2012.12.08 ジェンダー法学会

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最後に読み上げ原稿付き。

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自己紹介 (1)

� 法哲学 専攻、ほか憲法、政治哲学。

� 普段の研究テーマは、世代間正義論、法の時間論、〈法と科学技術〉など。

� 趣味で写真を撮ったり、将棋を指したり。

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自己紹介 (2) ジェンダー論とのかかわり� ジェンダーに関する研究としては、フェミニスト法哲学者ドゥルシラ・コーネルの翻訳・解説など。

1. 『イーストウッドの男たち』、2011年2. 『自由の道徳的イメージ』、2013年予定

� ほか、明治大学法科大学院ジェンダー法センターの客員研究員を務めています。

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宣伝:ドゥルシラ・コーネルの近著2冊� 『イーストウッドの男たち――マスキュリニティの

表象分析』御茶の水書房、2011年吉良貴之・仲正昌樹〔監訳〕、志田陽子・星野立子・岡田桂・柴田葵・森脇健介・綾部六郎〔訳〕

� 『自由の道徳的イメージ(仮)』御茶の水書房、2013年予定

吉良貴之・仲正昌樹〔監訳〕、伊藤泰・小林史明・池田弘乃・関良徳・西迫大祐〔訳〕

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本日のコメント

� 高田・橋場報告についてできるだけ内在的・理論的な方面からコメント。

� 実務や現場はよくわからないので伊藤さんにおまかせして無責任なことを言います。

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両者をつなぐもの

(1) 法教育の「ルールづくり」「批判的思考」(2) ジェンダー規範の可変性

法/ルールも、ジェンダー規範も「変わりうる」ものであること、そこで自分が「変える主体」でありうることの意識、そしてその過程で生じる「居場所」感。

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高田パート� 日本の「ジェンダー教育」男女平等教育」の歴史が丹念に調べられている。

� どの分野が足りないのかが明確に整理されており、今後の改革に向けた重要な出発点になりそう。

� ジェンダーにかかわるものはさまざまな緊張関係を含んだ問題群なので、より実質的な主張も必要では。

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橋場パート

� 「社会的包摂」にも使える法教育という斬新な捉え方。

� その反面、どうしても「副産物」的なところがあるので、現状の支配的な法教育へのインパクトはどうか。

� 現状の「エリート的」「恵まれた」法教育とのつながりが示せれば、より強力な議論になるのでは。

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いくつかの問題

1. 「エリート教育」批判から脱しきれているか2. 都市と地方の違いと「法」意識の問題3. 受ける側だけでなく、する側のインセンティブも4. カリキュラムとスキルの資源分配問題5. 「社会的包摂」は社会にとってメリットがあるか6. 法の一般性とジェンダーの個別性?

それぞれについて考えてみます。

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1.「エリート教育」批判からの脱却

� 既存のルールへの批判的思考を育み、新しいルールの形成に主体的に関わることで得られる「居場所」感は確かに重要なものだろうが��

→ それはそれでかなり高度な知的能力が必要→ 生きるために必要な最低限の法律知識(伊藤)を

身につけさせることと、高田・橋場の要求水準のズレ→ さらにいえば、高田と橋場が対象にしている層にズレ?

(分断工作)

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2. 都市と地方の違いと「法」意識

� どうも都市部中心の話という印象。� 田舎だと、へたに法的思考とか権利意識を身につけてしまうと、かえって生きづらくなりがち。

� 社会関係資本 ( social capital ) としての法律家→ 頼りになるプロが身近にいると知ること→ 現実にはコミュニティの有力者とか世話焼きの

人とのコネを作るほうが有効では。

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3. 法教育をする側のインセンティブ� 仕事のない弁護士の救済になる��?� 既存スタッフの使い回しがどこまで可能か?

公民科教師でもなかなか��。

� 「カネのとれる」教育にするために→ 学会としてもっと推していっていいのでは。→ 国語教育学会、科学教育学会、歴史教育学会�などはものすごく活動的。

→ 法と教育学会はどうか?

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4. カリキュラムとスキルの資源分配� カリキュラム(時間)も教育スキルも「資源」であり、「分配」の問題が生じることへの意識は?→ 「大事そうですね」で終わらせないこと。

� いらない科目を露骨に名指しして排撃するぐらいの勇気をもつべきではないか?

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5. 社会的包摂の社会的メリット

� 教育を受ける側だけでなく、カネを出す側にとってのメリットも強調できると強い議論になる。

� 排除されてうだっている若者があまり多いといろいろ危ない。

� 性教育との関係も重要。例)割れ窓理論の虚実

無軌道な若者たち画像は毎日新聞サイトより http://showa.mainichi.jp/news/1956/01/post-d4da.html

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6. 法の一般性とジェンダーの個別性?

� ジェンダー平等が(少なくとも建前では)「公定の」方向性となっている現状、多様な価値や意見を集約しルールにまとめあげる「法教育」とは一定の緊張?

� そもそもジェンダー/セクシュアリティの領域には一般的なルール形成にそぐわない、個別の感応性が必要な問題が多いのではないか?→ 「段階的に」両立させるジェンダー法教育へ?

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ご清聴ありがとうございました。

常磐大学嘱託研究員(本務、~2013年3月)明治大学法科大学院ジェンダー法センター客員研究員

弁護士法人リブラ法律事務所学術研究員

吉良 貴之(法哲学)

[email protected]://jj57010.web.fc2.com

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2012.12.4 ジェンダー法学会若手セッション読み上げ原稿 吉良貴之

■2 どうもこんにちは。法哲学の吉良吉良吉良吉良と申します。今回は高田さん橋場さんのご報告について少しお

話しさせていただくことになりました。ふだんの専門はここに書いているようなものでありまして、

最近は特に法と科学技術法と科学技術法と科学技術法と科学技術といった方面をお仕事にしております。 ■3 ジェンダー法学会でコメントする以上は何かジェンダーっぽいこともやっている必要があるか

と思うんですけれども、そちら方面の仕事としましては、ポストモダンな方面のフェミニスト法哲

学者である、ドゥルシラ・コーネルドゥルシラ・コーネルドゥルシラ・コーネルドゥルシラ・コーネルの著作の翻訳をして解説など書いたりしております。 ■4 近著2 冊はこんな感じでして、イーストウッドのほうはこのあとコメントされる綾部六郎さん綾部六郎さん綾部六郎さん綾部六郎さん、

その次のほうには池田弘乃さん池田弘乃さん池田弘乃さん池田弘乃さんが訳者として参加されています。僕は監訳ということになっており

ます。 ■5 本日のコメントはこんな感じです。時間も短いですので、多少変わった観点をカウンターとして

出せればそれでいいかと思っております。 ■6 それで高田さん橋場さんのご発表ですが、お二人でなさっている以上は両者をつなぐ問題関心が

あろうかと思います。 僕なりに理解したところをまとめますと、こんなふうに、法教育におけるルールづくりとか批判

的思考を通じて、法やルールと同じようにジェンダー規範もまた変変変変わりうるわりうるわりうるわりうるし、そこに参加する

人々はそれを変える主体性主体性主体性主体性を獲得できる。また、その主体性を獲得するプロセスにおいて自分の「居居居居

場所場所場所場所」のようなものを見つけていく。そういったことの意義が強調されていました。 ざっくりまとめると、法やジェンダー規範が変わりうるということ、そして変える主体性を法教

育は育成できるということ、そういった問題関心でお二人が話されたものと理解いたしました。 ■7 高田さんのほうは歴史的なところが丁寧に調べられていまして、どういった分野がジェンダー法

教育に足りないのか、ということを明確にするうえで非常に意味のある研究だと思いました。これ

はおそらく次の則武さんの人権指標人権指標人権指標人権指標のお話と組み合わせると、問題状況を可視化する上で有益であ

りますし、そこからまた議論が出発するものと思います。ただ高田さんはあまり強い主張をされな

いようですけど、ジェンダーに関わる問題はもちろん、差異か平等か、本質主義か構築主義か、あ

るいは男女の大きな枠で考えるか、よりマイノリティに定位した議論にするかなど、それぞれ緊張

関係のある問題群です。ので、ジェンダー法教育のあるべき姿を考えていく上ではどうしてもそれ

なりに実質的な立場へのコミットも必要になってくるかとは思いました。 2

■8 一方、橋場さんのほうをまとめますとこんな感じで、社会的に居場所のない人を包摂包摂包摂包摂するような

教育のあり方として法教育を再評価されています。おそらくこれは従来あまりなかった見方であり

まして、かなり橋場さんオリジナルな考えだと思います。これはぜひ発展させていただきたいとこ

ろです、が、この社会的包摂というのは法教育の理念からするとちょっと副産物的な副産物的な副産物的な副産物的なところがある

のは否めないところですので、あまりそこを強調されると現場としては困るかもしれない。なので、

従来の理念と、社会的包摂としての法教育は別のことをやっているわけではなく、あくまで同じこ

と、コインの裏表というかそのつながりを示していけばそのつながりを示していけばそのつながりを示していけばそのつながりを示していけば強力な議論になりそうに思いました。 ■9 で、ここからはお二人の発表を受けてさらに僕なりに発展的に考えてみるというか、また違った

角度からこの問題を照らし出すような感じにしたいと思います。6つほどあげておりますけれども、全部扱う時間はございませんので適宜飛ばしていきます。

■10 1つめはこういうもので、書いてあるとおりですので飛ばします。何か高田さん橋場さんでリプ

ライがありましたらそのときにお願いします。 ■11

2 番目、これはお二人の発表の射程射程射程射程の問題になりますけれども、どうも都市中心なのは否めないのかなと思いました。田舎でしたらまあ、へたに法的思考なんか身に付けるとかえって生きにくい

とかいった問題もあります。 あと、法律家を社会関係資本として利用できるのではといった話もありました。余談ですがこの

社会関係資本というのは、こないだ霞が関の中の人と話していたところ、曖昧すぎて何を言ってい

るかわからないので公的な場では禁止されている公的な場では禁止されている公的な場では禁止されている公的な場では禁止されているとのことでございました。なのであまり使わない

ほうがいいと思います、というのは冗談ですが、このあたりの概念のツメはもっと必要かとは思い

ます。 で、それはそれとして、法律家がそんな頼りになるかというとちょっとぴんとこないところがある

んですよね。社会的に排除されてしまうようなギリギリの人たちにとってはもっと、コミュニティ

のえらい人だとか、世話焼きのおじさんおばさん、チンピラの先輩なんかのほうが社会資本的には

大きいわけです。もちろん法律家もいないよりはマシですので、そういう地域コミュニティの中で地域コミュニティの中で地域コミュニティの中で地域コミュニティの中で

の役割分担の役割分担の役割分担の役割分担といったことを詰めていけると、法社会学的にさらに面白い話になるかと思いました。 ■12

3 番目、これはいつも感じていることなんですけれども、法教育というとどうもそれを受ける側のメリットばかりが強調される傾向にある。する側のメリットというする側のメリットというする側のメリットというする側のメリットというかインセンティブをどう確保かインセンティブをどう確保かインセンティブをどう確保かインセンティブをどう確保

するかするかするかするかというのも大きな問題です。 で、これ他の科目の学会はけっこうがりがり圧力をかけているわけなんですね。なんとか教育学

会とかいうのがいっぱいあって、入試科目にしろとか文科省にどんどんいってる。法と教育学会は

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そういうことしているのかどうか。あまりお高くとまった理念ばかり語ってないで、そのへんでゴ

リゴリと政治活動することも必要だろうと思います。 ■13

4 番目、つながった話ですが、どうもこういった話に欠けているかなと思うのは、学校のカリキュラムというのは時間時間時間時間が決まっているわけですね。総時間。あと、法教育ができる人材というのも

限られている。時間と人材、両者は明らかに資源であ時間と人材、両者は明らかに資源であ時間と人材、両者は明らかに資源であ時間と人材、両者は明らかに資源でありまして、それを他の科目と奪い合わなけれりまして、それを他の科目と奪い合わなけれりまして、それを他の科目と奪い合わなけれりまして、それを他の科目と奪い合わなけれ

ばならないばならないばならないばならないわけです。それをしてないで理念だけ語っていても、大事ですね、でもやる時間も人も

ないです、終わり、となります。そうならないためにはもっと戦闘的になって、こんな科目は有害こんな科目は有害こんな科目は有害こんな科目は有害

だからだからだからだからいらない、もうやめて法教育やってくれとねじこまないと仕方ないいらない、もうやめて法教育やってくれとねじこまないと仕方ないいらない、もうやめて法教育やってくれとねじこまないと仕方ないいらない、もうやめて法教育やってくれとねじこまないと仕方ないわけです。まあ、具体的

にどの科目がいらないとかいったことはさしさわりがありそうなのでここでは述べません。 (ホワイトボタンを押す) ※ 隠しスライドでせこい芸をやった。 ■14 いまちょっと放送事故放送事故放送事故放送事故がありましたが気にせず進めますと、あとはカネを出す側にとってのメリ

ットも言えると強い議論になるかと思います。というのも、社会的に排除されてうだっている人が

多いと治安も悪くなって治安も悪くなって治安も悪くなって治安も悪くなってろくなことがない。そういう人を包摂してカタギにすることができますよ、

と言えるとなかなか強力なところです。性教育との関連と書いてありますが、たとえば割れ窓理論割れ窓理論割れ窓理論割れ窓理論

とかいう非常にキャッとかいう非常にキャッとかいう非常にキャッとかいう非常にキャッチーな議論チーな議論チーな議論チーな議論があります。あれで犯罪率が減るのはどうやら嘘であるらしい嘘であるらしい嘘であるらしい嘘であるらしいと

いうのが最近の研究でわかってきています。それよりは人工妊娠中絶が制度的にやりやすくなり、

その知識が広まったことのほうがニューヨークの治安にとって効果があったと。それ本当かどうか

というのも問題ですが、そういったこともひとつの例として参考にしながら、社会の側のメリット社会の側のメリット社会の側のメリット社会の側のメリット

もももも考えていけるとよいと思います。 ■15 最後、これはおそらく主に高田さんに向けたものになりますが、法教育とジェンダー教育という

のは相応の緊張がありそうに思います。1つめとしては、ジェンダーの平等というのは少なくとも

タテマエとしてはまあ、反対する人はいない。こないだ自民党が何かのアンケートでマークミスかマークミスかマークミスかマークミスか

何か何か何か何かをしたようですので微妙なところはあるんですけれども、それはそれとして、方向性としては、

男女の役割分担を強化しようとか言いにくいですし、少なくとも初・中等教育段階でそんなに多様

な意見は出しにくい。そうするとどうしてもジェンダーの「正解正解正解正解」を教師が上から教えるだけにな

りはしないか。それは既存ルールへの批判意識とそれにかわるルールづくりを旨とする法教育の理

念と相容れるものなのかどうか。ここは問題になるところかと思います。 また、さらに逆方向から面倒なことを言いますと、ジェンダー/セクシュアリティの領域という

のは個々人で本当に多様なわけでありますから、なかなか一般的なルールでは対応できない。むし

ろ個別的な状況への感応性個別的な状況への感応性個別的な状況への感応性個別的な状況への感応性が必要になってくることも多いわけです。そこで法教育というのはどう

いった役割を果すべきなのか。差異を認識した上で、メタのトラブル解決法としての法やルールの

意義を伝えていくとか、そういった段階的な段階的な段階的な段階的なジェンダー法教育というのが必要なのかとも思います

が、そのあたりの具体的な見通しなどありましたら、というところでございます。 4

■16 以上です。ありがとうございました。 【文献】 高田恭子「日本におけるジェンダー教育の現状と課題 : 法教育としてのジェンダー教育の実現に

向けて」大阪工業大学紀要・人文社会篇 56 巻 2 号、2011年 橋場典子「社会的包摂と法教育:「つながり」の法教育の可能性」法社会学 75 号、2011 年