2.地質概要2.地質概要...
TRANSCRIPT
夕張シューパロダムの地質構造について(その2)
石狩川開発建設部 夕張シューパロダム総合建設事業所 ○瀬口 克二
坂田 年隆
樺澤 孝人
1.はじめに 表-1 ダム諸元
夕張シューパロダムは、昭和 36 年度に
完成した大夕張ダム(かんがい用水と発電)
の直下流 155m地点に、洪水調節、かんが
い、水道用水、発電を目的として新たに建
設される多目的ダムである。現計画のダム
諸元は、表-1 のとおりであり、湛水面積及
び有効貯水容量は全国第 2 位、総貯水容量
は全国 4 位となる大規模なダムである。
ダムサイトの地質調査は昭和 51 年から継続的に実施され、地質構造を検討してきた
が、平成 13・ 14 年度に実施した断層部のミストボーリング(6 孔 140m)の結果、こ
れまで検討されてきた地質構造では説明できない「再固結した地質不連続面」が確認
された。
本報告では「再固結した地質不連続面」の評価手法について報告を行うものである。
Katuzi Seguchi, Toshitaka Sakata, Takato Kabasawa
図 -1 大 夕 張 ダムと夕 張 シューパロダム上 下 流 断 面 図
大夕張ダム 夕張シューパロダム
目 的 かんがい、発電洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい、水道、発電
型 式
堤 高 67.5m 111.0m
堤 頂 長 251.7m 390.0m
堤 体 積 200,000m3 941,000m3
集 水 面 積 433.0km2 433.0km2
湛 水 面 積 4.75km2 15.1km2
総 貯 水 容 量 87,2000千m3 433,000千m3
有 効 貯 水 量 80,500千m3 373,000千m3
発電最大電力 14,700kw 26,600kw
重力式コンクリートダム
2.地質概要
ダム基礎岩盤は、中生代白亜紀の函淵層群と古第三紀の登川層に相当する砂岩・泥
岩・礫岩などの堆積岩類で構成される。全体的な地層構造は、過褶曲構造によって上
下が逆転するとともに函淵層群と登川層が不整合面で接する。ダムサイトではダム軸
とやや斜交する走向(南北方向)で 50 ゚程上流傾斜(西傾斜)を有して、整然と分布
している。断層は、上下流方向のものが7条分布しているが、いずれも破砕幅が1m
以下と小規模である。
図 -2 ダムサイト右岸露頭写真
図-2 ダムサイト右岸の露頭状況と地質構造の概念図
図-3 ダムサイト地質平面図
過 褶 曲 によって地 層 が逆 転
ダムサイト右岸露頭
3.断層の評価手法
ダムサイトに分布する断層のうち f2 断層は、河床部に低角度で分布するため、その
性状と強度がダム設計上重要な要素となっていた。F2 断層の調査は、調査横坑で検討
していたが、風化や緩みの影響が懸念され、ダム基礎となる河床部の f2 断層の性状を
把握するためにミストボーリングを実施した。その結果、f2 断層は調査横坑に比べて
風化の影響がなく、よく締まっていて相対的に強度が大きいと判断できた。
ミストボーリングによって得られた断層部の乱さない試料の観察結果から、基礎岩
盤に分布する断層等の地質不連続面には固結状態に差異があり、明らかに断層とは異
なる再固結した地質不連続面が認められた。基礎岩盤における断層の分布と連続性の
精度を向上させるためには、固結状態の異なる各断層の位置を特定する必要があった
が、普通ボーリングのコアでは固結状態の詳細な観察ができなかった。
従って、コアの採取状況にかかわらず断層の分布を特定し、連続性を評価する手法
として、次の点に着目した。
①鉛直ボーリングのコアにおける地層の「繰り返し・欠如」
②地層の細区分と鍵層の識別
(1)地層の繰り返し・欠如
断層によって、地層にはズレが
生じるが、ダムサイトの様な狭い
範囲内ではズレの方向とズレの幅
は一定であるといえる。
断層による地層のズレは鉛直方
向のボーリングでは、地層の「繰
り返し・欠如」として認識される。
このコアにおける「地層の繰り返
し・欠如」を指標として、断層位
置の特定を行った。
(2)地層の細区分
ダム基礎岩盤の地層は、砂岩、泥岩、礫岩、凝灰岩等の同じ様な岩相が繰り返し分
布するため、破砕を伴わない再固結した地質不連続面が分布した場合、岩相だけを見
ていると地層の「繰り返し・欠如」を見落すおそれがある。従って、地層をできるだ
け細区分し、地層の「繰り返し・欠如」の精度を向上させた。地層の細区分は、岩相
に加え地層の堆積環境を反映している様々な堆積構造や含有物にも留意して実施し、
75 の単層と 10 の鍵層に分けた。
①地層の境界の性状:明瞭な層理面、漸移関係、削り込みなど
②堆積構造:ラミナ、生物擾乱、底痕など
③地層の形成環境を反映した含有物:海緑石粒子、炭化物片、黄鉄鉱粒子、シ
デライト粒子など
④鍵層:凝灰岩などの薄層
繰り返し 欠如
図 -4 鉛 直 ボーリングにおける地 層 の欠 如 ・繰 り返 し
図-5 地層の細区分と鍵層
4.ダムサイトの地質構造
前節で示した地層の細区分を、ダムサイトの全ボーリングコアに対して実施し、地
層の「繰り返し・欠如」のパターンから、断層の分布を特定していった。
その結果、「再固結した地質不連続面」が河床部の深部を中心に数条確認された。こ
れらの分布形態は、通常の断層とは異なる次のような特徴を示していた。
①地層を変位させながら上に凸の円弧状に湾曲する(図―6)
②凸状部は、幅 200m長さ 300mの船底状を呈して上下流方向に連続する(図―7)
図―7再固結した地質不連続面の等高線図―地質投影
図―6 ダム軸地質断面図
ミストボーリングのコアの詳細な観察から「再固結した地質不連続面」には次の様な
性状が認められる。
① 断層は破砕による角礫やガウジを伴っておらず、完全に固結し石化した泥岩
で構成される。(ガウジ:破砕によって形成された平均粒径 0.2mm 以下の粒子
のこと。)
② 断層の周辺では地層が流動したように引き伸ばされたり、ブロック化した状
態で固結している。
上記のような性状は、地層が固結する前に形成され
たことを示唆しており、再固結した地質不連続面の 3
次元的な分布形態から、水底斜面における地すべり現
象によって形成されたすべり面であると推察される。
この不連続面は、その後地下深部で続成作用を被り固
結し、過褶曲構造によって上下が逆転したものである
と考えられる。
このような未固結時の変形構造は「水底地すべり」
として知られ、一般的には激しい褶曲構造やブロック
化などを伴っているが、当サイトではすべり境界付近
の変形にとどまっている。このことは、水底斜面にお
いて、地層の圧密が比較的進行した半固結状態ですべ
りが発生したと考えられる。すべりの方向は、上下に
接する地層のズレから、凸状部に沿って上流から下流
方向に 50m程度であると推定される。
また、水底地すべりの境界は、完全に固結して破砕
を伴わないことから、工学的な弱線にはならない。
図 -9 水 底 地 すべり概 念 図
図 -8 ミストボーリングの「再 固 結 した地 質 不 連 続 面 」のコアスケッチ
5.おわりに
今回、ミストボーリングのデータを加えてダムサイトの地質構造を詳細に把握する
過程で、「再固結した地質不連続面」の分布と連続性を明らかになり、ダムサイト河床
部の地質構造をほぼ明らかにすることができた。また、水底地すべりの境界と推定さ
れる地質不連続面の周辺に形成された、半固結時のブロック状の部分は、弱線は形成
しないものの、やや亀裂質となるため、岩級を 1 ランク下げ CM 級と評価した。
今後は、この検討に基づき水理地質構造の詳細な把握を実施していく予定である。
参考資料
1)舘山ほか: 夕張シューパロダムの地質構造について、第 45 回北海道開発局技術研
究発表会、2002 年 2 月
2)門脇ほか:夕張シューパロダムにおける断層調査について、第 46 回北海道開発局
技術研究発表会、2003 年 2 月
3)石狩川開発建設部:平成 13 年度 ダムサイト地質調査業務報告書
4)石狩川開発建設部:平成 14 年度 ダムサイト地質調査業務報告書