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1 社会学概論 4. 環境と技術( 3 2015.6.4 長谷川 公一 東北大学大学院文学研究科教授 [email protected] © K. HASEGAWA 無断での引用・改変 ・配布等を禁じます

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社会学概論   4.環境と技術(3)  2015.6.4       長谷川 公一    東北大学大学院文学研究科教授  k-­‐[email protected]

©  K.  HASEGAWA    

無断での引用・改変・配布等を禁じます�

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本当か?�• 自然科学ーー自然界に生じる諸現象を対象にする• 社会科学ーー社会現象を対象にする• 人文科学ーー人間文化を対象にする

����『広辞苑』第6版の説明�

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疑うところから始まる�• 常識や定説、教科書を疑うところから大学・大学院の学問は始まる

• ぎりぎりのケース(境界的な、周辺的な)から考えてみる

�����主流派や流行のものの限界��• 素朴な疑問や違和感を大事にする��

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自然科学の「自然界」とは何か?�• 医学はどのような意味で「自然科学」か?• 工学はどのような意味で「自然科学」か?

• 文系・理系は日本的区別か?���文系にあたる英語は何か?���理系にあたる英語は何か?�

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自然科学的方法とは何か?���理系的な思考方法のポイントはどこか?����

��実験をする��数値化する��原因と結果で説明をする(因果的説明)��より単純なものにさかのぼって、複雑な事柄を説明する(要素→現象)

�����

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�文系的な考え方のポイントは?���

��観察をする��質的な側面に注目して把握する��人間の心のはたらきを重視する��全体像をつかもうとする�������例.ゲシュタルト�����

�����

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「自然」をどう定義するか?�• 自然界�対�人間界・社会��人間は自然の一部?

l  自然物�対�人工物(人為)��品種改良された動植物は?��山から切り出された石は?��人工林は?��水田は?

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言葉で世界をどう切り取るか�• 虹は何色か?• 鈴木孝夫『ことばと文化』岩波新書、1973年�

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自然は社会的につくられた概念�• 前提なしに何か絶対的な自然があるわけではない

• 「自然の領域」と「自然以外の領域」との区別は、社会に依存する。人々の考え方・意味づけ方・価値観などに依存する�……�社会学的な見方

��例.�男女差は絶対的なものか?����������生物学的な性差���������ジェンダー(社会的・文化的につくられた性差)�

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�����代表的な5つの自然観�• 畏怖する自然���������「自然の脅威」、天災地変、神秘、運命• 恵みとしての自然���������「母なる大地」• 本性としての自然��������「内なる自然」、生命性、おのずからなる• 支配の対象としての自然��������「自然開発」、近代科学的自然観• 守るべき対象としての自然��������「自然保護」�

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西洋における「自然」���

•  physis (ギリシア語) = 「生まれる」「ある」 = 「要素 (土, 火, 空気, 水) 」 (アリストテレス, Physics)

--> natura (ラテン語) --> nature (英語)

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自然法思想と自然権�• 人間は、慣習などの社会的条件を超越して、自然=本性に根ざした普遍的な権利(自然権)をもつとする思想

���自然権は法律以前から有する権利���生存権、自由権、幸福追求権���参政権・抵抗権を含む立場もある�

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自然権の主張の例

• アメリカ独立宣言(1776年)「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる」�

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オバマ大統領の就任演説(2013.1.21)から

What  makes  us  excepAonal  -­‐-­‐  what  makes  us  American  -­‐-­‐  is  our  allegiance  to  an  idea  arAculated  in  a  declaraAon  made  more  than  two  centuries  ago: “We  hold  these  truths  to  be  self-­‐evident,  that  all  men  are  created  equal;  that  they  are  endowed  by  their  Creator  with  certain  unalienable  rights;  that  among  these  are  life,  liberty,  and  the  pursuit  of  happiness.”   �

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権利の根拠としての自然

• 例�日本国憲法(1946年)「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」(11条)�

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人間と自然の断絶�• 神の似姿としての人間の特権性、自然との断絶、人間中心主義—キリスト教的な自然観• 自然自体はそれほど価値をもたない��人間のための自然、手段としての自然��• 人間による自然の操作→科学の発達• 一直線的な時間観、発展段階的な世界観��

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東洋における「自然」�• 老子・荘子から��おのずからなること、「自然さ」��「自然を輔けて、敢えて為さず」(『老子』64章、「無為自然」)

��道=農耕民的な女性的・母性的原理�(天=遊牧民的な男性的・父性的原理����儒教的)�

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人間と自然の連続性�• 万物の中の人間、万物の中の霊性• 人間の非特権性、自然の一部としての人間、自然との連続性—仏教的な自然観

��• 自然の自律性、自然事態の固有の価値• 宿命・運命としての自然、非操作的• 循環的・円環的な時間観・世界観��

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中国人の自然観���

��天地・自然の悠久さに対する人間の有限さ、自然との距離、自然からの阻隔

��例�「年年歳歳花相似たり、年年歳歳人同じからず」�����������(劉廷之)����「国破れて山河在り」(杜甫)�

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日本人の自然観�• 抒情的な自然観、詠むものとしての自然�例�世間も常にしあらねば宿にある桜の花の散れるころかも(『万葉集』久米女郎)

��人生の無常を自然の無常に喩える��作者の心情を自然に照応させる

参考・荒川紘,�2001,『日本人の宇宙観』紀伊国屋書店

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All things are eternal travelers•  「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に

生涯をうかべ馬の口をとらえて老をむかふる物は、日々旅にして、旅を栖とす。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」• “The moon and sun are eternal travelers. Even the

years wander on. A lifetime adrift in a boat, or in old age leading a tired horse into the years, every day is a journey, and the journey itself is home. Still I have always been drawn by windblown clouds into dreams of a lifetime of wandering.”

Basho, Narrow Road to the Interior (1694) trans. by Hamill, S.

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おくのほそ道の奥とはどこか�• ドナルド・キーンの解釈��1)北のある地名(固有名詞)��2)北端の地域、奥地(普通名詞)��3)心の内奥(比喩)��4)俳諧�

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Time passes and the world changes• 「山崩川流て 道あらたまり、石は埋て土にかくれ、木は老て若木にかはれば、時移り、代変じて」(おくのほそ道・壺の碑)• “-----, mountains crumble and rivers disappear, new

roads replace the old, stones are buried and vanish in the earth, trees grow old and give away to saplings. Time passes and the world changes.’’ Basho (1694) cited by Keene, D., 1989, Travelers of Hundred Ages, Henry Holt and Company: 316-7.

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多賀城碑

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長谷川等伯 (1539-1610)���松林図屏風(国宝、9.26〜10.19まで、仙台市博物館で展示) �

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Raphael, S.���(1483-1520)

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Mont Saint-Victoire (1885) by Paul Cezanne (1839-1906)

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エコロジー都市としての江戸�• 江戸時代は暗黒時代だったのか?��成熟した世界最大の100万都市としての江戸、識字率70%

�例.歌舞伎や浮世絵の洗練

• 廃棄物ゼロの都市��伝染病の少なさ��「練馬大根」の秘密�石川英輔『大江戸エコロジー事情』(講談社文庫)��

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水俣病

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岩手県大槌町����NPO法人「吉里吉里国」代表�• 朝はおにぎり1個、昼はアンパン1個で毎日暮らしていた。それでもあの小さな避難所でコミュニティは生まれていた。(略)声をかけたこともなかった人達が、同じ避難所で枕を並べて生活したことで、本当のコミュニティができた気がする。

• 津波は大きな災害を残したが、多くの事を教えてくれた。沿岸部は、海と川と山があって初めて暮らしが成り立つ地域だということを忘れてはいけない。こうした地域で育ったからこそ、自然の恵みを授かる術をきちんと身につけることができた。そのことが人口流失・限界集落といった地域の課題を解決するカギにもなると思う。

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宮城県栗原市  呉地正行さん(日本雁を保護する会 会長)  今まで物質的な豊かさを求めて便利な生き方をしてきたが、それはとても危うく長続きはしない。考え方を根本的に変えなければいけないと多くの人が感じたと思う。   日本には、かつての文化の中で育んできた長持ちする仕組み、ノウハウや風土がたくさんある。それを再評価し、これからの時代に活かすことが必要だ。文化や伝統を日本人自身が評価し、誇りを持って社会全体で活かして行き、価値の基準は変えなければいけない。もともとのヤマト言葉の中にnatureを意味する「自然」という単語はなかった。日本の場合、自然と人間は一体化していて、人間も自然の一部だと考えられていた。それはいかに人間と自然が一体化しているかということを象徴している。                                      (続)

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 原発や遺伝子組み換えのように、技術的には可能だがその影響が社会全体に及び、一度問題がおきると人間が管理できない領域には立ち入ってはいけない。またこれらの問題を社会全体で監視・管理できる仕組みを作り上げる必要がある。

 人間の力はどうやっても自然には太刀打ちできない。そのことを改めて肝に銘じることが必要だ。どうすれば自然の猛威をかわしながら、その恵みを受け続けることができるのか、そこに知恵を絞らなければならない。大地は我らのものではなく、我らが大地のものなのだ。

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考えてみよう�• 自然との共生を重視する伝統的な文化にもかかわらず、なぜ日本や韓国・中国で深刻な公害問題や大規模開発による自然破壊が起こったのか?• なぜ日本で、福島第一原発事故のような大規模な環境汚染が起こってしまったのか?• 被災者の方たちは、東日本大震災の被災をつうじて、どうして、自然とのつきあい方を反省することになったのか?

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