レム睡眠行動障害の告知における臨床倫理的問題
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レム睡眠行動障害の告知における臨床倫理的問題
新潟大学脳研究所神経内科下畑 享良
概 略
1.レム睡眠行動障害とは?
2.病名告知と“truth telling”
3.告知に関する私見と今後の課題
1.レム睡眠行動障害とは?
レム睡眠行動障害
• REM sleep Behavior Disorder (RBD)
• 睡眠中に起こる異常行動(睡眠時随伴症)の
ひとつ.
• レム睡眠中に起こる夢見体験に一致した
夜間異常行動のこと = 夢内容の行動化
怖い夢,争っている夢,追われている夢が多い.
大きく明瞭な寝言や暴力的行動に,家族は怖がる.
RBDの夢の特徴
Iranzo et al. Lancet Neurol 2016;15,405-19
ビデオ提示(明瞭な寝言)
ビデオ提示(暴力的行動)
https://www.youtube.com/watch?v=rFXYRQ9xPUA
RBDの治療
1. ベッド周りの環境を安全に整え,ケガを防ぐ.
2. ベッドパートナーは症状が安定するまで別室に
寝てもらう.
3. ケガの危険がある場合や,治療の希望がある
場合には,薬物療法(クロナゼパム)を行う.
RBDの分類
1. 特発性RBD
2. 症候性RBD
αシヌクレイノパチーに伴うRBDが多い.
パーキンソン病
レビー小体型認知症
多系統萎縮症
レビー小体の構成蛋白
RBDのもう一つの重要な意義
αシヌクレイノパチーにおける
前駆症状としての意義がある
RBDパーキンソン病レビー小体病多系統萎縮症
Phenoconversion
一定の期間
33%
76%
91%
0 5 10 14 年
神経疾患未発症%
Iranzo et al. PlosOne 2014;9(2) e89741
症例数最大の後方視的研究
RBD 174例,神経疾患発症までの期間
7.5 y0 5 10 14 年
神経疾患未発症%
Iranzo et al. PlosOne 2014;9(2) e89741
33%
76%
91%
症例数最大の後方視的研究
RBD 174例,神経疾患発症までの期間
神経疾患の発症は極めて高率に起こる
Neurology 2009;72:1296-1300.Sleep Medicine 2013;14:744-748.Lancet Neurol 2013;12:443-453.PLoS One 2014;9:e89741.
下畑ら.臨床神経 57:63-70, 2017
• RBDを認めても,その後,神経疾患を一生涯,
発症しない症例も10-20%存在する.
• 発症する場合も,RBD後,50年経過してからで
あった症例も報告されている.
• いつ,どの疾患を,どの程度の確率で発症する
か,正確な予測がまだできない.
• 若年発症RBDを対象としたデータもない.
予測の限界
小括1
1. RBDには特発性および症候性があり,後者
ではαシヌクレイノパチーに伴うものが多い.
2. RBD患者は最大,5年で35%,10年で76%,
全経過で91%と,高率にαシヌクレイノパチー
を発症する.
2.RBDの病名告知と“truth telling”
Truth telling (真実告知)
• 自律尊重原則に関わる.
• 患者さんが自分の行動と人生計画に
ついて合理的に決定を行うためには,
真実を知っておく必要がある.
症例:カーミット(セサミストリート)
Truth telling の1例
真実をすべて伝えるべきか?
RBDにおける告知
2つの告知がある.
① RBDの診断についての告知
② αシヌクレイノパチーの将来の
発症リスクについての Truth telling
① RBDの診断についての告知
1. 臨床倫理的に問題になることは通常ないが,
本人に自覚がないことを念頭に置く.
2. 異常行動の危険性や治療の必要性を本人が
理解するため,睡眠検査中に撮ったビデオ等
を見ていただく.
3. 家族には異常行動は本人の人格のせいでは
ないことを説明する
② αシヌクレイノパチー発症リスクの truth telling
1. RBDにおいて,αシヌクレイノパチーの発症
リスクについてtruth tellingを行なうべきか
否かについてほとんど議論されていない.
2. 現状では,主治医の考え次第であり,あまり
行われてこなかったと推測される.
小括2
1. RBDには(1)病名告知と,(2)将来のαシヌ
クレイノパチー発症という真実告知の2つの
告知がある.
2. 検討すべき問題として,以下が挙げられる.
a. 真実告知すべきか?
b. 真実告知を妨げている要因は何か?
c. 告知する場合,いつ,どのようにすべきか?
3.告知に関する私見と今後の課題
a.真実告知すべきか?
1. PubMedを用いて文献の渉猟を行ったが,真実
告知を行うべきか,行うとすればいつ,どのように
行うべきかのコンセンサスは見つからなかった.
2. 個人的には,患者さんはRBDの診断が意味する
ことを「知る権利」を持つため,まったく伝えない
ことは選択肢になりにくいと考える.
b.真実告知を妨げている要因は何か?
1. 患者・家族が,発症頻度の高さに大きな動揺を
受けることが容易に想像がつくため.
2. いつ,どの疾患を,どの程度の確率で発症する
か,正確な予測ができないため.
c.告知はいつ,どのように行なうか?
1. 伝える時期は,RBD症状が治療により抑制され,かつ
相互の信頼(rapport)が形成させた後が望ましい.
2. 病前性格(告知に耐えられるか,うつの合併等)を探る.
3. 全員が発症する訳ではなく,多くは長時間を要すること,
発症を遅らせる治療はまだ確立されていないが,パーキ
ンソン病には種々の薬剤があることを伝える.
4. 告知後も定期診察を行い,精神面でもフォローアップを
行うことを伝える.
いかに議論を行なっていくか?
日本神経学会の学術誌の総説のなかで発表した.
疑問と今後の課題
1. RBDの真実告知に関する私見を発表したが,どのように
議論を深め,コンセンサスを得ていけばよいのか,分か
らない.
2. 今回のような学会誌における報告により行なうことでよ
いのか?(エキスパートオピニオンにすぎないのでは?)
3. 患者・医師を対象とした臨床研究が必要か?(真実告知
についての研究方法はどのようなものが望ましいか?)
ご意見を伺いたい.
総 括
1. 患者さんは「知る権利」があるため,真実告知を
適切なタイミングで行うこと,心理的配慮を心が
け,かつ責任を持って経過観察することが重要
と考え,報告した.
2. RBDの真実告知に関する私見,および今後,
どのように議論を進めるべきかについてご意見
を伺いたい. ご清聴ありがとうございました