レジデントのためのがん疼痛マネージメント
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レジデントのための
がん疼痛マネージメント
梶原 浩太郎
痛みやしんどさは QOLを著しく下げる
(写真はぱくたそより,Lala,たけべともこ,大川竜弥)
痛みをとることで QOLを取り戻す
ノリが軽すぎる? レジデントが楽しく勉強してくれたら それでええんよ・・・
WHO方式がん疼痛治療法の5原則 段階的に
NSAIDsから始めてオピオイド(モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル)を
併用して増やしていく
経口で
患者が管理しやすい方法.他にも坐薬,貼付薬,皮下注,静注など
時間を決めて
作用時間が途切れて痛みが出ないように. 痛い時にはレスキューを
個々にあわせて
必要量は個人で違う
さらに細かい配慮を
副作用対策,投与方法・薬剤の変更など
麻薬なんて!?
モルヒネを始めようとしたが,患者
さんが麻薬に抵抗を持っている様子.
最後の手段と誤解している患者
さんは少なくない.正しい知識
で患者さんに説明しよう.
オピオイドに対する誤解
・命が短くなる
適正に使用する限り命は縮めない.
・耐性や依存性が心配
耐性ができることもあるが,強オピオイドには有効限界がな
い.疼痛治療に使う場合に精神依存は起きない.突然止めな
い限り身体依存も起きにくい.
・副作用が怖い
副作用対策は必要.適正に投与すれば重篤な呼吸抑制やせん
妄が起こることは稀.
オピオイドへの理解を得る
• QOLが落ちるので癌の痛みは我慢しなくて良い.
• 癌の痛みは強いので,通常の痛み止めで効かなけ
れば,手術の時に使うような医療用麻薬を使う.
• 適切に使用すれば問題ないが,他の人が間違って
使わないように管理が必要.
もうこれ以上の治療はできないので,
緩和ケアをした方がいい?
現在の考え方は少し違います.
抗癌剤や手術と,緩和ケアは
併用できます.
治療と緩和ケアのあり方
「がん病変の治療」と「緩和ケア」は同時に実施するこ
とでQOLが改善する.
(画像引用元 不明)
そんなに痛くなさそうなのに,痛い
痛い言っている患者さんがいます.
本当に痛いのでしょうか?
末期癌患者の70%は痛みが主症状で,
強い痛みが多い.痛みの評価をしっ
かりして,痛みを取る必要がある.
痛みは本人にしか分からず,痛いと
言われたら本当に痛いのでしょう.
痛みの評価 耐え難い最悪の痛みを10とし,全く痛みが無いものを0とします. 今,どのくらいの痛みがありますか?
(画像引用元 不明)
痛みをとる目標は? 1. よく寝れる 2. 昼間じっとしていれば痛くない 3. 日常生活動作で痛くない
オピオイド治療の開始
痛みの評価
痛みを取る目標を決める
オピオイドの説明をする
患者さんの誤解がないか?
オピオイドの管理ができるか?
家族も含めて同意が得られたか?
WHO方式 3段階除痛ラダー
モルヒネ オキシコドン フェンタニル
コデイン,オキシコドン,トラマール
アセトアミノフェン,ロキソニン,ナイキサン ハイペン,ボルタレン,ロピオン
(画像引用元 不明)
第1段階はNSAIDsを定時投与
第2段階はskipしても良い.
第3段階は定時投与のオピオイドとレスキュー.少量から投与
し副作用対策を行う.NSAIDsも併用する.
鎮痛にモルヒネを使うなら,作用の
弱いNSAIDsは中止?
モルヒネの使用量を減らしたり,
鎮痛効果を増強するためには
NSAIDsの併用が必要です
NSAIDs
使用頻度の多いロキソニン
COX-2選択性で1日1回投与のモービック
作用・副作用の強い
ボルタレン座薬
経口困難時にロピオン注 他に,ハイペンなど
腫瘍熱にナイキサン
(製薬会社HPより画像引用)
アセトアミノフェンは
カロナール,アルピニー,アセリオ
オピオイドに何を使ったらいい?
投与経路,作用時間,調節しや
すさ,といった特徴があるので,
患者さんに合ったものを選ぶ
オピオイド 1日1回の投与で済むカディアン
腎機能障害でも使いやすいオキシコンチン
水なしで飲める
レスキューのオプソ
オキシコンチンのレスキュー
オキノーム
(製薬会社HPより画像引用)
オピオイド 経口投与できない時にモルヒネ持続皮下注(CSCI).微調節できる.
他に,パシーフ,MSコンチンなど
アンペック坐薬.レスキューとしても使え半分にもできる
(製薬会社HPより画像引用)
オピオイド 72時間毎に貼りかえるデュロテップパッチ. 腎機能障害でも使いやすいが,吸収量が不安定で微量調節ができない.
(製薬会社HPより画像引用)
24時間毎に貼りかえるフェントステープ. 腎機能障害でも使いやすいが,吸収量が不安定で微量調節ができない.
フェンタニルレスキューのアブストラル舌下錠.
フェンタニルレスキューのイーフェンバッカル.歯茎につける.
変換比 効果発現時間 最大効果時間 作用時間 投与間隔 レスキュー
間隔
モルヒネ(末,錠,水),オプソ
経口 1 10分以内 30-60分 3‐5時間 4時間 1時間
モルヒネ12時間型 経口 1 1時間 2-4時間 8‐14時間 12時間
徐放錠24時間型 経口
カディアン,ビーガード 経口 1 30-60分 6-8時間 24時間 24時間
パシーフ 経口 1 30分以内 1時間 24時間 24時間
塩酸モルヒネ坐剤 アンペック
直腸内 1/2 20分 1-2時間 6-10時間 8時間 2時間
塩酸モルヒネ注 静注 1/3 直後 10-15分 1時間
皮下注 1/3 数分 15-30分
硬膜外 1/10 -1/20
30-60分 60分以上
髄膜内 1/100 直後 直後
オキシコンチン 経口 2/3 10-20分 2-4時間 8‐14時間 12時間
オキノーム 経口 2/3 12分 2時間 4‐6時間 4‐6時間 2時間
オキファスト 静注・皮下注 2/9
デュロテップMTパッチ 貼付 1/100 2時間 17‐48時間 72時間 72時間
フェントステープ 貼付 1/100 4~8時間 20~24時間 27~30時間 24時間
フェンタニル 静注・皮下注
イーフェンバッカル 口腔粘膜吸収
剤 30-60分 4時間
アブストラル 舌下錠 30-60分 2時間
作用時間が長い定期投与に加え,突出痛には効果発現時間
が短いレスキューで副作用とのバランスをとる.
オピオイドの開始
NSAIDs/アセトアミノフェン定期投与 でも疼痛を訴える頃が
オピオイドを始める目安.
処方例2
カロナール(500) 4T/4×
カディアン(20) 1T/1×
ノバミン(5) 3T/3×
マグミット(330) 3T/3×
パリエット(10) 1T/1×
便秘時 プルゼニド(12) 2T/1×
レスキュー オプソ(5) 1P 1hあけて何
回でも
処方例1
ロキソニン(60) 3T/3×
オキシコンチン(5) 2T/2×
ノバミン(5) 3T/3×
マグミット(330) 3T/3×
サイトテック(200) 4T/4×
便秘時 プルゼニド(12) 2T
レスキュー オキノーム(2.5) 1P 2hあ
けて何回でも
強オピオイドの前に,弱オピオイドのトラマールを使って
も良い. 副作用対策とレスキューと麻薬伝票を忘れずに
レスキューはどのように選べばよ
い?
原則,定期投与と同じ種類のオ
ピオイドで,作用時間の早いも
のを選ぶ.
レスキュー量の目安
モルヒネ製剤
経口:モルヒネ1日量の1/6
坐薬:モルヒネ1日量の1/12
注射:モルヒネ1日量の1時間値
オキシコドン製剤
オキシコンチン1日量の1/4~1/8
フェンタニル製剤
アブストラル,イーフェンバッカルは投与量が独特
レスキュー早見表 オキシコンチン経口(mg)
モルヒネ経口(mg)
モルヒネ座剤(mg)
モルヒネ皮下注・持注
(mg)
デュロテップMTパッ
チ(mg)
フェントステープ(mg)
経口モルヒネレスキュー(mg)
モルヒネ坐薬レスキュー(mg)
経口オキノームレスキュー(mg)
10 5 2.5
15 20 10 6.7 5 2.5
20 30 15 10 2.1 1 5 5
30 40 20 13 5 5
30 50 17 10 5 5
40 60 30 20 4.2 2 10 5 5
40 70 23 10 5 5
50 80 40 27 15 10
60 90 30 15 10
60 100 33 15 10
70 110 37 20 10 10
80 120 60 40 8.4 4 20 10 15
80 130 43 20 10 15
90 140 47 25 10 15
100 150 50 25 10 15
100 160 53 25 15
110 170 57 30 15 20
120 180 60 12.6 6 30 15 20
点線より左が定期のオピオイドの換算表.点線より右が,左の定期量のときのレスキュー量
フェンタニルのレスキュー
イーフェンバッカルの用量調節
用量調節期は1回50,100,200,400,600,800 μgの順に1段階ずつ調節
し,1回50~600 μgで効果不十分の場合,30分後以降に同一用量を1回のみ
追加投与.用量維持期には1回用量の上限はフェンタニル800 μgで,投与
間隔は4時間以上で,4回/dayまで.
アブストラルの用量調節
用量調節期は1回100,200,300, 400,600,800 μgの順に1段階ずつ調節
し,1回100~600 μgで効果不十分の場合,30分後以降に同一用量を1回の
み追加投与.用量維持期には1回用量の上限はフェンタニル800 μgで,投
与間隔は2時間以上で,4回/dayまで.
個人的には,フェンタニル製剤は高価で調節しにくいので,モルヒネ
やオキシコドンを使うこともあり
レスキューの考え方 症例1
肺癌,合併症なし,経口摂取良好で カディアン (20)3T/1×M(モルヒ
ネ60mg/day相当)の場合,レスキュー指示は,
アンペック坐薬
オプソ
のどちらがいい?
症例2
食道癌,経口投与不能,末梢輸液あり,で デュロテップMTパッチ
(4.2) (モルヒネ一日量60mgに相当)の場合,レスキュー指示は,
アンペック坐薬
オプソ
アブストラル
のどれがいい?
答えは1つではない
レスキューは,何回使ってもいいの
ですか?
レスキュー間隔さえあければ,
1日何回使ってもいい.レス
キュー使用回数を見て定時投与
量を増やそう.
オピオイドの増量方法
レスキューの使用回数から,疼痛に必要なモルヒネまたはオキシコドンの1日必要量を計算する. 例えば,オキシコンチン(5) 2T/2×MAに,レスキューのオキノーム(2.5) 4回使った場合,オキシコドン1日必要量は20mg. オキシコンチン(5) 4T/2×MAに,レスキューはオキノーム(5) 1P に増量する 1.5倍程度に増やしていく方法もあり
5
2.5
5
2.5 2.5 2.5
10 10
なんだか
吐き気が・・・
モルヒネを始めたら嘔気や便秘が強
くて,思うように痛みが取れません.
最大限に副作用対策を行った
か? どうしても駄目なら,鎮
痛補助薬やオピオイドローテー
ションを考えよう.
副作用対策
便秘 原因:腸管の輪状筋を収縮させて蠕動運動を抑制し,肛門括約筋の緊張
を高める
頻度: ほぼ100%.耐性ができない.
対策:
刺激性緩下剤
プルゼニド錠(12) 2-4T/1×
ラキソベロン液 15滴/1× 5~10滴ずつupも
浸透圧性緩下剤
マグミット錠(330) 3-9T/3×
アミティーザ(24) 2-4C/2×
オピオイド開始と同時に使用する
刺激性と浸透圧性を併用する
副作用対策
嘔気・嘔吐 原因:モルヒネのCTZ(化学受容器引金帯)の刺激を介して第4脳室底嘔
吐中枢を刺激
頻度:4割.耐性は2週間でできる.
対策: CTZ受容体拮抗薬
ノバミン錠(5) 3-6T/3×
セレネース錠(0.75) 0.75-1.5mg/回 8-12時間ごと
胃内容停滞促進
プリンペラン(5) 2T/回 4-8時間ごと
ナウゼリン坐薬(60) 1つ 8-12時間ごと
体動時の吐き気
トラベルミン 1-2T/屯用
必ず予防投与する.2週間で減らせる
副作用対策
眠気 原因:モルヒネの中枢神経系へに作用による
頻度:20%
対策:3-5日の経過観察で耐性ができる.
痛みがあって眠気を伴うとき
→ モルヒネの副作用.オピオイドローテーション,鎮痛補助薬を検討.
痛みがなく眠気を伴うとき
→ 過量投与.オピオイド減量を検討.
頭蓋内圧亢進,高Ca血症は,脳転移,癌性髄膜炎にも注意
副作用対策
モルヒネ・コデイン・トラマドール過剰投与
抗癌剤や放射線により,癌性疼痛が減って相対的にオピオイド
が過量になることがある.
睡眠時呼吸回数10回/min以下,瞳孔径3 mm未満は要注意.
拮抗薬ナロキソン 0.1~0.2 mgを2~3分間隔で3回まで静注.
作用時間が30分程度しかなく追加投与が必要な場合がある.
完全に拮抗させてしまうと激しい痛みや離脱症状が出ることがあるため,
意識レベルではなく呼吸数を見て使う.
オピオイドローテーション
オピオイドの強い副作用(吐き気,便秘など)があるとき,
急速に耐性の出現したとき, 投与経路を変更するときに,
オピオイドを他のオピオイドに置換すること.
換算比
経口モルヒネ 60 mg =オキシコンチン40 mg =デュロテップMTパッチ
4.2 mg =フェントステープ 2 mg
内服1 = 座薬2/3~1/2 = 静注1/2~1/3 = 皮下注1/2~1/3
作用時間と効果発現時間を考え,痛みが出ないように注意する
特に難しいのはデュロテップパッチのとき
オピオイドが効きにくい痛み
神経因性疼痛(Pancoast腫瘍など) 鎮痛補助薬や神経ブロック
1. 抗うつ薬:痺れ,焼けつく,締め付けられるような異常感覚を伴う
持続性の痛みに.トリプタノール10-25mg/1×vdsで開始.
2. 抗けいれん薬:電気が走る,刺すように,鋭く痛むような発作性の
痛みに.テグレトール 200mg/1×vdsで開始.
3. 抗不整脈薬:持続性の痛みと発作性の痛みの両方に.メキシチール
150mg /2×MAで開始.
4. ケタミン:抗痙攣薬,抗うつ薬が不十分なとき.筋注用5%ケタラール
4ml+生食6mlを持続点滴or持続皮下注0.2ml/h(100mg/日)で開始.麻薬伝票が
必要.
オピオイドが効きにくい痛み
骨転移痛
放射線治療,ビスホスフォネート(ゾメタ),ステロイド
メタストロン(塩化ストロンチウム89Sr)
多発性骨転移の疼痛で,NSAIDsやオピオイド,放射線で疼
痛コントロールが難しい骨転移痛の治療薬.副作用は,一時
的な疼痛増強と骨髄抑制.
消化管閉塞による痛み
抗コリン剤(ブスコパン,サンドスタチン),ステロイド
など
痛みをとって
より良いQOLを
目指しましょう
参考文献
1. 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会. がん疼痛の薬物療法に関するガイ
ドライン2014年版.金原出版; 2014.
2. 淀川キリスト教病院 ホスピス編. 緩和ケアマニュアル 第5版. 最新医学社; 2007.
3. 森田 達也, 木澤 義之, 新城 拓也. エビデンスで解決!緩和医療. 南江堂; 2011.
4. 日本緩和医療学会. 苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010年版. 金原出版;
2010.
5. 日本緩和医療学会. がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2011年版.金原
出版; 2011.
6. 日本緩和医療学会. 終末期がん患者に対する輸液治療のガイドライン2013年版. 金原出
版; 2013.
7. 厚生労働省. 平成26年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル.
http://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_h26.pdf
8. 小尾口 邦彦. ER・ICU診療を深める 救急・集中治療医の頭の中. 中外医学社; 2013.
9. トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント. 医学書院, 2003.
10.日本臨床腫瘍学会. 骨転移診療ガイドライン. 南江堂; 2015.
11.Morita et al. A prospective study on the dying process in terminally ill cancer
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