低 2 年に 1 度は開催されることとな

    る。 ②会計監査人 投資法人の会計監査を行う監査法人など。大手監査法人が就任することが多い。 ③資産運用会社 投資法人の資産運用にかかる業務を行う者で、内閣総理大臣(窓口は金融庁)の認可を

    必要とする投資信託委託業者(「投資信託法」では、投資法人の資産運用を行う業務のこと

    を投資法人資産運用業というが、投資法人資産運用業を営む会社のことを、「投資信託委託

    業者」という)。アセットマネジメント(AM)会社ともいう。投資法人の資金調達の方針

    や条件を決定し、また他の関連業者を選択するのもこの投資信託委託業者であり、資産運

    用会社は J-REITの要といえる。 通常、オリジネーターと呼ばれるスポンサー企業がまず投資信託委託業者を設立し、投

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    資信託委託業者が投資法人の設立企画人になる。 投資信託委託業者が運用を行う資産に実物不動産が含まれる場合には、投資信託委託業

    の認可前に「宅地建物取引業法」に基づく取引一任代理の認可を得る必要がある(不動産

    を信託受益権変換して資産運用対象とする場合には、宅地建物取引業の免許は不要)。 ④資産保管会社 投資法人は不動産信託受益権に変換された資産や不動産を保有するが、これらの資産は

    資産保管会社に委託して保管しなくてはならない。資産保管会社は信託会社、証券会社に

    なるが、実務的には信託銀行が行う場合が多い。 ⑤一般事務受託会社 投資証券・投資法人債の募集、発行、名義書換など、投資法人の資産の運用および保管

    に係る業務以外の業務に係る事務を行う会社。 ⑥不動産管理会社 投資法人保有不動産に関し、建物の維持管理、賃料徴収や新規テナントの募集などのテ

    ナント管理を行う会社で、プロパティ・マネジメント(PM)会社ともいう。個々の不動産

    のキャッシュフローを最大化し、資産価値の維持・向上を図ることが職務であり、J-REIT

    資産の収益の源泉となる重要なパートを担っている。賃料収入の安定確保、コストパフォ

    ーマンスの高い維持管理、物件の競争力を維持する長期修繕計画策定などの専門能力が求

    められる。 ⑦建物管理会社 建物の物理的管理業務を行う会社である。

    第5節 J-REIT の関係法令

    J-REIT は「投資信託法」の改正で組成が可能になったことは既に述べたが、法令上不動

    産投資信託または J-REITという提議が存在するわけではない。「投資信託法」では投資信託

    または投資法人の投資対象となる資産の 1つとして不動産が規定されているだけである。 J-REITに関する法令・規則は以下のとおりであるが、J-REIT の仕組みはこうした要件を

    全て満たした結果、必然的に決定されたものである。 ①投資信託法 投資法人の設立・登録・解散・合併などの手続や投資法人の機関、事務の委託に関する

    事項、その資産を運用する投資信託委託業者が許認可を受けるための条件や手続、利益相

    反が懸念される場合の取引制限などに関して定められている J-REITの根拠法である。 ②宅地建物取引業法 投資法人が不動産信託受益権だけでなく、不動産を所有・保有する場合、資産運用会社

    は宅地建物取引業免許が必要となる。

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    ③金融商品取引法19 1998 年 6 月の「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」により、証

    券投資信託にも証券取引法が適用されることとなったため、J-REIT には有価証券届出書・

    有価証券報告書の提出と公衆縦覧が義務付けられている。 ④税法(法人税法、所得税法、租税特別措置法など) 税法には、投資法人の課税、投資主の課税、投資法人が不動産を取得する場合の課税な

    どについて規定されている。J-REIT が投資法人という形態をとる理由は、配当損金参入を

    得るためであり、税法は J-REITを規定する要件の中で最も重要な要件といえる。 配当損金参入の要件は以下のとおりである。

    a 配当可能所得の 90%超の利益配当を行うこと。 b 年度末において発行済み投資口が適格機関投資家のみによって所有。 c 年度末において発行済み投資口が 50人以上の者によって所有。 d 設立時に発行された投資口の公募発行価額総額が 1億円以上。 e 国内募集の比率が 50%を超えることが規約に記載。 f 年度末において同族会社でない。 g 他の法人の株式または出資について、その 50%以上を保有しないこと。 h 借入が適格機関投資家からのみ。 ⑤上場規定 2001年 3月に東京証券取引所は「不動産投資信託証券に関する有価証券上場規定の特例」

    を施行し、不動産投資信託の市場が登場することとなった。上場審査基準・上場廃止基準・

    適時開示基準が規定されている。 J-REITの商品特性についての主な審査基準として、以下のように規定されている。 a 運用する資産のうち、不動産などの比率が 75%以上になる見込みがあること。 b 運用する資産のうち、賃貸事業収入などが生じているもので 1年以内に売却の見込みが

    ない不動産などの額の比率が 50%以上になる見込みがあること。 c 1口当たりの純資産額が 5万円以上になる見込みがあること。 d 上場口数が 4,000口以上、投資主の数が 1,000人以上になる見込みがあること。 現在投資法人が上場している市場は、東京証券取引所以外に大阪証券取引所、福岡証券取引所、JASDAQ があるが、各市場間の上場規制の差異は投資口の規制以外ほとんどない。

    東京証券取引所以外の市場では、投資口の規制がやや緩く、流動性の確保がより意識され

    たものとなっている。 ⑥投資信託協会規則 2001年 3月に投資信託協会20は「不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則」を定

    めた。東京証券取引所の上場規定において、投資委託業者は投資信託協会会員であること

    19 「金融商品取引法」の施行までは「証券取引法」。 20 1957年に設立された投資信託会社と関係証券会社の業界団体。2000年の「投資信託法」の改正により、銀行、生命保険会社などの金融機関や J-REITの資産運用会社なども参加するようになった。

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    が上場の条件となっているため、投資信託協会規則を遵守する必要がある。運用の制限や

    ディスクロージャーの方法・範囲などが主な内容となっている。 第6節 J-REIT の情報開示

    投資信託法においては、投資法人に対してディスクロージャー資料の通知が義務付けら

    れている。J-REIT は決算期ごとに貸借対照表、損益計算書、投資法人の注記事項、資産運

    用報告書(有価証券報告書のようなもの)、金銭の分配に係る計算書、付属明細書を執行役

    員が作成し、投資主に通知しなければならない。 また J-REITの発行する投資証券は、「金融商品取引法」、「不動産投資信託証券に関する有

    価証券上場規定の特例」、「不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則」などで情報

    開示のルールが定められており、株式会社よりも厳しい内容が要求されている。これらの

    法令・規則に基づいた J-REITのディスクロージャーの主な特徴は、以下のとおりである。 ①J-REIT には原則半年毎に決算があり、都度、決算短信、有価証券報告書、資産運用報告

    書などが開示され、配当を行う。 ②J-REIT は、保有する個別物件の特徴を示す詳細な情報(物件概要、評価額、将来予想さ

    れる修繕費、PML21など)や、運用実績に関する情報についての開示を行っている。主な

    テナントに関する情報などや利害関係人との取引情報など、細かな部分の開示もある。 ③J-REITは利益のほぼ 100%を配当し、内部留保を積み立てていくことができない構造とな

    っているため、物件取得の資金を調達するために速いペースで公募増資を行い、業容を

    拡大させていく銘柄が多数ある。従って目論見書が頻繁に発行される銘柄が多くなって

    いる。 ④新しい物件の取得の都度、その取得価格や物件概要をプレスリリースし、その際に必ず

    鑑定評価額を開示している。当該物件に係る将来の収益予想を開示する銘柄、鑑定評価

    の概要を開示する銘柄もある。 このように J-REITのディスクロージャーは詳細に行われている。こうした情報は不動産

    マーケットの状況を知る上でも貴重な資料であり、不動産マーケットの透明性の向上に寄

    与している。 第7節 J-REIT 市場の変遷概観

    J-REITは 2001年 9月 10日、オフィスビルへ特化して投資をする日本ビルファンド投資

    法人とジャパンリアルエステート投資法人の 2銘柄が上場し、当初時価総額 2,600億円でス

    タートした。スタート直後は、首都圏で大規模なオフィスビルの竣工が相次ぎ、大量供給

    21 Probable Maximum Lossの略で、予想最大損失率のこと。将来地震が発生した場合の建物に与え得る被害規模に関し、投資判断の指標として用いられる。一般的には以下の式で表すことができる。 PML=想定地震発生時の建物被害復旧費用÷建物の再建築費用(単位:%)

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    による不動産市況の悪化が 2003年問題として懸念されていた時期でもあり、価格面で低迷

    が続いた。また J-REIT自体が新しい金融商品であったため、リスクが過大に評価されてい

    た。特に上場し、最初の決算期を迎えるまでの間は分配金や運用実績が全くの未知数であ

    ったため、それが価格のディスカウントという形で表れていた。 また、当初は新規公開(IPO:Initial Public Offering)も低迷した。6番目の銘柄であるプ

    レミア投資法人が 2002年 9月 10日に上場して以降は 1年間新規上場がなく、6銘柄の状態が続くこととなった。 しかし、この低迷期の間には後の J-REIT市場拡大の要因となる施策が実施されている。

    まず、2002年 12月の全国銀行協会の通達により、不動産投資信託から生じる損益を会計上

    本業の儲けを示す業務純益に参入できることが明示され、主に地方銀行による J-REITへの

    投資が拡大した。 2003年度の税制改正では、1月から譲渡税が、4月からは配当課税が 5年間 10%(基本税率 20%)に引き下げられ、投資家の課税負担軽減が図られた。

    2003年 4月からは、東京証券取引所が株式とは異なる指標として、東証 REIT指数を作成

    し、公表している(図表 15)。東証 REIT指数は、東京証券取引所に上場している J-REIT全

    銘柄を対象とした時価総額加重平均の指数である。 また、2003 年 4 �