2010年度 環境・建築デザイン学科 卒業研究 卒業論文梗概...2010年度...

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学籍番号 氏名 指導教員 2010年度 環境・建築デザイン学科 卒業研究 卒業論文梗概 論文表題 2010 . 10 . 18 提出 2010 . 10 . 26 発表会 神戸市丸五市場の現状調査およびイベント時におけるその空間変容に関する研究 07E0078 山神 達彦 1. 研究対象の概要 研究対象である丸五市場は神戸市長田区二葉町に位置し、90 年 の歴史を持つ神戸市でも有数の老舗市場である。震災を奇跡的に 免れたため、昔の市場の形態をほぼそのまま残している。 また、夏から秋にかけて毎月第3金曜日に「アジア横丁ナイト 屋台」というイベントを行っており、平常時とは全く様相が変化 する。 2.研究方法 まず研究対象である丸五市場がある長田について、その歴史・ 文化・地場産業・住環境に関する資料調査を行った。またいくつ かのまちづくり活動を行っている団体の人たちにも貴重な資料を 提供、あるいは貸していただいた。また、そういった人たちとの 交流や現地の人々とのヒアリングから長田についての理解を深め ていった。 次に、現地でのフィールドワークを行い、店舗経営者や住民へ のヒアリングと丸五市場の実測調査を行った。 また、毎月行われるイベント「アジア横丁ナイト屋台」における 空間利用の調査のため、6 月 18 日、7 月 16 日、8 月 20 日、9 月 17 日の計 4 回にわたり、参与観察、写真による調査とアンケートに よる利用者についての調査を行った。 3. 調査結果 A. 実測調査 丸五市場での複数個所で実測を行い、それを図面にしたところ、 それぞれに違った意匠が見られ、またスケールにもバラツキがあっ た。しかし通路幅などは、概ね住宅のスケールに近いものであった。 B. 所有形態の種類と分布 丸五市場のそれぞれの建物の所有形態について、住民へのヒア リングを行ったところ、実に多様な所有形態があることがわかっ た。それらをいくつかのグループにわけた結果、住居兼店舗型、 住居兼テナント型(2パターン)、完全住居型、単純店舗型、公共 空間型、複合店舗型、臨時店舗型、空き家の8つであることがわかっ た。また 1970 年から 2009 年における住宅地図の比較から、空地・ 更地と空き店舗の割合を調べていくと、その割合がそれぞれ近年 になるほど、約 1:1 に近くなっていることがわかった。 4. 分析結果 次にイベント時(アジア横丁ナイト屋台)における平面計画図 を現場の調査を元に作成し、動線スペースと滞留スペース、シャッ ター(壁面)と店舗の割合、市場通路における私物と公共物の分布、 などについて、通常時との比較を行い、どういった空間変容が起 きているかについての分析を行った。 その結果、店舗はナイト屋台が行われているエリアの中心付近に 向かってだんだんと増え、逆に机やテーブルなどがある滞留スペー スは、周辺へ分散しているということがわかった。またそれぞれ のエリアごとに人口密度や私物と公共物の分布についても、同じ ように通常時とは対象的な結果となった。 次にそのプログラムについて、出店者の業種や割合、年齢層な どについて、通常時と比較したことろ、業種については、飲食店 と農・水産物店の店舗の割合が逆転しており、年齢層はイベント 時の出展者の平均年齢が 20 ~ 30 代で、通常時が 60 ~ 70 代だった。 5. 結論 丸五市場のもつ空間の特徴は、長い歴史の中で、だんだんと複 雑化していったプログラムの変化による場所の性質の多様さと、 イベント時などに見られる空間の可変性にあると言うことができ る。またその中でも特徴的な要素としては、①ハンドメイドによる 場所づくり②空間の 2 面性③図と地のバランスの3つであること がわかった。まず①は、市場に住む人たちや、営業をしている人 たちが、自分たちの市場の使い方を自分たちで見出し、利用して いるという点である。②は、この丸五市場が住宅としての顔と市場 としての顔の2つを持っている点、平常時とイベント時との対象 的な空間変容など、一義的に定義できない空間の性質によって成 り立っている点である。そして最後の③は、住宅と空地・更地の 割合や、店舗と空き店舗の分布、さらには、それぞれのプログラ ムの種類の割合などが、バランスよく分布している点である。また、 これはアジア横丁ナイト屋台の平面計画にも見られる点でもあり、 この図と地のバランスが、ナイト屋台を成り立たせている1つの 大きな要因であると言えるのである。もちろん、丸五市場を取り 巻く長田という場所の性質、住民同士のコミュニティ、多様な食 文化といった要素が、その根底にあることは言うまでもない。

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Page 1: 2010年度 環境・建築デザイン学科 卒業研究 卒業論文梗概...2010年度 環境・建築デザイン学科 卒業研究 卒業論文梗概 論文表題 2010 . 10

学籍番号          氏名  指導教員             印

2010年度 環境・建築デザイン学科 卒業研究

卒業論文梗概

論文表題                                       2010 . 10 . 18 提出 / 2010 . 10 . 26 発表会

  ■ ■  神戸市丸五市場の現状調査およびイベント時におけるその空間変容に関する研究

07E0078 山神 達彦

1.研究対象の概要

 研究対象である丸五市場は神戸市長田区二葉町に位置し、90 年

の歴史を持つ神戸市でも有数の老舗市場である。震災を奇跡的に

免れたため、昔の市場の形態をほぼそのまま残している。

 また、夏から秋にかけて毎月第3金曜日に「アジア横丁ナイト

屋台」というイベントを行っており、平常時とは全く様相が変化

する。

2.研究方法

 まず研究対象である丸五市場がある長田について、その歴史・

文化・地場産業・住環境に関する資料調査を行った。またいくつ

かのまちづくり活動を行っている団体の人たちにも貴重な資料を

提供、あるいは貸していただいた。また、そういった人たちとの

交流や現地の人々とのヒアリングから長田についての理解を深め

ていった。

 次に、現地でのフィールドワークを行い、店舗経営者や住民へ

のヒアリングと丸五市場の実測調査を行った。

また、毎月行われるイベント「アジア横丁ナイト屋台」における

空間利用の調査のため、6月 18 日、7月 16 日、8月 20 日、9月 17

日の計 4回にわたり、参与観察、写真による調査とアンケートに

よる利用者についての調査を行った。

3. 調査結果

A. 実測調査

 丸五市場での複数個所で実測を行い、それを図面にしたところ、

それぞれに違った意匠が見られ、またスケールにもバラツキがあっ

た。しかし通路幅などは、概ね住宅のスケールに近いものであった。

B. 所有形態の種類と分布

 丸五市場のそれぞれの建物の所有形態について、住民へのヒア

リングを行ったところ、実に多様な所有形態があることがわかっ

た。それらをいくつかのグループにわけた結果、住居兼店舗型、

住居兼テナント型(2パターン)、完全住居型、単純店舗型、公共

空間型、複合店舗型、臨時店舗型、空き家の8つであることがわかっ

た。また 1970 年から 2009 年における住宅地図の比較から、空地・

更地と空き店舗の割合を調べていくと、その割合がそれぞれ近年

になるほど、約 1:1 に近くなっていることがわかった。

4. 分析結果

 次にイベント時(アジア横丁ナイト屋台)における平面計画図

を現場の調査を元に作成し、動線スペースと滞留スペース、シャッ

ター(壁面)と店舗の割合、市場通路における私物と公共物の分布、

などについて、通常時との比較を行い、どういった空間変容が起

きているかについての分析を行った。

その結果、店舗はナイト屋台が行われているエリアの中心付近に

向かってだんだんと増え、逆に机やテーブルなどがある滞留スペー

スは、周辺へ分散しているということがわかった。またそれぞれ

のエリアごとに人口密度や私物と公共物の分布についても、同じ

ように通常時とは対象的な結果となった。

 次にそのプログラムについて、出店者の業種や割合、年齢層な

どについて、通常時と比較したことろ、業種については、飲食店

と農・水産物店の店舗の割合が逆転しており、年齢層はイベント

時の出展者の平均年齢が 20 ~ 30 代で、通常時が 60 ~ 70 代だった。

5. 結論

 丸五市場のもつ空間の特徴は、長い歴史の中で、だんだんと複

雑化していったプログラムの変化による場所の性質の多様さと、

イベント時などに見られる空間の可変性にあると言うことができ

る。またその中でも特徴的な要素としては、①ハンドメイドによる

場所づくり②空間の 2面性③図と地のバランスの3つであること

がわかった。まず①は、市場に住む人たちや、営業をしている人

たちが、自分たちの市場の使い方を自分たちで見出し、利用して

いるという点である。②は、この丸五市場が住宅としての顔と市場

としての顔の2つを持っている点、平常時とイベント時との対象

的な空間変容など、一義的に定義できない空間の性質によって成

り立っている点である。そして最後の③は、住宅と空地・更地の

割合や、店舗と空き店舗の分布、さらには、それぞれのプログラ

ムの種類の割合などが、バランスよく分布している点である。また、

これはアジア横丁ナイト屋台の平面計画にも見られる点でもあり、

この図と地のバランスが、ナイト屋台を成り立たせている1つの

大きな要因であると言えるのである。もちろん、丸五市場を取り

巻く長田という場所の性質、住民同士のコミュニティ、多様な食

文化といった要素が、その根底にあることは言うまでもない。