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OECD経済審査報告書 日本 2019年4月 OECD 経済審査報告書 日本 2019年4月 概要 www.oecd.org/eco/surveys/economic-survey-japan.htm

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OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

OECD 経済審査報告書

日本 2019年4月

概要

www.oecd.org/eco/surveys/economic-survey-japan.htm

Page 2: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

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OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

この概要は、『OECD 対日経済審査報告書 2019 年版』の一部である。本報告書は、加盟 国の経済状況を審査する OECD の経済開発検討委員会(EDRC)の責任で発行されている。

この概要、及び概要に含まれる地図は、いかなる領域の地位・主権、国際的な国境およ

び境界、及び領域、都市または地域の名称を毀損するものではありません。

OECD 対日経済審査報告書© OECD 2019

自らの利用に供するため、OECD の出版物は、複写、ダウンロード、印刷することができ ます。また、出典として適切に OECD を引用し、著作権が保護される限り、OECD の出版 物、データベース、マルチメディア製品の抜粋を、自らの文書、プレゼンテーション、

ブログ、ウェブサイト、教材に含めることができます。公的または商業目的での利用、

翻訳の権利に関する問い合わせは、すべて [email protected] に行う必要があります。この 資料の一部を、公用または商業目的で利用するための許可については、Copyright Clearance Center (CCC) ( [email protected]) または Centre français d’exploitation du droit de copie (CFC) ( [email protected] ) に、直接ご連絡ください。

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主な結論 1

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

主な結論

成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している

経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

日本の財政の持続可能性を確保するためには詳細かつ具体的な計画が必要

雇用の障壁を取り除く

生産性の向上は、労働投入の減少の影響を相殺する上で重要

環境を改善し、気候変動を抑えることにより幸福度が向上

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2 主な結論

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

成長率は高まったが、日本は長期的な課題に

直面している

現在の日本の景気拡大局面は戦後最長となっ

ている。アベノミクスの三本の矢―大胆な金融政

策、機動的な財政政策及び構造政策―に支え

られ、一人当たり産出の成長率は 2012年以降

加速し、OECD平均付近に達した(図 A)。長

引く物価下落は終わり、財政赤字は 2012年の

対 GDP 比 8.3%から 2.4%程度にまで低下した。

図 A. 日本の一人当たり産出の

成長率は加速した

平均年率成長率

出典:OECD 経済見通しデータベース 。

12http://dx.doi.org/10.1787/888933953069

日本は人口の高齢化と高水準の政府債務とい

う相互に関連し合う課題に直面している。高齢

化の一部は平均寿命の延伸によって進行してい

る。2007 年に生まれた子供の2人に1人は

107 歳まで生きることが見込まれており、このこと

が労働市場に与える意味は大きい。高齢者の

生産年齢人口に対する比率は 2015年の 50%

から 2050 年には 79%に達し、OECD 加盟国の

中で最高水準を維持し続ける(図 B)。

高齢人口の増大は 1992 年以降社会保障経

費を急増させている。27 年続く財政赤字により、

政府の粗債務残高対 GDP 比は 2018 年に

OECD 加盟国の中で過去最高の 226%に達し

た。政府の試算では、人口高齢化により医療・

介護支出が 2060 年までに GDP 比で 4.7%上

昇すると見込まれている。支出が増加する一方、

高齢者一人当たりの生産年齢人口が 2.0 人か

ら 2050年には 1.3人にまで減少する中で、日本

の社会保障の持続可能性を確保するための措

置を講ずることは最優先の課題である。

図 B. 2050 年の日本の人口は

OECD 加盟国の中で最も高齢化が進行

備考: 65 歳以上人口の 20-64歳人口に対する比率。

出典: OECD 人口統計データベース 。

12http://dx.doi.org/10.1787/888933953088

経済成長は緩やかなペースで継続する見通

しとなっている

世界貿易の減速による輸出の弱含みに伴い、

経済成長は 2017 年以降減速している(図

C)。とはいえ、労働及び生産設備の不足と記

録的高水準の企業収益が設備投資と賃金を

下支えし、経済成長は 2020 年にかけて¾%程

度で推移すると見込まれる。2019 年 10月の消

費税率の8%から 10%への引上げの一時的な

影響は、これを緩和する財政措置によって 2014

年の税率引上げ時よりも小さくなると見込まれる。

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1997-2012 2012-18

Japan OECD

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USA CAN OECD GBR FRA DEU ITA JPN

2017 2050

Per cent

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主な結論 3

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 C. 経済成長は 2019年及び 2020年に¾%程

度で成長する見通しとなっている

2018 2019 2020

国内総生産 0.8 0.8 0.7

民間消費支出 0.4 0.6 -0.1

総固定資本形成 1.1 1.9 0.6

輸出 3.1 1.6 3.8

輸入 3.3 3.5 2.0

失業率 2.4 2.4 2.4

消費者物価指数 1 1.0 0.7 1.3

一般政府収支 (% of GDP) -2.4 -2.4 -1.9

1. 2019 年の消費税率引上げの影響を除く。

出典:OECD 経済見通しデータベース。

世界経済の不確実性が経済見通しの重荷とな

る。貿易摩擦が経済活動の見通しに翳りをもた

らし、投資やグローバル・バリュー・チェーンの攪乱

要因となっている。また、日本は中国の国内需

要の減速に対しても脆弱である。国内では、賃

金の成長が大きな不確実要因である。民間消

費を下支えする上では、基本給の上昇率の引

上げが重要である。

日本銀行は、リスクやその他の問題を考慮に入

れつつ、物価上昇率の目標が達成されるまでの

間、金融緩和を継続すべきである。消費者物価

指数の上昇率は 2016 年にマイナスを脱したが、

2%の目標を下回った状態が続いている。量

的・質的金融緩和の下で、中央銀行が保有す

る国債は GDP の 85%に達している(図 D)。

日本の財政の持続可能性を確保するために

は詳細かつ具体的な計画が必要

政府は現在、2025 年度の基礎的財政収支黒

字化を目標としている。期待を下回る経済成長、

累次の補正予算の編成、消費税率の8%から

10%への引上げの延期により、2018 年度の基

礎的財政赤字のメルクマールは達成されなかった。

加えて、2019 年の消費税率引上げによる追加

的な税収の一部を新たな社会保障支出に充て

ることが決定された。こうした状況の中で、2010

年に決定された 2020 年度の基礎的財政収支

黒字化目標は現実性を失った。日本は具体的

な歳出削減と税収増加策を盛り込んだ包括的

な財政健全化計画とともに、その実行を担保す

る財政政策の枠組みの強化を必要としている。

OECDの試算によれば、2060年までに政府債務

残高 GDP 比を 150%にまで低下させるためには、

GDP比5%から8%程度の基礎的財政黒字を

維持することが必要である。

図 D. 日本銀行の保有国債は劇的に増加した

1. 日本は 2019 年3月、米国は同年1月、スウェー

デンは 2018 年 11 月の値。

出典: OECD 経済見通しデータベース。

12http://dx.doi.org/10.1787/888933953107

歳出増加を抑制するには、医療・介護に焦点を

当てる必要があり、医療・介護に投入される資

源をより効率的に活用しつつ、質の高いケアを提

供することが求められる。優先的課題として、病

院における長期療養を介護にシフトさせるとともに、

在宅ケアに焦点を当てること、後発医薬品の更

なる使用促進、予防的ケアの改善が挙げられる。

日本の総人口が 2050 年までに5分の1減少し

て1億人程度となることが見込まれる中、多くの

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As a per cent of GDP, at the end of 2018¹

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4 主な結論

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

地域が人口減少に直面している。医療・介護や

社会資本を含め、行政区域を越えた公共サービ

スの共同運営やコンパクトシティの形成により、行

政運営の効率性が向上すると考えられる。

日本は主として消費税に依拠して歳入増加を図

るべきである。これは消費税が相対的に安定的

な財源であること、経済成長を阻害する効果が

小さいこと、世代間の公平性を改善する効果をも

つことによる。現行の8%の税率は OECD 加盟

国の中で最も低い部類に属する。十分な水準の

基礎的財政黒字を消費増税のみによって確保す

るためには、OECD平均である19%を超え、税率

を 20%から 26%の間の水準へと引き上げること

が必要となる。環境に関する税を現在の比較的

低い水準から引き上げることも有益であろう。さら

に、個人所得税の課税ベースの拡大は、格差や

労働供給に対する負の誘因を縮減させつつ税収

を増加させるであろう。雇用と成長を促進する政

策は財政健全化にとって決定的に重要である。

雇用の障壁を取り除く

労働市場への参入・退出率に変化が無いとの仮

定の下では、2050 年までに労働力人口は4分

の1減少する。 終身雇用、年功序列賃金、定

年制という日本の伝統的な雇用制度は人生

100 年時代への適合性を著しく欠くものであり、

女性や高齢者の雇用と労働市場の流動性を阻

害する。60 歳で再雇用される人々の多くが責任

が軽く賃金の低い非正規雇用に転じることを踏ま

えれば、企業が定年年齢を 60 歳に設定する権

利を廃止することは、雇用の拡大と生産性の向

上につながることとなろう。定年制の廃止はまた、

年功序列賃金の役割を低下させ、女性労働者

に多大な恩恵をもたらすと考えられる。

女性は雇用の障壁に直面しており、指導的地位

に占める割合も低い。例えば、衆議院で女性が

占める割合は約 10%に過ぎない。女性に対する

障壁を除去するには、i) 年間 360時間の残業規

制を厳格に運用し、仕事と生活の調和を図るこ

と、ⅱ) 保育所の待機児童を更に減少させること、

ⅲ) 早期の昇進を伴うキャリア・パスから女性を排

除する差別を廃することが必要である。賃金が低

い非正規雇用の3分の2を女性が占めることを

考えれば、労働市場の二重構造の打破も不可

欠である。このことは、所得格差や貧困をもたらす

重要な要因の除去にもつながることとなろう。

外国人労働者の役割の向上は不可欠である。

新たな在留資格が、比較的技能の低い外国人

に対し、労働力不足に直面する分野での就労を

認めたことは、これに向けた大きな一歩である。

生産性の向上は、労働投入の減少の影響を

相殺する上で重要

労働時間当たりの生産量は OECD 加盟国の上

位半数と比べて4分の1以上低い(図 E)。

政府は 2020年までに労働生産性の伸び率を倍

増させ、2%とする目標を設定した。鍵を握る分

野の一つはコーポレートガバナンス改革であり、これ

を通じて企業が保有する多額の現金が設備投

資や賃金へと振り向けられる可能性がある。

2015 年に日本はコーポレートガバナンス・コードを

導入したが、これまでのところ、主な変化は実質

面よりも形式面に表れてきた。政府は同コードの

実施、とりわけ、政策保有株式の減少や取締役

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主な結論 5

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

会の多様性の向上の状況を緊密に監視すべきで

ある。

図 E. 日本の労働生産性は低く、

労働投入量は多い

OECD加盟国の上位半数と日本の比較(2017年)

出典:OECD 経済見通しデータベース。

12http://dx.doi.org/10.1787/888933953126

もう一つの優先課題は中小企業に係る改革で

ある。中小企業に対する手厚い政策支援にも関

わらず、2017 年度における大企業製造業の生

産性は中小企業よりも 2.5 倍高く、国際的に見

て大きな生産性格差がある(図 F)。生産性格

差の是正は包摂的成長の実現のために不可欠

である。政府は中小企業に対する信用保証及び

保証債務の比率を縮減させた。更なる支援の縮

減は、金融機関による適切な監督と、中小企業

の生産性向上への動機を強化することにつながる

であろう。起業を促進し、個人保証の活用を減

少させる政策を首尾よく実行することで、革新的

な企業の創造が加速されよう。中小事業主の高

齢化は、事業承継の問題を引き起こす一方、規

模の経済を実現する機会をも提供する。

環境を改善し、気候変動を抑えることにより幸

福度が向上

日本は二酸化炭素排出量及び大気汚染の減

少という課題に直面している。日本はより効率的

な火力発電所の新設を計画している。とはいえ

火力発電所は他の発電所よりも多くの二酸化

炭素を排出する。優位性を増しつつある再生可

能エネルギーの使用拡大は、二酸化炭素排出量

の減少と大気の質の改善をもたらしうる。そのため

には、電力市場への参入促進が必要である。既

に高水準となっている電力価格や日本で経済社

会に及ぼす影響を考慮に入れつつ、徐々に炭素

価格を引き上げることは、費用対効果の高い方

法で排出削減を達成し、日本の高いエネルギー

効率を更に向上させるための選択肢の一つとなろ

う。

図 F. 日本における大企業と中小企業の

生産性格差は大きい

製造業における一人当たり産出量

出典:財務省。

12http://dx.doi.org/10.1787/888933953145

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GDP per capita Labour productivity Labour input

Percentage difference

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2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017

Million yen

SMEs in manufacturing

Large enterprises in manufacturing

FY

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6 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

主要な事実 主要な提言

金融政策と金融セクター

消費者物価上昇率は2%の目標を下回っている。 費用とリスクとを緊密に監視しながら、物価上昇率が持続的に2%の

目標を上回るまでの間、金融緩和を継続すべきである。

金融機関はより積極的にリスクを負担するようになっており、低収益の

借り手や不動産、海外の借り手、投資信託に対する資金供給を拡大

している。

金融監督当局は金融機関に対し、リスク負担が増大している分野にお

けるリスク管理の改善を促すべきである。

労働力人口減少の緩和

2016 年時点で 81%の企業が定年年齢を 60 歳に設定している。再

雇用された労働者は賃金が低く、技能が十分に活用されない非正規

雇用の下に置かれる傾向がある。

企業が定年年齢を設定する権利を廃止するとともに、年齢差別を禁じ

る立法措置を強化すべきである。

日本において長時間労働を行う労働者の割合は高く、家計における二

番目の稼得者や高齢者の雇用を阻害している。

新たな 360 時間の残業規制を厳格に運用し、違反事業者に対する

罰則を強化すべきである。拘束力のある最低限の勤務間インターバルを

導入すべきである。

約半数が非正規労働者であるものの、15-64 歳の女性の就業率は

2012 年の 60.7%から 2018 年の 69.6%へと上昇した。公的及び民

間部門の指導的地位に占める女性の割合は、OECD 加盟国の中で

最も低い。この結果、男女の賃金格差は OECD 加盟国の中で三番

目に大きい 25%となっている。

保育所の待機児童の解消に焦点を当て、子供を持つ女性が労働市

場からの退出を余儀なくされることを無くすとともに、教育と雇用におけ

る女性差別を防止する措置を強化 すべきである。

外国人労働者が労働力人口に占める割合は2%であり、OECD 加

盟国の中で最も低い。最近の立法が新たな在留資格を定め、労働力

不足に直面する分野において、外国人が最大5年間就労することを

認めている。

教育も含め、外国人が日本に順応することを支援するプログラムを提供

するとともに、賃金の公平な処遇と外国人労働者を呼び込むために必

要な諸条件を確保すべきである。

生産性の向上

現在のところ、実質よりも形式が先行しているものの、2014 年のスチュ

ワードシップ・コードと 2015 年のコーポレートガバナンス・コードは変化をも

たらした。株式の相互持合いと現金準備は高水準である一方、取締

役会における女性や外国人の比率は低い。

コードの原則の履行を注意深く監視し、多額の現金準備を投資に振り

向けること、取締役会の多様性の向上、株式の相互持合いの減少を

促すべきである。

中小企業は生産性において大企業を大きく下回るとともに、企業規模

も小規模にとどまる傾向がある。高齢化した中小事業主の多くは後継

者を見つけることができていない。

労働力不足に直面する中小企業の合併や事業分割・譲渡を促し、生

存能力のある企業への経営資源の統合を推進すべきである。

持続可能な財政の実現

日本の粗政府債務残高は 2018年に対 GDP 比 226%に達してお

り、税収を現在の低い水準から引き上げ、高齢化に関連する社会支

出の増加傾向に歯止めをかけない限り、否応なく増大し続ける見通し

である。

具体的な歳出削減策と、更なる漸進的な消費税率の引上げを含め

た税収増加策とを備えた包括的な財政健全化計画を策定し、財政の

持続可能性を確保すべきである。

日本における平均入院期間は OECD加盟国の中で最も長い一方、

一人当たりの薬剤費は相対的に高い。受診頻度は OECD 平均を大

きく上回っている。

長期在院療養を縮減し、在宅ケアへと重点を移すべきである。後発医

薬品を医療保険の償還基準とすることでその使用を更に促進するとと

もに、所得と資産を評価する有効なシステムを通じて応能負担原則を

確立することにより、高齢者の自己負担率を引き上げるべきである。

人口減少が地方行政や社会資本の投資と維持管理における規模の

経済の発揮を阻み、公共サービスの持続可能性を脅かしている。

公共サービスや社会資本の行政区域を越えた共同運営やコンパクトシ

ティの形成を推進すべきである。

基礎年金制度に拠出を行う人口の割合の低下は、公的年金を受給

する高齢者の比率の低下につながる。 年金給付のマクロ経済スライド

は所得代替率を低下させる可能性が高く、既に高水準となっている高

齢者の貧困率を引き上げる可能性がある。

高齢者の雇用を拡大する措置を講じつつ、年金の支給開始年齢を 65

歳以上に引き上げ、十分高い水準の所得代替率を維持すべきであ

る。配偶者控除など、労働参加を阻害する税制や社会保障給付制

度のゆがみを取り除く一方、被用者保険の対象を拡大すべきである。

グリーン成長の促進

日本は温暖化ガス排出量を 2030年までに 2013年の水準から 26%

削減するとの目標の実現に向けた戦略を備えている。2050 年までの温

暖化ガス排出量の 80%削減に向けた同様の計画は存在していない。

2050 年を視野とする温室効果ガスの低排出型の発展に向けた戦略

を策定すべきである。

10 地域に分割され、垂直統合された既存事業者による独占を伴うと

ともに、送電網の統合が限定された電力システムは、再生可能エネルギ

ー発電の急速な拡大に向けた誘因を弱めている。既存事業者は 2020

年から、法的に分離された送配電会社の設立を求められている。

送配電業者が垂直統合された既存電力事業者から十分に独立する

ことを確保して電力市場における競争を促進するとともに、地域間連系

線の容量を拡大すべきである。

電力料金は高水準である一方、日本における二酸化炭素排出に対す

る価格設定は、多くの場合、実効炭素価格に着目する気候変動費用

の基準値よりも低くなっている。

経済社会に及ぼす影響を考慮しつつ、実効炭素価格を徐々に引き上

げるべきである。

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主要政策に関する洞察 7

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

主要政策に関する洞察

2012 年後半に始まった現在の景気拡大は、戦後日本史の中で、最速ではないものの最長

に達した。成長率は、アベノミクスの開始以降、1997-2012年の年率 0.5%から 1.3%へと高

まった(図1、パネル A)。同時に、持続的な物価下落は、低位とは言え正の物価上昇へ

と転じ、名目成長率を 1.7%まで高めることに貢献した。一人当たり産出の成長率は OECD

平均に向かって収束している(パネル B)。さらに、生産年齢人口一人当たり産出は就業率

とともに顕著に高まった。しかしながら、労働生産性の伸びは停滞している。

図 1. アベノミクスにより経済成長は加速し物価上昇率は上昇

年率平均変化率 1

1. 20-64 歳。

出典: OECD 経済見通しデータベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953164

アベノミクスの三本の矢 — 大胆な金融政策、機動的な財政政策、そして成長戦略— は、

20 年に及ぶ日本の経済成長の停滞を克服することに貢献した。日本銀行の量的・質的金

融緩和は、2016 年以降長短金利操作とマイナス金利とを伴い、物価上昇率が2%の目

標水準を下回るとは言え、物価下落を終わらせた。財政政策は時宜に適った下支えを行う

一方で、2012 年から 2018 年の間に基礎的財政赤字を GDP 比 5%程度減少させることに

寄与した。成長戦略には、コーポレートガバナンス・コードの導入や法人税率の大幅な引下げ

などの歓迎すべき改革が盛り込まれた(表1)。保育の受け皿の拡大は女性の就業率の

急速な上昇を促進してきた。日本はまた、外国人労働者の役割の拡大に向けた対策を講じ、

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0.5

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2.5

1997-2012 2012-18 1997-2012 2012-18

Japan OECD

Per capita output Output per working-age population¹

Annualised percentage change

-1.5

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Real output Inflation (GDPdeflator)

Nominal output

A. Output growth and inflation in Japan

1997-2012 2012-18

Annualised percentage change

B. Per capita output growth in Japan and the OECD

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8 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

自由貿易協定にも積極的に参画してきた。しかしながら、労働生産性の上昇率は 2012 年

以降、年率 1.0%に鈍化している。

安倍総理は急速な人口高齢化を「最大の課題」と述べた。日本の生産年齢人口(20-64

歳)は 2000 年以降 12%減少したが、ドイツでは2%の減少であり、他の G7諸国では増

加している(図2、パネル A)。65歳以上人口の生産年齢人口に対する比率は、2000年

の 26%から 2015 年の 50%へと上昇した。労働力参加率の顕著な上昇にも関わらず、日

本は深刻な労働力不足に直面し、企業が操業の縮小や廃業を余儀なくされたり、サービスの

質の低下がもたらされたりしている(Morikawa, 2018)。

表 1. アベノミクス開始以降に実施された主要な改革

改 革 目 的 実施された行動

1. コーポレートガバナンスの強化 コーポレートガバナンスの強化、上場企業や金融

機関を支える経営の改善及びファンダメンタルズ

の強化を通じて、持続的に企業価値を向上さ

せる。

2014 年前半に公表されたスチュワードシップ・コ

ードは 200 を超える機関投資家が受け入れてい

る。2015 年に公表されたコーポレートガバナンス・

コードは、2,500 を超える企業に適用されてい

る。東京証券取引所一部上場企業のうち、2

人以上の独立社外取締役を選任する企業の

割合は、2014 年の 22%から 2017 年の 88%

へと上昇した。

2. 法人税改革 企業に対し、より一層の投資と賃金の引上げを

促す。

課税ベースを拡大しつつ、法人税率は 2013 年

度の 37%から 2018 年度の 29.74% へと引き

下げられた。この間の国の法人税収の増加は

17.2%と見込まれている。

3. 女性の参画と社会進出の拡大 子供を持つ女性に適した労働環境を整備する

とともに、事業環境を改善し、職場における女

性のキャリア・アップを推進する。

2013-2017 年度に、日本は保育施設を 53 万

か所、学童保育を 30 万か所増加させた。これ

らは、女性就業率が 2012 年の 60.7%から

2018 年には 69.6%まで上昇することに寄与し

た。

4. 外国人材の受け入れ 技能を備えた外国人材が積極的な役割を果た

すことのできる環境を創出する。外国人労働者

に対する日本の技能実習制度の抜本的な見

直しを行う。

2017 年に政府は、高度な技能を持つ外国人

材向けの「日本版グリーンカード」を導入し、永住

権の申請が可能となるまでに必要な在留期間

を短縮した。2018 年に政府は、建設、農業、

介護など労働力の拡大を必要とする産業分野

における専門性を備えた即戦力となる外国人

労働者に対し、新たな在留資格を認めた。

5. 農政改革 農業を成長産業にし、農業・農村の所得を倍

増させる。企業の経験を活用しつつ、農業に対

する民間部門の参加を加速する。

農家が政府の定める生産数量目標の配分によ

るのではなく、需要に応じて米を生産することを

可能にするため、2018 年度に行政による主食

用米の生産数量目標の配分を廃止した。農業

生産法人が農地を所有するために充足すべき

要件は緩和され、農協改革が実行された。

6. 国際貿易の推進 自由で公正かつルールに基づく市場アクセスを

世界中で拡大する。日本において自由貿易協

定の対象となる国際貿易の割合を 24%から

70%へと拡大する。

日本は環太平洋パートナーシップに関する包括

的及び先進的な協定と日・EU 経済連携協定

を批准し、それぞれ 2018 年 12 月と 2019 年

2月に発効した。

出典: 日本政府、OECD。

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主要政策に関する洞察 9

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

高齢者人口は OECD 加盟国で最高水準を維持し、2050 年までに生産年齢人口の 79%

に達する見通しである(図2、パネル B)。日本人の平均寿命は 1960年の 68歳から世界

最高の 84歳に達し、健康寿命もまた同様に 75歳に達している(パネル C)。2007年に生

まれた子供の2人に1人は 107 歳まで生きることが見込まれている。他方、出生率は 2007

年の 1.3 から 2016 年の 1.4 に上昇したものの、OECD 平均の 1.7 を下回る。2007 年以降

は死亡者数が新生児数を上回っている。2016 年の新生児数は 100 万人を割り、1899 年

の統計開始以降で最少となった。日本の人口は 2020 年代に 620 万人減少した後、2030

年代に 820 万人減少すると見込まれているが、これは東京都の人口を失うことに相当する。

この結果、総人口は 2050 年までに5分の1減少して1億人程度となる見通しである(パ

ネル D)。人口減少は環境問題や気候変動の減少、渋滞の緩和、住居費の低下など幸

福度の観点からの利点がいくつもある。しかしながら、より少ない人口への移行過程には、必

然的に数多くの課題やリスクが伴う。

人生 100 年―あるいはそれ以上―の見通しは、個人にとっては生活のあらゆる側面の根本

的な変化につながるような数多くの機会とリスクを伴うものである。人生の長期化を不幸の元

凶ではなく祝福すべきものとするためには、見識ある政策が必要である。幸福度の向上(以

下参照)や良好な健康状態、仕事と生活の調和、変化に対する柔軟な適応は、人生 100

年時代において一層重要なものとなる。包摂的な成長は、寿命の延伸とりわけ健康寿命の

延伸を、高所得者のみに限られたものとしないために不可欠である。実際に、貧富の間での

平均寿命の格差は拡大してきている(Bosworth et al., 2016)。

日本は高齢化社会の先頭を行く国であり、世界の国々は日本が追求する政策改革やイノ

ベーション、試行を注視するであろう。人口構造の変化がもたらす重要な課題の一つは、労働

力の縮小である。性別・5歳階級別の労働市場への参入・退出率が不変と仮定すると、日

本の労働力人口は 2050年までに 6,700 万人から4分の1減少して 5,100万人となるであ

ろう(図3)。労働政策や労働慣行を改革し、老若男女全ての労働供給意欲を減退させ

る障壁を取り除くことにより、労働力の減少に歯止めを掛けることができよう。例えば、5分の

4の企業が採用している 60 歳定年制は時代遅れである。さらには、教育・勤労・退職の三

段階を明確に定義する慣行は、人生100年時代にもはや適合しない(Gratton and Scott,

2017)。10 代及び 20 代前半の若者向けの教育は、職業人生が 70 代、果ては 80 代ま

で続き、また、とりわけ技術の急激な変化の中で何度かの転職が生じうることを考えれば、十

分とは言えなくなるだろう。労働者は職歴の長期化を歓迎するかも知れない。最近の政府の

調査では 71%の高齢者が現行の定年年齢に達した後も働きたいと回答している(Cabinet

Office, 2017a)。労働者のキャリアの延長を許容し、女性の就労にとっての障害を取り除く

政策は、人口構造の変化の影響を緩和することに寄与するであろう。

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10 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 2. 日本では人口高齢化は早い段階で到来し、急速に進行している

1. データが利用可能な国について、2018 年第4四半期の数値に基づく。生産年齢人口は 20-64 歳。

2. 65 歳以上人口の 20-64 歳人口に対する比率。

出典:OECD 人口統計データベース、World Health Organization (2018) 「世界保健統計 2018」。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953183

人口構造の変化はまた、日本の財政状況にも多大な影響を及ぼしつつある。公的社会支

出は 1991 年の GDP 比 11%から 2018 年の 22%へと倍増し、OECD 平均を上回った。社

会支出の約 80%は年金、医療・介護経費であり、OECD加盟国中2番目に高い比率とな

っている。27 年に及ぶ財政赤字の結果、政府の粗債務残高対 GDP 比は 1991 年の 60%

から 2018 年の 226%にまで上昇し、OECD 加盟国の歴史上最高水準に達している(図

4)。現在予定されている計画が実行される前提に立った上で、人口高齢化は 2020 年か

0

10

20

30

40

50

60

70

80

USA CAN OECD GBR FRA DEU ITA JPN

B. Japan's elderly dependency ratio will remain the highest²

2017 2050

Per cent

-15.0

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

A. Japan's working-age population has already fallen significantly¹

Total population Working-age population

Percentage change, 2000-18

65

70

75

80

85

UnitedStates

Germany UnitedKingdom

Canada Italy France Japan

C. Life expectancy in Japan is the longest in the world

Life expectancy Healthy life expectancy

Years

0

20

40

60

80

100

120

140

160

1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

D. Japan's total population is projected to drop to around 100 million

0-19 years

20-64 years (working-age population)

65 years and older

Millions

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主要政策に関する洞察 11

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

ら 2060 年にかけて、社会支出を GDP 比で更に 4.7%増大させることが見込まれている

(Cabinet Secretariat et al., 2018; Fiscal System Council, 2018)。

図 3. 日本の労働力人口は大幅な減少に直面している

備考: ベースラインは性別・5歳階級別の労働市場への参入・退出率が一定と仮定。「定年延長シナリオ」では、

男女ともに 55 歳から 74 歳までの5歳階級それぞれについて、労働市場からの退出率が 10%低下することを仮

定。「男女格差の是正シナリオ」では女性の各年齢階級の労働力参加率が男性と同等の水準に収れんすること

を仮定。

出典: OECD人口・労働力見通しデータベースに基づく OECDの試算。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953202

図 4. 日本の財政状況は 1990年代以降かなり悪化している 1

対 GDP 比、%

1. 2018 年は OECD試算。

出典:OECD 経済見通しデータベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953221

40

45

50

55

60

65

70

40

45

50

55

60

65

70

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050

Observed

Constant entry/exit rates

Delayed retirement

Closing the gender gap

Delayed retirement and closing the gender gap

Millions Millions

0

50

100

150

200

250

1990 1995 2000 2005 2010 2015

A.Gross government debt

Japan United States

Greece OECD

Per cent of GDP

25

30

35

40

45

1990 1995 2000 2005 2010 2015

B. Government spending and revenue in Japan

Total expenditure

Total revenue

Per cent of GDP

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12 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

このような日本の人口の急速な高齢化と縮小を背景に、本経済審査報告書は以下を主要

なメッセージとしている。

労働投入が減少する中、コーポレートガバナンスの改善や中小企業の活性化策を含

む大胆な改革により、生産性の加速と包摂的成長を促進することが必要である。

財政の持続可能性を確保するためには、急速な高齢化に直面する中で歳出を抑制

するための方策や、2019 年の消費税率の引上げに続く歳入の漸進的な増加を含む

詳細な財政健全化計画が求められる(第2章)。

日本が人的資源を最大限に活用し、これによって労働力人口の減少の影響を抑え

るためには、抜本的な労働市場改革が最優先の課題である(第1章)。

そのような政策は、労働供給に対する障害を除去するとともに、年金や医療・介護を提供す

る社会保険制度の持続可能性を確保することを通じて、幸福度の向上にも貢献する(図

5)。日本人の働き方に変化をもたらすような労働市場の改革は、仕事と生活の調和を改

善し、健康に悪影響を及ぼしうる長時間労働の負担を低下させるであろう。2016 年において、

22%の労働者が週に 49時間以上働いていた。平均寿命の長さにも関わらず、自らを健康と

考える成人の割合は、OECD 平均の 69%に対し、日本では 35%に過ぎない。日本はまた、

主観的幸福感でも OECD 平均を下回っている。労働市場改革はまた、歴史的に労働市場

における雇用障壁に直面してきた人々、とりわけ女性と高齢者にとっての障害を取り除くこと

で社会の包摂性を促進するであろう。OECD 加盟国で最高水準の日本人の読解・計算能

力は、労働市場改革の基盤を提供する。

図 5. 日本の幸福度指標は入り混じった姿を示している

備考:幸福度を構成する各分野はいずれも、OECD 幸福度指標における 0 から 4 までの指標によって計測され

ている。標準化された指標の単純平均。

出典:OECD (2017), OECD幸福度指標、www.oecdbetterlifeindex.org。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953240

34 3331

28

24

2219

17

13

7 6

Civicengagement

Health status Work-lifebalance

Subjectivewell-being

Housing Socialconnections

Environmentalquality

Personalsecurity

Jobs andearnings

Education andskills

Income andwealth

Country rankings from 1 (best) to 35 (worst), 2017

20% top performers 60% middle performers 20% bottom performers Japan

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主要政策に関する洞察 13

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

OECD 平均付近にある環境の質を改善することもまた、幸福度の向上をもたらすであろう。日

本の人口の多くは世界保健機構の指針値を超えるレベルの微小粒子状物質の汚染に晒さ

れており、大気汚染による早期死亡率は高所得国の中では高いとの推計がある(以下参

照)。

経済成長はピークを越えたが、緩やかなペースで継続する見通し

2017 年に 1.9% のピークに達した後、経済成長率は 2018 年に 0.8%へと鈍化した。これま

での成長は、日本の輸出の半分以上を占める中国及び他のアジア諸国が主導する輸出の

成長によってけん引されてきた(図6)。加えて、訪日外国人旅行者は 2011-18 年にかけ

て年率平均 26%で成長し、旅行収入がサービス輸出に占める比率を8%から 21%へと押し

上げた。しかしながら 2018 年に、世界貿易が減速し貿易摩擦が増大する中、米国、中国、

その他アジア諸国への輸出は停滞した(図7、パネル A)。加えて、累次の台風や北海道

地震といった自然災害が 2018 年第3四半期の生産と輸出を阻害し、民間消費と設備投

資の低下をもたらした 。

経済成長は、民間消費と設備投資に支えられ、2019 年に ¾ %程度を維持する見通しであ

る(表2)企業の業況判断は、製造業においては 2017 年末のピークから低下したとは言え、

非製造業では高水準を維持している(図7、パネル B)。生産年齢人口の急激な減少は、

女性を中心に就業率が 2012 年の 70.6%から 2018 年の 76.9%へと急速に上昇することに

よって相殺されてきた。それでもなお、労働力不足はより深刻になってきている(パネル C)。

失業率は 2.5%付近にまで低下し、有効求人倍率は 1974 年以来の最高水準に達している

(パネル D)。

労働市場のひっ迫にも関わらず、実質賃金は 2014 年初めの水準を下回っている(パネル

E)。所得の成長の弱さは、2012 年以降の民間消費の年率成長率を一人当たりわずか

0.6%と、一人当たり産出の 1.5%の成長ペースを大きく下回る水準にとどめている。しかしな

がら、2018 年は、大企業における夏季賞与の 8.6%及び冬季賞与の 6.1%の上昇を受け、

実質賃金の反発が見られた。基本給の引上げを加速させるため、政府は年3%以上の賃

金引上げと一定の基準を上回る設備投資を行う企業に対し、3年間の税額控除を実施し

た。政府はまた、中位所得の 40%にとどまる最低賃金を、毎年3%引き上げている。

企業は生産能力の不足を訴えており(図7、パネル C)、記録的高水準の企業収益とあ

いまって、設備投資を促進している(パネル F)。加えて、政府は設備や人的資源に対する

投資を行う企業への税額控除措置を実施している。これらの要因は、2020 年の東京オリン

ピックに関連する固定資本投資の増加が徐々に弱まる中でも、設備投資を支える可能性が

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14 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

高い。他方、2019 年第1四半期は生産が低下することが予想されているが、これは設備投

資を減速させるかも知れない。

政府は 2019 年 10 月に予定されている消費税率の8%から 10%への引上げの影響を緩

和するため、臨時的な財政措置を計画している(以下参照)。これらの措置により、2014

年に消費税率が5%から8%へと引き上げられた後に見られた成長の急激な減速が再び

引き起こされることは回避され、2020 年の経済成長は ¾ %程度を維持することが見込まれ

る。

図 6. 2017年における日本の輸出の仕向け地別・種類別の構成

出典: OECD 国際貿易統計データベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953259

13%

19%

19%

36%

13%

A. Goods by destination

Europe

United States

China

Other Asia

Other

17%

25%

12%

32%

14%

B. Services by destination

Europe

United States

China

Other Asia

Other

10%

23%

13%23%

19%

12%

C. Goods by sector

Chemicals andrelated productsGeneral machinery

Electrical machinery

Transport equipment

Other manufacturedproductsOther

18%

18%

6%22%

22%

14%

D. Services by sector

Transport

Travel

Financial service

Charges for the use ofintellectual propertyBusiness services otherthan ICT and telecomOther

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主要政策に関する洞察 15

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 7. 主要経済指標

1. 業況が「良い」と回答した企業の割合と業況が「良くない」と回答した企業の割合の差。

2. 労働力が「過剰」と回答した企業の割合と「不足」と回答した企業の割合の差、及び生産能力が「過剰」と回

答した企業の割合と「不足」と回答した企業の割合の差。

3. 従業員数 30 人以上の事業所に基づく季節調整後の計数(3か月移動平均)。

4. 帰属家賃を除く消費者物価指数により実質化。

出典:日本銀行、厚生労働省、内閣府、財務省。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953278

2014 2015 2016 2017 201860

65

70

75

80

85

90

95

100

Corporate profits

Business investment

Annualised (SA) billion yen

95

100

105

110

115

120

125

130

135

2014 2015 2016 2017 2018 2019

A. Exports are stagnant

United States

China

NIEs and ASEAN

Index Jan 2014 = 100, three-month moving average

0

4

8

12

16

20

2014 2015 2016 2017 2018 2019

Manufacturing

Non-manufactuing

Diffusion index, %pts

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

2014 2015 2016 2017 2018 2019

D. Labour market conditions continue to tighten

Unemployment rate (left scale)

Job openings-to-applicants ratio (right scale)

Job openings-to-applicants ratio for regular workers (right scale)

% of labour force Ratio

-35

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

2014 2015 2016 2017 2018

C. Firms have shortages of capacity and labour

Firms' perception of their own capacity utilisation

Firms' perception of their own labour situation

Diffusion index, %pts²

98

99

100

101

102

103

104

105

2014 2015 2016 2017 2018 2019

E. Wages have been pushed up by bonus payments

Nominal wages

Real wages

Index 2014 = 100³

Total

B. Business confidence has weakened in manufacturing1

F. Business investment is supported by record-high profits

4

2019

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16 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

表 2. マクロ経済指標と見通し

年率変化率、特に断りのあるものを除き実質値 1

2016 2017 2018 2019 2020

国内総生産(GDP) 0.6 1.9 0.8 0.8 0.7

一人当たり国内総生産 0.8 2.1 1.0 1.1 1.0

民間最終消費支出 -0.1 1.1 0.4 0.6 -0.1

政府最終消費支出 1.4 0.3 0.8 0.8 1.0

総固定資本形成 -0.3 3.0 1.1 1.9 0.6

公的固定資本形成 2 -0.3 0.7 -3.2 3.2 -1.2

住宅投資 5.9 2.1 -5.7 0.6 -1.6

民間企業設備投資 -1.5 3.9 3.9 1.8 1.5

国内最終需要 0.1 1.4 0.6 1.0 0.3

在庫投資 3 -0.1 0.0 0.2 0.1 0.0

国内総需要 0.0 1.4 0.8 1.0 0.3

財・サービスの輸出 1.7 6.8 3.1 1.6 3.8

財・サービスの輸入 -1.6 3.4 3.3 3.5 2.0

純輸出 3 0.6 0.6 0.0 -0.3 0.3

その他の指標

潜在 GDP 0.7 0.7 0.8 0.8 0.6

需給ギャップ 4 0.9 2.1 2.0 2.0 1.7

就業者数 1.0 1.0 2.0 0.6 0.0

労働力参加率 5 70.8 71.7 73.4 74.4 75.0

失業率 6 3.1 2.8 2.4 2.4 2.4

GDPデフレーター 0.3 -0.2 -0.1 0.3 1.3

名目 GDP 0.9 1.7 0.7 1.1 2.0

消費者物価指数 7 -0.1 0.5 1.0 0.7 1.3

コア消費者物価指数 7 0.4 -0.1 0.2 0.8 1.3

家計純貯蓄率 8 2.9 2.5 4.3 4.5 4.74

貿易収支 9 1.0 0.9 0.2 -0.4 0.0

経常収支 9 3.8 4.0 3.4 3.0 3.4

一般政府金融収支 9 -3.5 -3.0 -2.4 -2.4 -1.9

一般政府基礎的財政収支 9 -4.0 -3.9 -3.3 -3.3 -2.9

基調的政府基礎的財政収支 4 -2.7 -2.6 -2.0 -1.9 -1.3

粗政府債務残高 9 223.4 224.2 225.8 226.8 226.1

純政府債務残高 9 126.9 127.7 129.3 130.3 129.6

3か月銀行間市場金利、平均 0.0 0.0 -0.1 -0.1 -0.1

10 年国債金利、平均 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1

1. 2019 年3月 6 日に公表された「OECD 中間経済見通し」に基づき、2019 年3月8日に公表された 2018

年第4四半期の GDP 二次速報を考慮した値。

2. 公的企業を含む。

3. 国内総生産の成長率に対する寄与度(%ポイント)。

4. 潜在 GDP に対する比率(%)。

5. 15-74 歳人口に占める就業者の割合。

6. 労働力人口に対する割合(%)。

7. 2019 年 10 月に予定されている消費税率引上げによる影響を除く。図8の脚注1を参照。コア消費者物価

指数は OECD の定義に基づき、食品とエネルギー価格を除く。

8. 家計可処分所得に対する比率(%)。

9. 国内総生産に対する比率(%)。

出典:OECD 経済見通しデータベース。

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主要政策に関する洞察 17

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

賃金成長の加速は、民間消費を拡大し、消費者物価上昇率を日本銀行が目標とする

2%へと近付けるための鍵を握る。物価上昇率が 2018 年に高まったものの、これは基調的

というよりも、野菜価格やエネルギー価格の高騰によるものであった(図8)。すなわち、生

鮮食品を除いたコア物価上昇率は 1.0%程度で安定しており、食品とエネルギーを除いた

OECD の定義ではわずか 0.2%の上昇であった。2018 年における 2.2%の単位労働費用の

増加は、バブル経済の崩壊後最も大きなものであり、これが財・サービス価格の押上げに寄与

する結果、2019 年の物価上昇率は高まる可能性が高い。予定された8%から 10%への消

費税率の引上げと3歳から5歳に対する幼児教育・保育の無償化の影響を除けば、2020

年には物価上昇率は 1¼ %に達する見通しである。

図 8. 基調的な消費者物価上昇率は高まったものの、2%の目標水準を下回っている 1

1. 2014 年度の消費者物価上昇率を2パーセントポイント押し上げた 2014 年4月の消費税率引上げの影響を

除く。また、OECD による試算に基づき、2019 年第4四半期に 1.0 パーセントポイントの押し上げ効果が見込まれ

る 2019 年 10 月の消費税率引上げの影響、及び 0.5 パーセントポイントの押し下げ効果が見込まれる 3-5 歳に

対する幼児教育・保育の無償化の影響を除く。

2. OECD の定義による食品及びエネルギーを除いた指標。

出典: OECD 経済見通し第 104 号データベース、日本銀行。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953297

日本は世界経済の数多くの不確実性に直面し、負のリスクが増大している。貿易摩擦は企

業活動の将来に翳りをもたらし、投資及びグローバル・バリュー・チェーンを阻害する危険を増大

させている。米国及び中国が輸出の 38%を占めていることから、日本は米中の貿易摩擦に

対して特に脆弱である(図6)。他方、2018 年9月の日米共同声明に基づく米国との協

議中は、日本に対する新たな貿易制限措置は発動されない予定である。もう一つの国際面

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2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

Headline inflation

Core inflation²

Y-o-y % changes Y-o-y % changes

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18 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

でのリスクは、これまで新興市場の成長を支えてきた資本移動が逆流し、金利上昇局面に入

った先進国に流入することである。中国経済の更なる減速は、とりわけ日本に影響を及ぼす

ものと考えられる。国内では賃金の上昇が主要な懸念事項である。2018 年の賞与の上昇

は良い兆候と言えるが、民間消費を支える上では基本給のより力強い増加が重要である。

日本経済はまた、中心的な見通しシナリオでは考慮されていない外生的なショックに対して潜

在的な脆弱性を抱えている(表3)。

表 3. 日本経済が直面する可能性のあるショック

ショック 考えられる帰結

日本の財政の持続可能性に対する信認の喪失 実質金利の上昇により、金融セクターや実体経済が不安定

化し、世界経済にも大きな波及効果をもたらす可能性

主要な貿易相手国における保護主義の高まり 輸出及び設備投資の縮小とグローバル・バリュー・チ

ェーンの混乱

地震、津波、台風等の自然災害 夥しい数の人命喪失、経済活動の混乱、復興に係る膨大な

費用

日本銀行のバランスシートの大規模な拡大が過度の物価上昇に転化 家計の貯蓄の価値や実質賃金の下落、不確実性の増大、

金融政策態度の反転

財政政策:短期的な課題と長期的な持続可能性に対する脅威

2020 年度の基礎的財政収支黒字化目標に向けた3年間の大幅な健全化努力の後、

2017 年の財政政策は力強い成長に寄与した。2017 年は GDP 比 2.7%程度の基礎的財

政赤字が残され、2020 年度の黒字化目標は達成困難となっている。2018 年度に基礎的

財政赤字を GDP 比1%程度に縮減するというメルクマールが達成されなかったことは、 ⅰ)

経済成長が見込みよりも減速したことに伴う税収の不足や、ii) 当初 2015 年に予定されて

いた消費税率の引上げ(8%から 10%)が 2019 年まで再延期されたことを反映している

(Committee for Promotion of Integrated Economic and Fiscal Reform, 2018)。これらの

遅れに加え、税率引上げによる増収分の半分を幼児教育・保育の無償化やその他の社会

支出に充当することを決めたことで、2020 年度の目標は達成困難となった。

2010 年に設定された 2020 年度の財政健全化目標が達成できなかったことは、多くの

OECD加盟国において財政政策の改善、財政問題の明確化、財政健全化に対する国民の

合意形成の促進に寄与してきた独立財政機関の設置という手法の論拠を強める。OECD は

独立財政機関に関する 22 の原則を提案している(OECD, 2014a)。

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主要政策に関する洞察 19

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

新たな財政健全化目標と 2019年の消費税率引上げに向けた準備

2018 年に政府は基礎的財政収支黒字化の目標期限を 2025 年度へと先送りした。 新た

な計画は、2021 年度における中間的なメルクマールとして、ⅰ)国・地方の基礎的財政赤

字を GDP 比で 2017 年度の水準から半減し、1.5%程度とすること、ⅱ)政府債務残高を

GDP比180-185%程度とすること(政府の参照する数値では2017年度は188%)、ⅲ)

国・地方の財政赤字を GDP 比3%以下とすること、を掲げた。財政赤字の一部は利子率

にも左右されるが、政府は 10 年物国債の利子率が 2020 年度まで 0%にとどまるとの前提

に立っている。これらの目安に基づき、政府は 2025 年度の基礎的財政収支黒字化のために

必要な追加的措置を検討することとしている。政府が 2019 年1月に公表した試算では、名

目経済成長率が3%と、2%以下であった2012年以降の平均値(図1)を大幅に上回

る成長率を仮定してもなお、基礎的財政収支は 2026 年度に至るまで黒字化しない見通し

である(図9)。1%台半ばの成長率を仮定するベースライン・ケースでは、2027 年度も

GDP 比1%程度の基礎的財政赤字が残る見通しである。

図 9. 現行政策の下では基礎的財政赤字は 2025 年度まで継続する見通しである

1. 2019 年1月時点での政府試算。2019 年に予定通り消費税率が8%から 10%へと引き上げられることを前

提としている。基礎的財政収支は財政年度ベースの国及び地方の対 GDP 比の数値。

出典:Cabinet Office (2019)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953316

2016 年度以降、社会保障支出の増加は人口高齢化による影響の範囲内に抑えられてき

たが、こうした努力は 2021 年度まで継続することとなっている。また、政府は社会保障に関す

る新たな政策を 2020 年度に策定する予定である。政府は 2019 年 10 月に消費税率を

8%から 10%へと引き上げ、増収分の約半分を新たな社会支出に充当する方針を決定し

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Baseline (around 1½ per cent annual nominal growth rate)

High growth (more than 3% annual nominal growth rate)

Per cent of GDP Per cent of GDP

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20 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

ている。また、政府は 2014 年の消費税率引上げの後に生じたような経済の変動を回避する

ため、以下を含めた様々な対策を講ずることを検討している。

3歳から5歳に対する幼児教育・保育の無償化

酒類・外食を除く飲食料品等に対する8%の消費税率の維持

2019 年度から 2020 年度にかけての公共投資の増加

自動車や住宅の購入に対する税制・歳出面の措置の導入

低所得の高齢者に対する給付金や介護保険料の軽減などの支援措置の拡充

低所得世帯や3歳未満の子供を持つ世帯へのプレミアム付商品券の発行

小規模小売店での現金決済によらない買い物に対するポイント付与の導入

提案された施策は GDP 比で1%程度の経費を要し、実施期間の 2019 年度から 2020 年

度において、臨時・特別の措置が実施されれば、税率引上げがもたらす収入を相殺する可能

性がある(表4)。重要なことは、2021 年度のメルクマールとされる GDP 比 1.5%の基礎

的財政赤字が達成可能な範囲に収まるよう、必要な調整を行うことである。提案された措

置のいくつかは、需要に及ぼす効果が限定的となるおそれがある。2014 年に実施された商品

券交付は、2,500億円の経費を要した一方、家計消費を 3,400億円(GDP比 0.1%)増

加させるにとどまった(Cabinet Office, 2017b)。加えて、小規模小売店では販売価格がよ

り高いことを考慮すると、ポイント付与の効果は限定的なものとなる可能性がある。

加えて、消費税の逆進性を和らげるために導入される複数税率は、高所得者世帯ほど便益

が大きくなることから、有効な方策とは言えない(OECD, 2014b)。軽減税率の導入によっ

て失われる税収を効果的な勤労所得税額控除の財源に充てたならば、便益は低所得者に

対してもっと的の絞られたものとなろう。付加価値税の複数税率の採用は他にも欠点がある。

第一に、複数税率の導入は、行政や事務費用、とりわけ中小企業の税務費用を増加させ

ると考えられる。第二に、不正な品目分類によって脱税を行う機会を生むことが考えられる。

第三に、複数税率は付加価値税の経済活動に対する中立性を低下させ、消費に関する意

思決定にゆがみをもたらすとともに、社会厚生を低下させるものと考えられる(2017 OECD

Economic Survey of Japan)。

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主要政策に関する洞察 21

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

表 4. 提案された改革が財政に及ぼす影響額の具体例

対 GDP 比、年率、%

短 期 2035 年頃

歳 出

A. 現行の政策の下での高齢化関連支出の増加 -0.1 -1.7

B. 政府が提案した 2019 年の消費税率引上げに関係する支出 -1.0 -0.6

公共投資を含む一時的な予算措置 -0.4

3歳から5歳に対する幼児教育・保育の無償化 -0.2 -0.2

低所得世帯に対する給付金等 -0.4 -0.4

C. 2025 年度の基礎的財政収支黒字化目標を達成するための歳出削減 +0.0 +0.2

小 計 -1.1 -2.3

歳 入

A. 消費税率の8%から 10%への引上げ +1.0 +1.0

B. 政府が提案した 2019 年の消費税率引上げに対処するための歳入面での措置 -0.1 -0.1

自動車・住宅の購入に関する減税措置(時限的措置)1 -0.1 -0.0

酒類・外食を除く飲食料品等対する8%の税率の維持 -0.2 -0.2

軽減税率による減収を補填するためのたばこ税やその他の税の見直し +0.1 +0.1

C. OECD が提案する追加的な措置 +7.0

消費税率の 10%から 20%への引上げ

+5.0

環境に関する税の引上げ 2

+1.0

所得税の課税ベースの拡大

+1.0

小 計 +0.9 +7.9

合 計 -0.2 +5.6

備考:2019 年の消費税率引上げに対処するための措置に係る純費用 0.0 -0.4

1. 時限的措置に加え、自動車所有に係る減税は恒久的措置である。

2. 日本における全ての二酸化炭素排出の価格をトン当たり 60 ユーロとなることを仮定。

出典:Council on Economic and Fiscal Policy (2018)、OECD による試算。

長期的な財政の持続可能性の確保

改定された政府の財政健全化計画は、更に具体的な歳出抑制策と、毎年度の予算編成

を規律する有効なルールとを備えたものとする必要がある。社会支出の増大にも関わらず、歳

出は GDP 比 40%以下に抑制されてきたが、政府の試算によれば、高齢化に関連する支出

は、現行の政策の下では 2018年度の GDP比 18.8%から 2060年度には 23.2%へと増大

する見通しである(図 10)。支出の増大を主導する医療・介護費の増大は、OECD による

推計の範囲(de la Maisonneuve and Oliveira Martins, 2013)に収まる GDP 比 4.7%とな

る見通しである。高齢者に関連する社会支出の抑制は最優先の課題である。第一に、地域

レベルで医療・介護に係る資源配分を最適化し直し、病院から他の部門へと移す余地が大

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22 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

きい。第二に、後発医薬品の使用を更に推進し、薬剤費を低下させることができよう。第三に、

高齢者を含め、高所得・高資産保有者の自己負担率を引き上げることは、サービスの過剰

使用を抑制しつつ、医療・介護財政を改善することに寄与しうる。第四に、年金の支給開始

年齢の引上げは、高齢者の所得保障にとって重要であり、高齢者の雇用機会を拡大する措

置を伴うことで、高齢者の社会福祉プログラムに対する依存度の低下につなげうる。

図 10. 高齢化に関連する社会支出は更に増大する見通し

備考: 政府による年金、医療、介護支出の推計は、現在の年齢別の一人当たり給付を基に、2020-60年の人

口構造の変化を考慮に入れて算出されている。詳細については付録 2A.1を参照。

出典: Cabinet Secretariat et al. (2018)、 Fiscal System Council (2018)、総務省、OECD による試算。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953335

地方政府の支出は政府支出の4分の3を占める(社会保障基金部門の支出を除く)一

方、地方政府の歳入の 45%は中央政府からの移転である。地方政府の持続可能性を確

保するためには、行政運営及び社会資本投資・維持管理の双方における効率性の向上が

不可欠である。人口減少下で規模の経済を確保するために有望な方策は、行政区域を越

えて行政運営や社会資本を集約化・複合化等することである。こうした取組は、日本

が目指すコンパクトシティの形成にも資するものであり、これによってエネルギー消費や環境汚

染、二酸化炭素排出量の低下がもたらされるであろう。しかしながら、土地・家屋の放棄と所

有者不明の問題が増大しつつあり、障害となっている。2016 年に政府が 100 か所で行った

調査は、20%の土地で所有者の所在の把握が困難となっていると結論付けており

(Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, 2016)、地域における土地利

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Elderly-related social spending (left scale)

Share of persons aged 65-74 (right scale)

Share of the population age 65 and older (right scale)

Per cent of GDP Per cent of population

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主要政策に関する洞察 23

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

用の枠組みを改革する必要性を示している。最後に、行政の委託や PFI を通じて民間部門

の役割を増大させることは、一定のリスクを伴うものの、効果的な手法となりうる。

政府債務残高対 GDP 比の安定化のために十分な基礎的財政黒字を確保する上では、歳

出抑制策だけではなく、2017 年時点で GDP 比 35%と OECD 加盟国で4番目に低い税

収の増加が不可欠である。加えて、消費税率の更なる漸進的な引上げや環境に関する税の

一層の活用を通じて、政府の歳入の構成を、よりゆがみの小さな税源へと転換していくべきで

ある。2019 年に予定どおり消費税率を 10%に引き上げたとしてもなお、日本の消費税率は

OECD 加盟国の中で最も低い部類に属する(図 11)。もう一つの鍵は、とりわけ女性や高

齢者など、一定の層の労働力参加を阻害する税制や社会保障給付制度のゆがみを取り除

きつつ、課税ベースを拡大することである。このためには、配偶者控除や公的年金等控除、在

職老齢年金の支給停止制度の改革を含めた包括的なアプローチが必要である。個人所得

税の課税ベースの拡大はまた、所得格差を是正する上でも有効な方策となろう。

図 11. 日本の消費税率は相対的に低い

備考: 2017 年時点。カナダでは、連邦税率に対して州が上乗せの課税を行うことができるため、日本の8%を

超える水準の課税が行われている。

出典: OECD (2018a)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953354

2025年度の基礎的財政収支の黒字化は、政府債務比率を低下傾向に乗せるための第一

歩に過ぎない。以下に示す試算では、公的社会支出が政府の推計に沿って増大する一方、

他の支出は GDP 比で一定と仮定している。2025 年度以降更なる財政健全化が行われな

い場合には、債務比率は 2060 年までに 560%程度にまで高まることとなろう(図 12、パネ

ル A)。これに対し、2026 年から 2035 年にかけて基礎的財政黒字を GDP 比5%程度に

まで高める場合には、2060 年の債務比率は 150%程度にまで低下するであろう。このときの

財政収支改善幅は、消費税率を 10年間で 10%ポイント引き上げることに相当する。すなわ

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24 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

ち、消費税率を徐々に 20%に向けて引き上げることを意味するが、欧州連合の平均である

22%よりは低い税率である。また、この試算では、財政緊縮の遅れは債務比率を150%に低

下させるために必要な収支改善幅を大きくすることが示されている。仮に 2025年度以降の財

政引き締めが 2036-45 年に遅れた場合には、必要な収支改善幅は GDP 比5%ではなく

8.1%となるであろう(パネル B)。政府が保有する金融資産は GDP 比で 100%近くにまで

達しているとは言え、政府純債務 GDP 比率は OECD加盟国の中で最も高く、しかも急速に

増加している。

図 12. 日本の財政収支と政府債務の長期シミュレーション

出典:OECD による試算。2020 年までは OECD 経済見通し第 104 号、2027 年までは内閣府の試算(2020

年代前半の経済成長率を実質で2%以上、名目で3%以上とする「成長実現ケース」を用いている)、2060

年までは政府による経済成長、歳出、利子率の仮定に基づく(第2章参照)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953373

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A. Fiscal consolidation beyond 2025 is necessary to stabilise the government debt ratio

No improvement in the fiscal balance

Primary balance is achieved in 2025 but no further consolidation follows

Primary balance is achieved in 2025 and further consolidation of 5.0% of GDP over 2026-35

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B. Size of required adjustment becomes larger as consolidation is delayedConsolidation after reaching a primary balance in 2025

Per cent of GDP Per cent of GDP

↑ Primary balance (right scale)

↑ Government debt ratio (left scale)

Debt ratio and primary balance with further consolidation of 5.0% of GDP over 2026-35

Debt ratio and primary balance with further consolidation of 6.2% of GDP over 2031-40

Debt ratio and primary balance with further consolidation of 8.1% of GDP over 2036-45

Per cent of GDP Per cent of GDP

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主要政策に関する洞察 25

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

これらの試算は具体例に過ぎないが、その含意は明瞭である。すなわち、政府の純債務残高

比率を現在のOECD平均付近で安定化させるためには、財政健全化を十年以上にわたって

続け、大幅な基礎的財政収支を確保することが必要である。必要となる収支改善幅は、経

済前提によって左右される。この試算では、実質経済成長率は年率平均 1.4%、物価上昇

率は2%とされている。もし実質経済成長率や物価上昇率がこれらの仮定よりも低くなれば、

より大幅な収支改善が必要となるであろう。要するに、経済の再生と物価の上昇がなければ、

財政の持続可能性の実現はより困難、あるいは不可能となる。

表 5. 財政の持続可能性確保に向けた OECDの提言の実行状況

過去の OECD 経済審査における提言 実施又は計画されている行動

具体的な歳出削減及び歳入拡大措置を伴う、より詳細な中期

的財政健全化計画を実行し、日本の財政の持続可能性に対す

る信認を強化すべきである。

2018 年6月に政府は 2025 年度に基礎的財政収支を黒字化

させるという新たな目標を設定した。2019-21 年度までの歳出改

革に係る新たな工程表が 2018 年 12 月に策定された。

消費税率を漸進的に引き上げるべきである。 政府は 2019 年 10 月に消費税率を8%から 10%へと引き上げ

ることを決定しているが、更なる税率引上げは予定されていない。

格差是正のために勤労所得税額控除を導入すべきである。 具体的な行動は取られていない。

年金給付のマクロ経済スライドを完全適用すべきである。

スライド未調整額の繰越制度が 2018 年4月に施行された。

2018 年分の 0.3%のマクロ経済スライド調整が 2019 年に実施さ

れる予定である。

年金支給年齢を 65 歳以上に引き上げるべきである。 政府は現在、年金受給開始時期の選択肢を拡大していくことを

検討している。

病院における長期療養を縮減するとともに、要介護度の低い受給

者に対する保険給付の範囲を縮小すべきである。

慢性期患者の医療・介護需要の増大に対応するため、政府は

2018 年に、日常的な医学管理、終末期ケア、生活施設としての

機能を備えた新たな施設を介護保険の対象として創設した。

後発医薬品の使用を増加させるべきである。

2018年度の診療報酬改定では後発医薬品の普及に対する優遇

措置を強化し、一般名処方による加点や後発品による置換え割

合の低い薬局に対する減点を盛り込んだ。政府は医療扶助にお

いて後発品の使用を原則とする法改正を提案した。

金融政策と金融セクター

より高い物価上昇率と物価下落からの最終的な脱出は、上述したように財政の持続可能

性を確保する上でも不可欠である。2013 年に日本銀行が消費者物価上昇率の目標を

2%と設定して(表6)、量的・質的金融緩和を開始して以来、同行のバランスシートは3

倍にまで膨らんだ。2018年にはその規模は GDP比 100%に達し、米国やユーロ圏よりも遥か

に大きくなっている(図 13)。量的・質的金融緩和の結果、日本銀行は支配的な国債保

有者となっている(パネル B)。量的・質的金融緩和の開始以降、コア物価上昇率(食

品・エネルギーを除く)は 2013 年第1四半期の-0.7%(前年比)から 2014 年第1四半

期の 0.9%へと高まった(図8)。

Page 28: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

26 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 13. 中央銀行の資産の拡大は日本が最も大きい

1. 日本については 2019 年 3 月時点、米国は同年1月、スウェーデンは 2018 年 11 月時点の値。

出典:OECD 経済見通し第 104号。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953392

表 6. 2013年以降の主要な金融政策措置及び声明の時系列的な整理

2013年 1月 日本銀行が、「できるだけ早期に」実現することを目指すとして、2%の物価安定目標を設定。

3月 黒田東彦総裁が就任。

4月 日本銀行が、年間 50 兆円(GDP 比 10%)のペースで国債を買い入れ、マネタリーベースを 2014 年末まで

に2倍に増加させることを狙いとして、「量的・質的金融緩和」を開始。

4月 「経済・物価情勢の展望」が、消費者物価上昇率(生鮮食品除く)が 2015 年度に 1.9%となる見通しを

示す。

2014年 10月 日本銀行が、国債買入額を年間 80 兆円のペースに増額。

2015年 1月 「経済・物価情勢の展望」が、2015年度の消費者物価上昇率(生鮮食品除く)の見通しを 1.0%へと下

方改定し、2%の目標が 2016 年度まで達成されない見通しであることを示す。

2016年 1月 「経済・物価情勢の展望」が、2%の物価上昇率目標が 2017 年度前半に達成の見通しであることを示す。

1月 日本銀行が、銀行が中央銀行に保有する預金の4%程度を当初の適用対象として、マイナス金利を導入。

7月 日本銀行が、上場投資信託(ETF)の買入額を年間 3.3 兆円(GDP 比 0.7%)から6兆円(GDP 比

1.2%)へと増額するとともに、米ドル資金の貸出枠を 240 億ドルに拡大。

9月 日本銀行が、資産の購入額よりも国債利回りを目標とする「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導

入。新たな政策枠組みに物価上昇率の「オーバーシュート型コミットメント」を盛り込む。

10月 「経済・物価情勢の展望」が、消費者物価上昇率(生鮮食品除く)の見通しを 2017 年度は 1.5%、2018

年度は 1.7%へと下方改定し、2%の目標が「2018 年度頃」に達成の見通しであることを示す。

2017年 7月 「経済・物価情勢の展望」が、消費者物価上昇率(生鮮食品除く)の見通しを 2018 年度は 1.5%、2019

年度は 1.8%へと下方改定し、2%の目標が「2019 年度頃」に達成の見通しであることを示す。

2018年 4月 黒田東彦総裁が再任され、二期目を迎える。

7月 日本銀行が、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を公表し、10 年国債の目標水準及びその他の

資産買入をより柔軟化させる措置を導入。

10月 「経済・物価情勢の展望」が、消費者物価上昇率(生鮮食品除く)の見通しを 2019 年度は 1.4%、2020

年度は 1.5%へと下方改定し、2%の目標が 2021 年度まで達成されない見通しであることを示す。

出典: 日本銀行、OECD。

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2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

A. Central bank total assets

Japan

United States

Euro area

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LUX

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U

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L

SV

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ES

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B. Government bonds held by central banksPer cent of GDP, at the end of 2018¹

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主要政策に関する洞察 27

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

しかしながら、2014 年の消費税率の引上げ後の需要の弱さ、原油・商品価格の低下、新興

市場経済の成長の鈍化といった要因も寄与して、物価上昇率の加速は反転した(Bank of

Japan, 2016a)。政府が行ったアンケート調査では、費用の増加を販売価格に転嫁しない

理由について、52%の企業が「販売先・消費者との今後の関係を重視するため」と回答して

いる(図 14)。他の理由として、競争の激化や、長期にわたり物価が不変又は下落してい

たことを受け、家計の価格上昇に対する許容度が低下していることが挙げられている。実際の

ところ、43%の企業は「競合他社が引き上げるまで引き上げないため」と回答し、33%が「販

売量が大きく減少する恐れがあるため」と回答している。22%の企業は「他のコスト削減により

対処できるため」と回答しており、生産性を引き上げる余地を示唆している。加えて、労働者

が雇用の安定性を重視すると同時に、物価上昇について後ろ向きの期待形成を行っているこ

とにより、労働市場のひっ迫はこれまでのところ賃金に対して小さな影響しか与えていない。

図 14. 企業が費用の増加を販売価格に転嫁しない理由

出典: Cabinet Office (2013).

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953411

最近の金融政策の動向

日本銀行は 2016 年1月に、欧州諸国の中央銀行でも採用されたような政策措置として、

銀行が保有する超過準備に対する-0.1%のマイナス金利を導入した。2016 年第2四半期

に総合消費者物価指数の上昇率がマイナスへと下落した後、2016 年9月に日本銀行は

「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。これは日本銀行が2%の物価上

昇率目標を達成する上で必要と考えるイールドカーブを実現しつつ、経済及び金融情勢に対

0 10 20 30 40 50 60

Firm varies product quality and quantity

Firm is constrained by contracts with business partners

Business partners hold initiative in setting prices

Firm absorbs the rise in costs by reducing other costs

Firm fears large reduction in sales volume

Firm keeps sales prices until competitors raise prices

Firm prioritises long-term relationships with businesspartners and consumers

Per cent

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28 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

してより柔軟に対応することを可能とすることを狙いとしている(Bank of Japan, 2016b)。この

新たな政策枠組みは、二つの構成要素を持つ。第一に、目標水準は将来の経済活動、物

価、金融情勢に応じて変更されうるとしつつ、日本銀行は 10年物国債の利回りを0%程度

に維持することを決定した。第二に、日本銀行は「オーバーシューティング型コミットメント」を採

用し、生鮮食品を除いた消費者物価指数の上昇率が2%を超え、安定的にその水準を上

回るようになるまでの間、マネタリーベースの拡大を継続することとした。こうした政策は、物価

上昇に対する期待を強化することを狙いとしている。

マイナス金利と長短金利操作の導入により、イールドカーブは更に下方にシフトした(図 15)。

国債金利の低下は社債及び貸出金利に波及し、住宅や設備投資の増加に寄与した。日

本銀行による国債買入の目安は 80 兆円に維持されているものの、政策の焦点を国債利回

りに転じたことで、買入はより柔軟なものとなった(Sudo and Tanaka, 2018)。現実に、日本

銀行の国債買入額は2017年は58兆円、2018年は37.6兆円に減少している(図 16)。

推計によれば、国債金利の変動のうち、フローの買入によって説明される部分は 10%に過ぎ

ず、残りは巨額の保有残高によって説明される(Sudo and Tanaka, 2018)。

図 15. イールドカーブは一層平坦化している 1

1. 複利計算を用いた市場金利。 出典: 財務省。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953430

-0.4

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 15 20

Maturity in years

Rate

2 Apr 2013: before introduction of QQE27 Jan 2016: before introduction of the Negative Interest Rate Policy16 Sep 2016: before introduction of Yield Curve Control27 Jul 2018: before enhancement of forward guidance29 Mar 2019

Rate

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主要政策に関する洞察 29

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 16. 日本銀行の国債純購入額は減速している

出典: 日本銀行。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953449

日本銀行は 2018 年7月に、金融政策の枠組みをより持続可能なものとするため、以下の

微調整を行った。

10 年物国債利回りの目標水準の柔軟化: 目標水準を0%に維持する一方、日

本銀行は経済・物価動向に応じて 20 ベーシス・ポイント程度のかい離を容認すること

とした。国債購入額の目安は 80兆円に維持する一方、実際の買入額はイールドカー

ブの望ましい形状を維持する観点から柔軟に決定されることとした。

その他の資産買入の柔軟性の拡大: 年間6兆円の ETF と 900 億円の不動産投

資信託(J-REITs)を購入するという方針は維持しつつ、日本銀行は市場環境の

変化に対して柔軟な買入を行うこととした。

フォワードガイダンスの強化:2%の物価上昇率目標の達成が以前よりも長期化す

る可能性が高いことから、日本銀行は「2019 年 10 月に予定されている消費税率引

上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低

い長短金利の水準を維持すること」を表明した。

金融政策がどこまで緩和的な方向に進むことができるのか、そしてそのような政策をいつまで継

続できるのかは、その追加的な便益と費用に依存する。数多くの潜在的な費用や副作用が

指摘されている(Rawdanowicz et al., 2013)。おそらく最も重要な点は、過度に緩和的な

金融政策が資産価格の高騰に油を注ぐような過度のリスク負担行為につながり、将来の金

融不安を招く可能性があることである。日本では、土地価格は 20 年以上にわたる下落の後

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Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

80 trillion yen pace 2016 2017 2018

Trillion yen Trillion yen

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30 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

ようやく安定化し、上向きとなった(図 17)。株価は記録的高水準の企業利益を反映して

反発している(パネル B)。それでもなお、株価収益率は 24倍程度であり、過去 10年の平

均と比べてかなり低い。最大の価格上昇が見られるのは、イールドカーブに沿って利子率が低

下している国債市場である(図 15)。このため、量的・質的金融緩和の出口において、債

券市場の不安定化と金融機関の損失が発生する可能性がある。国債市場の流動性を維

持することが不可欠である。しかしながら、物価上昇率が2%の目標に遠く及ばない状況の

下で出口戦略の詳細に着目することは時期尚早かもしれない。当時の日本銀行のバランス

シートの規模が GDP 比 30%と、現在より遥かに小規模であったとは言え、同行が 2006 年

に首尾よく量的金融緩和の出口に辿り着いたことは良い先例である(2008 OECD

Economic Survey of Japan)。また、日本は他の主要国での量的緩和政策の出口における

経験から得るところもあるだろう。

図 17. 日本の資産価格の動向は改善している

1. 東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県)、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良

県)、名古屋圏(愛知県、三重県)。

出典:国土交通省、トムソン・ロイター・データストリーム。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953468

日本銀行の資産買入に係るもう一つの懸念事項は ETF の買入である。日本銀行は ETF 市

場の4分の3を保有するに至り、間接的に日本の上場企業の 40%において 10 位以内の

主要株主となっている(Nikkei Asian Review, 2018a)。中央銀行による ETF の買入は、

銘柄によっては株価の過大評価につながるかもしれない(Shirai, 2018)。また、株式会社が

新たな事業戦略や高配当の提案ではなく、単に主要指数に組み込まれているという理由だ

けで評価されることとなるため、日本銀行の買入政策は市場の規律を損ないつつある

(Nikkei Asian Review, 2018a)。最後に、大規模な資産買入の結果、日本銀行はそれら

を売却することの困難に直面することが予想される。目下の兆候として、日本銀行は 2018年

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1990 1994 1998 2002 2006 2010 2014 2018

A. Residential land price

NationwideThree metropolitan areas¹Other areas

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2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018

B. Selected stock prices

Japan (Nikkei 225 Stock Average)

United States (S&P500)

Europe(EURO STOXX50)

Index 2005=100

2019

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主要政策に関する洞察 31

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

7月の決定に従って ETFの買入をより柔軟化させ、大企業を中心とした日経 225平均株価

連動型からより幅広い東証株価指数 TOPIX 連動型へと買入の重点を移している。

これらの懸念があるものの、金融機関に及ぼす影響(以下参照)も含め、潜在的な費用と

副作用を監視しつつ、2%の物価安定目標を達成することは、依然として日本銀行の優先

課題である。物価下落は名目 GDP を低下させ、政府債務比率を上昇させて財政の持続可

能性を脅かす。物価下落の中で債務比率を低下させることは著しく困難であるが、物価下

落が経済成長に対しても負の影響を及ぼす場合には、一層困難となる。

金融セクター:目下は頑健であるが、懸念が差し迫りつつある

金融セクターは景気拡大を下支えしている。金融機関の貸出態度は 1990 年代前半のバブ

ル経済の崩壊以来、最も緩和的な状態を維持している(図 18)。ここ数年で与信対 GDP

比は下落傾向から反転して上昇している(パネル B)。監督当局の積極的な努力を反映し

て、銀行の不良債権比率は低い。監督規制における Tier 1資本のリスク調整済資産に対す

る比率は 2014 年の 15.3%から 2018 年には 17.1%へと高まり、OECD 平均に近付いてい

る(パネル C)。日本銀行のマクロ・ストレス・テストによれば、金融機関は概して、資本と流

動性の双方の観点から、世界的な金融危機の際に見られたようなテイル・イベントに対して、

強い反発力を有している(Bank of Japan, 2018)。全体として見れば、銀行部門は十分な

資本と流動性を備えている(IMF, 2018)。

しかしながら、銀行の資産収益率は OECD 加盟国の中で2番目に低い(図 18、パネル

D)。長期的な観点に立つと、株式保有の実現益と借入費用の低下に支えられ、純利益

はいずれの種類の金融機関においても相対的に高水準を維持している(図 19)。しかしな

がら、低利子時代が長引く中での預貸利鞘の縮小を反映し、貸出純益は低下傾向にある。

もう一つの要因は、企業数が減少し、無借金企業の比率が上昇する中での金融機関同士

の競争の激化である。日本銀行の調査では、中小企業にとっての主要な貸し手である地方

銀行の約半数が、中位の貸出リスクを伴う企業に対する貸出金利が景気循環を通じた信

用コストに見合ったものではないと回答している。85%以上が他の金融機関との競合が理由

で貸出金利の引上げが難しいと回答しており、地方金融機関が構造的な問題に直面してい

ることを示唆している(Bank of Japan, 2018)。 地域金融機関の統合は、これらの財務体

質の強化につながりうる。政府は地方銀行の合併・統合を審査する新たな枠組みを作る、あ

るいは公正取引委員会による企業結合審査の予見可能性を高めるという 2018 年末の提

案を押し進めるべきであり、このことは日本各地でのサービスの維持に寄与すると考えられる。

Page 34: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

32 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 18. 金融セクターは景気拡大に寄与している

1. 金融機関の貸出態度が「緩い」と回答した企業と「厳しい」と回答した企業の差を表す指数。

出典: Bank of Japan (2018); 国際通貨基金。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953487

量的・質的金融緩和は金融機関にリスク負担の拡大を促し、ポートフォリオの再構成を実現

する上で効果を発揮した。しかしながら、最近の傾向はいくつもの懸念を生んでいる。第一に、

「低収益の借り手」―主として財務状況が良好でなく、景気循環を通じた信用リスクと比べ

て借入金利が低い中小企業―に対する貸出が目立って増加している(図 20)。第二に、

賃貸住宅部門に対する貸出を中心に、不動産貸付が急増している(パネル B)。第三に、

海外貸付も顕著に増加している(パネル C)。70%の貸付が投資適格であるとは言え、海

外貸付は為替リスクや海外金利の変動の波及によるリスクを伴う。第四に、金融機関は投

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OR

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D. Return on assets is low in Japan

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US

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UT

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KC

HE

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SV

NLT

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NO

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LDLV

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Per cent, 2018

C. Regulatory tier 1 capital to risk-weighted assets

Per cent, 2018

B. Credit is risingA. Financial institutions' lending stance is accomodative¹

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1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

Original series

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↑ Accomodative

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1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

Original series

Trend

Per cent of GDP

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主要政策に関する洞察 33

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

資信託の保有を増加させている(パネル D)。効果的な金融監督行政を通じて、これらのリ

スクの増大に対処することが不可欠である。

図 19. 純利益は高水準だが、貸出純益は低下している

出典: Bank of Japan (2018).

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953506

人口減少と高齢化は、退職者の増加と経済の縮小を通じて金融市場の資金需給の双方

を減少させる傾向をもたらすと考えられる。ライフサイクル仮説に従えば、日本の貯蓄率は低

下することになる。しかしながら、実証研究によれば、日本では予備的動機や遺産動機に基

づく貯蓄が貯蓄率の低下を遅らせている(Horioka and Niimi, 2017; Hamaaki et al.,

2019)。加えて、家計の資産構成におけるリスク資産の割合は、住宅借入の返済負担が軽

くなるに従って、年齢とともに増加する傾向が見られる(Iwaisako et al., 2016)。高齢者の

貯蓄行動やリスク選考を考慮すれば、日本は収益性のある事業に対して十分な資金を確

保できるはずである。懸案は、そうした資金に対する需要の欠落にある。

表 7. 金融政策に関する OECD の提言の実行状況

過去の OECD 経済審査における提言 実施又は計画されている行動

費用とリスクを考慮に入れつつ、物価上昇率が安定的に2%の

目標を上回るまでの間、予定どおりに金融緩和を維持すべきであ

る。

日本銀行はフォワードガイダンスを導入し、非常に低い長短金利を

当分の間維持する決意を示した。金融政策の持続可能性は、国

債買入額よりも利回りを目標とする長短金利操作によって向上し

ている。

B. Regional banksA. Major financial groups

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Net income (left scale)

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2006 2008 2010 2012 2014 2016

Net income (left scale)

Net interest income (right scale)

Trillion yen

2017

Trillion yen Trillion yen

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34 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 20. 金融機関によるリスク負担の増大は懸念も生みつつある

出典: Bank of Japan (2018).

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953525

人口高齢化に直面する中で労働投入を維持する

労働市場への参入・退出率が不変との仮定の下では、日本の労働力人口は 2050 年まで

に 25%低下する(図3)。また、労働投入は、残業時間の上限を月 45 時間・年間 360

時間と定める 2018 年の働き方改革立法の影響も受けるであろう(表8)。ただし、労使が

合意すれば年間 720 時間までの残業が可能である。人口構造が突き付ける課題により、労

働市場の抜本的な改革は最優先事項となる。日本の伝統的なモデル―終身雇用、年功

序列の賃金体系及び昇進制度、定年制度、新卒一括採用と企業内訓練に基づく― は人

口が若く増加している時代には有効であった。しかしながら、このモデルは高齢者や女性の就

0

0.1

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2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

C. Overseas loans outstanding

Others

North America

Asia

Trillion U.S. dollars

B. Real estate loans to GDP ratioA. Share of lending to low-return borrowers

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D. Outstanding amount of investment trusts among financial institutionsers

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主要政策に関する洞察 35

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

労を妨げ、労働市場の流動性を低下させるという点で、人生 100 年時代には不適切である。

年齢よりも能力に基づいたより柔軟な雇用・賃金体系への転換により、日本が人的資源をよ

り良く活用することが可能となると考えられる。

より柔軟な雇用・賃金体系への移行もまた、正規雇用と女性が支配的な非正規雇用との

間の大きな賃金格差をもたらす労働市場の二重構造の打破にも寄与するであろう。「同一

労働同一賃金」の規定は 2020 年から 21 年にかけて施行され、「同一企業内での正規・非

正規雇用の間の不合理な待遇差」の解消を狙いとしている。雇用者が個々の労働者の成

果を丹念に評価することが必要となるため、賃金格差の合理性を判断することは実務上困

難である。OECD 対日経済審査報告は長年にわたって、被用者保険の対象の拡大、非正

規労働者に対する職業訓練プログラムの拡充、最低賃金の引上げ、予見可能性の向上も

含めた正規労働者の雇用保護の緩和によって労働市場の二重構造を打破することを提言

してきた。雇用保護の改革が困難であることを考慮すると、日本はイタリアのように、現在の労

働者が持つ既存の権利に対しては新たなルールを適用せず、新規労働者に対して単一の契

約を導入するという手法を検討することも可能であろう(OECD, 2017b)。

60 歳時点での平均余命が 26 年と、1970 年時点よりも 17 年も伸びているにも関わらず、

依然として 80%以上の企業が定年年齢を 60 歳に設定している(図 21)。労働者は 65

歳までの雇用の継続が可能ではあるが、大多数は非正規労働者として再雇用され、賃金が

より低く、技能の活用度合いもより低い仕事に就いている。より多くの労働者が自身の技能

を十分に活用しつつ職業人生を延長できるようにするためには、定年年齢を設定する企業の

権利は撤廃すべきである。定年制を廃止すれば、仕事の種類と成果をより重視し、年功序

列の賃金体系を転換することが必要となる。加えて、健康寿命が 75 歳に達したことを踏まえ、

年金支給年齢は 65 歳以上に引き上げるべきである。また、人生 100 年時代において職業

人生を延伸する上では、高齢労働者の技能水準の低下を避けるため、生涯学習と職業訓

練とが必要となる。定年制の廃止は、企業にとっては、現在の日本では低水準にとどまる高

齢労働者への技能投資を拡大する誘因を強化すると考えられる。 最後に、新たな年間 360

時間の残業規制を厳格に適用し、違反企業に対して的確に刑罰を科すとともに、義務的な

勤務間インターバル制度を導入し、全ての労働者の仕事と生活の調和を改善することで、職

業人生の延伸が促進されると考えられる。

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36 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

表 8. 経済財政運営と改革の基本方針

項 目 目 的 実施又は計画されている行動

1. 「人づくり革

命」の実現と拡大

すべての人々が生涯を通じて社会に参

画可能な環境を整備する。

(1) 人材への投資

保育の受け皿を 2020 年までに 32 万人分拡大

する計画に 2018 年に着手。

3歳から5歳に対する幼児教育・保育の無償化

を 2019 年 10 月に導入予定。

低所得家計の学生に対し高等教育の学費を免

除・軽減する措置を 2020 年に導入予定。

職業訓練を拡充し、産学連携の下で教育カリキ

ュラムを開発する予定。

(2) 多様な人材の活躍

70 歳までの雇用機会を確保するための計画を

2019 年夏までに策定予定。

2. 生産性革命の

実現と拡大

年率の労働生産性成長率を 2020 年までに2%へと倍増させる。第四次産業革命の技術を実装した「Society 5.0」を実現し、社会の持続可能性と

包摂性を促進する。

(1) 「Society 5.0」実現に向けたフラッグシッププロジ

ェクト

i) 自動モビリティ・システム、ii) データ駆動型ヘルスケア・システム、iii) スマート・エネルギー制御、スマート・ファイナンス、iv) デジタルガバメント、v) 産業、地域社会、中小企業のスマート化等のプロジェクトを推

進。

(2) イノベーションの基盤整備

5G の周波数割当を 2019 年に実施。2020 年

にサービス開始予定。

プロジェクト単位の規制のサンドボックス制度を

2018 年に創設。

(3) イノベーション・エコシステムの確立

先進技術、中小企業、ベンチャー企業に対する公

共調達における優遇措置を導入予定。

3. 働き方改革の

推進

抜本的な労働市場改革を実行し、労働者が多様な働き方を選択することが

可能な社会を実現する。

(1) 長時間労働の是正

月間及び年間の残業時間に拘束力のある上限

を定める規制を大企業は 2019 年、中小企業は

2020 年に施行予定。

(2) 同一労働同一賃金の実現

同一労働同一賃金規定を大企業は 2020 年、

中小企業は 2021 年に施行予定。

正規・非正規雇用の間の均等・均衡待遇に関す

る指針を 2018 年に公表。

(3) 高度に専門的な労働者向けの成果に基づく賃

金を促進するための柔軟な雇用制度の創出

ジョブ・デスクリプションが明確化された高度に専門的な労働者を残業規制の適用除外とする新たな

契約形態を 2019 年に導入予定。

(4) 最低賃金の継続的な引上げ

2018 年に全国加重平均で時給 874 円となった

最低賃金を、1,000 円に達するまで毎年3%程度

ずつ引き上げる予定。

4. 新たな外国人

材の受入れ

より多くの外国人労働者を受け入れ、

深刻な労働力不足に対処する。

(1) 一定の技能を持つ外国人材に対する新たな在

留資格の創設

新たな在留資格を 2018 年に創設し、日本で第2号技能実習を修了した外国人材が、深刻な労

働力不足を抱える業種において更に最大5年間就

労することを容認。

出典: 「経済財政運営と改革の基本方針 2018」。

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主要政策に関する洞察 37

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 21. 大半の企業が 60歳定年制を維持している

定年年齢別に見た企業の割合

出典: 厚生労働省 「2017 年就労条件総合調査」。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953544

女性の就業率は、2012 年の 60.7%から 2018 年の 69.6%と、過去5年で急上昇し、

OECD 平均の 60.1%を大きく上回っている(表9)。しかしながら、新規就労者の半数が

非正規労働者である。女性の職業生活は育児・介護の負担によって中断されたり打ち切ら

れたりするため、管理職や取締役会に占める女性の比率は低位にとどまっている(図 22)。

女性の就業に対する障害を除去するためには、仕事と生活の調和を改善し、女性が昇進機

会に乏しいキャリア・パスに集中している状況を解消するとともに、差別と闘うことが必要である。

政府は全ての3歳から5歳に対する幼児教育・保育の無償化を予定しており、これによる出

生率の向上を期待している。女性の就業を促進する上では、保育所の待機児童の解消が

優先課題とされるべきである。また、個人所得税における配偶者控除については、各国は「就

労に対する経済的誘因が両親にとって概ね同等となるよう、税制及び給付制度の設計を行

う」べきであるとする OECD 閣僚理事会の勧告に沿って、更なる改革を行うべきである

(OECD, 2013)。

表 9. 年齢別・性別の就業率

2017 年

日 本 OECD

15-24 25-54 55-64 15-64 15-24 25-54 55-64 15-64

男 性 42.0 92.7 85.0 82.9 44.7 86.8 69.1 75.5

女 性 42.9 75.3 61.9 67.4 38.5 68.9 52.2 60.1

合 計 42.5 84.1 73.3 75.3 41.6 77.8 60.4 67.8

出典:OECD 雇用・労働市場統計(データベース) 。

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60 61 to 64 65 and over

Per cent Per cent

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38 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 22. 日本の女性が指導的地位に占める割合は低い

出典: OECD男女データベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953563

外国人労働者数(技能実習生を含む)が 2013 年の 70 万人から 2017 年の 130 万人

へとほぼ倍増したことは、日本が外国人の雇用に前向きであることを示している。しかしながら、

外国人労働者は労働力人口の2%を占めるに過ぎず、OECD加盟国の中では最低水準で

ある。さらに、最大5年間の滞在を認める外国人技能実習制度は、低賃金労働を提供し

人権侵害につながる制度であるとの批判を受けている。2017 年に厚生労働省は、「技能実

習生は日本人労働者と同じである」として、「人権侵害を減少させる」ための罰則付きの規制

を導入した (Japan Times, 2017)。

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A. Female share of managerial employment All ages, 2019Per cent Per cent

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AN

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OR

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B. Female share of seats on boards of the largest publicly-listed companies, 2017Per cent Per cent

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主要政策に関する洞察 39

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

2018年 12月の立法措置により、労働力不足に直面する分野に専門性を持つ即戦力の外

国人のための新たな在留資格が設けられた。この画期的な立法は、一定の技能を持つ外国

人労働者を就労目的の在留資格に基づいて雇用することを初めて可能とするものである。政

府は同法に基づき、2019-24 年に 34 万 5,150 人の外国人労働者を受け入れることを計画

している。日本の人口構造を変化させるほどの大規模な移民は非現実的であるが、外国人

労働者の受入れの拡大は、人口減少への包括的な対応策の構成要素の一つとすべきもの

である。OECD の調査によれば、中長期的には移民は財政、経済成長、労働市場に対して

概ね好影響を及ぼす(OECD, 2016)。一時的な外国人材の受入れを基本とし、移民を

認めない政策を維持することは十分でない。移民政策による経済的利益を実現するためには、

移民に対する充実した教育投資や日本での生活に順応するための支援が必要である。

表 10. 就労支援に関する OECDの提言とその実行状況

過去の OECD経済審査における提言 実施又は計画されている行動

保育の受け皿の拡大、及び拘束力のある残業時間上限の導入

による仕事と生活の調和の改善を通じ、女性の就労に対する障

害を除去すべきである。

政府は 2020 年までに保育の受け皿を 32 万人分拡充する予定

である。2019 年 10 月に、3歳から5歳に対する幼児教育・保

育の無償化が実施される予定である。

正規労働者に対する雇用保護の緩和と、非正規労働者に対す

る被用者保険の範囲と職業訓練機会の拡大により、労働市場

の二重構造を打破すべきである。

2017 年4月より、従業員数 500人未満の事業所に勤務するパ

ートタイム労働者について、労使の合意があれば厚生年金保険に

加入することが可能となった。政府は非正規労働者の職業訓練

に対する支援を拡充した。

上位の OECD諸国との間の生産性格差の解消

日本では例外的に大きな労働投入(一人当たり)が、2017年時点で OECD 加盟国の上

位半数の平均を4分の1以上下回る低い労働生産性を相殺してきた(図 23)。これは、

日本の製造業とサービス産業との間の生産性の拡大を反映している(2017 OECD

Economic Surveys of Japan)。この結果、一人当たり所得は OECD 加盟国上位半数の平

均を 19%下回る。2012-17 年の生産性上昇率が年率1%にとどまる中で、政府が 2013

年に設定した、2022 年にかけて実質成長率を2%へと引き上げるという目標は実現が遠の

いたままである。2017年末に公表された「新しい政策パッケージ」は、2020年までに労働生産

性を2%へと倍増させることを目標に掲げた。

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40 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

コラム 1. 構造改革の効果の定量化

本経済審査で議論されている労働市場改革は多大な利益をもたらすと推計される(表 11)。

以下のベースライン・シナリオでは、労働市場への参入・退出率が男女5歳年齢階級ごとに一定との

仮定の下で、2017-50年の間に労働力人口が 24.0%減少する。ただし、労働生産性が不変との想

定の下でも一人当たり実質 GDP は 1.8%上昇する。実際には労働生産性は上昇する可能性が高

く、一人当たり実質 GDP の増加はより大きなものとなると考えられるが、このことは2つの改革シナリ

オの双方で想定されており、改革による一人当たり GDP の増加率の差異には影響を及ぼさない。

表 11. 雇用を拡大するための政策が一人当たり GDPに及ぼす効果

2017-50 年にかけての変化、%

労働力人口 一人当たり実質 GDP ベースラインとの差異

ベースライン 1 -24.0 1.8 0.0

定年延長 2 -18.9 8.4 6.5

男女格差の是正 3 -20.2 6.8 4.9

1. 男女とも各5歳階級の労働市場への参加・退出率が不変であることを仮定。

2. 2017-30 年にかけて、55 歳以上の各年齢階級の労働市場からの退出率が 10%低下することを仮定。

3. 各5歳階級の女性の労働力参加率が男性の参加率へと収れんすることを仮定。

出典:OECD (2018h)、 OECD による試算。

「定年延長」シナリオでは、55 歳以上の各年齢階級の労働市場からの退出率が 2017-30 年にかけ

て 10%低下すると仮定している。これにより平均的な実効定年年齢は、2030 年までに男性で 1.1

年、女性で 0.7 年上昇する。これは、2004-17 年に実効定年年齢が男性で 1.1 年、女性で 3.2 年

上昇したことを踏まえると、2030年までのシナリオとしては妥当なものと考えられる。加えて、そのような

実効定年年齢の上昇は、定年までの期待年数を男性については 2017年の 15.2年から 2030年の

15.4 年、女性については 20.5 年から 21.0 年へと若干上昇させるが、これは現在予測されている平

均寿命の延伸幅をやや下回る範囲にとどまる(OECD, 2018h)。就業者の減少が小幅になること

により、2050 年時点の一人当たり実質 GDP はベースライン・シナリオよりも 6.5%高くなる。

「男女格差の是正」シナリオでは、5歳階級ごとの女性の労働力参加率が男性のそれへと収れんす

ることを仮定している。労働力参加率の男女格差は、2004年の 24パーセントポイント(男性 84%、

女性 60%)から 2017 年の 16 パーセントポイント(男性 85.5%、女性 69.4%)へと縮小してい

る。このペースで縮小が継続すれば、2050 年までに格差は解消される。このシナリオでは、2050 年時

点の一人当たり実質 GDP はベースライン・シナリオよりも 4.9%高くなる。

そのほか本経済審査報告では、コーポレートガバナンスと中小企業政策に関する構造改革を提言して

いる。これらの分野の改革は大きな効果をもたらすことが期待されるが、現時点では定量的な推計が

できない。

Page 43: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

主要政策に関する洞察 41

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

最優先の課題は、日本の「Society 5.0」の取組であろう。これは、デジタル技術と現実世界と

を体系的に結び付けることで、経済成長を刺激するとともに社会的課題の解決策を提供す

ることを狙いとするものである。日本はデジタル・インフラの開発において世界を先導しており、こ

のことは労働力不足と人口減少に対応する戦略として歓迎されるものである(OECD,

2018e)。デジタル・インフラがもたらす恩恵を十分に引き出すためには、技能への投資、とり

わけ中高年労働者の技能に対する投資と、デジタル格差を最小化するための政策による補

完が必要である。自動運転のような新技術の開発を可能とするための規制改革もまた優先

課題である。2018 年に導入された規制のサンドボックスは、一定の条件の下で新技術を活

用するプロジェクトに対して既存の規制の適用を除外するものであり、歓迎すべき前進である。

そのほか、成長の加速を実現する上で鍵を握る二つの分野は、2016 年の成長戦略の三本

柱の一つであったコーポレートガバナンスと中小企業政策である。

図 23. 日本の労働生産性は OECD加盟国の上位半数を4分の1以上下回る

出典: OECD 経済見通しデータベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953582

日本のコーポレートガバナンスの向上

日本企業は長年、株主利益が欧米企業と比較して低いという特徴を持っていた。企業の取

締役は主として、経営の意思決定を効果的に精査することができない内部の利害関係者に

よって構成されてきた(2017 OECD Economic Survey of Japan)。その要因の一つとして、

2015 年までコーポレートガバナンス・コードが不在であったことが挙げられる。コーポレートガバナン

スは資本の配分や企業の経営成果の監視を改善し、日本の高水準の研究開発投資と人

的資本の一層の活用をもたらす潜在性を秘める。また、生産性の低い企業活動を縮小又は

中止し、経営資源を生産性の高い活動に振り向けることを促す役割も持っている。

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Top half of OECD = 100

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Labour productivity

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Top half of OECD = 100

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42 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

2014 年に導入されたスチュワードシップ・コードは「建設的な対話を通じて、投資先企業の企

業価値の向上と持続的な成長を促進することで、機関投資家がスチュワードシップ責任を充

足する」ことを促すことを狙いとしている。2018 年 11 月時点で、237 の機関投資家が同コー

ドを採択しており、そのうち半数近くが海外の機関投資家である。ほぼ全ての主要な資産運

用機関と公的年金基金が同コードに署名している一方で、1万以上ある企業年金基金のう

ち同コードを受け入れているものは 12 に過ぎず、このことは企業年金基金がスチュワードシップ

活動を行う上での人的資源を欠いていることを反映している。2016 年末までに、同コードの7

つの原則の実施割合は 90%を超えた。同コードは 2017 年に改定され、資産運用機関に対

し、利益相反の解消を求め、資産保有者(企業年金基金等)による資産運用機関の実

効的な監視を促進することとした。

2015 年に策定されたコーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンスに関する G20・

OECD 原則に基づくものである。これは企業に対し、「実効的な経営戦略の下で、利害関係

者と適切に協力しながら、中長期的な収益力を強化すること」を強く求めるものである

(Financial Services Agency, 2018)。これら2つのコードは、「遵守せよ、さもなくば説明せよ」

を基礎とする、原則に基づくアプローチを採用している。2,500 以上の上場企業に適用される

コーポレートガバナンス・コードの諸原則の中で重要なものの一つは、2名以上の独立社外取

締役の選任である。東京証券取引所1部上場企業(合計 2,021 社)の中で、2名以上

の社外取締役を選任する企業の割合は、2014 年の 22%から 2018 年の 91.3%へと上昇

し(図 24)、一社当たりの社外取締役の平均人数は 1.6 人から 2.3 人に増加した。

図 24. 2名以上の独立社外取締役を選任する企業の割合

東京証券取引所1部上場企業に占める割合

出典: Financial Services Agency (2018)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953601

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主要政策に関する洞察 43

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

2017年7月時点で、32%の企業がコードの 73原則の全てを遵守しており、61%が 90%以

上の原則を遵守している。指名委員会を設置する企業の割合は 2015 年の 21%から 2017

年の 32%へと増加し、報酬委員会を設置する企業の割合は 13%から 35%へと上昇した。

ほかにも、定期株主総会を一年間でもっとも開催が集中する日に召集する企業の割合が

1995 年の 96%から 2018 年には 31%へと低下しており、株主の意見に耳を傾けることに対

する企業の関心が高まっていることが示唆される。

2017 年の「新しい経済政策パッケージ」は、コーポレートガバナンスを強化し、設備、研究開発、

人的資源に対する戦略的な投資を拡大することを求めている。実際に、コーポレートガバナンス

の強化は、多額に上る企業の保有現金を、生産性を加速させるための投資に振り向けること

に寄与しうる。581の上場企業と 116の機関投資家を対象とする 2017年の調査によれば、

64%の企業が自社の現金保有水準を適切と考える一方、82%の投資家は過剰と回答し

ている(図 25、パネル A)。さらに、70%の投資家が、過剰な現金保有を投資に振り向ける

べきと回答し、3分の2が現金保有について企業からの説明がほとんど又は全く無いとの不

満を報告している。企業と投資家の間には、経営上の優先事項についても見解の相違が見

られる。73%の投資家が企業は事業分野の適切な選択と集中に注力すべきと回答している

が、これを優先事項と考える企業は 36%に過ぎない(パネル B)。最後に、半数以上の投

資家が、株主利益率(ROE)が資本コストを下回るとの不満を漏らしている。しかしながら、

企業は自社の ROE は資本コストに見合っている(43%)又は上回っている(19%)と回

答している(パネル C)。驚くべきことに、13%の企業が自社の資本コストを把握していない。

2018 年にコーポレートガバナンス・コードとコーポレートガバナンス・システムに関する実務指針が

改訂され、数多くの重要な変更が加えられた。

政策保有株式:企業は個々の政策保有株式について、保有を維持すべきかどうか

を毎年評価し、これを公表することが求められる。これにより、これまで生産性に対して

負の影響を及ぼすとされてきた持合い株式の減少が期待される。

取締役会の多様性: 取締役会に占める女性と外国人の割合は共に5%を下回

る一方、社外取締役の平均年齢は 67 歳である。政府は取締役会の多様性の向

上を期待している。同指針はまた、社外取締役に求められる資質を示した上で、取

締役会の会長は非執行役員であるべきことを述べている。

最高経営責任者:取締役会は客観的で時宜に適った、透明性のある過程を通じ

て最高経営責任者の選解任を行うべきである。

Page 46: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

44 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

独立した助言機関: 指名委員会・報酬委員会等の委員会の設置がコードに盛り

込まれた。

図 25. 投資家と企業との間の見解の相違

出典: Financial Services Agency (2018) 。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953620

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Levels are excessive Levels are appropriate Levels are insufficient No answer

Companies Investors

A. Perception of companies and investors about the levels of cash on hand

C. Different perspective in companies and investors on the level of ROE relative to cost of capital

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Expansion ofbusiness scale

and share

Strengtheningcompetitivenessof products and

services

Implementingcost reductions

Investmentsfocused onprofitability

Businessselection andconcentration

Use profit andefficiency

indicators asmanagement

tools

No answer

Companies Investors

B. Different priorities of companies and investors Per cent

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Is higher About the same Is lower Cost of capital isunknown for companies

or "don't know" forinvestors

No answer

Companies Investors

Per cent

Per cent

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主要政策に関する洞察 45

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

このように日本は、ベスト・プラクティスに沿う形でコーポレートガバナンス制度を構築してきたが、

その効果は徐々に発現するのを待つほかないものと見込まれる。したがって、これまでのところ、

変化は主に実質よりも形式の面に表れている(Financial Services Agency, 2018)。年金

積立金管理運用独立行政法人が 2018 年に行った調査によると、40%の企業が少なくとも

いくつかの機関投資家の姿勢が改善したと報告しているが、46%は何らの変化も見られない

と回答している。政府は二つのコードの実行を注意深く監視するとともにこれを推進し、企業

部門の成果の向上を図るべきである。

表 12. コーポレートガバナンスに関する OECDの提言の実行状況

過去の OECD 経済審査における提言 実施又は計画されている行動

証券取引所や民間部門との連携の下、スチュワードシ

ップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードに盛り込ま

れた原則の遵守を推進すべきである。

スチュワードシップ・コードを 2017 年5月に改訂し、資産運

用会社が利益相反を解消することと、資産保有者が資産

運用会社の活動を効果的に監視することを求めた。同コー

ドを採用する機関投資家の数は 2016 年の約 200 から

2018 年 12 月に 239 へと増加した。コーポレートガバナン

ス・コードを 2018 年6月に改訂し、政策保有株式の縮減

と独立した助言機関の設置に焦点を当てた。2名以上の

独立社外取締役を選任する上場大企業の割合は、2015

年の半数以下から 2018 年には 91%へと増加した。

腐敗やその他の企業犯罪への対応

コーポレートガバナンスの向上は汚職の減少にもつながりうる。トランスペアレンシー・インターナシ

ョナルの腐敗認識指数によれば、日本は OECD 加盟国の中で中位に位置している(図

26)。腐敗は事業環境を害し、競争をゆがめるとともに、過剰評価された、あるいは価値の

無い事業に対して公的資源を投入することにつながるものであり、これと闘うことは、倫理上も

経済上も重要である。他国と比較すると、日本では腐敗やその他の企業犯罪が長期間にわ

たって実行されることに特徴がある(Coney and Coney, 2018)。例示すれば、データの改ざん

を行っていた鉄鋼会社は、これが 1970年代から行われていたことを認めているし、ある自動車

メーカーは欠陥の隠蔽を 23 年間にわたって行っていたことを告白した。あるカメラメーカーによる

企業会計不正は、歴代の最高経営責任者の下で 20 年もの間続けられてきた。ある電機メ

ーカーは数年にわたって 20 億米ドル以上もの過大な利益計上を行っていたことを認め、歴代

3人の社長が急遽引責辞任するという事態を招いた。

これに対し、米国では企業不正が継続するのは平均 20 か月である(Dyck et al., 2017)。

日本における腐敗事案の長期的な継続は、取締役会が主として過去の従業員により構成さ

れ、外部取締役が少ないことも含め、内部関係者が支配的であることと、監査過程に弱みを

Page 48: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

46 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

持つことを反映している。監査役は取締役会によって選任され、取締役会における投票権を

持たず、取締役を解任したり制裁を科したりする能力を持たず、報酬も低い。

図 26. 日本における腐敗認識指数は 2017 年時点で OECD 平均付近である

出典:Transparency International (2018) 。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953639

加えて、日本では伝統的に内部通報が一般的ではなかった。日本は 2004年に公益通報者

保護法を制定したが、政府が行った 2013 年の調査では、3分の2の従業員が同制度を知

らないと回答している(Consumer Affairs Agency, 2013)。さらに、裁判においてその無効を

争ったり補償を求めることが可能ではあるものの、不正の告発者が会社から報復を受けたり

解雇されるといった事案がしばしば発生している。過去数年における一連の組織的な企業不

正を踏まえ、政府は内部告発者の保護を改善する方策を検討している(Nikkei, 2018b)。

コーポレートガバナンス・コードは、企業は経営陣からは独立した内部通報窓口、例えば独立

社外取締役から成る合議体を設置すべきとしている 。とりわけそうした制度を企業にとって強

制的なものにすることは、腐敗の減少に寄与することであろう。

日本はまた、国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する OECD 条約の

実効的な適用により、企業及び個人の海外での活動における汚職行為に対しても立ち向か

うべきである。1999年に国際商取引における優位性獲得を目的とした外国公務員への贈賄

の起訴を可能とするための法改正が行われて以降、日本で外国公務員に対する贈賄が処

罰を受けた事案は4件しかない。2017 年に日本は法改正を行い、企業及び個人が外国公

務員に対する贈賄で有罪判決を受けた場合、犯罪による不正利得を保持することを禁じた。

こうした措置により、日本は OECD 条約を実行する一歩を踏み出している。

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主要政策に関する洞察 47

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

中小企業の事業成果の向上

生産性を引き上げ、包摂的な成長を促進するとともに、金融機関を強化するためには、中小

企業の事業成果の向上が必要である。大企業と比較すると、日本の中小企業の生産性は

低い(図 27)。2010 年以降に大企業の生産性が上昇する一方、中小企業の生産性は

停滞しており、格差は拡大してきている。日本における大企業・中小企業間の生産性格差は、

他の OECD 加盟国と比較して大きい(図 28)。中小企業が雇用の3分の2と生産の約

半分を占めていることを考えれば、生産性格差の問題は重要である。中小企業の活性化は

2013 年の日本再興戦略の目標の一つであった。

図 27. 大企業と中小企業との生産性の格差は 2009年以降拡大してきている

従業員一人当たり産出量

出典:財務省「法人企業統計」。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953658

中小企業の低生産性は、いくつかの要因により引き起こされている。第一に、4分の3の中

小企業は相対的に生産性の低いサービス部門に属しており、規制を始め同部門の生産性を

阻む諸要因に対処することが重要である(Fukao, 2010)。第二に、上昇しつつあるものの、

日本の開業率は低く、依然として主要諸国を下回っている(図 29)。その結果、社齢 10

年以上の企業が小規模企業(従業員 50 人未満)の4分の3を占めるのに対し、大半の

OECD 加盟国ではこの比率は半分以下である。 新規起業がイノベーションにおいて中心的な

役割を果たすことを踏まえれば、創業促進は生産性を加速する上で不可欠である(OECD,

2018f)。新規起業は、生産性に劣る企業に取って代わり、既存事業者に競争圧力を加え、

起業が無ければ活用されなかったであろう知識の事業化を可能とすることによって、経済全体

の生産性を加速する。

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2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017

Million yen

SMEs in manufacturing

Large enterprises in manufacturing

FY

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48 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 28. 日本の大企業と中小企業の生産性格差は大きい

従業員一人当たり付加価値、2016 年、従業員 250 人以上の企業の一人当たり付加価値を 100 とする指数

出典:OECD (2018b)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953677

図 29. 日本の開業率は上昇しているが、他の主要国を下回る

出典:Ministry of Economy, Trade and Industry (2017b).

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953696

2013 年の日本再興戦略では、開業率を 10%に上昇させるとの目標が掲げられた。起業家

精神の弱さが目標達成の障害の一つとなっている。実際のところ、起業家数(就業者数に

対する割合)は OECD 加盟国中最低である(OECD, 2017a)。起業の促進のためには、

起業の持つ印象の改善も必要である。起業を良いキャリア選択の一つと考える人々は日本

人全体の4分の1未満であり、全世界の平均である 62%と対照的であるが(GEM,

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Japan France

United States United Kingdom

Germany

Rate Rate

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主要政策に関する洞察 49

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

2017)、これは日本人が起業の機会をほとんど見出すことができないことにもよる。借入に対

する個人保証が一般的であることも起業を阻害している可能性がある。政府は個人保証を

伴わない貸出を促進している。2017 年度時点でそうした貸出は公的機関による貸出の

34%、民間機関による貸出の 16%を占めている。最後に、低い開業率は、3.5%という低い

廃業率を反映している部分もある。政府は 2018 年に起業を促進する法的枠組みを改革し

たが、人々の起業活動に対する理解を促進する努力を拡大すべきである。

中小企業の低い生産性は、新たな技術やデジタル化に対する投資不足に起因する部分も

あり、これは中小企業の財務力の弱さや人的資本の不足、事業主の高齢化といった要因を

反映している。政府は中小企業による新技術への投資に対する金融支援を拡充している。

2018 年以降、3年間で生産性上昇率を年率平均3%以上へと引き上げるための計画を

策定する中小企業が設備投資を行う場合、固定資産税が最大3年間ゼロ%にまで軽減さ

れる。政府はまた、公共調達を活用して、研究開発比率が5%と、OECD平均の 30%と対

照的な中小企業のイノベーションを促進しようとしている。企業がデジタル化やその他の鍵とな

る技術を採用する誘因を再構成し強化するためには、競争を促す政策が必要である。このた

めの有効な政策としては、以下が挙げられる(Andrews et al., 2018)。

国際貿易と対内直接投資に対する障壁の引下げ。

革新的な企業の拡大と劣後する企業の縮小を促進する雇用の柔軟性。

市場による選抜の強化と、より生産的な用途に対する経営資源の再配分を通じた

生産性の向上を促進するための倒産処理制度の改善。

革新的な企業の創造を促進するベンチャーキャピタル投資。

法人税率の引下げによる起業の促進。

生産性を停滞させているもう一つの要因は、中小企業がほとんど成長せず、規模の経済によ

る利益が限定的であることである。例えば、製造業における社齢 10 年以上の企業の従業員

数は 10 名未満であるが、米国では 70 名を超える(Criscuolo et al., 2014)。新規参入企

業が古い企業に取って代わるという構造改革を通じて、生産性を上昇させることが可能であ

る。小さな企業が成長すれば、中小企業の定義に従って得られる恩恵を失うこととなるため、

手厚い政策支援が成長意欲を阻害している。最近の研究では、中小企業の定義に含まれ

ている資本金要件が、企業の資本調達を上限未満に抑制する効果が有意に検出されてい

る(Tsuruta, 2017b)。中小企業の成長を阻むもう一つの要因は、人的資源の質量両面

での不足である(Ministry of Economy, Trade and Industry, 2018)。

Page 52: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

50 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

中小企業は政府からの手厚い支援を受けているが、経済状況の改善により、中小企業の借

入金に対する公的債務保証が 2009 年度の 36 兆円(GDP 比 7.5%)から 2017 年度の

22 兆円(4.2%)へと減少している(図 30)。加えて、100%未満の保証を受ける借入の

割合は、この期間に 30%から 70%へと上昇した。100%保証は、銀行に対して貸出を監視

する誘因をほとんど与えないという点で、市場の規律を弱めるものである。2018 年に主要な

100%保証プログラムであった「セーフティネット保証5号」が改革され、保証比率が 80%へと

引き下げられた。大きな懸念事項の一つは、銀行による中小企業貸出しに対する政府の圧

力である。2009 年の中小企業金融円滑化法は、銀行に対し、借り手の要請に応じて貸出

条件を見直すことを求めていた。同法は 2013 年に失効したが、金融庁は金融機関に対し、

中小企業への貸出条件の見直しを引き続き促してきた。

図 30. 保証比率の低下とともに保証債務は減少してきている

出典: 経済産業省。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953715

こうした減少傾向にも関わらず、中小企業の借入に対する政府保証は、2016 年時点で

GDP比 4.4%と極めて高い水準となっているが(図 31)、これには中小企業貸出の対GDP

比が高いことも反映されている。保証対象となっている中小企業貸出の割合は9%であり、

これに対して米国では 13%、韓国では 14%である。手厚い公的支援は、生き残れないよう

な企業を温存し、再編を遅らせる可能性がある。この結果、新規参入や革新的企業の成長

の余地は限定的なものとなり、資源配分がゆがめられる。中小企業に対する公的支援はま

た、市場性金融の発展の阻害等の負の副作用を持つ。利子率がリスクに対して相対的に低

いことから、中小企業は公的融資を選好しがちである。さらに、政府による債務保証は抵当

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Guarantees less than 100% of loan amount (left scale)100% guarantee (left scale)Ratio of guarantees less than 100% (right scale)

Per centTrillion yen

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主要政策に関する洞察 51

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

や個人保証の負担を軽減させる。金融機関は、債務保証がもたらす低リスクで安定した収

益を享受することで満足し、中小企業貸出に関する信用評価やリスク管理技術を発展させ

る誘因を減退させる。したがって、中小企業に対する公的支援は、銀行側では逆選択とモラ

ルハザードを増大させる可能性を持つ。

図 31. 日本における中小企業に対する政府の債務保証は極めて高水準である

出典:OECD (2018d)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953734

また、事業承継は大きな懸案事項である。日本の中小企業 3.8 万社の3分の2の事業主

が、2025 年までに 70 歳を超える。60 歳代の事業主の半数以上が未だ後継者を指名して

いない。政府は、高齢事業主を持つ中小企業と潜在的な事業買収者とを引き合わせる取

組のほか、事業承継に対する補助金や税制上の優遇措置、低利融資や債務保証等の措

置を講じている。重要なことは、生き残れないような中小企業をも保護するのではなく、生き

残る力のある企業を支援することに焦点を保つことである。高齢の中小事業主の大部分が事

業承継の問題に直面しているが、このことは規模の経済を実現する機会をも提供している。

政府は開業・廃業率を5%程度から 10%程度へと引き上げるという目標を掲げている。加

えて、高齢の中小事業主の引退は、売上高、資産規模、雇用、投資、現金保有額に対し

て正の効果を持つことが観察されている(Tsuruta, 2017a)。

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52 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

表 13. 中小企業政策に関する OECDの提言の実行状況

過去の OECD 経済審査における提言 実施又は計画されている行動

研究開発における産学連携を強化し、中小企業の生産

性を向上させるべきである。

2018 年に中小企業の特定ものづくり基盤技術の高

度化に関する指針を改正し、中小企業及び大学・公

的研究機関等の連携による AI 及び IoT に関連する

研究開発が明示された。

個人保証の活用を低下させ、生き残る力のない企業の退

出を促すべきである。「経営者保証に関するガイドライン」を

一層活用し、裁判外手続を通じた倒産処理を加速させる

べきである。

2014 年の「経営者保証に関するガイドライン」により、

個人保証を伴わない貸出が促進されている。2017 年

度時点で公的金融機関の事業融資 34%、民間金

融機関の事業融資の 16%が、経営者による保証を

伴わないものとなっている。

事業に失敗した起業家の再起を促進するため、個人破産

手続制度の厳格性を緩和すべきである。

個人債務保証を伴わない貸出の増加により、事業に

失敗した起業家の再起の機会は拡大しつつある。

信用保証制度の改革を予定どおりに実行し、市場の規律

を強化するとともに、中小企業の借入に対する公的債務

保証の低下傾向を維持すべきである。

公的信用保証制度は 2018 年4月に改正された。

中小企業の借入に対する公的債務保証は 2009 年

度の GDP 比 7.5%をピークとして、2017 年度には

4.2%へと低下した。保証率 100%未満の保証債務

の割合は、同期間に 30%から 70%へと上昇した。

中小企業に対する支援措置は、成熟した企業に対する支

援よりも、市場の失敗による民間金融の制約の克服に焦

点を当てるべきである。

社齢 10 年以上の企業に借入に対する公的債務保

証の割合はわずか3%となっている。

グリーン成長政策による幸福度の向上と持続的成長の促進

日本のエネルギー集約度は 2010-17 年に 18%低下し、OECD 平均を5分の1下回っている

(図 32、パネル A)。高いエネルギー効率を実現する上での日本の成功は、日本で販売され

る自動車や家庭用電化製品を含む製造物について、エネルギー効率の義務的な水準を定め

るトップランナー制度をも反映している。日本はまた、原材料生産性の向上や最終処分量の減

少の面でも大きく前進し、都市廃棄物はOECD平均以下の水準で減少している(パネルB)。

再利用は穏当な水準にとどまっているが、埋立処理される廃棄物はごく一部である。

2011年の東日本大震災が引き起こした原子力事故にも関わらず、2016年の二酸化炭素排

出量は 2000 年よりも5%減少している。輸入石炭及びガスが原子力を代替したことから、二

酸化炭素排出量は 2013 年にピークに達し、その後は、電力需要の減少や再生可能エネルギ

ーの増加、原子力事故後に停止していた原子力発電所の一部再稼働を受け、2016 年まで

に8%低下した。炭素集約度は現在、OECD 平均並みとなっている。

日本における温暖化効果ガス(GHG)排出量の 90%以上が二酸化炭素である。そのうちほ

ぼ半分を発電が占めているが、これはエネルギー需要の電力へのシフトと、化石燃料とりわけ石

炭への依存を反映している。効果的な気候変動緩和政策に向けた戦略として重要なことは、

電力脱炭素化を伴いつつ、更なる電力シフトを進めることである。また、電力シフトが困難ある

Page 55: 2019年4月 - OECD...主な結論 1 OECD 経済審査報告書 日本 2019 年4月 主な結論 成長率は高まったが、日本は長期的な課題に直面している 経済成長は緩やかなペースで継続する見通しとなっている

主要政策に関する洞察 53

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

いは経済的ではない部門においては特に、エネルギー効率の向上が一定の役割を果たす。再

生可能エネルギーは、2015年時点で一次エネルギー総供給の5%未満(図 32、パネル D)

と、OECD 加盟国中で4番目に低い。発電における再生可能エネルギーの割合は、2010 年

の 12%から 2017 年にはほぼ 17%まで上昇した。

図 32. グリーン成長指標

出典: OECD グリーン成長指標データベース。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953753

C. CO

2 intensity B. Municipal waste treatment

2016 or latest available A. Energy intensity

Primary energy supply per GDP

F. CO2 emissions priced above EUR30 and above EUR60

% of total emissions, EUR per tonne, 2015 E. Population exposure to PM

2.5 D. Renewable energy share

% of primary energy supply

I. Environment-related inventions 2012-14 average

G. Environment-related taxes % of GDP

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54 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

より多くの便益をもたらすと考えられる、より野心的な気候変動対策

2015 年のパリ協定は、各国が地球温暖化を摂氏2度を十分下回る範囲に制限するととも

に、1.5 度に抑えるための努力を追求することを約束した。国際エネルギー機関による「持続可

能開発シナリオ」(Sustainable Development Scenario、SDS)は、パリ協定に沿ったもので

あり、幅を持った複数のシナリオの中で低位に位置し、世界の気温上昇を 1.7-1.8 度と見込

むものであるが、これによれば、世界のエネルギー関連二酸化炭素排出量は 2040 年までに

46%低下する。この野心的なシナリオの下では、日本におけるエネルギー関連二酸化炭素排

出量は 2030 年時点で 570 メガトン(2017 年比 49%減)、2040 年時点で 300 メガトン

となっている(2017 年比 73%減)(International Energy Agency, 2018)。気候変動に

関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, 2018)が示した代替

的なシナリオでは、世界の気温上昇を 1.5 度に抑えるためには、人類の活動から生じる二酸

化炭素排出が 2050 年頃にネット・ゼロに達することが必要とされている。排出量がネット・ゼ

ロに達する以前の段階で、どの程度の二酸化炭素排出が許容されるかについては、相当な

不確実性が存在する(Climate Change, 2018)。

パリ協定の下で各国が決定する目標について、日本は、温暖化効果ガスの排出を 2030 年

までに 2013 年比で 26%削減することを目指している。日本はまた、経済成長を促進しなが

ら、2050 年までに温暖化効果ガスを 80%削減することを目指している。

日本の人口の多くは、世界保健機構の指針値である1立方メートル当たり 10 マイクログラム

を超えるレベルの微小粒子状物質の汚染に晒されている(図 32、パネル E)。大気汚染に

よる早期死亡率は高所得国の中では高く、100 万人当たり 500 人以上と推定され、2010

年以降大きく上昇している(Roy and Braathen, 2017)。もっとも、こうした結果の一部は、

日本の高い人口密度や高齢者比率を反映するものでもある。

いくつかの国は、長期的な排出削減に係る包括的な戦略を策定し、人々の期待と投資の意

思決定の誘導を図っている (United Nations Climate Change, 2018)。日本は 2030 年の削

減目標に係る計画を持つ一方、2018 年に開始した第5次エネルギー基本計画がいくつかの

指針を示しているものの、2050 年に向けた詳細な戦略は不在である。日本は、革新的な脱

炭素技術、電力部門の更なる改革、エネルギー効率の継続的な改善を含む包括的な計画

を必要としている。

第5次エネルギー基本計画に基づいて、日本は発電効率の向上と、一部にはCO2回収・

有効利用・貯留(carbon capture, utilisation and storage、CCUS)を通じた温暖化ガス排

出量の抜本的な削減のための技術開発を促進している。パリ協定の目標達成のためには、

産業活動を含め、削減技術が特定できていない排出源については、排出を相殺する技術を

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主要政策に関する洞察 55

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

用いて排出量の純減を実現することが必要とされることから、こうした取組は歓迎されるもので

ある。

日本は環境に関わる技術革新を先導する国であり、一人当たりの発明件数は OECD 平均

の約3倍となっている。日本では長期的な技術革新戦略としてのエネルギー環境イノベーショ

ン戦略と、6年に1度改定される環境基本計画が策定されている。同計画は、持続可能な

原材料利用、生物多様性の保護、環境リスク管理の改善を含めた長期的な環境政策の

優先順位を設定するものである。分野横断的な施策計画の中には、脱炭素都市の整備も

含まれている(Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, 2014)。 政府は

旅客乗用車からの二酸化炭素排出を大幅に削減することを狙っており、これにより電気自動

車の生産が加速することが見込まれる。発電の脱炭素化は、輸送の脱炭素化の強力な基

盤を提供するものと考えられる。

日本は航続距離が電気自動車よりも長い燃料電池自動車の開発を進めている。より広範

な取組として、政府は「水素社会」の創出を目指している。水素はほぼ全ての産業部門部門

への展開と、再生可能エネルギーを利用した供給が可能であり、使用時に温室効果ガスを排

出しない。しかしながら、今後 20年間は、不確実性を伴うものの CO2フリー水素の利用は液

化天然ガスよりも高費用となる見通しである(International Energy Agency, 2018)。

2030年の目標達成に向けた政策は、エネルギー効率の向上と原子力エネルギー

及び再生エネルギーの拡大にかかっている

2016年に策定された日本の地球温暖化対策計画は、利用可能な最善の技術の導入に基

づく産業界の行動を強調している。トップランナー制度に加えて、2020 年には新築建築物に

対する義務的な省エネ基準が導入される予定である。また、政府は、日本の削減努力を適

切に算入するため、途上国との間での二国間クレジット制度の活用を計画している。さらに、

政府は非化石燃料の使用と化石燃料の有効な利用を促進する規制枠組みを確立した。

2030 年の二酸化炭素排出削減目標を達成するため、日本は発電における炭素集約度の

目標を設定し、発電所の熱効率基準の引上げを行った。加えて、日本は発電効率を向上さ

せるための技術革新を推進している。

とりわけ 2011 年の原子力事故後の不確実性を考慮すると、電力供給の脱炭素化は主要

な課題である。2011 年以前は、原子力発電は電力総供給の約3分の1を占めていた。

2015年の長期電力需給見通しは、原子力発電の割合が約3%から 20-22%へと上昇する

ことを見込んでいる。これには相当な数の原子力発電所の再稼働を要するが、そのためには

高い独立性を持つ原子力規制委員会による承認が必要である。2011 年の原子力事故を

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56 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

受けて創設された原子力規制委員会は、世界で最も厳格な安全性基準を適用しており、

原子力発電をどの程度拡大できるかを不確実なものとしている(Climate Action Tracker,

2018)。原子力事故の被災地域における除染作業が続いており、避難指示が 2021年まで

継続する可能性もある(Ministry of Environment, 2018)ことから、世論は現在も曖昧であ

る。発電における再生可能エネルギーの割合は、2030 年までに 17%から 22-24%へと上昇

する見込みである。2030年までに小売電気事業者は供給の44%を非化石資源から調達

することが求められるが、原子力及び再生可能エネルギーの非化石価値は、非化石価値取

引市場で取引の対象になる。

仮に目標とされる原子力発電の割合が実現されない場合、2030 年の排出量削減目標の

達成のためには、再生可能エネルギーの供給の一層の拡大、エネルギー効率の向上、石炭か

ら天然ガスへの転換など、幅広い努力が必要となるものと考えられる。

石炭火力発電所の新設計画は、高炭素インフラの固定化につながる可能性もあ

発電における石炭火力の割合は、2015年の 32%に対し、2030年時点で 26%と高い水準

にとどまることが見込まれている。日本の石炭火力発電所は世界一効率性が高いが、依然

として炭素集約度の高い電源である。日本は効率性の高い次世代石炭火力発電を推進す

るとともに、効率性が超々臨界圧を下回る石炭火力発電所を段階的に停止する予定であ

る。政府は発電所の新設に対して厳格な効率性基準を導入した。目下 30 の石炭火力発

電所の新設が計画されている。

効率性の向上が予定どおりに実現したとしても、日本は石炭依存の継続と 2030 年までに温

暖化ガスの排出を 26%削減するとの目標の達成とを両立させる上で大きな課題に直面して

いる(International Energy Agency, 2016a)。石炭火力発電の脱炭素化を行うためには、

CO2 回収・有効利用・貯留(carbon capture, use and storage, CCUS)を組み合わせるこ

とが必要となろう。CCUS の規模拡大には不確実性が伴うことから、これに過度に依存するこ

とは気候変動対策目標の達成にとってリスクとなる(Intergovernmental Panel on Climate

Change, 2018)。したがって、日本はエネルギー安全保障と経済効率性を促進しつつ、石炭

火力発電の新設を注意深く評価していくべきである。

再生可能エネルギーへの投資の拡大により、日本の競争力の強化が可能

日本は再生可能エネルギーの割合を拡大する必要がある。日本では事業用の太陽光発電

は、とりわけ二酸化炭素排出価格を考慮に入れた場合には、石炭火力発電と比較して競

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主要政策に関する洞察 57

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

争力を高めつつある。例えば、トン当たり 50 米ドルの二酸化炭素価格の下では、事業用の

太陽光発電の費用は、電力不足による費用の推計値を含めたとしても、2030 年以前に石

炭火力発電よりも低くなると推計されている(International Energy Agency, 2018)。 再生

可能エネルギーの発電費用の低下傾向が一貫して予想を超えるものであったことを踏まえれ

ば、今後も予想よりも速く低下することもありうる。再生可能エネルギーの発電費用の急速な

低下とは対照的に、炭素回収・貯蓄技術は過去 10 年で費用低下が見られない

(Intergovernmental Panel on Climate Change, 2018)。日本は回収費用の削減を政策

目標とし、北海道苫小牧市でのパイロット事業や、炭素回収・貯蔵に係る総費用の 60%を

占める炭素回収の分野での研究開発プロジェクトを展開している。

十分な蓄電技術とマイクログリッドとを組み合わせたうえで、再生可能エネルギーの導入を拡

大していくことは、エネルギー安全保障の向上をもたらすなど、価格以外の部分でも利点をも

たらしうる(International Energy Agency, 2016b)。太陽光及び風力発電の出力変動に

対しては、蓄電池よりも柔軟性メカニズムによる対応が効果的である。出力変動がより低い

洋上風力発電は、日本にとって大きな導入ポテンシャルがある。ただ、日本は深海と沿岸の

距離が近く、未だ実証段階の技術である浮体式タービンの利用が必要となる可能性が高い。

2018 年の新法により、洋上風力の推進に向けた具体的なステップを踏んでいく。こうした動

向は非常に歓迎されるものである。

再生可能エネルギーの導入を支援するため、2012 年に固定価格買取制度(Feed-in tariffs,

FITs)が開始され、日本の太陽光発電の導入量は 2010 年の4ギガワットから 2017 年に

は 49 ギガワットへと拡大し、地域の太陽光発電普及率の向上をもたらした(International

Energy Agency, 2016a)。しかしながら、FIT 制度は、FIT 賦課金による高いコストや、再生

可能エネルギーの電源に偏った導入系統制約の課題に直面している。政府は 2017 年に FIT

法を改正し、大規模太陽光発電事業に対する入札制度を導入した(Ministry of

Economy, Trade and Industry, 2017a)。これにより価格は低下したが、他国と比べると依然

として高水準である。海外では、土地へのアクセスや送電網接続等の投資家にとっての事業

予見可能性の低さを克服していくことが費用低下をもたらしている(International Energy

Agency, 2016b)。また、日本では、新設バイオマスに寛容な価格を設定している。しかしなが

ら、バイオマス燃料の持続可能な調達については、輸入パーム椰子殻が例外となっているなど、

持続可能性の確保に対する懸念を提起している。全ての輸入バイオマスが持続可能な供給

源から調達されることは重要である(Aikawa, 2016)。

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58 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

日本はエネルギー市場を改革し、再生可能エネルギーを最大限活用することが必要

日本の電力システムは、10 地域に分割され、垂直統合された既存の独占事業者によって運

営されており、送電網の広域連系・運用が限定的で、再生可能エネルギーの急速な普及を

促進する商業的誘因が乏しい。電力広域的運営推進機関が 2015 年に設立され、送配電

網の広域運営に責任を負っている。同機関が、再生エネルギー発電に対しても開放的かつ中

立的な方法で統合された送配電網の広域連系・運用を進めるような競争的環境の整備を

支援し続けることが不可欠である(International Energy Agency, 2016a)。既存事業者は

2020 年以降、法律上分離された送配電会社を設立することを求められている。また、競争

事業者に対する差別的な取扱いを禁止する規制が敷かれるとともに、法的分離された複数

の事業体において、主要な者が兼職することができる役職を制限するルールも設定されている。

ただし、市場がどう機能するかの詳細については、現在も整備途上にある。既存事業者が新

規参入事業者を差別的に取り扱う誘因は残されているかもしれない(Fuentes, 2009)。効

果的な規制の運用を通じ、こうしたリスクは最小化されるべきである。

増大しつつある再生可能エネルギーの送電網への統合は、(送電網制約を反映したリアルタ

イム地点別価格により近いものをも含め)より高度に分解された価格の活用と送配電のネッ

トワーク費用の適切な配分、スマートグリッド・ストレージ等を通じ、地域間の送電網の統合を

より強力に進めることによっても実現可能である(International Energy Agency, 2016b)。

既に当日卸売市場及び前日卸売市場が導入され、スマートメーターが配備されつつある。変

動性を伴う再生可能エネルギー発電に対する対価が市場価格に反応するような設計を行い、

電力供給者に対して市場価値の最大化を図る誘因を与えるべきである( International

Energy Agency, 2016b)。島国としての日本の地理的特徴は、変動の大きい再生可能エネ

ルギーの送電網の統合に対する技術的な課題を大きなものとしている。

炭素課税引上げの余地は大きい

炭素の価格付け(カーボンプライシング)は、費用対効果の高い排出量削減手法である。

諸国の経験が示すところでは、少なくともこれまで多くの国で導入されてきたような穏当な水

準で導入される場合、必ずしもカーボンプライシングが競争力を損なうわけではない

(Arlinghaus, 2015; Calel and Dechezleprêtre, 2016; Dechezleprêtre et al., 2018)。

電力価格は高水準であるものの、実効炭素価格に限って見れば、日本における二酸化炭素

排出量の大半は、推定される気候変動費用の基準を下回る水準に価格付けがなされてい

る(図 33)。日本におけるカーボンプライシングは、概ね種々の化石燃料に対する課税に由

来するものである。これに加えて、2012 年に地球温暖化対策のための税が導入された後、二

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主要政策に関する洞察 59

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

酸化炭素1トン当たり2ユーロ程度の水準へと課税が引き上げられた。東京都と埼玉県で

は排出権取引制度(emissions trading systems, ETS)が導入されたが、日本全国の排出

量の一部を対象とするに過ぎない。

図 33. 日本の炭素価格ギャップは相対的に大きい

備考:炭素価格ギャップは、各国について、基準価値と各パーセンタイルにおける排出量に対する現実の実効炭

素価格との差を測定し、格差が正の値を取る部分を合計したものである。現実の実効炭素価格は、化石燃料課

税及び排出権取引が可能なものについてはその取引価格を基に算出している。30 ユーロという基準価値は、炭素

の気候変動関連費用の下限推定値である。60 ユーロの基準価値は、2020 年における炭素費用の中位推定値

及び 2030 年における炭素費用の下限推定値である。日本については、2016 年の地球温暖化対策税の引上げ

が含まれていないが、これにより炭素課税は約 0.7 ユーロ引き上げられ、約 2 ユーロとなっている。

出典:OECD (2018b).

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953772

炭素の実効価格は石炭について特に低い(図 34)。他の OECD 諸国と同様、輸送用燃

料は他の用途よりも課税が重いが、これは道路の渋滞や事故、大気汚染等の費用を反映し

たものでもある。多くのOECD加盟国と比較して、輸送用燃料に対する課税は軽く、また、大

気汚染への寄与がより大きいにも関わらず、ディーゼル課税はガソリン課税よりも低い。 カーボ

ンプライシング政策については、日本固有の事情に対する考慮が必要である。特に、エネルギ

ー課税がやや穏当な水準であるにも関わらず、日本の産業向け電力価格は高い(図 35)。

発電における化石燃料の割合が高いため、仮に炭素価格が急速に引き上げられれば、エネ

ルギー価格に対して大きな短期的影響を及ぼしうる。特定の分野や地域に対する混乱や競

争力への負の影響を抑えつつ、実効炭素価格を徐々に引き上げることは、費用対効果の高

い方法で排出量の削減を実現し、高水準のエネルギー効率性を更に向上させる上で、日本

にとっての政策的な選択肢の一つと考えられる。

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60 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 34. エネルギー課税は石炭について特に低い

トン当たりの自国通貨及びユーロで見たエネルギー利用に対する実効税率、電力消費税を含む、2015 年

出典: OECD (2018g)。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953791

国際比較によれば、炭素価格の引上げは税収を増加させ、財政状況の改善に寄与すると

考えられる。燃料及び電力に対する増税が低所得者世帯に及ぼす負の影響を相殺する上

では、税収の3分の1程度を、所得制限付き現金給付に充当することが必要となるかもし

れない(Flues and van Dender, 2017)。

図 35. 日本の産業部門における電力価格は高い

出典:経済産業省。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953810

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主要政策に関する洞察 61

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

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主要政策に関する洞察 65

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

付録 A1 大阪:人口高齢化の下で経済成長の持続と社会的サービスの供給

が直面する課題への対応

大阪府は日本で三番目に大きな人口を持つ都道府県であり、日本第二の都市が位置して

いる。日本の他の多くの地域と同様に、大阪の人口は減少とともに高齢化している。1990

年に 9.7%であった 65 歳以上人口は、2017 年に 27.2%に達し、2045 年には 36.2%とな

る見通しである(図 A1.1)。大阪の人口は 2010 年にピークを迎え、2017 年の約 880 万

人から 2045 年には約 730 万人へと減少する見通しである。1990 年代の人口成長の減速

とともに経済成長が停滞している一方、高齢人口の増大は社会保障費に対する増加圧力

を強めている(パネル B)。経済の再生と公共サービスの持続可能性の確保は、大阪にとっ

て最大の課題となっている。

急速な人口高齢化は、課題とともに機会をももたらしている。400 年以上にわたって日本の

医薬業界の中心地であったという歴史的経緯により、大阪は人口高齢化による医療需要の

増大を、地域のイノベーションと経済活性化につなげる特別な機会を得ている。2004 年に日

本政府は、大阪府の北部地域に構造改革特別区域を設け、バイオ医療イノベーションのクラ

スター形成を推進するという大阪府の提案を承認した(2005 OECD Economic Survey of

Japan)。特区における改革は、国立大学の教授による兼業・副業の解禁や産学連携の促

進、外国人研究者の受入れの拡大等を含むものであった。

こうした取組は、大阪大学医学系研究科の澤芳樹教授と、日本最大手の医療機器メーカ

ーの一つであるテルモとが開発した「心筋シート」のような重要な医療技術の発展をもたらした。

これは、患者の大腿筋から採取され培養された筋芽細胞によって作られたシートを使って、心

筋機能を再生する技術である。心筋シートは、日本の長い「ドラッグ・ラグ」(2009 OECD

Economic Survey of Japan)を短縮するため、2014 年に成立した医薬品、医療機器等の

品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づく早期承認制度の最初の適用例

となった。澤教授のチームは心筋シートの技術を発展させるための研究を続けている。

国の特区制度に加え、大阪府は自らの特区制度を用いて、承認を受けたライフ・サイエンスや

新エネルギー分野の新事業に対し、地方法人課税を最大ゼロ・パーセントまで減税して経済

成長を促進している。さらに、大阪府は市町村や大阪商工会議所との緊密な連携の下で

起業者に対するハンズ・オン支援を提供している。これらの取組は、大阪の開業率を東京や

全国平均を上回る水準まで上昇させることに寄与してきた(図 A1.2)。

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66 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

図 A1.1. 経済と財政の持続可能性の確保が大阪にとっての課題となっている

1. 2018年以降の見通しについては、国立社会保障・人口問題研究所による。

2. 異なる基準年及び SNA 基準に基づく数値について、変化率を用いて接続している。

3. 大阪府内の全市町村の合計値。

4. 維持管理費を含む。

出典:内閣府、総務省、国立社会保障・人口問題研究所、OECD による試算。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953829

起業に優しい環境は、独特の事業アイデアを創出することにも寄与している。2017 年に、リノ

ベーション企業とその他5社のベンチャー企業が、「セカイホテル」と銘打ち、急増する訪日外

国人観光客に人気の高い観光地の近くに位置する、廃れつつある伝統的な商店街で新事

業を開始した。観光客の宿泊施設の不足に直面した大阪府では、2016 年に国家戦略特

区制度を用いて民泊規制が解禁されていた(2015 OECD Economic Survey of Japan)。

100

120

140

160

180

200

7.0

7.5

8.0

8.5

9.0

9.5

1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045

Index 1975=100Million persons

Mill

ion

s

A. Economic growth in Osaka has stalled, while its population is projected to fall further

Population¹ (left scale) Real prefectural GDP² (right scale)

0

5

10

15

20

25

30

35

0

2

4

6

8

10

12

14

1990 1995 2000 2005 2010 2015

B. Population ageing intensifies upward pressure on social spending by municipalities in Osaka³

Social welfare (left scale) Education, labour and industry (left scale)

Public investment⁴ (left scale) Other (left scale)

Tax revenue (left scale) Share of persons aged 65 and more (right scale)

Per cent of prefectural GDP2 Per cent

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主要政策に関する洞察 67

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

セカイホテルはこうした機会を活用して商店街にある空家を民泊施設に改装した。加えてこの

事業では、地域の商店主と連携して、商店街全体をレストラン、カフェ、温浴施設を備えたホ

テルとして機能させることにより、観光客を地元の商店に呼び込んでいる(Nikkei Asian

Review, 2017)。さらに、大阪は「未来社会のデザイン」をテーマとする 2025 年の万国博覧

会の開催地となっており、一層多くの観光客の来訪が見込まれている。

図 A1.2. 大阪の開業率は東京よりも高い

出典: 厚生労働省。

1 2 http://dx.doi.org/10.1787/888933953848

起業が増加する一方で、大阪は深刻な労働力不足に直面しており、有効求人倍率が

2018 年末時点で 1.77 と、全国平均の 1.63 を上回っている。2015 年時点で大阪における

30 代女性の労働力参加率が全都道府県で3番目に低い 60.8%であったことを考えれば、

女性の就労環境の改善は労働力不足に対応する上での鍵となる。優先事項の一つは、大

阪における保育の受け皿の拡大である。2020 年までに 32 万人分の保育の受け皿整備を行

うとの国の計画に加え(第1章参照)、大阪では国家戦略特区を活用して保育士試験を

改善し、保育士の資格取得を加速化させている。また、大阪では都市公園内での保育所の

設置も行っている。これらの取組も寄与して、保育所の待機児童は 2016 年の 1,434 人から

2018 年には 677 人にまで減少した。2018 年 12 月の出入国管理及び難民認定法の改正

に基づき、外国人労働者の受入れを拡大することも、一つの選択肢となろう。

大阪府はまた、公共サービスの持続可能性を確保するための取組も行っている。まず、保険

財政の責任主体を市町村から都道府県に移管する 2018 年度の国民健康保険制度の改

革を受け、大阪府は全ての市町村に共通の保険料率を設定し、激変緩和を行いながら6

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

Per centPer cent

Osaka Tokyo National

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68 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

年を掛けて段階的に導入する予定である。これにより、2016年度時点で年間 7万 9,999円

から 15 万 70 円に及んでいた大きな保険料格差が解消され、国民健康保険の財政が安定

化されることが期待される。次に、2012年に策定された「おおさか水道ビジョン」は全市町村の

水道事業の統合を推進している。大阪では法定耐用年数を超過する水道管の割合が

30%と、全国で最高水準に達している。水道事業の統合は、事業規模の最適化を実現し、

老朽化する施設の維持管理を行う上で不可欠である。

大阪の取組は、経済及び財政の制度を、人口高齢化に伴う需要の変化に応え、新たな課

題に適合するものに転換することの重要性を強調している。規制改革は、企業や労働者に対

して、変化する環境がもたらす新たな経済的需要に対応する誘因を付与する。行政区域を

越えた市町村間の連携は、人口減少に直面する中で行政運営の効率性を確保する。都道

府県は、規制改革を先導し、地域の公共サービスの共同運営を促進する上で決定的に重

要な役割を果たすことが可能な主体である。

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主要政策に関する洞察 69

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

付録 A2. 構造改革の進捗状況

本付録は、2017 年の OECD 日本経済審査の提言のうち、「主要政策に関する洞察」の本文

で触れていない項目について、実施された行動を検証するものである。本経済審査で新たに行う

提言については、「主な提言」の表と各テーマ章の末尾に列挙している。

過去の経済審査における提言 2017 年4月以降に実施された行動

経済成長の下支え

最低賃金を中位賃金の半分に向かって引き上げるとともに、企業

において、賃金不払残業を減少させるべきである。

最低賃金の全国加重平均は、2018 年に 3.1%引き上げられた。2017

年に労働基準監督署は 1,870 社の賃金不払残業を是正し、20 万

5,235 人の労働者に対し、446 億円の残業手当が支払われた。

グリーン成長の促進

環境に関する税の比重を高めるとともに、エネルギー効率の向上や

低炭素エネルギー源の活用を推進し、温暖化ガスの排出量を一層

削減すべきである。

2018 年に法案が成立し、洋上風力発電推進の具体策が講ぜられるこ

ととなった。小売電気事業者が非化石資源調達比率 44%を達成するこ

とを支援するため、政府は 2018 年に非化石価値取引市場を創設した。

包摂的成長に向けた生産性の加速

経営者保証に関するガイドラインを活用し、裁判外手続による中小

企業の倒産処理を加速化させるべきである。

同ガイドラインの活用による処理件数は、民間金融機関については 2016

年度の 236 件から 2017 年度の 298 件へ、公的金融機関については

135 件から 162 件へと増加した。

とりわけ女性に対する教育、訓練、金融の利用可能性を高め、起

業を促進すべきである。

日本政策金融公庫は、起業後7年程度以内の女性、35 歳以下又は

55 歳以上の起業家に対する貸出に優遇金利を適用する予定である。

品目別の農業補助金を縮小させるとともに、農地の集約化を推進

し、生産コストの低減と農業部門における市場の規律強化を行うべ

きである。

農家が政府の定める生産数量目標の配分によるのではなく、需要に応じ

て米を生産することを可能にするため、2018 年度に行政による主食用米

の生産数量目標の配分を廃止した。農地相続者から農地中間管理機

構への農地貸付を促進するため、農業経営基盤強化促進法が 2018

年5月に改正された。

地域内及び二国間の自由貿易協定の締結を引き続き追求すべき

である。

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定

(CPTPP)が 2018 年末に発効した。日・EU 経済連携協定が 2019

年2月に発効した。日本は両協定の着実な実施と CPTPP の拡大に向

けた取組を行っている。また、日本は RCEP の交渉にも参加している。

中小企業に対する支援措置は、成熟した企業に対する支援より

も、市場の失敗による民間金融の制約の克服に焦点を当てるべき

である。

社齢 10 年以上の企業に借入に対する公的債務保証の割合はわずか

3%となっている。

M&A 市場、コーポレートガバナンス、規制、雇用の柔軟性の問題

に対処し、対内直接投資を促進すべきである。

対日直接投資推進会議の下に置かれた規制・行政手続見直しワーキン

グ・グループが、2017 年4月に外国企業による投資に関連する規制・行

政手続の簡素化に関する最終報告を取りまとめた。コーポレートガバナンス

改革を推進するため、スチュワードシップ・コードが 2017 年に、コーポレートガ

バナンス・コードが 2018 年に、それぞれ改定された。

起業に係る手続負担や既存事業者を保護する規制を改革し、企

業の創造を促進すべきである。

2017 年の経済審査以降、具体的な行動は取られていない。

教育における情報通信技術の活用を拡大し、デジタル革命に備え

るべきである。

2020 年から学校でのプログラミング教育が必修となる予定である。政府

は教育活動における情報通信技術の積極的な活用を推進している。

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70 主要政策に関する洞察

OECD経済審査報告書 日本 2019年4月

労働法の新たな指針を活用し、非正規雇用に対する差別を減少

させるべきである。 正規・非正規労働者の間の均等・均衡待遇に関する指針が 2018 年

12 月に公表された。

過去の経済審査における提言 2017 年4月以降に実施された行動

人口減少・高齢化の下での財政の持続可能性の確保

財政政策の枠組みを改善すべきである。 経済財政諮問会議の下に置かれた経済・財政一体改革推進委員会

が、PDCA サイクルを活用して財政改革の進捗管理を行っている。新たな

経済財政再生計画に基づき、歳出改革に係る新たな工程表が 2018

年に策定された。

公平性に及ぼす影響を考慮に入れつつ、医療・介護に係る高齢者

の自己負担率及び自己負担額の上限の引上げを行い、生産年

齢人口から高齢者に対する移転を縮小させるべきである。

医療保険については、世代間及び世代内での公平性の観点から、2017

年及び 2018 年に 70 歳以上を対象とした高額療養制度の見直しが実

施された。2017 年以降、75 歳以上を対象とした医療保険料に係る例

外の見直しが行われている。

就労促進に向けた改革を行いつつ、生活保護制度の対象を拡大

すべきである。

政府は、就労支援プログラムに参加した後に就労又は所得増加に至る

生活保護受給者の割合を、2017年 12 月の 43.6%から 50%以上へと

増加させることを目標としている。

中央政府から地方政府への移転を減少させるとともに、歳出規律

を課すことにより、地方政府に対して、中央政府と歩調を合わせて

財政健全化を追求することを求めるべきである。

中央政府から地方政府への移転は 2018年度も低下傾向を維持してい

る。一般財源不足に起因する地方債の発行は 2019年度に 18%減少す

る見込みであり、地方債残高の低下傾向が継続している。

学校の合併に対する誘因を強化し、少子化に沿った調整を行うべ

きである。

政府は全ての教育委員会に対し、統合が生徒及び学校に及ぼす影響に

ついての情報も含め、学校統合の是非についての意思決定に係る情報

提供を行っている。

民間企業の参入拡大の促進も含め、保育の受け皿不足に直面す

る都市地域での受け皿拡大に注力すべきである。

政府は小規模保育施設の設置と用地の確保を推進している。このことが

寄与し、2018 年の保育所の待機児童数は、半数を東京都が占める形

で、2017 年との比較で 6,000 人減少した。民間企業による保育所の設

立は増加している。

人口構造の変化に沿って社会資本を慎重に減少させるとともに、

新規投資は便益が最大化される計画に集中させ、公共投資を削

減すべきである。

政府は全ての地方公共団体に対し、個別施設の維持管理に係る計画

を 2020 年度までに策定し、公共施設管理計画を 2021 年度までに改定

することを促している。中央政府は毎年、社会資本の集約化・複合化等

も含め、地方公共団体の計画の進捗状況の監視を行う。

統合や事業地域の拡大、料金引上げを通じて地方公営企業の財

務面の健全性を維持すべきである。

政府は全ての地方公営企業が経営戦略を策定し、事業地域の拡大や

民間活力の活用等の幅広い経営改革を行うことを促している。2017 年

度までに 47.9%の公営企業が経営戦略を策定しており、2020 年度まで

に 95%が策定予定である。

資本所得税を引き上げ、高所得者に対する実効税率を引き上げ

るべきである。

2017 年の経済審査以降、具体的な行動は取られていない。

被用者社会保険の対象を拡大するとともに、公的年金制度におけ

る法令遵守の改善を確保すべきである。

2017 年以降、従業員 500 人未満の企業に勤務するパートタイム労働

者も、労使の合意の下で厚生年金保険に加入することが可能となった。