開発における投資環境改善と 民間投資

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開発における投資環境改善と 民間投資. FASID 開発援助動向研究会 第45回2005年10月14日 井川紀道 日本大学大学院グローバルビジネス研究科教授. 本日の目的. 1.前提とイントロ: (1)最近のFDIの動向 (2)開発における民間投資の役割     ーミレニアム開発目標、 NEPAD 2.検証 (1)投資環境と民間投資:投資環境が、どれだけ外国からの民間投資の妨げとなっているか。(いくつかの例示と考察)   -世銀の世界開発報告2005;投資環境改善報告( A better investment climate for everyone) - PowerPoint PPT Presentation

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開発における投資環境改善と民間投資FASID 開発援助動向研究会第45回2005年10月14日井川紀道日本大学大学院グローバルビジネス研究科教授

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本日の目的1.前提とイントロ:(1)最近のFDIの動向(2)開発における民間投資の役割    ーミレニアム開発目標、 NEPAD

2.検証(1)投資環境と民間投資:投資環境が、どれだけ外国からの民間投資

の妨げとなっているか。(いくつかの例示と考察)  -世銀の世界開発報告2005;投資環境改善報告( A better   

             investment climate for everyone)  -世銀のビジネス環境2006 ( Doing   business in 2006 )  ー MIGA, ベルンユニオン(保険協会)等での経験   ①裁判所の信頼性、②汚職問題、③政策の不確実性と規制ー収用と

契約違反、④契約違反に対する救済の道(2)投資環境改善の必要性

3.投資環境改善、投資促進への対応

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1(1)最近のFDI動向 :World

I nvestment Report 2005UNCTAD

途上国への外国直接投資(FDI)の堅調な回復により、2004には3年連続で減少していた世界のFDIはやや増加した。(6480億ドルで前年比2%増加) 途上国へのFDIは40%増加で2330億ドルとなった。 トップ3の順位は米国(959億ドル)、英国、中国(606億ドル) 途上国へのFDIの増加はアジアへの新規投資によるところが大きい。(特に中国とインド) FDIは途上国に対する他の民間資本フローとともにODAのフローを上回っている。 しかしながら、FDIは限られた (handful) 途上国に集中しており、ODAが他の多くの途上国にとって引き続き最も重要な資金フローになっている。 世界のFDIの展望は2005年も堅調( favorable) 、2006年も世界経済、企業収益が堅調であれば、増加が期待される。

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FDI地域的特徴 :World I nvestment Report 2005

アジア太平洋:2004年には460億ドルの増加を見、1480億ドルと途上国地域で最大の受け取り地域。東アジアばかり(46%増)ではなく、南アジアも大幅増加(48%)-インドが70億ドルの投資受け入れ。

   2004年には、同地域は直接投資の重要な出し手として注目される。(690億ドル)ー香港のみならず、地域内の多国籍企業の地域内投資が増加。(地域外投資も目立ってきており、事例としては、中国からの資源開発投資(ラ米)、インドからのアフリカ、ロシアへの資源開発投資。中国、インド企業の米国、欧州での企業買収の動きも。)

ラ米とキャリビアン:4年連続の減少の後、2004年には44%増で680億ドルに。ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリで全体の三分の二に。

アフリカ:前年と同水準の180億ドルに留まる。(世界中のFDIの3%シェアを維持したまま)天然資源関連の投資は堅調。アンゴラ、エクアトリアギニア、ナイジェリア、スーダン、エジプトへの投資がほぼ半分を占める。投資は主として欧州からであり、仏、蘭、英、南ア、米からの投資で過半を占める。アフリカ内からのFDIは2004年には倍増して28億ドルになる。

南欧州とCIS:4年間連続の増加で2004年には350億ドルになる。

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(参考)フォーチュン500グローバル企業(2005年7月25日号) 日本経済の再生を含め、グローバル化のなかでの各国の生き残りと経済発展は、今後グローバル企業がどれだけ増え、発展するかにかかっている。(中国の走出去2001年、途上国での海外投資保険制度設立の動き)米国 日本 仏 独176 81(前年より1社減)

39 37

英 中国 韓国 インド35 16 11 5

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FDI フローの推移 : WIR 2005

(10 億ドル)1999 2000 2001 2002 2003 2004

World

1092 1396 826 716 633 648

先進 849 1134 596 548 442 380途上 233 253 218 156 166 233Africa

12 10 20 13 18 18

Lac 109 98 89 51 47 68Asia 112 146 109 92 101 148SECis 11 9 12 13 24 35

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FDI堅調背景 : WIR 2005

  2004年の途上国へのFDIの堅調の背景 ① 多くの産業分野での激しい競争圧力が新しい競争力改善策の探求を促し、成長の高い新興市場国での売り上げの増加、規模の経済、生産コストの削減を実現するための生産活動の合理化をもたらした。 ② 商品市場の高騰が原油、鉱物資源の豊かな国での投資を促した。 ③ 国境を越えたM&Aにリンクした投資が増加した。

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(参考)投資環境改善 : WIR2005

途上国は投資環境を投資家に対してフレンドリーにするため、新規の法律と規制を採択した。 2004年に102の途上国で導入された271の新規施策のうち235は、投資促進策とともにFDIの新規分野を広げるものであった。(36は外国からのFDIを不利にした。) 20カ国で法人税が引き下げられた。 ただし、ラ米とアフリカでは、特に資源関係では、施策の変更が外国投資を不利にした。

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1(2)開発における民間投資役割:開発機関における民間投資重視日本: 持続的成長に向けた努力を支援。(経済活動上重要となる経済社会基盤

の整備、政策立案、制度整備や人づくりなどの経済分野への支援を通じて貿易・投資を促進。民間セクターの育成および技術移転の促進と通じ経済成長を支援することを重視)(2004年度ODA白書から)

国際機関: 世界銀行ーMDGに絡み成長、民間投資、投資環境重視 IFC設立ー1956年に民間企業に対する出資、融資を柱とする独立の機関が世界銀行グループ(WBG)内に創設された。

MIGA設立ー1988年に民間企業、銀行に対する投資保険を提供する機関がWBG内に設立された。

EBRD設立ー1991年にロシア、東欧の諸国が民主的な環境のなかで民間部門の育成を図ることを支援するために設立された。

ADBー早くから民間部門局を設け民間部門の支援を重視。 IDBー1989年にIIC( Inter-American investment Corporation) が ,

1993 年に MIF  (Multilateral Investment Fund) が設立され、さらに1994年にIDB内に民間部門局が設置されて民間部門支援を実施。

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(参考) MIGA ( Multilateral Investment Guarantee

Agency) 1988年に途上国への直接投資促進のために世界銀行グループ内

に法的には独立した機関を設立した。 背景は1970年代、1980年代の途上国への直接投資の低迷。

(年間200億ドル台で推移) 政治リスクが除かれれば、生産的投資が途上国に向かうとの認識。

マルティの保険機関の設立が必要。 資本金は約20億ドル(当初10億ドル)。株主は160の加盟

国政府(日本は第二の株主)。総裁は世銀総裁。職員130名。(50カ国)

主要業務は ー企業、金融機関の新興市場国での事業に対して政治リスクを対象とした投資保険を提供。

 ー投資紛争の解決(投資家と途上国政府の間に入って斡旋( Mediation) をする。)

 ー途上国の政府・政府機関、IPA( Investment Promotion Agency) に対して投資促進のための技術支援を提供。

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世界銀行と投資環境1.1995年に就任した 総裁ウォルフェンソン 当初はどちらかというと、社会セクター、保健衛生(HIVを含む)を重視

その後MDGへのコミットが高い成長重視を鮮明化させる ( 人口増を加味すれば7%成長が必要との認識ーカバジ前AfDB総裁、

前IDB総裁はかねてから、貧困削減のための高い成長イグレシアスを総会演説等で強調)

スターン氏が世銀チーフエコノミストになり、世銀自体が民間投資、投資環境重視を主要な柱にする。(年一回のWBGの幹部リトリート Strategic Forum での柱に)

2.最近の動き 2004年度からビジネス環境報告を作成(WBとIFC) 2005年の世界開発報告(世銀の flagship publication) は投資環

境改善報告3.2005年就任の 新総裁ウォルフォウィッツ 9月の総会演説では、経済成長とともに、民間セクター、法律を

重視し、ビジネス環境報告に言及して、投資環境の改善を訴える。

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経済成長と貧困削減(投資環境改善報告から) 経済成長は貧困削減と密接に関係している。 グラフでは一人あたりのGDPの成長率( GDP per capita

growth rate) と貧困削減( Poverty reduction)

  との関係が密接

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(参考)9月の世銀総会での新総裁のスピーチから 世界銀行総裁年次総会スピーチ(ウォルフォウィッツ 05 年 9月)から: 「開発に対する考え方の変遷:ーーー開発と貧困には、経済成長の持続的推進が不可欠であることが分かっています。---持続的な開発とは、労働力や資本だけではなく、リーダーシップと説明責任、シビルソサエティと女性、民間セクター、そして法律によって変わってくるものだからです。」

「民間セクター:ーーーIFCと世銀が、投資を育む環境作りとして行っている重大な貢献の一つとして、世界155カ国の状況を評価した「ビジネス環境の現状報告書」があります。アフリカでは、---事業の登記費があまりに高いため、大半の企業家たちは地下経済で事業を経営せざるを得ない状況ーーー途上国にとって、この報告書は、どの分野で更なる改革が必要かを見極める際の重要な手段となっています。」

「法律:---法律が施行され、権利が保護され、契約が守られると分かっていれば、人々も未来に投資しようという気になります。ビジネスマンがこう語ったことがあります。賄賂が問題なのではありません。役人が法規を思いのままに解釈する余地がなくなるようのぞんでいるだけです。」

「インフラストラクチャー:ここ数ヶ月間に、ーーー耳にした話のなかで最も多かったものの一つは、世銀がインフラ投資における役割を復活させる必要があるということでした。ナイジェリアの企業のように、その90%が小型発電機に頼っているようでは、貧困に終止符を打つことなど出来ません。」

アフリカ:ナイジェリアでは政府要人が汚職で拘束され、南アフリカでは、副大統「領が顧問の収賄の責任を問われて解任されました。---MDBsとて経済成長なくしては達成できないことを覚えておく必要があります。---持続的成長なくして、本当の意味での貧困削減は不可能です。ただし、経済成長だけでも不十分です。ーーー」

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世界銀行:「ビジネスの環境2006:雇用創出」(作成の意義) 前年までのビジネス環境指標であった、企業、雇用・解雇、契約遵守、資産登録、融資確保、投資家保護、撤収に加え、本年は、事業免許、対外貿易、納税の3指標を加えた。(各国専門家35000人以上が協力して、方法論的観点から支援・検証を行った。)

世界はじめての試みとして、ビジネス関連の主な規制・改革の観点から世界155カ国についてランク付けを行った。

「各国の政策立案者が自国の規制状況を他国に比べて評価し、世界のベストプラクティスから学び、改革の優先順序を特定するのに役立つ。--ー「20カ国以上において改革を促し支援するためのベンチマークとなっている。 」」

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世界銀行:「ビジネスの環境2006:雇用創出」(主要な指摘) 「アフリカ諸国は企業に課す規制上の制約が最も厳しく、昨年についてみると改革の歩みが一番遅かった。一方、東欧ではどの国もひとつ残らず、ビジネス環境の少なくともひとつの面では進歩を見せ、セルビア、モンテネグロやグルジアなどは実施した改革の大半において世界ランキングのトップを占めた。」 「モザンピークの企業は新たな事業の登録に14件の手続きを踏まねばならず、153日が必要になる。ラオスでの新規事業は手続きに198日要する。グアテマラでは、簡単な訴訟に1495日がかかる。シエラレオネでは、事業税を全額納付しようとすると、企業の売り上げ総利益の164%になってしまう。」 「アフリカでは多くの国が新規事業や雇用創出を切実に必要としており、企業にとって魅力的な投資環境を整備している他の国々からさらに遅れをとる危険がある。」(クライン副総裁) 「ただし、ルワンダは昨年、改革で大きな進歩をみせたし、モーリシャスもいくつかの分野で改革を進め、現在では、南アと並んで、企業への配慮がもっともなされる国となった。」

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世界銀行:投資環境改善報告(概要)World Development Report 2005,A

Better Environment for Everyone の概要。53カ国において26000社からのサーベイに基づく調査。経済開発の関係者だけではなくビジネスパーソンにとっても貴重な情報と報告。世界銀行が自ら途上国の投資環境指数を算定して発表しているだけではなく、同種の指標を発表している12の機関のWEBを紹介。

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世界銀行:投資環境改善報告(基本認識) 投資環境の改善は、途上国において、貧困削減(世界の人口の半分は1日2ドル以下で生活し、11億人は1日1ドル以下で生活)、雇用創設のために、そして世界平和のために必要不可欠。 グッドニュースは多くの政府が彼らの政策が投資環境の改善に不可欠であるとの認識を持ち改革を行ってきたことだが、成果は遅遅たるもので、不ぞろいである。 政府の多くは依然として企業に不必要なコストをかけさせ、大きな不透明感とリスクを発生させ、競争の障壁をつくりだしている。 第1に報告では、地域社会、地場資本、外国資本、大企業、中小企業のすべての当事者にとってよい投資環境の改善の重要性を強調。 第2にコストの削減だけではなく、不透明感、リスク、競争に対する障壁の撤廃にむけての努力を主張。 第3に公式な政策をこえて、政策と実施の落差に焦点を充て、政府が公の信頼と合法性を得るべく汚職や他の利害追及を改善するよう力説。 最後に報告では、広範なアジェンダを政府が取り組む戦略をリビューし、すべての問題を一気に取り組むよりも、企業に信頼感を取り戻させるに足りる重要な制約から取り除き、改善のプロセスを継続するというアプローチを採る。

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世界銀行:投資環境改善報告(投資環境制約)投資環境の制約の企業評価。(深刻さの順)1政策の不確実性2マクロ経済の不安定3税率4汚職、5ファイナンスのコストとアクセス、6犯罪、7規制と税務行政、8技能、9裁判所を司法制度、10電力、11労働規制、12交通、13電力、13内陸へのアクセス、14電信

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大きな、深刻な制約と回答割合%(賄賂割合のみ売上に占める比率)政策透明規制

汚職賄賂割合

裁判所有権

犯罪 税務行政税率

金融 電力 熟練労働中国 33

34272.6

Na18

20 2737

22 30 31

インドネシア4856

424.6

2541

22 2330

23 22 19

ブラジル 7666

67Na

3340

52 6685

72 20 40

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投資環境改善報告(売り上げに占めるコスト) グラフの上から1契約実行の際の困難2規制3汚職4犯罪5信頼できないインフラタンザニアとアルジェリアでは25%以上を占める。ブラジルでも約15%、中国でも約13%。

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2(1)投資環境と民間投資投資環境とリスク 投資環境 マクロ経済環境 政治的安定 司法・裁判制度の信頼性 企業統治・汚職 労働市場 資本市場 基礎インフラ

 商業リスク 市場リスク 信用リスク 流動性リスク 業務リスク 法的、訴訟リスク 非商業リスク  伝統的政治リスク   非政治リスク(台風、ハリケーン、地震、感染症) 

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2(1)投資環境と民間投資(参考)伝統的政治リスクの分類ベルンユニオンの用法1.戦争・内乱・テロ2.外貨交換・送金不能3.収用(国有化、資産の没収、忍び寄る収用ー

  一連の措置で事業が破綻)

4.契約違反(政府、政府機関、国営企業が契約を違反ー価格、供給義務、引き取り義務

政府干渉の意図の有無1政府の意図せざる干渉  戦争、内乱  外貨交換・送金不能2.政府の意図した干渉  収用、契約違反3.通貨・経済危機誘発型干渉  収用、契約違反

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2(1)投資環境と民間投資リスクに見合う収益が必要海外投資には、通常の商業リスクのほか、国内投資にはないさまざまな政治

リスクがある。( Multilateral Business Finance, Eiteman ほかより)

1.企業特有のリスク・為替リスク、商業リスク・企業統治リスク(政府とグローバル企業との目的を巡る衝突)ー収用、契

約違反2.国特有のリスク・戦争、内乱、・送金リスク・文化、制度リスク(所有形態、HR、宗教、汚職、知的所有権、保護主義)3.グローバルなリスク・テロ、・反グローバリズム・環境問題

一般に国内投資よりも、リスクに見合う高い収益が必要とされる。(期待損失は利益でカバーされる必要性)

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2(1)投資環境と民間投資リスク管理強化必要・リスク評価の強化

 →投資環境、政治リスクに対する評価能力を高める必要 →投資環境、政治リスクの変化に敏感に、正確に反応

(予想)する評価体制を確立する必要

・リスク管理体制の強化 →リスクを採らないためのリスク管理から企業価値極大化のリスク管理に移行する必要性(収益とリスク(資本の対するコスト)をバランスして判断する体制)  

 →戦略リスクを含む統合リスク管理の必要性ーー投資しないリスクも視野)

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2(1)投資環境と民間投資リスク管理強化の手段 リスクマネジメントの主要な手段には以下が含まれる。 1)リスクコントロールはリスクの高い活動の水準を下げる、あるいは、リスクの高い活動を所与として、損失に対する事前の警戒を高める。  2) ロスファイナンスは、リスク保持(自己保険)、保険、ヘッジ、その他のリスク転嫁が含まれる。  3)部内リスク削減はポートフォリオ多様化とキャッシュフロー期待値を改善する情報への投資 企業はリスクを極小化するか、第三者に移転するか、自社管理するかである。

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2(1)投資環境と民間投資リスクは不確実性   リスクとは、二つの意味で使われる。(以下は Risk Management and I

nsurance:Harrington から )  ①結果が不確実である( situations where outcomes are uncertain) 。ある

いは、期待値の周辺での変動( variability in outcomes around the expected value) 。

  例)ドル建の輸出のリスクは高い。1年後のドルの期待値は107円だが、117円にも、97円にも成り得る。

②期待値そのもの。或いは、損失の期待値( the expected value of losses) 。  例)東海地方は地震のリスクが高い。発生の期待値(可能性、確率)が他の地方よりも高い。

   期待値(平均)が同じでも、結果が不確実(分散が大きい)になると、最近の資本効率モデルでは、期待損失を上回る非期待損失が大きくなり、そのための備え(エコノミックキャピタルー株主資本)を大きく必要がある。そうした不確実性の高いプロジェクトは期待収益が高くても見送られるかもしれない。

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2(1)投資環境と民間投資グローバル戦略とリスク管理 日本経済の失われた10年は、日本企業のリスク管理の不備(トータルリスク管理、津森) 企業にとっての最大のリスクは、企業が存立できなくなること 株主価値を向上させる経営体制、コーポレートガバナンスの確立、内部統制の確立が必要 全社員の共有できる企業理念の存在 以上がトータルリスク管理の原点 確かに、グローバル戦略の策定、実施はリスク管理の高度化を必要とする。 (→トータルリスク管理)

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2(1)①裁判所の信頼度(世界銀行:投資環境改善報告) 多くの途上国の企業は裁判所が所有権を守ってくれることに対して信頼を寄せていない。

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①裁判所の信頼度(1)ブラジルの事例(収用) カナダの投資家がブラジルの Ceara 州で行った事業が、1996年に

州当局により、新たな工業用積み出し港(同国で 5番目に大きい)の建設のため収用された。

投資家は補償金額についての公平な市場価格を巡って争っていた。 下級裁判所では、投資家に有利な判決がだされたが、州当局は、直ち

に上告した。 上級裁判所で、再び投資家に有利な判決がだされたが、州当局は最高

裁に持ち込むとしている。 既に、 4 年経過しているが、最高裁判所の判決には3-5年かかる模様。(投資家は高齢である。)

教訓: アフリカの紛争国でなくとも、投資の多いブラジルで問題は発生する。 収用の可能性を予見出来なかった。 州当局が補償に消極的であった。 裁判の長期化が予想外であった。

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①裁判所の信頼度(2)スリランカの事例(契約違反) ジブラルタルの I 法人が1990年にスリランカの国営セメント会社と契約を結んだが、同セメント会社は契約を破棄。さらに、保証ボンドを引き出した。 I 法人は同セメント会社を相手取り、契約違反と不当なボンドの没収( wrongful calling of its bonds) の仲裁プロセス( arbitral action) に入り、損害に対する裁決( award) を得た。 しかし、国営セメント会社は支払いを拒否。また、地方裁判所は支払いの強制執行に応じることを拒否。 教訓: 合弁相手との投資紛争が、裁判プロセスで救済されず。

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①裁判の信頼度(3)中央アジアでの電力事業事例 スぺインの有力電力会社は、2000年に中央アジア

において電力不足と 8時間にも及ぶ停電を解消するため、世銀の電力セクターの改革の一環として、配電会社を政府から購入した。狙いは、技術力と料金回収を含め経営力の乏しい赤字会社を最新の技術により、収益性のある事業に転換されることであった。

ところが、当初の政府との契約が、憲法に抵触するとの最高裁判所の判決がだされ、契約が破棄されそうになった。

その後、世銀、EBRD等からの説得で最高裁判所の判決が凍結されたが、それを覆す正式な決定がなされまでに膨大な時間を要した。

裏では、電力の利権を求めるマフィアの存在があったとの指摘がある。

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①裁判所の信頼度(4)インドネシアで社債発行が無効 インドネシアの Asia Pulp & Paper ( APP) の子会社が1995

年に米国の証券取引委員会( SEC) に登録して、オフショアで発行して Morgan   Stanley社によって引き受けられた担保付の社債550百万ドルが、 Kuala   Tungkalの地方裁判所で無効とされた。(2週間後に別口の350百万ドルも無効とされた。)。

判決では、 SPC を使った社債発行は国内法に照らし違法であり無効であり、社債償還の必要はないとされた

APP は中国、インドネシアを舞台とする世界有数のパルプ会社だが、2001年に140億ドルの債務がデフォルトになり、その再建計画が論議されている。

リストラ案を不満とする有担保付社債権者が、担保の実行を申し立てたのに対して、 APP側が、社債発行スキームが違法として債務否認の提訴を行ったもの。

ユドヨノ大統領が、 SEC に登録され、国際的に発行された社債を上級裁判所でどう取り扱うか注目されている。

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①裁判所の信頼性(5)インドネシアでの生命保険 2004年 4月、ジャカルタ中央商業裁判所は、元従業員への賞与などの

不払いを債務不履行ととらえ、プルーデンシャル生命保険(英国)の破産を認定した。

同社は直ちに最高裁判所に上告。「元従業員は社内規則に違反した活動を繰返しており、契約の打ち切りは不当な行為ではない。また、同社の財務状況は良好であり、破産認定は不当。」と主張。

英国大使館も強く抗議。現地の従業員も抗議のデモを行った。 最高裁判所は、上告を認め、元従業員の主張を退けた。 同国の破産法( No4/1998) はアジア危機に際して、企業を破産させる手続

きが不備であったことから、 IMFの圧力により、現地の債務者が外国の債権者に返済の支払いを行う道を開いた。ところが、たとえ当該企業が健全であっても、一債権者対する支払いが滞れば破産しうるという不備があった。(銀行と証券会社の破産については、大蔵省の承認が必要とされているが、保険会社は、その網目からはずれている。)

さきには、2002年にカナダの保険会社の現地法人Munilife   Indonesiaが配当の支払いが滞っているとの理由で破産宣告を受けていた。この時も最高裁判所は、商業裁判所の破産宣告を覆していた。( Munilife は判事を汚職で訴え、三人が休職となった。)

破産法の不備は、投資環境を著しく損なうとして、修正の動きがある。

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② 汚職問題(1)規制強化ー OECD と日本

OECD は1997年12月に加盟国を中心に36か国( OECD 加盟国30か国と非加盟国6か国ーアルゼンチン、ブラジル、ブルガリア、チリ、エストニア、スロバ二ア)が国際的な商取引の公正を守るため、「国際公務員への贈賄防止条約ー OECD  Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transaction」を締結した。なお、同条約は、1970年代から、外国政府高官への贈賄に対して厳しい姿勢で取り組んできた米国が提唱していたもの。

日本でこれを受けて改正された不正競争防止法の第11条第1項は、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用してその他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申し込み若しくは約束をしてはならない。」としており、これに該当する者に対しては、 3 年以下の懲役又は300万円以下の罰金(第 14条)に、法人に対しては 1 億円以下の罰金刑に(第 15条)に処するとされている。

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② 汚職問題(2)規制強化ー米国の FCPA

海外不正行為防止法 Foreign Corrupt Practices Act ( FCPA) は、米企業が取引を獲得・維持、また、不適切に有利な立場を確保するため、外国公務員や政党に対して金銭等を提供することを違法とする。 1970年代半ばにウォーターゲート事件を契機にした米証券取引委員会( SEC) の調査で、400の米企業が3億ドルを超える疑わしき、または不法な支払いを外国公務員等に対して行っている実態が判明したことに対応したもの。 違反に対しては、重い罰刑が課され、個人には最高で10万ドルの罰金または 5 年以下の懲役、法人には最高 2 00万ドルの罰金が課される。(収賄で得た 2倍の罰金が課され限度を超えるときがある。) その他、政府との取引の禁止、輸出ライセンスの不適格化の可能性、

SEC による証券取引の停止、さらに、民事訴訟で競争相手からの不利益をうけたことに対する訴訟を受ける可能性がある。 エンロンを含め最近の一連の企業スキャンダルを受け、米政府は

FCPA の執行を一層強化しているといわれる。 司法省 (Department of Justice) とSECがFCPAを所管している。

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② 汚職問題(2)規制強化ー FCPA 留意点

米国のFCPAについては、適用範囲が広いので、米国企業だけではなく日本、アジアの企業が対象になり得る。 適用対象は、 1) SEC の監督・規制下に置かれている上場企業、 2)(以下 domestic concerns といわれる ) 米国人、米国居住者、ならびに主たる事務所を米国に置く法人等、米国法に基づき設立された企業。 3)直接の贈賄のほか、企業のために従事した海外のエージェントの行為も対象。 4)米国企業の海外関連企業の贈賄行為も対象。 上記3と4については米国本社が許可した場合のみならず、認識( Knowing) していた場合、認識していたと思われる場合( Having reason

to know 、 conscious disregard, willful blindness) でも責任が問われる。 適用例外は、外国公務員等による経常的な職務遂行行為( routine

government action) を確保するための行為(ビザの発給、証明書発行等)

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② 汚職問題(2)規制強化ー適用事例

2003年 8 月AESウガンダのナイル川にあるBujagali水力発電事業(250MWの530百万ドルの事業)から撤退を表明。事業の遅れや当初になかったリスクの増大による経済的採算性の悪化が原因。既に投資した75百万ドルが損失となった。 同プロジェクトは1990年代にAESが落札。世銀はグループをあげて支援をきめていたが、採算性や環境問題に対する懸念からNGPグループが反対していた。この問題は独立のパネルにより回答がでたが、あらたに生じた贈賄問題により、司法省がFCPAの嫌疑でAESを調査し始めて以来、世銀の支援実施は2002年半ばから、差し止められていた。 贈賄の金額は10000米ドル。AESが雇った下請けが関係の政府高官に渡したという嫌疑であった。(AESは直接手をくだしていなかったが、Knowingではないことを立証する必要があった。)

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②汚職問題(3)国際ビジネスの姿勢1. International business attitudes toward corruption, John Bray, Control Risk, in

Global Corruption Report 2004, Transparency International (2002年実施:対象50社 250インタビュー) ① 競争者が賄賂を提供したためビジネスを失ったケース:(過去12ヶ月) 香港:56%;シンガポーロ:52%;オランダ24%;ドイツ:24%;米国18%;英国16% ② 国際ビジネスが母国政府からの圧力でビジネス上の便益を受けたか。                                        企業      皆無  時折  定期的  常に  不明          米国企業 :    7.6% 48.4%   25.2% 6.0% 12.4% その他の OECD企業 : 9.2% 54.8%   25.6% 2.0% 8.4%   「OECD等の贈賄禁止の動きに対しては、直接の贈賄をさけて、中間人を使う動きが論争の種、微妙な問題となっている。」 「半数の回答は将来も同じ程度の汚職は続くと信じている。 オランダ企業が42%が汚職は減っていくと楽観的に考えているのに対して、香港企業は48%が現状維持、42%はさらに増えるとみていて悲観的。」2.(参考)ハーバードビジネスレビュー2005年3月号(ダイアモンド7月号)に「旧共産主義国での新規事業に役人への賄賂は必要なのか。」のケーススタディが掲載されている。

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②汚職問題(4) Corruption Perceptions Index

Corruption Perceptions Index(CPI 汚職感覚指数)は Transparency International によって発表された各国の公務員と政治家の汚職(個人の利益のための公務の乱用と定義)の程度をランク付けするために算出された指標である。

信用性のある専門的サーベイのデータを集計してだしたものであり、ビジネスと専門家の意見が集結されている。(世銀、コロンビア大学、 EIU 等18の機関のサーベイを活用。)

2004年の CPI では146か国を対象。うち106か国は5以下の点である。(10が満点)

フィンランド:9 .7(最高);シンガポール:9 .3;米国:7 .5;

  日本:6 .9;台湾:5 .6;マレーシア: 5.0 ;ブラジル:3 .9;

タイ:3 .6;中国:3 .4;フィリピンとベトナム:2 .6; インドネシア:2 .0 ;バングラデッシュ:1 .5(最低);

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②汚職問題(5)世界銀行の取り組み 1990年代の半ばから、世銀は汚職が途上国の経済、社会開発を阻む最大の要因として捉え、100の途上国で600のプログラムを実施してきた。 目標としているところは、 ①説明能力のある政治システム ②市民社会参加の強化 ③競争的民間セクターの形成 ④権力を抑制できる仕組み ⑤公的部門のマネジメントの改善

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(契約違反):(1)傾向と概

要 直接的収用は1970年代、80年代によくみられたが、1990年代になると激減し、これに代わって忍び寄る収用が増加してきた。 直接収用の場合に公的目的で、充分な補償が支払われる場合には、収用とは言いがたい。たとえば、飛行場建設のための用地の収用、買収がこれにあたる。しかしながら、公共性が不明瞭であったり、補償が客観的基準に基づかず、不十分である場合には、投資に対する収用リスクとなる。 忍び寄る収用の典型例は事業の提供する財、サービスに対する料金を巡り規制当局との間で問題が生じ、当初の契約が守れなくなり事業の採算が採れなくなることである。 政府が、公共に利益のために、経済活動を規制する目的で通常採用する措置を無差別的に採った場合には、収用とは言わない。(税金、関税、価格統制等)

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(2)古典的事例エチオピア国

有化 1975年にエチオピアのMengistu政府は、土地、商業用建物、余剰家屋、産業をエチオピア人民の共有財産にする宣言を発した。同宣言は外国人、エチオピア人を差別することなく適用された。 ところが、同宣言では補償は公平(Fair)に行われるとされたが、どう算定されるかの規定はなかった。 1991年に政権を握った暫定政府は、1995年に事態の解決を図るべく民営化機構に権限を与えた。この間イタリアと米国の投資家には、2国間で解決する道が開かれた。(400件が解決) その後、いくつかの補償が支払われたが、約50件(仏、ドイツ、ギリシャ、ノルウェイ、英国の投資)が未解決のままに残された。問題の未解決はエチオピアが外国からの投資を誘致する能力を著しく損なった。 2000年10月以来MIGAが斡旋仲介(Mediation)に入り、4年がかりで、その大半が和解した。2004年度には、フランスとドイツはエチオピアとの間で、二国間投資協定を締結した。

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(3)インドネシア経済危機と

収用 スハルト政権前には、オランダ所有の事業が多数収用されたが、1966年にスハルトが政権をとって以来、こうした事業は旧所有者に戻されており、収用は跡を絶っていた。 ところが、1997のインドネシアの経済危機の際には、5-7%の経済成長を前提として計画された27件の電力事業が、大統領令により中止を余儀なくされた。正当な対価なく中止された事業は、収用されたとみなされた。

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( 参考)インドネシアの電力セクターエンロン投資事例(投資初期段階) (事業概要)1996年当時Enronの100%子会社のEnron Java Corporation (EJPC)は現地の2法人とともに、総額500百万ドル、出資125百万ドル(EJPCの出資は63百万ドル)、借り入れ375百万ドルの500MWのガス火力発電所をジャワ島にBOO( Build Own Operate )ベースで建設する事業に取掛った。(2年半で建設予定) インドネシアは今後10年に電力拡張のために115億ドルの民間投資が必要とされていた。電力需要は14-17%で増加すると見込まれていた。 (顚末)EJPCは約15百万ドルを投下したところで、大統領令がだされ、建設は凍結された

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( 参考)インドネシアの電力セクターパイトンⅠ投資事例 (事業背景)ジャワ島東部のパイトン地区にて、パイトンエナジー社が615MW2基の火力発電所を建設、所有、運営し、30年に渡りPLN電力公社に売電。総コストは25億ドル。 出資960百万ドルーミッションエナジー45%、三井物産37%、GEキャピタル13%の出資。融資1514百万ドルーJBIC協融825百万ドル、米輸銀協融 1514百万ドル、OPIC193百万ドル。 (顚末)経済危機を契機に完成の遅れ。PLNによる不払いが発生。2003年にリストラ合意。

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(4)アルゼンチン経済危機と

収用  (経済危機のよって顕在化したリスク) モラトリアムの継続によりア政府の持つ対外民間債務については、元利払いのすべてが凍結となった。日本では、3万人の投資家がアルゼンチン国債を購入していて、損害を被った。(デフォルトリスク) また、外国の銀行がアルゼンチンの民間事業に外貨で貸し付けた銀行融資についても、元利の外貨建て返済を国外に送金するには、中央銀行の承認が必要となり、送金が事実上できなくなった。(送金リスク) ドルとの固定相場制の放棄のあとは、ペソは30%切り下げられ、

2 重為替相場制が採用されたが、長持ちせず、変動相場に移行したペソはその後 1 ドル=4ペソまで下落した。(大幅な為替リスク) さらに、外貨取引のペソ化により、外貨を借り入れていたペソ建収入に依存した事業(有料道路など)の採算がとれなくなった。(ペソ化による一種の収用リスク) 経済の混乱と金融システムの崩壊、度重なる政権交代、IMFとの交渉の遅延から2002年は10.9%のマイナス成長となった。(市場リスク)

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(5)電力料金:ケニアでの地

熱発電 イスラエルにベースを持つ電力会社Oは、2000年以降ケニアにおけて、二つのフェイズから成る地熱発電事業に乗り出した。 ケニアの電力事情は最悪で、電力は人口の10%にしか行き渡らず、また、70%を水力発電に依存するため、旱魃の影響をもろに受けていた。地熱発電は、クリーンなエネルギーであり、水力発電への依存度の低下、外貨の節約などのポジティブな経済効果が期待された。 ところが、その第1フェイズで、2003年に料金改定問題は発生した。その件は解決をみたが、同年末に、今度は、第1フェイズと第2フェイズの双方について料金改定問題がケニア政府から出された。 一方、ケニア政府は同社に対して第2フェイズを2005年末までに完成するよう迫っている。

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③ 政策の不確実性、規制ー収用(6)電力料金:中国電力事業

(事実概要)1995年から96年にかけて米国の電力メーカーコスタル(テキサスのヒューストンに本店)は中国の江蘇州に4つの発電事業からなる100%出資の電力会社を設立した。 市側の電力会社が引き取る電力料金は、コストに合理的な利益を上乗せできる仕組み(コストプラス)になっていた。 1998年から1999年9月にかけて発表された中央政府の総合的電力料金政策は、料金体系の根本的に見直しであり、市当局レベルでの電力決定の権限を剥奪するものであった。 また、料金決定方式をコストプラスから、一律料金に改めるものであり、コスタルの収益は自助努力ではコントロールできないものになった。 中央政府の総合的電力料金政策の結果を受けて、江蘇州では、同州の電力会社と計画経済委員会が、コスタルや他の電力事業者に対して、売電契約( power purchase and settlement

agreements) と電力料金を再交渉するよう通知を発出した。 北京の中央政府は、問題解決を願ったが、権限が及ばないという問題に直面した。

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中国江蘇州での電力事業での料金改定問題(続き) (MIGAの関与)当初江蘇州の当局は、こうした措置は中央政府の政策の結果もたらされたものであるというスタンスをとっていた。 その後に判明したことは、中央政府(大蔵省とMOFTEC)はできるだけ問題の解決を望んだことであった。ただし、直接の権限関係はなかった。 また、料金問題は、中央政府の総合的電力料金政策の影響を受けるとはいえ、地方当局は日々の行政に大きな権限を持っており、本件はローカルな問題であるということであった。 さらに、コスタルは粘り強く、辛抱強く交渉に望むとともに、交渉において、弾力的な対応をした。 (その後の顚末) その後、コスタルは江蘇州電力会社とのあいだで、当初の予定の利益率を若干下回る利益を年年の利益配分において受け取ること等を柱とした内容の覚書を交そうとし、難交渉の末に2002年5月に合意が成立した。 (経済要因) 1997年の経済の落ち込みにより、電力需要の減退が問題解決を難しくしていたが、2000年代になり、江蘇州の経済成長と電力需要が大きく伸び始め、問題の解決をより容易にした面がある。

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③ 政策の不確実性、規制ー(7)契約違反:トーゴの事例

世界で有数の綿製品製造業会社の会長とベルギーの銀行が、2001年にトーゴにおいて、約10億円を投資(出資と融資)して、同国で6番目の綿花栽培事業にのりだした。綿花製造の免許を受けた現地事業SOCOSAが進める同プロジェクトは同国北部の最大の農業加工業Agribusinessであり、自由貿易地域法Free Trade Zone Actのもとで輸出される綿花は5年間で60百万ドルの外貨を獲得するとされていた。また、同地域の雇用創設、労働者の職業訓練面でも、大きな効果が期待されていた。 ところが、2004年になると、綿花の供給をおこなっていた国営企業は、綿花供給を約束していた3万5千トンから1万5千トンに引き下げてきたため、同事業は、採算がとれなくなった。

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③ (8)忍び寄る収用と契約違反増加の背景  1990年代以降、外国からの直接投資の誘致に多くの途上国が力をいれてきたため、あからさまな直接的収用が減少し、これに変わって忍び寄る収用と契約違反が増加している。こうした事例が増加した背景としては次のような要因が指摘される。 途上国において、民営化が進み、インフラ分野に民間資本投資が行われるようになったこと、 しかしながら、民営化はしばしば、規制当局の体制が十分に整わないうちにすすめられたこと、 料金をコントロールする規制当局の料金基準と監督の方針がしばしば透明性と客観性を欠くたこと、 公的当局、国営企業が本来民間でなされるべき取引の契約当事者になるケースが増えたこと、 さらに、地方分権化によって、規制当局や契約の当事者が中央政府から、地方政府(州当局、市当局)に移り、中央政府の外国からの投資歓迎の姿勢が地方政府に徹底しにくいこと、   

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③ (8)忍び寄る収用と契約違反増加の背景(続き)    Moran説 世界銀行によれば、1990年代には、途上国でのインフラ事業(通信を除く、電力、運輸、水)のうち、40%の契約が更改されている。こうした現象をGeorgeTown大学ビジネススクールのMoran教授は途上国での一種の市場の失敗(Market Failure)としている。 (以下は Reforming OPIC For the 21st Century, May 2003 Theodore H. Moran, Prof Geroge Town Univ. Institute for International Economics から編集)

気まぐれ説(Opportunistic):規制をめぐる契約の変更は国粋的政府の気まぐれの行為であるとする考えは、一部妥当するかもしれないが、契約の更改を繰返せば外国からの投資が来なくなるので、この説は説得的ではない。

契約陳腐化説( Obsolescing Bargain ):①投資の価値(外部経済)が大きいため、計画段階では、政府としては、投資家にとって有利な条件でも投資を誘致したいと考える。民間企業も当初のリスクと不確実性を補うだけの有利な条件でなければ投資を行おうとしない。この結果不安定な契約関係が政府と民間投資家の間に出来上がる。

② しかし、一旦プロジェクトができあがり成功し、当初のリスクと不確実性がなくなると、政府は長期にわたり、寛大に取り扱うことをこころよしとしない。契約の変更を迫る。現政府がそれをしなくとも、次の政府が契約の更改をせまる。

   

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③ (8)忍び寄る収用と契約違反増加の背景(続き)  (参考)30年間にわたり途上国との投資紛争にあたってきた法律家の感慨: (MIGAの法律担当副総裁 Luis Dodero が退任するにあたってのインタビューから)

「政府の言い分は法律的にみると、 rebus sic stantibus ( 状況が変われば契約は新しい状況にあわせて変更されるべき)であり、この点は pacta sunt servanda 契約の神聖に優るとする。政府が公共目的があると証明し、適切な補償を支払えば国際法的にも正規な収用として認められる。しかし、経済危機のもとではそうした財源はない。」

「(16年間に渡り、投資紛争のMediationを行って来て、)私がより望ましいと考える解決策は、政府に対しては、金銭によらない補償を考えさせ、投資家に対しては、もし、その国でのビジネスを継続したいと考えるのであれば、当初の契約による料金値上げよりも、小さな一時的な削減を了承することが、理に適っているということを説得することです。」

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(参考)インフラへの民間投資

020406080

通信電力水運輸

総計 (1997): $1284 億ドル総計 (2001): $583 億ドル事業件数 : 1997 年 – 361件 ; 2001 年 – 148件

US$bnSource: Private Participation in Infrastructure  世界銀行

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④契約違反に対する救済の道(1)国際的仲裁規定 政府、政府機関との間で契約違反があった場合に、どのような仲

裁や裁判のプロセスを経るかについて明確な合意をして契約に盛り込むことが重要になってきている。

その際仲裁や裁判所の管轄の問題は極力、国際的なプロセスを経ることが望ましい。

国内の仲裁プロセスを義務付ける国も多いが、その際には国内の仲裁や裁判の信頼性を充分に確認することが必要。

FTAや投資協定に国際的な仲裁プロセスの確保を織り込むことが望ましい。

ただし、契約のなかに、国際的な仲裁を規定したにも拘わらず、裁判所でかかる仲裁規定は合法的でないとされているケースがある。(ブラジルにおいて、売電契約をした相手方の政府機関が支払いをデフォールトしたため、投資家が契約の打ち切りと契約終了の支払を求めつつ、契約に定められた国際仲裁( ICC - International Chamber of Commerce の Arbitration )を経ようとしたところ、Panana 州の裁判所から、かかる国際仲裁は違法であり、ブラジルの裁判制度のもとで解決を図るべきとの判断が示された。)

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(参考) ICC の仲裁International Court of

Arbitration パリに本部のある International Chamber of

Commerce ( ICC) の International Court of Arbitration は1923年に設立され、100か国に渡る13000件の仲裁のケースを取り扱ってきている。現行のルールは1998年1月に改定されたもの。 ICC の仲裁規定では、契約の当事者が ICC の仲裁に訴えて、仲裁によって解決をはかることが可能となるように、次のような句を契約に規定するよう勧告している。 “Any party to this contract shall have the right to have

recourse to and shall be bound by the Pre-Arbitral Reference Procedures of the ICC----”

“All dispute arising out of or in connection with the present contract shall be finally settled under the Rules of Arbitration of ICC---”

このほか、 ICC では、中立の第三者による ADR ( Amicable Dispute Resolution) の調停のプロセスを設けている。

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(参考)世界銀行グループの仲介  1. ICSID ( International Centre for Settlement of Investment 

Disputes )は、「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約」のもとに1968年に設立され、国際投資紛争の調停と仲裁( Conciliation and Arbitration) を行う場を提供。 ICSID の調停・仲裁に委ねるか否かは、当事者の自発性に委ねられており、強制されることはないが、一旦仲裁のプロセスに入ると裁定に服すことが義務付けられる。 2.MIGA ( Multilateral Investment Guarantee Agency)  途上国に対する生産的な投資を促進することを目的に1998年に設立された MIGA は投資家と政府の間の投資紛争を友好的に解決 ( Amicable settlement) する役割も果たす。ただし、かかる

Mediation (斡旋)は受け入れ政府が MIGA の関与について同意したケースについてのみ行っている。また、その目的は投資家と政府が相互に満足行く解決策(妥協点)を見出すことにある。  (例)エチオピアの1970年代の国有化の補償問題

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( 参考)中国の国内仲裁国際商事仲裁 (中国国際商事仲裁の実務、梶田幸雄、中央経済社2004年4月より) 中国で国際商事仲裁がおこなわれる場合には、通常は中国国際経済貿易仲裁委員会( CIETAC) への仲裁付託がなされる。 CIETAC は、政府機関から独立した民間機関である。1988年、国務院は対外経済貿易仲裁委員会を中国国際経済貿易委員会( China International

Economic and Trade Arbitration Committee) に改称した。 CIETAC の仲裁は公正に行われるとの評価がある反面、仲裁で勝訴しても、執行面で、人民法院が外国企業に公正であるかが不明との指摘が多い。  参考: CIETAC執行申し立ての執行状況              CIETAC統計   UCLA ロースクール調査(95-98年)  執行容認       77%       47%  執行拒否       23%       53% 北京、広州、上海などの大都市の執行率が高く、中小都市では低いという傾向がある。

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( 参考)二国間投資協定について 全世界では、2181件の二国間投資協定が存在するが、その内容はまちまちである。 欧州 2000年1月現在で、英国92件、フランス92件、ドイツが124件の締結(投資保険付保の前提条件) 米国 より広範な投資奨励保護協定を46件 自由貿易協定(投資条項が含まれる)FTAが5件 日本 2003年末で、11件(エジプト、スリランカ、中国、トルコ、香港、パキスタン、バングラデッシュ、ロシア、モンゴル、韓国、ベトナム) 経団連は、WTOにおける多角的投資協定の締結を強く求めるとともに、より広範かつ自由化レベルの高い二国間投資協定もあわせて推進すべきであるとしている。 (以上RIETI Discussion Paper 04-J-023から) 2004年には、途上国相互間での取り決めが増加したことにより、二国間投資協定(BTIs)と租税協定(DTTs)は、それぞれ2392、2559件に達した。 投資協定が地域内、グローバルにより多く締結されており、FDIの開放につながると期待されるが、かかる取り決めが投資に関連する規定を取り込むようになって来ている。(以上 WIR2005 から)

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( 参考)日韓投資条約 2003年1月1日発効 第2条 設立前・設立後の内国民待遇、設立前・設立後の最恵国待遇締約国は投資財産の設立、維持、運営、拡大、処分等に関し、内国民待遇及び最恵国待遇を付与。 第3条 裁判を受ける権利司法、行政訴訟へのアクセス・権利保護に関し、締約国は投資家に対し、内国民待遇又は最恵国待遇を付与。 第10条 収用と補償締約国は、投資家の投資財産の収用・国有化を行うに際して、公共目的及び適切な補償を行わなければならない。収用に伴う補償は、公正な市場価格に基づき遅滞なく支払わなければならない 。 第15条 投資家対国の紛争処理当該紛争が生じた場合、可能な限り協議又は交渉によって処理されなければならない。処理されない場合、投資家は (1) 投資紛争解決国際センター(ICSID)又は (2) 国連国際商取引法委員会仲裁規則等に基づく紛争解決方法に訴えることができる 。

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(事例)ロシアのユーコスの解体史上最大規模の収用か 2005年5月16日ロシアのモスクワ裁判所は、石油大手の

ユーコスのオーナーであり、プーチン大統領の政敵であったホドルコフスキー氏に対して、脱税を含む4つの罪状について有罪を言い渡した。

これに先立つこと、米国のテキサスのヒューストン連邦破産裁判所にユーコスから持ち込まれた訴状によれば、

  ーロシア政府は、不法な差別的な課税、資産没収、逮捕、恫喝により、400億ドルの市場価値のあるユーコスに損害を及ぼした。

  ーロシア政府の行動は、投資紛争について国際的な仲裁を規定したロシアの外国投資法とロシアの条約と国際法に対する遵守義務に違反している。

  ーユーコスは、ロシアの外国投資法、米国法、国際法に基づき、本件を国際的な仲裁手続きのもとに置くことを求めている。

  ーユーコスへの政府の攻撃は、2004年4月以来、一連の前例のない課税の再評価にはじまり、金利と違反金を含め、 Tax Re-Assessment は275億ドルに達した。ユーコスの経理は PriceWaterHouse の監査を受け、ロシアの税務当局に確認を受けたものであった。課税再評価の金額は、2001年、2002年の総収入を超える金額であった。

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ロシアのユーコスの解体について(続き)国際仲裁にもっていけたか ヒューストン連邦破産裁判所にユーコスから持ち込まれた訴状(続

き)  ー要するに、ユーコスに資金が残らないようにして、ロシア政府は

ユーコスを意図的に破産させた。  ー2004年12月にロシア政府はユーコスの株式を入札にかけた

が、落札した無名の Baikal Finance Group は、後日、ロシア政府が100%所有する国有企業 Rosnelt に買収された。

 -1999年に採用された新たな外国投資法4条(5)によれば、少なくとも10%の資本を持つ外国の投資家は再投資に際して同法により提供される完全な法の保護、保証、権利を有する。

 ー同法の8条(2)は外国投資家の資産は、連邦法や条約に基づく例外を除いては、接収の対象には成らないとしている。ロシア政府は外国投資法に違反している。

The Energy Charter Treaty は第13条において、収用は、公共の利益に基づき、差別的ではなく、法の手続きによって、迅速かつ十分な補償支払いによってのみ可能。また、第26条において、投資紛争を国際的仲裁にもってゆく手続きを規定している。しかしながら、同ロシアは同条約に調印しているものの、批准するにいたっていない。

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ユーコスの事例の海外からの投資に及ぼす影響  (有罪判決の直後の5月17日のFTの論評は以下の通り。) 理論上は同じような攻撃はいつでも起こりうる。1990年代には多くのロシアの寡頭勢力はホドルコフスキー氏と同様な手口を使っており、同氏が批判されている内容は、当時としては、合法、あるいは少なくとも、法律や税法で禁止されていなかったとしている。 「プーチン大統領はユーコスと同じような事例を起こす余裕はないが、官僚組織をコントロールできるという保証はない。」との見方がある。 当局は大きな石油会社に対して、10年に遡る納税を調査している。多分、ユーコスだけを例外にしないためであろう。 プーチンは、税務当局に対するコントロールを強化するとしているが、多くの都市で、中小のビジネスが、税務当局が、連邦政府に見習い、資産の一部を接収していると伝えられている。

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3.投資環境改善、投資促進への対応 基本認識と対応(1)投資環境は急速には改善しない。(残存する問題とともに民間投資を生かしていく必要性あり。)→PPP の適用、→国際機関、政府機関のアンブレラとリスク軽減策の拡充(企業のグローバル化戦略とリスク管理にあったサービスの提供)(2)投資環境改善は広範な問題として対処する必要性あり。(総論ではなく、個別の問題にきめ細かくあたる必要がある。)→きめ細かい技術支援(3)途上国において投資の呼び込みはグローバル化のなかでの生き残り競争との認識を高めさせる。→投資環境についての透明性の向上(不確実性を減らす。イメージ改善)、→投資環境報告の公表内容と頻度の充実向上→「投資環境サーベイランス」の導入が必要になる。

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3.投資環境改善、投資促進への対応(続き)(4)投資紛争をめぐる紛争処理が対民間でも対政府でも、公正に行われる手続きを確保していく。→内国民待遇、国際仲裁規定を二国間、地域内の FTA や投資協定に盛り込む。→途上国においてはIPA(投資促進機関)の拡充や投資家の立場に立ったAdvocacyな役割の付与が重要。→「国際投資紛争斡旋機関」の設置も視野に。

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(参考)公的機関、国際機関の関与当該国の開発目的に適合したプロジェクトとして事実上認定される効果を持つ。(国別開発戦略、包括的開発フレームワーク、貧困削減成長戦略のなかでの位置づけ。インフラでは、セクター戦略とのすり合わせ。)まさかのときに、いたずらな政府の干渉を防ぐ。 投資紛争が発生した際には第三者的な解決策が期待できる。

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( 参考) PPP (Public Private Partnership)

インフラ分野では、 ODA に限度があるため、外国企業による民間資金の流入が重要であるが、民間はリスクが大きいために、投資額が1997年のピークから半減した。 そこで、途上国政府、2国間援助機関、国際機関、商業銀行、民間投資家がそれぞれの役割分担(リスクシェア)を決め、民間のリスクを軽減するという PPP の考え方が重要。 2003年5月に京都で開催された京都水フォーラムでは、安全な水を得られない人々を2015年までに半減させるために、年間300億ドルの投資で、公的部門と民間部門が協調する具体的提言をまとめた。(カムドゥシュ・レポート) 2005年3月に東京でシンポジウムを開催した「東アジアのインフラ整備に向けた新たな枠組み」調査報告書は、 ADB 、 JBIC 、世界銀行が実施した初の共同調査の結果をまとめたもの。

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(参考)05年3月の JBIC/ADB/ 世銀共催のインフラ・シンポジウム

「東アジアのインフラ整備に向けた新たな枠組み」調査報告書は、 ADB 、 JBIC 、世界銀行が実施した初の共同調査の結果をまとめたものである。 同報告書は、「東アジア地域内外の企業は、政府の政策と規制が予測可能になれば、インフラ投資に意欲的」としている。その際に各企業は、インフラ投資の大きな制約として、契約不履行、規制や法的判断の矛盾、汚職を挙げた。 報告書において、調査の対象となった 21 カ国では、電力・ガス、輸送、情報通信技術、上下水道システムへの新たな投資と維持管理のために向こう 5 年間にわたって年平均推定 2,000 億ドル以上が必要になるとされ、その資金総額のうち8割は中国での需要と見込まれている。 しかし、 1990 年代終盤の経済危機の後、インドネシアやフィリピンなどの国々では民間のインフラ投資が縮小し、その結果、何年もの間ほとんどあるいはまったくインフラ投資が行われず深刻なインフラ不足が生じた。同地域内でも特に貧しいラオスやカンボジアといった国々は依然として、インフラ整備向けの民間資金をほとんど得られないでいる。(以上プレスリリースから抜粋) 具体策:以下の3つが重要。 ①Inclusive Development (インフラ整備を他のセクター支援との連携が効果的な貧困削減に必要) ②Coordination (インフラ整備の企画立案、財源問題の点において、中央政府、地方政府、民間事業実施主体との調整が重要) ③Accountability and Risk Management (地域社会の参加、競争原理の導入、独立性ある規制、補助金には細心の注意が必要。)

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(資料)その他の先進国投資保険と国際機関での投資保険(先進国) 米国: OPIC カナダ: EDC 英国: ECGD 仏: COFACE 伊: SACE 独: Pwc(国際機関) 世界銀行グループ: MIGA アジア開発銀行:民間部門局が担当 米州開発銀行:民間部門局が担当

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( 資料)途上国の(投資)保険機関と民間投資保険1.途上国は自国の企業の国際化を推進しており、自国に貿易保険機関

を設け、そのなかで投資保険も取り扱おうとしている。 中国: SINOSURE (年間百数十万ドル) 韓国: KEIC (実績は皆無) マレーシア: MECIB(実績は皆無) イラン: OIETAI (Organization for Investment, Economic $ Technical As

sistance of Iran)2.民間保険会社による投資保険、政治リスク保険参入が1990年台後半に急増した。

AIG(NY) Zurich (Zurich Emerging Markets Solutions) (Washington DC) Sovereign (Bermuda) Lloyd’s of London ACE &  Exel (Bermuda 再保険)

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(資料)投資環境の測定の困難さ  (世界銀行の投資環境改善報告から) 投資家であれ、投資誘致を図る政府であれ、エコノミストであれ、投資環境を測る作業を進めてきた。 投資環境を測定する際の困難 (Challenge) は、 ① 投資環境は多次元に渡る問題(例。経済の安定と汚職問題は重要だが、企業によっては、規制や通信も極めて重要かも知れない。) ② いくつかの次元の問題は測定が難しい(例。汚職の程度) ③ 企業により異なった影響度(例。港湾インフラが輸出主体の企業に大きな影響) ④国のなかでも違い(例。連邦制の国で州によって法の執行が違う) ⑤公式な政策と実際の適用が異なる。(例。官吏の裁量権が大きければ書き物通りに行政が行われない。) 従って、客観的データと印象データ( Perception data) の双方で測る必要がある。投資は最後は主観的な判断に頼らなければならないので、感覚データのような主観的なデータも重要である。 具体的には、上級のマネジャー達が、 8つの項目について、例えば、「政策の不透明」に対して、どういう印象をもっているか、以下の5つのスケールで答をだしてもらっている。 ①障害なし No obstacle,②軽微な障害minor obstacle,③ やや障害

Moderate obstacle,④ 大きな障害major obstacle,⑤非常に深刻な障害 very severe obstacle

投資環境指標では、大きな障害と非常に深刻な障害の合計の割合を示している。

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(資料)通貨危機と通貨制度・共通通貨の形成 ①拡大EU成立(2004年5月)で東欧5ヶ国(ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバニア、スロバキア ) を含む10ヶ国が加盟(ブルガリア、ルーマニア、トルコが将来に検討の俎上へ)  ( 現在はユーロは12ヶ国の通貨であるが、将来は25ヶ国に拡大する可能性) ②アジアでは今後の課題・アジアでのより弾力的通貨制度への移行(IMF・WEO 04年9月)                                                                                                                  自発的      危機で強要固定相場→中間形態 インド95年    比国 97年              パキスタン00年  タイ 97年中間形態→変動相場 比国 00年    インドネシア97年                          韓国 97年固定相場の維持は中国 (10-40%過小評価されていると言われる)、香港、マレーシア・新興市場国にとってのより安定的な通貨制度は、①より厳格な固定制もしくは変動為替制(IMFのTwo Corner Solution提言)か。または②バスケット通貨を中心にした管理された変動相場制(日仏提案)か。やはり、③より弾力的相場制(上記の WEO での主張)か。