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XCAR2A-Z1J1-07 酸化還元滴定 CHECK9  酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。 酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じである (→ CHECK3  CHECK4  )。 CHECK10  酸化剤と還元剤の量的関係の計算法(過不足なく反応する場合) ①酸化還元反応の化学反応式(またはイオン反応式)を書き,係数の比から計算する。 (酸化剤が受け取る電子の物質量) = (還元剤が失う電子の物質量)の関係を用いて計算する。 たとえば,硫酸酸性の過マンガン酸カリウム KMnO 4 と過酸化水素 H 2 O 2 の反応(過不足なく反 応する場合)について考えてみよう。 計算法① KMnO 4 H 2 O 2 の酸化還元反応を表すイオン反応式は 2 MnO 4 - + 6 H + + 5 H 2 O 2 2 Mn 2+ + 8 H 2 O + 5 O 2 と表されるので,酸化剤と還元剤の物質量について,次の関係が成り立つ。 (酸化剤の物質量):(還元剤の物質量) = (酸化剤の係数):(還元剤の係数) = 25 これより,c mol/L〕の KMnO 4 水溶液 v mL〕と c' mol/L〕の H 2 O 2 水溶液 v' mL〕が過不足 なく反応したとき,次式が成り立つ。 ( c * v 1000 ) ( c' * v' 1000 ) = 25 ' 計算法② KMnO 4 の酸化剤としての変化は MnO 4 - + 8 H + + 5 e - Mn 2+ + 4 H 2 O と表されるので,1 mol KMnO4 5 mol の電子 e - を受け取ることがわかる。 一方,H 2 O 2 の還元剤としての変化は H 2 O 2 O 2 + 2 H + + 2 e - と表されるので,1 mol H2O2 2 mol の電子 e - を失うことがわかる。 よって, (酸化剤が受け取る電子の物質量) = (還元剤が失う電子の物質量) の関係より,次式が 成り立つ。 c * v 1000 * 5 = c' * v' 1000 * 2 ' ' 式と②' 式は同値であり,どちらでも未知の濃度を決定できることがわかる。 過不足なく反応する場合,量的関係を考えるときには,中和では H + OH - の物質量の関 係から,酸化還元では電子 e - の物質量の関係から,式を立てる。それぞれ,何の物質量の関 係であるかは違うが,そこから式を立てて計算するという流れは同じである。着目する物質量 に注意しよう! 中和と酸化還元の量的関係の考え方 コラム

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Page 1: 4 酸化還元滴定XCAR2A-Z1J1-07 4 酸化還元滴定 CHECK9 酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じで

XCAR2A-Z1J1-07

酸化還元滴定4  CHECK9  酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じである(→  CHECK3 ,  CHECK4  )。

 CHECK10  酸化剤と還元剤の量的関係の計算法(過不足なく反応する場合)

①酸化還元反応の化学反応式(またはイオン反応式)を書き,係数の比から計算する。②(酸化剤が受け取る電子の物質量)=(還元剤が失う電子の物質量) の関係を用いて計算する。

 たとえば,硫酸酸性の過マンガン酸カリウム KMnO4と過酸化水素H2O2の反応(過不足なく反応する場合)について考えてみよう。

計算法①  KMnO4とH2O2の酸化還元反応を表すイオン反応式は    2 MnO4

- + 6 H+ + 5 H2O2 2 Mn2+ + 8 H2O + 5 O2

と表されるので,酸化剤と還元剤の物質量について,次の関係が成り立つ。    (酸化剤の物質量):(還元剤の物質量)=(酸化剤の係数):(還元剤の係数)= 2:5

 これより,c 〔mol/L〕の KMnO4水溶液 v 〔mL〕と c' 〔mol/L〕のH2O2水溶液 v' 〔mL〕が過不足なく反応したとき,次式が成り立つ。

    (c * v

1000 ):(c' * v'

1000 )= 2:5  ①' 

計算法②  KMnO4の酸化剤としての変化は    MnO4

- + 8 H+ + 5 e- Mn2+ + 4 H2O

と表されるので,1 molのKMnO4は 5 molの電子 e-を受け取ることがわかる。 一方,H2O2の還元剤としての変化は    H2O2 O2 + 2 H+ + 2 e-

と表されるので,1 molのH2O2は 2 molの電子 e-を失うことがわかる。 よって,(酸化剤が受け取る電子の物質量)=(還元剤が失う電子の物質量)の関係より,次式が成り立つ。

    c * v

1000 * 5 = c' *

v'1000

* 2  ②' 

①'式と②'式は同値であり,どちらでも未知の濃度を決定できることがわかる。

 過不足なく反応する場合,量的関係を考えるときには,中和ではH+と OH-の物質量の関係から,酸化還元では電子 e-の物質量の関係から,式を立てる。それぞれ,何の物質量の関係であるかは違うが,そこから式を立てて計算するという流れは同じである。着目する物質量に注意しよう!

中和と酸化還元の量的関係の考え方コラム

Page 2: 4 酸化還元滴定XCAR2A-Z1J1-07 4 酸化還元滴定 CHECK9 酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じで

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TRY4

 コニカルビーカーに FeSO4水溶液 10.0 mLを取り,さらに硫酸を加えた。ここに,0.12 mol/L

の KMnO4水溶液を滴下していったところ,8.0 mL加えたところで滴定の終点に達した。コニカルビーカーに入れた FeSO4水溶液のモル濃度〔mol/L〕を有効数字 2桁で求めよ。

〔考え方〕

〔解答欄〕              

解 答

 KMnO4水溶液を 8.0 mL加えたところで反応が過不足なく起こっている。この反応では,MnO4

-が酸化剤,Fe2+が還元剤として働いており,その反応は次のように表される。     MnO4

- + 8 H+ + 5 e- Mn2+ + 4 H2O  ⑴      Fe2+ Fe3+ + e-  ⑵ 

計算法①  酸化還元反応を表すイオン反応式は,⑴式 + ⑵式 * 5

より,次のように表される。    MnO4

- + 5 Fe2+ + 8 H+ Mn2+ + 5 Fe3+ + 4 H2O

 FeSO4水溶液の濃度を ≈ 〔mol/L〕とすると,反応したMnO4-

と Fe2+の物質量の比は,イオン反応式の係数の比より,次式で求められる。

    MnO4-:Fe2+ =(0.12 *

8.01000 ):(≈ *

10.01000 )= 1:5

   ∴ ≈ = 0.48 〔mol/L〕

計算法②  ⑴式より,1 molの KMnO4は 5 molの電子 e-を受け取ることがわかる。一方,⑵式より,1 molの Fe2+は 1 mol

の電子 e-を失うことがわかる。よって,(酸化剤が受け取る電子の物質量)=(還元剤が失う電子の物質量)の関係より,次式が成り立つ。

    0.12 * 8.0

1000 * 5 = ≈ *

10.01000

* 1

   ∴ ≈ = 0.48 〔mol/L〕 答 0.48 mol/L

 CHECK10   計算法①

 CHECK10   計算法②

Page 3: 4 酸化還元滴定XCAR2A-Z1J1-07 4 酸化還元滴定 CHECK9 酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じで

XCAR2A-Z1J1-09

 CHECK11  過マンガン酸カリウムを用いた滴定での終点の判定法

 滴下するKMnO4水溶液の赤紫色(MnO4-の色)が消えなくなった(反応溶液が薄い赤紫

色になった)ところを終点にする。

暗記

     MnO4- + 8 H+ + 5 e- Mn2+ + 4 H2O

※還元剤があると赤紫色が消える。

 CHECK12  ヨウ素滴定 ヨウ化物イオンの還元作用とヨウ素の酸化作用の両方を利用することにより,酸化剤を間接的に定量できる。

 ヨウ化物イオンは,強い酸化剤を作用させると,次のように酸化される。     2 I- I2 + 2 e-

 一方,ヨウ素は,チオ硫酸イオンと物質量比 1:2 で定量的に反応し,ヨウ化物イオンとなる。     I2 + 2 S2O3

2- 2 I- + S4O62-

 そこで,酸化剤を過剰のヨウ化カリウムと反応させ,生成したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定することにより,酸化剤を間接的に定量することができる。

 チオ硫酸ナトリウム水溶液による滴定の終点の判定には,ヨウ素デンプン反応が利用される。デンプン水溶液を加えた反応溶液の青~青紫色が消えて無色になったところを終点とする。

暗記

TRY5

 ある濃度の過酸化水素水を 1.00 mL取り,希硫酸を加えて酸性とし,過剰量のヨウ化カリウム水溶液と混合した。生成したヨウ素を 0.100 mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ,終点までに 17.65 mLを要した。過酸化水素水の密度を 1.00 g/mLとするとき,過酸化水素水の質量パーセント濃度〔%〕を有効数字 3桁で求めよ。ただし,過酸化水素の分子量は34.0とする。また,過酸化水素水とヨウ化カリウム水溶液を混合したときに起こる反応,および,ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの反応は,それぞれ次の⒜式,⒝式で表せる。    H2O2 + 2 KI + H2SO4 I2 + K2SO4 + 2 H2O  ⒜     I2 + 2 Na2S2O3 2 NaI + Na2S4O6  ⒝ 

〔考え方〕

〔解答欄〕              

赤紫 淡桃(ほとんど無色)

Page 4: 4 酸化還元滴定XCAR2A-Z1J1-07 4 酸化還元滴定 CHECK9 酸化還元滴定 酸化還元反応の量的関係から,濃度が未知の酸化剤または還元剤の水溶液の濃度を求める操作。酸化還元滴定に用いる実験器具や実験方法は,基本的には中和滴定と同じで

XCAR2A-Z1J1-10

解 答

 ⒜式,⒝式より,反応に関与する過酸化水素,ヨウ素,チオ硫酸ナトリウムの物質量比は 1:1:2 なので,過酸化水素水 1.00 mL

中のH2O2の物質量を ≈ 〔mol〕とすると

     H2O2:Na2S2O3 = ≈:(0.100 * 17.651000 )= 1:2

    ∴ ≈ = 8.825 * 10-4 〔mol〕 よって,求める質量パーセント濃度〔%〕は

      34.0 * 8.825 * 10-4

1.00 * 1.00 * 100 = 3.000 〔%〕 答 3.00%

 CHECK13  COD(化学的酸素要求量) 河川や排水中の有機物含有量の指標の 1つ。CODは Chemical oxygen demandの略。 これは,試料水 1 L当たりに含まれる還元性有機物をすべて酸化するのに必要な酸化剤の量を,酸素の質量〔mg〕に換算して表したものである。 一般に,この酸化剤としては,KMnO4やK2Cr2O7が用いられる。

 「酸化剤の量を酸素の質量に換算」する場合には,「酸素が酸化剤として働くとして,用いた酸化剤が受け取った電子と同物質量の電子を受け取るには,何 mgの酸素が必要か」を考えればよい。

 たとえば,酸化剤としてK2Cr2O7を用いた場合について,考えてみよう。 Cr2O7

2-および酸素 O2が酸化剤として働くときの電子 e-を含むイオン反応式は     Cr2O7

2- + 14 H+ + 6 e- 2 Cr3+ + 7 H2O

     O2+ 4 H+ + 4 e- 2 H2O

 これからわかるように,1 molの Cr2O72-が受け取る電子 e-は 6 molであり,これと同物質量

の電子を受け取るには,酸素(分子量 32)は 1.5 mol必要である。したがって,酸化剤として,1 mol

の Cr2O72-は 1.5 molの O2 ,つまり 1.5 * 32 * 103 = 4.8 * 104 〔mg〕の O2に相当する。

 CHECK12 

 CODの値が大きければ,河川や湖沼の富栄養化が進んでいる,すなわち水が汚れていることになる。ヤマメやイワナが生息するきれいな河川では 1 mg/L以下であり,3 mg/L以下ではサケやアユが生息できる。また,比較的水の汚れに強いコイやフナがすめるのは 5 mg/L以下である。雨水はおおむね 2 mg/L以下であり,家庭の下水は 10 mg/Lを超える相当汚れた水である。

CODの値と水の汚れの関係コラム