豊かなコミュニケーションが作り出す新たな「装い」

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ナイロビでの生活 今回のネクスト・マーケットジャングルジム市 は、西尾さんが生活しているナイロビでの経験 が強く影響していますよね。 西尾美也[以下、西尾] そうですね。妻が地域 研究をしているケニアに私も5年前から通っていま す。当初は圧倒的な文化の違いを楽しんでいただ けでした。ただアーティストである以上、自分の活 動が、全く違う場所でも実現できないと嘘になるな と思い始めて、2009 年からケニアでもアート活動 をスタートさせました。 最初のプロジェクトについて教えてください。 西尾|Self Select in Nairobi |セルフ・セレク イン ナイロビです。通りで偶然すれ違った人 と衣服をそっくりそのまま交換するプロジェクトで す。記録写真を残して最終的に展示を行いました。 ナイロビのマーケットについて教えて下さい。 西尾|並べ方、重ねられ方、束ねられ方がむちゃ くちゃすごいですね。そのダイナミックさがかっこ いい。これまで自分が見てきたアーティスト、クリ ストや川俣正さんらの作品と重なってくることもあり ます。日本だと、危険やなとか、キレイじゃないと かで制限されるけど、それで均質で特徴がなかっ たり、お客さんを選ぶような店になったり、人間味 を感じないこともある。こっちは人の手が入ってい ることがよく見えます。エネルギー、生命力に満ち 溢れていて活気があるんですね。 実際にマーケットで買物もされるんですか。 西尾|服は良く買いますね。色々な国から回って きた古着が主な商品なんですけど、それぞれの方 法で展示している。服で有名なマーケットでは、 バーっと服の壁があったり、服の山があったり、 これまで自分の作品でつくったような光景が普通 にあります(笑)。また そういう方法があったのか !と、作品の見せ方のヒントをもらうこともありますね。 彼らは工夫することが本当にうまい。選びやすく、 そして目立つような工夫。そんな彼らの方法を写 真に撮るプロジェクトも始めたところです。 ファッションデザインに対する違和感 なぜ服を使って作品を作り始めたのですか。 西尾|小学生の頃からずっと服が好きで、小中高 とファッションに興味を持っていました。その延長 で高校のときファッションデザイナーという職業が 頭に浮かんだのですが、新しい服の見た目を作っ て、それをただ人に着てもらうという在り方に対し て、何となく違和感を感じていたんですね。 どのような違和感ですか。 西尾|例えば、知らない人でもスーツを着ていた あの人は会社員だなと了解する。そう言う 意味でファッションって、コミュンケーションを円 滑にしますよね。僕が子どもの頃から楽しんでい た着飾ることもそう。ただ逆に言うと、服によって どんな風にも自分を見せられる。ある意味隠すこ とや、演技することもできる。そう考えると、服そ れ自体は本物じゃないのかなと。コミュニケーショ ンのツールではあるけど、むしろそれが壁にもなる。 その時、逆に、もっと人の本質を開いていくことっ て何なんだろう。単にデザインするのではない、自 分が面白いと思えるファッションって何だろうって 考えていました。 その違和感はどのような作品になったのですか。 西尾|試しに取り組んだのがScramble Clothes |スクランブル・クローズという作品ですね。ワー クショップ形式で、パーツ分解できる服を大量に用 意しそこに人が集まる。初めて会う人同士が会話を しながら、服のパーツを交換し、新しい見た目の服 を生み出して行く。 装いコミュニケーションを通して、新たな衣服の形や新たな関係性のかた ちをつくっていく作品です。友達を頼って人を集め て、そんな風に自分の活動が始まって行きました。 装いコミュニケーション世界には様々な装いの文化がありますよね。 西尾|ある人類学者の研究成果によれば、生ま れたばかりの姿で一生を過ごす種族はいないんで すね。服だけでなく、髪を切ったり、結んだり、 爪を装飾したり、度合いは違っても必ず何かしら 装うのが人間だと。じゃあ自分の装いなぜ洋服なのか。親が洋服を着ていて、周囲も それが当り前の文化に生まれたからですね。違う 文化に生まれていたら、そこでの当り前の装いをしていたと思います。好きとか嫌いとかさえも、 生まれた場所や階級などに決められている。 なるほど。属する文化に規定されていますね。 西尾|僕自身、これまでいかに服を無自覚に装っ てきたか。それを痛感していて。その当り前を解 体して、本当に自分が着てみたい服、 装い辿り着きたいなと思って作品を作っているところが あります。これは言葉と同じですね。日本語 をしゃべれてしまう自分が、ケニアに来たらスワヒ リ語に出会う。日本語とは違う言葉で す。言葉なら学ぶことで、その壁を越 えようとしますが、僕が装いを通 してしたいことは、日本語もスワヒリ語 もない状態に立ち戻り、そこから何が 生み出せるのか。そういうコミュニケー ションが装いを通して実現できる のではと思っています。 プロジェクトで常に周囲の人を巻き 込んだり、 コミュニケーションを意識 されているのはなぜですか。 西尾|昔と違い、僕らは服を商品の 中から選択して買うことしかできない。この状況を 解体したいという意味で、僕ひとりで装いをつ くり直すんじゃなく、その過程に周囲を巻き込むこ とが重要だと考えています。その対象は家族やっ たり、通行人やったり、地域の人やったり、子ど もやったり、その都度変わっていくんですけど。そ して、それがなぜ可能なのかと言えば、やっぱり 皆が装いの実践者だからなんです。アートが どうとかではなく、 もう服着てるやんという状況 が既にある。それぞれ考えや愛着もある。その時 点で、僕とも対等ですね。そういう発想で人とコミュ ニケーションをとりながら、新しい装いがつく れるのではないかと思ってやっていますね。 ファッションブランドForm on Wordsこのブランドが生まれた経緯を教えて下さい。 西尾|Form on Words は東京の練馬区にある児 童館でのアートプロジェクト、 ことばのかたち工 での 3 年間の活動を経て 2011 年に生まれま した。児童館の依頼に対して、子どもたちがまち に関わる仕組みをつくろうと思い、子どもたちと商 店街のお店の人たちのユニフォームをつくる工房 を立ち上げました。まず、お店に行って、働く人 たちにインタビューをします。なぜその作業着なの か、気に入っている所やお客さんとのエピソードな ど。そしてそこで集まった言葉をもとに、古着を素 材に皆で自由に服を作っていきました。 その方法論でつくられた装いを流通させる ために、ブランドにしたということですね。 西尾|そうですね。自分の活動をアートで終わら せるのではなく、流通可能な服にすることでもっと たくさんの人に広がるんじゃないか、とずっと思っ てきました。翌年も児童館から依頼があり、そこ でこの工房を発展させてブランド化し、流通させ る服にすることを考えました。子どもたち、まちの 人たちに加えて、ファッションデザイナーを募集 し、参加してくれたのが、メンバーである竹内さん、 古田さん、久保田さんたち。このときは作った服を Form on Words ファッションショーとして児 童館で発表しました。ブランドのお披露目ですね。 ネクスト・マーケットジャングルジム市場ジャングルジム市場はどうなりそうでしょうか。 西尾|面白いスケールの巨大なジャングルジムが 真ん中にドカンとあって、そこに Form on Words が隅田川をテーマに作った新作の服や、ワーク ショップで小中学生デザイナーたちが作ったアク セサリー、地域のファッション関係の工場の商品、 そして屋台が並びます。最後の 2 日間はショーを 開催します。服の展覧会でもあり、空間全体がマー ケットでもあって、そこに並んだ作品や商品を買う 事もできる。アートとして、またファッションとして、 そして遊び場として、子どもから大人、おじいちゃ ん、おばあちゃんも一堂に集まって一緒に楽しめ てくつろげる。そんな休日みたいな光景をアサヒ・ アートスクアでつくりだせたらいいなと思っています。 ありがとうございました。 [構成・文坂田太郎] 豊かなコミュニケーションが作り出す新たな 装い 西尾美也 [ 現代美術家] 1982 年奈良県生まれ。現在は東京とナイロビを拠点に活動する。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民らとの協働プロジェクトを国内外で展開している。 主なものに、世界中の都市で通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》などがある。 特集 INTERVIEW 1 2 《スクランブル・クローズ》 2002 撮影:上田光永] 3 《オーバーオール:上野大仏》 2010 [撮影:柴田昌和] 4《ポジション》2005[撮影:滝沢律子] 51000 Coordinates 滝》2011[撮影:下道 基行]写真提供:国際芸術センター青森  6《セルフ・セレクト・イン・ナイロビ》2009 7Kangaeru2012[撮影:James Muriuk89Daily Composition2012 《オーバーオール:蒸気機関車》2010[撮影:千葉康由] Form on Words 西尾美也が中心となり、衣料の生産・ 流通・消費サイクルの過程に、教育・ 学習系ワークショップと脱芸術的アート プロジェクトの手法を組み入れることで、 新しい装いの文化を生み出していくファッ ションブランドとして 2011 年に発足。 ファッションやアートプロジェクト、ワー クショップ、グラフィックデザインなどの 多様な専門領域を持ったメンバーが集ま り、共同制作している。昨年の第一弾 企画では、一般市民をモデルに起用した ファッションショーを、練馬区の児童館 で発表。公募で集められた 13 名のデザ イナーと演出家・音楽家らが子どもたち とのコミュニケーションを制作過程に取り 入れながら制作・発表したショーは大き な話題を呼んだ。 http://www.formonwords.com/ ネクスト・マーケット ジャングルジム市場巨大ジャングルジムを舞台に入り交じる、 遊び場、市場、ショー 日時|10 24 日[水]― 28 日[日] 12:00 21:00 24 日は 16:00 28 日は19:00 まで 会場|アサヒ・アートスクエア *詳細は表面PROJECT参照。 入場無料 企画|Form on Words 空間構成|BUGHAUS 音楽|蓮沼執太 Form on Words ディレクション|西尾美也 ファッションデザイン| 竹内大悟、古田由佳利、久保田朱、土 屋栞、水島宏美ほか グラフィックデザイン|濱祐斗 マーチャンダイジング|粟野龍亮 プロジェクトマネジメント|臼井隆志、菊 地みぎわ、高野萌[NPO 法人アーティ スト・イン・児童館 *申請中] 主催|Form on Words、アサヒ・アー トスクエア 協賛|アサヒビール株式会社 協力|LwP asakusaNPO 法人アーティ スト・イン・児童館 *申請中 アサヒ・アートスクエア パートナーシッププロジェクト アサヒ・アートスクエアがより地域に根 ざしたアートスペースとなっていくため に、公募で選ばれたパートナー(アート NPO、任意団体、アーティストグルー プなど)と共に、新たなプロジェクトを展 開します。2012 年のパートナーはファッ ションブランド Form on Wordsアサヒ・アートスクエア協力事業 めざせウポポ100 万人大合唱 vol.4 ~マレウレウ祭り~日時 9 1 [土]17:30 開演 出演 |マレウレウ &OKI 木津茂理 [ゲスト: 細野晴臣] 主 催・予約・問 合せ |チカルスタジオ  [email protected] *詳細は http://marewrewfes.jimdo.com/ アサヒ・アートスクエア協力事業 Company Resonance Dance Concentration Vol.13 HOME日時 9 14 [金]16 [日] 出演 |公門美佳安木ようこ ほか 主催・予約・問合せ Company Resonance Tel.080-5437-4409 アサヒ・アートスクエア協力事業 noon dance performance [結] 日時 9 29 [土]30 [日] 出演|松 本 大 樹Andy wong 森本 由布子増田真也松崎えり 主催・予約・問合せ |バレエ団ピッコロ [email protected] アサヒ・アートスクエア協力事業 ニッポンのアジアの祭りプロジェクト10/10 ウロツテノヤ子 Presents『ミ ライのキヲク』 10/11 Camale hoju Presents 『千 ノ川 [せんのかわ]』 日時10 10 [水]11 [木] 18:00 開場19:00 開演 料金|前売 3,500 当日 4,000 2 日通し券 6,000 出演 10/10《樂殿》:ウロツテノヤ子 WB スダマニ朝崎郁恵[奄美島唄] ヨシダダイキチGOMA 田鹿健 太ほか  10/11《舞殿》:ヨシダダイキチ及川 景子後藤幸浩水島結子立岩潤三 アブダッラーSUGAI KEN 田辺 浩子小谷野哲郎蜜月稀葵渡辺ま り子渡 辺キヌヨMIHO KAYO AYUMI 予約 |ニッポンのアジアの祭りプロジェ クト事務局  [email protected] 主催 |ウロツテノヤ子Camale hoju *詳細は http://urotsute.com/ アサヒ・アートスクエア協力事業 藪の中日時 10 12 [金]13 [土] 料金 |前売 2,000 当日 2,500 演出 |杉野信之 音楽 |落合敏行  出演 |竹内幹子稲川実加田宮大輔 身体表現|サエグサユキオ荒井笑子 [振付:稲葉枝美] 主催・制作 PRAX-GARDEN GTS 観光アトプロジェクト 2012 記憶の森 映像祭日程 10 17 [水]21 [日] *アサヒ・アートスクエア会場 *関連イベントなどの詳細は HP に掲載 料金 |無料 制作メンバー・参加作家 |小瀬村真美小林耕平柴田悠基西原尚松本祐 土屋貴哉中島健宇都縁大橋 文男小室萌佳川村喜一八木澤桂 佐藤浩一大木戸美緒二家本帆 長田雛子 主催 GTS [藝大・台東・墨田] 観光アー トプロジェクト実行委員会 協賛 |アサヒビール株式会社 協力 |アサヒ・アートスクエア *詳細は http://gts-sap.jp/ イベント情報 INFORMATION [その他のイベント 9 - 10 月] 2 1 3 4 5 6 7 8 9

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Page 1: 豊かなコミュニケーションが作り出す新たな「装い」

ナイロビでの生活

―今回のネクスト・マーケット「ジャングルジム市場」は、西尾さんが生活しているナイロビでの経験が強く影響していますよね。

西尾美也[以下、西尾]|そうですね。妻が地域研究をしているケニアに私も5年前から通っています。当初は圧倒的な文化の違いを楽しんでいただけでした。ただアーティストである以上、自分の活動が、全く違う場所でも実現できないと嘘になるなと思い始めて、2009年からケニアでもアート活動をスタートさせました。―最初のプロジェクトについて教えてください。

西尾|「Self Select in Nairobi |セルフ・セレクト イン ナイロビ」です。通りで偶然すれ違った人と衣服をそっくりそのまま交換するプロジェクトです。記録写真を残して最終的に展示を行いました。―ナイロビのマーケットについて教えて下さい。

西尾|並べ方、重ねられ方、束ねられ方がむちゃくちゃすごいですね。そのダイナミックさがかっこいい。これまで自分が見てきたアーティスト、クリストや川俣正さんらの作品と重なってくることもあります。日本だと、危険やなとか、キレイじゃないとかで制限されるけど、それで均質で特徴がなかったり、お客さんを選ぶような店になったり、人間味を感じないこともある。こっちは人の手が入っていることがよく見えます。エネルギー、生命力に満ち溢れていて活気があるんですね。―実際にマーケットで買物もされるんですか。

西尾|服は良く買いますね。色々な国から回ってきた古着が主な商品なんですけど、それぞれの方法で展示している。服で有名なマーケットでは、バーっと服の壁があったり、服の山があったり、これまで自分の作品でつくったような光景が普通にあります(笑)。また「そういう方法があったのか !」と、作品の見せ方のヒントをもらうこともありますね。彼らは工夫することが本当にうまい。選びやすく、そして目立つような工夫。そんな彼らの方法を写真に撮るプロジェクトも始めたところです。

ファッションデザインに対する違和感

―なぜ服を使って作品を作り始めたのですか。

西尾|小学生の頃からずっと服が好きで、小中高とファッションに興味を持っていました。その延長で高校のときファッションデザイナーという職業が頭に浮かんだのですが、新しい服の見た目を作っ

て、それをただ人に着てもらうという在り方に対して、何となく違和感を感じていたんですね。―どのような違和感ですか。

西尾|例えば、知らない人でもスーツを着ていたら「あの人は会社員だな」と了解する。そう言う意味でファッションって、コミュンケーションを円滑にしますよね。僕が子どもの頃から楽しんでいた着飾ることもそう。ただ逆に言うと、服によってどんな風にも自分を見せられる。ある意味隠すことや、演技することもできる。そう考えると、服それ自体は本物じゃないのかなと。コミュニケーションのツールではあるけど、むしろそれが壁にもなる。その時、逆に、もっと人の本質を開いていくことって何なんだろう。単にデザインするのではない、自分が面白いと思えるファッションって何だろうって考えていました。―その違和感はどのような作品になったのですか。

西尾|試しに取り組んだのが「Scramble Clothes|スクランブル・クローズ」という作品ですね。ワークショップ形式で、パーツ分解できる服を大量に用意しそこに人が集まる。初めて会う人同士が会話をしながら、服のパーツを交換し、新しい見た目の服を生み出して行く。「装い」と「コミュニケーション」を通して、新たな衣服の形や新たな関係性のかたちをつくっていく作品です。友達を頼って人を集めて、そんな風に自分の活動が始まって行きました。

「装い」と「コミュニケーション」

―世界には様 な々「装い」の文化がありますよね。西尾|ある人類学者の研究成果によれば、生まれたばかりの姿で一生を過ごす種族はいないんですね。服だけでなく、髪を切ったり、結んだり、爪を装飾したり、度合いは違っても必ず何かしら

「装う」のが人間だと。じゃあ自分の「装い」がなぜ洋服なのか。親が洋服を着ていて、周囲もそれが当り前の文化に生まれたからですね。違う文化に生まれていたら、そこでの当り前の「装い」をしていたと思います。好きとか嫌いとかさえも、生まれた場所や階級などに決められている。―なるほど。属する文化に規定されていますね。

西尾|僕自身、これまでいかに服を無自覚に装ってきたか。それを痛感していて。その当り前を解体して、本当に自分が着てみたい服、「装い」に辿り着きたいなと思って作品を作っているところがあります。これは「言葉」と同じですね。日本語をしゃべれてしまう自分が、ケニアに来たらスワヒ

リ語に出会う。日本語とは違う言葉です。言葉なら学ぶことで、その壁を越えようとしますが、僕が「装い」を通してしたいことは、日本語もスワヒリ語もない状態に立ち戻り、そこから何が生み出せるのか。そういうコミュニケーションが「装い」を通して実現できるのではと思っています。―プロジェクトで常に周囲の人を巻き

込んだり、「コミュニケーション」を意識されているのはなぜですか。

西尾|昔と違い、僕らは服を商品の

中から選択して買うことしかできない。この状況を解体したいという意味で、僕ひとりで「装い」をつくり直すんじゃなく、その過程に周囲を巻き込むことが重要だと考えています。その対象は家族やったり、通行人やったり、地域の人やったり、子どもやったり、その都度変わっていくんですけど。そして、それがなぜ可能なのかと言えば、やっぱり皆が「装い」の実践者だからなんです。アートがどうとかではなく、「もう服着てるやん」という状況が既にある。それぞれ考えや愛着もある。その時点で、僕とも対等ですね。そういう発想で人とコミュニケーションをとりながら、新しい「装い」がつくれるのではないかと思ってやっていますね。

ファッションブランド「Form on Words」

―このブランドが生まれた経緯を教えて下さい。

西尾|Form on Wordsは東京の練馬区にある児童館でのアートプロジェクト、「ことばのかたち工房」での 3年間の活動を経て 2011年に生まれました。児童館の依頼に対して、子どもたちがまちに関わる仕組みをつくろうと思い、子どもたちと商店街のお店の人たちのユニフォームをつくる工房を立ち上げました。まず、お店に行って、働く人たちにインタビューをします。なぜその作業着なのか、気に入っている所やお客さんとのエピソードなど。そしてそこで集まった言葉をもとに、古着を素材に皆で自由に服を作っていきました。―その方法論でつくられた「装い」を流通させるために、ブランドにしたということですね。

西尾|そうですね。自分の活動をアートで終わらせるのではなく、流通可能な服にすることでもっとたくさんの人に広がるんじゃないか、とずっと思ってきました。翌年も児童館から依頼があり、そこでこの工房を発展させてブランド化し、流通させる服にすることを考えました。子どもたち、まちの人たちに加えて、ファッションデザイナーを募集し、参加してくれたのが、メンバーである竹内さん、古田さん、久保田さんたち。このときは作った服を

「Form on Words ファッションショー」として児童館で発表しました。ブランドのお披露目ですね。

ネクスト・マーケット「ジャングルジム市場」

―「ジャングルジム市場」はどうなりそうでしょうか。西尾|面白いスケールの巨大なジャングルジムが真ん中にドカンとあって、そこに Form on Wordsが隅田川をテーマに作った新作の服や、ワークショップで小中学生デザイナーたちが作ったアクセサリー、地域のファッション関係の工場の商品、そして屋台が並びます。最後の 2日間はショーを開催します。服の展覧会でもあり、空間全体がマーケットでもあって、そこに並んだ作品や商品を買う事もできる。アートとして、またファッションとして、そして遊び場として、子どもから大人、おじいちゃん、おばあちゃんも一堂に集まって一緒に楽しめてくつろげる。そんな休日みたいな光景をアサヒ・アートスクアでつくりだせたらいいなと思っています。―ありがとうございました。[構成・文 | 坂田太郎]

豊かなコミュニケーションが作り出す新たな「装い」 西尾美也 [現代美術家] 

1982年奈良県生まれ。現在は東京とナイロビを拠点に活動する。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民らとの協働プロジェクトを国内外で展開している。主なものに、世界中の都市で通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》などがある。

特集INTERVIEW

1+2《スクランブル・クローズ》2002[撮影:上田光永]3《オーバーオール:上野大仏》2010[撮影:柴田昌和]4《ポジション》2005[撮影:滝沢律子] 5《1000 Coordinates 袖/滝》2011[撮影:下道基行]写真提供:国際芸術センター青森 6《セルフ・セレクト・イン・ナイロビ》2009 7《Kangaeru》2012[撮影:James Muriuk] 8+9《Daily Composition》2012

《オーバーオール:蒸気機関車》2010[撮影:千葉康由]

Form on Words

西尾美也が中心となり、衣料の生産・流通・消費サイクルの過程に、教育・学習系ワークショップと脱芸術的アートプロジェクトの手法を組み入れることで、新しい装いの文化を生み出していくファッションブランドとして 2011年に発足。ファッションやアートプロジェクト、ワークショップ、グラフィックデザインなどの多様な専門領域を持ったメンバーが集まり、共同制作している。昨年の第一弾企画では、一般市民をモデルに起用したファッションショーを、練馬区の児童館で発表。公募で集められた 13名のデザイナーと演出家・音楽家らが子どもたちとのコミュニケーションを制作過程に取り入れながら制作・発表したショーは大きな話題を呼んだ。http://www.formonwords.com/

ネクスト・マーケット「ジャングルジム市場」

巨大ジャングルジムを舞台に入り交じる、遊び場、市場、ショー

日時|10月 24日[水]― 28日[日]12:00 ― 21:00*24日は 16:00 ―/ 28日は 19:00まで

会場|アサヒ・アートスクエア*詳細は表面「PROJECT」参照。入場無料企画|Form on Words空間構成|BUGHAUS音楽|蓮沼執太

Form on Wordsディレクション|西尾美也ファッションデザイン|竹内大悟、古田由佳利、久保田朱、土屋栞、水島宏美ほかグラフィックデザイン|濱祐斗マーチャンダイジング|粟野龍亮プロジェクトマネジメント|臼井隆志、菊地みぎわ、高野萌[NPO法人アーティスト・イン・児童館 *申請中]

主催|Form on Words、アサヒ・アートスクエア協賛|アサヒビール株式会社協力|LwP asakusa、NPO法人アーティスト・イン・児童館 *申請中

アサヒ・アートスクエアパートナーシッププロジェクト

アサヒ・アートスクエアがより地域に根ざしたアートスペースとなっていくために、公募で選ばれたパートナー(アートNPO、任意団体、アーティストグループなど)と共に、新たなプロジェクトを展開します。2012年のパートナーはファッションブランド Form on Words。

アサヒ・アートスクエア協力事業

「めざせウポポ100万人大合唱 vol.4

~マレウレウ祭り~」日時|9月 1日[土]17:30開演出演|マレウレウ&OKI /木津茂理[ゲスト : 細野晴臣]

主催・予約・問合せ|チカルスタジオ [email protected]*詳細は http://marewrewfes.jimdo.com/

アサヒ・アートスクエア協力事業

Company Resonance Dance

Concentration Vol.13「HOME」日時|9月 14日[金]―16日[日]出演|公門美佳/安木ようこ ほか主催・予約・問合せ|CompanyResonance Tel.080-5437-4409

アサヒ・アートスクエア協力事業

noon dance performance

「[結]」日時|9月 29日[土]―30日[日]出演|松本大樹/ Andy wong /森本由布子/増田真也/松崎えり主催・予約・問合せ|バレエ団ピッコロ[email protected]

アサヒ・アートスクエア協力事業

「ニッポンのアジアの祭りプロジェクト」10/10 ウロツテノヤ子 Presents『ミ

ライのキヲク』

10/11 Camale hoju Presents『千

ノ川 [せんのかわ]』

日時|10月 10日[水]―11日[木]

18:00開場/ 19:00開演料金|前売 3,500円/当日 4,000円/2日通し券 6,000円出演|10/10《樂殿》:ウロツテノヤ子/WBスダマニ/朝崎郁恵[奄美島唄]/ヨシダダイキチ/ GOMA /田鹿健太ほか 10/11《舞殿》:ヨシダダイキチ/及川景子/後藤幸浩/水島結子/立岩潤三

/アブダッラー/ SUGAI KEN /田辺浩子/小谷野哲郎/蜜月稀葵/渡辺まり子/渡辺キヌヨ/ MIHO KAYO /

AYUMI予約|ニッポンのアジアの祭りプロジェクト事務局 [email protected]主催|ウロツテノヤ子/ Camale hoju*詳細は http://urotsute.com/

アサヒ・アートスクエア協力事業

「藪の中」日時|10月 12日[金]̶13日[土]料金|前売 2,000円/当日 2,500円演出|杉野信之 音楽|落合敏行 出演|竹内幹子/稲川実加/田宮大輔

身体表現|サエグサユキオ/荒井笑子[振付:稲葉枝美]

主催・制作|PRAX-GARDEN

GTS観光アートプロジェクト 2012

「記憶の森 映像祭」日程|10月 17日[水]̶21日[日]*アサヒ・アートスクエア会場

*関連イベントなどの詳細はHPに掲載

料金|無料制作メンバー・参加作家|小瀬村真美/小林耕平/柴田悠基/西原尚/松本祐一/土屋貴哉/中島健/宇都縁/大橋文男/小室萌佳/川村喜一/八木澤桂介/佐藤浩一/大木戸美緒/二家本帆菜/長田雛子

主催|GTS[藝大・台東・墨田]観光アートプロジェクト実行委員会協賛|アサヒビール株式会社協力|アサヒ・アートスクエア*詳細は http://gts-sap.jp/

イベント情報

INFORMATION

[その他のイベント |9月-10月]

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