201111 intelligence global hr 4

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ノウハウに競争力上の優位性がある限り、 あえて人材マネジメントの手法を変える必 要はないでしょう。国内で常にイノベー ションを起こし、高度技術やノウハウを武 器に市場を席巻する優位性を保つ限り、日 本の社員を海外に派遣し、本社がオペレー ションすることは可能です。 ただし、その優位性が崩れた場合はどう なるのか。例えば韓国、中国の企業が急追 してきた場合、人材マネジメントの変革を 迫られる事態になるかもしれません。出身 国にかかわらず世界中から優秀な人材を発 掘し、育成・配置を行う企業と日本人に限 定したオペレーションを行う日本企業とで は、人材の競争という側面から見た場合、 明らかに不利になります。 では、日本企業が本気でトランスナショ ナル企業になろうとするには、どうすれば いいのか。大きく二つの課題があると考え ています。一つは新卒主義と年次管理から の脱却です。優秀な人材を確保するには新 卒・中途に関係なく採用していくことが不 可欠です。不思議なのは、グローバル化や ダイバーシティを推進しようとする企業が 外国人留学生の採用においても新卒重視を 貫いている点です。 新卒という無垢の状態が会社のビジョン や理念を理解し、吸収してもらうという側 面から組織文化形成上、優れているという ことは重要な一面だと思いますが、半面、 イノベーションを起こし、新しいものを生 み出していこうと考える場合、新卒に固執 するという同質化は危険だと思われます。 また、異なる考え方や価値観を混在させる ことでイノベーションを生み出そうという のがダイバーシティの本質であり、ビジネ ス戦略上重要な要素であることを考えると、 なおさらのことです。 年次管理も同質化の弊害を招きやすいと いう点だけではなく、前述したグローバル なタレントマネジメントの実施の弊害とな ります。 さらにもうーっ付け加えるならば、多く の場合、過去の職務において実績を上げた 社員をその実績のみを理由に自動的に昇進 させることがありますが、人材マネジメン トにおいて重要な視点は「そのポジション に′‡、さわしい仕事ができるか」です。その ためには過去の職務での実績ではなく、こ れから遂行していく職務に対するポテン シャルを見極めることが大事で、ポテン シャル重視の配置と育成の昇進システムに 転換する必要があるのではないかと思いま す。 旧来の人事部のマインドセット からの脱却が必要 もうーつの課題は人事部の役割に関連す ることです。一般的に従来の人事部は中身 よりも制度やハコとしての枠組みに固執す る傾向があります。仮に経営者が人材のグ ローバル化をやろうと号令をかけると、人 事部が真っ先に手をつけるのは資格の統一 という場合が多いと思います。ところが作 業に手間取り、時間だけが過ぎていく。結 果的になんとか形はできたものの、すでに 時代遅れの仕組みになっているというパ ターンが多いように思います。 実際に最も大事なことは、海外進出に際 して、どういうタレントにどういうリーダー シップを発揮してもらってマネジメントを してもらうか、といったビジネス遂行のた めの組織効果を高める具体的な施策です。 ハコとしての枠組みや制度が全く不要とは 言いませんが、プライオリティーとして高 いのは組織効果を最大化する考え方のフ レームワークや知恵、組織能力などのソフ トカを養うことであって、ソフトカの蓄積 と発揮こそがグローバリゼーションを成功 に導く神髄なのではないかと思います。 ある企業が製造業からサービス業へとビ ジネスモデルの転換を図ることにしたとし ましょう。その場合、事業転換とその後の 展開にあたり、今、保有する組織やスキル、 人材の能力を見て、どのようなギャップが あるのか、どうすればそのギャップを埋め ることができるのか。また、リーダーシッ プをとるのに′三、さわしい人物がいなければ 外部から補うのか、あるいは内部の若手を 抜擢し、どういうトレーニングやディベロ プメントを施せばどのくらいでキャッチ アップするのか。これを自ら発想し、その アイデアをラインマネジャーをサポートし ながら実行に移すのが本来の人事部の役割 だと思います。 あるいは、ある企業が中国市場に進出し、 将来10兆円の売上高を目指しているとし ましょう。経営者は10兆円を達成した場 合のビジネスイメージを描き、経営資源を 投入することになります。 人事部としても当然、ビジネスイメージ を念頭に、現在の組織・人材の能力の有無 を検証し、社員を派遣することが可能なの かどうかを考えます。その場合に、最初に 派遣する社員が現地の有能な人材を採用し、 トレーニングすることができる能力を持つ 人なのか。さらに短期的には日本のノウハ ウを現地にインプットしていくことになり ますが、その後は現地で採用した人材のポ テンシャルを見抜き、どのように成長させ ていくのかという中・長期的な人事戦略を 描いて進めていくことが求められます。 単に海外の専門家だからいいだろうとい う人事ではありません。誰を派遣するかで はなく、何をするために派遣するのかとい う視点が重要だと思います。制度やハコと しての枠組みだけに固執し、ビジネスとリ ンクしない人事は弊害といっても過言では ないのです。本社の人事部門に限らず、事 業部門の人事がビジネスパートナーとして 組織能力を発展させていくことが、グロー バル人材マネジメントにおいて極めて重要 な鍵を握っています。 トランスナショナルな企業になるには、 新卒主義と年次管理からの脱却とハコモノ 的発想のリセットが不可欠だと思います。 合意を得るには時間がかかるでしょうが、 この課題に対して、日本企業が本気モード になり、いったん組織的に合意を得ること ができれば、従来持っている強みを艇にし て、一挙にカロ速していくだろうと思います。 (取材・構成 人事ジャーナリスト 溝上 憲文) H汀OV。=15

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ノウハウに競争力上の優位性がある限り、

あえて人材マネジメントの手法を変える必

要はないでしょう。国内で常にイノベー

ションを起こし、高度技術やノウハウを武

器に市場を席巻する優位性を保つ限り、日

本の社員を海外に派遣し、本社がオペレー

ションすることは可能です。

ただし、その優位性が崩れた場合はどう

なるのか。例えば韓国、中国の企業が急追

してきた場合、人材マネジメントの変革を

迫られる事態になるかもしれません。出身

国にかかわらず世界中から優秀な人材を発

掘し、育成・配置を行う企業と日本人に限

定したオペレーションを行う日本企業とで

は、人材の競争という側面から見た場合、

明らかに不利になります。

では、日本企業が本気でトランスナショ

ナル企業になろうとするには、どうすれば

いいのか。大きく二つの課題があると考え

ています。一つは新卒主義と年次管理から

の脱却です。優秀な人材を確保するには新

卒・中途に関係なく採用していくことが不

可欠です。不思議なのは、グローバル化や

ダイバーシティを推進しようとする企業が

外国人留学生の採用においても新卒重視を

貫いている点です。

新卒という無垢の状態が会社のビジョン

や理念を理解し、吸収してもらうという側

面から組織文化形成上、優れているという

ことは重要な一面だと思いますが、半面、

イノベーションを起こし、新しいものを生

み出していこうと考える場合、新卒に固執

するという同質化は危険だと思われます。

また、異なる考え方や価値観を混在させる

ことでイノベーションを生み出そうという

のがダイバーシティの本質であり、ビジネ

ス戦略上重要な要素であることを考えると、

なおさらのことです。

年次管理も同質化の弊害を招きやすいと

いう点だけではなく、前述したグローバル

なタレントマネジメントの実施の弊害とな

ります。

さらにもうーっ付け加えるならば、多く

の場合、過去の職務において実績を上げた

社員をその実績のみを理由に自動的に昇進

させることがありますが、人材マネジメン

トにおいて重要な視点は「そのポジション

に′‡、さわしい仕事ができるか」です。その

ためには過去の職務での実績ではなく、こ

れから遂行していく職務に対するポテン

シャルを見極めることが大事で、ポテン

シャル重視の配置と育成の昇進システムに

転換する必要があるのではないかと思いま

す。

旧来の人事部のマインドセットからの脱却が必要

もうーつの課題は人事部の役割に関連す

ることです。一般的に従来の人事部は中身

よりも制度やハコとしての枠組みに固執す

る傾向があります。仮に経営者が人材のグ

ローバル化をやろうと号令をかけると、人

事部が真っ先に手をつけるのは資格の統一

という場合が多いと思います。ところが作

業に手間取り、時間だけが過ぎていく。結

果的になんとか形はできたものの、すでに

時代遅れの仕組みになっているというパ

ターンが多いように思います。

実際に最も大事なことは、海外進出に際

して、どういうタレントにどういうリーダー

シップを発揮してもらってマネジメントを

してもらうか、といったビジネス遂行のた

めの組織効果を高める具体的な施策です。

ハコとしての枠組みや制度が全く不要とは

言いませんが、プライオリティーとして高

いのは組織効果を最大化する考え方のフ

レームワークや知恵、組織能力などのソフ

トカを養うことであって、ソフトカの蓄積

と発揮こそがグローバリゼーションを成功

に導く神髄なのではないかと思います。

ある企業が製造業からサービス業へとビ

ジネスモデルの転換を図ることにしたとし

ましょう。その場合、事業転換とその後の

展開にあたり、今、保有する組織やスキル、

人材の能力を見て、どのようなギャップが

あるのか、どうすればそのギャップを埋め

ることができるのか。また、リーダーシッ

プをとるのに′三、さわしい人物がいなければ

外部から補うのか、あるいは内部の若手を

抜擢し、どういうトレーニングやディベロ

プメントを施せばどのくらいでキャッチ

アップするのか。これを自ら発想し、その

アイデアをラインマネジャーをサポートし

ながら実行に移すのが本来の人事部の役割

だと思います。

あるいは、ある企業が中国市場に進出し、

将来10兆円の売上高を目指しているとし

ましょう。経営者は10兆円を達成した場

合のビジネスイメージを描き、経営資源を

投入することになります。

人事部としても当然、ビジネスイメージ

を念頭に、現在の組織・人材の能力の有無

を検証し、社員を派遣することが可能なの

かどうかを考えます。その場合に、最初に

派遣する社員が現地の有能な人材を採用し、

トレーニングすることができる能力を持つ

人なのか。さらに短期的には日本のノウハ

ウを現地にインプットしていくことになり

ますが、その後は現地で採用した人材のポ

テンシャルを見抜き、どのように成長させ

ていくのかという中・長期的な人事戦略を

描いて進めていくことが求められます。

単に海外の専門家だからいいだろうとい

う人事ではありません。誰を派遣するかで

はなく、何をするために派遣するのかとい

う視点が重要だと思います。制度やハコと

しての枠組みだけに固執し、ビジネスとリ

ンクしない人事は弊害といっても過言では

ないのです。本社の人事部門に限らず、事

業部門の人事がビジネスパートナーとして

組織能力を発展させていくことが、グロー

バル人材マネジメントにおいて極めて重要

な鍵を握っています。

トランスナショナルな企業になるには、

新卒主義と年次管理からの脱却とハコモノ

的発想のリセットが不可欠だと思います。

合意を得るには時間がかかるでしょうが、

この課題に対して、日本企業が本気モード

になり、いったん組織的に合意を得ること

ができれば、従来持っている強みを艇にし

て、一挙にカロ速していくだろうと思います。

(取材・構成 人事ジャーナリスト 溝上

憲文)

H汀OV。=15