2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

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2014年度秋学期人工知能論 コミュニケーションする知能の “すごさ” を考える (2) ―ことばと身体のコミュニケーション― 11. 06. 2014 大学院政策・メディア研究科後期博士課程 坂井田 瑠衣 http://web.sfc.keio.ac.jp/~lui/

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Page 1: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

2014年度秋学期人工知能論 コミュニケーションする知能の “すごさ” を考える (2) ―ことばと身体のコミュニケーション―

11. 06. 2014 大学院政策・メディア研究科後期博士課程 坂井田 瑠衣 http://web.sfc.keio.ac.jp/~lui/

Page 2: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

授業予定 (全3回)

•  10/30: ことばを使ったコミュニケーション ü 日常会話を成立させている暗黙的ルール

Ø  社会で一般的に共有されたルール

•  11/6: ことばと身体を使ったコミュニケーション ü 例) 食事をしながらの会話,漫才…

Ø  その場その場での,状況固有に作り出されるルール/知能

•  11/13: ことばを使わないコミュニケーション ü 例) 人にぶつからないように街を歩く

Ø  コミュニケーションしていないと思っても,コミュニケーションしてしまっている

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前回の補足: 解釈の多義性と曖昧さ

•  コミュニケーションの分析には,人それぞれに様々な解釈が存在してよい ü 文脈/関係性によっては… ü 自分だったら…

•  解釈の多義性を許容し,コミュニケーションできること自体が高度な知能 ü 分析者が多義的に感じることは,当事者も多義的に感じているはず

ü そもそも社会的行為の「意味」は1つに決まらない

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体験を伝える身体

•  身体を使ったコミュニケーション ü パラ言語

Ø  イントネーション,ポーズ,声のトーン… ü 非言語

Ø  ジェスチャー,視線,姿勢,身体の向き…

•  身体は情報を必然的に “伝達してしまう” ü 「話しはやめることができても,身体によるコミュニケーションはやめることはできない」(Goffman, 1963)

ü 身体には,その人の体験や理解が表出される

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「体験の語り」における お笑い芸人のわざ

•  お笑い芸人の語り ü 身体の「わざ」を多用した体験の語りに長けている

Ø  声のトーン/大きさ,間の取り方,ジェスチャー,表情…

•  笑福亭鶴瓶の話術 ü 「鶴瓶噺」

Ø  最近の面白かった出来事をひたすら語り続ける独演会

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言語的メッセージと表出的メッセージ

•  表出的 (身体的) メッセージ (Goffman, 1963) ü 偶発的な or 何気ない or 意味あり気な,情報伝達

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言語的メッセージ (慣習化したジェスチャーを含む) 表出的 (身体的)メッセージ

メッセージ の内容

世界のあらゆること ※送り手と話題に関係はない 送り手自身のこと

意味への 社会的合意 強い 弱い

メッセージの 蓄積度合い

強い e.g. 翻訳される/法的根拠となる 弱い

意図性 「意図的である」と “一般的に” 思われている

「意図的でない」と “一般的に” 思われている

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ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

Page 8: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

言語的メ

セー

としてのジ

スチ

表出的メッセージとしてのジェスチャー

Page 9: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

言語的メ

セー

としてのジ

スチ

表出的メッセージとしてのジェスチャー

Page 10: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

エンブレム: 慣習化されたジェスチャー

•  エンブレム (emblem) ü  形と意味が社会習慣として定まっている

Ø  形と意味の関係は恣意的 Ø  文化によって違う意味を持つ

ü  発話を伴わない Ø  e.g. 「会釈」するだけで「挨拶」を意味する Ø  ふつう,ジェスチャーは発話と一体で意味をなす

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Page 11: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

4種類のエンブレム

•  遂行的エンブレム (performative emblem) ü  社会的行為の「遂行」を意味する

Ø  e.g. 会釈,OKサイン •  単語的エンブレム (word-like emblem)

ü  行為の遂行とは直結せず,単語的に使われる Ø  e.g. お金

•  表出的エンブレム (expressive emblem) ü  心理状態を表出することが第一の目的

Ø  相手が自分を見ていなくても使用される Ø  e.g. ガッツポーズ,安堵で胸に手を当てる

•  メタ談話的エンブレム (meta-discursive emblem) ü  発話の一部にならず,発話のつながりをメタ的に示す

Ø  e.g. うなずき 11

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ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

言語的メ

セー

としてのジ

スチ

表出的メッセージとしてのジェスチャー

Page 13: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

発話に伴う自発的ジェスチャー: ビートと表象的ジェスチャー

•  自発的ジェスチャー (spontaneous gesture) ü 形と意味が慣習的に完全には定まっていない ü 発話に伴って自然に出る ü 拍子 (ビート) と表象的ジェスチャーに分けられる

ü 拍子 (ビート) Ø  上下左右に刻むように動く Ø  発話内容によってジェスチャーの形は変わらない

ü 表象的ジェスチャー Ø  形と意味の関係に自由度があるジェスチャー

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ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

言語的メ

セー

としてのジ

スチ

表出的メッセージとしてのジェスチャー

Page 15: 2014年秋学期「人工知能論」(2014年11月6日分)

表象的ジェスチャー: 直示的ジェスチャーと描写的ジェスチャー

•  直示的ジェスチャー ü 身体を使って,方向・場所・事物を指し示す

Ø  e.g. 指差し ü ジェスチャーと指示対象との「隣接性」を示す

•  描写的ジェスチャー ü ジェスチャーと指示対象との「類似性」を示す ü 映像的ジェスチャー

Ø  動作や空間的な出来事・状態を示す ü 暗喩的ジェスチャー

Ø  抽象的な対象を空間化して表現する 15

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ジェスチャーの種類 (McNeill, 1992; 喜多, 2002)

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ジェスチャー

エンブレム

遂行的エンブレム 単語的エンブレム 表出的エンブレム メタ談話的エンブレム

自発的 ジェスチャー

拍子 (ビート)

表象的 ジェスチャー

直示的 ジェスチャー

描写的 ジェスチャー

映像的 ジェスチャー 暗喩的 ジェスチャー

言語的メ

セー

としてのジ

スチ

表出的メッセージとしてのジェスチャー

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映像的ジェスチャー: 一人称視点と三人称視点

•  演技的表現法 ü 登場人物の動作を演じるように身体を動かす ü 一人称視点で表現する

•  客体化表現法 ü 手で登場人物や物を表現し,人形劇のように動かす ü 三人称視点で表現する

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複合的/連鎖的に組み立てられる ジェスチャー

•  鶴瓶の語りの場合 ü 登場するジェスチャーの種類

Ø  直示的ジェスチャー,ビート,客体化表現法,演技的表現法 ü 複数のジェスチャーの機能を複合的に使っている ü 一人称/三人称視点を連鎖的に使い分ける (例) p  じーっとみんなも見てるんですよね.(一人称+三人称視点) p  『飛ぶの嫌やからなあ』とか言うてるんですよ.(一人称視点) p  『必ず汚すねん』とか言うて.(一人称視点) p  この二人は,(三人称視点) p  『何言うてんねやろおっさん』みたいな (一人称+三人称視点)

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まとめ

•  体験を伝える身体 ü 身体には,その人の体験や理解が表出される

•  様々なジェスチャー ü 言語的メッセージと表出的メッセージ ü 複合的なジェスチャーやその連鎖に,芸人たちの「わざ」が現れる

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参考文献

1.  Goffman, E. (1963). Behavior in Public Places: Notes on the Organization of Gatherings. The Free Press. (丸木 恵祐, 本名 信行 (訳) (1980). 『集まりの構造―新しい日常行動論をもとめて』. 誠信書房.)

2.  喜多 壮太郎 (2002). 『ジェスチャー―考えるからだ』. 金子書房. 3.  McNeill, D. (1992). Hand and Mind: What Gestures Reveal about Thought. University of Chicago Press.

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