偽りの約束

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偽りの約束 原子力推進のウソを撃つ BEYOND NUCLEAR 報告書 リンダ・ペンツ・ガンター Linda Pentz Gunter www.BeyondNuclear.org 2013 8

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Economy & Finance


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4月から、「パンドラの約束」と題した、原子力推進のドキュメンタリー映画が全国ロードショーされています。 当室では、米国の反原発団体”Beyond Nuclear“が作製したこの映画に対する反論書「偽りの約束―原子力推進のウソを撃つ―」を邦訳 ..

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Page 1: 偽りの約束

偽 り の 約 束

原子力推進のウソを撃つ

BEYOND NUCLEAR 報告書

リンダ・ペンツ・ガンターLinda Pentz Gunter

www.BeyondNuclear.org

2013 年 8 月

Page 2: 偽りの約束

この報告書は PANDORA’S FALSE PROMISES の日本語訳である。

Linda Pentz Gunter 著

PANDORA’S FALSE PROMISES

Busting the pro-nuclear propaganda

(BEYOND NUCLEAR REPORT)

Updated: August 2013

http://www.beyondnuclear.org/pandoras-false-promises/

翻訳を快く承諾してくれた Linda Pentz Gunter に感謝します。

この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 2.1 日本 ライセンスの下に

提供されています。

http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/2.1/jp/

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Page 3: 偽りの約束

概要

原子力発電はいかなる炉の構造であっても気候変動に対する効果的な対策になりえない。もし原子力で❒CO2 を大量に吐き続ける化石燃料発電所の相当数を置き換えようとすれば、1 ギガワット以上の炉を 1000基から 1500 基も新設しなければならず、それを 2050 年までに実現するなどまったく無理な計画である。

いわゆる第❒ 4 世代の炉は、高速炉や小型炉とよばれるものも含めて、斜陽産業の最後のあえぎに過ぎない。高速増殖炉も初期に炉型がいくつか試されていたが、経済面でも安全面でもまったくの失敗だった。原子力発電への資本投下はいつも大幅な予算超過になり、投資家にとってはただの泥沼である。その後の実験炉もコスト高で、経済的に魅力のないものになった。

一体型高速炉の信奉者はたいへんなコスト高を見逃し、核拡散のリスクを無視し、現実は別の放射性物❒質に変換するだけなのに放射性廃棄物が無くせるかのように宣伝し、実用化にはまだ数十年かかることを伏せ、しかも冷却材のナトリウムによる火災や爆発の危険から目を背けている。

原子力発電を使いつづける限り周辺住民への放射線リスクが日常化し、特に子どもでは原子力施設近く❒に住んでいると白血病の危険が高くなる。原子炉からの定常的な放射性物質放出や事故時の大量放出のために細胞損傷や DNA の変異を生じ、がんやその他の疾病につながる。

原子力事故後に繰り返される「危険は少ない」タイプの予測は信頼できない。チェルノブイリ健康報告❒が IAEA/WHO から 2005 年に 発表されたが、そこでは科学的精査に耐えないほど死亡率予測を低く見せるために重要なデータが隠蔽されていたことから、報告全体が疑わしいものとなっている。しかも IAEA は原子力推進団体である。放射線被曝のあと、がんが発生するまでの長期間を考えれば、フクシマ災害から生じる健康被害を正確に予測するには早すぎる。しかし健康被害の一端はすでに出現している。

ドイツの実例でも、他に数多くある研究によっても、石炭火力や原子力発電を順次廃止し、再生可能エ❒ネルギーへの置き換えが可能である。再生可能エネルギー分野での雇用は数も多いし、継続的でもある。ドイツの場合、再生可能エネルギー分野の雇用はすでに 38万人となっているが、原子力分野は 3万人でしかない。

❒ CO2 を発生させないベース負荷運転は原子力だけが可能という主張は過去のものだ。地熱や洋上風力発電は安定なベース負荷運転が可能だし、原子力よりも CO2 のフットプリントがさらに小さい。エネルギー利用の効率化を進めれば原子力や石炭火力の抑制に大きく役立つ。

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Page 4: 偽りの約束

目次

はじめに......................................................................................................................5気候変動......................................................................................................................7ベース負荷伝説...........................................................................................................10「新世代」高速炉.......................................................................................................12廃棄物.......................................................................................................................15コスト.......................................................................................................................16原子力発電と健康リスク..............................................................................................17多方面の調査・研究....................................................................................................21チェルノブイリによる健康被害.....................................................................................23フクシマ事故による健康被害........................................................................................26バナナは安全か、飛行機は安全か..................................................................................27フランスの事情...........................................................................................................28ドイツの事情..............................................................................................................31結び..........................................................................................................................32謝辞..........................................................................................................................34

高速炉は建設費が高く、運転は困難で、些細な不具合が長期の運転停止になりやすく、修理も難しいうえに時間がかかる。

 ハイマン・リッコーヴァー(Hyman Rickover)提督、1956

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はじめに

このレポートのきっかけは『パンドラの約束』というドキュメンタリー映画だ。ロバート・ストーンが監督した原子力推進派の映画が 2013 年の夏に公開される。映画の登場人物はだれもが、実際の発言や著述と同じように、原子力産業に関しておおざっぱで肯定一方の意見を述べている。

映画の宣伝文句は始めのうち「反原発活動家から次々と転向した人たちによる生の声を伝える」となっていたのだが、そもそも映画の登場人物たちはその範疇にまったく当てはまらない。しばらくすると宣伝や広告シーンが少しずつ変わってきて、映画の内容も詳しくは語らなくなっていった。この変遷は Beyond Nuclear のブログ、Pandora’s False Promises (http://www.beyondnuclear.org/pandoras-false-promises/)にまとめてある。

環境保護の主張と原発推進は両立しない。環境派の人々こそが原子力利用には反対しているのだ。原子力産業は地球を切り崩し、自然環境を壊し、廃棄物や排水で放射能汚染を広げている。インドのジャイタプール(Jaitapur)大型原子力発電所計画が実現すると世界的にも貴重な生態系だけでなく、牧畜や漁業を営む住民のコミュニティーも共に破壊してしまうだろう。(左の写真は反対デモの様子)

映画の広告によると“原子力を推進する環境保護論者たち”をテーマにしているという。言葉の意味を考えれば完全な矛盾だ。環境保護を主張するなら持続不可能で地球から鉱物を絞り取る産業などとても支持できないし、特に原子力のように環境を汚染し、ウラン採鉱の労働者に職業病と死を押しつけ、水資源を汚染し、枯渇させ、がんの原因となる放射性元素を大気と土壌と河川と海洋とにまきちらし、しかも廃棄物には数百年から数百万年にわたって放射線を出しつづける有毒な放射性元素が含まれているのだから、なおのこと推進など主張できない。さらに加えれば、原子力産業のいろいろな段階にどこかひとつでも失敗があれば、広い範囲が永久に居住不能となってしまう可能性さえある。この映画をもう少し正確にいうなら“原子力に転向した元環境保護論者たち”とでも言えようか。

映画『パンドラの約束』やそのパンフレットで語られるまやかしは、この映画やその広報担当者に限ったものではない。どこでも使われている誤解や錯誤だ。中には原子力産業のカネで原子力産業が儲けるために意図的に作り、作為的に浸透させてきたものも含まれている。そのカネでさえ、大部分はアメリカの納税者が60 年間も支払ってきたものだ。

ここでは、そういうわけで、映画に出てくる誤解や錯誤だけを取り上げるのではなく、出演者などの原子力推進者がいろいろなところで発表している主張も対象にしている。さらに、あまりにも多いのだが、“不作為の罪”も暴いていく。つまり重要な事実を語らないで原子力の利点だけを強調するスタイルだ。もしその事実を含めれば利点など消えてしまうから、彼らは隠し通そうとするのだ。そのためこのレポートでは『パンドラの約束』に限定することなく、原子力推進論者があちこちで流布している偽りに対して反論していくことにする。

気候変動の緩和に原子力がまるで貢献しないばかりか、とんでもないコストが隠れていることもはっきりわかる膨大なデータが蓄積されている。そのデータを厳選し、集大成したのがこのレポートである。レポートはいくつかの章に分かれているが、それぞれの章で関連データや論点のすべてを網羅したわけではないことをお断りしておきたい。

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特に再生可能エネルギー関連での技術開発や実施の分野はたいへん活発で、紹介しきれなかった新しい展開も多い。原子力だけでなく他の化石燃料エネルギーもどんどん置き換えていく勢いがある。ぜひこの分野の専門家たちに注目してほしいし、このレポートにも参考文献を挙げてある。原子力発電を続けなければ電力が足りないなどという議論は、技術的にも経済的にも、もちろん環境的にも、再生可能エネルギーの進歩をもって反論できる。

このレポートでは触れることができなかったデータへも参考文献や脚注、あるいは Beyond Nuclear のウェブサイトからリンクをたどって、ぜひ参照してくださることを願っている。

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気候変動

ドイツの場合、再生可能エネルギー分野がすでに 38万人の雇用を創出しているが、原子力分野は 3万人でしかない。

原子力では手遅れ

気候変動はすでに危機的状況に達しており、実用段階になったクリーンでグリーンなエネルギーですぐにでも対応しなければならない。建設に何年もかかるような、遅くて面倒ばかりの原子力発電所など建設している余裕はない1。

気候変動へ対応するためには今すぐ、CO2 を発生せず、鉱物を堀りおこさず、有害廃棄物を残さないエネルギー手段を用いなければならない。そのためには原子力も、石炭や石油や天然ガスなどの化石燃料発電も廃止し、代わって再生可能エネルギー、効率の向上、エネルギー消費の削減に転換する必要がある。建設に時間と資金がかかり、危険な原子力発電では CO2問題の対応が間に合わないことはたくさんの研究で示されている。これに対して風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギー技術は、どれも実用段階に達している。(写真提供: Sepp Friedhuber)

原子力発電は気候変動対策としては非効率であり、リスクも大きい2。マサチューセッツ工科大学の 2003年の研究によれば、CO2 を発生している化石燃料発電の大部分を原子力発電で置き換えようとすると、全世界では 1 GW (ギガワット)以上の炉を 2050 年までに 1000 基から 1500 基、つまり毎月 2 基ずつ新設しなければならない3。非現実的だし実現不可能な計画である。

国際原子力機関(IAEA)の PRISデータベースによれば 2013 年 3 月 31 日現在稼働中の原子炉は世界に 437基あり、発電容量は 373,156 MW (メガワット)である4。つまりこれまで 60 年間かけて建設した容量の 2倍から 3倍の発電用原子炉を 40 年以内に建設しなければならない5。

気候変動の危機的状況を考えれば、『パンドラの約束』で宣伝されている一体型高速炉(IFR)は「燃焼式」でさえも実物が世界のどこにも存在していないのだから、意味がない。まずエネルギー使用を効率化すべきであり、続いて再生可能エネルギーを導入する。この 2 つなら、あらゆる既存のエネルギー供給側対策に比べて実施時期が早く、経済的コストも小さく、人間社会にも環境にも影響が小さい6。

気候学の専門家は、CO2排出を削減するまでの持ち時間はもうほとんどないと警告しており、それにはジェイムズ・ハンセン(James Hansen)7のように IFR に類似のいわゆる第 4 世代原子炉を推している人も含ま

1 http://beyondnuclear.squarespace.com/storage/fs_climate_chaos_and_nuclear_power.pdf Climate Chaos and Nuclear Power. A Beyond Nuclear Fact Sheet. 2008.

2 http://ieer.org/resource/books/insurmountable-risks-dangers-nuclear/ Insurmountable Risks: The Dangers of Using Nuclear Power to Combat Global Climate Change. Brice Smith. IEER books. May 2006

3 http://web.mit.edu/nuclearpower/pdf/nuclearpower-summary.pdf The Future of Nuclear Power. MIT. 2003.

4 http://www.iaea.org/pris/ Power Reactor Information System.訳注: 434 基、370 534 MWe (2013 年 7 月 7日)。原文の URL は http://prisweb.iaea.org/Wedas/WEDAS.asp.

5 私信, David Lochbaum(憂慮する科学者同盟)から原著者へ.6 Eメール, Ken Bossong から原著者へ. 2013 年 4 月 10 日.7 http://transitionvoice.com/2011/03/censored-scientists-dirty-politics-and-the-nuclear-distraction/

Censored scientists, dirty politics and the nuclear distraction. Erik Curren の Transition Voice ウェブサイト(March 11, 2011). Hansen の本、Storms of my Grandchildren の抄録を参照(日本語版は『地球温暖化との闘い すべては未来の子どもたちのために』ジェイムズ・ハンセン著、枝廣淳子監修、中小路佳代子訳、2012 年 11月 22 日)

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れる。時間切れの先は著しい気候変動が待っていて、緩和措置すら追い付かない恐れがある8。第 4 世代原子炉の実用化は数十年先であるし、それまでに莫大な開発資金もかかる。そこに資金を使うより、クリーンで安全なエネルギー源に投資する方がよほど確実だ。

再生可能エネルギーとエネルギー効率化という選択

エネルギー使用の効率化や再生可能エネルギーに移行するときの障害は技術ではなく、政治的決断である。風力と太陽光発電だけでも、現在アメリカ合衆国内の家庭や産業で消費される以上の電力が供給できることは、いくつもの研究で示されている9 10。

2007 年の著名な研究論文『CO2 も原子力も不要、アメリカエネルギー政策ロードマップCarbon-Free and Nuclear-Free: A Roadmap for US Energy Policy』の中でアージャン・マキジャニ博士は次のように述べている。「合衆国内には莫大な再生可能エネルギーが眠っているが、ほとんど利用されていない。中西部とロッキー山脈諸州を含めた 12 の州で風力資源量は、合衆国全体で現在の発電量の 2.5倍ほどになる。ノースダコタ、テキサス、カンザス、サウスダコタ、モンタナ、ネブラスカの各州にはそれぞれ、合衆国内にある 103 基の原子力発電全体よりも大きい風力資源がある。太陽光資源は合衆国の国土面積の 1パーセントだけで、それを日射量の多い南西及び西部諸州に集中させれば、風力資源の 3倍にもなる11。

ロッキーマウンテン研究所が発行した報告書『火の再発明 Reinventing Fire』には“2050 年までに、現在規模の 2.6倍、石油なし、石炭なし、原子力なし、天然ガスは 1/3削減、5兆ドルの純資産、82%から86%の CO2排出削減、新技術不要、そして産業と利潤の成長をともなって経済を転換する方法”が示されている12。

EnergySavvy によると、従来の軽水炉を更新する費用の半分で 160万世帯のエネルギー効率が改善でき、22万人の雇用が発生し、これは軽水炉の更新に比べれば 90倍にもなる。家庭内での電力使用を効率化すれば老朽原子炉を更新する必要はなくなる 11。

控えめに見積もっても、既存の建築技術や生産技術でエネルギー利用を効率化すると 2050 年に予測されている電力需要を 44%以上も削減できるし、新技術による発電よりもよほど短期間で元がとれる。エネルギーの損失を大幅に減らし、エネルギーが安定した低価格で供給できれば雇用の創出にも経済成長にも力強い貢献になる13。エネルギー需要を半分、あるいはそれ以下に減らそうとすれば、既存の技術を使い、適正なコストをかけて、2050 年までかからずに達成できるだろう。さらに生活スタイルを少し変えればこの数字はもっと見事なものになるだろう14。

8 http://www.nature.com/nclimate/journal/vaop/ncurrent/full/nclimate1758.html 2020 emissions levels required to limit warming to below 2°C. Rojeli, et al. Nature Climate Change. December 16, 2012.

9 http://www.beyondnuclear.org/storage/seabrook-renewables/seab_lra_09202010_exhibit_dahger_powerpoint06182009a.pdf Deepwater Offshore Wind in Maine: the Plan, the Timeline. Dr. H.J. Dagher, P.E. University of Maine. June 18, 2009.

10 http://ieer.org/wp/wp-content/uploads/2012/07/16-3.pdf Renewable Energy Roadmap for Utah. Arjun Makhijani. IEER. July 2012.

11 http://www.ieer.org/carbonfree/ Carbon-Free and Nuclear-Free: A Roadmap for US Energy Policy. Arjun Makhijani. 2007.

12 http://www.rmi.org/ReinventingFire Reinventing Fire. ロッキーマウンテン研究所.13 http://www.huffingtonpost.com/amory-lovins/climate-change-no-breakth_b_2654248.html?

view=print&comm_ref=false Climate Change: No Breakthroughs Needed, Mr. President. Amory Lovins、Thomas共著. The Huffington Post. February 19, 2013.

14 前掲 6, E-メール, Ken Bossong から著者へ.

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今後 20 年でアメリカの原子力発電所は1/3 が運転寿命を迎える

少ない費用で雇用を増やすなら、効率化

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再生可能エネルギー以外を全廃するなら、エネルギーの節約が不可欠だ。現在のようなエネルギー浪費を続けていたらとても 90億もの地球人には行きわたらない。最重要課題をひとつ挙げるなら、エネルギー節約である15。

原子力ロビイストたちの圧力

アメリカ合衆国政府は再生可能エネルギーの分野で世界をリードできる機会を早い時期に無駄にしてしまった。1952 年にトルーマン大統領が任命した Paley委員会(議長が Paley氏)は、アメリカ全体の電力需要のうち原子力で供給できるのは、うまくいってもある程度の比率に過ぎない、という結論を出していた。委員会が原子力に代わって強く推奨したのは“太陽光発電というまったく新しい分野で強力に研究を進めること。我々合衆国が世界の福祉におおきく貢献できる事業である16”。しかし後任のアイゼンハワー大統領は軍と原子力産業の圧力に屈し、“原子力の平和利用”なる政策に突入していった。

化石燃料と原子力産業のロビイストによる圧力は、合衆国での再生可能エネルギーの進歩をこれまで何十年も妨害してきた。2008 年に Nuclear Energy Institute (原子力エネルギー研究所、NEI)は過去最高の 236万ドルを使って議会にロビイングした17。2012 年の NEI支出は 231万 5千ドルである18。1999 年から2009 年の間に原子力産業が連邦ロビイストに使った資金は 6億 4500万ドルであり、この他にも 6500万ドルが連邦選挙の資金として支出されている19。つまりこの 10 年間、毎週 136万ドルの大金を使いつづけたことになる。

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15 http://wwf.panda.org/what_we_do/footprint/climate_carbon_energy/energy_solutions/renewable_energ y/sustainable_energy_report/. The Energy Report. 100% Renewable Energy by 2050. WWF と Ecofys の報告. 2011.

16 The Report of the President’s Materials Policy Commission. William S. Paley. (Washington, DC: Government Printing Office, June 1952).

17 http://www.opensecrets.org/lobby/clientsum.php?id=D000000555&year=2008 Open Secrets. Center for Responsive Politics.

18 同上 17 (訳注: プルダウンで 2012 年を選ぶか、末尾を 2012 に置き換えた URL http://www.opensecrets.org/lobby/clientsum.php?id=D000000555&year=2012 にアクセスする)

19 http://www.beyondnuclear.org/storage/kevin_media_statement_kerry_lieberman_5_12_2010.pdf Media Statement by Kevin Kamps of Beyond Nuclear regarding the Kerry-Lieberman “Climate” Bill. May 12, 2010.

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ベース負荷伝説

ベース負荷容量という考えは過去のものになりつつある ジョン・ウェリンゴフ(Jon Wellinghoff)連邦エネルギー規制委員会委員長

“ベース負荷発電のために原子力が必要な理由は、太陽が照らないときもあるし、風が吹かないときもあるからだ”という議論は単純化が過ぎるし、過去のものとなりつつある20。

太陽光と風力発電の比率が 60%から 80%となった場合、解析上でも経験的にも、連続供給に必要となるエネルギー貯蔵量やバックアップ発電量が従来型の大型発電所よりも少ないことがわかっている。もちろん発電立地は適切に分散配置し、柔軟な需給予測と調整とが前提である21。

WWF と ECOfys の研究では、2050 年までに再生可能エネルギーだけで全世界がまかなえる方策がわかっている22。これは 2011 年に発表されたものだ。ジェイコブソンとデルッチ(Jacobson, Delucchi)の論文も参照いただきたい23。

米国エネルギー省が所管する国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の意見では、地熱24も風力もベース負荷発電が可能であり、風力発電特有の変動性については“エネルギー貯蔵と長距離送電 ”によって解決され、“従来のベース負荷発電所と機能上同様の運用”が可能とされている25。

NREL によれば“ベース負荷用風力発電システムは安定した高信頼の発電が可能で、従来の化石燃料火力や原子力発電を、補充するだけでなく、置き換えることができる26”という。

大型で資本費の高い原子力や石炭火力発電はそもそも非効率な選択であった。発電出力を急速に上昇させることができないので、昼間に能力いっぱいで運転するために需要がはるかに少ない夜間でもそのまま運転しなければならない。

風力と太陽光の発電ピークを組み合わせれば、多くの地域で電力需要のピークに十分応えることができる27。

ベース負荷という発想が必ずしも解答になるとは限らない。屋根上の太陽光パネルや地熱ヒートポンプなど、分散型の再生可能エネルギーシステムとマイクログリッド型配電システムを重点に考えればベース負荷にかかわる問題が軽減されるし、電力需要も全体として減らすことができる28。

連邦エネルギー規制委員会のジョン・ウェリンゴフ委員長は 2009 年に「ベース負荷(発電)容量という考えは過去のものになりつつある」と話し、さらに「(原子力や石炭火力が)今後は不要なのかもしれない」と言っている29。

20 Renewables Global Futures Report 2013. Renewable Energy Policy Network for the 21st Century (REN21)、Institute for Sustainable Energy Policies (ISEP)共著.

21 前掲 13, Climate Change: No Breakthroughs Needed, Mr. President.22 前掲 15, The Energy Report. 100% Renewable Energy by 2050.23 http://www.stanford.edu/group/efmh/jacobson/Articles/I/JDEnPolicyPt1.pdf Providing all global energy

with wind, water, and solar power, Part I: Technologies, energy resources, quantities and areas of infrastructure, and materials. Mark Z. Jacobson, Mark A. Delucchi共著. Energy Policy. December 30, 2010.

24 http://www.nrel.gov/docs/fy11osti/50172.pdf A Broad Overview of Energy Efficiency and Renewable Energy Opportunities for Department of Defense Installations. Anderson et al. National Renewable Energy Laboratory. August 2011

25 http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1001/ML100151731.pdf . Creating Baseload Wind Power Systems Using Advance Compressed Air Energy Storage Concepts. National Renewable Energy Laboratory. October 3, 2006.

26 同上 2527 http://www.skepticalscience.com/print.php?r=374 Can renewables provide baseload power? John Cook,

Climate Communication Fellow for the Global Change Institute at the University of Queensland, Australia.

28 前掲 6, E-メール. Ken Bossong から著者へ.29 http://www.rockymtnsolar.com/pdf/Energy_Regulatory_Chief.pdf . Energy Regulatory Chief Says New

Coal, Nuclear Plants May Be Unnecessary. Ben Geman 他. Greenwire. April 22, 2009.

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ドイツのエンジニアリング団体 VDE による新しい研究によれば、“再生可能エネルギーの利用でベース負荷の必要性は完全に消滅する”ことが示されている30。

再生可能エネルギーによる分散発電は、開発途上地域で有利な選択である。人口があまり密集しておらず、大規模な電力インフラもまだ構築されていない地域では特にそれがいえる。例えばインドでは配電網の普及率が 65%しかなく、先進国との比較ではもちろん、開発途上国と比較しても低い。さらに人口の 70%以上が農村部に住んでおり、そこでの配電網はさらに厳しい状態である。見方を変えればインドは分散発電に移行するうえで特に有利な立場にある31。

先進国でも分散発電のメリットは大きい。ドイツの場合、再生可能エネルギー利用に協同組合モデルがうまく適用され、農村部のエネルギー革命が進行中であるといってよい。こういったエネルギー組合の存在は、ドイツが化石燃料による集中型エネルギーシステムから再生可能エネルギーによる分散システムへ移行するうえで、大きな推進力となっていくだろう32。

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30 http://cleantechnica.com/2012/10/09/german-study-not-much-power-storage-or-coal-power-needed- for-40-renewable-power-supply/ German Study: Not much power storage or coal power needed for 40% renewable power supply. Clean Technica. October 9, 2012.

31 http://www.wipro.org/earthian/documents/1000925_IITKGP_RE_Paper.pdf Impact analysis of distributed and RE based distributed generation on Indian economy and economy of BoP. A. Parashar, M. Shah and P.K. Das. Institute of Technology Kharagpur, India. 2010

32 http://www.boell.org/web/139-Amanda-Bilek-Revitalizing-Rural-Communities-through-Renewable-Energy-Cooperative.html Revitalizing Rural Communities through the Renewable Energy Cooperative. Amanda Bilek. Heinrich Böll Stiftung. June 2012.

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「新世代」高速炉

本邦に一体型高速炉の将来はない33 チャールズ・ティル(Charles Till)博士アルゴンヌ国立研究所、前工学研究部副実験所長『パンドラの約束』主役のひとり

一体型高速炉(IFR)はこれまで改良型液体金属高速炉と呼ばれ、アルゴンヌ国立研究所で開発されていた。減速材を使用せずに高速中性子を活用し、原子炉敷地内での高温化学処理が必要となる炉型である。IFR 計画は 1994 年に米国議会の決定で中止された。

“IFR はメルトダウンしない”という主張には疑問が多い。「まず問題なのは、あらゆる事故の状況を想定し、そこでの炉の挙動を確実に予測するなど、不可能だということだ。たったひとつの過酷事故を想定して炉の挙動を予測することさえ非常に複雑な作業である。モデル化した結果を厳しく評価しないかぎり、設計時の安全処置が妥当なのかも確定できない。インドにおける高速増殖炉の場合、それが妥当ではないことがわかった。IFR の場合は厳しい評価すら行われていない34。」

IFR がすでに発生した放射性廃棄物を、それが発電用であれ軍用であれ、魔術のように吸い込んでしまうわけではない。“燃焼”モードで稼働させ、放射性廃棄物中の長寿命核種を“変換”して構成割合を減らすならば理論的には可能である。それでも放射性の核分裂生成物は残留し、中には非常に長寿命の核種もある。これらを含む放射性廃棄物を数百年は管理しなければならない。(詳細は『廃棄物』の章で説明する。)

IFR では金属ナトリウムを冷却材に使用する見込みであるが、金属ナトリウムは激しく反応する物質である。このため火災、爆発、臨界事故の危険がある35。IFR 炉心で出力が急速に上昇すると燃料体が蒸発し、炉心が爆発的に破壊される恐れがある36。

ナトリウム冷却の高速炉は、これまでにほとんど全てがナトリウム漏れや火災を経験している37。アメリカのフェルミ 1号機も例外ではない。

ナトリウム冷却の高速炉が経験した事故のなかで、日本の「もんじゅ」の事故は最も厳しかったといってよい。1995 年、二次冷却系配管からナトリウムが漏れて大きな火災となり、炉はその後 14 年間、閉鎖された。この炉は 2010 年に再び臨界となったが、直後に炉心へ炉内中継装置が落下したため停止されている。

「もんじゅ」がたどってきた困難な道筋をから、ナトリウム冷却炉は気候変動への解答どころか発電にさえ不適であることがよくわかる。「もんじゅ」は建設開始から運転までに 9 年を要した。そして発電できた時間はたったの 1 時間である38。この 1 時間のために投入されたコストは 101.1億ドルに上っている39。

IFR は未完成であり、実績もない。増殖炉を“燃焼”モードで使う構想は、ジョージ・W・ブッシュ政権が2006 年に開始した当時の国際原子力パートナーシップ(GNEP)という計画で提案されたものである40。オバマ政権になってから GNEP は予算が停止されて無期限に保留されているが、再処理のための研究開発には税金が大量に投入されつづけている41。GNEP については米国議会の下院エネルギー及び水資源開発委員会

33 http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/reaction/interviews/till.html . Frontline. Nuclear Reaction, Charles Till博士へのインタビュー. PBS. 日付なし.

34 私信、M.V. Ramana から著者へ. January 23, 2013.35 http://ieer.org/wp/wp-content/uploads/2000/05/Annie-statement-transmu.pdf The Nuclear Alchemy

Gamble: An Assessment of Transmutation as a Nuclear Waste Management Strategy. Statement of Annie Makhijani, Project Scientist, Institute for Energy and Environmental Research, May 24, 2000.

36 E.E. Lewis, Nuclear power reactor safety (New York: Wiley, 1977), pp. 245–261.37 http://www.princeton.edu/sgs/publications/articles/Time-to-give-up-BAS-May_June-2010.pdf It’s time to

give up on the breeder reactor. The Bulletin of the Atomic Scientists. Thomas B Cochran, Harold A. Feiveson, Zia Mian, M.V. Ramana, Mycle Schneider,Frank N. von Hippel共著. May/June 2010.

38 http://www.greenaction-japan.org/modules/english0/index.php?id=7 What is Monju? Green Action, Japan

39 http://en.wikipedia.org/wiki/Monju_Nuclear_Power_Plant Monju Nuclear Power Plant. Wikipedia.40 Overview: The Rise and Fall of Plutonium Breeder Reactors. Frank von Hippel. Fast Breeder Reactor

Programs: History and Status. International Panel on Fissile Materials. February 2010.41 http://www.taxpayer.net/library/article/doe-halts-plan-for-commercial-reprocessing-global-nuclear-

energy-partnershi DOE Halts Plan for Commercial Reprocessing: Global Nuclear Energy Partnership Shelved. Taxpayers for Common Sense. July 27, 2009.

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が「非生産的で、不適切な計画に基づき、不適切に実行されてきた」と指摘した42。

現在計画が進行している IFR は GE 日立*の PRISM だけであるが、運転許可に必要となる最終安全審査は行われていない。1990 年代初頭に GE は米国原子力規制委員会(NRC)へ予備申請を提出しているが、PRISMはナトリウムのボイド係数が正43であることなど、NRC関係者が問題点をいくつも指摘している。

IFR を小型原子炉(SMR)として設計できるとする意見があるが、それで原子炉の安全性が高まるわけではないし、SMR の実用的利点についての誤解のひとつである。アメリカで提出されている SMR方式のうち少なくとも 2方式では「モーターで回すポンプは使用せず、自然循環だけで冷却しようとするものである。はっきり言って危険な考えだ。これはフクシマで高温の炉や使用済燃料プールに注水しようとしたときのあらゆる困難を考えれば明白なことだ44。」実際のところ、SMR は二酸化炭素排出の削減効果も小さく、それにさえ長期間を要する。(16 ページ『コスト』の章でも説明している。)

1995 年の「もんじゅ」火災を撮影した映像は公開されていなかったが、その映像では当初発表よりも重大な火災だったことをうかがえる。銀色の“宇宙服”を着た作業員と、空気ダクトからナトリウム化合物がつららのように下がっている原子炉建屋が映し出されている。(出典:ウィキリークス)

核兵器を持たない国であっても超ウラン元素化学やプルトニウム物性に詳しい専門家をそろえれば、IFR敷地内にあるホットセルなどの設備を用いて超ウラン元素からプルトニウムを分離できるだろう45。

IFR の運転には高温処理施設が必要である。高温処理では他の元素と混合された不純物の多いプルトニウムが取り出され、IFR の燃料として使われる。しかし混合される元素はそれほど強い放射性をもたないため盗難を防ぐ効果がないし、混合物であっても純粋なプルトニウムを持っていない国家や組織には魅力的な核物質だ。混合される元素の一部はそれ自体が原爆の材料になる。現在でも十分に危険な世界の核拡散のリスクをさらに増すことになる。

高温処理はコストも高い。ナトリウムと結合した使用済燃料 2.65 トンをアイダホ国立研究所で高温処理するために、8 年で 2億 3400万ドルを要すると見積もられている。これには 1 kg あたり 88,000ドルの再処理に関する廃棄物処理と処分費用を含んでいる46。

42 同上 41, * 訳注: 日本法人の日立GEニュークリア・エナジーとは別名称。43 正のボイド係数とは、冷却材中の泡(普通は水蒸気)の量で反応度がどれほど変わるかを示すものである。冷却材(こ

の場合はナトリウム)が沸騰すると炉の中に泡(ボイド)ができる。炉内のボイドの増減による炉の反応度の変化量はボイド係数に比例する。ボイド係数が正であると、冷却材が沸騰したり冷却材が流出してボイドが増えると反応度も増加し、冷却材全体の沸騰につながる。これが低出力時に正のボイド係数をもっていた RBMK 型炉で起きたのがチェルノブイリ 4号機だった。(軽水炉および沸騰水型原子炉では負のボイド係数であるが、これもリスク要因になりうる。)

44 http://allthingsnuclear.org/does-does-funding-announcement-mark-the-end-of-its-irrational- exuberance-for-smrs/. Does DOE’s Funding Announcement Mark the End of its Irrational Exuberance for SMRs? Edwin Lyman博士. 憂慮する科学者同盟. November 21, 2012.

45 http://www.princeton.edu/sgs/publications/sgs/archive/17-2-3-Cochran-Feiv-vonHip.pdf Fast Reactor Development in the United States. Thomas B. Cochran, Harold A. Feiveson, Frank von Hippel共著. Fast Breeder Reactor Programs: History and Status. International Panel on Fissile Materials. February 2010.

46 同上 45

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気候変動への対策として世界的に IFR を使用するなら核拡散のリスクが、特に原子力のみを保有し核兵器を持たない国への拡散リスクが高まる。IFR は原子炉と再処理施設が同一敷地に立地するが、その1か所で何トンものプルトニウムを核兵器非保有国に与えることにもなる47。

IFR はプルトニウム兵器に転用できるという魅力的な技術であるため、気候変動への対策よりよりも地球環境へもっと直接的な副作用を生じうる。二国間の“限定的な”核戦争でそれぞれ 50 発のヒロシマ型原爆が使用されたなら「そこで発生する核のチリによって 14 世紀から 19 世紀までの小氷期よりも気温が下がるだろう。植物の成長期間が世界的に短かくなり、食料生産を脅かすことになる48。」

IFR方式自体の誤りは Beyond Nuclear のファクトシート、 Integral Fast Reactor: Facts and Myths49

や、ここで紹介している文献にも詳しく書かれている。

IFR 以外ではトリウム燃料を含む「新型」原子炉が、原子力発電の寿命を延ばそうとする試みのために宣伝されている。しかし「新型」原子炉はどれも実用段階には程遠いものだ。トリウム燃料炉に関する虚構については Ten Myths about Thorium as a Nuclear Energy Solution50 とゴードン・エドワーズ博士の分析 Thorium Reactors: Back to the Dream Factory"51 が詳しい。

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47 前掲 4548 http://climate.envsci.rutgers.edu/pdf/RobockToonSAD.pdf Self-assured destruction: The climate

impacts of nuclear war. Alan Robock, Owen Brian Toon共著. The Bulletin of the Atomic Scientists. 201249 http://www.beyondnuclear.org/storage/documents/BN_Final_FullFactsheet_IFR_Jan2013.pdf . Integral

Fast Reactors: Facts and Myths. A Beyond Nuclear Fact Sheet. January 2013.50 http://www.beyondnuclear.org/storage/documents/THE MYTHS ABOUT THORIUM AS A NUCLEAR

ENERGY SOLUTION.pdf Ten Myths about Thorium as a Nuclear Energy Solution. A Beyond Nuclear Fact Sheet.

51 http://www.ccnr.org/Thorium_Reactors.html Thorium Reactors: Back to the Dream Factory. Gordon Edwards, July 13, 2011.

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廃棄物

長寿命核種を含む廃棄物の問題をすっかり解決する特効薬など存在しない アージャン・マキジャニ(Arjun Makhijani)博士

エネルギー環境研究所長

核廃棄物問題を解決する第一歩は、廃棄物をもはや作らないことである。

IFR とは“ひとたび放射性廃棄物を装填したら理論的には次々とリサイクルを続け、最後にはほんの少量の残留物だけにできる52”という主張はいくつもの不都合な現実を無視したものだ。全米科学アカデミーが1996 年に発表した研究成果では放射性廃棄物の量を削減できるとしながらも、非常にコストがかかり、利点はわずかであり、しかも数百年はかかるだろうと指摘している53。

これほど大量に作ってしまった核廃棄物は、理論的には変換できるにしても、IFR で完全になくせるわけではない。核変換とは廃棄物中の長寿命同位体の構成比を減少させるプロセスをいう。プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなどの元素は構成比を下げられるだろうが、放射性の核分裂生成物、例えばセシウム、クリプトン-87、ストロンチウム-90 などは残留する。これらの放射性廃棄物を少なくとも数百年は管理しつづけなければならない。一方で核変換プロセスからは大量の低レベル廃棄物と超ウラン元素廃棄物が発生する54。

このような高速炉を大量に運転しようとも、放射性廃棄物の恒久処分施設を必要とするだろう55。

放射性廃棄物の置き場所が広大になることが問題なのではない。中身の有毒性とその濃度、持続期間が論点なのだ。同位体構成によっては放射性廃棄物の致死的毒性は 100万年以上も持続する。

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52 http://www.monbiot.com/2012/02/02/nuclear-vs-nuclear-vs-nuclear/ . Nuclear vs Nuclear vs Nuclear. George Monbiot. Monbiot.com. February 2, 2012.

53 http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=0309052262 Nuclear Wastes: Technologies for Separations and Transmutation. National Academy of Sciences. National Academy Press. 1996.

54 超ウラン元素廃棄物とは、半減期が 20 年以上でアルファ粒子を放出する超ウラン元素によって、放射能の濃度が3.7 MBq/kg 以上の汚染された廃棄物をいう。超ウラン元素とは原子番号がウランの 92 を超える元素の総称で、人工の元素である。

55 http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=fast-reactors-to-consume-plutonium-and-nuclear- waste&page=3 Can Fast Reactors Speedily Solve Plutonium Problems? David Biello. Scientific American. March 21, 2012.

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コスト

今日までに高速中性子炉は 60 年の歳月と 1000億ドルの世界的努力を費してきた。しかしいまだに願望の域を出ない56

デビッド・ビエヨ(David Biello)サイエンティフィック・アメリカン誌

IFR は“今日の複雑きわまりない軽水炉(LWR)よりも建設費が低い57”という主張には根拠がない。液体ナトリウム冷却の実証炉において発電容量キロワットあたりの資本費は同程度の軽水冷却炉の 2倍以上である58。最近の設計によるものも、通常の軽水炉と比べて経済的に競争できるレベルではない59。

経済的理由で電力会社が原子力発電から脱退している中で、さらに費用がかさみ商業的にも引き合わないIFR のような選択肢が今後注目され、開発されていく可能性は非常に小さい。

原子力発電への税金投入や電力料金による補助は 50 年以上も続けられており、総額は数千億ドルにもなっている60。IFR を建設することになれば、高額な費用が再び納税者の負担となるに違いない。現在唯一資金投入されている SMR 計画も高額な建設費負担を税金による補助に頼り続けるだろう。

IFR を SMR として採用すれば経済性の悪さは一段とひどくなる。憂慮する科学者同盟のエドウィン・ライマン博士は「規模の経済性に基づけば小型炉の電力は大型炉よりも、他の条件が同じなら、高いものになる。これを補うためには大量生産によるコストダウンが有効だと SMR のメーカーは主張している。その通りだとしても初めの数基についてはメリットが現れない61。」

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56 http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=are-new-types-of-reactors-needed-for-nuclear- renaissance Are New Types of Reactors Needed for the US Nuclear Renaissance? David Biello. Scientific American. February 19, 2010.

57 http://www.beyondnuclear.org/storage/PANDORAS-PROMISE-brief-synopsis1.pdf Pandora’s Promise, Robert Stone制作の映画. Robert Stone Productions のウェブサイトにあったが、削除された.

58 前掲 40, Overview: The Rise and Fall of Plutonium Breeder Reactors.59 前掲 37, It’s time to give up on the breeder reactor.60 http://www.ucsusa.org/assets/documents/nuclear_power/nuclear_subsidies_report.pdf Nuclear Power:

Still Not Viable without Subsidies. 憂慮する科学者連盟. 2011.61 前掲 44, Does DOE’s Funding Announcement Mark the End of its Irrational Exuberance for SMRs?

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原子力発電と健康リスク

原子力事故後の健康データを護ることが大事だ。  それを否定したり隠したり破棄したがっている者がいる。 ジョン・ゴフマン博士

放射線被曝後の健康状態

原子力発電所では平常運転時でも放射性物質を定期的に放出しており、それらが環境中に蓄積し食物連鎖の過程で濃縮される。漏洩事故や汚染水の排出があると放出レベルは大幅に上昇し、大規模な事故では非常に高いものになる。

電離放射線は細胞に損傷を与え、DNA を変異させ、がんを発生させる恐れがある。電離放射線には 2 つのタイプ、つまり波と粒子とがある62。

往年のジョン・ゴフマン博士。ゴフマン博士は同僚のアーサー・タンプリン博士とともに放射線による健康影響を研究した。1990 年までには放射線影響に“しきい値”がないことを、合理的な疑いの余地なく証明した。もし“しきい値”があれば、それ以下の電離放射線を浴びても人体に影響がないが、結論は「安全な被曝量などない」ということだった。

大量の被曝でなければ放射線被曝で直ちに死亡するようなことはない。しかし長期間で低線量の被曝も臨床医学の見地からは細胞損傷と DNA の変異がわかっており、変異は子に伝えられる。さらに母胎内で胎児が被曝すると催奇形性変異が起きることもある63。

放射線被曝が原因となるがんは検出できる状態になるまでに何年、あるいは何十年と潜伏していることもめずらしくない64。線量が低いほどがんが発生するまでの潜伏期間が長い65。

放射線のもつ非標的効果、つまりゲノム不安定、ミニサテライト変異、バイスタンダー効果などについては詳しい研究が進行中であり、放射線リスクの評価にはこれらの効果を含めるべきだと考える専門家は多い66。

子どもは電離放射線やその他の環境汚染に対して感受性が強く、しかも健康影響が起きれば、より長い期間に渡ってそれと向き合うことになる67。

現行の放射線規制は健康な 20 代から 30 代の白人男性が“許容”できる暴露限界に基づいており、感受性が最も高い人々を、例えば妊婦や授乳期の母親を対象に含めて規制レベルを改定する必要がある68。

62 http://www.who.int/ionizing_radiation/about/what_is_ir/en/ What is Ionizing Radiation? World Health Organization

63 http://www.epa.gov/radiation/understand/health_effects.html Health Effects. U.S. Environmental Protection Agency, Dept. of Radiation Protection.

64 私信, Ian Fairlie博士から著者へ. April 10, 2013. http://www.ianfairlie.org/も.参照. Ian Fairlie博士, 環境中放射能に関する独立コンサルタント.

65 http://www.ratical.org/radiation/Chernobyl/HEofC25yrsAC.html Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe. German affiliate of International Physicians for the Prevention of Nuclear War (IPPNW). April 8, 2011.

66 前掲 64, 私信.67 前掲 63, Health Effects.68 http://ieer.org/projects/healthy-from-the-start/ . Healthy From The Startキャンペーン.

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環境中の放射線

ウラン燃料を扱う過程ではどの段階にも重大事故の可能性がある。原子炉自体の事故が世界のニュースになるが、それ以外も注視しなければならない。ソビエト連邦時代の再処理工程で起きた大事故、北米でのウラン鉱山事故はどちらも大規模な環境汚染と健康被害を起こした。

1957 年にはウラル地方にあるマヤーク再処理施設で放射性廃棄物の容器が爆発し、高レベル放射性気体を含む“雲”が発生した。この施設は地球上のもっとも強く放射能汚染された場所のひとつとなった。周辺住民は数世代にわたり、不妊、がん、ぜんそくなどの病気に苦しんでいる69。

1970 年代末にはオンタリオ州のエリオットレーク地域から発生したウラン精錬残渣のために、90キロメートル以上にわたるサーペント(Serpent)川水系 18ヵ所の湖のほぼ全てで生物が壊滅した。国際共同委員会は五大湖のラジウム汚染はエリオットレークからの残渣が最も大きいという結論を出した70。1979 年にはニューメキシコ州チャーチロック(Church Rock)のウラン鉱残渣から 9000万ガロン(30万立方メートル以上)の放射性流出水が発生し、1100 トンの固形精錬残渣とともにリオプエルコ(Rio Puerco)川に流れ込んだため、川は今も汚染されている71。

アメリカインディアンのウラン鉱労働者では肺がんリスクが高く、肺がんによる過剰死が 3倍以上にもなるという明確な証拠が複数の研究で明らかになっている72。

オンタリオ州エリオットレークのスタンロック(Stanrock)精錬所残渣区域。立ち木の奥に見える高さ 10メートルほどの白い砂の“壁”のような部分がウラン鉱残渣。エリオットレーク地区には 1億 3000万トンを超える残渣が置かれており、90キロメートル以上あるサーペント(Serpent)川水系をヒューロン湖までの全長にわたって汚染した。(写真提供: Robert Del Tredici)

69 http://www.rferl.org/content/article/1063825.html Russia: Living - and Dying - in the Shadow of Mayak. Alik Gilmulin. May 13, 2013.

70 Gordon Edwards博士による.71 http://beyondnuclear.squarespace.com/storage/Remembering_Church_Rock_July162009.pdf .

Remembering Church Rock: America’s forgotten nuclear accident. Linda Gunter. 日付無し.72 http://www.cdc.gov/niosh/pgms/worknotify/uranium.html . Worker Health Study Summaries. Centers for

Disease Control and Prevention. 2000.

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フランスがニジェールに所有しているウラン鉱からの採掘事業のために、元から少なかった水資源は枯渇した73。この水は地元トゥアレグの人々が牧畜や農業を中心とする生活に使ってきたものだ。ますます貧しくなる現地の人々は資源を求めて鉱山で廃棄された金属を家庭用品として使いはじめたが、それらは放射性物質であった。鉱山の街のひとつであるアーリットにある病院の外で見つかった岩石は、バックグラウンドと比べて 100倍以上の放射能だったことが CRIIRAD 試験所の検査でわかった。

原子力産業は人や動物を殺すだけではない。文化や伝統的生活スタイルも抹殺してしまう。鉱山や精錬所から排出されるラジウムなどの有毒な重金属は、アメリカインディアンやカナダ先住民の伝統的食料源であるオオシカや魚類やそのたの野生動物も汚染している74。オーストラリアのアボリジニたちも同様の影響を受けている75。

医療の信頼と世界保健機関(WHO)

事故による健康影響だけでなく、核燃料処理過程で定常的に放出される放射能による影響も含めて、原子力関係者からは独立した個人及び組織が評価を行い、透明性を確保すべきである。

本部をスイスのジュネーブにおく世界保健機関(WHO)は、原子力推進団体である国際原子力機関(IAEA)に実際上“口封じ”されている。したがって原子力事故による健康影響を WHO が分析しても信頼できるものではない。写真のヴァシリー・ネステレンコ氏は核物理学者であり、“ベラルーシ・チェルノブイリの子どもたち”の副委員長でもあった。2008 年 8 月に亡くなるまで WHO 本部前の監視を支援していた。チェルノブイリ事故が原因と考えられる死亡例を包括的に調査した報告の共著者で、最終的にはそのような死者は 100万人に近いだろうと予測している。さらにリクビダートルとしてヘリコプターからチェルノブイリの消火活動も行った。

ジョン・ゴフマン博士は寄稿した前文の中に「原子力事故後の健康データを護ることが大事だ。それを否定したり隠したり破棄したがっている者がいる76」と述べた。この後半部分の指摘はチェルノブイリ後にもフクシマ後にも見事に証明されている。ゴフマンは「現在の放射線(影響)研究は、言わば喫煙による健康被害の研究を全部タバコ産業に依存しているようなものだ。研究資金は全部といっていいほど政府から出ているが、その政府は原子力発電を擁護し、推進している77」と 1992 年に述べている。今も変わっていない。

73 http://www.irinnews.org/Report/83706/NIGER-Desert-residents-pay-high-price-for-lucrative-uranium- mining Niger: Desert residents pay high price for lucrative uranium mining. IRIN. March 30, 2009.

74 http://www.miningwatch.ca/my-homeland-stories-effects-nuclear-industries-people-review This is My Homeland: Stories of the effects of nuclear industries by people. Lorraine Rekmans, Keith Lewis, Anabel Dwyer共同編集. Serpent River First Nation. December 2, 2006.

75 http://en.wikipedia.org/wiki/Uranium_mining_in_Kakadu_National_Park . Uranium mining in Kakadu National Park. Wikipedia 他の情報が参照されている.

76 http://www.amazon.com/Chernobyl-Forbidden-Truth-Alla-Yaroshinskaya/dp/0803299109 Chernobyl: The Forbidden Truth. John Gofman博士による前文. August 1, 1995.

77 http://www.rightlivelihood.org/gofman_speech.html A Key Step in Protecting the World’s Health. Right Livelihood Award受賞スピーチ, John Gofman博士. December 9, 1992.

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チェルノブイリは犯罪

WHO は共犯者

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チェルノブイリ・フォーラムによる 2003 年から 2005 年の健康調査はよく引用されるが、事故関連のがん死亡数はベラルーシ、ウクライナ、ロシアの合計で 4000 を超えないと予測されている。この調査は IAEAが WHO やその他の機関の協力を得て発行したものだ78。しかし IAEA の設立目的は核技術の推進であって79、1959 年の設立以来、WHO が原子力発電に関して何かをしようとするたびに“拒否権”を発動してきた80。

詳細に調べると、チェルノブイリ・フォーラムの報告書は予測の根拠として汚染がもっとも著しい地域だけに注目し、低レベルでも長期的影響のある放射線をチェルノブイリから受けた国や全世界の多数の人々は無視している81。

核戦争防止国際医師会議(IPPNW)はチェルノブイリ・フォーラムが自らの調査結果を隠蔽していたことを明らかにした。がん死者数 4000人というフォーラムの“公式な”発表の元になった報告書を詳細に調べると、がん死者数の予測は 9000人となっていた。IAEA と WHO は自分たちの研究論文にある予測数値を隠して低い数値を公表していた82。

IAEA の強い影響力を考えれば WHO が“核放射線が人類の健康に及ぼす危険について適切に調査及び警告を発する83”ことなど不可能である。したがって WHO による、フクシマを含めた原子力事故が現在および将来の世代に与える影響について予測値は、相当の疑いをもって見れば使えるという程度のものだ。

2006 年の『もうひとつのチェルノブイリ報告書(TORCH)』はその結論に“リスク係数(人シーベルト当たりのがん死亡数)の選択によるが、全世界の集団線量が 60万・人シーベルトの場合、過剰がん死亡数は 3万人から 6万人となり、IAEA の報道発表数値と比べると 7倍から 15倍になると予測する84”と述べている。

ヤブロコフ博士他のロシアにおける研究によると、少なくとも 100万人がチェルノブイリ事故によるなんらかの影響のために死亡するだろうと予測している85。この研究には 5000件もの参照が記されている。

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78 http://www.iaea.org/Publications/Booklets/Chernobyl/chernobyl.pdf Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental Impacts and Recommendations to the Governments of Belarus, the Russian Federation and Ukraine. IAEA. The Chernobyl Forum: 2003-2005. Second revised version.

79 http://www.iaea.org/About/about-iaea.html The “Atoms for Peace” Agency. IAEA.80 http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/may/28/who-nuclear-power-chernobyl Toxic link: the

WHO and the IAEA. Oliver Tickell. The Guardian. May 28, 2009.81 http://www.jstor.org/discover/10.2307/4418166?

uid=3739936&uid=2129&uid=2&uid=70&uid=4&uid=3739256&sid=21101838167847 Twenty Years after Chernobyl. Debates and Lessons. M.V. Ramana. Economic & Political Weekly. May 6, 2006.

82 前掲 65, Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe. (訳注:9,000人は 8,930人を丸めた数字)

83 前掲 80, Toxic link: the WHO and the IAEA. 84 http://www.chernobylreport.org/torch.pdf . The Other Report on Chernobyl (TORCH). Ian Fairlie, PhD.,

David Sumner, DPhil.共著. The Greens in the European Parliament. April 2006.85 http://www.amazon.com/Chernobyl-Consequences-Catastrophe-Environment-

Sciences/dp/1573317578. Chernobyl: Consequences of the catastrophe for people and the environment. Yablokov 他. Annals of the New York Academy of Sciences. January 2010.

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多方面の調査・研究

ドイツの調査では、国内の原子力発電所から 5km 以内に住む子どもの白血病リスクが 2倍以上になっていた。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のスティーブン・ウィング(Steven Wing)博士は、1979 年 3 月 28日のペンシルバニア州スリーマイル島(TMI)原子力事故の影響を疫学的に研究し、事故の際に放出された放射能による被曝と TMI 周辺のがん発生件数の増加とは関連があることを確認した86。

放射線被曝による健康被害の原因は原子炉事故だけではない。欧州委員会が資金提供した研究はフランスのラ・アーグ核廃棄物再処理工場から放出される放射能が今後 10万年にわたって全世界の人口に与える累積線量を予測している。その結論を用いると「年間の放出量が今後もラ・アーグ施設の計画寿命まで変わらないとすれば、この施設による長期間の全世界集団線量は 65,000・人シーベルトと予測され、これによるがん死亡症例は、理論的には 3,250件となる87。」

ドイツの研究88とフランスの研究89によれば、原子力発電所周辺に住む子どもの白血病発生率が上昇しており、しかも住居が発電所に近いほど発生率も高くなることが示されている。

フランスの研究では、フランスの原子力発電所周辺における 2002 年から 2007 年までの白血病発生率が 2倍となり、これは統計的に有意であることが示されている90。

ドイツでは連邦放射線防護局の調査で、全種類の小児がんの発症リスクが原子力発電所近くでは 60%増加しており、小児白血病の発症リスクはほぼ 100%、すなわち 2倍に増加している91。

86 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1469835/ A reevaluation of cancer incidence near the Three Mile Island nuclear plant: the collision of evidence and assumptions. Steve Wing, David Richardson, Donna Armstrong, Douglas Crawford-Brown共著. Environmental Health Perspectives. 1997 Jan;105(1):52-7.

87 http://fissilematerials.org/library/rr04.pdf . Spent Nuclear Fuel Reprocessing in France. Mycle Schneider, Yves Marignac共著. A research report of the International Panel on Fissile Materials. April 2008.

88 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2696975/ Childhood Leukemia in the Vicinity of Nuclear Power Plants in Germany. Kaatsch 他. Deutsches Arzteblatt International. Octover 17, 2008.

89 http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.27425/abstract Childhood leukemia around French nuclear power plants - The geocap study, 2002-2007. Sermage-Faureet 他. International Journal of Cancer. February 28, 2012.

90 同上 89, Childhood leukemia around French nuclear power plants - The geocap study, 2002-2007.91 http://www.eea.europa.eu/publications/late-lessons-2/part-c-emerging-issues Late lessons from

Chernobyl, early warnings from Fukushima. Paul Dorfman, Aleksandra Fucic, Stephen Thomas共著.(訳注: 表記URL で表示されるページに参照文書へのリンクがある。この文書はセクション C の一部だが、残りの部分はこのページの Related Publications リンクで Late lessons from early warnings: science, precaution, innovation から到達できる.)European Environment Agency. February 4, 2013.

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フランスのラ・アーグ再処理施設周辺を対象とした2件の独立した医学調査では、近くに住む若年者に白血病発症率の上昇が見られた92。

イギリスのセラフィールド再処理施設に関する研究では、再処理施設で働く父親の子どもには統計的に有意な死産が増加がみつかった。死産のリスクと父親の授精前における電離性放射線外部被曝総量との間に有意な正の関係がある93。

ヒロシマのモデル、ナガサキのモデルを使用してチェルノブイリとフクシマの原子力災害の、あるいは原子力発電と再処理施設からの定常的被曝による健康影響を予測することは“科学的には不合理”である94。ヒロシマやナガサキのモデルは短時間で強い外部被曝を受けた人々を母集団としたものである。しかしラ・アーグ再処理施設の「周辺住民は長期に渡り、低線量汚染された空気を吸い、食物連鎖食品を摂取している。体内が慢性的に低線量の放射性物質で汚染されているので、放射線の被曝が継続する。まったく機序が異なるので、(高線量外部被曝と)同じモデルを適用するべきではない95。」

5歳未満の子どもは原子力発電所付近に住んでいると特に白血病を発生しやすいことが複数の調査で示されている。発電所に近いほどリスクは大きくなる。

(写真提供:J. Kamien. Hard Rain Project, © J.Kamien, UNEP) www.hardrainproject.com

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92 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9006467 Case-control study of leukemia among young people near La Hague nuclear reprocessing plant: the environmental hypothesis revisited. Dominique Pobel, Jean-Francois Viel共著. British Medical Journal, No. 7074 Vol. 314, January 11, 1997. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11413175 The incidence of childhood leukemia around the La Hague nuclear waste reprocessing plant (France): a survey for years 1978-1998. A-V Guizard, O. Boutou, D. Pottier, X. Troussard, D. Pheby, G. Launoy, R. Slama, A. Spira, ARKM共著. Journal of Epidemiology and Community Health, July 2001, Vol. 55, pp. 49-474.

93 http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(99)04138-0/fulltext . Stillbirths among offspring of male radiation workers at Sellafield nuclear reprocessing plant. Parker 他. The Lancet. October 23, 1999.

94 CRIIRAD研究所長 Bruno Chareyron博士, 映画 Wastes: A Nuclear Nightmare, 2009, での発言.95 同上 94

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チェルノブイリによる健康被害

チェルノブイリ事故で働いた 83万人のリクビダートルのうち、1992 年までは 7万人が有病者、13,000人が死亡したと推定されていた。2006 年には死亡者が 5万人から 10万人となった。2010 までには112,000人から 125,000人に増えた。

WHO と IAEA の利益相反に関する分析、両機関による自己データの隠蔽、1986 年 4 月 26 日のチェルノブイリ事故による現在までおよび将来の死亡数予測について、本報告書 19 ページ『医療の信頼と世界保健機関(WHO)』の章に記した。

IAEA が明らかに偏っていることは、1991 年報告書の結論ですでに明らかにされていた。そこには“放射線の影響によって発生するタイプの甲状腺がんの増加を示す明解な病理学的証拠となる研究報告は存在しない96”と書かれている。しかしその後の 2006 年にバーバーストックとウィリアムズ(Baverstock, Williams)はこの報告書の中に“これまでに事故による最も明白な健康影響は子ども時代に被曝した人の甲状腺がん増加である。ベラルーシおよびウクライナの医療官署は希少疾患である小児甲状腺がんの増加を1990 年には認識しており、特に原子炉近くに住む子どもに多かった97”という記述を見付けている。

83万人といわれるチェルノブイリのリクビダートルたち ― 事故の収束に当たるために集められた軍人や民間人 ― の消息を知ることは困難だ。作業後はソビエト連邦(当時)の各地域へ戻ってしまい、定期的な検査を受けている人は一部に過ぎない98。それでもリクビダートルのうち、1992 年までは 7万人が有病者、13,000人が死亡したと推定されていた99。2006 年には推計死亡者数が 5万人から 10万人となった100。ヤブロコフ他の推定によれば 2010 年までに元リクビダートルの 112,000人から 125,000人が亡くなっている101。

ロシアの政府筋によれば、リクビダートルたちは老化が早く、多種類のがん、白血病、身体的疾病、神経精神疾病に平均以上の発生率を示している102。

96 International Chernobyl Project and International Atomic Energy Agency 1991.97 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1570049/ The Chernobyl Accident 20 Years On: An

Assessment of the Health Consequences and the International Response. Keith Baverstock, Dillwyn Williams共著. Environmental Health Perspectives. May 30, 2006. (訳注: ここで引用された部分は IAEA 報告書を参照している.)

98 前掲 65, Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe.99 同上 98、及び Strahlentelex 138-139/1992, 8, CIS: Bereits 13.000 tote Liquidatoren [13,000人のリクビダー

トルは死亡している]. (ドイツ語)も参照.100 E. Lengfelder 他: 20 Jahre nach Tschernobyl: Erfahrungen und Lehren aus der Reaktorkatastrophe [チェルノブイリ 20 年後: 原子力事故の経験と教訓] (ドイツ語) Otto Hug Strahleninstitut – MHM の情報提供, February 2006.

101http://ratical.org/radiation/Chernobyl/index.html#CCofCfPatE Yablokov, AV (2009): Mortality after the Chernobyl Accident, Ann N Y Acad Sci, 2009 Nov;1181:192-216.(訳注: 現在の標題はChernobyl:Understanding Some of the True Costs of Nuclear Technology, 2013.7.22アクセス).

102前掲 65, Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe.

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国連の人道問題調整事務所では、チェルノブイリで1986 年と 1987 年に作業を行ったリクビダートルには、統計的に有意な白血病発生率の上昇があることを確認している103。

チェルノブイリから発生した放射能の“雲”の通り道であっても、 当時のソビエト連邦外の国にいた人々は まったく追跡もモニターもされていない。そのため、その地域の人が病気になったり死亡したとき、チェルノブイリから発生した放射線被曝の影響があったと明確に判断できる方法はない。しかし低レベル放射線被曝と人口母数の大きさを考えればかなりの数に上るはずである104。

チェルノブイリからの放出物質は半分以上がウクライナ・ベラルーシ・ロシアの外に、つまりヨーロッパ、アジア、北米に降下した105。またチェルノブイリからの降下物でヨーロッパはその面積の 40%が汚染された106。

チェルノブイリ事故のときに放射線を受けた親から事故後に生まれ、汚染されていない地域に住んでいる子どもに新しい DNA 変異が見つかっていることから、被曝による長期的健康被害の存在が確認されている107。

チェルノブイリ事故の 1 年後にあたる 1987 年にはベラルーシの新生児にダウン症発症件数のピークが見られた108。同様のことが他の原子力施設周辺でも見られる。ダウン症の発生が際立って高かったのはアイルランドのダンドークで、おそらくアイリッシュ海を隔てた対岸にあるイギリスのカンブリア郡セラフィールド放射性廃棄物再処理施設に関連があるだろう109。

103 United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs (UNOCHA): 3rd International Conference, Health Effects of the Chernobyl Accident, Results of 15-Year-Follow-Up Studies. Conclusions. Kiev, June 4-8, 2001.

104前掲 100, 20 Jahre nach Tschernobyl: Erfahrungen und Lehren aus der Reaktorkatastrophe105前掲 84, The Other Report on Chernobyl (TORCH).106前掲 84, The Other Report on Chernobyl (TORCH).107前掲 91, Late lessons from Chernobyl, early warnings from Fukushima.108前掲 91, Late lessons from Chernobyl, early warnings from Fukushima.109http://www.irishhealth.com/article.html?id=6677 Study raises Sellafield health risk. Niall Hunter. Irish

Health. July 12, 2004.

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チェルノブイリのリクビダートルたちに捧げられた写真

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キエフに住む 31歳のユリアさんは甲状腺摘出手術を受けたばかりだ。首には“ベラルーシネックレス”とよばれる傷が残る。チェルノブイリ事故の後、ベラルーシ、ロシア、ウクライナでは甲状腺の症例が今も数多く発生しており、摘出手術も前例のないほど多く行われている。ウクライナのキエフ市で。2005年。(写真と文:Gabriela Bulisova)

発生する病気が、例えば甲状腺がんのように治療可能であっても、原子力発電所事故の被害としてやむを得ないということにはならない。どんな病状でも、子どもにとってはさらに、苦痛であり、傷が生涯残ることもあるし、精神的にも社会的にも身体的にも健全さ(ウェルビーイング)への悪影響にちがいがない。

精神的苦痛も放射線被曝から起きる健康被害としてよく知られている。従って原子力事故による医学的被害に当然含めるべきものである。

チェルノブイリ事故が原因となる精神障害を調査したピエール・フロ-アンリ(Pierre Flor-Henry)他の報告では、放射線被曝に関連した臨床病変も併合していた110。例えば、統合失調症や慢性疲労症候群がリクビダートルの中に高率で発生しているが、フロ-アンリ は脳の生理的変化を伴う例も多数あることを見出した。このことは、0.15 Sv から 0.5 Sv の放射線被曝が原因となって多様な神経症状、精神症状が発生する可能性を示唆している111。

がん以外にもいろいろな疾病が放射能放出を伴う原子力事故が原因で発生している112。

チェルノブイリ後は小児甲状腺がんが当時のソビエト連邦諸国で多数発生したが、甲状腺を保護するヨウ素製剤が配布されたポーランドでは小児甲状腺がんの発生は少数に抑えられた113。

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110前掲 65, Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe.111前掲 65, Health Effects of Chernobyl. 25 years after the reactor catastrophe.112前掲 91, Late lessons from Chernobyl, early warnings from Fukushima.113http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21049454 Did the Chernobyl atomic plant accident have an

influence on the incidence of thyroid carcinoma in the province of Olsztyn? Bandurska-Stankiewicz 他. US National Library of Medicine. National Institutes of Health. Sep-Oct. 2010.

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フクシマ事故による健康被害

放射線被曝からがん発生までの期間が長いことを考えればフクシマ災害から生じる健康被害を正確に予測するには早すぎる。

放射線被曝から固形がんが発生するまでの潜伏期間は普通でも 20 年から 30 年に及ぶが、長いときには 60年、70 年になることもある114。フクシマ原子力災害による健康被害を結論的に述べるのは、死亡数であれ、それ以外の被害であれ、まったく早すぎる。

最も控えめな健康被害予想アセスメントは WHO が発表しているが115、この報告書は“もっとも重要なはずの仕事、つまり、フクシマの人々の集団線量の計算をしておらず、日本全体の計算もせず、フクシマ事故による北半球の人々への集団線量もない116”。

比較的初期の研究では全世界でがんによる死亡は最終的に 125例と予想されていたが117、1000例とする研究もあった118。フェアリー(Fairlie)が計算したところでは福島県民だけでがん死亡数が 3000 に相当する集団線量となった119が、“この計算には未確定の部分もたくさんあり、およその評価として使うべきだ”と注意が付けられている120。

心配の第一は核分裂生成物で、容易に人体へ取り込まれる元素である。セシウム-137 などは代謝によってすぐに人体へ取り込まれ、環境中や農作物にも取り込まれてるため、著しい長期間毒性がある121。

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114私信, Ian Fairlie博士から著者へ.115http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/78218/1/9789241505130_eng.pdf Health Risk Assessment

from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami based on preliminary dose estimation. World Health Organization. February 2013.

116http://www.ianfairlie.org/news/who-health-risk-assessment-from-the-nuclear-accident-after-the-2011- great-east-japan-earthquake-and-tsunami/ WHO Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami. Ian Fairlie. Fairlie.org. February 28, 2013.

117Worldwide health effects of the Fukushima Daiichi nuclear accident. John E., Ten Hoeve, Mark Jacobson共著. Energy & Environmental Science. June 26, 2012.

118Accounting for long-term doses in “Worldwide health effects of the Fukushima Daiichi nuclear accident. Jan Beyea, Edwin Lyman, Frank N. von Hippel共著. Energy & Environmental Science. January 8, 2013.

119http://www.ianfairlie.org/news/assessing-long-term-health-effects-from-fukushimas-radioactive-fallout/ Assessing long-term Health Effects from Fukushima’s Radioactive Fallout. Ian Fairlie博士. March 3, 2013. IanFairlie.org.

120同上 119121前掲 91, Late lessons from Chernobyl, early warnings from Fukushima.

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バナナは安全か、飛行機は安全か

バナナを食べたところでカリウム-40 の体内濃度は上がらない。余ったカリウム-40 はすぐに体外へ捨てられるだけであり、バナナからの被曝は正味ゼロである122。

食べたバナナからのわずかな被曝も、食べてから数時間のものでしかない。この間には腎臓が体内のカリウム濃度を平常値に戻してくれる。人体は恒常性によって調節されていて、バナナを食べたところでカリウム-40 の体内濃度は上がらない。余分のカリウム-40 はすぐに捨てられるだけだ123。

飛行機に乗ったとき、宇宙放射線による被曝は年間“許容”量である 1 mSv の 1/100 である124 (許容であって安全という意味ではない)。比較をするなら、この飛行機での被曝は胸部レントゲン撮影の半分以下である125。さらに外部被曝は人が線源の近くにいる間の危険である。内部被曝ではまったく事情が異なる。

いろいろな人工の放射性核種が原子力施設から、原爆実験から、あるいはフクシマやチェルノブイリといった原子力事故から放出されるが、そういった核種には人体が馴染みのある元素と取りちがえるものも多い。例えば放射性のストロンチウム-90 は摂取されると安定元素である体内のカルシウムと入れ替わり、放射性のセシウム-137 はカリウムと置き換えられえる。こうやって放射性核種が骨や筋肉に取り込まれ、人体に内側から放射線を浴びせるのだ126。これが内部被曝とよばれる。

宇宙からの放射線、水資源にも含まれるウランとその娘核種、地下から出てくるラドンからは逃れる手段もないし、それ自体にリスクがないわけでもない。しかし原子力施設や原子爆弾からの放射能は人体の被曝負担を不必要に増やし、人体内の放射線源を長期化させてしまう。セシウム-137 に至っては自然界に存在していなかったし、“防ぐこともできない127”。

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122http://www.washingtonsblog.com/2013/04/fake-science-alert-fukushima-radiation-cant-be-compared- to-bananas-or-x-rays.html Geoff Meggitt, 健康理学者(引退), Journal of Radiological Protection前編集委員.

123同上 122, Geoff Meggitt.124私信, Ian Fairlie博士から著者へ.

(訳注: 次の参照 125 では大陸横断飛行が 0.02-0.05mSv となっており、その場合は 1/100 よりも 1/20 に近い。)125http://www.epa.gov/radtown/cosmic.html Cosmic Radiation During Flights. US EPA.126私信, Ian Fairlie博士から著者へ.127http://www.epa.gov/radiation/radionuclides/cesium.html#protectmyself Radiation Protection, US EPA.

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フランスの事情

フランスでも放射性廃棄物を“リサイクル”はしていない。処分場もなく、80 トン以上のプルトニウムは小さなキャニスターを使って保管され、行き場所はない。

原子力エネルギーに大きく依存してきたフランスは結局、大量の放射性廃棄物を抱え、問題解決の糸口はない128。他の国と同様、フランスでも高レベル放射性廃棄物を処分する施設は稼働していない129。

フランスの“再利用”できないほど汚染されている高レベル放射性廃棄物はピエールラット(Pierrelatte)核施設に保管されている。その廃棄物から六フッ化ウランを含むごく一部はシベリアへ輸送され、そこではキャニスターが屋外保管されていて、Google Earth に映っている。これはフランスのドキュメンタリー『廃棄物、核の悪夢』で暴露された。(http://www.arte.tv/fr/dechets-le-cauchemar-du-nucleaire/2766888.html)

フランスでは使用済燃料をノルマンディー半島にあるラ・アーグの施設で再処理130している。再処理すると廃棄物の体積はさらに増える131。

ラ・アーグからはいわゆる低レベルの放射性排水がイギリス海峡へ毎年数千万ガロン(数万立方メートル以上)も放水されている。液体廃棄物は遠く北極海でも検出されている。ラ・アーグから放出された放射性ガスのクリプトン 85 は自然界より 9万倍も高い濃度であった132。

『パンドラの約束』ウェブサイトに一度は載り、その後は削除されたストーン監督の“AHAH moment”の中に“私は、フランスの電力の 80%を 30 年間供給してきた廃棄物がすべて保管されている部屋(バスケットボールコートぐらいの大きさ)に立入りを許可された133”と書かれていた。実際は、フランスの再処理されてガラス化された高レベル放射性廃棄物のうちわずか 4%がその部屋に保管されている134。廃棄物のほとんどは再使用できないほど汚染されており、フランス南部のピエールラット(Pierrelatte)施設に保管されている。

128http://www.beyondnuclear.org/storage/documents/France_Pamphlet_Summer20102.pdf Nuclear Power in France: Setting the Record Straight. The not so rosé truth about the French nuclear power program. A Beyond Nuclear pamphlet. Summer 2010.

129http://beyondnuclear.squarespace.com/storage/France_Fact_Sheet_09.pdf . Nuclear Power in France: Setting the Record Straight. A Beyond Nuclear Fact Sheet. 2009.

130再処理工程はまず炉から取り出した使用済燃料棒を細かく分割し、酸で溶かしてプルトニウムとウランを取り出す。詳しくは Beyond Nuclear の再処理パンフレット http://www.beyondnuclear.org/storage/Reprocessingwebview.pdf Beyond Nuclear pamphlet on Reprocessing を参照

131同上 130132http://www.commondreams.org/pressreleases/Nov%2098/110998g.htm La Hague radioactive air

90,000 times higher than background. Greenpeace, November 9, 1998.133http://www.beyondnuclear.org/storage/documents/Stone%20Director's%20Note%20captured.pdf “パ

ンドラの約束、ロバートストーンによる監督メモ”、従来は単に“監督メモ”とされ、Pandora’s Promise ウェブサイトにあったが、その後削除された。元の URL は http://pandoraspromise.com/directors-note/#.UXcX9BlUjJx .

134前掲 128, Nuclear Power in France: Setting the Record Straight. The not so rosé truth about the French nuclear power program.

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再利用(リサイクル)可能とされてはいるが、実際に再利用されていない135。

80 トン以上のプルトニウムが分離されて数千個の小型キャニスターに収められ、ラ・アーグに保管されている。これは安全保障と核兵器の拡散防止における信じがたいリスクである。このプルトニウムからごく少量が一部の原子炉で“再利用”され、そこでは核分裂に伴ってさらにプルトニウムが生成されている。

高レベル廃棄物と、長寿命核種をもつ中程度の放射能を最終的に地層処分する施設の開発は、フランスの場合ムーズ・オート=マルヌ地域のビュール付近に絞られている。現在はここに地下実験施設があるが、処分場は運用されていない。

いわゆる低レベルと中レベルの放射性廃棄物はフランスの場合シャンパーニュ地方オーブにある保管センターに集められているが、ここでは地下水への漏洩が見つかっている136。

フランスに 210 か所ある閉山したウラン鉱から発生した鉱滓が校庭や公共駐車場で見つかった。ウラン鉱からの流出水が周辺を汚染し、河川底泥が放射性廃棄物並になっている137。

フランスは大規模な原子力発電計画の基本にプルトニウムの増殖を据えていた。しかしウランが潤沢に使えるとなるとプルトニウムは燃料として経済的に引き合わなくなった。フランスの主要な増殖炉ともいえるスーパーフェニックスは費用が莫大になり、12 年の運転中にわずか 8.2 TWh しか発電できなかった。これは稼働能力の 7%にも満たない138。

135http://www.arte.tv/fr/dechets-le-cauchemar-du-nucleaire/2766888.html ドキュメンタリー中、Areva の広報担当者に注目. Wastes: A Nuclear Nightmare.

136http://www.citizen.org/documents/Burnie%20paper%20on%20French%20reprocessing.pdf French Nuclear Reprocessing – Failure at Home, Coup d’Etat in the United States. 5 ページに記述. Shaun Burnie. May 2007.

137http://www.criirad.org/actualites/uraniumfrance/Synthese_PDF/anglais.pdf Radiological Hazards from Uranium Mining. Bruno Chareyron. CRIIRAD report. 2011.

138http://www.princeton.edu/sgs/publications/sgs/archive/17-1-Schneider-FBR-France.pdf Fast Breeder Reactors in France. Mycle Schneider. Science and Global Security. 2009.

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フランスでは 900団体以上が活発に反核活動を行っている。写真のように 2009 年にコルマールで行われたデモには 5000人が参加し、ドイツ国境近くに立地するフランスで最も古いフェッセンハイム(Fessenheim)原子力発電所の閉鎖を要求した。フランスは原子力発電に大きく依存しているため暖房需要の高まる冬季は電力をドイツなどから輸入しなければならない。夏には渇水や熱波のときも原子力発電は当てにならない。水量が低いときや暑すぎるときは発電を下げたり止めたりしなければならないからだ。(写真:Linda Pentz Gunter)

フランスの原子力施設も多くの事故や重大な問題を抱えていて、それが 1000件に上った年も何度かある139。特に重大な事故の一覧が Dossiers de la Redaction140と Huffington Post141に載っている。

2008 年の連続して発生した事故のときもいくつかの原子力施設で漏出や流出が起きたが、その中でもトリカスタン(Tricastin)の巨大な総合施設の事故では 2 本の河川を放射性物質で汚染したために飲用禁止措置がとられ、水浴も禁止された。トリカスタン周辺のワイン用ぶどう園は売上げが落ち、ワインの名称を変えなければならないほどだった142。農家は作物を売れなくなり、不動産価格も下がる一方だった143。

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139http://www.planet.fr/dossiers-de-la-redaction-nucleaire-les-accidents-plus-graves-en-france-et-dans-le- monde.57360.1466.html Nucléaire: les accidents les plus graves en France et dans le monde. (原子力: フランスと世界の重大事故)

140同上 139141http://archives-lepost.huffingtonpost.fr/article/2011/09/13/2589236_la-liste-des-incidents-nucleaires-

francais-depuis-30-ans.html. La liste des incidents nucléaires français depuis 30 ans.142‘Radioactive’ wine renamed. Grapes in the News. June 9, 2010.143http://www.leparisien.fr/abo-faits-divers/au-tricastin-les-riverains-etudient-les-suites-a-

donner-28-07-2008-102700.php Au Tricastin, les riverains étudient les suites à donner. Le Parisien. July 28, 2008.

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ドイツの事情

ドイツの場合、再生可能エネルギー分野はすでに 38万人の長期雇用を創出しているが、原子力分野は 3万人でしかない。

ドイツで住宅屋根に設置された太陽電池パネル。農村部協同組合と電力買い取り価格制度のおかげで、2013 年の再生可能エネルギー配電割合は25%近くになった。2050 年までに 80%から 100%とする目標である。

ドイツ政府は原子力発電の全廃を決定し、2050 年までには再生可能エネルギーが 80%から 100%を占める経済体制を目標にしている。再生可能エネルギー分野はすでに 38万人の新規雇用144が技術者、大工、農民、製鉄所工員、建築家、プロジェクト開発者、銀行員として創出されており、いずれも輸出できない業務である。これに対して直近の原発閉鎖以前でも原子力分野の雇用は 3万人でしかない145。

再生可能エネルギーは停滞している国内産業を海運も含め活性化させる効果があり、CO2排出を減少させ、原子力や化石燃料の使用で起きる健康被害や環境被害を避けることもできる。このため再生可能エネルギー関連の技術開発は与野党を通じた支持を得ている。

ドイツの再生可能エネルギー開発はサプライチェーンも再生させ、それが国内産業全体を刺激している。例えば洋上風力発電では海岸から離れた内陸に工場群が立地していることもある。

ドイツが 100%再生可能エネルギーによる経済体制に向けて進展している例をみれば、再生可能エネルギーはエネルギー効率を極限まで高める技術とあいまって、原子力発電と石炭火力を置き換えられるだけでなく、雇用もつくり出せることがわかる。石炭か原子力かという選択ではない。どちらも廃止できるし、廃止されるべきなのだ。

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144http://www.bloomberg.com/news/2013-05-15/u-s-energy-policy-should-take-a-lesson-from-germany-s- energiewende.html U.S. Energy Policy Should Take a Lesson From Germany’s Energiewende. Rainer Baake, Jennifer Morgan共著. Bloomberg. May 15, 2013

145http://www.simplyinfo.org/?p=9521 German Push for Renewable Energy Creates Job Boom. Simply Info. February 1, 2013. http://www.unendlich-viel-energie.de が作成したグラフにある数値を参照。

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結び

発電用原子炉にどのような構造を選択しても建設には時間がかかり、お金がかかり、潜在的リスクが過大で、しかも発生する長寿命核種を含んだ放射性廃棄物の処理は完全に手つかずの状態である。これでは気候変動を緩和する目的にまったく役立たない。

いわゆる第 4 世代原子炉への関心があるが、一体型高速炉(IFR)や小型原子炉(SMR)やトリウム燃料炉も含めて、極めて今日的な気候変動危機からはあまりに離れている。このような炉形式でも投下資本は高額であり、ナトリウム冷却の増殖炉は過酷な火災の危険があって大事故につながる恐れがあり、放射性廃棄物の山をさらに積み上げ、複雑で大量生産もできず、緊急を要する気候変動対策としては役立たないし現実的な助力にもならない。

IFR の経済性は、SMR方式であったとしても現在の軽水炉より低い。世界的に興味が薄れている現状は斜陽産業の資金的凋落を反映している。

IFR は放射性廃棄物を消し去ることなどできず、理論的には核種を変換できるにすぎない。ここでも最終処分施設はやはり必要とされる。燃焼モードで運転する高速炉の開発も、ほとんどは紙の上での研究段階である。

洋上風力発電や地熱発電といった再生可能エネルギーは“ベース負荷”を安定供給することができる。そもそもベース負荷が唯一の解答ではない。農業人口の多い開発途上国であれば再生可能エネルギーによる分散発電の方が適している。先進国であっても分散電源は妥当な選択肢である。例えばドイツでは再生可能エネルギー発電に協同組合モデルが適用され、良い結果を生み出している。

いろいろな研究においても、ドイツの実例でも、再生可能エネルギーとエネルギー効率化とで原子力や化石燃料を置き換えられるし、長期雇用もより多く創出できるのだ。石炭か原子力かという選択ではない。どちらも廃止できるし、廃止されるべきである。

再生可能エネルギーを大幅に導入する前であっても、エネルギー使用を節減しエネルギー効率を向上させれば、老朽原子力発電所は更新せずに廃止していくことができる。

“チェルノブイリによるがん死亡数は、ロシア、ベラルーシ、ウクライナで 4000人”という世界保健機関(WHO)のあまりにも控えめな数字を原子力推進派が信奉していることは理解に苦しむ。この数値はまったく信頼されなくなっているし、WHO は明白な原子力推進団体である IAEA の監視におかれたままである。

チェルノブイリに関する数多くの健康被害研究による予測では、独立の研究成果に基づいて、全世界のがん死亡者数は少なくとも数万人から数十万人とされている。がん以外の原因を含めた死亡者数はさらに大きくなるだろう。

フクシマ原子力災害による健康被害の実態が完全にわかるまでに数十年はかかるだろう。各個人の健康に多様な結果として表れるだろうし、現在の世代には見つからない影響もある。被曝で生じるがんも、発生までには数十年かかるものがある。

“環境保護論者”の定義を大幅改変しない限り“原子力を推進する環境保護論者”などありえない。環境保護を主張するなら地球から鉱物を絞り取る持続不可能な産業は支持できないし、ましてやがんの原因となる放射性元素をまきちらし、有毒な廃棄物を生み出し、一度事故が起きれば広い範囲が永久に居住不能となってしまう可能性さえある原子力のような産業はとても支持できない。

気候変動への対策として世界的なプルトニウムの商業原発利用を推進すると、兵器に使えるプルトニウムとその技術を“誤用”するかもしれない国家や暴力集団へ渡すことになる。これでは核兵器の使用を奨めるようなものであり、使ってしまえば地球環境には直ちに取り返しのつかないダメージが広がる。“小規模”な核戦争でさえ急速な気候変動をもたらすだろうし、核の冬と同じように農業生産は世界的に壊滅するだろう。

原子力は気候変動への対策としてまったく効率的でもなく、経済的でもなく、安全でもなく、時間的に間に合わないだけでなく、世界的エネルギー需要増加への答にもならない。

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石炭か原子力かという選択ではない。どちらも廃止できるし、廃止するべきだ。

Page 33: 偽りの約束

私たちはもう組織的に、そして残念なことに決して緩やかではなく、この惑星を人間起原の気候変動で破壊しつつある。地球温暖化を核の冬に置き換えてはならない。

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謝辞

たくさんの人からこれほどの価値ある助言をいただかなかったら、決してこの報告書はできなかったでしょう。そして Beyond Nuclear のスタッフである Paul Gunter、Kevin Kamps、Cindy Folkers からは貴重な情報を頂き、事実確認と編集の協力も頂きました。

また本文中や脚注で示したこれほど多くの、これほど献身的な研究業績がなければ、この報告書は集大成することができませんでした。たくさんの研究業績こそ私たちの宝物であり、原子力を越えた先の世界へ向けて大きな歩みを続ける仲間には欠くことのできない糧でもあるのです。

貴重な時間を使ってこの原稿を読み返し、完成度を高めてくれた校閲者の皆さんにも感謝に堪えません。お名前をアルファベット順に記します。環境中の放射能を専門とする独立コンサルタントの Ian Fairlie博士、ハインリッヒ・ベル財団のアメリカ事務所元職員Arne Jungjohann さん、Nuclear Energy Information Service役員の David Kraft さん、憂慮する科学者同盟、原子力安全プロジェクト役員の David Lochbaum さん、そしてプリンストン大学 Program on Science and Global SecurityおよびNuclear Futures Laboratory の M.V. Ramana博士。

Linda Pentz Gunter

2013 年 5 月

発行: Beyond Nuclear所在地: 6930 Carroll Avenue, Suite 400,

Takoma Park, MD 20912.電話: [email protected]

August 2013.

日本語版発行: 原子力情報資料室www.cnic.jp監訳: 松久保肇(原子力資料情報室)翻訳: 岡山文人

2013.8.28

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