多系統萎縮症における治療介入に関する検討

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多系統萎縮症における 治療介入に関する検討 ー筋萎縮性側索硬化症との比較ー 浅川 孝司 1) ,吉野 2) 西澤 正豊 3) ,下畑 享良 3) 1)吉野内科・神経内科医院 リハビリテーション科 2)吉野内科・神経内科医院 神経内科 3)新潟大学脳研究所

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多系統萎縮症における治療介入に関する検討ー筋萎縮性側索硬化症との比較ー

浅川 孝司1),吉野 英2),

西澤 正豊3),下畑 享良3)

1)吉野内科・神経内科医院 リハビリテーション科

2)吉野内科・神経内科医院 神経内科

3)新潟大学脳研究所

背景.多系統萎縮症(MSA)に対する治療介入

胃瘻造設

・上気道閉塞

・呼吸不全

・喀痰排出困難

栄養不良

誤嚥性肺炎・摂食嚥下障害

非侵襲的

陽圧換気療法

(NPPV)

・睡眠呼吸障害

窒息

突然死気管切開術

日中の眠気

呼吸停止

突然死

課題.自己決定できるのか?

医療スタッフ・・・適切な治療計画の立案

患者・家族・・・病気の受容,治療の準備・心構え,

将来の計画

各治療介入はどのタイミングでおこなう?

MSAは認知症を併発する可能性があるが,

自己決定することは可能なのか?

目的

・本研究では,MSAに対する治療介入の頻度,

順序,意思表示能力を明らかにし,より計画

的で適切な治療介入に役立てることを目的と

した

・ MSAと同様の治療介入を必要とする筋萎縮性

側索硬化症(ALS)についても検討を行い,両者

の相違も検討した

方法1

・対象症例

Gilman分類でprobable MSA改訂El Escorial診断基準でclinically definete ALS,またはclinically probable ALSと診断され,各治療介

入が行われた連続症例とした

・方法

診療記録より後方視的調査を行った

方法2

・調査項目

各治療介入(胃瘻・NPPV・気管切開術)の頻度,

発症から各治療介入までの期間,

各治療介入時の意思表示能力を確認した

・意思表示能力は,口頭会話などコミュニケーション

の手段に関係なく

A:不自由なく可能

B:不自由だが可能

C:ほぼ不可能 の3段階評価

結果

1.患者背景

結果

MSA

症例数28名

(男:女=18:10)

発症年齢63.5 ± 8.1歳(範囲37‐78歳)

病型ないし分類

MSA‐P:13名MSA‐C:15名

ALS

62名(男:女=39:23)

59.1 ± 10.9歳(範囲27‐84歳)

上肢:20名下肢:29名

球麻痺:12名呼吸筋:1名

結果

2.各治療介入の頻度

MSAでは低い治療介入率

25%71%

MSA

NPPV 25%(N=7/28)

胃瘻43%

(N=12/28)

気管切開25%

(N=7/28)

ALS

71%(N=44/62)

63%(N=39/62)

29%(N=18/62)

<<

MSAとALSでは治療介入の目的・時期が異なる

ALSと比べるとNPPV 胃瘻 気管切開

目的

MSA:睡眠呼吸障害

ALS:呼吸不全

自覚症状

MSA:乏しい

ALS:明瞭

経口摂取困難

となる時期

MSA:遅い

ALS:早い

経過の違い

MSA:誤嚥性肺炎

上気道閉塞

ALS:NPPV継続困難

結果

3.各治療介入の順序

順序

MSA

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

①NPPV

②気管切開

③胃瘻

(か月)

N=7

N=7

N=12

46.0か月

65.0か月

75.0か月

NPPV→気管切開→胃瘻の順序

MSAは各治療介入時期が遅い

MSA

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

0 20 40 60 80 100 120 140

NPPV

気管切開

胃瘻

(か月)

NPPV

胃瘻

気管切開

ALS

**

**

*p<0.05

**p<0.01

N=7

N=7

N=12

N=39

N=44

N=18

46.0か月

65.0か月

75.0か月

22.0か月

22.5か月

29.0か月

特徴.MSAは間隔をあけ長期間要する

MSA ALS

NPPV(46.0か月)

気管切開(65.0か月)

胃瘻(75.0か月)

胃瘻(22.0か月)

NPPV(22.5か月)

気管切開(29.0か月)

ほぼ同時で,短期間間隔をあけ,長期間

19か月後

10か月後

0.5か月後

6.5か月後

結果

4.各治療介入時の意思表示能力

各治療介入時の意思表示能力

0%

20%

40%

60%

80%

100%

NPPV0%

20%

40%

60%

80%

100 %

気管切開術

0%

20%

40%

60%

80%

100 %

胃瘻

□不自由なく可能 不自由だが可能 ほぼ不可能

NPPV 気管切開 胃瘻

MSA

N=7 N=7 N=12

43%14%

42%

MSAで意思表示能力は低い

0%

20%

40%

60%

80%

100%

NPPV0%

20%

40%

60%

80%

100 %

気管切開術

0%

20%

40%

60%

80%

100 %

胃瘻

□不自由なく可能 不自由だが可能 ほぼ不可能

NPPV 気管切開 胃瘻

0%

20%

40%

60%

80%

100 %

ALS0%

20%

40%

60%

80%

100 %

ALS0%

20%

40%

60%

80%

100 %

ALSMSA MSAMSAALS ALSALSN=7 N=7 N=12N=44 N=18 N=39

43%

75%

14%42%

61% 74%

運動機能と認知機能の障害

運動機能障害

・パーキンソン症状・小脳症状

コミュニケーション代替手段の使用困難

認知機能障害

・見当識障害・言語理解・遂行機能障害

各治療介入の選択に影響

↓ ↓

①認知機能について十分評価が必要

②自己決定が可能であるかを判断する必要

課題

より計画的で適切な治療介入を行うためには,

早期からの情報提供を行うこと,

事前指示(advance directive)による早期の

意思表示についても検討する必要がある

結語

各治療介入の頻度

各治療介入の順序

各治療介入時の意思表示能力

低い治療介入頻度 ①NPPV

②気管切開

③胃瘻

低い意思表示能力

自己決定の可否

1 2 3

事前指示の検討