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平成26年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 製品の競争優位性を確立する際に 知的財産等が果たす役割について 平成27年3月 問い合わせ先 特許庁総務部企画調査課 知財動向班 電話:03-3581-1101(内線2155)

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平成26年度 特許出願技術動向調査報告書(概要)

製品の競争優位性を確立する際に

知的財産等が果たす役割について

平成27年3月

特 許 庁 問い合わせ先

特許庁総務部企画調査課 知財動向班 電話:03-3581-1101(内線2155)

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巻頭言

委員長 鮫島 正洋

特許出願には、その企業が持つ戦略的意思が反映される。特許出願の対象である発明は、

企業による研究開発の成果物であるが、そこには、その企業の戦略的意思が大きな要素を

占めるはずである。すなわち、どの分野を研究開発投資の対象とし、その分野においてど

のような技術課題に着目して研究開発を行うのか、それによってマーケティングと保有技

術等に基づいて将来いかなる領域において収益を上げるのかという判断による投資意思の

表れが特許出願には凝縮されているはずなのである。そのような企業の戦略的意思が反映

された特許出願及びその権利化にかかわる行動を分析すれば、その企業が出願当時、なに

を考えて研究開発を行い、どのような戦略で事業を遂行しようとしているのか、というこ

とが透けて見えるはずである。

本件調査事業は、この点で、これまで特許庁が行ってきた技術分野別の出願動向調査とは

一線を画すものである。従来の技術分野別の出願動向調査の手法は、日本国に特許出願す

る企業群という総体の行動原理に着目し、ある技術分野において、それらの企業群によっ

てどのような時期に、どのような技術が出願されていったのかという動向を質・量ともに

調査するというものであった。すなわち、従来の技術分野別の出願動向調査は、その技術

市場に参入している企業群が総体としてどのような方向に向かうのかという「技術動向」

を探索することを目的としており、個々の出願主体の戦略的意思に着目することはなかっ

た。これに対し、本調査は、「企業」という個々の出願主体の戦略的意思を特許分析から炙

り出そうとし、そして、炙り出された戦略的意思を事業競争力に活かすことができたのか、

ということにフォーカスした。

もっとも、特許データ自体、膨大な情報量を持つビッグデータであるうえに、特許と事業

競争力に着目したこのような分析手法は、この数年、ようやく発展してきたに過ぎず、ま

だ発展途上にあることは否めない。一例を挙げるに、およそデータ分析においては、その

分析の背景となるセオリの構築が必須であるが、現時点において、あらゆる出願人行動に

対応可能なセオリは発見・構築されてない。

そこで、本調査においては、個別の製品毎にセオリを立て、これを特許分析やヒアリング

により検証するという方法論を採らざるを得なかった。しかし、特許と事業競争力との関

係を特許データ解析によって炙り出すという本調査の手法に新たな方向性の息吹を感じて

いただければ、本年度の調査事業の目的は達成できたのではないかと感じるところである。

最後になるが、本調査事業を執り行うにあたり、各委員の先生方には貴重なご意見をいた

だき、事務局の野村総合研究所にも大変なご尽力をいただいた。ここに感謝の辞を述べ、

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委員長による巻頭言としてまとめる。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第1章 特許出願技術動向調査の目的

日本企業は、圧倒的な技術力を有していながら、技術的優位性を事業収益に結び付けるこ

とができなかったと言われている。そして、技術力を事業収益に結び付けられない原因とし

て、電機製品等の製品については、知的財産マネジメントの不発が指摘されている。例えば、

DVD プレイヤー、リチウムイオン電池、カーナビ、DRAM 等の製品においては、相応の特

許等を保有していたと考えられるが、1997 年以降の世界シェアの低下を阻止できなかった。

この低下については、基本特許の期限内にもかかわらず特許の壁がつくれなかったのか、期

限が切れてから改良特許で他国企業に先行されてしまったのか、あるいは国際標準化やモジ

ュール化に対応できずに特許の壁が意味をなさなくなってしまったのか、詳細な要因分析が

なされていない。

他方、例えば近年注目を集める3D プリンターについて、そのマーケット勢力図としては

米国の2社の寡占状態と言える状況にあるが、これは要素技術や素材に関する改良特許のみ

ならず、サービスビューローのソフトウェアまで含めた網羅的な企業買収等ビジネス運営の

巧みさにあると考えられる。さらに、技術そのものは他社が開発して特許を保持していても、

それを利用する企業が圧倒的なビジネス優位を占める事例もある。

本調査では、こうした状況を踏まえ、日本企業が初期の技術開発に取り組み、特許を多数

有していた、あるいは特許により競争上優位な立場にあった製品を例に取り、企業の有する

知的財産権や企業の知的財産戦略等と市場シェアとの関係性を調査し、それらの製品が競争

優位性を確立する際に、知的財産権等が果たす役割を分析するとともに、それらの結果を今

後、日本企業や政府が取り組むべき知的財産戦略に反映していくことを目的とする。

本文中では、「必須特許」、「基本特許」、「重要特許」という用語を用いているが、それぞ

れを以下のとおり定義する。以降はこれに従う。

必須特許:ある製品を生産する際に、製品の機能を発現するために不可避的に実施しなく

てはならない特許のことを指す。

基本特許:ある技術が生み出される過程で、その初期段階に出される概念的な特許のこと

を指す。

重要特許:質(クオリティ)の高い特許のことを指す。(重要特許は、本調査上の概念で

あり、基本特許、必須特許に該当するかどうかという視点での検証を経たもの

ではない。また質的な評価については、第1部第2章の第5節において重要特

許の抽出のスキームを詳述している。)

なお、上記の「必須特許」、「基本特許」の定義は、「技術法務のススメ 事業戦略から考え

る知財・契約プラクティス」(弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 編集代表 鮫島正洋)に

おける定義に基づいて作成している。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第2章 調査対象となる製品の特定

本調査において調査対象となる製品を選定するにあたり、以下に示す2つの条件を考慮

し、概況調査の結果を踏まえ、7製品を選定した。

①過去 20~25 年程度の間に、市場での競争の勝敗が明らかになった、あるいは明らか

になりつつある製品の中から選定する。

②以下のア)~ウ)の事例にあたる製品を1つ以上選定する。

ア)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した場合で

あって、当該特許権の期限が切れたことによって当該社の製品の市場における競

争力(市場シェア)が失われた事例

イ)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した市場シ

ェア)を維持している事例

ウ)製品のコア技術を自社が開発し、当該コア技術について特許権を取得した場合で

あって、当該特許権の期限が有効な期間にあっても、競合他社の製品が市場で競

争力(市場シェア)を持つ事例

【調査対象製品】

①糖尿病治療薬

②前立腺がん・乳がん治療薬

③内視鏡

④DRAM

⑤デジタルカメラ

⑥液晶パネル

⑦太陽光パネル

上記の選定条件のうち、アに該当する事例として選定した製品は、①糖尿病治療薬と④

DRAM である。

イに該当する事例として選定した製品は、②前立腺がん・乳がん治療薬、③内視鏡、⑤デ

ジタルカメラである。

ウに該当する事例として選定した製品は、⑥液晶パネルと⑦太陽光パネルである。

それぞれの製品について、選定理由を以下に述べる。なお、製品選定の判断にあたり、市

場シェア情報の欠損、シェア増減要因に定説がない状況などの理由で、選定理由自体も仮説

の域を出ないものにとどまっている。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第1節 糖尿病治療薬の選定理由

武田薬品工業の糖尿病治療薬「アクトス」(一般名:ピオグリタゾン塩酸塩)が、2011

年 1 月に米国で特許切れとなり、その後、後発の競合品であるメルクの糖尿病治療薬「ジ

ャヌビア」(一般名:シタグリプチンリン酸塩水和物)に、世界市場シェアを大きく奪われ

た事例であると考えられる。

第2節 前立腺がん・乳がん治療薬の選定理由

武田薬品工業の前立腺がん・乳がん治療薬「リュープリン」(一般名:リュープロレリン

酢酸塩)が、2004 年 11 月に米国で特許切れとなったが、その後も、薬剤の有効期間の長

い関連製品を市場に投入することで優位に立ち、世界市場シェアを維持している事例であ

ると考えられる。

第3節 内視鏡の選定理由

オリンパスが 1950 年世界初の実用的な胃カメラを開発してから現在に至るまで、ファ

イバースコープ、ビデオ内視鏡システム、ハイビジョン内視鏡システムといった独自の改

良品を約 15~20 年のサイクルで上市し、世界市場シェアを維持している事例であると考

えられる。

第4節 DRAM の選定理由

NEC、東芝、日立製作所、富士通、三菱電機といった日本の企業が 1980 年後半に大き

く世界市場シェアを伸ばしたが、その後、1990 年代に入り、インテルやモトローラに、

2000 年代に入り、サムスン電子や中国・韓国・台湾のメーカーに世界市場シェアを大きく

奪われた事例であると考えられる。

第5節 デジタルカメラの選定理由

キヤノン、ニコン、ソニー、パナソニックといった日本の企業が得意とするデジタルカ

メラ本体の基幹部品のすり合わせに関わる装置・構造等の特許により築いた壁と、高機能

化によるステップアップをコントロールする外部インターフェースに関わる特許により

築いた壁の2つが有効に機能し、世界市場シェアを維持している事例であると考えられる。

第6節 液晶パネルの選定理由

シャープ、ソニー、パナソニック、東芝といった日本の企業が得意とする技術のすり合

わせ領域での優位性が有効に機能せずに、LG-フィリップスや AUO、CMO に、世界市場

シェアを大きく奪われた事例であると考えられる。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第7節 太陽光パネルの選定理由

シャープなどを中心に日本の企業は光電変換の高効率化の技術を持っていたが、光電変

換効率よりも製造コストが市場に求められるようになり、Q セルズやサンテック、ファー

ストソーラーに、世界市場シェアを大きく奪われた事例であると考えられる。

第3章 調査仮説

第3章では、調査対象製品が競争優位性を確立する際に知的財産権等が果たす役割を分析

するという本調査の目的を達成するため、このような観点からみた各製品に関する調査仮説

を設定している。

第1節 糖尿病治療薬に関する調査仮説

2型糖尿病に対する糖尿病治療薬については、PPARγ アゴニストという作用機序を持つ

製品として、「アクトス」(一般名:ピオグリタゾン塩酸塩)、「アバンディア」(一般名:マ

レイン酸ロシグリタゾン)の2つの製品を挙げることができる。前者の製品は、日本の製

薬大手である武田薬品工業、後者の製品は、英国の製薬大手であるグラクソ・スミスクラ

イン社により、それぞれ 1999 年 8 月(米国)、1999 年 5 月(米国)より販売されている。

通常、医薬品メーカーは、医薬品のライフサイクルを考慮しつつ、当該医薬品がもたら

す利益を最大化するような戦略を立て、それを実行する Life Cycle Management(LCM)の

観点から製品の寿命を延ばすためのさまざまな対策を講じているが、武田薬品工業におい

て、これらの対策が適切に機能しなかった要因がどこにあったかを明らかにすることが重

要である。

アクトスと同じ作用機作(PPAR とアゴニスト)の製品をグラクソ・スミスクラインが販

売していた。この種の糖尿病治療薬は、武田薬品工業とグラクソ・スミスクラインの2社

で市場を独占していたと言える。従って、2社は競合関係にあり、相手より優位な立場に

立とうとして種々の付加価値向上策(併用・合剤、効能追加、新規剤形)を行っていた。

LCM 策としての併用・合剤については、武田薬品工業は特許を有しており、米国では後発

品(単剤)の上市を 1 年数ヶ月遅らせることに寄与したとされている。

また、武田薬品工業において、どのような知的財産戦略が実行されていて、結果から振

り返った場合に、どこに狂いが生じたかを明らかにすることも重要である。

その点については、競合品出現への対策として、新製品への置換えがなされるが、相次

いで新製品の開発に失敗し、新製品「ネシーナ」(一般名:アログリプチン)の上市のタイ

ミングが遅れたことが、シェア奪取に影響したと考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:競合品出現への対策として、新製品への置換えがなされるが、新製品の開発が思う

ように進まず、新製品「ネシーナ」(一般名:アログリプチン安息香酸塩)の上市の

タイミングが遅れた。

仮説②:LCM 策としての併用・合剤については、カバー特許があり、米国では後発品(単剤)

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

の上市を 1 年数ヶ月遅らせることに寄与した。日本では、後発訴訟で敗訴したため

奏功しなかった。

仮説③:アクトスと同じ作用機作(PPARγアゴニスト)の製品をグラクソ・スミスクライン

社が販売していた。この種の糖尿病治療薬は武田薬品工業とグラクソ・スミスクラ

イン社の 2 社で市場を独占していたと言える。従い、2 社は競合関係にあり、相手よ

り優位な立場に立とうとして種々の付加価値向上策(併用・合剤、効能追加、新規

剤形)を行っていた。この付加価値向上策は LCM 策とほぼ重複する。

第2節 前立腺がん・乳がん治療薬に関する調査仮説

前立腺がんを対象疾患とする治療薬については、「リュープリン」(一般名:リュープロ

レリン酢酸塩)、「ゾラデックス」(一般名:ゴセレリン酢酸塩)、「デカペペプチル」(一般

名:トリプトレリン酢酸塩)、「トレルスター」(一般名:トリプトレリンパモ酸塩)の4つ

の製品を挙げることができる。これらは同じ作用機序を持つ製品である。「リュープリン」

は、日本の製薬大手である武田薬品工業により、1985 年(米国)より販売されている。

2014 年 2 月に、日本市場において、後発の競合品であるあすか製薬のリュープロレリン

酢酸塩注射用キット 1.88mg & 3.75mg「NP」が上市されるまで、コモディティ化(満了

特許にかかる技術のみで生産することのできる製品スペックが、市場の要求するスペック

に合致するという現象が生じることを指す。以下、同じ。)を遅らせるための製剤特許の取

得による知的財産戦略が効果を上げたとされるが、何故、効果を上げることができたかを

明らかにすることが重要である。

前立腺がんに関しては、手術療法、放射線療法が主体であるが、「リュープリン」は、極

めて侵襲度の低い、通常使用されている注射器による皮下・筋肉内投与によって同等の効

果が期待できる治療を可能にした。

また、患者にとって毎日の注射が必要になることは、患者の通院負担を考慮すると現実

的ではないため、DDS(Drug Delivery System:薬物送達システム)を工夫することにより、

連日投与しなくてもよい方法の検討が必要とされ、その中で、マイクロカプセル化による

徐放性製剤(放出制御製剤のひとつ。製剤からの有効成分の放出を遅くすることにより、

服用回数を減らし、血中の有効成分濃度を一定に長時間保つことにより、副作用を回避す

る)が開発された。

前立腺がん・乳がん治療薬「リュープリン」に関わる特許群が、幅広い領域をカバーす

る特許で構成されていて、それらの特許を押さえていたことが、マイクロカプセル化によ

る徐放性製剤の開発に優位に働いたと考えられる。

また、生体内分解性高分子を用いた徐放性製剤という特殊性が、製品寿命を長く保つ上

で有利に働いたとも考えられる。

この点については、リュープリン(武田薬品工業)、ゾラデックス(アストラゼネカ)、

デカペプチル(イプセン)は、同じ作用機作の活性成分、徐放性製剤というカテゴリーで

括ることができる。それらの剤形は、リュープリンとデカペプチルがマイクロカプセル(マ

イクロパーティクル)であるのに対し、ゾラデックスは円柱状となり異なる。また、剤形

が異なるにもかかわらず、製品寿命が長いのは上記のように、生体内分解性高分子を用い

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

た徐放性製剤という特殊性が効いていることの証拠になると考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:前立腺がん・乳がん治療薬「リュープリン」に関わる特許群が、幅広い領域をカバ

ーする特許で構成されていて、それらの特許を押さえていたことが、マイクロカプ

セル化による徐放性製剤の開発に優位に働いた。

仮説②:生体内分解性高分子を用いた徐放性製剤という特殊性が、製品寿命を長く保つ上で

有利に働いた。

第3節 内視鏡に関する調査仮説

内視鏡は、第一世代としての胃カメラ、第ニ世代としてのファイバースコープ、第三世

代としてのビデオスコープと世代交代しながら技術発展してきており、第1世代の胃カメ

ラはオリンパスにより 1950 年に開発された。カメラ会社の技術力やノウハウを活かして、

カメラ部品が挿入部先端に実装された。第ニ世代のファイバースコープは、1958 年に米

国のハーショヴィッツにより、また、第三世代のビデオスコープは、1982 年に米国のウェ

ルチ・アレン社により開発された。

内視鏡は多品種少量生産で、製造にあたり特殊な技術やノウハウが多い製品を、高度精

密加工技術や多品種製品生産技術、イメージング実装技術といった高度な製造技術力を最

大限に活用しながら生産している。診断技術と治療技術のすり合わせは、知的財産戦略と

して、どの程度効果を上げたかを明らかにすることが重要である。

このような内視鏡開発のノウハウと技術力により、診断から治療まで包括的な提案が可

能となり、内視鏡の製造技術をより一層向上させ、更なる競争優位性の確保に繋がったと

考えられる。

また、材料開発から生産設備まで自前主義の姿勢を貫いてきたことで、技術のスピルオ

ーバーを回避できたと考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:日本の高度な製造技術とのすり合わせや、診断技術と治療技術とのすり合わせは、

内視鏡の製造技術をより一層向上させ、更なる競争優位性の確保に繋がった。

仮説②:材料開発から生産設備まで自前主義の姿勢を貫いてきたことが、技術のスピルオー

バーを回避できた。

第4節 DRAM に関する調査仮説

米国のインテル社が世界最初の DRAM を販売したのは、1970 年である。米国のテキサス・

インスツルメンツ社が多くの基本特許を保有していた。日本の大手 DRAM メーカーは、こ

れらの基本特許のライセンスを受けながら、量産技術の力で 1980 年代の中頃に市場を席

巻した。

初期には、DRAM メーカーと製造装置メーカーの間のすり合わせによる、日本が得意とす

る高品質の製造技術が競争の焦点であったが、容易に入手できる製品装置でほぼ同じ品質

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要約

第1部

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第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

の製品が製造できるようになったことで、競争の焦点が製造コスト低減に移ってしまった

背景には、DRAM メーカー各社のどのような知的財産戦略やビジネスモデル戦略が反映され

ているかを明らかにすることが重要である。

かつて Intel 、TI 等米国メーカーのシェアを奪った日本メーカーが韓国、台湾メーカ

ーによって同じようにシェアを奪われたが、JEDEC 標準規格の製品(一般家庭用及び産業

用電子機器部品の規格を制定している米国電子工業会(Electronic Industries Alliance)

の機関である JEDEC 半導体技術協会(以下、JEDEC とする。)が発行しているオープンな標

準規格に基づき製造された製品)の為、特許の薮とクロスライセンスで特許が古典的排他

の機能(独占的排他権として特許を取得するという古典的な知財マネジメントの機能)を

発揮できない状況に陥ったことが原因の1つであると考えられる。

また、製造技術のノウハウは製造装置メーカーとの共同開発によらざるを得ず、製造装

置メーカーを経由して技術が拡散していったことも原因の1つと考えられる。

さらに、DRAM の特許が出願された 1981 年頃から最初のピークを迎える 1990 年までは出

願件数が増加している。この期間に必須特許について出願し尽くしたと推測すると、1982

年と 1990 年の中間地点の 1986 年から 20 年後である 2006 年頃に技術のコモディティ化の

兆候が現れていると考えられ、必須特許の有効期間切れが影響したとも考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:かつて米国メーカーからシェアを奪った日本メーカーが韓国メーカー、台湾メーカ

ーに取って代わられ、同じようにシェアを奪われた。JEDEC 標準規格の製品の為、特

許の薮とクロスライセンスで特許が古典的排他の機能を発揮できない状況に陥っ

た。製造技術のノウハウは製造装置メーカーとの共同開発によらざると得ず、製造

装置メーカーを経由して技術が拡散していった。

第5節 デジタルカメラに関する調査仮説

米国のイーストマン・コダック社が世界最初の電子式カメラを開発したのは、1975 年で

ある。日本の大手電機メーカーでは、ソニーが 1981 年に電子スチルカメラ「マビカ試作

機」を開発した。その後、ソニーがマビカの仕様を公開し、キヤノン、ニコン、ミノルタ、

カシオ計算機、富士フイルム、京セラ等が市場に参入した。デジタルカメラの市場が本格

的に立ち上がったのは、カシオ計算機が一般用に小型・軽量・安価なコンパクトデジタル

カメラ「QV-10」を販売した 1995 年以降である。

部品点数が多く、複雑性が高い複合製品分野では、本来、実質的なクロスライセンスに

よる弱みの補完が不可避になり、技術のコモディティ化が起こりやすい状況であるが、ど

のような戦略・方法で内部構造を完全ブラックボックス化し、高い参入障壁を築いたかを

明らかにすることが重要である。

企業は、市場の立ち上がりよりも先行して重要特許を取得しない、あるいは市場の立ち

上がりと一致する形で特許の蓄積量を増やしていくことで、自社のコア領域の完全ブラッ

クボックス化を実現していったと考えられる。また、ファイルシステムやビューワ等の高

機能化に関わる技術領域で、かつ他社に強みがある技術領域を非競争領域として標準化し

たことも、知財を自社のコア領域と他社技術を繋ぐ境界領域に集中させるうえで有効に機

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資料編

第6部

能したと考えられる。

また、最初に出願件数が2桁に達した 1989 年からピークである 2002 年まで出願が増加

し続けていることから、この期間に必須特許取得を狙って継続的に特許出願したと推測で

きる。1989 年と 2002 年の中間地点の 1995 年頃から 20 年後である 2015 年頃にコモディテ

ィ化の兆候が現れると考えられる。

なお、画素数を中心に企業が競争してきたが、画素数も一定レベルを超えると、顧客に

とっての価値や効用が頭打ちとなり、その後これまでの画素数競争から脱却し、画素数を

抑えて、センサーを大きくし夜間でも昼間のように撮影できる高感度カメラや、テレビカ

メラ並みの動画を撮影できるカメラなど新しい価値の提供が始まっている。ただし近年は、

いずれのデジタルカメラメーカーも売上高の維持が難しくなっていると考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:市場の立ち上がりよりも先行して重要特許を取得しない。市場の立ち上がりと一致

する形で特許の蓄積量を増やしていった。

仮説②:高機能化に関わる技術領域のうち、自社に強みがある技術領域については、標準化

しなかった。

仮説③:最初に出願件数が 2 桁に達した 1989 年からピークである 2002 年まで出願が増加し

続けていることから、この期間に必須特許取得を狙って継続的に出願したと推測で

きる。 1989 年と 2002 年の中間地点の 1995 年頃から 20 年後である 2015 年頃にコモ

ディティ化の兆候を迎えると予測できる。

仮説④:画素数を中心に企業が競争してきたが、画素数も一定レベルを超えると、顧客にと

っての価値や効用が頭打ちとなり、その後、企業の競争力がデータモビリティ(ス

マートフォン連携等)という違う特許領域にシフトした。

第6節 液晶パネルに関する調査仮説

液晶パネルの技術開発については、1960 年代、1970 年代において米国が先行し、主導

してきたが、1980 年代の中頃に、日本の電機メーカーがテレビ用の液晶パネルについて、

技術開発を主導するようになり、1990 年代には、VA 方式(液晶パネルで広視野角を実現

するための駆動形式の一つ。垂直配向方式)や IPS 方式(液晶パネルで広視野角を実現す

るための駆動形式技術。横電界スイッチング方式)等の基本技術が開発された。

部品点数が多く、複雑性が高い複合製品分野という点で、デジタルカメラと類似性が高

いと考えられるが、デジタルカメラでは、前述した本体内部構造の完全ブラックボックス

化と他社技術をコントロールし得る外部インターフェース開発の2つの壁が機能して、知

的財産戦略が世界市場シェアの維持に効果を上げたが、何故、液晶パネルでは、同様の効

果を上げることができなかったかを明らかにすることが重要である。

液晶パネルとのすり合わせが必要なコア部品である画像処理 LSI(画像エンジン)技術

のモジュール化が急速に進んだため、高度なすり合わせの必要性が低下したため、日本メ

ーカーの競争優位性が機能しなかったことも影響したと考えられる。

また、VA 方式は富士通、IPS 方式は日立製作所によって基本技術が開発されたのにもか

かわらず、量産に際し、韓国勢を中心とするアジアの新興企業に世界市場シェアを奪われ

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資料編

第6部

てしまった原因として、富士通が当初から基本技術を安価に提供したこと、日立製作所が

クローズ戦略を採ったが貫徹できなかったこと、ソニーがサムスンと組んで合弁会社を設

立したことが挙げられる。そもそも日本の企業の知財戦略自体に誤りがあった可能性があ

ると考えられる。

さらに、液晶ディスプレイは、アメリカの企業が基本となる技術を開発していた。また

もともと液晶ディスプレイは、電卓の表示部に使う目的で 1970 年代に開発された、非常

に古い技術であり、既に基本特許が期限切れとなっていたことが影響したとも考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:液晶パネルとのすり合わせが必要なコア部品である画像処理 LSI(画像エンジン)

技術のモジュール化が急速に進んだため、液晶パネルによるすり合わせ技術の優位

性が低下した。

仮説②:VA 方式は富士通、IPS 方式は日立製作所によって基本技術が開発されたのにもかか

わらず、量産に際し、韓国勢を中心とするアジア勢に世界市場シェアを奪われてし

まった。富士通は当初から基本技術を安価に提供した。日立製作所はクローズ戦略

を採ったが貫徹できなかった。ソニーはサムスンと組んで合弁会社を設立した。オ

ープン・クローズ戦略に誤りがあった可能性がある。

仮説③:液晶ディスプレイに関する技術は、日本が基本技術をもっておらず、アメリカから

の導入であった。(またもともと液晶ディスプレイは、電卓の表示部に使われた技術

で、1970 年代の非常に古い技術である。それをテレビ用に応用できたのは、1998 年

のシャープのアクオスが初めてである。)

第7節 太陽光パネルに関する調査仮説

太陽電池は、シリコン系を中心とする無機太陽電池と、化合物系や有機系を中心とする

有機太陽電池の2種類に大別される。無機太陽電池については、1954 年に米国のベル研究

所のピアソンらが p-n 接合型シリコン太陽電池を発明している。また、有機太陽電池につ

いては、1955 年にレイノルドらが CdS 太陽電池を開発している。いずれも古い技術となっ

ている。日本においては、1955 年に日本電気が日本で最初の単結晶シリコン太陽電池を試

作したほか、1959 年には、シャープがシリコン太陽電池の開発に着手し、1963 年に太陽電

池の量産化に成功し、翌年量産を開始している。日本の太陽光パネルメーカーは、無機太

陽電池を中心に技術開発を推進してきた。

部品点数が多く、複雑性が高い複合製品分野という点で、デジタルカメラと類似性が高

いと考えられるが、デジタルカメラでは、前述した本体内部構造の完全ブラックボックス

化と他社技術をコントロールし得る外部インターフェース開発の2つの壁が機能して、知

的財産戦略が世界市場シェアの維持に効果を上げたが、何故、太陽光パネルでは、同様の

効果を上げることができなかったかを明らかにすることが重要である。

市場が高い変換効率を強く欲していれば、シャープの特許はもっと威力を発揮し、他社

は容易に市場参入できず、同社のシェア低下を防ぐことができたが、多少変換効率が低く

ても単位あたりの発電コストが安価になることを市場が強く欲したため、シャープの特許

ポートフォリオはシェアの維持に寄与しなかったと考えられる。

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

また、高い変換効率を求めない比較的安価な太陽光パネルでは、実質的に工程毎の相互

依存性が弱いことが判明して、モジュール化が急速に進み、高度なすり合わせの必要性が

低下したため、日本メーカーの競争優位性が機能しなかったことも影響したと考えられる。

上記の調査仮説をまとめたものを以下に示す。

仮説①:市場が変換効率 15%を強く欲していれば、シャープの特許はもっと威力を発揮し、

他社は容易に市場参入できず、同社のシェア低下を防ぐことができたが、多少変換

効率が低くても安ければよいと市場が判断したため、シャープの特許ポートフォリ

オは、シェアの維持に寄与しなかった。(技術のコモディティ化)

仮説②:高い発電効率を求めない比較的安価な太陽電池であれば、実質的に工程毎の相互依

存性が弱いことが判明し、モジュール化が急速に進んだ。

第4章 調査仮説の検証結果

第4章では、調査対象製品の市場シェア等と、調査対象製品に関わる重要特許等の企業の

知的財産権等を有機的に結び付けることにより、上記の調査仮説を検証した。以下に各製品

の仮説検証結果を示す。

第1節 糖尿病治療薬に関する仮説検証結果

仮説①:競合品出現への対策として、新製品への置換えがなされるが、新製品の開発が

思うように進まず、新製品「ネシーナ」(一般名:アログリプチン安息香酸塩)

の上市のタイミングが遅れた。

医薬品業界では、そもそも新しく開発された効能物質・有効成分の物質特許を使ってビ

ジネスを展開し、別の効能物質・有効成分が出現し、デザインアラウンドされるまで、そ

のビジネスモデルで稼ぐことを本業と考えている。

効能物質・有効成分の物質特許以外の特許は、あくまで本業の付加的要素という位置づ

けにしか過ぎないため、医薬品の物質特許が切れる前に、別の効能物質・有効成分を持つ

新薬を開発するのが事業の前提となり、それが基本的な考え方となっている。

そのような考え方に基づくと、武田薬品工業の新製品「ネシーナ」へのデザインアラウ

ンドが機能した「アクトス」の事例は、医薬品業界では成功事例として捉えられる。

「アクトス」の後継である「ネシーナ」については、「アクトス」とは異なる効能物質・

有効成分を持つ DPP-4 と呼ばれる新薬として開発されたが、新薬開発にあたり、米国のバ

イオベンチャー企業であるシリックス社の買収を含め数社の買収が武田薬品工業により行

われている。医薬品業界では、新薬の研究開発が製品化に結び付く確率は 3 万分の 1 と言

われており、そのような状況の中で、「アロゴリプチン安息香酸塩」に関わるアセットを持

つシリックス社の買収が「ネシーナ」の新薬開発に果たした役割は大きいと考えられる。

(以上、医薬品メーカーへのヒアリング結果より)

他方、メルク社の「ジャヌビア」の上市が 2009 年 12 月であるのに対して、武田薬品工

業の「ネシーナ」の上市は、半年遅れの 2010 年 6 月と大幅な遅れを取ったことにより、フ

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

ァースト・イン・クラス(特に新規性・有用性が高く、化学構造も従来の医薬品と基本骨

格から異なり、従来の治療体系を大幅に変えるような独創的医薬品をいう。)のポジション

を獲得できなかったため、「ネシーナ」のマーケティングパワーが非常に弱いものとなり、

双方のグローバル売上高には大きな開きがある。

また、医薬品業界では、通常は、物質特許が切れる1年から1年半前に新製品を上市し

て、新製品への置換えをスムーズに行えるように移行期間を設定するが、武田薬品工業の

「ネシーナ」のケースでは、このような移行期間が上市の遅れによって短縮されてしまっ

たため、新製品への置換えが期待通り進まなかったものと考えられる。

図 4-1

「アクトス」、「ネシーナ」、「ジャヌビア」のグローバル売上高の推移

出所)武田薬品工業㈱のデータ、セジデム・ストラテジックデータ㈱ ユート・ブレーン事業部の調査よ

り作成

仮説②:LCM 策としての併用・合剤については、カバー特許があり、米国では後発品(単

剤)の上市を 1 年数ヶ月遅らせることに寄与した。日本では、後発訴訟で敗訴

したため奏功しなかった。

「アクトス」に関しては、上市後に、「アクトス」と他社の糖尿病治療薬の併用・合剤に

よる効能が発見されている。武田薬品工業では、併用される糖尿病治療薬の相手方企業に

対し併用・合剤を認めないという「アクトス」の併用・合剤に関する特許侵害訴訟を米国

で起こしたが、最終的に双方が和解し、2012 年 12 月以降、「アクトス」の合剤の販売を開

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

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1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

アクトス

ネシーナ

ジャヌビア

(億円)

(年度)

「ジャヌビア」の上市は2009年12月

「ネシーナ」の上市は2010年6月

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第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

始する権利を許諾し、併用・合剤特許を使用してもよいこととなったため、2011 年に「ア

クトス」の物質特許が切れても、併用・合剤で使用されれば組み合わせに関する併用・合

剤特許により、結果的に Life Cycle Management(LCM)の効果を享受できるようになった。

他方、日本では、後発訴訟で敗訴したため、併用・合剤特許が奏功しなかった。 (医薬品

メーカーへのヒアリング結果より)

仮説③:アクトスと同じ作用機作(PPARγアゴニスト)の製品をグラクソ・スミスクラ

イン社が販売していた。この種の糖尿病治療薬は武田薬品工業とグラクソ・ス

ミスクライン社の 2 社で市場を独占していたと言える。従い、2 社は競合関係

にあり、相手より優位な立場に立とうとして種々の付加価値向上策(併用・合

剤、効能追加、新規剤形)を行っていた。この付加価値向上策は LCM 策とほぼ

重複する。

医薬品の市場については、製薬メーカーの企業間で一定の競合関係はあるものの、製品

の併存が成立する市場となっている点が大きな特徴である。糖尿病患者に対して、製薬メ

ーカーA 社の治療薬と、製薬メーカーB 社の治療薬を投与したとしても、A 社の治療薬が効

く患者もいれば、B 社の治療薬が効く患者もおり、患者によって効く成分が異なるため、

製品の併存が成立し得る市場とされる。(医薬品メーカーへのヒアリング結果より)

武田薬品工業は、アクトスの米国、日本での販売が開始された 1999 年以降においても、

2002 年の日本でのα-グルコシダーゼ阻害剤との併用における効能追加を皮切りに、2005

年には、米国でメトホルミン合剤、2006 年には米国でグリメピリド合剤の承認を取得して

いる。また、2008 年には日本でビグアナイド剤との併用における効能追加、2009 年には米

国でメトホルミン徐放製剤との合剤の承認取得、日本でインスリン製剤との併用における

効能追加を行っている。

併用・合剤、効能追加を行っていた 2000 年代の武田薬品工業と、アクトスと同じ作用

機作(PPARγアゴニスト)の製品を販売しているグラクソ・スミスクライン社の糖尿病治

療薬に関する重要特許をみると、武田薬品工業と比較して、グラクソ・スミスクライン社

の重要特許は、出願件数こそやや少ないものの、武田薬品工業と同じように重要特許を出

願し続けている。

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第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

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第6部

図 4-2

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

また、併用・合剤、効能追加、新規剤形に関わる技術としては、剤形や有機活性成分含

有が該当するが、武田薬品工業、グラクソ・スミスクライン社のこれらの技術の重要特許

をみると、剤形については、武田薬品工業のみ重要特許が出願されているが、有機活性成

分含有については、武田薬品工業の重要特許の出願件数が 26 件、グラクソ・スミスクライ

ン社の重要特許の出願件数が 6 件となっている。武田薬品工業、グラクソ・スミスクライ

ン社の 2 社は、併用・合剤、効能追加、新規剤形を行っており、重要特許の出願において

競争していた様相がうかがえる。

1

1

2

1

1 1

1 1

4 2 2

2 2 4

9 5 1

6 4 1

6 6 3

10 9 9

13 13 5

18 8 15

15 18 13

18 31 8

11 46 6

14 31 4

13 35 7

11 19 13

6 24 7

5 24 3

2 5 1

1 2

1970

1971

1972

1973

1974

1975

1976

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1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

武田薬品工業 メルク グラクソ・スミスクライン

ピオグリタゾンの特許出願(基本特許出願)(1985年)

合剤承認取得・効能追加(2000年代)

ネシーナ上市(2010年)

基本特許切れ(2011年)

後発品市場参入(2012年)

アクトスの米国、日本での販売開始

(1999年)

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第4部

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第6部

第2節 前立腺がん・乳がん治療薬に関する仮説検証結果

仮説①:前立腺がん・乳がん治療薬「リュープリン」に関わる特許群が、幅広い領域を

カバーする特許で構成されていて、それらの特許を押さえていたことが、マイ

クロカプセル化による徐放性製剤の開発に優位に働いた。

マイクロカプセル化による徐放性製剤については、特定の効能物質・有効成分を製剤と

して、患者に負担なく如何に届けられるかについて日々低侵襲性を追求し、口内での崩壊

などの改良のための研究開発を積み重ねて実現されたものであって、製品寿命を延ばすた

めの Life Cycle Management(LCM)によるものではないとされる。

ただし、「リュープリン」は、マイクロカプセル化による 1 カ月の徐放性製剤が特許切れ

してからもグローバル売上高を維持しており、上市した 3 カ月の徐放性製剤、6 カ月の徐

放性製剤の特許が、患者の繋ぎ止めに有効に機能したことは事実である。

図 4-3

武田薬品工業の「リュープリン」の年表と物質特許の有効期間切れ、グローバル売上高

の関係性

出所)武田薬品工業㈱の Annual Report および History of Innovative Research and Drug Discovery at

TAKEDA より作成

また、武田薬品工業は、他社と比較して、重要特許のレベルで幅広い技術領域をカバー

しており、その網羅性がマイクロカプセル化による徐放性製剤の開発に優位に働いたもの

と考えられる。

仮説②:生体内分解性高分子を用いた徐放性製剤という特殊性が、製品寿命を長く保つ

上で有利に働いた。

グローバル売上高

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500

1000

1500

2000

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

(億円)

(年度)

「リュープロレリン」に関わる基本特許の有効期間切れ(特許出願は1977年)

「1カ月の徐放性製剤」に関わる基本特許の有効期間切れ(特許出願は1983年)

年 イベント

1984年 リュープリンの特許出願(基本特許出願)

1989年 ルプロン徐放性製剤(米国、4週間に1回投与)販売

1992年 1カ月製剤(日本、4週間に1回投与、前立腺癌)販売

1994年 1カ月製剤の効能追加(子宮内膜症、中枢性思春期早発症)

1996年 3カ月製剤(米国、12週間に1回投与、前立腺癌)販売、1カ月製剤の効能追加(子宮筋腫における筋腫核の縮小、閉経前乳がん等)

1997年 4カ月製剤(米国、前立腺癌)販売

2002年 3カ月製剤(日本、12週間に1回投与、前立腺癌)販売

2004年 1カ月製剤のゼラチンフリー製剤の製造承認取得

2005年 3カ月製剤の効能追加(閉経前乳がん)

2007~8年

6カ月製剤(欧州、前立腺癌)販売

後発医薬品市場に、2014年2月にニプロ㈱が新規参入してきており、マイクロカプセル化による1カ月の徐放性製剤が提供されている。マイクロカプセル化による1カ月の徐放性製剤に関わる特許のほとんどが有効期間が切れており、それを取り

込んだ動きとなっている。

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第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

「リュープリン」に関しては、マイクロカプセル化による徐放性製剤が、後発医薬品メ

ーカーにとって製造が難しい医薬品であったことが、後発医薬品の追従からシェアを維持

することができた理由であると考えられる。

後発医薬品メーカーが、後発医薬品の製造販売承認申請を行う場合には、先発医薬品と

の生物学的同等性を証明することが医薬品副作用救済制度において求められており、その

条件をクリアできないと後発医薬品を上市できない制度になっている。先発医薬品メーカ

ーと後発医薬品メーカーで取り扱う効能物質・有効成分が同じであっても、製剤の中で生

体内分解性高分子を用いることにより、患者に投与してから、効能が現れる時間軸をコン

トロールする部分の技術困難性が非常に高かったため、後発医薬品メーカーは生物学的同

等性を証明することができなかったとされる。(医薬品メーカーへのヒアリング結果より)

シェア維持において、上記のように技術困難性を高めていることや、その部分の重要特

許を出願し続けていることが果たした役割は大きいと考えられる。

図 4-4

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

1

1

1

1

3 1

1 1 1

1

1

3 2

11 1 1

3 1

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5 6 2

4 5 2 1

2 9 4 2

5 9 2

3 18 1

2 9 1 3

3 3 1

1

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1972

1973

1974

1975

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1980

1981

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1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014武田薬品工業 アストラゼネカ アクタビス+

ワトソン・ファーマシューティカルズ

ニプロイプセン

リュープロレリンの特許出願(基本特許出願)

1カ月製剤の特許出願(基本特許出願)

リュープリン(連日投与製剤)上市

リュープリン(1カ月製剤)上市

リュープリン(3カ月製剤)上市

リュープロレリンの基本特許切れ

1カ月製剤の基本特許切れ

リュープリン(6カ月製剤)上市

後発品(1カ月製剤)市場参入

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第3節 内視鏡に関する仮説検証結果

仮説①:日本の高度な製造技術とのすり合わせや、診断技術と治療技術とのすり合わせ

は、内視鏡の製造技術をより一層向上させ、更なる競争優位性の確保に繋がっ

た。

内視鏡の歴史は古く、内視鏡の原理や胃カメラに関わる基本特許は既に有効期間が満了

している。日本の内視鏡メーカーは取り込み可能な技術に関し、内視鏡用の技術を作り上

げ、内視鏡という医療機器としての医学価値を高めている。なかでも特に注力されている

技術は、高画質化技術、小型化技術、実装技術である。

日本の内視鏡メーカーが高画質化技術に注力しているのは、高画質、高解像度になれば

なるほど、医師が行う内視鏡検査の診断能が上がるためである。ただし、高画質化、高解

像度化については、医師である人間の目の処理能力の限界に近づいており、コモディティ

化が避けられない状況になりつつあるため、製品の寿命を延ばすための LCM 対策として、

画質以外の新しい医学価値を創出することが重要となってきている。

(以上、内視鏡メーカーへのヒアリング結果より)

図 4-5

内視鏡の技術のすり合わせ領域

内視鏡メーカーであるオリンパスでは、これまで胃カメラ(第一世代)、ファイバース

コープ(第ニ世代)、ビデオスコープ(第三世代)と順次、内視鏡を上市してきたが、そ

れぞれの世代の内視鏡は、売上高が減少したから、次の世代の内視鏡を上市した訳ではな

く、売上高がまだ伸びている途中段階で次世代製品を上市し、次世代製品と前の世代の製

品の双方の売上高を更に積み上げてきている。

最初に上市された次世代製品において発現した課題に対し、その後改良を施して、十分

な性能を確保できた段階で、次世代製品へと市場が本格的に移行していく。

また、オリンパスがこれまでに、新しい医学価値の創出・検査効率の向上として注力し

てきた分野としては、デュアルフォーカス、NBI(狭帯域光観察)、AFI(蛍光観察)、挿入

技術等が挙げられる。

内視鏡本体に関わる技術

技術のすり合わせ領域

実装技術小型化技術高画質化技術

医師が行う内視鏡検査の診断能向上に繋がる新しい医学価値と検査効率向上を実現する技術

技術の取り込みを行う他社技術(ファイバー、ビデオ化、ハイビジョンなど)

自社開発技術

内視鏡の原理に関わる基本特許については、既に特許切れしている

特許の出願は、他社に模倣される可能性が高い技術にとどめ、他社に模倣される可能性が低い技術や、他社に模倣される可能性が高くても、技術の存在を隠せる技術は、隠すという方針で、それらの技術をノウハウとして取得している

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第6部

内視鏡の主要メーカーの重要特許の出願件数推移についてみると、オリンパスは、競合

他社と比較して、圧倒的に多い特許を保有するだけでなく、重要特許という特許のクオリ

ティの面でも競争優位性を担保している。

図 4-6

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

内視鏡には、体内へ挿入する部分が曲がる軟性内視鏡(主に消化管用、気管支、循環

器、脳神経、小児用)と、曲がらない硬性内視鏡(主に泌尿器、産婦人科、消化器、

耳鼻咽喉科、眼科用)の2種類があり、更に、軟性内視鏡は、先端のレンズ系でとら

えた画像をグラスファイバーで体外の接眼部まで導いて肉眼で観察するファイバース

コープと、先端の CCD に写し電気的にモニターまで導いて観察する電子内視鏡(ビデ

オスコープ)に大別される。内視鏡の先端部にはレンズを洗浄したり送気を行ったり

するノズルや、細胞を採取してガンの病理診断を行うための生検鉗子や、ポリープ等

を切除するための処置具等を挿入するチャンネルが設けられている。

1

1

1

1

5 1

11

11

11

20 2

16

24 1 1

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19 2 4 1 1

24 3 3 1 1 2

25 11 6 1 2

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1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015オリンパス 富士フィルム HOYA KARL STORZ ACMI RICHARD

WOLF

GIVEN

IMAGING

ファイバースコープ(OES-10)上市

ビデオスコープ(CV-1)上市

ビデオスコープ(CV-200)上市

ハイビジョン内視鏡システム上市

小腸用カプセル内視鏡上市

NBI、AFI、IRIを搭載したビデオ内視鏡上市

消化器内視鏡の次世代基幹システム上市統合エネルギーデバイス上市

外科手術用3D内視鏡システム上市

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- 18 -

本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

2011 年の軟性内視鏡の世界シェアは、オリンパス、富士フイルム、ペンタックスといっ

た日本の内視鏡メーカーが 100%を占めている。なかでも特にオリンパスは、軟性内視鏡

以外の硬性内視鏡や内視鏡処置具、エネルギーデバイスの世界シェアでもそれぞれ 25%、

25%、13%を占めており、各種技術の組み込み方・すり合わせ方に工夫を加え、内視鏡と

いう医療機器としての価値を高めることに成功している。

なお、内視鏡の開発においては、如何にして医師の診断能向上に関する新しい課題を掴

むことができるかが重要である。オリンパスでは、医師から内視鏡の改良に関する要望を

もらって、医師とオリンパスが一緒になって内視鏡の改良に向けた研究開発を行ってきて

いる。このような医工連携が現在も続いている。

このような医工連携は、医師にとっても新しい論文を発表できる点で、Win-Win の関係

を構築できるとともに、オリンパスにとっても、医師の改良ニーズを吸い上げる顧客対応

力と、掴んだニーズを製品改良に結び付ける研究開発力をマネジメントすることにより、

内視鏡開発の技術困難性を高めることができ、他社の参入障壁を築くことができている。

この部分がオリンパスの強みになっている。

(以上、内視鏡メーカーへのヒアリング結果より)。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-7

内視鏡関連製品の世界シェア(2011 年)

出所)Mizuho Industry Focus Vol.111 医療機器メーカーの成長戦略~日本のものづくり力を活かした海

外展開による競争力強化~(2012 年 4 月 6 日、みずほコーポレート銀行産業調査部)

仮説②:材料開発から生産設備まで自前主義の姿勢を貫いてきたことが、技術のスピル

オーバーを回避できた。

前述したとおり、内視鏡は、医師の診断能向上のため、外部の技術を取り込んで、内視

鏡という医療機器としての価値を高めている。そのような状況を踏まえると、すべてを自

前主義で賄うことに固執していないと考えられる。

その一方で、オリンパスの重要特許の技術内容についてみると、幅広い技術領域がカバ

ーされている。とりわけ、内視鏡の形態全般や、信号処理(下図の画像信号の処理の 41)、

ユーザビリティ(操作特性の 51)に関わる重要特許の出願件数が圧倒的に多い。

40%

40%

13%

7%

J&J

Covidien

オリンパス

その他

70%

15%

15%

オリンパス

富士フイルム

ペンタックス

30%

30%

25%

15%

Stryler

Storz

オリンパス

その他

50%

25%

25%

BSX

オリンパス

その他

硬性内視鏡 エネルギーデバイス

軟性内視鏡 内視鏡処置具

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-8

重要特許に関する調査対象企業別・技術区分別の出願件数(ファミリー単位)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

また、技術のイノベーションが継続しており、重要特許の出願件数は、幅広い技術領域

で増加・維持している。

以上から、内視鏡の場合においては、他社技術を取り込むか、自社技術を開発するかは

ケースバイケースで選択されており、改良製品の中の新しい付加価値において、自社技術

を開発する部分のウェイトを大きくし、自社技術や自社ノウハウの拡散を防いでいると考

えられる。

68 5 2 3 3

84 9 1 4

46 4 1 1

49 8 4 1

91 3 3 1

42 3 2 6 2

86 11 10 1 2

38 1

60 20 2 1 1

126 23 15 3 3

87 26 4 1 1

82 5 10 1 2 2

47 1 3 3 2 3

68 6 5 4 1

54 7 3 5 1 1

124 27 12 4 1 1 2

26 1 2 2 2

186 29 13 1 6

39 3 3 3

100 4 6 5 9

175 16 11 3 4

51 1 2 5

23 1

120 6 3 2 2

196 21 33 1 1 10

160 3 2 4 24

293 17 40 5 1 1 1

99 14 11 6 4 4

53 27 5 1

40 26 2 2

44 6

65 2 1 5

42 2 17 9

43 1 1 3

70 4 17 3 8

21 2 2

14

13

12

11

15

16

21

22

23

24

25

26

27

28

31

32

33

41

42

43

51

52

59

61

62

63

64

69

71

72

73

74

81

82

83

90

1:本体

9:その他

2:光学系および照明

5:操作特性

7:特殊診断

8:手術

オリンパス 富士フィルム HOYA KARL STORZ ACMI RICHARD

WOLF

GIVEN

IMAGING

6:内視鏡の形態

4:画像信号の処理

3:画像信号の発生

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第4節 DRAM に関する仮説検証結果

仮説①:かつて米国メーカーからシェアを奪った日本メーカーが韓国メーカー、台湾メ

ーカーに取って代わられ、同じようにシェアを奪われた。JEDEC 標準規格の製

品の為、特許の薮とクロスライセンスで特許が古典的な排他機能を発揮できな

い状況に陥った。製造技術のノウハウは製造装置メーカーとの共同開発によら

ざると得ず、製造装置メーカーを経由して技術が拡散していった。

東芝や日本電気といった日本メーカーは 1990 年代に入り、サムスン電子や現代電子にシ

ェアを大きく奪われる結果となっている。主要な DRAM メーカーの重要特許の年次推移につ

いてみると、東芝、日本電気、日立製作所、サムスン電子、マイクロン、SK ハイニックス、

インフィニオン等の主要な DRAM メーカー各社は、大量の重要特許を保有している。

このように特許の藪があって、これが必須特許というものもなく、特許権行使による差

し止め請求において、双方の相打ちが避けられない状況であり、また各社が持つ特許が侵

害回避可能であった。また当時、他社とのライセンス契約への抵抗感も特に存在していな

い状況であった。(DRAM メーカー出身の有識者へのヒアリング結果より)

他方、1990 年代以前に、日本の DRAM メーカーが大きくシェアを伸ばした背景には、そ

の間、重要特許の大半を日本の DRAM メーカーが占めていたことによるものと考えられる。

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-9

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

次に、日本の DRAM メーカーが①DRAM 市場シェアを大きく伸ばしていた時期、②DRAM 市

場シェアの首位の座を維持しつつも頭打ちになっていた時期、③DRAM 市場シェアが大きく

低下し首位の座を奪われた時期の3つに分けて、重要特許等との関係性を分析する。

日本の DRAM メーカーが DRAM 市場シェアを大きく伸ばしていた 1975 年から 1985 年にか

けては、DRAM 開発は、産業政策として国が主導し、ロードマップに基づき開発が進められ

ていた。そこでは、国内の半導体メーカーと製造装置メーカーが協力して、ノウハウを共

有しながら、ステッパーなど製造装置等の共同開発が行われていた。また、そこで開発さ

れた DRAM 技術や製造技術に関わる特許は各社が出願していたが、それらの特許が特許権行

使による差し止め請求のために使われる訳でもなく、それらの特許は参入障壁として機能

していない状況であった。

1

1

4

3

2

2 3

1 3 4

2 2 1 1 1

5 10 2 3 1

9 8 7 3

9 9 6 6 3 1 2

4 10 9 2 14 2

12 3 5 4 13 2 1

29 15 18 28 24 8 8 2

21 12 30 28 28 14 10 1

29 29 37 35 40 11 24 3

27 18 28 33 32 17 30 3

26 14 23 13 28 17 32

22 10 24 16 36 8 28 7

24 4 12 12 41 8 18

8 2 18 17 42 2 7 1

16 6 4 14 22 3 2 1

7 10 3 14 25 12 3

3 3 2 28 6

3 3 1 1 17

1 2 3 3 5 2

1 3

2 1

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014東芝 日本電気 日立

製作所

サムスン

電子

マイクロン SK

ハイニックス

インフィ

ニオン

ラムバス

SDRAMのJEDEC認定標準規格

DDR SDRAMのJEDEC認定標準規格

マイクロソフトのWindows95の販売開始

JEDECがDDR SDRAMの開発を本格的に開始

JEDECのSDRAM標準にDDR技術を追加

サムスン電子がDRAM市場でトップの座につく

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-10

DRAM 市場シェアを大きく伸ばしていた時期の状況

出所)『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(湯之上隆)の図 30 より作成

日本の DRAM メーカーが DRAM 市場シェアの首位の座を維持しつつも頭打ちになっていた

1985 年から 1995 年にかけては、DRAM の製品サイクルが短くなり、安価かつ迅速に製品を

大量供給できる開発投資力の重要性が増すとともに、一番乗りで上市しないと、投資回収

ができないほど、DRAM の販売価格の下落のスピードが速くなっていった。

また、1990 年頃、DRAM の大量生産が可能になり、それに伴い製造装置が複雑になるにつ

れて、製造装置メーカーの売上が伸びてきて、DRAM メーカーと製造装置メーカーとのパワ

ーバランスで、製造装置メーカーが相対的に強くなっていった。これにより、DRAM メーカ

ーと製造装置メーカーのビジネス関係が変化し、DRAM メーカーが製造装置を何台購入する

かによって、製造装置メーカーが販売先を決めるような状況になった。また、製造装置メ

ーカーが DRAM 開発をリードするようになる中、改良製品の中の新しい付加価値において、

自社技術を開発する部分のウェイトが相対的に小さくなっている。

こうした状況のもと、大規模な資本力を背景に、大量の製造装置を調達可能なサムスン

電子が有利な展開となり、シェアを大きく伸ばしていった。

なお、サムスン電子には、日本の DRAM メーカーを上回る開発投資力(資本があってそれ

を開発に振り向ける判断力)と研究開発力があって、これらを武器に、日本の大手 DRAM

メーカーを凌駕する技術力を身につけ、品質の良い DRAM 製品を安く製造できるようになっ

たことがシェア奪取につながったとする意見もあった。(DRAM メーカー出身の有識者への

ヒアリング結果より)

このような技術力は、サムスン電子の重要特許が日本の DRAM メーカーと同様、幅広い技

術領域をカバーしていることや、多段階製造方法(下図のダイナミックランダムアクセス

メモリの 530、531、532)など一部の技術区分において、日本の DRAM メーカーよりも重要

特許の出願件数で上回り、逆転していることなどからみても裏付けられる。

DRAM市場シェアの推移DRAM技術や製造技術が参入障壁として機能していなかった。

DRAM開発は、産業政策として国が主導し、ロードマップに基づき開発を進めた。

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

また、製品製造のノウハウをレシピと捉えると、発光ダイオードの場合には同じレシピ

であっても、開発元が異なれば、開発元のノウハウによって異なる製品が出来るが、DRAM

の場合には、同じレシピであれば、開発元が異なっても、ほぼ同じ製品が出来たため、製

品製造のノウハウとしての製造技術については、競争の源泉ではなかったとする意見もあ

り、製造装置メーカーを経由して技術が拡散したかどうかは明確ではない。(DRAM メーカ

ー出身の有識者へのヒアリング結果より)

図 4-11

DRAM 市場シェアの首位の座を維持しつつも頭打ちになっていた時期の状況

出所)『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(湯之上隆)の図 30 より作成

DRAM市場シェアの推移DRAMの開発では、256kビット、512kビット、1Mビット、4Mビットと適用メモリが世代交代してきたが、世代交代の度に研究開発サイクルが短くなっていったため、日本のDRAMメーカが、短サイクルで大規模投資が求められるDRAMの開発に対応できない事態が発生した。

一番乗りで上市しないと、投資回収ができないほど、販売価格の下落のスピードが速かった。

1990年頃、DRAMの大量生産が可能になり、それに伴い製造装置が複雑になるにつれて、製造装置メ

ーカの売上が伸びてきて、製造装置メーカが相対的に強くなっていった。これにより、DRAMメーカと製造装置メーカのビジネス関係が変化し、DRAMメーカが製造装置を何台

購入するかによって、製造装置メーカが販売先を決めるような状況になった。

大規模な資本力を背景に、大量の製造装置を調達するサムスンが有利となり、シェアを大きく伸ばして

いった。

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-12

重要特許に関する調査対象企業別・技術区分別の出願件数(ファミリー単位)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

日本の DRAMメーカーの DRAM市場シェアが大きく低下し首位の座を奪われた 1995年から

2005 年にかけては、DDR SDRAM が中心となり、データ転送速度の高速化などの性能が上が

ったが、利用者である人間の認知・処理能力の限界に近づいたことにより、利用者が新製

品に思ったほど飛びつかない状況が生まれた。このあたりから、DRAM を販売するマーケテ

ィングパワーが変化し、性能ではなく、安く提供できる投資力に移っていった。(DRAM メ

ーカー出身の有識者へのヒアリング結果より)

13 8 12 3 11 7 3 2

19 11 13 19 38 8 6 9

10 5 5 6 18 5 1 3

8 7 8 10 19 2 2 5

4 4 3 15 2 2

16 5 15 7 17 1 7 1

6 10 4 9 27 8 3 4

21 18 24 11 25 11 8 7

31 38 60 17 52 6 11 2

58 33 54 27 71 13 16 9

14 5 4 4 1 5 10

24 9 28 7 30 5 7 7

30 16 30 17 30 8 15 8

50 31 60 19 59 5 12

59 25 66 7 46 7 15

7 8 3 5 33 1 5

4 6 32 17 31 1

1 3 6 8 21 4 6

16 1 3 5 17 3 24

7 2 6 9 25 3 9

10 7 18 35 67 8 17

4 5 10 21 33 7 2

22 1 1 9 1 42

17 4 7 8 30 3 6

6 4 3 21 2 21

13 7 26 17 65 6 13

19 5 29 15 33 4 6

33 5 24 17 38 7 16

1 6 7 19 5 3

8 8 10 17 13 8 12

14 12 19 19 42 11 11

2 1 5 22 39 9 3

9 1 12 22 54 11 3

23 2 6 5 20 4 10

17 4 38 11 41 5 5

5 2 23 6 28 7 3

2 1 7 13 7 10 2

57 25 68 56 95 20 19

14 21 20 13 33 15 3 1

122

121

120

110

東芝 日本電気 日立

製作所

サムスン

電子

マイクロン SK

ハイニックス

インフィ

ニオン

ラムバス

123

130

140

200

310

311

320

410

420

510

520

521

522

523

524

530

531

532

533

534

535

536

537

540

610

611

612

613

614

620

710

630

690

720

900

1:記憶装置のR/W機

2:アドレス選択

4:上記に属しない記憶

装置に関する事項

3:使用する記憶素子に

特徴のある記憶装置

5:ダイナミックランダム

アクセスメモリ

6:他に分類されない半

導体装置および電気的

7:半導体装置またはそ

の部品の製造または処理

9:その他

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- 26 -

本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-13

DRAM 市場シェアが大きく低下し首位の座を奪われた時期の状況

出所)『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(湯之上隆)の図 30 より作成

仮説②:DRAM の特許が出願された 1982 年から最初のピークを迎える 1990 年までは出願

件数が増加している。この期間に必須特許について出願し尽くしたと推測する

と、1982 年と 1990 年の中間地点の 1986 年から 20 年後である 2006 年頃にコモ

ディティ化の兆候が現れているといえる。

コモディティ化の兆候が現れる時期として、2006 年頃が予想されているが、それよりも

前倒しの 2001~2003 年頃から、重要特許の出願件数は大幅に減少している。

また、DRAM は複数の機能等が1つにまとめられた形態の複合製品であり、群レベルの特

許から製品が成り立っているため、必須特許の特定が困難である。必須特許の有効期間切

れというよりも、日本の DRAM メーカーが高い品質や技術力を持ちつつも、競争軸が性能

から新製品の上市のスピードと大量生産による低価格化の2つへと移行し、その流れに対

応できなかったため、シェアを失ったと考えられる。

第5節 デジタルカメラに関する仮説検証結果

仮説①:市場の立ち上がりよりも先行して重要特許を取得しない。市場の立ち上がりと

一致する形で特許の蓄積量を増やしていった。

レンズ交換型のデジタルカメラについては、2003 年から 2012 年にかけて、出荷金額が

大きく伸びている傾向と、重要特許の出願件数の大きな塊が形成されている傾向が概ね一

致している。

なお、デジタルカメラメーカーにとっては、特許出願を遅らせることにより、競合メー

カーに先を越されるリスクを抱え込むため、市場の立ち上がりの見込みや競合メーカーの

DRAM市場シェアの推移日本のDRAMメーカが高い品質や技術力を持ちつつも、大量生産等による低価格化の流れに対応でき

ず、シェアを失った。ラムバスの特許明細書を読んだが、非常に上手に書かれていて関心した。ラムバスのDirect RDRAMの遅延ロック・ループに関する特許を回避して、DDR SDRAMを開発するのが非常に難しかった。

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

動きの予測の正確性が重要となる。また、デジタルメーカーが企業の知財戦略として特許

出願を行った後、審査請求を行わないことにより、特許登録を遅らせる方法も採り得るこ

とから、上記の2つの傾向が一致するだけでは、シェアの維持に効果があったかどうかを

判断することは難しいと考えられる。

図 4-14

デジタルカメラ(レンズ一体型)の出荷金額推移(単位:億円)

出所)CIPA 出荷統計(一般社団法人カメラ映像機器工業会)

22792139

1941

19902094

1904

1531

1337

1052

871

701

523

3483

3836

3568

4161

4714

4811

3408

3965

3031

2141

1462

932

3756

4799

4488

4791

52235143

3344

3061

2550

2087

1528

1176

1875

28252978

3422

4122

4528

3336

3035

2544

2050

1212 962

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

レンズ一体型国内 レンズ一体型米国 レンズ一体型欧州 レンズ一体型アジア他

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- 28 -

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-15

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

仮説②:高機能化に関わる技術領域のうち、自社に強みがある技術領域については、標

準化しなかった。

デジタルカメラの国際標準仕様を策定している一般社団法人カメラ映像機器工業会

(CIPA)において、標準仕様となっているのは外部インターフェースに関わる部分のみと

1

1 2

1 5 1

2 3

2 3 2 1

13 2 1 2 2

24 6 2 5

9 2 1

10 3 3

5 1 1 2

3 3 1

3 1 1 2

6 7 4 6 5 3 2

5 3 3 7 6 2 1

17 9 1 6 3 1

11 5 7 1

13 6 2 8 3 3 1

11 6 2 12 2 4

40 15 11 21 17 7 2

36 28 13 13 18 3 13

32 25 11 14 11 7 10

30 27 11 21 8 8 8

23 32 13 29 6 17 14

35 56 22 27 10 9 22

44 78 19 11 16 11 7

43 41 6 11 13 8 3

25 16 8 14 20 6 1

11 6 5 84 17

16 1 2 20 14

8 5 1

1

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015キャノン ソニー ニコン 富士

フィルム

カシオ

計算機

リコー サムスン

電子

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

なっている。

デジタルカメラは、デジタルカメラ本体に関わるレンズ、CCD、画像処理エンジンが主

たるユニットであり、そのうちどれか1つのユニットを自社で技術開発を行っていないと、

デジタルカメラ市場では戦えないとされている。デジタルカメラは、各社が自社の画像設

計の思想等に基づいて、前述したユニットに関連する技術の囲い込みや特許の蓄積で鎬を

削っている。日本のデジタルカメラメーカーは、アナログの技術やすり合わせについては、

海外メーカーと比較して、競争力が高かったが、デジタル信号やデジタル処理については、

それほど競争力は高くなかった。(デジタルカメラメーカーへのヒアリング結果より)

また、日本のデジタルカメラメーカーが競争力を維持したのは、1990 年代の中盤にパソ

コンとの連携を断ち切ったことが大きいとされている。インテルは PC カメラを、またモ

トローラやコダックはカメラ OS を普及させようとしたが、その時、ほとんどの日本のデ

ジタルカメラメーカーはこのような流れ(PC とつながり、画像の調整などは PC で行うと

いう流れ)に乗ってこなかった。1997 年には、オリンパスが圧倒的に画質の美しさと引

き換えに電子シャッターの採用も止めた。この商品がヒットした結果、デジタルカメラは

カメラ市場において趣味的嗜好の差が左右するクラシック・カメラの代替という位置づけ

となり、日本のデジタルカメラメーカーは、画素数を標準化せずに済み、画素数を自由に

上げられる競争軸を手にしたとされる。

画素数を上げようとすると、画素ピッチが小さくなるため、光を垂直に入れることが求

められ、レンズ設計が難しくなる。さらに、レンズ以外にも、電力消費やファイル処理時

間、手ぶれ補正などへの負荷が大きくなる。こうした問題を解決するには、もともとのカ

メラメーカーのような技術総合力のある企業が技術的にも有利であり、またそれは完全に

アナログ的なすり合わせが必要であるため、これを得意とする日本のデジタルカメラメー

カーが有利であり、各技術・部品のすり合わせ領域の競争力を強化し、その部分の技術困

難性を高めていった。なかでも特に、レンズと撮像素子のすり合わせのところでの手ぶれ

補正のハードルは高かった。ソニーやキヤノン、パナソニックがクロスライセンスでこの

技術を押さえていた。

(以上、有識者へのヒアリング結果より)

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-16

デジタルカメラの内部構造と外部インターフェース部分の CIPA 標準

出所)IAM Discussion Paper Series #005「デジタルカメラとカメラ・モジュールに見る日本企業の

標準化ビジネスモデル」(2009 年 6 月、東京大学知的資産経営・総括寄附講座 小川紘一)より

作成

仮説③:最初に出願件数が 2 桁に達した 1989 年からピークである 2002 年まで出願が増

加し続けていることから、この期間に必須特許取得を狙って継続的に出願した

と推測できる。 1989 年と 2002 年の中間地点の 1995 年頃から 20 年後である

2015 年頃にコモディティ化の兆候を迎えると予測できる。

コモディティ化の兆候が現れる時期として、2015 年頃が予想されているが、レンズ一体

型のデジタルカメラについては、それよりも前倒しの 2009 年頃から、出荷金額が大きく

落ち込んでいる。

レンズ一体型のデジタルカメラについては、利用者の高画質需要が一巡するとともに、

競合関係にあるスマートフォンの普及により、スマートフォンへの置き換えが進んでいる

ため、市場が縮小傾向にある。(デジタルカメラメーカーへのヒアリング結果より)

<CIPA標準>

ファイルフォーマット(Exif)手ぶれ測定方法ファイルシステム(DCF)マルチピクチャーフォーマットステレオ静止画像フォーマットファイルフォーマット(メタデータ)(Exif)PTP/IP感度規定解像度測定方法電池寿命測定方法ダイレクトプリント(pictBridge)

レンズ、CCD、画像処理エンジンが主たるユニットであり、どれか1つは自社で持っていないと市場で戦えない。各社が技術を囲い込んでおり、標準化されていない。

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-17

デジタルカメラ(レンズ交換型)の出荷金額推移(単位:億円)

出所)CIPA 出荷統計(一般社団法人カメラ映像機器工業会)

デジタルカメラの重要特許についてみると、2002 年から 2010 年にかけて、デジタル一

眼レフカメラの開発と連動して、重要特許の出願件数の大きな塊が形成されている。

コンパクトカメラを中心とするレンズ一体型のデジタルカメラについては、コモディテ

ィ化の兆候が現れているものの、ミラーレスや一眼レフ、望遠を中心とするレンズ交換型

のデジタルカメラについては、重要特許の有効期間切れによるコモディティ化の兆候はも

う少し先になると考えられる。

現在の日本のデジタルカメラメーカーは、ミラーレスや一眼レフ、望遠の技術力を背景

に、レンズマウントによるプロフェッショナル層の囲い込みで成功しており、デジタルカ

メラ本体ではなく、交換レンズで儲けている。(デジタルカメラメーカーへのヒアリング

結果より)

デジタルカメラの重要特許の技術内容についてみると、2001 年以前は、「信号処理」や

「画像信号記録」、「画像通信その他」が中心であったが、2002 年以降は、これらの技術区

分に加えて、「カメラ本体」や「光学系」、「固体撮像装置」、「カメラの調整」といったミ

ラーレスや一眼レフ、望遠と関わりがある技術区分の重要特許の出願件数が大幅に増加し

ている。

さらに、日本のデジタルカメラメーカーは、こうした技術区分の重要特許においても、

サムスン電子を出願件数ベースで圧倒していることから、重要特許の有効期間切れによる、

レンズ交換型のデジタルカメラのコモディティ化の兆候はもう少し先になるという考え

方はあてはまるものと考えられる。

170

293 384453

636

726

546

644

569

770

941

861

345

694

9191123

1339

1495

1097

1228

1189

1710

1468

1071

237

614

897

1246

1657 1884 1656

1531

1634

2216

1885

1128

103

260

411

557

1535

2090

1289

2432

2700

2836

2488

1913

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

レンズ交換型国内 レンズ交換型米国 レンズ交換型欧州 レンズ交換型アジア他

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-18

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

キヤノンが低価格のデジタル一眼レフ「EOS Kiss Digital」を販売

1

1 2

1 5 1

2 3

2 3 2 1

13 2 1 2 2

24 6 2 5

9 2 1

10 3 3

5 1 1 2

3 3 1

3 1 1 2

6 7 4 6 5 3 2

5 3 3 7 6 2 1

17 9 1 6 3 1

11 5 7 1

13 6 2 8 3 3 1

11 6 2 12 2 4

40 15 11 21 17 7 2

36 28 13 13 18 3 13

32 25 11 14 11 7 10

30 27 11 21 8 8 8

23 32 13 29 6 17 14

35 56 22 27 10 9 22

44 78 19 11 16 11 7

43 41 6 11 13 8 3

25 16 8 14 20 6 1

11 6 5 84 17

16 1 2 20 14

8 5 1

1

1975

1976

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015キャノン ソニー ニコン 富士

フィルム

カシオ

計算機

リコー サムスン

電子

ニコンが低価格帯のデジタル一眼レフ「D70」を販売

パナソニックがミラーレス一眼レフ「DMC-G1」を販売

サムスンがペンタックスと提携しデジタル一眼レフ市場に参入

ソニー、サムスンがそれぞれミラーレス一眼レフ「NEX」、「NX10」を販売

オリンパスが世界最小・最薄・最軽量のデジタル一眼レフ「E-410」を販売

キヤノンがミラーレス一眼レフ「EOS M」を販売

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-19

重要特許に関する技術区分別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

仮説④:画素数を中心に企業が競争してきたが、画素数も一定レベルを超えると、顧客

にとっての価値や効用が頭打ちとなり、その後、企業の競争力がデータモビリ

ティ(スマートフォン連携等)という違う特許領域にシフトした。

レンズ交換型のデジタルカメラについては、プロフェッショナル層ではない、一般層の

利用者における高画質需要が一巡したことにより、市場がその影響を受け始めていると考

えられる。

2014 年以降、これまでの画素数競争から脱却し、画素数を抑えて、センサーを大きく

し夜間でも昼間のように撮影できる高感度カメラや、テレビカメラ並みの動画を撮影でき

るカメラなど新しい価値の提供による LCM が始まっている。(デジタルカメラメーカーへ

のヒアリング結果より)

1 1 1 1 1 1 1 1

1 1 1

1 2 2 1 2 1

1 2 1

1 2 2 1 3 1 1

1 1 1 1 1 2 3 4 4 3 1 3 1 3 2

1 1 1 1 1 1 3 1 1 1 1 1 5 5 12 4 6 4 3 5 2 3 2 1 1 3

2 1 2 3 3 5 3 1 3 4 2 1

1 2 1 3 1 1 3 1 3 2 1 5 3 1 1 3 2 1

2 1 1 5 1 1 4 3 3 1 3 2

1 1 1 6 1 3 1 2 2 1 1

1 1 1 3 2 1 1 1 1 1 2

6 3 1 1 3 1 3 1 1 1 15 3 8 1 2 5 2 1 5 5 2 10 8 3 2

1 1 1 2 9 1 4 10 2 9 1 3 7 2 2 5 5 1 1 6 2 1

4 2 1 1 1 1 1 2 5 2 4 4 2 1 3 1 4 11 4 2 6 1 2 3 3 2 4 6 2 3

1 1 1 1 3 1 3 3 2 2 1 1 1 3 2 4 2 5 2 5 2 1 4 4 4 2 2 3

4 1 1 1 1 2 1 6 1 4 2 2 1 5 2 11 2 4 5 1 2 6 4 2 7 2 7

2 1 1 1 2 6 1 1 1 2 3 1 2 3 3 3 2 6 2 4 1 1 2 2 2 7 3 2

4 9 6 4 3 1 2 6 1 5 18 11 3 2 11 3 3 4 5 7 6 19 2 10 14 5 3 13 9 4 3 14 3 9

5 7 7 3 15 3 1 4 6 4 7 2 22 13 5 5 7 3 1 4 8 5 12 12 3 5 6 3 6 7 1 5 7 19

16 10 7 1 5 2 1 3 6 5 3 19 9 3 5 12 4 2 5 12 5 6 5 9 6 5 8 1 3 7 6 5 5 3 1 6

12 6 8 6 16 4 2 4 10 1 6 16 10 5 4 9 6 3 2 9 3 5 3 6 4 6 5 4 2 5 7 2 10 6 2 14

16 12 3 6 13 8 4 5 12 1 3 3 18 11 9 13 8 13 4 4 12 7 3 3 15 2 5 7 1 1 7 5 5 7 2 3 16 1

6 4 8 14 20 10 5 5 5 2 6 2 26 22 13 12 14 19 9 5 4 1 2 5 24 7 9 12 1 1 9 9 6 8 3 1 27

11 5 7 15 20 15 6 12 16 4 8 8 17 16 6 11 16 11 7 2 8 1 5 30 4 1 6 3 2 4 7 3 7 4 36 1

16 3 2 3 15 3 1 19 21 8 8 2 18 8 3 5 9 7 5 2 8 1 7 11 2 2 5 1 1 3 3 3 3 2 1 15

11 7 5 5 12 2 2 2 20 1 5 4 11 8 5 7 6 4 5 6 5 3 1 4 6 5 2 5 1 1 1 2 2 2 5 2

12 5 2 11 17 6 3 8 16 4 30 24 14 28 2 6 15 3 8 4 7 3 1 7 4 1 1 2 1 2 2 2 6 5

8 3 3 5 8 1 5 11 1 5 8 13 10 4 4 9 3 3 2 3 6 3 1 3 3 1 2 2 1 1 2 2

3 1 1 2 2 1 4 1 2 1 1 1 1 2 1 1

1 1

1977

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

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2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

110 120 210 220 230 240 250 310 320 330 340 390 410 420 430 440 450 460 490 510 520 530 540 550 560 590 610 620 631 632 633 640 650 660 710 720 910 900

9:その他

7:画像通信

その他

6:画像信号記録

5:信号処理

4:カメラの調整

3:固体撮像装置

1:カメラ本体

2:光学系

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

第6節 液晶パネルに関する仮説検証結果

仮説①:液晶パネルとのすり合わせが必要なコア部品である画像処理 LSI(画像エンジ

ン)技術のモジュール化が急速に進んだため、液晶パネルによるすり合わせ技

術の優位性が低下した。

液晶テレビにおける高画質の実現には、液晶パネルと画像処理用 LSI の双方の品質が重

要とされる。シャープは、サムスンや LG と共に、液晶パネルを自社で内製していたが、

画像処理用 LSI については、サムスンや LG が外部の半導体メーカーから汎用 LSI を調達

していたのに対し、シャープは、画像処理用 LSI を内製しているテレビメーカから供給を

受けていた。他方、ソニーや東芝は、フィリップスと共に、画像処理用 LSI を自社で内製

し、液晶パネルは、外部のファウンドリー企業(半導体生産請負専門会社)に生産委託し

調達していた。また、中国メーカーは、液晶パネル、画像処理用 LSI の双方を外部から調

達して、それらを組み合わせるという開発体制を導入していた。

このように、当時、日本の液晶テレビメーカーの中には、液晶パネルと画像処理用 LSI

の双方を内製化していたメーカーが存在しないが、双方を内製化できたメーカーがいれば、

すり合わせ領域の競争力を強化できるため、技術困難性を高められた可能性がある。

液晶テレビの製造プロセスを以下に示す。シャープを除いて、日本の液晶テレビメーカ

ーの多くが、モジュール製造工程以降のプロセスは、付加価値の低い組立作業が中心とな

るため、海外工場での製造や EMS への製造委託を活用している。

このようなモジュール製造工程やテレビ組立製造工程の中に、ドライバ IC や画像処理

LSI 等のモジュールの取り付けが組み込まれるようになり、液晶テレビの製造プロセスの

中で液晶パネルのすり合わせ領域の競争力を強化し、技術困難性を高めることが難しくな

っている。

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本編

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-20

液晶テレビの製造プロセス

出所)平成 24 年我が国情報経済社会における基盤整備(我が国電機・電子企業が抱える経営課題及び今後

の方向性に関する調査研究)(平成 25 年 3 月、経済産業省)

他方、液晶パネルの部品や製造装置については、アナログ的なすり合わせの必要性が現

在も残っており、他社がそのノウハウを模倣することが難しいことから、競争優位性を維

持している日本のメーカーが多く見られる。(液晶パネルメーカーへのヒアリング結果よ

り)

仮説②:VA 方式は富士通、IPS 方式は日立製作所によって基本技術が開発されたのにも

かかわらず、量産に際し、韓国勢を中心とするアジア勢に世界市場シェアを奪

われてしまった。富士通は当初から基本技術を安価に提供した。日立製作所は

クローズ戦略を採ったが貫徹できなかった。ソニーはサムスンと組んで合弁会

社を設立した。オープン・クローズ戦略に誤りがあった可能性がある。

1980 年代の後半になってシャープが液晶パネルの量産化に成功し、市場が立ち上がって

いったが、歩留まりが非常に悪く、日本の液晶パネルメーカーは、赤字経営を強いられ、

膨大な額の累積損失を抱えていた。日本の液晶パネルメーカーは歩留まり向上のため、製

造装置に製造技術のノウハウを埋め込むとともに、製造装置メーカーに販売のフリーハン

ドを与えている。

このように、製造装置メーカーに製造技術のノウハウが埋め込まれており、液晶パネル

メーカーの改良製品の中の新しい付加価値において、自社技術を開発する部分のウェイト

が相対的に小さくなっている。

また、古い製造装置を韓国や台湾の競合メーカーに売却し、また装置のみならず、関連

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

する特許やノウハウ、技術サポートまで提供して、新たな投資のための資金源に充ててお

り、特許が投資回収ツールという位置づけになっていた。

このような状況により、1990 年代に開発された IPS 方式や VA 方式についても、クロー

ズ戦略を実行することができず、ライセンスや生産設備へのノウハウ移管といったオープ

ン化による収益貢献を余儀なくされたことから、重要な技術を競合メーカーに拡散させて

しまった。(液晶パネルメーカーへのヒアリング結果より)

1990 年代の後半から、日本のメーカーの液晶パネルの市場シェアが低下するが、重要な

技術を競合メーカーに拡散させた時期と概ね重なることから、その影響を少なからず受け

ているものと考えられる。

他方、韓国や台湾の液晶パネルメーカーは、日本から拡散した重要な技術やノウハウを

活用して、液晶パネルの生産を効率的に行うことができたと考えられる。

図 4-21

液晶パネルの地域別生産シェア

出所)テクノシステムリサーチ

他方、液晶パネルメーカーの重要特許についてみると、シャープは、1994 年から 2010

年までの間、恒常的に概ね一定量の重要特許を出願してきている。他方、サムスンディス

プレイや LG ディスプレイは、第5世代の開発が進められた 2002 年、2003 年の2カ年に集

中的に大量の重要特許を出願している。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

図 4-22

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

他方、シャープが液晶パネル事業で競争優位性を維持できなかった理由としては、シャ

ープが技術のブレイクスルーにより、液晶パネルをテレビ用に適用できると見込み、経営

資源をテレビに集中させたことが大きいとされている。

テレビ用に製品ターゲットを絞ったことにより、ガラス基板の大型化が課題となるとと

もに、新世代の製品が定期的に誕生するという製品サイクルに対応することが求められた

ため、設備投資規模が膨大になった。そのような状況下では、サムスンディスプレイや LG

ディスプレイのような開発投資力(資本があってそれを開発に振り向ける判断力)が大き

いプレイヤーが有利な立場になり、シャープは競争力を低下させてしまった。

またその当時、テレビ市場が成熟期に入り、テレビ本体の価格が下がり、投資回収が困

難になったことも、シャープの競争力低下に繋がったと考えられる。

(以上、液晶パネルメーカーへのヒアリング結果より)

1

8

4

3

1

1

1

3 3

4 2

15 2 2 1 2

17 4 3 3

23 2 1 1 8

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13 9 3 4 26 25

29 6 10 28 12

30 8 3 9 15 14

37 17 4 3 55 47

49 10 2 14 194 83

26 3 4 21 104 79

30 5 9 27 28 37

25 3 6 19 39 50

31 1 6 24 34 43

24 3 20 16 21

33 1 19 12 10

28 1 18 5

22 2 18 1

7 4 2

3 1

1

1978

1979

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

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1998

1999

2000

2001

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2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014シャープ 富士通 大日本印刷 日東電工 LG

ディスプレイ

サムスン

ディスプレイ

富士通がMVA方式を開発(1997年)

日立製作所がIPS方式を特許出願(1992年)

シャープが3.2インチのa-Si TFTパネルを試作

(1985年)、上市(1986年)

シャープが14インチのTFT液晶を上市(1998年)

シャープ、三洋電機がTFT液晶(低温ポリシリコン薄膜)を試作(1995年)

サムスン電子とソニーが合弁会社を設立(2004年)

第五世代開発でサムスン電子が先行する(2002年)

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要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

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第6部

仮説③:液晶ディスプレイに関する技術は、日本が基本技術をもっておらず、アメリカ

からの導入であった。(またもともと液晶ディスプレイは、電卓の表示部に使

われた技術で、1970 年代の非常に古い技術である。それをテレビ用に応用でき

たのは、1998 年のシャープのアクオスが初めてである。)

液晶パネルに関する基本特許は、欧米が保有していた。1980 年代になって、日本の電機

メーカーが液晶パネルの技術力を高めてきたため、欧米からライセンス契約を求められた

が、当時、日本の電機メーカーは膨大な額の累積損失を抱えていたため、要求額を支払う

ことが出来ず、結局、そのような状況を汲み取る形でライセンスフィーをかなり下げても

らうことで双方の合意に至った。(液晶パネルメーカーへのヒアリング結果より)

また、シャープが 14 インチの TFT 液晶を上市した 1998 年時点では、液晶パネルに関す

る基本特許は、既に特許切れしていた。さらに、テレビ用の液晶パネルに関する重要技術

は前述したとおり、コストに目が行ってしまい、競合メーカーに拡散させてしまったため、

重要特許によって競争優位性を確保することが困難な状況であった。

第7節 太陽光パネルに関する仮説検証結果

仮説①:市場が変換効率 15%を強く欲していれば、シャープの特許はもっと威力を発揮

し、他社は容易に市場参入できず、同社のシェア低下を防ぐことができたが、

多少変換効率が低くても安ければよいと市場が判断したため、シャープの特許

ポートフォリオは、シェアの維持に寄与しなかった。(技術のコモディティ化)

太陽光パネルについては、国・地域によって、高い光電変換効率が求められたり、多少

光電変換効率が低くても、安価な製品が求められたりするなど、ニーズが異なる市場とな

っている。

高い光電変換効率が求められるのは、自然環境が厳しく、また土地が狭く制限が多いと

いった特殊な環境を持つ日本市場や、ドイツ市場のみであった。他方、海外のほとんどの

国・地域では、日照時間等の条件に恵まれた良好な自然環境と広大な土地を有しているた

め、多少光電変換効率が下がっても、中国や台湾のメーカー等の安価な太陽光パネルを大

量に購入し設置すれば、必要な電力を発電する目的を達成できた。よって、シャープやパ

ナソニックといった日本の太陽光パネルメーカーは、主に日本市場やドイツ市場の住宅用

をターゲットとしていた。

また、太陽電池は 1950 年代の古い技術であり、基本特許は既に有効期間が満了してい

る。中国や台湾のメーカーは、特許切れしている古い技術を使って、低スペックの太陽電

池を生産し、安価に提供することができた。

(以上、太陽光パネルメーカーへのヒアリング結果より)

このように、日本の太陽光パネルメーカーがターゲットとする日本市場においては、日

本の太陽光パネルメーカーが保有する特許ポートフォリオがシェアの維持に寄与したと

考えられる。他方、グローバル市場全体を見れば、売上高、シェアは中国や台湾のメーカ

ーの安価で光電変換効率の低い太陽光パネルが圧倒している。

シャープは、住宅用太陽光発電システムの商品化を実現した 1994 年過ぎより、重要特

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第1部

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第4部

第5部

資料編

第6部

許の出願件数を大幅に増やしてきている。また、パナソニック(三洋電機を含む)は、HIT

太陽電池(三洋電機が開発した Si(シリコン)系太陽電池。n 型単結晶 Si の上下に 10nm

以下と非常に薄いアモルファス Si 層(それぞれ i 型層と p 型層)を形成した構造に特長

がある。)を開発した 1990 年過ぎより、重要特許の出願件数を大幅に増やしてきている。

一方、ソーラーワールドやハンファ(Q セルズを含む)、サンテック、ファーストソーラ

ーといった競合メーカーの重要特許の出願件数は、日本の太陽光パネルメーカーと比較す

ると圧倒的に少ない状況である。これは、高い光電変換効率が求められる市場をターゲッ

トにしなければ、特許切れしている古い技術を使って、低スペックの太陽電池を生産する

だけでよく、特許出願が市場の競争優位性と関係がないことを表している。

図 4-23

重要特許に関する調査対象企業別の出願件数(ファミリー単位)推移(最先優先年ベース)

注)ファミリー特許が少なくとも1件特許登録されているものを対象としている。

また、太陽光パネル事業は、国の補助金事業があって、そのうえで収益性を確保するこ

とができたが、国の補助金事業が終了すると、たちまち経営が立ち行かなくなる太陽光パ

ネルメーカーがほとんどであった。

ドイツでは、1990 年に固定価格買い取り制度が開始され、2004 年に太陽光発電の固定

1

1 1

2 1

3

3 1 5

3 1 7

2 12

3 2 9

15 3 11

15 1 13 1

16 5 21

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30 5 24

44 10 33

29 18 29 2 3

55 47 15 2

48 48 33

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45 36 32 2

46 28 47 1 1

51 18 43 1 1

56 22 25 2 3

39 12 39 5

34 7 29 1 10

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5 11 2

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1964

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1966

1967

1968

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1986

1987

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1989

1990

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1993

1994

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1996

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2001

2002

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2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015シャープ 京セラ 三洋電機+

パナソニック

ソーラー

ワールド

Q-セルズ+

ハンファ

サンテック ファースト

ソーラー

シャープが世界初の単結晶シリコン太陽電池搭載電卓を上市(1976年)

三洋電機がa-Si太陽電池を実用化(ソーラー電卓の上市)(1980年)

京セラが多結晶シリコン太陽電池を開発、量産技術を実用化(1982年)

JISで結晶系シリコン太陽電池モジュール関連規格が制定(1989年)

サンシャイン計画始まる(1974年)

シャープが多結晶太陽電池で世界最高のセル変換効率17.1%を達成、量産可能な単結晶太陽電池で世界最高のセル変

換効率22%を達成(1992年)

シャープが住宅用太陽光発電システムを商品化(1994年)

三洋電機がHIT太陽電池を開発(1990年)

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第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

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第6部

価格買い取り制度が強化されたため、日本の太陽光パネルメーカーは、欧州で太陽電池の

生産を始めたが、その後、シリコンの流通に変化が起こり、2005 年頃より、日本の太陽

光パネルメーカーのシリコン原材料調達が困難になり、長期契約を余儀なくされたため、

競争力を失っていった。

(以上、太陽光パネルメーカーへのヒアリング結果より)

また、同時期に、中国や台湾の太陽光パネルメーカーがシェアを大きく伸ばしたが、そ

れに伴い、太陽電池モジュールや太陽光発電システムの市場価格も大きく下落している。

図 4-24

太陽電池生産量の地域別シェア

出所)太陽光発電マーケット(㈱資源総合システム)より作成

図 4-25

太陽電池モジュールおよび太陽光発電システムの主要国における市場価格推移

出所)TRENDS 2013 IN PHOTOVOLTAIC APPLICATIONS Survey Report of Selected IEA Countries

between 1992 and 2012,(2013,IEA PVPS),65p.より NEDO 作成

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

0%

20%

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60%

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1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

生産量

日本

米国

欧州

中国・台湾

その他

シェア生産量(MV)

ドイツで太陽光発電の固定価格買い取り制度の強化(2004年)

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第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

シリコンなどの無機太陽電池については、Shockley と Queisser により 1961 年に光電変

換効率の理論的な限界として約 30 %が示されており、業界の共通認識となっている。そ

のうえで、日本の太陽光パネルメーカーは、競合メーカーへの対抗のため、光電変換効率

を数%向上させるところの技術開発に注力しているが、そのような性能については、利用

者の認知・処理能力の限界に近づいているため、オーバースペックに陥っている。

ただし、一定レベルの性能から数%変換効率を高める部分には、製造技術としてのノウ

ハウが存在する。

(以上、太陽光パネルメーカーへのヒアリング結果より)

仮説②:高い発電効率を求めない比較的安価な太陽電池であれば、実質的に工程毎の相

互依存性が弱いことが判明し、モジュール化が急速に進んだ。

太陽電池は、技術の複雑性がない製品であり、どのメーカーでも特許切れしている古い

技術を使って、一定レベルの性能の太陽電池を生産することができた。工程毎の相互依存

性が弱く、モジュール化された部品で生産可能な製品であった。

図 4-26

太陽光発電のシステム構成

出所)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

第5章 総合分析と提言

弁護士法人内田・鮫島法律事務所の弁護士である鮫島正洋氏が東京工業大学で行った技術

経営の講義の資料(平成 26 年度 R&D 戦略と知的財産戦略「特許から考える勝つための研

究開発」)に基づき、ビジネスモデルの考え方と知財権の考え方より、事業のステージを以下

のように定義したうえで、各製品の事例を総合的に分析し、それぞれのステージにおいて、

知財権を活用してシェアや競争優位性を確保・維持するために採りうる戦略を抽出・整理し

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第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

た。

図 5-1

事業のステージごとのビジネスモデルと知財権の考え方

第1節 創生期・発展期(ステージⅠ)

ステージⅠは市場の創生期、発展期であるから、事業的な成功を収めるためには、まず、

市場規模を拡大することが必要である。ニッチな市場であれば、一社の力で市場規模の拡

大を行うことは可能であるが、今回取り上げたような大きな市場規模を持つことが想定さ

れる製品において、一社のみでこれを行うことは通常難しく、業界において先行する複数

社が事業的・技術的に競い合いながら市場規模の拡大を実現することになる。

この観点からすれば、ステージⅠにおいては、先行する複数社が互いに特許権を行使し

て牽制し合うことは事業効率の低下を招き、推奨されることではないと考えられる。先行

する数社は、まず技術開発→必須特許取得という知財戦略の基本を励行し、市場が成長し、

後発参入が始まるステージⅡに備えるべきである。ステージⅠで先進的な技術を開発し、

これを特許化した者が市場の成熟期(投資回収期)であるステージⅡで業界をコントロー

ルでき、利益率の高い事業を遂行できると考えられる。

この観点からすれば、後にシェアを失ってしまうことになる DRAM や液晶パネルにおい

ても、既に示したとおり、当時技術開発において先行した日本の数社が圧倒的な特許数を

機能性(技術)

時間/機能性以外の付加価値(価格を含む)

Ⅰ Ⅱ Ⅲ

20年間

ステージ

ステージ

ステージ

:必須特許出願可能ステージ ⇒ 創生期、発展期

:必須特許満了までのステージ ⇒ 成熟期

:コモディティ化後 ⇒ 衰退期

知財戦略を徹底強化し、機能アップによる差別化、市場拡大・シェアを確保

コモディティ化を阻止、遅延し、投資回収・利益確保・知的財産権による権利行使

別要因で競争

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第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

早期に取得しており、ゆえに、高い製品シェアを誇っていた時期があったことに鑑みると、

ステージⅠにおいて、各社、各製品について知財戦略の実行のあり方に特段の問題はなか

ったといえる。(技術開発→必須特許取得は、日本企業が最も得意とする勝ちパターンで

あり、日本の高度成長期から 2000 年くらいまでの時期には、日本の競争力に寄与した戦

略であると考えられる。)

そこで、本報告では、ステージⅠにおける日本企業の行動には大きな問題があるとはし

ない。むしろ、問題はその後、つまり、ステージⅡ以降、ステージⅠで取得した技術力、

知財権を事業競争力のために十分に活用していたのかという観点となる。

第2節 成熟期(ステージⅡ)

成熟期であるステージⅡは、ステージⅠにおいて取得した必須特許が存続するも、すで

に技術的には成熟しかけており、新たな必須特許の取得が困難となる時期である。他方、

ステージⅠにおいて焦点となっていた市場規模拡大が成功すると、大規模で魅力的な市場

となるため、ステージⅡにおいては市場から収益を得ようと後発者が進出することがある。

しかし、これらの後発者は、往々にして特許権侵害の問題を抱えていることが多い。

このような状況において、当該後発者が参入しやすい相当の条件でライセンスを許諾し

たり、クロスライセンス契約を締結したりすることは後発者を利するだけの結果となる可

能性があることは念頭に置くべきである。一般論であるが、ロイヤリティ収入の料率は数

パーセントであるため、事業売上から得る利益率に劣る。したがい、市場及び競合の状況

によっては、敢えてライセンスをせず、特許権が有する独占排他力を活用して、後発参入

を牽制するという考え方にも合理性はある。

同様に、標準化も一定のロイヤリティを支払えば後発者が市場参入できるという枠組み

であるから、必須特許を保有している先行者は慎重に考えるべき要素がある。具体的には、

(標準化をして市場を広げることによるビジネスチャンス)と 、

(標準化によって多くのプレイヤーが参入し、自社のシェア低下が生じるリスク)

を天秤にかけながら、当該リスクを可及的にヘッジ可能な事業戦略を構築しなければな

らない。

DRAM や液晶パネルの事例では、日本企業は圧倒的な技術開発力で先行し、一群の重要

特許(おそらくそのうちの何割かは必須特許とみられる)を保持することに成功していた。

そのような状況においては、

・国内外の後発メーカーが市場に新規参入してきた場合、当該メーカーが競争力を付け

る前に、特許権行使による差し止め請求を行い、当該メーカーの技術のキャッチアッ

プスピードや競争力を弱めるような方策、

・市場における参入プレイヤーの数や競争力等を特許権によるライセンス条件等何らか

の方法によりコントロールする方策

など、後々市場におけるシェアや競争優位性を維持することに繋がるような方策を採る

ことが望ましかったのではないかと考えられる。

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第4部

第5部

資料編

第6部

しかし、実際の DRAM の事例では、国の主導のもと、国内の半導体メーカーと製造装

置メーカーが協力して、ノウハウを共有しながら、ステッパーなど製造装置等の共同開発

を行っており、その結果、ノウハウを取得した製造装置メーカーが後の開発をリードした。

液晶パネルの事例では、液晶パネルメーカーが歩留まり向上のため、製造装置に製造技

術のノウハウを埋め込むとともに、製造装置メーカーに販売のフリーハンドを与えた結果、

ノウハウが拡散してしまった。さらに、経営難を背景とし、古い製造装置を競合メーカー

に売却し、装置のみならず、関連する特許やノウハウ、技術サポートまで提供して、新た

な投資のための資金源に充ててしまった。

技術的劣位を挽回すべくノウハウが欲しい後発者、特許侵害リスクの不安におびえる後

発者を利するような情報、特許権を提供してしまったことは、後発者における製品製造を

容易にしただけでなく、提供した技術をもとにして、先行企業と十分競争できるだけの新

製品の開発をも可能とした。DRAM の事例では、せっかく取得した必須特許を含む知財権を

行使して市場をコントロールするための方策が採られたという事実は伺われなかった。

このような状況を踏まえると、DRAM、液晶パネルにおいては、目先の効率化やコスト回

収が優先され結果として後発者を利してしまっており、より長い目で事業を考えた場合、

ステージⅡにおける知財活用には、一考の余地があったのではないかと思われる。

また、これらの例からすると、必須特許の特定が困難である製品に関しては、日本メー

カーが得意とする技術のすり合わせを競争力の源泉として維持し、製造プロセスに多数の

プレイヤーが関わる場合の製造技術・ノウハウを管理するための十分な対策を講じておく

ことが、国内外の競合メーカーへの技術流出を抑制し、後々市場におけるシェアや競争優

位性を維持することに繋がったのではないかと考えられる。

糖尿病治療薬や前立腺がん・乳がん治療薬の事例から学ぶべき教訓として、必須特許が

特定されている製品に関しては、製品寿命を延ばすための LCM(Life Cycle Management)

の取組みを有効に機能させ、知財権を確保し、特許の有効期間満了や、次世代製品の開発

が計画通り進まないなどの万が一の事態に備えておくことが、後々市場におけるシェアや

競争優位性を維持することに繋がると考えられる。

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図 5-2

医薬品の製品寿命を延ばすためのさまざまなLCMの事例

内視鏡の事例では、技術開発で先行し、必須特許を多数保持し、高いシェアを得ること

に成功しているが、製品性能について、利用者である人間の認知・処理能力の限界に近づ

く前に、自社ならではの提供価値に競争軸をずらして、他社との差異化を図るとともに、

その価値領域で新技術の開発とそれを活用したプロダクトイノベーションを起こすことも

行おうとしている。つまり、すでに自社によって確立され、自社が主導権を握っている1

つの競争軸に固執するのではなく、競争軸をシフトさせて、製品のデザインアラウンドを

行い、新たな競争軸においても最先端を行くという考え方である。これによって、当該新

競争軸による価値領域においては、再度、技術開発力と知財力で勝負できるステージⅠ(日

本企業が最も得意な土俵である)に回帰することができ、結果として、ステージⅢ(技術

のコモディティ化ステージ)に至るまでの年数を遅らせることが可能である。この年数を

遅らせることによって、市場をコントロールし、高い利益率を得られる期間を維持できる

ので、投資回収と事業利益の増大を実現することができる。

内視鏡においては、過去の DRAM、液晶パネルの教訓を裏付けるような成功パターンが描

かれている。

第3節 衰退期(ステージⅢ)

衰退期(ステージⅢ)においては、既に必須特許の登録期間が満了し、特許による市場

支配という考え方が採りづらい状況となっている。

液晶パネルや太陽光パネルの事例からは、既に技術のコモディティ化への対応が求めら

れる製品に関しては、製品の低価格化に競争軸が移行している場合が多いことから、プロ

ダクトイノベーションやビジネスモデル革新等を通じて、低価格化に対抗し得る新たな付

加価値領域を設定し、その領域において知財権を確保して機能させることができなければ、

(1)新製品への置換え

a. 同じ疾患・作用機作で違う構造の薬効成分

b. 同じ疾患で違う作用機作(違う構造)の薬効成分

(2)薬効成分の変更:光学異性体など

(3)競合品との差別化

c. 新規製剤:口腔内崩壊錠、徐放剤、高用量剤等

d. 新規投与経路:貼付、点眼、坐剤、鼻腔スプレー

e. 新規効能の追加:第2医薬用途(用法・用量)

f. 併用・合剤:同種薬効成分の組合せ、異種薬効成分の組合せ

競合品出現への対策

後発品の市場参入への対策

上記の(1)~(3)に加えて、下記の(4)が追加される。(4)結晶(多形)、塩・水和物、活性代謝物

LCM

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第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

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第6部

当該製品市場において勝負をすることは厳しいと考えられる。翻って考えると、ステージ

Ⅲにおいて低価格化路線と対抗していくのはなかなか困難であるため、ステージⅡまでに

稼ぎきって当該製品の投資コストを回収しつつ、新規の製品を開発してデザインアラウン

ドするという考え方も有効であると考えられる。

液晶パネルの事例では、今もなお大量の特許が日本のメーカーにより出願され続けてい

るが、それらは市場シェアの向上に結び付いていない状況である。液晶パネル市場におい

てはすでに特許による支配が奏功しないステージⅢに入っており、今後、新たな付加価値

領域が設定できればともかく、そうでない場合は、さらなる開発コスト、知財コストをか

けるべきかどうかを問い直す時機に来ているといえる。

太陽光パネルの事例からは、市場参入時に基本特許の有効期間が満了している古い技術

だけを使って、一定レベルの性能の製品を生産できるような製品に関しては、日本のメー

カーが得意とする高付加価値製品(いわゆるニッチトップ)の市場に参入していくことは

一つの戦略ではある。しかし、このような製品においては、高付加価値の部分で確保され

る知財権が有効に活かせるニッチ市場を設定できなければ、当該製品市場において勝負を

することは厳しいと考えられる。また、仮にニッチ市場を設定できたとしても、企業規模

が大きい場合、そのようなニッチ市場で事業性・採算性があるかどうかも問題となるであ

ろう。このような場合は、分社化してベンチャー企業を設立することも一つの方策となる。

市場における競争構造の変容を捉え、それに適切に対処して自社の事業領域を決定すると

ともに、事業領域が時とともにシフトすることを織り込んで、長期的な投資回収計画を立

てることが必要である。

なお、太陽光パネルの事例では、世界市場をターゲットとしている海外のメーカーでは

ほとんど重要特許が出願されていない状況の中で、日本のメーカーは、日本市場をターゲ

ットにして、今もなお大量の特許を出願し続けている。これらの重要特許はグローバル市

場シェアの獲得にはほとんど活かされていないが、日本市場におけるトレンドが今後、世

界市場に波及していくという事業計画が前提であるとしたら、高い光電変換効率が求めら

れる高性能太陽光パネルは、事業ステージとしては、ステージⅢに到達しているのではな

く、ステージⅠ、Ⅱの中間点あたりであるとも考えられる。

この場合、ステージⅠで述べた必須特許の大量取得、ステージⅡで述べた権利行使その

他特許権による市場コントロールを行う余地があり、今後の世界市場動向をよく分析して

自社の技術開発及び知財権の獲得と行使に関する戦略に反映することが必要である。

第4節 留意事項

内視鏡やデジタルカメラの事例から、同じ必須特許の特定が困難な複合製品であっても、

市場シェア拡大の手段として他社との差異化を機能させることができるか否かは、①新し

い課題を知る早さ、②代替品の存在、③新しい付加価値提供における自社技術開発分の大

きさといった3つの要素が作用して決定されるものと考えられる。

上記①の新しい課題を知る早さについては、対象製品が一般消費者に使用される民生品

である場合には、いずれのメーカーにおいても新しい課題を知り得る立場にあるため、遅

かれ早かれ他社との差異化が困難な状況に陥る可能性がある。

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本編

目次

要約

第1部

第2部

第3部

第4部

第5部

資料編

第6部

また、上記②の代替品の存在については、同じ機能を持った代替品が市場に存在する場

合に、代替品が利用者に提供するベネフィットによっては、代替品への置換えが行われる

可能性がある。

さらに、上記③の新しい付加価値提供における自社技術開発分の大きさについては、モ

ジュール化が進み、当該製品を構成する技術群において、他社が保有する技術を取り込む

部分のウェイトが大きくなっている場合には、遅かれ早かれ他社との差異化が困難な状況

に陥る可能性がある。

他社との差別化を図るにあたってはこのような可能性についても、十分考慮することが

重要である。

第5節 提言

製品の技術開発で先行し、確保した知財権は、他社が当該製品市場に参入するためには

欠かすことのできない存在であるが、市場における競争優位性の確立を、これだけで全て

充足することには自ずと限界がある。このため、保持する特許は市場参入の条件として機

能させるのみにとどまらず、競合が当該製品市場に新規参入してきたときの対抗策として

差し止め請求を行う際などに適時に有効に活用することが求められる。このような対抗策

を機能させることができるかどうかは、ひとえに当該製品市場における他社の事業展開の

予測や自社が抱えるリスク等を勘案しながら、適切なタイミングにおいて知財を活用する

ことにかかっていると考えられる。

さらに、製品の技術開発で先行していても、確保した知財権が何らかの形で競合に渡る

ことになれば、その影響が当該製品市場における将来の競争構造に波及し、事業の継続や

競争優位性の確立に危険信号が灯ることを十分認識する必要がある。事業の採算性が厳し

い状況などにおいても、特許料収入を投資回収手段として安易に活用するのではなく、新

たな用途開拓などの需要の付加や他社技術を取り込んだプロダクトイノベーション等に

よる改良の余地等を勘案しながら、将来の競争も視野に入れつつ、知財権を有効に活用す

る事業計画を組み立て実行することが重要となると考えられる。

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