2010年度数学ia演習第13 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jpnkiyono/2010/hira10-13.pdf ·...
TRANSCRIPT
2010年度数学 IA演習第 13回理 I 34, 35, 36, 37, 38, 39組
1月 25日 清野和彦
問題 1. 以下の冪級数の収束半径を求めよ。ただし a, b は正の定数とする。
(1)∞∑
n=0
1(n + 1)(n + 2)
xn (2)∞∑
n=2
1log n
xn (3)∞∑
n=0
(√n + 1 −
√n)xn
(4)∞∑
n=0
12n + 1
(2n + 1)!!(2n)!!
xn (5)∞∑
n=0
√1
n2 − n + 1xn (6)
∞∑n=0
(n + 1)n
n!xn
(7)∞∑
n=1
n!(a + 1)(a + 2) · · · (a + n)
xn (8)∞∑
n=0
(n∑
k=0
akbn−k
)xn (9)
∞∑n=0
an2xn
(10)∞∑
n=0
(n!)2
(2n)!x2n (11)
∞∑n=0
xn2(12)
∞∑n=0
(3 + (−1)n)nxn
問題 2. f(x) =∞∑
n=0
anxn のとき、次の冪級数を f を使って表せ。
(1)∞∑
n=0
a2nx2n (2)∞∑
n=0
(an − an+1)xn (3)∞∑
n=0
n2anxn
問題 3. 任意の多項式は R 上任意の実数を中心にテイラー展開可能であることを示せ。
問題 4. 関数 f を
f(x) =x
x2 − 3x + 2
とする。f が D 上 0においてテイラー展開可能であるような実数の集合 D で、包含関係につい
て最大のものを求めよ。つまり、
D に属する任意の x について、f の 0におけるテイラー級数は f(x) に収束するが、D に属さない x については f の 0におけるテイラー級数は f(x) に収束しない
という性質を持つ D を求めよ。
問題 5. x < −1 および x ≥ 1 において
x − x2 log(
1 +1x
)=
∞∑n=0
an
xn
が成り立つ数列 {an}∞n=0 を求めよ。
問題 6. −π2 < θ < π
2 に対し次の式が成り立つように係数 an, bn を定めよ。
(1) tan θ =∞∑
n=0
an sinn θ (2) θ =∞∑
n=0
bn sinn θ
問題 7. 実数全体でテイラー展開可能な関数 f(x) で、条件
f ′′(x) − 3f ′(x) + 2f(x) = 0 f(0) = 2 f ′(0) = 5
を満たすものを求めよ。
問題 8. 次の広義積分が収束することを示し、値を計算せよ。
(1)∫ ∞
1
1x√
x2 − 1dx (2)
∫ 1
−1
xArctanx√1 − x2
dx (3)∫ 3
0
1√|x(x − 2)|
dx
(4)∫ ∞
0
11 + x3
dx (5)∫ ∞
1
log x
xndx (n = 2, 3, . . .)
問題 9. a > 0 とし、
Ia =∫ 2
1
1(x2 − 1)a
dx
とする。Ia は積分範囲の下側において広義積分である。
(1) a < 1 では Ia は収束することを証明せよ。
(2) a ≥ 1 では Ia は発散することを証明せよ。
問題 10. b > 0 とし、
Jb =∫ ∞
1
1(x2 + 1)b
dx
とする。
(1) b > 12 では Jb は収束することを証明せよ。
(2) b ≤ 12 では Jb は発散することを証明せよ。
問題 11. 次の広義積分が収束するか発散するか判定せよ。(値は求めなくてよい。)
(1)∫ ∞
1
sin1x
dx (2)∫ ∞
1
sin1x2
dx (3)∫ ∞
0
1 − cos x
x2dx (4)
∫ ∞
2
1log x
dx
問題 12. 次の広義積分が収束することを示し、値を求めよ。
(1)∫ ∞
0
e−ax sin bxdx (a > 0, b > 0) (2)∫ π
2
0
log(sinx)dx
2010年度数学 IA演習第 13回解答理 I 34, 35, 36, 37, 38, 39組
1月 25日 清野和彦
目 次
1 冪級数の収束 2
1.1 冪級数とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.2 収束半径 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.3 収束半径の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
2 冪級数と微積分 7
2.1 項別微積分を冪級数に適用すると . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72.2 問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
3 テイラー展開 9
3.1 テイラー級数とテイラー展開の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 93.2 テイラー展開可能であることを示すには . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 103.3 よく知られた関数のテイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
3.3.1 多項式:問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 113.3.2 有理関数:問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123.3.3 初等関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
3.4 冪級数で与えられた関数のテイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153.5 問題 5の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153.6 問題 6の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153.7 テイラー展開の項別微積分の応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.7.1 問題 7の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
4 広義積分とは:積分範囲の極限 18
4.1 なぜこんな当たり前っぽいものにわざわざ「広義積分」なんていう名前が付いてい
るのか . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 184.2 広義積分の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 194.3 問題 8の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
5 広義積分可能性の判定法 24
5.1 コーシーの判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 245.2 広義積分における「絶対収束」 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 265.3 絶対収束の判定法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 285.4 問題 9の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 305.5 問題 10の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 315.6 問題 11の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 325.7 問題 12の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
第 13 回解答 2
1 冪級数の収束
1.1 冪級数とは
実数列 {an}∞n=0 と実数 a に対し、x を変数とする関数項級数
∞∑n=0
an(x − a)n
を a を中心とする冪級数と言います。いろいろある関数項級数の中で特に冪級数だけをよく調べる
理由は、テイラー展開を通じて一般の関数の世界と密接につながっているからにほかなりません。
なお、たとえ数列 {an}∞n=0 が同じでも中心 a が違えば別な関数列になりますが、変数 x を a
だけ「平行移動」すれば一致しますから、以降では a = 0 の場合、すなわち
∞∑n=0
anxn
という冪級数だけを考えます。もちろん、結論はすべて x を x − a に置き換えることで a を中心
とした一般の冪級数でも成り立つことは言うまでもありません。
1.2 収束半径
すべての an が同じ値 (= a0)ならば、冪級数は初項 a0 公比 x の等比級数に過ぎません。この
場合はよくご存知のように |x| < 1 で絶対収束、|x| ≥ 1 で発散です。{an}∞n=0 が一般の数列の場
合でも次の定理が成り立ちます。� �定理 1. 冪級数
∑∞n=0 anxn に対し、
|x| < R を満たす任意の x で絶対収束し、|x| > R を満たす任意の x で発散する
という性質を持つ 0以上の実数 R が存在する。ただし、R = ∞ も許して考える。(つまり、
任意の x について冪級数が絶対収束する場合もあるということ。)� �� �定義 1. 定理 1の R のことを冪級数
∑∞n=0 anxn の収束半径と言う。� �
なぜ収束「半径」と呼ばれるのか、その理由は変数を複素数まで広げて考えるとわかります。し
かし、それは一年生で学ぶべき範囲を逸脱しているので、このプリントでは説明しないことにし
ます。
なお、等比級数の場合と違って |x| = R のところでの収束発散については様々なことが起こり得
ます。実際、「x = R でも x = −R でも収束しない」「x = R では収束するが x = −R では収束し
ない(およびその逆)」「x = R でも x = −R でも収束する(つまり |x| = R でも絶対収束)」の
すべての例があります。このように |x| = R での現象を調べることは |x| ̸= R での現象に比べて
かなり難しくなります。
第 13 回解答 3
1.3 収束半径の計算
定理 1は収束半径の存在についての抽象的な定理なので、具体的に与えられた数列 {an}∞n=0 か
ら収束半径 R の値を導く方法は教えてくれません。しかし、冪級数は x を固定するごとに「等比
級数に毛が生えたようなもの」ができるというものなのですから、無限級数の絶対収束を判定する
「ダランベールの判定法」や「コーシーの判定法」と相性が良いはずです。なぜなら、どちらの判
定法も「等比級数と比較する」という判定法だからです。
まず、すべての an が 0でないとしてダランベールの判定法を適用してみましょう。すると、
|an+1xn+1|
|anxn|すなわち
|an+1||an|
|x| の極限が存在するとき、それが 1より小さければ絶対
収束し、1より大きければ発散する
となります。|x| は n に依りませんので、この極限が存在して 1より大きいとか小さいとかいうことは
limn→∞
|an||an+1|
が存在するとき、その値より |x| が小さいとき絶対収束し、|x| が大きい
とき発散する
と言い換えられます。すなわち、� �定理 2. lim
n→∞
|an||an+1|
が(∞ も含めて)存在するならば、その極限値が収束半径である。� �ということになります。これをダランベールの公式と呼ぶことにします。
同様にコーシーの判定法も使ってみましょう。特に、上極限を使ったコーシーの判定法なら必ず
存在するのですから、収束半径の定義と同値になります。すなわち、
n√
|anxn| = n√|an||x| の上極限が 1より小さければ絶対収束し、1より大きければ(∞
でもよい)発散する
ですから、� �定理 3.
1
lim supn→∞
n√|an|
が収束半径である。
� �となっているのです。これをコーシー・アダマールの公式といいます。
これで、係数列 {an}∞n=0 から冪級数の収束半径を計算する公式が二つ得られました。しかし、
理論上とりあえず公式にしただけであって、実際にこの公式を適用して収束半径を計算するのは得
策とは限りません。具体的には、問題 1の (11)や (12)の別解を見てください。
問題 1の解答
(1) ダランベールの公式を使うと、
limn→∞
∣∣∣∣∣1
(n+1)(n+2)
1(n+2)(n+3)
∣∣∣∣∣ = limn→∞
n + 3n + 1
= 1
第 13 回解答 4
となります。よって、収束半径は 1です。 □
(2) これもダランベールの公式を使いましょう。
limn→∞
∣∣∣∣∣1
log n1
log(n+1)
∣∣∣∣∣ = limn→∞
log(n + 1)log n
= limn→∞
log(1 + 1n ) + log n
log n= 1
ですので、収束半径は 1です。 □
(3) これもダランベールの公式が使えます。
limn→∞
∣∣∣∣ √n + 1 −
√n√
n + 2 −√
n + 1
∣∣∣∣ = limn→∞
( √n + 1 −
√n√
n + 2 −√
n + 1×(√
n + 2 +√
n + 1) (√
n + 1 +√
n)(√
n + 2 +√
n + 1) (√
n + 1 +√
n))
= limn→∞
√n + 2 +
√n + 1√
n + 1 +√
n= lim
n→∞
√1 + 2
n +√
1 + 1n√
1 + 1n + 1
= 1
となりますので、収束半径は 1です。 □
(4) これもダランベールの公式が使えます。
limn→∞
∣∣∣∣∣∣1
2n+1(2n+1)!!(2n)!!
12n+3
(2n+3)!!(2n+2)!!
∣∣∣∣∣∣ = limn→∞
2n + 22n + 1
= 1
ですので、収束半径はやはり 1です。 □
注意. なお、これは (1 − x)−12 の二項展開です。★
(5) これまたダランベールの公式が適用できます。
limn→∞
∣∣∣∣∣∣√
1n2−n+1√
1(n+1)2−(n+1)+1
∣∣∣∣∣∣ = limn→∞
√n2 + n + 1√n2 − n + 1
= limn→∞
√1 + 1
n + 1n2√
1 − 1n + 1
n2
= 1
となって、収束半径は 1です。 □
(6) これまたダランベールでいけます。
limn→∞
∣∣∣∣∣∣(n+1)n
n!(n+2)n+1
(n+1)!
∣∣∣∣∣∣ = limn→∞
(n + 1)n+1
(n + 2)n+1= lim
n→∞
1(1 + 1
n+1
)n+1 =1e
となります。よって、収束半径は 1e です。 □
(7) ダランベールです。
limn→∞
∣∣∣∣∣∣n!
(a+1)(a+2)···(a+n)
(n+1)!(a+1)(a+2)···(a+n)(a+n+1)
∣∣∣∣∣∣ = limn→∞
a + n + 1n + 1
= 1
となりますので、収束半径は 1です。 □
第 13 回解答 5
(8) まず、括弧の中の和を計算しましょう。n∑
k=0
akbn−k = bnn∑
k=0
(a
b
)k
と変形できます。これは初項 bn 公比 ab の等比級数です。よって
n∑k=0
akbn−k =
bn+1 − an+1
b − aa ̸= b
(n + 1)an a = b
となります。
a ̸= b のときにダランベールの公式を適用すると、
limn→∞
∣∣∣∣∣ bn+1−an+1
b−a
bn+2−an+2
b−a
∣∣∣∣∣ = limn→∞
∣∣bn+1 − an+1∣∣
|bn+2 − an+2|
となります。問題の無限級数は a と b に関して対称なので a > b としても一般性を失いません。
その上で分母分子を an+2 で割りましょう。すると、
= limn→∞
1a
∣∣∣( ba
)n+1 − 1∣∣∣∣∣∣( b
a
)n+2 − 1∣∣∣ =
1a
となります。よって、収束半径は 1a です。
a = b のときもダランベールの公式を使いましょう。
limn→∞
∣∣∣∣ (n + 1)an
(n + 2)an+1
∣∣∣∣ = limn→∞
n + 1n + 2
1a
=1a
ですので、収束半径は 1a です。
以上より、a ≥ b として、問題の無限級数の収束半径は 1a となります。 □
(9) コーシー・アダマールの公式が使えます。極限がある場合、上極限は極限と一致するので、ま
ずは極限で考えてみましょう。an2= (an)n ですので
limn→∞
n
√∣∣an2∣∣ = lim
n→∞an =
0 a < 11 a = 1∞ a > 1
です。よって収束半径は
∞ (a < 1), 1 (a = 1), 0 (a > 1)
となります。 □
(10) これは係数 an が一つおきに 0なので、ダランベールの公式が使えません。コーシー・アダマールの公式なら使えますが、それよりも、y = x2 と置いて y の冪級数としてダランベールの公
式を使う方が簡単でしょう。
limn→∞
∣∣∣∣∣∣(n!)2
(2n)!
((n+1)!)2
(2(n+1))!
∣∣∣∣∣∣ = limn→∞
2(2n + 1)n + 1
= 4
第 13 回解答 6
ですので、y の冪級数としての収束半径は 4です。y = x2 とおいていたことから、x の冪級数と
しての収束半径は√
4 = 2 であることになります。 □
(11) これにはダランベールの公式は使えませんが、コーシー・アダマールの公式が簡単に適用で
きます。xn の係数は
1, 1, 0, 0, 1, 0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, . . .
となっていますので、n 乗根の上極限は 1です。よって、収束半径はその逆数である 1です。 □
(11)別解 ダランベールの公式の証明のように、各 x について直接ダランベールの判定法を適用し
て収束半径を得ることもできます。
limn→∞
∣∣∣∣∣x(n+1)2
xn2
∣∣∣∣∣ = limn→∞
∣∣∣x(n+1)2−n2∣∣∣ = lim
n→∞|x|2n+1 =
0 |x| < 11 |x| = 1∞ |x| > 1
となっています。よって、問題の無限級数は |x| < 1 では収束し |x| > 1 では発散します。すなわち、収束半径は 1です。 □
(12) これもダランベールの公式はうまく行きませんが、コーシー・アダマールの公式で求められ
ます。
xn の係数の列は
40, 21, 42, 23, 44, 25, . . . , 42m, 22m+1, . . .
なので、その n 乗根の列は
4, 2, 4, 2, 4, 2, . . . , 4, 2, . . .
です。この列の上極限は 4なので、収束半径はその逆数である 14 です。 □
(12)別解 問題の無限級数は
40x0 + 21x1 + 42x2 + 23x3 + · · · + 42nx2n + 22n+1x2n+1 + · · ·
です。これを、二つの無限級数
∞∑n=0
(4x)2n と∞∑
n=0
(2x)2n+1
に分解して考えてみましょう。
(4x)2n = (16x2)n なので、∑∞
n=0(4x)2n は初項 1、公比 16x2 の等比級数です。よって、16x2 < 1で収束し 16x2 ≥ 1 で発散します。x に関する条件に書きなおすと、
|x| <14で収束し、|x| ≥ 1
4で発散する
となります。
同様に、(2x)2n+1 = 2x(4x2)n ですので、∑∞
n=0(2x)2n+1 は初項 2x、公比 4x2 の等比級数です。
よって、
第 13 回解答 7
|x| <12で収束し、|x| ≥ 1
2で発散する
となります。
問題の無限級数はこの二つの無限級数の和ですから、両方とも収束する範囲では収束します。よっ
て、求める収束半径を R とすると、R ≥ 14 であることが分かります。
一方、収束する級数と収束しない級数の和は収束しません。(もしそれが収束してしまったら、
収束しない級数が二つの収束する級数の差になってしまうので矛盾です。)よって、問題の無限級
数は 14 ≤ |x| < 1
2 では収束しません。
収束半径が R であるとき、|x| < R を満たす任意の x で収束するのですから、 14 ≤ |x| < 1
2 で
収束しない以上 R ≤ 14 でなければなりません。
以上の二つを合わせて、R = 14 であることが分かります。 □
2 冪級数と微積分
2.1 項別微積分を冪級数に適用すると
ワイエルシュトラスの M テストで分かるように、冪級数は収束域において広義一様収束してい
ます。だから、項別微積分定理を適用できます。しかし、その前に収束半径と項別微積分の間の関
係を思い出しておきましょう。� �定理 4. 冪級数
∑∞n=0 anxn の収束半径が R ならば、項別に微分して得られる冪級数∑∞
n=1 nanxn−1 も項別に積分して得られる冪級数∑∞
n=0an
n+1xn+1 も収束半径は R である。� �これは n → ∞ のとき n
√n → 1 であることとコーシー・アダマールの公式から分かります。
冪級数についての項別微積分定理は次のようになります。� �定理 5 (項別積分定理). R を正または無限大とする。R を収束半径とする冪級数
∑∞n=0 anxn
によって定義される (−R, R) 上の関数 f(x) に対し、その不定積分は∫f(x)dx =
∞∑n=0
an
n + 1xn+1 + C C ∈ R
で与えられる。� �� �定理 6 (項別微分定理). R を正または無限大とする。R を収束半径とする冪級数
∑∞n=0 anxn
によって定義される (−R, R) 上の関数 f(x) は C1 級であり、その導関数は
f ′(x) =∞∑
n=1
nanxn−1
で与えられる。� �要するに、(−R, R) において∫ ( ∞∑
n=0
anxn
)dx =
∞∑n=0
an
∫xndx
( ∞∑n=0
anxndx
)′
=∞∑
n=0
an (xn)′
第 13 回解答 8
が成り立つということです。
2.2 問題 2の解答
(1) 問題の冪級数は∞∑
n=0
a2nx2n =∞∑
m=0
am + (−1)mam
2xm
と書き換えられます。さらに、右辺は二つの冪級数の和に分解でき、
=12
∞∑m=0
amxm +12
∞∑m=0
am(−x)m =f(x) + f(−x)
2
となります。 □
(2) 問題の冪級数は∞∑
n=0
(an − an+1)xn =∞∑
n=0
anxn −∞∑
n=0
an+1xn
と二つの冪級数に分解できます。右辺の第 1項は f(x) そのものです。第 2項は、全体に x を掛け
ることにより、∞∑
n=0
an+1xn =
1x
∞∑n=0
an+1xn+1 =
1x
∞∑m=1
amxm =f(x) − a0
x
となります。(ただし、x = 0 のときは a1 です。)よって、∞∑
n=0
(an − an+1)xn = f(x) − f(x) − a0
x=
(x − 1)f(x) + f(0)x
です。ただし x = 0 では f(0) − f ′(0) で、これは
limx→0
(x − 1)f(x) + f(0)x
= f(0) − f ′(0)
となっています。 □
(3) f(x) を微分すると、項別微分定理により、
f ′(x) =∞∑
n=1
nanxn−1
となります。よって、
xf ′(x) =∞∑
n=1
nanxn
です。これを微分すると、また項別微分定理により、
(xf ′(x))′ =∞∑
n=1
n2anxn−1
となります。よって、
x(xf ′(x))′ =∞∑
n=1
n2anxn
第 13 回解答 9
です。n = 0 のとき n2anxn = 0 ですので、結局、∞∑
n=0
n2anxn = x(xf ′(x))′ = xf ′(x) + x2f ′′(x)
となります。 □
3 テイラー展開
ここでは、第 4回で予告した「n 次のテイラー展開(テイラー近似多項式)で n を大きくして行
くとどうなるか」を説明します。第 4回をざっと復習してから読んでいただくとよいと思います。なお、テイラー展開関連の用語は使う人によってさまざまですので、ここでは講義にあわせるこ
とはせずに私が普段使っている言葉遣いをします。講義や参考書とあわせて読む場合には用語のズ
レに気を付けてください。
3.1 テイラー級数とテイラー展開の定義
関数 f(x) が何回でも微分できる関数、すなわち C∞ 級関数だった場合、好きなだけ次数の高
いテイラー近似多項式を考えることができます。「何次まででも考えられる」という状況に対して
は「n 次近似を考えておいて n → ∞ を考える」というのが、「極限」を扱う手段を手に入れてい
る我々にとってもっとも自然でしょう。m < n なら m 次近似多項式は n 次近似多項式の m 次以
下の部分です。だから、C∞ 級関数に対しては次のようなものを考えたくなります。� �定義 2 (テイラー級数の定義). a を含む区間で定義された C∞ 級関数 f(x) に対し、冪級数
∞∑n=0
f (n)(a)n!
(x − a)n = f(a) + f ′(a)(x − a) +f ′′(a)
2(x − a) + · · · + f (n)(a)
n!(x − a)n + · · ·
のことを、a を中心とした f(x) のテイラー級数と言う。� �テイラー級数は冪級数ですので、収束半径が 0でなければ収束域で何らかの関数に収束します。しかし、その関数が元の関数 f(x) であるとは限りません。そこで、次の言葉を用意しましょう。� �定義 3 (テイラー展開可能性の定義). f(x) の a を中心としたテイラー級数が a を含むある
開区間で収束して極限が f(x) に一致するとき、f(x) は x = a のまわりでテイラー展開可能
であるという。特に、定義域内の任意の点のまわりでテイラー展開可能なとき、f(x) はテイラー展開可能である、または実解析的関数であるという。� �
そして、� �定義 4 (テイラー展開). f(x) が x = a でテイラー展開可能なとき、f(x) の x = a における
テイラー級数のことをテイラー展開と呼ぶ。� �と定義します1。
1はっきり使い分けている人はあまりいないようです。収束しないテイラー級数のこともテイラー展開と呼んでしまっている人が沢山います。それどころか、テイラー近似多項式のことまでテイラー展開と呼ぶ人もいます。(皆さんの講義もそうだったように記憶しています。)本を読むときなどは、その本ではどう定義しているかキチンと確認して読むようにしてください。
第 13 回解答 10
3.2 テイラー展開可能であることを示すには
「関数 f(x) が x = a のまわりでテイラー展開可能である」かどうかはどうやったら判定でき
るでしょうか。後で紹介するようにテイラー展開可能でない関数が本当に存在するので、個別に
示す以外にありません。結局、数列や級数の収束を示す普通の問題と同様、処方箋はないのです。
ただ、「数列の収束を示す普通の問題」に比べてテイラー展開可能であることを示す問題、つまり
「テイラー級数という数列(たち)の収束を示す問題」は皆さんを混乱させる要因が多いようです
ので、この節で「結局何を示せばよいのか」をはっきりさせておきましょう。
無限級数∑∞
n=0 an が S に収束するとは、部分和の作る数列
a0, a0 + a1, a0 + a1 + a2, . . . ,
n∑k=0
ak, · · ·
が S に収束することでした。第 n 項までの部分和を Sn と書くことにしましょう。すると、無限
級数∑∞
n=0 an が S に収束するとは
limn→∞
Sn = S
が成り立つこととなります。それでは、数列 Sn が S に収束するとはどういうことだったでしょ
うか、それは「Sn が S にいくらでも近づく」、つまり、
limn→∞
|S − Sn| = 0
です。
単なる言い換えをやっているに過ぎないじゃないかと思われるでしょう。全くそのとおりなので
すが、この言い換えをテイラー級数に適用すると「意味のある言い換え」になっていることがわか
ります。上の無限級数∑∞
n=0 an として、関数 f(x) の a を中心としたテイラー級数に x = b を代
入したものをとってみましょう。問題はこの無限級数が f(b) に収束するかどうかです。記号が面倒なので、f(x) の x = a を中心とした n 次のテイラー近似多項式を pn(x) とします。
pn(x) = f(a) + f ′(a)(x − a) +f ′′(a)
2(x − a)2 + · · · + f (n)(a)
n!(x − a)n
です。テイラー級数に x = b を代入したものの第 n 項までの部分和は pn(b) になります。前段落の Sn に当たるものが pn(b) です。よって、示したいこと、すなわち
∞∑n=0
f (n)(a)n!
(b − a)n = f(b)
を上の言いかえに沿って言い換えると、
limn→∞
|f(b) − pn(b)| = 0
となります。ここまでならやっぱり単なる言い換えです。それならなぜこの言い換えをありがた
がっているかというと、
f(b) − pn(b)(= Rn+1(b)) がどんなものであるか、結構詳しく分かる
からです。具体的には、
• 積分表示
fn(b) − pn(b) =∫ b
a
(b − x)n
n!f (n+1)(x)dx
第 13 回解答 11
• ラグランジュ表示 a と b の間に
fn(b) − pn(b) =f (n+1)(c)(n + 1)!
(b − a)n+1
となる c がある。
• コーシー表示 a と b の間に
fn(b) − pn(b) =f (n+1)(c)
n!(b − a)(b − c)n
となる c がある。
などがあります。
重要なポイントは次の点です。上述した普通の級数の問題の場合、0に収束することを示すべきS − Sn は
S − a0 − a1 − a2 − · · · − an
という n + 2 個の数の和ですから、もちろん n → ∞ としたら足すもの(引くもの)がじゃんじゃん増えてしまってそのままではどうにもなりません。にもかかわらず、例えば等比級数の和が計
算できるのは、この n を増やすと増えてしまう数の和を n を増やしても増えない形、具体的には
an = rn のとき S = 1/(1 − r) として、
S − a0 − a1 − · · · − an =rn+1
1 − r
という形に変形できるからです。テイラー級数の場合も、f(b)− pn(b) は n + 2 個の数の和ですからこのままではどうにもなりません。上にあげた三つの「表示」は、この「どうにもならないや
つ」をたった一つの式に直してくれるスグレモノで、これによって f(b) − pn(b) が 0に収束するかどうかを調べられる可能性がでてくるというわけです。
以上、結論としては
f(x) が a のまわりでテイラー展開可能かどうかを調べるには、剰余項 Rn+1(x) =f(x)− pn(x) をうまく一つの式で表示して、a の近くで Rn+1(x) → 0 となっているかどうかを調べる
というのが、具体的に与えられた f(x) のテイラー展開可能性を調べる方針です。剰余項 Rn+1(x)をどう表示するかは f(x) に応じて選ぶしかありません。場合によっては上の三つの一般的な表示以外のもっと便利な表示が得られる場合もあり得ます。
3.3 よく知られた関数のテイラー展開
3.3.1 多項式:問題 3の解答
最も簡単な例は多項式です。大変ばからしいのですが、やはり一度はキチンと確認しておくべき
ことなので、問題として出題しました。
第 13 回解答 12
解答. f(x) を n0 次多項式とします。n ≥ n0 を満たす任意の整数 n を取り、pn(x) を x = a を中
心とした n 次のテイラー近似多項式としましょう。すると、f(x) も pn(x) も n 次以下の多項式
なので Rn+1(x) = f(x) − pn(x) も n 次以下の多項式です。一方、Rn+1(x) は
limx→a
Rn+1(x)(x − a)n
= 0
を満たします。ところがこの性質を満たす n 次以下の多項式は 0しかありません。よって、任意の x に対して
limn→∞
(f(x) − pn(x)) = limn→∞
Rn+1(x) = limn→∞
0 = 0
となり、f(x) の任意の点 a のまわりでのテイラー級数は任意の x について f(x) に収束します。(というか n ≥ n0 では f(x) に一致するというわけです。) □
テイラー展開可能であることの定義に従って証明しましたが、もちろん、多項式の a を中心と
したテイラー級数とはその多項式を x − a について整理することだ、ということに過ぎません。
3.3.2 有理関数:問題 4の解答
次に、有理関数のテイラー展開を考えてみましょう。(有理関数とは多項式分の多項式のことで
した。)定義域は分母の多項式が 0とならない実数全体です。有理関数も定義域内の任意の実数を中心にテイラー展開可能ですが、テイラー級数が元の関数に戻る実数の範囲は中心に選んだ実数に
よって変わります。ここでは、一つの例(問題 4)で有理関数がテイラー展開可能であることを見てもらうだけにします。
解答. f(x) を部分分数分解すると、
f(x) =x
(1 − x)(2 − x)=
11 − x
− 22 − x
となります。
1 − xn+1 = (1 − x)(1 + x + x2 + · · · + xn)
であることから、1
1 − x= 1 + x + x2 + · · · + xn +
xn+1
1 − x
となります。
limx→0
11−x − 1 − x − · · · − xn
xn= lim
x→0
x
1 − x= 0
となることから、これは 1/(1 − x) の 0における n 次のテイラー近似多項式と剰余項への分解に
なっていることが分かります。また、
22 − x
=1
1 − x2
となっていますので、
22 − x
= 1 +x
2+(x
2
)2
+(x
2
)3
+ · · · +(x
n
)n
+(x/2)n+1
1 − x/2
第 13 回解答 13
が n 次のテイラー近似多項式と剰余項への分解になっています。以上より、
f(x) = (1 − 1) +(
1 − 12
)x +
(1 − 1
22
)x2 +
(1 − 1
23
)x3
+ · · · +(
1 − 12n
)xn +
xn+1
1 − x− (x/2)n+1
1 − x/2
=12x +
34x2 +
78x3 + · · · + 2n − 1
2nxn +
(xn+1
1 − x− (x/2)n+1
1 − x/2
)が f(x) の 0における n 次のテイラー近似多項式と剰余項です。
剰余項を整理すると、
xn
1 − x−(
x2
)n1 − x
2
= xn
(1
1 − x− 1
2n−1(2 − x)
)となります。これは |x| < 1 では 0に収束し、それ以外では 0に収束しません。よって、求める D
は |x| < 1 を満たす x 全体のなす集合です。 □
3.3.3 初等関数
多項式や有理関数に限らず、初等関数はすべてテイラー展開可能です。時間とページ数の都合
で、証明は省略して結果だけ羅列します。証明は講義ノートや教科書で確認してください。
指数関数
ex は実数全体で 0を中心にテイラー展開可能で、
ex =∞∑
n=0
xn
n!∀x ∈ R
となっています。ex = eaex−a および cx = ex log c (c > 0) なので、すべての cx は実数全体で任意
の点の周りでテイラー展開可能であり、それは ex の 0におけるテイラー展開から計算できます。
三角関数
sin x と cos x も実数全体で 0を中心にテイラー展開可能で、
sinx =∞∑
n=0
(−1)n
(2n + 1)!x2n+1 cos x =
∞∑n=0
(−1)n
(2n)!x2n ∀x ∈ R
となっています。0以外を中心としたテイラー展開も可能で、それは加法定理を使って上の二つから計算できます。
tanx もテイラー展開可能ですが、係数が大変複雑でここに記すことは残念ながらできません。
対数関数
log(1 + x) は (−1, 1] において 0を中心にテイラー展開可能で、
log(1 + x) =∞∑
n=1
(−1)n−1
nxn − 1 < ∀x ≤ 1
となっています。(−1 < x < 1 でこれが成り立つことは、初項 1公比 −x の等比級数の和の公式
から
(log(1 + x))′ =1
1 + x= 1 − x + x2 − x3 + · · · =
∞∑n=0
(−x)n
第 13 回解答 14
が −1 < x < 1 において成り立つことから分かります。)
log(a + x) = log(1 +
x
a
)+ log a (a > 0) logc x =
log x
log c(c > 0)
であることから、任意の正実数を底とする対数関数も定義域内の任意の点を中心にテイラー展開
可能で、テイラー級数と収束する範囲は log(1 + x) の 0を中心としたテイラー展開から計算できます。
逆三角関数
Arctan x は [−1, 1] において 0を中心にテイラー展開可能で、
Arctanx =∞∑
n=0
(−1)n
2n + 1x2n+1 − 1 ≤ ∀x ≤ 1
となっています。(−1 < x < 1 においてこれが成り立つことは、初項 1公比 −x2 の等比級数の和
の公式
(Arctanx)′ =1
1 + x2= 1 − x2 + x4 − x6 + · · · =
∞∑n=0
(−x2)n
が −1 < x < 1 で成り立つことから分かります。)Arcsin x は (−1, 1) において 0を中心にテイラー展開可能で、
Arcsinx =∞∑
n=0
(2n + 1)!!(2n + 1)2(2n)!!
x2n+1 − 1 < ∀x < 1
が成り立っています。ただし、
(2n)!! = 2n(2n − 2) · · · 4 · 2 = 2nn! (2n + 1)!! = (2n + 1)(2n − 1) · · · 3 · 1 =(2n + 1)!
2nn!
です。なお、この展開は
(Arcsinx)′ =1√
1 − x2=(1 − x2
)− 12
であることと次に例に挙げる二項展開を適用すれば得られます。
Arccos x = π2 − Arcsinx なので、Arccos x もテイラー展開可能であることとそのテイラー展開
は Arcsin x がテイラー展開可能であることとそのテイラー展開から得られます。
二項展開
r を実定数として (1 + x)r という関数は (−1, 1) において 0を中心にテイラー展開可能で、
(1 + x)r =∞∑
n=0
(r
n
)xn − 1 < ∀x < 1
となっています。これを二項展開といいます。ただし、xn の係数は(r
n
)=
r(r − 1)(r − 2) · · · (r − n + 1)n!
と定義され、二項係数と呼ばれます。r が自然数のときは「r 個から n 個を選ぶ組み合わせの数」
と一致しています。
第 13 回解答 15
3.4 冪級数で与えられた関数のテイラー展開
関数 f(x) が収束半径 R(> 0) の冪級数によって
f(x) =∞∑
n=0
an(x − a)n
で与えられているとき、f(x) は (−R, R) において a を中心にテイラー展開可能で、元の冪級数が
テイラー展開になっています。すなわち、f (n)(a) = n!an が成り立っています。このことは「テイ
ラー展開の一意性」から分かります。詳しくは第 4回のプリントを参照してください。
3.5 問題 5の解答
−1 < X ≤ 1 の範囲で
log(1 + X) = X − X2
2+
X3
3− X4
4+ · · · + (−1)n−1 Xn
n+ · · ·
が成り立ちます。これに X = 1/x を代入することにより、x < −1 および 1 ≤ x において
log(
1 +1x
)=
1x− 1
2x2+
13x3
− 14x4
+ · · · + (−1)n−1
nxn+ · · ·
が成り立つことになります。よって、同じ範囲において
x − x2 log(
1 +1x
)= x − x2
x+
x2
2x2− x2
3x3+
x2
4x4− · · · − (−1)n−1x2
nxn− · · ·
=12− 1
3x+
14x2
− · · · + (−1)n
(n + 2)xn+ · · ·
となります。つまり、
an =(−1)n
n + 2
です。 □
3.6 問題 6の解答
(1) x = sin θ と置きましょう。−π2 < θ < π
2 ですので、θ = Arcsinx となります。また、この θ
の範囲では cos θ > 0 ですので、
tan θ =sin θ
cos θ=
sin θ√1 − sin2 θ
です。よって、
tan(Arcsinx) =x√
1 − x2
となります。これにより、問題の式は
x√1 − x2
=∞∑
n=0
anxn
第 13 回解答 16
となります。すなわち、右辺は左辺の関数の 0におけるテイラー展開です。左辺の関数は (1+y)−12
に y = −x2 を代入したあと x を掛けたものですので、(1 + y)−12 の 0におけるテイラー展開が分
かればよいことになります。そして、それは二項展開であることが分かっています。すなわち、
(1 + y)−12 =
∞∑n=0
(− 1
2
n
)yn
です。今 y = −x2 かつ x = Arcsin θ であり −π2 < θ < π
2 ですので、|y| < 1 が満たされておりこの等号は成立します。また、二項係数は n = 0 のときは 1で、n ≥ 1 では(
− 12
n
)=
(−12 )(−1
2 − 1) · · · (−12 − n + 1)
n!= (−1)n 1 · 3 · · · (2n − 1)
2nn!= (−1)n (2n − 1)!!
(2n)!!
です。従って、
x√1 − x2
= x
(1 +
∞∑n=1
(−1)n (2n − 1)!!(2n)!!
(−x2)n
)= x +
∞∑n=1
(2n − 1)!!(2n)!!
x2n+1
となります。よって、求める an は、
a2l = 0 (l = 0, 1, 2, . . .), a1 = 1, a2m+1 =(2m − 1)!!
(2m)!!(m = 1, 2, 3, . . .)
です。 □
(2) これも x = sin θ と置くことで、
Arcsinx =∞∑
n=0
bnxn
となります。
Arcsin x =∞∑
m=0
(2m + 1)!!(2m + 1)2(2m)!!
x2m+1 = x +∞∑
m=1
(2m − 1)!!(2m + 1)(2m)!!
x2m+1
ですので、
b0 = Arcsin 0 = 0, b2m = 0,
b1 = Arcsin′0 = 1, b2m+1 =1
2m + 1(2m − 1)!!
(2m)!!(m = 1, 2, 3, . . .)
となります。 □
3.7 テイラー展開の項別微積分の応用
テイラー展開が項別微積分可能であることの応用として、簡単な微分方程式を解いてみましょ
う。ただし、テイラー展開を使った微分方程式の解法の一般論は 2年生の数理科学 IIで学ぶ内容です。ここではテイラー展開の項別微分を利用する例としてお見するだけで、今すぐこのようにし
て微分方程式を解けるようになって欲しいという意味ではありません。ご安心ください。
なお、途中で三項間漸化式を解きますが、その解き方の一般論(どうやって bn と cn を見つけ
るのか)には触れませんでした。それについては数学 IIで学んでください。
第 13 回解答 17
3.7.1 問題 7の解答
見た目がごちゃごちゃするのを防ぐために
a0 = f(0), an = f (n)(0) n = 1, 2, 3, . . .
とおきます。仮定より、任意の x で
f(x) =∞∑
n=0
an
n!xn
が成り立っています。
項別微分可能ですから
f(x) =∞∑
n=0
an
n!xn = a0 + a1x +
a2
2x2 +
a3
3!x3 + · · · (1)
の微分は
f ′(x) =∞∑
n=1
an
(n − 1)!xn−1 = a1 + a2x +
a3
2x2 +
a4
3!x3 + · · · (2)
となります。これをもう一度項別に微分すると、
f ′′(x) =∞∑
n=2
an
(n − 2)!xn−2 = a2 + a3x +
a4
2x2 +
a5
3!x3 + · · ·
が得られます。これを条件式
f ′′(x) − 3f ′(x) + 2f(x) = 0
に代入すると、∞∑
n=2
an
(n − 2)!xn−2 − 3
∞∑n=1
an
(n − 1)!xn−1 + 2
∞∑n=0
an
n!xn = 0
となります。これを xn について整理するために、左辺の第 1項では n − 2 を n と、第 2項ではn − 1 を n と改めて置き直すと、
∞∑n=0
an+2
n!xn − 3
∞∑n=0
an+1
n!xn + 2
∞∑n=0
an
n!xn =
∞∑n=0
an+2 − 3an+1 + 2an
n!xn = 0
となります。これが任意の x について成り立つ、つまり、両辺が関数として等しいというのが条
件なのですから、
an+2 − 3an+1 + 2an = 0
が任意の n について成り立てば十分です。(実際には「テイラー展開の一意性」により、十分なだ
けではなく必要でもあります。)
一方、もう一つの条件 f(0) = 2, f ′(0) = 5 を満たすために、(1)と (2)に x = 0 を代入すると、
f(0) = a0 = 2 f ′(0) = a1 = 5
であることが分かります。
以上より、求める関数は、0における n 次微分係数 f (n)(0) = an が三項間漸化式
an+2 − 3an+1 + 2an = 0 a0 = 2 a1 = 5
第 13 回解答 18
を満たす関数であることが分かりました。
この三項間漸化式を解きましょう。漸化式の両辺に an+1 − 2an を足すと
an+2 − 2an+1 = an+1 − 2an
となります。そこで、数列 {bn}∞n=0 を bn = an+1 − 2an で定義すると、{bn}∞n=0 は漸化式
bn+1 = bn b0 = a1 − 2a0 = 1
を満たす数列となります。すなわち、bn は n に依らずに常に 1です。一方、三項間漸化式の両辺に 2an+1 − 2an を足すと
an+2 − an+1 = 2an+1 − 2an = 2(an+1 − an)
となります。そこで、数列 {cn}∞n=0 を cn = an+1 − an で定義すると、{cn}∞n=0 は漸化式
cn+1 = 2cn c0 = a1 − a0 = 3
を満たす数列となります。これは初項が 3で公比が 2の等比数列、すなわち cn = 3 · 2n です。こ
れで、
an = (an+1 − an) − (an+1 − 2an) = cn − bn = 3 · 2n − 1
であることが分かりました。
これを f(x) の 0におけるテイラー展開に代入しましょう。すると、
f(x) =∞∑
n=0
an
n!xn =
∞∑n=0
3 · 2n − 1n!
xn = 3∞∑
n=0
1n!
(2x)n −∞∑
n=0
1n!
xn = 3e2x − ex
となります。これが求める関数です。 □
4 広義積分とは:積分範囲の極限
4.1 なぜこんな当たり前っぽいものにわざわざ「広義積分」なんていう名前が付いているのか
もしかすると高校のとき、例えば∫ π2
π4
1sin2 θ
dθ =∫ π
2
π4
cos2 θ
sin2 θ
dθ
cos2 θ=∫ π
2
π4
1tan2 θ
tan′ θdθ =∫ ∞
1
1x2
dx =[− 1
x
]∞1
= 1 (3)
なんていう計算を当たり前にやってきたかも知れません。この計算のうち置換する前の θ につい
ての積分の部分は普通の定積分なのですが、置換したあとの x についての積分は定積分ではない
のです。
何が問題なのかというと、冬学期のはじめに定義したリーマン積分は、有限区間上の有界な関数
に対してしか定義されていないということが問題なのです。
「そんな細かいこと気にすることないじゃん。(3)の計算に問題があるとはとても思えないし。」というのが自然な感想だと思いますが、定義していないものを使うわけにはいきません。そこをお
ろそかにしないことが数学の良心であり倫理なのですから。
第 13 回解答 19
それでは、リーマン和による定義を作り替えて、有界でない関数や有界でない積分区間にも適用
できるようにがんばってみようか、という元気な人もいるかも知れません。しかし、普通はそうは
考えないのではないでしょうか。そんな難しげなことをしなくても、もっと安直にいけるのではな
いだろうか、だって、(3)の計算っていかにも自然で指摘されなければまずいことがあることに気づきさえしなかったかも知れないし、という感じではないでしょうか。なぜそこまで (3)の計算を自然だと感じるのでしょうか? その理由を明らかにできれば、それを使って無限区間上の積分や有界でない関数の積分を上手く定義できるかも知れません。それが我々の広義積分です。
それでは節をかえて「自然な感じ」の源と、それを使った広義積分の定義を説明しましょう。
4.2 広義積分の定義
前節の最初にあげた (3)の計算において、θ を x に置換したあとの操作を詳しく書くと、
limR→+∞
∫ R
1
1x2
dx = limR→+∞
−1R
+ 1 = 1
というように積分区間について極限をとる操作をしていることがわかります。置換する前の定積分
ではそんなことをしていないのに、置換したあとの積分でそんな極限操作をしたら場合によっては
値が違ってしまうのではないだろうかと心配になってしまう人もいるかもしれません。つまり、
1 = limR→+∞
∫ R
1
1x2
dx = limR→+∞
∫ Arctan R
π4
1sin2 θ
dθ =∫ π
2
π4
1sin2 θ
dθ
という計算において、最後の等号が必ず成り立つのかどうかが気になるということです。
ところがそういうことは絶対になく、積分される関数がどのようなものであってもこの等号は成
り立ちます。前節で何度も言った「自然な感じ」の根拠がまさにこれです。そして、このことは不
定積分の連続性によって保証されています。� �定理 7. [a, b] で定義された関数 f が積分可能なら、f は [a, b] に含まれる任意の閉区間上で積分可能であって、
F (x) =∫ x
a
f(t)dt
とすると、F (x) は連続、特にlimx→b
F (x) = F (b) (4)
が成り立つ。� �というやつです。式 (4)があるので、直接
∫ b
af(x)dx が定義できなくても、左辺の極限 lim
x→bF (x)
が存在するときにはそれを「積分」として採用してしまえば置換積分ともうまく合うし自然でもあ
る、というわけです。
そこで、次のように定義します。
第 13 回解答 20
� �定義 5. b を実数または +∞ とする。[a, b) に含まれる任意の有界閉区間上で積分可能な関数f に対し、もし
limr→b−0
∫ r
a
f(x)dx
が存在するならば、f は [a, b) で2(広義)積分可能である、あるいは(広義)積分は収束す
るといい、誤解のおそれのないときには極限の記号を使わずに∫ b
a
f(x)dx
と書いてしまう。� �(a, b] で定義された関数についても同様に∫ b
a
f(x)dx = limr→a+0
∫ b
r
f(x)dx
と定義し、(a, b) で定義された関数については、任意の c ∈ (a, b) をとって∫ b
a
f(x)dx = limr→a+0
∫ c
r
f(x)dx + lims→b−0
∫ s
c
f(x)dx
と定義します。この場合注意しなければならないことは
limε→+0
∫ b−ε
a−ε
f(x)dx
のように、両端の極限の取り方を関連づけたときの極限が存在しても広義積分可能とは限らないこ
とです。例えば、
limR→+∞
∫ R
−R
xdx = limR→+∞
12(R2 − (−R)2
)= 0
ですが、もちろん
limR→+∞
∫ 0
−R
xdx + limS→+∞
∫ S
0
xdx
は確定しませんので広義積分可能ではありません。
面倒なので、以下では具体例を除いて [a, b), (b ∈ R または b = +∞)の場合しか書きませんが、(a, b], (a ∈ R または a = −∞)の場合にも対応することが成り立ちます。また、(a, b) の場合には a と b の間に任意に c をとって (a, c] と [c, b) に積分区間を分けて考えてください。例をやっておきましょう。当たり前みたいな例ですが、広義積分可能かどうかの一般的な判定方
法はこの関数との比較しかありません。
例 1. α を実数とする。
(1)1
(b − x)µが [a, b) で広義積分可能なための必要十分条件は µ < 1
(2)1xλが [1, +∞) で広義積分可能なための必要十分条件は λ > 1
2講義では、b が実数のとき [a, b) で定義された関数に関しては「[a, b] で(広義)積分可能」というように閉区間上を使って言い表したかもしれません。しかし、このプリントでは、[a,∞) の場合に合わせて [a, b) という半開区間を使うことにします。
第 13 回解答 21
である。
証明. (1)
∫ r
a
1(b − x)µ
dx =
1
1 − µ
(1
(b − a)µ−1− 1
(b − r)µ−1
)µ ̸= 1
log(b − a) − log(b − r) µ = 1
ですので、広義積分可能、つまり r → b で収束するための必要十分条件は µ < 1 です。(2)
∫ R
1
1xλ
dx =
1
1 − λ
(1
Rλ−1− 1)
λ ̸= 1
log R λ = 1
ですので、広義積分可能、つまり R → ∞ で収束するための必要十分条件は λ > 1 です。 □
4.3 問題 8の解答
すべて不定積分を計算できるものばかりです。ということは、例 1のように、値を計算することが同時に広義積分の収束を示すことにもなっています。なお、広義積分は定積分の極限ですので、
置換した変数を元に戻す必要はありません。高校で学んだ定積分の計算と同様に、勝手においたあ
なたの変数のまま計算すれば O.K. です。
(1) t = 1x と置換しましょう。∫ ∞
1
1x√
x2 − 1dx =
∫ 0
1
11t
√1t2 − 1
(− 1
t2
)dt =
∫ 1
0
1√1 − t2
dt
となります。ここで、さらに t = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 1
0
1√1 − t2
dt =∫ π
2
0
1√1 − sin2 θ
sin′ θdθ =∫ π
2
0
1cos θ
cos θdθ =∫ π
2
0
1dθ =π
2
となります。((Arcsin t)′ = 1√1−t2
を覚えているなら、もちろんそれを使って結構です。) □
(2) まず、(−√
1 − x2)′
= x√1−x2 であることを利用して部分積分しましょう。∫ 1
−1
x Arctanx√1 − x2
dx =∫ 1
−1
(d
dx
(−√
1 − x2))
Arctan xdx
=[−√
1 − x2 Arctanx]1−1
−∫ 1
−1
(−√
1 − x2) d
dxArctanxdx =
∫ 1
−1
√1 − x2
1 + x2dx
となります。ここで、x = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 1
−1
√1 − x2
1 + x2dx =
∫ π2
−π2
√1 − sin2 θ
1 + sin2 θsin′ θdθ =
∫ π2
−π2
cos2 θ
1 + sin2 θdθ
第 13 回解答 22
となります。さらに tan θ = t、すなわち θ = Arctan t と置換すると、∫ π2
−π2
cos2 θ
1 + sin2 θdθ =
∫ π2
−π2
11
cos2 θ + sin2 θcos2 θ
dθ =∫ π
2
−π2
1(1 + tan2 θ) + tan2 θ
dθ
=∫ ∞
−∞
11 + 2t2
d
dtArctan tdt =
∫ ∞
−∞
1(1 + 2t2)(1 + t2)
dt
となります。積分される関数が有理関数になったので、あとは部分分数分解すれば計算できます。∫ ∞
−∞
1(1 + 2t2)(1 + t2)
dt =∫ ∞
−∞
(2
1 + 2t2− 1
1 + t2
)dt = 2
∫ ∞
−∞
11 + 2t2
dt −∫ ∞
−∞
11 + t2
dt
となります。右辺の第 2項は、t = tan θ によって変数を元に戻すことで、∫ ∞
−∞
11 + t2
dt =∫ π
2
−π2
11 + tan2 θ
d
dθtan θdθ =
∫ π2
−π2
1dθ = π
と計算できます。((Arctan t)′ = 11+t2 を覚えているなら、もちろんそれを使って結構です。)第 1
項は、√
2t = tanφ と置換することで、∫ ∞
−∞
11 + 2t2
dt =∫ π
2
−π2
11 + tan2 φ
1√2
d
dφtanφdφ =
1√2
∫ π2
−π2
1dφ =π√2
と計算できます。((Arctan s)′ = 11+s2 を覚えているなら、もちろん s =
√2t という置換で結構で
す。)以上より、 ∫ 1
−1
x Arctanx√1 − x2
dx = 2π√2− π =
(√2 − 1
)π
となります。 □
(3) 積分される関数は x = 0 だけでなく x = 2 を定義域に含みませんので、(0, 2) での広義積分と (2, 3] での広義積分に分けて計算しなければならないことに注意してください。まず (0, 2) で積分しましょう。∫ 2
0
1√|x(x − 2)|
dx =∫ 2
0
1√2x − x2
dx =∫ 2
0
1√1 − (x − 1)2
dx
となりますので、x − 1 = sin θ と置換しましょう。すると、∫ 2
0
1√1 − (x − 1)2
dx =∫ π
2
−π2
1√1 − sin2 θ
d
dθ(sin θ + 1)dθ =
∫ π2
−π2
1cos θ
cos θdθ =∫ π
2
−π2
1dθ = π
となります。最後の積分は広義積分ではなく普通の定積分です。
次に (2, 3] で積分しましょう。∫ 3
2
1√|x(x − 2)|
dx =∫ 3
2
1√x2 − 2x
dx =∫ 3
2
1√(x − 1)2 − 1
dx
となりますので、x − 1 = cosh t = et+e−t
2 と置換しましょう。すると、
et = x − 1 ±√
(x − 1)2 − 1
第 13 回解答 23
ですので、たとえば復号で + を選ぶと、t についての積分範囲は 0 < t ≤ log(2 +√
3) となります。この範囲で sinh t > 0 です。よって、∫ 3
2
1√(x − 1)2 − 1
dx =∫ log(2+
√3)
0
1√cosh2 t − 1
d
dtcosh tdt =
∫ log(2+√
3)
0
1sinh t
sinh tdt
=∫ log(2+
√3)
0
1dt = log(2 +
√3)
となります。最後の積分は普通の定積分です。
この二つを足して、 ∫ 3
0
1√|x(x − 2)|
dx = π + log(2 +
√3)
となります。 □
(4) 有理関数の積分なので、部分分数分解をしましょう。
11 + x3
=1
(1 + x)(1 − x + x2)=
13
1 + x+
23 − 1
3x
1 − x + x2
=13
1 + x+
16 − 1
3x
1 − x + x2+
12
1 − x + x2=
13
11 + x
− 16
(1 − x + x2)′
1 − x + x2+
23
1
1 +(
2x−1√3
)2
となります。 ∫1
1 + xdx = log |1 + x|
です。また、t = 1 − x + x2 と置換すると、∫(1 − x + x2)′
1 − x + x2dx =
∫1tdt = log |t| = log(1 − x + x2)
です。さらに、s = 2x−1√3と置換すると、∫
1
1 +(
2x−1√3
)2 dx =∫
11 + s2
√3
2ds =
√3
2Arctan s =
√3
2Arctan
2x − 1√3
となります。((Arctan s)′ = 11+s2 を覚えていなくても、s = tan θ と置換すれば導けます。)以上
より、不定積分が∫1
1 + x3dx =
13
log |1 + x| − 16
log(1 − x + x2) +1√3
Arctan2x − 1√
3
=16
log1 + 2x + x2
1 − x + x2+
1√3
Arctan2x − 1√
3
と計算できます。よって、∫ ∞
0
11 + x3
dx = limx→∞
(16
log1 + 2x + x2
1 − x + x2+
1√3
Arctan(
2x − 1√3
))− 1
6log 1 − 1√
3Arctan
(− 1√
3
)= 0 +
π
2√
3− 0 +
π
6√
3=
2π
3√
3
第 13 回解答 24
となります。 □
(5) 部分積分によって積分される関数から log x を消し去りましょう。∫ ∞
1
log x
xndx =
∫ ∞
1
1xn
log xdx =[
−1n − 1
1xn−1
log x
]∞1
−∫ ∞
1
−1n − 1
1xn−1
1x
dx
=1
n − 1
∫ ∞
1
1xn
dx =1
n − 1
[−1
n − 11
xn−1
]∞1
=1
(n − 1)2
となります。ただし、任意の正実数 a に対し
limx→∞
log x
xa= 0
となることを使いました。(このことは x = et と置換してみればわかります。) □
5 広義積分可能性の判定法
5.1 コーシーの判定法
不定積分が具体的に計算できてしまう関数については、広義積分が可能かどうかは単に関数の値
の極限の問題ですが、不定積分の計算できる関数は限られてしまいますので、積分される関数だけ
を見て広義積分可能かどうかを判定できないと不便です。
さて、「広義積分可能」とは「ある種の極限が存在する」ことですが、その極限値が先に分かっ
ているということはあまりありません。それは数列が収束するかどうかを調べるときにも経験して
いることです。そういうとき、つまり
収束先は分からなくてもいいから収束するかどうかだけ知りたい
という場合には、例によって、実数の連続性に基づいたコーシーの判定法が顔を出します。� �定理 8. [a, b) を定義域とし任意の c ∈ [a, b) に対して [a, c] 上積分可能な関数 f に対し、f が
[a, b) で広義積分可能なことと、
任意の正実数 ε に対して c ∈ [a, b) を
c < r < s < b =⇒∣∣∣∣∫ s
r
f(x)dx
∣∣∣∣ < ε
が成り立つように取れる
こととは同値である。� �証明. まず広義積分可能だとしましょう。つまり
limc→b−0
∫ c
a
f(x)dx
が存在するとします。この値を S とすると、lim の定義から、任意の正実数 ε に対してある正実
数 δ があって
0 < b − t < δ =⇒∣∣∣∣S −
∫ t
a
f(x)dx
∣∣∣∣ < ε
2
第 13 回解答 25
が成り立ちます。よって、r と s が 0 < b − r < δ, 0 < b − s < δ を満たすならば∣∣∣∣∫ s
r
f(x)dx
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∫ s
a
f(x)dx −∫ r
a
f(x)dx
∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣∫ s
a
f(x)dx − S
∣∣∣∣+ ∣∣∣∣S −∫ r
a
f(x)dx
∣∣∣∣ < ε
2+
ε
2= ε
となってコーシーの判定法の条件が満たされています。
逆に
c < r < s < b =⇒∣∣∣∣∫ s
r
f(x)dx
∣∣∣∣ < ε
が成り立っているとしましょう。数列 {an} を
an = b − 1n
とし、an ≥ a となる n に対し Sn を
Sn =∫ an
a
f(x)dx
とすることによって数列 {Sn} を作ります。(an は単調増加数列なので、ある n0 で an0 ≥ a を満
たせば、n0 より大きなすべての n で an ≥ a を満たします。数列 {Sn} は n ≥ n0 でのみ定義され
た数列だとしても結構ですし、n < n0 では例えばすべて Sn = 0 であるなどとしても結構です。)
|Sn − Sm| =∣∣∣∣∫ an
am
f(x)dx
∣∣∣∣ですので、 1
N < b − c となる N を一つ取ると、N より大きい任意の二つの自然数 n,m に対して
|Sn − Sm| < ε
を満たすことになります。よって、Sn はコーシー列です。コーシー列は収束するのですから極限
値があります。
S = limn→∞
Sn
とおきましょう。任意の正実数 ε を取ると、n が十分大きければ∣∣∣∣∫ an
a
f(x)dx − S
∣∣∣∣ < ε
2
となり、仮定から、r も十分 b に近ければ∣∣∣∣∫ r
an
f(x)dx
∣∣∣∣ < ε
2
ですので、 ∣∣∣∣∫ r
a
f(x)dx − S
∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣∫ r
an
f(x)dx
∣∣∣∣+ ∣∣∣∣∫ an
a
f(x)dx − S
∣∣∣∣ < ε
2+
ε
2= ε
が成り立ち、f は広義積分可能です。 □
第 13 回解答 26
5.2 広義積分における「絶対収束」
いつもこのコーシーの判定法を直接適用して広義積分できるかどうかを判定するのは結構骨で
す。そこで、このコーシーの判定法を満たすための十分条件でもいいから確かめやすい条件が欲し
くなります。しかし、積分される関数が 0を中心にはげしく振動し最終的には打ち消しあって広義積分が確定するという状況はいかにも複雑で、一般的に利用可能な条件を作ることは難しそうで
す。そこで、そういう場合を排除して考えるために、広義積分に絶対収束という概念を導入して、
コーシーの判定法から「広義積分が絶対収束するための十分条件」を引き出すことで満足すること
にしましょう。� �定理 9. [a, b) を定義域とし任意の r ∈ [a, b) に対して [a, c] 上積分可能な関数 f は、|f | が[a, b) 上広義積分可能ならば f 自身も [a, b) 上広義積分可能である。� �
証明. ∣∣∣∣∫ r
s
f(x)dx
∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣∫ r
s
|f(x)|dx
∣∣∣∣ですので、|f | がコーシーの判定法の条件を満たせば f もコーシーの判定法の条件を満たすことに
なります。よって、|f | が広義積分可能なら f も広義積分可能です。 □� �定義 6. |f | が [a, b) で広義積分可能なとき、f は絶対広義積分可能3である、あるいは(広義)
積分は絶対収束すると言う。� �絶対広義積分可能ならば広義積分可能であることの証明は上のもので何の疑問もないとは思いま
すが、「絶対広義積分可能」な関数は扱いやすいのにそうでない関数は扱いにくい理由をもう少し
詳しく見ておきましょう。
そのために、まず
絶対広義積分可能でないが広義積分可能な関数
の例を見ておきましょう。
例 2. 関数 sin xx は [0,+∞) で広義積分可能だが絶対広義積分は発散する。
証明. まず、絶対広義積分が発散することを示しましょう。∫ +∞
0
| sinx|x
dx =∞∑
n=1
∫ nπ
(n−1)π
| sinx|x
dx =∞∑
n=1
∫ π
0
sinx
x + (n − 1)πdx
>∞∑
n=1
1nπ
∫ π
0
sinxdx =2π
∞∑n=1
1n
= +∞
です。(あるいは図 1の三角形の面積 12n−1 をすべての n について足しあげたものより大きいので
発散します。)
3こちらの言い方はこのプリントだけの用語です、たぶん。
第 13 回解答 27
� �
nπ(n − 1)π 2n − 12
π
高さ2
(2n − 1)π
図 1: | sin x|x のグラフより面積の小さい三角形� �
一方、部分積分により任意の二つの正実数 s < t に対して∣∣∣∣∫ t
s
sinx
x
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣[−cos x
x
]ts−∫ t
s
cos x
x2dx
∣∣∣∣ ≤ | cos t|t
+| cos s|
s+∫ t
s
| cos x|x2
dx
≤ 1t
+1s
+∫ t
s
1x2
dx =1t
+1s− 1
t+
1s
=2s
が得られます。よって、与えられた正実数 ε に対し c を 2ε より大きくとれば、c < s < t を満た
す任意の二つの実数 s, t に対して ∣∣∣∣∫ t
s
sinx
x
∣∣∣∣ ≤ 2s
< ε
が成り立つことがわかります。このようにコーシーの判定法の条件を満たすことが確かめられたの
で、絶対値をとらないただの広義積分は収束します。 □
この例を念頭に置きながら、広義積分が収束する場合と発散する場合について考えてみましょ
う。また、絶対収束する無限級数と条件収束しかしていない無限級数の話も思い出していただける
とよいと思います。
まず、関数 f から二つの関数 f+ と f− を
f+(x) =|f(x)| + f(x)
2, f−(x) =
|f(x)| − f(x)2
として作ります。つまり、f+ の方は f(x) の値が正のところでは f(x) のまま、負のところでは 0としたもの、f− の方は f(x) の値が正のところでは 0とし、負のところでは −f(x) としたものです。だから、f+, f− とも値は常に 0以上であり、
f+(x) + f−(x) = |f(x)|, f+(x) − f−(x) = f(x)
が成り立ちます。よって、積分や広義積分についてもこの分解が成り立ち、例えば [0,∞) での広義積分について ∫ ∞
0
|f(x)|dx =∫ ∞
0
f+(x)dx +∫ ∞
0
f−(x)dx∫ ∞
0
f(x)dx =∫ ∞
0
f+(x)dx −∫ ∞
0
f−(x)dx
第 13 回解答 28
となります。ここで、f+ や f− の定義から、∫∞0
f+(x)dx は f のグラフの x 軸より上側の部分の
面積、∫∞0
f−(x)dx は x 軸より下側の部分の面積(「負」で考えない普通の正の面積)です。
だから、絶対広義積分可能ということは
x 軸より上側の面積も下側の面積も有限
ということを意味します。この場合、f の広義積分は有限な値(x 軸より上側の面積)から有限な
値(x 軸より下側の面積)を引いたものとして確定するというわけで、「有限-有限」ですから大
変扱いやすいのです。
もし、f+ の広義積分と f− の広義積分の片方が収束し片方が発散しているなら、二つの和も差
も発散してしまうので広義積分も絶対広義積分も発散です。つまり、例えば x 軸より下側の面積
は有限なのに上側の面積が無限大に発散してしまっているなら、両方の面積を合わせたものも差し
引きしたものも無限大だというわけです。
最後に残るのが f+ も f− も無限大に発散している場合です。この場合は和は当然発散してしま
いますので絶対広義積分は不可能です。しかし、差の方は「無限大-無限大」が上手いこと釣り
合って有限の値になってしまうことがあります。その一つの例が上に挙げた例 sin xx です。もちろ
ん「無限大-無限大」は正の無限大になる場合も負の無限大になる場合もあるのですから、これ
が有限の値になるというのはとても微妙な危ういバランスの成り立っている場合に限ります。そし
て、その場合こそが「絶対広義積分不可能なのに広義積分は可能」という場合なのですから、扱い
が難しいのも当然だというわけです。
5.3 絶対収束の判定法
さて、絶対広義積分可能性の判定法の話に移りましょう。まずは、「絶対広義積分判定法の一般
論」にあたる優関数の方法から。� �定理 10. [a, b) を定義域とし任意の c ∈ [a, b) に対して [a, c] 上積分可能な二つの関数 f, g が
|f(x)| ≤ g(x) ∀x ∈ [a, b)
を満たすとき、g が [a, b) 上広義積分可能なら f は [a, b) 上絶対広義積分可能である。� �証明. g は広義積分可能なのですから、コーシーの判定法の条件を満たします。つまり、任意の正
実数 ε に対して実数 c を上手くとると、
c < ∀r < ∀s =⇒∣∣∣∣∫ s
r
g(x)dx
∣∣∣∣ < ε
が成り立っています。一方、[a, b) において |f(x)| ≤ g(x) が成り立っていると仮定しているので、∣∣∣∣∫ r
s
|f(x)|dx
∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣∫ r
s
g(x)dx
∣∣∣∣が成り立ちます。この二つから |f(x)| もコーシーの判定法の条件を満たすことがわかるので O.K.です。 □
証明はこれでよいとして、定理の言っていることをもっとイメージ的に説明すると、
第 13 回解答 29
0 ≤ f(x) ≤ g(x) が成り立っているとき、x 軸と f(x) に挟まれた部分の面積は x 軸と
g(x) に挟まれた部分の面積以下なのだから、x 軸と g(x) に挟まれた部分の面積がちゃんと(有限の値に)確定するなら x 軸と f(x) に挟まれた部分の面積も確定する
ということに過ぎません。広義積分の場合、「x 軸と f(x) に挟まれた部分」が(とっても細くなりながらも)無限にのびているので「面積」という言い方はアブナイかも知れませんが、優関数と
いうもののイメージはこのように持っておくのがよいと思います。
注意. もしも |f(x)| ≥ g(x) ≥ 0 を満たす関数 g で広義積分の発散するものがあるなら、f は絶対広義積分不可能です。なぜなら、もし f が絶対広義積分可能、つまり |f | が広義積分可能なら、上の定理で |f | と gの役割を入れ替えることで g が広義積分可能なことが結論されてしまい仮定に反するからです。だから、上の定理は絶対広義積分が発散するための条件も教えてくれていることになります。ただし、 sin x
xの例で見た
ように、絶対広義積分が発散しても広義積分は発散するとは限りませんので、この「発散条件」にはあまりあらわには触れないことが多いようです。とは言っても、後述の問題 9や 10の (2)の解答を見てもらえばわかるように、この方法で広義積分の発散を示すことはよくあります(と言うか普通こうやります)。★
このような関数 g のことを f に対する優関数と言います。この方法はあくまで一般論なので、
具体的な f が与えられたとき、それの優関数 g をどのようにとればよいかは全く教えてくれませ
ん。だから、この一般的な方法を上手く使うためには優関数 g の「見つけ方」が欲しいところで
す。ところで、広義積分可能な具体的な関数といえば例 1の関数ですので、これを利用しましょう。� �定理 11. f を、[a, b) を定義域とし任意の c ∈ [a, +∞) に対して [a, c] 上積分可能な関数とするとき、
(1) b が実数のとき、µ < 1 を満たすある実数 µ に対して f(x)(b − x)µ が [a, b) 上有界なら[a, b) 上絶対広義積分可能である。
(2) b が +∞ のとき、λ > 1 を満たすある実数 λ に対して f(x)xλ が [a,+∞) 上有界なら[a, +∞) 上絶対広義積分可能である。� �
証明. (1). f(x)(b − x)µ が有界、つまり
|f(x)(b − x)µ| < M
を満たす M があるので、
|f(x)| <M
|b − x|µ
が成り立ちます。例 1(1)よりこの不等式の右辺の関数は広義積分可能です。よって、それは f の
優関数になっています。従って、定理 10により f は [a, b) で広義積分可能です。(2). f(x)xλ が有界、つまり
|f(x)xλ| < M
を満たす M があるので、
|f(x)| <M
|x|λ
が成り立ちます。例 1(2)よりこの不等式の右辺の関数は広義積分可能です。よって、それは f の
優関数になっています。従って、定理 10により f は [a, +∞) で広義積分可能です。 □
これでかなり使いやすくなりました。とは言ってもこのような µ や λ をどうやって見つければ
よいのか、という疑問は残るでしょう。残念ながらそれは case by case です。ただし、テイラー展
第 13 回解答 30
開を考えると上手く見つけられる場合がよくあります。例えば、
ex = 1 + x +12x2 + · · ·
から
ex2= 1 + x2 +
12x4 + · · ·
なので、
e−x2=
1ex2 =
11 + x2 + 1
2x4 + · · ·<
1x2
となって、 1x2 が e−x2
の優関数であるとわかるというわけです。
後述する今回の問題の解答も、この方法で µ や λ を見つけています。例えば、問題 9の (1)では積分範囲の端が 1のところでの収束を示したいので、(x − 1)µ と比較したいわけですから、問
題の関数とこのような形の関数を結びつけたいわけです。だから x = 1 を中心としたテイラー展開を考えてみるべきです。実際、
x2 − 1 = 0 + 2(x − 1) + (x − 1)2
という展開から1
x2 − 1=
10 + 2(x − 1) + (x − 1)2
≤ 12(x − 1)
≤ 1x − 1
が得られます。これと同じことをあらわにはテイラー展開を見せずやったのが後述の解答です。問
題 10の (1)も同様です。
5.4 問題 9の解答
(1) 1 < x において
x2 − 1 = (x + 1)(x − 1) > x − 1 > 0
が成り立っていますので、逆数を取っても不等号の向きは変わらず、
0 <1
x2 − 1<
1x − 1
です。a > 0 ですから全体を a 乗してもやはり不等号の向きは変わらず、
0 <1
(x2 − 1)a<
1(x − 1)a
(5)
となります。a < 1 では右辺の関数の (1, 2] における広義積分は収束します。すなわち問題の関数の優関数になっています。これで a < 1 では広義積分 Ia は収束することが示せました。 □
注意. 問題では a > 0 という条件を付けておきましたが、a ≤ 0 のときは被積分関数は x = 1 まで連続な関数ですので、積分 Ia は広義積分ではなく普通の積分です。しかも連続関数はすべて積分可能ですので、この場合も積分可能です。★
(2) a = 1 のとき、0 < ε < 1 を満たす任意の実数 ε に対して、∫ 2
1+ε
1x2 − 1
dx =∫ 2
1+ε
( 12
x − 1−
12
x + 1
)dx =
[12
log |x − 1| − 12
log |x + 1|]21+ε
=12
log 1 − 12
log 3 − 12
log ε +12
log(2 + ε) ε→0−−−→ +∞
第 13 回解答 31
となって、広義積分 I1 は発散します。
a > 1 とします。1 < x ≤√
2 では 0 < x2 − 1 ≤ 1 なので、
(x2 − 1)a < x2 − 1
ですから、逆数を取ると1
(x2 − 1)a≥ 1
x2 − 1
となります。よって、 ∫ √2
1+ε
1(x2 − 1)a
dx ≥∫ √
2
1+ε
1x2 − 1
dxε→0−−−→ +∞
となって (1,√
2] での広義積分は発散します。広義積分の収束発散の定義より、(1, 2] での広義積分 Ia も発散ということになります。 □
5.5 問題 10の解答
(1) 任意の x について
x2 + 1 > x2 > 0
が成り立っていますので、逆数を取って
0 <1
x2 + 1<
1x2
が得られます。b > 12 > 0 ですから全体を b 乗しても不等号の向きは変わらず、
0 <1
(x2 + 1)b<
1x2b
(6)
となります。2b > 1 のとき右辺の [1,∞) における広義積分は収束します。つまり、b > 12 のとき
右辺の関数は問題の関数の優関数になっています。これで b > 12 では広義積分 Jb は収束すること
が示せました。 □
(2) x > 0 のとき、x2 + 1 < x2 + 2x + 1 = (x + 1)2
なので、 √x2 + 1 < x + 1
です。逆数を取って、1√
x2 + 1>
1x + 1
が得られます。これを [1, R] で積分すると、∫ R
1
1√x2 + 1
dx >
∫ R
1
1x + 1
dx
という不等式が得られますが、∫ R
1
1x + 1
dx = log(R + 1) − log 2 R→+∞−−−−−→ +∞
第 13 回解答 32
と右辺は発散しますので、左辺も発散します。これで J 12は発散することが示せました。
b < 12 としましょう。すると、
(x2 + 1)b <√
x2 + 1
となりますので、 ∫ R
1
1(x2 + 1)b
dx >
∫ R
1
1√x2 + 1
dx
となります。ところが、右辺で R → +∞ としたもの、つまり J 12が発散することを既に示しまし
たので、左辺も R → +∞ のとき発散します。これで b < 12 のときにも Jb が発散することが示せ
ました。 □
注意. 問題では b > 0 という条件を付けておきましたが、b ≤ 0 のときは被積分関数は x → ∞ で無限大に発散する関数ですので、広義積分 Jb も当然発散します。★
5.6 問題 11の解答
(1) 積分範囲の下側では普通の定積分ですので、上側だけが問題です。平均値の定理を [0, t] に対して使うと、
sin t = (cos θt)t
となる θ が (0, 1) にあることがわかります。これに t = 1x を代入すると、
sin1x
=cos θ
x
x
が得られます。積分範囲は x > 1 ですので、0 < θ < 1 と合わせてこの範囲で 0 < θx < 1 < π
2 と
なっています。よって、x > 1 において
cosθ
x> cos 1 > 0
であり、
sin1x
>cos 1
x
が成り立ちます。右辺の関数の [1,∞) における広義積分は発散しますので、問題の広義積分も発散します。 □
(2) これも積分範囲の下側では普通の定積分ですので、上側だけが問題です。テイラーの定理を 0を中心にして 2次で使うと、
sin t = t − cos θt
3!t3
となる θ が (0, 1) にあることがわかります。これに t = 1x2 を代入すると、
sin1x2
=1x2
−cos θ
x2
3!x6
が得られます。今、x > 1 かつ 0 < θ < 1 なので、0 < θx2 < 1 < π
2 ですから、cos θx2 は正です。
よって、
0 < sin1x2
<1x2
が得られます。右辺の関数の [1,∞) における広義積分は収束しますので、問題の広義積分も収束します。( 1
x2 が優関数になっているわけです。) □
第 13 回解答 33
(3) これは一見積分範囲の下側でも広義積分であるように見えます。しかし、テイラーの定理に
より
cos x = 1 − x2
2+ R(x) lim
x→0
R(x)x2
= 0
が成り立っていますので、
limx→0
1 − cos x
x2= lim
x→0
1 −(1 − x2
2 + R(x))
x2=
12
というように収束しています。よって、積分される関数は x = 0 まで連続に拡張可能であり、積分範囲の下側では広義積分ではありません。
上側の広義積分が収束することは、 ∣∣∣∣1 − cos x
x2
∣∣∣∣ ≤ 2x2
であって、右辺の関数はたとえば [1,∞) で広義積分可能であることから従います。 □
(4) テイラーの定理により、
ex = 1 + x +eθx
2x2 (0 < θ < 1)
となる θ があります。よって、x > 0 のとき
ex > x
が成り立ちます。両辺の対数を取ると、
x > log x
が得られます。x > 1 とすると、両辺とも正ですので
1x
<1
log x
となります。左辺の広義積分は ∫ ∞
2
1x
dx =[log x
]∞2
= ∞
となって発散しますので、右辺の広義積分も発散します。 □
5.7 問題 12の解答
この問題は、原始関数は計算できないが、広義積分が収束していると仮定すると広義積分の値が
計算できる、という例です。だから、広義積分が収束することとその値を計算することを別々にや
らなければなりません。
これと似たようなことを、漸化式で定義された数列の極限値の計算などで高校のときにも経験し
たことのある人も多いでしょう。例えば、
an+1 =an
2 + 12
第 13 回解答 34
という漸化式を満たす数列 {an}∞n=1 は、その極限値を a∞ とすると、
a∞ =a∞
2 + 12
すなわち、
a∞2 − 2a∞ + 1 = 0
を満たすので、a∞ = 1 です。しかし、例えば a1 > 1 だとこの数列は収束しません。無限大に発散してしまいます。だから a∞ = 1 であることを示すには、a∞ が存在することを別に示しておか
なければなりません。
この問題は、これと同じようなことが広義積分にもあるということを見てもらう問題です。
(1) まず、この広義積分が収束していることを示しましょう。任意の x について | sin bx| ≤ 1 ですので、|e−ax sin bx| ≤ e−ax が成り立っています。一方、a > 0 ですので、∫ ∞
0
e−axdx =[−1
ae−ax
]∞0
= 0 −(−1
a
)=
1a
となって収束しています。すなわち、e−ax は e−ax sin bx の優関数です。よって、問題の広義積分
も収束します。
次に、広義積分の値を計算しましょう。
I =∫ ∞
0
e−ax sin bxdx
とおきます。(− 1
ae−ax)′ = e−ax ですので、部分積分により
I =[−1
ae−ax sin bx
]∞0
−∫ ∞
0
(−1
ae−ax
)d
dxsin bxdx =
b
a
∫ ∞
0
e−ax cos bxdx
となります。同様にしてもう一度部分積分をすると、
I =b
a
[−1
ae−ax cos bx
]∞0
− b
a
∫ ∞
0
(−1
ae−ax
)d
dxcos bxdx
=b
a
1a− b
a
b
a
∫ ∞
0
e−ax sin bxdx =b
a2− b2
a2I
が得られます。よって、
I =b
a2
11 + b2
a2
=b
a2 + b2
です。 □
(2) まず、
log(sinx) = log(
sinx
x
)− log x
と分解しましょう。右辺の第 1項は x → 0 のとき log 1 = 0 に収束するので x = 0 まで連続関数として拡張されます。よって、問題の広義積分が可能であることと log x の広義積分が可能である
ことは同値です。log x の広義積分を実際に計算してみると、∫ π2
0
log xdx =[x log x − x
]π2
0=
π
2log
π
2− π
2− lim
x→+0x log x
第 13 回解答 35
となりますが、x = e−t と置換すれば、
limx→+0
x log x = limt→+∞
−t
et= 0
となることがわかるので、この広義積分は収束します。これで問題の広義積分の収束が示せました。
次に値を求めましょう。求める値を I とおくことにします。x = π − y と置換することにより、
I =∫ π
2
0
log(sinx)dx =∫ π
2
π
log(sin(π − y))(−1)dy =∫ π
π2
log(sin y)dy
および、x = π2 − z と置換することにより、
I =∫ π
2
0
log(sinx)dx =∫ 0
π2
log(sin(π
2− z))
(−1)dz =∫ π
2
0
log(cos z)dz
となります。以上を使うと、
I =12
(∫ π2
0
log(sinx)dx +∫ π
π2
log(sinx)dx
)=
12
∫ π
0
log(sin x)dx =12
∫ π2
0
log(sin 2t)2dt
=∫ π
2
0
log(2 sin t cos t)dt =∫ π
2
0
log 2dt +∫ π
2
0
log(sin t)dt +∫ π
2
0
log(cos t)dt =π
2log 2 + I + I
となります。(三番目の等号で x = 2t と置換しました。)よって、
I = −π
2log 2
です。 □