4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - ryukoku universitytsutomu/la1/11/lecture...4...

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4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 本買ったら代金 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」というのは小 学生のころからおなじみの連立 1 次方程式の問題である.未知変 数の数が大変多い連立 1 次方程式を効率よく解く方法が数学的に 研究され,コンピュータを使ってすばやく解を得ることができるよ うになったため,天気予報の精度が近年飛躍的に向上したといわれ ている.連立 1 次方程式は線形代数という数理概念と現代社会の 科学技術・社会科学活動との重要な接点の一つである. 高校までの数学では,解がちょうど 1 つ(1 組)ある連立 1 方程式を扱うが,ここでは,解が存在しない場合や解に自由度があ る場合なども解説し,連立 1 次方程式の解の構造を明らかにする. なお,行列やベクトルの計算における基盤的な操作技術である行基 本変形(Gauss の消去法)もこの章で紹介する. 4.1 2 元連立 1 次方程式 ≪変数消去法(掃き出し法)≫ 2 つの未知数 xy に関する 2 つの式からなる 連立 1 次方程式を考える.「70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 買ったら代金は 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」からはじめ よう.鉛筆の数を x,ボールペンの数を y とすれば { x + y = 15 70x + 90y = 1170 (4.1) である.これを変数消去法(掃き出し法)で解くプロセスを 1 1 つ書けば { x + y = 15 70x + 90y = 1170 [1] −−−−−−−−→ (2):(2)70×(1) { x + y = 15 20y = 120 [2] −−−−−−−→ (2):(2)×1/20 { x + y = 15 y =6 [3] −−−−−−→ (1):(1)(2) { x =9 y =6 (4.2) となるであろう.すなわち, [1] 2 式から第 1 式の 70 倍を減じて,x を消去する [2] 2 式の両辺に 1/20 をかけて,y を求める [3] 1 式から第 2 式を減じて y を消去し,x を求める という操作によって解が得られる.「ある方程式に 0 ではない数をかける」操作 と「ある方程式に別の方程式の何倍かを加える」操作によって (4.1) を解くこ とができる.もう 1 つ別の方程式を考える. { 7x + 13y = 25 x +2y =4 (4.3) 45

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Page 1: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

4 連立 1 次方程式と行列の基本変形

「70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 本買ったら代金は 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」というのは小学生のころからおなじみの連立 1 次方程式の問題である.未知変数の数が大変多い連立 1 次方程式を効率よく解く方法が数学的に研究され,コンピュータを使ってすばやく解を得ることができるようになったため,天気予報の精度が近年飛躍的に向上したといわれている.連立 1 次方程式は線形代数という数理概念と現代社会の科学技術・社会科学活動との重要な接点の一つである. 高校までの数学では,解がちょうど 1 つ(1 組)ある連立 1 次方程式を扱うが,ここでは,解が存在しない場合や解に自由度がある場合なども解説し,連立 1 次方程式の解の構造を明らかにする.なお,行列やベクトルの計算における基盤的な操作技術である行基本変形(Gauss の消去法)もこの章で紹介する.

4.1 2 元連立 1 次方程式

≪変数消去法(掃き出し法)≫ 2 つの未知数 x,y に関する 2 つの式からなる連立 1 次方程式を考える.「70 円の鉛筆と 90 円のボールペンをあわせて 15 本買ったら代金は 1170 円でした.それぞれ何本買ったでしょうか」からはじめよう.鉛筆の数を x,ボールペンの数を y とすれば{

x+ y = 15

70x+ 90y = 1170(4.1)

である.これを変数消去法(掃き出し法)で解くプロセスを 1 つ 1 つ書けば{x+ y = 15

70x+ 90y = 1170

[1]−−−−−−−−→(2):(2)−70×(1)

{x+ y = 15

20y = 120

[2]−−−−−−−→(2):(2)×1/20

{x+ y = 15

y = 6

[3]−−−−−−→(1):(1)−(2)

{x = 9

y = 6

(4.2)

となるであろう.すなわち,

   [1] 第 2 式から第 1 式の 70 倍を減じて,x を消去する

   [2] 第 2 式の両辺に 1/20 をかけて,y を求める

   [3] 第 1 式から第 2 式を減じて y を消去し,x を求める

という操作によって解が得られる.「ある方程式に 0 ではない数をかける」操作と「ある方程式に別の方程式の何倍かを加える」操作によって (4.1) を解くことができる.もう 1 つ別の方程式を考える.{

7x+ 13y = 25

x+ 2y = 4(4.3)

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Page 2: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

これを変数消去法で解くプロセスは,たとえば,{7x+ 13y = 25

x+ 2y = 4

[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)

{x+ 2y = 4

7x+ 13y = 25

[2]−−−−−−−−→(2):(2)−7×(1){

x+ 2y = 4

−y = −3

[3]−−−−−−−→(2):(2)×(−1)

{x+ 2y = 4

y = 3

[4]−−−−−−−−→(1):(1)−2×(2)

{x = −2

y = 3

(4.4)

である.すなわち,

   [1] 第 1 式と第 2 式を入れ替える

   [2] 第 2 式から第 1 式の 7 倍を減じて,x を消去する

   [3] 第 2 式の両辺に −1 をかけて,y を求める

   [4] 第 1 式から第 2 式の 2 倍をを減じて y を消去し,x を求める

という操作によって解が得られる.(4.1) を解く際に使用した 2 つの操作に加えて,「方程式を入れ替える」操作が利用されている.

�まとめ:変数消去法� �

変数消去法はつぎの 3 つの基本操作からなる.

(1) ある方程式に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその方程式の情報がすべて失われる)

(2) ある方程式に別の方程式の何倍かを加える

(3) 方程式を入れ替える

なお,基本操作は 可逆 であることに注意しよう.たとえば (4.4) において,{x = −2y = 3

から基本操作によって (4.4) のどの段階までも戻ることができ,

出発点である (4.3) も再現できる.� �≪行基本変形による連立 1 次方程式の解法≫ 連立 1 次方程式 (4.3) は行列とベクトルを用いて

(7 131 2

)(xy

)=

(254

) または 

(7 13 251 2 4

) xy−1

= 0 (4.5)

と表現できる.ここに,x,y の係数を並べた(7 131 2

)は 係数行列,係数の右

に定数項を付け加えた(7 13 251 2 4

)は 拡大係数行列 と呼ばれる.(4.3) を変

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Page 3: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

数消去法で解くプロセス (4.4) から,変数を表す記号 x,y や算術記号を取り除き,x,y の係数と定数項を行列として並べると

(7 13 25

1 2 4

)[1]−−−−−−→

(1) ⇐⇒ (2)

(1 2 4

7 13 25

)[2]−−−−−−−−→

(2):(2)−7×(1)(1 2 4

0 −1 −3

)[3]−−−−−−−→

(2):(2)×(−1)

(1 2 4

0 1 3

)[4]−−−−−−−−→

(1):(1)−2×(2)

(1 0 −2

0 1 3

) (4.6)

となる.最後の行列(1 0 −20 1 3

)は{

1 · x+ 0 · y = −2

0 · x+ 1 · y = 3=⇒

{x = −2

y = 3

を意味している.変数消去法のプロセス (4.4) に対応する (4.6) のような行列の変形を 行基本

変形,または,Gauss の消去法 と呼ぶ.�

�課題4-1 連立 1 次方程式 (4.1) の拡大係数行列を求め,拡大係数行列の行

基本変形によって解を求めよ.

�まとめ:行基本変形� �

行基本変形は変数消去法の 3 つの基本操作に対応するつぎの 3 つの基本変形からなる.

(1) ある行に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその行の情報がすべて失われる)

(2) ある行に別の行の何倍かを加える

(3) 行を入れ替える

なお,行基本変形は 可逆 であることに注意しよう.� �例題4-1 行列の成分に 未定定数(定数ではあるがその値が確定していないもの)が含まれている場合の行基本変形には注意が必要である.たとえば,a

が 0 であるかも知れないときには(1 −a 0a 1 1

)−−−−−→(1):(1)×a× × ×

(a −a2 0a 1 1

)のような変形は許されない.もし a = 0 ならば変形後の第 1 行の成分はすべて0 になり,第 1 行に関するすべての情報が失われるからである.a が実定数で

あるとき,行列(1 −a 0a 1 1

)からの正しい行基本変形の一例をつぎに示す.

47

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(1 −a 0a 1 1

)[1]−−−−−−−−→

(2):(2)−a×(1)

(1 −a 00 1 + a2 1

)[2]−−−−−−−−−→

(2):(2)×1/(1+a2)(1 −a 00 1 1/(1 + a2)

)[3]−−−−−−−−→

(1):(1)+a×(2)

(1 0 a/(1 + a2)0 1 1/(1 + a2)

)�

�課題4-2(TAチェック) つぎの 2 つの変形は未定定数 a に適切な条件を

課さない限りは正しくない.(a 1 11 1 1

)−−−−−−−→(2):(2)−(1)/a× × ××

(a 1 10 1− 1/a 1− 1/a

)(a 1 10 1− a 1− a

)−−−−−−−→(2):(2)/(1−a)× × ××

(a 1 10 1 1

)行列

(a 1 11 1 1

)を正しい行基本変形によって

(1 1 10 1− a 1− a

)に変形せよ.

なお,この後は,a− 1 = 0 と a− 1 = 0 の場合に分けて議論することになる.

≪線形変換の視点から連立 1 次方程式を眺めると・・・≫ 2 次の実正方行列 A は平面から平面への線形変換を表す.p,q を実定数とするとき,連立 1 次方程式

A

(xy

)=

(pq

)(4.7)

を解くことは,A によって(pq

)に移される点

(xy

)を求めることと同じであ

る.3 章において A が表す線形変換によって直線がどのような図形に写像されるかを調べ,さらに,平面全体がどのような図形に写像されるかを調べた.連立 1 次方程式の解を求めるという立場からは,これらの結果はつぎのようにまとめられる.

A によって平面全体が平面全体に写像されるならばすべての実定数 p,q について (4.7) はちょうど 1 個の解を持つ.このとき A は逆行列 A−1 を持ち,(4.7) の両辺の左側から A−1 を掛けることによって,解を(

xy

)= A−1

(pq

)(4.8)

と表現することができる.一方,平面全体が A によって直線や 1 点に移されるならば,p,q の値に

よって (4.7) はたくさんの解を持ったり,1 個も解を持たなかったりする.

例題4-2 例題3-10で示したように(1 22 −2

)が表す線形変換は平面全

体を平面全体に移す.この行列を係数行列とする連立 1 次方程式{x+ 2y = p

2x− 2y = q(4.9)

48

Page 5: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,p,q は実定数である.

(解答例)拡大係数行列の行基本変形(1 2 p

2 −2 q

)[1]−−−−−−−−→

(2):(2)−2×(1)

(1 2 p

0 −6 q − 2p

)[2]−−−−−−−−→

(2):(2)×(−1/6)(1 2 p

0 1 (2p− q)/6

)[3]−−−−−−−−→

(1):(1)−2×(2)

(1 0 (p+ q)/3

0 1 (2p− q)/6

) (4.10)

によって,解 x = (p+ q)/3,y = (2p− q)/6 が得られる.

例題4-3 例題3-10で示したように(1 21 2

)が表す線形変換は平面全

体を原点を通る傾き 1 の直線に写像する(Figure 4.1).この行列を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.

(1)

{x+ 2y = 1

x+ 2y = 2(2)

{x+ 2y = 1

x+ 2y = 1(4.11)

(解答例)(1) 拡大係数行列の行基本変形の手順は下記の通りである.(1 2 1

1 2 2

)[1]−−−−−−→

(2):(2)−(1)

(1 2 1

0 0 1

)(4.12)

最後の行列の第 2 行は正しくない等式 0 · x + 0 · y = 1 を要求している.した

がって (1) は解を持たない.線形変換の視点からは,点(12

)は原点を通る傾

き 1 の直線上にはない(Figure 4.1)ので解が存在しないと解釈できる.

x

y

O x

y

O

平面全体が1つの

この直線全体が1点に

直線に写像される

写像される1/2

1 1

1

2

Figure 4.1: 線形変換の視点から連立 1 次方程式 (4.11) を眺めると・・・

(2) 拡大係数行列の行基本変形の手順は下記の通りである.(1 2 1

1 2 1

)[1]−−−−−−→

(2):(2)−(1)

(1 2 1

0 0 0

)(4.13)

49

Page 6: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

最後の行列の第 2 行は自明の等式 0 · x + 0 · y = 0 を意味している.したがって,第 1 行が意味する x+ 2y = 1 によって,解は{

x = 2t+ 1

y = −t(t は実数) (4.14)

となる.線形変換の視点からは,行列(1 21 2

)が表す線形変換によって直線

x + 2y = 1 全体が 1 点

(1

1

)に移される(Figure 4.1)のでこの直線上のすべ

ての点が (2) の解になると解釈される.

�課題4-3(TAチェック) 課題3-17で示したように

(1 21 1

)が表す線

形変換は平面全体を平面全体に移す.この行列を係数行列とする連立 1次方程式{x+ 2y = p

x+ y = q(4.15)

を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,p,q は実定数である.なお,最初に (2, 1) 成分が 0 になるように変形し,ついで,(2, 1) 成分を 0 に保ちつつ (1, 2) 成分が 0 になるように変形せよ.

�課題4-4(TAチェック) 課題3-15で示したように

(1 −2−1 2

)が表

す線形変換は平面全体を原点を通る傾き −1 の直線に写像する.この行列を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.ただし,最初に (2, 1) 成分が 0 になるように変形せよ.

(1)

{x− 2y = 1

−x+ 2y = 2(2)

{x− 2y = 1

−x+ 2y = −1(4.16)

�課題4-5 A =

(0 10 2

)を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係

数行列の行基本変形によって解け.

(1) A

(xy

)=

(11

)(2) A

(xy

)=

(−2−4

)(4.17)

�課題4-6 零行列 A =

(0 00 0

)が表す線形変換は平面全体を原点に写像す

る.A を係数行列とするつぎの連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.

(1) A

(xy

)=

(20

)(2) A

(xy

)=

(00

)(4.18)

50

Page 7: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

≪ 2 元連立 1 次方程式の解の構造≫ ここまでの解説などをまとめれば,A =(a bc d

)を係数行列とする 2元連立 1次方程式の拡大係数行列 A =

(a b pc d q

)は行基本変形によってつぎのいずれかに変形できる.

(i)

(1

0 1

)(ii)

(1

0 0 1

)(iii)

(1

0 0 0

)

(iv)

(0 1

0 0 1

)(v)

(0 1

0 0 0

)

(vi)

(0 0 1

0 0 0

)(vii)

(0 0 0

0 0 0

) (にはなんら

かの数が入る

)(4.19)

(ac

)= 0 ならば (i) - (iii) のどれかに,

(ac

)= 0,

(bd

)= 0 ならば (iv) - (v)

のどちらかに,A が零行列ならば (vi) - (vii) のどちらかになる.また,これまでに登場した連立 1 次方程式に関してはつぎの通りである.

• (4.1),(4.3),(4.9),(4.15)の(1 1 1570 90 1170

),(7 13 251 2 4

),(1 2 p2 −2 q

),(

1 2 p1 1 q

)は (i) 型であり,どの場合もちょうど 1 個の解が存在した.

• (4.11) の (1) と (4.16) の (1) の(1 2 11 2 2

),(

1 −2 1−1 2 2

)は (ii) 型で

あり,どの場合も解は存在しなかった.

• (4.11) の (2) と (4.16) の (2) の(1 2 11 2 1

),(

1 −2 1−1 2 −1

)は (iii) 型

であり,どの場合もある直線全体が解であった.

• (4.17)の (1)の(0 1 10 2 1

)は (iv)型であり,解は存在しなかった.(4.17)

の (2) の(0 1 −20 2 −4

)は (v) 型であり,直線 y = −2 全体が解であった.

• (4.18)の (1)の(0 0 20 0 0

)は (vi)型であり,解は存在しなかった.(4.18)

の (2) の(0 0 00 0 0

)は (vii) 型であり,平面全体が解であった.

以上の例で確認したように,A を係数行列,A を拡大係数行列とする 2 元連立 1 次方程式の解の存在と一意性はつぎのようにまとめられる.

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Page 8: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

�まとめ:2 元連立 1 次方程式の解の構造� �

(1) A が (i) に変形されるならば,ちょうど 1 個の解が存在する.

(2) A が (ii),(iv),(vi) に変形されるならば,解は存在しない.

(3) A が (iii),(v) に変形されるならば,無数の解 u+ tv (t は実数)が

存在する.ここに,u は定数項(pq

)によって決定される定ベクトル,

v = 0 は A によって 1 点に写像される直線の方向を表すベクトルである.

(4) A が (vii) に変形されるならば,平面全体(st

)(s,t は実数)が解

である.� �4.2 階段行列

≪階段行列とは≫ つぎの表は (4.19) の (i) - (vii) の各行について左端から連続する 0 の数を調べたものである.これを見ると,{

ℓ1 が列の数 3 より小さければ ℓ1 < ℓ2

ℓ1 が列の数 3 と等しければ ℓ1 = ℓ2(4.20)

(i) (ii) (iii) (iv) (v) (vi) (vii)

第 1 行目の左端から連続する 0 の数 ℓ1 0 0 0 1 1 2 3

第 2 行目の左端から連続する 0 の数 ℓ2 1 2 3 2 3 3 3

となっている.このような特性を m× n 行列に対しても定義しよう.m× n 行列 A の第 i 行目の左端から連続する 0 の数を ℓi とする(i = 1, 2, · · · ,m).(4.20) と同様なつぎの関係式が成り立つとき A は階段行列と呼ばれる.{

ℓi < n ならば ℓi < ℓi+1

ℓi = n ならば ℓi = ℓi+1

(i = 1, 2, · · · ,m− 1) (4.21)

(4.19) の行列はすべて階段行列である.また,

(1)

1 10 20 0

(2)

1 0 0 40 0 0 00 0 0 0

(3)

1 1 0 20 0 2 00 0 0 7

も階段行列である.実際,つぎのように確認できる.

(1) ℓ1 = 0,ℓ2 = 1,ℓ3 = 2 より ℓ1 < ℓ2 < ℓ3

(2) 0 = ℓ1 < ℓ2 = ℓ3 = 4 =(列の数)

(3) ℓ1 = 0,ℓ2 = 2,ℓ3 = 3 より ℓ1 < ℓ2 < ℓ3

52

Page 9: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

この例では,各行について 0 以外の要素があったら,それ自身とその右側をすべて青字にした.階段行列という名称は,青字の部分を上下さかさまにすれば階段のように見えることに由来している.実際,(3) の青字の部分を上下さかさまにすればつぎのようになる.

階段行列ではない例として

(1)

1 00 50 3

(2)

0 2 3−2 2 −20 3 6

を挙げておく.これらが階段行列ではないことはつぎのようにして確認される.

(1) ℓ2 = ℓ3 = 1 <(列の数)= 2

(2) ℓ1 > ℓ2

�課題4-7(TAチェック) つぎの行列が階段行列であるか否かを判定せよ.

(1)

0 1 0 10 0 0 00 0 1 0

(2)(4 −5 1

)(3)

1 1 −1 20 −1 2 −10 −3 −1 4

(4)

−2 00 00 0

(5)

0 1 0 10 0 0 −10 0 0 0

(6)

1 1 −1 1 20 0 0 0 10 0 0 0 −1

≪行基本変形で階段行列へ≫ 2× 3 行列に対する行基本変形に関する まとめ:行基本変形(p. 47)は m × n 行列にも適用できる.ここでは,一般の行列を行基本変形によって階段行列に変形する方法を紹介する.

例題4-4:行基本変形による階段行列へ変形例1

[1]:0 ではない (1, 1) 成分 を利用して,第 2 行目以下の第 1 列成分がすべて

0 になるように行基本変形を行う.

[2]:0 ではない (2, 2) 成分 を利用して,(3, 2) 成分が 0 になるように行基本

変形を施す.

53

Page 10: 4 連立 1 次方程式と行列の基本変形 - Ryukoku Universitytsutomu/LA1/11/lecture...4 連立1 次方程式と行列の基本変形 「70 円の鉛筆と90 円のボールペンをあわせて15

1 1 −1 2

2 1 0 3−3 −6 2 −2

[1], (2):(2)−2×(1)−−−−−−−−−−→(3):(3)+3×(1)

1 1 −1 2

0 −1 2 −1

0 −3 −1 4

[2]−−−−−−−−→

(3):(3)−3×(2)

1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7

(4.22)

例題4-5:行基本変形による階段行列へ変形例2

[1]:行を交換して (1, 1) 成分が 0 ではないようにする.

[2], [3]:以降の操作は例4-4と同じ方針で行う. 0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −7

[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)

−1 1 1 2

0 2 −1 32 −4 −1 −7

[2]−−−−−−−−→(3):(3)+2×(1)

−1 1 1 2

0 2 −1 3

0 −2 1 −3

[3]−−−−−−→

(3):(3)+(2)

−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 0

(4.23)

例題4-6:行基本変形による階段行列へ変形例3 すべての行の第 1 列成

分が 0 なので,第 2 列成分に注目する.0 0 1 30 0 1 20 1 −1 −70 −1 −1 7

[1]−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)

0 1 −1 −7

0 0 1 20 0 1 30 −1 −1 7

[2]−−−−−−→(4):(4)+(1)

0 1 −1 −7

0 0 1 2

0 0 1 30 0 −2 0

[3], (3):(3)−(2)−−−−−−−−→(4):(4)+2×(2)

0 1 −1 −70 0 1 2

0 0 0 1

0 0 0 4

[4]−−−−−−−−→(4):(4)−4×(3)

0 1 −1 −70 0 1 20 0 0 10 0 0 0

(4.24)

[1]:第 2 列成分が 0 ではない行が第 1 行になるように行を交換する.

54

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[2]:0 ではない (1, 2) 成分 を利用して,第 2 行目以下の第 2 列成分がすべて

0 になるように行基本変形を行う.

[3]: (2, 3) 成分 が 0 ではないから,第 3 行目以降の第 3 列成分が 0 になるよ

うに行基本変形を施す.

[4]:0ではない (3, 4) 成分 を利用して,(4, 4)成分が 0になるように操作する.

�課題4-8(TAチェック) つぎの行列を行基本変形によって階段行列に変

形せよ.

(1)

0 1 −1 20 −2 3 31 1 1 1

(2)

1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 −5

(3)

0 0 1 30 −1 3 20 4 −10 −30 1 1 3

4.3 n 元連立 1 次方程式

4.1 では x と y の 2 つを未知変数とする連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形を利用して解く方法を解説した.この節では n 個の未知変数 x1,x2,· · ·,xn に関する連立 1 次方程式を考える.

a11x1 + a12x2 + · · · a1nxn = p1

a21x1 + a22x2 + · · · a2nxn = p2

· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·am1x1 + am2x2 + · · · amnxn = pm

(4.25)

ここに,aij,pi(i = 1, 2, · · · ,m,j = 1, 2, · · · , n)はすべて定数である.4.1 では式の数も未知変数の数と同じ 2 としたが,この節では,式の数 m

は未知変数の数 n と等しいとは限らないものとする.x1,x2,· · ·,xn の係数を並べたつぎの行列 A は (4.25) の係数行列,A の右側に定数項を付け加えたA は拡大係数行列と呼ばれる.

A =

a11 a12 · · · a1na21 a22 · · · a2n...

.... . .

...am1 am2 · · · amn

A =

a11 a12 · · · a1n p1a21 a22 · · · a2n p2...

.... . .

......

am1 am2 · · · amn pm

(4.26)

Tidbit: 線形変換の合成と行列の積(p. 33)でも紹介したように m × n

行列 A は n 次元空間 Rn から m 次元空間 Rm への線形写像を表す.したがって,(4.25) を解くことは A によって t

(p1 p2 · · · pm

)に写像される点

t(x1 x2 · · · xn

)を求めることと同じである.

2 元連立 1 次方程式と同様に n 元連立 1 次方程式も拡大係数行列の行基本変形によって解く.

55

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例題4-7 例題4-4の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式x+ y − z = 2

2x+ y = 3

−3x− 6y + 2z = −2

(4.27)

を行基本変形によって解け.

(解答例)最初に拡大係数行列を階段行列に変形することが肝要である.その後,さらに分かりやすい形になるように行基本変形を進める.

1 1 −1 22 1 0 3−3 −6 2 −2

(4.22)−−−→

1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7

(2):(2)×(−1)−−−−−−−−→(3):(3)×(−1/7)

1 1 −1 2

0 1 −2 1

0 0 1 −1

(1):(1)+(3)−−−−−−−−→(2):(2)+2×(3)

1 1 0 1

0 1 0 −1

0 0 1 −1

−−−−−−→(1):(1)−(2)

1 0 0 2

0 1 0 −1

0 0 1 −1

(4.28)

したがって,解は x = 2,y = −1,z = −1 である.

例題4-8 例題4-5の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式2y − z = 3

−x+ y + z = 2

2x− 4y − z = −7

(4.29)

を行基本変形によって解け.

(解答例)最初に拡大係数行列を階段行列に変形し,その後,さらに分かりやすい形になるように行基本変形を進める. 0 2 −1 3

−1 1 1 22 −4 −1 −7

(4.23)−−−→

−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 0

(1):(1)×(−1)−−−−−−−→(2):(2)×(−1)

1 −1 −1 −20 −2 1 −30 0 0 0

−−−−−−→(1):(1)+(2)

1 −3 0 −50 −2 1 −30 0 0 0

(4.30)

最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,x − 3y = −5,−2y + z = −3 を意味する.したがって,t を任意の実数として y = t とすれば,解はつぎのように表される.

56

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x = 3t− 5

y = t

z = 2t− 3

(t は実数) (4.31)

(解説)3次元空間における直線を表す (4.31)が解であるとは,この直線全体が

行列

0 2 −1−1 1 12 −4 −1

により一点 3

2−7

に写像されることを意味している.例題4-9 例題4-8の連立 1 次方程式の定数項 −7 を −6 に取り替えた

2y − z = 3

−x+ y + z = 2

2x− 4y − z = −6

(4.32)

を拡大係数行列の行基本変形によって解け.

(解答例)(4.23) と同じ行基本変形を施せば 0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −6

−→

−1 1 1 20 2 −1 30 0 0 1

(4.33)

となる.最後の行列の第 3 行は正しくない等式 0 · x+0 · y+0 · z = 1 を要求している.したがって,(4.32) の解は存在しない.

(解説)行列

0 2 −1−1 1 12 −4 −1

によって 3

2−6

に写像される点が 1 つもない

ことが意味されている.

例題4-10 式の数が未知変数の数より少ない連立 1 次方程式3x+ 4y + 5z + 6u+ 7v = 8

2x+ 3y + 4z + 5u+ 6v = 7

x+ 2y + 3z + 4u+ 5v = 6

(4.34)

を拡大係数行列の行基本変形によって解け.

(解答例)拡大係数行列に行基本変形を施すと3 4 5 6 7 82 3 4 5 6 71 2 3 4 5 6

−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)

1 2 3 4 5 62 3 4 5 6 73 4 5 6 7 8

(2):(2)−2×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)

1 2 3 4 5 60 −1 −2 −3 −4 −50 −2 −4 −6 −8 −10

(2):(2)×(−1)−−−−−−−→(3):(3)×(−1)

1 2 3 4 5 60 1 2 3 4 50 2 4 6 8 10

(1):(1)−2×(2)−−−−−−−−→(3):(3)−2×(2)

1 0 −1 −2 −3 −40 1 2 3 4 50 0 0 0 0 0

57

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となる.最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,x − z − 2u − 3v = −4,y + 2z + 3u + 4v = 5 を意味する.したがって,p,q,r を任意の実数としてz = p,u = q,v = r とすれば,解はつぎのように表される.

x = p+ 2q + 3r − 4y = −2p− 3q − 4r + 5z = pu = qv = r

(p,q,r は任意の実数)

(解説)(4.34) は無数の解を持ったが,式の数が未知変数の数より少ない場合であっても,つぎのように解が存在しないことがあることに注意しよう.{

x+ y + z = 0

2x+ 2y + 2z = 7

例題4-11 式の数が未知変数の数より多い連立 1 次方程式

(1)

4x+ y = 6

x+ 3y = 7

3x− 2y = −1

(2)

4x+ y = 5

x+ 3y = 7

3x− 2y = −1

(4.35)

を拡大係数行列の行基本変形によって解け.

(解答例)(1) 拡大係数行列に行基本変形を施すと4 1 6

1 3 7

3 −2 −1

−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)

1 3 7

4 1 6

3 −2 −1

(2):(2)−4×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)

1 3 7

0 −11 −22

0 −11 −22

(2):(2)×(−1/11)−−−−−−−−−→(3):(3)×(−1/11)

1 3 7

0 1 2

0 1 2

(1):(1)−3×(2)−−−−−−−−→(3):(3)−(2)

1 0 1

0 1 2

0 0 0

となる.したがって,解は x = 1,y = 2 である.(2) 拡大係数行列に同じように行基本変形を施すと4 1 5

1 3 7

3 −2 −1

−−−−−−→(1) ⇐⇒ (2)

1 3 7

4 1 5

3 −2 −1

(2):(2)−4×(1)−−−−−−−−→(3):(3)−3×(1)

1 3 7

0 −11 −23

0 −11 −22

−−−−−−→(3):(3)−(2)

1 3 7

0 −11 −23

0 0 1

となる.最後の行列の第 3 行は正しくない等式 0 · x + 0 · y = 1 を要求している.したがって,(2) は解を持たない.

58

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�課題4-9 課題4-8 (1) の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式

y − z = 2

−2y + 3z = 3

x+ y + z = 1

(4.36)

を行基本変形によって解け.�

�課題4-10 課題4-8 (2) の行列を拡大係数行列とする連立 1 次方程式

x+ y − z = 2

2x+ y = 3

−2x− 3y + 4z = −5

(4.37)

を行基本変形によって解け.�

�課題4-11 課題4-10の連立 1次方程式の定数項 −5を 0で取り替えた

x+ y − z = 2

2x+ y = 3

−2x− 3y + 4z = 0

(4.38)

を行基本変形によって解け.�

�課題4-12(TAチェック) 式の数が未知変数の数より少ないつぎの連立

1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解け.{2x− 3y + z − u+ 2v = 1

−x+ y + 2z + 2u− 3v = 2(4.39)

�課題4-13 式の数が未知変数の数より多いつぎの連立 1 次方程式を拡大

係数行列の行基本変形によって解け.

(1)

3x+ y = 6

x+ 2y = 7

2x− y = −1

(2)

3x+ y = 6

x+ 2y = 5

2x− y = −1

4.4 ベクトルの線形独立性

≪線形独立な m 個のベクトルの組≫ 2 つの 2 次元ベクトル v1,v2 は

集合 a1v1 + a2v2 (a1,a2 は実数)が平面を表す (4.40)

59

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とき線形独立であると 3.7 で定義した.これを v1 =

(ac

),v2 =

(bd

)の成分

に関する条件として表現すれば ad− bc = 0 であった.ad− bc = 0 ならば,行

列(v1 v2

)=

(a bc d

)の逆行列が存在するから,連立 1 次方程式(

a bc d

)(a1a2

)=

(00

)(4.41)

は唯一の解 a1 = 0,a2 = 0 を持つ.(4.41) は a1v1 + a2v2 = 0 とも表現できるから,線形独立性の定義 (4.40) は

a1v1 + a2v2 = 0  ならば   a1 = a2 = 0 (4.42)

と同値である.

n 個のベクトルの線形独立性は (4.42) を拡張した形で定義される.つまり,

a1v1 + a2v2 + · · ·+ anvn = 0 ならば  a1 = a2 = · · · = an = 0 (4.43)

のとき v1,v2,· · ·,vn は線形独立であるという.線形独立ではないときには線形従属であるという.v1,v2,· · ·,vn が線形従属であれば,a1v1 + a2v2 +

· · ·+ anvn = 0 の係数 a1,a2,· · ·,an の中に 0 ではないものがあるので,それを aj とすれば,

vj = −(a1v1 + · · ·+ aj−1vj−1 + aj+1vj+1 + · · ·+ anvn)/aj

と 0 ではない係数 aj に対応するベクトル vj が他のベクトルの線形結合で表現される.この事実が線形 従属 という用語の由来である.

例題4-12 つぎのベクトル v1,v2,v3 の線形独立性を調べよ.

(1) v1 =

(10

), v2 =

(15

), v3 =

(03

)

(2) v1 =

0−21

, v2 =

1−11

, v3 =

201

(3) v1 =

0−21

, v2 =

1−11

, v3 =

202

(解答例)(1) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると,(

1 1 00 5 3

)a1a2a3

=

000

である.この連立 1 次方程式を拡大係数行列の行基本変形によって解くと(

1 1 0 00 5 3 0

)(1)×5−−−→

(5 5 0 00 5 3 0

)(1)−(2)−−−−→

(5 0 −3 00 5 3 0

)60

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となる.最後の行列の第 1行,第 2行は,それぞれ,5a1−3a3 = 0,5a2+3a3 = 0

を意味する.したがって,たとえば a1 = 3,a2 = −3,a3 = 5 が解である.3v1 − 3v2 + 5v3 = 0 だから v1,v2,v3 は線形従属である.(2) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると, 0 1 2

−2 −1 01 1 1

a1a2a3

=

000

である.この連立 1 次方程式の拡大係数行列に行基本変形を施すと 0 1 2 0

−2 −1 0 01 1 1 0

−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)

1 1 1 0−2 −1 0 00 1 2 0

(2)+2×(1)−−−−−−→

1 1 1 00 1 2 00 1 2 0

−−−−→(3)−(2)

1 1 1 00 1 2 00 0 0 0

−−−−→(1)−(2)

1 0 −1 00 1 2 00 0 0 0

となる.最後の行列の第 1 行,第 2 行は,それぞれ,a1− a3 = 0,a2+2a3 = 0

を意味する.したがって,たとえば a1 = 1,a2 = −2,a3 = 1 が解である.v1 − 2v2 + v3 = 0 だから v1,v2,v3 は線形従属である.(3) a1v1 + a2v2 + a3v3 = 0 と仮定する.すると, 0 1 2

−2 −1 01 1 2

a1a2a3

=

000

である.この連立 1 次方程式の拡大係数行列に行基本変形を施すと 0 1 2 0

−2 −1 0 01 1 2 0

−−−−−−→(1) ⇐⇒ (3)

1 1 2 0−2 −1 0 00 1 2 0

(2)+2×(1)−−−−−−→

1 1 2 00 1 4 00 1 2 0

−−−−→(3)−(2)

1 1 2 00 1 4 00 0 −2 0

(1)+(3)−−−−−−→(2)+2×(3)

1 1 0 00 1 0 00 0 −2 0

(1)−(2)−−−−−→(3)/(−2)

1 0 0 00 1 0 00 0 1 0

となる.これより a1 = 0,a2 = 0,a3 = 0 であるから v1,v2,v3 は線形独立である.�

�課題4-14 つぎのベクトル v1,v2,v3 の線形独立性を調べよ.

(1) v1 =

(12

), v2 =

(23

), v3 =

(34

)

(2) v1 =

−121

, v2 =

112

, v3 =

1−10

(3) v1 =

111

, v2 =

0−2−3

, v3 =

210

61

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4.5 一般の行列のランク

≪再び 2 次正方行列のランク≫ 2 元連立 1 次方程式の拡大係数行列が行基本変形によって (4.19) の階段行列 (i) - (vii) のいずれかに変形できたように,2

次正方行列 A は行基本変形によってつぎのいずれかの型の階段行列に変形できる(

にはなんらかの数が入る).

(α)

(1

0 1

)  (β)

(1

0 0

)  (γ)

(0 1

0 0

)  (δ)

(0 0

0 0

)(4.44)

rankA = 2 ならば (α) に,rankA = 1 ならば (β) または (γ) に,rankA = 0 ならば (δ) に変形される.詳細は Appendix (No. 1) で説明されている.階段行列 (α),(β),(γ),(δ) について,零ベクトルではない行ベクトルの数とそれに変形される行列のランクを整理したつぎの表は,2 次正方行列のランクはその行列から行基本変形によって得られる階段行列の零ベクトルではない行ベクトルの数と一致する ことを示している.

(α) (β) (γ) (δ)

零ベクトルではない行ベクトルの数 2 1 1 0

変形される行列のランク 2 1 1 0

≪階段行列のランク≫ 階段行列のランクは 零ベクトルではない行ベクトルの数 と定義される.階段行列の零ベクトルではない行ベクトル全体が線形独立であることは Appendix (No. 2) で証明されている.

≪一般の行列のランク≫ 一般の m × n 行列のランクは,その行列から行基本変形によって得られる階段行列のランク と定義される.同じ行列から出発してもいろいろな階段行列に到達するが,得られる階段行列のランクは同じである.この事実の証明については Appendix (No. 3) を参照せよ.

Appendix (No. 3) には,行基本変形を行っても行ベクトルの線形独立性は変わらないことも示されている.つまり,線形独立であった行ベクトルの組が行基本変形によって線形従属になることはないし,逆に,線形従属であった行ベクトルの組が行基本変形によって線形独立になることもない.したがって,行列のランクを 線形独立な行ベクトルの最大数 と定義してもよい.�

�課題4-15(TAチェック) つぎの行列を行基本変形により階段行列に変

形してランクを計算せよ.

(1)

a −1−1 22 −4

        (2)

a a2 a3

1 2 32 3 4

≪行列の列基本変形≫ つぎの 3 つの操作からなる変形を列基本変形という.

62

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(1) ある列に 0 ではない数 をかける(0 をかけるとその行の情報がすべて失われる)

(2) ある列に別の列の何倍かを加える

(3) 列を入れ替える

行基本変形が可逆であり,行ベクトルの線形独立性を保つように,列基本変形も可逆であり,列ベクトルの線形独立性を保つことに注意しよう.行列を行基本変形により階段行列に変形し,さらに,列基本変形を行うと,

線形独立な行ベクトルの最大数と線形独立な列ベクトルの最大数が一致することが示される.詳細は Appendix (No. 4) で説明されている.以上より,行列のランクに関するつぎのまとめが得られる.

�まとめ:行列のランク� �

つぎの 3 つは互いに等しい.

(1) 線形独立な行ベクトルの最大数

(2) 線形独立な列ベクトルの最大数

(3) 階段行列に変形したときの零ベクトルではない行ベクトルの数

したがって,行列のランクはその行の数以下であり,列の数以下である.� �

Figure 4.2: 左はアルジェブラさん,右はリニアーくん

63

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4.6 連立 1 次方程式の解の構造

≪係数行列と拡大係数行列のランク≫ つぎの表には,4.3 で取り扱った連立 1

次方程式について係数行列 A や拡大係数行列 A のランク,解の存在・一意性が整理されている.なお,拡大係数行列から得られる階段行列の右端の列を取り除いたものが係数行列から得られる階段行列になる.

拡大係数行列とそれから得られる階段行列 rankA rankA変数の数 解の存在

例題4-7

(1 1 −1 22 1 0 3−3 −6 2 −2

)→(

1 1 −1 20 −1 2 −10 0 −7 7

)3 3 3 一意に存在

例題4-8

(0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −7

)→( −1 1 1 2

0 2 −1 30 0 0 0

)2 2 3 無数に存在

例題4-9

(0 2 −1 3−1 1 1 22 −4 −1 −6

)→( −1 1 1 2

0 2 −1 30 0 0 1

)2 3 存在しない

例題4-10

(3 4 5 6 7 82 3 4 5 6 71 2 3 4 5 6

)→(

1 0 −1 −2 −3 −40 1 2 3 4 50 0 0 0 0 0

)2 2 5 無数に存在

例題4-11

(1)

(4 1 61 3 73 −2 −1

)→(

1 0 10 1 20 0 0

)2 2 2 一意に存在

例題4-11

(2)

(4 1 51 3 73 −2 −1

)→(

1 3 70 −11 −230 0 1

)2 3 存在しない

課題4-9

(0 1 −1 20 −2 3 31 1 1 1

)→(

1 1 1 10 1 −1 20 0 1 7

)3 3 3 一意に存在

課題4-10

(1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 −5

)→(

1 1 −1 20 −1 2 −10 0 0 0

)2 2 3 無数に存在

課題4-11

(1 1 −1 22 1 0 3−2 −3 4 0

)→(

1 1 −1 20 −1 2 −10 0 0 5

)2 3 存在しない

課題4-12

(2 −3 1 −1 2 1−1 1 2 2 −3 2

)→( −1 1 2 2 −3 2

0 −1 5 3 −4 5

)2 2 5 無数に存在

課題4-13

(1)

(3 1 61 2 72 −1 −1

)→(

1 2 70 1 30 0 0

)2 2 2 一意に存在

課題4-13

(2)

(3 1 61 2 52 −1 −1

)→(

1 2 50 −5 −90 0 −2

)2 3 存在しない

上の表に示唆されているように,連立 1 次方程式の解の構造はつぎのようにまとめられる.これは Appendix (No. 5) で証明されている.

�まとめ:連立 1 次方程式の解の構造� �

(1) 係数行列と拡大係数行列のランクが同じならば解が存在し,そうでなければ解は存在しない.

(2) 係数行列と拡大係数行列のランクが未知変数の数と同じならば解は 1つだけ存在し,未知変数の数よりも小さければ無数の解が存在する.� �

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4.7 n 次正方行列の逆行列

I を n 次単位行列とする.n 次正方行列 A に対して,

AX = I, XA = I (4.45)

を満たす n 次正方行列 X が存在するとき,X を A の逆行列といい X = A−1

と表す.章末の Tidbit: AX = I ならば XA = I において,AX = I を満たす X は XA = I も満たすことが示されるので,AX = I を満たす X が A

の逆行列である.逆行列が存在する行列を 正則行列 と呼ぶ.また,正則な n

次正則行列 A,B の積 AB も正則であり,(AB)−1 = B−1A−1 が成立する.

4.8 行基本変形によるランクと逆行列の計算

≪逆行列の計算は連立 1 次方程式の計算≫ 単位行列 I の第 j 列ベクトルをej,A の逆行列 X の第 j 列ベクトルを xj とする(j = 1, 2, · · · , n).するとI =

(e1 e2 · · · en

),X =

(x1 x2 · · · xn

)であるから (4.45) の AX = I

AX = I ⇐⇒ A(x1 x2 · · · xn

)=(e1 e2 · · · en

)

⇐⇒

Ax1 = e1

Ax2 = e2

· · · · · · · · ·Axn = en

(4.46)

と分解される.したがって,逆行列は 同じ係数行列を持つ n 個の連立 1 次方程式を解いて得られる.すなわち,共通の係数行列 A の右に単位行列 I =(e1 e2 · · · en

)を置いた拡大係数行列(

A I)=(A e1 e2 · · · en

)(4.47)

に行基本変形を適用することによって A の逆行列が計算される.なお,この過程において A のランクも計算され,正則性も判定できる.

例題4-13 つぎの行列のランクを計算せよ.さらに,正則性を調べ,正則

ならば拡大係数行列の行基本変形により逆行列を求めよ.

(1) A =

0 −1 11 −2 11 0 −2

(2) B =

1 1 −22 1 03 2 −2

(解答例)(1) 拡大係数行列に行基本変形を適用して,ランクの計算,正則性の判定,逆行列の計算を同時に行う.

65

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0 −1 1 1 0 01 −2 1 0 1 01 0 −2 0 0 1

[1]:(1) ⇐⇒ (2)−−−−−−−−→

1 −2 1 0 1 00 −1 1 1 0 01 0 −2 0 0 1

[2]:(2)×(−1)−−−−−−−→(3)−(1)1 −2 1 0 1 0

0 1 −1 −1 0 00 2 −3 0 −1 1

[3]−−−−−−→(3)−2×(2)

1 −2 1 0 1 00 1 −1 −1 0 00 0 −1 2 −1 1

[4]:(1)+(3)−−−−−−→(2)−(3)1 −2 0 2 0 1

0 1 0 −3 1 −10 0 −1 2 −1 1

[5]:(1)+2×(2)−−−−−−−→(3)×(−1)

1 0 0 −4 2 −10 1 0 −3 1 −10 0 1 −2 1 −1

したがって,A のランクは 3 であり,逆行列は

−4 2 −1−3 1 −1−2 1 −1

である.(2) 同様に同時計算を行う.すると1 1 −2 1 0 0

2 1 0 0 1 03 2 −2 0 0 1

(2)−2×(1)−−−−−−→(3)−3×(1)

1 1 −2 1 0 00 −1 4 −2 1 00 −1 4 −3 0 1

−−−−→(3)−(2)1 1 −2 1 0 0

0 −1 4 −2 1 00 0 0 −1 −1 1

まで行基本変形できるが,この段階で,B のランクが 2 であることが分かる.また,最後の行列の第 3 行は正しくない等式を要求しているので B の逆行列は存在しないことも分かる.

≪行列のランクと正則性≫ 例題4-13が例示しているように.拡大係数行列(A I

)の行基本変形において,左半分は A の行基本変形になる.したがって,

この過程で n 次正方行列 A のランクを計算できる.rankA = n ならば,A は正則であり,

(A I

)を行基本変形によって左半分

を単位行列 I に変形したときの右半分が A の逆行列である.逆に,rankA < n ならば,行基本変形の途中で,左半分のすべての成分が 0

である行が現れるが,そのとき,対応する右半分には 0 ではない成分が必ずある.なぜならば,単位行列のすべての行ベクトルは線形独立であり,4.5 で説明したように,行基本変形の過程で線形従属になることはないからである.したがって,rankA < n ならば n 次正方行列 A は正則ではない.�

�課題4-16(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクと逆行

列を計算せよ.

(1)

0 1 11 1 4−1 2 0

(2)

1 2 −12 −1 11 1 2

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�課題4-17(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクを計算

し,正則性を調べよ.

(1)

−1 1 12 1 −11 2 0

(2)

1 −1 22 4 −23 0 3

�課題4-18(TAチェック) 行基本変形によりつぎの行列のランクと逆行

列を計算せよ. 0 3 −4 −32 −4 2 31 1 −3 −13 −1 −4 0

章末の Tidbit: AX = I ならば XA = I において,AX = I を満たすX は XA = I も満たすことが示されるので,行列のランクと逆行列についてはつぎのようにまとめられる.

�まとめ:ランクと逆行列� �

(1) n 次正方行列のランクが n に等しいときに限り,その逆行列が存在する.

(2) 拡大係数行列の行基本変形により,ランクと(存在する場合の)逆行列を計算できる.

(3) 正則な n次正則行列 A,B の積 AB も正則であり,(AB)−1 = B−1A−1

が成立する.� �

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Tidbit: AX = I ならば XA = I� �例題4-13 (1) の拡大係数行列に対する行基本変形を再考しよう.このプロセスによって

(A I

)=

0 −1 1 1 0 01 −2 1 0 1 01 0 −2 0 0 1

=⇒

1 0 0 −4 2 −10 1 0 −3 1 −10 0 1 −2 1 −1

=(I X

)と変形されている(X = A−1).このプロセスを(

I X)= (ある行列)

(A I

)という形で表現することを目指して,例題4-13 (1) の行基本変形を辿ってみよう.すると

[1][1]:(1) ⇐⇒ (2)−−−−−−−−→ は左から P1 =

0 1 0

1 0 0

0 0 1

を掛けることと同じ

[2][2]:(2)×(−1)−−−−−−−→

(3)−(1)は左から P2 =

1 0 0

0 −1 0

−1 0 1

を掛けることと同じ

[3][3]−−−−−−→

(3)−2×(2)は左から P3 =

1 0 0

0 1 0

0 −2 1

を掛けることと同じ

[4][4]:(1)+(3)−−−−−−→(2)−(3)

は左から P4 =

1 0 1

0 1 −1

0 0 1

を掛けることと同じ

[5][5]:(1)+2×(2)−−−−−−−→(3)×(−1)

は左から P5 =

1 2 0

0 1 0

0 0 −1

を掛けることと同じである.上の 5 つの行基本変形をまとめ,P = P5P4P3P2P1 と置けば(

I X)= P

(A I

)=(PA P

)=⇒ I = PA, X = P

が成立する.したがって,(4.46) を解いて得られる X は P そのものであり,I = PA より,X は XA = I も満たす. 例題4-13 (1) を例として説明したが,一般性はいささかも損なわれていない.以上より,AX = I ならば XA = I である.� �

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